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指尖部損傷に対するOASIS®細胞外マトリックスの使用経験

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(1)創傷 12(2):59 - 65, 2021. 59. <症例報告>. 指尖部損傷に対する OASIS® 細胞外マトリックスの使用経験 川 浪 和 子 *,吉 村 静 香 *,矢 野 浩 規 * Key Words:OASIS® 細胞外マトリックス,指尖部損傷,急性創傷,ブタ小腸粘膜下組織. レッシングの交換を行った。貼付後約 1 週の時点で,. 序 文. OASIS の切り込みを通して浸出液がみられる状態や,. 指尖部損傷 3 例に対し,ブタ小腸粘膜下組織由来の ®. OASIS が不明瞭となって肉芽面が目視できる状態で,. 細胞外マトリックス製品である OASIS 細胞外マト. 明らかに創閉鎖が得られていないと判断した場合には. リックス(クックメディカルジャパン合同会社,日本,. OASIS を再貼付し,創の残存の有無が判然としない. 以下, OASIS)を使用した。OASIS はさまざまな急性・. 場合には絆創膏等での保護のみ行い,可能な時期より. 慢性創傷へ使用できるが,急性創傷に対する報告は少. 自己処置に切り替えた。最終的に OASIS はカラメル. ないため,若干の文献的考察を加え報告する。. 色の膜となって創面に固着し,周囲から自然に浮き上 がった分を愛護的に切除した。OASIS が膜状に創面. 対象と方法. を覆う状態で創閉鎖が得られたかどうかを判断するこ. 対象症例は,切断組織が使用できない指尖部損傷 3. とは困難であったため,OASIS が切除や自己処置中. 例で,全例とも外来通院で治療を行った(表 1)。前. の自然脱落によって除去され,医師が上皮化を目視で. 医での処置内容にかかわらず,当科初診日に指神経ブ. 確認した日を創閉鎖日として記録した。. ロック・指駆血下で十分な洗浄と異物除去,必要に応 じて最低限のデブリードマンを行い,骨断端が突出し ている場合は創面と同じ高さまで削った。症例 1 は塩 基性線維芽細胞増殖因子(以下,bFGF)製剤(フィ ®. 症例 1:21 歳,男性。右示指の掌側斜切断,骨露出 あり(図 1a ~ t)。. 丸ノコで木を切っている際に,誤って右示指の爪床. ブラスト スプレー)と人工真皮による治療を 13 日. 末端部から指腹中央部を斜めに切断した。同日近医で. 間行った後に OASIS を使用し,症例 2,3 は当科初. 洗浄とガーゼ保護を受け,受傷後 2 日目に当科を受診. 診日より OASIS を使用した。. した(図 1a,b)。単純レントゲンで末節骨末端部の. OASIS は 2 層有窓タイプを使用した。添付文書の. 欠損を認めた(図 1c)。受傷後より,鎮痛薬を内服し. 使用方法に従い,創傷よりもやや大きくカットして創. ても眠れないほどの痛みが持続していた。. 傷に貼付したのち,滅菌生理食塩水を浸潤させ,非. 皮弁手術の同意が得られず,初診当日より人工真. ®. 固着性の二次ドレッシング(メピテル ワン)で被. 皮と bFGF 製剤による治療を開始した。人工真皮は. 覆した上からガーゼと包帯で保護を行った。以後は. テルダーミス ® 真皮欠損用グラフトのシリコーン膜付. 週 2 ~ 3 回の頻度でガーゼと,必要に応じて二次ド. きタイプを使用した。創面に bFGF 製剤を噴霧後に,. 年齢. 症例. 表 1 症例の一覧 性. 部位. 創の形態. 骨露出. 受傷から OASIS 初回貼付までの日数. OASIS の 貼付回数. OASIS 初回貼付から 創閉鎖までの日数. 1. 21. 男. 右示指. 掌側斜切断. 有. 15 日. 3回. 29 日. 2. 35. 男. 左環指. 側爪部斜切断. 有. 4日. 2回. 34 日. 3. 66. 男. 左小指. 尺側斜切断. 無. 1日. 2回. 21 日. * 大分県厚生連鶴見病院形成外科 2020 年 4 月 13 日受領 2020 年 6 月 17 日掲載決定.

