美味技術研究会誌 No.18:8-10,2011 ※ 1)く らし き作 陽大 学 :〒 710-0292 岡山 県倉 敷市 玉 島長 尾 3515
「病院給食」と管理栄養士教育
新田早美
※1・佐々木妙子
※1 [keyword] 病院給食,栄養士・管理栄養士,カリキュラム,大量調理,治療食 1.はじめに 栄養士および管理栄養士は,専門の知識や技術 を用いて,栄養や食生活の側面から人々の健康の 保持増進を支援する専門職であり,栄養士法第 1 条において表 1 のように定められている 1)。すな わち,栄養士は都道府県知事の免許を受けて栄養 の指導に従事し,管理栄養士は厚生労働大臣の免 許を受けて栄養の指導を行う者である。食事の提 供や対象者への栄養指導および栄養管理等の「食」 を通じた業務を行うため,栄養士・管理栄養士の 活動範囲は幅広く,工場・事業所,福祉施設,病 院,行政関係など多伎にわたる。本稿では,とく に 病 院 に お け る 給 食 の 現 状 と 大 学 に お け る 栄 養 士・管理栄養士教育の概要について述べる。 2.栄養士・管理栄養士養成課程の教育カリキュラム 栄養士および管理栄養士になるためには,厚生 労働省および文部科学省の基準に基づく栄養士お よび管理栄養士養成施設の教育カリキュラムを学 修する。栄養士養成課程の場合は 2~4 年間,管理 栄養士養成課程の場合は 4 年間の通学による教育 を修めると卒業と同時に栄養士免許が取得できる。 一方,管理栄養士免許は,年 1 回行われる管理栄 養士国家試験(以下,国家試験)を受験し合格し なければ取得できない。この国家試験の受験資格 は養成課程の種類や養成年月により異なり,最短 で受験資格を得る方法は管理栄養士養成課程を 4 年間で卒業することである。これは実務経験を必 要とせず,卒業と同時期に受験できる。しかし, 栄養士養成課程を卒業した場合も養成年月と実務 経験を合わせて 5 年間(例えば 2 年間の養成課程 と実務経験 3 年)を経ることにより受験資格が与 えられる。 栄養士・管理栄養士課程で修める単位数と概要 を表 2 に示した2)。栄養士 課程は 50 単位,管理栄 養士養成課程では 82 単位が定められている。教育 内容は専門基礎分野と専門分野に分けられ,各分 野には種々の教科目が設定されている。給食に関 わる教育は,栄養士課程では「給食の運営」で, 管理栄養士課程では「給食経営管理」で行われる が,いずれも教育課程の終盤に位置し,大量調理 栄 養 士 都道府県知事の免許を受けて、栄養士の名称を用いて栄養の指導に従事する ことを業とする者をいう。 厚生労働大臣の免許を受けて、管理栄養士の名称を用いて次のことを行うこ とを業とする者をいう。 ・ 傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導 ・ 個人の身体の状況、栄養状態等に応じた高度の専門的知識及び技術を要する健 康の保持増進のための栄養の指導 ・ 特定多数人に対して継続的に食事を提供する施設における利用者の身体の状 況、栄養状態、利用の状況等に応じた特別の配慮を必要とする給食管理 ・ これらの施設に対する栄養改善上必要な指導 管理栄養士 表 1 栄養士および管理栄養士の名称 ( 栄 養士 法 第 1 条 より 抜粋 ) 8を組み込んだ実践教育に重点がおかれている。さ らに学外の種々の施設(学校・病院・福祉施設・ 事業所・保健所等)での給食の実際,栄養の指導 を学ぶ臨地校外実習が設定されており,栄養士・ 管理栄養士教育の集大成として極めて重要な科目 として位置づけられている。 3.病院における給食 病院の給食に求められる食事とは,①食事が病 気 の 治 療 の 一 環 で あ る こ と ② 安 全 で 衛 生 管 理 が 守 ら れ て い る こ と ③ 食 欲 が 減 退 し て い る 患 者 に も 食 べ て い た だ け る お い し い 食 事 で あ る こ と ④ 栄 養 教 育 の モ デ ル と な る 食 事 で あ る こ と ⑤ 限 ら れた医療費の中で提供できるコスト管理された食 事 で あ る こ と ⑥ 多 数 の 患 者 に 一 度 に 提 供 で き る 食事であること,などが挙げられるが,病院給食 では食事が病気治療の一環であるため,患者一人 ひとりの病態に合わせた給食を提供することが第 一に重要である。 入院患者の年齢や疾患は多様 であるため,病院によっては独 自に設定した栄養食事基準(エ ネルギーや各栄養素の量)を作 成して食事を提供している。表 3 に,病院における食事の種類 (食事名称)を示した 3)。実際にはこれらの食種 に,さらに細かい条件を付加して提供する必要が ある。