• 検索結果がありません。

震災文庫25年間の歩みと今後の課題

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "震災文庫25年間の歩みと今後の課題"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

阪神・淡路大震災が起きた1995年は「ボランティ ア元年」と呼ばれ,個人の手によるビラや自費出版 物,写真等の様々な資料が作成された。これらの資 料も集めてこそ研究や防災に役立つとの考えから, 6 月に策定された収集・ 公開に関する取り決め 「『阪神・淡路大震災に関する文献・資料』の収集及 び提供について」では,関係資料を「網羅的」に収 集することを謳っている。大学図書館が一般に収集 する資料はほとんどが市販されているものなので, 上記のような資料の収集には様々な試行錯誤がなさ れた。 震災発生からおよそ半年が経った 7 月頃,図書館 ウェブサイトで震災資料の収集資料リストの公開を 始めた。当時はインターネットの利用が普及し始め た頃であったが,ウェブサイトでリストを見た人か 1.はじめに 神戸大学附属図書館「震災文庫」は,1995年 1 月 17日に発生した阪神・淡路大震災の被災地にある大 学図書館として,阪神・淡路大震災に関する資料の 収集・提供を責務としている。公刊された図書・雑 誌・視聴覚資料だけでなく,新聞の切抜やチラシ, 個人の撮影による写真・動画等を幅広く収集してお り,25年が経つ現在では所蔵資料が 6 万件を超えて いる。本稿は設立および発展の経緯と今後の課題に ついて述べるものである。 2.震災文庫の設立 2.1 収集開始 震災直後は附属図書館も書架の倒壊や破損といっ た甚大な被害を受け,初めの 1 週間は被害状況の調 査と職員の安否確認作業に費やされていた。しかし 水道やガスの復旧していない中,全国の11大学から 延べ45名もの図書館職員が駆け付け1), 4 月にはほ ぼ震災前の業務を行うことができるようになってい た。この頃から今回の震災に関する資料を閲覧でき るところはないかという問い合わせを受け始めたこ とをきっかけに,震災資料の収集を開始したのが震 災文庫の起こりである。 まずは市販されている図書の収集から開始した が,それだけでは震災時の被害や復興過程を伝えて いくのに不十分だということが判明する。 抄録:神戸大学附属図書館「震災文庫」は,25年間,阪神・淡路大震災関連資料の収集・提供を継続してきた。 当初より力を入れてきたデジタルアーカイブも,コンテンツが増加するとともに,他機関との連携により発展 をみている。本稿ではまず震災文庫の活動のはじまりおよび発展の経緯を紹介する。そのあと,近年の新たな 取組および課題として,(1)広報・利用促進,(2)二次利用条件の見直し,(3)未刊行資料の扱い,(4)デジ タルアーカイブのメタデータ流通,(5)視聴覚資料・デジタルコンテンツの長期保存の 5 点について述べる。 キーワード:震災文庫,震災アーカイブ,デジタルアーカイブ,二次利用条件,メタデータ,プライバシー, 個人情報,肖像権,媒体変換 DOI: 10.20722/jcul.2106

震災文庫25年間の歩みと今後の課題

History and challenges of the Great Hanshin-Awaji Earthquake Disaster Materials

Collection of Kobe University Library

花 﨑 佳代子

1

,松 村 友 花

2 Kayoko HANAZAKI1, Yuka MATSUMURA2

(2)