(2) 創傷 12(2):59 - 65, 2021. 60. (a). (b). (c). (d). (e). (f). (g). (h). ( i). ( j). (k). ( l). (m). (n). (o). (p). (q). (r). (s). (t). 図 1 症例 1 (a)受傷後 2 日(初診時)掌面像 (c)受傷後 2 日(初診時)レントゲン側面像 (e)受傷後 15 日(人工真皮除去後)側面像 (g)受傷後 16 日(OASIS 初回貼付後 1 日)掌面像 ( i )受傷後 21 日(OASIS 初回貼付後 6 日)掌面像 (k)受傷後 26 日(OASIS 2 回目貼付後 5 日)掌面像 (m)受傷後 30 日(OASIS 3 回目貼付後 2 日)掌面像 (o)受傷後 37 日(OASIS 3 回目貼付後 9 日)掌面像 (q)受傷後 44 日(創閉鎖時)側面像 (s)創閉鎖後 6 ヵ月 掌面像. (b)受傷後 2 日(初診時)側面像 (d)受傷後 15 日(人工真皮除去後)掌面像 (f)受傷後 15 日(OASIS 初回貼付時)掌面像 (h)受傷後 19 日(OASIS 初回貼付後 4 日)掌面像 ( j )受傷後 23 日(OASIS 2 回目貼付後 2 日)掌面像 ( l )受傷後 28 日(OASIS 2 回目貼付後 7 日)掌面像 (n)受傷後 34 日(OASIS 3 回目貼付後 6 日)掌面像 (p)受傷後 44 日(創閉鎖時)掌面像 (r)受傷後 44 日(創閉鎖時)レントゲン側面像 (t )創閉鎖後 6 ヵ月 側面像.

(3) 創傷 12(2):59 - 65, 2021. 61. 創面に合わせてカットした人工真皮を 5-0 ナイロンで. 色にゲル化した領域が出現し(図 2f),再貼付の 7 日. 縫合固定した。人工真皮貼付後より痛みは著明に軽快. 後には OASIS はカラメル色の膜となって創に固着し. した。通院は週 3 回以上の頻度で行い,bFGF 製剤を. ていた(図 2g)。受傷後 20 日目より OASIS が浮き上. 1ml シリンジと 30G 針を用いてシリコーン膜下に 0.1. がりはじめて切除可能となり(図 2h),受傷後 23 日. ~ 0.2 ml ずつ注入した。その後当院で OASIS が新た. 目より自己処置を開始し,受傷後 38 日目(OASIS 初. に使用可能となったため,受傷後 15 日目に抜糸して. 回貼付後 34 日目)に上皮化を確認した(図 2i)。創. シリコーン膜と肉芽組織に置換されていないコラーゲ. 閉鎖後 1 ヵ月程度は患部に物が当たった際,軽い痛み. ンスポンジを愛護的に除去し,OASIS の初回貼付を. があったが,指は問題なく使用でき,創閉鎖後 6 ヵ月. 行った(図 1d ~ f) 。OASIS に変更後も新たな痛み. の最終診察時には瘢痕部に若干の硬さは残るものの,. は生じなかった。翌日,二次ドレッシング越しに観察 を行うと,創縁に該当する部分に,わずかにゲル化し. た黄白色の領域を認めた(図 1g) 。初回貼付の 4 日後 には,黄白色に縁どられた領域はやや狭まり,ゲル化 が増して膿の貯留のようにも見えたため(図 1h),穿. 自覚症状はなく,患者は満足している(図 2j ~ l)。 症例 3:66 歳,男性。左小指末節部尺側の斜切断, 骨露出なし(図 3a ~ k)。. 電動カンナを用いた作業中に誤って左小指末節部尺. 刺を行ったが排膿や排液は認めなかった。OASIS は. 側を斜めに切断し,20 × 7 mm の皮膚軟部組織欠損. ゲル化ののちにカラメル色の薄い膜となり,初回貼. が生じた。同日近医で洗浄とアルギン酸ドレッシング. 付の 6 日後には,ゲル化した領域はさらに縮小して. 貼付が行われ,受傷翌日に当科を受診した(図 3a,b)。. OASIS 全体が創に固着し,創面の観察はできない状. 単純レントゲンで骨損傷はなく,創面への骨露出は認. 態であったが(図 1i) ,少量の浸出液を認めたため,. めなかった。痛みは鎮痛薬内服でコントロール可能で. OASIS の再貼付を行った。受傷後 21 日目に 2 回目,. あった。. 受傷後 28 日目に 3 回目の貼付を行い,それぞれ再貼. 初診当日に OASIS を初回貼付,貼付後より鎮痛薬. 付の 2 日後の診察時にゲル化が最も目立ち,以後はゲ. 内服が不要となった。初回貼付 3 日後の二次ドレッシ. ル化した領域の縮小を認めた(図 1j ~ n) 。