1 はじめに 長時間にわたって着座姿勢や立位姿勢を維持しながら 全身に振動をばく露することにより,さまざまな疾病を 引き起こすことが知られている1-4).着座姿勢での全身 振動ばく露は職業性全身振動ばく露の典型であり,職種 としては建設機械,フォークリフト,トラック等の操縦 者や農業用作業車両の操縦者やバス・鉄道等交通機関の 運転手などが該当する.これに対して,立位姿勢での全 身振動ばく露はこれまであまり議論の対象にならなかっ たが,近年,航空機の客室乗務員や鉄道等の販売員,災 害・救急車両等の搭乗員あるいは工場や市場などで使用 される特殊運搬車の運転手などのように立位で車両等に 搭乗する作業者に対して断続的かつ長時間にわたる全身 振動ばく露が及ぼす心理的影響および健康影響が注目さ れつつある5-10).また,職業性ばく露に限定をしなければ, 都市部では多数見かけるバスや鉄道等の公共交通機関の 車両内における立位乗客もすべて立位全身振動ばく露の 対象者であり,極めて多くの人たちが立位全身振動にば く露していることがわかる. 一般に日常生活においてばく露する全身振動の大半は さまざまな周波数成分を含む広い周波数帯域を持ったラ ンダム振動であり,ばく露する振動の加速度実効値が同 じであっても含まれる特定の周波数成分の値の大きさの 違いにより,その知覚や主観的応答としての不快度,健 康影響は大きく異なる可能性がある. 本研究では,ランダム振動に含まれる周波数成分が立 位全身振動ばく露による不快度に関する主観応答に及ぼ す影響を調べるために,立位姿勢を対象として前後・左 右・鉛直方向から異なる周波数特性の全身振動をばく露 した際の不快度に関する感覚尺度を心理物理学的手法を 用いて調べた.さらに得られた感覚尺度に対して,不快 度を指標とした主観応答に対する振動刺激の周波数依存 性とその方向依存性の検討を行った. 2 実験方法 1)実験装置 本実験では,合計7台の加振機を用いて駆動すること により,直交する三軸のそれぞれの方向(前後・左右・ 鉛直)に併進振動,また同三軸のまわりに回転振動を加 えることが可能な6自由度全身振動実験装置(VP-476, IMVCorp.)を使用した.本実験装置は重量250kgの高 剛性加振台を有し,加振可能な周波数範囲は0.13Hzか ら150Hzである.また,各方向の実現可能な最大併進 加 速 度 は 前 後・ 左 右 方 向 で3.5m/s2, 鉛 直 方 向 で 5.0m/s2である.加振台上に積載可能な最大重量は 200kgであり,今回の実験に参加する各々の被験者の体 重と比較して十分な容量である. 本実験装置は加振軸以外の交差軸方向に対する制御性 能も良好であり,加振軸がある一方向に定まった場合, その加振軸と直交する二つの交差軸方向に誘起される振 動は極めて小さい.本実験で使用する振動波形において, 加振軸と直交する交差軸における振動加速度を測定した ところ,その誤差は対象となる周波数帯域において加振 軸の振動加速度の5%以下であった. 2)振動刺激 本実験では,振動刺激として1-20Hzの周波数帯域で 定義される疑似ランダムな振動波形を想定する.振動波 形のパワースペクトル密度P( f )を周波数fの関数と して近似的に次式で表すとすると, b f a f P = ⋅ 10 + 10 ( ) log log (1)
立位全身振動ばく露における不快度に関する主観応答
̶周波数依存性に関する検討̶
柴 田 延 幸
*
1 これまで立位姿勢における全身振動ばく露の人体影響を議論した研究は極めて少なく,多くは腰痛に代表 される職業性筋骨格系疾病や作業姿勢などの関連性から,座位姿勢に対する全身振動ばく露とその人体影響に 関する疫学調査や実験的研究であった.したがって立位姿勢における全身振動ばく露の人体影響に関しては, 基礎的なデータの蓄積も少なく不明な点が多い.本研究では,心理物理学的手法を用いて全身振動ばく露に対 する不快度を指標とした主観応答の周波数依存性とその方向依存性の検討を行った.12人の立位男性被験者に 対して,前後・左右・鉛直方向のいずれかから全身振動をばく露させた時に感じる不快の程度を5段階系列範 疇にしたがって口答してもらい,その結果からカテゴリー判別法を用いて不快度と振動刺激の関係を結びつけ る主観尺度を得た.