居住空間のセルフコーディネートからみた現代家族のライフスタイル変容
一育児支援型集合住宅における可変型住戸を事例としてー
時 岡 晴 美
1.研究の背景と目的 格差社会といわれる現代にあっては、家族の生活満足度や幸福感を決定づける要因の一つとし て、ライフスタイルの選択とそれに伴う自己責任が重要になっている。居住空問についても、親 から子へと家を代々継承する居住様式から、賃貸あるいは購入して住み替えるものへ変化し、ど のファミリーライフステージでどのように住み替え、るか、各ライフステー・ジでいかに住みこなして いくかが問われている。そこで、本研究では、家族による居住空間の住みこなしに着目して、現代 の家族のライフスタイルを明らかにし、今後の生活経営の課題について検討する。研究対象として は、育児支援型集合住宅におけるセルフコーディネート住戸を取り上げるこ。ととした。問取りを変 更できる可変型住宅は、特に都市部で注目されてきたが、最近では、集合住宅の棟内に共有空間や プレイロットを持ち、住戸内は入居時にセルフコーディネートできる可変型で育児支援型を謳った 分譲型マンションが登場している。これらにおいては、居住者それぞれのライフスタイルに合わせ た居住空間の使い方が可能であり、家族のライフスタイルに合ったセルフコーディネートが実現で きるため、ライフスタイルと住みこなしのパターンが顕著に現れると考えられる。また、育児支援 型集合住宅にはファミリーライフステージが育児期にある家族が多く居住していると推察されるこ とから、それぞれの家族にとってライフスタイルが確定していく時期として着目することにした。 中根千枝1)は、個室と共通の場の考え方に着目して、家族の伝統的な居住空間の使い方を特徴づ け、各自の個室にいることが基本のイギリス式、各自の個室があるものの家族共有空間にいること が基本のインド・イタリア式などに対し、日本式は各自の個室と共有空間の区別がなく、家族が一 箇所に集まっていることが基本で、住戸内を自由に移動できる特異なスタイルであると指摘した。 日本文化の一側面でもあるこれらの特徴が、居住空間の現代様式への変化に伴ってどのように変容 しているか、また、その特徴と家族のライフスタイルとの相関について明らかにすることは、ま さに現代的課題であるといえる。花里・篠崎2)は、近年建築される集合住宅住戸の間取りに着目し て、民間分譲マンション住戸には個室分離型が多いが、建築家が提案する住戸には居間中心型が多 いことを仮説として示し、21世:紀型家族にふさわしい住宅の型が求められていると指摘している。 滝滞3)は、民間分譲集合住宅の標準的な空間構成における問題点の検討から、nLDKという思想 が家族解体の傾向と少子化の方向を早める作用をしたと指摘し、nLDK棒状領域を廃し開放的な 家族交流スペースを有する家族共生型の空間構成を提案している。しかし、住宅の近代化の背景に ある家族像について検討する先行研究は未だ多くなく、緒に就いたばかりであるといえる。たと えば、伊東・高田4)は、ニュータウン居住者のライフヒストリーから家族の居住過程を追うことに よって、戦後日本における家族と住居の近代化の実例を示しており、大量供給された圓一的な住宅−37-であることや住宅改善の制約が確認されたものの、その中で居住主体である家族は多様なタイプが 存在することを明らかにしている○ 、 。 ・ 。 ■ 。 一方で、可変型集合住宅に関する先行研究としては、入居後の間取り変更についての実態調査が 多く・知られている。川村・初見5)は、集合住宅に入居1年後と13年、後の実態比較から、居住者によ る間取り変更は「個別性への対応」と「生。活の変化への対応」という目的に対して活用されているも のの変更は多様であるという実態を明らかにしている。大橋・小谷部6)は、可変システムをもつ都 市型賃貸集合住宅における間取り変更の実態調査から、住まいに関心の高い人が入居しているこ と、入居当初からの変更が多く、それぞれの生活スタイルに合わせた間取りを作っていることか ら、入居時点における可変システムの有効性を指摘している。 すなわち、可変型住宅における居住は、まさに居住主体である家族の多様なライフスタイルが実 現できるものであり、家族の多様なタイプを明らかにする資料として貴重であるといえ。る。