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小学生の開脚跳びとかかえ込み跳びに共通する運動課題における困難度の差異

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1. 緒言

跳び箱運動をはじめとする器械運動の学習において は,基本的な技で身につけた技能を生かして発展技へと 取り組むという段階的・系統的な指導の充実が求められ ている(文部科学省,2017)。小学校学習指導要領解説 体育編において,跳び箱運動の切り返し系の技として, 「開脚跳び」が 3,4 年生の内容で,「かかえ込み跳び」 が 5,6 年生の内容で例示され,多くの小学校で取り組 まれている(長谷川ほか,2019)。金子(1987)は,跳 び箱運動の支持跳躍に共通する基本技術の構造として, 助走,踏み切り,着手,着地の 4 つを挙げている。開脚 跳びとかかえ込み跳びにおいても,跳び箱の跳び越し姿 勢の条件(「開脚」と「閉脚かかえ込み」)が異なるもの の,この 4 つの動作構造は共通していると考えられる。 そのため,まず開脚跳びを基本的な技として学習し,助 走,踏み切り,着手,着地といった切り返し系の技の基 礎技能を身につけ,発展技となるかかえ込み跳びの学習 につなげるという指導の順序を踏むことが多い。 開脚跳びとかかえ込み跳びの動作については,これま でに,動作の熟達度を示す動作パターンや技の成否に関 わる動作要因,技の習得に向けた練習方法の有効性など が検討されている(金子,1987;伊藤・山神,1992;細 越ほか,2001;花井・前野,2014;佐野ほか,2019)。 かかえ込み跳びは,開脚跳びに比べて跳び越しの難度が 高いが,佐野ほか(2020)は 2 つの技の関連について,

小学生の開脚跳びとかかえ込み跳びに共通する

運動課題における困難度の差異

The difference of difficulty level in common motor tasks of straddle vaulting

and squat vaulting in elementary school children

佐野 孝

1)

・ 國土 将平

2)

Takashi S

ANO1)

, Shohei K

OKUDO2)

Abstract

This study aimed to detect differences of difficulty of common motor tasks between straddle and squat vaulting in elementary school children. The analysis subjects were 157 elementary school children (73 boys, 84 girls) from the 5th and 6th grades. Students performed straddle and squat vaulting, and we recorded the movements using a video camera from the front and left sides. The study scored the motions using observational motion evaluation criteria for each technique. Using the graded response model of item response theory, we estimated the ability and item parameters for the data of 314 people who combined the evaluation results of the two techniques. Differential item functioning (DIF) was detected by the likelihood ratio test, and we identified the evaluation items that had a significant difference in the difficulty level depending on the technique. The research conclusions were as follows: (1) The common motor tasks with higher differences of difficulty in squat vaulting are supporting and moving weight forward with arm support. (2) The common motor tasks with higher differences of difficulty in straddle vaulting are grounding at the forefoot in taking off, putting both hands together on the box, pushing off the box and raising shoulder. Therefore, consider teaching methods and practice tasks based on the difference in difficulty of common movements, and enhance systematic instruction is important.

Keywords : Observational evaluation, Item response theory, Graded response model, Differential item functioning (DIF), Systematicity of technique

[Received July 13, 2020 ; Accepted September 4, 2020]

1)和歌山県かつらぎ町立渋田小学校 Shibuta elementary school

(2)

雄大な開脚跳び動作が達成されていると,かかえ込み跳 びの跳び越しが達成されやすいことを報告している。ま た,栗原ほか(2012)は,かかえ込み跳びの指導に当たっ ては,まず開脚跳びの技能レベルを一定以上に引き上げ る必要性を指摘している。 技の構成動作の大半が共通する 2 つの技で,その達成 度が異なる要因としては,閉脚姿勢で全身が跳び箱の上 を通過するというかかえ込み跳び特有の課題の困難度が 高いことあげられる(藤巻・太田,1992)。一方,もう 一つの視点として,2 つの技に共通する運動課題につい ても,その困難度に差異が生じている可能性が考えられ る。すなわち,切り返し系の技を構成する個々の動作に 対応した運動課題(「弾むように踏み切ることができる」, 「両手を揃えて跳び箱に着くことができる」,「着手時に 突き放しができる」など)は,開脚跳びとかかえ込み跳 びのどちらの技においても要求される課題となるが,同 じ運動課題であっても,開脚跳びで身につけた助走から 着地までの基礎技能がかかえ込み跳びで十分に発揮され ない場合や,技の条件の違いにより生じる運動課題の困 難度の差異がかかえ込み跳びの達成の難しさにつながる 場合も考えられる。特に,かかえ込み跳びでは,跳び越 す際に「跳び箱に脚が引っかかるのではないか」,「顔面 から落下してしまうのではないか」等の不安感や恐怖心 を感じやすい(仲宗根,2014;胡・古谷,2017)ため, 跳び箱の跳び越しに大きく関わる着手局面における運動 課題の困難度が高くなることが予想される。また,伊藤・ 山神(1992)は,閉脚系の種目は開脚系の種目よりも腰 や脚部が台上よりも高く上がることが必須条件であると 述べていることから,第一空中局面における腰の位置や それ以前の踏み切り動作についても困難度に差異が認め られることが予想される。しかし,これまでに切り返し 系の技である開脚跳びとかかえ込み跳びに共通する運動 課題について,技の条件が変わった場合に生じる困難度 の差異を明らかにした研究はみられない。共通する運動 課題の困難度の差異が明らかになれば,基本技から発展 技への学習の移行における動きのポイントや指導の留意 点を把握することができ,技の段階的・系統的指導の充 実につながると考えられる。 以上より,本研究では,小学生の跳び箱運動切り返し 系の技である開脚跳びとかかえ込み跳びに共通する運動 課題について,技の条件が異なる場合に生じる困難度の 差異を明らかにすることを目的とした。

