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ロースクールにおける実務家教員の役割と責任

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Academic year: 2021

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(1)ロースクールにおける実務家教員の役割と責任*. 川島 清嘉 第1 はじめに 今日は、私のために「退職記念講演会」という特別な機会を設けていただい たうえに、多くの同僚の教員方、また、学生諸君にご出席をいただき大変あり がとうございます。.  私は、大学の「しきたり」というのを良く知らないで、「大学を辞めるにつ いてこ実務家教員として何か話しをしてはどうか」という柳赫秀教授のお誘い を「はい。はい」と気軽にお引き受けしたのですが、今月号の「YNU」通信で・. 今年本学を定年退官される久留島隆教授をはじめとして、20年、30年と、長 年にわたって本学に大きな貢献をされていた教授方と一緒に紹介をされている のを見て、何だか大変なことになったと恐縮をしている次第です。.  私の父親は、私と同様に弁護士をしていて25年前に亡くなりましたがN親 父からは、「清嘉、弁護士というのはお座敷がかかるうちが花だ。お座敷がか 卓本稿は、平成21年2月18日に行われた川島清嘉先生の退職記念講演の記録である・本法 科大学院に多大な貢献をされた川島先生の貴重なご経験はじめ、法科大学院教育に対する分 析とあるべき姿が明快に語られており、鷲務家教員のみならず、法科大学院に関係する者す べてにとって大いに参考になる内容となっている。本誌掲載を快諾してくださった川島先生 には厚く御礼申し上げますe                    (編集委貝会) 1.

(2) 横浜掴際経済法学第ls巻第1号く2eo9 lf 9月) ・. かったら断ってはいかん」と言われておりましたので、今日、このような形で 話しをすることをお許しいただきたいと思います。. 今日のテーマはロロースクールにお}ナる実務家教員の役割と責倒という ことですが、堅苦しいことは苦手としておりますので、私が横浜国大ロー−7.. クールの実務家教員として在籍した5年欝に経験したことと・横浜国大にロー スクールが設置されるまでの横浜弁護士会との関係について、若干の感想を述 べさせていただくことにします。. 第2 横浜国大ロースクール設置までの横浜弁護±会との関係.  1実務家教員になった端緒  私が横浜国大ロースクールの教員になった端緒は、今から振り返ってみると、. 平成12年の秋に、当時、横浜弁護士会の会長をしていた永井嘉朗弁護士から 私の事務所に電話があり、「ロ 一・スクi−一一・ル設置について横浜弁護士会と協議を. したいという串入れが横浜国大からあった。川農さんがロースクール制度に反. 対していることは知っているけど、参加する気持ちはあるの」と言われ、「弁 護士はお座敷がかかったら断ってはいかん」という親父の遺言もあって、横浜 国大と横浜弁護士会とのロースクール設置に向けた協議に参加したことにあり ます。.  お手元のレジメに、横浜国大ロースクー一一一ル設置までの横浜国大と横浜弁護士. 会との関係を時系列に纏めてみましたが、横浜国大ロースクールができるまで. に約3年半、できてから5年、合計で約8年半、横浜国大とお付き合いをいた だいたことになります。横浜国大n一スクール設立準擁の中心メンバーであっ た円谷峻教授が一昨年退官され、また、責任者としてご苦労をされた来生新教 授や森川俊孝教授、野村秀敏教授が今年3月に退官されることになり、当時の 様子を知る教員が段々と少なくなってきましたので、横浜国大ロースクール設 立までの経緯について少し説明をさせていただきます。 2.