例えば,それぞれの種類の食事に,塩分制 限(1 日 10g,6g,3g,0g等)や,主食の選択 (米飯・粥・パン・麺類),副菜の食形態(一口大, きざみ,ミキサー,串さし等),アレルギーや嗜好 への対応などの条件をとり入れた給食を行ってい るため,病院の種類・規模によって異なるものの, 総合病院における食種の数は 200 種類にも及ぶ場 合がある。管理栄養士は,身体の構造や機能,患 者の疾病状態を正しく把握し,多種類の治療食を 提供するとともに,栄養指導によって治療効果を 上げることが求められている。 同時に,安全で衛生管理された食事の提供が求 められる。病院だけでなく大量調理を行う施設で は共通に,「大量調理施設衛生管理マニュアル」に 沿って調理がなされている。これは,平成 9 年厚 新田・佐々木:「病院給食」と管理栄養士教育 表 3 病院食の分類 ( N ブッ クス 改訂 臨床 栄養 管理 よ り) 分類 一般治療食 特別治療食 検査食 常食 腎臓病食 ヨード制限食 軟食 肝臓病食 潜血食 全粥食・七分粥食 糖尿食 注腸食 等 五分粥食・三分粥食 胃潰瘍食 流動食 低残渣食 幼児・小児食 貧血食 妊産婦食 膵臓食 離乳食 術後食 嚥下訓練食 等 濃厚流動食 等 食種 食 表 2 栄養士および管理栄養士養成施設の教育 ( 栄 養士 法 第 9 と 11 条 より 抜粋 ) 講義又は 演習 実験又は 実習 講義又は 演習 実験又は 実習 社会生活と健康 4 社会・環境(人間や生活)と健康 6 人体の構造と機能 疾病の成り立ち 食べ物と健康 8 基礎栄養学 2 栄養と健康 8 応用栄養学 6 栄養の指導 6 栄養教育論 6 臨床栄養学 8 公衆栄養学 4 給食経営管理論 4 総合演習 2 4 小計 36 14 60 22 合計 栄養士養成施設の教育内容 単位数 単位数 管理栄養士養成施設の教育内容 食品と衛生 6 4 8 人体の構造と機能 8 専 門 基 礎 分 野 10 14 10 専 門 分 野 臨地実習(給食の運営の校外実習を 1単位含む) 給食の運営(校外実習1単位以上 を含む) 4 50 小計合計 82 9
生省(現厚生労働省)より出され HACCP の概念を 取り入れたもので,大量調理施設(同一メニュー を1回に 300 食以上または一日 750 食以上提供す る施設)に適応されているが,中小規模調理施設 においてもこのマニュアルに準じて運営されてい る。安全で衛生管理された給食は管理栄養士・栄 養士の重要な業務の一つである。 次に病院給食における献立作成について触れた い。病院給食は 1 日 3~6 食(朝・昼・夕食に加え, 患者によっては午前・午後の間食や夜食)を 365 日提供するため,多くの病院ではサイクル献立(3 ~4 週間毎に献立を繰り返す)を採用している。 これにより献立が熟考され,患者にとっておいし く,退院後も参考となる食事が提供されることに 繋がるといわれる。病院給食では入院時食事療養 制度があり,患者の自己負担額は 1 食 260 円と決 められており,これが食材料費の目安となること が多い。サイクル献立は材料のコスト面や人員面 においてもメリットが大きいといえる。しかしな がら,病院給食ではサイクル献立だけによるので はなく,季節ごとの行事食等を取り入れ,患者サ ービスの向上も図られている。以上,病院給食に ついての現状を述べてきたが,病院給食では献立 が複雑にならざるを得ないこと,患者の個別対応 を柔軟に行う必要があることなどから,病院スタ ッフとの連携が極めて重要である。 このため病院で働く管理栄養士は,治療食の専 門職としての自己研鑽とともにコミュニケ-ショ ン能力やマネジメント能力も求められている。 4.まとめ 病院では患者の栄養管理を行うことで,病態の 改善,在院日数の短縮化など栄養治療の重要性が 認識されている。患者に合った給食(治療食)の 提供や栄養指導を行うために,管理栄養士養成施 設でのカリキュラムは,表 2 に示したように,食 物という「モノ」とそれを食べる「ヒト」に関わる科 目群を柱に,マネ-ジメントの要素を加味して構 成されているといえよう。教育課程の集大成とし ての「給食」に関する実習では,学内において学 生 10 名前後で約 120 食の食事の提供や経営管理を 経験し,さらに学外施設での実際の給食業務や栄 養指導を学んだ後,社会へと巣立つ。今日,病院 で求められる管理栄養士の役割は多岐に及んでい るが,我々は施設のニーズに丁寧に対応できる人 材の養成を目指している。学生達が栄養に関する 深い知識と技術を身につけ,対象者に寄り添える 管理栄養士および栄誉士に育ってくれることを願 っている。 参考文献 1)社団法人 日本栄養士会編:管理栄養士・栄養士 必携-データ・資料集-平成 22 年度版, 第一出 版, 400, 2010 2)社団法人 日本栄養士会編:管理栄養士・栄養士 必携-データ・資料集-平成 22 年度版, 第一出 版, 423-424, 2010 3)渡邉早苗ら:N ブックス改訂臨床栄養管理, 建 帛社, 40-46, 2009 美 味 技 術 研 究 会 誌 第 1 8 号(2011) 10