凍結胚の融解と胚移植の説明書
治療の必要性/適応について
受精卵(胚)の凍結は、体外受精または顕微授精において、以下のような場合に行なわれる治療です。
新鮮胚移植後に、妊娠につながる可能性のある受精卵(いわゆる余剰胚)が残っていた場合。
採卵数が多い、血中エストロゲン値が高いなど、卵巣過剰刺激症候群を起こす可能性が高いために、
新鮮胚移植がキャンセルとなった場合。
その他の理由により新鮮胚移植がキャンセルとなった場合。
今回、凍結保存しておいた胚を融解し移植することで、新たな卵巣刺激や採卵手術を繰り返すことな
く妊娠をめざすことが可能となり、身体的・金銭的負担が軽減されます。
方法
胚の凍結保存の方法や保存に関する費用(別紙参照)、リスク等については、凍結時に説明し、同意
をいただいていると存じます。
融解と胚移植の日程
1) 自然周期下での胚移植:自然排卵が順調である方に向いています。超音波検査や尿・血液検査など
により成熟した卵胞の発育を確認し、排卵させるために hCG 注射(もしくは GnRH アゴニスト点鼻薬)
を行い、タイミングをあわせて凍結胚の融解、培養を行ない、移植します。凍結した時点での胚の
分割状態と、融解後の培養期間を考慮し、胚移植日を決定しています。卵胞発育については、クロ
ミフェンやセキソビッド内服や FSH/HMG 製剤の注射による卵巣刺激を併用する場合もあります。着
床/妊娠成立しやすくするために、黄体ホルモンや hCGの注射を適宜行なっています。月経周期
10~12 日目頃、来院して下さい(超音波検査があります。場合により血液検査・尿検査があります)。
2) ホルモン調節周期(HRT)下での胚移植:自然排卵が順調ではない方(多のう胞性卵巣のかたなど)や、
お仕事の都合で移植のスケジュールを前もって調節する必要がある方に向いています。また、ロン
グ法、ショート法、アンタゴニスト法で採卵した翌周期に移植を希望する方もこの方法が向いてい
ます。卵胞ホルモンのお薬と黄体ホルモンのお薬を用いて、子宮内膜を着床に適した状態に調節し
ます。薬の使用開始時期、方法の指示がありますので、移植を希望する周期の月経開始前に来院、
ご相談ください。移植希望する周期の 1-2 日目より卵胞ホルモン剤を使用開始し、11-13 日目に来
院していただきます(血液検査、超音波検査があります)。
薬の説明 妊娠成立した場合、薬は妊娠の 10 週まで使用継続します。
卵胞ホルモン剤(月経 1-2 日目から使用開始します)子宮内膜を厚くして胚(受精卵)を受け入れる
状態を作ります。
・エストラーナテープ:貼り薬です。3 枚ずつ、1 日おき(2 日に 1 回)貼り換えます。
・ジュリナ錠:飲み薬です。1 日 3 錠ずつ(1 日 3 回朝昼夕食後に 1 錠ずつ)内服して下さい。
黄体ホルモン剤(胚盤胞の場合胚移植 5 日前、3 日目胚の場合 3 日前、2 日目胚の場合 2 日前から使
用開始します)子宮内膜の状態を着床に適した状態に変えます。また、胚移植後は受精卵(胚)の着
床を助けます。
・ルティナス腟錠:膣に挿入する薬です。1 日 3 回(朝・昼・晩に各 1 個ずつ)使用してください
・ルトラール:飲み薬です。1 日 6 錠ずつ(1 日 3 回朝昼夕食後に 2 錠ずつ)内服して下さい。原則的
に妊娠反応確認後は週 2 回の筋肉注射(プロゲデポー)になります。
アシステットハッチングについて
体外で培養した胚、特に凍結融解した胚において、透明帯硬化(透明帯が硬くなる現象)が起こるとい
われており、胚の孵化(ふか:ハッチング)障害の原因になっていると考えられています。透明帯とは、
卵の殻にあたる部分であり、胚は孵化後、着床可能となります。アシステットハッチング(孵化促進法)
とは、胚の透明帯の一部を切開することで、移植胚の孵化を促し、着床率改善を目的に行なう技術です。
凍結融解胚の全例に施行している施設もありますが、当院においても積極的に施行しております。ただ
し、凍結の時点において既に孵化が始まっている胚には施行しません。
凍結胚の融解・胚移植に伴う危険性・合併症
構成成分の 80%が水分である細胞は凍結することにより物理的・化学的影響を受け、その生存率が低
下します。これを防ぐために凍結保護剤を使用しますが、凍結融解の影響を完全に取り除くことはでき
