香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),33:47-55,2016
香川大学教育学部附属高松小学校における
研究開発第3年次の成果と課題
―児童に対するアンケート調査からの検討―
岡田 涼 ・ 黒田 拓志
*・ 石井 都
* (学校教育) (附属高松小学校) (附属高松小学校)橘 慎二郎
*・ 玉木 祐治
*・ 檜原 健助
* (附属高松小学校) (附属高松小学校) (附属高松小学校)堀場 規朗
*・ 前場 裕平
*・ 山西 達也
* (附属高松小学校) (附属高松小学校) (附属高松小学校) 760-8522 高松市幸町1-1 香川大学教育学部 *760-0017 高松市番町5-1-55 香川大学教育学部附属高松小学校Results and Issues of the Third Year of Research and
Development in the Takamatsu Elementary School Attached
to the Faculty of Education, Kagawa University: Examination
through the Children’s Rated Questionnaire
Ryo Okada, Hiroshi Kuroda
*, Miyako Ishii
*, Shinjiro Tachibana
*, Yuji Tamaki
*,
Kensuke Hihara
*, Noriaki Horiba
*, Yuhei Maeba
*and Tatsuya Yamanishi
*Faculty of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522
*
Takamatsu Elementary School Attached to the Faculty of Education, Kagawa University, 5-1-55 Ban-cho, Takamatsu 760-0017 要 旨 本論文では,附属高松小学校における研究開発第3年次の成果と課題について,児 童に対するアンケート調査から検討した。結果として,①3つの資質・能力に関する児童の 自己評価は第3年次においても高いこと,②普段の学級と縦割り学級の積極的経験が翌年以 降の3つの資質・能力と関連すること,③資質・能力につながる見方・考え方に対する児童 の自己評価は高いこと,が示された。研究開発第3年次の成果と課題について論じた。 キーワード 研究開発学校 カリキュラム 創造活動 資質・能力
問題と目的
近年の学校現場においては,カリキュラムマ ネジメントが重視されている。カリキュラム評 価を学校づくりの中心におき,個々の教科を単 体で捉えるのではなく,カリキュラム全体を捉 えたうえで教育活動を展開させていくことが 求められている(田中,2009)。学校でのカリ キュラムに関する研究は,研究開発学校制度 のもとで行われている。研究開発学校制度は,級集団と縦割り集団の往還関係による個の成長 があること,②2つの居場所をもてること,③ 複数の担当教員とかかわること,④個人と集団 の探究的な活動を経験できること,がある(香 川大学教育学部附属高松小学校,2016)。 今回提案されているカリキュラムにおいて は,「分かち合い,共に未来を創造する子ども の育成」が教育目標として想定されている。そ して,その目標のために育むべき3つの資質・ 能力が想定されている(香川大学教育学部附属 高松小学校,2016)。資質・能力の1つ目は, 学び続ける力であり,「夢や憧れをもち,自律 的に学び続ける力」である。2つ目は,関わる 力であり,「「ひと・もの・こと」へ共感的・協 同的に関わる力」である。3つ目は,創造する 力であり,「問題を解決し,知や価値を創造す る力」である。これら3つの資質・能力に対す る指導を通して,「分かち合い,共に未来を創 造する子どもの育成」を目指している。 研究開発を進めるうえで,3つの資質・能力 についての多面的な評価が継続的に行われてい る。評価方法の1つは研究授業と授業討議を通 した実践面での評価である。