原 著
語音明瞭度と純音聴力検査閾値の比較
君 付
隆 ・ 松 本
希 ・ 柴 田 修 明
玉 江 昭 裕 ・ 大 橋
充 ・ 野 口 敦 子
堀 切 一 葉 ・ 小 宗 静 男
語音聴力検査における最高明瞭度は聴覚閾値の上昇に伴い低下する。しかし、どの程度 の難聴で最高明瞭度がどの程度になるか明らかな基準はない。今回、604 耳において純音 聴力検査閾値と最高明瞭度の相関関係を解析した。明らかな相関関係を認め([最高明瞭 度]=− 0.92 ×[聴力レベル] + 117.04、R =− 0.83)、閾値の上昇に伴い最高明瞭度は低 下した。伝音難聴では聴力レベルと比較して最高明瞭度値が良好であった。聴神経腫瘍 では、中等度以上の難聴症例で純音聴力検査の悪化以上に最高明瞭度が低下していた。ス ピーチオージオグラム曲線の傾きは正常、伝音難聴、内耳性難聴、後迷路性難聴において 差を認めなかった。ロールオーバーの陽性率は内耳性難聴で 60.6%、聴神経腫瘍で 56.6%と差を認めなかった。 Key words:語音聴力検査、最高明瞭度、純音聴力検査、ロールオーバー、聴神経腫瘍は じ め に
語音聴力検査は、補聴器適応の有無や装用耳の 決定に用いられることが多い。どの程度の聴力レ ベルでどの程度の語音明瞭度を得られるか判定で き、補聴器装用後の聞き取りについてあらかじめ 推定できる。また、補聴器装用後には音場検査と して用いられる。この検査で十分な明瞭度を得ら れない場合は、人工内耳を考慮していくことにな る。さらに、語音聴力検査は感音難聴を内耳性難 聴と後迷路性難聴に鑑別するのに有用である。す なわち、後迷路性難聴では純音聴力検査と比較し て語音明瞭度が著明に低下するため、診断的価値 が大きいとされている1)。この際、病態にかかわ らず聴覚閾値の上昇に伴い明瞭度は低下していく ため、明瞭度の絶対値ではなく純音聴力検査との 比較が重要である。実際、同じ純音聴力検査閾値 でも明瞭度には大きな幅があるとされている2)。 個々の症例で純音聴力検査閾値と明瞭度を比較す る場合、閾値に対してどの程度の語音明瞭度の低 下を認めた際に後迷路性難聴を疑うか、語音明瞭 度と純音聴力検査閾値の平均的な相関関係の基準 が必要であるが、詳しく述べられた報告は少ない。 平均聴力レベルを、正常、軽度難聴、中等度難聴、 高度難聴と 4 区分し、それぞれの語音弁別能につ いて平均と棄却限界の尺度を示した報告はある が3)、詳しい相関関係は述べられていない。 今回われわれは、語音聴力検査の最高明瞭度と 純音聴力検査閾値について、どのような相関関係 が得られるか検討した。また、従来いわれるよう な最高語音明瞭度と純音聴力検査閾値の関係が、 伝音難聴、聴神経腫瘍(acoustic tumor:AT)の 症例で認められるか検討した。 九州大学大学院医学研究院臨床医学外科学講座耳鼻咽喉科分野 別刷請求:〒 812-8582 福岡市東区馬出 3-1-1 九州大学大学院医学研究院臨床医学外科学講座耳鼻咽喉科分野 君付 隆 耳鼻 57:158∼163,2011対象と方法
対象は九州大学病院耳鼻咽喉科外来を受診し、 純音聴力検査と語音聴力検査を施行した 306 名、 604 耳である。男性 137 名、女性 169 名で、年齢 は 5 − 89 歳(平均 53.5 歳)であった。正常 153 耳、伝音難聴 32 耳、混合難聴 11 耳、機能性難聴 7 耳、聴神経腫瘍 81 耳、髄膜炎 3 例で、他は SISI test や自記オージオメトリー検査、Metz test、 MCL・UCL 検査4)にて補充現象陽性を示し内耳 性難聴と推定される症例である。 語音聴力検査は、日本聴覚医学会の「67 − S 語 表」を用い、語音弁別検査により最高明瞭度(%) とその聴力レベル(dB)を求めた5)。気導イヤホ ンにより、左右別々に検査用語音を聴取し、検査 語音の聴力レベルが対側耳(非検査耳)の骨導閾 値より 40 dB 以上の大きい音を用いる場合には、 非検査耳をスピーチノイズにてマスキングした。 純音聴力検査閾値は 500、1,000、2,000 Hz の平 均(三分法)とした。相関係数、回帰直線の算出 は Origin 6.1 J(Origin Lab 社)にて行った。結
果
