誘因に依拠する政策戦略
~譲渡可能排出許可証~
序論
排出課徴金制度(前章) 中央集権的な公的当局が税率を定め、各汚染者の排出状況を監視し税を徴収す る必要がある。基本的に公的当局と汚染者が対峙し相互にやり取りを行う 他のいかなる税制度と同様、敵対関係が生じる 本章では、 経済的誘因を生かしつつ、より分権的に機能するように設計された政策手法を 検討 「譲渡可能排出許可証」制度 すべてを中央集権的な公的当局に丸投げするのではなく、分権的市場で汚染者 同士でやり取りをすることで機能する13-1
譲渡可能排出許可証制度の一般的原理
財産権 汚染物質を排出することについての許可証に体現され、定められる特定汚染物質1トン および1ポンドなどその許可証が定める単位で測った1単位のみ排出を許可する 汚染者は排出許可証を保有することが通常で、100単位排出許可証を保有している排出 源は、特定期間中に排出を最大100単位行うことができる すべての汚染源に対し保有される排出許可証単位の総量が、総排出量に対し上限を定 めることになる こうした排出許可証は譲渡可能なものとして排出許可証市場に参加が許されるもので あれば誰であれ市場参加者同士で設定した価格で自由に排出許可証の売買が許される13-1
譲渡可能排出許可証制度の一般的原理
分権的制度ではあるが・・・ 譲渡可能排出許可証制度において、排出量総量を決定するのは中央当局である 排出量総量が決められ汚染源に配分される際、どの汚染源にどれだけの許可証 が割り当てられるか決定するための方式が必要。 排出許可証がどのように割り当てられようとも、その総数が現状の値を下回る 限り少なくともひとつの排出源において、受け取った排出許可証の量がその現 行排出量を下回る しかし例えば・・・ 一群の発電所から排出される硫黄の量を削減するため、譲渡可能排出許可証制度 が導入され年間150,000トンから年間100,000トンにまで削減することが取り決め られたとしたら、 さらにこのうちのひとつの発電所に注目して、現状が年間7,000トンで当時配分 された許可証は5,000トンしかなかったとしたら 1.排出量を排出許可証の初期配分量で認められる排出水準にまで削減 2.排出許可証を追加購入することにより、初期配分の水準を超えた排出を行う (初期値の5,000トンに追加して1,000トン分排出許可証を購入することで排出量 が6,000トンになる。) 3,初期配分で認められる水準を下回る水準にまで削減し、余った分は排出許可証を 売却する(排出量が4,000トンまで削減する場合、1,000トン分の排出権を売却で きる)
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譲渡可能排出許可証制度の一般的原理
汚染者たちが相互に、あるいは汚染者以外の 人々も参加する形で排出権を売買する場合、排 出量を限界費用均等化原理を満足するよう配分 される。 例えば・・・ 汚染源が2つ存在し、限界削減費用が異なり排 出源Aの年間排出量(120トン)がB(90トン)を大 幅に超えるとして、それらをあわせると210ト ンとなる
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譲渡可能排出許可証制度の一般的原理
▲譲渡可能排出許可証制度の仕組み 総排出量を210トンから105トンまで削減するために保有者に年間1トンの排出を認 める譲渡可能排出許可証を105単位発行したとする。そうすると上図のように汚染 源Aが60単位、汚染源Bが45単位の排出許可証の初期配分を受けるものとする 90 120 図:「東北大学 環境経済学」http://www.econ.tohoku.ac.jp/~yhaya/C13.pdf13-1
譲渡可能排出許可証制度の一般的原理