もう1つは,継続 的なアンケートを通した量的な面での評価であ る。岡田・黒田・石井・橘・堀場・山西・長 町・藤田(2014)は,全児童に対する年2回の 調査から,研究開発第1年次の成果として,① 年度内に3つの資質・能力を尋ねる項目に対す る肯定的な回答の率が高まっていたこと,②普 段の学級と縦割り学級の両方での経験が3つの 資質・能力の高さに影響し得ること,を明らか にしている。また,岡田・黒田・石井・橘・玉 木・堀場・山西(2015)は,全児童に対するア ンケートから研究開発第2年次の成果を検討 し,資質・能力に対する児童の自己評価は第2 年次においても概して高いことが示された。 研究開発第3年次においては,3つの資質・ 能力につながる見方・考え方が想定されている。 これらは,第2年次において3つの資質・能力 につながる6つの創造された価値とされていた ものであるが(香川大学教育学部附属高松小学 校,2015),カリキュラムの背景理論の修正に 「教育実践の中から提起される諸課題や,学校 教育に対する多様な要請に対応した新しい教育 課程(カリキュラム)や指導方法を開発するた め,学習指導要領等の国の基準によらない教育 課程の編成・実施を認める制度」(文部科学省, 2014)である。この制度のもとに,これまで多 くの学校が新たなカリキュラムの開発に取り組 み,教育実践を通してのその成果を検証してき た(三石,2009)。 香川大学教育学部附属高松小学校(以下,附 属高松小学校)においては,平成25年度から文 部科学省による研究開発学校の指定を受け,新 領域「創造活動」を核とする新たなカリキュラ ムの開発に取り組んでいる。従来の教科と教科 外活動を再編し,教科学習と創造活動の2領域 を想定している。教科学習は,これまでの9教 科に外国語科を加えた10教科からなる領域であ る。創造活動は,これまでの道徳,特別活動, 総合的な学習の時間を統合した領域であり,3 つの領域を統合することによって,各領域での よさを活かしつつ,より高い教育効果が得られ ることを想定している。創造活動においては, ①多様な価値観や背景をもつ集団との望ましい 人間関係づくりや探究的な活動を行うこと,② 問題解決に取り組む主体的な態度や共感的・協 同的に「ひと・もの・こと」と関わろうとする 実践的な態度を養うこと,③自己や集団にとっ て必要な価値を創造する見方・考え方を育てる こと,をねらいとしている(香川大学教育学部 附属高松小学校,2016)。 創造活動は,学級創造活動と縦割り創造活動 の2つから構成される。学級創造活動は,同学 年による通常の学級で行われる活動であり,主 に個々の児童が自分自身の興味にもとづいて個 人追求を行う。一方,縦割り創造活動は,1年 生から6年生までの異学年集団からなる縦割り 学級で行われる。縦割り創造活動では,縦割り 学級で目指す目標を共有しながら,1年間かけ てプロジェクトと呼ばれる問題解決的な活動に 集団で取り組む。児童は2つの集団に所属しな がら創造活動に取り組むことになるが,2つの 集団に所属することの長所として,①通常の学
伴って3つの資質・能力につながる見方・考え 方として位置づけられた。その見方・考え方は, 3つの資質・能力に対して2つずつ対応するか たちで,「探究的・意欲的に続ける」「節度を守 り,自制する」「相手の立場に立つ」「尊敬し, 感謝する」「よりよく変える」「視野を広げる」 とされている(香川大学教育学部附属高松小学 校,2016)。 本論文では,第1年次,第2年次に引き続い て,研究開発第3年次の成果と課題について, 児童に対するアンケートの数量的な分析結果か ら検討する。第3年次において,児童の自己評 価的視点で,3つの資質・能力がどの程度身に ついているのかを明らかにするとともに,第1 年次から3年間の経年的な変化についても検討 する。
方法
