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融合コストマネジメントにおけるメゾスコピックモデル

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(1)

融合コストマネジメントにおけるメゾスコピックモ

デル

著者

長坂 悦敬

雑誌名

商学論究

66

4

ページ

91-107

発行年

2019-03-10

URL

http://hdl.handle.net/10236/00027820

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 はじめに

日本では、 原価計算基準 (1962年公表) にある「制度に基づく原価計算」 に関する理論および手法が、 財務諸表を作成するに当たって真実の原価を正 確に算定表示することを主たる目的として成立、 脈々と継承され、 発展して きた。一方、 企業内部の経営意思決定のために必要に応じて随時実施される 「特殊原価調査」は企業環境の変化に合わせて、 その重要度を増し、 経営管

融合コストマネジメントにおける

メゾスコピックモデル

− 91 − 要 旨 管理会計と隣接領域における各種マネジメント手法とを融合することで 二律背反の要素をもつ実務課題に有効に対応できる可能性がある。一方、 理論・手法をメゾスコピックモデル(中間モデル)として表現し、実装可能 なモジュールとして公開し、試行・実施から評価を収集・分析し、理論・ 手法の修正・再構築を行うという研究方法が注目されている。現代企業に おいてコストマネジメントを有効化するには、伝統的手法のみに依存する のではなく、各種マネジメント手法と組み合わせて企業経営の実践に貢献 できるメゾスコピックモデルの応用が期待されるという問題意識のもと、 融合コストマネジメントにおけるメゾスコピックモデルについて検討、考 察する。

キーワード:コストマネジメント (cost management)、 管理会計 (man-agement accounting)、 メゾスコピックモデル (mesoscopic model)、 融合 (fusion)、 実務課題 (practical problem)

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理のため、 とくに業務計画およびコストマネジメントに役立つための原価計 算への要請がますます強くなっている。 1967年、 通産省産業構造審議会は、 コストマネジメントを「経営管理の一 環として、 企業の安定的発展に必要な原価引き下げの目標を明らかにすると ともに、 その実施のための計画を設定し、 これが実現されるための一切の管 理活動」であるとした。当時、 日本では製造業を中心に品質管理とコストマ ネジメントが展開され、 1979年には Ezra F. Vogel による著書「Japan as Number One : Lessons for America」が出版されるほどに日本企業の躍進が 注目された。 さらに、 1993年、 日本会計研究学会は、 インテグレーテッド・コストマネ ジメントを「環境変化に対して、 新技術の研究・開発から新製品ないしモデ ルチェンジ品の企画、 設計、 製造、 販売促進、 物流、 ユーザの運用、 保守、 処分に至るまでの全プロセスにおいて国際的な視野のもとで、 製品、 ソフト およびサービスの原価管理を企業目的の達成に向けて統合的に遂行すること」 とし、 企業経営への貢献をはかった。 しかし、 バブル崩壊後の1993∼2002年、 いわゆる失われた10年において、 日本企業は大きな体質変革を迫られる。すなわち、 デフレの中、 低価格革命 が起こり、 新しいコスト削減のシステムとは何かを求めることとなり、 コス ト削減の戦略的・戦術的システムの展開が進められた (門田・李・浜田、 1999)。以来、 経営の基本計画策定、 販売価格決定、 予算編成・予算統制、 原価管理、 コストマネジメントにおいて、 原価情報の網羅性・精度・分解性・ リアルタイム性に関する要求レベルが格段にあがってきている。 さらに、 戦略性と管理性を縦軸に、 コントロール性とプランニング性を横 軸に、 戦略的プラニング志向、 戦略的コントロール志向、 管理的プラニング 志向、 管理的コントロール志向という4つの象限でコストマネジメントのフ レームワークを整理する試みが報告される (加登・李、 2001) 等、 コストマ ネジメントに対して、 従来の理論・手法をさらにブラッシュアップ・改良す る取り組み、 そして、 新しい理論、 手法の研究、 提案、 普及が行われてきた

