〈論説〉胎児保護と罪刑法定主義--厳格解釈原則を堅持する近年のフランス破毀院判例を契機として
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(2) 近畿大学法学. 第60巻第1号. か につ いて 予 測 可 能 性 を 保 障 す る こ と も 同様 に重 要 な の で あ り,そ こか ら は法 の 厳 格 な 解 釈 が 求 め られ る こ と にな る。 す な わ ち,類 推 適 用 な い し類 推 解 釈 の 禁 止 も罪 刑 法 定 主 義 の 派 生 原 理 で あ る。 こ こで,我 が 国 の 刑 法 典 を 眺 めて み る と,直 接 的 に胎 児 を 保 護 す る規 定 と して 堕 胎 罪 を 見 つ け る こ とが で き る。 堕 胎 と い う語 か ら我 々が 想 像 で き る こ と は,人 為 的 に母 体 外 に胎 児 を 排 出す る と い う いわ ゆ る子 お ろ しで あ る。 したが って,母 体 内 に あ る胎 児 を 傷 害 す る こ と は それ だ けで は堕 胎 罪 で 捕 捉 され な い し,保 護 客 体 を 人 とす る傷 害 罪 の 射 程 内 に あ る と も直 蔵 に 言 え な い。 したが って,こ の よ うな 胎 児 に対 す る危 害 行 為 か ら胎 児 を 保 護 す る に は,殺 人 罪 な どの 殺 傷 罪 が 解 釈 に よ って 胎 児 に まで 拡 張 す る こ とが 許 容 され るか ど うか 検 討 す る必 要 が あ る。 この 解 釈 につ いて 最 高 裁 は いわ ゆ る熊 本 水 俣 病 事 件 に お いて 胎 児 は母 体 の 一 部 で あ る と判 示 し,そ の 上 で 抽 象 的 法 定 符 合 説 類 似 の 論 理 を 用 いて 胎 児 性 水 俣 病 に り患 した被 害 者 に対 す る業 務 上 過 失 致 死 罪 を 肯 定 した(最 三 小 決 昭 和63・2・29刑. 集42巻2号. 314頁)。 したが って,少 な くと も最 高 裁 に お いて は,胎 児 を 正 面 か ら殺 傷 罪 の 客 体 で あ る と考 え て いな い こ と にな る。 しか しな が ら,下 級 審 に お い て は近 時 これ に 同調 して い る と は必 ず しも言 え な い。 す な わ ち,交 通 事 故 に妊 婦 が 巻 き込 まれ,そ の 結 果 と して 胎 児 が 死 亡 あ る い は重 篤 な 障 害 を 負 う と い う事 例 に お いて,下 級 審 は胎 児 に対 す る業 務 上(自 動 車 運 転)過 失 致 死 傷 罪 の成 立 を肯 定 して い るか らで あ る(1)。ま た,公. 害 ・交 通 事 故 な ど. の 過 失 犯 だ けで な く,未 必 ・確 定 的 を 問 わ ず 故 意 に よ る場 合 に も殺 傷 罪 の 成 立 が 肯 定 され るか につ いて は い まだ 判 断 が な され て お らず,学 界 に お い. (1)こ の 点 につ い て は,和 田 俊 憲 「交 通 事 犯 にお け る胎 児 の 生 命 の 保 護 」 慶 慮 法 学11号(2008年)301頁. 以 下 を 参 照 。 た だ,前 述 の 水 俣 病 最 高 裁 決 定 以 前 に は否. 定 的 な 裁 判 例 と して 秋 田地 判 昭 和54・3・29刑. 162. 月11巻3号264頁. が 存 在 す る。.
(3) 胎児保護 と罪刑法定主義 て も議 論 の あ る とこ ろ で あ る(2)。この故 意 犯 を め ぐる問 題 は,同. 時 に堕 胎. 罪 との 整 合 性 が 問 題 とな るの で あ り,簡 単 に解 決 で き る問 題 で はな い。 以 上 の よ う に,胎 児 を 刑 法 上 保 護 す る た め に は多 くの 問 題 が 存 在 して い る。 その 中か ら,本 稿 に お いて は胎 児 保 護 と厳 格 解 釈 を め ぐる問 題 につ い て 若 干 の 検 討 を 行 い た い。 まず,厳 格 解 釈 原 則 を 理 由 に胎 児 に人 に対 す る 罪 の成 立 を 否 定 した フ ラ ンス の 最 近 の状 況 を概 観 し(第2章),次 国 の状 況 を確 認 した上 で(第3章),最. に我が. 後 に 日仏 の 状 況 を 踏 ま え て 胎 児 の. 保 護 可 能 な 範 囲 を 少 しで も拡 大 させ る理 論 構 成 を 検 討 して い きた い。. 2最. 近 のフ ラ ンス判例. (1)ま ず,胎 児 に対 す る危 害 行 為 が 問 題 とな った これ まで の 判 例 につ い て 確 認 す る こ と に した い(3)。胎 児 を め ぐる破 殿 院 判 例 は,2000年 で3件. 出 され て お り,そ の う ち1件 は破 殿 院 大 法 廷 判 決 で あ る。 大 法 廷 判. 決,他 の2件. (2)詳. 前後だ け. と も に母 体 内で 胎 児 が 死 亡 した と い う点 で は共 通 で あ るが,. し くは後 述 す るが,学 界 で の情 勢 は必 ず し も肯 定 派 が多 数 派 で は な い。 実. 行 行 為 時 で 客 体 が 存 在 す る こ とを 要 求 す る こ と はな い に して も,そ れ が 作 用 す る段 階 で は客 体 が 必 要 で あ る こ とを 理 由 に否 定 的 に捉 え る論 者 が 多 い。 ま た, 過 失 堕 胎 が 不 可 罰 で あ る こ と を捉 え て過 失 に よ り傷 害 す る に と ど ま る胎 児 傷 害 を 可 罰 的 とす る こ と はで きな い とす る論 者 もい る。 な お,過 失 行 為 につ い て は 不 可 罰 で あ るが,故. 意 に よ る場 合 が 可 罰 的 で あ る こ とを 理 由に 堕 胎 罪 に捕 捉 さ. れ な い 事 例 につ き故 意 に よ る傷 害 等 につ いて 成 立 を 肯 定 す る見 解 と して,山 敬 一 『刑 法 各 論[第2版]』. 成 文 堂(2009年)46頁. 中. 参照。. (3)以 下 で 確 認 す る判 例 につ いて は,す で に 末 道 康 之 教 授 に よ って 詳 細 に紹 介 さ れ て い る。 す な わ ち,末 道 康 之 「胎 児 に対 す る過 失 傷 害 と過 失 致 死 罪 の 成 否 」 清 和 法 学 研 究7巻2号(2000年)75頁. 以 下,同. 「胎 児 性 致 死 を 否 定 した フ ラ ン. ス破 殿 院 判 例 につ い て 」 南 山法 学26巻2号(2003年)41頁 刑 法 の 現 状 と欧 州 刑 法 の展 望 』 成 文 堂(2012年)27頁. 以 下,同 以 下(特. 『フ ラ ンス. に42頁 以 下)で. あ る。 本 稿 は,末 道 教 授 の成 果 を受 け て の もの で あ り,こ こで 記 して 感 謝 申 し 上 げた い。. 163.
(4) 近畿大学法学. 第60巻第1号. 前 者 は交 通 事 故 で 後 者 は医 療 過 誤 と い う違 いが あ る。 ま た,こ れ らに続 く 2003年 に は,大 法 廷 判 決 同様 に交 通 事 故 の 事 例 で あ るが,胎 児(妊 娠8か 月)は 帝 王 切 開 に よ る 出生1時 間 後 に死 亡 した と い う事 案 に有 罪 判 決(新 生 児 に対 す る過 失 致 死 罪)が. 出 され た。2000年 前 後 の3件q)で. は,い ず れ. も死 産 と い う結 果 で あ っ た た め に破 殿 院 は それ ぞ れ の 被 告 人 に対 して 胎 児 へ の 過 失 致 死 罪 の 成 立 を 肯 定 す る こ と はな か っ たが,2003年. の事 例(5)にお. いて は,過 失 致 死 罪 の 成 立 を 肯 定 した。 前 者 と後 者 の 違 い は,死 と い う結 果 が 発 生 したの が 胎 児 か 人 か ど うか で あ る。 な ぜ な ら,前 者 に お いて 破 殿 院 が 破 殿 申立 を 同様 の 理 由 に よ って 棄 却 して い るか らで あ る。 す な わ ち, 過 失 致 死 罪 を 生 まれ るべ き子 に拡 大 して 適 用 す る こ と はで きな い と い う刑 法 の 厳 格 解 釈 違 反 で あ る。 この 厳 格 解 釈 につ き,フ ラ ン ス刑 法 は明 文 の 規 定 を有 す る。 フ ラ ン ス刑 法111-4条. が それ で あ り,同 条 は 「刑 法 は厳 格 に. 解 釈 され る」 と規 定 す る。 この 原 則 を 堅 持 す れ ば,生 きて 生 まれ た子(す な わ ち,人)の. み が 客 体 と して 保 護 され る こ と にな る と い うの が 破 殿 院 の. 一 貫 した判 断 で あ る。 も ち ろん,後 者(2003年)の. 事 例 を 見 れ ば明 らか で. あ る よ う に,生 きて 生 まれ た と い う以 外 の 要 件 を 破 殿 院 は求 めて いな い。 この こ と は,後 述 す る2006年 の 破 殿 院 判 決 で も 当然 踏 襲 され て い る。 しか し,こ れ らの 事 案(1999∼2003年)で (4)こ の3件. は破 殿 院 が いつ の 時 点 を も って 胎 児. につ いて は,末 道 ・前 掲 注(3)両論 文 で紹 介 さ れて い る。 こ こで,各. 事 件 の 紹 介 か ら概 要 を 示 す 。1999年6月30日. 判 決 は,被 告 人 で あ る医 師 が 診 察. に訪 れ て いた 同 姓 の2人 の 女 性 を取 り違 え,妊. 娠6か 月 の 定 期 検 診 に訪 れ て い. た 女 性 に対 して 誤 った 処 置 を施 し,そ の 結 果 胎 児 を 死 産 させ た とい う事 案 で あ る。2001年6月29日. 大法 廷 判 決 は,酩 酊 状 態 で 車 を 走 行 させ て い た 被 告 人 が 妊. 娠6か 月 の 妊 婦 が 運 転 す る 自動 車 と衝 突 し,よ 案 で あ る。2002年6月25日. って 胎 児 を 死 産 させ た とい う事. 判 決 は,出 産 予 定 日を 過 ぎ入 院 した 妊 婦 が 助 産 婦 に. 対 し胎 児 の 心 音 異 常 を 伝 え た が,助 産 婦 が こ れ を 医 師 に伝 え る こ と な く,翌 日 の 診 察 で 胎 児 が 死 亡 して い る こ とが 判 明 した と い う事 案 で あ り,被 告 人 は 医 師 で あ った 。 (5)こ の 事 例 につ いて は,末 道 ・前 掲 注(3)書の47頁 に紹 介 が あ る。. 164.