その結果,前後および左右方向では,比較的大きな振動加速度に対して,低周波数あるい は高周波数の振動スペクトルを強調した振動刺激に対して知覚した不快度の主観応答の方がスペクトル一定の 振動刺激に対して知覚した不快度の主観応答よりも低くなることが示された.また,周波数特性に関係なく鉛 直方向からの全身振動ばく露に対して最も振動感受性が強く,鋭敏に不快を知覚することが示された. キーワード:全身振動,立位姿勢,主観応答,不快度,カテゴリー判別法,周波数依存性原稿受付 2019年1月9日(Received date: January 9, 2019) 原稿受理 2019年9月2日(Accepted date: September 2, 2019)
J-STAGE Advance published date: September 13, 2019 *1労働安全衛生総合研究所人間工学研究グループ 連絡先:〒214-8585 神奈川県川崎市多摩区長尾6-21-1 労働安全衛生総合研究所人間工学研究グループ 柴田延幸 E-mail: [email protected] doi: 10.2486/josh.JOSH-2019-0001-GE 原著論文
a>0の時パワースペクトル密度P( f )は高周波数強 調となり,a<0の時低周波数強調,a=0の時P( f )は一 定となる.ここで参照値となる加速度実効値Armsは,
Δ = P f f Arms ) ( ) ( 2 (2) で表されるので,式(1)(2)を満たす定数a, bを与える ことにより3種類(L:低周波数強調,H:高周波数強調, C:一定)のパワースペクトル密度P( f )を与えること ができる.本実験では,加速度実効値Armsがそれぞれ0.2, 0.4,0.8m/s2となるように,表1のように定数a, bの値 を与えた. 表1 加速度実効値および係数の値 Ar.m.s (m/s2) L C H a b a b a b 0.2 -0.768 -3.45 0 -2.68 0.820 -3.49 0.4 -0.768 -2.84 0 -2.08 0.820 -2.89 0.8 -0.768 -2.24 0 -1.47 0.820 -2.30 これらの加速度実効値は,国際規格ISO2631-111)およ び 英 国 規 格BS684112)に も と づ く 周 波 数 補 正 係 数 Wd(前後・左右方向)およびWk(鉛直方向)を施すこ とにより,それぞれ0.10,0.15,0.30m/s2(前後・左右 方向)および0.20,0.35,0.67m/s2(鉛直方向)の周波 数補正加速度実効値に相当し,国際規格ISO2631-1に提 示されている全身振動ばく露に起因する不快度の目安 (参考値)における「notuncomfortable:0.315m/s2未満」, 「alittleuncomfortable:0.315 ~0.63m/s2」「fairlyun-comfortable:0.5~1.0m/s2」のいずれかの範囲に含ま れる代表点とするためである.実際に加えた振動刺激の パワースペクトル密度の実測値の例(L:低周波数強調, C: 一定,H: 高周波数強調,いずれも加速度実効値は 0.4m/s2)を図1に示す. 本報では,全身振動ばく露における評価方法を定めた 国際規格ISO2631-1および英国規格BS6841にもとづく 周波数補正を施していない,いわゆる無補正加速度値を もとに実験・データ解析を行うものとし,特別に断りが ない限り加速度実効値は無補正であるものとする.これ は,上述の規格で示されている全身振動の周波数補正係 数に対して問題点がいくつか指摘されており,本報では これらの問題点を排除するためである. 3)被験者 本実験では,健康な成人男性12名が被験者として実 験に参加した.被験者の平均年齢,平均身長,平均体重 はそれぞれ,23.4 ±0.88歳,170.1 ±6.41cm,62.3± 7.23kg(いずれも平均値±標準偏差)であった. 被験者は,いずれもこれまでの職業生活および日常生 活において高いレベルもしくは長期間にわたる全身振動 ばく露の経験はなかった.実験に先立って,全ての被験 者に対して実験参加に関する十分な説明を行うとともに 質疑応答を経た後,書面によるインフォームドコンセン トを得た.