データからだけでは具体的な資料の内容を把握する ことが難しい。また,他に類を見ないメタデータ構 造のため外部のシステムとの連携が困難であると いった課題も存在している。運用開始から20年が経 ち,システムの全体的な見直しが必要になっている ことは間違いないだろう。 電子図書館システム運用開始前の1998年頃から, チラシ等一枚もの資料の一次情報を公開するための 著作権処理を開始した。一枚もの資料は当時の収集 資料のうちの多くを占めているが,図書や雑誌と違 いメタデータから一次情報を想像しづらいこと,震 災文庫にしか存在しなくなってしまった資料も多い こと等が公開の理由として挙げられる。対象資料 1 つ 1 つについて著作権者の連絡先を調べ,郵送で許 諾の問い合わせを行った。震災発生から 3 年が経過 しており,住所や連絡先が変わっていることも珍し くなかったが,一般に流通していない個人所有の資 料を収集するために蓄積されたノウハウを活かし, 多くの承諾を得ることができた。また問い合わせを きっかけに,未収集の資料を追加で寄贈いただくこ ともあった。その後の1999年には写真,2000年には 音声や動画等の許諾依頼を始め, 現在では5,000点 もの一次情報を公開している。 また,一次情報へのアクセスの仕方も複数用意し た。ひとつは電子図書館システムから検索し,メタ データに紐づいた一次情報を閲覧する方法。ふたつ 目はデジタル化資料をまとめて一覧にした「デジタ ルギャラリー」というページから利用する方法であ る。検索から一次情報の存在するものを探すことも もちろん可能だが,写真や動画等が撮影者や撮影時 期・場所ごとにまとまっているこのページを多くの 人が利用しているようである。震災文庫は網羅的な 資料収集を原則としており,資料点数が膨大な数に なっている。そのため簡易的な検索だけでは利用者 の求める資料を探し出すことが困難になっているこ とが予想され,検索以外の能動的な資料提供の導線 が今後も必要になるだろう。 3.震災文庫の発展 震災文庫の活動については多数の事例報告がなさ れており,そちらを参照されたいが3),発展の様子 を表すと思われる下記 2 点について紹介する。 3.1 資料収集と電子化 震災文庫の所蔵資料点数は2020年11月末現在で約 61,000点,電子化公開点数は約5,000点,メタデータ 件数は約301,000件であり, それぞれ継続的に数を 伸ばしてきた。 らの資料提供も少なからずあった。 それから 3 か月後,資料の収集を開始してから半 年が経った10月30日,雑誌閲覧室の一角で整備を終 えた1,000点ほどの資料とともに震災文庫の一般公 開が開始された。開始時は学内外への広報を行い, テレビやラジオでも放送されたことで多くの利用者 が訪れている。 2.2 電子図書館構想 当時の大学図書館ではネットワークを利用した情 報提供機能,いわゆる「電子図書館」が話題となっ ていた。1995年度から数年にわたり国立大学図書館 への電子図書館機能整備に対する予算措置が行われ ており,神戸大学附属図書館でも1998年度第一次補 正予算により文部省から電子図書館予算が認められ ていた。この電子図書館システム構築時の一つの柱 が震災文庫であった。そして1999年の運用開始に向 けて,メタデータの検討と著作権処理作業が開始さ れた。 震災文庫では,一つの資料が複数のメタデータに よって構成されるツリー構造で表現される。収集対 象が図書や雑誌だけでなく 1 枚もののパンフレット や写真のコレクションなどと幅広い上に,図書資料 ひとつとっても,本 1 冊を所蔵することもあれば, その中の 1 章や 1 節といった震災に関する一部分の みを所蔵することもある。そのためタイトルレベル のメタデータや章・節レベルのメタデータ等の資料 単位ごとのメタデータをそれぞれ作成し,それらを ツリー状につなぐことできめ細やかな情報提供を可 能としている。 一方で資料の一部である章・節の部分しか所蔵し ていないにも関わらず,タイトルレベルやシリーズ レベルのメタデータが存在していることで, メタ 図 1  メタデータツリー例

(3)

