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ヒューマンリソースの総合的マネジメントと管理会計 : 知識創造による個人と企業のビジョン実現にむけて

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(1)関西学院大学審査博士学位申請論文. ヒューマンリソースの総合的マネジメントと管理会計 一知識創造による個人と企業のビジョン実現にむけて一. 指導教員. :浜田 和樹教授. 指導補佐教員. :山地 範明教授. 2010年12月 経営戦略研究科博士課程後期課程. D8905 山下 千丈.

(2) 博士論文要旨 企業に所属する人に関する学問領域として、人的資源管理論があり、人的資本理論や行 動科学との脈絡で展開されている。その研究領域は、雇用システム、報酬システム、人材 開発が中心であり、管理会計の視点からの学際的研究はあまり行われていない。本稿は、. 人間と企業との関わりの中での相互の成長(人の成長と企業の成功)をテーマとし、管理 会計論の立場から学際的に人的資源管理論、人的資本理論といった領域を応用している点 が特徴である。. 21世紀の知識創造化社会に対応したヒューマンリソース・マネジメント(H㎜an 臨so㎜oeManagement:HRM)がいかにあるべきかを管理会計の視点から考察し、実践の なかで企業経営者による有用なマネジメントシステムの構築への貢献を目指すものである。. 管理会計が人に関する意思決定や人のマネジメントに有用な情報を提供するために、現代 の課題を明らかにし、新たな枠組みを提唱するとともに、その実践に向けての留意点を指. 摘することにより、HRMと管理会計の発展に寄与することを目的としている。. 1.問題提起 21世紀に入り、企業環境の変化はますます激しくなり、より複雑性を増している。そ のような環境下ではスピード経営が必要であり、そして、企業経営の焦点は物理的資源か らインタンジブルズヘと変化している。有形資産を集約した製造活動からは持続的な競争 優位と成長がもたらされなくなってきており、競争優位の源泉としてインタンジブルスの 創出が求められている。. インタンジブルスといった「目に見えない資産」を創り出し、利用するのは人であるこ とから、人がビジネスの成功にとっての鍵であり、人と組織の能力を強化し、マネジメン トしていく仕組みの構築が必要である。そこでは、画一的なマネジメントではなく、労働 環境や個人の多様性に対応したマネジメントが求められ、さらに、企業業績のマネジメン トとの統合も必要となる。従って、管理会計の視点から人と企業業績の総合的なマネジメ. ントシステムを構築することにより、効果的・効率的な企業経営がなされ、企業と個人の 双方の目標達成が可能になる。さらに、効率性のみではなく、人間性が尊重されるもので なければならない。. 1.

(3) 2.人事管理の変遷と管理会計の課題 人の管理は、個人を対象とするパーソナル・マネジメントから経営資源としてのヒュー. マンリソースを対象とするHRMへと変化し、さらに戦略に貢献できる戦略的HRMが提 唱されるようになった。第1章では、企業における人の管理の変遷を整理し、現在の複 雑な労働環境を概観する。そこでは、多様な労働形態に対応するためのフレキシビリティ が人の管理に求められている。この複雑性を可視化し、有効なマネジメント手法を構築す ることが、管理会計に与えられた課題だといえる。. 3.ヒューマンリソースに関する会計の変遷と課題. 第2章は、人に関して会計の視点から考察していく。1960年代のアメリカにおいて、 ヒューマンリソースの価値を測定し、そのオンバランス化による財務諸表の質的向上への. 取り組みとして、H㎜an Reso㎜妃Acoomせ㎎(HRA)が誕生した。1冊Aの主な目的は、 経営者がヒューマンリソースを効果的、効率的に利用するための計画、コントロールをサ. ポートすることである。HRAの先行研究を、現在の管理会計の視点(経営意思決定に有 用な情報が提供できるか、また、業績評価やプロセス評価といった戦略の実行やマネジメ ントに役立つかどうかという視点)から整理していく。. ヒューマンリソースを会計で取り扱うことを困難にしているのは、(1)知識は物理的資. 源ではない、②所有できない、(3)測定できない、といった性質に由来する。従来の :冊Aは主観的な要素が入るため、財務会計には馴染まないこともあり、その実務への適. 用には限界がある。しかし、精緻な評価・測定にこだわらず、HRAの概念を用いて HRMをサポートする枠組みを構築することは有用であり、ヒューマンリソースの総合的 マネジメントに活かすことができる。. 4.戦略的IIRMと戦略的管理会計 第3章は、戦略とHRMの整合に焦点をあて、戦略的1HRMのモデルを概観する。戦略 との整合といった外部整合を備えるだけでは十分ではなく、ヒューマンリソース施策間の 整合という内部整合を図り、全体的統合を目指すコンブィギュレーショナル・モデルが、 環境変化の激しい今日において有用であるといえる。. コンブィギュレーショナル・モデルをべ一スとして、ヒューマンリソースをポートフ ォリオとして捉え、モデルごとに、管理会計ツールの有効的な適用という視点を中心にぞ. 2.

(4) れぞれの特徴を整理するとともに、適用にあたっての留意点を指摘する。各モデルに固有 の有用な管理会計ツールがあるということではなく、同様のツールをいかに環境に即した 形で活用していくかが重要であり、複雑性の増した現代において、フレキシブルな適用が 必要であることを示唆している。. 第4章では、戦略的管理会計の特徴の一つである、非財務指標について考察する。企 業戦略の実行に対する管理会計の役割の1つに、財務指標と非財務指標を用いたバランス のとれた分析と情報の提供がある。非財務指標と重要成功要因やマネジメントシステムと の関係を明らかにしたうえで、人や組織の開発と成長という視点から、非財務指標を用い. ることにより、管理会計がHRMに対して有用材青報提供が可能になる。また、組織全体 の成長に向けての変革を、オペレーションの視点と変化の視点から考察し、変革のための スキームを構築することにより、将来のあるべき組織への変化を促進することができる。. 第5章では、ヒューマンリソース・コストのマネジメントにヒューマンリソース・ポ ートフォリオを利用し、非正規社員やアウトソーシングといった複雑性を増した環境にお いて求められている新たなコスト・マネジメントについて考察する。従来、アウトソーシ ングはコスト削減がその主目的であり、アウトソーシングの拡大とともに戦略との脈絡に おいて展開されるようになったのは最近である。ヒューマンリソースに関わるコストを構. 成する所要量、調達先、調達コストの3要素についてABCなどの管理会計手法を適用す ることにより、複雑な環境下に対応できるコスト・マネジメントシステムを構築し、ヒュ ーマンリソースに関わるコストが可視化され、効果的・効率的なマネジメントが可能にな る。. 5.ヒューマンリソースの総合的マネジメント. 従来、1HRMは人事部門が担当し、人件費の子実管理などの管理会計に関わる領域は企 画部門やファイナンス部門が担当するといった縦割りの運営がなされたため、ファンクシ. ョン間の連携が弱く、人に関わる総合的なマネジメントがなされてこなかった。第6章 は、企業のパフォーマンスに影響を及ぼす人的な要因を明らかにし、ヒューマンリソース を総合的にマネジメントするフレームワークを構築することにより、戦略の達成と個人の. ビジョンの達成を両立することができる。具体的には、BSCのフレームワークと戦略的. 3.

(5) レディネス・モデルを活用することにより、この目的を達成するためのストーリーを戦略 マップとして描き、レディネス(準備状況)を指標としてマネジメントを行っていく。レ ディネスには、戦略の達成だけではなく、個人のビジョンを同時に達成するためのレディ ネスを組み込み、個人と企業がともに目標を達成するためのストーリーを描くのである。. 6一戦略や知識創造に貢献できる1冊Mと管理会計 戦略をべ一スとしたマネジメントでは、環境変化の激しい状況下で長期的な成功を収め ることは困難な状況になっている。戦略を創発し、知識を創造するための「人」のマネジ. メントが必要とされている。第7章は、戦略創発や知識創造に貢献する1HRMについて考 察し、現在のヒューマンリソース施策の限界を明らかにするとともに、知識創造に貢献す る管理会計の可能性を追求する。前章の戦略マップをもとに、個人と企業のビジョン実現. へのビジョテリー・マップを策定し、BSCをインタラクティブに活用し、BSCに知識創 造の仕組みを盛り込むことにより、従業員の人間性を回復させ、企業と従業員がともに成 長するという企業本来の目標を達成するのである。. 4.