受傷後 37. ング越しでの診察で OASIS はゲル化を示さず,初回. 日目より OASIS の辺縁が浮き上がりはじめ(図 1o),. 貼付後 4 日目に二次ドレッシングを除去したところ. 切除と自己処置を開始し,受傷後 44 日目(OASIS 初. OASIS は不明瞭となっており,受傷後 8 日目に 2 回. 回貼付後 29 日目)に上皮化を確認した(図 1p ~ r)。. 目の貼付を行った(図 3c ~ e)。再貼付の 3 日後には. 創閉鎖直後より痛みなく指を使用でき,創閉鎖後 6 ヵ. OASIS 全体が黄白色のゲル状となり,その後周囲よ. 月の最終診察時,軽度の爪の掌側彎曲と,瘢痕の軽度. り乾燥してカラメル色の膜となった(図 3f,g)。受傷. の硬さを認めたが,患者の満足度は高く,追加治療の. 後 15 日目より OASIS が周囲より浮き上がりはじめ,. 希望はない(図 1s,t) 。. 切除と自己処置を開始した(図 3h)。受傷後 22 日目 (OASIS 初回貼付後 21 日目)に OASIS が完全に除去. 症例 2:35 歳,男性。左環指の側爪部斜切断,骨露 出あり(図 2a ~ l)。. され,創閉鎖を確認した(図 3i)。創閉鎖後 4 ヵ月ま では患部に物が当たった際の違和感や軽い痛みを認め. 電動カンナを用いた作業中に誤って左環指尺側の側. たが,指の使用に支障はない程度で,創閉鎖後 6 ヵ月. 爪部を斜めに切断し,15 × 8 mm の皮膚軟部組織欠. の最終診察時には瘢痕は柔らかく,寒冷時に軽い痛み. 損が生じた。同日近医で洗浄とアルギン酸ドレッシン. を自覚するのみで,患者は満足している(図 3j,k)。. グ貼付が行われ,受傷後 4 日目に当科を受診した(図 2a ~ c) 。単純レントゲンで末節骨のわずかな欠損を. 考 察. 認めた。痛みは鎮痛薬の内服でコントロール可能で. 生体組織から細胞成分を除去することで得られる細. あった。. 胞外マトリックス製品は,組織再生のための移植材料. 初診当日に OASIS を初回貼付した。貼付後より鎮. として使用され 1),わが国では,真皮欠損用グラフト. 痛薬内服が不要となった。初回貼付 3 日後の二次ド. としてブタ小腸粘膜下組織由来の OASIS® 細胞外マト. レッシング越しでの診察では,症例 1 で観察された. リックスが 2017 年より販売開始となった。コラーゲ. ような黄白色の領域の出現は判然としなかった(図. ンのほか,種々のグリコサミノグリカン,糖タンパク,. 2d)。その後 OASIS は不明瞭となり,良好な肉芽面. 成長因子を保持し,生体内と同様の三次元構造を有す. となったため,受傷後 10 日目に 2 回目の貼付を行っ. ることから,創部周辺の表皮角化細胞および線維芽細. た(図 2e) 。再貼付の 3 日後,創を縁取るように黄白. 胞の遊走・接着および OASIS 内部での細胞増殖を促.

(4) 創傷 12(2):59 - 65, 2021. 62. (a). (b). (c). (d). (f). (g). (h). (i). (j). (k). ( l). 図 2 症例 2 (a)受傷後 4 日(初診時)背面像 (c)受傷後 4 日(初診時)側面像 (e)受傷後 10 日(OASIS 初回貼付後 6 日)側面像 (g)受傷後 17 日(OASIS 再貼付後 7 日)側面像 ( i )受傷後 38 日(創閉鎖時)側面像 (k)創閉鎖後 6 ヵ月 掌面像. (e). (b)受傷後 4 日(初診時)掌面像 (d)受傷後 7 日(OASIS 初回貼付後 3 日)側面像 (f)受傷後 13 日(OASIS 再貼付後 3 日)側面像 (h)受傷後 20 日(OASIS 再貼付後 10 日)側面像 ( j )創閉鎖後 6 ヵ月 背面像 ( l )創閉鎖後 6 ヵ月 側面像. 進する足場として機能し,創傷治癒を促進する 2 ~ 4)。. 較して機械的強度が高い。また OASIS は酵素分解さ. OASIS はわが国においては単層タイプと 2 層タイ. れ,時間とともに創面に組み込まれるが,2 層タイプ. プが販売され,また,それぞれに有窓タイプ(3 ×. はより耐久性が高く,創面に長く存在するため,単層. 3.5 cm,3 × 7 cm)とメッシュタイプ(7 × 10 cm,7. タイプよりも追加貼付の頻度が少なく済む可能性があ. × 20 cm)が存在する。2 層タイプは単層タイプと比. る 5)。有窓タイプよりもメッシュタイプのほうが多数.