最高明瞭度と純音聴力検査閾値の関係を図 1 に 示した。聴力閾値が 30 − 40 dB までは最高明瞭 度も良好な値を示すが、50 dB 以上では良好な例 から悪化例までばらつきが大きい。100 dB 以上 では悪化症例のみである。回帰直線を求めると、 Y = A + B × X(Y:最高明瞭度(%)、X:三分 法の閾値(dB))で、R(相関係数)=− 0.83、A = 117.04、B=− 0.92 と、最高明瞭度と閾値の間 に強い相関を認めた。伝音難聴では最高明瞭度が 良好で、後迷路性難聴では悪いとされている。伝 音難聴と混合難聴の症例を図 2 に星印で示した。 ほとんどの症例が上述の回帰直線より上のレベル となっており、聴覚閾値と比較して最高明瞭度が 図 1 最高明瞭度と純音聴力検査閾値の関係 直線は全 604 耳より得られた回帰直線を示す。良好であることが確認された。後迷路性難聴の要 素が多い疾患として AT を選び、その結果を図 2 に灰色四角で示した。バラツキが大きいものの、 聴覚閾値が 50 dB までの正常−軽度難聴ではそ れほどの最高明瞭度の低下は認めないが、それ以 上の難聴ではほとんどが回帰直線より下のレベル となり、純音聴力検査の悪化以上に最高明瞭度が 低下していた。 スピーチオージオグラム曲線の立ち上がりと傾 きは、伝音難聴では正常と同様に急峻、内耳性難 聴では立ち上がりは急だがピークは頭打ちで傾き はやや緩徐、後迷路性難聴では立ち上がり、傾き 共に緩徐とされている6)。正常、伝音難聴、内耳 性難聴、AT(後迷路性難聴)のスピーチオージオ グラム曲線の傾きを、最高明瞭度を示す聴力レベ ル(dB)と三分法の閾値(dB)の差により比較し た。最高明瞭度が同程度であっても、曲線の傾き が緩徐の場合この差が大きくなると予想される。 語音聴取閾値を測定し、スピーチオージオグラム 曲線にて傾きを直接比較する方法が理想である が、語音聴取閾値検査は通常行わないため、便宜 的にこの方法で比較することとした。図 3 にヒス トグラムを示した。平均±標準偏差は、正常、伝 音難聴、内耳性難聴、AT でそれぞれ 31.2 ± 9.3、 28.8 ± 11.5、27.4 ± 10.8、29.7 ± 10.6 で差を 認めず、内耳性難聴、AT で必ずしもスピーチオー ジオグラム曲線の傾きが緩徐とはならなかった。 音圧を上昇させることにより明瞭度が最高明瞭 度から徐々に低下するロールオーバー(rollover) について、その有無を正常、伝音難聴、内耳性難 聴、AT で 比 較 し た(表 1 )。陽 性 率 は 正 常 で 6.1%、伝音難聴で 26.3%、内耳性難聴で 60.6%、 AT で 56.6%であった。
考
察
聴覚閾値の上昇に伴い語音明瞭度は低下する。 耳 鼻 と 臨 床 57 巻 4 号 160 図 2 最高明瞭度と純音聴力検査閾値の関係 伝音難聴と混合難聴症例を星印、聴神経腫瘍(AT)を灰色四角で示した。最高語音明瞭度と聴力レベルの関係について報告 はあるものの2),7)、ばらつきが大きく明確な相関 については示されていない。本報告で、最高語音 明瞭度と純音聴力検査閾値の間に強い相関を認 め、[最高明瞭 度] = − 0.92 ×[聴 力 レベル]+ 117.04 となることより、純音聴力検査の閾値 (dB)から平均的な最高明瞭度(%)が推定でき る。語音聴力検査を行った際に、平均的な最高明 瞭度より明瞭度が低下している場合に後迷路性難 聴が強く疑われることとなり、内耳性難聴と後迷 路性難聴の鑑別に有用である。実際の臨床の場で 最高明瞭度値が容易に推定できるように、簡略し て図 4 の相関関係を提唱したい。 後迷路性難聴の要素が強い例として AT の聴 力閾値と最高明瞭度を比較した(図 2 )。正常− 軽度難聴では最高明瞭度の低下はそれほど認めな いが、中等度−高度難聴では最高明瞭度の明らか な低下を認めた。これらの傾向は過去にも報告さ れており8)-10)、中等度以上の難聴において、語音 聴力検査の成績が著しく低下している場合、AT 表 1 ロールオーバー陽性率の比較 4 耳( 6.1%) 62 耳(93.9%) 66 耳 (+) (-) ロールオーバー 計 正常 伝音難聴 内耳性 AT 30 耳(56.6%) 23 耳(43.4%) 53 耳 114 耳(60.6%) 74 耳(39.4%) 188 耳 5 耳(26.3%) 14 耳(73.7%) 19 耳 図 3 最高明瞭度を示す聴力レベル(dB)と聴力閾値(三分法)(dB)の差のヒストグラム
を強く疑い検査を進めることが重要と思われる。 また、正常−軽度難聴においては、良好な最高明 瞭度は必ずしも AT を否定するものではないこ とを銘記する必要がある。 音圧を上昇させることにより明瞭度が最高明瞭 度から徐々に低下する場合があり、ロールオー バー現象といわれている。後迷路性難聴に特徴的 との報告もあるが11)、反対に内耳性難聴で多いと の報告もある12)。聴神経腫瘍でもその出現率は 40%に過ぎないとの報告もある13)。本報告では、 内耳性難聴と考えられる 188 耳での陽性率は 60.6%、AT 症例 66 耳での陽性率は 56.6%とい う結果となり、両者に明らかな差を認めなかった。 ロールオーバーは必ずしも後迷路性難聴を示唆す る所見ではなく、その有無で、内耳性難聴か後迷 路性難聴かを鑑別することはできないと考えられ る。 