本実験は,独立行政法人労働安全衛生総合研 究所(現 独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全 衛生総合研究所)に設置された研究倫理審査委員会の承 認を得ている. 4)実験方法 実験では,前後,左右,上下方向それぞれについて前 述の振動加速度3種類および3種類のパワースペクトル 密度の分布を用意,同一条件の振動刺激を3回実施する として,合計81個の振動刺激に対してランダムに順序 付けを行って一連の振動刺激群を構成した.それぞれの 振動刺激はいずれも持続時間を7秒間とした.この持続 時間は,振動刺激に関する情報が短期記憶にとどまり, 被験者が長期記憶に基づいて先行して受けた刺激の情報 との比較を行わないようにとの配慮のもとに決定した. また,それぞれの振動刺激に対して,前後の振動刺激と の間に2秒間のインターバルを設けた(図2参照). 被験者は,加振台上の所定の位置で統制された実験用 図1 振動刺激のパワースペクトル密度の例(実測値) 図2 振動刺激シーケンスの概略図
靴を履いて立位姿勢をとり,背筋を自然に伸ばした状態 で直立した.その際,両足は左右方向に開きその幅は肩 幅とした.さらに,両腕は体側においてリラックスした 状態で下方にたらした状態とした.実験中,被験者は踵 の上下動や膝の屈伸および骨盤の回転等,振動刺激に対 してバランスをとるような動作および姿勢の変更の一切 をとらないように指示を受けるとともに,実験担当者は 実験中の被験者の姿勢を常にモニターした.尚,被験者 の安全確保の観点から,万一の場合に備えて被験者の前 方に手すりを設置してある. 各々の被験者は,上述の姿勢を保持した状態で実験 開始の合図とともに提示される一連の振動刺激に対し て,表2に示す5段階の系列範疇の中から提示刺激に対 して自身が感じた不快の程度に最も近いと思われる範 疇の数字を選択して2秒間のインターバル時に口答し た. 表2 5段階系列範疇 系列範疇 不快の程度 1 全く不快でない 2 少し不快 3 不快 4 かなり不快 5 非常に不快 5)主観尺度の構成 本研究では,心理物理学的手法である系列範疇法のひ とつであるカテゴリー判別法を用いて全身振動ばく露に 対する不快度の尺度構成を行った13).本手法は,ある刺 激に対する主観応答の結果として得られた系列範疇によ る回答値の分布は正規分布にしたがうと仮定し,意味論 上等間隔に仮定された系列範疇の尺度を非等間隔の感覚 尺度として再構成するものである. 以下に,系列範疇法にもとづいて振動刺激と不快度に 関する感覚尺度を関連づける方法を概説する.i番目の 刺激Viに対して系列範疇j (j = 1・・・5)の回答値の度数 分布Fijが得られたならば,対応する累積度数分布Gijを 算出する.回答値の分布が正規分布に従うと仮定すると, 系列範疇jから範疇上限値までのいずれかを回答する確 率は各系列範疇jの偏差比率Zijで表される.これを用い ると刺激iに対する系列範疇jの幅Dijは次式で表すこと ができる. ) 1 ( − − = ij i j ij Z Z D (3) ただし,偏差比率Zijの上限値(j=5の時のZi5)および 下限値(j=1の時のZi(1-1))は,3.75および-3.75とした. これは,正規分布に従うと仮定した回答値の累積度数 が99.99% および0.01% に達する時の分布関数の値であ る. したがって,例えば同一加振方向の刺激群{Vi}につい て各系列範疇の上限値の平均をとることにより,刺激群 {Vi}に対する各系列範疇の上下限値を求めることができ る14).これを利用することにより,各系列範疇における 代表値Ui (本実験では50パーセンタイル値を採用)を 内挿することによって求めることができる. 不快度に対する尺度値Uiは刺激である振動加速度V と関連づけることが可能であり,Stevensのパワー則15) によれば次式であらわすことができる. m i c V U = ⋅ (4) ただし,mはStevensのパワー則指数,cは様々な要因 に依存する定数である.すなわち,式(4)の両辺の常 用対数をとることにより,尺度値Uiと振動刺激Vの常 用対数表示の間には線形性が成り立つ. 