2. 方法

2.1. 測定

2.1.1. 対象・期間・倫理事項 対象は,兵庫県内の小学校 3 校の 5,6 年生 239 名(男 子 114 名,女子 125 名)であった。表 1 は,対象者の学 校別性別学年別の構成を示している。調査期間は,2016 年 9 月から 2017 年 11 月とし,対象校において跳び箱運 動の単元を実施する時期に合わせて体育授業内で調査を 行った。また,調査時点で,対象児童が開脚跳び及びか かえ込み跳びを学習済みであることを条件とした。調査 にあたり,対象校の学校長と授業担当者に研究内容を説 明するとともに,研究に関する文書及び研究協力の同意 書を対象児童の保護者に配布し,同意を得た上で調査を 実施した。また,本研究は,「神戸大学人間発達環境学 研究科における人を直接の対象とする研究に関する規 程」に基づき,研究倫理審査委員会の承認(承認番号: No.211)のもとで実施した。 2.1.2. 試技 試技は,準備運動の後,開脚跳びの練習 2 回,本番 1 回を行い,続けて,かかえ込み跳びの練習 2 回,本番 1 回を行った。跳び箱の高さは,4 段,5 段,6 段の高さ のうち児童本人が跳ぶ高さを選択した。使用した跳び箱 は,文部科学省規格の小型跳び箱(長さ:80cm,高さ: 4 段 60cm,5 段 70cm,6 段 80cm)であった。練習前 に児童に対し,以下の 3 つの指示を口頭ならびにフリッ プを提示して行った。すなわち,「助走は自分に合った スピードと距離で行うこと」,「跳びこせなくても,跳び 箱の上に乗るなど,できるところまで試技を行うこと」, 「着地までできる人はきちんと止まること」である。また, 本研究では,試技の成功を「助走から踏み切り板上で両 足で踏み切り,跳び箱に両手を着き,手以外の身体部位 が跳び箱に触れることなく跳び越し,足からマットに着 地できる」こととした。そのため,跳び箱の上に乗って 止まったり,跳び越しの際に足や臀部が跳び箱に当たっ たりした場合には失敗試技とした。 表 1 .対象者の構成 C小学校 5年 6年 5年 6年 5年 男子 24 25 20 26 19 114 女子 37 33 17 26 12 125 全体 61 58 37 52 31 239 A小学校 B小学校 計

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跳躍方向から跳び箱の前方及び左側方 7.5m の位置に ビデオカメラを設置し,毎秒 60 コマ,シャッタースピー ド 1/500 秒で固定撮影を行った(図 1)。ビデオカメラ の高さは,3段階の跳び箱の高さに応じて,1.1mから1.3m に調整した。 本研究の調査において,踏み切り板の手前で止まる児 童やかかえ込み跳びの技を行う場面で開脚跳びを実施し た児童が 25 名いた。これらの児童については,調査者 が直接確認したところ,対象となる技を習得できておら ず,技能レベルの面で課題があったと考えられる。しか し,技動作の大半が出現していないことや指定された技 の条件を満たしていないことから,「跳び箱の上に乗っ て止まる」などの失敗試技となった児童とは区別し,25 名の児童については本研究の分析から除くこととした。 また,体育の授業内で,横置きの跳び箱でのかかえ込み 跳びしか経験がなく,本番試技を横置きの跳び箱で実施 した児童が 57 名いた。跳び箱の向きが,分析結果に及 ぼす影響を考慮し,本研究の分析対象は,縦置きの跳び 箱において 2 つの技を試行できた児童(跳び越しの成否 は問わない)とした。したがって,最終的な分析対象は 157 名(男子 73 名,女子 84 名)となった。これらの対 象者を,佐野ほか(2019)が示す開脚跳びの熟達度を示 す動作パターンに分類した場合,「失敗型」が 10 名,「腕 動作依存型」が 46 名,「着地不安定型」が 49 名,「安定 試行型」が 42 名,「切り返し出現型」が 10 名であった。 2.1.3. 開脚跳びとかかえ込み跳びに共通する運動課題の 評価方法 本研究では,開脚跳びとかかえ込み跳びの動作を評価 するにあたり,佐野ほか(2019)の動作評価基準(表 2) による観察的評価を行った。この評価基準の項目 1 から 項目 28 までは,切り返し系の技に共通する評価項目と なっており,これにより開脚跳びとかかえ込み跳びに共 通する運動課題を評価できる。ただし,第二空中局面以 降の項目 22 から項目 28 については,跳び越しの達成率 (第二空中局面以降の動作の出現率)がかかえ込み跳び のほうが低くなった場合に,必然的に正答率が下がり, 項目の困難度の推定に影響することが予想される。その ため,本研究では,跳び越しの成否に影響を受けない助 走から着手局面までの 21 項目を,2 つの技に共通する 運動課題として評価することとした(表 3)。評価方法は, 撮影した動作を通常・スロー・コマ送り再生により観察 した。なお,項目 9 の「わきのしめ」のみ前方からの映 像を参照し,それ以外の項目に関しては,側方からの映 像を参照して評価を行った。 評価は観察者 A と B の 2 名で行った。観察者 A は, 小学校教員専修免許の取得可能な修士課程に在籍する大 学院生であり,TA として学生への器械運動の指導経験 があり,幼児から小・中学生までの走,跳,投運動の動 作評価の経験があった。一方,観察者 B は,小学校教 員一種免許の取得可能な学士課程に在籍する大学生であ り,体操競技歴や子どもの運動の動作評価の経験はな かった。評価にあたっては,全ての評価項目の各評価段 階の動作について,事前に児童の映像を確認しながら共 通理解を図った。評価結果の客観性を確認するため,観 察者 2 名が対象児童のうち任意に選出した 30 名の動作 を評価し,各項目の評価の一致率及び評価の合計得点に ついての級内相関係数として,ShroutandFleiss(1979) の ICC(2,1)を算出した。また,評価結果の信頼性に ついては,観察者 A が 1 度目の評価から 1 ヶ月の期間 をあけ,再度同じ 30 名を評価し,1 度目の評価との一 致率及び合計得点の級内相関係数を算出した。

2.2. データ分析

2.2.1. 特異項目機能(DIF)の検出 本研究では,技の条件の違いにより生じる 2 つの技に 共通する運動課題の困難度の差異を明らかにするため, 特 異 項 目 機 能(DifferentialItemFunctioning: 以 下, DIF)を用いた検討を行う。DIF とは,ある尺度につい て,能力値が等しい受験者であっても,属する下位集団 が異なると正答確率が異なるという現象が特定の項目で 生じている場合を指している。これまでは,主にテスト や質問紙調査において性別や年齢,国籍の違いによる DIF の検出がなされてきた(Crinsetal.,2015;坂本ほか, 2016;渡部ほか,2017;Muelasetal,2019;Geramipour andShahmirzadi,2019)が,その他にも,子どもの視 図 1 .撮影時の設定 7.5m 7.5m 6m

(4)

