石 田 昌 夫
Masao ISHIDA
An Approach by Tax Principles to Multiple Consumption Tax Rates
消費税の複数税率に関する租税原則論的接近
1.はじめに
新聞の公共性に関する研究会は,「新聞への消費税軽減税率適用に関する意見書」 において,次のような見解を表明している1),2)。すなわち,同研究会によれば,「新聞 に消費税軽減税率を適用することが日本の誇るべき文化の維持と民主政治の健全な機 能によって不可欠である」とされる。同研究会では,その見解を導出するに至る次の 背景を記述している3)。 (1) 「新聞は,国の内外で日々発生しているニュースや情報を正確かつ迅速に人々 に伝達するとともに,多種多様な意見ないし評論の提供を行っている 」。 この点につき,今日では,人々はこれまでとは異なり,さまざまなニュース や情報を,パソコンやスマートホンなどの情報機器から,インターネットで迅 速かつ手軽に入手していると考えられる。この論点につき,同報告書は,新聞 の優位性を,①インターネットのニュース記事の主なものは新聞記事が母体と なっていること,②新聞社の発行している電子新聞は,新聞社の編集過程を経 ていることから,信頼性が高いこと,③情報を相互に関連づける総覧性を持つ ことに求めている。 (2) 日本の識字率の高さが,教育の普及と新聞を読む習慣によって支えられてお り,これが新聞を支える基盤となって,諸外国に比して高い定期購読者比率を もたらしている。このことは,日本の誇るべき文化であり,わが国が今後とも 西欧並みの高い民主主義を維持・発展させていくための要因となっている。(3) 新聞には,法制上もさまざまな優遇措置が認められている。裁判の際の,取材 源の証言拒否,他人の著作物を著作者の許諾を得ずに利用できるなどの著作権 の特例,選挙期間中における選挙に関する自由な論評を認める公職選挙法など が例示される。これらの他,郵便法による第3種郵便物の認可を得ることでの 安価な郵送料適用,司法記者クラブ所属の記者が法廷内でメモを取ることが認 められること等が,新聞が社会および民主政治にとって特に重い役割を果たし ていることの証しとされる。 (4) 欧州諸国では,付加価値税(VAT)において,新聞にゼロ税率(イギリス,ベル ギー,デンマーク,ノルウェー)あるいは軽減税率(欧州諸国のほとんど)を適 用している。新聞を優遇する理由は,「知識には課税しない」,「フランス語を 守る」,「日刊新聞紙上の多様性を維持するため経済的基盤の弱い新聞社を助成 する」など様々である。 これらの背景を踏まえ,さらに,文部科学省が後援している NIE(教育に新聞を)の 事実や,新聞価格が高騰した場合には購読をやめる層が無視できない数存在するとい う実情から,同研究会は,「新聞への消費税軽減税率適用が不可避である」との結論を 出すに至っている。同研究会の判断では,新聞に軽減税率を適用することによる税収 減よりは,日本の文化と民主政治の水準を維持する利益が多大であるとされる。 日本スーパーマーケット協会も,2014年7月に,消費税引き上げ問題に対して,中 間報告書を発表している4)。 同中間報告書で,佐藤(2014)は,消費税の逆進性に関する注意点を述べている5)。 論点は次の3つである。 (1) 逆進性とは,低額所得層ほど税負担が高くなることではない。これは逆進性に 関する初歩的な言葉の誤用である。消費は所得とともに増加し,消費税額は消 費に比例して課されることから,税負担は,所得の増加とともに増えていく。 すなわち,高額所得者ほど消費税負担額は大きくなるのである。逆進性の正し い意味は,所得の増加とともに,所得に占める税の負担割合が小さくなること である。 (2) 消費税による税収の使途を考慮する必要がある。消費税の税収が社会保障的 な,低所得者層に向けられるものであれば,財政の再分配機能は果たされてい るといえる。再分配の機能は,負担と給付一体で考慮されるべきものである。 (3) 所得の意味が問題である。通常,所得は年間の意味で使用される。この意味で は消費税は逆進的である。しかし,所得を生涯所得の意味で捉えると,勤労期 の貯蓄は退職期の消費として支出されるので,生涯所得は人生のいずれかの期 間に消費されることになる。消費税額は消費に比例することから,生涯で見れ
ば,消費税は比例税に近いといえる。 同稿においては,所得の一部が相続・贈与に回される可能性も考慮されており,こ の場合の,相続・贈与税での補完にも言及されている。 本考察で述べたいのは,同稿が論じている軽減税率の問題点についてである。すな わち同稿においては,軽減税率は次のような問題点を持つことが示される(筆者によ る要約に若干の敷衍を施している)。 (1) 逆進性対策としての効果が薄い。軽減税率が適用された商品は,高額所得者に も消費されるからである。消費額で見れば,消費が通常所得とともに増加する ことから,金額では軽減税率の恩恵はむしろ高額所得者に多く及ぶこととな る。 (2) 軽減税率を適用する商品の選別が困難である(同稿では,基礎的食料品の例を 挙げ,客観的な線引き基準を求めることの難しさが論じられている)。 このことは,軽減税率の対象が基礎的食料品に限られるということを意味す るわけではない。仮に生活必需品一般を軽減税率の対象にしたとすると,線引 きの困難さはさらに増加する。高齢者にとっては,杖や老眼鏡は生活の一部で あろうし,寒冷地においては,厚手のコートや灯油が日常生活に欠かせない。 公共交通網の発達していない地域では,自動車ですら必需品である可能性が高 いといえる。 (3) 軽減税率は長期的には,わが国経済の高付加価値化を阻害する可能性をもつ。 この論点には若干の説明が必要と思われる。同稿では,ある商品に軽減税率が 適用されることにより,家計の消費が標準税率の賦課される商品から軽減税率 適用の商品への代替が起きるとされる。企業は販売促進のために,高品質で高 価格の商品開発をするよりは,質を下げてでも軽減税率が適用される商品の開 発に注力するであろうとの推論を立てているのである。 以上のことから,消費税増税の折に軽減税率を導入すべきかどうかという問題に は,ぜひとも導入すべきであるとする論と,軽減税率には多くの難点が存在するとい う,まったく正反対といってよい見解が表明されており,しかも,それぞれに妥当と 思われる論拠が用意されていることが分かった。次節において,軽減税率の長所と短 所の双方について,それぞれに詳細な検討を加えることとする。
2.複数税率の長所と短所
複数税率の可否については,これまで多くの論者によって議論されてきた。本稿に おいては,軽減税率導入必要論と否定論の双方につき,これまでに論じられてきた主 要な根拠を整理して掲げるとともに,若干の敷衍を試みたい6)。2.1 複数税率の長所・意義
(1) 垂直的公平の観点から,低所得層に集中しそうな財・サービスに軽減税率を適 用して,負担を緩和する7)。 逆進性の緩和も,ここに含められよう。生活必需品(食料・光熱・上下水道 など)に軽減税率,高級品・奢侈品に割増税率を適用すべきであるとの見解は, 導入論の定番的存在である8)。 (2) 特定の産業を振興するため,その産業の財・サービスに軽減税率を適用する。 一国の伝統・文化を維持する,母国語を守る等の例が挙げられる。 (3) 価値財の消費を奨励する9)。 この論を敷衍すると,負の価値財には割増税率を課すべきこととなる。 (4) 経済弱者向けの商品に軽減税率を導入することにより,標準税率を上げること への抵抗感が小さくなると考えられる(金井(2014))。これは財政赤字の縮小 あるいは社会保障費の増加などに対応するための増税の実行を容易にすると予 想される。これは,いま現実に起きようとしている事態かもしれない。 (5) 「所得を生涯で見れば,生涯を通しての消費税額は生涯所得にほぼ比例する」こ とから,消費税は逆進的ではないとする見解への反論10)。平均税率が同一であ るから公平とは言えないのである。 この論には考えさせられる。比例税は垂直的公平性(異なるものへの異なる 扱い)を満たさないことは明らかである。所得水準の異なる家計に同一の税率 を求めるからである。それでは水平的公平性(等しい者の等しい扱い)につい てはどうであろうか。生涯所得の等しい家計どうしが,生涯に同額の消費税額 を負担するのは,確かに水平的に公平性といえるであろう。ここでは,生涯所 得の異なる家計のことを問題にしているのであり,水平的公平性の前提を満た しているとは言えないのである。一般論として言われている「比例税は水平的 に公平である」との命題は,水平的公平性という言葉の定義からすると,基本 的に真とは言えないのでないか。 この論を通して,水平的公平性という言葉の意味を改めて考えさせられる。 所得税と消費税の長短比較で通説とされているような,所得税は垂直的には公平であるが,水平的には公平でないという表現は正しいと思われる。ここまで は問題ないとして,さらに積極的に,比例税は水平的には公平であるとは主張 できないことになる(これは,たんに筆者の不明を表明しただけのことかもし れない)。 (6) 奢侈品に割増税率を適用することにより,消費税に再分配的な累進性をもたせ ることができる11)。 確かに,世には自家用機,高級装飾品等,誰が見ても奢侈品と思われる商品 が存在し,こうした商品に高率の税を賦課することにより,税収増も見込める かもしれない。ただ,奢侈品かどうかの線引きの困難さ,奢侈品が,需要の価 格弾力性が大きいこととされることから,実効的な累進性や税収増が実現する かどうかは定かでないかもしれない。 (7) 「生活必需品に軽減税率を導入する」ことが「社会保障の及ばないワーキングプ アーといわれている若者に効果をもたらす」(粕谷(2008))。 (8) 「需要が弾力的であるものにはより低い税率を,需要が弾力的でないものには より高い税率を適用することにより」,「効率的な税収確保が見込める」(西山 (2004))。 これは西山(2004)によって指摘されているように,いわゆる「逆弾力性の 原則」である。 逆弾力性の原則は,商品課税において,租税賦課による超過負担が最小とな る条件を求めることから導き出される結果であり,効率性の観点からは評価さ れている。 (9) 「生活必需品である食料が安く買えるという直接性」が納税者にとって分かり やすい(藤曲(2012))。 実に明快である。家計にとっては,たまに購入する衣類や家財道具などが消 費税増税によって何%か値上がりすることよりも,毎日購入する食料が軽減税 率により値下がりすることは,生活実感としてありがたいであろう。衣類や家 財道具などはバーゲンで値下げされたときに買っておけばよいのだから。 (10) 外部費用をもたらす消費財に高い税率を課す(西山(2011))。 これはピグーの税・補助金方式として知られる考え方である。外部不経済を もたらす企業(あるいは産業)にピグー税を課せば,当該企業の限界費用が増 加することから均衡生産量が減少して社会的余剰が増加するとされる。同じ論 法で,外部経済をもたらす企業(あるいは産業)には補助金を交付する,いまの 場合には軽減税率を適用することにより,社会的余剰が増加することになる。 (11) 消費税法の規定により,「性格上課税対象とならないもの」,「特別の政策的配 慮に基づくもの」が非課税の対象とされている12)。 国立国会図書館調査及び立法考査局(2013)に,非課税の対象と根拠が詳説