本研究 では、入居時点でのセルフコーディネートの実態と住みこなしのパターンに着目することで、現代 の家族のライフスタイルについて更なる解明をはかるものである。 …… 2.研究方法尚 香川県高松市内に2006∼2007年、に建設された育児支援型集合住宅3棟を調査対象とした。いずれ も分譲型マンションで、住戸内の間取りはセルフコーディネートできる可変型となっている。すな わち、例示した間取り図の「ユニオンルーフム」について、間取り事例Aでは中間に聞仕切りを入れ て二つの個室としても使用でき、間取り事例Bではユニオンルーム間の間仕切りを取り除いて広い 個室とすることが可能で、居住後に改変することができる。また、「ユ。ニオンルーム」の開口部は 引き戸でバリアフリータイプになっているため、LD空間である「ファミリースペース」`と「ユニオ ンルーム」までを一つのスペースとして広く使うことも可能である。 2007年12月に、これら3棟に居住する全世帯を対象として、住戸空間の使い方についてのアン 図1 間取り事例A −38− 図2 間取り事例B
ケート調査を実施した。調査時期は入居後1∼2年遜過した時点であり、ぞれぞれの家族による住 みこなしが定着した時期といえる。調査内容は、家族構成、住戸空間のセルフコーディネートの実 態、LD空間・子ども部屋・キッチンの使い方、家族の日常の過ごし方等である。配布数104、回 収数70、回収率は67.3%であった。 さらに、住みこなしのプロセスに関する詳細な事例調査を実施した。協力を得られたモニターに ついて、入居前の住戸と、入居直後および入居1年以上経過時の計3回を対象に、それぞれ、訪問 ヒアリング、住戸空間の使い方に関するアンケート調査、ビデオ撮影によるLD空間とユニオン ルームの使用実態調査を行ったものである。事例対象は3棟の各2世丿帯、計6世帯である。 3.個室の使い方からみたライフスタイルー子ども部屋とLDK空間を中心に 3−1.対象者の概要 対象世帯の家族構成をみると(図1)、核家族が9割を占めており、特に、親子関係を含む核家族 すなわち未婚の子がいる核家族がほとんどである。末子の年齢でファミリーライフステージについ てみると(図2)、末子乳幼児期にある家族がもっとも多く67.1%を占めており、対象とした集合住 宅が育児支援型であることが影響していると考えられる。①世帯主。と配偶者の勤務形態をみると(図 3)、常動・無職、常勤・パート、常勤・常動、の順に多い。世帯主では常勤が64世:帯(91.4%)と ほとんどであるのに対し、世・帯主の配偶者では、無職34世帯(48.6%)、パート就労20世帯(28.6%)、 常動9世帯(12.9%)となっている。 ・。● 。 ■ ・ 3−2.住戸空間の使い方と家族の過ごし方 。。 まず、住戸空間の使い方について、間仕切りの状態からみることにする。 LD空間を中心とする 住戸空間の使い方について、「壁や戸などでいつも仕切っている」汀戸などでときどき仕切る」「家 具などでさりげなく仕切っている」「仕切りをせず開放的に使っている」「その他」から、あてはま る項目一つを選択してもらった。これによると、「戸などでときどき仕切る」「仕切りをせず開放的 に使っている」に二分されることがわかる(図6)。しかも、自由記述によれば「戸などでときどき 仕切る1のは冷暖房使用時がほとんどであり(特に冷房)、あるいは、両親や友人などが泊まりに来 た時も散見される。これらから、可変型住戸の特性を生かした使い方が実現されているといえよ う○ ・ ■ 次に、家族の日常の過ごし方について、「リビングにいてみんなで一緒に過ごすことが多い」「ほ 一 │ -一 │
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図3 家族構成 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 4 4 3 3 2 2 1 1プブ
