空間要素が左折後加速度に与える影響に関する研究
~交差点隅切半径に着目して~
橋 本 成 仁* 藤 原 勇 輝* 海 野 遥 香*
要 旨 交差点隅切半径の縮小により,左折中や左折直後の走行速度抑制が期待されている.一方で,その後 の加速度を抑制できる空間構成を明らかにする必要がある.そこで本研究では,岡山市内 15 か所におい て左折後街路における自動車加速度を計測し,街路や交差点における空間要素との関係を明らかにした. その結果,加速度は様々な空間要素によって決定されており,空間要素の改良により抑制できることが 示唆された.また,交差点隅切半径の縮小による効果が明らかになった. AbstractDownsize of intersections curve radius is expected to suppress the driving speed after left turning. However, it is necessary to create a space that can control acceleration in the street after left turning. This study reveal relationship between vehicle acceleration after left turning at 15 locations in Okayama city we measured and the spatial elements. As a result, the acceleration is regulated by spatial elements and can be control by improving them. In addition, the effect of downsize the intersection curve radius are clarified.
キーワード:自動車加速度; 左折車; 交差点縮小化; 隅切半径; 空間要素
Keywords: vehicle acceleration; left turning vehicle; downsize the intersection; curve radius; spatial elements
1.はじめに わが国における交通事故死亡者数(24 時間死者数) は,2019 年中 3,215 人1)であり,近年わずかに減少して いるものの,今後さらに減少させる必要がある.また, 内閣府が発表した第 10 次交通安全基本計画 2)では, 2020 年までに交通事故死亡者数(24 時間死者数)を 2,500 人以下にすることを目標に掲げている.このこと からもわかるように交通事故情勢は依然厳しいものであ り,さらなる交通安全対策が求められる. また,わが国における交通事故発生件数を道路形状別 に見ると,交差点内での事故が最も多く 3),更なる交差 点周辺の安全対策が求められる.その取り組みの一つと して,近年では交差点のコンパクト化が全国で進められ ており,隅切半径(R)の縮小によって,カーブが鋭角 になり,主に左折車の速度抑制が期待できる 4).これ により巻き込み事故防止や,その後横断歩道付近での速 度抑制にも大きく影響し,事故防止が期待できる. 交通安全についての研究は数多く存在する.中でも, 街路における空間要素に着目した研究として,橋本ら 5) 6)は,街路 54 路線において合計 1,906 台の自動車の走行 速度を実測し,速度と街路空間要素の関係を分析した. また,8 種の街路景観要素を組み合わせ,何 km/h で走 行するかをアンケートにより質問し,様々な視覚的要 因・表裏通りの印象が速度決定要因となることを明らか にした.下川ら 7)は,交差点のない道路を選定し,道路 構造と旅行速度について分析を行い,縦断線形や車道幅 員,平面線形と旅行速度は一定の関係がみられることを 明らかにした.大橋ら 8) 9)は,ビデオ調査とプローブ情 報により,通行特性(速度・通行位置など)を分析し, 路面構成の工夫により,速度を抑えられる可能性を明ら かにした.また,見通し幅の異なる屈曲部を 3 パターン 設定し,普通車の走行実験と意識調査を行い,見通し幅 交通科学 Vol.51, No.1 3~9(2020)
〈論 文〉
〈 Original Article 〉 A Study on the Effect of Spatial Elements on the Vehicle Acceleration after Left Turning ~Focusing on the Intersection Curve Radius~ by Seiji HASHIMOTO, Yuki FUJIWARA and Haruka UNO