されている。以下にその一例を示す。土地の譲渡及び貸付け,有価証券,支払 い手段の譲渡は,消費の対象というよりは単なる資本の移転と考えられるた め,非課税とされる。郵便切手,印紙,証紙,商品券等の譲渡は,元来の財・サー ビスに消費税が課されているので,これらに税を課すと二重課税となる。登 記,登録,公文書の交付,裁判の手数料等の行政サービスは,消費とは考えにく い。出産費用,火葬・埋葬料,入学金,教科用図書の譲渡,在宅サービス,個人 に対する住宅の貸付け等は,政策的配慮により非課税とされている13)。 (12) 「人が最低限の生活を営むのに必要なものには税をかけない(あるいは軽減する)」 という点を重視すると,高所得者にもその恩恵は及ぶべきであるとされる14)。 (13) 「逆進性緩和のために購入者の所得を把握する必要がない」15)。
2.2 複数税率の短所
(1) 競争中立性を阻害する16)。 ミクロ経済学の基礎で,消費者は,消費者の限界代替率(消費者の主観的満 足度から決まる,消費の限界効用の比率)が商品の価格比と等しくなるように 財の選択を行うことが最適であると示されている。財の種類によって税率が異 なる場合,消費者の最適行動に税による歪みが生じてしまう。これが中立性を 損なうといわれることの意味である。 (2) 軽減税率の対象商品選定に際して,業界からの政治的圧力が加えられる17)。 例えば工業製品の場合,あらゆる部品に1%の原価圧縮が求められるほど熾 烈な競争が日々展開されている。標準税率が 15%のときに当該商品に 5%の 軽減税率が適用されれば,税込み価格では1割引と認識されることになり,代 替財に比して競争上圧倒的に優位な立場に立つ。 こうしたことは,政治的不祥事の源泉となりかねない。 (3) 何らかの社会的・政治的理由で,ある商品に軽減税率が適用されたとすると, これらの事情が消滅・緩和されたとしても,軽減税率を標準税率に戻すことは きわめて困難である18)。 (4) 軽減税率を導入すると,その分税収が減少する。このことは,標準税率の引き 上げもしくは必要とされる財政支出の抑制をもたらすことになる19)。 (5) 再分配のための政策が,有効に機能しない20)。 食料に軽減税率を適用したとする。品目にもよるが,キャベツや糸こんにゃ くなどは高額所得者によっても購入される(ような気がする)。食品に対する 支出額でみれば,消費は所得の増加関数と考える標準経済学からしても,高額 所得者ほど大きいはずであり,軽減税率のもたらす便益は,高額所得者にも及ぶことになる。 (6) 取引の現場における混乱21)。 商品ごとに税率が異なることは,取引の現場に著しい混乱を引き起こす。特 に多数の商品を取り扱う業者の税額計算,予算制約のもとで最大の効用をもた らす商品の組合せを考える家計の行動は著しく煩雑なものとなる。 (7) 軽減税率対象商品の区別の不明確さ22)。 軽減税率の対象を生活必需品に決めた場合,何が生活必需品かを明確に定め ることは困難である。食料を生活必需品としたとしても,セレブ御用達の絢爛 豪華なメニューの数々を必需品と理解することには違和感がつきまとうのでは ないか。 海外主要国の付加価値税率を見てみると,こうした点をより具体的に理解す ることができる。図表1に見られるように,軽減税率の対象品目は実に多様で あり,適用される税率の段階および水準も国ごとに異なっている。 同図表に見られるように,付加価値税の体系において,①何を軽減税率の対象にす るか,②軽減税率を何段階設けるか,③標準税率と各軽減税率の差異をいかほどにす るかについて,客観的・合理的な原理が存在するとは考えにくい。 井藤(2014a)も,食料品に関して「ぜいたく品から基礎的な食料品まで幅広く,消 費者の嗜好が多様化している中で,軽減税率適用品目の境界線を合理的・具体的に定 めることは困難」と明記している。同稿は,軽減税率適用をめぐる訴訟問題への発展, 業界の個別利益が政治に反映されやすい国における収拾不可能性にも言及している。 (8) 食料品への軽減税率導入が,実際の食料品価格を下げるとは限らない23)。 これは租税論における転嫁と帰着の応用問題である。ミクロ経済学におい て,需要曲線が水平に近い,すなわち需要の価格弾力性が十分大きい場合,価 格の低下は小さいことがいえる。ただし,需要の価格弾力性が大きい財は,通 常奢侈財とされるので,食料品の場合にはあてはまらないかもしれない。別の ケースとしては,供給曲線が垂直に近い場合にも,価格の低下は起こりにくい。 これは供給の価格弾力性がきわめて小さい場合である。 (9) 国境に接する国どうして税率が異なる場合,消費の移動が生じてしまう24)。 (10) 経済全体が豊かな国においては,資産や貯蓄が豊富であり,「相対的に低所得 の人でも様々な財・サービスを消費している。そうした場合には,消費する財・ サービスの種類で必需品や贅沢品を分類するのは無理になってきている」25)。
