釜山日本人学校インターンシップ参加学生の学び
~日本人学校外での活動から得る総合的な学習の指導に関する学びについて~
松 下 晋・高 橋 珠 実・塩 原 茂
山 野 悟・伊 藤 隆・新 井 淑 弘
群馬大学教育実践研究 別刷
第38号 167~174頁 2021
群馬大学共同教育学部 附属教育実践センター
釜山日本人学校インターンシップ参加学生の学び
~日本人学校外での活動から得る総合的な学習の指導に関する学びについて~
松 下 晋
1)・高 橋 珠 実
2)・塩 原 茂
3)山 野 悟
4)・伊 藤 隆
5)・新 井 淑 弘
6) 1)上武大学 2)東洋大学 3)群馬大学教育学部附属幼稚園 4)草津町立草津中学校 5)群馬大学共同教育学部数学教育講座 6)群馬大学共同教育学部保健体育講座 釜山日本人学校インターンシップ参加学生の学び 松下 晋・高橋珠実・塩原 茂・山野 悟・伊藤 隆・新井淑弘Learning of students participating in Busan Japanese School internship
―Learning about comprehensive learning gained from activities outside the Japanese school―
Susumu MATSUSHITA
1), Tamami TAKAHASHI
2), Shigeru SHIOBARA
3)Satoru YAMANO
4), Takashi ITOH
5), Yoshihiro ARAI
6)1)Jobu University 2)Toyo University
3)Affiliated Kindergarten, Cooperative Faculty of Education, Gunma University 4)Kusatsu Municipal, Kusatsu Junior High School
5)Department of Mathematics, Cooperative Faculty of Education, Gunma University
6)Department of Health and Physical Education, Cooperative Faculty of Education, Gunma University
キーワード:総合的な学習、海外インターンシップ、釜山日本人学校 Keywords : Comprehensive study, internship abroad, Busan Japanese School
(2020年10月30日受理) はじめに 釜山日本人学校インターンシップは2015年1月に担 当教員が学校訪問を行ったのを始めとして、2016年1 月に第1回、2017年1月に第2回、2019年1月に第3 回、2020年1月に第4回が実施され、各年2名で計8 名の学生・大学院生が参加した。2018年1月も計画は されていが、北朝鮮のミサイル問題を警戒して実施が 見送られた。 かつて日本から近くて遠い国と言われた韓国も2003 年頃から韓国ドラマ『冬のソナタ』放送が契機とな り、韓流ブームが起きて日本からたくさんの旅行者が 韓国を訪れるようになった。また、韓国からの旅行者 もJNTO(日本政府観光局)の発表によると2018年も 2019年も500万人を超え、国別では中国に次いで第2 位となっている。 しかし、最近は慰安婦問題や徴用工問題等により日 本と韓国の関係がギクシャクし、そこに新型コロナ 群馬大学教育実践研究 第38号 167~174頁 2021
