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COVID-19に合併した急性下肢虚血の1例

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日本血管外科学会雑誌 2021; 30: 173–177

COVID-19 に合併した急性下肢虚血の1 例

吉川 英治

1,

*,林

一郎

1

,加島 一郎

2

,飯島 夏海

1

,黑田 大朗

1 要 旨: COVID-19 は血栓症の合併頻度が高く,死亡率の増加と関連している.症例は 70 歳男性で,COVID-19 の PCR 検査陽性後 9 日目に発熱や息切れの症状増悪のため入院となった.低酸素血症のため NPPV 管理となり, D-dimer 値は 28.2 µg/mL であった.入院翌日に右下肢痛が出現し,右大 動脈以遠の動脈拍動が触知困難となっ た.D-dimer 値は 65.9 µg/mL で,CT で腹部大動脈に限局性の壁在血栓と右腸骨動脈,右大 深動脈,右膝窩動脈 の血栓閉塞を認め,左前脛骨静脈にも血栓を認めた.TASC II 分類 IIb の急性下肢虚血の診断で,緊急に全身麻酔 下で Fogarty カテーテルによる血栓除去術を施行した.術後は右大 動脈以遠の動脈拍動が触知可能となり,ヘパ リン持続静注の後,DOAC による抗凝固療法を開始した.術後 CT で右下肢動脈は良好に描出されていたが,腹部 大動脈の壁在血栓は残存していた. (日血外会誌 2021; 30: 173–177) 索引用語: COVID-19,急性下肢虚血,血栓除去術

2019 年 12 月に中国武漢で確認された新型コロナウイ ルス感染症(COVID-19)1)は急速にパンデミックへと拡 大し,医療危機に留まらず,甚大な社会経済的な混乱を 引き起こしている.COVID-19 は気道感染による呼吸器 症状が典型的であるが,血栓症の合併頻度が高く,死亡 率の増加と関連している2).今回われわれは COVID-19 に合併した急性下肢虚血の 1 例を経験したので報告す る.

症 例:70 歳,男性 主 訴:右下肢安静時痛 既往歴:高血圧症 喫煙歴:葉巻 1 本/日×4 年間,以後 46 年間禁煙 現病歴:経営している会社で従業員の COVID-19 罹患 が判明したことや, 怠感,食思不振の症状が出現した ため,COVID-19 の PCR 検査を施行したところ,陽性の 結果となった.自宅で療養していたが,発熱や息切れが 出現して症状が増悪したため,保健所の依頼で発症 9 日 目に当院へ入院となった.搬送時の経皮的動脈血酸素 飽和度(SpO2)は室内気で 70% 弱で,胸部 CT で両肺は すりガラス影を呈していた.D-dimer 値は 28.2 µg/mL で あった.High-flow nasal cannula でも低酸素血症が改善せ ず,非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)を導入した.導入 後に SpO2は 90% 前半で推移するようになり,抗ウイル ス薬(レムデシビル)と低分子量ヘパリン(エノキサパ リンナトリウム)の投与を開始した.入院翌日に右下肢 の安静時痛と冷感が出現し,右大 動脈以遠の動脈拍動 が触知困難となったため,当科紹介となった. 現 症: 身 長 169 cm, 体 重 72 kg, 体 温 38.8°C, 血 圧 123/82 mmHg, SpO2 93%(NPPV, 酸 素 濃 度 0.65, Positive end expiratory pressure 14 cm H2O, Pressure support 7 cm H2O)

理学所見:右下 に安静時痛があり,右足部の背屈力 が低下していた.右大 動脈以遠の動脈拍動は触知困難 であった.

