Work-Book
for
Stress Management
1
やわらかい
考え方
で
ストレスコントロール
▶▶▶ひとりでできる認知行動療法の応用
やわらかい
考え方
で
ストレスコントロール
▶▶▶ひとりでできる認知行動療法の応用Work-Book
for
Stress Management
1
監修 髙 清久(国立精神・神経医療研究センター 名誉総長)
定価(本体400円+税) 2010年9月発行 ISBN978-4-939037-37-5 C0011
▶ ▶ ▶2
ストレスと上手に付き合うために
私たちは、日々ストレスに囲まれて暮らしています。ときに、ストレスなんかな くなればいいと思うことがあるかもしれませんが、ストレスは人の暮らしに刺激 や潤いを与えてくれるものでもあります。 なぜなら、人が泣いたり笑ったりするのも実はストレス反応の1つで、ストレス のない暮らしとは、無味乾燥でつまらない暮らしを意味するからです。人が経験 を積み、失敗を繰り返しながら成長していくのも、ストレスがあるからなのです。 ストレスは、よく空気の入った丸い風船にたとえて説明されます。膨らんだ風 船を指で押すと、指が跳ね返されるように、人の心はストレスがかかるとそれを はじき返そうと反応します。その反応が、日々の暮らしにメリハリをつけてくれ るわけです。 ところが、あまりに強い力で風船を押すと、風船は歪んでしまうことがあります。 人の心も同様で、過度のストレスによって健康が害されてしまうことがあります。 意欲がわかない、肩こりがとれない、決まった時間に胃腸の調子がおかしくなる、 よく眠れない……といった症状の原因がストレスであることは、皆さんもご存じ かと思います。 では、強いストレスにさらされ続けたら、どうしたらいいのでしょう。 ストレスが避けられないものだとしたら、そのストレスと上手に付き合うしか ありません。そのためには、ストレスにさらされたら、そのことに気づいて対処 する必要があるということ。それがストレスマネジメントであり、その方法を知っ ているのと知らないのとでは、ストレスに対する強さも違ってきます。 このワークブックは、そうしたストレスマネジメントの実践方法を具体的に紹 介していく冊子として企画されました。 スレトスに対処するには、基本的に次の 3 つの方法が有効だとされています。3◀ ◀ ◀
①ストレスに強い心身をつくる
主に生活習慣(運動・食事・睡眠)を改善することで、ストレスに強い心身をつくっ ていく対処法です。②起こってしまったストレス反応を軽減する
緊張した心身をリラックスさせることで、心身の平静さを保つ対処法です。③ストレスを心理的な側面からコントロールする
普段とは異なる問題解決の方法を考えて実践したり、物事の考え方や受け止め 方を修正したりすることで、ストレスそのものをコントロール対処法です。 本ワークブックは、こうしたストレスマネジメントのなかから、物事の考え方 や受け止め方を修正することで、ストレスをコントロールする方法を取り上げます。 うつ病患者の治療でも有効性が証明されている心理療法、認知行動療法の理論 をベースに、ひとりでもできるストレスのコントロール法として実践されている方 法です。 たとえ、いま困っている問題がなくても、この方法は、自分に自信をつけたり、 前向きに考える習慣をつけたりする方法としても有効ですから、ぜひ、マスター してください。▶ ▶ ▶4
Chapter 1
やわらかい考え方・
カタイ考え方
『失敗』と書いて、
私は『せいちょう』と読むことにしている。
……野村克也
失敗
せいちょう
▶
5◀ ◀ ◀ ■
気持ちや行動は
考え方に影響されている
私たちは、日々の暮らしのなかでさまざまな気持ちを抱きます。 嬉しい、悲しい、怖い、憂うつ、ムカツク、不安、落ち着かない……。 しかし、同じような状況にあっても、すべての人が同じような感情を抱くわけではあ りません。 たとえば、納期まであと1日しかない仕事がまだ完成していないとき。 「まだ納期まであと1日もある」と考えた人は、プレッシャーや不安を感じても、憂 うつになることはないでしょう。 ところが、「もう納期まで1日しかない」と事態を捉えた人は、「どうしようどうしよ う、間に合わないかもしれない」という不安ばかりが大きくなって仕事に手がつかなく なり、憂うつになってしまうかもしれません。 この2人の違いは、納期まで1日しかない状況をどう受け止めたか、どう考えたかに あります。これを心理学では「認知」と呼びますが、図にしてみると、次のようになり ます(図 1)。 つまり、気持ちや行動は物事の受け止め方・考え方(認知)によって形成されると考え られるわけです。これを逆に考えてみると、受け止め方・考え方(認知)を変えれば、気 持ちや行動を切り替えることができるようになる、ということです。 でも、そうした考え方は通常、無意識のうちに頭に浮かんでくるため、自分ではなかな か気がつきません。 では、どうしたらいいかと言えば、意識的に考え方を修正できるようになればいいわけ です。これから学習していくのは、そのための理論と実践テクニックです。ぜひ、そのテ クニックをマスターし、前向きな自分でいられるようになってください。 ▶ ▶ ▶やわらかい考え方・カタイ考え方 状況・物事 (刺激) 受け止め方・ 考え方 (認知) 気持ち・行動⇨
⇨
▶ ▶ ▶図 1▶ ▶ ▶6 ■
否定的な考え方が
不適応を招く
