Title
沖縄及び首都圏の人々の天皇観・皇室観(4)−天皇イメー
ジ・皇后イメージの分析を中心に−
Author(s)
國吉, 和子; 延島, 明恵; 国広, 陽子; 佐渡, 真紀子; 廣田, す
みれ
Citation
沖縄大学紀要 = OKINAWA DAIGAKU KIYO(14): 1-19
Issue Date
1997-03-01
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/5814
沖縄大学紀要第14号(1997年)
沖縄及び首都圏の人々の天皇観・皇室観(4)
-天皇イメージ・皇后イメージの分析を中心に-國吉和子延島明恵国広陽子佐渡真紀子廣田すみれ
[目的]筆者らは、1993年の天皇による初の沖縄来訪(全国植樹祭への出席)を受け、
天皇観・皇室観に関する質問紙調査を沖縄と首都圏で実施した。 本研究では、その調査結果を基に、1)沖縄の人々の天皇・皇室およびそれに 関連する諸制度に対する態度やイメージの特徴を特に世代間で捉えること、 2)沖縄と首都圏の人々の天皇観・皇室観を世代間・地域間で分析・比較するこ と、3)天皇制と曰本人のアイデンティティー(国民・県民アイデンティティー) との関係を考察すること、等が主な目的である。 本報告はその一連の研究の一部をなすものであるが、沖縄の人々の天皇・皇室観の世代間比較や沖縄と首都圏の地域間・世代間比較などについては既に報
告がなされている(「沖縄及び首都圏の人々の天皇観・皇室観一沖縄の人々の世代間の比較を中心に-」沖縄大学地域研究所年報、7号、1996,「沖縄及
び首都圏人々の天皇観・皇室観(2)-地域間・世代間比較を中心に-」沖 縄大学紀要、第13号、1996,「沖縄及び首都圏の人々の天皇観・皇室観(3)-数量化Ⅲ類による分析一」沖縄大学地域研究所年報、8号、1997参照)。
ここでは、特に天皇イメージと皇后イメージについて、沖縄と首都圏の地域間比較を行なうことに焦点を当てる。また、両地点の世代間の比較・分析をも
併せて行なうことにする。 [方法] 対象:20歳~80歳代の沖縄県在住県出身者578名、18歳~70歳代の首都圏在 住者312名、計890名 調査時期:1993年10~12月 1沖縄大学紀要第14号(1997年) 調査方法:大学生および女性のネットワークを通じて、本人、その家族、知 人、友人などに調査した。高齢者の一部については老人福祉センターに依頼し た。 調査票の内容:a)天皇の沖縄訪問について(6項目)b)皇室および皇室報道へ の関心(8項目)c)天皇および皇室に関わる制度への態度(8項目)。)天皇戦 争責任(2項目)e)国民・県民アイデンティティーについて(8項目)f)天皇・ 皇后イメージ(3問一sD16項目と連想語2項目)g)デモグラフィック要因 (8項目) [本報告での分析の対象] 沖縄県在住県出身者578名および首都圏在住者298名(20歳以上)、計871名が本 報告での分析対象者である。世代区分については、沖縄と首都圏のサンプル数 を勘案して、両地点間の比較分析が可能となるように次のようにグループ分け をした。 A世代(調査時年齢56歳以上)-戦前・戦中に初等教育以上の教育を 受けた世代(沖縄137名、首都圏53名) B世代(調査時年齢40~55歳)-戦後の教育を受けた者で、現天皇の 婚礼時に既に就学年齢以上に達して いた世代(沖縄220名、首都圏91名) C世代(調査時年齢20~39歳)-B世代の時期以降の世代(沖縄221名、 首都圏149名) [本報告での分析内容] 天皇イメージ、皇后イメージを捉えるための特性語を16対用いたが、それら は肯定的な語の対10個と否定的な語の対6個で構成されている。肯定的な語は、 「魅力を感じる-魅力を感じない」、「尊敬する-尊敬しない」、「情を 感じる-情を感じない」、「親しみを感じる-親しみを感じない」、「関 心がある-関心がない」、「好感が持てる-好感が持てない」、「近寄り 易い-近寄り難い」、「認めたい-認めたくない」、「崇拝する-崇拝 しない」、「同'情する~同情しない」などであった。また、否定的な語は、 2
沖縄大学紀要第14号(1997年)
「不愉快に感じる-不愉快に感じない」、「不信感を持つ-不信感を持た
ない」、「反感を持つ-反感を持たない」、「`憤りを感じる-憤りを感じ
ない」、「嫌いである-嫌いでない」、「不満がある-不満がない」など
であった[前記の調査票のf)天皇・皇后イメージ-sD項目]。これらの16対の
配列は無作為になされた。そして、天皇および皇后に対してどのようなイメー
ジを抱いているかを、この16語の対を用いてそれぞれについて5段階で評定さ
せた。 [結果と考察] 1.天皇・皇后の全体的イメージ天皇および皇后に対する全体的イメージについて、16項目それぞれの平均得
点の結果を地域間で比較したものが表1,2に示されている。
天皇イメージについては、「崇拝する」の項目(有意差なし)を除いては、
他の全ての項目で沖縄は首都圏よりも得点が低く、有意な差が認められる。他
方、皇后イメージにおいては、全ての項目で沖縄の方が首都圏よりも評定が有
意に低くなっている。地域差があるとはいえ、両地点とも肯定的特性語よりも否定的特性語におい
て得点が高くなっているが、これは、回答者の対人認知における否定的側面に
対する反応への抵抗が強いことによるものと考えられる。
対天皇イメージにおいては、首都圏が沖縄よりも否定語に対する否定的傾向
が強く、得点が高くなっている。即ち、天皇に対して首都圏の方がより好意的