6)データに関する統計解析 第一段階として,周波数スペクトルSP(3種類),加 振方向D(3方向),加速度A(3種類)による繰り返し ありの包括的分散分析を行った.その結果,実験結果に て後述するように周波数スペクトルSP×加速度Aおよ び加振方向D×加速度Aに交互作用を認めた.このため, 不快度の尺度に対する周波数スペクトルSPの違いおよ び加振方向Dの持ちうる特殊効果について調べるため に,第二段階として周波数スペクトルSPおよび加振方 向Dを層別化変数とする2種類の層別被験者内分散分析 を行った. 3 実験結果 本実験において3種類の振動方向に対して得られた3 種類の振動加速度および3種類のパワースペクトル密度 分布に対する5段階系列範疇による不快度の主観応答の 度数分布の結果を表3に示す. 振動刺激に関する主観応答から得られた不快度の度数 分布に対して,基本的な解析として天井効果および床効 果の有無を最初に調べた.ある振動刺激kに対するすべ ての被験者の主観評価値の平均値をmean(Rk),標準偏 差をσ(Rk)とすると,判定基準は次式であらわされる. 式(5)を満たす場合には天井効果あり,式(6)を満 たす場合には床効果ありと判断した. ) ( ) (Rk Cmax Rk mean > −
σ
(5) ) ( ) (Rk Cmin Rk mean < +σ
(6) ただし,Cmaxは系列範疇の最大値,Cminは同最小値であ る.その結果,低周波数強調のパワースペクトル分布に おいて,振動刺激の加速度が0.8m/s2で鉛直方向の時に 天井効果が認められた.これに対してパワースペクトル 一定の分布においては, 0.2m/s2で前後および左右方向 の場合に床効果が認められた.一方,天井効果は振動刺 激の加速度が0.8m/s2で鉛直方向の場合に認められた. また,高周波数強調のパワースペクトル分布においては, 0.2m/s2で前後および左右方向の場合に床効果が認めら れた.一方,天井効果は振動刺激の加速度が0.8m/s2で 鉛直方向の場合に認められた. Vol. 12, No. 3, pp. 153 160, (2019)表4に第一段階で行った包括的分散分析の結果を示 す.立位全身振動ばく露下における不快度に関する主観 応答データに対して,周波数スペクトルの違い(p<0.05), 加振方向および加速度の主効果(p<0.001)はいずれも 有意であった.また,周波数スペクトルSP×加速度A および加振方向D×加速度Aに交互作用を認めた.こ れに対して,周波数スペクトルSP×加振方向Dおよび 周波数スペクトルSP×加振方向D×加速度Aの交互効 果については,有意差は認められなかった. 第二段階で行った層別分散分析によれば,加振方向に 関する層別分散分析では,周波数スペクトルの主効果は 前後方向および左右方向で有意差が認められた(いずれ もp<0.05).これに対して,鉛直方向では周波数スペク トルの主効果に有意差は認められなかった(p=0.716). これに対して,3種類の周波数スペクトル条件(低周波 数強調,高周波数強調および一定)に関する階層別分散 分析では,いずれも加振方向の主効果に有意差が認めら れた(低周波数強調:p<0.001,高周波数強調:p<0.001 および一定:p<0.001). 主観評価値と被験者の身長および体重の関連性を相関 表3 立位姿勢全身振動ばく露に対する不快度の主観応答:度数分布 パワースペ クトル分布 加振方向 加速度 系列範疇 (m/s2) 1 不快でない 2 少し不快 3 不快 4 かなり不快 5 非常に不快 低周波数 前後(x)方向 0.2 10 23 3 0 0 強調 0.4 2 9 20 5 0 0.8 1 2 9 12 12 左右(y)方向 0.2 16 19 1 0 0 0.4 4 12 18 2 0 0.8 2 1 11 15 7 鉛直(z)方向 0.2 4 10 18 4 0 0.4 2 2 11 15 6 0.8 1 0 2 8 25* 一定 前後(x)方向 0.2 19** 16 1 0 0 0.4 5 17 10 4 0 0.8 1 2 7 16 10 左右(y)方向 0.2 21** 15 0 0 0 0.4 6 18 11 1 0 0.8 1 4 13 16 2 鉛直(z)方向 0.2 5 17 12 2 0 0.4 1 5 7 18 5 0.8 0 