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シミュレーションを活用した業務プロセス改革における組織の問題要因の可視化手法の確立に向けて

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Academic year: 2021

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シミュレーションを活用した業務プロセス改革における

組織の問題要因の可視化手法の確立

米原章浩 鈴木陽一郎

Akihiro Yonehara, Yoichiro Suzuki

株式会社 日本海洋科学

Japan Marine Science Inc.

要旨:シミュレーションを用いた業務プロセス改革においては、組織の行動や個人の能力など 様々なパラメータを定量的にとらえ問題の本質を特定していく。しかしながら、判断の傾向や技 能習熟度などのパラメータ項目については定量化が難しく、厳密に定義しようとすると大掛かり な測定が必要となり実行が難しくなってしまう。そこで本稿ではアンケートやインタビューを通 じて簡易にパラメータ設定を行う手法を実際のケーススタディーを通じて紹介する

1.目的

背景 変化するビジネス環境への素早い対応は生き残り に不可欠である。しかしながら、多様化する問題に 対して過去の成功体験をあてはめて解決することは 難しく、場当たり的に改善・改革をやっても十分な 効果は得られない。とりあえず改善を行い失敗し修 正を繰り返すといったように、PDCAサイクルを 回して問題を解決していく手法も有効ではあるが、 時間や労力がかかりすぎてスピードが要求される改 革には必ずしもマッチしないという課題もある。そ こで短期間で様々なシナリオの効果を事前に予測す ることができる、シミュレーションによる改善・改 革アプローチの有効性が提案されている[1]。 問題提起 シミュレーションアプローチにおいて、組織・業務 プロセスを定義するには様々なパラメータの設定が 必要である。その中には売り上げや社員の勤務時間 など過去のデータから比較的容易に設定できるもの もあれば、マネージャーの意思決定の傾向や各スタ ッフの仕事の優先順位のつけ方など定量化すること 自体が難しいものもある。モデリング担当者が独断 的にパラメータを決定しても、現実の感覚からかい 離してしまうと現場からの共感が得られず、結果的 に改革案に対する信頼を得られない恐れもある。現 場の実務を重視して、作業研究[2]などを通じてデー タを収集する比較的客観的な手法もあるが、手間と 時間がかかるものであり、あまりに詳細なデータ収 集にこだわると、その作業自体が障壁となり改革ま でに至らない可能性もある。 本稿の目的 本稿ではシミュレーションを用いた業務改革に際 して 1)現場への負担が少ないデータ収集の手法の 確立 2)かつマネージャーやスタッフから共感を得 られる納得感のあるパラメータ設定手法の確立、を 目指している。本稿のケーススタディーでは、現場 からのアンケートとヒアリングを中心にデータを収 集し分析を行った事例を紹介する。

2.ケーススタディー

今回は以下の組織にて業務プロセス改革案立案の プロジェクトを行った。 対象:通関業者Sの通関部門, スタッフ6名、マネ ージャー1名の計7名のチーム。 現状:仕事量の季節変動が激しく、繁忙期は超過勤 務でなんとか対応している状態である。チーム全体 に慢性的に忙しいという意識があるが、業務量が多 いので仕方がないという認識がある。また、人事異 動があるたびにベテランスタッフが突然いなくなり、 チームのバランスが悪くなり混乱が生じるというこ とが頻繁に続いている。 課題:リーマンショック後の不況からゆるやかに需 要が回復しつつあるので、今後の需要増に無理なく 対応できるようにチームの体制と業務プロセスを見 直し改善したい。