・親近的であることを示唆している。また、肯定的特性語においては、首都圏
の場合は、「崇拝する」を除いて他の9項目は3点に近いか、それ以上の得点
を示しており、肯定的位置にある。沖縄の場合は、いずれも2点前後で否定的
な位置にある。「崇拝する」の項目では両地点とも目立って得点が低く、天皇
に対する「崇拝する」という態度には否定的である。
皇后イメージについても天皇イメージの場合と殆ど同様な傾向を示している。
両地点とも肯定的特性語よりも否定的特性語において得点が高くなっており、
そして、いずれにおいても首都圏がより好意的・親近的な方向にある。沖縄の
3沖縄大学紀要第14号(1997年) 表1:天皇イメージの地域間比較 注:得点が高いほど好意的であることを示す。 ***P<、001,****P<、0001 4 沖縄 首都圏 全体 地域差(t値) 1 魅力を感じる 2.141 2.707 2.332 8.61**** 2 尊敬する 2.081 2.726 2.300 9.37**** 3 情を感じる 2.116 2.905 2.385 11.81**** 4 不!愉'決に感じる 3.683 4.089 3.821 5.43**** 5 不信感をもつ 3.631 4.079 3.782 5.93**** 6 親しみを感じる 2.101 3.052 2.424 14.41**** 7 反感をもつ 3.775 4.107 3.887 4.26**** 8 関心がある 2.106 2.930 2.384 13.19**** 9 憤りを感じる 3.710 4.282 3.903 7.70**** 10 嫌いである 3.685 4.039 3.804 4.54**** 11 同'情する 2.199 3.071 2.493 13.22**** 12 不満がある 3.598 3.882 3.694 3.49*** 13 崇拝する 1.889 1.867 1.882 、32 n.s、 14 好感がもてる 2.211 3.510 2.653 21.40**** 15 認めたい 2.252 3.304 2.606 16.60**** 16 近寄りやすい 2.196 2.932 2.444 10.64****
沖縄大学紀要第14号(1997年) 表2:皇后イメージの地域間比較 注:得点が高いほど好意的であることを示す。 ***P<、001****P<,0001 5 沖縄 首都圏 全体 地域差(t値) 1 魅力を感じる 2.046 3.315 2.482 18.42**** 2 尊敬する 2.083 3.170 2.451 14.92**** 3 '情を感じる 2.134 3.396 2.560 18.62**** 4 不愉快に感じる 3.830 4.155 3.940 4.47 **** 5 不信感をもつ 3.819 4.158 3.934 4.57**** 6 親しみを感じる 2.135 3.260 2.519 16.83**** 7 反感をもつ 3.864 4.245 3.993 5.11**** 8 関心がある 2.088 3.082 2.424 15.10**** 9 憤りを感じる 3.794 4.369 3.989 7.86**** 10 嫌いである 3.852 4.220 3.977 4.94**** 11 同'盾する 2.050 3.676 2.604 24.35**** 12 不満がある 3.805 4.108 3.908 4.01**** 13 崇拝する 1.961 2.209 2.045 3.34*** 14 好感がもてる 2.114 3.665 2.642 25.08**** 15 認めたい 2.249 3.379 2.630 15.66**** 16 近寄りやすい 2.228 3.065 2.510 12.08****
沖縄大学紀要第14号(1997年) 表3:天皇イメージの世代間・地域間比較 各2世代間 の有意差 各地域の 世代差 BtC,ALC なし ALBBLCALC なし ALC なし なし なし ns ns ALC なし ALC,BとC なし ALC なし なし なし ns ns ALC なし AとC ALBBLC AlBBとC,AとC ALBALC ALC なし ALCALC BLC ALC なし ns ns 注:得点が高いほど好意的であることを示す。 注:上段は首都圏,下段は沖縄 各世代の*印はそれぞれの世代における両地域間の有意差を示す。 *P<、05**P<、01***P<、001****P<、0001 6 C世代 (20-39蘭) (40-55歳)B世代
念6喋苧
各地域の世代差 各2世代間の有意差 1 勘鰄C5 2.477 2.145 * * * 2.841 2.147li
1i
;:l11li
***n.s● BとC,AとC なし 2 鮒す5 2.443* 2.125*柵{ 慨{
****n.s● Aと8,BとC,AとC なし 3 lii砿05 2.743 2.169i
li
3.0232.067#
#
3.1842.109ili
i
n.s* ● ALC なし 4 JWilAに息C5 4.000 3.579#
#
4.136*3.748* 4.289*3.746* ●● 8s ●● 、、 なし なし 5 稲駈もつ 3.939 3.5331!
#
氷水* 99 40 17 ●● 43淵{
* n.s ALC なし 6 ;佃總C6 2.819 2.177ii
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3.2472.052#