ず、凍結保護剤そのものの影響も考えられます。凍結融解後の胚の生存率は 95%前後です。しかし最近
では胚移植あたりの妊娠率は新鮮胚移植を上回ると報告されています。内膜の状態が新鮮周期(採卵周
期)よりも自然に近いからであると推定されています。
排卵のタイミングが合わないために胚移植が行えないことがあります。また、解凍した胚の状態が悪
いために胚移植が行なえず、キャンセルとなることがあります。
凍結融解後の胚を用いて妊娠が成立した場合、早流産率や子宮外妊娠の発生率は新鮮胚移植の場合と
同等であると予想されます。また、出生児の染色体異常および先天異常発生率が新鮮胚移植よりも明ら
かに高いとの報告はありません。しかし、児の長期予後、とりわけ次世代以降への影響などについては、
現時点ではわかっていない点があり、今後の報告を待つことになります。
自然流産の発生する確率は 20%前後であり、子宮外妊娠の発生する確率は自然妊娠の数倍であるとい
われています。
多胎妊娠の可能性:多胎妊娠となった場合、切迫流産・切迫早産・妊娠中毒症のため長期の入院管理
が必要となります。また、多胎妊娠では、早産および未熟児の出生する確率が高くなります。
成績
凍結融解胚移植あたり 42%の妊娠率で、約 31%の生産率です(2013 年当院データ)。ただし、年齢に
よっても大きく異なります。ご本人の年齢が成功率と深くかかわっており、30 代前半までの妊娠率 52%、
出産率 44%が期待できる一方、40 歳以上では妊娠率 32%、出産率 16%と厳しい状況です。
他の代替的な治療法
卵巣刺激/排卵誘発、採卵、媒精または顕微授精を行い、新鮮胚を用いて治療することができます。
カウンセリング
ご希望の方には遺伝相談を含め、医師、胚培養士、体外受精コーディネーターによるカウンセリング
を行なっております。また、臨床心理士によるカウンセリングをご希望の場合もお申し出ください。埼
玉医科大学総合医療センターの心理相談室に勤務する日本生殖医療心理カウンセリング学会認定臨床
心理士へ紹介させていただきます。
個人情報の保護
当院では個人情報保護法に基づいて医療情報の管理を行っており、個人情報の保護に厳重な注意を払
っています。体外受精・胚移植法を施行する際にも、個人情報の守秘・プライバシーを尊重します。
なお、医学・医療の向上のために、治療経過(妊娠分娩経過も含め)に関する情報を日本産科婦人科
学会に報告しており、治療成績などの統計結果を学会に発表させていただきますが、匿名性を保ち、個
人情報の保護に努めます。
費用
体外受精・胚移植法(後述の顕微授精、受精卵の凍結、凍結胚の融解)は保険適応ではないため、それ
に関わる診察料、薬剤費、技術料は自己負担となります。治療内容や方法により費用は変動します。特
定不妊治療助成制度:居住している地域により詳細に違いはありますが、体外受精・胚移植法(顕微授
精、受精卵の凍結、凍結胚の融解)を受けた方に対し助成金が支給されます。年収の制限など支給に関
する制限事項もあります。事前に申請が必要な場合もありますので、詳細についてまだご存知でない方
は、居住している地域の自治体にお問い合わせください。
同意の自由
本治療を行なうことに同意いただけましたら、ご署名をお願いします。同意するかどうかは患者さん
方が自由に選ぶ権利があり、同意しなくてもそれによる不利益を被ることは一切ありません。また、同
意書にご署名いただいた後でも、いつでも意見を変えることができます。ご質問がありましたらいつで
もお尋ねください。
倫理
不妊治療を行なうにあたっての医療倫理については、世界医師ジュネーブ宣言、日本産科婦人科学会
の会告にしたがって行います。受精卵(胚)の取り扱いは、生命倫理の基本に基づき、慎重に行ないま
す。また、受精しなかった卵子、正常な発育が見られなかった胚については、法律や行政の定めるとこ
ろに従い、丁重に扱って処遇します。
以下の点につき、あらかじめご了承ください。
#廃棄対象となった胚が他の患者に使用されることはありません。他の人への配偶子提供は行ないま
せん。
#体外受精・胚移植法の実施に際しては、遺伝子操作を行ないません。
凍結胚の融解と胚移植の同意書
ミューズレディスクリニック 院長 殿