表 2 .佐野ほか(2019)の観察的動作評価基準 0 1 2 3 1 歩幅 助走時 - スムーズ 歩幅が小さくなる -2 スピード 助走時 スムーズ 減速する -3 自由脚の先導 予備踏切離地時 - 90度以下 90度より大きい -4 踏込脚のプッシュ 予備踏切離地時 - 滞空期を作れている 滞空期が作れていない -5 自由脚の屈曲調整 踏切接地時 - 足部中央が膝の先端の真下 踵が膝の先端の真下 -6 踏込脚の追いつき 踏切接地時 - 追いついている 追いついていない -7 腕の後方への引き 予備踏切滞空期 腕を伸ばして引いている 腕を曲げて引いている 後方への引きが見られない -8 腕の揃え 踏切接地時 - 揃っている ずれている -9 わきのしめ 踏切接地時(正面) - 体側を通っている 脇が開いている -10 腕の体軸への引きつけ 踏切接地直前 - 手の位置が腰以下 手の位置が腰より上 -11 上体の軸作り 踏切脚垂直時 - 肩・膝・足部がおよそ一直線上 肩が膝と足部の直線上にない -12 腕の振り上げ 踏切時 大きく振り上げている 小さく振り上げている 振り上げていない/振り下げる -13 足部の接地先取り 踏切接地時 前足部で踏みつけるように接地 接地時点で体重が前足部 踵から順に接地 -14 接地タイミングの同期 踏切接地時 - 両足同時に接地 タイミングがずれている -15 リバウンドジャンプ 踏切時 接地と同時に脚が伸展 脚の屈曲が固定 接地後にさらに脚が屈曲 -16 腕の投げ出し 着手時 脚の伸展完了後に着手 脚の伸展完了とほぼ同時に着手 脚の伸展完了前に着手 -17 腰の上昇 着手垂直時 腰が肩より上 腰が肩と肘の中点より上 腰が肩と肘の中点以下 -18 両手の揃え 着手時 - 揃っている ずれている -19 着手タイミングの同期 着手時 - 両手同時についている 着くタイミングがずれている -20 手の突き放し 離手時 下方へ突き放す 後方へ送る 手で突っ張る、緩衝する -21 肩の起こし 離手時 上方に上がる 着手位置より前方に移動 着手位置までで止まる -22 後方回転 第二空中期 - 回転の切り返しが認められる 回転の切り返しが認められない 出現せず 23 目線 第二空中期 - 着地位置を先取りしている 真下を向く 出現せず 24 両脚の揃え 着地接地直前(正面) - 両脚を閉じてそろっている 両脚が十分に閉じられていない 出現せず 25 腕の上昇 離手後 前方に上昇する 体側に引きつける 後方に残っている 出現せず 26 腕の振り下ろし 着地時 腕の振り下ろしが見られる 腕の振り上げが見られる 腕の振り下ろしも振り上げもない 出現せず 27 腰・膝の屈曲 着地時 腰・膝ともに屈曲 膝の屈曲のみ 膝を突っ張って着地 出現せず 28 静止姿勢 着地時 - 屈曲を止め静止できている 静止できない/最後まで屈曲 出現せず 29 両脚の伸展保持 踏切~着手時 - 伸展を保持したまま開脚 膝が先行して開脚を行っている -30 両脚のコントロール 着手~第二空中期 - 振り出しをコントロールしている 両脚を前方に振り出している 出現せず 着 地 開 脚 局面 評価項目 評価時点 助 走 予 備踏 切 踏 切 第 一 空 中 着 手 第 二 空 中 評価段階 表 3 .開脚跳びとかかえ込み跳びの共通動作の観察的動作評価基準 1 2 3 1 歩幅 助走時 - スムーズ 歩幅が小さくなる スピード 助走時 - スムーズ 減速する 3 自由脚の先導 予備踏切離地時 - 90度以下 90度より大きい 4 踏込脚のプッシュ 予備踏切離地時 - 滞空期を作れている 滞空期が作れていない 5 自由脚の屈曲調整 踏切接地時 - 足部中央が膝の先端の真下 踵が膝の先端の真下 6 踏込脚の追いつき 踏切接地時 - 追いついている 追いついていない 7 腕の後方への引き 予備踏切滞空期 腕を伸ばして引いている 腕を曲げて引いている 後方への引きが見られない 8 腕の揃え 踏切接地時 - 揃っている ずれている 9 わきのしめ 踏切接地時(正面) - 体側を通っている 脇が開いている 腕の体軸への引きつけ 踏切接地直前 - 手の位置が腰以下 手の位置が腰より上 11 上体の軸作り 踏切脚垂直時 - 肩・膝・足部がおよそ一直線上 肩が膝と足部の直線上にない 12 腕の振り上げ 踏切時 大きく振り上げている 小さく振り上げている 振り上げていない/振り下げる 13 足部の接地先取り 踏切接地時 前足部で踏みつけるように接地 接地時点で体重が前足部 踵から順に接地 14 接地タイミングの同期 踏切接地時 - 両足同時に接地 タイミングがずれている リバウンドジャンプ 踏切時 接地と同時に脚が伸展 脚の屈曲が固定 接地後にさらに脚が屈曲 16 腕の投げ出し 着手時 脚の伸展完了後に着手 脚の伸展完了とほぼ同時に着手 脚の伸展完了前に着手 腰の上昇 着手垂直時 腰が肩より上 腰が肩と肘の中点より上 腰が肩と肘の中点以下 18 両手の揃え 着手時 揃っている ずれている 19 着手タイミングの同期 着手時 - 両手同時についている 着くタイミングがずれている 20 手の突き放し 離手時 下方へ突き放す 後方へ送る 手で突っ張る、緩衝する 21 肩の起こし 離手時 上方に上がる 着手位置より前方に移動 着手位置までで止まる 第 一 空 中 局面 着 手 評価段階 評価時点 助 走 予 備踏み切 り 踏み切 り 評価項目

(5)

