富と資本の経済理論
著者
元田 厚生
号
68
発行年
1997
枇
元
だ こ う せ い田
厚
生
学 位 の 種 類
博
士(経 済学)
学 位 記 番 号
経
第68号
学位授与年月 日
平成9年7月17日
学位授与の要件
学位規則第4条 第2項 該 当
学 位 論 文 題 目
論 文 審 査 委 員
富 と資本の経 済理論
(主査)
教
授
柴
田
信
也
教
授
大
村
泉
教
授
平
野
厚
生
(東北大学大学院国際文化碩究科)
論
文
内
容
要
旨
本 論 文 の 目的 は、 富 の本 来 的 性 格 の 変 容 と い う視 角 か ら、 資 本 制 経 済 シ ス テ ム の 本 質 を 解 明 す る こ と に あ る。 そ れ は、 直 接 的 に は 、 第2部 に お け る 「富 の 資 本 制 的 特 質 」 の 解 明 と して 行 な わ れ る。 そ の 前 提 を な す 富 の 概 念 規 定 に 関 す る考 察 、 お よ び 「富 の 資 本 制 的 特 質 」 を 析 出 す る た め の基 準 と な る と こ ろ の 「富 の 本 来 的 性 格 」 に 関 す る考 察 が 、 第1部 の 課 題 で あ る。 第1部 に お いて は 、 富 が 精 神 的 か っ 物 質 的 な豊 か さ を総 称 す る概 念 と して 、 ま た、 客 体 で あ る素 材 が主 体 と の 関 係 に お い て 豊 か さ を 現 実 化 す る と ころ の 関係 性 概 念 と して 考 察 さ れ て い る。 い ま少 し言 及 す れ ば、 人 間 生 活 の 豊 か さ を 規 定 す る2っ の素 材 で あ る 時 間 と生 産 物 は、 潜 勢 的 な 富 に す ぎ ず 、 そ れ らが実 際 に 人 間 生 活 に 資 す る よ うに 利 用 さ れ た時 に は じめ て 、 そ れ らは 現 実 的 富 に転 成 す る と い う こ とで あ る。 そ の 検 討 は、 同 時 に富 の本 来 的 性 格 を 検 討 す る こ とで も あ る。 な ぜ な ら、 潜 勢 的 富 を 現 実 化 す る契 機 と は、 そ れ ら素 材 の 人 間 生 活 に た いす る本 来 的 な 役 立 ち に ほ か な らな い か らで あ る。 しか し、 そ の 本 来 的 な役 立 ち を 客 観 的 に定 立 す る た め に は、 豊 か さ と い う概 念 を 、 個 々人 の主 観 的 な次 元 に お い て で は な く本 来 的 な 生 活 の あ り方 と い う客 観 的 な 次 元 に お い て 、 そ れ を 規 定 す る主体 的 か っ 客 体 的 な 条 件 と して 具 体 化 す る必 要 が あ る。 この 点 に関 す る検 討 が 、 第1章 「生 産 と労 働 」 と第2章 「生 活 と享 受 」 の 課 題 で あ る。 第1章 で は、 人 間 労 働 の 特 質 で あ る労 働 の 目 的 意 識 性 を 掘 り下 げ 、 目的 意 識 性 と は 、 目 的 お よ び 方 法 に た い して 主 体 が 単 に 自覚 的 で あ る こ と を意 味 す る も の で は な く、 人 間 の 生 存 条 件 で あ る 自然 に た いす る主 体 の 透 徹 した 認 識 と、 人 間 関 係 を含 む 社 会 に た い す る深 い 認 識 を 意 味 す る もの で あ る こ とを 明 らか にす る。 こ こか ら、 人 間 労 働 の 最 大 の 特 質 が 、 自然 と社 会 を 認 識 す る知 的 認 識 力 に あ る こ と と、 知 的 認 識 力 の 洗 練 の さ れ 方 に よ って 、 直 接 的 に は生 産 の あ り方 が 、 そ して 間 接 的 に は生 活 の あ り方 が 規 定 さ れ る こ と を 導 出 して い る。 