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ホスピタリティと共創医療に関する一考察

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Academic year: 2021

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は じ め に

近年,社会の各分野でホスピタリティの重要性が認 識されている。接客業などのサービス産業を始めとし て,ビジネス,教育,福祉,医療などの現場において 幅広くホスピタリティ・マインドが浸透している。組 織において,良好な人的関係や信頼関係を構築してい くためには,ホスピタリティの果たす役割は重要であ る。それは医療の現場においても同様である。これま での医療者中心医療から患者との信頼関係に基づく共 創医療に医療形態が変容しつつある。 本稿では,医療機関における共創関係を明示し,ホ スピタリティにおける共創医療のあり方を考察する。

1.主従関係から共創関係へ

組織における主従関係を語る場合,上からの指示・ 命令あるいは上司・部下的な組織図がよく描かれる。 そこでは部下同士が切磋琢磨するメリットはあるが, 支配・従属的関係になると部下の心情がマイナスに働 き,仕事に対する意欲やモラルが低下し,仕事に対す る喜びをなくし,自発的行動を取らず,他者に責任転 嫁するなどのマイナスの状況を招くことがある。主従 関係は,やるべき内容が明確な組織では良いが,部下 の能力発揮を必要とする組織では不具合である。ま た,上司の采配で受動的に動き,操作される部下であ ると,指示を与えなければ何事も実行できず,上司に 依存的になり,現場でのニーズが上司に届かず,組織 のバランスが壊れ,組織の成長が危ぶまれる場合もあ る。上司にリーダーとしての資質がなければ,有能な 部下を開花させることはできない。部下の気持ちなど を省みず自分の経験論で判断する上司であれば,部下 に指示以外は何も与えず,必要以上に緊張感や萎縮を もたらし,部下にとっては不満だけが残る。そもそも 主従関係とは,主人と召使あるいは奴隷,主人と家来 のように一方向的なコミュニケーションによって成り 立つ関係である。また,一方向とは,相手のことを配 慮することなく,気遣わず,自分の満足のみを相手に 押しつけ,目的を達成していくことである。 他方,共創関係とは,主従関係のように上位に対し て謙り,召使のように接していくのではない。組織内 にあって肩書きや役割分担は違えども,志や使命は皆 同じであり,誰に対しても対等である。そのために は,相手を敬う精神が必要とされ,同じ目線,同じ感 性で信頼関係が築かれねばならない。つまり対等とい う意識をもつことで,自ずと立ち振る舞いや行動,人 として生きる姿勢にも誇りが備わってくる。同じ仕事 場で働く人びとはすべて対等である。『いろいろな立 場の方々が交じり合って,知恵を出しあって,そして

ホスピタリティと共創医療に関する一考察

岸 田 さだ子

A Study on Hospitality and Inter Creation of Medical Care

KISHIDA Sadako

Abstract : This paper aims to consider the relationship of co­creation of medical care in hospitality. The in­

ter creation of medical care will be formed the trusting relationship between a patient and a medical staff. However, such relationship among them is not brought by one­way relations, so is brought by each other’s interactive communication. High quality hospitality by interactive communication is required in every field including the medical front.

Key Words : inter creation medical care, interactive communication, hospitality

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一つの解をつくっていくことが,「共創」の意味合 い』1) である。そして,一定の目標を目指す組織には, 共創のリーダーが必要とされる。しかし,『「リーダー が人びとに何かを直接的に命じると共創ではなくな る」ので,リーダーは「共創の場をつくることによっ て,人々を鼓舞して共創に向かわせる」』2) ことが必要 である。また,さまざまな人びとによる組織であれば あるだけ,個々の自我を捨てるほどの意識の改革が求 められる。つまり,他者の批判を素直に受け入れ,取 り入れる柔軟さが高度な共創関係を創造していくため には必要である。