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3.方法

組織図・業務プロセスマップ チームの組織を図1に示す。スタッフとのワークシ ョップを通じ作業タスクを書き出しプロセスマップ を作成した。その概念図を図2に示す。扱う業務は 大きく2種類にわけられ(業務A,業務B)、それぞ れの業務を3人が主に担当している。類似した作業 タスクをグルーピングし、シミュレーションモデル に使用する作業タスクは18種類と定義した。 図 1:組織構成図 図 2:業務プロセスマップ概念図 組織の振る舞いに関するパラメータ タスクをどのような優先順位に従って処理してい るか、チーム内でどの程度自由闊達に質問などがな されているか、などの組織の振る舞いを知るために アンケートおよびインタビューを行った。その結果 から定義したパラメータの一部を表1に示す。 表1:組織特性パラメータ(一部) 通常の作業タスクの処 理順番は? 1)先入れ先出 し 2)後入れ先出 し 4)優先順位順 20% 40% 40% 質問発生時の対処の 判断は? 1)自分で対処 2)上司や同僚 に聞く 30% 70% 異なる種類の仕事が 入ってきた場合の、優 先順位は? 1)作業 2)コミュニケー ション 3)意思決定 60% 20% 20% 作業タスクの特性パラメータ 作業タスクの難易度と作業者の技能レベルがマッ チしない場合 1)作業タスクの処理スピードに影響 を与える 2)作業についての質問の発生頻度に影響 を与える、と考える。例えば、技能レベルが未熟な スタッフが難しい作業を行うと、完成までに時間も 長くかかるし質問する頻度も多くなる傾向がある、 という発想である。 作業タスクの難易度の決定 先輩や同僚からやり方を聞かなくても一人で作業 タスクを行えるようになったと感じるレベルを「標 準技能レベル」であると設定し、自分が担当する各 作業タスクに対して1)標準技能レベルに達するま でにどれくらいの期間を要したか 2)現在の経験年 数はどれくらいか 3)現在の平均処理工数(タスク 処理時間)はどれくらいか 4)タスクの優先順位度 (高・中・低)はどれか、についてアンケートおよ びインタビューを行った。その結果から、標準技能 レベルに達する期間の平均値を作業タスクごとに求 めた(図3)。このデータを参考にしながら、ワーク ショップを行いチームスタッフの意見を聞きながら、 各作業タスクの難易度を「高い」「中」「低い」の3 つに分類した。

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0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 9 5 8 4 13 12 7 3 6 1 2 14 16 17 11 10 15 18 タスク番号 標準技能レベル到達 までの平均年数 高い 中 低い 作業タスクの 難易度 図 3:標準技能レベル到達までの平均年数 作業タスクの特性の多次元マッピング 縦軸に優先度、横軸に難易度を取り、1作業あたり の平均工数をバブルの大きさで表現し、各作業タス クの特性を多次元でマッピングした(図4)。この図 より1)優先度の高いタスクは難易度が低い 2)難 易度の高いタスクは標準作業工数も大きい、などの 傾向がわかる。 9 5 18 13 8 4 11 7 3 12 16 10 15 6 1 14 2 17 0 50 100 150 0 50 100 150 グラフ タイトル 9 : 3.08h 5 : 2.59h 18 : 2.0h 13 : 1.01h 8 : 1.00h 4 : 0.72h 11 : 0.5h 7 : 0.52h 3 : 0.44h 12 : 0.38h 16 : 0.3h 10 : 0.25h 15 : 0.19h 6 : 0.18h 1 : 0.18h 14 : 0.15h 2 : 0.11h 17 : 0.10h 優先度 難易度 低 中 高 低 中 高 バブル大きさ =1処理あたりの 標準作業工数 タスク番号:標準工数 [h] 図 4:「作業難易度‐優先度‐工数」多次元マップ 次に各作業タスクに対して、技能レベルの違いがど の程度作業スピードに影響を与えるか分析した。作 業タスクごとに、中央値にあたる作業スピードを1 として、チーム内でどれくらいのばらつきがあるの かを図5に示した(図中の作業タスクの難易度は図 3で定義したものである)。難易度の高い作業タスク の中には、熟練者が行うと飛びぬけて早く処理でき るものが含まれていることがわかる。 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 中央値を基準とした、各タスクの 個人による作業スピードのばらつき範囲 中央値より速い 中央値より遅い 処理スピード 倍率 タスク 番号 低 中 高 タスク 難易度 図 5:中央値に対する作業スピードのばらつき度合い ここで、各作業タスクの作業スピードの中央値にあ たるものを「標準者」、一番早く処理できるものをチ ーム内のベストプラクティスである「熟練者」と定 義し、標準者と熟練者で作業スピードにどれくらい 違いがあるのか、「作業難易度-作業スピード倍率-工 数」の多次元マッピングを行った(図6)。難易度が 高く、標準作業工数が大きい作業タスクの中には、 熟練者は標準者の4倍以上の速さで処理できるもの があることがわかる。 9 5 18 13 8 4 11 7 3 12 16 10 15 6 1 14 2 17 0 1 2 3 4 5 6 0 50 100 150 作業スピードばらつき(標準者と熟練者比較) 9 : 3.08h 5 : 2.59h 18 : 2.0h 13 : 1.01h 8 : 1.00h 4 : 0.72h 11 : 0.5h 7 : 0.52h 3 : 0.44h 12 : 0.38h 16 : 0.3h 10 : 0.25h 15 : 0.19h 6 : 0.18h 1 : 0.18h 14 : 0.15h 2 : 0.11h 17 : 0.10h 標準に対する、熟練の 作業スピード倍率 難易度 低 中 高 バブル大きさ =1処理あたりの 標準作業工数 タスク番号:標準工数 図 6:「作業難易度‐作業スピード‐工数」多次元マップ