っ い で 第2章 で は、 第1に 、 生 活 過 程 に お け る使 用 価 値 の実 現 を 左 右 す る主 体 的 条 件 が 、 少 量 の 使 用 価 値 か らで も多 面 的 な 価 値 を 引 き 出 す こ と が 可 能 な享 受 能 力 に あ る こ とを 明 らか に し、 そ こ か ら、 享 受 能 力 の 洗 練 の さ れ 方 に よ っ て生 活 の あ り方 が 直 接 的 に 、 ま た 生 産 の あ り方 が 間 接 的 に規 定 され る こ と を 導 出 して い る。 そ して 第2に 、 構 想 労 働 に着 目 す れ ば 、 労 働 と生 活 と文 化 との 間 に は 本 来 的 な一 体 性 が み られ る こ とを 明 らか に し、 そ こか ら享 受 能 力 の み な らず 知 的 労 働 能 力 もま た 、 広 義 の 生 活 過 程 を 通 じて 生 産 され る と い う こ と を 導 出 して い る。 後 者 に よ って 、 こ れ ま で 生 産 物 の 単 な る消 尽 の 過 程 と して しか 性 格 規 定 され て こ な か っ た、 生 活 過 程 の創 造 的 役 割 が 明 らか に され る の で あ る。 そ こか らま た、 生 産 の本 義 が 生 産 物 の 生 産 過 程 で は な く、 生 活 の 生 産 過 程 に あ る こ と を 導 出 す る こ とが で き るの で あ る。 この よ う に、 生 活 の豊 か さ で あ る富 を 規 定 す る主 体 的 条 件 が 明 らか に さ れ る こ と に よ っ て、 同 時 に そ の 客 体 的 条 件 もま た 推 論 可 能 に な る。 な ぜ な ら、 生 産 物 お よ び 時 間 と い う素 材 が 、 富 の 主 体 的 条 件 の 創 出 に 資 す る よ うに 利 用 さ れ る 時 、 そ れ らは本 来 的 な役 立 ち を発 揮 して い る とみ な す こ と が で き るか らで あ る。 以 上 を 踏 ま え て 、 生 産 物 お よ び時 間 と い う潜 勢 的 富 が 現 実 化 す る関 係 を考 察 す る の が 、 第3章 「生 産 物 の 分 配 」 と第4章 「時 間 の分 配 」 で あ る。 第3章 で は 、 第1に 、 総 生 産 物 の 本 来 的 用 途 と い う観 点 か ら、 生 活 財 源 ・生 産 財 源 ・保 険 財 源 そ れ ぞ れ の 本 来 的 役 割 を 明 らか に し、 そ れ を踏 ま え て 第2に 、 資 本 制 経 済 シ ス テ ム に お け る、 生 産 財 源 に偏 重 した総 生 産 物 の 分 配 は、 生 産 物 分 配 の本 来 的 性 格 を無 視 した分 配 で あ り、 そ れ に よ っ て は 生 活 過 程 の 創 造 性 が 高 あ られ な い こ と を 明 らか に し、 第3に 、 生 活 財 源 の分 配 に つ い て立 ち入 っ た 検 討 を 加 え て い る。 す な わ ち、 生 産 物 の 生 産 が 時 間 と空 間 を 超 え た 協 同 連 関 の 賜 物 で あ る こ と を考 慮 す れ ば 、 当 事 者 の 遂 行 労 働 量 を 基 準 に した 生 活 財 源 の分 配 は 、 決 して 本 来 的 な 分 配 と は い え な い と い う こ とで あ る 。 