2.医療機関における共創関係

2.1 共創医療の創出 共創とは,一人あるいは一個人の行動主体で問題が 解けないようなときに,集団的に複数の行動主体を使 って問題を解決しようする活動である3)。医療機関に おいては,「人と人」,「人とモノ」,「人と組織」とし ての多様な共創関係が考えられる。 「人と人」の共創関係では,医療者と患者との出会 いから共創関係がはじまる。患者は,自身の健康状 態,痛みの程度,検査結果,医療費の支払い,医療者 との関係,医療への信頼度,日常生活への影響など 数々の不安・恐怖などを抱き医療者に対峙する。ま た,医療者も医療への動機づけ,満足感の提供,患者 へのケア,患者との関係などさまざまな要因に影響さ れながら患者に対峙している。医療者には,医師,看 護師,薬剤師,検査技師など多数の医療者が携わる。 今日の医療形態は,患者の検査結果を医療者が患者に 対し説明し,医療行為の必要性や治療方法,入院の必 要性,治療費,今後予期される変化などの情報を事前 に説明した上で,患者は得られた情報の中から自己決 定により医療行為の納得・同意を得る。今日,インフ ォームド・コンセント(informed consent)が提唱さ れ患者参加型の医療行為が望まれている。病というも のを患者と医療者が協働で取り組み,治すものと考え た場合,患者の本当の思いを知らなければ,その治療 は医療者だけの一方向のものとなる。医療の目的は, 患者の苦痛を取り去ることにある。そのためには,患 者の苦痛を理解しなければならない。患者と良い人間 関係を成立させ,患者が自身の不安やニーズを表出で きるように働きかけるコミュニケーション技術が必要 とされる。患者の気持ちをよく傾聴し共感的態度でか かわることで患者の心は開き,医療者に対して信頼感 が高まる。 信頼関係は,相手を理解しようとする相互理解の過 程の下で可能となる。共創のためには相互理解が必要 であり,相互理解のためには,互いに自分との違いを 知り,かつそれを認め合うことである。共に目標に向 かっていくには,医療者は患者が目標に到達できるよ うにケアすることであるが,その両者の間には信頼関 係が最も大切になる。医療者と患者との信頼関係が構 築できたとき,「人と人」の共創医療が創出される。 次に「人とモノ」の共創関係のなかで,『「モノ」と は一般的に可視的な有形な物体をいう。たとえば,ハ ードな病棟立地などの箱モノ,いわゆる病院等の診療 ・医療付帯施設・設備などを意味』4) し,建物,設備, 備品,機械などの有形なものを指す。安心・清潔を提 供しなければならない医療機関において,患者が静か で気持ちの落ち着ける治療空間を生み出す工夫をす る。たとえば,室内の配色を落ち着ける色合いで内 装,明るく清潔な空間を心がける。また緊張を解く癒 し系の BGM を流し,治療室・待合室・トイレなど に,不安を抱えた患者の心を癒す目的で季節の生花を 挿す。バリアフリー化された室内外で移動を容易に し,患者にリラックスしてもらうための椅子を用意す る。患者が共同で使用するものに関しての滅菌,ある いはディスポーザブル(使い捨て器具・器材)の使用 を徹底することにより,医療機関全体での共創関係を 構築し共創医療を創出していく。 「人と組織」の共創関係では,組織とは『必要とな る機能・作業に関連する医療システムのすべてが含ま れる。それは医療機関に関わるマニュアル化された医 療業務システム,医療技術システムなどソフト面のシ ステム・技法など』5) を意味し,システム,マニュア ル,業務・応対サービスなどの有形なものを指す。業 務作業のシステム化,緊急時や災害時における安全の マニュアル整備および対処,院内感染や食中毒などの 発生時のマニュアル整備や対処,患者応対マナーに対 するマニュアル整備および徹底した教育などの提供で ある。患者が安心・安全に入院・通院できるセキュリ ティーシステムの確立,電子化カルテによる閲覧・開 示システム,電話・インターネット時間予約システ ム,地域連携医療機関の確立,多額な支払いに対する クレジットカードによる支払いシステムなど,機械化 による,より便利に簡潔に利用できるシステム作りを 目指し,患者と医療者,医療者同士のコミュニケーシ ョンが活発に行われ,作業が円滑に進むように心配り することで「人と組織」の共創医療が創出される。 甲南女子大学研究紀要第 52 号 文学・文化編(2016 年 3 月) 2

