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西ドイツ・オランダ・スイス企業の
年次事業報告雄
大 矢 知 浩 司
1 最近の動向
ヨーロッパ諸国においても,アメリカ企業と同様に,年次事業報告書を「社 会一般に対する積極的なコミュニケーション・メディア」としてとらえ,その 内容に企業のPR的な要素を多く盛り込んで,広く社会一般に配布するという 風潮がみられる。西ドイツ企業,オランダ企業もその例外ではない。また,こ のような動向に対して比較的消極的であるといわれているスイス企業について も,この調査にみる限り同様な傾向がみられることに注目しなければならな い。 (1) コミュニケーション・メティアとしての年次事業報告書の多様化とPR誌の作成
1) 西ドイツの主要企業では,年次事業報告書(Geschaftsbericht)は詳細版 (Langfassung)と簡略版(Kurzfassung)の2種類が作成されることが多い。この うち,簡略版年次事業報告書は,株主総会招集通知状とともに株主に送付され るのが普通である。たとえば,西ドイツ自動車業界の代表的な企業であるダィ ムラー・ベンツ社(Daimler−Benz AG)についてみてみよう。1979年度末現在同 社の株主は約8万名であり,そのうち約半数が安定株主である。また,全発行 済株式の25%が同社の支配会社であるメルツェデス自動車持株会社(Mercedes /) ここでいうGeschaftsberichtは,年度:決算書,1965年株式法第160条および第334 条にいうGeschaftsbericht(営業幸艮告書),監査役会の報告書等を慣行上ひとまとめ にした1冊の文書をいう。この文書を黒田全紀教授は実際上の営業報告書と訳され, 法律上の営業報告書と区分されているが,ここでは事業報告書と訳している。西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 25 Automobil−Holding AG)に保有されている。したがって,メルツェデス自動 車持株会社の株主約5万名は間接的にダイムラー・ベンツ社に投資しているこ とになる。そこで,ダイムラー・ベンツ社は簡略版年次事業報告書を20万部作 成し銀行を通して自社およびメルツェデス自動車持株会社の株主に送付してい るのである。また,ダイムラー・ベンツ社は,従業員宛年次事業報告書も別 に14万部作成して配布している。さらに,「19××事業年度中間報告書」(Zwi− schenbericht ttber das Geschtiftsjahr 19××),「株主総会報告書」を作成・配 布してもいる。 また,マンネスマン社(Mannesmann AG)にあっては,年次事業報告書の ほかに「Pt 一ル・ポスト」 (鋼管通信ROHR−POST)と称するPR誌を株主 その他の社友に年3回配布している。このPR誌は,年次事業報告書よりもホ ヅトな情報を提供している。たとえば,1980年8月号(第73号)では,「1980 年上半期におけるマンネスマン」と題して,売上高,生産高,従業員数人件 費等の増減を図表にして説明し,さらに営業状態の説明を行なっている。また 1979年度株主総会の状況等もこの・号に示されている。1980年11月号(第74号) は,1980年1月から9月までの営業状態を示す種々の数値を前年度の数値と 比較して説明している。このようなPR誌は,バイエル社(Bayer AG)でも 「バイエル報告書」(Bayer−Bericht)と題して年2回発行されているところで ある。 スイスの代表的な多国籍企業であるネッスル社(Nest16 S. A.)では,企業 集団全体の年次事業報告書を作成しており,そこでネッスル・グループの事業 活動および財務業績,ネッスル社の年次事業報告書,ユニラック社(Unilac, ラ Inc.)の年次事業報告書,1980年度中のスナップ写真を掲載している。1819年 から1980年にいたるネッスル社史,インスタント・ドリンク,ミルク,冷凍食 品,チョコレート等同社製品の詳細な説明,10数頁にわたる同社製品のカラー 2)パナマ市に本社があり,西半球におけるネッスル社の利益を代表する。ネッスル社 の株式所有者には1株につきユニラック社普通株1株が無償交付されており,ネッス ル社の株式とユニラック社の普通株は株券番号が同一である。
26 彦根論叢 第215号 写真等は興味深いところである。 さらに,ヨーμッパでは著名なインスタント・コーヒーのメーカ・t一であるス イスのヤコープス社(Jacobs AG)は,外部の専門家に助言を求め,すべてコー ヒー・カラーに統一した色調にあわせ,美的感覚に訴える種々の工夫を年次事 業報告書に試みている。とくに,同社は製品,工場,設備等の写真に代えて, コーヒーに親しむ人に画題を求めた絵画4枚を掲載しているのは,先に述べた ネッスル社と好対照をなすものである。また,PR誌を発行しているスイス企 業には,サンド社(Sandoz AG)がある。 (2) PR部門による年次事業報告書の作成 アメリカ企業の場合と同様に,西ドイツ企業にあってもPR部門で年次事業 報告書が作成されるケースのみられることも一つの特徴であるといわなければ 3) ならない。このような例として,ある企業では,取締役会事務局が年次事業報 告書を編集し,これを取締役会が監修している。また,他の企業では,パブリ ック・リレーションズ部門がその編集を行っている。これは,オランダ企業, スイス企業にもみられる傾向である。従来,財務部門,経理部門が担当してい た(現在でも,このような企業もみられるが)年次事業報告書の作成が,企業 と社会を結ぶパブリック・リレーションズ部門にその担当が移され,これによ って「とおり一遍の株主宛報告書」から「社会一般に対する積極的なコミュニ ケーション・メディア」としての年次事業報告書の作成をめざす方向へと動い ている。いわぽ年次事業報告書の新しいあり方に積極的に取り組んでいる企業 の動向をここにみることができるのである。 このような新しい動向を示している西ドイツ企業の年次事業報告書作成およ び配布実務について,本章ではフォーチュン誌ランキング鉱工業500社(アメ リカを除く)にランクされている62社のうち回答をえた30社を中心として,オ ランダ企業(16以下うち回答をえた11社)およびスイス企業(14社のうち回答 をえた6社)と対比しつつ,その特徴を明らかにしてみたい。 3)黒田全紀・武田隆二稿,「西ドイツ営業報告書の検討」,『営業報告書の研究一日本 会計研究学会特別委員会報告』,昭和56年,24頁。