センターとの連携により「被災地図書館との震災資 料の収集・公開に係る情報交換会」が初めて開催さ れた。この会はその後も継続的に実施され2020年 1 月には第 9 回を迎え4),現場での課題について情報 交換を行う大変重要な場となっている。  これらをきっかけに知り合った各機関とは,情報 交換会以外の場でも相談・情報共有し,日々の業務 や運用において大いに示唆を得ている。また,情報 交換会の開催を主導している神戸大学人文学研究科 の教員とのつながりも,震災文庫の発展に欠かせな いものである。今後もこれらのつながりを大事にし ながら,震災文庫の運営を継続していきたい。 4.近年の取組と課題 4.1 広報・利用促進 近年の新たな取組として,2019年度より, 1 年生 を主な対象とした学内の総合教養科目「阪神・淡路 大震災」で約10分間,震災文庫の概要や震災関連の デジタルアーカイブを利用する際の注意事項等を説 明する試みを開始した。2020年度は新型コロナウィ ルスの影響により,オンライン会議システムを利用 して実施された同科目でガイダンスを行った。教材 は附属図書館ウェブサイトで公開している5)。実施 にあたっては,大学のシラバスで阪神・淡路大震災 に関連する授業を探し,担当教員にメールで依頼し たところ了承を得,実施がかなった。 また,広報活動の一環として従来 5 年ごとに震災 文庫の資料を利用した資料展示を実施しているが, 2019年10月~2020年 2 月に展示「阪神・淡路大震災 25年 あのときとこれから」を実施の際には,近隣 の中学校・高校に案内を送付した。それにより,高 校の図書部員一行が資料展の見学とあわせて震災文 庫を見学し,当時のアンケート,写真,被災当時の 建物倒壊状況実地調査の地図等,震災文庫ならでは の資料にふれる機会を提供することができた。 今年度は新型コロナウィルス感染拡大防止の為, 神戸大学附属図書館も通常開館ができず,震災文庫 も2020年度後期期間は学内者のみを対象とした事前 予約制・時間制限ありでの特別利用となった。来館 を前提とした広報活動は困難な時期が続く可能性が あるが, 電子書籍の購入・ 利用促進や, デジタル アーカイブサービスの拡充に尽力していきたい。 4.2 二次利用条件の見直し もう一つの新たな試みとして,2019年 1 月以降, 震災文庫デジタルアーカイブで公開する画像の一部 に CC ライセンスの適用を開始した。なお,従来は, 写真撮影者に二次利用条件を事前に確認しておき, 資料点数は,1997年度には10,000点,2002年度に は30,000点,2012年度には50,000点を超えた。 現在 は, 継続的に送付していただいている広報誌・ ニュースレターや,教員や一般の方からの寄贈資料 のほか,下記の方法で資料情報を入手し,購入や寄 贈依頼を行っている。 (1) 新聞で阪神・淡路大震災関連記事を確認し,記 事を切り抜いて保存するとともに,掲載内容か ら資料情報を入手する。 (2) 図書館や書店のデータベース,個々の出版社の ウェブサイト, 検索エンジン等を利用し, 阪 神・淡路大震災に関連する書籍や雑誌,視聴覚 資料の情報を入手する。 (3) 神戸市・兵庫県がウェブサイトで公開する記者 発表資料を確認し,記者発表資料自体を保存す るとともに, 掲載内容から資料情報を入手す る。 特に 1 点目は,目視のため労力はかかるものの, 自費出版や地域で開催される展示,舞台公演などの 情報を効率的に入手できる主要な情報収集方法であ る。なお,資料費は例年震災文庫専用に確保されて おり(2020年度:40万円),それにより例年,安定 的に資料購入が可能である。阪神・淡路大震災に関 連する情報が少しでも掲載されていれば購入する方 針で資料を探すと,25年が経過した現在でも関連資 料が一定数発行されていることがわかり,震災文庫 で収集を継続することがそのことの可視化にもなる と考える。 デジタルアーカイブのメタデータ数および電子化 公開点数は,1999~2003年度に採択された科学研究 費研究成果公開促進費によって大幅に伸びたが,そ の後も継続的なメタデータ登録および電子化により 数を増やした。メタデータは2004年度に200,000件, 2009年度に250,000件を超え, 電子化公開点数は 2002年度に3,000点,2013年度に5,000点を超えた。 3.2 連携・協力 震災文庫は運営当初から,学内関係者や類縁機関 との連携により活動を充実させてきた。 2009年 1 月には,阪神・淡路大震災関連資料を収 集する「人と防災未来センター」の所蔵資料と震災 文庫の資料情報が同時に検索できる「震災資料横断 検索」を開始した。2012年 3 月からは兵庫県立図書 館も参加し,以後,年 4 回のデータ更新を行ってき た。また,震災文庫のデータ全件は,2013年 3 月に 公開された国立国会図書館東日本大震災アーカイブ 「ひなぎく」からも横断検索が可能である。 2012年 2 月には,神戸大学人文学研究科地域連携