(3) U一スクールにおける実務家教貝の役割と責任.  2 横浜国大と横浜弁護士会との協議  横浜国大ロースクール設置までの出来事で印象に残っていることは、横浜国. 大ロースクールのカリキュラム案の作成にあたって、横浜国大と横浜弁誰士会 との間で、真剣に議論を戦わせたことです。当時、横浜弁護士会ロースクール. 委員会(当時の正式名称は法科大学院検討特別委員会)の委員長は山下光弁護 士でした。山下弁護士は実に親分肌の方で、「責任は俺がとるから、君たちは、. 自分たちが正しいと思うことをやれ」という姿勢でしたので、横浜弁護士会で は、若手の弁護士を集め、これまでの大学法学部の授業の問題点についてのヒ アリングも実施しました。.  当時、法曹養成過程における司法試験予備校の弊害が強く指摘されていて、 予備校教育の弊害を排除するというのが、ロースクール制度創設の大きな理由 になっていたのですが、若手弁護士からは、「大学こそ予備校の教育方法を見. 習うべきである」という意見が相当に強く、弁謹士会は・そのような意見も率 直に横浜国大にお伝えしました。その趣旨は・「大学法学部の授業では・一っ の事柄について一回しか教えてくれない。ロースクールでは、予備校を見習い、 『初級、中級、上級』というように、同じ事柄について螺旋階段を上るように、. レベルに応じ段階的に学習できるような教育手法を取り入れて欲しい」とい うもので、この考え方を、当時、カリキュラム作成の責任者をされていた田中 利幸教授にお伝えしてご賛同をいただき、横浜国大ロースクールにおけるカリ キュラムの基本方針に採用していただいたと記憶しております。現在の刑事系. 科目に「刑事法の基礎」という授業があり、田中教授ご自身がこの科目を担当 されていますが、「刑事法の基礎」は、このような横浜弁護士会との協議によっ て生まれた科目といえます。.  このほかにも、横浜弁護士会ロースクール委員会の中心メンバーであった 若手弁誰士からは、横浜弁護士会が中心となって・神奈川県内の3つのロース クールで使用する「共通の教材・共通の教科書」を作成しようという意見が出 て、私もこのアイデアを評価して横浜国大との協議会に提案したことがありま.                                   3.

(4) 横浜国際経済法学第18巻第1号(2009年9月). した。ところが、これに対しては、横浜国大の中心メンバーであった教授から、. 「教材は教員の命である。弁護士会は教育の何たるかを全く理解していない」 という厳しいお叱りの言葉をいただき、そのお怒りが二次会でも収まらなかっ たという記憶があります。.  3 横浜国大と横浜弁護士会との信頼関係の構築  このように横浜国大と横浜弁護士会との悶には若干の点で意見の相違はあ りましたが、「苦労や犠牲を払って新しいロースクールをつくるのであるから、. 大学と弁護士会が協力して理想のロースクールを設立したい」という共通の理 解と目標がありました。この共通の目標に向けて互いに本音を相手にぶつけ合 い「喧嘩」を繰り返すことによって、横浜国大と横浜弁護士会め間の信頼関係 が深まってきたという感じがします。.  横浜国大は、このようなロースクール設置に向けた横浜弁護士会との協議と. 並行して、平成13年ユ月には横浜ランドマークタワーでシンポジウムを開催 し、その年の秋には横浜弁護士会の弁護士がロースクールでの授業を意識した 「法律実務講座」(実験講座)を実施するなど地道にコツコツと準備を進めてき. ました。これらのイベントについては、末尾の「時系列」に記載しましたので ご覧ください。.  4危機(?)を乗り越えてロースクール設置  このように横浜国大と横浜弁護士会とはロースクール設置に向けて着々と準 備を進めていたのですが、横浜国大に本当にU−一スクールができるのかどうか. について確信が持てない期間が長い間続いていました。一時期、「国立大学で ロースクールが設置できるのは、旧帝大系を除けば数校であろう。法学部を持 たない横浜国大がこの中に割り込むのは不可能である」というような噂が出た こともありました。後に本学の実務家教員になった頭の回転が極めて早い弁護 士から、「川島さん。無駄なことをやってもしょうがないから、横浜国大にロー 4.

