<判例研究>訴因変更手続と公訴時効停止効--最決平成18年11月20日刑集60巻9号696頁
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(2) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 日),右 訴 因 変 更 請 求 につ い て,主 任 弁 護 人 に異 議 が な い こ とを確 認 した上 で,こ れ を 許 可 す る決 定 を下 した。 す な わ ち,こ の設 階 で,検 察 官 及 び裁 判 所 は,出 資 取 締 法5条2項. 違 反 の行 為 が反 復 累 行 して実 行 さ れ た場 合,. これ ら は包 括 一 罪 の 関 係 に あ り,そ れ ゆ え 公 訴 事 実 の 単 一 性 が 肯 定 さ れ る,と 判 断 した わ けで あ る。 そ の上 で,公 判 に お い て,訴 因変 更 請 求 書 の 朗 読,訴 因変 更 後 の 公訴 事 実 につ いて の 罪 状 認 否,弁 護 人 に よ る意 見 陳 述, 検 察 官 に よ る冒 頭 陳 述 を 経 て,検 察 官 請 求 証 拠 の取 調 が 行 われ た。 同 年4月7日,本. 件 は,他 の関 連 事 件 と併 合 して 審 判 す る た め,福 岡地. 裁 久留 米 支 部 に係 属 中 の 事 件 と併 合 され,以 後,同 支 部 が 審 判 す る こ とと な った。 裁 判 は,平 成15年3月11日. に結 審 し,判 決 宣 告 期 日が 同年6月10. 日 に指定 され た。 と こ ろが,福 岡 地 裁 久 留 米 支 部 は,右 判 決 宣 告 予 定 期 日 に職 権 で弁 論 を 再 開 す る こ とを 決 定 し,公 判 期 日外 に検 察 官 及 び弁 護 人 の 双 方 か ら本 件 訴 因 変 更 許 可 決 定 の 適 法 性 及 び公 訴 時 効 の 点 につ いて 意 見 を 聴 い た 上 で,同 年9月16日(第35回. 公 判 期 日),当 初 の訴 因 と追 加 分 の 訴. 因 との 間 に は 公訴 事 実 の単 一 性 が 欠 け るた め 本 件 訴 因 変 更 許 可 決 定 は不 適 法 で あ る との理 由 に よ り,訴 因 変 更 許 可 決 定 及 び 追 加 分 の 訴 因 にか か る証 拠 に 関す る証 拠 採 用 決 定 を取 消 す 決 定 を下 した。 検 察 官 は,こ れ を受 け てi同 年10月9日,右. 訴 因変更許可取消決定 によ. り審 判 対 象 か ら除外 され た追 加 分 の訴 因 に つ い て,こ れ を 公 訴 事 実 と して 改 あ て福 岡地 裁 久 留 米 支 部 に公 訴 提 起(追 起 訴)し. た。 追 起 訴 分 の 訴 因 は. 当初 の 訴 因 との 間 で弁 論 併 合 され,同 年1ユ月11日(第36回. 公 判 期 日),起. 訴 状 朗 読,罪 状 認 否,検 察 官 冒頭 陳述,証 拠 調 が行 わ れ た。 被 告 人 は,追 起 訴 分 の公 訴 事 実 を認 め た が,弁 護 人 は,そ の 事 実 自体 は争 わ な い もの の, 公 訴 時 効 完 成 を理 由 に免 訴 判 決 を求 め る主 張 を行 った。 以 上 の経 緯 を経 て,福 月27日 刑 集60巻9号701頁. 岡地 裁 久 留 米 支 部(福 に掲 載)は,当 一254一. 岡地 久 留 米 支 判 平 成16年1. 初 の 訴 因(1件. の 出 資 取 締 法5.
(3) 訴 因変更手続 と公訴 時効停止 効 条2項 違 反 及 び詐 欺 罪 等 そ の余 の罪)に つ い て有 罪 判 決(懲 役4年,罰. 金. 100万 円)を 下 した が,追 起 訴 分 の 訴 因 につ い て は 公 訴 時 効 を 理 由 に免 訴 と した 。 これ に対 し,検 察 官 が 控 訴 した と ころ,福 岡高 裁(福 18年1月19日. 刑 集60巻9号732頁. に掲 載)は,追. 岡 高判 平 成. 起 訴 分 の 訴 因 につ い て も. 公 訴 時 効 は成 立 して お らず それ ゆえ 公 訴 提 起 は有 効 で あ る との理 由 で,原 判 決 破 棄 自判 し,追 起 訴 分 の 訴 因 につ いて も有 罪 認 定 に取 込 ん だ(懲 役4 年,罰 金200万 円)。 一 審 判 決 と原 判 決 と は,① 出資 取 締 法5条2項. の行 為. が 反 復 累 行 して 実 行 され た場 合 の罪 数 論,② 本 件 に お け る訴 因 変 更 請 求 及 び 同 許 可 決 定 の 違 法 性 につ いて は判 断 が 一 致 して い るが,③ 公 訴 時 効 の成 否 に関 して 判 断 が 分 か れ た 。 原 判 決 に対 し,弁 護 人 は,公 訴 時 効 停 止 効 に関 す る法 令 解 釈 の違 反 等 を 主 張 し,上 告 を 提 起 した 。 最 高 裁 は,要 旨以 下 の よ う に判 示 し,上 告 を棄 却 した。. 決 定要 旨. 「本 件 出 資法5条2項. 違 反 の 各 行 為 は,個. 々 の制 限超 過 利 息 受 領 行 為 ご. と に一 罪 が成 立 し,併 合 罪 と して処 断 す べ き もの で あ るか ら(引 用 判 例 省 略),検 察 官 と して は,前 記 訴 因 変 更 請 求 に係 る事 実 を訴 追 す る に は,訴 因 変 更 請 求 で は な く追 起 訴 の手 続 に よ る べ き で あ った。 しか し,検 察 官 にお い て,訴 因変 更 請 求 書 を裁 判 所 に提 出 す る こ とに よ り,そ の請 求 に 係 る特 定 の事 実 に対 す る訴 追 意 思 を表 明 した もの とみ られ る か ら,そ の 時 点 で 刑 訴 法254条1項. に準 じて 公 訴 時効 の 進 行 が 停 止 す る と解 す るの が 相 当 で あ. る。 したが って,前 記 訴 因 変 更 請 求 に係 る事 実 につ い て公 訴 時効 が完 成 し て いな い と した原 判 断 は結 論 に お い て正 当 で あ る。」. 一255一.
(4) 近畿大学法学. 究. 研. 1.制. 第55巻 第4号. 限 超 過 利 息 受領 行 為 の 罪数. 本 件 は,出 資 取 締 法5条2項. 違 反 の行 為 が反 復 累行 して実 行 され た 場 合. の罪 数 論 が,公 訴 事 実 の 同一 性 ・単 一 性 の 判 断 に影 響 を与 え た事 案 で あ る。 従 っ て,ま ず こ の罪 数 問題 に つ い て検 討 す る。 (1)包 括 一 罪 説 制 限 超 過 利 息 受 領 行 為 が 反 復 累 行 して実 行 さ れ た場 合,こ. れ らの行 為 は. いわ ゆ る 「営 業 犯 」(2)として 包 括 一 罪 の関 係 に あ る と理 解 す る見 解 が あ る。 例 え ば,福 岡 高 宮 崎 支 判 昭 和52年6月24日(刑. 集32巻5号1052頁. に掲 載,. 後 掲 最 判 昭 和53年 の 控 訴 審 判 決)は,5条1項. 違 反 の行 為(当 時 ま だ2項. はな か った)に つ い て,「各 所 為 は犯 行 の 目的 及 び態 様 か らみて 所 謂 営 業 行 為 で あ り,包 括 して 前 記 法 条 に該 当す る一 個 の 犯 罪 と評 価 す べ き もの で あ る」 と判 示 して い る。 この包 括 一 罪 説 は,特 に昭 和58年 法 改 正 に よ り出資 取 締 法5条2項 入 され,1項. が導. とは 異 な り,「 業 と して」 との 文 言 が 規 定 され た こ とか ら,. 学 説 上 も有 力 に主 張 され る に至 った 。 例 え ば,小 田部 胤 明(3)は,後 掲 最 判 昭和53年 が本 犯 罪 類 型 は業 と して 実行 され た こ とを 要件 と して いな い点 を 理 由 と して挙 げ て い る点 か らい わ ば反 対 推 論 し,2項. 違 反 に関 して そ の 理. は通 用 しな い と して,営 業 犯 と して包 括 一 罪 の 関係 が認 め られ るべ き と主 張 す る。 芝 原 邦CiC(4)も,特 段 の説 明 な く,1項. 違 反 の行 為 が反 復 累 行 して. (2)田 宮 裕 「判 例 解説 」刑 法 百 選 総 論1第2版192頁(1984年)は,包. 括一罪 にお. け る 「接 続 犯 」 の成 否 と して問 題 設 定 して い る。 (3)小. 田部 胤 明 『出 資 の受 入 れ,預 か り金 及 び 金 利 等 の 取 締 りに関 す る法 律 と判. 例 の解 説 。増 補 第5版 』164頁(2004年,東. 洋 企 画)。. (4)芝 原 邦 爾 「出 資 法 を め ぐ る法 解 釈 上 の 諸 問 題 」『刑 事 法 学 の課 題 と展 望 一 一256一. 香/.
