邦銀大手の債権償却 : 利益平準化仮説の検証
21
0
0
全文
(2) 邦銀大手の債権償却(大日方. 隆). (301). 57. 裁量的な費用を増加させ,逆に業績が悪化した. ばこそ,債権の償却額と報告利益の水準がいか. ときには裁量的な費用を減少させるという,早. なる関係にあるのかを理論的に確かめてみなけ. 純な利益平準化行動が前提とされている.これ. ればならない.利益平準化仮説は,常識的には. にたいして,. Healy. (1985)はきわめて興味深. 当たり前のようにみえても,理論的にはけっし. い会計行動を発見した.彼が注目したのは,午. て自明のものではないのである.本稿では,な. 度利益が一定の幅の範囲内のときには利益に比. ぜ銀行は特定の償却パターンを選択するのかと. 例してボーナスが算定されるが,年度利益が上. いう銀行自身のインセンティブにはまったく立. 限を超えたときの超過分はボーナスの算定対象. ち入らずに,邦銀大手の債権償却は単純な利益. にならなかったり,年度利益が下限を下回った. 平準化行動として観察されるのか,もっぱらそ. ときにはボーナスが支払われないケースである.. の点に焦点をしぼってデータを検証してみたい.. そのような経営者報酬制度のもとでは,経営者. Ⅱ. 米国の実証研究と問題の所在. は,その上限を超えた(超えそうな)ときや下 銀行の債権償却にかんして,主として米国で. 限に届かない(届きそうにない)ときには,い ずれの場合も,裁量による発生費用項目を増加. 展開されている実証研究は,会計指標を利用し. させて利益を圧縮するという会計行動が発見さ. た規制のルールがあたえられたときに,銀行が. れたのであった1).. どのような債権償却を選択するのかをあきらか. Healy. (1985)によってあきらかにされた行. にしようとするものである.周知の自己資本比. 動は,単純な利益平準化ではない.利益がボー. 率規制の存在が債権償却のやりかたにいかなる. ナス算定の下限にも届きそうにないとき,今期. 影響をもたらすのかが,主たる検討課題となっ. に裁量的な発生費用をあらかじめ計上してしま. ている.企業会計に規制や契約が結びつけられ. う行動は,そのようなケースで利益捻出の行動. ているとき,. を予想する利益平準化仮説とはあきらかに異な. 来のペイオフにてらしてどのように会計上の選. っている.この点に関連して, shaw. Elliott and. 「企業(経営者)は期待される将. 択をするのか」を問うことによって,経済的合 理性の観点から企業の会計行動を説明するとと. (1988)は,さまざまな資産の償却費や. 除却損の額が大きな企業は,その損失計上の年. もに,会計ルール,規制,契約などのありかた. 度とその前年において,総資産利益率(ROT). を問いなおすことが意図されている. ここでは,従来の研究があきらかにしている. や自己資本利益率(ROE)が同業他社に比べ て低いという実証結果を報告している.いわゆ. 米国銀行の債権償却の態様を紹介したい.最初. る「ウミヲダス」ような会計政策の存在が確認. に,米国の銀行に適用されている自己資本比率. されているわけである.さらに,一般事業会社. 規制において,そもそも自己資本比率がどのよ. における債権償却を対象としたMcNichols. うに計算され,債権の償却がその自己資本比率. wilson. and. (1988)も,業績が極端に良いときと. 悪いときのいずれのケースでも債権の間接償却. にいかなる影響をあたえるのかを確認しよう2).. (貸倒引当金の繰り入れ)が大きくなると報告. いま,銀行の総資産をA,自己資本をEとす る(ただし, 0<E<A).このときの自己資. している.彼らは,実証結果は単純な利益平準. 本比率はE/Aである.ここで追加的にx(>. 化イ反説とは整合しないことを強調している.. o)だけ債権を償却するとしよう.税率は丁 (>o)とし,間接償却であっても直接償却で. このような利益平準化をめぐる学界の議論を ふまえるならば,邦銀が利益を平準化するよう. あっても,さしあたり,この償却額xは税法. に債権を償却するという主張がごく常識的に受. 上の損金に算入されると仮定する.この債権償. けとめられていても,いやむしろ,そうであれ. 却を,債権評価額を切り下げる直接償却によっ.
(3) 58. (302). 横浜経営研究. 第調巻. 第4号(1998). た場合,自己資本は(1-T)xだけ減少し,. 雑にする.. 資産給額はxだけ減少する.このときの自己. 全体もしくは一部分が無価値になったと見積も. 資本比率は,. られる場合以外,税務上,直接償却額は損金に. 1986年の税缶u改正において,債権の. 算入できないこととされたからである.その場. E-(1-T)I. 合,税効果会計の適用がないものとすると,い. A-I. ま問題の自己資本比率は,直接償却の場合は節 となる.この比率と債権償却前の自己資本比率. 税効果Txがなくなり,. との大小関係は一義的には定まらず,債権の直. E-I. 接償却が自己資本比率を低めるのか否かについ. A-.Ⅰ・. て,確定的なことはいえない. 一方,引当方式で債権を間接償却した場合, 自己資本比率を計算するさいの資産総額から貸 倒引当金の残高は控除されない.間接償却され ても,もとの債権評価額がそのまま資産総額の 計算にもちいられる.また,自己資本は,株主. となる.この場合, E-. 些±_三三_ 霊宝<昔< A. (1- T)I+I A. となり,債権償却前の自己資本比率E/Aにた. から払い込まれた拠出資本と留保利益の合計. いして,直接償却と間接償却ではまったく逆の. (会計上のほんらいの自己資本)に貸倒引当金. 影響をあたえることになる.このことから,. 残高が加算されて計算される.これは,貸倒引. 「自己資本比率が低い銀行は,規制コストを削. 当金を「資産のマイナスを意味する評価勘定」. 減するために(あるいは規制を回避するため. としてではなく,. に),債権の間接償却額を増加させる一方で,. 「将来に支出をともなわない. 資金留保(資金調達)」とみているからであろ. 債権の直接償却額を減少させる.」という仮説. う3).結局,間接償却した場合の自己資本比率. が生まれる4).. は,. そうした一連の仮説を検証したのは,. Moyer. (1990)である.この研究によると,上記の前 E-(1-. T).r+.r. 者の仮説が支持され,自己資本比率の低い銀行. A. ほど,間接償却額を大きくするという分析結果 と計算され,この比率は債権償却前の自己資本. がえられたとされている.それと同時に,. 比率よりも大きくなる.ここで,. Moyer. ト」を回避するため,わかりやすくいうと, 「儲け過ぎ批判」を緩和するために, 「好業績の. E+Tx1.r. E-(1-T)x A-.r. (1990)では,いわゆる「政治的コス. A-I. ときに利益を圧縮するように償却費を増加させ. 些±__三三_叫 A. A. る.」という仮説も検証されたが,その仮説を 支持する結果はえられなかった.つまり,債権. であるから,債権を直接償却するよりも,間接 償却したほうが自己資本比率は高くなる.この ことから,. 「自己資本比率が低い銀行は,規制. の償却にかんして利益平準化行動は観察されな かったわけである. 一方,. Moyer. (1990)と異なる結果を示して Collins,. Shackelford. Wablen. コストを削減するために(あるいは規制を回避 するために),債権の間接償却額を増加させ. いるのは,. る.」という仮説が設定される.. 償却額は自己資本比率と正の関係があるとされ. さらに,米国の税法規定が議論をいっそう複. and. (1995)である.彼らの研究においては,間接 ている.すなわち,自己資本比率の低い銀行ほ.
