Title
『在日米軍人による性的暴力の提起する諸問題』
Author(s)
髙良, 沙哉
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(11): 29-41
Issue Date
2008-12-25
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/5991
沖縄大学法経学部紀 要 第11号 【研究ノー ト】
『
在 日米軍人による性的暴力の提起する諸問題』
高 良 沙 哉 キー ワー ド:性的 自由 ・性的 自己決定権 在 日米軍基地問題 1 は じめに 沖縄の2008年は、また して も米兵による女 7-中学生-の性的暴力 とい う最悪の事件で幕 をあけた. 少女に対 して米兵が向けた刃は、過去幾度 とな く繰 り返 され てきた沖縄 の女性 ・少女た ちに対す る 米兵の性的暴力 と重な り、再び米軍基地 あるが故の危険に気づか され、2008年3月23日に北谷公 園 で開催 された r米兵によるあ らゆる事件 ・事故に抗議す る県民大会」やその他の集会 、多 くの団体 の抗議決議な どの基地抵抗運動へ と結びついていった L。 事件発生か ら19日後 、 「そっとしておいてほ しい」 とい う言葉 とともに、少女は告訴 を取 下げた2。 米兵の性的暴力によって、平穏 な生活を送 っていた少 女を襲 った重圧 、社会から向けられ る無責任な 責任追及の声など、事件そのものの苦痛だけではなく、多 くの苦痛が少女 を襲ったに違いない・-0 事件 当時、少女 を取 り巻いた状況や少女が告訴 を取下げた ことな どか ら、事件 を再び紐解 くこと に迷いがないではない。 しか し、米兵による性的暴力 の事実に 目を向けなけれ ば、女性 ・少女の受 けた傷は、米軍の謝罪や繰 り返 され る綱紀粛正があった と して も、 日米の軍事同盟強化 を重視す る 流れの中で、 日常- と埋没 して しま う。 ここでは、少女 の受 けた被害 を米軍基地問題 に直結 させ る のではな く、性的暴力その ものの問題性 に 日を向けたい。 また、 この事件 と同様 に米兵によって引き起 こされた性的暴力事件 と して、2007年 10月に広 島県 で発生 した19歳の女性 に対す る米兵 らによる集 団強姦事件 がある。 この事件 は、上の沖縄 にお ける 事件 と異 な り、 日本側 が不起訴 と した事件 を米軍が軍法会議 で裁 いた ものであ り、注 目され る。 2008年2月18日に も沖縄県 中部では、フィ リピン人女性 に対す る強姦致傷事件が発生 した。被疑者 の米兵は 日本側では不起訴 となっている。 以下に詳細 を挙げる集 団強姦事件 、強姦事件は、個人の性 的 自由 ・性 的 自己決 定権 を侵 害す るも のである。 この性的 自由 ・性的 自己決定権は、憲法13条後段の幸福追求権から導きだされると考えら れるが、いまだ憲法 上定着 した概念であるとはいい難 く、この権利 内容について検討が必要である。 本稿 では、女性や少女の性的 自由 ・性的 自己決定権 を踏み に じる具体的事例の中で も、2007年10 月以降、在 日米軍人に よって引き起 こされた3つの性的暴力事件 に注 目す るOそれぞれの事件につ いて性犯罪の被害女性や少女 と社会、捜査 、司法の観 点か ら、事実お よび事件処理の過程 、そ して 被害者 を取 り巻 く社会状況 を整理 し、米軍基地所在地域、米兵 の活動地域 にお ける女性 ・少女に対 す る性的暴力について確認 し、今後の検討の基礎 とす る 目的である。- 2
9-『在 日米軍人による性的暴力の提起する諸問題』 2 在 日米軍人による性的暴力の事例
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広島市 における集団強姦事件 (a)事実 2007年10月14日の午前3時半 ごろ、広 島市内の駐車場 に駐 車 した車内で、19歳の 日本人女性が 4名 (19歳、24歳、34歳、39歳)の米海兵隊員 らによって強姦 され る事件が発生 した。 加害者 は、山 口県岩 国市にある米海兵隊岩 国基地所属の米兵 らであ り、被害者女性 とは同 日広 島市 中区で開催 され ていた ダンスイベ ン トで知 り合 った。加害米兵 らは、女性 を乗せ て車を走 ら せ 、イベ ン ト会場か ら2キロほど離れた駐車場 に停め、その車内で強姦に及んだとい う。その後、 加 害米兵 らは女性 を駐車場 に置 き去 りに したまま、車で同区内の飲食店 に行 き暴 力事件 を起 こ し たあ と、基地 に帰 った ところを広 島県警 か ら通報 を受 けていた米軍に拘束 された。 本件 は、公務外 の犯罪 であ り被疑者 らの身柄 も米軍側 にあったため、事件 当初か ら被疑者の起 訴前身柄 引き渡 しの問題 が意識 された`l。 広島地検 は、4名 の米兵 を同年 11月6日に書類送検 していたが、同15日、被 害女性の証言や記 憶 に暖味な点があると して、嫌 疑不十分 でいずれ も不起訴処分 とした5。 広 島地検 の不起訴処分後 も、米軍は本件 に関す る捜査 を継続 した。米軍岩国基地で行われた予 備審理 で、被害者 の女性 は、4名 の米兵の うち 1名 に対 しては性交についての同意があ り、女性 とその1名 が車に乗 り込んだ。 そ こに後か ら残 る3名 の米兵が入 ってきて、加害米兵 らが車を事 件現場 となった駐車場 -移動 して、女性 は 4名 に強姦 された と証言 した。被害女性 は米兵 4名の 「体 自体が武器 だった」 と述べた6。 この審理後 、米海兵 隊司令官は、翌2008年3月3日付 けで、 米兵 ら4名 を強姦 、共謀 、誘拐 な どの罪 で軍隊内の高等軍法会議 にか けることを決定 した7。 日 本 の捜査 当局 に よって不起訴 とされ た事例 を、米軍が軍法会議 にか けるのは異例 であ りH、また 軍法会議が 日本 の報道関係者 に公 開 され た点 も注 目され た9。 