調査対象者 附属高松小学校の1~6年生児童632名(男 子320名,女子312名)に質問紙への回答を求め た。欠席や記入漏れなどで一部欠損がみられた ため,項目ごとにデータ数は若干異なる。 調査時期 調査は2回にわたって行われた。1回目は 2015年10月に実施し,2回目は2016年2月に実 施した。また,比較のために,2013年度(2013 年10月,2014年2月)および2014年度(2014年 10月,2015年2月)に行った2回の調査データ も用いた。 質問紙 ①3つの資質・能力 3つの資質・能力の概 念的な定義をもとに作成された9項目を用いた (岡田他,2015)。回答方法は,「1:まったく あてはまらない」「2:あまりあてはまらない」 「3:ややあてはまる」「4:あてはまる」の4 件法であった。 ② 2 つ の 学 級 で の 積 極 的 経 験 2013年 度,2014年度に用いた6項目を用いた(岡田 他,2015)。同学年の学級(以下,「普段の学級」 とする)と異学年の学級(以下,「縦割り学級」 とする)のそれぞれにおいて,「わたしが活躍 できるところがあります」「わたしがアイデア を出すところがあります」「自分の意見がいえ ます」の3項目について評定を求めた。回答方 法は,「1:まったくあてはまらない」「2:あ まりあてはまらない」「3:ややあてはまる」「4: あてはまる」の4件法であった。 ③資質・能力につながる見方・考え方 3つ の資質・能力につながる見方・考え方を尋ねる 6項目を用いた(岡田他,2015)。これらの項 目は,2014年度に創造された価値として設定さ れていたものである。カリキュラムやその背景 の理論の見直しに伴って,創造された価値は, 資質・能力につながる見方・考え方として位置 づけられた。各項目に対して,「1:まったく あてはまらない」「2:あまりあてはまらない」 「3:ややあてはまる」「4:あてはまる」の4 件法で回答を求めた。 手続き 担任教員から児童に質問紙を配布し,回答を 求めた。なお,低学年児童においては,回答に 困難な部分があると考えられるため,担任教員 が質問項目を読み上げ,質問内容を説明するな ど適宜回答のサポートを行った。回答は記名式 であった。結果
3つの資質・能力 3つの資質・能力に関する項目について,1 回目と2回目ごとに各項目の肯定率と平均値を 算出した(Table 1)。肯定率は,各項目に対 して「すこしあてはまる」もしくは「よくあて はまる」を選択した児童の割合を示す。肯定 率をみてみると,1回目と2回目のいずれに おいても,すべての項目で75%を超えていた。 2回の肯定率について,クロス表を作成し, McNemarの検定を行ったところ,いずれの項 目についても有意な変化はみられなかった。ま た,平均値については,1回目と2回目のいず れにおいても,すべての項目で3点を超えてい た。2回の平均値について対応のあるt検定を行い,効果量(d)を算出した。効果量は,2 回目の値から1回目の値を引いた差得点を算出 し,その差得点の平均値を差得点の標準偏差で 割った値とした(大久保・岡田,2012)。しか し,いずれの項目についても有意な差はみられ なかった。 次に,3年間6時点(2013年10月,2014年 2月,2014年10月,2015年2月,2015年10月, 2016年2月)での平均値を比較した。なお,項 目⑤と項目⑦については,2013年度のデータ が存在しないため,4時点での比較を行った。 2013年度と2014年度のデータをもつ2015年度 の3~6年生のデータを分析に用いた。6時 点もしくは4時点分のデータについて,時点 を要因とする分散分析を行なった。なお,項 目ごとに人数は異なる。学び続ける力に関す る項目では,「①授業で教わったことや調べ たことについて,自分なりに考えている」(F (5,1920)=3.41,p<.01),「②学校での学 びに,興味をもって自分からとりくんでいる」 (F(5,1920)=2.39,p<.05),「③「こうな りたいな」という夢やもくひょうをもってい る」(F(5,1920)=5.75,p<.001)で有意な 差がみられた。Bonferroni法による多重比較の 結果,項目①では2014年10月に比して2015年10 月と2016年2月が高かった。項目②では有意な 差はみられなかった。項目③では2013年10月に 比して2014年2月と2015年10月が高かった。