(4) 邦銀大手の債権償却(大日方. (303). 隆). 59. ど,間接償却額を減少させていることが発見さ. 銀行がいち早く不良債権を償却するような償却. れた.自己資本比率が低い企業は,間接償却額. 競争をしてきたわけではなく,銀行間で債権の. を操作するのではなく,直接償却額を減少させ. 償却のしかたに一定のバラツキが観察されてき. ることによって規制に対応しようとしていると 報告されている.また,利益平準化については,. たことは注目されてよい.そうであるからこそ,. 約3分の2のサンプル銀行が業績が悪い(良. 利益平準化仮説(Income. い)ときに債権の間接償却額を減少(増加)さ. sis)が理命的な実証命題とされているのであ. せており,長期的にその銀行の平均的な水準に. る.. 自己資本比率規制を回避するという行動仮説や Smoothing. Hypothe-. なるように利益操作がなされているという結果. それでは,日本の銀行はどのようにして債権. がえられている.また,銀行の節税行動を分析 したScholes, Wilson and Wolfson (1990)で. を間接償却したり,直接償却しているのであろ. ち,証券の売買損益を原資として間接償却額が. 論において邦銀の債権償却が計量的,実証的に. 決められているとされ,利益平準化仮説が支持. 分析されたことはない.そうであるにもかかわ. されている.. らず,多くの人々によって,. collins, Shackelford. 同様に,. Beatty,. and. (1995)と. Wahlen. Chamberlain. and. Magliolo. うか.残念ながら,これまでのところ,会計理. 「銀行は儲かった. ときに償却額を増やし,そうでないときには償 却を手控えている.」と直感的,常識的に理解. (1995)においても,銀行の会計行動を対象と. されているのが現実であろう.そうした直感こ. して,節税,自己資本比率規制の回避,利益平. そ理論的に確かめてみなければならない.日本. 準化の3つの仮説の検証がなされた.この研究. のすべての大手銀行がつねに報告利益を平準化. では,節税のために債権の直接償却のタイミン. するように債権を償却しているのか,そのこと. グを操作するという行動は観察されなかった.. を現実のデータをつうじて実証的に確かめてみ. また,債権の間接償却は利益平準化のために利. るのが本稿の目的である.. 用されるという帰無仮説も,棄却されなかった.. むろん,銀行の債権償却行動を分析するとき. この研究では,銀行の資金調達や貸出金の信用. に必ず利益平準化仮説が問題になるというわけ. リスク管理なども債権の直接償却や間接償却に 影響をあたえており,さらに,さまざまな資産. ではない.すでにみた米国の実証研究のように,. の利得の会計処理のありかたが,裁量でなされ. も否定されない.本稿で利益平準化仮説を採り. る債権の償却に影響をあたえると報告されてい. 上げるのは,それが古くから学界で議論されて. る.彼らの研究では,銀行行動の複雑さが強調. いるにもかかわらず,いまだ議論がつくされて. されるあまりに,残念ながら,債権償却の態様. いないという意味で,理論的に検討する価値が きわめて高い仮説だからであり,前述のような. について明快な説明はなされていない.. 以上,米国の銀行の債権償却を分析した実証 研究を簡単に確かめたが,上述のように実証結. 自己資本比率規制をめぐって仮説を設けること. 直感や常識を確かめることが,なによりも重要. 果は混在している5).債権償却に利益平準化行. であると考えるからである.さらに,日本の銀 行の債権償却行動にかんして研究成果の蓄積が. 動が観察されるのか否かについてはいまだ定説. ほとんどない現状では,将来の検証可能性を確. をみるにいたってはいないものの,ここでまず. 保するために,できるかぎり簡素な仮説を設定. 強調しておかなければならないのは,米国の会. したほうがよいということも,利益平準化仮説. 計制度においても,いつ,どれだけ債権を償却. を採り上げる理由のひとつである.. するかは銀行(経営者)の判断や裁量にまかさ れてきたという点である6).しかも,すべての.
(5) 60. (304). Ⅲ. 横浜経営研究. 第WE巻. 第4号(1998). とりまとめて公表している『全国銀行財務諸表. サンプル,データ,モデル. 分析』の各年度版から手作業で収集した.そこ に掲載される財務諸表は,銀行法施行規則にも. 3-1サンプルの選択. 本稿では,邦銀のうち,. とづいて作成され,銀行業務の監督当局(大蔵. 「邦銀大手」と称さ. れることの多い銀行をサンプルとして選択した.. 大臣あて)に提出されている「業務報告書」で. それは,上場されている都市銀行,信託銀行,. ある.銀行業は大蔵省令である「財務諸表等規. 長期信用銀行である.これらには大規模なもの. 則」第2条にいう別記事業に該当し,この「業. から小規模のものまで含まれており,なかには,. 務報告書」はそのまま有価証券報告書として証. 大規模な地方銀行よりも小規模な都市銀行など. 券規制当局に提出されており,財務諸表本体の. もある.それにもかかわらず,このようなサン. データについては,本稿で対象にしたものと 『有価証券報告書総覧』のそれとは同一である.. プルを選択したのは2つの理由によっている. ひとつは,限定されたサンプル数によりながら. 1982年3月期から,直. つぎに,分析期間は,. 「日本の銀行」の債権償却の態様をあきらかに. 近の1996年3月期までの合計15年間を選んだ.. するうえでは,日本の産業社会の中心的な部分 と広く深いかかわりをもつ都市銀行,信託銀行,. 1981年度以前を分析対象から除いたのは,以下 の理由による.第一は, 『全国銀行財務諸表分. 長期信用銀行のほうが,地方銀行よりも,サン. 析』に掲載される業務報告書が1981年度以前は. プルとして適しているからである.. 半期決算となっているためである.第二は,. もうひとつは,業態で区別せずに,単純に一. 1981年度以前はいわゆる「特定引当金」が認め. 定の規模以上の銀行を選択する場合にはサンプ. られており,それ以降とのあいだで経常利益や. ル・セレクション・バイアスが混入する懸念が. 当期利益のもつ意味に連続性がないと考えられ. 生じるからである.たとえ規模の階層別にサン. るからである.第三は,貸倒引当金についての. プリングをするとしても,なにについての規模. 税制の大幅改正(法定繰入限度率の引き下げ). を指標にするのか(たとえば総資産か,預金量. が1974年度から1981年度にかけて暫時行われた. かなど),これといって確たる決め手はない.. ため,その影響を除くために分析期間は1982年. そこで,今回はやや形式的に「邦銀大手」をサ. 3月期以降とした.. こうして選択したサンプルの年度ごと,業態. ンプルとした.ただし,ここで選択した銀行の 総資産の規模などに大きなバラツキがあるため,. ごとの分布は表1に示されている.いずれの銀. 詳しくは後述するように,分析にさいしては一. 行も3月決算である.サンプル総数は334. 定の工夫が必要とされることになる.. 行一決算年度)であるが,対象期間中に都市銀. 3-2. データ. 行どうしの合併が2件あり,都市銀行の数は,. まず,データの出所について説明しておく.. 1990年3月期の13から翌年には12へ,さらにそ. 各銀行の会計データは,全国銀行協会連合会が. 表1. の翌年には11-と減少している.本稿の分析に. サンプルの分布. 82年 83年 84年 85年 86年 87年 g8年 89年 90年 都市銀行 信託銀行 長期信用銀行 TOTAL. (銀. 13. 13. 13. 13. 13. 7. 7. 7. 7. 3. 3. 3. 3. 23. 23. 23. 23. 91年. 92年. 93年. 94年. 95年. 96年TOTAL. 13. 13. 13. 13. 12. 11. ll. ll. ll. 11. 184. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 105. 3. 3. 3. 3. 3. 3. 3. 3. 3. 3. 3. 45. 23. 23. 23. 23. 23. 22. 21. 21. 21. 21. 21. 334.
(6) 邦銀大手の債権償却(大日方. 隆). (305). 61. ぎの(2)式がえられる.. あたって,できるだけ多くのサンプル数を確保 するために,合併した銀行を(それ以前も以後. ZDOFFt. も)サンプルから除いていない.そのため,分. LOANt_ -A-Ll '〉. LOANt. 1. (2). 'v. LOANE. 析データとして前年度データを利用するとき,. 合併初年度において前年度データをどのように. この(2)式が本稿の分析モデルの出発点となる.. 計算するのかが問題になる.そのようなケース. 以下では,貸出金残高をデフレ一夕一にもちい. については,個々の合併の会計処理をとくに検. て,貸倒引当金繰入額を貸出金残高で割った変 数を説明変数とする8).便宜上,これを貸倒引. 『全国銀行財務諸表分析』の各. 討しないまま,. 当金繰入率もしくは間接償却率と呼ぶ.. 年版に記載されている「前年度増減」のデータ. しかし,上記(2)式のように,貸出金の増加率. から該当データを単純に計算した. 3-3. (の遵数)だけが間接償却率を決定していると. モデル. 予想するのはあまりにも単純である.第一に,. 最初に,説明対象(被説明変数)を説明する. 本稿では,年々の報告利益と債権の間接償却額. 税法上でも,画一的な形式基準だけでなく,過. (貸倒引当金繰入額)との関係を分析し,直接. 去の経験率(貸し倒れの実績)に応じて貸倒引. 償却額は分析の村象としない7).銀行の貸倒引. 当金(正確には一般貸倒引当金)を積むことが. 当金繰入額には,税法上の3種の引当額,すな. 認められているからである.第二に,銀行局長. わち一般貸倒引当金繰入額,債権償却特別勘定. 通達(昭和57年4月1日蔵銀第901号)では,. 繰入額,および特定海外債権引当勘定繰入額の. 税法上の形式基準による限度額は債権の償却額. 3つが含まれている.現在(1992年3月期以 降)は,その3種の引当金の詳細は注記をつう. を決めるうえでの上限ではなくて,下限とされ ているからである.同通達において,税法上の. じてあきらかにされているが,サンプル期間の. 限度額は必ず繰り入れるものとされ,. すべてにその内訳が判明するわけではないので,. 能と判定される貸出金及び最終の回収に重大な. 以下では3つを貸倒引当金に一括して分析する.. 懸念があり損失の発生が見込まれる貸出金につ. また,銀行が保有する債権のどの部分について. いては,これに相当する額を償却する」と規定. 貸倒引当金の繰り入れ(間接償却)をしたのか,. され,有税か無税か,また,間接償却か直接償. つまり,債権残高と引当金残高との対応関係が. 却かも問わず,銀行経営の健全性の観点から,. データからは推定できないので,本稿では,分. 債権を税法の形式基準以上に償却すべきことが. 析の便宜上,貸借対照表における貸出金をもっ. 積極的にもとめられている9).. 「回収不. そうした理由から,銀行は将来の回収可能性. て引当対象とみなすことにする.. を判断して貸倒引当金の繰入額を決めていると. いま,ある銀行の£期の貸出金の期末残高を LOANtとする.この銀行が税法上の形式基準 (通常の損金算入限度)に機械的にしたがって,. 考えなければならない.しかも,一般に債権の. 毎期,貸倒引当金を100k%だけ設定している. びついているはずである.そこで,当該期末ま. としよう.この決算期の貸倒引当金繰入額(間. での貸し倒れ実績あるいは将来の貸し倒れ予想. 接償却額)をIDOFFtとすると,このケースで. をあらわす変数として,経済全体に関係をもっ. は,. ている変数をモデルに導入しよう.本稿で利用 するのは,東京商工リサーチの調査による「倒. IDOFFt. -. kLOANt-. kL(姐Nt-1. 回収可能性は,経済全体の景気変動と密接に結. (1). 産企業の負債総額」である.これは負債総額. となる.回帰分析において多重共線性が生じな. 1,000万円以上の倒産企業の負債合計である.. いように, (1)式の両辺をLOANtで割れば,つ. データの出所は,日本銀行調査統計局『経済統.