西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 27 豆 年次事業報告書を規制する法制 (1)西ドイツ株式法 西ドイツ企業の年次事業報告書を規制する法律は,株式法(Aktiengesetz)で のある。また,この株式法の適用を受けない大規模有限会社等については,「特 定企業およびコンツェルンの会計報告に関する法律」(Gesetz aber die Rech・ nungslegung von bestimmten Unternehmen und Konzernen),略称「開示法」 (Publizitlitsgesetz)が1969年に制定され,株式法の規定と同様に計算書類の開 示とその監査が義務づけられている。この両法によって,この種の企業の年次 事業報告書が規制されることになる。1965年株式法によると,その第148条で は,取締役会は事業年度の最初の3ヵ月以内に前事業年度の貸借対照表および の損益計算書(これを年度決算書という),営業報告書(Geschaftsbericht)を作成 して決算監査人に提出しなければならないと規定されている。そして,各々の 文書の必要記載事項が示されているのであるが,これらの文書の株主への送付 義務については法的規定がない。1965年株式法では,年次株主総会は事業年度 終了後8ヵ月以内に開催されなければならず,その招集通知は少なくとも1カ 月前に官報および企業の定める新聞紙上に公告し,さらに,この公告の日から 12日以内に記名株主および通知を要求する無記名株主,寄託株の保管銀行等に 株主総会招集通知状を送付しなければならないが(第123条および第124条),年 度決算書および営業報告書は株主からの要求がなければ送付する必要はなく, 株主総会招集通知のときより会社に備置くだけ’でよいことになっている(第175 条)。また,年度決算書,営業報告書等をひとまとめにした年次事業報告書そ のものの規定もない。 そこで,西ドイツの主要公開会社は,実際には株式法の要件を満足するよう 4)興津裕康稿,「営業報告書と年度決算書」,広島修道大学総合研究所営業報告書研究 グループ編,『ディスクロージャーと営業報告書』(広島修道大学研究叢書第10号), 広島修道大学総合研究所,昭和56年を参照されたい。 5)1965年株式法第160条および第334条にいうGeschaftsberichtをいう。
28 彦根論叢 第215号 な詳細な年次事業報告書とは別に,「株主総会招集通知および19××事業年度 簡略報告書」(Einladung zum Hauptversammelung und:Kurzbericht itber das Geschtiftsjahr 19××)と称するような文書を作成して,企業自身が直接に, あるいは寄託株の保管銀行を通して株主に送付する。そして,そのなかに「詳 細な年次事業報告書をご希望のときは,このハガキに住所および氏名をご記入 の上送付下されば,折返し送付させていただきます」と記されたハガキが同封 されている。しかしながら,株主の請求がきわめて少ないことは,〔第3表〕 「簡略版を作成する西ドイツ企業の年次事業報告書配布部数」から推察される であろう。 以上のように株式法には,株主への提示書類を慣行的にひとまとめにした年 次事業報告書に関する規定がな:いため,その名称についても何ら法定されてい ない。多くの企業は,法的に作成義務のあるGeschsftsberichtを年次事業報告 書の表紙名称に使用し,見開きページでは「営業報告書および年度決算書」 (Geschiftsber三cht und JahresabschluB),「事業年度報告書」(Beエicht ifber das Gesch鹸sjahr),あるいは単に「営業報告書」(Geschtiftsbericht)と記載するな ど多様な名称が付されている。西ドイツ企業の英語版年次事業報告書では,大 抵「年次報告書」(annual report)という名称を付しているが,バイエル社は 「事業報告書」(business report)という名称を用いている点が注目される。 現行株式法に定められている営業報告書は,状況報告書(Lagebericht…業務 報告書という訳もできる)と説明報告書(Erltiuterungsbericht) tlこ分けられて わ いる(第160条)。前者は,事業経過と会社の状況ならびに当該事業年度の終了 後に生じた特に重要な事項を記載し,後者は,貸借対照表と損益計算書の記載 事項について補足し,年度決算書の理解に必要な事項を説明する。このような 必要記載事項に加えて,それを補足する意味で資金計算書や付加価値計算書が 6)年次事業報告書の名称に関する黒田全紀・武田隆二両教授の調査結果も同じ傾向を 示している。黒田全紀。武田隆二稿,「西ドイツ営業報告書の検討」,前掲書,24−25 頁。 7)興津裕康稿,「営業報告書と年度決算書」,前掲書,4頁以下を参照されたい。
西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 29 状況報告書の一部として追加的に示される場合が多い。資金計算書等は営業報 告書の必要記載事項ではないが重要なものであり,法律上の必要記載事項をこ える範囲での情報を提供しているものと考えることができる。 なお,年度決算書は株主総会終了後に公告され,また,商業登記所に提出さ れることになっている。 (2) オランダ民法第2編およびスイス債務法 オランダ企業の年次計算書類は,民法(BurgerHjk Wetboek)第2一門6章 き において規定されている。それによると企業の取締役は,毎事業年度終了後5 ヵ月以内(株主総会はその期間を延長することができる)に貸借対照表,損益 計算書および取締役の報告書を作成して株主総会に提出しなければならない (第101条および第137条)。これらの計算書類および報告書は株主総会前に株 主の縦覧に供しなければならず,また,株主はその謄本を請求することができ るのである(103条)。計算書類は原剴として株主総会により承認される(法的 に監督取締役会の設定が義務づけられている場合には,監督取締役会により確 定される)。この株主総会または監督取締役会で確定された計算書類および報 告書が商業登記所に届出され,一般大衆の縦覧に供される(第104条)。しかし ながら,西ドイツのように新聞紙上に公告する必要はない。また,年次事業報 告書(jaarverslag)そのものを規定する条文はない。年次事業報告書は慣行的 の に作成されているのである。 スイス企業の年次事業報告書に関する法律は債務法(Code des Obligations, 8) オランダ企業は公開型株式会社(N.V.)と閉鎖型株式会社(B. V.)に,「大会社」 と「小会社」の2種類がある。法制等の概要については,ロベコ社(Rotterdamsch Beleggingsconsortium N. V.)の有価証券報告書に簡潔に要約されているので参照さ れたい。1976年にほとんどそのまま民法に導入された1970年制定の「企業の年次計算 書類に関する法律」(Wet op de Jaarrekening van Ondernemingen)については,久 木田重和稿,「取替価値会計の背景一オランダ企業会計制度の基本的特質一〔1∼5〕」, 『東京経大学会誌』,第89∼92,94号(!975年3月∼9月,1976年1月)に詳しく説明 されている。 g) 18 Annual Accounts of an NV (Nederlands), in; Meinhardt, P., Company Law zn Europe, 2nd ed,, Gower Pr., England, pp. NL−18(i).