(5) 訴 因変更手続 と公訴 時効停止効 実 行 され た場 合 は併 合 罪 で あ る が,2項. 違 反 の行 為 が反 復 累行 して実 行 さ. れ た 場 合 は営 業 犯 と して包 括 一 罪 とな る と主 張 す る。 近 時,只 木 誠(5)も, 「業 と して」 との 文言 は 同 種 行 為 の 反 復 累 行 性 を 予 定 す る もの で あ る こ と, 1項 と2項 とで 制 限 利 率 が 大 幅 に異 な る こ とか らそ もそ も違 法 性 に差 異 が あ り,法 定 刑 が 同 じで あ る こ と は2項 を併 合 罪 と解 釈 す べ き理 由 に は な ら な い こ とを 挙 げ,包 括 一 罪 説 を 支 持 して い る。 (2)併 合 罪 説(判 例 理 論) 上 述 の 包 括 一 罪 説 に対 し,裁 判 例 で は,併 合 罪 説 が 支 配 的 見 解 と な って い る。 この 問 題 につ いて,最 高 裁 と して 初 め て 判 断 を 下 した最 判 昭 和53年 7月7日. 刑 集32巻5号1011頁. は,出 資 取 締 法5条1項. に所 定 の割 合 を超 え. る利 率 で 金 銭 消 費 貸 借 契 約 を 締 結 しr即 時 に一 日分 の 利 息 を 受 取 る態 様 (い わ ゆ る利 息 天 引契 約)の 行 為 が 反 復 累 行 して 実 行 され た と い う事 案 に お い て,以 下 の とお り判 示 し,包 括 一 罪 の 関 係 に あ る と した 原 判 決(前 掲 福 岡 高 宮 崎 支 判 昭和52年)を. 「法5条1項. 破 棄 し,各 行 為 は併 合 罪 の 関 係 に あ る と した。. は,金 銭 の 貸 付 を行 う者 が 所 定 の 割 合 を 超 え る 利 息 の 契 約 を し又. は こ れ を超 え る 利 息 を 受 領 す る行 為 を 処 罰 す る規 定 で あ る と ころ,そ の 立 法 趣 旨 は い わ ゆ る高 金 利 を 取 り締 ま って 健 全 な 金 融 秩 序 の 保 持 に資 す る こ と に あ り,業 と して行 う こ とが 要 件 と され て いな いな ど右 罰 則 が そ の性 質 上 同 種 行 為 の無 制 約 的 な反 覆 累 行 を 予 定 して い る と は考 え られ な い。 した が って,法5条 1項 違 反 の罪 が反 覆 累 行 され た 場 合 に は,特 段 の事 情 の な い 限 り,個 々 の契 約 又 は受 領 ご と に一 罪 が 成 立 し,併 合 罪 と して 処 断 す べ き で あ る。 原 判 決 は本 件 各 所 為 が い わ ゆ る営 業 行 為 と して され た こ とを 理 由 に包 括 して一 罪 と評 価 す べ \ 川 達 夫 博 士 古 稀 祝 賀 』359,374頁(1996年,成 文 を 『経 済 刑 法 研 究上 巻』(2005年,有. 文 堂)。 も っと も,芝 原 は,右 論. 斐 閣)に 所 収 す る際,該 当箇 所 の 記述 を. 削 除 して い る。 (5)只 木 誠 「判 例 解 説 」 平 成17年 重 判170頁(2006年)。 一257一.
(6) 近畿大学法学. 第55巻第4号. き もの と して い るの で あ るが,同 項 違 反 の罪 に お け るよ うに 営 業 行 為 と して 反 覆 累 行 さ れ る こ と 自体 が 行 為 の 悪 質 性 を 著 し く増 大 さ せ る もの で あ る場 合 に は,営 業 行 為 と して され た こ と を もっ て包 括 的 な 評 価 を す べ き事 由 とす るの は 相 当 で な い と解 され る。 記 録 を調 べ て も,本 件 各所 為 を一 罪 と評 価 す べ き特 段 の事 情 は認 め られ な い。」(下 線 辻 本,以 下 同 じ). も っ と も,そ の 後,前 述 の とお り昭 和58年 改 正 に よ り2項 が 導 入 され, そ こ で は 「業 と して」 と規 定 され た こ とか ら,右 最 判 昭 和53年 の 射 程 範 囲 が 問題 とな って い た。 最 高 裁 は,最 決 平 成17年8月1日. 刑 集59巻6号676. 頁 に お い て,貸 金 業 者 が業 と して 反 復 累 行 して 制 限 超 過 利 息 受 領 行 為 を 実 行 して い た事 案 につ い て,以 下 の とお り判 示 し,1項. だ け で な く,2項. 違. 反 の場 合 も各 行 為 は併 合 罪 の 関係 に あ る もの と判 示 した。. 「出資 法5条1項. に違 反 す る行 為 が 反 復 累 行 さ れ た 場 合 に は,特 段 の 事 情 の な. い限 り,個 々 の契 約 又 は受 領 ご とに 一 罪 が 成 立 し,併 合 罪 と して処 断 す べ き と こ ろ(引 用 判 例 省 略),同 条2項. は,金 銭 の貸 付 け を行 う者 が 業 と して 金銭 の 貸. 付 けを 行 う場 合 の制 限利 率 を 同 条1項 の 場 合 よ り も低 く定 め た もの にす ぎ な い こ とが,各 規 定 の 文 言 や法 定 刑 の対 比 に よ って 明 らか で あ り,同 条2項. に違 反. す る行 為 が 反 復 累 行 さ れ た場 合 も,特 段 の 事情 の な い 限 り,個 々 の契 約 又 は受 領 ご とに 一 罪 が 成 立 し,併 合 罪 と して 処 断 す べ き もの と解 され る。」. この よ う に して,最 高 裁 判 例 の 積 重 ね に よ り,出 資 取 締 法 に違 反 す る制 限 超過 利 息受 領 行 為 が 反 復 累 行 して 実 行 され た 場 合,各 行 為 は併 合 罪 の関 係 に あ る もの との 見 解 が,裁 判 実 務 にお い て 支 配 的 見 解 とな った 。 こ の よ うな 見 解 は,前 掲 最 判 昭 和53年 が 下 され た 当 時 か ら,「 実 務 の 普 通 の 扱 い」(6)と な って い た と いわ れ,実 務 に ス ム ー ズ に 浸 透 して い る と い って よ 一258一.
(7) 訴 因変更手続 と公訴 時効停止 効 いo も っ と も,右 両 判 例 の射 程 範 囲 に つ いて,「 特 段 の 事 情 」 の 存 在 が 留 保 事 項 と して 挙 げ られ て い る こ とが 注 目 され る。 こ の特 段 の事 情 につ い て, 昭 和53年 判 決 の 調 査 官 解 説(佐 藤 文 哉)は,「. 例 え ば,貸 金 を業 と しな い. 者 が 特 定 の 人 に特 定 の 目的 の も と に短 期 間 に反 復 して 貸 付 を した よ うな場 合」 を挙 げ,平 成17年 決 定 の調 査 官 解 説(藤 井 敏 明(7))は,「 例 え ば,1個 の貸 付 に 基 づ い て,複 数 回 にわ た る制 限 超 過 利 息 の 受 領 行 為 が 行 わ れ て い る よ うな場 合 」 を挙 げ,そ れ ぞ れ,貸 付 け ご と に包 括 して 一 罪 とす る余 地 を残 した 趣 旨で あ る と解 説 して い る(8)。例 え ば,福 岡高 判 平 成11年6月1 日判 時1687号154頁 は,1個. の 金 銭 消 費 貸 借 契 約 か ら複 数 回 の 受 領 行 為 が. 行 わ れ た事 例 につ い て,「 単 一 の 犯 意 の もと にな され た 一 連 の行 為 と して, 各 貸 付 け ご と に包 括 一 罪 と して評 価 す る の が相 当」 で あ る と判 断 して い る が,こ. の判 断 は,最 判 昭 和53年 の事 例(1個. の契 約 か ら1個 の受 領 行 為 の. み が 認 定 され た場 合)と 異 な る もの で あ り,右 最 判 の考 え方 に 矛盾 す る も の で はな い と説 明 して い る。 ま た,東 京 高 判 平 成16年11月17日(刑 6号710頁 に掲 載,前 掲 最 決 平 成17年 の控 訴 審 判 決)は,「. 集59巻. 複 数 の超 過 利 息. 受 領 行 為 が1個 の 貸 付 け に対 す る利 息 の 受 領 と して 日時 を異 に して さ れ た 場 合 な ど には,そ の 連 続 性,受 領 原 因 の 同 一 性,受 領 方 法 の異 同等 を総 合 考 慮 して,こ れ を包 括 評 価 して1罪. とす る こ とは 相 当 で あ[る]」 と判 示 し,. 同様 の 見解 を示 して い る。 上 述 の判 例 理 論 を ま とめ る と,以 下 の テ ー ゼ が 導 か れ る。 す な わ ち,出 資取 締 法 に定 め られ た 割合 を超 過 す る 利 息 を 含 む 金 銭 消 費 貸 借 契 約 の 締 結 (6)佐 藤 文 哉 「判 例 解 説 」 最 判 解 昭 和53年 刑 事 篇289,296頁(1982年)。 (7)藤 井 敏 明 「判 例 解 説 」 曹 時59巻4号274,284頁(2007年)。 (8)同. 旨の 見 解 と して,上 垣 猛 「出 資 の受 入,預. り金 及 び 金 利 等 の取 締 等 に 関 す. る法 律 」 西 原 他 編 『判 例 刑 法 研 究 第8巻 特 別 刑 法 の 罪 』35,69頁(1981年,有 斐 閣),芝. 原(前 掲 注(4))『経 済 刑 法 研 究 上 巻 』402頁 。 一259一.
(8) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 又 は そ の受 領 が 反 復 継 続 され た場 合,① 個 々 の貸 付 契 約 を基 準 に一 罪 が成 立 す る(契 約 と受 領 と は包 括 一 罪),② 複 数 の契 約 及 び そ れ に伴 う受 領 行 為 は,契 約 ご と に併 合 罪 の関 係 に な る。 (3)小. 括. 上 述 の とお り,判 例 実 務 は,右 テ ーゼ で 固 ま って い る と い っ て よ い。 本 件 で も,一 審 判 決 が,「個 々の 貸 付 契 約 と それ に対 応 す る受 領 ご と に一 罪 が 成 立 し,そ れ が 複 数 あ る と き は併 合 罪 の 関 係 に立 つ 」 と説 明 して い る。 私 も,出 資 取締 法違 反(制 限 超 過 利 息 受 領 行 為)が 反 復 累 行 して 実 行 され た 場 合 の罪 数 処理 につ い て,基 本 的 に,契 約 ご と にそ れ に伴 う受 領 行 為 を含 め て一 罪 が 成 立 し,複 数 の 契 約 及 びそ れ に伴 う利 息 受 領 行 為 は各 々併 合 罪 の 関係 にあ る,と の結 論 に賛 成 す る。 営 業 犯 とは,業. と して一 定 の 同 種 行 為 を 反 復 す る こ とを 内 容 とす る職 業. 犯 の うち これ に財 産 上 の 利益 を 得 る 目的 を 伴 う もの を い う。 同 一 構 成 要 件 を充 足 す る数 個 の行 為 が あ る場 合 に営 業 犯(集 合 犯)と. して 一 個 の 罰 条 に. よ って一 回 的 に評 価 で き るか は,行 為 相 互 の 関連 性 及 び 構 成 要 件 自体 の 性 質 上 行 為 の違 法 内容 が 当該 罰 条 の 予定 す る違 法 内容 の 範 囲 内 の もの で あ る とき に認 め られ る⑨。 出資 取 締 法5条1項. と2項 の 法 定 刑 は等 し く,そ の. 罪 数 判 断 に お い て は統 一 的 に理 解 され な けれ ば な らな い。 最 判 昭和53年 に よ り1項 の解 釈 と して展 開 され た 「営 業 行 為 と して反 覆 累行 され る こ と 自 体 が 行 為 の悪 質 性 を著 し く増 大 させ る もの で あ る場 合 に は,営 業 行 為 と し て され た こ とを も って包 括 的 な評 価 をす べ き事 由 とす る の は相 当 で な い」 と の基 礎 付 け は妥 当で あ る と解 せ られ る こ とか ら,こ れ を2項 の解 釈 に も (9)虫 明 満 『包 括 一 罪 の研 究』238頁(1992年,成 罪(4・. 完)」 香 川5巻2号(1985年))。. 政 研 究7巻2号141,150頁(2003年)は,集. 文 堂 。 初 出 「法 条 競 合 と包 括 一. な お,中 島広 樹 「集 合 犯 概 念 」 乎 成 法 合 犯 の 歴 史 的 概 観 か ら,複 数 行 為. の 「予 定 」 で は な く 「前 提 」 と され る こ と(必 ず 複 数 行 為 が 存 在 して い る こ と) が 必 要 で あ る と主 張 す る。 一260一.