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2.2 サービス医療から共創医療へ 今まで医療という特殊なサービス業は,医療者が主 体で,そのなかでも医師の意見は絶対であり,医療者 の専門知識と技術で患者に医療サービスが提供されて いた。つまり,医療者と患者間は,「治す」−「治して もらう」という関係にあった。しかし,近年の情報化 により医療に関して患者もある程度の医療知識を得ら れるようになり,医療は大きく変わろうとしている。 1995 年の厚生白書によると,医療行為もサービス業 の一環と位置づけられ,医療者中心で行なわれてきた 治療もいまや患者中心の医療へと変貌しつつある。 「患者中心の医療」では,患者の身体変化の裏に潜む 精神的苦悩や社会的背景をも考慮した治療計画が立て られ,患者は自己決定権により情報を得ることができ るようになり,疑問な点は質問ができ,納得できなけ ればセカンドオピニオンをとることもできるようにな っている。そして,何よりも患者自身が不安をもた ず,治療に専念できる参加型医療へと変容しつつあ る。 医療者には,苦痛・苦悩を抱えた患者に対して,ホ スピタリティ・マインド溢れる対応が必要とされる。 そもそもホスピタリティは「病院」と同様,ラテン語 のホスペスから派生した言葉である。ホスピタリティ とは,他者を差別することなく自分を愛するように他 者を愛することが基本であり,他者の痛みを自分の痛 みとしてとらえる感性が必要とされ,他者の存在を認 め,他者への理解や共感があってはじめて可能となる 関係である。その意味で,共創医療を提供しようとす る場合,ホスピタリティ・マインドは欠かすことので きないものである。 医療行為は,医療者が患者への理解や共感があれ ば,スムーズに行なわれる。医療者は,患者と対峙 し,患者の思いを聞き,共感し,専門的な知識・技術 を活かし,患者を病の苦痛・恐怖から解放する医術を 提供し,患者とともに病に立ち向かうことが本来の姿 であろう。このとき患者と医療者の間にはすでに信頼 関係が構築されている。これは,『専門的な知識や技 術が高度に発達している領域では,一般人はその知識 や技術を自分で獲得することはできない。それらを利 用する必要に迫られた場合,専門家にその対応を依頼 するしかない。医療の場合,ある程度患者の意向が考 慮に入れられることはあっても,医療行為全体を患者 側が把握しモニターすることは不可能である。そこか ら信頼して任せるという態度が出てくる』6) ことを前提 として,患者が医療機関に出向いた折には,医師への 信頼がすでに患者にはあり,またこの信頼は,『社会 生活を今まで通りに営むことができるとの期待が示さ れている』7)ものでもある。そして,病を治し,もとの 日常生活を送れるようになるという信頼=期待は, 『共通の目標・価値観によって当事者が結ばれるよう になり,連帯感を生み出すことに役立つ』8) ことにな り,病の回復に良い結果をもたらすことになる。この 医療者と患者の連帯感は,いわば共創関係の構築であ るとも考えられる。 「共創」とは,人間の内側のこころの領域を共有し, 共に創造活動を実践することであり,社会システムに おける相互の信頼性と多様性の創出に不可欠であり, 現代社会における様々な危機的状況を克服する上で重 要と考えられるように,病も当事者にとっては,危機 的状況であり,克服する上で医療者とのかかわりは最 重要事項である。患者と医療者の間には,従来から築 かれている「上下関係」や「主従関係」ではなく,相 互主義を志向する「患者共創医療」が望ましい。山上 (2006)によると「患者共創医療」とは,患者の満足 ・喜びを医師・医療従事者の満足・喜びとし,共に感 動し合い,生きる価値を創造することである。

3.共創医療と双方向コミュニケーション

3.1 双方向コミュニケーションと信頼関係 (1)コミュニケーションの意味 コミュニケーションという言葉のもともとの語源 は,ラテン語のコミュニカーレ(communicare 共有 す る)9)だ と い わ れ て い る。川 野(2003)に よ る と, 『自己を表現し,相手と関係をとる手段である』10) と述 べている。人と人の間のコミュニケーションは,単に 相手に向かって言葉を投げかけるのでも,語りかける のでもなく,また情報や意思を伝達しているだけでも なく,双方向で,感情や思いなども交換しあっている のである。そして,相互の間でメッセージをやり取り して思いや価値観を交換し合い共感・共有することで 信頼関係を構築していくことがコミュニケーションで ある。 (2)コミュニケーションの分類 飯島(1995)の定義に従うと,コミュニケーション は「言語的コミュニケーション」,「準言語的コミュニ ケーション」,「非言語的コミュニケーション」の三つ から構成されている。 岸田さだ子:ホスピタリティと共創医療に関する一考察 3