軍法会議の審理の中で、女性 は少な くとも5回 レイプ された こと、恐怖のために抵抗できなかっ た こ とを証言 し、また広 島県警 での調 書 と証言 内容 が異 なる点について、 「母親 を傷つ けた くな か った。 今話 してい るこ とが真実」 である とし10、また軍法会議に先 立つ 予備審理 で女性 は、広 島県警 の調 べで4名の米兵の うち 1名 とは合意があった ことを話 さなか った理 由を、「軽率な行 為 を した ことが恥ずか しかった」 と語 ったlt。 軍法会議 で2008年5月8日、加害者 の一人20歳の米海兵隊兵長について、強姦罪の成立は認 め られ なか ったが、 「不法 な性 的接触 があった」 と して懲役2年 と不名誉除隊の有罪の判決が下 さ れ たL2. 次 いで同年5月20日、35歳 の一等軍曹 については、否認 していた強姦や誘拐な ど7つの 事実については、司法取引で訴追が取下げ られ 、女性 の財布 か ら現金 を盗んだ こと、公衆の面前 でみだ らな行為 を した ことについ て有罪 の判決 が下 され た】3。 同年6月10日には、40歳 (事件 当 時39歳) の一等軍曹 に、懲役 1年3ケ月、懲戒除隊の判決が言い渡 され た14。 同年6月25日、25 歳三等軍曹に懲役1年 、懲戒除隊の判決が下 された。強姦 、誘拐の罪 は司法取引で取 り下げ られ、 他 の隊員 と互いの面前でみだ らな行為 を した ことな どについて有罪 とな り、 この判決で4名全員 の判決が出たが、いずれ も司法取引に よって強姦罪 の成立はなかったほ
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130-沖縄 大学法経 学部紀要 第 11号 (b)被害者 を取 り巻 く状況 事件発生直後の2007年10月20日広島市内で開催 された 「日本女性会議2007ひろ しま」にお ける 挨拶 の中で、広 島県知事 は事件 その ものにつ いては 「大変遺憾 で許 され ない」 と しなが らも、 「朝の3時 ごろまで未成年が盛 り場 にいるとい うことが どうか と思」 うと発言 し問題 となった。 この発言 について知事 は、 「犯罪 に遭 わないための リスク管理 につ いて一般論 として言及 しよ う と した」 と述べ て釈 明 した ものの16不適切 であった といえるだ ろ う。 「被 害 に遭 わないた め」 に 被害者側が予防すべきであった と、率先 して述べ ること自体が、被害者 にも リスク管理 を しなかっ た 「落ち度」があったのだ とす る非難 を生む ものではないか。 被害者 の証言 中の 「母親 を傷っ けた くなかった」、 「軽率な行為 を した ことが恥ずか しかった」 な どの言葉か ら、女性 自身が 自らを責 めてい る様子 がある。 この よ うな背景 には、例 えば朝の3 時 ごろまで盛 り場にいる未成年 の女性 は、性 的暴力 に遭遇 しないための 自己管理 が行 き届いてい ない、一人の米兵 とは 「合意」の上性交に及んで もよい として車 に乗 った 「軽率」 さを、被害者 女性 の 「落 ち度」 として、その よ うな女性 については公訴 を提起できない と、男性 よ りも女性 に 対 しては厳格 な貞操義務 を課す伝統的な観念 があ りは しないだろ うか17。性犯罪被害 を告発 した 女性 に向け られ る非難 は、性的暴力が被害者 の性 的 自由を侵害 し、尊厳 を著 しく傷つ けるもので あることか ら目をそ らす ものである。 (2) 沖縄 における女子中学生強姦事件 (a)事実 2008年2月10日22時半す ぎ、キャンプ ・コー トニー所属の38歳の米海兵隊 二等軍曹が、沖縄本 島中部北谷町の路上に駐車 した車内で、14歳の女子 中学生 を強姦す る事件が発生 した。被害に遭 っ た少女は、同 日20時半 ごろ沖縄市内の繁華街 に友人 と3名 でいた際に、加害米兵 に声 をかけ られ た。 その米兵は、 「家まで送 ってい く」 と少女 を誘 い、乗 っていたバイ クで少女 をその場か ら連 れ出 したが、少女の家-は行かず 、北 中城村 にある基地外の 自宅 に連れ込んだ。米兵 は 自宅内で 少女に性 交を迫 ったが、少女は嫌が り米兵の 自宅か ら逃走 した。 しか し、す ぐに米兵 に追いつか れ、 自分の 自宅への帰 り道 もわか らない少女は、 「車で家まで送 ってい く」 とい う米兵 の誘 いで、 ワゴン車に乗った。 ところが、米兵はまた少女の 自宅-向か うことな く、嘉手納町附近 まで連れ まわ した上、事件現場 となった北谷町で強姦 に及んだのである。 同 日21時20分 ごろに、少女か ら友人 に助 けを求める電話があ り、それ を受 けて友人 とその家族 が沖縄署に届 け出た。そ して、22時45分 ごろ少女か ら友人の母 に電話で連絡があ り、少女は北谷 町の事件現場近 くで うず くまってい るところを、沖縄県警 に保護 された。 沖縄県警 は少女の証言 をもとに、同月11日午前2時10分 ごろ、 自宅前 に駐車 した車内にいた加 害米兵 を逮捕 した。 本件では、米軍側 が被疑者 の身柄 を拘束す る前 に、沖縄県警が逮捕 したため、被疑者 の起訴前 身柄引き渡 しの問題 は発生 しなかった。 逮捕 当初、被疑者米兵は少女の体 を触 った ことは認 めた ものの、強姦 については容疑 を否認 し、 また被害者 が未成年者 である点 について も、 「未成年 とは思わなか った」 と していた19。 しか し、 同年2月21日には強姦 について被疑事実 を全面的に認 める供述 を した200 31