(5) 胎児保護 と罪刑法定主義 が 人 に変 わ るの か につ いて は読 み 取 る こ とが で きな い。 いず れ も帝 王 切 開 に よ って 胎 児 は母 体 内か ら取 り出 され て お り,帝 王 切 開 の 着 手 時 点 か ら胎 児 と い う属 性 が 変 化 し人 と い う完 全 な 保 護 を 受 け る存 在 にな るの か,あ. る. い は我 が 国 で 広 く支 持 され て い る露 出 の段 階(6)からそ うな るか は定 か で な い。 この 点 につ いて は法 律 上 も定 義 が な く,そ れ ゆえ に さ ま ざ まな 解 釈 が 可 能 にな って お り,下 級 審 と破 殿 院 に お いて 判 断 が 分 か れ る原 因 に もな っ て い る(7)。 一 応 の 解 決 と して 考 え られ るの は,す で に多 くの 事 例 にお いて 言 及 され て い る フ ラ ンス民法16条 を想 起 す るこ とで あ る。同条 は人 間(6trehumain) を その 生 命 の 始 ま りか ら尊 重 す る と い う規 定 で あ り,そ れ に従 うな ら ば生 命 の 開 始 時 点 か ら人 間 と して 保 護 す る と い う こ と にな ろ う。 しか し,こ の よ うな解 決 策 を 我 々の 現 在 の生 活 に当 て は め れ ば 当然大 き な 問題 が 生 じる。 第1に,避. 妊 の 問 題 で あ る。 仮 に生 命 の 開 始 時 点 が 受 精 時 と い う意 味 で 解. され て い るな らば,そ れ は女 性 に対 して 避 妊(こ. こで の 避 妊 は受 精 を 防 止. す る と い う意 味 で はな く着 床 を 防 止 す る と い う意 味 で あ る)を 行 うな と要 求 す る こ と に な りか ね な い(8)。第2に,中. 絶 が許 され るか とい う問 題 で あ. (6)本 稿 で は,い わ ゆ る一・ 部 露 出 説 と全 部 露 出説 の 対 立 につ い て は触 れ な い。 (7)こ. の 点 に つ い て は,中. (2011年)17頁. 村 義 孝 「フ ラ ン ス の 裁 判 制 度(1)」立 命 館 法 学335号. 参 照 。 同論 文 に よ れ ば,下 級 審 が 破 殿 院 の 判 例 に拘 束 され る こ と. はな い とい う。 (8)た だ,生 命 の 開始 時点 が受 胎 時以 降 を意 味す る の で あ れ ば,こ の よ うな 問 題 は生 じな い と思 わ れ る。 そ の た め,我 が 国 にお い て この よ うな 規 定 を 設 け る際 に は,生 命 の 開始 時点 を 明確 に定 義 す る の が最 善 で あ る が,フ. ラ ンス の よ う に. そ れ が で き なか っ た場 合 に は少 な くと も ドイ ツ刑 法 の よ うに 但 書(ド イ ツ刑 法 典218条1項2文:「. 受 精 卵 の 子 宮 内 で の着 床 が完 了 す る前 に そ の効 果 が 発 生 す. る行 為 は,こ の法 律 に い う妊 娠 中絶 に は該 当 しな い」;こ の邦 訳 に つ い て は,上 田健 二 ・浅 田和 茂 訳 「〔ドイ ツ堕 胎 〕刑 法 規 定 の対 照 表(抄 訳)」 同 志 社 法 学227 号(1992年)163頁. に よ った)を 付 す こ と で,こ の 問 題 を 回 避 す る こ とが で き る. よ う に思 わ れ る。. 165.
(6) 近畿大学法学. 第60巻第1号. る。 フ ラ ン ス は も ち ろん 世 界 中の 多 くの 国 々で 中絶 の 権 利 は女 性 の 権 利 と して 承 認 され て お り,こ れ を 奪 う こ と は女 性 に不 自 由(懐 胎 義 務)を 課 す る こ とで あ る。 近 代 社 会 の 誕 生 以 来,人 間 の 本 質 は 自 由な の で あ り,中 絶 は一 定 の 条 件 の も と に許 され る必 要 が あ ろ う。 これ らの 問 題 を 考 え る に, 受 精 時 に人 間(法 的 主 体)は 存 在 す る よ う に な る が,着 床 時 を も って 人 (刑法 上 の法 益 主 体)と (2)続 いて,2006年. な る とす る の が妥 当 で は な い だ ろ うか(9)。 の2件 の破 殿 院 判 決 につ いて 見 て い くこ と と した い。. 1つ 目 に と りあ げ る判 例 は,前 節 で 確 認 した帝 王 切 開 の もの で な く,自 然 分 娩 時 に起 き た事 件 で あ る。 破 殿 院2006年5月3日. 判 決 ⑩ は,次 の よ うな. 事 例 で あ っ た。 医 師 で あ る被 告 人 が,分 娩 中で あ っ た被 害 者 の 母 親 に対 し て,無 理 な 吸 引 分 娩 を 行 っ た た め に,被 害 者 に頭 蓋 骨 骨 折 な どの 傷 害 を 負 わ せ,そ の後 死 亡 させ た。被 告 人 は被 害 者 に対 す る過 失 致 死 罪 で起 訴 され, 第1審. は十 分 な 検 査 が 行 わ れ て いな か っ た こ とか ら死 の 原 因 につ いて 不 確. 定 で あ る こ とな どを 理 由 に無 罪 を 言 い渡 したが,続 訴 院2005年9月12日. く第2審(ア. ジ ャ ン控. 判 決)は 被 告 人 の 吸 引 行 為 と被 害 者 の 負 っ た傷 害 につ. いて の 直 接 的 な 因 果 関 係 を 証 明 す る鑑 定 書 を 採 用 し,分 娩 を 早 め に終 わ ら せ る た め に行 わ れ た無 理 な 吸 引 分 娩 が 被 害 者 の 死 亡 を 惹 起 した と認 定 した 上 で,被. 告 人 を執 行 猶 予 付 の懲 役1年. お よ び 罰金25,000ユ ー ロ に処 した。. これ を受 けて,被 告 人 側 が 破 殿 申立 て を 行 っ た。 申立 理 由 は次 の3つ で あ る。 す な わ ち,① 公 正 な 裁 判 が 行 わ れ て いな い,② 採 用 され た鑑 定 書 に よ (9)も. ち ろ ん,凍. 結 受 精 卵 の 問 題 は 別 途 考 え な け れ ば な ら な い が,そ. れ は本 稿 の. 及 ぶ と こ ろで はな い 。 ⑩Cass.Crim.3mai2006,n°depourvoi:05-85756.本. 事案は公刊物未登. 載 で あ る 。 判 決 文 に つ い て は,legifranceを に お い て 参 照 した 本 判 決 のURLを. 参 照 さ れ た い 。 念 の た め に,本. 示す。. http://www.legifrance.gouv.fr/affichJuriJudi.do?oldAction= rechJuriJudi&idTexte=JURITEXTOOOOO7634884&fastReqld= 1840672858&fastPos=8(lastvisited:2012/04/20). 166. 稿.