(6) 目次. 序章. 1. 第1章 現代企業における人事管理の変遷と管理会計の課題. 7. I はじめに. 7. 1I人の管理の変遷と管理会計のかかわり. 7. 1 パーソナル・マネジメシトー科学的管理法による管理. 7. 2 ヒューマンリソース・マネジメントヘの変化一人的資本理論の影響. 8. 3戦略的ヒューマンリソースマネジメント(SHRM)の発展. 9. 4 ヒューマンリソースマネジメントと管理会計. 9. 5人的資源、人的資本、人的資産の定義と相違. 10. 6企業経営の中での人の位置付け. 12. 皿 労働環境の変化による人の管理への影響と管理会計の課題. 13. 1非正規雇用の増加とその影響. 13. 2アウトソーシングの進展とその影響. 13. 3非正規社員やアウトソーシングの増加による管理会計の課題. 15. 1V 人に関わるコストの推移. 15. 1わが国の人件費の推移一付加価値、人件費と分配率の関係において. 15. 2人件費決定に関する実証分析. 16. V むすびにかえて. 18. 第2章 ヒューマンリソースに関する会計の変遷と課題. 21. I はじめに. 21. ■ ヒューマンリソースの会計とその可能性. 21. 皿 ヒューマンリソース・アカウンティング、. 22. (H㎜an晦so皿㏄A㎜m仕㎎:田ωの先行研究. 1HRAの定義と役割. 22. 2HRA理論的展開と実務での適用. 23. 3 ヒューマンリソースに対する投資価値の測定. 26.

(7) 4 ヒューマンリソース自体の価値測定. 28. 1V 現在のHRAの実務への適用. 33. 1プロスポーツ界での実例. 33. V むすびにかえて. 34. 第3章 戦略的ヒューマンリソース・マネジメントと管理会計ツールの適用について37. I はじめに. 37. ■ 戦略的ヒューマンリソース・マネジメント. 37. 1戦略的ヒューマンリソース・マネジメントヘの変化. 37. 2戦略的ヒューマンリソース・マネジメントの3つのモデル. 38. 3ヒューマンリソースのポートフォリオ・マネジメント. 42. 皿 ヒューマンリソース・ポートフォリオと管理会計. 1ポートフォリオ・モデルの特徴. 46. 46. 2各モデルと管理会計ツールの適用. 49. IV むすびにかえて. 50. 第4章 戦略的管理会計とヒューマンリソース. 53. I はじめに. 53. ■ 戦略的管理会計. 53. 1戦略的管理会計の生成と展開. 53. 2 日本における管理会計の展開. 54. 皿 非財務指標と重要成功要因. 55. 1非財務指標の先行研究. 55. 2非財務指標と重要成功要因. 57. 3非財務指標とマネジメント・プロセス. 58. 4非財務指標の有用性と因果関係. 59. 5 ヒューマンリソース・マネジメントと非財務指標の活用. 60. W人と組織の強化と管理会計. 63. 1個人の成長(人材開発)と人への投資効果. 63. 2組織の維持と活性化. 70. ii.

(8) 3組織の維持と活性化のためのマネジメント. 71. 73. V むすびにかえて. 第5章 ヒューマンリソース・コストの総合的マネジメント. 76. I. はじめに. 76. ■. 労働力の多様化とアウトソーシング進展による人件費マネジメントの変化. 77. 皿. 戦略的アウトソーシングヘの変化. 77. 1従来のアウトソーシングの対象と意思決定. 77. 2戦略的アウトソーシングの対象と意思決定. 77. 1V ヒューマンリソース・コストの総合的マネジメント. V. 78. 1人件費とアウトソーシング・コストの総合的マネジメント. 78. 2総合的コストマネジメント. 81. 91. むすびにかえて. 第6章 ヒューマンリソースの総合的マネジメント. 95. I. はじめに. 95. ■. ヒューマンリソースの評価に対する企業の取り組み. 95. 一企業アンケート調査より. 皿. 1アンケート調査の概要. 95. 2アンケート調査結果. 96. 組織風土とパフォーマンスの関係一従業員アンケート調査より. 1アンケート調査結果. 104. 2アンケート結果からの相関分析. 106. IV ヒューマンリソースの総合的マネジメントシステム. V. 104. 107. 1ヒューマンリソースの総合的マネジメントヘのBSCの適用. 108. 2BSCによるヒューマンリソース測定のフレームワーク. 110. 3 ヒューマンリソース総合的マネジメントのフレームワーク. 112 114. むすびにかえて. iii.

(9) 第7章 知識創造のためのヒューマンリソース・マネジメントと管理会計. I はじめに. 117. 1I ヒューマンリソースを含むインタンジブルスのマネジメント. 117. 1インタンジブルスのマネジメントモテソレ. 118. 2インタンジブルス(知的資産)経営に関する各国の取り組み. 121. 皿 戦略をべ一スとしたヒューマンリソース・マネジメントの限界. 123. IV 知識創造のためのヒューマンリソース・マネジメント・システム. 124. 1 ヒューマンリソース・マネジメントの新たな役割. 124. 2管理会計の貢献. 125. 3知識創造および社会への貢献にむけてのシステム. 127. 129. V むすびにかえて. 終章. 133. 参考文献. 143. 参考資料. 154. iV.

(10) 序章 企業に所属する人に関する学問領域として、人的資源管理論があり、人的資本理論や行 動科学との脈絡で展開されている。その研究領域は、雇用システム、報酬システム、人材 開発が中心であり、管理会計の視点からの学際的研究はあまり行われていない。本稿は、. 人間と企業との関わりの中での相互の成長(人の成長と企業の成功)をテーマとし、管理 会計論の立場から学際的に人的資源管理論、人的資本理論といった領域を応用している点 が特徴である。. 21世紀の知識創造化社会に対応したヒューマンリソース・マネジメント(H㎜an 臨so㎜ceMa皿agement:HRM)がいかにあるべきかを管理会計の視点から考察し、実践の なかで企業経営者による有用なマネジメントシステムの構築への貢献を目指すものである。. 管理会計が人に関する意思決定や人のマネジメントに有用な情報を提供するために、現代 の課題を明らかにし、新たな枠組みを提唱するとともに、その実践に向けての留意点を指. 摘することにより、肥Mと管理会計の発展に寄与することを目的としている。. 1.問題提起 21世紀に入り、企業環境の変化はますます激しくなり、より複雑性を増している。そ のような環境下ではスピード経営が必要であり、そして、企業経営の焦点は物理的資源か らインタンジブルズヘと変化している。有形資産を集約した製造活動からは持続的な競争 優位と成長がもたらされなくなってきており、競争優位の源泉としてインタンジブノレズの. 創出が求められている。企業は、競争優位をもたらさない活動をアウトソーシングし、イ ンタンジブルス創出に経営資源を集中させることになる。インタンジブルスは「物理的形 態または金融商品としての形態を有しない将来のベネフィットに対する請求権である」と. 定義され(bv,2001,p馬邦訳10頁)、その創出要因として、新発見、組織上の働了と 人的資源が挙げられる。. インタンジブルスといった「目に見えない資産」を創り出し、利用するのは人であるこ とから、人がビジネスの成功にとっての鍵であり、人と組織の能力を強化し、マネジメン トしていく仕組みの構築が必要である。そこでは、画一的なマネジメントではなく、労働 環境や個人の多様性に対応したマネジメントが求められ、さらに、企業業績のマネジメン トとの統合も必要となる。従って、管理会計の視点から人と企業業績の総合的なマネジメ. 1.