(7) 62. (306). 横浜経営研究. 第Ⅶ巻. 第4号(1998). 計月報』である.以下では,その「倒産企業の. は,銀行が利益平準化政策を採用しているか否. 負債総額」をDEFAULTtとあらわす.. かとは無関係である.本稿の関心は,経済全体. .=のDEFAULTlを,邦銀大手の前年度末の 貸出金残高の合計で割ったものを,貸し倒れ実. の動向を所与としても,銀行の債権償却に利益 平準化行動が観察されるか否かにある.. 績ないし貸し倒れ予測の代理変数として利用す る.つまり,それぞれの銀行をiとすれば, IDOFFit. みよう.税法上の繰入限度額が銀行にとっては. LOANit_1 .ハ. LOANz・t. -α+β1 'l. +β2. 間接償却額の下限であることはすでに触れたが,. LOANE・t DEFA. つづいて,本稿の分析の核心部分である「債 権償却と利益との関係」をモデルに取り込んで. UL. 他方,その上限にかんしてはなんら規制は存在. Tt +. e. ∑i LOANit-1. (3). していない.各行の自主的な判断,裁量によっ て償却額を税法の限度額以上にしてもかまわな. という回帰式によって,銀行の間接償却率は記. い.むろん,それが有税(損金不算入)扱いと. 述されるであろう.なお,ここでDEFAULTt. なる場合には監督当局に届け出る必要があるが,. をそのまま使わずに∑tLOANit-1で割るのは,. そのことが間接償却額を大きくすることを制限. 貸し倒れ実績率の変数を作成するという意味の. しているわけではない.銀行であっても,一般. ほかに,そのままの値をもちいると,貸出金の. の事業会社と同じように,回収不能と見込まれ. 増加率の逆数との相関係数がきわめて高く. る債権については,間接償却なり直接償却なり. (0.600),多重共線性が存在すると思われるか. がもとめられていることに違いはない.. らである.. 本稿では,経常利益と特別損益(特別利益と. この(3)式にかんして,回帰係数の予想される. 特別損失の合計)とにわけて,回帰モデルを構. 符号を説明しておこう.もしも銀行が税法上の. 築する.よく知られているように,経常利益に. 形式基準だけに機械的にしたがっているならば,. 比べて,特別損益のほうが銀行の裁量によって. さきの(2)式に示したように,. 随時操作しやすい.そのため,. β1<0となると. 「利益平準化仮. 予測できる.剛又可能性を問わずに,たんに税. 説」を検証するにあたり,両者をわけておかな. 法上の限度額だけ貸倒引当金を積んでいるとき. ければならない.いま,経常利益に間接償却額. には,貸出金の増加率が大きければ大きいほど,. を戻し入れた額,すなわち,債権の間接償却前. すなわちその逆数が小さければ小さいほど,よ. の経常利益をadOZ,・t,特別描益(なんら修正. り多くの引き当てを必要とするからである. 一方,それまでの貸し倒れ実績をふまえて貸 倒引当金を繰り入れている場合には, β2はゼ ロにはならないであろう.もしもこれまで以上. を施さないそのままの値)をUNOZL・tとする. このとき,本稿の基本的な回帰モデルは, IDOFFit. -α+β1. LOANi[11. n. .. LOANit. 'l. LOANii. に債権の不良化が進行すると銀行が予想してい るならば,. β2>0となり,逆に,債権の貸し. DEFA. +β2. 倒れ率が低下すると銀行が見込んでいるなら,. β2<0となるはずである.ただし,将来の貸. +β3. UL Tt. 1 ∑t,OANit-. ad OIi[ LOANi[. し倒れについての予測が,過去の貸し倒れ実績 との線形関係として記述できるケースは,景気. UNOIi. +β4. LOANi[. i. +ど. の上昇局面や下降局面など,そのトレンドが一. 定の時期にかぎられる.その点は,次節であら. となる.ここで利益の説明変数を被説明変数と. ためて検討する.いずれにしても,. 同様にLO4Nitで割っているのは,規模の大. β2の符号. (4).
(8) 邦銀大手の債権償却(大日方. 隆). (307). 63. 小から生じる分散の不均一を補正するためでも. ことはROIと同じである.一方,. ある.. クのほうは,メディアンと平均値ともにROI. しばしばいわれる利益平準化仮説を援用すれ ば,この場合, 「銀行は経常利益や特別損益の. よりも2年早い87年3月期であり,この点では ROIの動きと違っている.いずれにしても,. 大小に応じて,貸倒引当金繰入額を増加させた. 収益性は87年3月期から89年3月期にかけて頂. り,減少させたりしている.具体的には好業績. 点に達し,. のときには繰入額を増加させ,業績が悪化した. いえるであろう. 銀行の財務構造(資本構成)については,. ときには繰入額を減少させる.」と予測するこ. とになる.上式(4)の回帰係数でいうと,. β3あ. るいはβ4が正の値をとると予想されることに なる.したがって,本稿が着目する利益平準化 にかんする帰無仮説は,以下の2つである.. 96年3月期に最悪の結果になったと. panelAの左から3番目の欄に自己資本比率が 記してある.この自己資本比率は,簿価をベー スにした総資産と自己資本との比であり,かつ, 原データにしたがって,貸倒引当金は債権評価 額から控除せずに負債に含めて計算されている.. H。1貸倒引当金の繰入額は,その繰入額控. Ho2. ROEのピー. 除前の経常利益とのあいだに有意な関係. ほんらい,債権の直接償却と間接償却とは帳簿. はない.すなわち,債権の間接償却前の. 上の処理が違うだけで実体上の差異をあらわさ. 経常利益にかかる回帰係数は0である.. ない.しかし,貸倒引当金を債権評価額から控. 貸倒引当金の繰入額は,特別損益との. 除しないで自己資本比率を計算すると,直接償. あいだに有意な関係はない.すなわち,. 却の場合だけ総資産が減少し,間接償却による. 特別損益にかかる回帰係数は0である.. よりも,直接償却をしたほうが自己資本比率は. Ⅳ. より大きくなる.そのため,自己資本比率は,. 実証結果. 直接償却が増加するにつれて上昇し,. 95年3月. 4-1サンプル銀行の現況 実証結果を検討するまえに,サンプルとした. 期にピークを記録している.直接償却か間接償. 銀行の現況を会計データをつうじて確認してお. は,貸倒引当金を債権評価額から控除したほう. く.ここでの考察は,以下の実証分析の手法お. がよいことはあらためていうまでもないであろ. よび結果の解釈にたいしてきわめて有益な示唆. う.. をあたえてくれる.表2のPanelAの左側の. 却かとは中立に自己資本比率を計算するために. panelAの右端の欄は,総資産に占める貸出. 2つの欄には,収益性にかんする代表的な2つ. 金の割合である.この比率は90年3月期に底を. の指標が示されている.一番左側の欄は,総資 本利益率(Rot)である.このROIは,期末. うっている.簿価ベースでみるかぎり,いわゆ る「バブル期」に貸出金の比率を伸ばしている わけではなく,むしろ,その崩壊後に比率が上. の総資本を分母にして計算されている.年々の 1989 変化をみると,メディアン,平均値とも,. 昇している.もっとも,この場合の貸出金も,. 年3月期にピークを記録し,. 96年3月期には最 悪の数値となっている.いわゆる「バブル経. 貸倒引当金を控除していない額であり,それを. 済」の頂点と,各行が大量の不良債権処理を行. には,. った時期におおむね一致している.. はずである.いずれにしても,会計上の残高. 表2PanelAの左から2番目の欄は,自己資 本利益率(ROE)であり,このROEも,. 90年代のこの比率はもっと低下している. (帳簿上の残高)をそのままストックの価値と Ro暮. と同様,期末の自己資本を分母にして計算した ものである.. 控除した場合,あるいは不良債権を除いた場合. 96年3月期に最悪を記録している. みなすことには本質的に無理があり,簿価ベー. スの指標は一定の参考資料にとどまることを確 認しておかなければならないであろう..