(7) 胎児保護 と罪刑法定主義 れ ば,い か な る理 由か らも被 告 人 の 行 為 は正 当化 され な い とす るが,2度 目の 頻 脈 は娩 出期 に生 じて い るの で あ って,そ の 点 は事 実 誤 認 が な され て い る,③ 刑 法121-3条3項(法. 律 に定 めが あ る場 合 に,行 為 者 の 職 務 等 を. 考 慮 して 通 常 の 注 意 義 務 を 果 た さな か っ た と証 明 され た 場 合 に は,軽 率 な どの 過 失 に よ る場 合 で あ って も等 し く軽 罪 とな る)違 反 が あ る,で あ る。 これ らにつ き,破 殿 院 は,原 審 につ き不 十 分 な 点 も矛 盾 も確 認 す る こ と は で きな い。 ま た,被 告 人 を 有 罪 とす る結 論 に反 論 の 余 地 はな い。 した が っ て,申 立 を 受 け入 れ る こ と はで きず,こ れ を 棄 却 す る,と 判 示 した 。 本 事 案 は,フ ラ ン スで は ご く一 般 的 な 分 娩 方 法 で あ る無 痛 分 娩 下 で 起 き た もの で あ る。 無 痛 分 娩 と は いわ ゆ る開 口陣 痛 が 始 ま った 段 階 で はそ れ ほ ど強 い麻 酔 は使 わ れ な いが,子 宮 口の 開 大 が 進 む につ れ て 麻 酔 の 強 さ も強 くな り,楽 に 出産 が 行 え る よ うにす る もの で あ るql)。 本 事 案 にお いて は, 全 開 大 まで 達 して いな い状 態 で 強 い麻 酔 を 注 射 して そ の 後 被 害 者 の 頭 部 に 吸 引 器 具 を 接 続 して 分 娩 を 行 っ た よ うで あ る。 通 常 な ら ば脱 水 や 疲 労 な ど と い っ た分 娩 が 長 期 化 した場 合 に施 す 処 置 で あ る と思 わ れ るが,本 事 案 で は そ う した徴 候 も見 られ ず 自発 的 な 娩 出 に委 ね て お け ば よ い段 階 で 無 理 に 処 置 を 施 した た め に,頭 蓋 骨 骨 折 等 の 重 篤 な 傷 害 を 負 わ せ た もの と考 え ら れ る。 (3)次. ⑪. は,破 殿 院2006年6月27日. 無 痛 分 娩 に つ い て は,さ. 判 決 ⑫ で あ る。 事 案 は,次 の とお りで. し あ た り 日 本 産 科 麻 酔 学 会 のQ&A. (http://wwwjsoap.com/pompier. _painless.htmllastvisited:2012/04/08). な どを 参 照 。 ⑫Cass.Crim.27juin2006,n°depourvoiO533767.本. 判 例 も 同 じ く公 刊. 物 未 登 載 で あ る 。 判 決 文 に つ い て は,先 た い 。 念 の た め に,本. ほ ど と 同 じ くlegifranceを. 稿 に お い て 参 照 し た 本 判 決 のURLを. http://www.legifrance.gouv.fr/affichJuriJudi.do?oldAction= rechJuriJudi&idTexte=JURITEXTOOOOO7608795&fastReqld= 781955327&fastPos=2(lastvisited:2012/04/20). 167. 示す。. 参 照 され.
(8) 近畿大学法学. 第60巻第1号. あ る。2003年10月10日,麻. 薬 を 使 用 して い た被 告 人 の 運 転 す る 自動 車 と被. 害 者 の 運 転 す る 自動 車 が 走 行 中 に交 通 事 故 を 起 こ し,そ の 結 果 被 害 者 は死 亡 して しま っ た。 当時,被 害 者 は妊 娠22週 で あ り,胎 児 も この 事 故 に よ り 死 亡 して しま っ た⑱。 事 件 後 の 第1審. に お いて,被 告 人 は被 害 者 に対 す る過 失 致 死 罪 の み で 訴. 追 され て い たが,被 害 者 の 夫 の 求 め に よ り死 亡 した子 につ いて も過 失 致 死 罪 で も起 訴 され た。 第1審. は,被 告 人 を 被 害 者 に対 す る過 失 致 死 罪 は肯 定. したが,被 害 者 の 子 につ いて は無 罪 と した。 この 無 罪 判 決 に対 して,検 察 お よ び私 訴 原 告 人 双 方 が 控 訴 した。 第2審(メ 判 決)は,次. の よ うに述 べ て第1審. ッス控 訴 院2005年2月17日. 判 決 を 是 認 した。 す な わ ち,「 破 殿 院. が 何 度 も表 明 して き た よ う に厳 格 解 釈 の 観 点 か ら未 だ 生 まれ て いな い子 に 過 失 致 死 罪 を 適 用 す る こ と はで きず,生. きて 生 まれ た子 にの み 適 用 で き る. の で あ る。 厳 格 解 釈 それ 自体 の 適 否 は立 法 府 の 管 轄 で あ り,い か な る刑 事 的 非 難 に よ って も,と. くに過 失 致 死 罪 の 範 囲 で は生 まれ るべ き子 の 生 命 は. 保 護 され て いな い。 したが って,第1審 れ る」。 この 判 決 を 受 けて,検. の 判 決 は司 法 権 の 範 囲 で は肯 定 さ. 察 及 び私 訴 原 告 人 双 方 は破 殿 院 に 対 して 破. 殿 申立 て を 行 っ た。 その 理 由 は,次 の2つ で あ る。 ① 刑 法221-6条. は他 人. の 死 を過 失 に よ り惹 起 す る行 為 を 取 り締 ま るの で あ るか ら,生 まれ るべ き 子 へ の 適 用 を 排 除 しな い。 それ に もか か わ らず,221-6条. を 厳 格 に解 釈 す. る こ とを 口実 に これ を 制 限 す るな らば,控 訴 院 は法 律 にな い条 件 を 付 加 し て お り,同 原 則 に違 反 して い る。 ② 刑 法 は立 法 趣 旨(ratiolegis)と. q3)な お,厳. 法の. 密 に言 え ば 胎 児 は 人 で は な い の で 死 亡 とい う用 語 を 用 い る こ と はで. きな いの か も しれ な いが,本. 稿 で は 便 宜 的 に死 亡 とい う用 語 を 用 い る こ と にす. る。 一 つ の考 え と して,胎 児 とは い え,生 命 は 存在 す るわ け で あ る か ら,失 命 とい う用 語 あた りが 適 当 な の か も しれ な い。 この 用 語 の 問 題 につ い て も他 日を 期 した い。. 168.
(9) 胎児保護 と罪刑法定主義 一 般 原 則 の も と に厳 格 に解 釈 され る。 立 法 者 の 意 思 あ る い は国 際 法 お よ び 国 内法 な く,生 まれ るべ き子 か らその 生 命 の 始 ま りか ら人 間 と して 尊 重 さ れ る権 利 を 奪 い,ま た その 保 障 の た め に刑 法 的 に保 護 され る こ とを 奪 う こ と は許 され な い。 生 まれ るべ き子 が いか な る刑 法 的 非 難. と くに221-6条. に よ って 保 護 され な い と い う こ とを 支 持 す るな らば,控 訴 院 は民 法16条 等 を 誤 解 して い る。 この 破 殿 申立 て に対 す る破 殿 院 の 判 断 は次 の とお りで あ る。 す な わ ち,原 審 の 判 断 につ いて 解 釈 の 誤 りは認 め られ ず,原 審 は正 当 で あ る。 実 際 に,厳 格 解 釈 を 課 す る罪 刑 法 定 主 義 は,他 者 を 過 失 に よ り死 亡 させ る こ とを 取 り締 ま る刑 法221-6条. に予 定 され て い る非 難 を 法 律 上 特. 別 の 規 定 を もつ 胚 や 胎 児 に従 属 す る生 まれ るべ き子 に まで 拡 張 す る こ とを 禁 じて い る。 以 上 の よ う に述 べ て,破 殿 院 は 申立 を 棄 却 した 。 本 事 案 の よ うな 破 殿 院 の 判 断 は,す で に前 節 で 触 れ た2001年 の 破 殿 院 大 法 廷 判 決 を想 起 させ る⑭。 いず れ の判 決 も,特 別 の規 定 に よ って 保 護 され て い る カ テ ゴ リー に属 す る存 在 を,既 生 の 生 命 で あ る人 を 保 護 客 体 とす る 過 失 致 死 罪 で 保 護 す る こ と はで きな い とす る。 この 未 生 の 生 命 で あ る胎 児 や 胚 を 既 成 の 生 命 で あ る人 と 同一 視 す る こ と はで きな い とす る破 殿 院 の 論 理 は それ 自体 妥 当で あ る。 しか し,破 殿 申立 趣 意 書 の い う法 の 一 般 原 則 に あ た る フ ラ ンス民 法16条(こ. れ は 同法16-9条. が16条 よ り始 ま る章 の 規 定. は公 序 に属 す る とす るか らで あ る)に 話 が 至 れ ば,す で に見 た とお り,こ れ は その 限 りで な くな る。 人 間 と人 と い う用 語 の 違 いを 理 由 に必 ず しも民 法 を 指 導 原 理 とす る必 要 はな い と思 わ れ るが,法 秩 序 の 統 一 と い う観 点 が. ⑭. 末 道 ・前 掲 注(3)南山法 学49頁 か ら類 似 す る箇 所 を 引 用 す れ ば,「生 まれ るべ き 子 ど もは,胎 児 や 胎芽 に関 す る特 別 の 規 定 に よ り保 護 され る の で あ る。」 で あ る。 た だ,末 道 教 授 も指摘 さ れ る よ うに,ヒ 典 に存 在 して い るが(同511-15条. ト胚 に関 す る規 定 は フ ラ ンス 刑 法. 以 下),そ れ ら に よ って 胎 児 を 保 護 す る こ とは. な い。 なぜ な ら,医 学 的 に も胚 と胎 児 は別 の存 在 で あ り,そ れ ぞ れ に与 え られ て い る語 は異 な って い る か らで あ る(す な わ ち,embryonとf㏄tusで. 169. あ る)。.