*岡山大学環境生命科学研究科
Graduate School of Environmental and Life Science, Okayama University
と車両速度,ドライバー意識との関係を分析した.嶋田 ら 10)は,連続的に狭窄が設置された対面通行生活道路 を対象に,設置の事前事後で効果の検証を行った.清水 ら 11)は,タクシープローブデータから生活道路の走行 履歴データを抽出し,街路特性や沿道特性が走行速度に 及ぼす影響を明らかにした.また,筆者の研究 12)では, 左折直後の走行速度と空間要素の関係を明らかにした. 交差点付近に着目した研究として,三村ら 13)は,生 活道路への入り口部を対象に,カラー舗装などの空間構 成 7 因子について,通過抑制・速度抑制・注意喚起の観 点で,意識調査・運転性格を用いて分析した.佐藤ら 14)は,コンパクト化された交差点において事前事後分析 を行い,速度低下効果を定量的に示した.鈴木ら 15)は, 観測調査によって,交差点構造と自転車および右左折車 の挙動と交錯危険性について分析した.塩見ら 16)は, 395 か所の交差点形状(路面標示の有無,横断歩道長さ など)を定量化し,事故リスクとの関係を分析した結果, 交差点のコンパクト化が有効であることを示した.川渕 ら 17)は,17 信号交差点を対象として,類型別事故リス クと交差点の幾何構造との関係を分析し,小規模に設計 された交差点の安全性を明らかにした.清水ら 18)は, 事故が多発する交差点において,コンパクト化などの安 全対策の有無と事故類型別の減少数について分析した. これらの既存研究より,街路の進入時及び中間地点に おける走行速度と,空間要素の関係を明らかにした研究 や,交差点コンパクト化に関する研究が進んでいること がわかる.しかし,交差点隅切半径(R)と左折後街路 における自動車加速度の関係を定量的に把握したものや, 街路の空間要素と左折後の加速度の関係を定量的に把握 したものはない.加速度が大きいことで,短時間・短距 離で最高速度に達し,その速度を維持すると考えられる ため,左折後の街路において高速である時間が長くなる ことが懸念される.また,歩行者や自転車に不安を与え ることが懸念される.そのため,左折後街路における加 速度を抑制できる空間構成を明らかにすることが重要で ある. そこで本研究は,街路の空間要素や交差点の隅切半径 (R)と,左折後街路における加速度の関係を明らかに する.それにより,街路における自動車加速度の抑制に 関する基礎的知見を得ること,交差点隅切半径(R)の 縮小による左折後街路における加速度に関する影響を定 量的に把握することを目的とする. 2.調査の概要 生活道路を中心とした様々な種類の既存道路に,交差 点 か ら 流 入 す る 左 折 車 に 対 し て , ス ピ ー ド ガ ン (Applied Concept, Inc. STALKER-LIDAR)を用いて走行 速度を測定した.そのデータを用いて,空間要素と左折 車の加速度の関係について分析する. 調査地点の選定において,街路が直角に交わっており, 隅切半径(R)が車道外側線や歩道との境界線によって 計測可能であることを条件とした.街路については,道 路幅員,中央線の有無,歩道の有無,沿道建物の状況な どを勘案した.岡山市内における,以上の条件に当ては まる交差点及び街路,合計 15 地点において,雨天時を 避け,日中に計測を行った. 車道外側線や歩道との境界線は,街路では概ね直線で あり,交差点内では曲線である.その直線と曲線の境目 の位置を,街路と交差点の境目と捉え,自動車が左折後 街路に進入してからの速度を計測した.スピードガンに よる計測の際,車両が正面を向いていないと計測できな いため,左折直後やスピードガンの近くではサンプル数 が少ない.そのため,今回は左折後 5m から 25m まで の位置を 5m 間隔で対象とした.分析の際は,地点ごと 図1 計測の状況 表1 サンプル数 地点No\位置 5m 10m 15m 20m 25m 1 55 55 56 56 56 2 29 30 30 30 30 3 14 14 14 14 4 4 17 24 25 25 25 5 14 25 25 25 25 6 24 29 29 30 30 7 29 29 29 29 29 8 11 11 11 11 7 9 22 33 33 33 33 10 35 35 35 35 35 11 9 10 10 10 10 12 20 20 20 19 9 13 10 15 19 20 20 14 9 10 10 10 10 15 18 20 21 21 21 合計(台) 316 360 367 368 344