(9) 横浜経営研究. (308). 64. 表2 Panel. A. Year. Net lncome /Total Assets Median. Average. 第別巻. 第4号(1998). サンプル銀行の現況 Equity /Total Assets. Net Income /Equity St.Dev.. Median. Average. Median. St.Dev.. Average. Loan /Total Assets SLDev. Median. Average. St.Dev. 82年3月期. 0 1 9ー. o 19 5. 0 0 46. 8.383. 8.495. 1.745. 2 114. 2.375. o 74 3. 49.698. 47.528. 9 638. 83年. 0 1 70. o 17 9. 0 0 36. 8.597. 8.511. 1,577. 2. 0 67. 2. 145. o 46 6. 49.604. 47.022. 9. 84年. 0 1 87. o l9 7. 0 04 5. 8.502. 9.421. 2.191. 2. 0 52. 2 1. 45 7. 51.054. 48.767. 7 82 1. 85年. 0 1 78. o 17 6. 0 039. 8.898. 9.294. 1.777. 「⊥. 8 73. 1. o 33 1. 49.795. 48.004. 7 75 4. 94 3. エ9 80. o 25. 52.342. 49.370. 8.027. 973. ー9 QU7. o 30 6. 51.716. 49.741. 7.080. o 4 19. 51.788. 50.908. 6.961. o 59ー. 49.636. 49.814. 7.570. 48.994. 48.117. 8.323. 53.254. 50.875. 9.349. CO. 39. 56.121. 52.980. 10.047. O 26. 60.156. 57.425. 9.317. 36. o. 9 ー1. 863. 86年. 0 1 93. o 21ー. 0 0 66. 10.454. 10.520. 2. 367. 「⊥. 87年. 0 2 36. o 26 3. 0 エ0 3. 12.006. 13.059. 3.876. 1. 88年. 0 2 70. o 29 9. 0 ー1 2. ll.739. 12.456. 3,017. 2 261. 2 3. 89年. 0 2 005. o 30 5. 0 ーー9. 10.544. 10.562. 2.981. 2 54ー. 2. 90年. 0 2 3 ハリ. o. 23 3. 0 069. 7.654. 7.616. 1.452. 2. QQ. 91年. 0 エ99. o 20 4. 0 04 3. 6.061. 6.060. 0.557. 3. O5 8. 3 3 82. o 7 84. 92年. 0 ー67. o ー5 4. 0 03 9. 4.191. 4.352. 1.311. 3 2 99. 3 64 1. o. o 09 0. 0 030. 2.297. 2.328. 0.833. 3 4 84. 3 9 92. 2.059. 0.850. 3 6 ー8. 4 0 59. 9 QU5. 60.271. 57.517. 9.691. 28.345. 3 648. 4 1 52. L 1 l7. 59,551. 59.901. 8,846. 26.122. 3 073. 3. 146. o. 7 ー2. 63.278. 60.399. 7.829. 14.615. 2. 2. 84 7. L. 032. 51.792. 51.596. 9.387. 7. 94年. 0 072. o. 0 2. 0 035. 1.836. 95年. 0 0 69. o 4 22. 2 129. 1.800. 96年. 0 843. 82-96年. 0 1. 76. CX). 0. 一一. 93年. 70. 0 867. o 0 CO4. 0 657. L 3. -5.211. -30.901. -33.946. 7.814. 4.680. 6 34. 史U. 37. O41. 仁U. 30. o. 1.0. 0 CQ. 3. 32. 61. ー. 上表中の比率はすべてパーセント表示である。 Net. lncome/Total. Assets-総資本利益率,. Net. Equity/Total. Income/Equity-自己資本利益率,. Loan/Total. Assets-自己資本比率,. Assets-捻資産に占める貸出金の割合。. Panel B Year. Ordinary. Incc'me. Average. Median. Net Income St.Dev.. Median. Average. TOTA. IDOFF StDev.. Average. Median. 82年3月期. 33,580. 42,187. 31,266. 16,369. 20,758. 15,491. 83年. 32,977. 53,378. 41,037. 16,902. 22,082. ー6. 84年. 41,489. 60,816. 48,067. 17,039. 27,969. 22 65. 85年. 50,7 14. 66,264. 46,108. 18,956. 29,114. ワ山 2 ー03. 86年. 67,262. 73,067. 43,621. 29,892. 34,417. 23. ー59 6. 2 14 0. 46,172. 28 2 19. 4 40. 4. 00. 58,857. 37 9 67. 7 64 9. 71,064. 55 8 2 9. 68,343. 50. 366 CO. 87年. 101,444. 108,559. 61,595. 88年. 113,051. 137,848. 89,929. 50. 89*. 130,332. 166,585. 122,477. ,935 59,237. 90年. 105,185. 135,282. 100,004. 54,022. 9 1年. 85,074. 105,110. 69,859. 49,612. 57,757. 3 CO 4 ー2. 92年. 85,339. 94,067. 63,314. 31,768. 44,817. 31. 00. 24,092. ー7. 分U. 93年. 60,905. 62,508. 46,549. 18,698. 94年. 37,664. 37,963. 24,641. 20,743. 95年. 18,146. 10,136. 81,972. 13,948. 96年. - 164,414. 82-96年. 57,721. -156,311 68,083. 68,386 04,550. -163,886. 21,335 -5,735 -169,766. 28,190. 24,527. 5 37. ー4 3 8. 63. .499 2. 3 56 7. 4. 9 30. 3 9 90. 4. 02 3. 6 14 0. 5 76 5. 史U. 5. 9 68. 3 12 ー. 5. 87 1. 6 32 7. 3 35 2. り】 0 44. ー6 2 7. 2 50U 7. 2. 2 3 76. 4. 5. 690. 3 ユ3 2. 7 00 9. 5 5 96. 8 ー63. 7 952. 6 ー3 5. 9 60 8. ユ3 2 9 ー. 7 3 57. 9 29 9. ー4. 65. 8. 30. 52 9 8. 59. 74,449. ー7 4 1. 7 7 ー3. 40 0 59. 6 2 95. 147 5 37. 781 8 .403. 15 2. 57. 00. 300 7 4 ー 7 2 94. 50. 04 4. 2. ー0 4 6 9. ー0. O. 60 5. 9 03. ーー3 5 CO. 7 48 5 49. 76 4. .4 3 110. 4 ー5 9 4. 6 4 9 86. 6 5 51 5. ー4 9. 33 4 27. QU. 2. 9. 76 8 3 3. 7 955 12 2 20. 44. 30. 07 QU. 3 6∩プ. 54. 45. 71. ー6. 65. 7 59. 32 2 2 36 0ロ. 57 9. 7 37. 65 7 92 ー 0 0 37. 8 3 ー5. 4 4 6 92. 8. 1 15 1 56. 4 3 6 17. ー9 3 50 5. 4 2 55 8. 10 1 02 4. りJ. 上表中の金額はすべて百万円単位である。 Ordinary. 償却額。. lncome-経常利益,. Net lncome-当期純利益,. IDOFF-間接償却額(貸倒引当金繰入額),. 4 .40. 32. 15. 0. ー4 2 9 3. 0 ーー. (89 003. 7 ー4. 66 7 7 1. 7 006 3. 6 00 9. 2 広U 7 3 5. CO2 3. 00. 2. 00. 9 36. 7 32. 00 0. ー5 2 5. 5 6 78. 8 25 3 2 4 24 5. 54 5. 4 3 9 19 2. St.Dev.. 97. 5 140. 57. Average. Median. 4 5 95. 5. 33ー. 42,033. St.Dev. LOFF. TOTALOFF-債権の直接償却額+間接.
(10) 邦銀大手の債権償却(大日方 一方,表2のPanelBは加工されていない生. 隆). (309). 65. 標準偏差はともに債権償却額の標準偏差よりも. の数値についての時系列の変化を示している.. おおむね小さい.これは,債権償却額のバラツ. 一番左の欄は,経常利益であり,左から2番目. キがそれ以外の損益項目のバラツキを減殺する. の欄は当期利益である.いずれの利益数値も,. ように生じたことを意味している.つまり,こ. メディアンと平均値はともに,. の期間では利益を平準化するように債権が償却. 最高になり,. 1989年3月期に. 96年3月期に最低となっている.. されているのではないかと推測されるわけであ. とくに96年3月期の業績の悪化は桁違いであり,. る.. いうまでもなくこれは,債権の償却額の増加を 反映したものである.利益の標準偏差をみると,. は,. 経常利益よりも当期利益のほうが小さい.これ. るように思える.さらにそのなかでも,. は,数値の絶村的な水準が後者のほうが小さい ためであろう.しかし,. 95年3月期だけは他の. 決算期と異なる動きを示している.. 2つの利益. ここで観察したように,銀行の債権償却行動 92年3月期以降とそれ以前とで異なってい. 96年3 月期にとくに債権償却額が大きく,それまでの 年度とは違っているようにもみえる.とくに92 年3月期以降で債権償却にかんして利益平準化. のメディアンや平均値が低いにもかかわらず,. 行動が存在したのか否かは,まさにこれから確. いずれの標準偏差もかなり大きな低になってい. かめようとしている実証課題である.ここでみ. るからである.ひとつのありうべき推測は,級. たのは,その間題のほんの入り口であるが,あ. 行によって債権償却の態様におおきなバラツキ. る意味では,利益平準化行動の存在にかんして. があったという見方である.. 間接的な証拠を示しているように思われる.. そのことを確かめるため,右側の2欄をみて みよう.左から3番目は貸倒引当金繰入額(間. 4-2. 変数の記述続計量. 間接償却額の回帰式(4)に含まれる変数の記述. 接償却額)であり,右端は債権の償却総額(直. 統計量は表3のPanelAに示されている.質. 接償却と間接償却の合計)である10).いずれ. 出金残高で除した貸倒引当金繰入額(間接償却. ち, 92年3月期に桁違いで増加し,さらに96年. 率)ち,前項で確認したのと同様に,. 3月期にもう一段多い桁で償却額を増加させて. 月期以降,一段と高い数値になっている.さら. いる.償却総額の95年3月期の列をみると,前. に,. 述の推測が必ずしも否定できないことがわかる. メディアンと平均値とがおおきく異なり,総償. いの値に上昇している.そうした「バブル」の 発生と崩壊とにはさまれて,貸出金の伸び率. 却額の分布がかなりイピッであったことを示し. (panelAの左から2番目の欄)は,. ている.さらに,標準偏差もそれまでの決算期. 期に対前年マイナス成長を記録して底をうった. に比べて桁違いに大きい.. あと, 96年3月期には91年3月期の水準まで戻. 95年3月期には,倭. 権の償却額について銀行間にバラツキがあり, その結果,経常利益や当期利益もおおきなバラ. 1992年3. 96年3月期にいたると,間接償却率は桁違. 94年3月. っている.. 一方,利益にかかわる変数は特徴的な動きを 示している.貸出金1円当たりの貸倒引当金繰. ツキを示したといえそうである. さらに,このPanelBは,非常に興味深い現. 入前経常利益(左から3番目の欄)は,メディ. 象を示してくれている.間接償却額も償却総額. アンと平均値ともに87年から89年3月期にかけ. も, 92年3月期以降,絶対的な水準が増加した. て山を描き,. のに応じて,標準偏差も上昇している一方,刺 益のほうは,経常利益と当期利益の標準偏差は,. ている.ところが,貸出金1円当たりの特別損 益(右端の欄)は,. 94年3月期にひとつの底を示している.しかも,. 描き, 90年3月期には山の頂点を示す動きとな. 92年-96年の決算期においては,. っている.つまり,貸出金残高で割ったとき,. 2つの利益の. 90年から92年3月期には谷を措い. 87年3月期を底とする谷を.