関 わる力に関する項目では,「④自分と違う意見 をもっている友だちとも,協力していっしょに 学んでいる」(F(5,1905)=2.60,p<.05),「⑥ 友だちといっしょに学ぶときに,友だちがどう したいとおもっているかを考えている」(F(5, 1910)=4.79,p<.001)で有意な差がみられた。 多重比較の結果,項目④では有意な差がみられ なかった。項目⑥では2014年2月に比して2015 年2月,2015年10月,2016年2月が高かった。 創造する力に関する項目では,「⑧教科の授業 や創造活動で学んだことを,まいにちの生活 に役立てている」(F(5,1900)=6.34,p<.01) で有意な差がみられた。多重比較の結果,2013 年10月に比して2015年2月が高く,2014年2月 Table1 3つの資質・能力に関する項目の肯定率と平均値,標準偏差 1回目 2回目 χ2値 t値 効果量 肯定率 平均値 標準偏差 肯定率 平均値 標準偏差 学び続ける力 ①授業で教わったことや調べたことについ て,自分なりに考えている 85.62 3.30 0.81 84.15 3.29 0.79 0.66 0.29 0.01 ②学校での学びに,興味をもって自分から とりくんでいる 80.26 3.16 0.86 80.26 3.17 0.83 0.00 0.28 0.01 ③「こうなりたいな」という夢やもくひょ うをもっている 89.00 3.61 0.79 91.30 3.60 0.74 2.35 0.25 0.01 関わる力 ④自分と違う意見をもっている友だちと も,協力していっしょに学んでいる 87.89 3.41 0.78 87.40 3.42 0.78 0.05 0.39 0.02 ⑤友だちと協力するときに,自分のおもっ たことをきちんと伝えている 84.65 3.36 0.82 86.63 3.40 0.77 1.10 0.90 0.04 ⑥友だちといっしょに学ぶときに,友だち がどうしたいとおもっているかを考えて いる 84.54 3.29 0.81 85.03 3.28 0.79 0.04 0.19 0.01 創造する力 ⑦友だちといっしょに「どうすればよいか」 を考えて,「こうしたい」という願いを かなえている 78.75 3.20 0.85 79.24 3.19 0.85 0.03 0.30 0.01 ⑧教科の授業や創造活動で学んだことを, まいにちの生活に役立てている 78.95 3.15 0.87 75.49 3.09 0.89 2.61 1.56 0.06 ⑨同じ学年の友だちや違う学年の友だち と,いっしょに何かを作りあげたり,新 しい発見をしたりしている 83.74 3.37 0.84 83.09 3.33 0.86 0.78 1.15 0.05
に比して2015年2月と2015年10月が高かった。 有意な差がみられた項目について,平均値の推 移をFigure 1に示す。 2つの学級での積極的経験 普段の学級と縦割り学級での経験に関する項 目について,1回目と2回目ごとに各項目の肯 定率と平均値を算出した(Table 2)。肯定率 をみてみると,いずれの項目についても65%以 上であった。2回の肯定率について,クロス 表を作成し,McNemarの検定を行ったところ, 「②縦割り学級で,わたしが活躍できるところ があります」(χ2(1)=3.86,p<.05)の偏り が有意であり,1回目から2回目にかけて肯定 率が低くなっていた。また,2回の平均値につ いて対応のあるt検定を行い,効果量を算出し た。その結果,「④縦割り学級で,わたしがア イデアをだすところがあります」について,1 回目から2回目にかけて有意に低下していた (t(599)=2.60,p<.05,d=0.11)。 次に,3年間6時点(2013年10月,2014年 2月,2014年10月,2015年2月,2015年10月, 2016年2月)での平均値を比較した。ここでも 2013年度と2014年度のデータをもつ2015年度の 3~6年生のデータを分析に用い,時点を要因 とする分散分析を行なった。なお,項目ごとに 人数は異なる。