(5) ロースクールにおける実務家教員の役割と責任. スクールができるかどうか、早いところ確かめてみようよ」と急かされて、当 時文科省にいた知人に確かめたことがあります。その結果は「横浜国大にも可 能性がある」という話しで、どこの大学にも「可能性はある」のですが、当時 は「藁をも掴む」心境でしたので、このような言葉で安心してロースクール設 立のための準備を続けたという、今思えば懐かしい記憶もあります。  ここまでが、横浜弁護士会の一弁護士という立場からの横浜国大ロースクー ル設置までの経緯です。当時、ロースクール設置に向けて、文科省や横浜国大 全学との折衝を担当されていた森川教授、池田龍彦教授、田中教授、円谷教授、. 来生教授をはじめとして、横浜国大の研究者教員の諸先生方のご苦労は大変な ものであったと推察いたします。. 第3実務家教員としての経験  1 実務家教員の人選  このような経緯で平成16年4月に横浜国大ロースクールがスタートしたわ けですが、横浜国大ロースクールにとって非常に幸運だったのは、横浜弁護士. 会から徳江義典弁誰士、杉原光昭弁護士、そして現在司法研修所の刑事弁護教 官をしている大木孝弁護士の3名を実務i家専任教員として迎えることができた. ことです。この3名は、それぞれ性格が全く異なり、何れも個性が大変強く研 究者教員の先生方と時折衝突することもありましたが、横浜弁護士会の最強メ ンバーを揃えることができたと思います。.  横浜弁護士会からは3名の専任教員に加えて、農開先端科目である実務高齢 者・障害者問題に輿石莱雄弁護士、実務消費者法に武井共夫弁護士、実務ジェ ンダーと法に三木恵美子弁護士、実務破産管財業務に若田順弁護士、医療過誤. に折本和司弁護士、実務少年法に関守麻紀子弁護士の6名が非常勤講師として 参加することになりました。いずれの弁護士も、横浜弁護士会のその分野での 第一人者であり、このようにして横浜国大ロースクールでの実務教育を担う陣                                   5.

(6) 繊浜国際経済法学第18巻第1・号(200≦}年9薄). 容が整ったことにな1)ます。.  2私が実務家専托教貫を弓iき受けた勤機  私が横浜璽大の実務家教員を引き受けた郵機は3つありますe一つ§は、カ リキュラムや教材作成等で載浜撰大ロースクール設立の準備に関係したので、 せっかく準嶺‖作業をしたのだから、実塗のロースクールがどんなものになる. のかを実地に体験してみたいと考えたことです。二つ屋は、平繊7年から平成. 1e年まで司法憂修所の民事弁護教官をしていて、若い修習生と一緒に勉強を したり飲んだ{?したことが非常に楽しかったので、ロースタールで学生と一緒. に勉強をすることによって、再びこのような楽しい経験ができると期待Lてい たことです。そして、最後の三つ日が、横浜睡大ロースクールには非常に擾秀 な概究者教員が揃っているので、その研究者教員の先生方から学撰的なところ を吸収したいと考えたことにあります。    [.  3 頚究者教員と実務家教員との共翼授業.  摺商法演醤  私が繊浜国大ロ7スクー1レで担当した授業で特に印象が深いのは、「商法演 習」『罠事法総合演欝廻の2つの授業です。それぞれ、理由が異なるのですが、 藩法演習は、今年遷官される久留島隆教授と大澤康孝教授のお二真の先生方と 共同で授業を担当させていただきましたe.  もう辞めるoで正直なことを申し上げますが、私は横浜撞大に来るまで、会 社法とか蕎法の条文が閥題になる事件を殆ど担当したことがなく、全くの素人 でした。民事事件の実務家教員としては、杉捷弁護士と私の二人がいて、どち らカ;一入が蔀法藁習を蘂当しな{ナれぱならないことになったのですが、杉原弁. 護士が運法は遼慮したい」と言われたので、私がこの授業を担当することに なeたh, esです。また、会縫法の知識を杜入れれぱ、会縫麗係の大きな事件が. 来て、事務所の縫欝にも役立つのではないかという不純な動機もありました。 6.