図表1.海外主要国の付加価値税率 (2014年1月現在) (資料)財務省ホームページ,2015.1,15参照〈http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/108.htm〉 。 区分 日本 EC指令 フランス ドイツ イギリス スウェーデン 施行 1989年 1977年 1968年 1968年 1973年 1969年 納 税 義 務 者 資産の譲渡等を 行う事業者及び 輸入者 経済活動をいか なる場所であれ 独立して行う者 及び輸入者 有償により財貨 の引渡又はサー ビスの提供を独 立して行う者及 び輸入者 営業又は職業活 動を独立して行 う者及び輸入者 事業活動として 財貨又はサービ スの供給を行う 者で登録を義務 づけられている 者及び輸入者 利益を得るため に経済活動を独 立して行う者及 び輸入者 非 課 税 土地の譲渡・賃 貸,住宅の賃貸, 金融・保険,医 療,教育,福祉 等 土地の譲渡(建 築用地を除く)・ 賃貸,中古建物 の譲渡,建物の 賃貸,金融・保 険,医療,教育, 郵便,福祉等 不動産取引,不 動産賃貸,金融・ 保険,医療,教 育,郵便等 不動産取引,不 動産賃貸,金融・ 保険,医療,教 育,郵便等 土地の譲渡・賃 貸,建物の譲渡・ 賃貸,金融・保 険,医療,教育, 郵便,福祉等 不動産取引,不 動産賃貸,金融・ 保険,医療,教 育等 標 準 税 率 8% 15%以上 20% 19% 20% 25% ゼ ロ 税 率 なし ゼロ 税 率 及 び 5% 未 満 の 超 軽減税率は,否 定する考え方を 採っている なし なし 食料品,水道水, 新聞,雑 誌,書 籍,国内旅客輸 送,医 薬品,居 住 用 建 物 の 建 築,障害者用機 器等 医薬品(医療機 関による処方) 等 輸 出 免 税 輸出及び輸出類 似取引 輸出及び輸出類似取引 輸出及び輸出類似取引 輸出及び輸出類似取引 輸出及び輸出類似取引 輸出及び輸出類似取引 軽 減 税 率 なし 食料品,水道水, 新聞,雑 誌,書 籍,医 薬品,旅 客輸送,宿泊施 設の利用,外食 サービス等 5% 以上(2段階ま で設定可能) 旅客輸送,肥料, 宿 泊 施 設 の 利 用,外食サービ ス等 10% 書籍,食料品等 5.5% 新聞,雑 誌,医 薬品等 2.1% 食料品,水道水, 新聞,雑 誌,書 籍,旅 客 輸 送, 宿泊施設の利用 等 7% 家庭用燃料及び 電力等 5% 食料品,宿泊施設の利用,外食 サービス等 12% 新聞,書 籍,雑 誌,スポーツ観 戦,映画,旅 客 輸送等 6% 割 増 税 率 なし 割 増 税 率 は 否 定する考え方を 採っている なし なし なし なし
3.租税原則論からの検討
消費税における均一税率と複数税率の優劣を,租税原則論の立場から検討する。本 稿においては,R. A. マスグレイブの租税原則論に沿って複数税率の長所・短所を考 察していく26)。 マスグレイブの租税原則27)においては,今日のミクロ経済学およびマクロ経済学の 手法が取り入れられており,マクロ経済の安定・成長についても視野に収められたも のとなっている。拙稿(石田(2014)「格差・高齢社会における社会保障設計」『産業 経済研究所紀要』第24号,pp.15-49)において,富裕税を現行消費税,物品税型消費 税,直接税型消費税,所得税と比較する際にマスグレイブの租税原則を用いている。 本稿においても,同稿とまったく同じスタイルで消費税における均一税率と複数税率 の長短に関する検討を進めていく。 「マスグレイブの6原則は,次の通りである。 (1) 公平性。 (2) 市場への歪みの最小化。すなわち「超過負担」の最小化。 (3) 投資意欲促進の税における公平性の確保。 (4) 経済の安定と成長を促進。 (5) 行政の非恣意性と理解しやすさ。 (6) 徴税者・納税者の負担の最小化。」28)(1) 公平性には,垂直的公平性,水平的公平性および世代間の公平性がある。
(1-1) 水平的公平性 〔均一税率〕 ○ 同一の消費額には同一の消費税額が賦課される。 〔複数税率〕 × 同一の消費額であっても,購入する品目により税額が異なる。 (1-2) 垂直的公平性 〔均一税率〕 × 高額所得者ほど平均消費性向が低くなるため,所得が多いほど所得に占める税の 負担割合が低下する。これが消費税のもつ逆進性である。〔複数税率〕 奢侈的な財に高率の税を課すことができる。経済状態が異なる家計に,異なる税 負担を求めることが可能である。 (1-3) 世代間の公平性 〔均一税率〕 ○ 消費は生涯のすべての時点で行われ,すべての世代が同率の消費税を負担する。 〔複数税率〕 世代による消費の型に何らかの特性が見いだせれば公平性が損なわれる可能性が なくはないが,定性的には考えにくい。幼年期に必需品は多数存在するが,老年期 にもやはり必需品は多くある。奢侈財についても同様である。 ○
(2) 市場の中立性
〔均一税率〕 これには,前掲石田(2014)の記述がそのまま当てはまる。 「消費者の最適行動の条件は,X財の価格をPX,限界効用をUX,Y財の価格を PY,限界効用UYとすると, (A) である(限界効用均等の法則)。変形すると, (B) となる。税率t の消費税が導入されると,2財の価格はそれぞれ,(1+t)PX, (1+t)PYとなるが,最適条件(B)は変化しない。」29) 均一税率は中立的といえる。 ○ 〔複数税率〕 × 商品により税率が異なるため,前記の条件(B)が成り立たない。(3) 投資促進効果
〔均一税率〕 × とくにそうした効果は見込まれない。 UX = UY PX PY UX = PX UY PY〔複数税率〕 軽減税率を設定することにより,特定分野の投資を促進することは可能である。 ○
(4) 経済安定