覚運動機能や運動能力の評価等への応用例もみられる (Brownand Unsworth,2009;Okudaet al.,2017)。

また,DIF が活用される場面として,教育学の分野に おいては項目反応理論を用いた DIF の検出が行われて いる(野口・倉元,2009;雲財・中村,2018)。体育学 の分野においては,運動動作を観察的に評価し,項目反 応理論を用いて評価項目の困難度や識別力を推定した研 究 が み ら れ る(C›epicka,2003; 青 柳,2006; 青 柳, 2007;小野・徐・大山卞・西嶋,2015;國土,2015)も のの,その結果をもとに DIF を検出した例はみられな い。しかし,運動動作を構成する個々の動作について設 定された評価項目について DIF の検出を行うことは, 評価項目への応答における性差や学年差を捉える上で有 効ではないかと考える。そして,本研究では下位集団を 分ける条件として技の違いを設定し,ある項目について DIF が検出されたとき,技の条件により該当する項目 が示す運動課題の困難度に差異が生じていると判断し た。佐野(2019)の観察的評価基準の各評価項目は,技 を構成する動作を細分化し,定性的分析を経て設定され ており,それぞれの項目が個々の構成動作に対応してい る。そのため,本研究で検出される評価項目の DIF に より,実際の構成動作に対応した運動課題の困難度の差 異を表現できると考えた。 分析に用いるデータについては,157 名の 2 つの技の 評価結果をプールし,314 名分のデータとして DIF の 検討を行った。そのため,開脚跳びをした群とかかえ込 み跳びをした群は同一の児童で構成されており,本来で あれば 2 つの技に共通する運動局面における能力値は同 じであり,各評価項目への応答の仕方も同じはずである。 しかし,そのなかで DIF が検出された場合,2 つの技に 共通する運動課題であったとしても,技の条件により児 童が習得している技能が制限されたり,達成度が下がっ たりすることが生じる可能性を示すことができると考え た。

2.2.2. 項目の選定

DIF の検出において有効な評価項目の選定を行った。 21 の評価項目について得点分布を算出するとともに, I–T 相関の値を算出し,尺度の一貫性を確認した。得点 分布において,評価の最高段階または最低段階に著しい 分布の偏りがないかを確認するとともに,鈴木ほか (2017)の基準を参考に,I–T 相関の値が 0.3 未満とな る評価項目については,DIF の分析から除外すること とした。 2.2.3. DIFの検出による運動課題の困難度の差異の検討 DIF の検出方法として,項目反応理論の能力値推定 によるロジスティック回帰を用いた方法が提案されてお り(Craneetal.,2006;Langeretal.,2007;Choietal., 2011),本研究でもこの方法を用いて DIF の検出を行う こととした。 項目反応理論を用いるにあたり,選定された項目が一 次元性を有するかを確認するため,ポリコリック相関係 数を用いたカテゴリカル因子分析(重み付き最小二乗法, 1 因子解)を行った。第 1 因子の固有値に着目し,第 2 因子以降と比較して十分に大きい場合に,選定された項 目は一次元性を有すると判断した。 本研究で用いる評価項目は 2 または 3 の評価段階で構 成されていることから,項目反応理論の段階反応モデル (Samejima,1969)を用いて,対象児童の能力値ならび に項目母数を推定した。DIF の検出においては,以下 の 3 つのロジスティックモデルについて,尤度比検定に よる比較を行った。 Model1:logitP(ui≧k)=αk+β1*ability

Model2:logitP(ui≧k)=αk+β1*ability +β2*group

Model3:logitP(ui≧k)=αk+β1*ability +β2*group

+β3* ability * group ここで,logitP(ui≧k):項目への応答 uiがカテゴリ k 以上に分類される累積確率に対するロジット,αk:切 片,β1* ability:能力値,β2* group:群の主効果, β3* ability * group:能力値と群の交互作用,である。 本研究では,均一 DIF(uniformDIF)と不均一 DIF (non-uniformDIF)の検出を試みる。均一 DIF とは, Model1 と Model2 の比較により検討され,一方の集団 の回答者がもう一方の集団の回答者よりも一貫して「で きる」(または「できない」)と回答しやすい場合を指し, 下位集団により項目の困難度が異なることを意味してい る。本研究で均一 DIF が検出された項目がある場合, 技の条件の違いにより,一方の技で困難度が高くなる運 動課題があると判断した。不均一 DIF とは,Model2 と Model3 の比較により検討され,能力値がある一定 水準までは,一方の集団の回答者で「できる」(または「で きない」)と回答しやすいが,一定水準を超えると逆に, もう一方の集団の回答者で「できる」(または「できない」) と回答しやすくなる場合を指し,下位集団により項目の 識別力が異なることを意味している。本研究で不均一 DIF が検出された項目がある場合,能力値が低い児童 にとっては,一方の技の条件下で困難度が高くなるが, 能力値が一定以上になると,もう一方の技の条件下で困 難度が高くなる運動課題があると判断した。

(6)

2.2.4. 統計処理 統計処理ソフトは Rversion3.6.1 を使用した。一次元 性の確認のためのカテゴリカル因子分析には,psych package(Revelle,2018) を 用 い,DIF の 検 出 に は, lordifpackage(Choietal.,2011) を 用 い た。 な お, DIF 検出の際の基準について,尤度比検定の有意水準 をα= 0.01 と設定するとともに,効果量として擬似決 定係数(pseudoR2)を算出し,JodoinandGierl(2001) の基準(0.035 未満:negligible(小さい),0.035 以上 0.070 未満:moderate(中程度),0.070 以上:large(大きい)) をもとに判断した。

3. 結果

3.1. 評価結果の客観性及び信頼性

評価結果の客観性について,任意に選出した 30 名を 観察者 2 名で評価し,評価の一致率を算出した結果,21 項目の一致率の平均は 83.5% となった。一致率の低かっ た項目(70% を下回る項目)は,「11.上体の軸作り」 (56.7%)と「5.自由脚の屈曲調整」(60.0%)であった。 評価の合計得点の級内相関係数は 0.633(p<0.01)であっ た。 評価結果の信頼性について,観察者 A の 1 度目と 2 度目の評価結果の一致率を算出した結果,21 項目の一 致率の平均は 89.8% となった。一致率が 70% を下回る 項目はみられなかった。一致率の低かった項目は,「15. リバウンドジャンプ」(70.0%)と「13.足部での接地 先取り」(73.3%)であった。評価の合計得点の級内相関 係数は 0.843(p<0.01)となった。