(5) 創傷 12(2):59 - 65, 2021. 63. (a). (b). (c). (d). (f). (g). (h). ( i). (j). (k). 図 3 症例 3 (a)受傷翌日(初診時)掌面像 (c)受傷後 4 日(OASIS 初回貼付後 3 日)側面像 (e)受傷後 8 日(OASIS 初回貼付後 7 日)側面像 (g)受傷後 13 日(OASIS 再貼付後 5 日)側面像 ( i )受傷後 22 日(創閉鎖時)側面像 (k)創閉鎖後 6 ヵ月 側面像. (e). (b)受傷翌日(初診時)側面像 (d)受傷後 5 日(OASIS 初回貼付後 4 日)側面像 (f)受傷後 11 日(OASIS 再貼付後 3 日)側面像 (h)受傷後 15 日(OASIS 再貼付後 7 日)側面像 ( j )創閉鎖後 6 ヵ月 掌面像. の切り込みを有しており,より多くの浸出液透過が可. ては,一般的に創傷が再上皮化するまでは 3 ~ 7 日ご. 能である。当院では 2 層有窓タイプの 3 × 3.5 cm サ. との再貼付を要すると記載される。文献を渉猟しえた. イズのみを採用していたため,2 層有窓タイプを使用. 限りでは,ドレッシング交換の頻度は週 1 回で,そ. した。添付文書には,二次ドレッシングの交換の頻度. の際に必要に応じて OASIS の再貼付を行うという報. は明記されておらず,また,OASIS の再貼付につい. 告が多かった 4 ~ 9)。自験例では,指の使用を制限しな.

(6) 創傷 12(2):59 - 65, 2021. 64. かったため外からのドレッシング汚染が心配されたこ. や皮弁での再建,断端形成術などの手術療法が選択さ. とと,OASIS の使用経験に乏しいため慎重を期して,. れる 10)。. 初回貼付および再貼付から約 1 週までは週 2 ~ 3 回の. 指尖部損傷に対する皮弁での再建は,多数の術式. 頻度でドレッシング交換を行い,貼付後約 1 週で再貼. が報告される。皮弁の選択は,可能な限り oblique. 付の必要性を判断し,再貼付しない場合には患者の同. triangular flap や逆行性指動脈島状皮弁などの損傷指. 意が得られ次第,自己処置に切り替えた。. からの皮弁が検討され,次いで指交叉弁などの他指か. 今回,指尖部損傷に対して OASIS を使用したきっ. らの皮弁や,母指球皮弁などの指以外からの遠隔皮. かけは,骨断端を十分な組織で被覆して使用に耐え. 弁,足趾からの遊離皮弁が考慮される。治療期間の短. うる丈夫な指尖を形成するため,皮弁手術の適応と. 縮のため二期的手術を要さない術式が望ましく,ま. 考えた症例 1 で手術の同意が得られず,断端へのよ. た,知覚の再建や,欠損部と類似した皮膚の使用,爪. り強力な肉芽形成を期待したためであった。しかし. の形態など整容面にも配慮した再建が求められる。十. OASIS 貼 付 後 よ り OASIS の 下 で 上 皮 化 が 進 行 し,. 分な軟部組織の充填によって,使用に耐えうる丈夫な. OASIS は治癒組織に組み込まれなかった。同様の現. 指尖が再建でき,指の長さが長く保たれ,指尖部の組. 象は,同じく急性創傷である II 度熱傷に OASIS を使. 織量減少と瘢痕化に伴う爪の弯曲を回避できるという. 5). 用した Salgado らの報告に記載される 。Salgado ら. 大きな利点があり,保存的治療と比較して早期の創閉. は組織学的検討の結果,OASIS は治癒組織に組み込. 鎖が期待できる。欠点としては,皮弁壊死の可能性や. まれずに細胞移動を促進して熱傷治癒を促し,上皮化. 皮弁採取部の犠牲があげられる。逆行性指動脈島状. 後も OASIS は表面に付着したままであることを示し. 