毛髪触感計測用センサシステムの開発と毛髪触感の
評価
著者
大澤 みのり
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
医工博第53号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00120419
氏名(本籍地) 大澤おおさわ みのり 学 位 の 種 類 博 士(医工学) 学 位 記 番 号 医工博 第 53 号 学位授与年月日 平成28年 9月26日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 研 究 科 、 専 攻 東北大学大学院医工学研究科(博士課程)医工学専攻 学 位 論 文 題 目 論 文 審 査 委 員 (主査)東北大学教 授 田中 真美 東北大学教 授 出水 紳一 東北大学教 授 田中 徹
論
文 内 容 の 要 旨
第 1 章 緒言 毛髪は紫外線による毛髪表面のキューティクルの損傷や、日常的な洗髪・ブラッシング等によ る物理的な損傷、カラーリング・パーマ等による化学的な損傷によってダメージを受ける。この ような毛髪ダメージ度合いや、ヘアケア製品によるダメージの改善効果は、主には毛髪を指で触 って感じる感触により実感する。よって、毛髪を指でなでることによって得られる触感について の知見を取得し、毛髪表面の特徴とダメージ実感等の触感認識との関連性を調べることは非常に 重要である。しかし、毛髪の物理特性やダメージを受けた時のそれらの変化、毛髪表面の感触を 向上させる研究は広く行われているものの、毛髪触感についての研究や、毛髪触感を定量的に評 価する機器の開発には未だ課題がある。つるつる、さらさら等の毛髪触感を表す言葉は個人によ って定義も程度も異なり、共通の基準がないため機器計測データと感触評価を紐づけることが困 難である。また、指が感じる触感に近い特性を計測する機器の開発が現状では十分ではない。さ らには、計測サンプルとして一般的に用いられるヒト毛髪の状態には人種、年齢、性別のみなら ず、周辺環境や今までのヘアケア履歴等によって個人差が大きく同じパネルから採取した毛髪で も部位によって状態が異なる場合もある。したがって、ヘアケア製品を使用した場合の触感の微 妙な変化を計測する場合には、計測データから処理毛髪の状態のばらつきと製品処理による効果 が分離できず、精度向上の妨げとなる。 そこで、本研究では毛髪触感の微妙な違いも検出できる計測システムを開発し、毛髪触感と計 測値の関係を明らかにすることを目的とした。毛髪触感を精度高く検出するためには、指が感じ る機械的刺激を計測する機器の開発が必要である。また、計測データと毛髪触感を関連付けるた めの毛髪触感の基準サンプルが必要である。さらに、多数のヘアケア製品の評価に本システムを 用いる際には処理前の毛髪状態の影響を小さくする評価用毛髪サンプルが求められる。したがっ て、本研究では、まず毛髪状態の個人差を少なくする評価用毛髪サンプルとして、毛髪表面の形 状・表面官能基を再現した基板を作製した。また、基板表面を触った時の感触評価を行い、ヘアケア製品評価の際に毛髪の代替として使用可能かどうか確認するとともに、ダメージによる感触 への影響を調べた。次に、指が感じる機械的刺激を計測する機器の開発を行った。この機器は力 学的な刺激に対する応答特性が指の感覚受容器のパチニ小体に類似している、圧電素子のポリフ ッ化ビニリデン(PVDF)フィルムを受感材とした、毛髪触感計測用センサである。このセンサを用 いて、本研究において開発する評価用毛髪サンプルの測定を行い、触感の違いをより検出しやす いセンサ突起部分の形状・材質を検討した。また、センサ出力と毛髪触感のより詳細な関連を調 べるために、毛髪触感の基準サンプルとして、繊度・表面処理・断面形状を変化させて様々な感 触を付与した複数の人工毛髪を作成し、センサ出力値との比較を行った。 第 2 章 毛髪モデル基板の開発とダメージ実感の解明 本章においては毛髪表面のキューティクル形状・表面官能基を模擬した基板を開発した。この 基板は、表面の官能基に応じた親疎水性とキューティクルの幅と高さを変化させることによりダ メージ状態を段階的に設定したため、表面のキューティクル形状と親疎水性がダメージ実感と関 連しているかを調べることが可能となった。これらの毛髪モデル基板に対する感触評価を行うこ とにより、キューティクルの幅が広がるとダメージを実感し、特にキューティクルの幅と高さが ランダムに変化すると著しくダメージを実感することが分かった。また、キューティクル形状加 工なしでダメージ毛髪を模した親水性表面と健常毛を模した疎水性表面の感触を比較すると、乾 燥状態では健常毛を模した表面のほうが感触が良いと評価された。加えて、キューティクルの幅 と高さがランダムに変化する形状の場合は、乾燥状態でも湿潤状態でも感触が著しく悪くなるこ とから、キューティクル形状のランダム化がよりダメージ実感に影響することが明らかになった。 また、毛髪モデル基板に対しヘアケア製品処理を行い、基板を指で触って評価した結果と、実際 のヒト毛髪で洗髪評価した結果が同様の傾向であった。これにより、基板を個人差の大きいヒト 毛髪の代替としてヘアケア製品の毛髪触感評価用サンプルとして使用できることが確認された。 基板をヘアケア製品の感触評価に用いることにより、評価に用いる毛髪の状態の個人差を少なく することができる。また、複数のシャンプー・コンディショナーの評価を行う際にも一つ一つの 製品を洗髪して評価する必要がなくなるため、評価者の負担が減り、評価ブレを少なくすること ができる。よって、感触評価をより精度よく簡易的に評価することが可能となった。 第 3 章 毛髪触感センサシステムによる毛髪モデル基板の測定 本章においては毛髪のダメージによる感触変化・シャンプー・コンディショナー処理による触 感変化を機器計測するために、PVDF を受感材として用いた毛髪触感を計測するセンサシステム を開発した。また、複数のヘアケア製品を評価する際に処理前の毛髪状態の影響を小さくする評 価用毛髪サンプルとして、2 章において開発した毛髪モデル基板を毛髪の代用として用いた。そ の結果、加硫ゴム製の円柱状の突起を使用した Sensor 2 により、健常毛とダメージ毛を模した形 状・性質の異なる基板表面の差を検出可能であることがわかった。また、同一の基板においてシ ャンプーのみの処理、シャンプー・コンディショナー処理後の湿潤状態、乾燥状態、の違いを検 出可能であることがわかった。さらに、ウレタンアクリレートによる点状の突起を付与した Sensor 3 を開発することにより、複数のシャンプー・コンディショナー基剤の違いをより精度よく検出 可能となった。