168 松下 晋・高橋珠実・塩原 茂・山野 悟・伊藤 隆・新井淑弘 ウィルスの流行も加わり、相互交流に大きな影を落と している。国と国との信頼関係は、国民同士の相互交 流が元になると考える。このような社会情勢の中で、 これまで行われてきた釜山日本人学校インターンシッ プの事業は、これからの日本を背負っていく若者たち の隣国への理解を深める大事な取り組みになると考え る。また、本事業で訪韓した学生の学びや感想をみる と、総合的な学習の時間(高校では総合的な探求の時 間と命名変更され、令和元年度より1年次から先行実 施)のねらいに沿った活動や学習が展開できるのでは ないかと考える。 釜山日本人学校では、学校行事として地域住民との 交流を毎年数回企画して、児童・生徒の国際感覚の育 成を行っている。また、総領事館や大使館との連携 や、地域の警察との連携により、児童・生徒の安全確 保も強化している。2020年1月のインターンシップ実 施時には、大使館員と総領事の学校訪問もあり、日本 と韓国との現在の国交についての学びの機会もあっ た。 さらに、本事業では日本人学校外での活動も重視 し、釜山大学との連携交流や、地域の施設における活 動体験や見学など、土曜日、日曜日を使った活動を推 奨し、参加者が自ら計画し実施する「日本人学校外で の活動」を多数行ってきた。 そこで、本研究では釜山日本人学校外での活動が、 総合的な学習の指導に関する学びとしていかに活用で きるのかを考察することを目的とした。 釜山日本人学校インターンシップにおける日本人 学校外での活動 釜山日本人学校インターンシップにおける日本人学 校外での活動は、2016年1月から2020年1月までの4 回のインターンシップ参加学生の学校外での活動記録 を2020年10月に、授業評価の資料および報告書の作成 に用いることを伝えて、インターンシップ参加者から メールにより提出してもらった。活動記録の提出は参 加者の自由意志として、その利用は活動報告の提出を もって研究参加の意思とした。活動記録は表1に示し たとおり、学校外で参加したイベントや見学先、食べ たものなどについての項目と、そこで学んだことや感 想等の記録を記入してもらう形で資料収集を行った。 集まった資料は6名分で回収率は75%であった。 日本人学校以外での活動記録については今回収集で きた6名分を合計して106件であった。それぞれの活 動と同じ記載があった記録をカウントし、行った場所 や参加したイベント、食べたものなどの記録内容から それぞれの活動ごとに集計した。(表1) 最も多かったのが広安里ビーチで6件全員の記録に 見られた。これは釜山日本人学校がこのビーチの近く にあり行きやすいという地理的な理由が考えられる。 2番目に多かったのが、焼肉屋の5件で、次に多かっ たのが、「おでんや」「釜山大学」「釜山大学内博物館」 「海雲台ビーチ」「新世界デパート」でそれぞれ4件で あった。釜山大学に関しては群馬大学との連携協定大 学である。また、海雲台ビーチは韓国国内でも若者に 人気のビーチで、冬でもイルミネーション等で多くの 観光客が集まるスポットとなっている。また、新世界 デパートは韓国国内では「ロッテデパート」と並ぶ大 手百貨店でこちらも年間通して集客力の高い場所と なっている。 さらに、これらのイベント記録をもとに「生活」 「歴史」「食」「レジャー」「景勝地」「運動・スポーツ」 にカテゴリー分けして集計した。(表2) このカテゴリー分けでは「食」に関するものが圧倒 的に多く49件で、次に「生活」で32件であった。今回 のインターンシップの活動では様々な活動を自由に設 定できるようになっていたが、やはり時間に制限があ り日常生活での活動、特に食に割く時間が多かったこ とがうかがえる。 では、学生・院生は「食」に関する学びを深めたの であろうか。今回の調査では、行った場所や参加した イベント、食べた料理等に加えて、「その活動から学 んだこと」と「感想等」についても記述してもらっ た。それぞれの記録を細かく見てみると、このカテゴ リー分けの内容以外の学びがあることがわかる。いく つかの記録を抜粋したものを表3にまとめた。 通番1の地下鉄に乗ったときの記録では、自動改札 のバーを乗り越えたときに、高齢者に注意された経験 か書かれており、そこから韓国の人たちの道徳観や倫 理観の高さについての気づきが表現されている。ま た、通番3、4、5、9は「食」に関する行動記録で あるが、通番3の記録ではカフェで注文する際に自分 の英語が通じなかったことにショックを受けて、「言