に各位置における平均走行速度を算出し用いる.計測で は,加速能力の違いから,バイクや大型車両などは対象 外とし,乗用車のみを対象とした.また,歩行者や自転 車,対向車や駐停車車両が存在している場合や,次の交 差点までの区間で前方に走行車両が存在している場合を 対象外とし,街路や交差点の構造以外の要因に影響され ず自由走行している車両を対象とした.最終的に分析に 用いたサンプル数を,表1に示す.自動車がスピードガ ンに対し正面を向いていないなどの理由で,走行速度を 計測できていない時があるため,同じ地点でも位置によ ってサンプル数に違いが生じている. また,スピードガンは街路の入り口から 30m 以上離 れた道路脇に設置し,ドライバーの運転操作に影響を与 えないよう配慮して計測を行った.そのため,それぞれ の位置での走行車線の中心を測定点とし,スピードガン 設置位置との距離関係を基に,取得した走行速度データ に角度補正を行った.(図1,図2) 3.隅切半径(R)と加速度の関係 隅切半径(R)の縮小によって,左折直後の走行速度 を抑制することができる.しかしその後の加速度につい ては明らかになっていない.本章では,隅切半径(R) と左折後街路における加速度との関係を明らかにする. 交差点における曲線は真円ではなく楕円である場合も 多い.そのため今回は曲線の大きさを,左折前の自動車 走行方向と平行な成分と,左折後の自動車走行方向と平 行な成分の 2 つに分けて評価することとした.前者を R1,後者を R2 と表記する.図解を図2に示す. (1)隅切半径(R)の説明力に関する考察 隅切半径(R)の大きさによって,加速度に差がない か分析する. 隅切半径(R)の大きさが似ている地点を分類するた め,R1 及び R2 の実測値を用い,クラスター分析を行 った.クラスターの階層化はウォード法,距離はユーク リッド距離を用いて,地点を 3 クラスターに分類した. 結果を図3に示す.これにより同じクラスターに分類さ れた地点を,隅切半径(R)の大きさが似ている地点と して扱う. 続いて,加速度の平均値に差が無いか分析する.左折 後街路に進入してから 5m 及び 25m 位置の平均走行速 度を用いて,5m-25m 間加速度の地点平均値を算出し, クラスター間でクラスカル=ウォリス検定を用いて分析 No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10 No.11 No.12 No.13 No.14 No.15 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 2 4 6 8 10 12 隅 切 半径 R 2(m ) 隅切半径 R1(m) 1 2 3 図3 クラスター分析の結果(15 地点) 0.414 0.413 0.465 0.380 0.390 0.400 0.410 0.420 0.430 0.440 0.450 0.460 0.470 1(小) (n=6) 2(中) (n=7) 3(大) (n=2) 5m -25m 加 速度 (km /h 2) クラスター クラスカル=ウォリス検定 P値=0.695 多重比較 実線:1%有意 破線:5%有意 図4 隅切半径(R)分類別の平均加速度
左
折
前
10m
15m
20m
25m
0m
5m
R
2R
1 測定点 車×
左折後
図2 測定位置 表2 隅切半径(R)と加速度の関係 回帰式の精度 分散分析 回帰式に 含まれる変数 偏回帰係数の 有意性の検定 R2乗 P値 偏回帰係数 P値 R1 0.106 0.235 0.011 0.235 R2 0.015 0.667 0.005 0.667した.結果を図4に示す.その結果,各クラスター間で 5m-25m 間加速度の平均値に,統計的な差は見られなか った.隅切半径(R)の大きさと加速度には,大きな関 係は見られないことが示唆される. (2)隅切半径(R)と加速度の関係 隅切半径(R)の大きさと加速度の間に有意な関係は 存在しないことが明らかになったが,一方で隅切半径 (R)と 5m-25m 間の加速度との関係について,単回帰 分析を用いて把握する. 