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(例えば、 (伊藤、 2001)、 (小沢、 2011))。 しかし、 これらは研究論文や研究書での報告または簡単な数値例をもとに した解説で提示されるか、 企業事例が紹介されるにとどまることが多く、 新 しい理論、 手法が広く実務へ適用されるために多くの時間を要してきた。一 部の研究者は精力的に実証研究に挑戦しているが、 新しい理論または手法が 普遍的に有効であると証されるまでの成果を得るには労が多い。また、 ジョ ンソンとキャプラン (1988) による『レレバンス・ロスト』での指摘以来、 管理会計分野において企業人・実務家と研究者の距離をどのように縮めてい くか、 努力が続いている。 コストマネジメントの新しい理論や手法を実務に展開するためには、 経験 的研究と実証研究の組み合わせ、 すなわち、 演繹的に仮説を立て、 帰納的に 実証したり、 帰納的に導かれた結論をつかって演繹的に展開するというよう な演繹的・帰納的両方の相補的アプローチが必要である。つまり、 コストマ ネジメントに関する新しい理論や手法等の研究成果をより迅速に網羅的な実 証的研究のステージにのせ、 企業人・実務家と研究者が一体となってレベル アップしていくことができるようなプラットフォームが必要である。 換言すれば、 従来のような理論や手法の概説、 簡単な数値例の紹介にとど まらず、 また、 理論や手法を提案した研究者自らが企業に入り直接的に実証 研究を行うような労の多い方法ではなく、 理論・手法をメゾスコピックモデ ル (中間モデル:mesoscopic model) として表現し、 実装可能なモジュール として公開、 企業、 実務家による試行・実施から評価・コメントを収集・分 析し、 理論・手法の修正・再構築を行うという研究方法の展開も重要である (長坂、 2015)。 また、 現代の企業にコストマネジメントを有効化するには、 原価情報を可 視化する伝統的手法のみに依存するのではなく、 各種マネジメント手法と組 み合わせて企業経営の実践に貢献できるメゾスコピックモデルの応用が望ま れる。既に、 管理会計技法の展開のために、 経営工学の技法を積極的に採り 入れる必要性を説き、 管理会計技法の展開に有用な数種類の技法の利用法を

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示した例 (浜田、 1998) がある。また、 品質コストシステムを TQM の実践 に不可欠なツールと位置づけ、 品質管理と原価管理の融合により品質コスト の手段的特徴の解明を行った例 (伊藤、 1999) や、 企業の環境保全活動に対 して内部管理目的の環境会計の構築・推進の指針を提供している例 (渡邉等、 2001) もある。これらは、「融合コストマネジメント」として捉えることが でき (長坂、 2012)、 管理会計と隣接領域における各種マネジメント手法と を融合することで二律背反の要素をもつ実務課題に有効に対応できる可能性 を示唆している。本研究では、 融合コストマネジメントにおけるメゾスコピッ クモデルについて検討、 考察する。

 管理会計におけるメゾスコピックモデルの意義

物理学等の自然科学分野では、 ミクロスコピック (微視的) とマクロスコ ピック (巨視的) の中間という意味でメゾスコピックと呼ばれる中間モデル を構築する研究手法が、 また、 情報処理分野では、 オープンソースによって 自らの研究成果を広く開示し評価を得る研究手法が用いられている。 例えば、 神経科学における機能レベルの階層性と対応する物理スケールと して、 分子生物学や単一神経細胞の電気整理学に代表されるミクロスコピッ ク (微視的) レベルの神経科学と、 行動学や fMRI (functional magnetic reso-nance imaging) などを用いた脳機能イメージングに代表されるマクロスコ ピック (巨視的) レベルの神経科学がそれぞれ独自に発展した。その隔たり を埋める見地から、 回路レベルや組織レベルでのメゾスコピック (中視的) レベルの神経科学の重要性が注目を集めている (毛内、 2013)。 また、 都市政策を事前に評価検討するために、 都市の自然動態、 社会動態 をシミュレーションする研究では、 マクロモデル、 ミクロモデル、 メゾモデ ルが使われる。マクロ規模 (都市全体)、 メゾ規模 (近接土地)、 ミクロ規模 (個々の世帯) の階層構造を用意し、 どの規模の階層でも機能するエージェ ントを用いたモデル化も行われている (山際・藤井・吉村、 2017) 管理会計分野では文献研究、 理論研究、 手法開発研究、 ケース研究、 実証