普段の学級については,3項 Table2 普段の学級と縦割り学級での積極的経験に関する項目の肯定率と平均値,標準偏差 1回目 2回目 χ2値 t値 効果量 肯定率 平均値 標準偏差 肯定率 平均値 標準偏差 ①普段の学級で,わたしが活躍できるとこ ろがあります 70.91 3.00 0.94 72.07 3.00 0.94 0.23 0.25 0.01 ②縦割り学級で,わたしが活躍できるとこ ろがあります 71.52 2.99 0.94 67.05 2.90 0.93 3.86* 2.32 0.09 ③普段の学級で,わたしがアイデアをだす ところがあります 68.42 2.99 0.97 71.88 3.02 0.92 2.42 0.72 0.03 ④縦割り学級で,わたしがアイデアをだす ところがあります 67.33 2.94 1.00 63.50 2.83 0.99 2.86 2.60* 0.11 ⑤普段の学級で自分の意見がいえます 75.33 3.15 0.93 76.48 3.16 0.92 0.27 0.22 0.01 ⑥縦割り学級で自分の意見がいえます 69.59 2.99 0.98 70.91 3.00 0.97 0.33 0.22 0.01 *p<.05 12 Figure 1 3 つの資質・能力に関する項目の平均値の推移 1 2 3 4 項目① 項目③ 項目⑥ 項目⑧ 2013_10 2014_2 2014_10 2015_2 2015_10 2016_2 あてはまる やや あてはまる あまりあて はまらない あてはまら ない Figure1 3つの資質・能力に関する項目の平均値の推移
Figure 2 縦割り学級に関する項目の平均値の推移 1 2 3 4 項目② 項目④ 項目⑥ 2013_10 2014_2 2014_10 2015_2 2015_10 2016_2 あてはまる やや あてはまる あまりあて はまらない あてはまら ない 目とも有意な差はみられなかった。縦割り学 級については,3項目とも有意な差がみられ た。「②縦割り学級で,わたしが活躍できると ころがあります」(F(5,1890)=6.06,p<.001) では,2015年2月よりも2013年10月,2015年 10月,2016年2月が高く,2014年10月よりも 2015年10月が高かった。「④縦割り学級で,わ たしがアイデアをだすところがあります」(F ( 5,1865)=6.26,p<.001) で は,2014年 2 月,2014年10月,2015年2月,2016年2月よ りも2015年10月が高かった。「⑥縦割り学級で 自分の意見がいえます」(F(5,1855)=5.70, p<.001)では,2014年10月と2015年2月より も2015年10月と2016年2月が高かった。有意な 差がみられた項目について,平均値の推移を Figure 2に示す。 3つの資質・能力と2つの学級での積極的経験 との関連 2つの学級での積極的経験が翌年以降の3 つの資質・能力を予測するか否かを検討した。 2013年度と2014年度のデータをもつ2015年度 の3~6年生のデータを分析に用いた。まず, 2016年2月時点の3つの資質・能力について, それぞれ3項目ずつの合計得点を算出し,学び 続ける力得点,関わる力得点,創造する力得点 とした。次に,各年度の2月時点の2つの学級 に関する項目について,それぞれ3項目ずつの 合計得点を算出し,普段の学級での積極的経験 得点,縦割り学級での積極的経験得点とした。 そして,3つの資質・能力の得点を基準変数と する階層的重回帰分析を行った。ステップ1で は,2014年2月時点における普段の学級での積 極的経験得点と縦割り学級での積極的経験得点 を投入し,ステップ2では,2015年2月時点に おける普段の学級での積極的経験得点と縦割り 学級での積極的経験得点を投入し,ステップ3 では,2016年2月時点における普段の学級での 積極的経験得点と縦割り学級での積極的経験 得点を投入した(Table 3)。学び続ける力に ついては,ステップ2で,2015年2月時点にお ける普段の学級での積極的経験得点(β=.35, p<.001)と縦割り学級での積極的経験得点 (β=.12,p<.05)が有意な関連を示した。ス テップ3では,2015年2月時点における普段 の学級での積極的経験(β=.14,p<.05)と, 2016年2月時点における普段の学級での積極的 経験得点(β=.30,p<.001)と縦割り学級で の積極的経験得点(β=.33,p<.001)が有意 な関連を示した。関わる力については,ステッ プ2で,2015年2月時点における普段の学級で Figure2 縦割り学級に関する項目の平均値の推移