血 液 検 査 所 見:WBC 8630/µL, Hb 16.0 g/dL, Plt 10.4× 104/µL, CRP 12.28 mg/dL, T-Bil 1.27 mg/dL, AST 88 IU/L, ALT 24 IU/L, CPK 427 IU/L, LDH 1,063 IU/L, BUN 24 mg/dL, Cr 0.92 mg/dL, Na 147 mEq/L, K 3.9 mEq/L, D-dimer 65.9 µg/mL

心電図所見:脈拍数 113 回/分,洞調律であった. 単純胸部 CT 所見:両肺にびまん性のすりガラス影を 認めた(Fig. 1). CT 所見:腹部大動脈の下腸間膜動脈分岐部レベルに 限局性の壁在血栓を認めた.早期相で造影欠損を右総 腸骨動脈から右外腸骨動脈の深腸骨回旋動脈分岐部ま での範囲,右大 深動脈遠位部,右膝窩動脈以遠に認 1 自衛隊中央病院心臓血管外科 〒154–8532 東京都世田谷区池尻1–2–24 2 国家公務員共済組合連合会三宿病院心臓血管外科 * E-mail: [email protected] 受付:2021年3月5日 受理:2021年4月2日 doi: 10.11401/jsvs.21-00024

■ 症

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めたが,後期相で右後脛骨動脈末梢が描出された.ま た,左前脛骨静脈分岐部に限局性の造影欠損を認めた (Fig. 2). 以上の所見から急性下肢虚血と診断し,未分画ヘパ リンのボーラス投与と持続静注を開始した.下肢症状 発症から12 時間経過していたが,重症度はTASC(Trans-Atlantic Inter-Society Consensus) II 分類の IIb であったこと から救肢可能と判断し,緊急で血栓除去術を行う方針と した.手術は局所麻酔で可能であったが,不穏のため術 中には鎮静剤投与が必要と予想された.過鎮静等による 緊急挿管で医療従事者への感染リスク増大を看過できな いことや,近日中に人工呼吸器管理となる可能性が高 かったことを考慮し,全身麻酔下での手術とした. 手術所見:右鼠径部切開でアプローチし,総大 動脈 を切開して腸骨動脈,浅大 動脈,大 深動脈に対して 3 F と 5.5 F Fogarty カテーテルによる血栓除去を行った. 各々の血管から白色・暗赤色血栓の回収に成功し,良好 な順行性・逆行性血流があることを確認した.動脈切開 部を縫合閉鎖して血流を再開,膝窩動脈と後脛骨動脈の ドプラ信号を聴取できるようになった. 術後は合併症なく経過し,右大 動脈以遠の動脈拍動 は触知可能となった.血栓の病理組織診断はフィブリン 血栓であった.抗凝固療法は未分画ヘパリン持続静注を しばらく継続した後,深部静脈血栓症の合併もあること から直接経口抗凝固薬(DOAC)のリバーロキサバンの投 与を開始した.術後 2カ月目のCTで右下肢動脈は良好に 描出されていたが,腹部大動脈の壁在血栓は残存してい た(Fig. 3).D-dimer 値 は3.0 µg/mLで あ っ た.COVID-19 肺炎に対してはステロイド投与を開始し,術後 4日目に人 工呼吸器を離脱したが,呼吸不全が増悪し術後10日目に 再挿管となった.再挿管から15日後に抜管し,入院 2カ 月目の段階で経鼻酸素で管理できる程度まで回復した.

Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)による COVID-19 パンデミックは医療に限らずあ らゆる分野に混乱をもたらし,いまだに収束の見通し が立っていない状況である.20% が重症化するとの報告

があり3),その重症例の合併症としてとくに注目されて

Fig. 1 Computed tomography scan showing extensive ground-glass opacities of both lungs.

Fig. 2 Computed tomography angiography showing acute occlusion of the right iliac artery, distal right profunda femoris artery, and popliteal artery (A, white arrows), a focal aortic thrombus at the level of the inferior mesenteric artery (B, white arrow), and a thrombus in the left anterior tibial vein (C, white arrow).