このたび私たち夫婦は、すでに同意した不妊症の治療に関連する治療行為の一環として、凍結胚の融
解と胚移植に関し、下記の医師から、別紙説明書に記載された全ての事項について内容説明を受け、そ
の内容を理解し、かつそれに対する十分な質問の機会を得ました。また、実施中に緊急の処置をする必
要が生じたときは適宜処置を受けること、担当医師が治療の継続が困難であると判断した時には直ちに
治療を中止することがあり得ることについても理解しました。以上のもとで、自由な意志に基づき、麻
酔や手術を含め凍結胚の融解と胚移植の治療を受けることを希望し、同意書を提出します。
説明の概要
治療の必要性/適応について
方法
凍結胚の融解・胚移植に伴う危険性・合併症
移植用カテーテルの挿入が困難な場合があること
他の代替的な治療法
カウンセリング
個人情報の保護
倫理
費用
同意の自由
平成 年 月 日
説明者署名 医師署名
凍結受精卵(胚)の融解ならびに移植の治療を受けることに
同意します。
胚移植時、何らかの原因(子宮の周囲との癒着や子宮筋腫、子宮腺筋症など)で、子宮頚部の屈曲が強
く、胚移植用カテーテルの子宮内への挿入が著しく困難なことが、0.2~0.5%くらいあります。その場
合の対処として下記いずれかを選択してください。
TOWAKO*
法(トワコー法)を選択し、当日の移植を希望する
胚を再凍結し**
、次周期以降に計画***
を立て直す
*:TOWAKO 法(経筋層胚移植)
専用の移植針で、子宮筋層を穿刺し、子宮内腔へ移植します。採卵の場合と同様に局所麻酔
(¥5,240)下で行います。感染予防のため、抗生物質の処方(もしくは点滴)があります。
**:一度凍結融解した胚を再凍結融解した場合でも、健児は得られます。但し、妊娠率に関する
報告はありません。胚の再凍結料金は発生しません。
***:①子宮鏡検査を計画することがあります。予め抗生物質などの処方(¥960)があります。
検査当日は保険診療となります。検査当日、抗生物質の点滴をすることもあります。
②次回以降もカテーテルの挿入が困難である事が想像される場合、全身麻酔下での胚移植
をお勧めする場合があります。麻酔手技料(¥32,400)が別途発生します。
平成 年 月 日
住所
患者署名 配偶者署名
新鮮胚移植の同意書
ミューズレディスクリニック 院長 殿
このたび私たち夫婦は、新鮮胚移植に関し、下記の医師から、別紙説明書に記載された全ての事項に
ついて内容説明を受け、その内容を理解し、かつそれに対する十分な質問の機会を得ました。また、実
施中に緊急の処置をする必要が生じたときは適宜処置を受けること、担当医師が治療の継続が困難であ
ると判断した時には直ちに治療を中止することがあり得ることについても理解しました。以上のもとで、
自由な意志に基づき、新鮮胚移植の治療を受けることを希望し、同意書を提出します。
説明の概要
治療の必要性/適応について
方法
新鮮胚移植法に伴う危険性・合併症
移植用カテーテルの挿入が困難な場合があること
他の代替的な治療法
カウンセリング
個人情報の保護
倫理
費用
同意の自由
平成 年 月 日
説明者署名 医師署名
新鮮胚移植を受けることに
同意します。
胚移植時、何らかの原因(子宮の周囲との癒着や子宮筋腫、子宮腺筋症など)で、子宮頚部の屈曲が強
く、胚移植用カテーテルの子宮内への挿入が著しく困難なことが、0.2~0.5%くらいあります。その場
合の対処として下記いずれかを選択してください。
TOWAKO*
法(トワコー法)を選択し、当日の移植を希望する
胚を凍結し、次周期以降に計画**
を立て直す
*:TOWAKO 法(経筋層胚移植)
専用の移植針で、子宮筋層を穿刺し、子宮内腔へ移植します。採卵の場合と同様に局所麻酔
(¥5,240)下で行います。感染予防のため、抗生物質の処方(もしくは点滴)があります。
**:①子宮鏡検査を計画することがあります。予め抗生物質などの処方(¥960)があります。検
査当日は保険診療となります。検査当日、抗生物質の点滴をすることもあります。
②次回以降もカテーテルの挿入が困難である事が想像される場合、全身麻酔下での胚移植を
お勧めする場合があります。麻酔手技料(¥32,400)が別途発生します。
平成 年 月 日
住所
患者署名 配偶者署名