(11) ントシステムを構築することにより、効果的・効率的な企業経営がなされ、企業と個人の 双方の目標達成が可能になる。さらに、効率性のみではなく、人間性が尊重されるもので なければならない。. 本稿は、7章から構成されており、その概要を図序一1に示している。. 図序一1:本稿の概要. 社会からの要言責. 各ステークホルダー’財務会計より. 投資の対象. 第1章 人事管理の変遷(PM→HRM). 会計の課題. 第2章. 企業での位置付麗玲. HRの会計の変遷と課題. 経費、資本、資産. 財務諸表の限界人の価値を無視 人を資産とする会計の試み:HRA. 人間性の回復、労⑪の多様化: (非正規社員・アウトソーシング). 複雑性・懇意性・基準の未確立により未普及. 里 募簑壌裟蒜余割. 俸固尋. 第3章 戦略的HRMシステムヘの 管理会計ツールの適用. 整合. 斑. 人のポートフォリオ・マネジメント. 整合. 財務指標と非財務指標 人への投資と効果. (戦略的価値とリソース) マネジメントコントロール・システム. ABC畑M・BSC. 第4章 戦略的管理会計とヒューマンリソース. @も. ∼. HRの総合的マネジメントと管理会計. 第5章. HRコストの可視化=. ヒューマンリソース・コスト. 第6章. 財務指標と非財務指標 実務での実践. HRの総合的マネジメント. 第7章 知識創造のための. HRMと管理会計 (筆者作成). 人のマネジメントは、パーソナル・マネジメントからHRMへと変化し、労働環境も非 正規社員やアウトソーシングの増加といった変化が生じている。第1章は、これらの変 化に対する管理会計の新たな役割と課題がテーマである。人は道具やコストではなく、貴 重な存在であり、人間性を回復させる必要があること、そして人の価値に関する情報の提 供という社会の要請からヒューマンリソース・アカウンティング(1H玉A)が誕生した。. 第2章では、HRAの起源とその変遷、実務での適用について、先行研究の整理を行う。. 2.

(12) 第3章は、新たに誕生した戦略的1HlRMをべ一スにして、管理会計ツールを適用した場. 合の特徴と留意点を明らかにしている。第2章では、財務会計での人の取り扱いの限界. が明らかになったが、第4章では、戦略的管理会計の特徴の1つである非財務指標を HRMへ適用することにより、効果的なマネジメントが可能になることを述べている。特 に、人に対する投資とその効果が中心テーマである。. 第4章までの考察を基に、第5章からは、ヒューマンリソースの総合的なマネジメン トについての論考である。第5章はヒューマンリソースに関するコストマネジメント、. 第6章は企業と従業員の成長を目指すヒューマンリソースの総合的マネジメント、そし. て第7章は知識創造を促進するためのHRMをテーマとし、それぞれのマネジメントシス テムを構築することにより、人と企業の目標達成への貢献が可能になる。. 本稿は、ヒューマンリソースの多様性や企業環境の変化に対応したマネジメントが求め られるなかで、ヒューマンリソース・マネジメントと企業パフォーマンスのマネジメント を統合したところに意義がある。具体的な成果は下記のとおりである。. 1管理会計論の立場から人的資源管理論などの関連分野を包含する学際的考察を行い、 総合的なマネジメントシステムを構築することにより、ヒューマンリソースや企業 環境の多様性と変化に対応できるマネジメントを可能にすること. 2 ヒューマンリソース・アカウンティングの先行研究の整理(第2章). 3 ヒューマンリソースをポートフォリオとして捉え、戦略的HRMに管理会計ツール を適用するにあたっての特徴と留意点の明示(第3章). 4非正規社員やアウトソーシングといった複雑性を増した経営環境において求められ る新たなヒューマンリソース・コストマネジメントシステムの構築(第4,5章). 5組織風土と企業パフォーマンスの関係を明らかにし、人と企業がともに成長できる ヒューマンリソースの総合的マネジメントシステムの構築(第6章). 6知識創造を推進し、ビジョン達成のためのヒューマンリソース・マネジメントヘの 管理会計の新たな貢献とそのスキームの構築(第7章). 2.人事管理の変遷と管理会計の課題 人の管理は、個人を対象とするパーソナル・マネジメントから経営資源としてのヒュー. マンリソースを対象とするHRlMへと変化し、さらに戦略に貢献できる戦略的HRMが捷. 3.

(13) 唱されるようになった。第1章では、企業における人の管理の変遷を整理し、現在の複 雑な労働環境を概観する。そこでは、多様な労働形態に対応するためのフレキシビリティ が人の管理に求められている。この複雑性を可視化し、有効なマネジメント手法を構築す ることが、管理会計に与えられた課題だといえる。. a ヒューマンリソースに関する会計の変遷と課題. 第2章は、人に関して会計の視点から考察していく。会計上、原則として人に関わる 支出は費用計上されるが、1960年代のアメリカにおいて、ヒューマンリソースの価値を. 測定し、そのオンバランス化による財務諸表の質的向上への取り組みとして、H㎜an Reso㎜鵬地。om丘㎎(HRA)が誕生した。1冊Aの主な目的は、経営者がヒューマンリソ ースを効果的、効率的に利用するための計画、コントロールをサポートすることである。. HlRAの先行研究を、現在の管理会計の視点(経営意思決定に有用な情報が提供できるか、 また、業績評価やプロセス評価といった戦略の実行やマネジメントに役立つかどうかとい う視点)から整理していく。. ヒューマンリソースを会計で取り扱うことを困難にしているのは、(1)知識は物理的資. 源ではない、(カ所有できない、(3)測定できない、といった性質に由来する。従来の. HRAは主観的な要素が入るため、財務会計には馴染まないこともあり、その実務への適. 用には限界がある。しかし、精緻な評価・測定にこだわらず、HRAの概念を用いて HRMをサポートする枠組みを構築することは有用であり、ヒューマンリソースの総合的 マネジメントに活かすことができる。. 4 戦略的1≡凪Mと戦略的管理会計. 第3章は、戦略とHRMの整合に焦点をあて、戦略的HRMのモデルとして、ベストプ ラクティス・モデル、コンティンジェンシー・モデル、コンブィギュレーショナル・モデ ルを概観する。戦略との整合といった外部整合を備えるだけでは十分ではなく、ヒューマ ンリソース施策間の整合という内部整合を図り、全体的統合を目指すコンブィギュレーシ ョナル・モデルが、環境変化の激しい今日において有用であるといえる。. コンブイギュレーショナル・モデルをべ一スとして、ヒューマンリソースをポートフ ォリオとして捉え、モデルごとに、管理会計ツールの有効的な適用という視点を中心にそ れぞれの特徴を整理するとともに、適用にあたっての留意点を指摘する。各モデルに固有. 4.

(14) の有用な管理会計ツールがあるということではなく、同様のツールをいかに環境に即した 形で活用していくかが重要であり、複雑性の増した現代において、フレキシブルな適用が 必要であることを示唆している。. 第4章では、戦略的管理会計の特徴の一つである、非財務指標について考察する。企 業戦略の実行に対する管理会計の役割の1つに、財務指標と非財務指標を用いたバランス のとれた分析と情報の提供がある。非財務指標と重要成功要因やマネジメントシステムと の関係を明らかにしたうえで、人や組織の開発と成長という視点から、非財務指標を用い. ることにより、管理会計が正IRMに対して有用な情報提供が可能になる。また、組織全体 の成長に向けての変革を、オペレーションの視点と変化の視点から考察し、変革のための スキームを構築することにより、将来のあるべき組織への変化を促進することができる。. 第5章では、ヒューマンリソース・コストのマネジメントにヒューマンリソース・ポ ートフォリオを利用し、非正規社員やアウトソーシングといった複雑性を増した環境にお いて求められている新たなコスト・マネジメントについて考察する。従来、アウトソーシ ングはコスト削減がその主目的であり、アウトソーシングの拡大とともに戦略との脈絡に おいて展開されるようになったのは最近である。ヒューマンリソースに関わるコストを構. 成する所要量、調達先、調達コストの3要素についてABCなどの管理会計手法を適用す ることにより、複雑な環境下に対応できるコスト・マネジメントシステムを構築し、ヒュ ーマンリソースに関わるコストが可視化され、効果的・効率的なマネジメントが可能にな る。. 5一ヒューマンリソースの総合的マネジメント. 従来、HRMは人事部門が担当し、人件費の子実管理などの管理会計に関わる領域は 企画部門やファイナンス部門が担当するといった縦割りの運営がなされたため、ファン クション間の連携が弱く、人に関わる総合的なマネジメントがなされてこなかった。第. 6章は、企業のパフォーマンスに影響を及ぼす人的な要因を明らかにし、ヒューマンリ ソースを総合的にマネジメントするフレームワークを構築することにより、戦略の達成. と個人のビジョンの達成を両立することができる。具体的には、BSCのフレームワーク と戦略的レディネス・モデルを活用することにより、この目的を達成するためのストー. 5.

