仙台巾立病院医学雑誌 6(1) 51
看護レポート
ICUにおける高齢者看護の問題点
成瀬智恵子,小形徳子,二瓶洋子
はじめに
平均寿命の延長と共に総人口の中に占める高齢 者の比率が高くなり,社会はすでに高齢化を迎え ている。最近,高齢者の手術の適応範囲が広がり, また内科的にも高齢者に積極的な治療が加えられ るようになり,ICUに入室する患者のうち高齢者 の占める割合が増大してきた。 当院ICUにおいても昭和56年9月開設以来, 昭和57年1月から昭和60年4月までの入室患者 総数378例中104例(27.5%)は65歳以上の患者 であった(表1)。そこで,私達はICUに入室した 高齢者の看護の問題点について,最近経験した2 症例を中心に検討してみた。 表1.入室患者数(1982.1∼1985.4)378名 65歳以Ei…104名(27.5%) ( )内% 気管内挿管患者数 気管切開 患者数 二疾患以上を 持つ患者数 年齢 入窒鯖数 14B以下 14日以上 65∼69 (7.1)27 9 (33.3) 8(29.6) 5 (18.5) 5 (18.5) 70∼79 63(16.7) 30 (47.6) 6 (9.5) 4 (6.3) 16 (25.3) 80以上 (3.7)14 1(0.7) 1(0.7) 2 (14.2) 4 (28.5) 症例および経過 症例1(図1) 患者名 T.O.男性 68歳 既往歴 特記すべきものはない。病名 食道癌ICU入室期間 昭和59年10
月22日∼10月29日. 食道癌根治術後,17時50分経鼻挿管され入室。 人工呼吸器サーボ900Bに装着し,翌朝9時まで 人工呼吸を行った。 第2病日の11時気管内チューブ抜管。その後一般 状態は特に問題なく経過したが,精神的にやや興 奮した状態で,夜間に不眠,不穏状態となり,鎮 静剤を使用したが,早朝6時頃再度,不穏状態と なり胃管を自己抜去した。その後も看護婦や家族 がくり返し説明を行なうが,興奮した状態が続き 治療に対する協力が得られなかった。 第4病日,胸部X線写真上,右下肺野に無気肺 が認められ,IPPBと体位交換により喀疾喀出に 務めたが,無気肺の改善はみられず再挿管をし,積 極的な肺理学療法を行なった。この頃より,処置 に対して協力的な態度がみられ,精神的には落ち 着いてきた様子であった。第6病日,気管内チュー ブ抜管,第8病日,全身状態良好で退室した。 症例2.(図2) 患者名 T.1.男性 86歳病名 急性肺炎ICU入室期間 昭和59年10
月24日∼11月20日
左脳梗塞にて自宅療養中に呼吸困難,チアノー ゼ出現し急患室に運ぼれてきた。胸部X線写真で 右無気肺,急性肺炎がありICUに入室した。 入室時の意識レベルは20∼30(3・3・9度方式) 右半身麻痺あり,全身の関節に拘縮がみられた。 竈倒1) 仙台市立病院ICU 図1. Presented by Medical*Online52 症例2) 図2. 直ちに気管内挿管され,気管支洗浄が行なわれ た後,人工呼吸器ベネットMA−IIを装着した。呼 吸音は右肺野弱く,全肺野に喘鳴音著明であった。 第2病日,人工呼吸を中止しT型チューブに切り 替えられた。同時に,胃管が挿入され経管栄養が 開始された。第3病日,IPPBを開始した。喀疾量 が多く頻回の気道内吸引を行なった。第20病日, 気管内チューブ抜管したが,咳蛾反射が弱いため 頻回に気道内を吸引し,咳噸を誘発して自力で喀 出できるように努めたが,自力では喀出が困難な ため,第23病日に気管切開を施行した。第28病 日,気管カニューレ挿入のまま一般病室に転室し た。 看護の問題点とその対策 これらの代表的な2症例の経過から高齢者看護 の問題点をまとめてみると,以下の如くである。 1) 自分のおかれている状況が十分に理解でき ない。 2)病状が悪化しているにもかかわらず,自覚 症状に乏しく,治療に対して協力が得られない。 3) 喀疾喀出が極めて困難である。 4) 感染を来しやすい。 5) 肺・循環・腎・肝臓などの合併症を起しや すい。 これらに対する対策として,以下のように行っ た。 1)と2)に対しては,患者一人一人の理解力に 合わせて,質問や情報の提供はできる限り簡単な 言葉にして,説明を何度もくり返すことが必要で あった。面会時間を多くして,患者を励ましても らうなど,家族への協力を求めた。また,言葉だ けでなく,スキンシップをはかり不安の除去に努 めた。それでも,不安の強い患者,精神的に落ち 着きがみられない患者には,早めに鎮静剤を使用 した。 3)に対しては,肺機能の低下,咳漱反射の低下 があるので,頻回の気道内吸引・IPPB・ウルトラ ソニックネブライザー・体位交換・バイブレーター などによる肺理学療法を積極的に行なった。 4)に対しては,口腔内清拭,全身清拭を行ない 全身の清潔を保ち,また,高カロリー輸液や経管 栄養により栄養状態を良好にし,体力の保持増進, 感染に対する抵抗力をつけることも重要であっ た。 5)に対しては,患者の観察を綿密に行ない,血 液ガス,胸部X線写真,心電図,血圧モニター, 肝・腎臓などの検査データーをチェックした。 考 察 高齢者の看護といっても,他の年齢層の患者 の看護と基本的に変わりはないが,加齢に伴う身 体的・心理的な特性を十分に理解しておく必要が ある。ICUにおいては,気管内挿管され声が出せ ない患者が多いために意志の疎通が思うようにい かないことや,人工呼吸器や種々のME機器その 他の見慣れない機器に囲まれること,高度の安静 を強いられたりすることなどの特殊な環境の中 で,不安や恐怖感から興奮状態,さらには不穏状 態に陥ってしまうことは,どの年齢層の患者にも みられることである。 しかし,高齢者の患者の場合,その急激な環境 の変化に対する精神的対応が若年者より遅く,外 界の変化はストレスとなりうつ状態や痴呆状態へ と進展:してしまうことが多いと,いわれている1)。 それを防ぐためには,高齢者の特性を十分に理解 するだけでなく,家族関係や生活習慣,人生経験 など複雑多様な高齢者の背景をできる限り正しく 把握し2),援助しなけれぽならない。特に問題点 Presented by Medical*Online
53 1),2)に関しては若年者より記憶力の低下,適応 能力の低下があるために著明に起こるので,患者 に処置や検査などの説明をし協力を求める際に は,看護婦のペースではなく,各患老のペースに 合わせて行なう必要がある。看護婦の説明が患者 によく伝わるようにするには,高齢者では看護婦 の努力と根気が若年者以上に必要であることを強 く感じた。 また,高齢者は単一臓器だけでなく,多臓器に 疾患を持っている場合が多く,身体各機能の予備 能力も低下しているために思わぬところで病状が 急変したり,心不全や腎不全,肺炎などの合併症 を起しやすい。患者の訴えだけに頼らずに,注意 深い観察を行うことも重要であった。 これらのことより看護の要点をまとめてみる と, 1) 患者一人一人の理解力に応じた説明をくり返 す。 ︶︶\ーノ︶︶