(11) 66. 横浜経営研究. (310). 表3 IDOFFil. Panel A. Year. 82年3月期. Median. 0,00022. o.oooO1. 83年. 0.00148. 84年. 0.00072 o.oOO82. 85年. Average. 変数の記述統計量. LOANiL_. L OA Nil. LOA StDev.. Median. 0.00044. 0.86549. 第4号(1998). 第調巻. 1. LOAN,・E. Nil StDev. Average 0.84012. Median. 0.05551. Average. O.00265. 0.00223. St.Dev. 0.00145. Average. Median. St.Dev・. 0.00192. 0.00232. 0.00132. 0.00165. 0.00196. 0.00134 0.00175. 0,00093. 0.89471. 0.87932. 0.03920. 0.00289. 0.00356. 0.00216. 0.00094. 0.00061. 0.89801. 0.87464. 0.05908. o.oo150. '0,00180. 0.00135. 0.00276. 0.00330. 0.00118. 0.00099. 0.86198. 0.84490. 0.05005. 0.00169. 0.00276. 0.00287. 0.00181. 0.00221. 0.00175. 0.00074. 0.00274. 0.00397. 0.00272. 0.00231. 0.00240. 0.0034 1. 0.00602. 0.00523. 0.00111. 0.00043. 0.00228. 0.00151. 86年. 0,00034. 0.00051. 0.00065. 0.91674. 0.90359. 0.04988. 87*. 0.00050. 0.00082. 0.00111. 0.87950. 0.85713. 0.06141. 88年. o.oOO58. 0.00105. 0.00118. 0.88595. 0.88944. 0.02639. 0.00350. 0.00317. 0.00169. 0.00288. 0.00409. 0.00327. 89*. 0.00108. 0.00122. 0.00046. 0.88701. 0.89040. 0.04167. 0.00255. 0.00308. 0.00179. 0.00388. 0.00462. 0.00340. 90年. 0.00101. 0.00103. 0.00046. 0.85861. 0.85820. 0.03767. 0.00140. 0.00647. 0.00740. 0.00328. 91年. 0.00047. 0.00062. 0.00055. 0.95774. 0β8346. 0.08145. 0.00332. 0.00598. 0.00676. 0.00404. 0.99250. 0.03978. 0.00319. 0.00372. 0.00513. 0.00375. 0.99436. 0.04707. 0.00099. 0.00096. 0.00155. 0.00345. 0.00345. 0.00133. 1.01712. 1.00863. 0.03349. 0.00147. 0.00282. 0.00444. 0.00272. 0.00279. 0.00099. 92年. 0.00115. 0.00129. 0.00107. 0.98597. 93年. o.oO278. 0.00296. 0.00102. 0.99090. 0.00444. -0.00120 -0.00157 10.00003. -0.00124 -0.00183 -0.00078. 94*. 0.00250. 0.00408. 95年. o.00288. 0.00423. 0.00425. 1.01179. 0.99851. 0.05350. 0.00195. 0.00228. 0.00584. 0.00182. 96年. 0.01602. 0.02649. 0.02040. 0.97499. 0.96672. 0.04731. 0.00621. 0.00744. 0.00695. 0.00083. 0.00059. 0.00513. 82-96*. 0.00100. 0.00308. 0.00813. 0.90570. 0.91640. 0.07818. 0.00 1 70. 0.00234. 0.00420. 0.00273. 0.00265. 0,01273. 0.04876. -0.00853. 上表中の比率はすべて小数点表示である。. IDOFF-間接償却額(貸倒引当金繰入額),LOAN-貸出金残高,. adOI-経常利益+貸倒引当金繰入鼠UNOI=特別利益と特別損失の合. 計額。. panelB DEFA. 82年. 83年. 84年. 85年. 86年. 87年. 88年. 89年. 90年. 91年. 92年. 93年. 94年. 95年. 96年. 01023. 01020. 0・021. 0・024. 0・025. 01018. 0・018. 0・007. 0・004. o.o10. 0.023. 0.021. 0.019. 0.017. 0.027. Median. Average. St・Dev・. 0.018. 0.007. ULTiE. ∑f・OANi卜1. 0.020. 間接償却費控除前の経常利益と特別損益とは,. かんする変数にたいして,経常利益の変数は負. 時系列的にみて対称的に変動しているのである.. の相関を示している一方で,特別損益の変数は. その様子は96年3月期により顕著にあらわれ,. 正の相関を示している点である.経常利益と特. 経常利益のほうはサンプル期間のなかで最大値. 別損益とは必ずしも同じように変動しているわ. となっているのにたいして,特別損益のほうは. けではないことをここで確認しておきたい.. 最小値となっている.. ただし,そのような動きは2つの利益の相関. 表3のPanelBは,貸し倒れ実績をあらわす 変数の時系列の変化である.常識的な感覚と一. 係数としては観察されない.表4は,変数間の. 致するように, 92年3月期には,それまでより. 相関関係を示したものであるが,経常利益と特. ひと桁多い貸し倒れ率となり,いわゆる「バブ. 別損益とは正の相関(順相関)となっている.. ル崩壊」の影響があらわれている.ところが,. この表4についても,注目すべき点を2つほど 確認しておこう.ひとつは,間接償却額と経常. 92年から95年の決算期では,しだいにその率は 減少している.どの銀行も不良債権を積極的に. 利益の相関係数,および間接償却額と特別損益. 直接償却しなかったために,分母にもちいてい. の相関係数は,いずれも正であるものの,その 値が非常に小さい点である.もうひとつは,貸. る貸出金簿価が実体上の価値よりも過大に計上. 出金の増加率にかんする変数と貸し倒れ実績に. て正確にはわからないが,以下での分析結果の. されているからかもしれない.その理由につい.
(12) 邦銀大手の債権償却(大日方 表4. N,・卜1. LOAN,t. LOANil. (311). 67. 変数の相関関係. L OA. IDOFFt-i. 隆). DE且4. ∑. ,-. UL. Tt. LOANzL1. a. 1. dOI[・L. LOANz.[. UNOIt・t LOAN,t. ID OFF,-i LOANzE LOANLIE1 L OA DEEA. 1. 0. 1793. Nzlz. ULTE. 0.2692. 0.0842. ∑. LOAN,-Ell ,.. a. dOIz・L. L OA. 0.0516. -0.3631. -0.2453. N,・t. UNOIE・t. 0.0452. 0. 1066. 0.0132. 0.1457. LOANit. IDOFF-間接償却額(貸倒引当金繰入額), adOI-経常利益+貸倒引当金繰入額,. LOAN-貸出金残高, DEFAULT-倒産企業の負債総額, i-銀行, UNOI-特別利益と特別損失の合計額, i-年度. 解釈にさいしては注意が必要であろう. 4-4. 回帰分析の結果. 回帰式(4)にもとづいてOLS回帰をした結果. 点はすぐあとで検討するので,ここでは留保し ておく.. 本稿の主題にとっ七重要なのは,貸倒引当金. をまとめたのが,表5である.特別損益にかか. 繰入額を戻し入れた経常利萄にかかる係数β3. る係数β4を除いて,係数はすべて1%水準で 有意である.まず,貸出金の増加率の逆数にか. の符号である.表5のとおり,ここでの回帰分 析においてはその係数は正であり,かつ,続計. かる係数β1は,統計的に有意であるものの,. 的に有意な備になっている.このかぎりでは,. プラスの値をとっている.これは,事前の予想. 間接償却額はそれを控除する前の経常利益と有. とは異なる結果である.その背景や理由につい. 意な関係はないという帰無仮説Holは明確に. て,ここでは確かなことはわからない.. 棄却される.その帰無仮説が棄却され,しかも. つぎに,貸し倒れ実績にかかる係数β2は正 であり,. 係数β3が正であることからすれば,いわゆる. t値は大きい.これは,銀行が貸し倒 れ実績をふまえて,その貸し倒れ率が大きくな. 「利益平準化仮説」がここでは支持されるよう. ればなるほど,間接償却額を増加させているこ. じる利益が大きければ貸倒引当金繰入額を増や. とを示している.このことは一見当然のことの. し,逆に,その利益が小さければ繰入額を減ら. ようでもあるが,本稿の15年間という対象期間. していると推定されるわけである.. の長さを考えると,やや奇異な印象もぬぐいき. に思える.つまり,銀行の経常的な業務から生. しかし, (4)式による回帰結果は,表5にもあ. れない.もしも景気の回復期,上昇局面におい. るとおり,自由度調整後の決定係数(Adj.. て,貸し倒れ率が将来は減少すると見込まれて. は0.123であり,これはきわめて低い数値とい. いるならば,この係数はマイナスになるはずで ある.そのような時期がサンプル期間に含まれ. うべきである.決定係数のみによって回帰結果 が判断されるべきではなく,どの程度の大きさ. ていれば,この係数のt値はさほど大きな値に. の決定係数ならば結果を信頼してよいかについ. はならないと考えるほうが自然であろう.この. て明確に定まった理論的な水準が存在するわけ. R2).