3.2. 項目の精選

表 4 は,助走から着手局面までの評価項目の得点分布 ならびに I–T 相関の値を示している。21 項目のうち, 助走局面の「1.歩幅」,「2.スピード」,予備踏み切り 表 4 .評価項目の得点分布と I–T 相関 3 2 1 1 歩幅 - 89.8 10.2 0.214 2 スピード - 94.6 5.4 0.249 3 自由脚の先導 - 53.5 46.5 0.334 4 踏込脚のプッシュ - 86.0 14.0 0.319 5 自由脚の屈曲調整 - 50.6 49.4 0.619 6 踏込脚の追いつき - 68.2 31.9 0.324 7 腕の後方への引き 0.6 8.0 91.4 0.145 8 腕の揃え - 66.6 33.4 0.278 9 わきのしめ - 45.5 54.5 0.367 10 腕の体軸への引きつけ - 13.4 86.6 0.150 11 上体の軸作り - 53.5 46.5 0.554 12 腕の振り上げ 1.6 14.7 83.8 0.208 13 足部の接地先取り 9.2 50.0 40.8 0.634 14 接地タイミングの同期 - 74.5 25.5 0.428 15 リバウンドジャンプ 15.3 36.6 48.1 0.708 16 腕の投げ出し 18.5 31.5 50.0 0.654 17 腰の上昇 6.1 51.6 42.4 0.500 18 両手の揃え - 84.4 15.6 0.307 19 着手タイミングの同期 - 77.1 22.9 0.318 20 手の突き放し 11.5 57.6 30.9 0.622 21 肩の起こし 11.2 57.6 31.2 0.593 評価項目 得点分布(%) I-T相関

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局面から踏み切り局面にかけての「7.腕の後方への引 き」,「8.腕の揃え」,「10.腕の体軸への引きつけ」,「12. 腕の振り上げ」で,I–T 相関の値が 0.3 未満であったため, この 6 項目を分析から除き,DIF の検出は 15 項目を対 象とした。

3.3. 分析項目の一次元性の確認

カテゴリカル因子分析の結果,第 1 因子の固有値は 3.224(寄与率:21.5%),第 2 因子は 1.184(7.9%),第 3 因子は 0.890(5.9%)であった。豊田(2002)は,1 因 子解の因子分析において,因子寄与率が 20% 以上であ れば,テストは一次元性を有していると見なしている。 また,第 1 因子の固有値は,第 2 因子以降の固有値と比 べて著しく大であることから,分析対象とした 15 項目 は一次元性を有すると仮定してよいと判断した。

3.4. DIF の検出による運動課題の困難度の差異

の検討

図 2 は,開脚跳びを実施した場合とかかえ込み跳びを 実施した場合の 15 項目から推定された能力値の分布を 示している。開脚跳びを実施した場合の能力値の平均は 0.223 ± 0.878 であり,かかえ込み跳びを実施した場合 の能力値の平均は− 0.225 ± 0.964 であった。このこと から,全体として,開脚跳びを行う場合と比べてかかえ 込み跳びを行う際には,15 項目から推定された能力値 が下がる傾向が示された。 表 5 は,項目反応理論の段階反応モデルによる推定を もとに,尤度比検定を用いて DIF を検出した結果を示 している。均一 DIF が検出された項目は,「13. 足部の 接地先取り」,「18.両手の揃え」,「20.手の突き放し」, 「21.肩の起こし」の 4 項目であり,技の条件の違いに より項目の困難度に有意な差異が認められた.一方,不 均一 DIF が検出された項目は,「3.自由脚の先導」,「11. 上体の軸作り」,「17.腰の上昇」,「20.手の突き放し」, 「21.肩の起こし」の 5 項目であり,技の条件の違いに より項目の識別力に有意な差異が認められた。 DIFの検出項目をみると,不均一DIFが検出された「3. 自由脚の先導」は,予備踏み切り時の自由脚の振り出し 方 を 評 価 す る 項 目 で あ る。 効 果 量 は 0.019 と な り, negligible(小さい)であった。図 3 は,技の条件ごと にみた項目のカテゴリ反応曲線である。表 5 をみると, 項目の識別力は,他の項目と比べた場合にどちらの技に おいても低い値といえるが,開脚跳びの場合に 0.85,か かえ込み跳びの場合に 0.18 となり,開脚跳びで識別力 が高くなった。 不均一 DIF が検出された「11.上体の軸作り」(図 4) は,踏み切り時の肩,膝,足部の位置関係をもとに上体 の姿勢を評価する項目である。効果量は 0.038 となり, moderate(中程度)であった。項目の識別力は,開脚 跳びで 1.25,かかえ込み跳びで 3.22 となり,かかえ込 み跳びの場合に識別力が高くなることが明らかとなっ た。 図 2 .技ごとにみた能力値の分布 -4 -2 0 2 4 0. 0 0. 1 0. 2 0. 3 0. 4 0. 5 Trait Distributions theta D en si ty straddle vault squrt vault開脚跳びかかえ込み跳び

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均一 DIF が検出された「13.足部の接地先取り」(図 5) は,踏み切り時の足部の接地の仕方を評価する項目であ る。効果量は 0.026 となり,negligible(小さい)であっ た。項目の困難度については,「1 点:脚の伸展完了前 に着手している」から「2 点:脚の伸展完了と同時に着 手している」への困難度が開脚跳びで− 0.15,かかえ込 み跳びで− 0.37 となり,開脚跳びのほうが高かった。 また,2 点から「3 点:脚の伸展完了後に着手している」 への困難度は,開脚跳びで 1.54,かかえ込み跳びで 1.39 となり,開脚跳びのほうが高くなった。 不均一 DIF が検出された「17.腰の上昇」(図 6)は, 着手時点での肩と腰の位置関係から腰の引き上げを評価 する項目である。効果量は 0.027 となり,negligible(小 さい)であった。項目の識別力は,開脚跳びで 0.40,か かえ込み跳びで 1.09 となり,かかえ込み跳びの場合に 識別力が高くなることが明らかとなった。 均一 DIF が検出された「18.両手の揃え」(図 7)は, 着手局面における両手の着手位置を評価する項目であ 表 5 .項目母数と DIF の検出結果 識別力 困難度1 困難度2 (Model1 vs.P value Model2) pseudo R 2 (Model2 vs.P value Model3) pseudo R 2 開脚 0.85 -0.21 かかえ込み 0.18 -0.02 -4 踏込脚のプッシュ 0.56 -3.46 - 0.495 0.002 0.556 0.001 5 自由脚の屈曲調整 4.17 -0.04 - 0.560 0.001 0.019 0.013 6 踏込脚の追いつき 0.52 -1.56 - 0.491 0.001 0.475 0.001 9 わきのしめ 0.43 0.43 - 0.047 0.009 0.075 0.007 開脚 1.25 -0.32 -かかえ込み 3.22 -0.11 -開脚 5.38 -0.15 1.54 かかえ込み 3.85 -0.37 1.39 14 接地タイミングの同期 1.00 -1.30 - 0.288 0.003 0.669 0.001 15 リバウンドジャンプ 4.59 -0.07 1.12 0.773 0.000 0.077 0.005 16 腕の投げ出し 1.23 -0.03 1.53 0.087 0.005 0.015 0.009 開脚 0.40 -1.32 9.61 かかえ込み 1.09 -0.31 2.26 開脚 0.69 -2.06 -かかえ込み 0.36 -5.96 -19 着手タイミングの同期 0.36 -3.46 - 0.226 0.004 0.063 0.010 開脚 0.67 -4.06 4.38 かかえ込み 1.41 -0.01 1.43 開脚 0.40 -6.69 4.35 かかえ込み 1.43 0.02 2.54 †)尤度比検定の水準 α=0.01を下回るもの 局面 評価項目 項目母数 均一DIF 不均一DIF 0.002 0.004† 0.019 踏 み 切 り 11 上体の軸作り 0.698 0.000 0.000† 0.038 予 備 踏 み 切 り 3 脚の先導 0.571 0.001 13 足部の接地先取り 0.000† 0.026 0.307 着 手 0.027 18 両手の揃え 0.009† 0.025 0.298 0.004 第 一 空 中 17 腰の上昇 0.650 0.000 0.000† 0.072 21 肩の起こし 0.000† 0.121 0.0000.036 20 手の突き放し 0.000† 0.038 0.000† 自由 図 3 .「3.自由脚の先導」のカテゴリ反応曲線 開脚跳び かかえ込み跳び 図 4 .「11.上体の軸づくり」のカテゴリ反応曲線 開脚跳び かかえ込み跳び