▲譲渡可能排出許可証制度の仕組み 2つの汚染企業A、Bの初期配分された排出許 可証を相互に売買しその再配分を考慮できな かった場合、AとBはそれぞれ60トン、45トン に排出量を抑えなくてはならない 企業Bが45トンまで削減を行ったならば、これ での限界削減費用は4,000ドルにまでのぼり、 追加の排出許可証を4,000ドルで購入する場合、 限界削減費用4,000ドルの差額分だけ費用を節 減可能。Aにおいても同様である 120 90 汚染源Aが限界削減費用が1,200ドルより小さい場合、Bに売却することができる ため、汚染源Aか排出許可値ら汚染源Bに売却することによる「取引の利益」が存 在する 図:「東北大学 環境経済学」http://www.econ.tohoku.ac.jp/~yhaya/C13.pdf取引後、企業Aが年間59トン、企業Bが年間46 トン排出することになってもこの状況では2つの 企業の限界削減費用が乖離しており、この乖離 が存在する限り排出許可証の追加的単位を順次 取引し続けることで双方が利益を得ることがで きる 両企業の限界削減費用は均等化されるため、こ うした取引の利益は存在し続け許可証の取引は 継続される
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譲渡可能排出許可証制度の一般的原理
▲譲渡可能排出許可証制度の仕組み 限界削減費用が均等化する点(上図の1,500ドル)における排出量は企業Aが年間40トン、企業Bは年 間65トンになる 保有残高は企業Aは企業Bに売却された20単位を差し引いて40単位となり、企業Bは65単位となる 流通している排出許可証の総量が一定である限り、総排出量も一定となる 図:「東北大学 環境経済学」http://www.econ.tohoku.ac.jp/~yhaya/C13.pdf実際はしかるべく合意された価格で排出許可証をある程度まとめて取引する公算が大きい これら2つの汚染源の限界削減費用が食い違っている限り、その間で排出許可証を相互に取引す ることによって双方ともに有利になりうる こうして取引されてそれぞれの排出量が排出許可証残高に見合った水準に調整されることを通し、 限界削減費用均等化原理が満足されるような結果が導かれる 汚染源が2つ以上(たくさん)存在する場合、汚染源の限界削減費用の乖離があるならば排出許 可証の取引による利益は同様に存在し、これがとりつくされた後は限界費用均等化原理が満足さ れ排出許可証のすべての売買が共通価格で行われる 特に排出許可証のすべての売り手・買い手が相互に開かれた形で取引し、取引価格がすべての取 引参加者に公開されるような単一の排出許可証市場が存在するならば通常の競争的力学によって 排出許可証の共通価格が現れることを促し、またその際排出許可証の流れは一般的に限界削減費 用の低い汚染源から高い汚染源に向かう
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譲渡可能排出許可証制度の一般的原理
汚染源が多数存在し、経済が成長し新たな企業が参入し既存の企業が規模拡大する際に、譲渡可能排出許 可証制度は汚染者に対し少しでも有利なやり方を希求させる誘因を内在する 排出許可証は限界費用均等化原理を満たす方向に次第に再配分されていく 排出許可証取引においても取引を仲介するブローカーないし投機的仲介業者の制度や取引所制度などが発 達し排出許可証取引市場の機能をより完全なものとすることとなると期待される。
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譲渡可能排出許可証制度の一般的原理
▲排出許可証市場 毎年の取引において、左の図のように排出許可証の市場価格は需要曲線と供 給曲線が交わる点Pの水準を自ら調整されて図の点Lで表されるある量の排 出許可証が供給者の手から需要者の手にわたる傾向がある 譲渡可能排出許可証制度は機能しうる上で様々な問題があり、理論的には素 晴らしい方策はあるが現実の複雑さに対応すべく調整されることが必要 図:http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/l/link68/20150225/20150225204253.png譲渡可能排出許可証制度が汚染管理を達成しうるために、流通する排出許可証の総量が制限されているこ と不可欠 どのような配分方式を採っても何らかの意味での不平等を生じる嫌いがある ある汚染物質の排出許可証を汚染企業に均等に配分されているとして、それは企業ごとにまちまちである ため、決して衡平とは言えない。 また、 許可証の割合をすべての企業に5割に相当する排出許可証を割り当てると、それまで削減を努力した企業が 甚大な被害を受けるという問題が内在する こうした企業は今まで努力して達成してきた割には低い実績にしかならず帰って罰せられ、その逆の企業 は努力していないのに恩恵を受けるという理不尽な状況となり、そうなると後者が逆に排出量を増やし悪 循環に陥る危険性がある