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的研究 (経験的研究、 実証研究) などが進められてきた。いわば、 抽象化さ れた理論構築や業界全体の動向を把握して仮説を検証すること (マクロコピッ ク) に重きがおかれ、 また、 特定の企業や特定のプロジェクトを対象とした ケース研究 (ミクロスコピック) によって補間されてきたと考えることがで きる (図表1)。 一方、 メゾスコピックレベルで管理会計の方法論の研究を展開し、 ソリュー ション・モジュールとして展開するというような手法が、 既に一部で実施さ れている。例えば、 2003年には湯浅和夫 ((株)日通総合研究所) らにより、 物流コストマネジメントの中間モデルが開発され、 中小企業庁から「配送 ABC 算定・効率化ソフト」という名称で公開されている。また、 2006年度、 経済産業省から委託を受けた日本能率協会コンサルティングは、「MFCA 簡 易計算ツール」を開発するとともに、「MFCA 導入ガイド」を制作している。 一方、 門田安弘は、 リーン生産を学び、 改善を体験できる 「JIT ゲーム」 を 開発して公開している (門田、 2013)。 メゾスコピックモデルの開発、 運用、 普及についてインターネットを通じ て企業人・実務家と研究者が参加できるプラットフォームが構築されれば、 管理会計メゾスコピックモデルをレベルアップすることが画期的に容易にな り、 かつ加速される。また、 管理会計に関する既存理論・手法を実務に適用 する際の修正点、 改善点などが広範囲に明らかになり、 情報共有されるとと もに、 新理論・手法が創出できる可能性が大きくなるものと考えられる。 これは、 管理会計分野の研究者と実務家・企業との距離を縮め、 原価管理 理論、 手法の発展・普及に大きく寄与できる一助となるものと考えられる。 マクロスコピック ミクロスコピック 特定企業のケース研究 特定プロジェクトのケース研究 抽象化された理論研究 業界全体の動向研究 方法論の研究 ソリューション・モジュール メゾスコピック 図表1 管理会計研究のスケール

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このような視点で、 筆者らは、 各種メゾスコピックモデルを構築した上で、 それらを実装したソリューション・モジュールを開発して、 インターネット を通じて広く開示、 またはパッケージ・ソリューションとして企業から提供 することを目指した研究を試みている (長坂、 2015)、 (今井、 2016)。 これらにより、 実務家や企業、 研究者同士で原価管理手法の理解が進み、 新理論・手法の適用性の検証、 理論・手法の修正、 改善、 追加項目が明らか になり、 新理論・手法の創出と融合モデルへとつながる可能性が高くなると 考えられ、 今後、 管理会計分野でもメゾスコピックモデルの開発研究が進む ことが期待される。

 融合コストマネジメントとメゾスコピックモデル

コストマネジメントのフレームワークの一つとして「融合コストマネジメ ント」が考えられる。品質コストシステムを TQM 等の品質管理と原価管理 の融合による品質コストマネジメント (伊藤、 2016) や環境投資 (源流対策) の拡大により環境負荷が低減し、 維持コストや潜在的維持コストが軽減され るという環境問題と原価管理を融合した環境コストマネジメント (岡、 2010) などが既に報告されている。 ここでは、 図表2のような「融合コストマネジメント」のフレームワーク を検討した。フレームワークだけでは、 実務への実装は進まない、 融合コス トマネジメントの展開、 発展のためにはメゾスコピックモデルの開発、 普及 に関する研究が必要である。 3. 1 製品設計・開発とコストマネジメントの融合 製造業における生産企画は、 ①商品企画に基づいて、 求められる製品仕様 を実現できる生産方法・生産プロセスとその生産規模を検討する (コンカレ ント・エンジニアリング)、 ②顧客が求める仕様を適切なコスト、 納期、 品 質でつくるために、 自社と外注、 購入先を組み合わせてどう作るかの全体企 画を行う (原価企画、 調達企画、 投資回収計画) ③生産規模、 生産体制を明

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確にし、 生産設備、 生産工程、 内外製範囲等の詳細を検討・構想する、 ④必 要な設備、 人員、 標準時間、 製造原価を概略算出し、 目標との調整をとりつ つ、 最適な生産体制を構想する、 ⑤製品の QCDE 評価、 保守サービスの企 画も行なうという手順で進む。製品の企画、 設計段階から、 予めコスト削減 の方策を探り、 コストをつくりこむ原価企画、 調達企画は製品設計・開発と コストマネジメントを融合させる方策である (谷、 1997)。具体的には、 試 作図によって試作品がつくられ、 機能、 性能評価が行われる一方、 生産技術 部門では、 工程設計を行い、 加工費の原価見積を行うとともに、 購買部門で は、 素材や購入品の原価見積を実施する。原価見積にはコスト・テーブルを 用いる。BOM (Bill of Materials、 部品表) 管理、 WBS (Work Break Down Structure、 タスク管理) やコスト情報管理は製品設計・開発とコストマネジ メントを融合に欠かせないツールとなっている。メゾスコピックモデルとし て、 BOM や WBS のみならず、 活動モデルと ABC の組み合わせなどがある (長坂・木佐貫、 2000)、 (長坂、 2003)。 図表2 融合コストマネジメントの概念図 品質工学 マーケティング戦略 ダイバーシティ・マネジメント BPM (プロセス・マネジメント) 環境経営 危機管理 製品開発・設計 コスト・マネジメント