(7) ロースクールにおける実務家教貝の役割と責任. そして実際に、同族会社の相続に絡む結構大きな事件の依頼などもあって、以. 前であれば専門外ということで断っていたような事件についても、「それは私 の専門だ。任せておけ」という強気の発言ができるようになり、事務所の経営 にも貢献をすることになりました。それはともかく、最初は商法の知識が全く. ないわけです。ロースクールが始まった平成16年度は3年生が不在で、しか も前期には授業がなかったので、久留島教授と大澤教授にお願いをして、会社. 法や商法総則・手形小切手の授業に、その年に入学した1期既修の学生と一緒 に出席し、商法の勉強をして後期の商法演習の授業に備えましたe.  また、依頼者に了解をもらって現在進行形の事件を商法演習の事例問題に出 題し、「いいアイデアを出せ。それで裁判に勝ったら、いくらでもうまいもの をごちそうする」と言って、学生に餌をまくなどの工作をしました。1学年50 名もいると、ひらめきのいい学生がいて、結構いいアイデアが出てきたので、. 実際の訴訟に活用したこともありました。残念ながら、この事件は一審で敗訴 しましたが、今年4月に高裁判決があるので、大いに期待しているところであ ります。実際に会社関係の事件をやっていて、身近に久留島教授、大澤教授と. いう大学者の研究者教員がいると、弁護士として非常に心強く、両先生の知識 を実務で大いに活用させていただきました。ありがとうございます。.  (2)民事法総合演習H  次に、民事法総合演習llの授業ですが、民法の研究者教員である奥山恭子教 授、高橋寿一教授、角田美穂子准教授と共同で授業を担当しました。高橋教授、. 角田准教授が在外研究等でお留守のときには、今村与一教授と渡邊拓准教授に も参加していただきましたので、横浜国大の民法の先生方とは大御所である円. 谷教授を除いて、全員と一緒に授業を担当させていただいたことになります。 この民事法総合演ew llには、実務家の非常勤講師として、大学の同窓生で裁判. 官の経験もある池田陽子弁護士にも参加していただきました。.  民事法総合演習nは、ロースクールにおける民事系科目の総仕上げの授業な ので、私が担当した事件の中でも最も難しく骨のある事件を授業の教材や試験.                                  7.

(8) 枇i兵匡1際経済言il…学第18巻第1号(2009套三gj「1). 問題にしました。民事法総合演習1の授業方法については角田准教授と共同で 他の雑誌に発表しました(「法科大学院における授業方法の研究」平成19年3 月『ロースクール禰究』5号88頁∼98頁)ので、詳しいことは省略しますが、 ここでの教材の作成や授業の準備のために研究者教員の先生方と色々な議論を したことが非常に楽しく、かつ貴重な勉強になりました。.  会社法とは異なり、民法は私が弁護士として日常の事件処理をするに当たっ. て常に検討している問題なので、事前に円谷教授の講義に出席して初歩から学. ぶという必要はありませんでしたが、私が大学で民法を学んだのは今から30 年以上前の昭和50年ころ、「我妻民法」全盛のころでしたので、横浜国大では、. その3G年後の新しい民法学の知識を仕入れることができました。民法につい ては、司法研修所の教官をしていた当時、同僚の弁護教官や裁判官教官と大い に議論を交わしましたが、研修所の教官は私と同世代か少し上の期の人達なの. で、「我妻民法」がバイブルであって、民法学の新しい発展について学ぶ機会 はあまりありませんでした。細かい法律の話しになって恐縮ですが、例えば、 民法415条の債務不履行責任による損害賠償責任について、石刑i多所の要件事実. では「債務者の無過失」が抗弁になります。これは、民法415条の「債務者の 責めに帰すべき事由」を「債務者の故意又は過失」と理解していることにより ます。学生の前で債務不履行責任について議論をしているときに、研究者教員. である渡避准教授が「債務を履行しないこと自体が民法415条の帰責事由であ る」と発言するのを聞いて、私は驚いたことがあります。一瞬、この教員は債 務不履行の事実と帰責事由の区別も知らないのかと耳を疑いましたが、渡邉准 教授の話しを良く聞いてみると、最近の新しい学説では、そのような見解が主 流であって、現在進行中の学者による「債権法の改正」の提案でも、そのよう. な方向での取り纏めがされていることが分かりました。渡避准教授からは、そ の後も、例えば蝦疵担保についての議論などで、「jll島先生の考えは古い。古. いのが悪いというわけじゃないですけどね」とよくからかわれましたが、その お陰で琵法学の30年聞の発展を肌で感じることができました。 8.