皮弁などの一側の指動脈を犠牲にする術式では,cold. た。症例 1 では肉芽の増生効果は判然としなかったも. intolerance が発生することがある。また,皮膚切開. のの,すみやかに上皮化が得られ,ほかに外用薬を. 部の瘢痕拘縮や術後安静に伴って関節拘縮が生じるこ. 必要とせず処置が簡単であったため,症例 2 と 3 で. とがあり,欠損の部位や大きさのほか,患者の年齢,. OASIS を使用したところ,受傷後 1 日目と 4 日目に. 基礎疾患,社会的背景などを考慮して皮弁の種類が決. 使用した OASIS は創に組み込まれて良好な肉芽面を. 定される 10, 11)。しかし患者によっては,家庭の事情や. 形成し, 一方で受傷後 8 日目以降の使用(再貼付)では,. 仕事の都合,経済的理由などで入院や手術での再建を. 貼付の 3 日後に症例 1 と同様にゲル化が目立った後に. 希望しない場合があり,そのような症例には保存的治. 膜状となり,OASIS の下で上皮化が進行した。膜状. 療を選択せざるを得ない。. に固着した OASIS は,上皮化の過程で消費・分解さ. 代表的な保存的治療には,アルミホイル法や各種創. れなかった OASIS が残ったものと考えられ,除去す. 傷被覆材の使用,人工真皮の貼付,bFGF 製剤の併用. るまで創閉鎖の確認ができないという点は不便であっ. があげられる。アルミホイル法は低コストで簡便であ. たが,患部が覆い隠されたことで患者の自己処置に対. り,上皮化までの期間は軟部組織のみの損傷で 2 ~ 4. する抵抗感が少なく,自己処置は絆創膏の交換程度の. 週間,骨露出を伴う症例で 4 ~ 8 週間程度を要すると. 簡単なもので済み,指の使用の妨げになりにくいとい. される 12)。創傷被覆材による治療はアルミホイル法. う利点があった。また,3 症例とも,OASIS の使用. と比較して,治療期間に差はないが,皮膚の浸軟や接. 開始後より通常時やドレッシング交換時の痛みは訴え. 触時痛が少ないという利点がある 13, 14)。人工真皮は,. ず,OASIS には疼痛軽減効果も期待できる。理由と. 類真皮化,すなわちコラーゲンスポンジ内に細胞や毛. して,OASIS が薄くしなやかで縫合固定を要しない. 細血管が侵入することにより良好な肉芽組織の構築を. ため創への刺激が少ないことや,治療の初期段階では. 得ることを目的として貼付され,若干の骨突出は短縮. ®. 創よりも大きく貼付した OASIS をメピテル ワンで. が不要で,創閉鎖が完了するまで切断面が露出しない. 固定し,最終的には固着した OASIS が創面を覆った. ため浸出液や疼痛が少ないという利点がある。治療期. ことで断端部が保護され,ドレッシングのずれによる. 間は単独使用では平均 40 日以上を要するが,bFGF. 創面の露出や乾燥が生じなかったことが疼痛軽減に役. 製剤の併用により約 38 日に短縮し 15 ~ 17),加えてシ. 立ったのではないかと推測する。. リコーン膜を早期除去することでさらに早期の創閉鎖. 指尖部損傷の治療において,切断組織の利用が可能. が報告されている 18)。受傷後早期から OASIS を使用. な場合には,composite graft 法や再接着術などによ. した症例で比較すると,骨露出を伴う症例 2 は受傷か. り機能的,整容的に良好な結果が期待できるが,高度. ら 38 日,軟部組織のみの損傷である症例 3 は受傷か. の損傷や紛失などで利用ができない場合には,症例に. ら 22 日で創閉鎖が得られ,これまで報告される治療. 応じて occlusive dressing 法を中心とした保存的治療. 法と比較して遜色ない結果であった。.