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3. 2 マーケティング戦略とコストマネジメントの融合 マーケティング、 つまり売れる仕組みを考える際のフレームワークとして、 マーケティングの 4P がある。4P とは、 Product (製品・商品)、 Price (価格)、 Promotion (プロモーション)、 Place (流通) の4つを指し、 この4つのP を組み合わせながら (マーケティングミックス)、 企業に最適なマーケティ ング手法を考えていくことになる。とくに Price (価格) 設計は、 売れる仕 組みの重要な要素である。価格破壊の時代に、 価格を半額にする等の巧妙な 価格戦略により業績を拡大した企業が、 その後深刻な業績不振に陥った。こ れに対して、 中高価格帯でのヒット商品開発により客単価を引き上げるとと もに地域別価格を適用し、 増収増益を続けている企業も存在する。消費者の 「価格フォーカス層」だけでなく「バリューフォーカス層」を狙った戦略で ある。また、 値崩れしない「品質フォーカス層」向け商品に絞るという戦略 もある。 マーケティング戦略立案時にプロダクト・ミックスのコスト企画が重要に なる。ハンバーガーショップのセット販売では、 メインメニューのハンバー ガーを低価格に設定しつつ、 原価率の低いポテトやドリンクを組み合わせて 割り引くことで更に割安感を演出している。単品取引ではなく、 一般には複 数の品目の取引があり、 ここではミックス販売で総利益拡大の可能性がある。 これに対して、 制約条件のもとで、 線形計画法による最適プロダクト・ミッ クスを導くメゾスコピックモデルがある (宮崎・茂木、 2007)。 知覚価値とは消費者が製品に対して抱く品質や費用に対する総合的な価値 判断のことであるが、 費用は総顧客費用であり金銭的費用だけでなく心理的 コストなどを含む。例えば、 故障が少なく維持費がそれほどかからない、 電 気代が安い、 廃棄コストがかからない等、 ライフサイクル・コストが低いこ とが伝われば、 知覚価値は向上する。ユニクロは、 企画から生産・販売まで を一貫して行う SPA (Specialty store retailer of Private label Apparel:アパ レル製造小売り企業) のビジネスモデルを展開しているが、 季節ごとにコア 商品 (フリース、 ウルトラライトダウンジャケット、 エアリズム、 ヒートテッ

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クなど) を対象にキャンペーンを実施し、 ブランドで守られた同一品質の商 品を短い一定期間のみの「限定価格」で提供することで購買意欲を高めると いう取り組みを行っている。これも知覚価値を高めることにつながっている。 コスト情報、 価格の開示方法もマーケティングには大きな意味をもつ。商品 の存在や特徴を知らせるプロモーションのために、 チラシ、 ホームページ、 SNS、 DM などにどの程度のコストをかけるか、 また、 販売チャネルを確保 するために 通信販売、 ネット販売、 店舗販売でどのようにコストをかける か、 マーケティング戦略とコストマネジメントの融合は企業の発展には不可 欠である。 3. 3 危機管理、 リスクマネジメントとコストマネジメントの融合 企業に関係した災害に関するリスクが増えている。巨大地震・津波、 台風・ 水害、 パンデミック (pandemic)、 火山爆発、 原発事故、 ネットワーク攻撃、 テロなどに備える必要がある。東日本大震災 (2011年3月)、 熊本地震 (2016年4月)、 北海道胆振東部地震 (2018年9月) は企業活動にも大きな被 害をもたらしたばかりであるが、 東海地震、 南海トラフ地震の予想もあり、 BCP (business continuity plan、 事業継続計画) の構築は必須となっている。