(13) 68. 横浜経営研究. (312) 表5. 間接償却額(貸倒引当金繰入額)にかんする回帰結果 LOAN(卜1. IDOFF,-i. 回帰式:. 第4号(1998). 第Ⅶ巻. DEF4ULTL .ハ. -α+β1. r⊥. LOANLt. pI. P2. P,. 0.024. 0.354. 0.280. a. o.o28. (i-14.829) (A <o.oo1). adOI,-l. .ハ. ` L∑..LOAN,・卜1. LOANi[. UNOI,-t '1LOANiE. P4 -. +e. .ハ. 'JLOAN[.t. Adj・. 0.010. (i-4.157). (i-5.693). (i-3・668). (i-10・276). (A <0.001). (A <0.001). (p <0.001). (A -0・783). R2. N. 0. 123. 334. (F-12・644) (p <O1001). でもないが,これまでのこの種の実証研究の結. それ以外は0とするダミー変数であり,. 果からすれば,ここでの回帰分析の結果は,千. DUM96は,. や慎重に評価しなければならない.本節の前項, 前々項で確認したとおり, 15年間のサンプル期. するダミー変数である.. 間のうちには,時系列的にみて大きな構造変化. が表6である.説明変数が増加したことにも起. があったとうかがわれ,そのことがここでの決. 因しているとはいえ,自由度調整後決定係数は. 定係数を低くしていると考えられる.そこで以. o.716とかなり高い.これは,ダミー変数をつ うじて, 96年度3月期の動向がうまくとらえら. 下,その点を回帰分析によって確かめてみよう・. 96年3月期は1,それ以外は0と. この(5)式による回帰分析の結果をまとめたの. れているためであろう12).以下,それぞれの. すでにみたように,いわゆる「バブル崩壊」. 係数について確認していこう.まず,貸出金の. 徳, 92年3月期以降は,さまざまな変数がそれ 92. までとは異なる動きを示していた.そこで,. 増加率の逆数にかかる係数は,きわめて小さな. 年3月期以降,間接償却額の決定にどのような. 負の値であり,それは統計的に有意ではない.. 変化が生じているのか,前述のような利益平準. これが有意な値とならないのは,税法上の限度. 化行動は「バブル崩壊」の以前と以後で同じよ. 額が下限としてしか機能していないためと思わ. うに観察されるのか否か,その点を確かめてみ. れるが,明確にはわからない.. (4)式に期間ダミー. なければならない.そこで,. つぎに,貸し倒れ実績にかかる係数のうち,. をくわえた次式の回帰モデルをもうけて回帰分. 92年3月期から95年3月期までの係数β3は. 析を行った11).. 10%水準で有意であるものの,マイナスの備に なっている.これは,この間,銀行は将来の貸. IDOFFiE L()ANil. LOANit_. -α十β1 '⊥. し倒れが実績とは反対方向へすすむと予測して. LOAN,.i. 十(β2十β3DUM92_96+. +. 1. β4DUM96). (β5+ P6DUM92___96+ β7DUM96). DEE4. いたことを意味している.すでにみたように,. ULTl. 本稿で利用したデータでは,この期間,貸し倒. ∑iLOANiEll. れ実績の率は減少していたから,銀行は,それ. adOIit. にたいしてしだいに貸倒引当金繰入額を増加さ. LOANil. せていったと解釈できる.他方, UNOIiE +. (P8+ P9DUM92_96+Pl.DUM96). 係数β4が比較的大きな正の値(1. +E L OANit. 96年3月期は, %水準で有. 意)をとっていることから,貸し倒れ率が上昇 ・5・. したのに応じて,より積極的に貸倒引当金を積 み増していたことになる.総じて,銀行は「バ. ただし,. DUM92_96は,. 92年3月期以降は1,. ブル崩壊」後に,. 「貸し倒れ率が将来は上昇す.
(14) 邦銀大手の債権償却(大日方 表6 ID. OFF[・L. LOAN)-I_ 'l. LOAN[E. DEFA. 1. +. 69. LOANzIL. (β5+ β6DUM92ー96十β7DUM96). β-. α. dOI,・/. (β8+ β9DUM92】96+. +. LOAN/・[. β2. β3. -0.000. -0.022. -0.116. 0A76. (i-0.241). (i--0.062). (i--0.561). (i--1.848). (i-5.884). (p-0.066). (p<0.001). β7. (A-0.575). P8. 1.038. β9. -0.015. β.。. (tニー0.040). (A <0・001). (A -0.968). UNOI[・/. +e. LOANi(. β5. β6. 0二045. O.699. (i-4.877). (p-0.368). (p<0.001). ・. (i-0.901). Adj. R2. N. 1.524. 0.716. 334. (i--0.062). (i-7.217). (F-84.795). (A -0.951). (A <0.001). (A <0.001). -0.024. (t=5,103). T]L. β1.DUM96). β4. 0.001. (A-0.951). UL. (P2+ P3DUM92_96+ P4DUM96) 'Ju)ー'一プLJUU''q⊥′)ー'▲プU'∑iLOAN[[1. \一乙■. a. (p-0.810). (313). 間接償却額(貸倒引当金繰入額)の回帰式に期間ダミーを入れた場合の回帰結果. 回帰式:∵-α+β1 +. 隆). ると予測して貸倒引当金繰入額を増加させてい. 利益ばかりでなく,特別損益も考慮して,貸倒. た」と解釈してよさそうである.. 引当金の繰入額を決めているといえる.この決 算期にはとくに強く利益平準化傾向があらわれ. 問題なのは,その貸し倒れ実績が間接償却額 にあたえる影響を除いてもなお,間接償却額が. ているようにみえる.. 利益の水準を考慮して決められているのか否か. しかし,本稿の分析結果からは,むしろ,ち. である.経常利益にかんする変数にかかる係数. う一方のことを強調しておかなければならない. をみてみると,. であろう.つまり,サンプル期間全体を一括し. 91年の決算期までの係数β5は. 統計的に有意ではない.つまり,その期間につ. て回帰分析をした場合,利益平準化行動を支持. いては,帰無仮説Holは棄却されない.それ. するような回帰結果がえられるものの,期間ダ. にたいして,. ミーを導入して回帰をしてみると,利益平準化. 92年3月期以降の係数β6とβ7は, 正の有意な値(いずれもlolo水準)になってい. 行動が支持されるようにみえるのは「バブル崩. る.. 壊」後の期間であり,それ以前の期間について. 92年3月期以降については,帰無仮説〃o1. は棄却される.また,. β7>0であることから,. は帰無イ反説は棄却されない.実証研究にとって. 「バブル崩壊」後は,経常利益を平準化するよ. は帰無仮説を棄却することはことのほか重要で. うに貸倒引当金繰入額を決定し, 96年3月期に. あるが,そうであればこそ逆に,帰寮仮説が棄. はその傾向をいっそう強くしたといってよいで. 却されないこともきちんと確認しておかなけれ. あろう.. ばならない.間接償却の額は利益の水準と有意. 一方,特別損益にかんしては,これまで間接 償却額とのあいだに有意な関係はみられなかっ. な関係をもたないという帰無仮説は, 期までは棄却されずに,. たが,ここでは,. てその帰無仮説は棄却されるというのが,ここ. 96年3月期にかかる係数β10. が1%水準で有意の正の値をとっている.この かぎりで,帰無仮説〃o2は棄却される.. 92年3月期以降におい. での分析結果のエッセンスである.. 96年. の決算期については,経常的な業務から生じる. 91年3月.