(9) 訴 因変更手続 と公訴 時効停止効 援 用 した最 決 平 成17年 の判 断 も支 持 され るべ き で あ ろ う。2項 た 「業 と して」 との 文 言 は,1項. に規 定 され. との 比 較 に お い て,営 利 目 的 で 行 わ れ た. 場 合 に処 罰 範 囲 を 拡 張 す る趣 旨 に過 ぎず,「 ∼ を業 と した」と い う規 定 形 式 と は異 な り,営 業 犯 と して 包 括 一 罪 の関 係 を認 め る根 拠 に は な らな い もの と解 され る。 も っ と も,こ の よ うな 解 釈 か らは,二 つ の 問 題 点 が 残 され る。 第 一 に, 現 行 出 資 取 締 法 は,5条3項. に,1項. と同 じ割 合 の 利 率 に よ る金 銭 消 費 貸. 借 の 契 約,利 息 受 領,利 息 要 求 を 「業 と して 」 実 行 した 場 合 に重 く処 罰 す る規 定 を お い て い る。 この こ とか らす る と,5条3項. は少 な くと も1項 と. の 関 係 にお い て 営 業 犯 と して 包 括 一 罪 処 理 を 認 あ る こ との 根 拠 とな る よ う に思 わ れ る。 第 二 に,個 々の 契 約 を 基 に複 数 の 受 領 行 為 が 行 わ れ た 場 合 に は 包 括 一 罪 に な る とす る と,例 え ば,検 察 官 が 契 約 行 為 を 起 訴 せ ず,受 領 行 為 の み を 起訴 した 場 合,基 本 契 約 が 審 判 の 対 象 とな らな い こ とか ら,一 個 の 契約 に 基 づ き 複数 の 受 領 行 為 が 行 わ れ た 場 合 も これ が 併 合 罪 と して 処 理 さ れ る 可能 性 が残 され る。 この 点 は,罪 数 判 断 に お け る訴 因 の 拘 束 力 如 何 と して,近 時 も,常 習 特 殊 窃盗 罪 に つ い て の一 事 不 再理 効 が 問 題 とな っ た事 例(最 判 平 成15年10月7日. 刑 集57巻9号1002頁)等. で 問 題 とな って い. る。 この 問題 に つ い て は,す で に前 稿⑩ で詳 論 した の で,本 稿 で は 言 及 し な い。. 2.訴. 因 変 更 許 可 決 定 の適 法 性. (1)公 訴 事 実 の 同一 性 次 に,本 件 の訴 因 変 更 請 求 及 び 同許 可 決 定 が適 法 で あ る た め に は,変 更 前 の訴 因 と変 更 後 の 訴 因 と の 間 に 「公 訴 事 実 の 同 一 性 」(単 一性)が 認 め られ な けれ ば な らな い(刑 訴312条1項)。 ⑩. 上 述 の と お り,本 件 は,両 訴 因. 辻 本 典 央 「判 例 研 究 」 近 法54巻3号287頁(2006年)。 一261一.
(10) 竃魂.㎝. 近畿大学法学. 第55巻第4号. 間 が 併 合 罪 の関 係 に あ る事 例 で あ り,裁 判 所 はr一 審 か ら一 貫 して,公 訴 事 実 の 単 一 性 が 否 定 され る と判 断 して い る。 そ こ で,訴 訟 法 上 の概 念 で あ る公 訴 事 実 の単 一 性 は実 体 法 上 の罪 数 論 に従 属 す るべ き か が 問題 とな る。 この 点 につ いてi我 が 国 の通 説 及 び判 例 は,公 訴 事 実 の単 一 性 は実 体 法 上 の 罪 数 論 に よ って 決 定 され る と の見 解(「 実 体 法 完 全従 属 説」)に た つ。 例 え ば,旧 法 時 代 に は,公 訴 不 可 分 原 則 に基 づ い て公 訴 提 起 の効 力 は一 罪 全 体 に及 ぶ べ き もの と され,訴 訟 係 属 及 び既 判 力(一 事 不 再 理 効)の 範 囲 が 実 体 法 上 の 罪 数 論 に従 属 して 決 定 され る もの と理 解 され て い た。 現 行 法 の 時 代 に入 り,公 訴 不 可 分 原 則 を 否 定 す る見 解 が 有 力 に な っ て以 後 も,公 訴 事 実 の 単 一性 は実 体 法 上 の 罪 数 論 に よ って 決 定 され る と の結 論 に は,お よ そ異 論 が 唱 え られ る こ と はな か った 。 判 例 上 も,例 え ば,前 掲 最 判 平 成 15年 にお い て 罪 数 論 か ら公 訴 事 実 の 単 一 性 が 決 定 され て い る な ど,実 体 法 上 の罪 数 論 へ の従 属 は所 与 の もの と され て い る。 これ に対 し,学 説 上,公 訴 事 実 の 単 一 性 は実 体 法 上 の 罪 数 論 と は全 く独 立 して決 定 され るべ き とす る見解(「 実 体 法 非 従 属 説 」)も主 張 さ れ て い る。 例 え ば,只 木 誠 ω は,罪 数 論 に お け る一 罪 性(実 体 法 的 観 点)と 訴 訟 に お け る単 一 性(訴 訟 法 的観 点)と. の意 義 ・機 能 の違 い か ら,両 者 の 完 全 な 分. 離 を主 張 す る。 この よ うな実 体 法 非 従 属 説 は,只 木 も紹 介 す る よ う に,現 在 に お け る ドイ ツ の判 例 理 論 とな って い る。 ドイ ツで は,例 え ば,犯 罪 組 織 構 成 員 罪 と組 織 の た め実 行 され た他 の重 罪 との 関係 が 問題 とな った 事 例 に つ い て,連. 邦 通 常 裁 判 所(BGHSt29,288)及. (BVerfGE56,22)が. び連 邦憲 法 裁 判 所. 実 体 法 上 一 罪 で あ る こ と を前 提 に な お も訴 訟 手 続 上. の分 割 を認 め た こ と を機 縁 と し,そ の よ うな罪 数 論 に お け る一 罪 性 と手 続 法 上 の 単 一 性 と の分 離 は他 の犯 罪 類 型 に お い て も肯 定 さ れ て い る⑫。 (1D只 木 誠 『罪 数 論 の研 究 』253頁(2004年,成 範 囲 につ い て 一. 文堂。初出 「 一 事 不 再理 効 の客 観 的. 罪 数 判 断 との 対 応 を維 持 す べ きか 一 一262一. 」濁 協53号(2000年))。.
(11) 訴因変更手続 と公訴時効停止効 確 か に,公 訴 事 実 の単 一 性 は,一 回 の訴 訟 手 続 で解 決 され るべ き社 会 的 事 実 で あ る 「犯 罪 」(憲 法39条)の. 範 囲 を画 す る基 準 で あ り,こ の よ うな. 憲 法 上 の規 範 が 制 定 法 上 の罪 数 論 に よ って全 て決 定 され るべ き必 然 性 は認 あ られ な いU3)。も っ と も,実 体 法 上 の 一 罪 性 は,国 家 の 刑 罰 権 を基 礎 づ け る い わ ば最 小 ユ ニ ッ トと して,な お も公 訴 事 実 の単 一 性 の判 断 基 準 と され るべ きで あ ろ う。 す な わ ち,実 体 法 上 数 罪 の行 為 が訴 訟 上 単 一 と され る こ と は あ り うるが,実 体 法 上 一 罪 の行 為 が訴 訟 上 分 割 され る こ とは 否 定 され る と い う意 味 で,片 面 的(又. は部 分 的)に,公. 訴 事 実 の単 一 性 が 罪 数論 に. お け る一 罪 性 に従 属 す る(部 分 的 従 属 説)と. い うわ けで あ るα の。 この よ う. な 考 え 方 は,ド イ ツ の学 説 上,判 例 理 論 に対 す る有 力 な批 判 と して 主 張 さ れ,通 説 的 見 解 で あ る とい って よ い⑮。 以 上,本 件 は,当 初 の訴 因 と追 加 分 の訴 因 とが併 合 罪 の事 例 で あ り,実 体 法 完 全 従 属 説 にた つ 場 合 に は,公 訴 事 実 の単 一 性 も否 定 され る こ とに な る。 他 方,実 体 法 部 分 的 従 属 説 及 び実 体 法 非 従 属 説 か らは,前 述1の 罪 数 論 にお け る検 討 に見 る よ う に,少 な くと も1個 の契 約 に基 づ く もの と見 う る場 合,た. とえ 契 約 が 起 訴 され ず,受 領 行 為 の み起 訴 さ れ た た め併 合 罪 と. して 処 断 され る と して も,な お,一 回 の訴 訟 手 続 で 解 決 さ れ るべ き社 会 的 事 実 は一 個 で あ る と して,公 訴 事 実 の単 一 性 を認 め る こ とは可 能 で あ る。 も っ と も,本 件 は,原 判 決 の 認 定 を み る限 り,当 初 の 訴 因 と追 加 分 の訴 因 とで そ の よ うな 関 係 にあ る こ と は伺 わ れ な い。 理 論 的 に は,な お も,訴 訟 上 の 単 一 性 を 認 め う る余 地 は残 され るが,そ の た め に は,事 件 に関 す る詳 U2)辻. 本典央. 「『公 訴 事 実 の 同 一 性 』 概 念 に つ い て(1)」 近 法53巻2号173,213頁. (2005年)。 (13)白 ω. 取 祐司. 『一 事 不 再 理 効 の 研 究 』4頁(1986年,日. 辻 本 典 央 「『公 訴 事 実 の 同 一 性 』概 念 に つ い て(3・. 本 評 論 社)。 完)」 近 法55巻2号95,157. 頁(2007年)。 q5)辻. 本典央. 「『公 訴 事 実 の 同 一 性 』 概 念 に つ い て(2)」 近 法54巻3号165,170頁. (2006年)。 一263一.