(7) 創傷 12(2):59 - 65, 2021. まとめ. 65. chronic leg ulcers: a randomized clinical trial. J Vasc Surg, 2005; 41: 837-43.. 切断組織が使用できない指尖部損傷 3 例に OASIS. 7)Niezgoda JA, Van Gils CC, Frykberg RG, et al:. を使用し,初回貼付から 3 ~ 4 週目に創閉鎖が得られ. Randomized clinical trial comparing OASIS Wound. た。自験例では,受傷後早期に貼付した OASIS は創. Matrix to Regranex Gel for diabetic ulcers. Adv Skin. に組み込まれて良好な肉芽面を形成し,受傷後 8 日目. Wound Care, 2005; 18: 258-66.. 以降の使用では貼付から 2 ~ 4 日後にゲル化が目立ち,. 8)Barendse-Hofmann MG, van Doorn LP, Oskam. その後膜状に固着して OASIS の下で上皮化が進行し. J, et al:Extracellular matrix prevents split-skin. た。処置が簡便で,疼痛軽減効果も期待でき,指尖部. grafting in selected cases. J Wound Care, 2007; 16:. 損傷の保存的治療において有効な一選択肢であると考. 455-8.. える。. 9)Brown-Etris M, Milne CT, Hodde JP:An ® extracellular matrix graft(Oasis wound matrix). 本論文の要旨は,第 11 回日本創傷外科学会総会・学術. for treating full-thickness pressure ulcers: A. 集会(2019 年 7 月 5 日,於長崎)にて報告した。. randomized clinical trial. J Tissue Viability, 2019; 28: 21-6.. 利益相反:本論文について,他者との利益相反はない。. 10)福本恵三:皮弁による再建と保存療法による指尖部 損傷の治療 . PEPARS, 2010; 40: 35-43.. 文 献 1)岸田昌夫:脱細胞化生体組織の現状と将来展望 . Organ Biol, 2018; 25: 27-34.. 11)田中克己 , 吉本 浩 , 平野明喜:逆行性指動脈皮弁 による指尖部再建 . 形成外科 , 2012; 55: 605-14. 12)岩本卓士 , 佐藤和毅:湿潤療法;アルミホイル法 . MB Orthop, 2013; 26: 1-5.. 2)Nihsen ES, Johnson CE, Hiles MC:Bioactivity. 13)栗山幸治 , 森友寿夫 , 村瀬 剛 , ほか:指尖部損傷. of small intestinal submucosa and oxidized. に対する親水性ポリウレタンドレッシングを用いた. regenerated cellulose/collagen. Adv Skin Wound Care,. 保存的療法 . 日手会誌 , 2006; 23: 516-9.. 2008; 21: 479-86.. 14)藤田珠美 , 杉本禎志 , 三名木泰彦 , ほか:指尖部損. 3)Shi L, Ronferd V:Biochemical and biomechanical. 傷に対する創傷被覆材(ソーブサン・ハイドロサイ. characterization of porcine small intestinal. ト)を用いた保存療法の経験―本法とアルミホイル. submucosa(SIS): a mini review. Int J Burn Trauma,. 法との比較―. 北海道整災外 , 2006; 48: 36-9.. 2013; 3: 173-9.. 15)菅又 章 , 犬塚 潔 , 田中 祝 , ほか:人工真皮を. 4)Hodde JP, Allam R:Small intestinal submucosa. 用いた指尖部切断の治療 . 日手会誌 , 1997; 14: 56-61.. wound matrix for chronic wound healing. Wounds,. 16)黒川正人 , 玉井求宜 , 中西 新 , ほか:指尖部損傷. 2007; 19: 157-62. 5)Salgado RM, Bravo L, García M, et al:Histomor-. に対する人工真皮とヒト塩基性線維芽細胞増殖因子 の併用による治療 . 整・災外 , 2007; 50: 701-6.. phometric analysis of early epithelialization. 17)亀渕克彦 , 林田健志 , 遠藤淑恵 , ほか:手指に人工. and dermal changes in mid-partial-thickness. 真皮と bFGF の併用により治療を行った 21 例 29 指. burn wounds in humans treated with porcine. の検討―人工真皮のみで治療を行った 102 例 127 指. small intestinal submucosa and silver-containing. との比較検討―. 日手会誌 , 2009; 25: 745-7.. hydrofiber. J Burn Care Res, 2014; 35: 330-7. 6)Mostow EN, Haraway GD, Dalsing M, et al: Effectiveness of an extracellular matrix graft (OASIS Wound Matrix)in the treatment of. 18)菅又 章 , 吉澤直樹 , 大山聡美:人工真皮と bFGF 製 剤 を 併 用 し た 指 尖 部 切 断 の 治 療 法 . Prog Med, 2006; 26: 2731-5..

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図 1 症例 1

参照

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