(4)

トがあることだが,CC ライセンス適用を案内する 際,撮影者の方の意に沿ったライセンシングがなさ れるよう,各ライセンスの内容説明を十分行うこと に留意したい。 4.3 未刊行資料の扱い 3 つ目に,未刊行資料に個人情報等が掲載される 等の理由で,館内利用や電子化公開に問題がある場 合の体制整備への着手が挙げられる。具体的には, プライバシー権および肖像権,公表権(著作者人格 権) を侵害する可能性がある資料を想定してい る6)7)8)。また,特定の法や権利を侵すわけではない としても,倫理的に個人の利益や心情を害すること はないよう留意が必要と思われる。 これまで震災文庫では,館内閲覧可能な資料の提 供体制しか備えておらず9),過去に学内教員から未 刊行資料の寄贈があった際に対応方法が未定のまま 受領し,資料の一部が未整理の状態だった。 また,従来,資料の電子化公開における著作権者 への確認はワークフローを整備し継続的に行ってき たが,個人情報等に関しては,掲載有無に応じて当 該者に閲覧提供や電子化公開の確認をとるワークフ ローは未整備だった。 このような状況の中,課題解決の必要性を感じる 機会がいくつかあった。まず,過去数年のうちに, 未刊行資料を含む資料の寄贈依頼が学内教員を中心 に複数件あり,とりあえずは対応を一任して頂いて 受領したが資料を活かせない現状があった。また, 電子化公開コンテンツに個人名が記載されているこ とに関し本人から申し出があり,該当部分を非公開 へと変更した場合が数件あった。さらに,デジタル アーカイブ学会ではデジタルアーカイブにおける写 真掲載時の判断の拠り所として「肖像権ガイドライ ン」10)の検討が進められており,また研究データ公 開に関しても研究データ利活用協議会(RDUF)に より「研究データの公開・利用条件指定ガイドライ ン」11)が公開される等,改めて情報の公開可否判断 が大学図書館においても重要な要素となりつつある ことを実感していた。 このままでは資料の死蔵化,資料提供時のプライ バシー等侵害の可能性があるため,2020年度より手 探りながら検討・対応を開始した。 まずは,過去に受領し未整理状態の資料を,寄贈 者単位で資料群ととらえ, 資料群自体を一覧化し た。その後,資料群ごとに,資料単位で,見出しや 著者,作成日などの一般的な書誌情報のほか,個人 情報・写真・書き込みの有無やその他公開に関して 気になる点をリストアップしている。一定程度リス その希望に応じ,撮影者本人への事前照会もしくは 図書館で判断の上, 事後報告等の対応を行ってい た。