169 釜山日本人学校インターンシップ参加学生の学び 語によるコミュニケーションの重要性と困難さ」を学 んだようである。さらに、同じ「食」に関する記録で も、通番4の屋台のおでんを食べた時にはその値段の 安さから、経済に関することに対する気付きがうかが える。通番9のチゲ屋では、「注文していない付け合 わせのキムチなどの食材がたくさん提供される。」と いった韓国と日本との食文化の違いに気づき、「食べ 過ぎ」による健康被害へと思いが巡ったようである。 このように、行動別のカテゴリー分けのみでは見え てこない「学び」がたくさんあり、それらの学びを有 機的に結びつけることができれば、総合的で深い学び に結びつくと考える。 総合的な学習の時間の設置と現状 ここで、学校教育における総合的な学習の時間が生 まれた背景から本事業の取り組みが今後どのような活 動を展開していくとよりねらいにそったものとなって いくか考察する。 総合的な学習の時間のルーツは、今から24年前の平 成8年「21世紀を展望した我が国の教育の在り方につ いて」と題して発表された中央教育課程審議会第一次 答申に遡る。この答申の中で、総合的な学習の時間 という言葉が初めて出てくるのが、「第2部 学校・家 庭・地域社会の役割と連携の在り方」の「第1章 こ れからの学校教育の在り方(1)これからの学校教育 の目指す方向」における「[5]横断的・総合的な学 習の推進」の中である。 表1 釜山日本人学校以外での活動の活動別件数 場所、イベント、料理等 カテゴリー 件数 UN記念公園(国連墓地) 歴史 2 甘川文化村 歴史 3 居酒屋 食 2 うどん屋 食 2 映画館 生活 2 映画の殿堂 生活 2 おでんや 食 4 カフェ 食 3 釜慶大学 大学 2 韓国服装体験展示館 歴史 2 キムチチゲ 食 1 ゲストハウスのオーナー 地元(現地)の人との交流 2 国際市場 生活、歴史、食 3 コンビニ 生活 4 サジク野球場 運動・スポーツ 1 サムギョプサル 食 1 渋谷ストリート(釜山大学前) 生活 2 送別会 現地の人との交流 2 ソルビン(雪氷:かき氷) 食 1 タイ料理店 食 2 チャガルチ市場 食 2 チャミスル(お酒) 食 2 デパート(大学近接) 生活 1 動画撮影 生活 2 場所、イベント、料理等 カテゴリー 件数 チーズタッカルビ 食 2 チーズドック 食 2 地下鉄 交通 2 チゲ屋 食 2 トック 食 1 トッポギ 食 2 ナッチポックン 食 3 パッピンス(かき氷) 食 1 パン屋 食 2 ビーチで遊んだ レジャー 2 広安里ビーチ 生活 6 釜山大学 大学 4 釜山大学内博物館 歴史・科学 4 釜山博物館 歴史・科学 2 海雲台水族館 科学 2 海雲台ビーチ 生活 4 ホームプラス(雑貨屋) 生活 2 松島スカイウォーク 景勝地 2 焼肉屋 食 5 屋台おでん 食 1 ランニング 運動・スポーツ 2 ロッテリア(ファーストフード) 食 3 新世界デパート 生活 4 ケーブルカー 景勝地 1 表2 日本人学校以外での活動のカテゴリー別件数 カテゴリー 件数 運動・スポーツ 5 科学 2 景勝地 2 現地の人との交流 5 食 49 生活 32 大学 6 歴史 13 交通 1
170 松下 晋・高橋珠実・塩原 茂・山野 悟・伊藤 隆・新井淑弘 【抜粋掲載】平成8年「21世紀を展望した我が国の教 育の在り方について」中央教育課程審議会第一次答申 より 「今日、国際理解教育、情報教育、環境教育などを行 う社会的要請が強まってきているが、これらはいずれ の教科等にもかかわる内容を持った教育であり、そう した観点からも、横断的・総合的な指導を推進してい く必要性は高まっていると言える。このため、上記の [2]の視点から各教科の教育内容を厳選することに より時間を生み出し、一定のまとまった時間(以下、 「総合的な学習の時間」と称する。)を設けて横断的・ 総合的な指導を行うことを提言したい。 