の積極的経験得点(β=.25,p<.001)が有意 な関連を示した。ステップ3では,2016年2月 時点における普段の学級での積極的経験得点 (β=.41,p<.001)と縦割り学級での積極的経 験得点(β=.30,p<.001)のみが有意な関連 を示した。創造する力については,ステップ1 で,2014年2月時点における普段の学級での積 極的経験得点(β=.16,p<.01)と縦割り学級 での積極的経験得点(β=.12,p<.05)が有意 な関連を示した。ステップ2では,2015年2月 時点における普段の学級での積極的経験得点 (β=.26,p<.001)と縦割り学級での積極的経 験得点(β=.14,p<.05)のみが有意な関連を 示した。ステップ3では,2014年2月時点にお ける普段の学級での積極的経験得点(β=.13, p<.05)と,2016年2月時点における普段の 学級での積極的経験得点(β=.39,p<.001) と縦割り学級での積極的経験得点(β=.26, p<.001)が有意な関連を示した。 資質・能力につながる見方・考え方 資質・能力につながる見方・考え方に関する 項目について,1回目と2回目ごとに各項目の 肯定率と平均値を算出した(Table 4)。肯定 率をみてみると,1回目の「①「じぶんの夢を かなえるためには,どうしたらいいかな」と考 えて行動している」を除いて,いずれも80%を 超えていた。2回の肯定率について,クロス 表を作成し,McNemarの検定を行ったところ, Table3 2つの学級での積極的経験から3つの資質・能力を予測する重回帰分析の結果 学び続ける力 関わる力 創造する力 ステップ1 ステップ2 ステップ3 ステップ1 ステップ2 ステップ3 ステップ1 ステップ2 ステップ3 普段の学級での積極的経験 (2014年2月) .10 .04 .05 .10 .05 .07 .16** .11 .13* 縦割り学級での積極的経験 (2014年2月) .08 -.04 -.09 .11 .02 -.05 .12* .01 -.03 普段の学級での積極的経験 (2015年2月) .35*** .14* .25*** .00 .26*** .01 縦割り学級での積極的経験 (2015年2月) .12* -.01 .11 .03 .14* .00 普段の学級での積極的経験 (2016年2月) .30*** .41*** .39*** 縦割り学級での積極的経験 (2016年2月) .33*** .30*** .26*** 説明率 .02* .18*** .41*** .03** .12*** .41*** .06*** .17*** .40*** *p<.05,**p<.01,***p<.001 Table4 資質・能力につながる見方・考え方に関する項目の肯定率と平均値,標準偏差 1回目 2回目 χ2値 t値 効果量 肯定率 平均値 標準偏差 肯定率 平均値 標準偏差 ①「じぶんの夢をかなえるためには,どう したらいいかな」と考えて行動している 78.82 3.23 0.93 81.44 3.24 0.91 1.76 0.20 0.01 ②「まわりの人のために,じぶんは何がで きるかな」と考えて行動している 83.25 3.31 0.83 81.94 3.25 0.86 0.38 1.65 0.07 ③じぶんのことだけではなく,「みんなは どうしたいとおもっているかな」と考え て行動している 80.30 3.25 0.86 82.43 3.25 0.85 1.12 0.05 0.00 ④「すてきだな」「ありがたいな」とおも いながら,いろんな人や出来事とかか わっている 85.64 3.37 0.82 86.14 3.39 0.81 0.04 0.49 0.02 ⑤まえよりすこしでも,じぶんが成長でき るようにがんばっている 90.46 3.54 0.73 88.65 3.47 0.77 1.30 2.23* 0.09 ⑥「他にもっとよいやり方はないかな」と 考えるようにしている 85.88 3.38 0.83 86.70 3.40 0.83 0.14 0.45 0.02 * p<.05