30 彦根論叢第215号 株式会社法)である。それによると,スイスにおいては年次株主総会は少なく とも会日より10日前に企業の定める方法にて招集しなければならない。また, 貸借対照表,損益計算書,営業報告書(Geschtiftsbericht第724条),監査役の 報告書(第729条)および利益処分案は,同じく10日前に会社の登記された事 務所において株主の縦覧に供しなければならない。株主はオランダの場合と同 様にそれらの書類の謄本を請求することができる。しかし,企業が無記名株式 を発行している場合には,上記書類を縦覧に供している旨を官報に公告し,か つ,記名株主には直接通知しなけれぽならない。証券取引所規程にしたがって 年次計算書類を公刊しなければならない上場会社,銀行・保険等の特定業種以 外には,株式会社はその年次事業報告書を商業登記所に届出る必要はなく,ま た,公刊することも要求されていない。また,年次事業報告書そのものを規定 ユの する条文はない。 皿 年次事業報告書の作成および配布 (1) 印刷総数および株主への配布 〔第1表〕は,西ドイツ,オランダ,スイスおよび日本企業の年次事業報告 書の印刷総数,株主以外への配布数,株主への配布割合を示している。まず, 西ドイツ企業は,一部を除けばアメリカ,イギリス企業ほどには大量の年次事 業報告書を印刷していないことが〔第1表〕から理解できる。また,この表に よると,西ドイツ企業の場合,印刷総:数10,000部未満の企業が14社と約半数を 占める。これは,フォーチュン誌500社のランクに入る企業であっても,株主 が極端に少ない企業とか,有限会社(GmbH…3社),株式合資会社(KG… 2社)および財団法人(Stiftung…1社)の形態をとっている企業が多いとい 10) 18Annual Accounts of an AG(Switzerland), in;ibid., PP. CH−18(i).また, スイス債務法の概要については,篠田四郎稿,「スイス債務法(株式会社法)改正の 動向」,『名城大学創立三十周年記念論文集,法学篇』,法律文化社,昭和53年,57− 103頁に詳しく説明されている。
西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 31 う理由によるものである。いま1つの大きな理由は,大規模株式会社にあって 11) もその発行する株式はほとんど無記名式であり,このことによって会社には株 主台帳により株主数を確定することができないために必然的に発行部数が少な くなってくる。株主総数は呼名かという質問に対して,「支配会社によるほぼ 100%所有」とか,「1名ないし数名」,あるいは「せいぜい30名足らず」と回 答した企業が多いことに,この点をうかがうことができる。また,西ドイツの 場合には株主が多い企業であっても,せいぜい数万部の年次事業報告書を印刷 第1表 年次事業報告書の印刷・配布数 印 測 総 数
部数鷹頻盃イ睡
100万部 以 上 60・v99 50tv59 40nv49 30xv39 20iv29 15・一19 10iv14 5 .一v 9 !nv 41未満
不 明 1 1404
11
164
上155523
13
!13ユ
株主以外への配布数部数劇鐙イ睡
殺。型
150tv199 100n−149 50tv 99 10tv 49 5N 9 1nv 41未満
o
不 明126541
1
342
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il 2i i 印刷総数に占める株主 への配布割合割合二一到躰
100 % 90tv99 80/v89 70nv79 60tv69 50tv59 40iv49 30iv39 20iv29 10nv19 0”v9 不 明234
2 2 1 1 1 151 4 1121
21 41 1 −∩﹂戸D241
! 会社数・… 662会撒1・… 6
62会社数 30 11 6 62 11)たとえば,バスフ社(BASF AG)の株式はすべて無記名式であり,1978年!1月末 現在,株主数は約315,000名といわれている。この株主数は同社がロンドン証券取引 所上場申請書を作成するため,国内・国外の352銀行の協力を求めて割り出した株主 数ではあるが.それでも発行済株式資本の約88。7%を確定したにすぎないといわれる (BASF AG, lntroduction to The Stock Exchange in London of the Shares of BASF)。また,ジーメンス社の1979年8月15日現在の株主数402,000名も,国内・国外 の金融機関5,500社の協力により割り出されている(Slemens AG,402,000 Siemens− Aktion5re,1980)。この資料の入手は神戸大学教授黒田全紀氏のご厚意によるもので ある。記して謝意を表したい。32 彦根論叢 第215号 しているに過ぎない企業も多い。後に詳細に示すように,簡略版の年次事業報 告書を作成し,それを株主に配布している結果にほかならない。 また,〔第1表〕にみるように,オランダ企業,スイス企業ともその印刷総 数はそれほど多くない。平均印刷総数は,14,700部,41,800部である。いずれ の企業も株主への配布割合が少ないという点に特色がみられる。株主よりも, それ以外の利害関係者に配布されるケースが多いということである。株主以外 への配布数についてみると,西ドイツ企業では10,000部以上が9社,10,000 部未満が20社,そして,不明が1社である。オランダ企業では10,000部以上が 3社,10,000部未満が6社,そして不明2社である。スイス企業では10,000 部以上が4社,10,000部未満が1社,そして不明1社である。このように株主 以外への配布が強調される傾向は, 〔第2表〕の年次事業報告書の配布割合に もみられるところである。 〔第2表〕は,国有企業,財団法人および株主数10名以下の企業を除き,ア ンケートに示した配布先について集計するにたる記入のある西ドイツ企業14 社,オランダ企業6社,スイス企業3社につき各々の配布先の印刷総数に占め る割合を計算し,それを単純平均したものである。これらの数値にみる限り, 各国とも株主への配布割合が50%あるいはそれ以下になっていることがわかる 第2表 年次事業報告書の配布割合 配 布 先