〔均一税率〕 前掲拙稿石田(2014)の議論がそのまま適用できる。 「下記の所得税の議論から,逆進税である消費税は,経済安定の効果を持たない。 〔所得税〕所得を Y,税額を T,平均税率をt=T/Y と書く。課税後所得(Y-T)の所 得弾力性は, ∵Y−YT´−(Y−T)=T−YT´=Y(T/Y−T´)=Y(t−T´)<0 であり,1より小さい値をとることがわかる。定義により,1%の所得の増加は 1%未満の課税後所得の増加しかもたらさない。マクロ経済学の標準的理論で明 らかにされているとおり,消費需要の大きさは課税後所得によって決定されるこ とから,景気変動により所得が変化するとき,累進課税制度のもとでは,課税後 所得の変動が抑制されることになる。消費需要の抑制は,景気の一層の変動への ブレーキの役割を果たすことから,累進課税制度は,自動安定装置の機能をもつ ということができる。」30)。 このことから,逆進税である均一税率構造は,経済安定の機能をもたない。 × 〔複数税率〕 複数税率にしても,逆進構造であることに変わりはない。仮に生涯消費を考え, 生涯所得にほぼ比例的であるとしても,比例税は経済安定効果をもたない。 均一税率と複数税率での経済安定効果を比較してみる。必需品には低税率が課 され,奢侈品には高税率が課されているとするのが自然である。景気変動時に,奢 侈品の需要量は大きく変化し,必需品の需要量はあまり変わらない。複数税率の場 合,不況時には租税負担額が相対的に大きく低下することとなり,可処分所得の落 ち込みが少ない。すなわち,経済安定効果が大きい。逆にインフレ時には租税負担 額の増加が相対的に大きい。したがって,可処分所得の増加が相対的には小さく, この場合にもやはり経済安定効果が大きい。 △ Y Y−T Y Y−YT´ d(Y−T) = d(Y−T)/(Y−T) = = < 1 Y−T Y−T dY dY/Y (1−T´)
(5) 簡素
(5-1) 行政の非恣意性 〔均一税率〕 ○ すべての商品が同一税率であり,恣意性の入り込む余地はない。 〔複数税率〕 × 完璧に恣意的である。 (5-2) 簡素性 〔均一税率〕 ○ 簡素であり,分かりやすい。 〔複数税率〕 × 税率の刻みが多いほど複雑さを増す。(6) 徴税者・納税者の負担の最小化
〔均一税率〕 ○ 優れている。 〔複数税率〕 × 劣っている。(7) 景気変動からの中立性
〔均一税率〕 この論点についても,前記拙稿石田(2014)の議論が当てはまる。 「下記所得税の議論により,消費税は不況時における税収の落ち込みが大きく ないことが分かる。消費の限界性向が1より小であることから,人々は所得の落 ち込みほどは消費を減少させないので,税収は比較的安定する。」すなわち,「累 進課税」のもとでは,税収の所得弾性値は, となり,税収の変化率が所得の変化率を上回る。これは,累進課税のもとでは,景気 の変動以上に税収が変動し,不況時に税収が大きく落ち込むことを示している」31)。 税収は安定している。 ○ dT = = > 1 Y T Y´ t dY dT/T dY/Y〔複数税率〕 複数税率であっても,逆進税であるから税収は安定している。生涯消費をとって も,結論は変わらない。 均一税率と複数税率の税収安定度を比較する。複数税率の場合,奢侈品には高税 率が課されているとするのが自然であろう。景気変動時には,必需品の需要量は変 化が小さく,奢侈品の需要量は変化が大きい。複数税率の場合,奢侈品の税率が高 いことから,景気変動による税収の変化は,相対的には大きいことが分かる。 △ 以上の検討結果を表にまとめてみる。 図表2.均一税率と複数税率 (資料)筆者によるまとめ。 上述の各基準のそれぞれには,基準を評価するためのメタ基準が存在しない。した がって,均一税率と複数税率の優劣を確定的に判定することは不可能である。しかし, もともと,望ましいあらゆる性質を備えた完全な税はないのである。あるとすればそ れは「無税」である。無税国家は存在しうるか。あるとすれば例えば次のようなケー スである。つまりある国有地なりわが国の領海内に,資源エネルギーなり貴金属なり が発見され,国が2京円の資産を得たとする。この資産を金利1%で運用すれば,現 在の国家予算をすべて賄えるほか,何らかの有望な国有事業を興すことができる。 このような僥倖に恵まれないとすれば,国家を維持運営していくための資金は必要 であり,租税は不可欠となる。消費税増税時には,現行の均一税率を維持していくか, それとも複数税率制を導入するかのいずれかを選択せざるをえない。この選択には, 「中を取る」という仕方は残念ながらあり得ない。そこで,上述の各基準の相対的重要 均一税率 複数税率 水平的公平性 ○ × 垂直的公平性 × ○ 世代間の公平性 ○ ○ 中立性 ○ × 投資促進効果 × ○ 経済安定 × △ 行政の恣意性 ○ × 簡素性 ○ × 最小徴税費 ○ × 景気変動からの税収中立性 ○ △
度を「知り得ないから同等と見なす」という仕方で利用することを考える。これは奇 異なことではない。集団の意思決定で多数決を採るとき,すべての提案の内容・背景・ 及ぼす効果などについて完全に把握した上で,ある提案を強く支持する人の一票も, よく分からないけど何となく反対するという人の一票も,それぞれの相対的重要度が 客観的には測定できないことから,同等と見なすこととされている。裁判における損 害賠償訴訟においても,被害を受けた人の精神的苦痛の強度を客観的に知ることはで きず,同等の状況には同等の慰謝料を支払うことにせざるを得ない。そういうわけで, 上の各基準のすべについて,○を1ポイント,△を 0.5 ポイントと数えることにする。 均一税率は7ポイント,複数税率は4ポイントと,かなりの開きのあることが分か る。本節での検討の結果,今回の消費税改革においては,均一税率を維持しながら, その欠点については十分な注意を払っていくことが望ましいとの結論に達した。