いずれの項目についても有意な変化はみられな かった。また,平均値については,1回目と2 回目のいずれにおいても,すべての項目で3点 を超えていた。2回の平均値について対応のあ るt検定を行い,効果量を算出した。その結果, 「⑤まえよりすこしでも,じぶんが成長できる ようにがんばっている」は,1回目より2回目 の方が有意に低かった(t(607)=2.23,p<.05, d=0.09)。
考察
本論文では,附属高松小学校における研究開 発第3年次の成果と課題について,児童に対す るアンケート調査を分析することで検討した。 本研究で示された主な結果は,①3つの資質・ 能力に関する児童の自己評価は第3年次におい ても高いこと,②普段の学級と縦割り学級の両 学級での積極的経験が翌年以降の3つの資質・ 能力と関連すること,③資質・能力につながる 見方・考え方に対する児童の自己評価は高いこ と,であった。以下,この3点について考察す る。 3つの資質・能力 3つの資質・能力に関する児童の自己評価 は,第1年次,第2年次に引き続いて高い値を 示した。いずれの項目についても,1回目と2 回目ともに75%以上の児童が肯定的な回答をし ていた。特に,学び続ける力に関する項目であ る「③「こうなりたいな」という夢やもくひょ うをもっている」については,2回とも肯定率 はほぼ9割であり,ほとんどの児童が自分なり の夢や目標をもって活動に取り組んでいること が窺える。この傾向は第2年次においてもみら れたものである(岡田他,2015)。また,関わ る力に関する3項目については,いずれも肯定 率が8割を超えていた。多くの児童が,学校生 活を通じて,同学年の仲間や異学年の仲間と共 感的,協同的に関わることができていると考え られる。 また,各項目の経年変化を調べたところ,全 体として平均値が高まる傾向がみられた。学び 続ける力に関する項目「①授業で教わったこと や調べたことについて,自分なりに考えてい る」,関わる力に関する項目「⑥友だちといっ しょに学ぶときに,友だちがどうしたいとお もっているかを考えている」,創造する力に関 する項目「⑧教科の授業や創造活動で学んだこ とを,まいにちの生活に役立てている」につい ては,第1年次もしくは第2年次よりも今年度 にかけて高まっていた。 3つの資質・能力に関する自己評価の高まり は,縦割り学級での経験を部分的に反映したも のであると考えられる。普段の学級と縦割り学 級での積極的経験として,両学級に活躍できる 場やアイデアを出す場面があるかを尋ねた。こ のうち,縦割り学級での積極的経験について は,3つの資質・能力と同様に,第1年次もし くは第2年次に比して今年度に高くなってい た。縦割り創造活動を開始して3年が経ち,そ の意義や目標,時間の過ごし方について児童の 理解が深まったことで,縦割り学級でより積極 的に活動できるようになったものと考えられ る。そのことに伴って,3つの資質・能力に対 する自己評価も高まった可能性が推察される。 2つの学級での積極的経験と3つの資質・能力 との関連 2つの学級での積極的経験と3つの資質・ 能力については,年度内において関連があ ることが示されていた(岡田他,2014;岡田 他,2015)。普段の学級と縦割り学級のそれぞ れにおいて,活躍の場や自分でアイデアを出す 経験をもてることが,3つの資質・能力につな がる可能性がある。本研究では,年度をまたい だうえでも両者の関連が示された。学び続ける 力に対しては,前年度における普段の学級での 積極的経験と縦割り学級での積極的が関連を示 した。関わる力に対しては,前年度における普 段の学級での積極的経験が関連を示した。