この時間における学習活動としては、国際理解、情 報、環境のほか、ボランティア、自然体験などについ ての総合的な学習や課題学習、体験的な学習等が考え られるが、その具体的な扱いについては、子供たちの 発達段階や学校段階、学校や地域の実態等に応じて、 各学校の判断により、その創意工夫を生かして展開さ れる必要がある。」(※下線は筆者が引いたもの) 上記抜粋文の下線部は、本答申の「第1部 今後に おける教育の在り方」の「(2)これからの社会の展 表3 釜山日本人学校以外での活動内容とそこから学んだことおよび感想(抽出) 場所、イベント、 料理等 カテゴリー そこで学んだこと等 感想等 1 地下鉄 交通 地下鉄の改札で、切符を入れたにも関わらずバー が開かず、ホームに入ることができなかったので、 バーをジャンプして飛び越えたら、物凄い剣幕で 老人に怒られた。また、電車内でもお年寄りに席 を譲ることが当たり前のようになされており、韓 国の人はとてもしっかりとした道徳観を持ってい るように思えた。 2 釜山大学 大学 学部ごとに建物がたくさんあり、図書館もとても 広かった。 図書館がとても広く、学習スペースの広さに驚い た。また、大学のグッズ(筆箱やメモ)が自動販売 機で販売されており、買いやすかった。 3 カフェ 食 英語ですらスムーズに伝えることができない。 注文をする際に、グレープフルーツのジュースを 注文したはずが、ぶどうのジュースがでてきてし まい、英語ですらうまく伝えることができないこ とにショックを受けた。 4 屋台おでん 食 1本当たり大体10円で買える。 スープと調味料はセルフサービスである。 魚の練り物が個人的におすすめである。 5 サムギョプサル 食 韓国では箸やスプーンは、銀製の物が一般的。こ れは、昔の王族が毒殺されないために銀にしたも のの名残であると言われている。メイン料理、ご 飯以外のおかわりは自由であり、トチュセヨ(お かわりください)と言うと持ってきてくれる。ま た、ご飯を少し残すことで「もう食べられないほ ど満足です」というマナーがある。それによる食 品廃棄も問題になっており、最近は完食しても良 いらしい。 トチュセヨ(おかわりください)以外では、チョギ ヨ(店員さんを呼ぶ)、ムルジョンジュセヨ(お水 ください)、マシッソヨ(おいしい)、ケサネジュ セヨ(お会計お願いします)などを覚えておくと、 飲食店ではスムーズである。基本的には、出てき た料理は大体辛いと思っておくべきである。だが、 味はどれも絶品であった。 6 新世界デパート 生活 世界最大の百貨店として2009年にギネス認定され た。 とても広くて回り切れなかったが、買い物以外に もアミューズメント施設もあり、とても楽しかっ た。 7 韓服体験展示館 歴史・文化 チマチョゴリとパジチョゴリの歴史と着方につい て学んだ。 パジチョゴリの存在を初めて知り、隣国なのに知らないことが多く感じ、韓国についてもっと勉強 しようと思った。 8 UN記念公園 歴史・文化 国際連合墓地があり、世界の歴史について学ぶこ とができた。 緑が豊かな公園のようだった。各国の国旗が並ん でいる姿は、とても壮観だった。 9 チゲ屋 食 韓国の食べ物屋はキムチや冷や奴などの小鉢がた くさん出てくるので、それを知らずに注文しすぎ てはいけない。 このチゲ屋は映画HEROの収録場所で、ほぼ毎日 遅くまでやっているのでインターンシップ中に何 回も行くことになる。 10 ゲストハウスの オーナー 現地の人との交流 おじさんは韓国語しか話せなくて何も言葉は通じ なかった。そのせいで最初は少し恐いかもと思っ てしまったが、実際はとてもやさしかった。ご飯 はみんなおごってくれたし、「せっかく韓国に来 たのだからインスタントラーメンとか食べないで おいしいもの食べなさい」と伝えてくれた。 適度にほったらかしで最終日にはお名残惜しくな り、コンビニでおじさんが飲んでたチャミスル(韓 国ドラマでよくみる緑の瓶お酒)と片言の韓国語 で手紙書いて置いてきた。 *カテゴリーは場所、イベント、料理等の記述をもとに著者が分類を行った。