5m-25m 間加速度の地点平均を目的変数とし,R1 ま たは R2 を説明変数とした単回帰分析の結果を,表2に 示す.R1 及び R2 どちらについても説明力が低く,説 明変数として統計的に有意でない. これらのことから,隅切半径(R)は左折後街路にお ける加速度に関して単体では十分な説明力を持たず,他 空間要素の影響も大きく受けていることが考えられる. 次章では加速度に対してどのような要素が影響を与えて いるのか明らかにする. 表3 説明変数 No. 詳細 1 自動車が走行する部分の幅員(複車線の場合は合計の幅員とする) 2 自動車走行方向に対して左側が歩道,路肩であれば1,路側帯であれば0 3 自動車走行方向に対して左側の路側帯幅員 4 自動車走行方向に対して左側の路肩幅員 5 自動車走行方向に対して左側の歩道幅員 6 自動車走行方向に対して左側の歩道幅員+路肩幅員,もしくは路側帯幅員 7 交差点に進入する際に,自動車走行方向と直角に横断歩道があれば1,なければ0 8 交差点に進入する際に,自動車走行方向と直角に歩行者用信号機があれば1,なければ0 9 一方通行だと1,相互通行だと0 10 自動車走行方向の制限速度 11 反対車線も含めた車線数 12 調査対象交差点が4差路であれば1,3差路であれば0 13 交差点部の車道外側線や,歩道との境界線によって描かれた隅切半径の,左折前の自動車走行方向と平行な成分の長さ 14 交差点部の車道外側線や,歩道との境界線によって描かれた隅切半径の, 左折後の自動車走行方向と平行な成分の長さ 15 信号機があれば1,なければ0 16 スピードガン調査と並行して,対象交差点の全方向から左折後街路に流入してくる車両台数を計測し, 調査時間で割り,1時間あたりに流入してきた車両台数としたもの 17 自動車が走行する部分の幅員(複車線の場合は合計の幅員とする) 18 自動車走行方向に対して左側が歩道,路肩であれば1,路側帯であれば0 19 自動車走行方向に対して左側の路側帯幅員 20 自動車走行方向に対して左側の路肩幅員 21 自動車走行方向に対して左側の歩道幅員 22 自動車走行方向に対して左側の歩道幅員+路肩幅員,もしくは路側帯幅員 23 自動車走行方向に対して右側が歩道,路肩であれば1,路側帯であれば0 24 自動車走行方向に対して右側の路側帯幅員 25 自動車走行方向に対して右側の路肩幅員 26 自動車走行方向に対して右側の歩道幅員 27 自動車走行方向に対して右側の歩道幅員+路肩幅員,もしくは路側帯幅員 28 車道幅員+左右の路側帯幅員 もしくは車道幅員+左右の路肩幅員+左右の歩道幅員 29 交差点から左折後街路に進入する際に,自動車走行方向と直角に横断歩道があれば1,なければ0 30 交差点から左折後街路に進入する際に,自動車走行方向と直角に歩行者用信号機があれば1,なければ0 31 一方通行だと1,相互通行だと0 32 自動車走行方向の制限速度 33 目視できる範囲に制限速度標識や表示があれば1,なければ0 34 左折後街路進入時に最徐行標識があれば1,なければ0 35 対向車側に一時停止があれば1,なければ0 36 反対車線も含めた車線数 37 低層 自動車走行方向に対して左側の低層側壁密度(低層植樹やフェンスなど) 38 普通 自動車走行方向に対して左側の普通側壁密度(2階建て以下の高さの建物や植樹) 39 高層 自動車走行方向に対して左側の高層側壁密度(3階建て以上の高さの建物や植樹) 40 低層 自動車走行方向に対して右側の低層側壁密度(低層植樹やフェンスなど) 41 普通 自動車走行方向に対して右側の普通側壁密度(2階建て以下の高さの建物や植樹) 42 高層 自動車走行方向に対して右側の高層側壁密度(3階建て以上の高さの建物や植樹) 43 左折後車道幅員(m)-左折前車道幅員(m) 44 左折後左隙間(m)-左折前左隙間(m) 45 対象交差点から,左折後の自動車走行方向にある次の交差点までの距離 46 対象交差点から,左折後の自動車走行方向にある次の交差点に一時停止があれば1,なければ0 変化 車道幅員 左折前後変化量(m) 左隙間幅員 左折前後変化量(m) 左折前 左折前 車道幅員(m) 左折前 左歩道有無ダミー 左折前 左路側帯幅員(m) 左折前 左路肩幅員(m) 左折前 左歩道幅員(m) 左折前 左隙間幅員(m) 左折前 横断歩道ダミー 左折前 歩行者用信号ダミー 左折前 制限速度(km/h) 左折後 右歩道有無ダミー 左折後 右隙間幅員(m) 左折後 右側側壁密度※3 左折後 左側側壁密度※3 左折後 時間交通量(台/h) その先 左折後 左路側帯幅員(m) 左折後 左隙間幅員(m) 左折後 右路肩幅員(m) 左折後 対向車側一時停止ダミー 左折後 最徐行標識ダミー 左折後 