また、 近年は台風発生頻度が上昇し、 ゲリラ豪雨と呼ばれるような予測が 難しく局地的で突発的に襲う豪雨が企業活動にも影響を与えている。実際、 2011年10月タイの記録的な洪水で、 経済損失額は膨らみ、 日系企業の現地生 産への被害も拡大した。ホンダのタイ工場が再開したのは洪水被害から半年 後である。日本でも、 2018年7月に西日本の広範囲を襲った豪雨の死者は 200人を大きく超え、 平成に入って最悪の豪雨災害となった。また、 2018年 9月の台風21号は関西地区に大きな被害をもたらし、 関西国際空港が麻痺す るという惨事となった。 IPCC (気候変動に関する政府間パネル) の第5次評価報告書 (環境省、 地球環境・国際環境協力ホームページ http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/) は、 このまま気温が上昇を続けた場合のリスクを、 次のように示している。

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高潮や沿岸部の洪水、 海面上昇による健康障害や生計崩壊のリスク、 大都市 部への内水氾濫による人々の健康障害や生計崩壊のリスク、 極端な気象現象 によるインフラ機能停止、 熱波による死亡や疾病、 気温上昇や干ばつによる 食料不足や食料安全保障の問題、 水資源不足と農業生産減少、 陸域や淡水の 生態系・生物多様性がもたらす様々なサービス損失、 同じく海域の生態系・ 生物多様性への影響。 地球環境保護を考えて企業経営を進めていくことは企業の義務であり、 環 境マネジメントとコストマネジメントの融合により、 日々の取り組みを強化 していく必要がある。環境と経営を結びつける手段としての会計システム (國部・伊坪・水口、 2012) やマテリアルフローコスト会計 (國部・中嶌、 2018) によって、 環境負荷を低減させるだけでなく、 マテリアルである原材 料や廃棄物の削減を通じてコスト削減も同時に指向する努力がはかられてい る。マテリアルフロータイムコストに関するメゾスコピックモデルを提唱し、 アクション研究を実施している例も報告されている。(今井、 2016)。 一方、 企業が災害や事故などの予期せぬ出来事の発生に対して、 限られた 経営資源で最低限の事業活動を継続、 ないし目標復旧時間以内に再開できる ようにするために、 事前に策定される行動計画、 BCP をもち、 いつでも発 動できる状態にしておくことは、 顧客への供給責任を果たすためにも重要で ある。まず、 ビジネス影響度分析 (BIA : Business Impact Analysis) におい て、 自社の業務プロセスが抱えるリスクと影響 (損害) を洗い出す。さらに、 優先的に復旧すべき業務とそれに必要な設備やシステムを明らかにし、 目標 復旧時間の設定や復旧手順を計画することになる (浅野・吉田・奥田、 2008)。 従来型コストマネジメントは、 在庫レス、 JIT (ジャスト・イン・タイム) への対応、 設備の代替性や余剰能力の削減、 生産拠点の集約化、 サプライヤ および物流の集中化などが推進された。例えば、 SCM において調達先や物 流センターの集中化を誘導した。ボリュームをまとめることによる調達力の 強化、 重複している調達業務の集中化による業務コストの削減ということで 集中購買が進められる。サプライヤが集約されることで1社当たりの発注金

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額が大幅に増え、 売り上げが増えれば、 製品原価に占める固定費の比率が薄 まる可能性がある。 しかし、 非常時でも SCM や IT が寸断されずに供給責任が果たせ、 しか も普段の競争力も確保できる分散型モデル構築が必要な時代になっている。 ここで、 危機管理と品質コスト (予防、 評価、 失敗コスト) 概念を融合する ことが重要になる。 実際、 自動車や電機メーカーは、 東日本大震災前から、 リスク回避のため 1次取引先の複数化を進めていた。そして、 1次、 2次、 3次と進むにつれ て、 すそ野が広がる「ピラミッド型」の調達網を構築していると考えていた が、 高機能部材は供給できる企業が限られたため、 現実には2次取引先以降 は調達先が極端に減る「ダイヤモンド型」になっていたということが東日本 大震災で露呈された。いくら1次、 2次の段階でリスク分散を図ろうとして も、 ダイヤモンドの先端にある製品・ラインがストップすれば、 システム全 体に危機が伝播することになる (藤原、 2011)。 3. 4 品質工学とコストマネジメントの融合 品質工学アプローチのひとつである VE (Value Engineering) は、 フィー ドフォワード・コントロールに貢献し、 IE (Industrial Engineering) や QC (Quality Control) のフィードバック・コントロールとの組み合わせで効果 を発揮する。また、 品質工学の中で注目されているタグチメソッドでは、 損 失関数を用いて品質問題がコストに与える影響を定量的に把握しようとして いる (立林、 2009、 p. 43)。Cooper (1996) は、 日本企業のコストマネジメ ントにおけるフィードフォワード技法として原価企画、 価値工学、 組織間原 価管理を、 フィードバック技法として製品原価計算、 オペレーショナル・コ ントロール、 原価改善をあげている (丸田、 2005、 p. 57)。 開発、 設計でのコストマネジメントの戦略的志向では、 品質コストの概念 が重要である。品質コストの収集および分類には一般に PAF アプローチが 用いられる (小田、 2001)。これによれば、 品質コストは予防コスト、 評価