(15) リーを戦略マップとして描き、レディネス(準備状況)を指標としてマネジメントを行. っていく。レディネスには、戦略の達成だけではなく、個人のビジョンを同時に達成す るためのレディネスを組み込み、個人と企業がともに目標を達成するためのストーリー を描くのである。. 6.戦略や知識創造に貢献できる田Mと管理会計 戦略をべ一スとしたマネジメントでは、環境変化の激しい状況下で長期的な成功を収め ることは困難な状況になっている。戦略を創発し、知識を創造するための「人」のマネジ. メントが必要とされている。第7章は、戦略創発や知識創造に貢献するHlRMについて考 察し、現在のヒューマンリソース施策の限界を明らかにするとともに、知識創造に貢献す る管理会計の可能性を追求する。前章の戦略マップをもとに、個人と企業のビジョン実現. へのビジョテリー・マップを策定し、BSCをインタラクティブに活用し、BSCに知識創 造の仕組みを盛り込むことにより、従業員の人問性を回復させ、企業と従業員がともに成 長するという企業本来の目標を達成するのである。. 参考文献. L舳B一,危あ㎜凄脆ば㎏θ㎜θ砧肋a8㎜協㎜θηC6㎜a畑g Bmok晦InstituhonP㈱, 2001.広瀬義州・桜井久勝監訳『ブランドの経営と会計』,東洋経済新報杜,2002年.. 6.

(16) 第1章 現代企業における人事管理の変遷と管理会計の課題 I はじめに 企業における人の管理は、個人を対象としたパーソナル・マネジメントから経営資源の. 1つとしての人的資源を対象とするヒューマンリソース・マネジメント(HRM)へと変 化し、さらに戦略実行に貢献できる戦略的HRMが提唱されるようになった。人はコスト であるという見方から、企業経営にとって貴重な資源であるという捉え方へ変化している。. しかし、1990年以降、貴重な資源であると言いながら厳しい経営環境のなかでは、利益 捻出のために非正規社員やアウトソーシングを増加させ、正社員を減少させてきた。さら. に、2008年のいわゆるリーマンショックに端を発した景気後退による需要減退期におい ては、派遣社員や有期契約社員の大量解雇といった現象が見られ、社会問題化している。. 人を機械などと同様に企業活動の道具としか考えていないような行動がみられるが、企業 における人間性を回復していくには、どうすればよいのであろうか。本章では、企業にお ける人の管理の変遷を整理するとともに、人件費の推移とその影響要因の実証分析を行い、. 現在の企業環境の変化に伴って、人の管理に関する課題を管理会計とのかかわりにおいて 明らかにする。. n 人の管理の変遷と管理会計のかかわり. 1パーソナル・マネジメシトー科学的管理法による管理. 1960年代の中ごろまでは、人の管理は個人を対象とした人事・労務管理を中心とし たパーソナル・マネジメントであり、その中心となる概念はTay1orの「科学的管理法 (Sden雌。 Management)」である。科学的管理法の原理は、課業管理(Tay1or,1911,. p.23,邦訳252頁)、作業の標準化(Tay1041911,pp.61ゼ2,邦訳316頁)、作業管理の ための適切な組織形態からなる(Tay1or,1911,pp−1021104,邦訳123−125頁)。作業研究. により、課業(一日の達成目標)を設定し、作業条件と使用する用具などを標準化する ことにより、熟練工も未熟練工も関係なく、同様の作業の遂行が可能になるように作業 条件を設定する。この場合の目標設定は優秀な作業員の仕事量が基準とされ、出来高に 従って単位あたりの賃金を上下に変動させることにより、目標を達成した労働者にとっ てはインセンティブが獲得でき、労働意欲を高めようとするものである。そこでは、人 間は機械と同様に作業を行なうツールとしての位置づけがなされている。人はコストで. 7.

(17) あり、コスト削減のために怠けることなく労働を行なうように監視・監督する対象にす ぎない。つまり、人間性という観点が欠落しているのである。Tay1orは科学的管理法の 導入により、生産性の向上と労働者の収入増加という観点から多大な成果を残したが、. 逆に、労働強化や人権侵害に繋がるという批判もなされた(仲宗根,1971年,25−26 頁)。. 2 ヒューマンリソース・マネジメント(HRM)への変化一人的資本理論の影響 人的資本理論は、ミクロ経済学の枠組みの中で、人を投資対象とする概念である。人 が持つ技能や知識は投資の対象であり、投資を行なうことによってその能力を向上させ. ることが可能であるとして、人を人的資本(H㎜a皿Capi制)とするものである (B拙eψ964,p皿29・30,邦訳17−18頁)。教育や訓練は長期的に人の質を向上させ、所. 得を上昇させる投資行為であると考える。労働者の技能は、教育、訓練や経験を蓄積す ることで形成され、一度の使用で消耗することなく、長期にわたって発揮される。物的 資本への投資と同様に、個人個人への投資コストと収益により、投資判断を行なうこと になる。職場での訓練や大学などの高等教育などへの支出を投資コストとし、投資によ る技能向上によって得られる賃金の上昇を投資収益として考える。この際の投資コスト には、教育訓練費用や授業料などの直接費用だけでなく、投資のために失われた所得も. 機会費用として考慮することになる。例えば、大学での四年間に就職していれば獲得す ることができたであろう所得を機会費用としてコストに含める。人的資本理論では投資 を、 「一般的訓練(Gene創traini㎎)」と「特殊的訓練(Sp㏄血。鮒㎎)」に二分し ている。前者はどの企業でも利用できる技能やスキルに対する訓練であるのに対して、. 後者は訓練を行なった企業でのみ有効な技能やスキルの訓練である。二種類の訓練に対 して経済的な枠組みを用いて、訓練費用の企業と従業員の負担と賃金の均衡点を説明し ている(D。. 人の管理においても同様に、マニュアルに従った作業を管理・監督するといったコン トロール中心の考えから、人はコストではなく投資価値のある資源であるという考えが. 取り入れられるようになった。人の管理はパーソナル・マネジメントからHRMへと変 化し、HRMでは、いかに企業に対してのコミットメントを強化するかが人の管理を行 なっていく上での焦点となる。HRM理論の基礎は、人的資源モデルであり、その重要 な仮説の一つは、「仕事は嫌なものではない。人は目標設定に参加し、合意した目標に. 8.