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3.4172.054 * *#
n.s**● AとC,BとC なし 7 噸をい 4.007 3.701#
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4.1123.802 * *** 23 25 48 ●● 43 ●● 88 ●● 、、 AとC なし 8 iiMji5 2.772 2.116 * *ill
3.0912.0241 とPLbLpLbLPLU-Iぴ匹己- 3.128 2.223 夕Kも-ヴEも-▲PLb-▲F0℃ ## BとC AとB 9 剛總C5 4.221 3.709#
#
4.3073.7021 6:「:「§ 4.442 3.7271 :::: ●● 8s ●● 、Ⅲ なし なし 10 Hいでji5 3.939 3.687 * 北米米 02 83 06 ●B 43 4.295* 3.767* ●● 8s ●● nⅡ AとC なし 11 mIiiす‘ 2.960 2.26911
#
3.1152.086#
#
3.3482.268#
#
n.s * ● AとC AとB,BとC 12 職ガカ5 3.805 3.566 * 3.9193.558 * 4.0683.715、.s、 ●● SS C● 、、 なし なし 13 耕す5 1.561 1.729、.s、 2.0471.842、.s、 2.5452.234n.s ******** AとB,BとC,AとCAとB,ALC 14 鵬力(&てる 3.362 2.284 * *#
3.5622.167 * *#
3.8752.162 * *#
n.s**● AとC なし 15 鋤tい 3.130 2.380#
#
3.3642.107!!
#
3.7392.269#
#
**** AとC BとC ,AとC 16 鵡Dやすい 2.859 2.157オ
ギ
棚{
3.2442.300#
#
●● sS ●● n、 AとC なし沖縄大学紀要第14号(1997年)
表4:皇后イメージの世代間・地域間比較
各地域の 世差 各2世代間の有意差 BとCAとC BLC AtCBLC BとC ns. ns. なしなし BとCAとC BLC なし なし AとCmC AmBLC ALC なし BtCALC BとC なし なし ALBALCBLC ALBALC AとB,AとCBtC mCAとC ALB,ALC,BLC BLCALC なし なし 注:得点が高いほど好意的であることを示す。 注:上段は首都圏,下段は沖縄各世代の*印はそれぞれ世代における両地域間の有意差を示す。
*P<、05**P<、01***P<、001****P<、0001 -7- C世 (20-39iti) (40-55iB世 ti) (56鴬~)A世代 各地域の世代差 各2世代間の有意差 1 li力鋼05柵{
柵{
3.863 1.992#
】i
***** BとCBとC,AとC 2 鞠す‘ 2.837 2.239#
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2.0163.896i
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******* BとC,AとCBとC,AとC 3 lii鑓C5柵$ 綱(
3.766 2.153ギ
ポ n.s* ● AとC BとC, BとC 4 下船に馴5 4.062 3.822 * 4.227*3.824* 4.318*3.855* ●● 8s ●● Ⅲ、 なし なし 5 不髄純っ 4.068* 3.769* 4.205*3.812* 4.364*3.919* ●● 8s ●● Ⅱ、 なし なし 6 肌ji鶴C5 3.034 2.254 * *$
3.4652.039 * *#
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**** BとCBとC,AとC 7 頤を6つ 4.184* 3.868* 4.264*3.831* *** 91 01 49 ●● 43 ●● 88 ●● 、、 なし なし 8 IiMji6 2.8902.164
ili
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3.2161.957i
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1i
***** AとB,BとCAとC,BとC 9 剛綱U5 4.252 3.77311
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4.4893.833i
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4.5233.764i
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●● 8s ●O nn AとC なし 10 Iiいでji5 4.103 3.864 * 4.3413.826#
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4.372*3.876* ●● 88 ●● Ⅲ、 なし なし 11 同情す‘ 3.486 2.117i
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3.7981.952!