(9) ロースクー一ルにおける実務家教貝の役割と責任.  4 理論と実務の架橋  私が横浜国大の実務家教員として幸運だったのは、研究者教員の先生方と 一緒に授業を担当することで研究者教員から色々なことを勉強させてもらい、 その成果の一部を学生に伝えて教育内容に反映させることができたことです。 ロースクールの理念の一つとして、「理論と実務の架橋」というキャッチフレー ズがありますが、商法演習や民事法総合演習 llの授業では、ここのところの実 践が少しはできたような気がしています。.  「理論と実務の架橋」という言葉は、実はくせ者でして、実務も「理論の裏 付けのある実務」が本来の姿であり、「理論の裏付けのない実務」はヤプ医者 の対処療法のようなもので、たまたま良い結果が出たとしても・それは偶然の 結果であって決して実務のあるべき姿とはいえません。他方「理論」にしても・. 法律学の理論ですから、その理論は実際の実務に適用できて、紛争の適正な解 決に資するものでなければ本当の理論とはいえないものと思います。理論と実 務との関係は、別々のものを「橋」で繋ぐというような性格のものではなく・ 本来は一体不可分なものと思います。.   また、研究者教員の特徴は理論のレベルが非常に深いところにあります。他 方、私たち実務家教員は理論のレベルは浅いが・比較的広範な範囲の法律につ いての知識があり、実例を数多く知っているところに長所があります。ロース 、クール教育の目的は、「研究者教員に習った法律の理論を、実際の事例に適用  し、理論を実際にどのように活用するのかを実例をもって学生に体験させるこ  と。理論を単なる知識としてではなく、問題解決の『道具』として利用できる. 力を学生に身につけさせること」にあると考えます。ロースクールの実務家教 員は、研究者教員との協働作業によって、この教育目的を果たすべき責任があ  ると思います。.   研究者教員は、理論のレベルが非常に深く、また・その深いところに研究者.  としての主たる関心があるので、ロースクールの授業でも、深いところの議論  だけを学生に説明をする傾向があるように感じます。このため、一般の学生は                                    9.

(10) 横浜国際経済法学第18巷第1号(2009年9月). 研究者教員の深いところの議論の本質を理解することができず、授業について いけなくなってしまうことがあります。そこで、実務家教員の役割として、理 論の全体像を学生に示した上で、外国語の通訳のように、研究者の深いところ. の議論が、実際の事件を解決していく上で、どのように役立つのかを実例に基 づき具体的に説明することが可能と思います。実務家教員の理論レベルは、学 生より少し高いところにあるはずなので、実務家教員は、学者の深いレベルの. 理論を学生が理解可能な形にして提示することができると思います。研究者教 員と実務家教員とが、このような視点で協力して授業を行えば、ローろクール の授業は、理論的にも深く、また、実践的な教育にすることができるはずです。. もちろん、このような授業を実践するためには、研究者教員と実務家教員の周 到な準備が不可欠になります。  また、実務家教員は、単に「実務はこうだ」ということを提示するのではなく、. そのような実務が実際に行われているとすれば、そこには何か理由があるはず なので、その理由を研究者教員と一緒に探究して学生に理解させる。研究者教 員においても、「実務が常に正しい」とは限らないし、ましてや、実務家教員 がいう「実務」が本当に正しい実務かどうかは怪しいところがあるので、実務 家教員の考えに誤りがあれば、とことん追及してもらう。実務家教員とIVi究者. 教員との「異文化の衝突」によってお互いの理解が深まれば、それによって学 生にとっても良い授業ができるのではないかと考えます。.  そういう観点から振り返ると、横浜国大の研究者教員は、「おとなしい」と いうか、実務家教員に「遠慮のしすぎ」のような気がします。教材の作成にせ よ、授業準備のための議論にせよ、せっかく隣に実務家教員がいるのですから、. 実務家教員の理解に誤りがあったり、30年前の古い理論を持ち出すようなこ とがあれば、実務家教員を徹底的に追及して困らせ、実務家教員を一人前の教. 員に教育して欲しいと思います。私達は、横浜国大から相応の給料をいただい ているのですから、遠慮をしないで実務家教員をもっと利用していただきたい と思います。 10.