制限速度表記ダミー 左折後 車線数 左折後 左折後 左路肩幅員(m) 左折後 左歩道幅員(m) 左折後 右路側帯幅員(m) 説明変数 左折後 横断歩道ダミー 左折後 歩行者用信号ダミー 左折後 一方通行ダミー 左折後 制限速度(km/h) 左折後 右歩道幅員(m) 左折後 道路幅員(m) 左折前 一方通行ダミー 左折前 車線数 交差点 差路数ダミー 交差点 交差点 隅切半径 R1(m)※1 交差点 隅切半径 R2(m)※1 自動車用信号機ダミー※2 左折後 車道幅員(m) 左折後 左歩道有無ダミー 次の交差点までの距離(m) ※1 図2を参照 ※2 今回の調査地点では,交差するどちらの道路にも自動車用信号機があるか,どちらの道路にもないかの2パターンであった ※3 側壁密度は,道路端から10m以内にそれぞれが沿道に立地している道路部分の長さを,区間長で割った値として算出している 次の交差点に一時停止ダミー
4.空間要素と加速度の関係 様々な空間要素と左折後街路における加速度との関係 を明らかにするため,左折後街路に進入してから 5m-25m 間加速度と,それぞれの地点が有する空間要素を 用いて,重回帰分析を行うことにより定量的に明らかに する.加速度に影響を与えると考えられる様々な要素を 考慮するため,現地調査に基づき要素の設定を行い,表 3のような説明変数を用いた. 説明変数の左隙間幅員とは,図5に示すように歩道幅 員及び路肩幅員の合計,もしくは路側帯幅員の値であり, 歩道の有無を区別せず,車道左側の幅員を変数としてい る.分析の際には同じ意味を持つため,歩道幅員,路肩 幅員,路側帯幅員もしくは左隙間幅員のどちらかのみ用 いることとする.なお,左隙間幅員を用いる際に歩道の 有無を区別するために,歩道有無ダミーを用いる. これら変数を説明変数とし,5m-25m 間加速度の地点 平均を目的変数として,重回帰分析を行った.多重共線 性の疑いのある説明変数を除外し,作成したモデルが表 4である. 加速度に正の影響を与える要素として,左折後時間交 通量,左折前車道幅員,左折前左歩道有無ダミー,左折 後左隙間幅員が寄与していることが,有意水準 1%で統 計的に明らかになった.左折後時間交通量について,一 定の交通量が見込まれる街路においては,他よりも加速 度が上昇し易いことが示唆される.左折前車道幅員,左 折前左歩道有無ダミーについて,加速度を抑えたい場合, 街路単体で対策を行うだけでなく,周辺も含めた包括的 な対策により,より高い効果が期待される.左折後左隙 間幅員については,左折後街路において走行車線側の隙 間が多いことによって,加速度が上昇することが明らか になった. 一方で加速度の抑制に影響を与える要素としては,交 差点隅切半径 R2,左折前横断歩道ダミー,左折前制限 速度,左折後横断歩道ダミー,左折後右側高層側壁密度 が寄与していることが,有意水準 1%で統計的に明らか になった.交差点隅切半径 R2 が寄与している原因とし て,隅切半径(R)の小さい交差点では左折車のカーブ が鋭角となり,左折直後において走行速度が低下する. それにより,走行速度を回復するため加速度は上昇する と考えられる.横断歩道ダミーについては,横断歩道の 存在により歩行者が頻繁に通行しているという印象をド ライバーに与える為,左折後街路において加速度を抑え る傾向にあると思われる.街路を歩行者のための空間に 近づけることで,歩行者への配慮が働き,加速度を抑制 することが示唆される.左折前制限速度について,左折 前街路において走行速度が低く抑えられていることで, 左折後街路では相対的に高くなることによると考えられ, 左折前街路との差もドライバーの感覚に影響を及ぼすこ とが示唆される.左折後右側高層側壁密度については, 表4 加速度モデル(地点の平均 5m-25m 加速度,15 地点) 変数名 偏回帰係数 標準偏回帰係数 VIF F 値 t 値 P 値 判定 左折後 時間交通量(台/h) 0.003 1.787 4.266 69.130 8.314 P < 0.001 ** 交差点 隅切半径 R2(m) -0.063 -1.420 9.394 19.817 -4.452 0.007 ** 左折前 車道幅員(m) 0.013 1.336 5.792 28.437 5.333 0.003 ** 左折前 左歩道有無ダミー 0.337 1.756 5.609 50.770 7.125 P < 0.001 ** 左折前 横断歩道ダミー -0.363 -2.134 9.504 44.221 -6.650 0.001 ** 左折前 制限速度(km/h) -0.007 -0.794 3.337 17.426 -4.174 0.009 ** 左折後 横断歩道ダミー -0.198 -1.162 4.021 31.001 -5.568 0.003 ** 左折後 右側側壁密度 高層 -0.190 -0.900 3.572 20.953 -4.577 0.006 ** 左折後 左隙間幅員(m) 0.032 1.107 5.238 21.618 4.650 0.006 ** 定数項 0.648 - - 107.346 10.361 P < 0.001 ** 修正済決定係数 0.848 左隙間幅員 歩道幅員 路肩幅員 左隙間幅員=路側帯幅員 歩道有の例 歩道無の例 図5 左隙間幅員の算出
高層の建物が高密度で存在することにより圧迫感を感じ, 加速度が抑えられていると考えられる.左側ではなく右 側である理由としては,左折中正面に見えるのは右側の 側壁であり,より街路の印象としてドライバーに影響を 与えるのは右側であるからと考えられ,街路の印象は初 めに目に入った要素により影響されると示唆される. 5.隅切半径(R)が左折後速度推移に与える影響 左折後街路における加速度には様々な街路要素が複合 的に影響しており,その中で隅切半径(R)は,縮小に より加速度が高くなることが明らかになった. 一方で,図6に全地点の速度推移を示す.これを見る と,地点によって加速度が異なることがわかるが,左折 直後における速度も様々であることが読み取れる.その ため,加速度だけでなく,隅切半径(R)と左折後街路 における速度推移の関係も考察する必要がある. そこで,4 章のモデルにおいて有意な変数となった左 折後左隙間は近い値をとっているが,隅切半径(R)は 異なる地点 1,3,13(左折後左隙間はそれぞれ 0.84m, 0.79m , 0.96m , 隅 切 半 径 ( R ) は 6.75m , 3.7m , 8.18m)において,左折後街路における走行速度推移の グラフ及び,各位置において地点ごとに平均走行速度に 差が無いかクラスカル=ウォリス検定で分析した結果を 図7に示す. その結果,全ての位置において有意水準 1%で統計的 に有意な差が見られた.これらより,隅切半径(R)の 小さい地点では加速度は比較的高くなるが,同時に左折 直後の走行速度が抑制されていることにより,その先の 走行速度も抑えることが出来ると示唆される. 6.結論 本研究では,自動車の加速度や街路要素を実測調査す ることにより,街路の空間要素や交差点の 隅切半径 (R)と,左折後街路における自動車加速度の関係を分 析した.得られた知見を以下に示す. 左折後街路における加速度は,隅切半径(R)の大 きさのみでは十分に説明できず,様々な要素によ って影響受けていることが明らかになった.様々 な空間要素を説明変数,加速度を目的変数とした 重回帰分析では,交差点隅切半径 R2 が小さいほど 加速度は上昇する関係が示された. 一方,隅切半径(R)の縮小は左折直後の走行速度 を抑える効果もある.今回分析を行った左折後街 路における 5m-25m 区間では,隅切半径(R)が小 さいほど街路を通じて走行速度が低い傾向が示唆 され,隅切半径(R)の縮小による効果が左折後街 路においても期待される. 左折後街路における加速度に正の影響を与える要 素として,左折後時間交通量,左折前車道幅員, 左折前左歩道有無ダミー,左折後左隙間幅員が寄 与していることが明らかになった.一方で負の影 響を与える要素としては,交差点隅切半径 R2,左 折前横断歩道ダミー,左折前制限速度,左折後横 断歩道ダミー,左折後右側高層側壁密度が寄与し ていることが明らかになった. 以上を通し,左折後街路における加速度は様々な空間 要素によって決定されており,空間要素の改良により加 速度を抑制できることが示唆された.また,交差点隅切 半径(R)の縮小による効果が明らかになった. しかし,空間要素は今回扱った以外にも様々なものが 存在しており,全ては検討できていない.また,左折車 だけでなく,直進車や右折車に対する影響も考慮する必 要がある.また,限定的な条件で調査を行っているため 少 数 サ ン プ ル と な っ て い る 地 点 が 存 在 す る . 今 後 ETC2.0 データを用いるなど視野に入れ,より多くのサ ンプルを対象として分析を行う.これらについては今後 の課題としたい. 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 5m 10m 15m 20m 25m 平均速度 (k m /h) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 図6 全地点の速度推移 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 5m 10m 15m 20m 25m 平均速度 (k m /h) 1 3 13 R2=8.18m R2=6.75m R2=3.7m P値 P < 0.001 P < 0.001 P < 0.001 P < 0.001 P < 0.001 クラスカル=ウォリス検定 図7 左折後左隙間が近い地点の速度推移