限州オ・洌・… 本
株主(新株主を含む) 従 業 員 潜在的従業員(リクルートのため) 証券業者,銀行,保険会社等(株主以外に) 大学,図書館,研究所等 公共利害関係者集団 政府,地方公共団体等 マ ス コ ミ そ の 他 配布差額(印刷総数一上記配布数) Jro. O% 5.9 0.5 10. 4 4.2 4.4 1.7 6.6 1.5 14.8 14.30/0 7.O O.9 16.1 3.0 3.6 6.1 3.3 14.1 3!.6 36.4e/0 14.! 1.0 8.3 1.0 4.2 0.8L3
20. 5 12.4 92.2%L8
0.1 0.7 0,1 0.o O.1 0.1 0.7 4.2 会 社 数 14 6 3 6!西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 33 であろう。そのいずれについても,日本企業の場合とは大きく違った様相を呈 している。しかしながら,西ドイツ企業の場合には,とくに年次事業報告書の 簡略版と詳細版を作成し,簡略版を年次株主総会招集通知状に同封して株主に 送付するという実務に注目しなければならないであろう。ちなみに,簡略版を 作成する西ドイツ企業5社の配布部数を参考資料として〔第3表〕に示してお く。株主数の多い大規模公開会社は,彪大な部数の簡略版年次事業報告書を作 成・配布していることがわかる。西ドイツ企業の年次事業報告書についての実 務を,ここからもうかがうことができる。 以下,〔第2表〕にもとづいて,いましばらく分析を進めていく。 第3表 簡略版を作成する西ドイツ企業の年次事業報告書配布部数 株主数・従業員数・配布先
・社・社・社・社1・社
株 主 数 従 業 員 数 年次事業報告書(詳細版) の印刷部数 簡略版の印刷部数 合計印劉部数 420, OOO 170, 400 58, 200 508, 625 220, OOO 13ti,, 200 37, oeo 3!5, 000 1 64, 800 丁目, eoo 2Jr o, ooo 180, OOO 105, 500 20, OOO 180, OOO 33, OOO 14, 500 20, OOO 47, OOO 5, 56, 825 3s2, ooo 1 260, ooo [ 200, ooo 1 6z ooo 配布先 株 主 従 業 員 潜在的従業員(リクルート) 証券業者,銀行,保険会社等 大学,図書館,研究所等 公共利害関係者集団 政府,地方公共団体等 マ ス コ ミ その他;セミナー,訪問者 配布差額(未使用分を含む) (420, OOO) (75, OOO) g”lggg i・z.g81翻
︷
36, 200 (13, 625)︷
15, OOO (250, OOO)︷
6. 000 (IS, OOO) 500︷
200 (200) 50︷
200 (200)︷
15, 050 (49, 600) (250, OOO) 100 100 200 1,000 8, 600 (180, OOO) 4, 500 6, OOO 2, OOO 7, 500 (33, OOO) (13, OOO) 1’辮端
遡
︷
15, 500 (!, OOO) (注) カッコ内の数字は簡略版の配布数である。 (2) 従業員への配布 西ドイツの場合には,経営組織法(Betriebsverfassungsgesetz)および共同決 定法(Mitbestimmungsgesetz)が制定されており,これらの法律により企業に34 彦根論叢第215号 よっては従業員代表が監査役会の構成員に選任され,また,労務担当取締役 (Arbeitsdirektor)が従業員により選任されることになっているところがら, 従業員に対する報告はとくに重要となっている。従業員の経営参加と従業員グ ループに対する労使問題に関する情報提供の義務化から,従業員のニーズを指 向した情報が年次事業報告書にも多く掲載されるようになってきている。たと えば,ダイムラー・ベンツ社の年次事業報告書は,「人事および社会制度」とい う見出しのもとに,従業員数の動向,従業員の構成,人件費の推移,経営提案制 度,労働条件,ベースアップとクリスマス・ボーナス,健康管理と安全対策, 社会保険制度,従業員教育等について報告している。また,利益の分配関係を 示す付加価値計算書等の図表も示されている。こういつた報告を中心とする従 業員宛の特別な報告書を発行している企業も最近増加しているようであり,こ れについては〔第5表〕に特別な事業報告書の作成状況を示してあるので,参 照されたい。 従業員に対する配布割合は,西ドイツ企業5.9%,オランダ企業7.O%,スイ ス企業14.1%である。西ドイツでは,10,000部以上従業員に配布している企業 は2社であり,1,000∼5,990部が7社,100∼990部が10社とな:っており,オラ ンダでは,1,000∼5,990部が5社,100∼990部が4社となっている。また,ス イスでは,1,000∼1,990部が2社,100∼990部が2社となっている。〔第5表〕 にみられる特別な事業報告書の作成からみると,オランダ,ドイツの企業にこ れを作成しているところが多い。これに対して,スイスでは僅か1社のみとい う結果がでている。 西ドイツの企業のうち,たとえば電気機器の代表的企業であるジーメンス社 (Siemens AG)は,従業員の多くが株主であるという理由から年次事業報告 書を従業員に配布していない。また,特別な年次事業報告書を作成しな:いとい う。さらに,従業員に配布すると回答した企業についても,従業員の一部にの み配布するという方針をとっているところも多い。