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①言語的コミュニケーション 言語的コミュニケーション(verbal または linguistic communication)とは,言葉の内容によって伝えられ るメッセージのことである。医療の場では,症候,既 往歴,家族暦,現病歴などの事実に関するメッセージ が言語的コミュニケーションにより伝えられる。この とき,患者の発するメッセージを聴きながら,時折ア イコンタクト11) をとる。 ②準言語的コミュニケーション 準言語的コミュニケーション(paralinguistic com-munication)とは,話し言葉によって伝わるメッセー ジのことである。話す声の高さ・大きさ,話す速さ, 抑揚,語尾の変化などを指している。 ③非言語的コミュニケーション 非 言 語 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン(nonverbal ま た は nonlinguistic communication)とは,相手に対する自分 の身の置き方(body placement),表情,姿勢,身体接 触など言葉以外の手段によるメッセージの交流のこと である。身体言語(body language)12) とも呼ばれる。 (3)コミュニケーションの重要性と双方向コミュニケ ーション 医療におけるコミュニケーションは,患者の病状に 対して正確な診断をするために,十分な情報を聴集す る必要がある。日本の医療の特徴は,日本の文化的特 徴である「父権主義」に基づき,患者に良かれと思う ことを医療者の考えだけで実践し,また患者も自身の 健康問題であるにもかかわらず医学的無知から,患者 は医療者に一方的に治療を任せてきた。これを「おま かせ医療」と呼び,昨今まで続いてきた。しかし,飯 島(1995)は,『人権意識の高まり,医療についての 理解の向上,医療へのアクセスの進歩などにより,患 者は医療に対する主張・要求を明確にするようになっ た。その結果,一方的な「おまかせ医療」から,医師 と患者双方のコミュニケーションに基づく医療へと変 化しつつある』13) と述べている。 医療者と患者のコミュニケーションは,医師が聞き たいだけの一方向ではなく,患者の立場に立った思い やりのなかで,患者の物語に注意深く,興味をもって 聴くためのコミュニケーションであることが求められ る。双方向でのコミュニケーションから,患者は,医 療者に対し,この医師は自分に危害を加えず,自分に とって良いことをしてくれると判断し,医師の介入を 受け入れる準備ができることにより,信頼が生まれて くる。また,医師は患者が自分に対して危害を加え ず,約束や納得・同意したことを守ってくれると信 じ,誠意を尽くそうとする。これにより双方向間に, 医療において最も大事な「信頼関係」が構築され発展 していくのである。このように,双方向コミュニケー ションは,信頼関係を構築するためには,必要不可欠 なことであり,この「信頼関係」の程度により患者の 医師への情報提示の内容(質と量)が変り,診断・治 療面に大きく影響を及ぼす。 (4)双方向コミュニケーションから信頼関係構築へ 双方向コミュニケーションとは『①両者間での信頼 関係を形成するプロセスであること,②患者の健康問 題やニーズをとらえるための言語的・非言語的情報を 得るための重要手段であること③コミュニケーション そのものに癒しとしての効果があること』14) である。 たとえば,生活習慣病の原因は,患者自身の生活習慣 が主なる原因とされている。そこで双方向のコミュニ ケーションにより,患者の行動に隠された患者の考え や思いを考慮し,共感する。患者を理解し,共感的態 度を示すことで,患者の心は開かれる。すると,その 共感により,患者は安心して心を開き,信頼関係を築 いていくことができる。そして,信頼関係が構築され ることにより,これまでお任せ医療であった治療が, 患者自身が積極的に参加することで,患者自身による 日々の生活改善がはかられ,生活習慣病の治療効果を 促進させることができるのである。 「信 頼 関 係 は 患 者−医 療 者 関 係 の 基 本」15) と 川 野 (2003)も述べているように,双方向コミュニケーシ ョンから,患者は自分が理解され,支えられていると 感じ,自己決定する力が得られる。そして,患者の気 持ちに共感・受容することから,信頼関係は発展・構 築していくといえる。信頼関係が構築されることによ り,医療者は患者にとってもっとも良い医療を提供 し,また,患者はその医療者の期待に応えるべく「自 己治癒力」を高め,ひとつのチームとなり共創医療が 実現される。