7.引用文献 1) 警察庁 交通企画課:「令和元年中の交通事故死者 数について」 2) 内閣府 平成 28 年交通安全白書:「第 10 次交通安 全基本計画概要」, https://www8.cao.go.jp/koutu/taisa ku/h28kou_haku/gaiyo/features/feature04.html ,閲覧日 2020.6.24 3) 内閣府 令和元年交通安全白書:道路交通事故の動 向 4) 国土交通省 東京国道事務所 対策事例:事故多発地 点における交差点改良, https://www.ktr.mlit.go.jp/tou koku/toukoku00046.html ,閲覧日 2020.6.24. 5) 橋本成仁, 谷口守, 水嶋晋作, 吉城秀治:街路空間 要素が自動車走行速度に与える影響に関する研究, 土木計画学研究・論文集, Vol27 No.4, p.737-742, 2010.9. 6) 橋本成仁, 谷口守, 吉城秀治, 水嶋晋作:ドライバ ー意識に着目した街路空間による自動車走行速度抑 制の可能性, 土木計画学研究・論文集, Vol.27 No.3, p457-462, 2010.9. 7) 下川澄雄, 森田綽之, 小山田直弥:一般道路の道路 構造が旅行速度に及ぼす影響に関する実証的分析, 交通工学論文集, Vol.1 No.2, p.A_19-A_25, 2015.2. 8) 大橋幸子, 小林寛:歩車共存道路における道路路面
構成と通行特性実態の関連調査, 交通工学論文集, Vol.5 No.2, p.A_250-A_256, 2019.2.
9) 大橋幸子, 川瀬晴香, 関皓介, 瀬戸下伸介:生活道 路における速度抑制のための屈曲部の形状に関する 研究, 交通工学論文集, Vol.3 No.2, p.A_263-A_270, 2017.2.
10)嶋田喜昭, 鈴木一樹, 山田真未:対面通行生活道路 における連続型狭さくの設置効果とその効果持続性 の実証的分析, 交通工学論文集, Vol.5 No.2, p.A_329-A_334, 2019.5. 11)清水和弘, 岡村敏之, 中村文彦, 王鋭:生活道路に おける街路特性や沿道特性が走行速度に及ぼす影響 に関す る研 究, 土木計画学研究・ 論文集, Vol.68 No.5, p.1237-1242, 2012. 12)藤原勇輝, 橋本成仁, 海野遥香:自動車の左折時に おける空間要素が走行速度に与える影響に関する研 究, 都市計画論文集, Vol.55 No.3, 2020. 掲載予定 13)三村泰広, 安藤良輔, 稲垣具志, 太田勝敏:運転者 の安全意識からみた生活道路入口部の空間構成に関 する研究, 土木計画学研究・論文集, Vol.68 No.5, 2012. 14)佐藤大士, 鈴木弘司, 藤田素弘, 伊藤太一:走行特 性に着目した交差点コンパクト化の効果分析, 交通 工学研究発表会論文集, Vol29, 2009.10. 15)鈴木弘司, 志村連:大規模交差点における自転車と 右左折車の挙動と交錯危険性に関する分析, 土木計 画学研究・論文集, Vol.74 No.5, p971-980, 2018. 16)塩見康博, 渡部数樹, 中村英樹, 赤羽弘和:交差点 幾何構造を考慮した幹線道路信号交差点における交 通 事 故 リ ス ク 要 因 の 分 析 , 土 木 学 会 論 文 集 D3, Vol.72 No.4, p368-379, 2016. 17)川渕翔太郎, 飯田翔生, 西川尚志, 藤井駿, 長尾智之, 赤羽弘和:交差点規模が安全性に及ぼす効果の巨視 的 ・ 微 視 的 分 析 , 交 通 工 学 論 文 集 , Vol.4 No.1, p.A_265-A_273, 2018.2. 18)清水哲夫, 森地茂, 福原大介:安全対策による交通 事故削減効果の分 析, 土木計画学研究・講演集, Vol28, p315, 2003.11. (令和 2 年 6 月 30 日受付)(令和 2 年 10 月 12 日受理)