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いるのが,静脈血栓塞栓症(VTE)を主体とする血栓症 を高頻度に合併する病態である4).同じコロナウイルス で 2003 年に流行した SARS や 2012 年の中東呼吸器症候 群(MERS)にも血栓症の報告はあるが5),COVID-19 ほ ど顕著ではなく,Smilowitz らは,COVID-19 による血栓 症の発症率は他のウイルス性呼吸器疾患と比べ有意に 高かったことを報告している6).血栓症の合併は重症例 に多く,42 の研究における 8000 余りの COVID-19 症例の 解析では,VTE 発症率は全症例で 21%,重症例で 31% で あり,動脈血栓発症率は全症例で 2%,重症例で 5% と 報告された7).また,COVID-19 で死亡した患者 12 例の うち,深部静脈血栓症を 7 例(58%),直接死因となっ た肺塞栓を 4 例(30%)に認めた報告がある8).本邦の COVID-19 関連血栓症のアンケート調査9)でも,6000 弱 の症例中,血栓症発症率は 2% であったが,重症例に 限れば 13% と高い結果であった.疾患の内訳は VTE が 最も多かったが,脳梗塞の発症も比較的多く,血栓症 の 21% を占めていた.COVID-19 では動脈血栓を発症す ることも特徴的であるが,動脈血栓イベントに焦点を 当てた研究は VTE と比べると少ない.27 の研究におけ る解析では,重症例の動脈血栓の発症率は 4% であり, 部 位 と し て は 四 肢 動 脈(39%), 脳 血 管(24%), 大 血 管(19%),冠動脈(9%),上腸間膜動脈(8%)であっ た10).動脈血栓は COVID-19 の死亡率にも関連があり, Fournier らは動脈血栓イベントを生じた患者の院内死亡 率が 40% と高く(対象群 16%),死亡リスクを 3 倍に増 加させたことを報告している11).COVID-19 に合併した 急性下肢虚血の報告が散見されるようになったが12–18) 本例も深部静脈血栓症の合併や,動脈硬化性病変に乏し く心原性も否定的であることから,COVID-19 に合併し たものと考えられた.呼吸器症状がほとんどない患者に 急性下肢虚血を発症した報告14)もあり,この強い血栓 形成が COVID-19 に生じやすい理由はいまだ十分に解明 されていないが,いくつかの機序が考えられている19) 1 つは SARS コロナウイルスがアンジオテンシン変換酵 素(ACE)2 受容体を介して血管内皮細胞を直接攻撃 し,内皮障害を来す機序である.感染した内皮細胞から 凝固第 VIII 因子や von Willebrand 因子などが放出される ことによって血小板粘着・凝集を促進し,血栓形成を 来すことが考えられている.ACE2 受容体は肺胞上皮細 胞,血管内皮細胞,免疫担当細胞などにさまざまな程度 で発現しているが20),SARS-CoV-2 は一般的な SARS ウ イルスと比べて ACE2 受容体の結合の強さが少なくとも 10 倍であることが報告されており21),その親和性が顕 著な凝固亢進の一因となっている可能性がある.また, 血液凝固や血小板凝集を促進するループスアンチコアグ ラントが高率に出現することが知られている22).ウイ ルス感染症で一時的に陽性となる場合があることは既知 であるが,COVID-19 の血栓症と関連している可能性が 報告された23).また,SARS-CoV-2 が血管内皮細胞を障 害する補体を活性化させることや24, 25),免疫細胞を刺 激して大量のサイトカインを放出させ(サイトカインス Fig. 3 Computed tomography angiography showing restoration of in-line flow to the right foot (A) and the presence of the aortic thrombus (B, white