(10) 近畿大学法学. 第60巻第1号. 考 慮 され る余 地 は あ る もの と思 わ れ る。 胎 児 保 護 を め ぐる判 例 の 今 後 の 動 向 と して は2001年 の 大 法 廷 判 決 が 存 在 す る だ け に判 例 の 変 更 は非 常 に難 しい もの と言 わ ざ るを 得 な いが,本 事 案 の 控 訴 院 判 決 で も触 れ られ た よ う に厳 格 解 釈 と い う原 則 その もの を ど う考 え るか は立 法 府 の 任 務 で あ り,こ の 点 につ いて 立 法 府 で 動 きが な か っ たわ けで はな い。2003年,Garraud国. 民 議 会 議 員 に よ って 過 失 堕 胎 罪 の 復 活 が. 提 案 され た。 こ の 国民 議 会 に提 出 され た提 案 ⑮ に よれ ば,過 失 の 程 度 に よ り最 高 で5年 の 自由 刑 も し くは75,000ユ ー ロ の罰 金 を科 す る こ とが で き, 合 わ せ て 不 同意 堕 胎 罪 の 刑 の 上 限 を7年 の 自 由刑 も し くは10万 ユ ー ロの 罰 金 に それ ぞ れ 変 更 し,さ らに運 転 免 許 の 再 取 得 を 制 限 す る行 政 罰 を 付 加 し う る よ うに な る。 このGarraud案. は,そ の 後 国 民 議 会 に お い て 可 決 され. るが,そ れ に続 く審 議 が 難 航 し,結 局 成 立 す る こ と はな か っ た。 したが っ て,胎 児 保 護 を め ぐる フ ラ ン スの 状 況 は改 善 され て い る と は言 え な い。 (4)以 上 見 て き た よ う に,フ ラ ン ス に お いて は,刑 法 典 に定 め られ た厳 格 解 釈 原 則 に よ り胎 児 を 人 と見 な す と い う方 向 に は至 って いな い。 ただ, 胎 児 が 生 きて 生 まれ 人 とな っ た後 に,そ れ 以 前 の 行 為 を 原 因 と して 死 亡 す る と い う結 果 が 発 生 したな らば,そ の 子 に対 す る過 失 致 死 罪 の 成 立 は妨 げ られ て いな い。 この 点 につ いて は一 定 の 評 価 を す るべ きで あ る と思 わ れ る が,事 例 が 事 故 直 後 に帝 王 切 開 した と い う比 較 的 短 時 間 で 人 が 生 まれ て く る もの で あ る こ と も十 分 に考 慮 す る必 要 が あ る。 これ を逆 か ら解 釈 す る と, 事 故 の 衝 撃 が 比 較 的 に 小 さ く帝 王 切 開 で 直 ち に 胎 児 を 取 り出 す 必 要 は な か っ たが,そ の 後 胎 児 が 母 体 内で 死 亡 した と い う事 例 に お いて は,同. じ交. 通 事 故 で あ りな が らその 規 模 が 違 うだ けで 胎 児 は人 と見 な され な い と い う. (15)こ. の 法 律 案 に つ き,Garraud議. 員 の 提 出 し た 立 法 提 案 書. (http://www.assemblee-nationale.fr/12/propositions/pionO837.asp:last visited:2012/03/26)を. 参 照 。. 170.
(11) 胎児保護 と罪刑法定主義 結 論 に至 る こ と にな るで あ ろ う。 ま た,人 の 始 期 が いつ な の か と い う こ と につ いて 明 瞭 で な い点 が 議 論 を 混 迷 させ る原 因 で あ った よ う に思 わ れ る。 この 点 は 日本 につ いて も簡 単 に後 で 検 討 す る こ と とす るが,フ. ラ ン スで は. 本 稿 に お いて 取 りあ げ た事 例 か らは子 宮 口か ら露 出 した 前 後 で 人 と して 認 め られ て い る と解 しう るの で はな いだ ろ うか 。 この 時 点 を 過 ぎれ ば,母 体 か ら出て 外 界 との 接 触 が 可 能 にな って お り,そ の 意 味 で は分 か りや す い基 準 だ と言 え る。 よ って,外 界 との 接 触 が 可 能 とな った 段 階 か ら胎 児 は人 と され,そ れ 以 後 で あれ ば前 述 の と お り過 失 致 死 罪 の 肯 定 が 可 能 で あ る と思 わ れ る。. 3我. が 国 の状況. (1)前 述 の と お り,フ ラ ン スで は人 の 始 期 が 我 が 国 よ り相 対 的 に早 く, ま た結 果 時 点 で 客 体 が 存 在 して いれ ば過 失 致 死 傷 罪 が 成 立 す る と考 え られ る⑯。 他 方,我. が 国 の状 況 に つ い て は ど うで あ ろ うか。 以 下 に お いて,①. 人 の 始 期,② 胎 児 傷 害 を め ぐる学 説 の 順 で 概 観 す る こ と と した い。 それ で は,ま ず,簡 単 にで は あ るが,人 の 始 期 につ いて 確 認 す る。 いわ ゆ る露 出説 は母 体 外 へ の露 出を も って 胎 児 は人 にな る とす る見 解 で あ るが, これ は母 体 外 の 意 味 す る と こ ろを ど う理 解 す るか に よ り大 き く処 罰 範 囲 が 異 な る。 す な わ ち,母 体 外 を 子 宮 外 と捉 え るの か,文 字 通 り産 道 を 抜 けて 膣 口の 外 と捉 え るか で あ る。 直 接 攻 撃 可 能 性 の 有 無 と い う基 準 が この 問 題 を 考 え る時 に用 い られ るが,直 接 攻 撃 可 能 性 と い う基 準 か ら は子 宮 口外 に 胎 児 の 頭 が 完 全 に 出 る 「発 露 」 の 時 点 以 降 よ りこれ を 認 め る必 要 が あ る よ. ㈲. 以 上 の 理 解 につ い て は,繰. り返 しに な るが あ くまで も判 例 か ら読 み 取 れ る と. こ ろで あ って,学 説 の 状 況 に つ い て は 本 稿 で は立 ち入 って い な い こ と に留 意 さ れたい。. 171.
(12) 近畿大学法学. 第60巻第1号. う に思 わ れ る。 そ うで な けれ ば,発 露 以 降 産 道 内 に留 ま って い る胎 児 は外 界 か らの 攻 撃 に無 防 備 に さ らされ るだ けで あ る。 この 点,我 が 国 の 学 界 が 母 体 外 の 意 味 す る と こ ろを どの よ う に考 え て き たの か 定 か で はな い。 出産 が 自然 分 娩 で 行 わ れ る こ と は必 然 で はな く,高 齢 妊 娠 ・出産 が 増 え て きつ つ あ る現 代 に お いて は帝 王 切 開 に よ る場 合 も増 え て い るの で はな いだ ろ う か 。 その 際 に も,や は り母 体 外 が ど こか と い う問 題 はわ ず か な が らも生 じ る よ う に思 わ れ る。 それ ゆえ に,母 胎(1の の 包 摂 が 破 れ,そ の 後 の 発 露 の 時 点 を も って,胎 児 は人 とな る と解 す る余 地 が あ りう る よ う に思 わ れ る⑱。 (2)次. に,客 体 が いつ 存 在 して い る必 要 が あ るか と い う問 題 で あ る。 我. が 国 にお い て は,次 に あ げ る4つ の見 解 が あ るよ うに思 われ る。す な わ ち, 犯 罪成 立 に あた って 客 体 の存 在 を いつ求 め るか によ って判 断す る行 為 時説, 作 用 時 説,結 果 時 説 の3つ. と,こ れ と は別 に胎 児 に対 す る傷 害 が 出生 後 に. も及 ん で いれ ば侵 害 を 肯 定 す る結 果 基 準 説 ⑲ の4つ で あ る。 また,こ の 他 に最 高 裁 の 立 場(母 体 傷 害 ・抽 象 的 法 定 符 合 説)が 存 在 す るの で,胎 児 傷 害 を考 え る に あ た って は,こ の5つ の 見 解 を 検 討 す る必 要 が あ る。 ただ, これ らの検 討 に入 る前 に,前 提 と して 確 認 して お か な けれ ばな らな い の は, 胎 児 傷 害 の 類 型 は一 つ で はな い と い う こ とで あ る。 胎 児 の 段 階 で 受 け た傷 害 が 出生 後 に も及 ん で いな けれ ばな らな い点 はす で に確 認 したが,こ の 傷 害 が 出生 後 に も さ らに増 悪 す る場 合 も あれ ば逆 に増 悪 しな い場 合 も考 え ら. ⑰. これ 以 後,「 母 体 」 と 「 母 胎 」 の2つ の 用 語 を 用 い る こ とが あ る。 こ れ は,本 稿 の 解 す る人 の 始 期 に関 して,従. 来 の 説 との 区 別 を 意 識 して 使 用 す る もの で あ. り,母 胎 と は子 宮 口 内 を意 味 す る。 よ って,本 稿 の 立 場 か らは 産 道 内 にあ る胎 児 は 母 胎 外 に存 す るわ けで あ るか ら人 と解 す る こ と にな る。 ㈹. 平 川 宗 信 『刑法 各論 」 有 斐 閣(1995年)37頁. 参 照 。 ま た,同 様 の 見 解 と して,. 岡 上 雅 美 「人 の 始 期 に関 す る い わ ゆ る 陣痛 開始 説 な い し出産 開始 説 に つ い て 」 筑 波 法 政37号(2004年)79頁 ⑲. 参照。. この 結 果 基 準 説 と い う用 語 につ いて は,佐 伯 仁 志 「生 命 の 保 護 」 山 口厚 ほか 『理 論 刑 法 学 の 最 前 線]1」 岩 波 書 店(2006年)21頁. 172. に よ った 。.