171 釜山日本人学校インターンシップ参加学生の学び 望」(※巻末に掲載)で詳しく述べられているが、い みじくも現在の状況を言い当てている。審議会では、 このような問題を扱う教科が現在の学校にはないの で、新たな教科を開設するかどうかの検討も行われ、 総合的な学習の時間が誕生した。 現在我々が直面する国際化に伴う新型コロナ流行の 問題やGAFAに代表される情報化社会の光と陰、地球 温暖化をはじめとする環境問題等考えたとき、24年前 に出されたこの提言の重さを改めて感じるところであ る。提言が出された当時、文書整理はまだワープロの 時代でフロッピーディスクを使って文書を保存して、 印刷はドットプリンターか感熱紙を使って行ってい た。インターネット専用回線はまだなく、電話のアナ ログ回線を使ってモデムからピーピー音を出しながら 電子メールをやっていた時代であった。この提言を聞 いたときには、まさか今日のような社会がこのように 早くやってこようとは思いもしなかった。また自分が 提言に基づき、学校現場で総合的な学習の時間を受け 持ったら、教材は何を使ってどう組み立てていったら いいか、暗中模索の取り組みが続くことになるだろう と思った。 この中教審の答申を受け、2年後の平成10年7月に は、教育課程審議会の答申が出された。 中央教育課程審議会で「総合的な学習の時間」とし て提言された名称は、本答申で、教育課程の基準上の 名称として正式に位置づけられた。また、各学校にお ける教育課程上の具体的な名称をどうするかについて は、活動の多様性から各学校において定めることが妥 当とされた。また、「総合的な学習の時間」における 学習活動についても例示がなされた。 【抜粋掲載】(平成10年7月 教育課程審議会答申よ り) (ウ)『総合的な学習の時間』の学習活動は、(ア)に 示すねらいを踏まえ、地域や学校の実態に応じ、各学 校が創意工夫を十分発揮して展開するものであり、具 体的な学習活動としては、例えば国際理解、情報、環 境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、児童生 徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応 じた課題などについて、適宜学習課題や活動を設定し て展開するようにすることが考えられる。その際、自 然体験やボランティアなどの社会体験、観察・実験、 見学や調査、発表や討論、ものづくりや生産活動など 体験的な学習、問題解決的な学習が積極的に展開され ることが望まれる。 上記抜粋文で例示された学習活動と中央教育課程審 議会で示されていたものとを比較すると、教育課程審 議会のほうが多くなっている。これは、中央教育課程 審議会の答申から教育課程審議会の答申が出される間 に行われた、学校現場の実践成果が取り入れられた結 果だと考える。 この教育課程審議会の答申に基づき、平成10年12月 には小中学校学習指導要領が告示され、平成14年4月 より全面実施となった。高等学校では、平成11年3月 に学習指導要領が告示され、平成15年4月より年次進 行での実施となった。 告示後の「総合的な学習の時間」スタート時に学 校訪問をする機会があった。各学校は、手探り状況 ながらもそれぞれの特色にあった内容を吟味選択 し、事前に準備を整え真摯に取り組んでいた。地域 や学校の特色に応じた課題を取り上げた学校の中に は、地域のお祭りや稲作(餅米を育てる中で、田 植え・稲刈り・餅つきを体験させ、お世話になった 方々を招いての感謝祭)を取り上げたところもあっ た。児童は、田植えや稲刈り、餅つきといった活動 に地域の方の助けをいただきき、楽しく生き生きと 活動していた。しかし、児童はなぜ田植えをするの か分らないまま、教えられた通り苗を植え、1人5 ~6株植えたらすぐに交代で、これを何時間も何列 もやったら腰が痛くなるだろうというような思いを 持つことなく、ただ楽しかっただけの感想で終わっ てしまう場合もあった。ある学校では、○○を作ろ うというような取り組みを行って、生徒の立派な作 品ができあがったが、生徒はやらされているという ような気持ちが少なくなかった。 このように「総合的な学習の時間」スタート時に は、初めに活動ありきで学習が終始してしまうことも 多々あった。そこで、学習活動を選択する際には、も う一度「総合的な学習の時間」の目標に迫れる学習活 動になっているか、授業点検する必要があると考え る。 小中学校の場合、各学校では学習指導要領にもとづ き以下の項目を踏まえ、目標を定め、事項の教育目標