(3)広報活動
西ドイツ,オランダ,スイス企業も,アメリカ,カナダ,イギリス等の企業西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 35 と同様に広報活動の一環として教育・研究機関,公共利害関係者集団,政府・ 地方公共団体,マスコミ等に広く年次事業報告書を配布していることがわかる。 まず,教育・研究機関としての大学,図書館,研究所等に対する配布について みることにしよう。アメリカ,カナダの企業についで活発な企業は,西ドイツ 企業である。8,000部,6,000部配布している企業もあり,1,000∼3,990部配布 している企業は3社,100∼990部配布している企業は15罷みられる。オランダ 企業の場合は,1,000部以上配布している企業は1社,100∼990部配布してい る企業は5社である。スイス企業では,100∼490部配布している企業が2社で ある。西ドイツ,オランダ,スイス企業では海外の大学等へもかなりの数を配 布しているものと思われる。日本の企業の20部から30部とは比較にならない状 況にある。 公共利害関係者集団への配布については,西ドイツ企業が4.4%,オランダ 企業3.6%,スイス企業4.2%と高い比率を占めている。西ドイツ企業では5,000 部が1社,500部∼1,990部が7社あり,オランダ企業もスイス企業も部数は少 ないが国土,人口の割合からみれば決して少ない数字ではない。このことは, 環境保護,消費者・地域住民への積極的な取り組みを行なっている企業の姿勢 を示すものといえよう。 オランダ企業では,政府,地方公共団体等への配布割合が6.1%と高い。 3,000部以上配布している企業が2社あり,100部∼990部を配布している企業 は5社である。先の公共利害関係者集団への配布と同様に環境問題,地域住民 への積極的な取り組み,国際社会への対応を考慮に入れた広報活動の一環とし ての年次事業報告書の位置づけを証明しているものといえよう。 西ドイツ企業,オランダ企業では,マスコミへの広報活動を活発に展開して いる。配布割合をみると,西ドイツ企業6.6%,オランダ企業3。3%である。西 ドイツ企業では1,000部∼2,990部配布している企業が10社にも達している。西 ドイツ,オランダ,スイスの企業は,広報活動を通して積極的に企業と社会と の関係を緊密なものにしようと努力を重ねていることが, 〔第2表〕より理解 できるであろう。これらの国では,郵送リストを作成し,要求があれば継続的
36 彦根論叢 第215号 に配布するという慣行が定着している。 (4) その他への配布 その他への配布は,オランダ企業の14.1%,スイス企業の20,5%に比較して, 西ドイツ企業の割合は,僅か1.5%となっている。「その他」の内容としては, 西ドイツ企業は仕入先,得意先,他企業,労働組合,年金受給者,セミナー, 会社訪問者等をあげている。オランダ企業では関連会社,顧客,FMF,事業, 商業関係を,スイス企業では販売部門,他の会社,請求者をあげている。 第4表 ダイムラー・ベンツ社の年次事業報告書掲載事項の対比(1977年版)
、癖癩一一回避i轡詳!。製誌継離犀U粍劔簡讃撮ρ
10年間財務要約表 目 次 株主総会招集通知監査役氏名
取締役氏名
取締役の報告状況報告
展 望 部門・製品別報告 販売・サービス網 投 資研究 開発
従属・関連会社 雇用・付加給付決算書説明
利益処分案
監査役会の報告年度決算書
貸借対照表
損益計算書
資金計算書
監査証明の付記 コンツェルン営業報告書決算書説明
個別・連結比較貸借対照表 連結貸借対照表 連結損益計算書 付 記 0ー ワらフ り 1 1 の ∼ 紙 8 表 ○○○○○OOOOOOOOOOO
15tv23 24nv28 29N42 43N45 46tv49 50tv53 54N63 64nv69 71・v7980
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×{3) 73××xxO
77tv87 ○簡略型 6 ×O !一一3
0 40
0 40
抜葦
○抜葦 7∼32 ○(2>抜葦 33,360
38 ○簡略型 34 0簡略型 35× ×(3) ×X××× (注)○印は独立項目として掲載されていると認められる場合である。 (1)資金計算書は詳細版では決算書説明(72頁)の一部として,また,英語版ではB/S,P/しと 同じ独立の財務諸表として掲載されている。 (2)決算書説明は英語版では財務諸表の注記としてB/S,P/Rこ続けて掲載し,簡略版ではB/S, P/しに区分して年度決算書の一部として掲載されている。 (3)監査証明の付記は,英語版では財務諸表の注記において,簡略版ではP/しの脚注において, 監査証明を受けている旨の記載がある。西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 37 IV 特別な報告書およびその他の文書の配布 西ドイツ企業では,主として株主を対象として配布する簡略版年次事業報告 書とさらに配布範囲を拡げた詳細版年次事業報告書が作成されていることは上 にみた通りである。それぞれの内容を知るために,〔第4表〕で,ダイムラー・ ベンツ社の例を詳細版年次事業報告書,英語縮刷版,簡略版年次事業報告書の それぞれの掲載事項を対比させて前頁に示しておいた。 このような年次事業報告書の作成に加えて,西ドイツ企業では,どのような 特別の事業報告書を作成しているのであろうか。この点について,オランダ企 業およびスイス企業の場合もあわせてここにみることにしよう。 第5表特別な事業報告書の作成
作成の有無西ドイツオランダスイス日本
従業員に配布するため イエス ノ 一PRのためイエス
ノ 一 その他のH的のため イエス ノ 一727209
2
2 2831001