4.シミュレーションの実行

各作業タスクを行うスタッフの技能レベルを向上 させると、全体としてどのような改善効果が期待で きるかシミュレーションを行い検証した。シミュレ ーションソフトウェア[3]のモデル概念図を図7に 示す。

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図 7:PMT シミュレーションモデル 前年の実績データを参考に、繁忙期1か月間分の業 務のシミュレーションを行う。 ここで1)スタッフ全員の技能レベルが標準 2) スタッフ全員の技能レベルが熟練、の2つのシナリ オを用意した。パフォーマンスの比較には様々な指 標が考えられるが、今回はタスクごとの実作業時間 の合計がどの程度減少するかに焦点を当てた。 シミュレーションの結果から、シナリオごとの「実 作業合計時間-作業難易度-標準作業工数」の多次元 マッピングを図8に示す。この図から 1)作業難易 度が高いタスクを熟練したスタッフが行えば、タス クによって程度の差があるが実作業時間の削減に大 きく貢献すると期待される 2)一方で、難易度が低 ~中の作業タスクについては、技能レベルの向上は 実作業時間の削減にそれほど大きくは貢献しない、 ことがわかる。 9 5 18 13 8 4 11 3 7 12 16 10 15 6 1 2 17 0 50 100 150 0 50 100 150 技能レベル全員標準 タスクごとの 実作業時間合計[h] 難易度 低 中 高 バブル大きさ =1処理あたりの 標準作業工数 タスク番号:標準工数 [h] 9 5 18 13 8 4 11 7 3 12 16 10 15 6 1 2 17 0 50 100 150 0 50 100 150 技能レベル全員熟練 9 : 3.08h 5 : 2.59h 18 : 2.0h 13 : 1.01h 8 : 1.00h 4 : 0.72h 11 : 0.5h 7 : 0.52h 3 : 0.44h 12 : 0.38h 16 : 0.3h 10 : 0.25h 15 : 0.19h 6 : 0.18h 1 : 0.18h 14 : 0.15h 2 : 0.11h 17 : 0.10h タスクごとの 実作業時間合計[h] 難易度 低 中 高 タスク番号:標準工数 [h] バブル大きさ =1処理あたりの 標準作業工数 図 8:技能レベルの違いによるタスクごとの実作業時間の合計値の変化 0 20 40 60 80 100 120 140 160 8 A 4 A 14 A 9 A 12 B 14 B 5 A 6 A 1 A 10 B 2 B 13 B 16 A 3 A 17 A 7 A 11 B 15 A 15 B 18 A 18 B

グラフ タイトル

① 技能レベル「標準」の場合の実作業時間合計 ② 技能レベル「熟練」の場合の実作業時間合計 ①-②=期待改善効果 タスクごとの 実作業時間合計[h] タスク 番号 低 中 高 作業 難易度 図 9:技能レベルの違いによるタスクごとの実作業時間合計の期待改善効果