-『在日米軍人による性的暴力の提起する諸問題』 同年2月29日、被害少女は 「(事件 に) これ以上かかわ りた くない。 そっ としておいてほ しい」 と して告訴 を取下げた。強姦罪 は 「告訴がなけれ ば公訴 を提起す ることができない」親告罪 (刑 法180条1項) である。 告訴取 り下げ理 由について、那覇地検 は 「被害者 の気持 ちに反す るので 細 か く申 し上げることはできない」 とし、また 「被害者 の気持 ちを考 えれ ば適 当ではない」 とし て、別の罪 での立件の可能性 も否定 した。告訴取下げを受 けて 日本側は第一次裁 判権 を放棄 し、 被疑者米兵は同 日午後釈放 された21。 日本側 の第一次裁判権 の放棄 を受 けて、本件では米国側 が第二次裁判権 を行使す ることになっ た (日米地位 協定17条3項、裁判権 の競合)。 日本側 による不起訴処分後 も、釈放 された被疑者 米兵の身柄 は在 日米海兵隊に よって引き続 き拘禁 され 、米軍側 に よる捜査が続 け られだ 2。 同年4月21日在 日米海兵隊は、本件 を軍法会議 にかけることを決定 し、当該米兵は16歳未満 の 女性-の強姦 、偽証な どの罪 で訴追 された。軍法会務 はキャンプ瑞慶賢で4月 16日に開かれ、 日 本側 の報道 関係者 に も公 開 され るこ ととな った230 審理 の 中で検察側 は、 「軍曹 は性欲 を満 たす ため執劫 に迫 った。海兵隊は 日本 を守 るためにいて、み だ らな ことをす るためにいない」 と厳 し く糾弾 した。軍法会議 は、16歳未満 の女性 に対す る暴力的な性行為の罪 につ いて、懲役4年の判 決 を下 した (刑期 の最後の 1年 について執行 が留保 され る。懲役 に加 え、降格、給与 と諸手 当の 没収 、服役 後 の不名 誉除 隊 も盛 り込 まれ た)。加 害米兵 は軍法会議 で も、少女 の年齢 について 「知 らなか った」 と しつつ も、会話の内容 、話 し方か ら16歳未満 なのではないか と 「強 い疑念は あったが、確認 しなかった」 と述べた2'lo (b)被 害者 を取 り巻 く状況 この事件 では、被害者 がまだ14歳の女子 中学生だった こともあ り、1995年 に発生 した3名の米 兵 による少女暴行事件 を思い出 させ 、事件発生 当初 か らあ らゆる場面において、1995年の事件 と 関連づけ られ た。 また、米軍再編問題 -の影響 も懸念 され た。 日米間にお ける米軍再編合意 によって、普天間飛 行場返還 の代替施設 として計画 され てい る名護 市辺野古沖の新たな海上滑走路建設 (∨字案)の 建設位置 について、 日米の国家間においてはす でに合意済み とされ ているものの、沖縄 県、名護 市は建設位置の沖合い-の移動 を求 めてお り、交渉が難航 している2㌔ また、1995年の少女暴行事 件 を契機 として設置 された 「沖縄 に関す る特別行動委員会」 (SACO)の最終報告 によって、1996 年 に普天間飛行場 の全面返還等が合意 され た ことか ら、本件 は、発生 当時か ら被害者個人の被害 と同時 に、普天間飛行場の移設 問題 と名護 市辺野古の海 上滑走路建設 問題 、その他 の米軍基地問 題 とそれ に対す る抵抗 が語 られ ることとなった26.事件 発生 を伝 える新聞記事 には、普天間飛行 場移設 問題 や 、今後 の 日米 関係 につ いて 「県 民感 情 か ら影響 が ない とい うこ とはあ り得 ない」 (高村正彦外相 当時)27、 「対処 を誤 る と政府 と地元 の関係 を大 き く損 な うことになる」 (普天間飛 行場移設問題 に係 ってきた防衛省幹部) といった記述がみ られた。 さらには、事件 と同 じ日に岩 国市長選 で米軍岩 国基地-の空母艦載機 部隊移転容認派が、反対派 を破 って当選 した ことか ら、 「も し1日早 く事件 が起 きて投票 日に報道 されれ ば、選挙の結果 も変わ っていたのではないか」 との岩 国市民の声 もあった28。 これ らの声 は、少女個人 に起 こった被害 と 「県民」 とい う全体の感情 とを結びつ けた ものであ るO性 的 自由の侵害 とい う少女個人 に起 こった被害が、個人 レベルではな く、基地所在市町村 、 - 32
-沖縄大学法経学部紀要 第11号 沖縄県、米軍基地所在 の他 県、そ して 日米 とい う国家 レベル の問題 に発展 した ことも少女 を苦 し めたのではないか とも思われ る。 これ は、米軍人が加害者 となる性的暴力事件 の特徴 である。 そ して、米軍基地が集 中 し民間の住宅地 と基地 とが密接 な沖縄 においては、特 に強 くその特徴があ らわれ るのではないだろ うか。 そ して、朝 日新聞2008年 2月 17日の記事 にあるよ うに、加害米兵が逮捕 され た直後 、イ ンター ネ ッ ト掲示板 では被害者 を責め、 中傷す る書 き込みが多 くみ られた29。本件 では、20時 ごろ被害 者が加害者の誘 いに応 じてバイ クに乗った とい う事件 の経緯か ら、 「誘 いに乗 った少女が悪い」、 「深夜排禍 を許す家庭 に問題 が あ る」 な ど少女 を責 め、追い詰 め るよ うな見方が多 くあった30。 しか し、14歳の少女 に対す る性 的暴力 とい う、事件 の凶悪性 が少女の行動 によって何 ら軽減 され るものではない。 ここにもや は り、被害少女の 「落 ち度」 を探 し、女性 ・少女 に厳格 な貞操義務 を強いる状況がみ られ る。 今回、被害少女の告訴取下げに よって、 この事件 を 日本の司法で裁 くことができなかった こと についての憤 りや落胆が、新聞社説や東 門美津子沖縄 市長、沖縄県警幹部、仲井真弘多沖縄県知 事の コメン トな どにもみ られたi■o Lか し、そ もそ も強姦罪 が親告罪 とされ てい るのは、 「告訴 な しに訴追 ・処罰 をみ とめる とき は、かえって名誉その他 の点で被害者 の不利 益 を増大す る結果」 を招 くとの理 由か らである与2。 既述の よ うな被害者 に多 くの負担 を強い る社会状況の中で、被害者個人の意思か ら犯罪 を切 り離 して考えて よい ものか どうか疑問であるOそ して本件 は、確 かに米軍人による犯罪行為であ り、 在沖米軍基地問題 と直結す る問題 であるが、被害者の側 に立っな ら、これはもっぱ ら個人に起 こっ た性被害であ り、県民の米兵に対す る処罰感情 まで も被害者少女 に背負わせ るべ きではない。 