4.今後の展開
単一の税が,すべての望ましい条件を満たすということは不可能であった。そのた めに,いずれの国においても,多数の税が併存し,最適タックスミックスを求めて熟 慮と税改革が繰り返されてきているのである。 消費税改革の方向として,均一税率を維持するという選択肢を選んだ場合,その弱 点は他の手段により補完されなければならない。他の手段を考察する場合,(1)社会 保障等政府の支出面も考慮する立場と,(2)税体系の範囲内に視野を限定するという 2つの方向が考えられる。(1) 政府による社会保障的支出により,経済的弱者を支援する。
これには,(ア)簡素な給付措置(臨時福祉給付金)と,(イ)給付付き税額控除の2 つがある。 (ア)簡素な給付措置は,次のような制度である。 「1.臨時福祉給付金(平成26年度)の概要 臨時福祉給付金とは 平成26年4月から消費税率が8%へ引き上げられますが,所得の低い 方々への負担の影響に鑑み,暫定的・臨時的な措置として,臨時福祉給付 金を支給するものです。 支給対象者 平成26年度分市町村民税(均等割)が課税されない方が対象です。ただし, ご自身を扶養している方が課税される場合 生活保護制度の被保護者となっている場合 などは対象外です。 支給額 ○支給対象者1人につき 1万円 ○支給対象者の中で下記に該当する方は,5千円を加算 ・老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金等の受給者など ・児童扶養手当,特別障害者手当等の受給者など」32)。 佐藤(2014)は,簡素な給付措置について,「対象者・給付額を決定する上で,詳細 な情報」を必要とせず,「簡単という意味では分かりやすい制度であるが,逆進性対策 として精緻であるとは言い難い」として,「①同じ非課税世帯の中にも所得水準には 違い」があり,「②均等割が課税・非課税の境目で給付に「壁」(格差)が出来」,「③給 付の上乗せのある年金世帯に比べて,勤労世帯(特に,所謂ワーキングプア)が不利に 扱われている」と指摘している33)。 簡素な給付措置は,臨時的,一時的な措置である。消費税はいったん税率が上げら れれば,もとに戻ることはまずあり得ない。増税後も低所得者層の消費生活は続くの であり,緊急避難的な対策よりは,ある程度恒久性のある制度の整備が必要である。 (イ)給付付き税額控除は,消費税の逆進性対策として,所得税の税額控除を行うも のであるが,納税額が控除額に及ばない家計や所得税が非課税の家計には国からの給 付が行われる制度である。海外諸国で導入されているが,カナダについて見ると,図 表3のようになっている。 給付付き税額控除制度は,社会保障の制度と所得税の制度とを組み合わせたもので あり,複数税率化と比較すると,納税・徴税コストの問題が少なく,税率区分の困難 さも回避することができる。所得への給付なので,家計の予算制約条件付き効用最大 化の解に影響を与えず,家計の最適な財の組合せからは中立的である。 ただ,松渕(2014)が指摘しているように,「所得の正確な把握が必要」になること と,「低所得ではあるが資産の多い人にも恩恵が及ぶ」という問題は残る34)。 藤曲(2012)は,給付付き税額控除に関して,次の諸点を示している35)。①世帯単 位の所得把握と番号制度の整備が前提,②計算の複雑さ,③不正受給,④日本の高齢 社会に応じた合理的給付の困難性,⑤他の社会保障給付との整合性,⑥効果の直接的 実感が少ない,⑦執行機関の整備,⑧すぐれた低所得者層対策効果,⑨部分的な逆進 性対策効果,⑩必要財源が比較的少額。 給付付き税額控除の制度を完全に所得税の体系として一体化すると,究極的には負 の所得税となる。負の所得税は,公的扶助の制度と比較しても,受給資格者に恥辱感
を与えることがなく,受給者の勤労意欲を削減することもなく,給付額も少なくてす むという利点をもつ。 図表3.カナダの給付付き税額控除制度 (資料)住澤整(2014)『図説 日本の税制(平成26年度版)』財経詳報社。
(2) 税体系内での改革
(ア)消費税を直接税型にする。 直接税であれば,税負担において個人の経済的事情を考慮することができる。非 課税の消費水準を設定することもできるし,消費水準に応じて税率を変更すること も可能である。 消費水準の高い人ほど税率が上がるという意味では,消費税が累進課税であると いうことになる。 これは,所得が消費と貯蓄からなることによる。すなわち,消費と貯蓄の和が所 得であることから,消費は所得から貯蓄を差し引くことによって求まる。課税標準 を現行の所得税制での課税標準である所得額から,申告された貯蓄額を控除した額 すなわち消費額を課税標準に切り替えるだけで,上記が可能となる。 (イ)ブランド税の提案 井田(1990)は,複数税率のあり方について,ブランド税を提案している。