4.チーム医療とホスピタリティ・コーチング

4.1 個人プレーとチーム医療 今日の医療は,『医療が細分化していくと,人の体 は臓器単位で分割的に判断され,さらに,検査データ だけで判別されるようなことも多くなっていく。そう した状況で危惧されるのは,患者を一人の人間として とらえ,全体的・統合的に接していくことが難しくな 甲南女子大学研究紀要第 52 号 文学・文化編(2016 年 3 月) 4

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ることである。現在医学の宿命ともいえるこの弊害を 乗り越えるために,医療者はチームを意識し,複眼視 的で包括的な見方をする必要がある』16)と言った問題 を抱えており,『医療では,解決が 1 対 1 の関係のな かで済む場合は少ない。なぜならば,医療の対象が, 一人の人の身体・精神の枠組みを超えた環境全体のな かに位置づけてつかむべきものであって,単独のアプ ローチで済む問題と見えても,医療者の複数の視点を 得てはじめて正当な評価と解決策が図れるような複雑 な性格をもつもの』17) であるため,多職種の専門職で 構成されたチーム医療で取り組む必要性がある。そう することによって『お互いの欠けた所を補い,自らの 誤りを正し,過誤の予防に最大の注意を払いながら, 最善の治療ができる。』18)ことになり,チーム医療の意 義が見出される。 現在,医学の専門化や,医療の細分化に伴う弊害を 解決するために「チーム医療」の必要性が重要視され てきている。一人の専門職種者では解決できないこと も,他職種の医療者が加わることで,その患者本人の 辛さや苦しみを少しずつ緩和し,リスクを減らすこと ができる。ここで気をつけなければならないのは,患 者の特性を良く知ることである。なぜならば,『患者 が打ち明けようと思う話の内容は,その医療者に対す る役割や期待によって異なるからである。(省略)そ のためにも,医療者は個人のコミュニケーションスキ ルを改善させる』19) 必要が生じる。このことは,患者 対応のみならず,チーム医療者間においてもいえるこ とである。チーム内の他職種と円滑なコミュニケーシ ョンを図るには,共通の言葉で語ることが要求され る。チーム医療では,専門用語を使うのではなく,共 通用語にする必要性がある。『共通語は,お互いのコ ミュニケーションをスムーズにするだけでなく,患者 さんを治療援助するというチームの本来の目的を円滑 に遂行するのを助ける』20) 。 つまり共同的立場からのホスピタリティ・マインド の醸成がチーム医療の充実を生み,患者と医療者の間 に信頼関係が構築され,共創医療へと進化していく。 4.2 チーム医療の重要性 チーム医療について,鎌田(2002)は『いちばん苦 難な状態にいる,病気や障害をもった患者さんの望む ことを中心に,また,望むことのために,それぞれの 立場で協力しあう,それがチーム医療の原点』21) であ ると述べている。また鷹野(2002)は『インフォーム ド・コンセント,カルテ開示,セカンドオピニオンな ど,患者の主体性の重要性が認識されるにしたがっ て,医療の主役である患者を中心とした取り組みが見 直しされ,そのための医療面接などの技法が脚光を浴 びている。患者のニーズに焦点をあてて,その充足の ために必要な職種を網羅したチームを編成し,患者と 家族を中心として民主的に機能することが,真のチー ム医療である』22)と主張している。最近では患者参加 型として『患者・家族・親戚・友人らも医療チームに 加わり,疾患に一丸となって立ち向かっていくモデ ル』23) が提唱され始めている。 チーム医療を行うに当たっては,個々さまざまに目 標設定をするのではなく,医療者と患者(家族含む) が相互に参加し,共通の目標を持ち,互いの役割に沿 った協力が必要である。また,医療者によって集めら れた情報は,チーム内の他のメンバーによって共有さ れることが重要であり,この連絡が不十分な場合は, 患者に多大な影響を与えることを認識する必要があ る。つまり,『チームを構成していく上での重要な要 素−共通の目標(ゴール)を獲得するために,①情報 や資源の共有②個々人による活動の調整(coordinate) ③メンバー間での十分なコミュニケーションのやり取 り』24)が求められるのである。そして,患者中心の医 療では,医療従事者の都合よりも患者の問題解決が最 優先に考えられるべきであり,医療上の意思決定では 患者の意見が尊重されることが望ましい。そのために は,患者のニーズを充足させるために,もっとも効果 的な組み合わせのチームを編成し,その都度リーダー も代える必要がある。チームリーダーは,本来医師で あるが,患者の身体変化に即応して移行し,常にチー ム関係者全員がリーダーシップとメンバーシップの双 方を持って参加することが重要である。 4.3 ホスピタリティ・コーチングの意義 コーチングとは,個人が持つ潜在能力や可能性を最 大限に引き出すための手法であり,自ら動ける「自立 型」の人材を育てることを目的とすることがコーチン グの意義である25)。つまり,自発的な行動を促す双方 向のコミュニケーションから解決を導き出すことであ り,一人ひとりの能力・個性・情報処理の方法に合わ せて援助することである。また,対等な立場で会話を し,質問を投げかけ,その人の才能や能力を最大限に 引き出し,問題の解決策を本人自らが見つけていくこ とをサポートすることにある26) 。その意味で,コーチ ングとは双方向の信頼関係を基盤とすることで成り立 っている。 岸田さだ子:ホスピタリティと共創医療に関する一考察 5