172 松下 晋・高橋珠実・塩原 茂・山野 悟・伊藤 隆・新井淑弘 を踏まえて育成をめざす資質・能力を示していく必要 がある。 (1)探究的な学習の過程において、課題の解決に必 要な知識及び技能を身に付け、課題に関わる概 念を形成し、探究的な学習のよさを理解するよ うにする。 (2)実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分 で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、 まとめ・表現することができるようにする。 (3)探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとと もに、互いのよさを生かしながら、積極的に社 会に参画しようとする態度を養う。 これまで述べてきた「総合的な学習の時間」誕生の 背景から目指す学習活動の在り方等に基づき、釜山日 本人学校インターンシップの活動を俯瞰すると、国際 理解教育としての横断的総合的な取り組みが期待でき ると考える。 また、「平成30年度公立小・中学校における教育課 程の編成・実施状況調査」によると、中学校で取り上 げられている学習内容は、表4のように、国際理解、 情報、環境、福祉、健康、安全、食、地域の人々の暮 らし、伝統と文化、防災と多岐にわたっている。 このように学習活動が多岐にわたっているのは、生 徒の実態や発達段階及び指導する教員や学校、地域の 実態等を加味し、どのような学習活動を展開させてい くことが総合的な学習の時間の目標達成に近づけるか 熟慮された結果である。その際重視されるのは、取り 上げた学習活動が、探究的な学習活動としてふさわし い一連の学習展開を可能とするものになるかどうかで ある。それでは、探究的な学習活動としてふさわしい 一連の学習展開とは何かを、図1を見て考えて行く。 図1は、平成20年の「中学校学習指導要領解説 総 合的な学習の時間編」において、「探究的な学習にお ける生徒の学習の姿」として示された、一連の学習過 程が図になったものである。 図1 「探究的な学習における生徒の学習の姿」 *平成20年の「中学校学習指導要領解説 総合的な学習の 時間編」より 表4 中学校における総合的な学習の時間の具体的な学習内容 平成30年度公立小・中学校における教育課程の編成・実施状況調査(文部科学省) *【総合的な学習の時間編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説(文部科学省)より
173 釜山日本人学校インターンシップ参加学生の学び 【抜粋掲載】【総合的な学習の時間編】中学校学習指 導要領(平成29年告示)解説 生徒は、①日常生活や社会に目を向けた時に湧き上 がってくる疑問や関心に基づいて、自ら課題を見付 け、②そこにある具体的な問題について情報を収集 し、③その情報を整理・分析したり、知識や技能に結 び付けたり、考えを出し合ったりしながら問題の解決 に取り組み、④明らかになった考えや意見などをまと め・表現し、そこからまた新たな課題を見付け、更な る問題の解決を始めるといった学習活動を発展的に繰 り返していく。 実はここでしめされた一連の学習過程の中で、生徒 にとって一番難しいのが「①日常生活や社会に目を向 けた時に湧き上がってくる疑問や関心に基づいて、自 ら課題を見付け」である。人は出会った事象に対し て、大きな驚きや感動を抱かないと、なかなか疑問や 関心は湧いてこないものである。