物事の受け止め方、考え方は人によってさまざまです。では、どのような物事の受け 止め方や考え方が問題となるのでしょう。 先ほどの例でいえば、「もう納期まで1日しかない」と考えたことで、不安が大きく なり、何も手につかなくなりました。ということは、不安のようなネガティブな感情を 招く考え方が問題だということです。 実際、不安のようなネガティブな感情が支配的になると、脳の警報装置が働いて、前 向きに考えることができなくなってしまいます。皆さんも、不安がよぎったときに、悪 い結果ばかりが浮かんできて、冷静に考えることができなかったというような経験があ るでしょう。 そんなとき、どんな考えを抱いていたかを振り返ってみてください。 自分にはできっこないと考えたり、誰も私を理解してくれないと思ったり、あるいは この仕事に未来はないと思ってしまうような考えではなかったでしょうか。 それはつまり、物事を悪いほうにとらえてしまう「否定的な考え方」です。 私たちは、イヤな出来事が続いて疲れたり、困ったりすると、自分・周囲・現状/将 来の3つのことに対して、否定的な考え方を抱いてしまいがちです。そして、その否定 的な考え方が、不安や気分の落ち込み、イライラや怒りといったネガティブな感情を引 き起こしてしまうのです。 ではここで、否定的な考え方の 3 つのタイプを整理しておきましょう。 【自分自身に関する否定】 「こんな仕事もできないなんて、なんて私はダメな人間なんだろう」「これくら いで子どもをしかるなんて、私は母親として失格だ」などと、自分の人格を否定 するような考え方。 【周囲に対する否定】 身の回りで起こる出来事や人に対して悲観的になります。「こんなに頑張って いるのに誰も認めてくれない」とか「みんな私のことを無視している」と感じて、 人間関係に支障をきたすこともあります。 【現状・将来に対する否定】 「いまがこれじゃ、この先もずっとダメだ」「なにをやってもうまくいきっこな い」と、将来への希望を無くしたり、自殺したくなるほど、思い詰めたりするこ ともあります。Chapter 1
7◀ ◀ ◀ ▶ ▶ ▶やわらかい考え方・カタイ考え方
体はネガティブな感情に反応して障害を招く
夜、不審な物音が聞こえたら、誰でも緊張するでしょう。このとき、心臓の鼓動 が速まり、血圧が上昇しますが、こうした体の反応は、心が不安な感情を抱いた 結果として起こります。眠気が一気に吹き飛ぶのもそのためで、体は臨戦態勢をとっ ているわけです。 人の体がそのように反応するのは、不安や怒りといったネガティブな感情に体が 即座に反応するほうが生存にとって有効だったからで、動物は進化する過程でこう したシステムを成熟させてきました。 しかし、そのシステムが現代人が置かれている状況にうまく対応しているかとい えば、そうとは言い切れません。会社の将来に対する漠然とした不安や不満を抱 き続けたり、人間関係のトラブルなどを抱えてイライラし続けると、頭痛や突発的 な動悸に襲われる、決まった時間に下痢をする、といった異常が体に現れることが あります。 これは、本来は自衛のための反応が病気という形の反応になってしまった例です。 体は、人が意識するしないにかかわらず、心の動きに敏感に反応しますから、スト レスマネジメントでは、こうした体の反応を理解しておくことも大切です。▶ ▶ ▶8 ■
現状を受け入れられれば、
状況に適応できる
否定的な考え方が問題となるのは、それが現状への不適応をもたらすからです。 たとえば、給与査定で自分が同期の仲間よりも査定額が低かったとしましょう。そこ で、「なんで自分だけ」と思ったところで、何も変わりません。その怒りを周囲にぶつ ければ、あなたは周囲の人から敬遠されるかもしれませんし、不満な気持ちを抱いたま まではその後の仕事にも身が入らないでしょう。そして、現状への不適応がストレスと なっていきます。 こうした状況を変えるためには、まずは現実を受け入れることが求められます。たと え、「私は頑張ったのだから、評価されるべき」と思ったところで、頑なに現実を拒否 し続けていては、何も変わらないのです。 現状を冷静に受け入れられる人なら、査定が低かった理由を考えてみることができる でしょう。交通事故を起こして 2 週間休んだことがあるなら、それが理由かと振り返 ることができます。しかし、その休んだあとで、迷惑をかけた分だけ人一倍頑張ったと いうことであれば、何か別に理由があるかもしれません。 そこで、「あの上司はオレを嫌っている」という思い込みや偏見があっても、現状に 適応することはできないでしょう。「どうせオレなんか……」と自分を必要以上に過小 評価しても、自分が望む結果は得られません。Chapter 1
否定的な考え方 (思い込み、決めつけ) 現状への 不適応⇨
⇨
現状に適応した行動をとるには
・現状を受け入れる
・柔軟に考える
・結論を急がない
⇨
▶ ▶ ▶図 2 ストレス9◀ ◀ ◀ ▶ ▶ ▶やわらかい考え方・カタイ考え方 私たちは、常に現実に起こったことを解釈し、記憶していきます。しかしその記 憶は現実とは異なります。 ところが、この解釈を含んだ記憶や考えを人は現実と混同しがちです。そのため、 否定的な考えを抱くとそれが現実であると思い込み、自分で自分の首を絞めるよ うなことがあるのです。 たとえば、資格試験で失敗したとしましょう。その資格をとると専門職としての キャリアが保障されたとします。一般的には、失敗しても「また次の機会に」と考 えられますが、資格がすべてだと考えてしまった人は、「試験での失敗」=「自分 の否定」ととらえてしまいます。そうなると、将来を悲観し、場合によってはうつ 病になってしまうようなこともあるでしょう。 考えたことは、現実ではありません。しかし、人はときとしてこのことを忘れて しまうのです。