0 5 8 23* 高周波数 前後(x)方向 0.2 20** 15 1 0 0 強調 0.4 3 22 8 3 0 0.8 1 1 15 12 7 左右(y)方向 0.2 25** 11 0 0 0 0.4 5 19 12 0 0 0.8 0 6 15 14 1 鉛直(z)方向 0.2 2 16 16 2 0 0.4 0 6 12 17 1 0.8 0 0 3 10 23* *天井効果あり,**床効果あり 表4 包括的分散分析の結果 因子 自由度 F p 周波数スペクトル(SP) 2 18.858 <0.05 加振方向(D) 2 30.342 <0.001 加速度(A) 2 134.26 <0.001 SP×D 4 1.721 0.249 SP×A 4 7.847 <0.05 D×A 4 4.816 <0.05 SP×D×A 8 1.511 0.165
解析に基づいて調べたところ,体重と主観評価値の間に 負の相関が認められた(p<0.05). 系列範疇法にもとづいて,各振動刺激に対して得られ た不快度の回答分布から算出した50パーセンタイル値 をもとにして得られた主観尺度と振動加速度の関係を 図3に示す.得られた値から式(4)に相当する不快度 の主観尺度と振動加速度の関係式を回帰分析により求め たところ,いずれも良好な直線性を呈し,回帰係数も0.94 から0.99の高い値を示した. 図3の解析結果にもとづいて,不快度の知覚において 各系列範疇ごとに求めた振動加速度の上下限値を図4に 示す.前後方向および左右方向からの全身振動ばく露で は,振動ばく露に対する不快度の感覚尺度に周波数スペ クトルの違いによる有意差が認められた(p<0.05, Tukey のHSD検定).すなわち,各系列範疇の下限値を比較し た場合,前後方向では低周波数強調のスペクトルの場合 の方が一定のスペクトルの場合よりも「5:非常に不快」 の下限値まですべて高い値を示した.また,高周波数強 調のスペクトルの場合の方が一定のスペクトルの場合よ りも,「4:かなり不快」の下限値までは高い値を示した. これに対して左右方向では,低周波数強調および高周波 数強調のスペクトルの場合のいずれも,一定のスペクト ルの場合と比較して「5:非常に不快」の下限値まです べて高い値を示した.一方,鉛直方向では,3種類の周 波数スペクトルに対する各系列範疇の下限値に有意な差 は見られなかった. 方向依存性の比較では,3種類の周波数スペクトルの いずれにおいても,各系列範疇の下限値は,鉛直方向の 下限値の方が前後および左右方向の下限値よりも一貫し て有意に低い値を示した(p<0.05, TukeyのHSD検定). 4 考察 本実験の結果,前後方向および左右方向の立位全身振 動ばく露に対する不快度の主観応答に周波数スペクトル の影響による有意差が認められた.これらの加振方向で は,比較的大きな振動加速度に対して,低周波数あるい は高周波数の振動スペクトルを強調した振動刺激に対し て知覚した不快度の主観応答の下限値が一定の振動スペ クトルの振動刺激に対して知覚した不快度の主観応答の 下限値よりも高くなることが示された.このことから, 前後および左右方向からの全身振動ばく露では,不快度 の知覚に関する応答において振動スペクトルの周波数成 分の違いによる差を知覚しやすく,したがってこれらの 方向において低周波数および高周波数に対する振動感受 の周波数依存性が増大するといえる.一方,鉛直方向の 全身振動ばく露では,振動感受に対する不快度の許容は 最も厳しいが,周波数依存性は最も少ない. これらを踏まえると,現行のISO2631-1で規定された 立位全身振動ばく露における周波数補正係数の問題点も 見えてくる.現行の鉛直方向における周波数補正係数 (Wk)では,1Hzから8Hz付近まで増加しそれ以降は 緩やかに値が減少するとしているが,本研究で得た結果 L:低周波数強調,C:一定スペクトル,H:高周波数強調 図3 周波数スペクトルの違いをパラメータとした不快度の主観尺度と振動加速度の関係 (a) 前後方向 (b) 左右方向 (c) 鉛直方向 図4 立位姿勢における不快度の主観尺度とその上下限値 -○- 低周波数強調 - - -□- - - 一定スペクトル ・・・△・・・ 高周波数強調 (a) 前後方向 (b) 左右方向 (c) 鉛直方向 Vol. 12, No. 3, pp. 153 160, (2019)