本件の発生は1995年 に当時小学生であった少女が 3名の米兵に よる性暴力被害 を受 けて以降、 いまだ被害が起 こ り続 けてい ることを改めて認識 させ た。 しか しその ことが、 1995年 の事件 を意 識 した動 きであったために1995年の事件の被害者 に事件 の記憶 を思い出 させ 、再び傷つ けること にもなったのではないか とも考 え られ る。個人 に起 こった被害が、軍隊に よる性 的暴力 とい う側 面をもっているために、大 き く社会問題化す ることは、在 日米軍人に よる犯罪 の特徴 である。 (3)フィリピン人女性強姦致傷事件 (a)事実 日こ挙げた米海兵隊員 による14歳の女子中学生-の性 的暴力事件 を受 け、在 日米軍の行動規律 の全面的見直 しと厳格化 を駐 日米大使 が表明 した (2008年 2月13日)
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3。そ して、同年 2月20日の 午前 7時か ら一定期間、沖縄 と岩 国米軍基地所属の米兵の外 出禁止が発表 された。米軍基地外 に 居住す る米軍人 も基地 と自宅 との往復以外 は、基地 内で過 ごす ことが義務付 け られ ることとなっ た.il しか し、外出規制の開始直前の同年 2月17日に、沖縄本 島中部でダンサー として働 き始 めたば か りのフィ リピン人女性 が、米陸軍パ トリオ ッ ト・ミサイル部隊所属米兵 に性暴力 をふ るわれ る 事件が発生 した。 この米兵は、 「嫌疑不十分」である として同年 5月16日、不起訴処分 になる35の だが、被害女性 の証言 によると事実は以下の よ うである。 この 女性 は、同年 2月 15日に沖縄 に来て、 17日か らダンサー と して働 き始 めた。 その 日に当該 ー33-『在 日米軍人による性的暴力の提起する諸問題』 米兵に店 の 「外へ出 よ う」 と誘 われ、一人でな らば行かなか ったが、他の同僚 も行 くとい うので、 同僚 の女性 5名 と在沖米海兵隊員 5名 、そ して在沖米陸軍人 1名 とともに食事-行 った。食事の 後、同僚の女性た ちと海兵隊員 らはホテル-行 き、被害者女性 と陸軍人はカラオケに行 ったあと、 同僚 たちのい るホテル-向か うことになった。 沖縄 に来たばか りで不慣れであ り、一人で 自宅-戻 ることができなかったためである。 ところが、当該米兵がホテルに部屋 をとったため危険 を感 じた被害者女性 は、同僚 に来 てほ しい と電話 を したが聞 き入れ てもらえなか った。 しか しその時 まで、 この米兵 は被害者女性 に対 して乱暴 な態度 を とっていなかった ことか ら、女性 は米兵を信 頼 し、また何 かあった として も抵抗 できるとも思 った とい う。 しか し、米兵はその信頼 を裏切 り、 被 害者女性 の拒否や抵抗 を押 さえて彼女 を強姦 した。翌朝 、米兵は、友人か ら借 りた男性用の服 を女性 に渡 して、タクシーに乗せ 、運転手に住所 を伝 えて運賃 を渡 し、逃 げるよ うに去 った とい う。 この性 的暴力 に よって、被害女性 は外傷性性器損傷のため一週間入院 した-60 新聞報道 によれば、被害者女性が病院-行 った経緯 について、この女性がホテルのロビーでぐっ た りしてい る ところを、ホテル従業員が発見 して救急搬送 された とされ る。女性 は本件 の米兵か ら受 けた暴力行為 に よって全治三週間の怪我 を負 った37。 被疑者米兵は、 フィ リピン人女性 を強姦 した疑いで、米軍当局に身柄 を拘束 された。 そ して沖 縄 県警 の任意の事情聴取 に対 し、被害女性 との性交につ いて 「合意の上だった」 と して、強姦の 疑 いを否 定 した38。被疑者 は容疑 を否認 し続 けていたが、沖縄県警 は米軍か ら協力 を受 けて捜査 し、同年 4月25日、被疑者米兵 を書類送検 した39。 しか し、同年 5月15日那覇地検 は 「行為の場 所や行為の前後 の状況、両当事者 の関係 な どの事情 を考慮 した」結果、被疑者 を嫌疑不十分で不 起訴 と判断 した一100 不起訴処分後 も、当該米陸軍人は米軍嘉手納基地内で身柄 を拘束 され ることとなった。米陸軍 キャンプ座 間スポー クスマ ンの ジェームズ ・クロフォー ド少佐 (Maj.JamesCrawfbrd,aU.S.Army spokesman atCampZama)は、2008年 5月 18日付 の星条旗 の記事 にお いて 「も し犯罪が行 われ た と捜査の結論 が下れ ば、適切 な措置が とられ るだろ う」 と し4L、同年5月23目付の同紙 では、 「捜査 はまだ初期段 階 にあ る」 と した42. 星条旗 では、 この米陸軍人 は被 害女性 との性 交のため に、彼女がダンサー と して働 いていたクラブにお金 を払 った と主張 してい るのに対 し、被害女性 は、その よ うな契約 を知 らない し、賃金 も受 け取 っていない と述べた と報 じているO また、この 米兵 は、以前 にも似 た よ うな事例で告発 され た ことがある とも報 じた1∼O その後 も被疑者米兵は、強姦 の容疑 を否認 し続 けた。 しか し米陸軍捜査機 関は証拠や証言、報 告書な ど日本側 か ら入手 した証拠等 も精査 し、被疑者 を立件 した110 (b)被害者 を取 り巻 く状況 本件 の被害者女性 は、沖縄 に来てまだ 日が浅 く、米兵の行動に対 して危険 を感 じていた ものの、 一人では家 に帰 ることも不可能 であ り、また同僚の助 け も得 られ ない状況にあった。女性の証言 に基づ くな らば、米兵が主張す るよ うな 「合意」があった とは、到底思 えない暴力的な性行為 で ある。 そ して、米兵の主張によると、女性 との性行為のためにクラブにお金 を払 った との ことである。 女性 は売春行為 について、勤 め先か ら何 も聞いてお らず報酬 も得 ていない。 この事実の食い違い か ら、女性 自身が契約 していない内容の労働 を強い られ た可能性 が高い。 また、フィ リピンのガ - 3 4