身体障害福祉法での障害程度等級表では、「両 耳による普通和声の最良の語音明瞭度が 50%以 下のもの」は 4 級に該当する。図1で示した 604 耳の中で最高明瞭度 50%以下は 114 耳(19%)あ り、語音聴力検査のみで身体障害福祉法の 4 級に 該当することになる(ただし実際は対側耳が 50% 以上の場合は該当せず)。この 114 耳の中で純音 聴力レベルが 70 dB 台(身体障害福祉法 6 級に該 当)が 18 耳、純音聴力レベルが 70 dB 未満(聴覚 障害に該当せず)が 34 耳あった。純音聴力検査 で非該当あるいは 6 級レベルと判断される場合で も、語音聴力検査により 4 級相当である症例が決 して少なくないことを示している。言葉の聞き取 りが悪いと訴える患者に対して、積極的に語音聴 力検査を施行し相応の障害認定をすることが重要 と思われた。
文
献
1) 井上泰宏:後迷路性難聴と聴覚検査.臨床検査 47: 1117-1123,2003. 2) 細井裕司他:語音聴力検査.耳喉頭頸 75:20-31, 2003. 3) 佐藤恒正:語音聴力検査.JOHNS 7:1421-1430, 1991. 4) 君付 隆他:MCL・UCL 検査の判定基準.耳鼻 54: 140-145,2008. 5) 山下公一:語音聴力検査.聴覚検査の実際−改定 2 版.日本聴覚医学会編,74-87 頁,南山堂,東京,2004. 6) 森満 保:語音聴力検査.イラスト耳鼻咽喉科 第 3 版.46-47 頁,文光堂,東京,2004. 7) 山下公一:語音聴力検査.臨床耳鼻咽喉科頭頸部外 科全書.日野原正他編,206-242 頁,金原出版,東京, 1990. 8) 神崎 仁他:聴神経腫瘍の早期診断および治療に対 する神経耳科的アプローチ,Ⅰ.聴・平衡覚所見を中 心に.耳喉 48:913-920,1976. 9) 菅澤恵子他:一側性聴神経腫瘍の語音聴力所見につ いて.Otol Jpn 10:473,2000. 10) 野口雄五他:純音聴力正常域の聴神経腫瘍症例の検 討.Audiol Jpn 49:757-758,2006.11) Jerger J et al:Diagnostic significance of PB word functions. Arch Otolaryngol 93:573-580, 1971.
12) 浅野和江他:スピーチオージオグラムのロールオー
バーの検討.Audiol Jpn 41:367-368,1998. 13) Kotlarz JP et al:Analysis of the efficiency of
retrocochlear screening. Laryngoscope 102 : 1108-1112, 1992.
(受付 2011 年 4 月 14 日、受理 2011 年 4 月 15 日)
耳 鼻 と 臨 床 57 巻 4 号
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pure-tone threshold. This study analyzed the correlation between the threshold from pure tone audiometry and the SDSmax from speech audiometry in 604 ears. There was a clear correlation between the pure-tone threshold and SDSmax. The SDSmax was better than that from the pure-tone threshold in conductive hearing loss. The SDSmax was obviously worse than that from the pure-tone threshold in acoustic tumors (retrocochlear hearing loss), especially in patients with a moderate or severe hearing disturbance. There were no differences in the gradient of the speech audiogram curve between ears with normal hearing, conductive hearing loss, cochlear hearing loss and retrocochlear hearing loss. The positive rate of rollover was 60.6% and 56.6% in cochlear hearing loss and retrocochlear hearing loss, respectively.