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4.0432.098#
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n.s**● BとC BとC,AとC 12 砿ji<j6 4.000 3.773 * 4.182*3.801* 4.326*3.869* ●● 8s ●● nn なし なし 13 耕す5 1.871 1.848Ⅱ.S, 2.3561.898i
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3.4602.097#
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3.8892.260 q D q J ) 〕 **** ** AとB,AとC,BとCBとC,AとC 16 瀦I)やすい 3.027 2.239#
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3.2732.293#
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●● 8s ●● 、、 なし なし沖縄大学紀要第14号(1997年)
方は否定的な位置を示している。また、皇后イメージにおいても「崇拝する」
の項目が両地点とも16項目の中で最も低い得点で、否定的態度に傾斜している。
ところで、表3と4は、天皇。皇后イメージの得点を地域別に世代間の比較
をしたものである。沖縄、首都圏それぞれの各項目毎の世代間比較では、
天皇イメージでは、沖縄の場合は、「関心がある」、「同情する」、「崇拝す
る」、「認める」等が有意となっている。首都圏は、「魅力を感じる」、「尊敬する」、「情を感じる」、「不信感をもつ」、「親しみを感じる」、「関心
がある」、「崇拝する」、「好感をもつ」、「認めたい」等が有意となってい
る。両地点とも高年のA世代の得点が他の世代よりも高いが、首都圏が高年世
代になるにつれて得点がほぼ直線的に高くなり、肯定的態度の方に移行してい
るのに対し、沖縄は中間のB世代で落ち込み、得点がA世代、C世代よりも低
く、より否定的な方向にある。一方、皇后イメージでは、天皇イメージの場合と殆ど同じように、各世代の
得点は首都圏が沖縄を上回っている。地域別に世代間の比較をすると、沖縄で
は、「魅力を感じる」、「尊敬する」、「親しみを感じる」、「関心がある」、
「崇拝する」、「好感を持つ」、「認めたい」等が有意となっている。首都圏
では、それらの項目では沖縄と共通して有意となっているが、そのほかに、
「'盾を感じる」、「同`情する」等も有意となっている。皇后イメージの場合も、
首都圏が高年世代になるにつれて得点が高くなるのに対し、沖縄の方は中間の
B世代でやや落ち込む傾向を見せ、A・C世代より否定的な方向にある。
さらに、各世代における項目毎の地域間の比較をすると、天皇イメージでは、
「崇拝する」の項目を除いて、他の項目での各世代の得点は、首都圏が沖縄よ
り得点が有意に高く、より肯定的態度を示している。「崇拝する」ではどの世
代でも地域差は認められない。皇后イメージにおいても、天皇イメージの場合
と殆ど同様に、「崇拝する」のC世代を除いて、他は全て首都圏が沖縄よりも
得点が有意に高く、より好意的態度の方向にある。全体的に天皇イメージより皇后イメージがよいという結果を示しているが、
「崇拝する」の項目では両イメージとも得点が低く、否定的である。天皇・皇
后に対する「崇拝する」というイメージは戦前・戦中のA世代では幾分残存す