図4 末子年齢でみた ファミリーライフステージ ー39− 5 0 5 0 5 0 5 0 3 3 2 2 1 1 遮戸∼4汽ノ゛4?t/`≒y 考.1瘤シ1 1 図5 世帯主と配偶者の勤務形態−40− ぼリビングにいて、それぞれお気に入りの場所で過ごす」「リビング以外の場所で、みんなで過ご すことが多い」「それぞれが個室、などで別々に過ごすことが多い」「家族がそろって住戸にいること がほとんどない」「その他」から、あてはまる項目一つを選択してもらった。これによると、三棟 ともほとんどが「リビングにいてみんなで一緒に過ごすことが多い」としている(図7)。居住世帯 のファミリーライフステージでは多くが末子乳幼児期であったことの影響が考えられ、末子が中 学生あるいは高校生以上の世帯では「それぞれが個室などで別々に過ごすことが多い」としている。 世帯主と配偶者の勤務形態との関連は認められない。 これらの項目のクロス集計では、「戸などで時々仕切る」世帯のうち、7割以上が「リビングにい てみんなで一緒に過ごすことが多い」としている。自由記述欄には「家族の過ごし方が変化し、ふ だん家でいる時はみんな一緒にいるようになった」との記述もみられ、可変型住戸の特性を生、かし た使い方は、家族で一緒に過ごすことと相関していることがうかがえる。 3−3.家族によるキッチンの使い方 次に、キッチンの使い方について、「おも仁妻(母)が一人で使うことが多い」「おもに夫(父)が 一人で使うことが多い」「おもに夫妻(父母)が二人で使うことが多い」「子どもも一緒に二人以上 で使うことが多い」「みんなが使うが、時間帯が別々で、キッチンに立つのはだいたい一人」「その 他」から、あてはまる項目一つを選択してもらった(図8)。これによると、49世帯(70.0%)が「お もに妻(母)が一人で使うことが多い」としており、ファミリーライフステージや勤務形態に関わら ずもっとも多い。乳幼児がいる世帯では、夫妻や家族が一緒にキッチンに立つことは難しい可能性 があることから、さらに追跡調査が必要であると考える。対象とした育児支援型の集合住宅では、 空間構成として二人以上でも使用しやすく工夫されたキッチンであるが、現在のところ、その良さ が生かされていないといえる。一方で、使い方に対する満足状態では、不満に関する記述がほとん どみられなかった。 3−4.子ども部屋の空間構成と使い方 子ども部屋の使い方については、空間構成との関連で把握することとし、「子・どもにそれぞれ個 室があり、だいたい戸を閉めて使っている」「子老もにそれぞれ個室があるが、戸を開けて使うよ うにしている」「きょうだいに個室が一つあり、だいたい戸を閉めて使っている」「きょうだいに個 0505050504332211 今 L ,昏 ノ
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図6 住戸空間の使い方 0 0 Q 1 0 0 0 4 3 2 0 1 0 0∧ズブノ
図7 家族の日常の過ごし方室が一つあり、戸を開けて使うようにしている」「子恚も部屋はない」の項目の中から、もっとも 近いもの一つを選択してもらった(図9)。これによると、子ども部屋がある世帯では、それぞれ 個室があるのは25世帯(56.8%)、きょ、うだいで一つの子ども部屋があるのは19世帯(43.2%)である。 ファミリーライフステージが末子乳幼児期であるため「きょうだいで一つの子ども部屋」としてい るケースも多いと推側され、自由記述にも「子どもが大きくなったら各個室に仕切る」との記載が 散見された。セルフコーディネート型住戸の特性を生かして、ファミリーライフステージの進展に 伴って改変するよう計圓していることがわかる。 また、「戸を開けて使用」が38世帯(86.3%)、「戸を閉めて使用」が6世帯(13.6%)で、個室の場合、 きょうだいの子ども部屋の場合のいずれも「戸を開けて」使用しているケースが過半数を占める。 冒頭で述べた住戸の空間構成として、子ども部屋はLD空間に隣接しており、間仕切りがフラット で段差がないことから、できるだけ広く使用しようとする使い方をしていることがわかる。自由記 述によると、「戸を閉めて使用」するのは、「冷暖房を使用するとき且友だちが遊びに来たとき」「両 親が泊まりに来たとき」などで、必要に迫られない限りは戸を開けて使用したいことがうかがえる。 3−5.住戸内における個室と共同の空間の使い方 犬 以上のように、子ども部屋とLDK空間を中心として、住戸内の個室と共同の空間の使い方をみ ると、家族の過ごし方にいくつかの類似傾向があることがわかる。とくに特徴的なタイプとして、 次の三つのタイプを抽出することができる。すなわち、 ∇ I.