(12) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 細 な 分 析 と,理 論 的 考 察 を必 要 とす る。 本 稿 で は,こ れ らの点 を詳 細 に論 じる こ と はで きな い た め,ひ と まず 本 件 裁 判 所 が 公 訴 事 実 の単 一 性 を否 定 した 結 論 を 前 提 と して,以 下 の議 論 に移 る こ と にす る。 (2)罪 数 評 価 の 変 更 この よ う に して,当 初 の 訴 因 と追 加 分 の 訴 因 とで 公 訴 事 実 の単 一 性 が否 定 され る と して も,本 件 で は,訴 因 変 更 請 求 時 点 にお いて 検 察 官 の み な ら ず 裁 判 所 も両 事 実 聞 を 併 合 罪 で はな く包 括 一 罪 と して 評 価 して い た た め, そ の 判 断 を 基 準 とす る と公 訴 事 実 の 単 一 性 が 肯 定 され る と い う事 情 が 認 あ られ る。 この よ うに,訴 因 変 更 時 点 とそ の 後 とで 罪 数 判 断 が 変 更 され た 場 合,当. 初 の訴 因 変 更請 求 及 び そ の 許 可 決 定 はや は り違 法 で あ った と評 価 さ. れ る べ き で あ ろ うか。 この よ うな訴 因 と罪 数 論 との 関 係 に関 して,当 初 の 罪 数 評 価 が 事 後 的 に 変 更 さ れ る場 合 と して,二 つ の類 型 が認 め られ る。 第一 に,事 後 的 に訴 因 事 実 が 変 化 し,そ れ に伴 って 罪 数 評 価 も変 更 され る場 合 が あ る。 こ の 場 合,当 初 の訴 因事 実 を前 提 とす る と事 後 的 に評 価 して もそ の罪 数 判 断 に 誤 りが あ る わ け で は な く,当 初 の罪 数 評 価 に基 づ く訴 訟 行 為 が違 法 と評 価 さ れ る こ と は な い。 こ れ に対 し,訴 因事 実 に変 化 は な く,た だ罪 数 評 価 の み 変 更 され る場 合,す. な わ ち本 件 の よ うな場 合 に は 問題 で あ る。 この 点 に つ. いて,本 件 原 判 決 は,「純 然 た る法 的評 価 と して の罪 数 判 断 が誤 って い た 場 合 」 で あ る と表 現 し,罪 数 判 断 は 固定 的 ・静 的 な もの で あ って,訴 因事 実 に変 化 が な い限 り,前 の罪 数 判 断 が 事 後 的 に誤 りで あ っ た と評 価 さ れ る場 合 に は,そ の 誤 った 罪 数 評 価 に基 づ く訴 訟 行 為 も違 法 で あ る と説 明す る。 罪 数 評 価 は,検 察 官 又 は 裁 判 所 の 裁 量 的 判 断 に ゆ だ ね ら れ る もの で は な く,法 律 解 釈 の 問 題 で あ る こ とを 考 え れ ば,本 件 裁 判 所 の こ の点 に関 す る 評 価 は支 持 で き る。 な お,本 件 で は,当 初 の 誤 った 罪 数 評 価 に基 づ く訴 因 変 更 請 求 及 び 同許 一264一.
(13) 訴 因変更手続 と公訴 時効停止効 可 決 定 に際 し,弁 護 人 か ら異 議 申立 が な され て お らず,か. つ変 更 後 の訴 因. に基 づ い て多 数 回 の公 判 期 日に よ り証 拠 調 も積 重 ね られ て き た こ とか ら, 当初 の蝦 疵 が 治 癒 され る の で は な い か も問題 とな る(検 察 官 も第 一 審 に お いて そ の よ うに主 張 して い た)。 しか し,第 一 審 判 決 は,こ の 点 に関 して, 公 訴 事 実 の 同一 性 判 断 は 「審 判 の対 象 の個 数 や範 囲 の問 題 と して,訴 訟 構 造 の基 本 にか か る もの で あ る」,そ れ ゆ え 「当事 者 の 合 意 に よ って 増 減 ・ 変 更 で き る もの で はな く,… … 時 間 の 経 過 に よ り治 癒 され る もの と も解 さ れ な い」 と判 示 し,訴 因 変 更 に お け る蝦 疵 の 治 癒 を 認 めな か った。 そ の判 示 に関 して,異 論 はな い。 (3)訴 因 変 更 請 求 許 可 決 定 が 違 法 と され る場 合 の 措 置 この よ う に,訴 因 変 更 請 求 及 び同 許 可 決 定 が 違 法 で あ る と評 価 され る場 合,裁 判 所 は,如 何 な る措 置 を 採 るべ きか 。 この よ うな 問 題 につ いて,安 廣 文 夫(後 掲 最 判 昭 和62年 の 調 査 官 解 説)⑯ に よ る と,① 訴 因 変 更 許 可 決 定 は実 体 判 決 同 様 の 拘 束 力 ・不 可 変 更 力 を 有 す る こ とか ら,公 判 裁 判 所 は公 訴事 実 の 同 一性 が あ る もの と して そ の ま ま 審 判 す る ほか な く,蝦 疵 の 是 正 は 上 訴 に よ る しか な い とす る 見 解,② 訴 因 変 更 許 可 決 定 は 当 然 無 効 とな り,訴 因変 更 は そ もそ も行 わ れ な か った と して 扱 うべ き とす る見 解,③ 訴 因 の追 加 も追 起 訴 も検 察 官 の主 張事 実 を 審判 対 象 とす る た め の手 続 で あ る か ら,裁 判 所 が そ の罪 数 判 断 に よ り前 者 を 後者 に読 み か え て そ の ま ま 有罪 判 決 して よ い とす る見 解,④ 訴 因追 加 許 可 取 消決 定 を下 し,蝦 疵 の是 正 を 図 る べ き とす る見 解,⑤. 刑 訴 法338条4号. の準 用 に よ っ て 公 訴 棄 却 す べ き. とす る見 解 が考 え られ る。 こ の うち,① 説 は,訴 訟 法 の 合 目的 性 に反 す る, ② 説 は,訴 因変 更 許 可 決 定 は一 応 成 立 して お り,こ れ を絶 対 無 効 とす る こ と は手 続 の明 確 性 を欠 く,⑤ 説 は,当 初 の訴 因 に関 す る公 訴 提 起 ま で無 効 とす る必 要 は な い等 の理 由か ら,実 際 に は,③ 説 と④ 説 と で そ の採 否 が 問 ㈱. 安 廣 文 夫 「判 例 解 説 」 最 判 解 昭 和62年 刑 事 篇227,237頁(1990年)。 一265一.
(14) 凸L"門. 1. 近畿大学法学. 第55巻第4号. 題 とな る。 本 件 検 察 官 は,控 訴 趣 意 書 にお い て,③ 説 の採 用 を主 張 した。 検 察 官 は, そ の 際 最 判 昭29年3月2日. 刑 集8巻3号217頁(併. 合 罪 と して 起 訴 され た. 事 実 を 包括 一 罪 と認 定 す る には訴 因 変 更 を必 要 と しな い と され た 事 例)を 援 用 し,こ の判 例 の趣 旨は,訴 因 変 更請 求 及 び 同 許 可 決 定 にお け る罪 数 評 価 の誤 りに 際 して も妥 当 す る こ とか ら,裁 判所 と して は そ の 併 合 罪 で あ る との罪 数 評 価 に基 づ い て そ の ま ま判 決 す べ き で あ った と基 礎 づ けて い る。 こ れ に対 し,原 判 決 は,最 判 昭和29年 は 「起 訴 の 方法 で訴 訟 係 属 した 事 実 の罪 数 評 価 が起 訴 検 察 官 と裁 判 所 とで分 か れ た場 合 で あ って,本 来 追 起 訴 の方 法 に よ るべ き とこ ろ を訴 因変 更 の方 法 で訴 訟 係属 を生 じ させ た 本 件 の 場 合 と は事 案 を異 に」 す る と判 示 し,本 件 の よ うな 場 合 に は,「 誤 って 形 成 さ れ た訴 訟 関 係 を是 正 し,そ の こ とを訴 訟 上 明確 にす る た め,裁 判 所 は, 訴 因変 更 許 可 そ の もの を将 来 に 向 か って取 り消 す手 続 」 を採 る べ き,す な わ ち前 記 ④ 説 を採 用 す べ き で あ る と判 断 した。 原 判 決 が 支 持 した④ 説,す. な わ ち 「訴 因変 更 許 可 取 消決 定 」 は,刑 事 訴. 訟 法 に明 文 規 定 が な い裁 判 類 型 で あ る が,す で に最 判 昭和62年12月3日 集41巻8号323頁. 刑. に よ って 承 認 され て い る。 右 判 決 の調 査 官 解 説 ゜ のは,こ. の よ う な決 定 を,そ の 時 点 に お け る 「訴 因 の撤 回 の許 可 決 定 で は な く,訴 因 追 加 許 可 決 定 そ の もの を 将 来 に 向か って 取 り消 す 決 定(講 学 上 の訴 訟 行 為 の撤 回 に当 た る。)で あ る」 と説 明 して い る。 そ して,同 解 説 は,③ 説 につ いて 「訴 因 の 追 加 が 検 察 官 及 び裁 判 官 の ケ ア レス ミス に よ って な さ れ た 場 合 は,訴 因 の 追 加 が な され た 当 時 に お いて も,公 訴 事 実 の 同一 性 が な い こ と は明 らか で あ り,こ れ を 適 法 視 す る余 地 は なか っ た ので あ る か ら, … … 手 続 維 持 の 原 則 の 適 用 を 認 め るの は相 当 で はな い」と した 上 で ,「今 後 の 実 務 にお い て は,… … 特 に支 障 が な い限 り第 四 説 の 方 法 が と られ る こ と qの 安 廣(前 掲 注u6>)「判 例 解 説 」242頁 。 一266一.