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トーム),さまざまな経路を介して凝固亢進と血栓形成 を来すことも考えられている26).このように COVID-19 による血栓形成は,相互に関連し合っている凝固系,免 疫系,補体系の異常な活性化によって惹起されているこ とが想像される.この凝固異常を評価するマーカーとし ては D-dimer が推奨されて,血栓形成および COVID-19 重症化の指標となることが報告されている27).国際血 栓止血学会のガイドライン28)では,D-dimer 値が正常上 限の 3∼4 倍高値であれば,他に症状がなくても入院中 は低分子量へパリンの予防投与を勧めている.本例は入 院時の D-dimer 値が 28.2 µg/mL と著明な高値を示し,入 院当日から低分子量ヘパリンの投与を開始したが,翌 日に急性下肢虚血を発症する結果となり,D-dimer 値は 65.9 µg/mL であった.このように過度な凝固亢進を来す 可能性を考えると,低酸素血症が血栓形成を促進する 危険因子でもあることから8),酸素投与を要する症例は D-dimer 値に関わらず予防的に全例ヘパリン投与が妥当 であるかもしれない.本例は血栓除去術を全身麻酔下で 行ったが,原則的には COVID-19 患者の麻酔法選択は非 感染者と同様の対応とされている.手術侵襲としては局 所麻酔で可能であったが,緊急挿管による不用意なエア ロゾル暴露を回避するために全身麻酔を選択したことは 妥当な措置であったと考えている.術後の抗凝固療法は 未分画ヘパリンの持続投与を行った後,DOAC 内服へ移 行した.下肢虚血の再発なく経過しているが,腹部大動 脈の壁在血栓は残存しており,抗凝固療法の期間につい ては,COVID-19 の症状回復後に炎症や凝固障害がどの くらい継続するかが不明であり一定の見解が得られてい ない.本例のように healthy,もしくは軽度の動脈硬化性 病変を有する腹部大動脈に血栓形成を来す報告はいくつ かあり12, 15, 16, 18),COVID-19 の著明な凝固亢進を垣間見 る事例である.当院はダイヤモンドプリンセス号の 100 例余りの患者の受け入れ29)を含め,現在までに 740 例 を超える COVID-19 患者の入院実績を有するが,動脈血 栓の合併は本例と脳梗塞 1 例の計 2 例であった.本例は 検索し得る限り,COVID-19 に合併した急性下肢虚血に 対する血栓除去術の本邦における初報告であるが,感染 が拡大したイタリアのロンバルディア地方では 2020 年 1 月から 3 月までの四肢の急性虚血の発症率(16.3%)が 前年の同時期(1.8%)と比べると有意に高かったことが 報告されており12),本邦でも今後の COVID-19 拡大によ り急性下肢虚血の増加が懸念される.COVID-19 患者に 対する外科的治療にも十分に対応できる医療体制の構築 が急務であることが考えられた.

利益相反

著者および共著者全員が利益相反はない.

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Acute Limb Ischemia in a Patient with COVID-19

Eiji Yoshikawa

1

, Ichiro Hayashi

1

, Ichiro Kashima

2

, Natsumi Iijima

1

, and Taro Kuroda

1

1 Department of Cardiovascular Surgery, Self-Defense Force Central Hospital 2 Department of Cardiovascular Surgery, KKR Mishuku Hospital

Key words: COVID-19, acute limb ischemia, thrombectomy

Patients with coronavirus disease (COVID-19) are at increased risk of thrombosis. A 70-year-old man with hypertension was hospitalized with fever, shortness of breath, and hypoxia. He had tested positive for COVID-19 9 days prior and exhibited a significantly elevated D-dimer level (28.2 µg/mL). One day after admission, new-onset acute right lower-extremity pain was reported. On examination, he had profound mild weakness in the right leg and absent pulses below the right femoral artery. Computed tomography angiography revealed a focal aortic thrombus at the level of the inferior mesenteric artery; a thrombus in the left anterior tibial vein; and acute occlusion of the right iliac artery, distal right profunda femoris artery, and popliteal artery. Electrocardiography revealed a normal sinus rhythm. Clinically, he had Trans-Atlantic Inter-Society Consensus II Stage IIb acute limb ischemia. The patient underwent emergent thrombectomy, and an acute thrombus was removed. Palpable pulses were restored in the right foot. The patient was maintained on therapeutic intravenous heparin and transitioned to direct oral anticoagulants. He has not experienced any recurrent ischemic limb events, but the aortic thrombus has not disappeared.

Fig. 2  Computed tomography angiography showing acute occlusion of the right iliac artery, distal right profunda femoris artery, and popliteal artery (A,  white arrows), a focal aortic thrombus at the level of the inferior mesenteric artery (B, white arrow

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