(18) 対して、貢献したいと思っている」というものである(M止,1975,p,240)。組織に属. する人に対するマニュアルによる集団管理から、HRMでは人に関連する諸施策による 従業員の個別管理へと変化することになる。. 3戦略的ヒューマンリソース・マネジメント(SHRM)の発展 経営において戦略の重要性が強調されるに従って、HRMに対しても戦略への貢献が 求められるようになった。HRMが企業の持続的な競争優位の源泉であると位置付けら. れ、戦略との整合が重要視されるようになる。戦略との整合は、外的整合(E娩ma1 丘t)、あるいは垂直整合(Ve血。a1丘t)と呼ばれるが、さらに、もう一つの条件として. 採用や能力開発、評価と報酬といったヒューマンリソース諸施策間の整合である内的整 合(In旋ma1趾)、あるいは水平整合(Ho曲nta1冊)が必要とされる。表1’1は人のマ ネジメントの変化を表したものである。. 表1・1人材マネジメント論における変化. 労務管理論 @(PM). 時 代. 人を見る目. 崔. 占’、、、. ハ、、. 人的資源管理論 @ (HRM). 1960年代の半ば. 1980年代の半ば. ?ワで. ?ワで 投資価値のある資. コスト. ケ. 集団管理. 従業員個別管理. 人材マネジメ. コントロールモデ. 塔gモデル. mレ. 戦略的人的資源. ヌ理論(SHRM) 現在に至るまで 持続的競争優位の. ケ泉 従業員個別管理. コミットメント 一“モアル. 戦略モデル. (出所:石田・梅澤・永野・察・石川,2002年,31頁). 4 ヒューマンリソースマネジメントと管理会計 21世紀に入り、企業環境の変化はますます激しくなり、より複雑性を増している。そ のような環境下ではスピード経営が必要であり、そして、企業経営の焦点は物理的資源 からインタンジブルズヘと変化している。有形資産を集約した製造活動からは、持続的. 9.

(19) な競争優位と成長がもたらされなくなってきており、競争優位の源泉としてインタンジ ブルスの創出が求められている。企業は、競争優位をもたらさない活動をアウトソーシ ングし、インタンジブルス創出に経営資源を集中させることになる。インタンジブルス は「物理的形態または金融商品としての形態を有しない将来のベネフィットに対する請 求権である」と定義され(bv,2001,p.5,邦訳10頁)、その創出要因として、新発見、. 組織上の慣行と人的資源が挙げられる。従って、インタンジブルスの創出にあたっては 人と組織が重要であり、人と組織能力を強化し、マネジメントしていく仕組みの構築が. 必要である。そこでは、画一的なマネジメントではなく、個人個人の多様性や個々のケ ースに応じたマネジメントが求められる。. 管理会計にとって重要なテーマの一つは、戦略への貢献である。CIMA(2007,pp−1上. 12)は、「戦略的管理会計とは、戦略的意思決定をサポートするものであり、財務情 報や内部情報だけでなく、非財務情報および外部要因に関連した情報に焦点をおく管理 会計の一形態である」と定義している。つまり、外部環境を考慮した上で、戦略の策定 と実行に有効な情報を提供することが課題である。ヒューマンリソースに関しては、従. 来、管理指標としては、「特定の教育を受けた従業員の割合」、「従業員調査」、「プ ロセス改善のアイデア数」、「プロセス改善提案の採用割合」 (Kap止m and No血n, 2004,pp.84・85,邦訳124頁)などの非財務指標が中心であり、投資効果や戦略に対する. 貢献といった視点が欠如していた。ヒューマンリソースに対しても、その投資効果を測 定・評価し、改善に向けてのマネジメントを行う仕組みを構築・運用するための情報提 供が管理会計にとっての課題となる。. 5人的資源、人的資本、人的資産の定義と相違 人をインタンジブルスとして捉えた場合、「人的資源」、「人的資本」、「人的資産」. という用語が使用されている。しかし、それぞれの定義やその使用方法について、明確 なコンセンサスが得られているとは言い難い状況である。ここでは、それぞれの用語に ついてその定義を明らかにするとともに、その相違について考察していく。まず、最初. に「資源」、「資本」、「資産」について、日本語としての意味をみてみる。大辞林 (2006年)によると、資源は「自然から得られる生産に役立っ要素」である。資本は 「事業のもとでとなる金」であり、法律用語としては「株式会社・有限会杜の営業のた. め株主または社員が出資した基金の全部または重要部分を示す一定の金額であって、登. 10.

(20) 記または貸借対照表により公示される金額」、また経済学では「土地・労働と並ぶ生産 要素の一。過去の生産活動が生み出した生産手段のストックで、工場・機械などの固定 資本や原材料・仕掛品・出荷前の製品などの流動資本からなる」となっている。資産は、 r金銭や土地・家屋・証券などの財産、企業が所有し、その経営活動に用いる財産」で ある。. 会計の視点では、「資本」は株主が拠出している株主資本と負債として認識されてい る他人資本とからなり、事業活動を行なうための資金の源泉ということが出来る。そし て、 「資産」は「過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的. 資源」である。そして、「ここでいう支配とは、所有権の有無にかかわらず、報告主体 が経済的資源を利用し、そこから生み出される便益を享受できる状態をいう」。 「経済. 的資源とは、キャッシュの獲得に貢献する便益の源泉をいい、実物財に限らず、金融資 産及びそれらとの同等物を含む」とされる(斎藤,2007,296頁)。. 次に人的資源は、「すぐれた研究員や熟練した労働者がもつ能力の経済的価値を、ほ かの物的資源と同じように生産資源の一つとみなしていう語」とされている(大辞林)。. ここでは「資源」という用語は、従業員が有する能力を生産資源のひとつとみなし、企. 業活動を行なっていくうえで活用し、マネジメントを行なっていく対象であるという意 味がこめられていると考えられる。しかし、物的資源が生産資源として利用される場合 にはその資源は消費され他の物に変換されるか、またはその使用により価値が減少する のに対して、人的資源である従業員の能力は減少しないことが相違点として挙げられる。. 人的資源管理は正口1Mの訳語として現在は広く用いられているが、これは企業における 人に関するマネジメント機能を包括的に表すものといえる。. 人的資本は、「労働者が有する生産に有用な能力を、物的資本と同等に扱っていう語。. 教育や訓練など、この能力を高めるための支出を投資として扱う」と記述されている (大辞林)。人的資本という場合の「資本」は、経済学における資本の意味であり、投 資の対象となることを示唆している。. 大辞林には人的資産に関しての記述は見られない。人的資産という用語は、無形の資 産である知的資産の一構成要素として用いられることが多く、貸借対照表の借方を意識 していると考えられる。投資対象としての人や人の能力は人的資本であり、投資した後 の存在形態を人的資産として捉えることが出来る。しかし、一般的には、資産は消費さ れるもの、価値が減少していくものである。そのため、人的資産という用語は、株式時. 11.

(21) 価総額と帳簿べ一ス矧面総額の差額を人的資産などの知的資産で説明するという場合な ど、全体の静的な現象を説明する際には有用であると考える。しかし、人の能力増加な どの個々の動的な現象の説明には向かないのではないだろうか。次に、 「人的資源」、 「人的資本」、「人的資産」を企業経営の中の位置づけという観点から考えてみたい。. 6企業経営の中での人の位置付け 梅澤(2003年,幽頁)は、「最近、アメリカで発表される人材マネジメントに関す る書籍や文献」では、「ヒューマンリソース・マネジメント」に替えて「ヒューマンキ ャピタル・マネジメント」を使うことが多くなった」と述べている。高橋(2003,224−. 226頁)は、3つの人材モデルを用いて、企業経営の中での人材の位置付けに関して、 その歴史的変遷を示している。第1は、「人を経費」としてしか見ないレイバー・モデ ルであり、Tay1orの科学的管理法に基づき、人のマネジメントはパーソナル・マネジメ. ントとして行なわれる。第2は、「人材をヒューマンリソースあるいはアセット」とし てみるヒューマンリソース・モデルである。 「特に高度成長期の日本企業において行な われた典型的なモデル」で、「財務諸表で言えば、バランスシートの左側(資産の部). に位置付けられる。それも固定資産だ。」という。そして、最後のモデルは「人材を知. 的資本の投資家」あるいは「知恵の投資家」として扱うと言う。この3つのモデルは 別々で異なるものではなく、人は経費でもあり、投資の対象でもあり、企業活動におけ るリソースでもある。先にも述べたように人を投資の対象としてみる人的資本理論を取. り入れたHRMという視点は既に企業実務の中に取り入れられており、企業経営の中で の人材の位置付けは、人材をリソースとして捉え、そこに人間性という視座を保持して. いくことが重要であると考える。知的資本を経営の1つの柱として捉える際に、人の知 識や能力は知的資本の一部であるという面だけでなく、知的資本を創出する源は人であ るということを忘れてはならない。資産は資本の使用状況であり、企業活動に用いる財 産であるが、企業活動の結果としての静的な状況を表現する場合が多いといえる。人は、. 投資活動によりその価値が増加することもあれば、環境の変化によりその価値が減少す ることも考えられる。そして、自らの意思でその価値を増加させることも減少させるこ とも可能である。従って、人の価値の増加、減少といった動的な態様を表現するために は、資産よりも資源(リソース)という用語を用いることが適切であると考えられる。. 人そのものとその人が有する知識やスキルといった能力も含めてヒューマンリソースと. 12.