(15) 訴 因変更手続 と公訴時効停止効 にな る」,(本 件 の よ う に)い っ たん 訴 因変 更 さ れ た後 に 「公 訴 事 実 の 同一一 性 が な い と判 断 さ れ る場 合(こ れ は比 較 的 よ く起 こ り う る で あ ろ う。)に つ いて も,同 様 に,訴 因 変 更 ・追 加 の許 可 の取 消 決 定 をす る こ と が可 能 で あ り,か つ,望. ま しい」 と述 べ て い る。. この よ う に して,誤. った 訴 因 変 更 手 続 を 事 後 的 に訴 因 変 更 許 可 取 消 決 定. とい う裁 判 に よ って 是 正 す る と い う方 法 は,裁 判 実 務 に お い て確 立 した取 扱 とな り,手 続 の 明 確 性 と い う観 点 か ら も支 持 され るべ き運 用 で あ る と い え る。 も っ と も,④ 説 の 採 用 が 直 ち に他 の 説 に よ る方 法 を 完 全 に排 斥 す る とい う関 係 に あ るわ けで はな く,調 査 官 解 説 で も述 べ られ て い る よ う に特 段 の 支 障 が あ る場 合 には,他 の 手 段 の 採 否 が 検 討 され な けれ ばな らな い。 実 際,調 査 官解 説 自身 も,ま さ に本 件 の よ う に 「公 訴 時 効 の 関 係 で 改 めて 追 起 訴 す る こ とに 問 題 が あ るよ うな 場 合 」 を 挙 げ,③ 説 の 採 否 が 問 題 と さ れ るべ き こ と を 留 保 して い た。 そ こ で,本 件 に お け る③ 説 の採 否 に 関 し て,そ. もそ も追 加 分 の訴 因 に 関 して,訴 因 変 更 許 可 取 消 決 定 が 下 され た 時. 点 で公 訴 時効 が成 立 して い る の か が 問 わ れ な け れ ば な らな い 。 (4)訴. 因変 更 請 求 許 可 決 定 取 消決 定 の 効 力. 次 項 で検 討 す る,訴 因変 更 請 求 及 び 同許 可決 定 に よ る公 訴 時 効 停 止 効 の 問題 に関 して,右 訴 因変 更 手 続 を違 法 とす る訴 因変 更請 求 許 可 決 定 取 消 決 定 の効 力 につ い て,こ こ で言 及 して お く。 す な わ ち,取 消 決 定 が 前 述 調 査 官 解 説 で 説 明 され て い る よ うに,訴 訟 行 為 の撤 回 で あ り,前 の訴 訟 行 為 を 将 来 に向 か って 取 消 す と い う性 質 の もの と理 解 す る な らば,前 の(違 法 な) 訴 訟 行 為 もそ の 存 在 及 び そ れ に基 づ く法 的 効 果 を認 め る こ と に支 障 が な い。 これ に対 し,前 の 訴 訟 行 為 を遡 及 的 に失 効 させ る もの と理 解 す る な ら ば,そ もそ も無 効 と され た訴 訟 行 為 に よ っ て,そ れが 存 在 す る こ とに基 づ く法 的 効 果 が 認 め られ るの か が 問 題 と な る。 も っ と も,こ の 問 題 は,い ず れ にせ よ本 件 の よ う な違 法 ・無 効 と さ れ る 一267一.
(16) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 訴 因変 更 手 続 に よ って公 訴 時効 停 止 効 が生 じる か とい う問題 に お い て実 質 的 に検 討 さ れ るべ き もの で あ る こ とか ら,項 を改 め て そ の検 討 に移 る。. 3.公. 訴 時 効 の成 否(刑 訴 法254条1項. の 解 釈 論). (1)不 適 法 公 訴 提 起 に よ る時 効 停 止 効 本 件 は,上 述 の と お り,訴 因 変 更 手 続 が 違 法 で あ る と され る場 合,な. お. もそ の時 点 に お い て 時 効 停 止 効 が 認 あ られ るか が 問 題 と な る。 刑 訴 法254 条1項. は,時 効 停 止 効 の要 件 と して 「公 訴 の 提 起 」 を 挙 げて い るが,本 件. の 検 討 の 参 考 とす るべ く,公 訴 提 起 が 違 法 ・無 効 と され る裁 判 例 を概 観 し て お く。 最 決 昭和56年7月14日. 刑 集35巻5号497頁. で は,訴 因 不 特 定 を 理 由 に公. 訴棄 却 され た 場 合 にお いて も当 該 公 訴 提 起 に公 訴 時 効 停 止 効 が 認 あ られ る か が 問題 とな った。 事 実 の 詳 細 は,以 下 の とお りで あ る。 本 件 は,未 登 記 建物 に係 る不 動 産 登 記 に関 す る公正 証 書 原 本 不実 記載 罪 ・同 行 使 罪 が 問 題 とな った事 例 で あ る。 前 訴 にお い て,起 訴 状 の 公訴 事 実 に よ って は併 合 罪 関係 に あ る建 物 「表 示 登 記 」 と 「保 存登 記 」 の い ず れ に 関 す る犯罪 事 実 が 起 訴 され た の か が一 見 明 らか で な く,前 訴 裁 判 所 は,「全 体 と して,そ の 訂 正 な い し補 正 の許 され る余 地 の な い ほ ど訴 因 が不 特 定 で あ る」 と してi公 訴 棄 却 の判 決 を下 した。 そ の後,検 察 官 は,両 事 実 を特 定 して公 訴 事 実 を 記 載 し,併 合 罪 と して両 罪 を起 訴 した。 も っ と も,そ の時 点 に お い て,す で に両 罪 に関 して 時 効 期 間 を経 過 して い た こ とか ら,前 訴 に お け る公 訴 提 起 の 時 効 停 止 効 が 問 題 とな った 。 一 審(大 416号182頁)は,前. 阪 地 判 昭 和54年10月24日. 判タ. 訴 公 訴 提 起 には 「公 訴 の 提 起 が 不 存 在 と 目 され る程 度. の 重 大 な 蝦 疵 が あ った と いわ ざ るを え ず,旧 起 訴 に よ って は,本 件 公 訴 事 実 記 載 の 各 事 実 の いず れ につ いて も,公 訴 時 効 の 進 行 は停 止 され な か っ た もの とい わ な けれ ば な らな い」 と して,後 訴 の 両 公 訴 事 実 につ いて 免 訴 と 一268一.
(17) 訴 因変更手続 と公訴 時効停止 効 した。 これ に対 し,控 訴 審 は,前 訴 に お け る公 判 段 階 で の検 察 官 の釈 明等 か ら,公 訴 事 実 は 「表 示 登 記 」 を対 象 とす る もの と認 あ られ,た だ,右 釈 明 に よ って も審 理 を継 続 で き る程 度 に ま で訴 因 が特 定 さ れ て い な か った た あ公 訴 棄 却 と され た に過 ぎ な い こ とか ら,こ の よ うな公 訴 提 起 に よ って も 「表 示 登 記」に 関す る訴 追 意 思 は 表 明 され て い た と して,表 示 登 記 に 関す る 訴 因 につ いて 公 訴 時 効 の成 立 を否 定 し,原 審 に差 戻 す 判 決 を下 した(「保 存 登 記 」 に関 す る訴 因 につ いて は公 訴 時 効 の成 立 を肯 定 した)。 これ に対 し, 被 告 人 側 か ら上 告 が 提 起 され たが,最 高 裁 は,以 下 の よ うに判 示 し,上 告 を 棄 却 した 。. 「刑 訴 法254条 が,公 訴 時 効 の停 止 を検 察 官 の公 訴 提 起 に か か ら しめ て い る趣 旨 は,こ れ に よ って,特 定 の罪 と な るべ き事 実 に 関 す る検 察 官 の 訴 追 意 思 が 裁 判 所 に 明 示 され るの を 重 視 した点 に あ る と解 さ れ る か ら,起 訴 状 の 公 訴 事 実 の 記 載 に 不 備 が あ って,実 体 審 理 を継 続 す る の に十 分 な程 度 に訴 因 が 特 定 して い な い 場 合 で あ って も,そ れ が 特 定 の 事 実 につ い て検 察 官 が訴 追 意思 を 表 明 した も の と認 め られ る と き は,右 事 実 と公 訴 事 実 を 同一 にす る範 囲 に お い て,公 訴 時 効 の進 行 を 停止 す る 効 力 を 有 す る と解 す るの が 相 当 で あ る 。 」. 本 件 調 査 官解 説[木. 谷 明]G8)によ る と,「 検 察 官 が これ に よ って特 定 の 事. 実 に つ い て訴 追 意 思 を表 明 した もの と認 あ うる 限 りは(換 言 す れ ば,訴 因 は 不 特 定 で も公 訴 事 実 が 特 定 して い る限 りは),こ れ に 公 訴 時 効 の進 行 停 U8)木 谷 明 「判 例 解 説 」昭 和56年 最 判 解 刑 事 篇177,189頁(1985年)。. な お,本 件. は,前 訴 公 訴 棄 却 判決 の拘 束 力 は どの 部 分 に まで 認 め られ るべ き か とい う点 も 問 題 と な っ た。 こ の点 につ い て,多 数 意 見 は,主 文 を導 く直 接 的理 由 で あ る 「 訴 因 不 特 定 の判 断 」 に の み認 め て い るが,伊 藤 正 巳 判 事 反 対 意 見 は,右 判 断 の前 提 と な っ た 「公 訴 事 実 不特 定 の 判 断 」 に も認 め られ るべ き と主 張 し,後 訴 に お い て こ れ と 異 な る判 断 を す る こ と は 前 訴 判 決 の 既 判 力 に よ っ て 妨 げ られ る (従 って,公 訴 事 実 不 特 定 と して 時 効 停 止 効 は生 じな い)と 主 張 して い る。 一269一.
(18) 3㎏ 湖. 近畿大学法学. 第55巻第4号. 止 の効 力 を認 め て不 合 理 で は な い」 とい う こ とで あ る。 最 決 昭 和55年5月12日. 刑 集34巻3号185頁. で は,起 訴 状 謄 本 が 被 告 人 の. 下 に送 達 さ れず 公 訴 棄 却 とさ れ た場 合 に,当 該 公訴 提 起 に 基 づ く時 効 停 止 効 は 公 訴 棄 却 決 定 の 時 点 で 失 効 す る の か,又. は公 訴 提 起 の 時 点 に さ か の. ぼ っ て失 効 す る の か が 問題 とな った。 す な わ ち,刑 訴 法254条1項. は,い っ. たん 公 訴 提 起 さ れ た こ とに よ り停 止 した 時効 期 間 は 「公 訴 棄 却 の 裁 判 が 確 定 した時 か らそ の進 行 を始 め る」 と規 定 し,起 訴 状 謄 本 不 送 達 に よ る公 訴 棄 却 決 定(刑 訴 法339条1項1号)も. この 規 定 に い う公 訴 棄 却 の 裁 判 で あ. る とす れ ば,起 訴 状 謄 本 不 送 達 の場 合 も公 訴 提 起 に よ る 時効 停 止 効 は認 め られ,公 訴 棄 却 決 定 が 確 定 した 時点 か ら再 び進 行 を始 め る こ とに な るが, 刑 訴 法271条2項. は,起 訴 状 謄 本 不 送 達 の場 合 に は 「公 訴 の 提 起 は,さ か. の ぼ って そ の効 力 を失 う」 と規 定 して い る こ とか ら,こ の法 規 定 上 の 矛 盾 を如 何 に解 決 す べ きか が 問 題 と な る。 最 高 裁 は,以 下 の とお り判 示 し,起 訴 状 謄 本 不 送 達 に よ る公 訴 棄 却 に際 して も,そ の公 訴 提 起 に よ る 時効 停 止 効 を 肯 定 した。. 「刑 訴 法254条1項. の 規 定 は,起 訴 状 の謄 本 が 同 法271条2項. 告 人 に送 達 され な か った た め,同 法339条1項1号. 所 定 の期 間 内 に被. の規 定 に 従 い決 定 で 公 訴 が. 棄 却 され る場 合 に も適 用 が あ り,公 訴 の提 起 に よ り進 行 を 停 止 して い た公 訴 時 効 は,右 公 訴 棄 却 決 定 の 確 定 した と き か ら再 び そ の進 行 を 始 め る と解 す る のが 相 当 で あ[る]」 。. 本 件 調 査 官 解 説[龍 条1項1号 来271条2項. 岡 資 晃]に. よ る と,昭 和28年 改 正 に よ り刑 訴 法339. が 新 設 され た 立 法 趣 旨 は,法 律 関 係 を明 確 にす る と と もに,従 に よ る公 訴 提 起 効 力 の遡 及 効 を定 め て い た254条1項. 但書 を削. 除 す る こ と に よ り,起 訴 状 謄 本 不 送 達 に よ る公 訴 棄 却 の 場 合 も他 の理 由 に 一270一.