その点、本事業では 海外というシチュエーションで、初めての出会いや経 験を学生が積み、フレッシュな目で事象を見つめ、そ こから生まれた感動や驚き、疑問がその後の探求意欲 に繋がり、活動を持続させる原動力となっている。 まとめ ここでもう一度「表3 釜山日本人学校以外での活 動内容とそこから学んだこと」を見ると、そこには海 外で初めて見たことや経験したことが、生き生きと 書かれている。しかし、行った場所や参加したイベン ト、食べた料理等の活動の記録やそこから学んだこ と、感想の記録を一つ一つよく読むと、あることに気 づく。それは感動した事象に出会った時とそうでない ときとでは、「そこで学んだこと等」と「感想」の欄 に書かれる記述に違いがでてくるということである。 感動した時には「感想」欄に「楽しかった」「韓国に ついてもっと勉強しようと思った」等、自分が感じ たことや思ったこと等がきちんと書かれている。例 えば、感想に「韓国についてもっと勉強しようと思っ た」と書いたこの学生は、現地でのパジチョゴリとの 出会いによって、新たな発見と驚きが生まれ、もっと 勉強しようという探究意欲が湧いたのである。このよ うな出会いを学校の授業で、あるいは校外授業で生徒 に提供できたら、生徒の探究心に火を付けることにな るであろう。学校の授業等でこのような出会いを一人 一人の生徒に提供するのは、なかなか難しいことであ るが、釜山日本人学校インターンシップに参加した学 生たちには、このような機会が数多く待っている。こ のように生徒たちが素晴らしい出会いを得て、その出 会いを生かし、発展させていくための手助けを教師が できれば、「総合的な学習の時間」の目標達成に大き く近づく授業ができると考える。 謝辞 釜山日本人学校インターンシップは、2014年度の学校訪問に 始まり現在まで継続実施されています。2014年度~2016年度の 西出昇校長先生、2017年度~2019年度の長信宏校長先生をはじ め、釜山日本人学校の教職員の皆様には、参加学生の学校内外 での活動に対して、多くのご指導・ご支援をいただきました。 ここに感謝の意を表します。 【抜粋掲載】平成8年「21世紀を展望した我が国の教 育の在り方について」中央教育課程審議会第一次答申 より (2)これからの社会の展望 戦後、我が国は、廃墟の中から欧米諸国に追い付き追 い越すべく、努力してきた。その結果、驚異的な経済 成長を遂げ、世界経済の中で大きな地位を占めるとと もに、所得水準の面でも世界のトップレベルに達し、 今や国民一人一人が豊かさを謳歌するに至っている。 しかし、その一方で様々な問題が生じてきている。 過疎化や都市化が進行し、企業中心の行動様式が社会 に定着する中で、地域社会の連帯感は次第に希薄と なってきた。また、核家族化が進み、家族の有り様も 大きく変化した。経済成長を追い求め続けてきた結 果、いつも何かに追い立てられているような余裕のな い生活を送り、また、豊かさを実現したといっても、 物質的な豊かさが中心で、あふれるモノに取り囲まれ ながら、何かしら満たされぬ思いが募る毎日を送って いる。このような中で、国民は次第に[ゆとり]や心 の豊かさなど多様な価値や自己実現を求めるように なってきている。今日、我々は、これまでの過去を立 ち止まって振り返りながら、経済成長の過程で失った ものは何か、今後、我々が本当に求めるものは何であ るかを考えてみなければならない。
174 松下 晋・高橋珠実・塩原 茂・山野 悟・伊藤 隆・新井淑弘 また、追い付き追い越せ型の経済成長を遂げてきた 我が国は、欧米先進諸国の開発した科学技術を上手に 活用するというこれまでの手法はもはや許されず、自 ら科学技術を創造し、新しいフロンティアを開拓して いくことが求められている。 加えて、経済大国の地位も、東アジアを中心とした 海外諸国の競争力の向上により揺り動かされ始めてお り、我が国は、単に良質の物を製造するだけでなく、 より付加価値の高い製品やサービスを提供する高次な 経済社会へと経済構造の改革をしていく必要が生じて いる。