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労働が「幸せ」の妨げであってはならない(PDF:126KB)

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Academic year: 2021

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日本労働研究雑誌 1 2012 年 6 月,ブラジルのリオデジャネイロで, 世界から 3 万人の参加者を集めて「Rio + 20(国 連持続可能な開発会議)」が開催された。初日の 20 日には各国首脳がスピーチを行ったが,その最後 に登場したウルグアイのムヒカ大統領のスピーチ がネット上で話題になった。 最後と言っても “ 大トリ ” という位置づけでは ない。主要国の首脳は早々に登壇を終え,実際に ムヒカ氏のスピーチが行われたときには,会場に はほとんど聴衆も残っていなかったという。日本 のメディアもこのスピーチを報じることはなかっ たが,日系ユースネットワーク会長の打村明氏が 全文翻訳し,自身のブログで公開したのだ。その 一部,労働に関係した部分をここで紹介したい (打村氏は転載自由としている)。  私の同志である労働者たちは,8時間労働を成 立させるために戦いました。そして今では,6 時間労働を獲得した人もいます。しかしなが ら,6 時間労働になった人たちは別の仕事もし ており,結局は以前よりも長時間働いていま す。なぜか? バイク,車,などのリボ払いや ローンを支払わないといけないのです。毎月 2 倍働き,ローンを払って行ったら,いつの間に か私のような老人になっているのです。私と同 じく,幸福な人生が目の前を一瞬で過ぎてしま います。 ウルグアイは経済水準こそ高くないが,自然と 資源に恵まれた国だ。その中で労働者たちはより 人間らしい働き方を求め,それを勝ち取ってき た。それにもかかわらず,いまは自ら,本業の後 にさらに別の仕事をするなどして長時間労働に 戻っている。その根っこにあるのは,より高価な ものを求め,使い捨て生活を送ろうとする「ハイ パー消費型のライフスタイル」だとムヒカ氏は 言っている。環境問題を考えるこういう会議は けっこうだが,その前にまずしなければならない のは,政治的な市場のコントロールとライフスタ イルの見直しだ,というのが彼の主張なのだ。 「もっともっと」という欲望に取り憑かれたラ イフスタイルは,環境に悪影響を与えるだけでは ない。先の「本業の後にまた副業」といった働き 方を続けるうちに,結果的にからだの調子を壊 し,メンタル不調に陥る人も少なくないだろう。 「もっともっと」は,地球だけではなく,そこで 生きる労働者自身の心身も破壊するのである。 日本の場合,さすがにバイクや車がほしくて長 時間労働を求める人は少ないかもしれない。しか し,成果主義,グローバル化,IT 化といったま た別の事情が,働く人たちをより厳しい状況に追 い込んでいく。たとえ労働時間はそれほど長くな くても,「気を抜けない」というプレッシャーは 以前の比ではない。また,貴重な休日や夜間に も,メール,SNS が追いかけてきて,本当の意 味でくつろぐことを許さない。 その昔,うつ病になりやすいのは,「勤勉,几 帳面,完全主義」の “まじめ人間” だと言われて きた。もちろん今でもそういったタイプの労働者 がうつ病予備軍であることは変わらないのだが, それ以外にも「このままこの会社でやっていける のか」と不安や不全感を抱える 20 代,30 代の若 手,また仕事と結婚や育児との両立に苦しむ女性 のうつ病者が激増している。 先のムヒカ氏は,「幸せとは,愛情や人間関係, 子どもを育てること,友達を持つこと,そして必 要最低限のものを持つこと」だとシンプルに定義 する。私たちとしてはここに「自分らしく働くこ と」を加えたいが,その労働が幸せを阻害する要 因になることは避けなければならない。 幸福の妨げにならない労働とは,何だろう。経 営者,労働者,彼らの家族,みながこの問いに真 剣に向き合う時なのではないだろうか。 (かやま・りか 立教大学現代心理学部教授)

提 言

労働が「幸せ」の妨げであってはならない

香山 リカ

参照

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