(19) 訴 因変更手続 と公訴 時効停止効 よ る場 合 と 同様 に扱 う趣 旨 で あ った,ま た,刑 訴 法271条2項. に よ る公訴 提. 起 の遡 及 的 失 効 は被 告 人 の 防御 権 保 障 に よ る もの で あ って,起 訴 状 謄 本送 達 と公 訴 提 起 に よ る訴 訟 係 属 及 び こ れ に付 随す る時 効 停 止 効 とは論 理 必 然 的 な直 接 的 関 係 に は な い,そ れ ゆ え,起 訴 状 謄 本 不 送 達 に よ る 公訴 提 起 の 遡 及 的 失 効 に際 して も,公 訴 棄 却 決 定 が確 定 す る ま で は訴 訟 係 属 自体 は 消 滅 せ ず,こ れ に伴 う時 効 停 止 効 も遡 及 的 に失 効 す る わ け で は な い,と 説 明 され て い る。 以 上 の 判 例 理 論 を整 理 す る と,公 訴 提 起 が 一 定 の理 由 に よ り違 法 ・無 効 と さ れ る場 合 も,そ れ が 不 存 在 と して 扱 わ れ る ほ ど重 大 な 場 合 は 別 と し て,特 定 の 公 訴 事 実 につ いて 検 察 官 の訴 追 意 思 が 明 示 され て い る 限 り,訴 訟 係 属 及 びそ れ に伴 う公 訴 時 効 停 止 効 は認 め られ る と い う こ と に な る⑲。 (2)訴 因 変 更 に よ る公 訴 時 効 停 止 効 本 件 の 検 討 に関 して,次. に,訴 因 変 更 手 続 に公 訴 時 効 停 止 効 を認 あ る こ. と は刑 訴 法254条1項. が 時 効 停 止 事 由 を 「公 訴 の提 起 」 と明 示 して い る こ. と に反 しな い か,と. い う点 が 問 題 とな る。 この 問 題 は,従 来,公 訴 提 起 に. よ る時 効停 止 効 が 及 ぶ 客 観 的 範 囲 如 何 と い う問 題 に関 連 して 論 じ られ て き た。 特 に審 判 対 象論 との 関 係 にお い て,こ れ を 訴 因 の 背 後 に あ る社 会 的 嫌 疑 た る"公 訴 事 実"と. 理 解 す る と(公 訴 事 実 対 象 説),公. 訴提起 の効力 は. 「訴 因 」に限 定 され ず 公 訴 事 実 の 同一 性 が 認 め られ る全 範 囲 に及 び,訴 訟 係 属 及 び そ れ に伴 う時 効 停 止 の効 力 もそ の 範 囲 に お い て 認 め られ る こ とか ら,そ の後 の訴 因変 更 に 際 して も,変 更 後 の訴 因 につ い て 公 訴 時 効 の 成 否 が 問題 とな る こ とは な い。 しか し,訴 因 を 審判 対 象 と理 解 す る見 解(訴 因 対 象 説)が 支 配 的 とな り,訴 訟 係 属 もそ の 範 囲 に限定 され るべ き とす る見 解 か らは,公 訴 時 効 停 止 効 の及 ぶ範 囲 を如 何 に解 す るか に よ り,公 訴 提 起 ⑲. 藤 永 他 編[吉. 田 博 視]『 大 コ ン メ ン ター ル 刑 事 訴 訟 法4巻 』125頁(1995年,. 青 林 書 院)。 一271一.
(20) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 以 外 に,訴 因 変 更 手 続 に公 訴 時 効 停 止 効 を 求 め な けれ ばな らな い事 態 が 生 じ る。 公 訴 時 効 停止 効 の 範 囲 如 何 につ い て,訴 因 対 象 説 か ら二 つ の 見 解 が 主 張 され て い る。 第 一説 は,審 判 対 象 の 範 囲 を 訴 因 に限 定 しつ つ,公 訴 時 効 停 止 効 の 範 囲 は 公訴 事 実 対 象説 と同 じ く公 訴 事 実 の 同 一 性 が 認 め られ る範 囲 に及 ぶ と主 張 す る。 例 え ば,平 野 龍 一⑳ は,公 訴 提 起 の 本 来 的 効 力 で あ る 訴 訟 係 属 とそ の 付 随 的 効 力 で あ る時 効 停 止 とを 区 別 し,後 者 に つ い て は訴 因 を 超 え て 公 訴 事 実 の 同 一 性 の 範 囲 に及 ぶ と主 張 す る。 も っ と も,そ の 際. そ れ 以 上 の説 明 が 加 え られ て は い な い 。 田 宮 裕auは,「 告 訴 不 可 分 原. 則 」 の根 拠 とな る① 通 常 告 訴 権 者 は訴 追 範 囲 を 犯罪 の一 部 に 限 定 す る意 思 は な い こ と,② 告 訴 権 者 に事 件 の分 割 を許 す べ き で は な い こ と とい う趣 旨 が こ こで も類 推 さ れ,公 訴 提 起 に よ る 時効 停 止 効 の範 囲 は 「ゆ るや か な 意 味 で の犯 罪 事 実 」 が基 準 とな る と説 明 す る。 光 藤 景 咬⑳ は,一 事 不 再 理 効 が公 訴 事 実 の 同一 性 の範 囲 で生 じる こ との根 拠 と して 同 時訴 追 可 能 性 が 挙 げ られ る こ と を前 提 に,訴 因変 更 時点 で変 更 後 の訴 因 に つ い て既 に 時効 が 成 立 して い る とす る と そ の 同 時訴 追 可 能 性 が失 わ れ る こ とを理 由 に,特 定 訴 因 の公 訴 提 起 に よ っ て そ れ と公 訴 事 実 の 同一 性 が認 め られ る範 囲 で 時効 も停 止 す る と説 明 す る。 最 高 裁 も,例 え ば,最 決 昭 和29年7月14日 巻7号1100頁. 刑 集8. が,詐 欺 罪 か ら横 領 罪 へ の訴 因変 更 が 問題 と な った事 例 に お. い て,「 訴 因 罰 条 の変 更 に よ っ て起 訴 状 記 載 の公 訴 事 実 の 同一 性 に何 等 消 長 を来 たす こ と のな い本 件 に お いて は,本 件 起 訴 の時 を基 準 と して公 訴 時 効 完 成 の有 無 を 判 断 す べ きで あ って,所 論 の如 く訴 因 罰 条 の変 更 の時 を基 準 とす べ きで な い」 と判 示 して い る よ う に,同 様 の見 解 に た っ て い る と い. ⑳. 平 野 龍一 『刑 事 訴 訟 法 』145頁(1958年,有. ⑳. 田 宮 裕 『刑 事 訴 訟 法 ・新 版 』225頁(1996年,有. ⑳. 光 藤 景 咬 『刑 事 訴 訟 法1』365頁(2007年,成 一272一. 斐 閣)。 斐 閣)。 文 堂)。.
(21) 訴因変更手続 と公訴時効停止効 え よ う。 これ に対 し,第 二 説 は,公 訴 提 起 に よ る時効 停 止 効 を 具体 的 に明 示 され た訴 因 の範 囲 に 限定 し,実 際 に訴 因変 更 が行 わ れ た 時点 で 公訴 時 効 の 成 否 を決 定 す る。 この 見解 は,換 言 す る と,変 更 後 の訴 因 に 関 して は,公 訴 提 起 で は な く,訴 因変 更 手 続 に 時効 の停 止 効 を認 め る もの で あ る。 例 え ば, 高 田卓 爾 ㈱ は,審 判 対 象 を訴 因 と理 解 す る以 上,訴 訟 係 属 の観 念 も,裁 判 所 の具 体 的審 判 権 限 は訴 因 につ い て の み存 在 し,た だ検 察 官 が後 に審 判 を 求 め る とき に は追 起 訴 で は な く訴 因変 更 に よ り同一 手 続 内 で訴 追 意 思 を 表 明 で き る とい う意 味 に お い て公 訴 事 実 の 同一 性 の範 囲 を そ の対 象 とす る も の と理 解 され るべ きで あ り,そ の よ うな理 解 に お い て は,訴 訟 係 属 の範 囲 と 時 効 停 止 効 の 及 ぶ 範 囲 とが 合 致 して い な け れ ば な らな い理 由 は な く, 「現 実 に起 訴 され た訴 因 につ い て の み 時 効 の 進 行 が 停 止 す る と解 す べ き」と 主 張 す る。 松 本 一 郎 ⑳ は,時 効 制 度 の 趣 旨を 純 粋 な 手 続 的 観 点,す. なわち. 「長 期 間 の不 訴 追 とい う国 家 の怠 慢 に伴 う失権 的効 果」に認 め た上 で,当 初 の 起 訴 又 は訴 因 変 更 に よ り予 備 的 ・択 一 的 に複 数 訴 因 を 提 示 す る こ とが で きた に もか か わ らず 訴 因 と して 構 成 して いな い以 上,公 訴 提 起 時 に明 示 さ れ た 訴 因 だ けで な くこれ と公 訴 事 実 の 同 一 性 が 認 め られ る範 囲 に まで 公 訴 時 効 停 止 の 効 力 を 認 め る こ と は,訴 因 制 度 及 び公 訴 時 効 制 度 の 趣 旨 に反 す る と主 張 す る。 白取 祐 司 ㈱ は,訴 因 対 象 説 か らは 訴 訟 係 属 も訴 因 の 範 囲 で の み 生 じるの で あ り,公 訴 提 起 に よ る時 効 停 止 の 効 果 も訴 因 の 範 囲 に限 ら れ るべ き と主 張 す る。 ま た,鈴 木 茂 嗣㈱ は,「時 効 停 止 は,あ る刑 事 事 件 が 訴 訟 上 と りあ げ られ 解 決 の 課 題 と され た こ と に伴 う効 果 」 で あ る と位 置 づ け た上 で,「そ の 効 果 は,単 に 訴 因事 実 の み な らず 解 決 課 題 を 同 一 にす る範 ㈱ ⑳ ㈱ ⑳. 高 田卓 爾 『刑 事 訴 訟 法 ・2訂 版 』387頁(1984年,青 松 本 一 郎 『事 例 式 演 習 教 室. 林 書 院)。. 刑 事 訴 訟法 』102頁(1987年,勤. 草 書 房)。. 白取 祐 司 『刑 事 訴 訟 法 ・第4版 』239頁(2007年,日. 本 評 論 社)。. 鈴 木 茂 嗣 『刑 事 訴 訟 法 ・改訂 版 』123頁(1990年,青. 林 書 院)。. 一273一.