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コスト、 内部失敗コスト、 外部失敗コストの各コストに区分され認識される。 すなわち、 PAF アプローチは一種の投資である予防コストと評価コストを 算定し、 その結果として発生する失敗コストを測定して、 品質と原価を管理 しようとするものであり、 トレードオフの関係にある「予防コスト+評価コ スト」と「失敗コスト」の和を最小にする経済的に最適な品質の原価を見極 めることが必要である。また、 当初から高品質の生産を実現して顧客満足度 を確保するという戦略をとる場合においても、 経済的最適品質水準をもとに どのレベルまで品質コストを費やすのかについて把握した上で最終的な製品 目標原価の設定を行う必要がある。経済的最適品質水準を引き上げるために は予防コストと評価コストを引き下げることが効果的である。品質工学によ り、 事前対策を実施すればするほど製品品質が向上し顧客満足度の確保につ ながるということである。逆に、 失敗コストの低減、 すなわち製造後に不良 が出たときに即座に低コストで対処できるようにすればするほど経済的最適 品質水準は下がる。品質コストが同じレベルでも、 その内訳として予防コス トと評価コストが低いと品質水準が高くなることを再認識できる。ライフサ イクル・コストを考慮して、 開発、 設計段階で品質コストを最適化すること が望まれる。 製造業の実務にそのまま適用可能で効果を発揮できる方法の開発と提案を 目指し、 品質工学で発展している工程シミュレーションを有効に活用し、 生 産コストのフィードフォワード・コントロールを実現するメゾスコピックモ デルおよびツールを開発した例がある (長坂、 2012)。 3.5 BPM とコストマネジメントの融合 プロセスの「見える化」から内部統制に貢献し、 PDCA スパイラルアップ によって業務改善を可能にする BPM (ビジネス・プロセス・マネジメント) とコストマネジメントの融合も重要である。 過去の企業事例において、 一部経営陣による財務不正やコンプライアンス 違反が、 コスト改善やブランド形成に取り組む真摯な従業員努力を一蹴して

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しまう事態が散見される。外部情報やコスト、 予算、 プロセス情報は共に可 視化され、 知恵と工夫により正当に改善された事実を現場および経理・財務 部門、 経営陣で常に共有されるべきである。 内部統制は組織の業務の適正を確保するための体制を構築していく制度で あり、 組織がその目的を有効・効率的かつ適正に達成するために、 その組織 の内部において適用されるルールや業務プロセスを整備し運用されなければ ならない。一方、「内部統制」を進めることでかえって管理コストの増大を 招くという懸念がある。 BPM とは、 従来の企業内外の壁を乗り越え、 情報や資源を共有し、 業務 をくくって連結・結合させて、 その流れをプロセスとして捉え、 プロセス業 績を体系的に管理しようとするものである (李他、 2009)。BPM によって、 プロセスを可視化し、 内部統制を実現できるとともに、 コスト削減も可能に なる。すなわち、 次のようなプロセス・ロスを BPM により取り除く (李他、 2014)。 滞留ロス:需要と生産、 使用と調達の間の情報障害により発生するロス 効率ロス:業務や工程内・間の管理不在から生じる管理障害により発生す るロス 組織ロス:複雑な意思決定構造から生じる構造障害により発生するロス BPM ソリューションとして、 様々なアプリケーションが市販されている。 これらのツールは、 メゾスコピックモデルを搭載している。それらのモデル を自社に適合するように活用していくことが推奨される。例えば、 IT イン フラからランタイム・データを取得し、 その測定値をスループット時間、 納 期順守率、 プロセス・コストなどといったプロセス・レベルの KPI と照ら し合わせることによって定量分析を実行できるモデルがある。また、 ビジネ ス・プロセスをオブジェクトとして自動でモデル化し、 各モデルで扱われて いるデータの流れなどを視覚的に示すことによって、 プロセス上に無駄がな いかどうかを定量的に分析することができるモデルもある。 BPM は 、 ① 現 状 の プ ロ セ ス の 可 視 化 (As is プ ロ セ ス の 記 述 ) 、 ②