8沖縄大学紀要第14号(1997年) るが、戦後の若年世代では殆どない。そのような傾向はとりわけ天皇イメージ において強い。 また、地域別では、天皇。皇后に対して沖縄よりも首都圏の方が親近的・好 意的イメージをもっていることを示している。 16項目の中で世代間に有意差が見られるのは、首都圏が天皇イメージ、皇后 イメージとも9個、沖縄が天皇イメージでは4個、皇后イメージでは7個で、 首都圏の方に世代差が比較的明確であることを示している。しかし、前報告 (「沖縄及び首都圏の人々の天皇観。皇室観(2)、(3)」)の質問紙法に よる回答結果では、逆に沖縄の方の世代差が大きいことが示唆された。このよ うなずれは質問形式の違いによる回答者の微妙な反応の違いから生じたのであ ろう。一方、沖縄のB世代の否定的態度の方向への傾斜については、前報告に おいても同様な結果がみられた。 2.対天皇・皇后イメージの因子分析結果 天皇および皇后に対するイメージ項目(16個)のそれぞれにおける評定結果 を沖縄と首都圏、別々に主因子法により因子分析した結果、両地点ともそれぞ れ2因子ずつが同じように抽出されたので、ここでは、両地点を込みにして主 因子法による因子分析を行なった。その結果、両イメージとも固有値が1.00以 上のものが2因子ずつ抽出された。それにバリマックス回転を施し、その結果 は、天皇イメージについては表5,皇后イメージについては表6に示す通りで ある。 因子負荷量が.400以上のものを基に、抽出された各因子を解釈すると、天皇 イメージの第1因子は、「親しみを感じる-親しみを感じない」、「好感が 持てる-好感が持てない」、「情を感じる-情を感じない」、「尊敬する -尊敬しない」等の項目に因子負荷量が高く、「敬愛的態度因子」と命名し た。また、第2因子では、「反感を持つ-反感を持たない」、「不愉快に感 じる-不愉快に感じない」、「不信感を持つ-不信感を持たない」等の項 目に負荷量が高かった。そこで、この因子を「否定的態度因子」と解釈した。 皇后イメージについても2因子が抽出された。ここでも因子内容は、天皇イ 9
沖縄大学紀要第14号(1997年) 表5:天皇イメージの因子分析結果(回鰍)表6:皇后イメージの因子分析結果(回麟) = 第1因子第2因子  ̄ =一 第1因子第2因子 メージの場合とほぼ同様な傾向を示し、第1因子を「敬愛的態度因子」、第2 因子は「否定的態度因子」と解釈した。 3.天皇・皇后イメージの地域間・世代間の比較 天皇イメージ、皇后イメージ、それぞれの各因子毎の因子得点を用いて、両 地域の世代間比較を行ない、図示したのが図1~4である。それぞれ、地域(2) ×世代(3)の分散分析を行なった結果、天皇イメージについては、第1因子の -10- 項目 第1因子 第2因子 1M總U6 If鮒$て5 lil總05 轍す‘ 認1カtい !#力總C5 iiMb5 同|i}す5 鵡りやすい 耕す5 鴎をい 下鮒に:C5 不信既トフ #いてb5 71Wi力(jj5 剛總06 0 9 7 85 76 77 4 5 7 834936827 221762025 777554111 79 52 11 2 2 1 ●●●●●●●●●●●●●●●● 21 77 11 0 5 1 6 1 2 34 35 22 55 62 00 2 2 0 320612 309550 098888 3 9 7 ●●●●●●●●●●●●●●●● 固龍 寄騨(%) 6.37 39.8 3.10 19.4 項目 第1因子 第2因子 1M鯛C6 鵬が$て5 勘總C5 情總U6 鞠す5 iiIO力(ある 認めtい 同i;す5 鵡りやすい 耕す6 不髄をもつ 噸を6つ 不鮒噸U5 liMi5 砺力(b5 憤り樋05 203 665 888 7 4 8 9 2 8 3 9 7 2 9 7 5 6 7 33672266 68766232 64000101 ●●●●●●●●●●●●●●●● 976591 895272 001110 1 2 1 202637723 420110849 000999887 ●●●●●●●●●●●●●●●● 固施 寄騨(%) 6.77 42.3 4.13 25.8
沖縄大学紀要第14号(1997年) 「敬愛的態度因子」では、地域の主効果が有意であった。また、地域・世代の 交互作用にも有意差がみられた(表7)。 付加的に各因子の平均得点で地域×世代の分散分析をすると、第1因子では 因子得点による分散分析で有意差を示した地域の主効果と地域・世代の交互作 用においては同じく有意であったが、そのほかに世代の主効果においても有意 差が認められた(P<、01)。 いずれにせよ、首都圏の天皇イメージは肯定的態度であるが、沖縄は否定的 態度を示した。また、両地点の開きは高年のA世代では大きいが、若年のC世 代では縮小している。