(22) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 囲」(鈴 木 に よ る と 「最 狭 義 の 同一 性 」 が認 め られ る 範 囲,具 体 的 に は 「法 益 侵 害 を 同一 にす る範 囲」)に 生 じるが,「 い ま だ 主 張 され て い な い 単 一 の 犯 罪 事 実 や 単 に行 為 を 共 通 に す る にす ぎ な い 犯 罪 事 実 」(同 じ く 「広 義 の 同一 性 」(公 訴 犯 罪 事 実 の 単 一 性),「 狭 義 の 同一 性 」(行 為 又 は 結 果 の 共 通 性))に. は 時 効 停 止 効 は 及 ぼ な い と主 張 し,後 者 の 場 合 に は,「 当該 犯 罪 事. 実 は もち ろん,こ れ に対 応 す る法 益 侵 害 じた い も,当 該 訴 訟 に お い て は 未 だ全 く問 題 と され て い な い の で あ り,時 効 停 止 効 を認 め る た め の実 質 的 基 礎 を 欠 く」 と説 明 す る。 以 上 の と お り,訴 因 審 判 対 象 説 か らは,公 訴 時 効 停 止 効 の範 囲 に 関 して 激 しい対 立 が 見 られ る。 こ の論 争 の基 礎 と して,訴 因 と訴 訟 係 属 の範 囲 の 関 係 につ いて の 理 解 の 相 違 が 挙 げ られ る。 そ の検 討 に は,訴 訟 構 造 に 関 す る基 礎 理 論 に遡 った 詳 細 な 検 討 を 必 要 と し,こ こ で は それ を綿 密 に行 う こ と は適 わ な い 。 私 見 と して 若 干 述 べ て お くと,二 重 起 訴 禁 止 と の関 係 に お い て,そ の 範 囲 は訴 因 事 実 だ けで な く公 訴 事 実 の 同一 性 の範 囲 に及 ぶ とさ れ るな らば,訴 訟 係 属 もそ れ と合 致 す る範 囲 で あ る と理 解 す る こ とが 自然 で あ る。 ま た,検 察 官 が 主 張 す る訴 因 以 外 の 事 実 を 考 慮 す る こ とが 被 告 人 の 利益 とな る場 合(例 え ば,複 数 の 単 純 窃 盗 罪 で 起 訴 され た が,実 際 に は 常 習 窃盗 罪 で あ り,一 事 不 再 理 効 に よ って 免訴 と され るべ き 場 合),裁 判 所 の審 判 権 限 が検 察 官 の主 張 す る訴 因 に拘 束 され るの は不 都 合 で あ り,訴 因 外 事 実 も訴 因事 実 との 間 で 公 訴事 実 の 同 一 性 が 認 め られ る範 囲 にお いて は 裁 判 所 の審 判 権 限 が認 あ られ るべ き こ とか ら も,公 訴 事 実 の 同 一性 の 範 囲 で訴 訟 係 属 を観 念 す る こ とは 有益 で あ る⑳。 こ の よ うに理 解 す る こ とで,公 訴 時 効停 止 の 範 囲 も,公 訴 提 起 を 基 準 と して 公 訴 事 実 の 同一 性 の範 囲 に及 ぶ と理 解 す る こ と が妥 当 で あ る と考 え ⑳. 辻 本(前 掲 注(10))「判 例 研 究 」306頁,同(前 概 念 につ いて(3・. 完)」154頁 。 一274一. 掲 注 ω)「 『公 訴 事 実 の 同一 性 』.
(23) 訴 因変更手続 と公訴 時効停止効 る。 そ して,こ. の よ う な理 解 か らは,反 対 説 の不 都 合 性,す. な わ ち,後 の. 訴 因 変 更 時 に時 効 停 止 の効 力 を認 め る こ とに よ る不 都 合 性,つ 254条1項. ま り刑 訴 法. の類 推 解 釈 の 問 題 点 を 避 け る こ とが 可 能 とな る。 す な わ ち,公. 訴 提 起 に よ る時 効 停 止 効 を訴 因 事 実 に限 定 す る見 解 は,変 更 後 の訴 因 に っ いて は公 訴 提 起 で はな く,訴 因 変 更 手 続 に時 効 停 止 効 を求 め な け れ ば な ら ず,従 来 自覚 的 に論 じられ て は こ なか っ たが,時 効 停 止 と い う被 告 人 に不 利 な 効 果 につ いて 訴 訟 法 規 定 の類 推 解 釈 は許 され るか と い う点 につ い て, 合 理 的 な 説 明 が 求 あ られ る。 反 対 説 を 前 提 に,右 類 推 解 釈 の 問題 を避 け よ う とす るな らば,当 初 か ら予 備 的 ・択 一 的 に訴 因 を明 示 して お か な け れ ば な らな い,す な わ ち,二 重 起 訴 禁 止 を 訴 因 事 実 の 範 囲 に限 定 す る な らば格 別 で あ るが,公 訴 事 実 の 同 一 性 の 範 囲 に まで 認 め るな ら ば,公 訴 提 起 後 の 追 起 訴 は認 め られ ず,か つ 訴 因 変 更 手 続 に よ るな ら ば変 更 後 の 訴 因 に関 し て は 時 効期 間 が進 行 した ま ま手 続 が 進 め られ る と い う不 都 合 が 生 じて しま う。 も っ と も,反 対 説 が主 張 す る,訴 因 審 判 対 象 説 か らの 検 察 官 に よ る具 体 的訴 追 意 思 の表 明 は,時 効 制度,特. に時 効 停 止 効 との 関 係 にお いて も重 要. で あ る。 公 訴 時効 制 度 の性 質 につ い て は,周 知 の とお り,可 罰 性 の 減 少 と い う実 体 法 的観 点,証 拠 散 逸 とい う訴 訟 法 的 観 点,被 告 人 の 法 的 地 位 の 安 定 とい う観 点 等,諸 説 主 張 され て い る と ころ で あ るが,い ず れ にせ よ一 定 期 問 を経 過 した事 実 状 態 の尊 重,す. な わ ち 「時 の経 過 によ る法 的 安 定 の 要. 請 と犯 人 必 罰 の要 請 との妥 当 な調 和 を求 め た制 度 」 で あ る こ と は間 違 いな いVib。そ して,そ の 際,証 拠 散 逸 に 伴 う被 告 人 の 防御 保 障 も重 要 な観 点 と して 考 慮 され るべ き で あ る。 す な わ ち,訴 因制 度 の機 能 と して,裁 判所 の 審 判 権 限 の画 定 に加 え て,被 告 人 の 防御 範 囲 の告 知 が挙 げ られ るが,公 訴 時 効 との 関 連 に お いて は,公 訴 提 起 に よ り被 告 人 に 防御 範 囲 が告 知 され る ㈱. 木 谷(前 掲 注 ⑬)「 判 例 解 説 」188頁 。 一275一.
(24) 近畿大学法学. 第55巻第4号. こ とに よ って,被 告 人 は公 判 に備 え て 自身 に有 利 な証 拠 の散 逸 を 防 止 し, ひ い て は訴 訟 法 上 の地 位 の安 定 が 図 られ る こ とに な る。 訴 因 ご とに 防 御 準 備 の方 法 ・態 様 も異 な る とい うの が,訴 因制 度 か らの帰 結 で あ る。 そ れ ゆ え,公 訴 提 起 に よ り時効 停 止 効 を訴 因事 実 に 限 らず 公訴 事 実 の 同一 性 が 認 め られ る範 囲 に生 じる と理 解 す る と して も,事 後 の訴 因変 更 に よ って 被 告 人 の 防御 及 び そ の訴 訟 法 上 の地 位 に不 測 の不 利 益 が生 じる の で あ れ ば,公 訴 時効 制 度 の趣 旨 が全 うさ れ え な い。 従 って,訴 因変 更 の 時点 で,変 更 後 の訴 因 につ い て犯 行 終 了 時 か ら起 算 して 時効 期 間 が途 過 さ れ て い る場 合, な お も公 訴 時効 が成 立 して い る場 合 に準 じて(つ ま り,公 訴 提 起 に よ る 時 効 停 止 効 を被 告 人 に有 利 な か た ち で 限定 解 釈 して)当 該 訴 因変 更 は不 適 法 な もの とな る と い うべ き で あ ろ う。 そ して,そ の よ うな被 告 人 の 防御 保 障 と い う観 点 か らは,訴 因変 更 手 続 に 際 し,公 訴 提 起 に準 じた手 続(訴. 因変. 更 請 求 書 朗 読,罪 状 認 否,弁 護 人 意 見 陳 述,検 察 側 冒 頭 陳 述)を 経 た 上 で, 変 更 後 の訴 因 につ い て実 体 審 理 に移 るべ き で あ る。 反 対 説 も,訴 因変 更 手 続 を時 効 停 止 事 由 とす る解 釈 に は 問題 が あ る が,訴 因変 更 時 を基 準 に 時効 期 間 を算 定 す る と い う 限 りに お い て は,支 持 で き る よ う に思 わ れ る。 この よ う な問 題 点 は,従 来,著. し く遅 い時 機 に お け る訴 因変 更 の 当否 と して論. じ られ て き た もので あ るが,上 述 の よ う な公 訴 時 効 制 度 の準 用 とい う考 え 方 は,一 定 の基 準 を提 示 す る もの と して有 益 な もの と な る で あ ろ う。 な お,訴 因 変 更 手 続 の時 点 で公 訴 時 効 の停 止 の効 力 を認 め る と い う見 解 か ら は,訴 因 変 更 請 求 の時 点 か 又 は請 求 を許 可 す る時 点 か の いず れ が基 準 とな るべ きか が 問 題 とな る。 こ の点 につ いて,控 訴 審 判 決 で は許 可 決 定 の 時 点 と され た の に対 し,最 高 裁 は,訴 因 変 更 請 求 書 が 裁 判 所 に提 出 さ れ た 時 点 で あ る と して,見 解 が分 か れ て い る。 最 高裁 は,そ の 理 由 と して,「 請 求 に係 る特 定 の 事 実 に対 す る訴 追 意 思 を 表 明 した」 と い う点 を 挙 げ て い る。 この 問 題 につ いて,田 淵 浩 二 ⑳ は,訴 因 変 更請 求 に よ る訴 追 意 思 表 明 一276一.