(22) 解するのが妥当である。ヒューマンリソースとは、 「人およびその人の有する知識やス. キルを言い、企業にとって将来の経済的な価値の源泉である知的資本を創出する源であ る」と定義する。以後、ヒューマンリソースをこの意味で用いていく。. 皿 労働環境の変化による人の管理への影響と管理会計の課題. 1非正規雇用の増加とその影響 図1−1は、1988年よりの日本の正社員と非正規社員別労働者数の推移である。バブル. 景気の恩恵を受け、1980年代後半から1990年始めにかけて増加していた労働者数は 1997年以降ほぼ横ばいであり、5,000万人前後で推移している。2000年以降の矧敦は、. 非正規社員数が増加していることであり、非正規社員の比率は1998年の18%から2009 年には34%にまで増加している。つまり、従業員の3人に1人は非正規社員ということ になる。また、個人のコントラクターなどの存在を含めると正規社員の比率は、さらに 下がることになる。. 図1−1:日本の労働者数の推移(単位:万人、%). ■正社員目非正規社員■非正規社員比率 40 35. 6.000 5.000. 30 4.000. 25. 3.000. 20 15. 2.000. 10 1.000. 5. 0. 0 1988 90. 92. 94. 96. 98 2000 02. 04. 06. 08. 出所)総務省統計局『労働力調査』2009年より筆者作成. 2アウトソーシングの進展とその影響 アウトソーシングに関する議論が活発になったのは、1990年前後からであり、リス トラクチャリングとリエンジニアリングという2つの経営革新に起因している。それは、. 13.

(23) 経営破綻から復活するために、事業の撤退と整理したプロセスをアウトソーシングで補. うというものである。アメリカにおいて、コダック(1989年)やコンチネンタルバン ク(1991年)が、大型のアウトソーシングを活用して業績を大幅に向上させたことが 有名である。いずれも情報システムのアウトソーシングであり、アウトソーシングとい. えば皿領域を想定しがちであるが、現在は研究開発、生産、販売、人事、経理などあ らゆる分野がその対象となっている。. 近年のアウトソーシングの市場を見てみると、図1−2のように皿を含まない世界の. BP0(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)市場は、2004年から年平均成長率 8−8%で成長を続け、2008年には1,441億ドル(14.4兆円)に成長すると予想されている。. 特に今後は、財務・会計分野と人事分野において高い成長が見込まれている。. 図1・2:世界のBP0市場規模の推移(単位:億ドル). ■顧客管理□財務経理. 人事■購買 ■その他. 1.600 1.400 1.200 1.000. 800 600 400 200 0 2004. 2005. 2007. 2006. 20008. (出所:経済産業,2009,5頁より抜粋). 1])C Japan(経済産業省,2009年,8頁)の調査によると、わが国のBP0市場は、 世界のBP0市場の成長スピードには及ばないものの、今後、年平均5%で成長を続け、. 2006年には8,246億円であった市場規模が、2011年には1兆650億円規模になると見 込まれている。また、短期的なコスト削減手法といった役割から、長期的な視点から企 業の競争優位の創出に貢献する戦略的なアウトソーシングやビジネスの変革を実現する 手段としても利用されており、その利用形態も多岐にわたってきている。. 14.

(24) 3非正規社員やアウトソーシングの増加による管理会計の課題 非正規社員やアウトソーシングの増加の主な要因は、不況期における利益改善策であ る。それに伴い人員は削減され人件費は減少しているのに対し、アウトソーシングや派 遣社員の費用は業務委託費や外注費に計上されるため、従来の人件費が他の費目へ移行 することにより、全体としての人に関わるコストが見えにくくなってきているという現 象が発生している。また、アウトソーシングした業務プロセスに関わっているリソース、 特に人的なリソースがブラックボックスの中にあり、全体像が把握できない状況である。. 人事部門ではアウトソーシング先の人的なリソースの把握は困難であり、また、業務を 委託した部門においても正確な把握が出来ているとはいい難い。このような状況下で、. 自社内のプロセスだけでなく、アウトソーシングしたプロセスも含めた総合的な人的な リソースとそのコストをマネジメントする仕組み作りが必要である。社外での目に見え ないコストを可視化し、マネジメントの意思決定に有用な総合的な情報の提供が管理会 計に求められている。. 1V 人に関わるコストの推移. 1わが国の人件費の推移一付加価値、人件費と分配率の関係において. 図1−3は、日本における1979年から2008年までの30年間における付加価値額、人 件費、分配率の推移である。. 図1・3:わが国における全産業の付加価値・人件費・分配率の推移. ■付加価値 巨人件費 ■分配率 350. 78%. 300. 76%. 250. 74%. 200. 72% 70%. 150. 68%. 100. 66%. 50. 64%. 0. 62%. ずダダ〆〆ダダダダ砂ダ〆〆〆〆. 15.

(25) (出所:財務総合政策研究所『法人企業統計年報(D』より筆者作成). 付加価値額は1979年から1991年にかけて平均で毎年6.9%の伸びを示しているのに 対して、1992年以降2008年までの平均伸び率はO−O%で横ばいである。人件費総額も同. 様の伸びを示しており、1979年から1991年にかけて平均で毎年a8%の伸びを示してい るのに対して、1992年以降2008年までの平均伸び率はO−5%である。これに対して、分. 配率は、各年でばらつきが見られるものの平均すると1979年から1991年にかけて平均 で0−0%と横ばいであり、1992年以降2008年までの平均伸び率も0.5%でありほぼ横ば いである。従って、長期的に見れば、分配率は付加価値の70%前後で変化がないといえ る。分配率の変化が短期的に見られるのは不況期であり、企業の付加価値が大きく減少 しているに対して、人件費の減少が小幅に留まっていることが原因である。日本におい. ては短期間で大幅に人員、特に正社員を削減することが法令などによる保護から困難で あることが影響していると考えられる。このような状況が、企業における人件費のフレ キシビリティを得るためにアウトソーシングや非正規社員の雇用を促進した一因となっ ている。. 2人件費決定に関する実証分析 人件費の決定に関する実証分析を、同じく「法人企業統計年報」のデータを用いて 行なう。人件費を被説明変数とし、説明変数に営業利益率や付加価値額などを用いて、. シミュレーションを行う。回帰分析による実証分析により、人件費の管理のために現 在の企業において、人件費がどのような要因によって影響を受けているのかを考察す るためである。. (1)情報の入手:『法人企業統計年報』. 1979年から2008年までの30年間のデータ (2)被説明変数:人件費(役員報酬、従業員給与、福利厚生費). (3)説明変数:付加価値額、営業利益、経常利益、純利益、配当金、内部留保. 表1−2はそれぞれの被説明変数と説明変数との相関である。被説明変数である役員 報酬、従業員給与、福利厚生費ともに、付加価値とは非常に強い相関があるといえる。 また、’営業利益や経常利益ともやや強い相関があるといえる。前節で述べたように、. ユ6.