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Abduction approach による To be プロセスの設計 (仮説の検証)、 ③KPI の 計測 (実務でのプロセス品質、 コスト等の計測)、 ④因果関係分析から問題 の発見、 プロセスの改善、 というような進め方になる (長坂、 2015)。 ドイツでは、 共通費のみをプロセス原価として扱い、 個別費とプロセス原 価を合わせて製品原価を計算している例がある (、 1998)。共通費は、 部 分プロセスごとにコスト・ドライバーを設定し、 部分プロセス・コストを計 算した後に、 主要プロセスに集約する。これは、 活動基準原価計算と同じく、 共通費の配賦をより正確に行うことを目的として使い始められた (尾畑、 1992)。 BPM では、 プロセスごとにインプットとアウトプットを計測し、 さらに は、 プロセス内での活動にも目を向けることができ、 メゾスコピックモデル による適用研究も進んでいる (李・長坂・松本、 2014)。 3.6 ダイバーシティ・マネジメントとコストマネジメントの融合 ダイバーシティ・マネジメントとコストマネジメントの融合が重要である。 すなわち、 競争優位性を求めて労務費カットを繰り返していく中、 格差問題 や職業観の変化、 仕事のストレス (心の病などの問題) が起こっている。仕 事観、 文化や価値観の多様性を大切にするコストマネジメントが大切になっ ている。 2018年6月29日、 参院本議会で「働き方改革関連法案」(正式名称:働き 方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案) が可決・成立した。 これは、「働き方改革の総合的かつ継続的な推進」、「長時間労働の是正と多 様で柔軟な働き方の実現等」、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」 の3つを柱としている。やりがいや充実感を持ちながら働き、 仕事上の責任 を果たすとともに、 家庭や地域生活などにおいても、 子育て期、 中高年期と いった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できることを指す 「ワーク・ライフ・バランス」が必須となる時代におけるコストマネジメン トを考えていかなければならない (石川、 2018)

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また、 ダイバーシティは人種、 国籍、 宗教、 障害、 性別、 性的指向、 年齢 などのほか、 個人や集団の間で違いを生み出す可能性のあるあらゆる要素を 考慮しているもので、 ダイバーシティ・マネジメントでは、 あらかじめ決め られた手続きや数値目標ではなく、 実際の取り組みのプロセスで問題点や解 決策が見つけ出されるといった、 長期的な観点が重視されている。 社 内 公 用 語 を 英 語 と す る 方 針 が 打 ち 出 さ れ て い る 企 業 が あ る 。 楽 天 (Rakuten) もその一つである。その理由は、 海外展開を目指しているため で、 同社広報は、 競争の激しい業界で生き残るために必要な取り組みだと語 る。日本人には勤勉さや美徳があるが、 英語公用語化で日本の良さが失われ ることはないかという質問に対して、 英語でコミュニケーションを図れるよ うになることで、 日本の労働文化を他国に輸出できると考えていると答えて いる (2012年6月29日 楽天三木谷浩史社長談)。 HRM (人的資源管理) において、 一般に、 従業員教育・研修投資は長期 的な企業価値向上と関連が大きいし、 業績連動の報酬付与は短期的な収益・ 利益の向上との関連が大きいといわれる (内山、 2011)。ここにどのように ダイバーシティ・マネジメントを組み入れるか、 グローバル企業にとって重 要なテーマであり、 HRM でのメゾスコピックモデルの開発も必要である。

 おわりに

グローバル、 不確実性の時代である。どこにコストをかけ、 何を生み出し、 市場にどのような価値を届け、 社会に貢献するのかを再確認する必要がある。 そして、 製品開発・設計や品質工学との融合も含め、 品質、 リスク、 人、 文 化、 地球を考慮した戦略的な「融合コストマネジメント」の実施が重要にな る。 また、「融合コストマネジメント」の展開のためには、 メゾスコピック (中間モデル) の構築が有効である。今後、 メゾスコピックモデルの開発、 クラウド・IT ソリューションへの実装などの産学共同研究が活性化するこ とも期待される。

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(筆者は甲南大学経営学部教授)

参考文献

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