(15) 70. 横浜経営研究. (314). 第WI巻. (P12+P13DUMT+P14DUML+P15DUM96). +. Ⅴ. 第4号(1998). 分析の拡張 UNOIit. (6). +e. 5-1銀行業態による違い. LOANiE. 前節の分析では,都市銀行,信託銀行,長期 信用銀行がすべてひとまとめにされていた.し. ただし,. かし,債権償却にたいする姿勢は銀行の業態に. は0とするダミー変数であり,. よって違っているかもしれない.資金の調達と. 信用銀行は1,それ以外は0とするダミー変数. 運用のありかた,すなわち収益構造が違ってい. である.. DUMTは,信託銀行は1,それ以外 DUMLは長期. 貸倒引当金繰入額(間接償却額)にかんする. るならば,債権償却のやりかたに違いが生じな 「バブル崩 いとはかぎらない.周知のように,. (6)式の回帰結果をまとめたのが,表7である.. 壊」によって債権の不良化が生じたとはいって. 貸出金の増加率の逆数にかかる係数β1が有意. ち,個人の住宅ローンと企業向け融資とでは不. でないことは,前節の分析結果と同じである.. 良化の深刻度が異なっていようし,貸出金に占. また,貸し倒れ実績にかかる係数は,. める企業向け融資の比率などの債権ポートフォ. 期についてのみ,正の有意な値となっている以. リオも銀行業態によって異なるであろう.むろ. 外,統計的に有意な係数はえられていない.. ん,それは各行によって千差万別であろうが,. 年の決算期から95年の決算期についての係数が. さしあたり,都市銀行,信託銀行,長期信用銀. 有意な値にならないのは,この間,銀行が貸し. 行の3つにわけて,前節の回帰分析を応用して. 倒れ実績をまったく無視して債権の償却処理を. みるのがここでの課題である.. していたためか,あるいは,そもそも,この貸. 96年3月 92. し倒れ実績にかんする変数そのものにノイズが. 本稿では,信託銀行と長期信用銀行について. ダミー変数を利用して,帰無仮説が棄却できる. 含まれているためかもしれないが,正確にはわ. かを調べることにした.ただし,特別損益項目. からない.. 本稿が着目している経常利益にかんする変数. にかかる係数については,前節の分析で92年の 決算期から95年の決算期にかけては有意な結果. にかかる係数について,表7は,じつに興味深. が得られなかったので期間ダミーを使わないこ. い分析結果を示している.. とにした.また,. 期にかけての係数は,都市銀行β5,信託銀行. 96年3月期にも銀行ダミーを. 82年から91年の決算. もちいると係数推定のためのサンプル数が極端. のダミーβ6,長期信用銀行のダミーβ7,すべ. に少なくなるので,. てについて有意ではなく,帰無仮説〃o1は棄. 96年3月期には銀行ダミー. を導入しない.回帰モデルはつぎのとおりであ. 却できない.これは,前節の分析結果と同じで. る.. ある.また,. 96年3月期にかかる係数β11は正. の有意な値(1%水準)となっている.ここに LOANit_. IDOFF,.i LOANLIL. -α+β1 '⊥. おいて帰無仮説〃o1は棄却される.ここまで. 1. LOAN,・E. は前節の分析結果に付加されるものはないが, DEEA. +. +. (P2+ P3DUM92_96+. P4DUM96). UL. Tt. LOANz-ill ∑L-. 興味が惹かれるのは,. 92年から95年の決算期に. かけての係数である. 92年から95年の決算期について経常利益にか. (P5+ P6DUMT+P7DUML. かる係数は,いずれの係数も少なくとも5%水 +. P8DUM92_96+. 準で有意であり,帰無仮説〃o1はここでも棄. P9DUM92196DUMT. 却されるが,問題はその係数の符号と大きさで +. Pl.DUM92∼,6DUML+. PllDUM96). adOIit L OA. N,.I. ある. 92年から95年の決算期にかけて,都市銀.
(16) 邦銀大手の債権償却(大日方 表7 IDOFFz・[. 回帰式:. LOANz.t. '. 1. (315). 71. 銀行業態による回帰係数の違い DEFA. LOAN,・卜1. -α+β1. 隆). + LOAN,-I. +. (β5+ β6DUMT+. +. β10DUM92_96DUML+. (P2+ P3DUM92_96+. P4DUM96). β7DUMI,十β8DUM92196+ a. β11DUM96). UL. Tz・z. ∑′LOANi卜1. β9DUM92-96DUMT. dOI,.I. LOANi[. UNOI,.I +. (βI芝+ β13DUMT+. βl. α. 0.002. -0.000. (i --0.132) (A -0.895). β7. (i -0.575) (A -0.566). β-。DUMI_+. β2. β8. +E LOAN,・,. β4. β3 0.061. 0.279. (i -0.955) (A -0.340). (A <0・001). -0.018. (i- -0.528) (A -0.598). β.5DUM96). β9. (i-3.959). βl。. β‖. -0.022. -0.383. 1.008. 0.447. 1.562. (i--0.237). (i--2.140). (i-8.582). (i-2.436). (i-8.846). (A -0.812). (A -0.033). (A <0.001). (A -0.O15). (A <0.001). P14. P15. Adj.. R2. 0.234. 2.605. 0.803. (i -0.199) (♪=0.842). (i -7.651) (♪<0.001). (F-91.486). β5 -0.054. (i- -0・601) (A -0・548). β6 0.078. (i =l・328) (A =0・185). β13. β12 1A52. (i--4.687) (A <0.001). 1A35. (i-4・631) (A <0・001). N 334. (♪<0.001). 行の係数はβ8であり,信託銀行および長期信. うにみえる.いわゆる「ウミヲダス」ように,. 用銀行のダミー変数にかかる係数は,それぞれ. 債権を償却したと解釈できよう.. β9, β10である.表10は3つの係数の符号と. いない(unexpected)債権償却は,悪いニ. 大きさについて,つぎの関係を示している.. β8< 0<β8+β10<β8+β9 これより,信託銀行と長期信用銀行は,この. 「予測されて. ュース(BadNews)として市場で受けとめら れる」ことが銀行と投資家の共通知識であると き,業績が悪化したときに債権を償却してしま うのは,それなりに合理的なのかもしれない.. 期間において利益を平準化するように間接償却. そのような債権償却のやりかたが,どのような. 額を決めていたことがうかがわれる.とくに信. 意味で合理的であるのかを探ることは本稿の主. 託銀行の場合はその係数がきわめて大きく,刺. 題ではないのでこれ以上立ち入らない.ともか. 益を平準化する傾向が強かったようにみえる.. く,これまでの実証研究でも指摘されていると. それとは対照的に,都市銀行にかかる係数は. おり,. 「業績が悪化したときに債権がより多く. この間,マイナスの値になっている.つまり,. 償却されるケース」が,日本の一部の銀行につ. 業績が悪化したときほど,利益の減少を増幅さ. いて観察できたことは強調しておいてもよいで. せるかのように貸倒引当金を積み増していたよ. あろう..
(17) 72. 横浜経営研究. (316). つぎに,特別損益にかかる係数の回帰結果を. 確かめてみよう. 96年3月期の係数が非常に大. 第Ⅷ巻. 第4号(1998). ここでの目的である.. 本稿では,貸倒引当金繰入額について,それ. きな正の値をとり,それが1%水準で有意であ. を控除する前の経常利益を貸出金残高で除した. ることは,前節の分析結果と変わらない.ここ. 変数を説明変数としている.そこで,その変数. での分析結果が浮き彫りにしているのは,それ. について小さい順からサンプルを並べたうえで,. 以前の期間において,都市銀行と長期信用銀行. 最大と最少のサンプル各1個を除外して,. は類似しているのにたいして信託銀行は特異で. ずつの4つのグループにわけた.. β12<0. あるという点である.表7によれば, であるものの,. β12+β13はほぼゼロであり,. 83個. 1番目のグ. ループは,その収益性(貸出金1円当たりの間 接償却費控除前経常利益)がもっとも低いグ 4番目はそれがもっとも高いグ. β14は有意ではない.つまり,都市銀行と長期. ループであり,. 信用銀行は同じように行動し,それは,特別損 益が小さければ間接償却額を増加させ,特別損. ループである.各グループに属するサンプルの 分布を示したのが表8であり,表9は記述統計. 益が大きければそれを減少させるという行動で. 量である.. ある.前述の「ウミヲダス」ような償却政策が. 上記のグルーピングのもと,. 2番目以下のグ. とられていたとみられる.都市銀行と長期信用. ループに,ダミー変数DUMkQを割り当てる. 銀行にかんして,帰無仮説〃o2は棄却される. (A-2,3,4).たとえば,. ものの,本稿の分析期間において,利益平準化. グループは1,それ以外は0とするダミー変数. とは逆の行動が観察されることに注意しておき. である.それらのダミー変数をもちいて,つぎ. たい.. の回帰モデルをもうけた.. それにたいして,信託銀行については,帰無. 仮説Ho2は棄却できか、13).. β12+β13がほぼ. L()ANiE_-. IDOFFt・l LOANt.i. DUM2Qは2番目の. n. .. -α+β1. 'L∑,-LOANzl-i. LOAN,・L. ゼロだからである.すでに述べた分析結果とあ +. (P3+ P4DUM2Q+. れているものの,特別損益の水準を考慮して貸 L倒引当金の繰入額を決めていないように思われ. +. β6DUM4Q)-. る.都市銀行および長期信用銀行と比べたとき. +. (β7十β8DUM2Q+. +. β1.DUM4Q). わせると,信託銀行は,間接償却費を除いた経. DEEAULTz・E. P5DUM3Q. 常利益を平準化するように貸倒引当金を繰り入. の信託銀行の相対的な特異性が措きだされたこ. β9DUM3Q. UNOI,・t. とになる. 5-2. adOIit LOAN,-I. LOAN,・E. 収益性の高低と線形性 ここまでは,分析期間による違いにくわえて,. 表10は,. (7)式による分析結果である.経常利. 銀行の業態による違いに着目してきた.そこで. 益にかんする変数の係数について,第1グルー. は,対象とされた期間なり,業態なりで,いず. プのβ3と,第2グループのダミーのβ4はいず. れにしても利益の説明変数と債権償却額の被説. れも統計的に有意ではなく,この2つのグルー. 明変数との関係は直線的な関係であると仮定さ. プにかんしては帰寮仮説〃o1は棄却できない.. れていた.ここでは,その線形性について追加. それにたいして,第3グループのダミーにかか. 的なテストをする.すなわち,説明変数の大き. る係数β5と第4グループのそれβ6は,それぞ. さによって,銀行サンプルを4つのQuarterに. れ10%水準,. わけたとき,それぞれのQuarterで同じような. プラスの備になっている.これら2つのグルー. 係数の大きさになるのか,それを確かめるのが. プでは帰無仮説〃o1は棄却される.結局,収. 5%水準で有意であり,いずれも. (7).