「共有空間中心」タイプ 住戸内に個室があるものの開放的なL空間の延長で、家族一・緒に過ごしているタイプである。L DK空間での過ごし方としては、日常はリビングにいて家族で一緒に過ごすことが多い。また、 子ども部屋はきょうだい共有で戸を開けて使っていることも特徴である。すなわち、共有空間を 中心と七て、だいたい家族が一緒にいて空間を共有しているといえる。 n.「なんとなく共有」タイプ づ 家族が住戸内で少し距離を保ちながら、なんとなく家族が一緒にいると感じるような過ごし方を しているタイプである。 LDK空間での過ごし方としては、日常はほぼリピングにいるが、それ ぞれお気に入りの場所で過ごすことが多い。また、子・ども部屋は子どもそれぞれに個室があるも のの、戸を開けて使っている。すなわち、家族が「なんとなく一緒にいる」といった空間共有を 0 0 Q 1 0 0 0 0 0 4 Q リ ︵ Z I 0
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ぐ 図8 キッチンの使い方 0 5 0 5 0 5 0 Q り ︵ Z ︵ Z 1 1 ん, ん ん ん xノ ? ・ペノノレゾノ゛¨ /ノゾ仁言酒 図9 子ども部屋の使い方しているといえる。 Ⅲ。「個別空間中心」タイプ 、 住戸内の個室が独立したものとして使われ、家族のそれぞれが各自の個室にいることが多く、家 族一緒に過ごすことが少ないタイプである。家族一緒に在宅するごとが少なく、在宅していても 個室などで過ごしており、LDK空間にいることが少ない。すなわち、家族が空間を共有して過 ごすことも少ないといえる。 なお、家族による空間の使い方については、ファミリーライフスデージによる影響が大きいと考 えられるため、これらの特徴的な三タイプもファミリーライフステージとの相関がみられることが 推測される。今回の調査対象世帯のほとんどは末子乳幼児期にあることから、実態として示すこと はできないため、今後の諜題として指摘するにとどめる。しかし、家族のコミュニケーションの あり方を考盧すると、育児期にある家族にとっては「共有空間中心」タイプ、子どもの成長に伴っ て「なんとなく共有」タイプに移行し、子どもの独立期が近づくにつれて「個別空間中心」タイプに なるという変化がみられるのではないか。特に、可変型住戸の特性を充分に生かした使い方によっ て、このような家族の過ごし方が特徴的に現われる可能性もあると考えられるため、今後の追跡調 査に委ねることとする。 \ 4.住戸空間の住みこなしからみたライフスタイルー事例調査を中心に 4−1.現代家族による住みこなし 筆者7)は、現代家族のライフスタイルについて、LDKを中心とする住戸空間の使い方からみた 家族の生活実態調査により、次の三パターンがみられることを指摘している。すなわち、 A.「家族で一緒に住みこなし」 家族の日常生活はほぽリビングで、家族一緒に過ごす時間が多い。 LDK空間の家具等の購入や 配置なども家族で相談して決定する。 B.「妻(または母)が整える家」 \ 家族の日常生活では、家族構成員の誰かが揃っていないことが多い(多くは夫あるいは父)。L DK空間の家具等の購入や配置などは、ほぽ全て妻か母が選択し決定する。家族の日常生活に、夫 や父が登場する場面が少ない。 C.「個別エリア優先、プライバシー最優先」 日常生。活で、家族全員が揃って在宅じている時間が少ない。 LDK空間の家具等の購入や配置な どの決定に役割分担がみられ、家族構成員の誰かと相談して決定する場面もほとんどない。 の三パターンである。そこで、これらのパターンと先に挙げた家族の過ごし方に着目する。事例調 査結果から特徴的な2ケースを例に挙げて、住みこなしのプロセスと家族のライフスタイルの特徴 について具体的に検討する。 4−2.共有空間中心タイプ(事例M) 事例Mは、夫(44歳)、妻(39歳)、長男(8歳)、長女(5歳)の4人家族である。夫は常勤、妻は 専業主、婦で、夫の勤務時間はかなり長時間を占め休日出勤も多く、転居前後もほとんど変化してい ない。転居前の住宅は1970年ごろ建設の集合住宅で、間取りは田の字型、壁や建具4こ沿って家具を 配置する典型的な居住であり、住戸内は見通しが悪く日中も薄暗い。水回りも不便で家族全員に住 戸に関する不満があった。このため、転居に当たっては前掲の図1に示した間取り事例Aを選択 し、ファミリースペースとユニオンルームを一つの空間として広く使用することとした。ユニオン ー42−