(26) 分配率がある一定の範囲に保たれていることと考え合わせると、企業は付加価値をべ 一スにして人件費のマネジメントを行なっていることが実証される。. 表12:役員報酬、従業員給与、福利厚生費と付加価値、各利益などの相関. 全産業 役員. 酬 従業員. 距^ 福利. 﨎カ費. 付加. 営業. 経常. ソ値. ?v. ?v. 純利益. 配当金. 内部. ッ保. O.9804. α4021. O.5015. 0.0254. O.4909. 一0.3300. 0−9919. 0−4596. O−5957. 0.1146. 0.5705. ’0.2例3. 0.9629. O−3539. O.4533. ’0−0333. 0.4231. 一α3619. 図上4は、従業員給与と付加価値との分散図である。従業員給与yは、付加価値をx とすると、y=O.5185x+13316という回帰式で表すことが出来る。決定係数R2は、 O.984であり、当てはまりの精度は非常に良いといえる。他の被説明変数についても決 定係数は、役員報酬の場合はR2=O.9612、福利厚生費はB2=0−9273であり、従業員給与 と同様に当てはまりの精度は良いということができる。. 図14:従業員給与と付加価値との回帰分析. 1,600.OO0 1,400.000. ’‘’. 山…’’. ’…. …一■山■山■’“’■■’■■’■’■■.■■ 一…■’一…’’’■一■山’■’■■’■’■一■■’I’■■■’ ’.■. ■’ ■一 ■■.’山’一. 一. ’. 一. 一. 一一. ’’…’…. 一. 一 一 凹 凹 一. ◆. ’. レ. 一 ◆◆. 一…一一. 一一. 一“一. 一. 一. 一一. 一. 一. …一. 一. ◆…’一’一一一…..’.…..一.一四…一一……. ■■■’’一一■一一一一■.’…一’.....’.’.......一^一一.一一一一.■..一.一.’一一... 一. R2目O.984 一一. ’山 一一一’一一一一. 凹 一. y;O.5185x+13316. 1,200,000 従叩。q。。。. 業 員800,000 給. 凹’…’. ’. ■■一■■’■一■一■■‘’一.■一. 一一■I■0■I■一■ ■■一一0一“一川一…■一“■’■. 一・一一“^…’…. o. o. ……. 一’…. 一…’……一…. ’’. 一…. …“o………’…’’. 与60q000 400.000 200.O00. 0. I一■一一一凹凹一一一■■■■I. ■一■.^I.■■■’.’..■. ■ ■一■’I一■一■I一■■■■■■’.■■’.. ■■一一■■■一一一■■一一一■一I. ………o■一一■一■一■…一舳…■……“一■■■■■一■…■一■I■“■ ■■一. 0. 500.O00. ■I■I.・I.・II. ..・.’“..■.一..一一.. ■一■■■一…■…一’一■■’■■■一■’■一一■■〇一■■一一■■…一一.〇一…’……o……〇一’.’“一一.’…一..一一…....〇一…一. 一.一一...一一.一一・一・...... 一………山…. 1,000.000 1,500.000 2,000.000 2,500.000 3,000.000 3,500,000. 付カロ価{直. 17.

(27) V むすびにかえて 本章では、非正規社員やアウトソーシングの増加によって求められる管理会計の課題を 明らかにすることが目的であった。非正規社員やアウトソーシングといった人に関わる支 出が業務委託費や外注費として計上されることによって、全体を把握することが困難にな ってきている。このため、企業内でのプロセスだけでなくアウトソーシング先を含めた総 合的なマネジメントが必要になる。また、人員数や人件費といった従来のマネジメント手 法では限界があり、プロセスにおけるアクティビティを質と量の双方からの視点によるマ ネジメントが求められる。また、投資の対象としての人に対する投資効果のマネジメント が、今後ますます重要になってくる。. 人に関して用いられている「人的資源」、「人的資本」、「人的資産」という用語の 定義と用法について考察した。ヒューマンリソースは、 「人およびその人の有する知識や. スキルを言い、企業にとって将来の経済的な価値の源泉である知的資本を創出する源であ る」と定義し、企業経営の中での位置付けは、人材をリソースとして捉え、そこに人間性 という視座を保持していくことが重要であると考える。知的資本を経営の一つの柱として 捉える際に、人の知識や能力は知的資本の一部であるという面だけでなく、知的資本を創 出する源は人であるということを忘れてはならない。資産は企業活動に用いる財産であり、. 用語としては静的な意味を表現する場合が多いため、動的な意味合いを持たせるために資 源(リソース)という用語を用いることが適切であると考えられる。. 注 (1)詳細は、B拙er(1964,pp.29−51,邦訳17−40頁)に記述されている。. (2)『法人企業統計年報』の調査調象は、営利法人等を対象とし、無作為抽出により、標 本法人を選定している。営利法人等とは、本邦に本店を有する合名会社、合資会社、 合同会社及び株式会社並びに本邦に主たる事務所を有する信用金庫、信用金庫連合会、 信用協同組合、労働金庫などである。. 選定方法は、平成20年3月末現在の法人名簿その他財務省資料により全国の営利法 人等を以下の抽出数により標本法人を選定する。. 18.

(28) 表1−3:法人企業統計年報における企業抽出数. 資本金. 会社数. 資本金. 会社数. 200万円未満. 2,000社. 2,000万∼5,000万円. 4,000社. 200万∼300万円. 1,000社. 5,OOO万∼1億円. 2,000社. 300万∼500万円. 2,OOO杜. 1億∼10億円. 1O,000社. 500万∼1,000万円. 2,000社. 10億円以上. 1,OOO万∼2,000万円. 4,000社. 全数. 給与・賞与:. それぞれの人員に対して当期中に支払うべきものであり、売上原価、製造原価及び 販売費・一升贈理費に含まれるものの合計額である。 福利厚生費:. 法定福利費、厚生費、福利施設負担額、退職給与支払額等、給与以外で人件費とみ なされるものの総額である。 付加価値額:. 付加価値額=営業純益(営業利益一支払利息等)十役員給与十従業員給与 十従業員賞与十福利厚生費十支払利息等十動産・不動産賃借料十租税公課. 参考文献. B拙er,αS.,肋㎜〃α担.財λ脇㎝妨虹m♂軸虹ん納㎞肋山脇ηω め珊脇血㎎Nahom1B㎜eauofEcono㎞c賄sea㏄h,1964,2nded一,1975,3㎞ed一,199a佐. 野陽子訳『人的資本一教育を中心とした理論的・経験的分析』,東洋経済新報杜, 1976年).. Cn仏屈㎜舳。脇騨㎜θ材λαo㎜㎏Eke杭erL胤,2007. Kap]an,R.S”m♂1)一P.No血m−8㎞姥γ狛ρば0〃鮒g危左㎜衷脆畑お血め㎏’跳 0α物㎜鮒Bosto叫Mass.:Haward.Business跳hoo1Press−2004.櫻井通晴・伊藤和憲・長. 谷川恵一監訳『戦略マップーバランスド・スコアカードの新・戦略実行フレームワー ク』,ランダムハウス講談杜,2005年.. 19.

(29) Lev.B一,血あ㎜頃脆ぴ〃㎜昭θ㎜θ助〃θ8㎜旧㎜θη加㎜♂畑g Broohngs㎞tituhonP㈱,. 2001.広瀬義州・桜井久勝監訳『ブランドの経営と会計』,東洋経済新報杜,2002年.. M止,R.E一,%α㎜㎏舳θ騨㎜㎝〆血ψ㎏血㎝8伽0紬血㎝4此加凶㎎Mωraw・H叫 1975.. Tay1or,且W.,弼θ肋幼8〆腕㎞肋ManagemenらH岬r&Bmthe鵬,1911.上野陽一 訳『科学的管理法』,産能大学出版部,1969年.. 石田英夫・梅澤隆・永野仁・察インソク・石川淳『MBA人材マネジメント』.中央経済 杜,2002年.. 梅澤祐良『MBA人材・組織マネジメント』,生産性出版,2003年. 経済産業省『BP0(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書』,2009年. 腰塚弘久「マネジメント理論における人的資源概念生成の起源∼人的資源理論の系譜にお. けるドラッカー理論の再評価∼」『産業能率大学紀要』第26巻第1号,2007年7庁 100頁.. 斎藤静樹『討議資料財務会計の概念フレームワーク』,中央経済杜,2007年. 『大辞林』第二版,三省堂,2006年.. 高橋俊介『組織改革』,東洋経済新報杜,2001年.. 仲宗根栄一「科学的管理法と労働組合一1910∼1932年の史的分析」『沖天論叢』第11巻. 第1号,1971年21・46頁. 原田順子「増加する非典型雇用一人材ポートフォリオ、日本的労使関係からの考察一」 『放送大学研究年報』第23号,2005年45−50頁. 平野光俊「内部労働市場における雇用区分の多様化と転換の合理性一人材ポートフォリオ. システムからの考察」『日本労働研究雑誌』2009年5月号,2009年5−19頁. 三戸公r管理論の新次元,情報=自己組織・パラダイムーr人的資源管理の基本問題」に. 因んで一」『立教経済学研究』第61巻第3号,2008年109・123頁. 山口博幸rヒューマン・キャピタル・マネジメントの本質」『岡山商大論叢』第40巻 第3号,2005年55−78頁. 山下剛r人的資源アプローチと人間尊重一行動科学、知識労働との関連で一」『研究紀要』 第52・53合併号,2010年 139・158頁.. 20.