(13) 胎児保護 と罪刑法定主義 れ るの で あ り,場 合 分 けが 必 要 にな る。 したが って,増 悪 しな い症 状 固 定 型 と増 悪 す る症 状 悪 化 型 の2つ. に分 け,そ れ ぞ れ の 具 体 的 事 例 と して はサ. リ ドマ イ ド薬 害 の 場 合 が 前 者 で あ り,後 者 に は裁 判 とな った 熊 本 水 俣 病 事 件 が 当て は ま る。 で は,学 説 を検 討 して い き た い。 第1は,行. 為 時 説 ⑳ で あ る。 これ は,. 前 述 の と お り,実 行 行 為 時 点 に客 体 の 存 在 を 要 求 す る立 場 で あ り,行 為 と 客 体 の 同時 存 在 を 重 視 す る。 したが って,本 説 の 帰 結 と して は,症 状 固 定 型 お よ び悪 化 型 の ど ち らに お いて も人 に対 す る罪 は成 立 しな い と い う こ と にな る。 本 説 に対 して は,佐 伯 仁 志 教 授 が 指 摘 され る よ う に 「設 計 ミスで 建 物 が 崩 壊 して 多 数 の 死 亡 者 が 出 た場 合 に,建 物 が 設 計 され た(あ. るいは. 建 築 され た)時 点 で 産 まれ て いな か っ た被 害 者 は業 務 上 過 失 致 死 罪 の 客 体 か ら除 か な け れ ば な らな い とい うの は不 当で あ る」⑫1)と す る批 判 が で き,筆 者 も この 批 判 は的 を 射 て い る と考 え る。 や は り,行 為 と客 体 の 同時 存 在 原 則 はつ ね に維 持 しな けれ ばな らな い もの で はな い。 第2は,作. 用 時 説 ⑳ で あ る。 これ は侵 害 行 為 の 作 用 が 人 に及 ん で いれ ば. よ い とす る立 場 で あ り,本 説 か らも症 状 固 定 型 にお いて 人 に対 す る犯 罪 の 成 立 は肯 定 され な い と言 え よ う。 しか し,も う一 方 の 症 状 悪 化 型 につ いて は人 とな っ た後 に さ らな る増 悪 が 認 め られ るわ けで あ るか ら,人 に対 す る. ⑳. 本 説 を支 持 す る見 解 と して,小 林 憲 太 郎 『刑 法 的 帰 責 」 弘文 堂(2007年)196 頁 以 下 が あ る。 た だ,小 林 教 授 は 最 近 これ に対 す る批 判(佐 伯 仁 志 「生 命 に対 す る罪(2)」法 学 教 室356号(2010年)108頁 明 され た(同 年)250頁. ⑳ ⑳. 以 下 を参 照)に 全 面 的 に 従 う 旨を 表. 「因 果 関 係 に関 す る近 時 の 判 例理 論 に つ い て」立 教 法 学81号(2011. 注 ⑯ 参 照)。. 佐 伯 ・前 掲 注 ⑫ ①110頁。 本 説 を支 持 す る見 解 と して,平 野 龍 一 「 刑 法 に お け る 『出生 」 と 『死 亡 」」 同 『犯 罪 論 の 諸 問 題(下)各 事 件 の 控 訴 審 判 決(福. 論 」 有 斐 閣(1982年)267頁 岡高 判 昭和57・9・6高. に立 つ もの と して 読 め な くはな い。. 173. な ど。 ま た,熊 本 水 俣 病. 刑 集35巻2号85頁)も. この 立 場.
(14) 近畿大学法学. 第60巻第1号. 罪 は肯 定 さ れ る と思 わ れ る㈱。 しか し,佐 伯 教 授 は この作 用 とい う用 語 に つ き 「『人 』 にな っ た後 で 『人 』 に 対 す る新 た な侵 害 が あ れ ば 『人 』 に対 す る罪 が成 立 す る とい う こ とを言 お う と して い る」⑳ と され,胎 児 の段 階 で の 症 状 が 単 に悪 化 しただ けで は作 用 と は言 え な い と され る。 す な わ ち,人 に対 す る罪 の 成 立 は否 定 され る こ と にな る。 この 佐 伯 教 授 の 見 解 に対 して は,母 体 を 介 す る侵 害 の 場 合 につ いて,山. 口教 授 か ら 「胎 児 が 人 とな る一. 部 露 出時 点 か ら母 体 か らの 分 離 時 点 まで の 間 に母 体 を 通 じて 侵 害 が あ り, それ に よ り症 状 の悪 化 が生 じた こ とが 肯 定 され る必 要 が あ る こ とに な る」㈱ との 指 摘 が あ る。 一 方 で,佐 伯 教 授 の 挙 げ られ る母 体 を 介 さな い教 室 事 例 の 場 合 ⑳ で は そ の よ うな 問題 は 存在 しな い と思 わ れ,筆 者 も その よ うな 事 例 に お いて は人 に対 す る罪 の 成 立 に異 論 はな い。 この 立 場 につ いて,筆 者 と して は,佐 伯 教 授 が 主 張 され る よ う に作 用 と い う用 語 の 内部 で さ らな る 場 合 分 けを す る必 要 が ど こ まで あ るの か 疑 問 で あ り,そ れ な らば 山 口教 授 の よ う に症 状 悪 化 型 につ いて は犯 罪 の 成 立 を 肯 定 す るの が 明 快 で あ る よ う に思 わ れ る。 第3は,結. ㈱. 果 時 説 ⑳ で あ る。 これ は作 用 時 説 と 同様 に症 状 固 定 型 につ い. 山 口厚 「コ メ ン ト」 同 ほ か ・前 掲 注 ⑲37頁 も 「症 状 の悪 化 は そ れ 自体 傷 害 に ほか な らず,こ. の意 味 で,人. 用 時 説 か ら は,人. に な った段 階 で そ の症 状 が さ らに悪 化 す れ ば,作. に対 す る罪 の 成 立 を 肯 定 す る ほか な い よ う に思 わ れ るの で あ. る」 と述 べ られ る。 た だ,こ. こで 注意 が必 要 な 点 は,山. 口教 授 は胎 児 傷 害 につ. き消 極 的 立 場 を と られ て い る こ とで あ る。 ⑳ ⑳. 佐 伯 ・前 掲 注 ⑲26頁 。 山 口厚 『刑 法 各 論[第2版]』. 有 斐 閣(2010年)26頁. 。 ま た,そ れ に続 く注 ⑳. で,「 こ う した 立 証 はお そ ら く不 可 能 で あ ろ う。」 と述 べ られ て い る。 ⑳. 佐 伯 ・前 掲 注 ⑳110頁 に挙 げ られ て お り,内 容 と して は出 産 間 近 の 胎 児 の 体 内 に放 射 性 物 質 を 埋 め 込 み,そ. の 子 を そ の 後 放 射 線 被 曝 に よ り死 亡 させ る と い う. もの で あ る。 ⑳. 本 説 を 支 持 す る見 解 と して,金 島 法 学10巻4号(1987年)31頁. 澤 文 雄 「い わ ゆ る胎 児 性 致 死 傷 に つ いて 」 広. 以 下 な ど。 ま た,熊 本 水 俣 病 事 件 の 第1審 判 決/. 174.
(15) 胎児保護 と罪刑法定主義 て は結 果 発 生 時 に人 の 存 在 が な いの で あ るか ら人 に対 す る罪 は肯 定 され な い㈱ が,症 状 悪 化 型 につ い て は ス トレー トに肯 定 す る。 本 説 に対 す る批 判 と して 挙 げ られ るの は,堕 胎 罪 との 関 係 で あ る。 堕 胎 罪 の 行 為 類 型 と して は,母 体 内 で の胎 児 の 死亡 と母 体 外 へ の 排 出 が通 説 と して 考 え られ て い る。 結 果 時 説 を 採 用 した上 で 堕 胎 を 過 失 に よ り行 い,母 体 内で 胎 児 が 死 亡 す れ ば不 可 罰 で あ るの に,母 体 外 で 死 亡 す れ ば人 に対 す る罪 が 成 立 す る こ と に な る。確 か に こ れ を不 均 衡 で あ る と して 問題 に す る の は理 解 で き るが,(最 高 裁 の 見 解 に立 ち母 体 傷 害 を 肯 定 す れ ば別 だ が)過 失 堕 胎 は一 律 に不 可 罰 だ とす る こ と もま た不 均 衡 で あ る よ うに思 わ れ る。き っか け は ど うで あ れ, 外 界 に生 きて 生 まれ て き た子 を 刑 法 的 に保 護 で きな い とす る こ とが 果 た し て 生 命 を 最 高 法 益 と位 置 付 け る刑 法 の 在 り方 と して 承 認 で き るか 疑 問 を 禁 じえ な い。 許 され る範 囲 の 解 釈 の 限 界 を 超 え て 法 の 不 備 を 修 正 す る こ と は 厳 格 解 釈 の 原 則 に反 す る と言 わ ざ るを え な いが,そ の 限 界 内で 最 大 限 の 保 護 を 与 え られ る よ う に手 を 尽 くす の は厳 格 解 釈 の 原 則 にか な う もの で あ る と思 わ れ る⑳。 したが っ て,母 体 内 で胎 児 を過 失 に よ り死 亡 させ る行 為 に. \(熊 本地 判 昭和54・3・22判 時931号6頁)も ㈱. こ の立 場 に立 つ もの で あ る と読 め る。. な お,金 澤 ・前 掲 注 ⑳33頁 は,胎 児 性 致 傷 の 場 合 に は胎 児 に傷 害 が 発 生 して も構 成 要 件 的 結 果 で あ る人 の 傷 害 が い まだ 発 生 して お らず,構. 成要件的結果の. 発 生 は 出生 に よ って もた ら され る と解 す るの が 妥 当 で あ る と され,そ. こか らは. 固 定 型 で も人 に対 す る罪 の 成 立 を 認 あ る と い う結 論 にな る もの と解 され る。 ⑳. この 点,厳 格 解 釈 と い う語 の意 味 す る と こ ろ が重 要 に な る。 厳 格 解 釈 と は類 推 解 釈 を 禁 ず る とい う意 味 で あ り,こ れ は あ る法 規 の 解 釈 と して そ れ が 該 当 し な い こ とが 明 らか な 場 合 に は そ の法 規 に よ って処 罰 して は な らな い とい う意 味 で 理 解 す るの が相 当 で あ る(佐 伯 千 イ 刃 「四 訂 刑 法 講 義(総 論)」 有 斐 閣(1981 年)95頁 参 照)。 この よ うな 理 解 に立 つ 限 り,刑 法 の解 釈 は文 理 解 釈,論 理 解 釈 の み な らず,目. 的論 的解 釈 を も含 め て許 さ れ て い る と い うこ と に な る。 な お,. そ の 「目的 」 と は刑 法 独 自の 目的 で あ り,そ れ に よ って 無 罪 とす るの が 合 理 的 で あれ ば無 罪 と しな けれ ば な らな い(平 野 龍 一 『刑 法総 論1』 有 斐 閣(1972年) 76∼77頁 参 照)。. 175.