13-1-1 譲渡可能排出許可証の初期配分
このように様々な問題があるが、譲渡可能排出許可証制度が受け入れられるために可能な妥協 点が必要 排出許可証を無料配布するか競売するかという考えもあるが、それが広範に衡平に配分されて る限りその取引市場の限界削減費用に応じて配分されるため、原理的に何ら変わりはない それが競売にかけられる場合だと、競売を行う政府の懐に入ることとなる。一見公的当局が価 値ある政策の中で財源確保のためのいい方法に見えるが、政治的反対も引き起こす可能性があ る 一部を無料配布し追加的な部分は競売にかけるというやり方、初期配分に応じて軽微な課徴金 を科すというやり方がある
13-1-1 譲渡可能排出許可証の初期配分
市場が有効に機能するためには、取引参加する主体が誰かあるいはどのような 手続きに従うか明確に取り決めた規則が必要 煩雑なため取引で売買を行った場合にどのようになるか正確に把握する必要が ある、すなわち公的当局が介入しなくとも市場に任せられる規則であるべき 環境当局は市場を観察し綿密に把握し達成度を把握すると望むのが常であるが、 逆に取引参加者に不確実性が増大し市場の取引費用の全般的水準が上昇してし まうため、排出許可証が効率的な方向に流れることを妨げるという問題がある 簡潔かつ明瞭な基本的取引規則を定めた後、原則的に市場での取引進行に任せ るべき
13-1-2 排出許可証取引規則の確立
取り決める必要があるのは、誰が排出許可証取引に参加すべきか認めること 排出許可証は購入し破り捨てることで総排出量を削減することは認められるべ きかというと、それは社会的支払い意思額が限界削減費用を上回っているとい う確証であるため彼らの排出許可証購入を認めることが解決策となる 全国の環境保護団体がその資金を用いて特定地域の排出許可証を購入しようと する場合、団体は支払おうとする価格と社会的な支払い意思額との間にさほど 緊密な関係は存在しないため、妥当かもしれない。 排出許可証取引が本質的に全国ないし極めて広範にわたっているのであればそ の限りではない
13-1-2 排出許可証取引規則の確立
13-1-3 不均一混合排出
左図のように、各々の排出源は卓越風(最も優勢な風)あるいは人口集 中地域との相対的位置関係において一様でなく、汚染源が人口集中地 域の風上にあれば風下に存在するものもある 汚染源は限界削減費用について相互に相違するのみならず、大気環境 のSO2基準に与える影響も相違している。つまり、各汚染源自身から の排出と都市域の環境被害の輸送係数が相違している ある汚染源の間で排出許可証の1単位が売却されそのまま1単位有効であるとすると、排出許可証の総量を一 定に留めることでSO2などの汚染物質の制限することができるが、それによる被害額を一定に留めることが できない このような単純な形の取引は、輸送係数が高く環境質に対する影響をより大きい企業に向けて排出許可証が 集中してしまう問題がある。この場合環境影響の相違を考慮すべく取引方法を調整することが考えられる。 ▲不均一混合排出と譲渡可能排出許可証 制度 図:「東北大学 環境経済学」http://www.econ.tohoku.ac.jp/~yhaya/C13.pdf汚染源は多数存在(2つではなく)する場合拡張可能とあるが、それは事態が急速 に複雑化してしまう傾向がある。 排出許可証を得るために何単位か購入しなければならないという取引比率を決 めなければならない。汚染源の数が増える毎に比率が上がる。 汚染源の輸送係数を見定めることで確定可能であるが、大変。これを避けるた めに地理的に近く、似通った汚染源同士をひとつのグループとしてまとめてい る(下図のエリアA~D)
13-1-3 不均一混合排出