第4章 で は、 ま ず 第1に 、 有 形 無 形 の 生 産 物 を 均 衡 的 に 生 産 す る た め の労 働 配 分 に即 して 、 生 産 物 の再 生 産 コス トが 規 定 さ れ る関 係 に あ る こ と を 明 らか に し、 っ い で 第2に 、 生 産 物 の再 生 産 コ ス トを そ の 一 部 と して 包 摂 す る こ との で き る よ うな 、 生 活 の再 生 産 コ ス トに つ い て検 討 を 加 え て い る。 それ は 、 従 来 の 生 産 物 に 偏 した コ ス ト論 を 現 代 的 に蘇 生 さ せ る試 み で も あ る。 そ こ で は特 に、 自然 を 再 生 産 す る た め に 必 要 な追 加 労 働 と、 少 し も生 産 物 の 生 産 に 結 実 しな い と は い え 、 人 間 関 係 を 形 成 す る た め に必 要 な無 償 労 働 との2点 に絞 って、 生 活 を 再 生 産 す る た め の コ ス トが 論 及 され て い る。
最 後 に第3と して 、 非 労 働 時 間 と して の 自 由 時 間 に つ い て 、 そ れ が 生 活 の 精 神 的豊 か さ を 規 定 す る 物 的 条 件 で あ る と い う視 角 か ら検 討 を 加 え て い る。 具 体 的 に は 、 可 処 分 時 間 の 形 成 と分 配 ・自 由 時 間 と余 暇 時 間 と の 相 違 ・自 由時 間 と労 働 時 間 の 相 関 性 な ど に っ い て で あ る。 そ して 結 論 と して は、 素 材 と して の 時 間 が 、 個 々 人 の 自 由 時 間 を 増 大 さ せ る よ うに 分 配 さ れ る時 、 そ れ らは 真 の 富 へ 転 成 す る と い う こ とが 導 出 さ れ て い る。 第2部 で は、 簡 単 に い え ば 、 「富 の 本 来 的 性 格 」 が 資 本 に よ って 変 容 さ れ る こ と が 考 察 され て い る。 そ こで は ま ず は じめ に 、 資 本 関係 が よ り基 底 的 な価 値 関 係 と して 、 す な わ ち モ ノ と サ ー ヴ ィ ス とを 商 品 価 値 に還 元 す る量 的 関 係 と して 掘 り下 げ て 考 察 す る。 な ぜ な ら、 価 値 差 額 を 収 益 とす る 資 本 の 運 動 が 成 立 す る た め に は、 生 活 を 再 生 産 す る た め の 使 用 価 値 の 世 界 が 、 商 品 価 値 が 支 配 的 な量 的 世 界 に よ って 浸 透 され 変 容 さ れ る こ と を前 提 に して い る か らで あ る。 い い か え れ ば 、 そ の よ うな 量 的 価 値 観 が 、 資 本 の 担 い手 だ け で な く労 働 の担 い 手 を も捉 え る時 に は じめ て 、 近 代 資 本 制 経 済 シ ス テ ム も ま た 完 成 す る こ と に な るか らで あ る。 そ れ を、 商 品 価 値 ・量 ・収 益 を 基 軸 とす る資 本 世 界 が、 使 用 価 値 ・質 ・友 愛 を基 軸 とす る生 活 世 界 を 侵 食 す る と して 表 現 して い る。 以 上 を 除 けば 、 第5章 「資 本 の 生 成 」 に お け る考 察 の 中 心 は、 差 益 の源 で あ る剰 余 価 値 を 概 念 化 す る こ と に あ る。 す で に、 生 産 の 成 果 で あ る生 産 物 と時 間 は 、 本 来 で あ れ ば 、 豊 か な生 活 を 実 現 す る よ う に分 配 さ れ る こ とが 明 らか に され た。 そ して生 産 物 と時 間 が 本 来 的 に分 配 され る とす れ ば 、 資 本 収 益 と して の剰 余 価 値 が 存 在 す る余 地 が な い こ と も明 らか で あ る。 