(16) 近畿大学法学. 第60巻第1号. つ いて は,そ の 後 の 立 法 的 解 決 を 待 つ ほか な い。 ま た,堕 胎 概 念 を 母 体 内 外 で 胎 児 を 殺 す こ と と い う見 解 か ら典 型 的 な 堕 胎 が す べ て 殺 人 罪 にな る と い う批 判 が あ る⑳。 これ に関 して は,前 述 の とお り,母 体 外 に排 出 され た 胎 児 は生 きて 生 まれ た限 りに お いて 人 で あ る。 したが って,人 で あ る存 在 を死 亡 させ れ ば,当 然 に人 に対 す る罪 が成 立 す る。以 上 の よ うに考 え れ ば, 本 説 の 処 罰 範 囲 が 相 対 的 に一 番 広 く,そ の 意 味 で 胎 児 を 幅 広 く保 護 しう る もの と考 え られ る。 第4に,結. 果 基 準 説 で あ る㊤1)。 本 説 の 特 徴 は,こ れ まで 一 貫 して 保 護 の. 対 象 と され な か っ た症 状 固 定 型 につ いて も保 護 の 対 象 と しう る点 で あ る。 本 説 の 支 持 者 で あ る藤 木 英 雄 博 士 の 言 葉 を 借 りれ ば,こ の こ とが よ く理 解 で き る と思 わ れ る。 す な わ ち,「 傷 つ い た子 ど もを 出生 させ る こ と は,生 まれ た子 ど もを傷 つ け た の と全 く価 値 的 に 同視 して よ い」㈱ と され る ので あ る。本 説 は あ くまで も価 値 的 に 同視 して よい と主 張 さ れ る だ けで あ るか ら, 胎 児 は人 で あ る と明 言 され たわ けで な い。 や は り,そ こ に は厳 格 解 釈 原 則 の 限 界 が あ るの で はな いだ ろ うか 。 人 の 始 期 に関 す る独 立 生 存 可 能 性 説 か らす れ ば あ る一 定 の 期 間 を 過 ぎ た胎 児 は人 で あ る と い う こ と にな る。 しか し,な ぜ 独 立 して 生 存 で き る段 階 まで 成 長 した こ とが 人 と して の 属 性 を 付 与 す るこ とに な るの で あ ろ うか。受 精 し着 床 した後 に 日々成 長 して い る胚 ・ 胎 児 は人 で な いの だ ろ うか 。 この よ う に何 ゆえ に人 を 人 と呼 ぶ の か と い う 問 題 は何 に よ って 決 す べ きか 不 明 な ま まの 恣 意 的 な 線 引 き に よ るか,あ. る. い は フ ラ ン ス民 法 が 宣 言 す る よ う に生 命 の 開 始 時 点 か ら保 護 す るか の ど ち らか しか あ りえ な い と思 わ れ る。 しか し,厳 格 解 釈 を 要 請 す る罪 刑 法 定 主. ⑳ ⑳. 山 口 ・前 掲 注 ㈱25頁 。 本 説 を 支 持 す る見 解 と して,藤 ジ ュ リス ト652号(1977年)82頁. 鋤. 木 英 雄 「胎 児 に対 す る加 害 行 為 と傷 害 の 罪 」 な ど。. 同上。. 176.
(17) 胎児保護 と罪刑法定主義 義 が 存 す る限 り,堕 胎 罪 の 存 在 を 無 視 して 刑 法 を 適 用 す る こ と はで きな い と言 わ ざ るを 得 な い。 その 意 味 で,同 視 す る と い う本 説 の 考 え 方 は ま さ に 限 界 の考 え方 で あ った。 そ れ ゆ え に,「 侵 害 犯 が成 立 す るた め に は,法 益 が 侵害 され て いな い 状 態 が存 在 しな けれ ば な らな い と解 す べ きで あ る」㈹ と い う前 提 に対 す る批 判 もな され て い るの で はな いだ ろ うか 。 最 後 に,最 高 裁 の立 場 で あ る。本 説 の 特 徴 は,母 体 傷 害 を認 め る点 か ら, 胎 児 を ど う扱 うか 考 え る こ とな く母 体 に対 す る犯 罪 が 成 立 す る点 で あ る。 ま た,母 体 傷 害 説 の 建 前 上,母 親 が 自分 自身 に よ る行 為 で 胎 児 を 傷 つ けた 場 合 に は,自 己傷 害 と して 処 罰 が 避 け られ る点 も注 目 に値 す る。 しか し, これ らの メ リ ッ ト以 上 に,デ メ リ ッ トも存 在 す る。 す な わ ち,自 己 堕 胎 罪 の 存 在 が す で に 自 己傷 害 で あ って も犯 罪 にな る場 合 が あ る こ とを 示 して お り,確 か に母 体 と胎 児 は一 体 を 共 有 す る形 にな って い るが 胎 児 は母 胎 の 一・ 部 で はな い。 それ ゆえ に,結 論 と して の 妥 当性 は認 め るべ きか も しれ な い が,前 提 とな る論 理 に妥 当性 が あ る よ う に は思 わ れ な い。 (3)前 節 に お いて 現 在 わ が 国 で 主 張 され て い る5説 につ いて 検 討 して き た。 結 果 犯 の 成 立 に あ た って 重 要 な の は,構 成 要 件 的 結 果 の 発 生 とそ の 発 生 を 惹起 した原 因行 為 との 因 果 関係 で あ る。 この理 解 に立 つ 限 りにお い て, 少 な くと も行 為 時 説 を 採 用 す るべ き理 由 は見 当 た らな い。 また,作 用 と い う概 念 次 第 で 積 極 ・消 極 の 見 解 が 存 在 しう る作 用 時 説 につ いて は,山 口教 授 の 指 摘 され る よ う に基 準 を さ らに細 分 化 す る必 要 が あ るか 疑 問 で あ り, 基 本 的 に は症 状 悪 化 型 につ き積 極 の 方 向 で 理 解 され るべ きで あ る と思 わ れ るの で,そ の 意 味 で は作 用 と客 体 の 同時 存 在 を 原 則 と して 考 え れ ば よ いの で はな いだ ろ うか 。 しか し,そ うで あ るな らば結 論 を 同 じ くす る結 果 時 説 の 立 場 か ら上 記 の 一 般 論 を 理 由 とす る批 判 が な され る と思 わ れ る。 仮 に こ. ⑬. 佐 伯 ・前 掲 注(2①109頁 。. 177.
(18) 近畿大学法学. 第60巻第1号. の 一 般 論 が 正 当で あ るな ら,さ らに議 論 を 進 めて 結 果 時 説 が 支 持 され るべ きで あ る と思 わ れ る。 結 果 時 説 に対 す る前 述 の 批 判 が 指 摘 す る よ う に,結 果 時 説 は厳 格 解 釈 の 限 界 と して 不 可 罰 と しな けれ ばな らな い事 例 を もつ こ と にな るが,そ れ は避 け よ うの な い刑 法 の 限 界 で あ る。 したが って,こ れ を解 決 す るに はGarraud案. の よ うに 過 失 堕 胎 罪 を 刑 法 典 に追 加 す る ほか. な いの で あ る。 次 に,最 高 裁 の 立 場 に対 して は,胎 児 は母 体 の 一 部 で あ る とす る法 的 根 拠 が な く,母 体 と胎 児 は独 立 した別 個 の 存 在 で あ る点 か ら支 持 す る こ とが で きな い。 ま た,結 果 基 準 説 は症 状 固 定 型 に も人 に対 す る罪 の 成 立 を 認 め る点 で 優 れ て い たが,い. まだ 人 で はな い胎 児 を 人 と見 な す と い う危 険 を 冒. して お り,厳 格 解 釈 の 観 点 か らこれ を 容 認 しう るか は若 干 疑 問 で あ る。 し か し,前 述 した よ う に何 を も って 人 を 人 とす るか と い う問 題(す な わ ち, 人 の始 期 を め ぐる 問 題)に つ き一 石 を投 じて お り,今 後 の理 論 の 展 開 に よ って は十 分 に考 え られ る立 場 で あ る よ う に思 わ れ る。. 4胎. 児 保 護 と 罪 刑 法 定 主 義 一 日仏 の 検 討 を 通 して. (1)ま ず,フ. ラ ン ス につ いて,改. めて ま と めて お くこ と に した い。2003. 年 以 前 と2003年 の 判 例 を 比 較 して み る と,明. らか に破 殿 院 は結 果 の 発 生 が. いか な る客 体 に及 ん だ か で 判 断 を 分 け た。 す な わ ち,死 亡 結 果 が 人 に発 生 す れ ば過 失 致 死 罪 の 成 立 を 肯 定 す る。 この 点,胎 児 が いつ か ら人 とな るか が 重 要 にな る。 しか し,判 決 文 か らは判 然 とせ ず,少 な くと も我 が 国 で 言 う露 出説 よ り遅 くはな く,本 稿 で 紹 介 した2006年5月3日. 判 決 が 出産 中の. 事 案 で あ る こ とを 考 え て も 出産 開 始 説 よ り早 い と は思 わ れ な い。 よ って, この 点 は我 が 国 の 発 露 を も って 人 と見 な す と い う見 解 の よ う に 出産 開 始 後 の い ず れ か の 点 に あ る と解 す る ほか な い。 ま た,胎 178. 児期 での加害行為 で.