(11) ロースクールにおける実務家教貝の役割と責任. 研究者教員と実務家教員との共同授業といっても、お互いが担当する分野を. 棲み分けてしまうような授業では、同じ教室に複数の教員が存在する意味が殆 どありません。研究者教員と実務家教員は、相手方の領地に侵入し、そこで衝 突をして、その結果を学生に伝えるような授業が望ましいと考えます。. 第4 学生と実務家教員との関係  1実務家教員に対する学生の期待値と実務家教員の責任  これまでは研究者教員との関係で実務家教員の役割について説明をいたしま したが、ロースクールの主役は何と言っても学生ですので、学生と実務家教員 との関係について私の考えるところを披露させていただきます・  ロースクールの学生は、司法試験に受かって実務家になることが目標なので、. 実務家教員は、それが大昔のことであったとしても、司法試験に合格している ということだけで学生から尊敬されます。「学生に同じことを言っても、実務. 家教員が言うのと研究者教員が言うのでは全く学生の反応が違う」と研究者教 員の方から何度か指摘を受けたことがあります。そういう意昧で・ロースクー ルの実務家教員は大変恵まれた立場にあります。ちなみに、法廷に行くと壇上. の裁判官の横に修習生が座っていることがありますが・司法修習生にとって裁 判官は神様みたいな存在のようです。弁護士は・依頼者を抱えていますので・ ときには自分自身の考えとは異なる多少無理な主張を準備書面に書いたり・イ衣. 頼者向けの尋問をしたりすることがありますが、そのときの修習生の弁護士に 対する視線には非常に冷たいものを感じますe.  このようにロースクールの学生の実務家教員に対する期待値は非常に高いの ですから、当然のことながら、実務家教員もこの学生の期待を裏切ってはいけ ないということになります。横浜国大ロースクールに入学してくる学生は、基 本的に知能指数が高いので、教員が真剣に授業に取り組んでいるかどうかは、 学生には直ぐに分かってしまいます。したがって、授業の準備に手を抜くこと                                   11.

(12) 横浜匡1際鵜…滴法学第18巻第1号 (2009年9月). はできません。.  授業の準備に関しては手痛い失敗をした経験があります。それは、昨年10 月の民事実務演習の初回の授業のことでした。2年生柏手の民事実務演習は初 めて担当する科目でしたが、ロースクールの教員経験も既に5年になり、この 授業で取りあげた課題は、以前に民事法総合演習 llの授業で学生に教えた教材. を再利用したものでしたので、過去に作成した授業用のレジメを数回読むだけ. で授業に臨みました。ところが、法人代表者の代理権の濫用と定款による代表 権の制限の説明で最初から混乱をし、学生の質問に立ち往生する失態を演じま した。何故、このような失敗をしたかというと、以箭、この教材を扱った民事. 法総合演習紅の授業では、ここのところの説明は、研究者教員である角田准教 授に解説をお願いしていて、私自身の頭の中ではきちっとした整理がされてい なかったからです。民事実務演習は実務家教員である私一人が担当する授業で したので、いざ、私が説明をしようとしたところ、十分な理解ができておらず 混乱が生じてしまったわけです。教員が理解していないことを学生に教えよう としても失敗するのは当然です。それでは授業で失敗したらどうするかですが、. その場で取り繕うようなことはせずに、学生に素直に謝ってその後に十分な説 明をし直すことだと思います。実務では一度失敗したら終わりということもあ りますが、教育の現場ではそういうことは少ないと思います。この授業のとき には、後日、レジメを作成して学生に配布しましたが、心優しい学生の中には「授. 業のフォローをしてくれた」という者もいて、教員に対する信頼の失墜をかろ うじて回避できたものと信じています。.  他に授業で心がけていたことは、学生には何が原則で何が例外かをはっきり 区別して伝えることでした。法律の初学者は原則と例外の区別がつかないこと が多いので、まずは原則をたたき込み、その後に例外について説明するという ことが重要と考えます。さらに、学生は実務家教員の経験談を聞くのが大好き. で、目頃の勉強疲れで居眠りをしていた学生も、経験談を話し始めると目を覚 ますということが多いのですが、そこはm一スクールにおける教育ですので、 12.