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る。効果量は 0.025 となり,negligible(小さい)であっ た。項目の困難度については,「1 点:ずれている」か ら「2 点:揃っている」への困難度が開脚跳びで− 2.06, かかえ込み跳びで− 5.96 となり,開脚跳びのほうが高 かった。 均一 DIF 及び不均一 DIF が検出された「20.手の突 き放し」(図 8)は,着手からの手ジャンプ動作を評価 する項目である。不均一 DIFの効果量は 0.072 となり, large(大きい)であった。項目の識別力は,開脚跳び の場合に 0.67,かかえ込み跳びの場合に 1.41 となり, かかえ込み跳びのほうが高かった。均一 DIF の効果量 は 0.038 となり,moderate(中程度)であった。項目の 困難度については,「1 点:手で突っ張ったり,緩衝し たりして勢いを止める」から「2 点:後方へ送る」への 困難度が開脚跳びで− 4.06,かかえ込み跳びで− 0.01 となり,かかえ込み跳びのほうが大幅に高くなった。一 方,2 点から「3 点:下方へ突き放す」への困難度は, 開脚跳びで 4.38,かかえ込み跳びで 1.43 となり,開脚 跳びのほうが大幅に高くなった。 均一 DIF 及び不均一 DIF が検出された「21.肩の起 こし」(図 9)は,手ジャンプ時の肩の位置を評価する 項 目 で あ る。 不 均 一 DIF の 効 果 量 は 0.036 と な り, moderate(中程度)であった。項目の識別力は,開脚 跳びの場合に 0.40,かかえ込み跳びの場合に 1.43 となり, かかえ込み跳びのほうが高かった。均一 DIF の効果量 は 0.121 となり,large(大きい)であった。項目の困難 度については,「1 点:着手位置までで止まる」から「2 点: 着手位置より前方に移動する」への困難度が開脚跳びで − 6.69,かかえ込み跳びで 0.02 となり,かかえ込み跳 びのほうが大幅に高くなった。2 点から「3 点:上方に 上がる」への困難度は,開脚跳びで 4.35,かかえ込み跳 びで 2.54 となり,開脚跳びのほうが高くなった。 図 5 .「13.足部の接地先取り」のカテゴリ反応曲線 開脚跳び かかえ込み跳び 図 6 .「17.腰の上昇」のカテゴリ反応曲線 開脚跳び かかえ込み跳び 図 7 .「18.両手の揃え」のカテゴリ反応曲線 開脚跳び かかえ込み跳び 図 8 .「20.手の突き放し」のカテゴリ反応曲線 開脚跳び かかえ込み跳び 図 9 .「21.肩の起こし」のカテゴリ反応曲線 開脚跳び かかえ込み跳び

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4. 考察

4.1. 評価結果の客観性及び信頼性

観察者 2 名による評価の一致度では,大半の項目で一 致率が 70%以上となったが,一部の項目で一致率が 50 − 60% 台にとどまっていた。観察者 1 名による 2 度の 評価の一致度を検討した結果,一致率が 70%を下回る 項目はみられなかった。級内相関係数は,観察者 2 名の 評価得点の級内相関係数は 0.633 となり,今井・潮見 (2004)の示す判定基準では「possible:可能」に該当す る。観察者 2 名の 2 度の評価得点の級内相関係数は 0.843 となり,先述の基準では「good:良好」に該当する。 以上より,本研究で用いた観察的評価基準は一定の客観 性及び信頼性を有すると判断できるが,観察者の動作評 価や運動経験を踏まえた場合に,評価項目における記述 の修正の必要性も示唆された。また,観察者 B の評価 の信頼性については,本研究では検討することができて いない。動作評価経験に乏しい観察者でも安定した評価 が可能であるのかについて,今後さらに検討する必要が ある。

4.2. 項目の精選

項目選定の際に,I–T 相関の値が 0.3 を下回った 6 項 目についてみると,助走局面の「1.歩幅」及び「2.ス ピード」は,最高評価におよそ 90%の分布の偏りがみ られた。助走に関しては,技の条件や能力値の高低に関 わらず,多くの児童が動作を達成できていたと考えられ る。予備踏み切りから踏み切り局面にかけての「7.腕 の後方への引き」,「8.腕の揃え」,「10.腕の体軸への 引きつけ」,「12.腕の振り上げ」の 4 項目は,踏み切り 時の腕の振り上げ動作に関連しており,佐野ほか(2019) も指摘しているように,腕の振り上げ動作は,小学校段 階では出現しにくい動作であるか,または体操競技など の特別な指導体験がなければ習得しにくい動作である可 能性が考えられる。