その際,個々の利用条件はウェブサイトには明 示しておらず,利用者向けには,希望があれば申請 するよう案内してきた。CC ライセンスの適用によ り,利用者は二次利用時に一定条件を守ることを条 件に申請手続きが不要となり,また永続的に画像が 利用可能な状況が維持される利点がある。 震災文庫では24,000枚以上の写真を公開している が,CC ライセンス適用は差し当たり 2 つのコレク ションを対象とした。 ・「阪神・淡路大震災(記録写真) 1995.1.17-1996.7  於: 西宮市 - 淡路島」CC BY-ND(撮影: 前田  耕作氏 89枚中84枚) ・「神戸大学附属図書館被害状況写真集」CC BY (撮影:神戸大学附属図書館職員 289枚) なお,CC ライセンス適用は,神戸大学附属図書 館デジタルアーカイブの活用促進を目的とする二次 利用条件見直しの一環として実施した。二次利用条 件見直しにあたっては,内規として「附属図書館デ ジタルアーカイブで公開するデジタルコンテンツの 利用に関する申合せ」(平成30年12月19日 館長決 裁)を定め,以下の 2 つの条件にあてはまる場合は 二次利用の申請を要しないことを明記した。 「第 4 項(利用の申請を要しない場合) (1) デジタルコンテンツの著作権者が,利用の申請 を要しないことをあらかじめ認めている場合。 (2) デジタルコンテンツが著作権による保護の対象 でなく,かつ原資料の所蔵者およびデジタルコ ンテンツの提供者が利用の申請を要しないこと をあらかじめ認めている場合。(以下略)」 震災文庫で公開する画像への CC ライセンス適用 は,上記第 4 項(1)の場合にあたる。上述の申合 せの補足文書に「申合せ 4 (1) に基づく円滑な運 用のため,次のコレクションに含まれる画像データ には,著作権者の希望に応じ,Creative Commons ライセンスを適用する。」とし,対象コレクション として震災文庫を挙げている。 CC ライセンスを適用したコレクションのうち 1 つは附属図書館職員撮影に拠るものであり,特定人 物への確認手続きは取っていない。前田氏とは二次 利用条件再検討の折に,条件について再確認の機会 があり, その結果要望は CC ライセンスの内 CC BY-ND に合致することが判明し,適用に至った。 上述の通り,内規の整備を終えたことから,今後, 上記の 2 コレクション以外にも二次利用条件の再確 認を進めたいと考えている。一般的には,デジタル コンテンツの二次利用条件が緩和されるのはメリッ