(13) ロースクールにおけるii某務家教貝の役割と責任. 授業時聞の7割は重要事項についての法律の話しをして、経験談や余談、また、. 実務の極めて細かいところの説明は3割程度にとどめるように心がけました。 授業中に学生に話しをしていると、どうLても後者の道に走りがちなので、授. 業の際には必ず「授業進行予定」なるA4版1∼2枚の資料を学生に配布し、 授業が脱線し過ぎないように予防策を講じました。.  2 授業以外での実務家教員の役割  実務家教員にとって最も大切なのはロースクールでの授業ですが、その他に も実務家教員の役割がいくつかあります。.  学生にとって最も身近にいる法曹が実務家教員なので、、学生に「自分も実務. 家教員のような法曹になりたい」というモデルを示すことができれば・これは 教員冥利に尽きることになります。.  また、学生には理解の早い者と遅い者がいます。中には授業についていけず に落ちこぼれそうな学生もいます。教員としては、どうしても理解が早い学生 に1ヨが向きがちですが、理解の遅い学生や落ちこぼれそうな学生についても飲. み会をやるなどして悩みを聞いて叱咤激励をし、n一スクールでの勉強をあき らめさせないようにすることが大切と思います。理解の遅い学生や落ちこぽれ そうな学生には、学力は勉強の時間に比例して向上するのではなく・あるとき 一気に伸びることを伝える必要があるでしょう。. 第5最後に  平成16年ロースクール設立時に入学した1期既修者の場合・学生数が11名 と極めて少数でした。教員にも教材や教育の手法についての経験がなく・暗中. 模索の状態で必死に授業を実施していたので、学生の負担も教員の負担も並大. 抵なものではありませんでした。横浜国大ロースクール1期既習者11名は昨 年までに全員が司法試験に合格しましたが、これは学生と教員の双方が必死で                                  13.

(14) 横浜国際経済法学第18巻第1号(2009年9月). 重い負担を克服したことの成果だと思います。最近、ロースクールにおける学 生の負担があまりに重いので、少し軽くしてやろうという議論があります。学 生の気持ちを察すると、私も負担を軽くしてあげたいのですが、ここで安易な. 妥協をすると、学生も教員も怠けてしまい、好ましい成果が期待できないと思 います。ロースクールが設立されて5年が経ち、私も実務家教員としての経験 を積み、授業の準備や学生の負担について合理的なところで治めてしまおうと. する気持ちが生じるようになり、当初の実務家教員としての緊張感が少し薄れ たような気がします。そこで、ロースクールを退職し、本業である弁護士業に 専念しようという気持ちになったものですe  弁誰士の日頃の仕事ぶりをみていると、そこには「漂流型」と「目標設定型」. の二つのタイプがあるように感じます。弁護士としての能力を横軸に、弁護士 の数を縦軸にとってグラフを作成すると、ロースクールの設置で弁護士の数が 増えることによって、この「漂流型」と「目標設定型」の弁護士が、二瘤酪駝 のよ1うになる傾向が感じられます。この傾向は裁判官や検察官の場合も同様と. 思います。「漂流型」別名「あみだくじ型」の弁護士の仕事ぶりは、事件処理 の最終目標が定まらずに、その場限りの対応を繰り返し、場当たり的に事件を. 処理することになります。いつ、どのような形で事件が解決するかの予測が全 くつきません。他方「目標設定型」弁誰士は、事件処理の最終目標を定め、そ. の目標に到遥するためのルートと常に探りながら仕事を進めることになりま す。「目標設定型」弁護士には、当然のことながら、事件や物事の本質を見抜 くことのできる能力と高度の法律技術が必要になります。既に実務家教員とし. て横浜国大ロースクールを支えていただいている高原將光弁誰士と高橋健一郎 弁護士、そして、今年4月から実務家教員に加わる左部明宏弁護士、池田陽子 弁護士と中道徹弁護士には、他の実務家教員や研究者教員の教授と協力して、. そのような能力と技術を持った優秀な法曹を横浜国大ロースクールで育ててほ しいと思います。.  私が横浜国大の実務家教員になった際、尊敬する横浜弁護士会ロースクール 14.