そして、首都圏が世代が高まるにつれて得点が上がる傾 向を見せているのに対し、沖縄は中間のB世代がやや落ち込む傾向を見せてい る(図1)。 地域別に対天皇イメージの第1因子の因子得点及び平均得点による世代間比 較をすると、首都圏ではいずれも有意である(P<、01,P<、001)。因子得点では CとB、CとAが、平均得点では各2世代間(t)で有意となっている。沖縄の 場合は第1因子の各2世代間の差は見られない。 天皇イメージの第2因子の「否定的態度因子」では、地域の主効果のみが有 意であった。この因子においても、首都圏は肯定的態度、沖縄は否定的態度を 示している。そして、両地点の各世代の得点はほぼ平行的に移行し、世代およ び地域・世代の交互作用も有意に至っていない(表7,図2)。また、各因子 の平均得点による地域×世代の分散分析においても同様の結果を示した。地域 別の対天皇イメージの第2因子の因子得点及び平均得点による世代間比較にお いても有意差はみられなかった。 他方、皇后イメージについても、天皇イメージの場合と殆ど同様に、第1因 子の「敬愛的態度因子」では、地域の主効果が有意差を示した。また、地域・ 世代の交互作用も有意であった(表8)。各因子の平均得点による分散分析で は、これらのほかに世代の主効果も有意差を示した(P<、05)。 首都圏の方は肯定的態度、沖縄は否定的態度を見せている。皇后に対してど の世代においても首都圏が沖縄よりも親近的・好意的だが、高年世代では、両 地点間の開きが大きいが、若年世代では接近している。そして、ここでも、首 -11-
沖縄大学紀要第14号(1997年) 2086420246 ●◆●●●● 110000 000 因 子 得 点 -0.8 図1天皇イメージの「敬愛的態度因子」 0.6 因0.4 子0.2 得0 「。 戸」 点-0.2 -0.4 図2天皇イメージの「否定的態度因子」 -12-
沖縄大学紀要第14号(1997年) 表7:天皇イメージの因子得点による地域間・世代間の分散分析 ***P<、001****P<、0001 都圏が世代が高まるにつれて得点が高くなるのに対し、沖縄は中間のB世代で より否定的方向へ落ち込む傾向を見せている(図3)。 地域別に皇后イメージの第1因子の因子得点及び平均得点による世代間比較 では、首都圏では、いずれも有意差がみられ(P<、01,P<、0001)、特にCとB、 CとAの世代の間で有意(t)となっている。沖縄においても、いずれも有意と なっており(P<、001,P<、01)、因子得点ではCとB、平均得点ではCとB、Cと Aの世代間に有意差(t)がみられる。 皇后イメージの第2因子の「否定的態度因子」でも、天皇イメージの場合と 同様に、地域の主効果のみが有意であった。各因子の平均得点による分散分析 においても同じような結果が得られた。どの世代においても得点は平行的に首 都圏の方が沖縄よりも高く、より肯定的態度を示している(表8,図4)。また、 地域別の対皇后イメージの第2因子の因子得点及び平均得点による世代間比較 では、沖縄、首都圏ともに有意差はみられなかった。 既に「天皇・皇后の全体的イメージ」の項において述べたことであるが、因 子毎の天皇イメージ、皇后イメージをみても、首都圏が好意的・親近的である のに対し、沖縄は否定的態度を示している。そして、両地域の世代間では両イ メージとも第1因子のみで有意になっているが、第1因子の天皇イメージにお いては、首都圏が沖縄よりも世代差が明確であることが示唆されている。また、 皇后イメージでは両地点ともCとB世代のギャップが大きいことを見せている。 さらに、沖縄の場合は、B世代が他の世代よりも否定的態度に有意にシフトし -13- C世代B世代A世代F値F値F値 (20~39ii)(40-55歳)(56歳-)(鯛Ii)(11燗)(鯛*11代) ii-因子沖縄  ̄ ●30  ̄ ●42  ̄ ●34 首都圏、48、76L05247.91****1.73,.s、7.37*** 蔚二因子沖縄一・17-.06-.04 首都圏、13、20、3817.32****1.61,.s.、261,.s●
沖縄大学紀要第14号(1997年) 420864202468 0●●●●●● ●●●● 1110000 0000 -一一一 因 子 得 点 百都倦 □ 図3皇后イメージの「敬愛的態度因子」 0.8 0.6 因 0.4 子 0.2 024 ● ● 00 得点 -0.6 図4皇后イメージの「否定的態度因子」 -14-