1 1 −︻50ρ024幽 rO56nδ365︶
戸D ﹁D 会 社 数 29 ユ1 6 61 (1) 従業員用,PR用の特別な報告書 〔第5表〕にみるように,西ドイツ企業の場合,従業員に配布するために7社 が特別な報告書を作成しており,PR用の報告書も7社作成している。従業員 宛に作成している報告書は,単なる年次事業報告書の簡略版ではない。その内 容は,これをみる読者が容易に企業を理解することができるように棒グラフ,パ イ図表等の工夫をこらして作成されている。たとえば,アダム・オペル社(Adam Opel AG)は,「オペルは1976年度において92億独マルクにおよぶ事業活動を 行なった」という見出しのもとに,多色刷りの図表,グラフを取り入れながら 説明を行ない,とくに従業員に関心のある人件費の説明に力をいれている。同 社では,広報部門(6ffentlichkeitsarbeit)が監修するという形で,編集専門業者38 彦根論叢 第215号 に従業員宛報告書の作成を依頼している。西ドイツ企業の場合には,共同決定 法,経営組織法等による労使協議上の問題があり,今後さらにこの種の報告書 の重要性が高まるものと思われる。オランダ企業は,西ドイツ企業よりも従業 員宛報告書に力を入れているが,スイス企業では関心は低いように思われる。 また,PR文書をとくに作成しないのがヨー一 Pッパ諸国の企業の通例である が,スイス,オランダ企業にあってもその例外ではない。これは,むしろ年次 事業報告書それ自体がPRの目的を達成していると考えられるからにほかなら ない。年次事業報告書の配布先がこのことを立証していると思われる。 V 年次事業報告書の使用言語と海外配布
(1)使用言語
つぎに,このような年次事業報告書を,どのような言語つまり自国語以外の 言語で作成しているのかということを, 〔第6表〕によりみることにしよう。 西ドイツ企業の場合には,自国語(ドイツ語)のみの年次事業報告書を作成し ている企業は,10社(33%)であり,2力国語で作成している企業15社(50%), 3力国語3社,4力国語は2社となっている。この30社のうち,英語を使用言 語とする企業数は20社,フランス語は4社,スペイン語は2社,オランダ語は 1社となっている。このように,2力国語以上を用いている西ドイツ:企業,20 社(66%)はすべて英語版年次事業報告書を作成しており,他の使用言語から みれば圧倒的に多いことがわかる。ただし,すでに〔第4表〕に示したように, . 第6表 年次事業報告書の使用言語言語の数防・イ・オ・・ダ・・N・本
自国語のみ
2 力 国 語 3 力 国 語 4 力 国 語 5力国語以上 2力国語以上の部分的使用0532
11
1442
5 1101
24
会 社 数 30 11 6 62西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 39 ダイムラー・ベンツ社のように,英語版では若干記載事項を省略している企業 が多い。 オランダ企業の場合には,国際企業が多く,ロイヤル・ダッチ・シェル・ ペトPリアム社(Royal Dutch Shell Petroleum Co.),食品企業のユニリーバ 社(Unilever Ltd.)のようにイギリス,オランダにそれぞれ本社をおく企業, フィリップス社(N.V. Philips’Gloeilampenfabrieken)のような多国籍企業 にみるように,必然的にオランダ語以外の言語の使用が必要となるケースが多 い。このアンケート調査に回答を寄せた11社中10社が2力国語以上を使用して おり,その10栓とも英語,5社がドイツ語,2社がフランス語を使用して年次 事業報告書を作成している。 スイスの場合には,多重言語国家であり,ドイツ語,フランス語,イタリア 語それにロマン語が使用されている。このうちのドイツ語,フランス語,イタ リア語で年次事業報告書を作成すれば3力国語ということになるが,アンケー 1・調査に回答した企業6社についてみれば,ドイツ語,フランス語が6社,イ タリア語1社となっている。それ以外には英語6社とスペイン語1社である。 したがって,すべての企業がドイツ語,フランス語,英語を用いていることに なる。 年次事業報告書の使用言語については,ヨーPッパ大陸諸国では自国語以外 には英語を使用している企業が圧倒的に多く,西ドイツ,オランダ,スイスも その例外ではない。
(2)海外配布
このような言語で作成されている年次事業報告書が,国外にどの程度配布さ れているのであろうか。配布部数を要約した〔第7表〕によると,平均して西 ドイツ企業1,300部,オランダ企業2,500部,スイス企業2,200部が国外に配 布されている。このようにみると,アメリカ,イギリス,フランス,オースト 12)オランダ系のロイヤル・ダッチ・ペトロリアム社とイギリス系のシェル・トランス ポート・アンド・トレーディング社は,その支配下にある企業の利益を6:4の割合 で分割している。40 彦根論叢第215丁
目リア等と比較して, 第7表 年次事業報告書の海外配布 この3力国は国外配 布部数が少ないこと がわかる。西ドイツ 企業の場合には,19 社が国外配布を行な っており,うち最も 多い企業が約8,000 部で,500部未満が !1社である。 〔第6 回目をみると,10社 はドイツ語版年次事 業報告書のみを作成 しているので, 〔第 7表〕の不明11社の配布部数西・イ・1オ・ンダ・・ス・本
50, OOOtv65, OOO 40, ooonv4g, ggg 30, ooor−v3g, ggg 20, OOON29, 999 !0, OOO・一v19, 999 8, OOO・一・ 9, 999 6, OOO・v 7, 999 4, OOOtv 5, 999 2, OOO/v 3, 999 1, OOOtv 1, 999 500N 999 100tv 499 50t一 9950未 満
o 不 明1212292
ユ!21
11!