した が っ て、 剰 余 価 値 が 生 成 す る た あ に は、 生 産 目的 の 設 定 に始 ま り成 果 分 配 を も っ て 終 る過 程 の 全 体 が 、 資 本 原 理 の も と に 包 摂 さ れ る こ と が 条 件 と な る の で あ る。 そ れ を具 体 的 に 表 現 す れ ば 、 生 産 目的 の 設 定 権 、 労 働 の 編 成 権 、 成 果 の 分 配 権 が 資 本 に よ って 掌 握 さ れ る こ と で あ る。 しか し、 資 本 に よ る そ れ ら3権 の 掌 握 とい っ て も、 そ れ は生 産 に お け る何 らか の 実 体 的 な 関 係 に根 ざす もの で は な く、 あ くま で も外 面 的 な関 係 に す ぎな い。 そ の 基 礎 は、 資 本 関 係 と い う もの が 、 労 働 力 の 擬 制 的 商 品 化 を基 礎 に す る と こ ろ の 、 擬 制 的 な 商 品 交 換 関 係 に ほ か な らな い と い う こ とに あ る。 第6章 「資 本 の作 用 」 で は 、 生 活 ・労 働 ・生 産 と い う人 間 存 在 に と って 最 も基 礎 的 な過 程 に お い て 、 そ の 本 来 的 な性 格 が 資 本 に よ って 変 容 させ られ る こ とが 考 察 され る。 そ の第1は 、 時 間 の 変 容 で あ る。 簡 単 に い え ば、 時 間 の 分 配 権 を 掌 握 した 資 本 に よ って 、 可 処 分 時 間 の す べ て が 労 働 時 間 に 振 り向 け られ る か、 あ る い は 、 労 働 者 に と って は 不 自 由 な 自 由 時 間(失 業 時 間)に 転 化 さ れ る こ と に よ っ て 、 時 間 の 本 来 的 性 格 が 変 容 さ せ られ る と い う こ と で あ る。 第2は 、 生 産 物 の 変 容 で あ る。 簡 単 に い え ば 、 生 産 物 の 分 配 権 を 掌 握 した 資 本 に よ って 、 本 来 的 な 使 用 価 値 は擬 制 化 さ れ 、 総 生 産 物 の 分 配 も生 活 の た め で は な く収 益 極 大 化 の た め に行 な わ れ る とい う こ と で あ る。 第3は 、 労 働 の 変 容 で あ る。 資 本 は労 働 の 編 成 権 を 利 用 して 、 労 働 者 の 主 体 的 意 識 性 を解 体 し、 労 働 過 程 を収 益 原 理 の も と に包 摂 す る とは い え 、 そ れ は 同 時 に 、 労 働 意 識 の 生 産 過 程 か らの 遊 離 と い う事 態 を 伴 う こ と に な る。 そ こ で 、 労 働 意 識 を生 産 過 程 に 吸 着 す る た め の 方 策 が 試 み られ 、 労 働 は稼 得 手 段 で あ る と い う観 念 を 定 着 させ 、 剰 余 価 値 の 生 産 が 労 働 者 の利 益 で も あ る と い う意 識 を 喚 起 す る こ と に な る。 この よ う に労 働 意 識 が 変 容 させ られ る結 果 、 個 々 人 の 主 体 的 な 生 活 過 程 もま た、 大 量 に生 産 さ れ た
商 品 を消 費 す る だ け の 過 程 へ と変 容 さ れ ち れ る の で あ る。 しか し以 上 の変 容 は 、 あ くま で も、 資 本 の 運 動 が 一 方 的 に作 用 す る場 合 の 傾 向 に す ぎ ず 、 実 際 の そ の 発 現 は、 資 本 に対 抗 す る 文 化 や 経 済 に よ って 変 容 さ れ る こ と に な る。 つ ま り、 生 活 か ら生 産 に 至 る本 来 的 な 性 格 の 資 本 制 的 な 変 容 は 、 資 本 世 界 に対 抗 す る生 活 世 界 の 成 熟 度 に よ っ て大 き く異 な る こ と に な る の で あ る。 