ルームはニ。人共有の子ども部屋とし、間に間仕切りを入れず机やベッドIは壁際に設置して、入□の 引き戸も常に開けておくことにした。L空間を最大限に広く使用したいため、壁際に低いソファー を設置し、ダイニングテー・ブルはキッチンカウンターから斜めに配置した。 づ 入居1.5年・後の調査時点で、計画どおりの使い方ができたと評価しており、休日に家族がL空間 に揃っていることが多くなったという。 LD空間から子ども部屋までの全体を見通せるため、安心 して生活できており、子どもが走り回れることも評価している。 LD空間から子・ども部屋までの空 聞を使って、きょうだいでボール遊びを楽しむ光景も見られ、子どもは以前の住宅のことをすっか り忘れているほどである。現時点で大変満足しいるが、将来的には子どもの成長に伴い壁をいれる かどうか検討していく予定である。個室の使い方は「パンフレットのとおり、モデルルームを参考 にした」とのことで、馴染みのない空間構成であるが、使い方は今後も生。活しながら決まっていけ ばよいと考えている。 ケ \ 妻へのヒアリングでは、「休日に家族がLD空間に揃っていることが多い」とのことであるが、 家族の生、活時間調査によると、夫は早朝から深夜まで仕事に従事七、士。・日曜も仕事の都合で外出 していることから、在宅時間は非常に短い。また、LD空間で過ごす位置の質問では、夫が主にい る場所は傍観者的な位置であることから、家族が「一緒に」過ごすのは、おもに妻と子どもである と考えられる。なお、現在使用している家具等は、ほとんどすべて入居に合わせて新調したもので あり、それらの家具の選択や購入、配置等も妻が一人で行った。 すなわち、「共有空聞中心」で「妻(または母)が整える家」というパターンが読み取れる。 4−3.なんとなく共有タイプ(事例A) 事例Aは、夫(25歳)、妻(32歳)、長女(10歳)、長男(8歳)の4人家族で、夫は常勤、妻はパー ト就労である。転居前の住宅は1960年、代の戸建て住宅で、間取りは寝室・台所・居室が一列配置で 不便を感じていた。子どもたちにそれぞれ子ども部屋を与えたいという希望があり、それを契機に 自立崖が高まることを期待していた。そこで、前掲図2で示した間取り事、例Bを選択して、ユニオ ンルームを子ども部屋とし、子ども部屋の使い方については子ども自身に任せたところ、子・どもた ちが自主的に話し合って間仕切りを入れ、それぞれの個室の家具配置等もすべてそれぞれが決定し た。 LD空間の使い方に関しては夫がこだわりを強く持っており、家具の選択に時間をかけて好みの ものを購入し、設置について図面上で事前検討し構想した結果、理想どおりの使い方を実現したと いう。入居L5年、後の調査時点で、計圃どおりの使い方ができたと評価しており、家族員それぞれ に定着した居場所があり、なんとなく家族がいつも一緒にいるという過ごし方をしているとのこと である。子老も部屋入口の引き戸は子どもの意思で常に開放してあり、LD空間に続くほぼ一つの 空間として使用している。以前の住宅は居住環境への不満から家族そろって外出することが多く、 在宅時間も間取りの関係から常に家族が居室の座卓あるいはテレビの前で一緒に過ごしていたが、 現在では同じ空間を共有しながらも各自がそれぞれで過ごす時間が増え、外出頻度が減少し、家族 一緒に同じ生活行動をする場面は減少したが、家族それぞれの行動は察している。 すなわち、「なんとなく共有」で「家族で一緒に住みこなし」というパターンが読み取れる。 購入時には、伝統的な住生活を望んでいた夫と、家族で過ごす時間が短縮傾向にある中で子ども と接しやすい斬新な間取りに共感していた妻とで、家族の住まい方について議論をした経緯があ り、マンション居住にあまり良い印象がなかったが、現時点で夫妻とも大変満足している。転居の 前後で子どもたちの成長がうかがわれ、将来的には子どもが成長に伴って人口の引き戸を閉めるよ うになると思われるが、子どもの自主性に委ねており、いつの時点にその時がやってくるのか楽し