(19) 胎児保護 と罪刑法定主義 あ って も それ が 原 因 とな って 人 とな っ た後 に死 の 結 果 が 生 じて いれ ば人 に 対 す る罪 を 肯 定 した こ とか ら,現 に存 在 す る客 体 に対 す る危 殆 化 を 要 す る 行 為 時 説 は採 用 され て いな い と思 わ れ る。 そ うで あ るな ら ば,作 用 時 説 な い し結 果 時 説 の立 場 の よ る もの と解 す る こ とが で き る剛。 さ らに,2003年 の 判 例 が 出生 後1時 間 で 死 亡 した事 例 に過 失 致 死 罪 の 成 立 を 肯 定 した こ と に よ り,フ ラ ン スで は いわ ゆ る生 命 保 続 性 の 有 無 は問 わ れ な い と解 す る こ とが で き,こ の 点 は重 要 で あ る。 したが って,子 宮 内で 受 けた 傷 害 に よ り 母 体 外 で 死 亡 した場 合 に は,胎 児 は人 とな って い るわ けで あ るか ら生 命 保 続 可 能 性 の 有 無 に関 係 な く過 失 致 死 罪 を 成 立 させ るの が フ ラ ン スの 見 解 で あ る と言 い う る。 (2)一 方 で,我 が 国 の 最 高 裁 決 定 の 立 場 は,事 案 が12歳9か と い う こ と も あ って,あ. 月での死亡. ま り生 育 可 能 性 の 問 題 を 意 識 して いた と は思 わ れ. な い。 したが って,一 部 露 出後 に生 きて は い るが 間 もな く死 亡 す る こ とが 見 込 まれ る新 生 児 の よ うな 場 合 に も 同 じ く人 に対 す る罪 が 成 立 す るか は曖 昧 で あ る絢。 仮 に これ を否 定 す る立 場 に あ るの で あ れ ば,生 育 可 能 性 の 有 無 が 人 か 否 か を 決 め る基 準 と して さ らに追 加 され る こ と にな り,こ れ は前 述 の と お り疑 問 で あ る。 その 意 味 で は フ ラ ン スの 見 解 を 参 考 にす る こ と は 大 い に あ ろ う。 ま た,胎 児 は母 体 の 一 部 で あ る とす る解 釈 につ いて も,厳 格 解 釈 を 堅 持 す る立 場 か らは再 考 が 求 め られ る と言 わ ざ るを え な い。 そ れ. 鋤. た だ,2003年. の 破 殿 院 判 決 で は,「 事 故 の 衝 撃 に よ り致 命 的 な 傷 害 を 負 わ せ,. そ の 結 果 出 生 後1時 間 で 死 亡 させ た 」 とす る原 審 の 認 定 を是 認 して い る。 した が って,そ. こ か らは破 殿 院 が結 果 時説 よ りの立 場 に あ る と読 め な くは な い。 ま. た,母 体 傷 害 説 は前 述 の とお りそ もそ もフ ラ ンス に お い て は採 用 で きず,結. 果. 基 準 説 は症 状 固 定 型 に も人 に対 す る罪 の成 立 を認 め る 点 で破 殿 院 の 立 場 と相 容 れない。 ㈲. な お,胎 児 傷 害 の事 案 で は な い が,生 育 可 能 性 の あ る胎 児 につ いて 堕 胎 行 為 後 に これ を 放 置 して54時 間 後 に死 亡 させ た もの と して,最 集42巻1号1頁. が あ る。. 179. 決 昭 和63・1・19刑.
(20) 近畿大学法学. 第60巻第1号. ゆえ に,結 果 時 説 あ る い は作 用 時 説 の ど ち らか の 立 場 か らこの 問 題 の 解 決 を考 え るべ きで あ る よ う に思 わ れ る。 しか し,前 述 の と お り,結 果 時 説 も作 用 時 説 も基 本 的 に結 論 に お いて は 同一 に な る㈱。 こ の点,結. 果 犯 の一 般 的理 解 に よ れ ば結 果 時説 の 立 場 が 一. 番 忠 実 で あ り,も っ と も分 か りや す い見 解 で あ る よ う に思 わ れ る。 ま た, 作 用 時 説 の 論 者 か ら(も ち ろん 胎 児 傷 害 自体 の 否 定 論 者 か らも)典 型 的 な 堕 胎 行 為 が 殺 人 にな る との 批 判 が あ っ た。 けれ ど も,こ れ は そ も そ も堕 胎 概 念 を侵 害 犯 的 に解 す る立 場 を 採 る こ とか らの 帰 結 で あ って,堕 胎 概 念 を その よ う に解 さな くて はな らな い理 由 はな い と言 わ な けれ ばな らな い。 確 か に,堕 胎 概 念 の 通 説 的 理 解 は早 期 排 出行 為 と胎 児 殺 で あ って,前 者 は危 険 犯 で あ り後 者 は侵 害 犯 で あ る。 これ が 構 成 要 件 の 在 り方 と して ふ さわ し くな い との 批 判 は十 分 考 え られ る と こ ろで あ るが,判 例 は堕 胎 を あ くまで も早 期 排 出 と い う危 険 犯 と して これ を 捉 え て お り,そ れ との 均 衡 上 母 体 内 で の 胎 児 殺 を 堕 胎 と して 通 説 が 捉 え て い る にす ぎな い。 したが って,こ. う. した通 説 的 理 解 が 高 度 に発 達 した新 生 児 医 療 の 現 実 に合 致 して い るか は疑 問 で あ る⑳。 こ の よ う に考 え る な らば,さ. しあ た って の課 題 は バ ラ ン スの. とれ た堕 胎 概 念 と堕 胎 罪 の 在 り方 を 探 る こ とで あ る。 この 点 につ いて は, フ ラ ンスの 状 況 を 概 観 した際 に触 れ た よ う に,過 失 堕 胎 罪 の 創 設 が 罪 刑 法 定 主 義 の 観 点 か らも有 効 で あ ろ う し,我 が 国 の 堕 胎 罪 の 在 り方 につ いて は フ ラ ンス法 の 状 況 に範 とな るべ き点 が 多 い よ う に思 わ れ る鮒。. ㈱. た だ,作 用 時 説 内 部 で さ ら に人 に対 す る罪 の 成 立 を あ ぐって 対 立 が あ るの は, 前 述 の とお りで あ る。. ⑳. 山 口 ・前 掲 注(2∂20頁の注q5),す な わ ち,「 母 体 外 で の 危 険 惹 起 で 足 り る とす る な ら,均 衡 上,母. 体 内 の 胎 児 に対 す る具 体 的 危 険 の 惹 起 を も処 罰 の 対 象 にす べ. き こ と にな らな い か とい う疑 問が あ る。」 とす る 指摘 は 当 た っ て い る よ う に思 わ れ る。 劔. 末 道 ・前 掲 注(3)書45頁 以 下,同. ・前 掲 注(3)論文(南 山 法 学)57頁. 180. 参照。.
(21) 胎児保護 と罪刑法定主義 (3)最 後 に,日 仏 の 比 較 を す る こ と と した い。 フ ラ ン スで は,露 出 に至 る前 の ど こか の 段 階 で 胎 児 は人 とな り,人 とな った 後 に死 傷 結 果 が 生 じれ ば,過 失 致 死 傷 罪 が 成 立 す る。 逆 を 言 え ば,少 な くと も子 宮 内で 胎 児 が 死 亡 した場 合 に は人 に対 す る犯 罪 が 成 立 す る こ と はな い。 これ は,フ ラ ン ス の 堕 胎 罪(正 確 に は,違 法 な 妊 娠 中絶 の 罪)が 我 が 国 と は異 な って,胎 児 を 保 護 す る規 定 で はな いか らで あ る。 したが って,胎 児 は生 きて 生 まれ る (人 とな る)必 要 が あ る こ とに な る。 しか し,そ の 基 準 は本 稿 で と りあ げ た判 例 か らは定 か で はな か っ た(前 述 の 程 度 に しか 読 み 取 る こ とが で きな か っ た)。 た だ,生. き て 生 まれ た 以 上 は人 と な る の で あ って,そ. の場合 に. は人 に対 す る罪 の 成 立 が 妨 げ られ る こ と はな い。 一 方 で ,我 が 国 で は人 の 始 期 につ いて も見 解 が 複 数 に分 か れ て お り,い つ 客 体 を 要 求 す るか につ いて も 同様 で あ っ た。 本 稿 の 立 場 は フ ラ ン スの 見 解 と ほ ぼ 同様 で あ り,改 めて こ こで 述 べ れ ば,人 の 始 期 につ いて は発 露 を も って 人 とす る見 解 が 妥 当で あ る と思 わ れ,客 体 の 要 求 時 期 と して は結 果 時 説 を 採 用 す る。 まず,発 露 を も って 人 とす る見 解 につ いて は,直 接 攻 撃 可 能 性 と い う観 点 か ら産 道 内 に あ る人 は疑 いな く直 接 攻 撃 の 対 象 とな るの で あ り,ま た用 語 法 の 観 点 か らも妥 当で あ る と思 わ れ る。 す な わ ち,胎 児 と は母 胎 内の 子 を 意 味 す るの で あ って,一 度 母 胎 か ら娩 出 され れ ば,そ れ は も は や胎 児 とす る こ とは で きな い紛。 母 胎 外 に あ る もの は人 に な るの で. ㈲. す で に,岡 上 ・前 掲 注 ㈹78頁 が辞 書 の定 義 を 引用 し,同88∼89頁. で は罪 刑 法. 定 主 義 との 関 連 とい う節 を 設 けて,日 常 用 語 の観 点 か ら,出 産 過 程 にあ る子 は 胎 児 と い う段 階 を 離 れ て 別 の 段 階 にあ る と述 べ られ て い る。 こ こ で,改 め て 本 稿 に お い て も辞 書 的 定 義(以 (1998年)に. 下 で は,新 村 出編 『広 辞 苑. 第五 版」岩波書 店. よ る)に つ いて 触 れ れ ば,胎 児 とは 「哺 乳 類 の 母 胎 内 で 生 育 中 の 幼. 体 」 と定 義 され,こ. の 「母 胎 」 の 「胎」 とは す で に本 稿 に お い て 定 義 した の と. 同 様 に 「子 宮 」 の 意 味 で あ る。 した が っ て,岡 上 教 授 も言 わ れ る よ うに,胎 児 と は母 胎 内 の 子 で あ って,そ. れ は 子 宮 内 に あ る存 在 を い う とす るの が 日本 語 の. 理 解 で あ る よ う に思 わ れ る。. 181.