3 1 211253256!3
1 2 会 社 数 30 11 6 62 回答会社平均 1, 322 [ 2, 555 1 2, 200 1 1, 600 うちの大半は国外送付の必要なしと考えているものと思われる。 西ドイツ企業,オランダ企業およびスイス企業にあっても,国際企業として 活動している企業は,比較的多数の年次事業報告書を国外に送付していると考 えられる。ちなみに,印刷総数に占める国外配布部数の割合は,西ドイツ企業 8.7%,オランダ企業14,9%,スイス企業6.7%である。 VI年次事業報告書の費用と反応 (1) 直接印刷費 つぎに,このような大量の年次事業報告書に対して,企業はどれほどの費用 を投じているのかをみることにしよう。まず,このアンケートでは年次事業報 告書の作成費用については,その直接印刷費としての印刷費,紙代,デザイ ン料(外部委託によるケースが多い)を問題とし,聞接費用を含めていない。 〔第8表〕によれば,1部当りの平均費用は,西ドイツ企業13.55独マルク(6.64ドル),オラン ダ企業9.66ギルダー一 (4.41ドル),スイス 企業5.29スイス・フ ラン(2.75ドル)と かなり高い費用を支 払っている。西ドイ ツ企業のうち,タバ コ会社であるレーム ツマ・ツイガレツ テン社:(Reemtsma Cigarettenfabriken GrnbH)は1部当り の費用50独マルクを 投じて一冊の本の形 の超豪華版を作成し 西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 41 第8表年次事業報告書の印刷費用(米ドル換算) 費用の階級幅 1西・イ・オ・・ダ・・ス・本 !0.0ドル以上 5 ”v9.9 2 nv4. 9 1tN.L 9 90nv99セント 80rv89 70”v79 60A−69 50tv59 40・v49 30t−39 20t−29 10rv19 5nv 9 5未満 計社理
合繋
社賑し 会託言答漿
回機不 3Q﹂QJ﹁0 1 21 門041 1g1
1111
1 3 3 213411423
121
61 1 会 社 数 30ii 1 6[ 62
回答会社の平均
6.64 L 4.41 1 2.7s 1 o.23酪鴛麟釧1r剖ギ嬬♂菟ン53.。2Fヨ
ている。また,他の一社も33.67独マルクを費やしている。両社とも印刷部数 は4,000部台である。ただ,西ドイツ企業の場合には,若干の例外を除いて印 刷総数が少なく,アメリカ企業のように大量印刷によるコスト・ダウンの恩恵 を十分に受けていないことに留意しなければならない。この点については,オ ランダ企業,スイス企業についても同様のことがいえると思われる。 しかしながら,西ドイツ企業の年次事業報告書は,株式法に定められている 記載事項を十分に満たすようにしながら,さらにPR的要素を取り入れて豊富 な内容を盛り込むように配慮しており,その点からすると「とおり一遍の年次 事業報告書」の観を呈している日本のものとは質的な差異がみられるのである。 (2)郵 送 費 また,郵送費については, 〔第9表〕に示したように1部当り,西ドイツ企 業1.01独マルク(0.49ドル),オランダ企業1・67ギルダー(Q・76ドル),スイス42 彦根論叢第215号 企業0.48スイス・フ 第g表 年次事業報告書の郵送費(米ドル換算) ラン(0.25ドル)で ある。これにみる限 り,スイス企業を除 いては,かなりの郵 送費となっている。 また,西ドイツ企 業の場合には,無記 名株式が広く用いら れているので,郵送 費を銀行に支払うと ころが多い。この場 合には,手数料込み ということになるの で,郵送費が高くつ いているものと思わ れる。 (3)反 応 それでは, 費用の階級幅 西・イ・オ・・ダス・刻・本 2ドル以上 ユ∼1.9 90N99セント 80nv89 70tv79 60.v69 50nv59 40t−49 30tv39 20・一v29 10tv19 5nv 9 5未満
回答会社合計
機密事項とした会社 不明と記入した会社 3!2
41231
17 13 3 2 1 2 8 3 1 1 2 4 2njDJ5nO!2
4
59 3 会 社 数 30 1 ii 1 6 b 62回答会社の平均
。.4g 1 o.76 [ o.2s 1 o.2s回答難産瀞臣6ヒクギ謡一三ソ58.49円
このような彪大な費用をかけて,それに見合う効果はどのように なっているのかという点について考えることにしよう。 〔第10表〕はその要約 である。このアンケートでは,年次事業報告書に対する反応は西ドイツ企業の 平均約270回,オランダ企業約360回,スイス企業約260回である。日本の場合 の平均24回という数値をかなり上回ってはいるが,アメリカ企業,カナダ企 業,イギリス企業の数値と比較するならば,かなり低いという結果がでてい る。しかしながら,西ドイツ企業の場合にみられるように,株主総会において は年次事業報告書に示された業績,背景1青報等をかな:り詳細に説明し,質疑を 行なうことになっており,さらに株主総会の報告書をまとめた小冊子を送付し ているところもあるので,この点からみれば,必ずしも少ない反応とはいえないと思われる。アメ リカのように「地理 的条件」が反応数を 多くしているという ことも考えられる が,オランダ,スイ ス等では,アメリカ のような「地理的」 問題が少ないことか らも,「電話または 手紙による反応」が 少ない原因ではない かと考えられる。 (4) 直接印刷費
および郵送費
の増加対策
西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 43 第10表 年次事業報告書に対する反応反応の程度西ドイツオランダスイス日本
20,000回以上 15, OOOtv19, 999 10, OOOt−14, 999 8, OOOtv 9, 999 6, OOOtv 7, 999 4, OOOnv 5, 999 2, OOOn一 3, 999 1, OOOt一 1, 999 500N 999 100・一 499 50t一 9930tv 49
!0 tv 2910未満
o
不 明2114!