4.3. 分析項目の一次元性の確認

カテゴリカル因子分析の結果,第 1 因子の固有値は第 2 因子以降と比較して著しく大であり,第 1 因子の寄与 率が 20%を超えていたため,15 項目は一次元性を有す ると仮定した。切り返し系の技は,踏み切りの脚ジャン プと着手の手ジャンプが組み合わせられた支持跳躍運動 である(進藤,1988)。15 項目には,脚ジャンプに関わ る項目と手ジャンプに関わる項目の両方が含まれている が,因子分析の結果より,一次元的に評価できると判断 した。 4.4. 開脚跳びとかかえ込み跳びに共通する運動課題にお ける困難度の差異の検討 項目反応理論の段階反応モデルにより 2 つの技に共通 する運動局面における能力値及び運動課題の項目母数を 推定し,尤度比検定を用いて DIF を検出した。その結果, 開脚跳びとかかえ込み跳びに共通する 15 項目のうち, 均一 DIF が 4 項目で,不均一 DIF が 5 項目で検出された。 表 5 に示す結果及び図 3 から図 9 までに示すカテゴリ反 応曲線をもとに考察を行う。 着手局面の「20.手の突き放し」(図 8)においては, 中程度以上の均一 DIF 及び不均一 DIF が検出された。 手の後方への送り動作により跳び越しを行う課題は,か かえ込み跳びの場合に困難度が高かった。このことから, かかえ込み跳びでは手を突っ張って勢いを止めてしまう 動作が出現しやすく,腕支持による体重移動という運動 課題の達成が困難になることが示された。この点が,か かえ込み跳びの跳び越しの難度の高さに関連していると 考えられる。一方で,下方への手の突き放しは,開脚跳 びで困難度が高くなっていた。これは,開脚跳びでは腕 支持による体重移動を行うことで跳び越しが達成できる ため(向山,1982),切り返し系の技の中核的な技能の 一つである突き放し動作による回転の切り返しを行う必 要性が低いためであると考える。反対に,かかえ込み跳 びの跳び越しには,同じ着手局面でも,明確な手の突き 放しが要求されるため,能力値がある一定以上になった 児童は,かかえ込み跳びの技の条件に合わせて意識的に 手の突き放しを行っていたのではないかと考えられる。 山下(1996)は,開脚跳びでは着手の機能が後方へと手 をかくような「かき手」技術により形態発生するが,こ の技術のまま切り返し系の発展技である「屈身跳び」や 「伸身跳び」へと発展するのは困難であることを指摘し ている。そのため,切り返し系の技を学習する上で,手 の突き放し動作が意識的に発揮されやすいかかえ込み跳 びが,技の発展において有効な運動教材になりうると考 えられる。着手局面の「21.肩の起こし」(図 9)にお いても,均一 DIF 及び不均一 DIF の両方が検出された。 特に,均一 DIF の効果量をみると,技の条件による困 難度の差異が大きいことが示された。着手位置より前方 に肩を出すという運動課題について,かかえ込み跳びの 場合に困難度が高くなっており,閉脚姿勢のまま着手位

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置より前方に肩を出すことに恐怖心が伴うことが考えら れる。また,腕で身体を支えた状態で,両手の間に両脚 を通すような「中抜き動作」(伊藤・山神,1992)は, 本研究で対象とした縦置きの跳び箱では出現しにくいと 考えられる。着手後に肩が上方に上がる動作については, 開脚跳びで困難度が高くなり,これについても「20.手 の突き放し」と同様に,明確な回転の切り返しを行うと いう点においては,かかえ込み跳びの技の条件において 技能が発揮されやすいと考えられる。 均一 DIF が検出された踏み切り時の「13.足部の接 地先取り」(図 5)では,踏み切り接地時に前足部に体 重を乗せるという課題の困難度が,開脚跳びの場合に高 くなった。また,前足部で踏みつけるような接地の仕方 についても,開脚跳びで困難度が高くなっていた。開脚 跳びと動きの類縁性が高い「馬跳び」や「タイヤ跳び」(細 越ほか,2001;知野,2016)は,助走からの踏み切り動 作を伴わず,着手した状態から腕の体重移動によるまた ぎ越しを行う運動である。そのため,開脚跳びにおいて も「腕動作依存型」(佐野ほか,2019)のように,特に 跳び箱の跳び越しを見越した場合には,前足部に体重を 乗せて弾むように踏み切ることの必要性がかかえ込み跳 びよりも低くなることが考えられる。一方,かかえ込み 跳びでは,弾むような踏み切りによる勢いや腰の引き上 げを生み出す必要性が高いことから,前足部での接地を 行う技能が発揮されやすかったと考えられる。金子 (1987)は,一般に足裏全体で接地する動作は,跳び箱 に恐怖心を抱く生徒に多いことを述べているが,本研究 の結果としては,より恐怖心を感じやすいと考えられる かかえ込み跳びの場合に,弾むような踏み切りを実現す るための接地の仕方について困難度が高くなるという結 果は得られなかった。均一 DIF が検出された着手時の 「18.両手の揃え」(図 7)では,跳び箱上に両手を揃え てつくという課題の困難度が,開脚跳びで高くなった。 この項目は,その他の項目と比べて困難度が低いといえ るが,金子(1987)は回転技の一部を除いて,両手を揃 えることを跳び箱運動の着手における技術情報の一つと して挙げている。開脚跳びは,前方への体重移動により 跳び越しが達成されやすいため,跳び箱の奥に着手をし ようとする場合に,跳び箱上に両手を滑らせたり,手を 前後についたりすることで着手位置のずれが生じやすい ことが考えられる。 不均一 DIF が検出された予備踏み切りの「3.自由脚 の先導」(図 3)では,項目の識別力が開脚跳びの場合 に高くなっていた。特に,かかえ込み跳びの場合には識 別力が低く(0.18),能力値の高低をあまり反映しない 項目であると考えられる。かかえ込み跳びの場合には, 踏み切り局面や着手局面の項目の識別力が高く,技の成 否に大きく関わっているのに対して,技の準備局面であ る助走から片足踏み切りを行う動作は相対的に能力値を 反映する度合いが低いと考えられる。「11.上体の軸作り」 (図 4)では,項目の識別力がかかえ込み跳びにおいて 高くなった。栗原ほか(2012)は,踏み切り時に前屈が 強い場合,踏み切りと同時に着手することが多く,この 場合にはまたぎ越しをするのがやっとで危険な跳び越し になることを指摘している。また,白石(1987)は,開 脚跳びにおいては,足→手→足の交互性が明確に現れな い場合があるのに対して,閉脚跳び(かかえ込み跳び) では,突き手の技能を中心とした手足の交互性を指導す ることの重要性を指摘している。踏み切り時の前屈をお さえた上体の姿勢をつくるという課題の達成は,手足の 交互性を保つ上で重要であり,かかえ込み跳びの場合に, 特に共能力値の高低を反映すると考えられる。同じく第 一空中局面における「17.腰の上昇」(図 6)においても, 項目の識別力がかかえ込み跳びの場合に高くなった。か かえ込み跳びでは,腰を肩の位置まで引き上げることが 技を成功させるポイントの一つに挙げられている(栗原 ほか,2012)。一方,開脚跳びについては,花井・前野(2014) が,開脚跳びのできる群とできない群の着手時の体幹の 傾きを比較した結果,平均値でみると両群とも腰は肩よ りも下に位置しており,傾きの角度に有意差は認められ ないことを報告している。そのため,開脚跳びでは,跳 び箱が跳び越せたとしても,腰が十分に上がりきらない 場合もみられ,腰の上昇が能力値の高低を反映する度合 いは開脚跳びのほうが低いと考えられる。