-沖縄大学法経 学部紀要 第11号 ブ リエ ラ女性党党首で国会議員の リザ ・ラル コザ ・マザが、本件 の調査のために沖縄 に来た際に、 被害者の女性 は人身売買の形 で 日本 に来た と指摘 した45。本件 は、強姦致傷事件 と して注 目され ているが、外国人女性 が売春 目的で人身売買 された 可能性 があ り、 も う一つ他 の人権侵害の問題 も含んでいる。 本件発生後、フィ リピンの女性団体は、 フィ リピンマニ ラにある米国大使館前で、本件 に対す る米国の具体的取 り組みに関す る情報 開示 を求 めた抗議行動 を行 い、また、 フィ リピン下院は、 フィ リピン政府 に対 し、被害女性-の支援 を求 める決議案 を採択 した4㌔ 同年 5月24日には、読 谷カ トリック教会の在沖 フィ リピン人 ら約60名が、読谷村古堅か ら米陸軍 トリイステー シ ョン第 -ゲー ト前まで行進 し、被害女性 の支援 と、公 平な捜査 、裁判 の実施 を求 めた470本件 は、女性 に対す る人権侵害の問題 について、その解決 のためには例 えばフィ リピン と沖縄 ・日本 とい うよ り広範囲の人的結びつ きの必要性 も示唆 している
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㌔
また在 日米軍人の外 出禁止規制措置 について、 「年齢層 が高 く、事件 ・事故 の件数 が少 ない」 との理 由か ら、本件の加害者が所属す る米陸軍には、午前 0時か ら午前 5時までの公務外 の外 出 禁止規制措置が課 され ていない ことも判明 した。在 日米軍の うち海兵隊、空軍、海軍については、 継続的に外 出禁止規制措置が行われ てい る19。 本件 については、米陸軍 当局が立件 を決定 して以降の米軍の事件処理 が注 目され る。 3 問題点の整理 (1) まず第一は、上に挙げた各事件 において被害者 の女性 ・少女が性 的暴力 に よって侵害 され た権 利が、憲法上保 障 され るべ き権利 なのではないか、 とい う問題 である50。 通説的には、 「生命 ・身体の処分、家族形成権 、 リプ ロダクシ ョンに関す る事項」 につ いての 自己決定権が、憲法13条 の幸福追求権 によって保 障 され る と解 され てい る51。 この幸福追求権規 定か ら、性的 自由 ・性的 自己決定権の保障 を導 きだす ことはできないだろ うか。性 的 自由 ・性 的 自己決定権 は、憲法学上いまだ定着 した概念 とはいえないが、 「誰 と性 交す るかあ るいは しない かは個人が 自由に決定 しうる事項」 と定義 され る52。 そ して、 この性 的 自由 ・性 的 自己決定権 を 強 く侵害す るのが、今回取 り扱 った強姦や集 団強姦 の よ うな暴力である。 性的暴力の場合、私人による人権侵害であ り、直接的 には対国家ではないため私人間-の人権 規定の適用の問題 を伴 う。 この点 に関連 して、上の 3つの事件 の よ うに米兵 らによる性 的 自由の 侵害の場合 には、米軍の受 け入れ 、 どの地域 に どの程度 の米軍基地 を配置す るかは、国家間に よ る取極 めであ り、軍隊受 け入れ 国である 日本 の国家 としての責任 が背後 に存在す る点や 、被疑者 の起訴前身柄 引き渡 しや裁判権 な ど日米地位協定上の取極 めも関係す るため、通常の私人間にお ける性的暴力 とは異なる要素 を有 していることも、考慮 にいれ る必要があるだろ う。 また、性 的 自由の侵害についてはその客体 として女性 を念頭 にお く場合が多い。刑法上 も強姦 罪 (刑法177条)、準強姦罪 (刑法 178条 2項)、集 団強姦罪 (刑 法178条の 2) は、権利侵 害の客 体 を 「女子」 と規定 している。確 かに、家庭 内にお ける暴力、セ クシュアル- ラスメン ト、強姦 等のわいせつ犯罪 では、女性 が犯罪行為 の客体 になることが多い。 しか し、性 的 自由を憲法上の 人権 として考 えるのであれ ば、人権の普遍性 の観 点か ら男性 が被害者 となる場合 について も当然 検討 しなけれ ばな らない。男性 の男性 に対す る、女性 の男性 に対す る性 的 自由の侵害 も想定 されー
35-『在日米軍人による性的暴力の提起する諸問題』 るべ きである。権利侵 害の主体 を男性 、客体 を女性 に固定す る合理的理 由があるのか検討 を要す る。 性 的 自由 ・性 的 自己決定権 の侵害は、今回取 り挙げた事件 に も示 され るよ うに、暴力的に被害 者 の人格 を踏み に じり傷つ ける重大な侵害行為 であ る。性 的 自由の概念 について も、よ り具体的 に どの よ うな加 害行為が個人の性的 自由を侵 害す るのか、被害者個人の性的 自由の保護 を中心 と して憲法論 と して考えなけれ ばない。 (2)上述の中学生の少女に対する米海兵 隊員 による強姦事件 では、事件直後被疑者の身柄 を 日本側 が確保 できたため、 日米地位 協定上の被疑者の身柄 引き渡 しの問題 (日米地位 協定17条 5項(C)) も生ず ることな く事件が処理 された。 ところが、被害少女が告訴 を取 下げたため、 日本側は第一次 裁判権 を放棄 し、米軍側が第二次裁判権 を行使す ることとなった (日米地位協定17条 3項)O米軍 側 は事件 を迅速 に処理 し、事件 発生か ら約 3ケ月後 、軍法会議 において加害米兵に関す る判決を 出 したO 被害少女の告訴の取 り下げ とそれ に伴 う軍法会議の判決に対 しては、迅速な処分であるとの意 見のほか 、 「日米地位 協定 を見直 し、 日本の司法の中で裁 かれ る方向に もってい くよ う国 も主張 してほ しい」 (東 門美津子 沖縄 市長)、 「日本の法律 で裁 くことができない結果 は悔 しい、残念」 (ある県警幹部)、 「国民、県民の人権 を じゆ うりんす る犯罪米兵 を 日本 の法律