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患者を思いやり,ホスピタリティ溢れた精神を身に つけるには,命令・指示系のトレーニング指導より も,本人自身に気づかせるコーチングが有効である。 ホスピタリティ・マインドの進化した立ち振る舞いに は,自分で考え,自分で臨機応変に対応できるような 創造的能力が求められ,その能力を引き出すためにホ スピタリティ・コーチングが必要になる。医療のメン バーの成長やチーム力を高めるためには,その組織の 持つ課題や目標を支援する働きがけが必要不可欠であ る。高質なホスピタリティは,スタッフ個人単位のセ ルフ・コーチングだけで達成できるものではない。ま た,共創医療は専門部科だけでおこなわれているので はなく,他職種のチームメンバーの力を借りながら全 体の業務が遂行されているのであり,グループ・集団 の存在を配慮せねばならない。とりわけ,患者一人に 多方面からなる関係者が介在して治療にあたるとき, 治療は組織的になされるのでホスピタリティ・マイン ド溢れる人間の相互関係の改善・見直しが必要不可欠 となる。 高質なホスピタリティを提供するには個人的な努力 だけでは限界があり,チームを挙げて課題や目標を共 有し,コミュニケーションを深めていくことが大きな 成果へとつながる。つまり,さまざまな人間関係から なる組織のホスピタリティ・マインドを進化させるに は,チーム・コーチングによる取り組みが必要であ る。共創医療では,ホスピタリティ・マインドを進化 させ,質の高いホスピタリティを提供するには,一人 で実践できるものばかりではない。チーム全体で自由 で自主的に,かつチームで共創することが求められ る。たとえば,ホスピタリティ産業ではホスピタリテ ィ・コーチングを徹底して行う職場環境づくりが必要 となる。サッカーチームのように個人の成果(セルフ ・コーチング)と多くのスタッフという組織の成果 (チーム・コーチング)を同時並行に評価する職場環 境づくりが望まれる。そのためには,定期的に第三者 機関によって,職場内のホスピタリティ・マインドの 進化度をチェックする評価制度が導入されるべきであ ろう。 医療スタッフが常に意識することは,患者の回復, 自立を目的として最良の治療をどう提供するかという ことである。その意味で,広義には共通の目的を本来 的に有しているのであるが,個々の患者の対応になる と往々にして異なった治療法や手技を用いることがあ る。そこで生じるジレンマは,相互の相違を認め合う といった方法ではなかなか克服することはできない。 医療チームには,均質性と継続性のある治療が求めら れる。その意味において,医療スタッフ個人の自由な 裁量は制限されるべきであろう。