各個 制度名 GST クレジット 児童手当 勤労所得手当 制度導入年 1991年 1993年 2007年 導入の目的 低・中消費者世帯の付 加価値税の負担軽減 子供の貧困の解決子供を養育する家庭の 負担軽減 就労・勤労意欲の向上 対象者 (適用要件) 低・中所得者 18歳未満の子供を養育する者 低所得勤労者 給付の仕組み 全額給付 (所得から控除せず) (控除しきれない額を税額から控除 給付) 執行機関 歳入庁 控除税額 (給付額) 夫 婦 子 2 人 の 場 合, 808 カナダドル(7.7万 円) 所得が一定額を超える と減額 夫 婦 子 2 人 の 場 合, 7,051 カナダドル(67.0 万円) 所得が一定額を超える と減額 夫婦子2人の場合,勤労 所 得のうち 3,000 カナ ダドル(28.5万円)を超 過した分の 25%(上限 1,797 カナダドル(17.1 万円)) 所得が一定額を超える と減額人が商品の持つ品質やブランドから効用を得ているとすると,所得水準の高い個人 がブランドへのより強い嗜好をもつことから,ブランド水準に応じた消費税体系の 設計を試みている36)。 (ウ)ラムゼーの逆弾力性の命題の翻案。 ラムゼーの逆弾力性の命題では,消費税の課税による超過負担の最小化を達成す るための条件として,各商品への税率が,各商品の需要の価格弾力性に反比例する こととされた。需要の価格弾力性は,必需品で小さく,奢侈品で大きいことから, 必需品に高税率,奢侈品に低税率を賦課すべしということになり,再分配上は非常 にまずい結論となっているのである。 そこで,ラムゼーの逆弾力性の命題を翻案し,需要の所得弾力性に着目する。す なわち,高額所得者ほど需要量が増加していくような商品に高税率を賦課すべしと 考えるのである。通常の経済学においては,普通の商品と同じように,所得の限界 効用も逓減するとされている。これが正しいとすると,税負担の税痛感も高額所得 者ほど小さいことになり,複数税率を,需要の所得弾力性と正の相関を持つように 設計することに,社会的合意が得られるように思われる。本案の含意については, 後日の課題としたい。 (エ)価格を税率の尺度とする。 ラムゼーの命題や,本稿における(イ),(ウ)の提案においては,現実の消費税体 系を導出するために需要の弾力性を計測するという困難な作業が求められる。需要 の弾力性は,価格にせよ所得にせよ,個人ごとにあるいは商品ごとに異なるもので あり,n 財 m 人の世界では,なかなか大変である。そこで,本稿では,毎日誰もが目 にすることのできる客観的な数値を課税標準に採ることを提案する。具体的には, 高額商品に高税率を課すということとなる。 図表4.連続型租税関数 t ο p0 p t =αp-β
税率を連続型にする場合と離散型にする場合のどちらも考えられるが,ここでは 連続型の場合を示す。 図表4で,横軸が価格 p,縦軸が税率 t を表している。低額(p0=β/α以下)の 商品には税率 0 が適用される。財が必需品だ,奢侈品だ,上級財だ,下級財だ,食 料品だ,という喧噪からは自由に,コロッケや鉛筆はゼロ税率,500万円の宝石は m%,2,000万円のキャンピングカーは n%という具合に,粛々と税率が決定される。 本稿のテーマは,均一税率と複数税率の贅沢品をめぐる検討であったため,今回 の検討はここまでとし,この提案のもつはずの含意の検討についても,他日を期し たい。
注
1) 日本新聞協会『新聞への消費税軽減税率適用に関する意見書』2013.9.15,日本新聞協会。 2015年1月25日参照〈http://www.pressnet.or.jp/keigen/〉。 2) これに先だって,日本書籍出版協会・日本雑誌協会・日本出版取次協会・日本書店商業組合 連合会も,共同声明「文化を支える出版物に軽減税率が必要です」(2013.3.8)を発表してい る。2015.1.25参照〈http://www.jbpa.or.jp/pdf/documents/keigen20130308.pdf〉。 その主旨は,「すべての国民が書籍・雑誌・新聞等の出版物に広く平等に触れる機会を持つ こと」が,「民主主義の健全な発展と国民の知的生活の向上にとって不可欠」であり,「生活必 需品や医療等,国民の健康で文化的な生活を支える」商品に相当する重要性を持つことから, 軽減税率適用による国民の負担軽減の必要性を訴えることである。 同共同声明は,欧州における付加価値税での書籍・雑誌への軽減税率の実情に触れるとと もに,国の 2005年7月の「文字・活字文化振興法」等を挙げ,逆進的な消費税増税によって 青少年の読書習慣が毀損される恐れを表明している。 3) 以下の記述は,同意見書の骨子と考えられる部分の筆者なりの要約である。 4) 日本スーパーマーケット協会(2014)『消費税率引き上げと低所得者対策に関する中間報告 書』2014.7,日本スーパーマーケット協会。2015.1.25参照〈http://www.jsa-net.gr.jp/〉。 5) 佐藤(2014),pp.20-21。筆者による要約。 6) 本稿の 2.1 および 2.2 の記述は,下記をはじめとする先行諸研究に拠っている。ただし,類似 の論調が多く見られることから,個々の論点に関する出典を逐一明示することは省いている。 井堀(2007),小野(2012),櫻井・國田(2014),西山(2004),森信(2007),同(2013),矢 野(2011),山元(2013),結城(2013)他参照。 7) 矢野(2011)。ただし,同稿においては,否定論も述べられ,全体として賛成しているわけで はない。8) 注7と同じ。 9) 矢野(2011)では,(2)と同一と解されているが,別の論拠と考えてもよいと思われる。 10) 粕谷(2008),p.31。 11) 粕谷(2008),p.32。 12),13)国立国会図書館調査及び立法考査局(2013)による。 14) 金井(2014)。 15) 櫻井・國田(2014)他による。 16)― 21) 注15 と同じ。 22) 櫻井・國田(2014)他の指摘も同主旨である。 23),24)井藤(2014a)。 25) 井堀(2007)。 