資 本 主 義 の 国 民 的 相 貌 の差 異 と は、 ま さ に この 点 を 反 映 して い る の で あ る。 第7章 「資 本 の 配 分 」 で は 、 社 会 的 総 労 働 の 配 分 が 「資 本 の 配 分 」 と い う姿 態 を 取 る こ と か ら生 じる変 容 の い くつ か に っ い て 検 討 を 加 え て い る。 第1は 、 使 用 価 値 の均 衡 的 生 産 を 基 準 に配 分 され るべ き社 会 的 総 労 働 が 、 資 本 の 価 値 増 殖 率 を 基 準 に配 分 され る こ と に よ って 、 使 用 価 値 の 不 均 衡 的 生 産 が 招 来 され る と い う こ と で あ る。 第2は 、 土 地 自然 を 生 産 過 程 に動 因 す る こ と が 、 価 値 増 殖 に 抵 触 しな い範 囲 に 限 定 さ れ る結 果 、 自 然 の再 生 産 財 源 と して使 用 され るべ き生 産 物 部 分 が 地 代 と し て 私 的 に 所 有 さ れ 、 結 果 的 に 本 来 的 役 割 を 果 た さ な い とい う こ と で あ る。 第3は 、 本 来 、 延 長 さ れ た 生 産 過 程 の 担 い 手 で あ る商 業 が 、 資 本 制 的 に 営 ま れ る 結 果 、 産 業 を侵 食 す る対 向 勢 力 へ と変 質 す る と い う こ とで あ る。 第4は 、 相 互 扶 助 に 由 来 す る信 用 関 係 が 、 資 本 に よ っ て包 摂 さ れ る こ と に よ り、 産 業 を 支 配 す る道 具 へ と 変 質 す る と い う こ と で あ る 。 最 後 に 「結 び 」 で は 、 「資 本 の 世 界 」 に よ る 「生 活 の 世 界 」 へ の 浸 透 と支 配 と い う、 これ ま で の 近 代 社 会 に お け る歴 史 的 趨 勢 の 変 容 に っ い て 触 れ て い る。 す な わ ち 、 近 時 の 自然 破 壊 な ど を契 機 に して 、 生 活 世 界 が 資 本 制 市 場 原 理 に 対 抗 す る文 化 お よ び経 済 と い う姿 態 を取 って 復 位 しつ つ あ る と い う こ とで あ る。
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
本 論 文 は、 「近 代 資 本 制 経 済 シ ス テ ム の 歴 史 的 特 殊 性 」 を 、 就 中 富 の 考 察 を 通 して 解 明 す る こ と を 課 題 と して い る。 本 論 文 の 構 成 は 、 第 一 部 「富 の 本 来 的 性 質 」、 第 二 部 「富 の 資 本 制 的 特 質 」 か ら成 り、 前 者 か ら後 者 へ の転 変 、 転 倒 的 変 容 の論 理 的 プ ロ セ ス 、 あ る い は両 者 の 関 連 を重 層 的 に提 示 す る こ と を狙 い と して い る。 ま ず 、 「富 の本 来 的 性 質 」 に っ い て は 、 そ の 概 念 的 把 握 が 以 下 の よ うな 理 論 的 道 筋 に お い て 展 開 さ れ て い る。 人 間 自然(労 働 力)は 土 地 自然(自 然 素 材)に 働 き か け て労 働 生 産 物 を 生 産 す る が、 そ の さ い、 か れ に求 め られ る労 働 能 力 は 、 自然 と社 会 を 的 確 に認 識 し、 人 間 に相 応 し い生 活 の 在 り 方 と生 産 の 仕 方 に関 して 最 良 の選 択 を す る能 力 で あ る。 