このような経済構造の変革の中で、経済の高度 成長に深くかかわった終身雇用や年功序列という日本 型雇用システムも揺らいできている。 さらに、我が国の社会は、今後、様々な面で変化が 急速に進むと考えられる。社会の変化の方向について は、それらの変化に対応する教育の在り方を提言する 第3部で詳しく述べることとしているが、ここでは基 本的な展望を述べておくこととする。 一つは、国際化の進展である。冷戦の終焉や交通手 段の発達、情報化の進展を背景に、経済、社会、さら には、文化の面で交流が一層進み、国際的な相互依存 関係がますます深まっていく。一方、様々な面で、国 際的な摩擦や競争も生じてくると考えられる。 また、情報化の進展は、さらに新しい段階に入って いくと考えられる。マルチメディアという言葉に集約 されるように、世界的な規模の情報通信ネットワー クを通じて、不特定多数のものが、双方向に文字・音 声・画像等の情報を融合して交換することが可能とな りつつある。このような高度情報通信社会の実現は、 地球規模で今後の社会や経済の姿を大きく変えていく ものと考えられる。 さらに、科学技術の発展も著しいものになると考え られる。今後、科学技術は、分子レベルでの生命の研 究、原子レベルでの物質の研究、宇宙の成り立ちの研 究など一層の発展が見込まれる。これらの発展は、人 類にとって豊かな未来を築く原動力になると考えられ るが、とりわけ、人間の知的創造力が最大の資源であ る我が国にとって、諸外国以上に科学技術の発展は重 要である。しかしながら、一方、科学技術が著しく高 度化・細分化・専門化する中で、国民にとって科学技 術は分かりにくいものとなり、不安感がさらに高まっ ていくことも懸念される。 また、今日、地球環境問題、エネルギー問題など人 類の生存基盤を脅かす問題も生じてきている。これら は、大量生産・大量消費・大量廃棄型の現代文明の在 り方そのものが問われる問題であるが、今後、地球規 模でこれらの問題に取り組んでいく必要性はさらに高 まり、この面で、我が国の貢献がさらに強く求められ るようになっていくことが予測されるところである。 さらに、我が国では、今後、高齢化や少子化が急速 に進展し、かつて経験したことのないような少子・高齢 化社会を迎えることが確実と見られている。また、男女 が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社 会のあらゆる分野に参画する機会が確保される「男女共 同参画社会」づくりも重要な課題となっている。 これからの社会をどのように展望するかについて は、様々な変化や要素を考える必要があり、一概に言 い表すことは難しいが、いずれにせよ、変化の激し い、先行き不透明な、厳しい時代と考えておかなけれ ばならないであろう。 引用文献・参考文献等 1)【総合的な学習の時間編】中学校学習指導要領(平成29年 告示)解説(文部科学省) http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/ micro_detail/_icsFiles/afieldfile/2019/03/18/13 2)総合的な学習の時間の現状と課題、改善の方向性(文部科 学省) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/ chuky03/004/siryo/attach/1399171.htm 3)平成30年度公立小・中学校における教育課程の編成・実施 状況調査(文部科学省) 4)平成8年「21世紀を展望した我が国の教育の在り方につい て」中央教育課程審議会第一次答申(文部科学省) 5)平成10年7月 教育課程審議会答申(文部科学省) *2015年度~2019年度釜山日本人学校インターンシップは JASSO海外留学支援制度(協定派遣)プログラム、短期研 修・研究型「東アジアにおける教育大学短期研修プログラ ム」の事業の一部として実施された。 (まつした すすむ・たかはし たまみ・しおばら しげる・ やまの さとる・いとう たかし・あらい よしひろ)