お わ り に

本稿では,「ホスピタリティと共創医療」の関係性 を取り上げ,考察を行った。医療現場において,「ホ スピタリティ・マインド」を醸成し表現することによ り「共創医療」が創出される。医療は人と人との繋が りを基本としており,その本質はホスピタリティにあ り,相手にホスピタリティを表現し,あるいは伝える ためには,コミュニケーションが必要不可欠である。 また,医療は,医療者のものでなく「患者」が中心で あり,それはとりもなおさず双方向的に相手のことを 考えることでもある。双方で病を共有しこころを合わ せて助け合うことで,治療効果が増し,それが患者の 喜びとなって医療者に伝わる。患者も医療者も双方が 治癒したことの感動を共有し,共感し,共創していく ことが真の医療である。 「ホスピタリティ」の重要性が広く浸透した現在, 双方向コミュニケーションの充実が「こころからのお もてなし」を提供するための重要な要素であると認識 されつつある。その意味において,「ホスピタリティ ある共創関係」とは,お互いを信頼し,協力し,双方 向コミュニケーションの中から生まれる質の高いホス ピタリティが維持された関係の中にあるといえるであ ろう。 注 1)上田完次編集(2003)『共創とは何か』p.160。 2)清水博編集(2000)『場と共創』p.143。 3)上田完次編集(2003)『共創とは何か』p.1。 4)山上徹(2006)「医療機関におけるホスピタリティ力 の要素と患者共創医療の研究」,日本ホスピタリティ・ マネジメント学会 誌『HOSPITALITY』第 13 号 pp.57 ∼74。 5)同上参照。 6)長岡成夫(2002)「信頼」,『新潟大学教育人間科学部 紀要』第 5 巻 pp.75∼85。 7)同上参照。 8)同上参照。 9)ランダム英和大辞典 第 2 版(1994)小学館。 10)川野雅資(2003)『精神臨床看護学 精神看護学Ⅱ 第 3 版 ヌーヴェルヒロカワ p.11。 11)アイコンタクト:互いの視線を合わせること。これ により,「あなたの話をしっかり聴いてますよ」という メッセージになり,安心感を与えるもの。 甲南女子大学研究紀要第 52 号 文学・文化編(2016 年 3 月) 6