か か る意 味 で の知 的 能 力 は、 潜 勢 的 使 用 価 値 を多 様 に 使 用 して こ れ に現 実 性 を与 え る享 受 能 力 と共 に 、 い わ ば 人 間 生 活 の 豊 か さ を規 定 す る主 体 的 要 因 で あ る。 従 来 説 は、 豊 か さ を 物 的 財 貨 に の み即 して 一 面 的 に考 察 して き た傾 き が あ るが 、 こ う した 客 体 を享 受 す る主 体 的 能 力 に も着 目 す べ きで あ る。 そ も そ も富 と は 、 客 体 的 で あ る と共 に 主 体 的 で も あ る よ うな 関 係 性 に お い て 発 現 す る。 と こ ろで 、 主 客 の 関 係 性 に お い て 現 実 化 さ れ る富 は、 実 際 に は、 生 産 物 と時 間 と の 配 分 の 仕 方 に規 定 的 に 制 約 さ れ る。 総 生 産 物 は生 活 財 源 、 生 産 財 源 、 保 険 財 源 に配 分 され るが 、 この う ち個 人 的 消 費 分 と な る生 活 手 段 の 分 配 の基 準 に っ い て は、 これ を 個 別 的 な 遂 行 労 働 量 とす る こ と に は多 くの 難 点 が あ り、 労 働 の 協 働 連 関 性 とい う実 体 か ら して も、 す べ て の社 会 構 成 員 の 生 活 を等 し く維 持 再 生 産 す る よ う な仕 方 で な され るべ き で あ る。 っ ま り、 総 生 産 物 の 生 産 財 源 へ の偏 重 的 配 分 を 抑 制 し、 人 間 の 生 活 や 人 間 も そ の 一 部 で あ る 自然 の 再 生 産 に 資 す る よ うな配 分 が な さ れ た と き に 、 そ れ は富 と して 現 実 化 す る。 ま た 、 時 間 の 配 分 に っ い て いえ ば 、 社 会 が 必 要 と す る使 用 価 値 の 質 と量 、 そ の 生 産 に 要 す る労 働 時 間 、 精 神 的 要 求 を満 た す べ き 自 由 時 間 、 こ の三 者 間 の バ ラ ンス が 問 題 と な る。 そ こ で は、 個 別 的 な生 産 コ ス トの観 点 だ け で な く、 将 来 の コス トの 回 避 、 社 会 的 生 産 ・生 活 手 段 の 生 産 や 再 生 産 、 家 事 労 働 等 の生 活 維 持 活 動 等 、 を 視 野 に い れ な け れ ば な らな い。 労 働 の 生 産 力 の 発 展 は、 使 用 価 値 量 の増 大 と可 処 分 時 間=自 由 時 間 と を 同 時 に も た ら し う るが 、 後 者 を 何 に ど う配 分 す る か が 肝 要 な 問 題 で あ る。 可 処 分 時 間 は、 知 的 で 、 生 活 を 享 受 す る能 力 を備 え た社 会 の 構 成 員 す べ て に と って 増 大 す る 自 由 時 間 と して 顕 現 す る よ うに 配 分 さ れ た と き、 そ れ は真 の富 に転 化 す る と いえ る。 第 二 部 「富 の 資 本 制 的 特 質 」 で は 、 如 上 の よ う に、 生 産 物 と時 間 と い う二 っ の 素 材 に付 与 され る 社 会 的 規 定 と して の富 が 、 資 本 制 経 済 シ ス テ ム の生 成 ・展 開 の も とで 被 る、 転 倒 的 態 様 が 論 じ られ る。 そ こ で は、 一 切 の モ ノが 価 値 ・価 格 関 係 の う ち に 包 摂 さ れ る こ と に よ って 量 化 され 、 した が っ て、 使 用 価 値 ・質 ・友 愛 の世 界 と商 品 価 値 ・量 ・収 益 の 世 界 と が相 克 的 に 併 存 す る。 資 本 と労 働 と の交 換 関 係 が 商 品 の交 換 関 係 と して擬 制 され る こ と に よ って 、 生 産 目的 の 決 定 権 、 労 働 の 編 成 権 、 成 果 の 分 配 権 を 資 本 が 掌 握 す る。 