左図のように、排出許可証の取引は区域内だけに 限定するかが議論されている。 ▲不均一混合排出と譲渡可能排出許可証 制度 図:「東北大学 環境経済学」http://www.econ.tohoku.ac.jp/~yhaya/C13.pdf譲渡可能排出許可証制度で、こうした区域は内部に制限してしまうか区間内に またがる取引を許容するべきかという問題があり、見た目よりはるかに広範に 渡る重要性を持つ。 売り手と買い手が相互に取引する過程で通じる機能で、競争が存在する場合に 十分機能するが競争相手が少なくあるいは不在の場合は機能が低下する。 排出許可証の競争を促す目的だけからすると、取引区間をできるだけ広げ、潜 在的な買い手と売り手が多数含まれるようにするべきである。
13-1-4 譲渡可能排出許可証制度の競争の問題
設定区間をあまりに広くすることは、生態環境の事実要請に逆らうことになり かねない。取引区域を狭いところに限定すべきという気象学的に水文学的な理 由がある 競争の促進という経済的な理由からすると取引区域を広範に定めなければなら ない反面、限定的にしなければならない 環境によって異なるため双方の要因をバランスよく取った黄金比など存在しな い。その環境に応じて個別の特異性と許可証取引における産業の競争状況の機 微とを天秤にかけて検討する以外ない
13-1-4 譲渡可能排出許可証制度の競争の問題
排出源が自ら排出量をその保有する相当量以内に留めるように制限するという 側面が存在し、それを全うするためには各汚染源の排出許可証保有残高と排出 量とを追跡することが可能でなければならない 初期配当は周知であるため重要なのは許可証制度における取引を追跡すること である 多様な取引形態が存在する場合、取引は実際かなり複雑になる 取引内容を知らしめる強い要因があり、売り手がいれば買い手がいるため信頼 に足る情報は入手可能である
13-1-5 譲渡可能排出許可証制度と実施問題
排出源の監視について 保有する排出許可証残高を超過していないかどうかを監視する必要がある 排出許可証が総排出量許可するものとして定義されているとして、各汚染源に おいて累積排出量を測定する術がなければならない 排出源の排出量が一定であれば瞬間排出量を測定すれば時間をかけて累積排出 量を排出できる ほとんどの汚染源は日ごとに排出量が変動しているため、より緻密な監視が必 要である
13-1-5 譲渡可能排出許可証制度と実施問題
汚染源が少なくとも非公式な形で監視すべき要因が創出される望ましい一面が ある 施設の数が少ないのに排出量が異常に高い場合、 許可証の値に大きく違反しているという不正が発覚する 不正とならないあるいは監視が甘い場合、排出許可証の価値は下落しそれを保 有する企業にとっては明らかに利益に反する 許可証の価値を下げないように、不正を働いていないか監視の目は自ずと強く なる
13-1-5 譲渡可能排出許可証制度と実施問題
環境政策の良し悪しを判断する基準に 「汚染企業に対し、より優れた排出削減方法を希求すべき要因を創出するかどう か」ということがある 環境基準政策がこの点で弱点としているが、排出課徴金制度はより優れている 譲渡可能排出許可証制度では「少なくとも理論的には排出課徴金と同等である」 と考えられる
13-1-6 譲渡可能排出許可証制度と研究開発(R&D)に向けて
の誘因
13-1-6 譲渡可能排出許可証制度と研究開発(R&D)に向けて
の誘因
限界削減費用が排出許可証価格と等しくなる水準e₁ の排出を賄えるだけの排出許可証を保有すべく調整 は終わっている 左図はある企業を想定し、現在の限界削減費用関数 がMAC₁、許可証の単位価格はpとして当面変化しな いとする 現在の排出許可証保有残高はe₁単位、年間排出水準 e₁トン、それまでの総削減費用(a+b)と想定する 限界削減費用関数をMAC₁からMAC₂まで下にシフトさ せることでどれだけの利益を得ることができるか? 図:「東北大学 環境経済学」http://www.econ.tohoku.ac.jp/~yhaya/C13.pdf ▲譲渡可能排出許可証と技術進歩 a d c b限界削減費用はMAC₂になると、許可証価格が限界 削減費用と等しくなる水準e₂までに調整 以前の水準e₁からe₂まで削減を行う総削減費用は 面積(c+d)相当分となるが、許可証を(e₁-e₂)単位 だけ売却しp(e₁-e₂)=(c+d)相当分の収入を上げる ことができる 12章の排出課徴金制度下の利得ないし費用節減分と比 較すると丁度等しいことが分かった。