(5)

で電子化公開済の図書456件のデータを一括登録す ることにより,CiNii Books に震災文庫の電子化済 図書へのリンクが表示されるようになった。 また,前述の通り,震災文庫は国立国会図書館東 日本大震災アーカイブ「ひなぎく」からの横断検索 が可能であるが,2018年10月には,ハーバード大学 エドウィン・O・ライシャワー日本研究所の運営す る「日本災害 DIGITAL アーカイブ」との連携の覚 書を締結し,連携の準備を進めている。 デジタルアーカイブのメタデータ流通のために は,上記の他にも NII の提供する学術機関リポジト リデータベース IRDB や,ジャパンサーチ等,様々 な連携先のプラットフォームがあり,今後それらと の連携に備え, 利用条件と相互運用性の 2 つの点 で,メタデータの流通のしやすさを整備することが 課題である。 まずは相互運用性の向上を目指し, 2022年 9 月のシステムリプレイスに向け,メタデー タ構成の見直しを行っている。 4.5 視聴覚資料・デジタルコンテンツの長期保存 最後に,視聴覚資料およびデジタルコンテンツの 長期保存に関する取組が挙げられる。震災文庫では 2012年度より,所蔵する視聴覚資料やコンテンツ保 存媒体の媒体変換を継続的に実施してきた。 対象 は,カセットテープ,FD,MO,Photo CD に保存 される PCD 画像,VHS 資料である。 媒体変換実施に当たっては,対象を一覧化し,優 先順位をつけて変換を実施してきたが,すべては終 了していないため,今後も進めていく必要がある。 さらに,媒体変換後のものも含めたデジタルコン テンツの長期保存が課題である。現在は,画像や映 像を保管する個々の媒体を試行的に一つの NAS に 集約しつつあるが, 係内の人員のみでは困難であ り,また外部委託するにしても所蔵する媒体の種類 や容量を正確に把握する必要がある。 さらに, NAS のバックアップ作成は行っているものの,遠 隔地でのバックアップ保管は行えていない。まずは 現状の詳細な把握から着手していきたい。 5.終わりに 震災文庫は,震災関連資料を保存・提供する取組 としては前例が少ない中,関連機関と協力・情報交 換しながら様々な試行錯誤を経て運営をしてきた。 その中では新たに発見される課題も多くあった。東 日本大震災を経た現在は,震災文庫の他にも多くの 震災アーカイブの実例があり,ノウハウも蓄積され てきている。震災文庫はそれらの事例に学び,運用 を改善しながら,資料が記憶の継承や防災に活用さ トを作成後,個別の事例を対象に適切な対応を検討 し,最終的には,未刊行資料の閲覧提供および電子 化公開における判断基準を定めていく予定であり, ワークフローを明確化することが目標である。 未刊行資料の整理や今後の体制整備に向けては, 学内で歴史資料整理のノウハウを持ち,類似機関で の資料利用経験も豊富な人文学研究科の教員へ相談 し,アドバイスや,研究者としての希望を確認した。 教員には,さらに未刊行資料の整理作業自体にも協 力いただけることになった。また,未刊行資料の整 理に加え提供も業務としている神戸大学大学文書史 料室にも相談し,個人情報のマスキングや袋掛けの 方法および,個人情報判断の規則・運用について説 明を受けた。個人情報が掲載されている場合,マス キングや袋掛けに拠る物理的な保護,資料作成日か らの経年を基準に利用可否を決定する方法,研究目 的に限って利用条件を定めた上で申請式で利用を許 可する方法が対応方法の候補として挙げられる。 一方,電子化公開の基準についても見直しが必要 である。プライバシー権や肖像権は,法律上で明文 化された権利ではなく判例上認められた権利のた め,閲覧提供や電子化公開により問題が生じるかど うかを明確に判断することは難しい。そのような中 でも,自機関で依拠する判断基準を明確化・統一し た上で判断をしていくことが望ましいと思われる。 上記の整理作業を始めた頃,株式会社サンテレビ ジョンと神戸大学との連携の一環として,同社内に 保管されている阪神・淡路大震災当時の撮影映像提 供に関する申し出を受けた。映像の中には,放映を 行っていない報道のための素材映像もあり,館内で の閲覧提供や電子化公開に関して検討を行う必要性 が生じた。 それに伴い,未刊行資料の閲覧提供や電子化公開 に関する判断を行う小委員会を設置した。本委員会 は,既存の「神戸大学附属図書館研究開発室」内に 設置されている「電子化部会」の下部組織として位 置づけられ,学内教員と附属図書館職員により構成 される。今後,小委員会により個々のケースを対象 に検討を行うと同時に基準を整備していく予定であ る。 4.4 デジタルアーカイブのメタデータ流通 震災文庫では,1995年の運営開始当初から,イン ターネットによる情報公開を重視してきた。デジタ ルアーカイブの活用を促進するために,より多様な 方法でのアクセスチャネルの用意を進めている。 例えば,2019年 6 月には,国内の電子リソースを 管理するナレッジベース ERDB-JP にて,震災文庫

(6)