(15) ロースクールにおける実務家教貝の役割と責任. 委員会の初代委員長である山下光弁護士から、「横浜国大は横浜弁護士会に目 を向けてくれているが、東京には有能な人材が一杯いる。横浜弁誰士会の実務 家教員がしっかりしないと、いずれ東京から人が来るようになる」と言われた ことがあります。この山下弁護士の言葉が、これまでの私の背申を押してくれ ていたように感じます。.  全く新しい制度であるロースクール設立時に実務家教員としてロースクール 教育に関与したことを大変誇りに思います。横浜国大ロースクールで教えた平. 成16年から21年までの5年間は、司法研修所の教官時代に勝るとも劣らない 楽しく充実した生活を送ることができました。このような機会を与えていただ いた横浜国大の研究者教員、横浜弁護会の同僚弁護士、そして誰よりも横浜国 大ロースクールの学生諸君に感謝いたします。.  私は今年3月で横浜国大の専任教員は辞めますが、4月からは本籍地の横浜 弁護士会に戻り、ロースクール委員会の委員として引き続きロースクール問題. に関与する予定です。そのときには、またよろしくお願いいたしますe本日は. 大変ありがとうございました。                以 上.

(16) 横浜国際経済法学第18巻第1号(2009年9月). ロースクール設置までの横浜国大と横浜弁護士会との協働作業(時系列). 平成12年秋. 横浜国大から横浜弁護士会永井会長にロースクール設置検討 の打診. 平成13年1月. 横浜国大が「横浜における新しい地域連携型法科大学シンポ ジウム」をランドマークタワーで開催・横浜弁護士会が協力. 3月. 横浜国大と横浜弁護士会がロースクール設置のための定期協 議を開始. 4月. 横浜弁護士会に法科大学院検討特別委員会が発足. 6月. 横浜弁護士会で将来のロースクール教員候補者の選考を開始. 10月. 横浜国大で横浜弁護士会弁護士が「法律実務講座」(実験授 業)を開講. 平成14年2月. 横浜弁護士会臨時総会でロースクール支援を決議.   L.     5月. 横浜弁護士会でロースクール教材作成チームの立ち上げ.     6月. 横浜国大と横浜弁護士会とが横浜国大ロースクールカリキュ ラム案の検討を開始.     7月. 横浜国大と横浜弁護士会とで教材作成チームの打合せを開始.     12月. 横浜国大ロースクールの実務家教員候補者が内定. 平成15年1月. 横浜弁護士会から横浜国大に民事事件教材のモデル案を提供.     5月. 横浜国大で「ロースクール模擬授業」を実施.     6月. 横浜国大が文科省にロースクール設置申請書を提出.     7月. 第1回横浜国大ロースクール入学:者説明会開催・箕山洋二横 浜弁護士会会長が挨拶.     11月. 文科省による横浜国大ロースクール設置の認可. 平成16年4月. ロースクール開講i. ]6.

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参照

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