から予想される周波数補正係数は,低周波数域における 周波数補正係数はさらに大きく低周波数域から高周波数 域まで値の差が小さいと考えられる.これに対して,現 行の前後・左右方向における周波数補正係数(Wd)では, 1Hz付近での値をピークとして単調減少するとしてい るが,本研究で得た結果から予想される周波数補正係数 は,低周波数域から周波数の増加とともに減少し高周波 数 域 で 値 が 緩 や か に 増 加 す る も の と 考 え ら れ る. Thuongら7)はさまざまな大きさおよび周波数の正弦波 振動を用いて立位全身振動ばく露実験を行って新たな周 波数補正係数を提案しており,その傾向は本研究の結果 から推定される周波数補正係数と定性的に一致してい る. 本研究では,主観評価値と被験者の身体的特徴(身長, 体重)の関連性を相関解析に基づいて調べたところ,体 重と主観評価値の間にのみ負の相関が認められた.これ は,同じ振動刺激に対して体重の重い被験者ほど感じる 不快の程度が低くなる傾向があることを意味している. 一般に振動刺激などに対する車両等の乗り心地快適性を 評価する場合,振動刺激の増大によって被験者の重心動 揺の増大とともに感じる不快度も増大することが知られ ている.このことから,本実験において被験者自身の体 重が振動刺激ばく露時の被験者の重心動揺に安定性を与 えている可能性がある. 本実験の結果,全身振動ばく露に対する不快度の知覚 は,振動ばく露の方向の影響を顕著に受けることが示さ れた.具体的には,立位姿勢の場合,前後および左右方 向からの全身振動ばく露よりも鉛直方向からの全身振動 ばく露に対してより振動感受性が強く,鋭敏に不快を知 覚することを示唆している.実際の全身振動ばく露の場 合には上述3方向からの同時ばく露であることから,3 次元の実振動に対する全身振動ばく露を想定した場合の 不快度に関する主観応答は,鉛直方向の振動加速度の大 きさに大きく依存する可能性がある.現行の規格ISO 2631-1にもとづいた評価方法によれば,前後・左右・ 鉛直方向に対して設けられた方向係数はいずれも1.0で あり方向依存性はないものとしているが,著者は先行研 究で不快度を指標とした振動知覚に方向依存性が存在す ることを示すとともに新たな方向係数を提案してお り10),今後現行の評価方法において周波数補正係数およ び方向係数の改善等の必要があると考えられる. 日常生活では,立位姿勢で全身振動をばく露している ケースは極めて多い.一般に都市部では極めて多くの人 たちがバスや鉄道などの公共交通機関を利用して日々移 動している.また,職業として見た場合には,列車,船 舶,航空機などの客室乗務員や救急車両の搭乗員などは 通常業務において立位姿勢での全身振動ばく露作業が主 である.しかしながら,多くの人たちが日常的に立位姿 勢で全身振動にばく露する頻度が高いにもかかわらず, これまで全身振動ばく露に対する人体影響に関する研究 の大半が座位姿勢によるものであった.2010年以降, 立位全身振動ばく露に対する快適性および振動知覚に関 する研究およびこれらの指標の構築は進みつつある が5-10),残念ながら立位全身振動ばく露の評価方法を定 めた規格の改定には至っておらず,立位全身振動ばく露 の評価方法に関する規格等の早期の改善および整備が望 まれる. 5 結論 本研究では,立位姿勢において,前後・左右・鉛直方 向からの全身振動ばく露に対する主観応答を心理物理学 的手法を用いて調べることにより,立位全身振動ばく露 に対する不快度を指標とした主観応答の周波数依存性お よび方向依存性について検討した.その結果,以下のこ とが明らかとなった. ・立位姿勢の全身振動ばく露に対する不快度の知覚は, 前後および左右方向では,比較的大きな振動加速度に対 して,低周波数あるいは高周波数の振動スペクトルを強 調した振動刺激に対して知覚した不快度の主観応答の方 がスペクトル一定の振動刺激に対して知覚した不快度の 主観応答よりも低くなることが示された. ・立位姿勢の全身振動ばく露に対する不快度の知覚は, 振動ばく露の方向の影響を顕著に受けやすく,前後およ び左右方向からの全振動ばく露よりも鉛直方向からの全 身振動ばく露に対してより鋭敏に不快を知覚した. 文文文 文