(30) 第2章 ヒューマンリソースに関する会計の変遷と課題 I はじめに ヒューマンリソースの測定や言判面については、過去に数々の提案がなされているが、実. 用化は極めて限定的である。ヒューマンリソースを会計で取り扱うことを困難にしている のは、(1)知識は物質的ではない、(2)所有できない、(3)測定が困難、といったヒューマン. リソースの特徴に由来する。本章ではヒューマンリソース・アカウンティング(H㎜an. Reso㎜鴉Ammせ㎎,H剛が誕生した際の問題意識、そして様々な提案がなされながら 実務での利用が広がらなかったなどのHRAをめぐるその変遷と問題点を整理するととも に、今後のヒューマンリソースのマネジメントに当っての会計的課題を明らかにし、次章 より、課題の解決について述べていく。. ■ ヒューマンリソースの会計とその可能性 ヒューマンリソースに関連して支出される費用である人件費、福利厚生費や教育研修費 は、サービスの提供を受けた目の属する会計期間において費用として認識される。費用と は経済的価値の減少である。これに対して、会計上の資産は、財務諸表の報告主体が支配 している経済的資源であるが、その多様な性格を持つ資産を貨幣による一元的な価値で測 定しなければならず、また将来予測の困難さから、過去の取得原価から離れることが困難 となっている。しかし、現在の経営環境では、確実に資産の時価評価を必要とする場面が. 増えている。経済の金融化、グローバル競争の激化によるM&Aの盛行などは資産のフェ ア・バリュー(公正価値)評価を求めており、また、そこでは知的資産という新たな資産 が重視されることになる。現在の主要国の資産概念は、次の通りであり、概念的には大き な相違は見受けられない。. ASBJ:過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をい う(財務会計基準委員会,2006年,財務諸表の構成要素4)。 FASB:過去の取引または事象の結果として、ある特定の実体により取得または支配さ. れている、発生の可能性の高い将来の経済的便益である(FASB,1985, p趾a25)。. 1ASB:過去の事象の結果として特定の企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該 企業に流入すると期待される資源をいう(1ASB,1989,p趾a49)。. 21.

(31) ヒューマンリソースは、個人の能力や知識・経験を意味する場合や、企業における. 組織としての能力を指す場合もある。近年は、ヒューマンリソースが持続的競争優位 を創出する源泉の一つとして考えられている。企業が、同様のリソースを利用する場 合においても、企業業績の優劣が現れるからである。前述の資産概念をヒューマンリ ソースに当てはめた場合、「経済的便益」と「支配」が鍵となる。ヒューマンリソー スが企業に対して「経済的便益」をもたらすという点に関しては、異論はないであろ う。次に、 「支配」についてであるが、伝統的な会計では法的な所有権を重視してき たため、ヒューマンリソースに関しては資産として認識することは不可能であった。. しかし、近年はオペレーショナルな観点で「支配」を考えることにより、その範囲が. 拡大されてきている。企業に属する従業員が、企業に属する他のリソースを用いて経 済的便益を企業にもたらす際に、企業以外の他者が便益を享受することはないと思わ れる。従って、今後はヒューマンリソースを資産として捉える可能性が出てくるので はないだろうか。まず、ヒューマンリソースに関して測定評価や資産計上を試みたヒ ューマンリソース・アカウンティングについて、その先行研究を整理していくことに する。. 皿 ヒューマンリソース・アカウンティングの先行研究. 11HlRAの定義と役割 企業が活用するリソースとしてr人、物、金」と表現されるが、企業は、ヒューマン リソース、物的なリソース、財務的なリソースといった3種類のリソースを利用するこ とによって、企業活動を行っている。特にヒューマンリソースは、企業の経営者、管理 者、従業員など企業活動の計画、執行、統制に必要な人員およびこれらを構成員とする. 人そのものと人的組織が考えられる。ヒューマンリソースの会計的課題として、第1に ヒューマンリソースに対する投資とその効果に関する問題、第2にヒューマンリソース 固有の価値をいかに会計的に取り扱うかが課題となる。. ヒューマンリソースに対する支出については、その全額が期間費用として処理される ため、費用の期間配分の手続きは適用されない。ヒューマンリソースヘの支出が労働用. 役の消費のための支出のみに対して行われるのであれば問題ないが、労働用役のためぱ かりではなく、従業員の募集・採用、教育訓練、管理者開発、組織形成・組織開発につ いての支出も含まれている。そして、これらの支出効果は将来の期間にわたるものと者. 22.

(32) えられる。こうした事象から、ヒューマンリソースに対する投資額についても、期間損 益計算による正当な会計手続きを適用することによって、資産化を行う必要性があると. の主張がなされた(F㎞o1担1999,p.30)。資産化されたヒューマンリソースは人的 な資産となり、建物などの有形固定資産と同じく、一定の耐用年数(残存就業年数)に わたり、償却計画に従って毎期’定額の費用化が必要になるというものである。. このように、財務諸表は企業にとって重要なリソースである人の要素を無視している. との批判がなされ、1960年代からヒューマンリソースに対する投資やそれ自体を貨幣 的価値で測定し、そのオンバランス化するという試みがなされた。1970年代にはアニ ュアルレポートにおいて、その補足資料としてヒューマンリソースを資産計上する企業. が現れた(RαB㎜=yCo卿ra也。町1972,皿17)。アメリカ会計学会(A蛆:Ame曲m. A㎜md㎎A鮎hon)のHRA委員会によると、田Aは「ヒューマンリソースに関す る情報を認識し、測定するとともに、利害関係者に伝達するプロセス」と定義されてい. る(A仏1973,皿169)。若杉(1973年,1979年)やF1amlho1tz(1999)を中心とした HRAの展開は、主に、ヒューマンリソースの資産評価がその中心となっている。. HRAの目的は、経営者がヒューマンリソースを効果的、効率的に利用するための計 画作成とコントロールをサポートすることであり、HRAはヒューマンリソースに関す る判断や案件を考察していくための枠組みを提供するとともに、企業のリソースとし. ての人の価値とHRM戦略の効果を定量的に測定する仕組みを提供することである。 正IRAの役割は、ヒューマンリソースに関して採用、開発、配置、活用、評価、報酬を 決定するという機能を果たしていくために必要となる情報提供である。 F止㎜止。1tz(1999,皿11)はHRAの機能として次の3点を挙げている。(1)ヒューマン リソースに関する経営判断を促進するためのフレームワークの提供、(2)組織にとって のリソースとしての人の価値やコストについて定量的な情報の提供、(3)ラインマネー. ジャーが人に関する判断を行う際に、ヒューマンリソースに関する視点をより考慮す ることへの動機付けである。. 21H玉Aの理論的展開と実務での適用 1冊Aの特徴は、ヒューマンリソースに係わる支出が、将来にその効果を発現するこ とやヒューマンリソースの役務提供を将来の経済便益とみなしうることを根拠として、. 無形の資産として財務諸表に資産として認識することを主張する点である。当初、1冊A. 23.

参照

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