労 働 生 産 力 の 発 展 の 成 果 で あ る可 処 分 時 間 は、 剰 余 価 値 の生 産 に 充 当 され 、 素 材 的 な 富 で あ る 総 生 産 物 は や は り剰 余 価 値 の極 大 化 と い う基 準 か ら分 配 され 、 「生 産 の た め の 生 産 」 と い う悪 循 環 が 始 ま る こ と に な る。 これ に伴 い、 労 働 意 識 も、 各 種 の変 容 に さ ら さ れ る。 構 想 労 働 と実 行 労 働 の 分 離 、 労 働 主 体 の 消 費 主 体 へ の 転 換 、 生 活 過 程 の 資 本 の運 動 へ の 包 摂 化 、 等 々 。 さ らに 、 産 業 利 潤 、 地 代 、 商 業 利 潤 、 利 子 等 、 剰 余 価 値 の 転 化 形 態 も、 本 源 的 に は 、 す べ て の社 会 的 生 産 に共 通 す る機 能 を基 礎 に して い る の で あ るが 、 こ こで もそ の 役 割 は 資 本 制 的 に規 制 され る こ と に な る。 と は い え、 資 本 制 的 な大 量 生 産 シ ス テ ム、 市 場 原 理 は、 そ の 限 界 を 露 呈 しっ っ あ り、 労 働 力 の 擬 制 商 品 化 の綻 び を契 機 に、再 び生 活 世 界 を取 り戻 し、 利 潤 原 理 に対 抗 す る文 化 と経 済 の 始 動 も始 ま っ て い る 、 と著 者 は結 ん で い る。 本 論 文 の 主 要 な 独 自性 、 した が って そ の 学 的 貢 献 は、 以 下 の よ うな 諸 点 に あ る と考 え られ る。 第 一 に、 経 済 学 の対 象 領 域 を 、 資 本 が包 摂 す る物 的 生 産 の 世 界 に局 限 す る こ とな く、 人 間 生 活 の 場 を も組 み入 れ た 、 よ り包 括 的 な 相 に お い て設 定 し、 方 法 論 上 興 味 深 い理 論 体 系 の 構 築 を模 索 して い る こ と。 第 二 に、 富=自 由(可 処 分)時 間 論 の 延 長 線 上 に、 客 体 的 財 貨 を知 的 、 且 つ 豊 か に 享 受 す る能 力 を備 え た 主 体 と い う要 因 を 強 調 し、 「富 の 本 来 的 性 質 」 を い わ ば 主 客 の 関 係 性 に お い て 把 え る ユ ニ ー クな 富 概 念 を 展 開 して い る こ と。
第 三 に、 生 産 物 と時 間 と い う二 契 機 の う ち に、 富 の 潜 勢 的 な素 材 を 見 い 出 し、 これ と富 の 現 実 化 とを 峻 別 した上 で 、 前 者 か ら後 者 へ の 転 成 の た め に は、 この 二 契 機 の 公 正 な分 配 が 必 須 の条 件 と な る、 とす る重 層 的 な 富 の 構 造 を提 示 して い る こ と。 等 々 で あ る。 他 方 で 、 第 二 部 「富 の 資 本 制 的 特 質 」 の 若 干 の 立 論 、 例 え ば 「資 本 の 配 分 」 の そ れ に は、 ま だ 詰 め る べ き諸 論 点 を 残 して お り、 今 後 の 補 ・加 筆 が 必 要 で あ る と思 わ れ るが 、 そ れ ら は概 して、 本 論 文 の主 題 に照 ら して著 者 の 積 極 的 主 張 が や や 希 薄 な部 分 に散 見 さ れ る も の で あ り、 これ に よ って 上 記 の貢 献 が 多 分 に損 な わ れ て い る わ け で は な い、 と考 え られ る。 以 上 に よ り、 本 論 文 は 博 士 論 文(経 済 学)と して 「合 格 」 と判 断 す る。