第 4 章 人工毛髪を用いた毛髪触感センサ出力 VAR, FFT_AREA と毛髪触感の関係 3 章までの結果より、毛髪モデル基板を用いた本センサシステムの開発により、毛髪表面のダ メージ度合いとヘアケア製品の評価が可能となったが、毛髪の表面状態を模した基板は 4 種類の みである点、市販のシャンプー・コンディショナー処理を行った基板は全体的に良い仕上がり触 感に偏っており大きな触感変化はない点から、触感サンプルの多様性に欠けており、センサ出力 と触感の関係についての議論は不十分である。センサ出力と触感の関係をさらに明らかにしてい くためには、より幅広い触感のサンプルが必要であると考えられる。そこで幅広い触感を付与し たより実際の毛髪に近い形状の人工毛髪をサンプルとして用いた。 本章においてはまず、素材・繊度・表面処理・断面形状を変化させて様々な感触を付与した 10 種類の人工毛髪を作製した。作製した人工毛髪は感触評価を行い、因子分析によって保湿感を関 連する因子 Moisture Factor と軽さ感と関連する因子 Lightness Factor を抽出した。また、サンプ ルとして用いた人工毛髪ストランドの特徴を検出しやすくするためと、指で触って評価する実際 の場面に近づけた測定系とするためにセンサ突起の改良を行った。センサはシリコーンゴム製の 指紋を模した円状の突起とした。改良したセンサにおいて 10 種類の人工毛髪を計測した結果、 FFT_AREA が小さくなるほど Moisture Factor と Lightness Factor が大きくなることを明らかにした。 したがって、FFT_AREA の大小によって、しっとりさ、軽さを評価することが可能となった。 FFT_AREA の値はマイスナー小体からパチニ小体の応答周波数の振動の大きさを示しているこ とから、指が感じる振動の振幅が小さいことが Moisture Factor と Lightness Factor が大きくなるこ とと関係していることが示唆された。また、人工毛髪の物理特性とセンサ出力の関連を調べるた めに同様の素材において断面形状、繊度、表面処理のいずれか一つ変化させた人工毛髪を作製し、 センサで評価した結果、それぞれの物理特性の違いによってセンサ出力が異なることがわかった。 断面形状が丸型の場合に FFT_AREA が小さい値となることから、しっとり、軽く感じられると考 えられる。また、X 型の断面のサンプルは FFT_AREA が大きい値となることからパサつき、ごわ ついて、重く感じられると考えられる。繊度においては小さいほど FFT_AREA が小さい値となっ た。したがって、繊度が小さいとしっとり、軽さが増すことが考えられる。表面処理においては エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体水溶液の処理において 1 wt%以上の濃度で 処理したものはそれ以下よりも FFT_AREA が小さい値となり、しっとり、軽さが増すことが考え られる。 以上の結果により、センサシステムによって得られたパラメータ FFT_AREA は毛髪触感の中で も保湿感、軽さ感に関連していることが示された。また、断面形状、繊度、表面処理がそれぞれ 触感に影響していることが示された。 第 5 章 人工毛髪を用いた主成分分析による毛髪触感特徴量抽出 5 章においては、4 章において作成した様々な感触を持つ人工毛髪を用いて毛髪触感センサ測 定を行い、主成分分析を用いた振動の特徴量の抽出を試みた。その結果、4 個の主成分によって 各人工毛髪の振動特徴を示すことが可能となった。これらの主成分はそれぞれの持つ毛髪触感に 関連していると考えられる。各主成分はそれぞれ特定の周波数帯域と高い相関をもっており、主 成分によって毛髪触感の特徴的な周波数帯域を抽出できたことになる。また、第 1、第 2 主成分 による触感のマップ化を行い、各人工毛髪の触感の位置づけを簡易的に把握することが可能とな
った。 第 6 章 結言 本研究において開発された毛髪触感センサによる評価システムは、毛髪自身の物性評価が中心 である既存の毛髪評価機器と比較して、毛髪を指で触った時に生じる触感知覚に関連した振動に 着目している点において他にはない新しいシステムである。本評価システムは感触評価の個人差 を少なくし複数のヘアケア製品による毛髪触感の変化を客観的に計測できるシステムとして非 常に有用なものであると考える。よって、本評価システムにより、市場の存在する多くの製品の 特徴的な仕上がり感、位置づけを把握することができ、ヘアケア製品の開発に活用することがで きる。今までは開発した試作品の信頼性の高い感触評価を行うためには専門パネルに依頼する必 要があったが、依頼が混雑しているタイミングや専門パネル人員の流動性により開発スケジュー ルに影響を及ぼす可能性があった。本評価システムを用いることにより、専門パネルに依頼しな くても信頼性の高い評価が可能となり、効率の良い製品開発が可能となった。
別紙1