、
日本 の 古I法の手 で裁 き、被害者 の救済 と犯罪の再発防止 を徹底 できて こそ真の法治国家である。 ・・・米軍法会 議 に事件 の審判 を委ね ざるを得 なか った今 回の事件 の残 した教 訓を、重 く受 け止 めたい」 (琉球 新報社説)、 「・・・日本 で処分で きなか った事件 だ。 (実刑 で も)県民は肺 に落 ちない思いがあ るだ ろ う」 (仲井真 弘多沖縄 県知事) な ど、本件 を 日本 の裁判所 で裁 くこ とができなかった こと に落胆す る声が多か った53。 この事件 を 日本の司法 で裁 けなか ったのは、 日米地位 協定の不備 とはいえないだろ う。今回の 日本の第-裁判権 の放棄 は強姦罪 が親告罪 (刑法 180条1項) であるため、被害者の告訴 な く し ては公訴 を提起 できないか らである。 強姦罪 、集 団強姦罪 を含む強制猿索 の罪 は、現刑法の体系的 には社会的法益 に対す る罪位置 し ているが、現在 は、 「一種 の人格的 自由 と しての性 的 自由を害す る罪」5′1、または、強姦罪の客体 は もっぱ ら女性 と考 え られ てい るため、 「女性 の性 的 自由」55と して個人的法益 に対す る罪 と解 され てい る。 この性 的 自由に対す る侵害が親告罪 とされ てい るのは、 「告訴 な しに訴追 ・処罰を み とめるときは、か えって名誉その他 の点で被害者 の不利益 を増大す る結果」 を招 くとの理 由か らであ りr'6、被害者保護の立場か らである。一方、
「2
人以上の者が現場 において共同 して犯 した」 場合 には (刑 法 180条 2項)、 「凶悪性 ・危険性 の高い暴 力的 な共同犯行 は、被害者の個人的利益 以上 に、犯人の処罰の必要性 が大きい」 と解 され るため、非親告罪 となる57。 強姦罪 が親告罪 であることに対 しては、 「被 害者保護 のために強姦罪 を親 告罪 とす ることが本 当に必要なのか」 とい う見解 もある。強姦罪 において被害者 に告訴取下げの圧力がかけ られ る背 景には、強姦 の被害者 となるのが恥ずべ きことである、強姦 は隠 され るべ き事実である、被害者 が告訴 しなけれ ば犯罪 としな くて よい軽微 な ものである等 の意識 があるのではないか と指摘 され るSR。確 かに、親告罪 とす るこ との理 由が 「被害者保護 」であ るとす るな らば、加 害者が l名 で- 3
6-沖縄 大学法経学部紀要 第11弓・ ある場合の性的暴力 も2名以 上の場合 でも同様 に親告罪 であるはずだが、条文上 「二人以 上の者 が現場 において共同 して犯 した」場合 (刑法180条 2項)、そ して集 団強姦罪 に該 当す る場合 (刺 法178条の 2) には、親告罪 とはなっていない。 ただ、 日本の司法裁判所 で加 害者 を裁 くことができなかった ことに対す る多 くの落胆 の声は、 その基礎 となった被害者少女の告訴取下げの判断に圧力 をかけ、少女に負担 を負わせ ることにな りは しないか。前述の よ うに、事件 当時の性犯罪被害者 の状況 を非難 し、その者の 「落 ち度 」を 指摘す る状況の中で、強姦罪 が親告罪 であることに落胆 し、 「日本 の司法の中で裁 く」 ことに執 着す るのは、件犯罪被害者 を さらに傷つ けることになる可能性 がある。 また、新聞に多 くみ られ た上記 の見解 は、告訴 をす ることができなか った被害者 を責めることに もな りかねない。 そ して、2名以 上の者が共同 して行 った強姦等の場合 には、親告罪 ではない ことか ら、非難 の 目に さらされやすい性犯罪被害者 を どの よ うに保護す るのか、検討 しなけれ ばな らないだろ う59。 (3) 上記 フィ リピン人 女性 に対す る強姦致傷事件 においては、そ もそ も被害女性 の入 国が人身売買 によるものであった とい う点 に も注 目しなければな らないだろ う。加害米兵に よれば、本件 の性 行為は金銭 を支払 った対価 であ るとの主張である。 沖縄 に米軍基地が集 中 していることか ら、基 地周辺において金銭 を介 した性行為 をさせ るために、人身売買 された女性 を受け入れ る土壌 になっ ている可能性 があるのではないだろ うかO 人身売 買は女性 の人権 を侵害す る問題 であるW。 (4)上記広島市における集 団強姦事件 と沖縄県で起 きたフィ リピン人女性 に対す る強姦事件 では、 どちらも嫌疑不十分で被疑者 らを不起訴処分 としてい る。 しか し、前者 の事件 では、加害米兵 ら は軍法会議 においていずれ も (司法取引の結果強姦罪 とは され なか ったが) 「不法 な性的接触」 はあった と して有罪判決 を受 けてい る。 また、後者の事件 では、 日本側の不起訴後 も米軍側が捜 査を継続 し、被害者女性が負 った外傷や女性の証 言な どか らも暴力による強制を伴 う性行為 であっ た可能性 が高い。 この二つの事件 にお ける 日本の捜査 、不起訴の決定は先入観 な く、被害者 に とって公平 に行 わ れたのであろ うか。女性 に厳 しい貞操義務 を課 し、広 島の事件 にお ける被害者女性 が、午前3時 ごろまで出歩いていた ことや米海兵隊員の車に乗 った ことな どを被害者 の 「落 ち度」 と して、念 頭 に置いた ものではなかったのか。被害者 であるフィ リピン人女性 が、ダンサー と して働 いてい た ことや米陸軍人 とともにカ ラオケに行 き、ホテルの同 じ部屋 に泊ま らざるを得 なかった ことを、 被害者 に不利 な情報 として念頭 に置 いた不起訴の判断ではなか ったのか。 捜査段階、司法の過程 にお いて、 「強姦神 話」 といわれ る 「男性本位 の発想 での思 い込みや偏 見」M に左右 され ない意識 が要求 され る。 (5)上記の女子 中学生に対す る強姦事件 の加害米兵が基地外 に居住す る者 であった ことをきっか け に、在 日米軍人 らの基地外居住の許可基準や 、その居住実態が問題 となった。 日本政府二と在 日米 軍 との間で話 し合われた再発防止策の一環 として、米兵が基地外 に居住す る際の許可基準が明 ら かに された。許可基準は在 日米空軍、海 軍、海兵隊、陸軍でそれぞれ異な り、空軍、海軍、海兵 隊につ いては、単身者の基地外居住は原則認 め られ ない ことになってい る。 女子 中学生強姦事件 ー