−43-みにしているという。 5.個室と共同の場の使い方からみた現代家族のライフスタイル 本研究では、家族による居住空間の住みこなしにみる家族のライフスタイルについて、育児支援 型集合住宅における可変型住戸を対象として検肘した。個室と共同の場の使い方に着目すると、結 果は次のようにまとめられる。 ①LD空間を中心とする住戸空間の使い方について間仕切りの状態からみると、戸などでときどき 仕切るケースと、仕切りをせず開放的に使うケースに二分される。しかも、戸などでときどき仕切 る場合は冷暖房使用時などに限られ、可変型住戸の特性を生かした使い方が実現されている。 ②家族の日常の過ごし方については、リピングにいて家族みんなで一・緒に過ごすことが多く、それ ぞれが個室などで別々に過ごすケースは、末子が中学生あるいは高校生以上の世帯に散見された。 世帯主や配偶者の勤務形態との関連は認められない。また、戸などで時々仕切る世帯の多ぐが、コJ ピングにいてみんなで一緒に過ごすことが多いとしており、可変型住戸の特性を生かした使い方 は、家族で一緒に過ごすことと相関していることがうかがえる。 ③キッチシの使い方では、7割が「おもに妻(母)が一・人で使うことが多い」としており、ファミ リーライフステージや動務形態に関わらずもっとも多い。 ニ ノ ④子ども部屋がある世帯では、それぞれ個室。、きょうだいで一つの子ども部屋に二分される。「子・ どもが大きくなったら各個室に仕切る」との記載がみられ、ファミリーライフステージの進展に 伴って改変するよう計画されている。また、個室の場合、きょうだい部屋の場合のいずれも、ふだ ん戸を開けて使用しているケースが過半数を占める。 = ⑤住戸内における個室と共同の空間の使い方として、共有空間中心タイプ、なんとなく共有タイ プ、個別空間中心タイプ、の三タイプが抽出された。 以上の結果から、可変型住戸空間は家族のライフスタイルに合った住みこなしを可能とするもの であり、また、LDK空間と子ども部屋に着目すると、セルフコーディネート機能を生かして開放 的な家族交流スペースを有する家族共生型の空間構成を実現していることがわかる。さらに、可変 型住戸の特性を生かした使い方は、家族で一緒に過ごすことと柑関すると考えられ、子・どIも部屋と しての個室が完全な閉鎖性を持たず、家族の共有空間である居室と緩やかに繋がっている空間構成 が、家族が一・緒に過ごす状態を創出しているといえるのではないか。現代の日本の家族は「連立家 族」であると特徴づけられるが8)、個を尊。重しながら適度な距離感で結ぱれる連立家族としてのラ イフスタイルが可変型住戸の使い方に現われているとみることができる。 本研究では育児期にある家族を対象としたため、これらがファミリーライフステージの進展に 伴ってどのように変化していくのか、また、今後、可変型である特徴がどのように活用・されるの か、さらに追究していく必要があると考える。 なお、本研究は、平成17・18・19年渡産学連携共同研究「住まいと子育てに関する研究」(研究代 表者:川田学)の一環として行ったものである。 調査にご協力いただいた各位に感謝する。 引用文献 1)中根千枝、適応の条件、講談社現代新書、98∼109ページ、1967年 −44−
2)花里俊廣・篠降正.彦、個室分離型から居間中心型への移行の可能性一建築家の提案する集合住宅住戸の間 取りの分析から、日本建築学会学術講演梗概集2006年9月、67∼68ページ、2006年 3)滝渾隆、民間分譲集合住宅における「家族共生型」の新標準住戸プランの開発、日本建築学会技術報告集、 第10号、189∼192ページ、2000年・ 4)伊束康子・高田光雄、戦後日本における「家族と住居の近代化」に関する研究一千里ニュータウンにおける ケーススタディー、日本建築学会計画系論文集、第514号、71∼78ページ、1998年 5)川村真−・・初見学、可変型集合住宅における間取り変更の実態、日本建築学会学術講演梗概集1997年9月、 147∼148ページ、1997年・ 6)大橋寿美子・小谷部育子、「スペラール砧」における間取り変更の実態一家族の移行に対応した可変型集合 住宅に関する研究 その1−、日本建築学会学術講演梗概集2000年・9月、85∼86ペー・ジ、2000年 7)時岡晴美、現代家族における住空間の選択と住みこなし、平成17年度香川大学産学連携共同研究成果報告 書、6∼13ページ、2006年、 8)調査年報1998 達立.家族一日本の家族10年・変化、博報堂生活総合研究所、i6∼35ページ、1998年・