沖縄大学紀要第14号(1997年) 表8:皇后イメージの因子得点による地域間・世代間の分散分析 ****P<、0001 ていることを示している。 4.アイデンティティー要因と天皇・皇后イメージ
日本人であることの誇りの有無や地域民であることの誇りの有無、曰本人一
般と自分の天皇観の異同の認知などによって天皇・皇后イメージがどのように 違うのかについて地域間の比較をしたのが表9~14である。 曰本人であることの誇りの有無による天皇・皇后イメージの違いについては(表9&10)、両イメージとも第1因子では地域及び日本人の誇りの主効果が有
意となっている。そして地域・曰本人の誇りの交互作用も有意である。沖縄の 得点が曰本人の誇りDK(わからない)、有り、無しの順に高いのに対し、首都圏は有り、DK、無しの順になっている。第2因子では、地域と曰本人の誇り
の主効果が有意となっている。この因子では両地域とも得点が有り、DK、無 しの順になっている。 地域民であることの誇りの有無による天皇・皇后イメージの違いについては (表11&12)、両イメージとも第1因子では地域及び地域民の誇りの主効果が有 意であり、また、地域・地域民の誇りの交互作用も有意である。沖縄の得点が 地域民の誇りDK、無し、有りの順に高いのに対し、首都圏は有り、DK、無 しの順になっている。第2因子では、地域の主効果のみが有意差が認められ、両イメージとも沖縄
よりも首都圏の方が得点が高くなっているが、世代差は有意ではない。 -15- C世代B世代A世代F値F値F値 (20-39ii)(40-55歳)(56歳)(鵬ii)(鰍間)(鮒*鍬) 蔦-因子沖縄一・31-.57-.45 首都圏、57、951.23444.79****2.01,.s、18.20**** 駕二因子沖縄一・13-.10-.07 首都圏、09、30、3117.09****、98,.s.、69,.s.沖縄大学紀要第14号(1997年) 表9:天皇イメージの因子毎の平均得点による 地域間・日本人の誇りの有無の分散分析 ***P<、001****P<、0001 表10:皇后イメージの因子毎の平均得点による 地域間・日本人の誇りの有無の分散分析 ****P<、0001 曰本人一般と自分の天皇観が同じだと思うか否かによる天皇・皇后イメージ の違いについては(表13&'4)、両イメージとも第1因子では地域及び天皇観の 主効果が有意となっている。また、地域・天皇観の交互作用も有意である。こ の因子では、沖縄が天皇観DK、同じ・違うの順であるのに対し、首都圏は同 じ、DK、違うの順になっている。 第2因子では、天皇イメージの方は地域と天皇観の主効果のみが有意である が、皇后イメージではそれらの主効果と地域・天皇観の交互作用も有意差を示 している。日本人一般と自分の天皇観を同じと認知している者の得点がDK・ 違うと認知している者よりも高くなっているのは天皇イメージ、皇后イメージ に共通している。 -16- 日本人の誇りF値F値F値 有り無しDK(鯛ii)(誇り)(jll域蠕り) 第一因子IMI2.171.992.22280.99****16.86****7.34*** 梛圏3.022.502.63 ボー因子#、3.873.313.4634.31****20.30****、50,.s 醜聞4.183.823.79 ● 日本人の誇り F値F値F値 有り無しDK(M1鯛)(誇り)(M1域*訓) 蔦-因子#闇2.112.072.23499.56****8.12****12.98**** 首鯛3.362.782.96 ボー因子#闇3.953.473.6633.05****19.93****、02,.s 首躯4.323.874.03 ●
沖縄大学紀要第14号(1997年) 表11:天皇イメージの因子毎の平均得点による 地域間・地域民の誇りの有無の分散分析 **P<、01****P<,0001 表12:皇后イメージの因子毎の平均得点による 地域間・地域民の誇りの有無の分散分析 ****P<、0001 このようにみていくと、日本人であることの誇りの有無、曰本人一般と自分
の天皇観の異同の認知の2つの要因との関係においてはほぼ同じような天皇・