26) 税は自由経済の体制の中で,通常の商品とは異なり,自分自身の選好,所得水準などを勘案し た最適な水準を選ぶことのできない費目である。そこでは,分権的意思決定を中心とする体 系内において,集合的意思決定の結果がすべての構成員に強制されることになる。 どうせ支払うのであれば,納得のいく,然るべき根拠をもった税体系であってほしいとい うことから,税がいかなる性質を持つべきか,よい税とはどのようなものかが吟味された。 アダム・スミスは,『国富論』(1776)において,①公平性の原則,②明確性の原則,③便宜 性の原則,④最小徴税費の4つを租税の満たすべき原則として掲げた。 ①の公平性の原則に異を唱えることはまずあり得ないことと思われるが,問題は,なにを もって公平とするかである。スミスは,内容が厳密には異なる2つの表現を,「すなわち」と いう接続詞で結んでしまったため,後に,公平について,利益説(応益原則)つまり,各人が 国家の活動から享受する利益に応じて税を負担するのが望ましいとする解釈と,能力説(応 能原則)つまり,各人が税の負担能力に応じて税を負担するのが望ましいとする解釈が現れ てしまった。②の明確性の原則は,税の支払い時期・方法・金額が明確であるべきだとする ものである。これは,課税の対象や租税負担額について,曖昧さや当局の恣意性を排除すべ きとする考え方である。現実には,複雑をきわめる今日の税体系の中で,税法に基づく税の 負担に関して,解釈をめぐる紛糾は後を絶たない。 ③便宜性の原則は,納税者にとって,税を支払う実際の局面で,納付の時期や方法が便利で あるべきであるとするものである。 ④最小徴税費は,税を支払う側と徴税側の双方にとって,租税の支払い・受取りのための 費用が小さいことが望ましいとするものである。 A. ワグナーは,アダム・スミスの租税原則を精密化し,概ね次のように示される周知の原 則を掲げた。①課税の十分性,②課税の弾力性,③正しい税源の選択,④正しい税種の選択, ⑤課税の普遍性,⑥課税の公平性,⑦課税の明確性,⑧課税の便宜性,⑨最小徴税費。 ①の課税の十分性は,行政部門の歳出に見合うだけの十分な税収が見込めることである。 自明のことと考えられるかもしれないが,現実のわが国では,年間歳出額の半分にも満たな
い税収しか得られていない状態が何年も続いている。短期的な景気変動に基づく単年度の税 収不足はあり得ることかもしれないが,わが国の財政赤字は構造的なものとなっており,ワ グナーの租税原則からすると,非常にまずい状況である。 ②の課税の弾力性は,国家の歳出額・歳出構造の変化にともなって,税制あるいは税額が 弾力的に変わりうることが望ましいとするものである。定額税や一括固定税でなければ,仮 に逆進性をもつ税体系であっても,景気が回復すれば税収は自然に増加する。累進課税であ れば,景気の伸び率よりも大きい比率で税収は増加する。この点は,比例税の場合に景気の 伸び率だけの比率で税収が増加することから容易に類推されよう。 ③の正しい税種の選択は,たんに何を課税標準にとるかという問題のみならず,税額の構 成比が適切かどうかも問われることになる。現在のわが国では,法人税の減税と消費税の増 税という流れになっているが,この流れが適切かどうかも,検討の対象とならざるを得ない。 かつて問題にされた最適な直間比率の導出以上に,各直接税,各間接税間の最適タックスミッ クスを求めようとするのは,直感的には困難を極めるように思われる。たかだか,現行の税 体系のうち,特定の税項目が増減したとき,その増減の方向が適切か否かを判断しうるかど うかというところであろう。それすら,明確で一意の解を得るのは容易ではないであろう。 ④では,正しい課税標準を選択したとして,具体的な税種の選択の適切性が求められてい る。所得を例にとっても,勤労所得,財産所得,利子所得,キャピタルゲイン,保険金,年金, 雑所得など様々の種類の所得が存在し,同じ扱いにするかどうか,異なる扱いにするとすれ ば,どれほどの差を設けるか等,検討がなされなければいけない。なお,③と④について,経 済発展を阻害しないものであることが求められている。 ⑤では課税の普遍性,すなわち,税が地域や職業,地位に偏らず,満遍なく負担されるべき ことが求められている。 ワグナーの租税原則においても,アダム・スミスと同じく,⑥課税の公平性,⑦課税の明確 性,⑧課税の便宜性,⑨最小徴税費が望ましい税の条件と考えられている。
27) Musgrave,R.A. and P. B. Musgrave(1980)。マスグレイブの租税原則は,近代経済学の諸 成果に立脚しており,今日のいわゆる公平・簡素・中立といわれる租税原則よりははるかに 精緻な内容から成っている。 28) 石田(2014),p.28 による。 29) 石田(2014),p.30。 30) 石田(2014),p.31。 31) 石田(2014),p.33。 32) 厚生労働省ホームページ,2014.1.16参照〈http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/ bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/rinjifukushikyuufukin/〉。 33) 佐藤(2014),p.21。 34) 松渕(2014),p.8。 35) 藤曲(2012),pp.84-86。
36) 井田(1990),pp.1-10。
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