(22) 近畿大学法学. 第60巻第1号. あ る。 次 に,要 求 時 期 につ いて は,行 為 時 説,結 果 基 準 説,母 体 傷 害 説 の 抱 え る問 題 につ いて は前 述 した と お りで あ り,厳 格 解 釈 原 則 か らも結 果 時 説 あ る い は作 用 時 説 が 妥 当で あ る と思 わ れ る。 しか し,こ れ らの 見 解 は結 論 に お いて 同一 で あ り,そ れ な らば結 果 犯 の 理 解 に忠 実 な 結 果 時 説 が 妥 当 で な い と され る理 由 はな い もの と思 わ れ る。 本 稿 の 立 場 以 外 に も この2つ の 問 題 の 組 み 合 わ せ に よ って,さ. ま ざ まな. 結 論 が 生 じる こ と にな る と思 わ れ る。 本 稿 で は,前 節 で 破 殿 院 と最 高 裁 の 立 場 につ いて 若 干 の 比 較 を 行 っ た。 最 高 裁 は一 部 露 出の 段 階 で 胎 児 は人 と な り,胎 児 段 階 で 負 っ た障 害 が 原 因 で 死 亡 したな らば,人 に対 す る罪 が 成 立 す る と い う結 論 で あ っ た。 こ こか らは生 育 可 能 性 の 有 無 につ いて の 判 断 が 見 え ず,生 育 可 能 性 を 問 わ な い と い う前 提 が な けれ ば,破 殿 院 の 射 程 よ りは狭 い と い う結 論 に至 る こ と にな る。 ま た,一 部 露 出を 要 求 す る立 場 か らは,フ ラ ン スの よ うな 帝 王 切 開 の 事 例 で は子 宮 が 切 り開 か れ た時 点 で 足 りるの か,子 宮 か ら母体 外 に 出 る こ と まで を 要求 す る のか は明 らか で な く, それ らは非 常 に近 接 して い るか らあ ま り違 い はな いの か も しれ な いが 明 確 な 基 準 が 求 め られ そ うで あ る。. 5お. わ り に. 胎 児 保 護 を 考 え る に あ た り,近 代 刑 法 の 大 原 則 で あ る罪 刑 法 定 主 義 の 存 在 は我 々 に冷 静 な 議 論 を 促 す と と も に避 け られ な い 巨大 な 障 壁 で あ る。 結 果 の 重 大 性 に 目を 転 じれ ば結 果 基 準 説 の よ うな 考 え 方 は非 常 に魅 力 的 で あ るが,そ れ に 目を 奪 わ れ る こ とが あ って はな らな い。 司 法 府 に よ る法 の 創 造 は我 が 国 に お いて は法 の 拡 張 解 釈 と い う 口実 の も と に行 わ れ て き た。 し か し,そ れ は本 来 立 法 府 の 任 務 で あ る。 拡 張 解 釈 を 許 容 す る こ と 自体 は問 題 で な いが,柔 軟 す ぎ る法 解 釈 は三 権 分 立 を 侵 す こ と にな りか ね な い。 刑 182.
(23) 胎児保護 と罪刑法定主義 法 の 謙 抑 性 や 人 権 保 障 と い う罪 刑 法 定 主 義 の 基 本 原 理 か ら,許 され る法 解 釈 を 常 に模 索 しな けれ ばな らな いの で あ る。 それ ゆえ に,不 可 罰 と しな け れ ばな らな い事 例 が あ る こ とを 不 均 衡 だ と批 判 す る こ と はで きな いの で は な いだ ろ うか 。 侵 害 され た被 害 者 の 法 益 に配 慮 す る こ と は も ち ろん で あ る が 被 告 人 の 人 権 も公 平 に保 障 す る こ とを 求 め るの が 罪 刑 法 定 主 義 で あ る。 刑 法 の 謙 抑 性 か ら生 ず る疑 義 が 裁 判 所 に よ り示 され た な ら ば,そ れ は直 ち に立 法 府 に よ り熟 慮 され な けれ ばな らな い。 したが って,不 可 罰 とす る ほ か な い と した過 失 に よ る母 体 内で の 胎 児 の 死 亡 は立 法 府 に よ る新 た な 立 法 を 待 つ ほか な いが,そ れ 以 外 の 類 型 につ いて は結 果 時 説 の 処 罰 範 囲 と され て よ い。 ま た,結 果 時 説 か ら保 護 で きな か っ た症 状 固 定 型 事 例 につ いて も 同様 に,立 法 府 に よ る手 当を 期 待 す る こ とが 厳 格 解 釈 原 則 か ら は望 ま しい 態 度 で あ る よ う に思 わ れ るの で あ る。 最 後 に,本 稿 の 中 に は い くつ か 課 題 と して 残 され て い る もの が あ った の で,そ れ を 確 認 した い。 第1に,堕. 胎 概 念 と堕 胎 罪 の 在 り方 につ いて で あ. る。 本 稿 で 扱 っ た フ ラ ン ス につ いて 引 き続 き フ ォ ロー して い くこ と は重 要 で あ るが,も. う一 方 で 胎 児 殺 を殺 人 とす る ア メ リカ の動 向㈲ も探 り,こ の. 問 題 を 考 え る手 が か りと した い。 第2に,人. の 始 期 の 問 題 で あ る。 受 精 時. か ら出生 を経 て 死 亡 に至 る まで 人 の 生 命 は絶 え間 な く連 続 した存 在 で あ り, これ を どの 段 階 か ら人 と して 保 護 す るの か は重 要 な 問 題 で あ る。 た だ,保 護 客 体 は人 しか あ りえ な いわ けで はな く,人 で な い生 命 もそ れ に準 じた 扱 いを す る必 要 が あ り,段 階 的 な 保 護 の 在 り方 を 模 索 す る必 要 が あ る。 最 も 原 初 の 形 態 で あ る(凍 結)受 精 卵 か ら最 も人 に近 い胎 児 まで と ヒ ト生 命 体 は幅 広 く存 在 し,そ れ ぞ れ が 直 面 す る危 険 は全 く異 な る と思 わ れ る。 第3. ω. 全 米 の 各 州 は も ち ろ ん,近 れ る 連 邦 法 が 成 立 し,運. 時UnbornVictimsofViolenceActと. 用 され て い る。. 183. 呼ば.
(24) 近畿大学法学. 第60巻第1号. に,こ の 問 題 が 日常 生 活 に及 ぼす 影 響 は広 範 にわ た り,医 療 現 場,交 通 事 故 な どが その 典 型 と い う こ と にな るが,処 罰 範 囲 の 制 限 を いか に して 図 っ て い くの か も重 要 な 課 題 で あ る。 この 他 に も課 題 は あ る と思 わ れ るが,一 つ ず つ 検 討 して い く こ と と し た い 。. 追. 記 本 稿 を 脱 稿 した 後,京. 都 府 亀 岡 市 にお い て 無 免 許 運 転 の 少 年 が 運 転 す る乗 用 車 が. 通 学 中の 児 童 らの 列 に突 入 し,10人 が 死 傷 す る とい う重 大 事 故 が 発 生 した(2012年 4月23日. 毎 日jpニ. ュー ス:. http://mainichi.jp/select/news/20120423kOOOOeO40123000c.htmllastvisited:2012/ 4/25)。 この 事 故 にお いて 死 亡 した 被 害 者 の 中 に は,妊 娠7か 月 の 妊 婦 が 含 まれ て お り,そ の 胎 児 の死 亡 も確 認 さ れ た と の報 道 が な さ れ た(同. 日の 毎 日jpニ ュー ス:. http://mainichi.jp/select/news/20120423kOOOOeO40219000c.htmllastvisited:2012/ 4/25)。 この 胎 児 につ いて 考 え て み る と,緊 急 帝 王 切 開 に よ って 胎 児 が 子 宮 外 に取 り 出 され て そ の 後 死 亡 した の で あれ ば,本 稿 の 立 場 か ら は この 胎 児 も被 害 者(す な わ ち,人)と. して認 め られ て よ い。 この 点 は報 道 等 か ら定 か で な く,仮 に子 宮 内 で す. で に死 亡 して いた と い う こ とで あれ ば,こ の 胎 児 は 胎 児 と して しか 扱 わ れ な い とい う こ と にな る。 た だ,妊 娠7か. 月 とい う こ とか ら,独 立 生 存 可 能 性 説 に よれ ば この. 胎 児 を 人 と見 な す こ とが で き る と思 わ れ る。 同説 は,母 体 保 護 法 が 人 工 妊 娠 中 絶 を 許 容 して い る期 間 を 越 え た 胎 児 は人 で あ る とす る も ので あ り,現 在 は妊 娠22週 以 降 の 胎 児 が 人 とな る と され る。 しか しな が ら,同 説 は 本 稿 の 主 題 で あ る罪 刑 法 定 主 義 との 関 係 か ら支 持 で きな いた め,本. 稿 にお い て 検 討 しな か った とい う経 緯 が あ る。. 本 稿 にお いて 確 認 した よ う に,不 意 打 ち を禁 ず る,す な わ ち,国 民 に対 して 法 的 評 価 の 予 測 可 能 性 を 保 障 す るた め に刑 罰 法 規 を 厳 格 に解 釈 す る必 要 が あ る。 そ の 際 に 重 要 にな って くるの は,一 般 人 にそ の よ うな 用 語 法 が 可 能 か ど うか とい う こ とで あ る。 した が っ て,本 稿 に お い て 指摘 した よ うに,い. まだ 母 胎 内 にあ る胎 児 を 人 で あ. る と考 え る と い う感 覚 は一 般 的 な 日本 語 の理 解 か らは乖 離 して い る と言 わ ざ るを え ず,独 立 生 存 可 能 性 説 は学 説 と して傾 聴 に値 す る と して も,支 持 す る こ と はで きな い。 こ の よ う に考 え る と,や は り この 問題 は立 法 に よ る解 決 に委 ね ざる を え ず,立 法 府 の 熟 慮 が 期 待 され る と こ ろで あ る。. 184.
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