37-『在 日米軍人による性的暴力の提起する諸問題』 の加 害米兵 の所属す る海兵隊 については、原則 と して① 特定の重 要な職務 に配置 され る者 、②三 等軍曹以下の単身者 を除 くすべ ての軍人が、基地外居住 の対象 であ る。 陸軍 を除いて、原則 とし て単身者 は基地外 に居住 で きない こ とになってい るD在 日米空軍、海 軍 、海兵 隊、陸軍のいずれ も階級 、職務 な どに加 え、基 地 内の住居 の状況 な どを勘案 し、個別 に許 可す る制度 を採用 してい るが、 この よ うな条件 を充 た して基地外 に居住 してい る米兵 が事件 な ど不祥事 を起 こ してい るた め、再発防止策 の一環 と して、基準の厳格化 が予定 され て いる620 また 、米軍側 は各 自治体 に在 日米軍 関係 者 の人数 、居住 す る米軍 関係者 の人数 を、毎年一回 日 本 政府 を通 じて 自治体側 -通知す るこ とも当面 の措置 と して ま とめた。2008年 1月末現在 、沖縄 在住 の米軍 関係者数 は4万4963名 (内訳 :軍人2万2772名 、軍属2308名 、家族 1万9883名) で、 この内24パ ーセ ン トの 1万748名 が基地外 に居住 してい る。 日本全体 の米軍 関係者数 が 9万4217 名 で、全体 の48パ ーセ ン トが沖縄 に集 中 してい る と報告 され た。 また、防衛省 は2007年 3月31日 現在 の全 国の市町村別 の基地外居住者 人数 も公表 し、沖縄 県 で、基地外居住者 が もっ とも多いの が北谷 町の2893名 で あ り、次いで沖縄 市 の2705名 で あった。 1年 も経過 しない間 に、基地外居住 者数 が429名 も増加 してい る点 も指摘 してお く630 4 おわ リに 本稿 では、2007年 、2008年 に発 生 した在 日米軍人 に よる女性 ・少女 に対す る性 的暴力 (性的 自由 の侵 害)事件 それ ぞれ につ いて、事件 内容や事件 処理 につ いて整 理す る とともに、そ こに含 まれ る 問題点 を挙 げ、性 的 自由 ・性 的 自己決 定権 の侵 害 、また特 に加 害者 が米兵 だった場合 、今後考 えな けれ ばな らない課題 を抽 出 したD 性 的 自由の侵 害 につ いては、それ が被害者 の尊厳 を踏 み に じる重大 な人権侵 害 であ るに もかかわ らず 、被害者 を取 り巻 く社会状況 、捜査段 階 、司法手続 きの過程 で、被 害者 の 「落 ち度 」 を探 し非 難 す るな ど、被 害者 にかか る重圧 が特徴 的 であ る。 さらに、加 害者 が米兵 であ った場合 には、個人 と個 人の間の犯罪 が、 日米間の政 治問題 に発展す るため、被害者 の負 わ され る重圧 は更 に計 り知れ ない もの とな ってい る。 具体的事件 にお け る被 害者個人 と加 害者 と、米兵 らに よる性犯罪 全般 と基地 問題 とは別 次元の も ので あるO 後者 のた めに被害者 個人 を傷つ ける ことが あってはな らない。親告罪 であ る強姦罪 の告 訴 を取 下げた こ とに落胆す る世論 が存在 し、強姦罪 が親告罪 であ ることに疑 問 を投 げか けるのであ れ ば、被 害者 が被 害 を容易 に訴 えるこ とがで きる社会環境 を整 えなけれ ばな らないO被害者 のプ ラ イバ シー の保護 や性犯罪被 害者 に対す る偏 見の打破 が必要で あるO 上記3つの事件 の うち、 2つ につ いて米軍法会議 に よって加 害者 らが裁 かれ 、判決 も下った。 そ の うち沖縄 にお け る少女 に対 す る性 的暴力事件 につ いては、かつ て1995年 に発生 した少女暴行事件 を意識 してか 、事件 の素早 い解決 がな され 、 日本 で不起 訴にな った性 的暴力事件 を軍法会議 で処理 す るこ とに よって、米軍 は 「性犯罪 を許 さない とい う強 い姿勢 を示す」一方 で、司法取 引によって 被告 人 の認 めた範 囲内の刑 に処 し、 「軍の PR」 と被 告人 の人権 のバ ランスを取 った とも指摘 され て い る64。 米 軍 が性 犯罪 に対 して、 きちん と対応 してい るこ とを示す こ とで、住 民の怒 りを抑 え米軍 再編 を円滑 に進 め よ うとい うこ となのだ ろ うか。 米軍再編 問題 と性 犯罪-の対応 は区別 して注視 し なけれ ばな らない。 -
38-沖縄 大学法経学部紀要 第11号 そ しで 性的 自由 ・性 的 自己決定権 の侵 害は、憲法上保 障 され る権利 に対す る侵 害 と考 え られ るが、 この権利 は これ まで軽視 され影 に隠 され てきた ものであ り、まだ定着 した概念 である とはいい難 い。 性犯罪被害者 は性 的暴力 に よって受 け る直接 の被 害、事件後社 会の 中で受 ける被 害 な ど、非 常 に強 い苦痛 を受 ける。 暴力 に よる性 的 自由の侵 害 は、男性 か ら女性 に対す るもの とい う固定的 な もので はないだ ろ う。 その具体 的権利 内容や被害者 の救済 、加 害者 に対す る対処 について、 これ まで軽視 され て きた被害者 の側 に立 って検討す る必要 が ある。 