創造 する力に対しては,前々年度における普段の学 級での積極的経験と縦割り学級での積極的が関 連を示した。これらのことから,2つの学級で 活躍できたり,自分なりのアイデアを出すとい う経験をすることは,3つの資質・能力の成長に長期的な影響を与える可能性が考えられる。 児童にとって,学校でのさまざまな学習や活動 の経験は単年度で終わるものではなく,次年度 以降にも継続的に影響を与え得るものといえ る。両学級において,個々の児童が積極的に活 動できる場を保証し,そういった経験を積み重 ねていくことが資質・能力の発達にとって重要 であると考えられる。 資質・能力につながる見方・考え方 第3年次から設定された資質・能力につなが る見方・考え方についても児童の自己評価は高 かった。いずれの項目についても,肯定的な回 答をした児童の割合はほぼ8割を超えていた。 1回目の調査時期である年度途中から2回目の 調査時期である年度終わりにかけて,肯定率と 平均値に大きな変化はみられなかった。研究開 発第3年次を迎え,児童は今回のカリキュラム のなかでの学びを継続してきている。その経験 を通して,資質・能力につながる見方・考え方 を身につけてきているものと考えられる。 今後の課題とまとめ 今後は,資質・能力の高さを維持していくこ とが重要な課題となる。本研究では,児童の自 己評価から,研究開発第1年次から第3年次に かけて資質・能力が高まってきていることが示 された。また,肯定率や平均値をみても,概ね 児童は十分に資質・能力を身につけつつあると いえる。このことから,今回の研究開発におい て想定しているカリキュラムが,児童の資質・ 能力を発達させるものとなっており,カリキュ ラムに沿ったかたちで日々の実践が行われてい ることが窺える。第4年次は研究開発の最終年 度であり,これまで検討を重ねてきた新しいカ リキュラムについて全体を振り返り,まとめの 作業を行っていくことが求められる。そのなか で,ここまでに高まってきた児童の資質・能力 を維持し得るかたちで,カリキュラムを整え, 実践を積み重ねていくことが必要である。ま た,本研究では児童の自己評価のみから効果を 検証した。日々の実践において見出される子ど もの実際の姿や教師の支援や指導を反省的に捉 えることで,第4年次の研究開発を進めていく ことが求められる。 引用文献 香川大学教育学部附属高松小学校(2014).分かち合 い,共に未来を創造する子どもの育成~新領域 「創造活動」を核とした2領域によるカリキュラ ム構想~ 研究紀要2013 香川大学教育学部附属高松小学校(2015).分かち合 い,共に未来を創造する子どもの育成~2領域 カリキュラムで見方・考え方を育む指導と評価 の在り方~ 研究紀要2014 香川大学教育学部附属高松小学校(2016).分かち合 い,共に未来を創造する子どもの育成~2領域 カリキュラムによる主体的,共感・協同的,創 造的な学びの実現~ 研究紀要2015 三石初雄(2009).2000年代末の研究開発学校でのカ リキュラム開発の動向 教員養成カリキュラム 開発研究センター研究年報,8,54-63. 文部科学省(2015).研究開発学校制度 (http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/ kenkyu/index.htm)(2015年5月13日) 岡田 涼・黒田拓志・石井 都・橘慎二郎・堀場規朗・ 山西達也・長町裕子・藤田篤志(2014).香川大 学教育学部附属高松小学校における研究開発第 1年次の成果と課題―児童に対するアンケート 調査からの検討― 香川大学教育実践総合研究, 29,75-83. 岡田 涼・黒田拓志・石井 都・橘慎二郎・玉木祐治・ 堀場規朗・山西達也(2015).香川大学教育学部 附属高松小学校における研究開発第2年次の成 果と課題―児童に対するアンケート調査からの 検討― 香川大学教育実践総合研究,31,47- 55. 大久保街亜・岡田謙介(2012).伝えるための心理統 計―効果量・信頼区間・検定力― 勁草書房 田中統治(2009).カリキュラム評価の必要性と意義 田中統治・根津朋実(編著)カリキュラム評価 入門 勁草書房 pp1-27.