(18) 邦銀大手の債権償却(大日方 表8 昨. CO. 4. 血. l■l一口. Q h--h .=. lu】-■以. 0U3. 4. 午. 84. 8. 午 5. Q. 6. 6. ー1. 8. 7. 6. s. ー. oT 叫. 5. 1. 2. 表9. 85年. 86年 87年 6. 7 .4. 88年. 89年. 12. 13. 7. 5. 10. 5. CO. 4. 3. 4. 2. 2. ー0 2. 90年 91年 92年 93年. LOANL[M Nzlz. DEFA. ∑. UL. LOAN,.ト1 ,. a. dOI,.I. LOAN,I. ー. 1. 3. 6. 4. 4. 3. 5. 1. 4. 5. 10. 6. 3. 1. 2. ー2. 15. 9. 2. 9. 7. TL. UNOIzIL. 1ー. 3r(i. 2n(1 Q. Q. 4th Q. 0.00070. 0.00301. 0・001. St.Dev,. 0.00655. 0.00184. Median. 0.97923. 0.90698. 0.89826. 0.86412. Average. 0.96752. 0・92165. 0・91 159. 0.86691. St.Dev.. 0.05228. 0.05817. 0.07471. 0.08782. Median. 0.01874. 0.02114. 0.01957. 0.01830. Average. 0.01918. 0.01882. 0・01745. 0.01568 0.00786. 16. 0.00095. 0.00153. 0・00296. 0.00523. 0.00776. 0.01237. St.Dev.. 0.00554. 0.00691. 0.00680. Median. 0.00523. 0.00758. 0.01026. 0.01668. Average. 0.00467. 0・00764. 0・01033. 0.01840. 0.00207. 0.00063. 0.00094. 0.00559. St.Dev. Median. 0.00007. 0.00004. -. O・00039. -0・00015. -. Average L OA. 0. 6. 1. L OA. 96年 TOTAL. 2. 0.00 128. Average. LOANz.i. 95年. 収益性の高低にしたがって並べたときの記述統計量. Median. OFFit. 94年. 8. ∩プ. 1st Q. ID. 73. 収益性の高低にしたがって並べたときのサンプルの分布. 2 nd Q. 3. (317). 隆). N,・t 0.00227. St.Dev.. 0.00106. -. 0.00009. -0・00001 0.00098. -0.00022 -0.00021 0.00081. 益性の低いグループでは債権の間接償却にさい. 強調しておくべきことは,ひとくちに利益平準. して経常利益の平準化を意図していないのにた. 化といっても,収益性の高低によってそのあら. いして,収益性の高いグループでは利益平準化 を意識して貸倒引当金を繰り入れているように. われかたが異なること,収益性がより高いほど. 利益平準化傾向が強く(β5<β6),間接償却費. みえる.. 控除前の経常利益と間接償却額との関係は単純. この結果については,収益性が低いときに利. な線形関係ではないという点である.. 益平準化の観点から債権償却額を減少させよう. 一方,特別損益にかんする係数はより複雑な. としても,税法上の限度額が下限とされている. 様子をみせている.第1グループにかかる係数. ためにそれほど償却額を減らすことができない. は,. とも解釈できるであろう.ただ,本稿の分析の. グループの係数も同じである.ここでは帰無仮. 範囲内でそれを確かめる手だてはない.ここで. 説〃o2は棄却される.第1グループは特別損. 1%水準で有意なプラスの値であり,第4.
(19) (318). 74. 横浜経営研究. 表10 IDOFF,IE .. 回帰式:. LOANL-E. `. DEFAULTiL. 'L∑,.LOAN,ー1. LOANIIE +. 第4号(1998). 収益性の高低による回帰係数の違い. LOANL-L11. ^. -α+β-. 第Wq巻. (β3+ β4DUM2Q+. β5DUM3Q+. dOIz・E. a. β6DUM。Q). L OA. N/-I. UNOI[. +. α. -. 0.024. (t=-4・399) (♪<0・001). β1. (i-4・229). (i-5.880). (♪<0・001). (♪<0.001). 1.246. -2.143. (t=3・502). (i--2・668). I. +∈. LOAN/・/. β。. 0.328. β5. 0.043. (i--1.011). P9. (A -0・008). β1。DUM4Q). β3. 0.333. P8. β9DUM3Q+. β2. 0.023. P7. (A <0・001). (β7+ β8DUM2Q+. β6. 0.376. 0.614. (i -2.363) (A <0.019). (i-0.219). (i-l,747). (♪-0.313). (♪-0.827). (p =0・082). P... Adj. R2. N. 332. - 1.101 (tニー1.290). 5.201. 0.282. (i-5.103). (F-14.006). (p -0.198). (p <0.001). (A <0.001). 益の多寡に応じて貸倒引当金の繰入額を決める. うに貸倒引当金を積んでいる.収益性のもっと. という利益平準化行動を示しているが,収益性. も高い第4のグループでは,経常利益と特別損. がもっとも高い第4グループはその傾向がより. 益の両方のレベルで利益を平準化するように間. 強いように思われる.それにたいして,第2グ. 接償却額を決めている.分析結果はこうした行. ループのダミー変数にかかる係数は1. 統計的に有意であるが,. %水準で. β7十β8<0となって. 動の存在を示唆しているが,あくまでもそれは 回帰結果からの推論にすぎない.ここでは,刺. いる.このグループに含まれるサンプルでは,. 益の水準と貸倒引当金繰入額とは必ずしも単純. 特別損益が小さければ間接償却額を増やす行動,. な線形関係ではないことを確認しておきたい.. すなわち利益平準化とは逆の政策がとられてい Ⅵ. るようである. ここで,間接償却費控除前の経常利益と特別. ぁわりに. 本稿は,日本の都市銀行,信託銀行および長. 損益とが正の相関にあったこと(表4)を想起. 期信用銀行をサンプルとし,. して結果をまとめておこう.収益性の1番低い. 96年3月期にわたり,債権の償却額と経常利益,. グループは利益の水準とは無関係に貸倒引当金. 特別損益との関係を分析した.一般には漠然と,. を積んでいる. 2番目のグループは,経常利益. 銀行は利益を平準化するように債権を償却して. のレベルでの平準化はみられないが,特別描益. いると思われているが,経常利益にかんして利. の大小とは逆に貸倒引当金繰入額を増減させて. 益平準化仮説が支持されるような分析結果がえ. いる.これは,悪いシグナルを集中させること. られたのは,. によって,そのマイナスの影響を緩和させよう という政策かもしれない.収益性の比較的高い. 降であった.しかも,銀行業態別にみると,そ. 第3のグループは,特別損益の水準は問題とせ. ていたのは信託銀行と長期信用銀行であり,む. ずに,経常利益のレベルで利益を平準化するよ. しろ都市銀行は,業績が悪化したこの時期に利. 82年の3月期から. 「バブル崩壊」後の92年3月期以. の期間に利益を平準化するように債権を償却し.
関連したドキュメント
大学設置基準の大綱化以来,大学における教育 研究水準の維持向上のため,各大学の自己点検評
(( . entrenchment のであって、それ自体は質的な手段( )ではない。 カナダ憲法では憲法上の人権を といい、
第124条 補償説明とは、権利者に対し、土地の評価(残地補償を含む。)の方法、建物等の補償
※証明書のご利用は、証明書取得時に Windows ログオンを行っていた Windows アカウントでのみ 可能となります。それ以外の
それは10月31日の渋谷に於けるハロウィンのことなのです。若者たちの仮装パレード
東京都環境局では、平成 23 年 3 月の東日本大震災を契機とし、その後平成 24 年 4 月に出された都 の新たな被害想定を踏まえ、
「世界陸上は今までの競技 人生の中で最も印象に残る大 会になりました。でも、最大の目
○「調査期間(平成 6 年〜10 年)」と「平成 12 年〜16 年」の状況の比較検証 . ・多くの観測井において、 「平成 12 年から