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次に、実作業時間の期待改善効果の大きい順に作業 タスクを並べた(図9)。作業タスク番号下のアルフ ァベットは、そのタスクが業務Aか業務Bのどちら に属しているかを示している。この図から 1)もと もとの作業時間合計が大きい作業タスクのほうが期 待改善効果が大きい 2)難易度が高い作業タスクの ほうが期待改善効果大きい、傾向があることを読み 取ることができる。 図9から、業務A・業務Bそれぞれの期待改善効果 の合計を抽出した(表2)。この表より、熟練したス タッフを配置することによる期待改善効果は業務A に対しては大きく現れるが、業務Bに対してはそれ ほどでもないことがわかる。このことから、業務B の改善には技能レベルの向上とは別の方法でのアプ ローチが必要であると推測できる。 表2:業務A・B別の期待改善効果 業務A 業務B シナリオ1 全員標準 [h] ① 565 350 シナリオ2 全員熟達 [h] ② 443 324 期待改善効果 [h] ①-② 122 26 改善効率 (①-②)/① 21.6% 7.4% 効果的な改善案の模索 ある作業タスクを熟練者が行うことによって改善 効果が期待されることがわかったが、タスクによっ て改善への貢献度が大きく違うこともわかった。 ワークショップを通じて期待改善効果の大きい作 業タスクから、技能レベルの向上について 1)特別 な適正が必要か 2)努力やトレーニングで実現可能 か 3)実現可能であるならどんな方法があるか、 などを検討した。 技能レベルの向上の具体的な方法として 1)熟練 者からのOJTで集中して技能を習得 2)他チーム から技能をもったスタッフを移動させる 3)外部研 修にて集中的に技能を習得 4)技能をもったスタッ フをそのタスクに専念させる、などがあがった。費 用対効果や実現可能性の容易さなどから、各作業タ スクの技能レベル向上計画の優先順位を設定した。 また、作業難易度が低く、標準者と熟練者で作業ス ピードに違いがほとんどない作業タスクが多数あっ たが、このようなタスクは特別な技能を必要としな いものと考えられるので、アルバイト等を積極的に 活用してスタッフの業務負荷を軽減していくことも 提案された。

5.結論

考察 アンケートとヒアリングからパラメータを設定す る手法は現場作業への負担が少なく、比較的容易に 行うことができた。チーム全体でのワークショップ を数回行いながらプロセスマッピングおよびパラメ ータ設定を行っていったので、シミュレーションの 結果に対しては納得感があり、現実の感覚からのか い離も少なかったとの評価をマネージャーとチーム スタッフから得た。また、シミュレーションを行う までの過程でスタッフの理解を得られていたので、 改善案の提案も具体的で実行可能であるものをチー ム内から引き出すことができた。 課題 アンケートやインタビューの結果は対象の主観に 基づくものであり、各個人による思い込み、思い違 い、質問のとらえ方の違いなどがあり、思い通りの データが取れない場合もあった。対象が普段気付か ないことを明らかにする意味もあり、実際に作業を 測定することは有効であろう。時間と予算をかんが み、アンケートやインタビューと組み合わせて実測 を行っていくことも考えられる。 また、昨今の業務形態の多様化もあり、経験年数と 技能レベルに必ずしも相関がみられない場合もある だろう。個人の才能や身体的能力に技能レベルが大 きく依存する場合には、それに対応する作業タスク の難易度の定量化が難しくなると予想される。 参考文献

[1] M. Yahyaei, Y. Suzuki, Y. Jin, ‘PMT: Modeling Enterprise Operations and Organizations’, International Design Engineering Technical Conferences (IDETC) and Computers and Information in Engineering Conference (CIE) 2009

[2] 千住鎭雄編、経営工学シリーズ 14 作業研究、 日本規格協会

[3] PMT, Process Management Technology, 日本海洋 科学 連絡先 〒212-0013 神奈川県川崎市幸区堀川町 580 番地 ソリッドスクエア西館3階 株式会社 日本海洋科学 PMC 業務改善チーム TEL: 044-548-9132 FAX: 044-548-9134 URL: www.jms-inc.jp/pmc Email: [email protected]

図  7:PMT  シミュレーションモデル  前年の実績データを参考に、繁忙期1か月間分の業 務のシミュレーションを行う。 ここで1)スタッフ全員の技能レベルが標準  2)スタッフ全員の技能レベルが熟練、の2つのシナリオを用意した。パフォーマンスの比較には様々な指標が考えられるが、今回はタスクごとの実作業時間の合計がどの程度減少するかに焦点を当てた。 シミュレーションの結果から、シナリオごとの「実作業合計時間-作業難易度-標準作業工数」の多次元マッピングを図8に示す。この図から1)作業難易度が高いタスクを熟

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