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—Effect of Frequency Contents—
by
Nobuyuki Shibata*
1The aims of this study were to examine the effect of frequency contents on discomfort of standing persons exposed to fore-aft, lateral and vertical whole-body vibration (WBV). Twelve male subjects were exposed to totally 81 stimu-li that comprised three types of frequency contents with three acceleration magnitudes (0.2, 0.4, and 0.8 m/s2 r.m.s.)
along fore-aft (x), lateral (y) or vertical (z) direction. The subjects with standing posture on the platform of the vibra-tion test rig rated the subjective discomfort for each stimulus. The presentavibra-tion order of test stimuli was randomized and each stimulus was repeated three times. The subjective scale for discomfort was calculated by using the category judgment method. In the fore-aft and lateral direction, most of the lower limits of the categories for low frequency and high frequency-weighted vibration stimuli significantly resulted in higher vibration acceleration magnitudes than those for constant power spectrum vibration stimuli. In contrast, in the vertical direction, difference of frequency contents did not significantly affect the subjective response. Also the lower limits of all the categories in the fore-aft and lateral direction were higher than those in the vertical direction. The results suggest that the effect of emphasized low or high frequency contents appears in tolerant perception of discomfort to WBV in the fore-aft and lateral direc-tion. Standing people respond more sensitively to WBV regardless of vibration frequency contents in the vertical direction than in the fore-aft and lateral direction.
Key Words: whole-body vibration, standing posture, subjective response, discomfort, category judgment method,
frequency dependency.