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12)身体言語(body language):動作や表情によって伝達 されるメッセージ。この動作や表情は習得された伝達 様式を持ち,その表現には一定の意味合いがある。(ア メリカ精神医学学会精神医学用語集) 13)飯島克己(1995)『外来でのコミュニケーション話法 【診療に生かしたい問診・面接のコツ】』p.8。 14)同上参照 pp.206∼222。 15)川野雅資(2003)編集『実践に生かす看護コミュニ ケーション』学習研究社 p.131。 16)保坂隆 町田いづみ 有田悦子(2002)『スキルアッ プのための医療コミュニケーション』株式会社南山堂 p.126。 17)鷹野和美編集(2002)『チーム医療論』医歯薬出版株 式会社 p.25。 18)同上参照 p.15。 19)同上参照 p.15。 20)矢永由里子編集(2001)『医療のなかの心理臨床ここ ろのケアとチーム医療』新曜社 p.79。 21)鷹野和美編集(2002)『チーム医療論』医歯薬出版株 式会社 p.80。 22)同上参照 p.104。 23)保坂隆 町田いづみ 有田悦子(2002)『スキルアッ プのための医療コミュニケーション』株式会社南山堂 p.75。 24)鷹野和美編集(2002)『チーム医療論』医歯薬出版株 式会社 p.20。 25)清水均(2004)『サービス業のためのホスピタリティ ・コーチング』日経 BP 社。 26)同上参照。 参考・引用文献 莇昭三(1992)『医療学概論−患者との共同の営みとして の医療−』勁草書房 p.202。 荒田幸司(1997)「わが国の家訓に見る経営の心−ホスピ タリティの精神を求めて−」,日本ホスピタリティ・マ ネジメント学会誌『HOSPITALITY』第 4 号 p.79。 飯島克己(1995)『外来でのコミュニケーション話法【診 療に生かしたい問診・面接のコツ】』日本医事新報社 pp.54∼66。 上田完次編(2003)『共創とは何か』培風館 p.160。 太田久雄(2001)「三つのホスピタリティ」,『日本国際観 光学会論文集』第 8 号 pp.60∼67。 大津ゆり(2005)「キリスト教に於けるホスピタリティ精 神」,『埼玉女子短期大学研究紀要』第 16 号 pp.149∼ 168。 大津ゆり(2004)「フランスにおけるホスピタリティ精神 の具現化」,『埼玉 女 子 短 期 大 学 研 究 紀 要』第 15 号 pp.135∼148。 大森武子/大下静香/矢みどり(2003)『仲間とみがく看 護のコミュニケーション・センス』医歯薬出版株式会 社。 小川芳男(2005)『医療心理学』北樹出版。 奥田博美,本山雅英(2003)『メディカル・サポート・コ ーチング入門 医療者向けコミュニケーション法』日 本医療情報センター。 勝原裕美子(2001)「企業の発想を看護に生かす」,『看護 管理』Vol.11 pp.836∼841。 鎌田實(2007)『超ホスピタリティおもてなしのこころ が,あなたの人生を変える』PHP 研究所。 亀川雅人(2006)『ビジネスクリエータとホスピタリテ ィ』創成社。 唐 津 康 夫(2002)「ホ ス ピ タ リ テ ィ・マ ネ ジ メ ン ト 試 論」,『日本国際観光学会論文集』第 9 pp.18∼26。 川野雅資(2003)編集『実践に生かす看護コミュニケー ション』学習研究社 p.131。 川渕孝一(1996)『医療ビジネス最前線』日本経済新 聞 社。 川渕孝一(2004)『進化する病院マネジメント 医療と経 営の質がわかる人材育成を目指して』,医学書院。 岸田さだ子(2006)「歯科医療現場におけるホスピタリテ ィ−医療者と患者との信頼関係−」,日本ホスピタリテ ィ・マ ネ ジ メ ン ト 学 会 誌『HOSPITALITY』第 13 号 pp.189∼196。 岸田さだ子(2011)「ホスピタリティ概念の類型化と現代 的意義」,『甲南女子大研究紀要文学・文化編』第 48 号 pp.31∼38。 岸田さだ子(2012)「第 9 章医療ビジネスの患者共創医療 対人材育成」山上徹編『ホスピタリティ・ビジネスの 人材育成』白桃書房 pp.115∼122。 北川昇・佐藤祐二(2005)「患者中心医療の実践−ナラテ ィブな視点から−」,『歯科衛生士』8 Vol.29. No.8 pp.28 ∼30。 工藤力(1999)『しぐさと表情の心理分析』福村出版。 栗原敏(2006)『医療入門−よりよいコラボレーションの ために』医学書院。 古閑博美(2004)「ホスピタリティと EQ」,『嘉悦大学研 究論集』第 46 巻第 2 号通巻 84 号 pp.37∼51。 古閑博美(2000)『看護のホスピタリティとマナー』鷹書 房。 古閑博美(2001)『看護とホスピタリティ』鷹書房。 古閑博美(2003)『ホスピタリティ概論』学文社。 小手川勤(2007)「ファーマシューティカル・ケア実践の ためのクリニカル・スキル−コミュニケーション・ス キル−」,『薬学雑誌』Vol.127 pp.237∼244。 佐伯晴子(2004)『あなたの患者になりたい 患者の視点 で語る医療コミュニケーション』医学書院。 佐伯晴子・野呂幾久子(2005)「患者中心の医療への転換 医療サービスにおける患者向け文章の分析」片桐恭弘 ・片 岡 邦 好 偏『社 会・行 動 シ ス テ ム』ひ つ じ 書 房 pp.128∼140。 佐田宏(2004)「第 4 章ホスピタリティ・コミュニケーシ ョン実践技法」,『ホスピタリティ・コーディネータホ スピタリティ入門』NPO 法人日本ホスピタリティ推進 協会日本ホスピタリティ教育機構 p.58。 佐藤知恭(1998)「信頼関係マーケティングにおけるホス ピタリティの意義と役割」,『白鳳大学』第 12 巻 pp.1 ∼26。 清水博編集(2000)「場と共創」NTT 出版。 岸田さだ子:ホスピタリティと共創医療に関する一考察 7

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参照

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