4.5. 実践現場への示唆

DIF の検出結果を踏まえて,2 つの技に共通する運動 課題の困難度の差異に焦点を当て,技の指導を行う際の 留意点を述べる。1 点目は,閉脚かかえ込み姿勢で着手 位置より前方への移動を可能とする感覚づくりである。 かかえ込み跳びについて,開脚跳びと比べて困難度が大 幅に高くなる運動課題は,着手局面での後方への送りや 肩の前方への移動であった。開脚跳びでは脚を開き,腰 を屈曲させることによって突き手の機能を補償すること ができる(白石,1987)が,かかえ込み跳びではそうし た手のジャンプの動作を補償する動作はない。そのため, 指導の際には,脚をとじたままかかえ込みの姿勢で前方 へと身体を移動させる感覚をつくる練習課題や補助運動 を取り入れることが重要であると考えられる。

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2 点目は,雄大な開脚跳び動作を目指した指導である。 弾むような踏み切りのための接地や手の突き放しといっ た運動課題に関して,難度の低いとされる開脚跳びで困 難度が高くなった。これらの課題は,実際に開脚跳びの なかで達成することが難しい可能性もあるが,これまで に取り上げた先行研究で示した通り,跳び越しのみを重 視して開脚跳びを行う場合には,達成する必要性の低い 課題であることも考えられる。そして,かかえ込み跳び の学習に入ると,能力値の高い児童だけが,技の条件に 合わせた技能を発揮し,より強い踏み切りや手の突き放 しを行っている可能性がある。そのため,児童にとって 心理的な負担が少ない開脚跳びの段階で,より雄大な動 作の実現に向けた手の突き放しや弾むような踏み切り動 作の習得を目指すことで,より難しい技の条件に適した 技能が発揮できるようになり,かかえ込み跳びへの学習 の移行を円滑に進めることができるのではないかと考え る。 3 点目は,発展技の学習初期における練習の場の工夫 である。手の突き放し以外にも,踏み切り時の上体の軸 作りや第一空中局面における腰の上昇など,かかえ込み 跳びの場合に識別力が高くなる運動課題がみられた。す なわち,能力値が低い段階では,かかえ込み跳びの場合 に課題の困難度が高くなるが,能力値が高くなると,逆 にかかえ込み跳びの場合に課題の困難度が低くなること を示している。このことは,踏み切り時の上体の姿勢や 腰の上昇は,かかえ込み跳びを習得している児童にとっ ては達成しやすいが,学習の初期段階やかかえ込み跳び を習得できていない児童にとっては,開脚跳びを行う時 に比べて達成度が下がっている可能性を示していると考 える。そのため,これらの運動課題については,開脚跳 びから発展技のかかえ込み跳びに移行する初めの段階に おいて,児童が基本技で身につけた技能を十分に発揮す るための練習の場を設定することが重要であると考え る。

4.6. 研究の限界と今後の課題

本研究は,開脚跳びとかかえ込み跳びに共通する 21 項目のみについて検討を行った。そのため,助走から着 地までの全ての動作を対象に分析を行うことができてい ない。かかえ込み跳びの場合に,跳び箱をかかえ込んで 跳び越すという特有の課題への恐怖心が,2 つの技に共 通する運動課題の達成度にも影響を与えていることが考 えられる。そのため,児童の目標技に対する心理的な状 態と実際の動作との関連を明らかにすることが今後の課 題である。また,試技の撮影時には,開脚跳び及びかか え込み跳びそれぞれにおいて,準備運動と練習試技を行 うとともに,本番試技においては,跳び越しが難しい児 童には跳び箱の上に乗るところまで行うことや,跳び越 しができる児童に対しても着地まで丁寧に行うことなど を促した。しかし,毎回の試技において,児童が全く同 じパフォーマンスを発揮できるとは限らない。そのため, そういった個人内のパフォーマンスの相違が,開脚跳び とかかえ込み跳びの試技の間で検出された DIF につな がっている可能性もある。技の試技における再現性を考 慮した調査方法及び分析方法についても今後の課題とし たい。

5. 結論

本研究では,跳び箱運動の開脚跳びとかかえ込み跳び に共通する運動課題について,観察的に評価した評価項 目から DIF の検出を行い,技の条件が異なる場合に生 じる困難度の差異を明らかにすることを目的とした。そ の結果,以下のことが明らかとなった。 1 .かかえ込み跳びの場合に困難度が高くなる運動課 題は,着手時の「後方への送り」と「肩の前方へ の移動」である。 2 .開脚跳びの場合に困難度が高くなる運動課題は, 踏み切り時の「前足部での接地動作」,着手時の「両 手の揃え」,着手時の「手の突き放し」と「肩の 起こし」である。 これらのことから,技の条件により,踏み切りや着手 において運動課題の困難度に差異が生じることがあるた め,それらを踏まえた指導法及び練習課題を検討し,系 統的な指導を充実させていくことが重要である。

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表 2 .佐野ほか(2019)の観察的動作評価基準 0123 1 歩幅 助走時 - スムーズ 歩幅が小さくなる  -2 スピード 助走時 スムーズ 減速する  -3 自由脚の先導 予備踏切離地時 - 90度以下 90度より大きい  -4 踏込脚のプッシュ 予備踏切離地時 - 滞空期を作れている 滞空期が作れていない  -5 自由脚の屈曲調整 踏切接地時 - 足部中央が膝の先端の真下 踵が膝の先端の真下  -6 踏込脚の追いつき 踏切接地時 - 追いついている 追いついていない  -7 腕の後方への引き 予備

参照

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