(25) 訴 因変更手続 と公訴 時効 停止効 は公 訴 提 起 に匹 敵 す るが,公 訴 提 起 とは異 な り訴 因変 更 手 続 は裁 判 所 の許 可 に よ って初 めて 審 判 対 象 の変 動 を もた らす とい う相 違 点 か ら,検 察 官 の 訴 因 変 更 請 求 は審 判 対 象 の変 更 を裁 判 所 の許 可 に係 ら しあ る 「条 件 的訴 追 意 思 表 明 」 で あ り,請 求 が 許 可 され れ ば請 求 時 に遡 って公 訴 時 効 停 止 を認 め るが,却 下 され た場 合 に は一 時 的 にせ よ そ の 間 の公 訴 時 効 停 止 は認 め ら れ な い と主 張 す る⑳。. 4.本. 件 の検 討. 上 述 の 検 討 を 経 て,最 後 に,本 件 の検 討 を行 う。 本 件 は,併 合 罪 関係 に あ り,本 来 で あれ ば追 起 訴 に よ って 審 判 対 象 と され るべ き訴 因 が,誤. って. 訴 因 変 更 手 続 に よ って 審 判 に取 り込 まれ た 場 合 の公 訴 時 効 停 止 効 如 何 とい う問 題 につ い て,最 高 裁 と して 初 め て 判 断 を 下 した 事 例 で あ る。 前 述 安 廣 調 査 官 解 説 で も指 摘 され て いた よ う に,こ の よ うな 事 態 は実 務 で も比 較 的 起 こ り易 い 事 例 で あ る こ とを 考 え る と,重 要 な 意 義 が 認 め られ る。 こ の問 題 につ い て,前 述 の とお り,本 件 で は一 審 判 決(消 極 説)と 控 訴 審(積 極 説)と で見 解 が分 か れ た。 検 討 に さ きが けて,各 々 の論 拠 を確 認 して お く。 本 件 一 審 判 決 は,① 刑 訴 法254条1項. が厳 格 に様 式 を 法 定 さ れ た 起 訴 状. に よ る 「公 訴 の 提 起」 を 時 効 停 止 事 由 と定 あ,訴 因 変 更 請 求 を もって 時 効 停止 事 由 とす る 旨の 規 定 が な い こ と,② 刑 事 手 続 で も刑 事 実 体 法 に妥 当す る被 告 人 に不 利益 な 類推 解 釈 禁 止 の 趣 旨が 尊 重 され るべ きで あ り,公 訴 時 効 の 成 否 とい う被 告 人 に と って 重 大 な 利 害 に関 す る事 柄 につ いて 被 告 人 に 不 利益 な 類推 解 釈 ・拡 張 解 釈 が 安 易 に な され るべ き で は な い こ と,③ 前 掲 最 決 昭和56年 は,と. もか く公訴 の提 起 が な され た 事例 で あ り,本 件 の よ う. ㈱. 田淵 浩 二 「 判 例 解 説 」 速 報 判 例 解 説vol.1239,241頁(2007年)。. ⑳. 小 木 曽稜 「 刑 事 裁 判 例 批 評 」 刑 事 法 ジ ャー ナ ル9号187,192頁(2007年)で も,こ の問 題 点 が指 摘 さ れ て い る。 一277一.
(26) 近畿大学法学. 第55巻第4号. な訴 因 変 更 手 続 に お け る時 効 停 止 効 の成 否 とは事 案 を異 に す る こ とを,訴 因 変 更 手 続 に よ る公 訴 時 効 停 止 効 を 否 定 す る こ との 理 由 と して 挙 げ て い る。 これ に対 し,控 訴 審 判 決 は,① 訴 因変 更 請 求 は,起 訴 と同 じ く検 察 官 の 主 張 す る事 実 を新 た に審 判 対 象 とす る訴 訟 行 為,す. な わ ち特 定 の事 実 に. つ いて 検 察 官 の訴 追 意 思 が 裁 判 所 に 明示 さ れ て お り,本 質 的 に起 訴 と同様 の 性 格 を 有 す る も ので あ る こ と,② 本 件 訴 因変 更 請 求 は,受 訴 裁 判 所 に よ り許 可 され,追 加 分 の 訴 因 事 実 が 審 判 対 象 と して訴 訟 係 属 して い る こ と, ③ 本 件 追 加 分 の 訴 因 につ いて,訴 因 変 更 請 求 書 朗 読,変 更 後 訴 因 に 関 す る 被 告 人 及 び弁 護 人 の 意 見 陳 述,検 察 側 冒頭 陳 述,証 拠 調 の手 続 が採 られ, 被 告 人 の 防 御 権 に関 して 公 訴 提 起 と 同様 の手 続 保 障 が さ れ て い る こ と,④ 訴 因 変 更 許 可 取 消 決 定 は従 前 の 許 可 決 定 を将 来 に 向 けて 失 効 させ る もの で あ り,そ れ まで の 間 に追 加 分 の 訴 因 が 訴 訟 係 属 して い た事 実,及. びそれに. 伴 って 訴 因 変 更 手 続 に よ る時 効 停 止 効 の 発 生 に影 響 を与 え る もの で は な い こ と,ま た,従 前 の 訴 因 変 更 手 続 が 事 後 的 に違 法 ・無 効 で あ る と され る こ と も,公 訴 提 起 によ る時 効 停 止 効 が 当該 公 訴 提 起 の有 効 性 を前 提 と され て い な い こ とを 考 え る と,訴 因 変 更 手 続 の 有 効 性 が 公 訴 時 効 停 止 効 に影 響 を 与 え る もの で は な い こ と,⑤ 以 上 の こ とか ら,本 件 訴 因変 更 請 求 に つ い て, 遅 くと も裁 判 所 に よ り これ が 許 可 さ れ た 段 階 で,刑 訴 法254条1項. に規 定. す る 「公訴 の 提起 」 と同 視 す る こ とが で き,同 条 項 が 必 ず しも公 訴 提 起 に 限定 す る趣 旨の もの で は な く,一 審 判 決 が い う よ うな 不 当 な 類 推 解 釈 に あ た る わ け で は な い こ とを,本 件 訴 因 変 更 手 続 に公 訴 時 効 停 止 効 を 認 め る こ との理 由 と して挙 げ て い る。 以 上 を前 提 に,最 高 裁 は,結 論 と して,積 極 説 にた つ こ とを 明 らか に し た。 す な わ ち,最 高 裁 は,併 合 罪 関係 にあ る訴 因 につ い て は,「訴 因 変 更 請 求 で は な く追 起 訴 の手 続 に よ るべ き」 と しつ つ,検 察 官 が 訴 因 変 更 請 求 書 を 裁 判 所 に提 出 す る こ と に よ り,「 そ の請 求 に係 る特 定 の 事 実 に対 す る訴 一278一.
(27) 訴 因変更手続 と公訴 時効停止 効 追 意 思 を 表 明 した もの とみ られ る」 と して,刑 訴 法254条1項. の 「準 用 」. を認 め た ので あ る。 最 高 裁 の右 判 示 部 分 は,控 訴 審 が挙 げ る積 極 説 の理 由 の う ち特 に① の点 を重 視 す る もの で あ る。 もっ と も,こ の よ うな積 極 説 の論 旨 は,必 ず し も説 得 的 で は な い よ うに 思 わ れ る。 最 高 裁 が 明 示 す る① の点 は,単 に実 質 論 か ら くる公 訴 提 起 と訴 因 変 更 手 続 との 同 質 性 を 述 べ た にす ぎず,そ. もそ も両 手 続 を 「同視 」 す べ. き こ との 必 要 性 を 示 す もので はな い。 前 述 の と お り,公 訴 事 実 の 同一 性 が 認 め られ る事 例 にお いて は,訴 因 対 象 説 を 前 提 に公 訴 提 起 に よ る時 効 停 止 効 を 訴 因 に限 定 す る考 え 方(第 二 説)に た つ 限 りに お いて,確 か に,二 重 起 訴 禁 止 の 制 約 か ら,訴 因 変 更 手 続 を 公 訴 提 起 と 同視 す べ き こ との必 要 性 が 認 め られ た 。 しか し,本 件 の よ う に,両 訴 因 の 間 に併 合 罪 関 係(換 言 す る と公 訴 事 実 の 単 一 性 が 否 定 され る関 係)が 認 め られ る場 合,い か な る見 解 か ら も,追 起 訴 が 可 能 で あ る以 上,訴 因 変 更 手 続 を 公 訴 提 起 と 同視 す べ き必 要性 は 認 め られ な い 。 これ で は,消 極 説 か らの 安 易 な 類 推 解 釈 に対 す る批 判 を 克 服 す る こ とは で きな い で あ ろ う。 この こ と は,積 極 説 の 理 由⑤ に も等 し く妥 当 す る。 ま た,理 由③ に関 して は,前 述 の とお り,被 告 人 へ の 防御 権 保 障 の観 点 か ら求 め られ る手 続 で あ るが,こ れ はそ もそ も公 訴 提 起 に よ る訴 訟 係 属 及 び 時 効 停止 を前 提 と した 要 請 で あ り,そ の よ うな 手 続 が採 られ た こ とが そ の前 提 た る法 律 効 果 に影 響 を 与 え る もの で はな い。 結 局,積 極 説 の論 拠 と して は,理 由② 及 び④ で 挙 げ られ る,訴 因 変 更 手 続 に よ る事 実 上 の訴 訟 係 属 及 び事 後 の訴 因変 更 許 可 決定 取 消 決 定 の 遡 及 効 否 定 と い う点 が残 さ れ る。 確 か に,前 掲 した訴 因不 特 定 や起 訴 状 謄 本 不 送 達 の 裁 判 例 を み る 限 り,公 訴 提 起 の有 効 性 は公 訴 時効 停 止 効 の発 生 要 件 とは さ れ て お らず,ま. た,当 該 公 訴 提 起 が公 訴 棄 却 に よ って無 効 と され た 場 合 も. 時 効 停 止 は公 訴 棄 却 裁 判 確 定 か ら再 び進 行 す る とい う規 定 か らは,訴 因 変 更 手 続 に よ る 同様 の効 果 が 問題 と な った本 件 の よ うな事 案 に も状 況 に 類 似 一279一.
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