9 ) 稲葉洋子. 震災資料の保存と公開 ─神戸大学「震 災文庫」 を中心として─. 大学図書館研究.1999, 55巻,54-64.(オンライン), https://doi.org/10.20722/jcul.1032,(参照 2020-12- 18). 過去にも,資料の受領に関して学内教員に相談しプ ライバシーに考慮して対応をしていたが,ノウハウ を明文化し今後も引き継がれるようにすることが目 標である。 10) デジタルアーカイブ学会法制度部会.“肖像権ガイド ライン案”.2020-04-25.(オンライン), http://digitalarchivejapan.org/bukai/legal/ shozoken-guideline,(参照 2020-12-23). 12) 研究データ利活用協議会研究データライセンス小委 員会.“研究データの公開・利用条件指定ガイドライ ン”.2019-12-25.(オンライン), https://doi.org/10.11502/rduf_license_guideline,(参 照 2020-12-22).         参考文献 1 ) 稲葉洋子.阪神・淡路大震災と図書館活動:神戸大 学「震災文庫」の挑戦.吹田,西日本出版社,2005, 91p.(490190809X) 2 ) 中山貴弘.神戸大学附属図書館 震災文庫とデジタ ルアーカイブズ:その特色と今後の課題.専門図書 館.2008,232,74-78. 3 ) 稲葉洋子.“神戸大学「震災文庫」の電子化と著作権”. 2000年京都電子図書館国際会議:研究と実際.京都 大学電子図書館国際会議編集委員会.東京,日本図 書館協会,2001,141-145.(4820400339) 4 ) 稲葉洋子.震災記録のアーカイブの運用:「震災文庫」 の経験から(〈特集〉震災アーカイブ).情報の科学 と技術.2014,64巻,9 号,371-376.(オンライン), https://doi.org/10.18919/jkg.64.9_371,(参照 2020-12-21).        <2021.2.12 受理> 1   はなざき かよこ 神戸大学附属図書館情報管理課 電子図書館係 https://orcid.org/0000-0001-7873-2592 2   まつむら ゆうか 神戸大学附属図書館情報管理課 電子図書館係 https://orcid.org/0000-0003-3991-5964 れる状態を維持できるよう努力していきたい。 謝辞 日ごろの震災文庫の運営に多大なご協力・ご助言 をいただいている神戸大学人文学研究科奥村弘先 生,吉川圭太先生,佐々木和子先生,水本有香先生 および関連の皆様に,厚くお礼申し上げます。         注・引用文献 1 ) 神戸大学附属図書館報.1995, 4 ,Supplement. 2 ) 撮影:神戸大学附属図書館 提供:神戸大学附属図 書館 震災文庫 3 ) 神戸大学附属図書館.“震災文庫に関する資料,論文 等の一覧”.神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ 震災文庫.(オンライン), http://www.lib.kobe-u.ac.jp/eqb/on_eqb.html,(参 照 2020-12-22). 4 ) “被災地図書館との震災資料の収集・公開に係る情報 交換会報告書”.神戸大学附属図書館デジタルアーカ イブ震災文庫.2020-06.(オンライン), http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/DetailView. jsp?LANG=JA&METAID=10221514&AID=01,(参 照 2020-12-22). 5 ) 神戸大学附属図書館情報管理課電子図書館係.“阪神 淡路大震災について調べる: ~震災文庫の紹介 [2020.5]”.2020-05.(オンライン),神戸大学附属図 書館デジタルアーカイブ震災文庫. http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/DetailView. jsp?LANG=JA&METAID=10228450&AID=01,(参 照 2020-12-18). 6 ) 数藤雅彦編.権利処理と法の実務.東京,勉誠出版, 2019,223p,(デジタルアーカイブ・ ベーシックス, 1 ).(9784585202813) 7 ) 早川和宏.民間(収集)アーカイブズの保存活用を 巡る法的課題 ──その利用を中心に──.国文学 研究資料館紀要.2017-03-16,13号,61-83.(オン ライン), http://doi.org/10.24619/00003267,(参照 2020-12- 18). 8 ) 新保史生著.情報管理と法:情報の利用と保護のバ ランス.東京,勉誠出版,2010,187p,(ネットワー ク時代の図書館情報学).(9784585054306) 国立大学附属図書館の所蔵資料は独立行政法人個人 情報保護法の適用対象ではないとされている。

参照

関連したドキュメント

推計方法や対象の違いはあるが、日本銀行 の各支店が調査する NHK の大河ドラマの舞 台となった地域での経済効果が軒並み数百億

ライセンス管理画面とは、ご契約いただいている内容の確認や変更などの手続きがオンラインでできるシステムです。利用者の

我々は何故、このようなタイプの行き方をする 人を高貴な人とみなさないのだろうか。利害得

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

つまり、p 型の語が p 型の語を修飾するという関係になっている。しかし、p 型の語同士の Merge

夜真っ暗な中、電気をつけて夜遅くまで かけて片付けた。その時思ったのが、全 体的にボランティアの数がこの震災の規

に会社が訴追の主体者であったことを忘却させるかのように,昭和25年の改