皇后イメージの傾向を見せていることがわかる。因子別には、第2因子では両
地域とも天皇・皇后イメージの評定得点が、誇り有り(あるいは天皇観同じ)、
DK、無しの順に高くなっており、首肯できる結果を示している。他方、第1
因子では首都圏が同じ傾向を示しているのに対し、沖縄はDK、有り.無し
(ほぼ同値)の順である。沖縄の回答者にとっては、天皇。皇后に対する肯定的
特性語(第1因子の項目)による反応への抵抗が比較的強いのかもしれない。
ところで、地域民であることの誇りの有無では、その主効果に有意差がみら
れる第1因子(地域の主効果、交互作用も有意)では、天皇・皇后イメージに -17- 地域民の誇り F値F値F値 有り無しDK(地鯛)(誇り)(鯛*割) ボー因子#Ii2.112.232.28280.49****4.61**15.94**** 醐圏3.102.652.76 第二因子#周3.673.713.7335.27****1.41,.s、2.90,.s. 甘鯛4.243.933.89 地域民の誇り F値F値 F値 有り無しDK(ij鯛)(誇り)(Iiii*誇り) ii-m子111m2.082.162.35492.78****7.97****16.42**** 首躯3.482.933.12 舗二H1子沖胤3.813.883.7234.98****1.59,.s、2.73,.s 甘鯛4.354.034.17 ●沖縄大学紀要第14号(1997年) 表13:天皇イメージの因子毎の平均得点による 地域間・天皇観の認知の分散分析 ***P<、001,****P<、0001 表14:皇后イメージの因子毎の平均得点による 地域間・天皇観の認知の分散分析 *P<、05**P<、01***P<、001****P<、0001 対して、首都圏の方は、有り、DK、無しの順に高くなっており、首肯できる ような順になっているが、沖縄の方は、DK、無し、有りの11項で、首都圏の場 合とは逆に、地域民(沖縄人)の誇りを持つ者が敬愛的態度の得点が最も低く なっている。 沖縄の人々の約7割(首都圏も7割)が曰本人であることの誇りを持つと回 答し、そして8割以上が地域民(沖縄人)であることの誇りをもつと回答(首 都圏は5割)している。また、曰本人一般と自分の天皇観の異同の認知におい ては、沖縄では約6割の人が「違う」と回答しているのに対し、首都圏では同 割合の6割が「同じ」と回答している。これらのことと上記のような両地点間 の回答の違いとを重ね合わせると、沖縄の人々にとって、天皇・皇后に対する -18- ロホハと自分(D天皇illd F値F値F値 同じ違うDK(、鯛)(誇り)(鯛*訓) 第一因子#闇2.122.122.33200.76****14.39****26.36*** 首鯛3.112.452.61 爵二因子仲勵4.083.493.687.02****38.40****、39,.s 甘鯛4.303.603.96 ● ロホAとM(、殖MMF値F値F値 同じ違うDK(鮒M1)(誇り)(鰄糯り) 蔦-因子#闇2.012.132.32408.41****4.23*27.77*** 甘鯛3.432.782.99 ii二因子沖鬮4.143.703.629.95***23.41****3.26* 甘鯛4.373.764.28
沖縄大学紀要第14号(1997年) 心理的距離が大きいこと、そして微妙な心の状態が存在することがうかがえる。 参考文献 國吉和子・国広陽子・佐渡真紀子・井上すみれ・延島明恵沖縄及び首都圏 の人々の天皇観・皇室観一沖縄の人々の世代間の比較を中心に- 沖縄大学地域研究所年報、7号、p69-89,1996 國吉和子・国広陽子・佐渡真紀子・延島明恵・井上すみれ沖縄及び首都圏 の人々の天皇観・皇室観(2)-地域間・世代間比較を中心に- 沖縄大学紀要、13号(通巻33号)、p1-53,1996 國吉和子・延島明恵・国広陽子・佐渡真紀子・廣田すみれ沖縄及び首都圏 の人々の天皇観・皇室観(3)-数量化Ⅲ類による分析一 沖縄大学地域研究所年報、8号、p1-10,1997 延島明恵・國吉和子・国広陽子・井上すみれ・佐渡真紀子沖縄及び首都圏 の人々の天皇観・皇室観(4)-天皇イメージ・皇后イメージの分 析を中心に-曰本心理学会第59回大会発表論文集、p134,1995 -19-