1
1144
3211
− ﹁⊥ 会 社 数 30 11 654458332
1
2 ρ0賭会社平均1268 j・S6 126・124
〔第11表〕は,これまでみてきた印刷費および郵送費の増加に対して,どの ような対策を講ずるかという点をアンケート調査により明らかにしたものであ る。この〔第11表〕に示すように,直接印刷費および郵送費に大幅な増加が見 込まれる場合には,西ドイツ企業では,カラー写真の廃止,サイズの縮小,配 布の制限,新配布手段の利用(手渡しの励行)等をあげている。しかし,対策 は考えられないとするところが,対策を考えている企業よりも多い点に留意し 第11表 年次事業報告書印刷・郵送費の増加対策回答の内容圃イ・オ・・ダレ・ス日本
カラー写真の廃止,紙質の変更,頁 数・サイズの縮小等の対策をする 対策は考えられない回答な し
587
1
272
2 1nj
32
門D61
会 社 数 30 1 11 6 6244 彦根論叢 第215号 なければならない。この点は,オランダ企業についてもいえるところである。 オランダ企業の場合,配布の制限と思われる郵送リストの点検を考えている ところもある。また,あるスイス企業のように,株主に対する縮刷版(ドイツ において実務化している縮刷版)を考えているところもあることは興味深い。 西ドイツ企業の場合には,現行以下には年次事業報告書の水準を落さないよう にしたいとするところが多く,その点から対策を考えられないとする企業が比 較的多いと思われる。このような態度はオランダ企業にもみられるが,日本企 業の場合にはヨーロッパ諸国の企業と比較してかなり情報も少ないと思われる にもかかわらず,積極的(?)に費用削減を考えているところが多いというこ とを,われわれはどのように考えるべきであろうか。企業と社会のコミュニケ ーションを積極的に考えていく必要があり,その手段としての年次事業報告書 を再検討する必要のある現在,日本企業といえども,アンケート調査の示すと ころをいま一度考慮する必要があるといえよう。 V匠 む す び 最後に指摘しておきたいことは,最近の西ドイツでは,社会貸借対照表(S()一 zialbilanz),付加価値計算書旧いわゆる年度決算書類として取り扱われていない 計算書も多く作成される傾向にあることである。そのなかで,とくに最近注目 を浴びているのが,社会貸借対照表である。これは,社会に対して企業がどの ように貢献しているかという点について,社会的費用(Sozialkosten)と社会 的便益(Sozialnutzen)を計算し,その結果得られる社会的残高(Sozialsaldo) を社会インディケーターとして考える社会成果計算書と社会在高貸借対照表を 作成するという内容をもつものである。このような社会貸借対照表は,バスフ 社の社会貸借対照表,ピーロート社(Pieroth Weingut−Weinkellerei GmbH) の社会貸借対照表,ステーグ社(Steag AG)の社会貸借対照表にその例をみ る。これらの方向の中に,企業と社会のコミュニケーションを積極的に考えよ うとする動向をみることができる。 以上,本章は,西ドイツ,オランダ,スイスというヨ・一 pッパ大陸の主要国
西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 45 の企業が作成し,配布する年次事業報告書の実務的な特徴をアンケート調査を 通して明らかにしてきた。これらの結果をみる限り,ヨーロヅパのこの3力国 の主要企業は年次事業報告書を,「社会一般に対する積極的なコミェニケーシ ョン・メディア」として考え,他の欧米諸国と同様これを広く社会に配布して いる実情を知ることができる。この点において,日本企業にみられるように株 主にのみ配布することに主眼をおいた実務との間に基本的な性格の相違がみら れるのである。 西ドイツ企業の場合には,1つの特微として年次事業報告書を「詳細版」と 「簡略版」にわけ,後者を株主総会招集通知とともに配布(1冊になっている 場合が多い)している。もし詳細版を入手したいときは,企業に請求すれば送 付されることになっている。この2種類の年次事業報告書のほかに,労使問題 に必要な事項を中心とした従業員向けの報告書,中間財務報告等を入れたホッ トな情報を集めた雑誌の作成等1血の通ったコミュニケーションの試みを行なっ ていることがわかる。このことは,株主をはじめとして従業員,証券業者,金 融機関誌の年次事業報告書の利用者のニーズの高度化・多様化に対応するよう に内容を工夫しようとしている企業の姿勢を示すものとして受けとめることが できる。この点において,「とおり一遍の年次事業報告書」の域をでない日本 の年次事業報告書作成実務の現状との間に大きな隔差があり,わが国の企業に あっては今後その改善が強く要請されるところである。 (注) この調査研究は,広島修道大学教授興津裕康氏,愛知大学助教授道明義弘氏との 共同研究として実施したものである。近き将来,『年次事業報告書の国際比較研究』 として,つぎの体系でまとめたいと考えている。 1.年次事業報告書アンケート調査結果の概要 2. アメリカ・カナダ・日本企業の年次事業報告書 3.イギリス・オーストラリア・南ア企業の年次事業報告書 4.西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書 5.スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書 6.年次事業報告書アンケート調査資料