また加 害者 が米兵 で ある場合 には、そ うでは ない場合 とは異 な る問題 も含 んでお り、被害者 の保護 ・救 済が課題 であ るo l琉球新報2008年 3月 9日朝刊 、 同 3月 14日朝刊 、 同 3月24日朝刊 な ど。 沖縄 県 内だ けで はな く 県外 での集 会 、県外 の団体 に よる抗議 な どもみ られ た。 2沖縄 タイムス2008年 3月 1日朝刊。 与性 的暴 力事件 にお いて、被 害者 に向 け られ る 「疑 いの 目」、 「落 ち度 」 を指摘 す る声 、女性 に対 して厳 しい貞操義務 が課せ られ 、 「ふ しだ ら」 とみ な されれ ば法 的 に保護 しない とい う、社 会 、司 法の見方 につ いて、宮地 尚子 「性 暴 力 とPTSD」『ジュ リス ト 特集 ジェ ンダー と法』 1237号 (2003 年 1月 有斐閣)170頁以下。 4朝 日新 聞2007年 10月19日夕刊 、同20日朝刊。 5朝 日新聞2007年 11月16日朝刊。 6沖縄 タイムス2008年 2月15日朝刊 、琉球新報2008年 3月 6日朝刊。 7朝 日新 聞2008年 3月 6日夕刊。 "沖縄 タイム ス2008年 3月 6日朝刊。 `'琉球新報2008年 5月 7日夕 札 10琉球新報2008年 5月 8日朝刊。 I-沖縄 タイムス2008年 2月15日朝刊。 12琉球新報2008年 5月 9日朝刊 、同夕刊。 ‖琉球新報2008年 5月21日朝刊。 14沖縄 タイ ムス2008年 6月11日夕刊。 15琉球新報2008年 6月26日朝刊0 16朝 日新 聞2007年 10月22日夕刊 、沖縄 タイ ムス2007年 10月22日朝刊。 17前掲注3 宮地 尚子 「性 暴力 とPTSD」 170頁以下。 IH琉球新報2008年 2月11日朝刊 、同12日夕刊。 朝 日新 聞2008年 2月 12日夕刊。 19沖縄 タイ ムス2008年 2月 13日朝刊。 20沖縄 タイ ムス2008年 2月22日朝刊。 21沖縄 タイ ムス2008年 3月 1日朝刊 、朝 日新 聞2008年 3月 1日朝刊0 22沖縄 タイ ム ス2008年 3月 6日朝刊。 25琉球新報2008年 5月 14日、同16日朝刊0 24琉球新報2008年 5月 17日朝刊 、朝 日新 聞 5月 17日朝刊。 25米 軍再編 につ いて 日米 は、米 軍再編 の合 意 内容 に したが って取 り組 む方 向で一 致 してい る (沖 縄 タイ ムス2008年 8月 13日)。名護 市長 と沖縄 県知事 は、代替施設 の可能 な限 りの沖合 い移 動 を求 ー 39
-『在 日米軍人による性的暴力の提起する諸問題』 めてい るものの、林 防衛大 臣は 「合理的な理 由がなけれ ば難 しい」 と している (琉球新報2008年 8 月20日)O -・一方、沖縄 県議会 は、2008年 7月18日に 「名護 市- の古沿岸域-の新基地建設 に反対す る意見書案」 を賛成多数 で採択 した (沖縄 タイムス2008年 7月19日)。 26sACOの最 終報 告 につ い て は 、 沖縄 県 ホー ムペー ジ内知事公室基地対策課参照 (http://W_TjY: prep.okinawa.)p/index.html) 27琉球新報2008年 2月12日夕刊。 28朝 日新聞2008年 2月12日夕刊。 2g朝 日新聞2008年 2月 17日朝刊。 to琉球新報2008年 5月 17日社説。 31琉球新報2008年 5月 17日朝刊。 }2団藤重光 『刑法綱要各論 改訂版』 (1985年 創文社)480頁。 33朝 日新 聞2008年 2月14日朝刊。 31朝 日新聞2008年 2月20日朝刊。 15琉球新報2008年 5月16日朝刊。 36琉球新報2008年 5月27日朝刊o r;沖縄 タイ ムス2008年 4月25日朝刊 、同26日夕刊。 川沖縄 タイムス2008年 2月22日朝刊。 39沖縄 タイムス2008年 4月25、26日朝刊。 仰琉球新報2008年 5月16日朝刊。
ll"Iftheinvestigationconcludesthatwrongdoinghasoccurred,approprlateactionwillbetaken,"STARS ANDSTRIPES2008年 5月18日。
13STARSAND STRJPES 2008* 5月23日. 13STARSAND STRIPES 2008年 5月18日。 11琉球新報2008年 7月30日朝刊0 45琉球新報2008年 7月21日朝刊0 .6 沖縄 タイ ムス2008年 3月 5日朝刊。 Jr7琉球新報2008年 5月24日D 4円米 軍基地所在 地域 では、米軍施設 の移設 に伴 って基地周辺 の性産業 で働 く女性 労働 力が移動す る問題や、女性 の人身売買が問題 になっている。本件 の被害者 女性 が フィ リピンか ら人身売買の形 で沖縄 に来た ことか ら、米軍基地の集 中す る沖縄 が人身売買の受 け入れ地域 となっているのではな いか と懸念 され る。2007年 9月にアメ リカサ ンフランシスコ開催 された、第 6回軍事 主義 を許 さな い国際女性 ネ ッ トワー ク会議 では、米軍基地所在地域 の女性 たちが集い、軍隊による女性 の人権侵 害 について話 し合 いが持 たれた。 軍事主義 に抵抗す るために、各地域の国際的な連帯 と情報の流通 が必要であ ると している。 (基地 ・軍隊 を許 さない行動す る女た ちの会 「軍事主義 に抗 し"いのちの 文化"を創造す る」第 6回軍事主義 を許 さない国際女性ネ ッ トワー ク会議報告集 2008年 2月)0 49午前 0時か ら午前 5時 までの外 出禁止措置 は、外 出禁止時間帯が過 ぎてか ら基地 に戻れ ば問題 視 され ない とい う、制度 の問題 点が指摘 され てい る。沖縄 タイムス2008年 2月22日朝刊。 50性 的 自由 ・性 的 自己決定権 に関す る憲法論 としての見解 の整理 につ いては、拙稿 「在 沖米 軍構 -
40-沖縄 大学法経 学部紀要 第11号 成員 による性的 自由 ・性 的 自己決定権侵害に関す る一考察