• 検索結果がありません。

開発を見直す三冊の本 (特集 アジ研流読書案内 -- 研究者が薦める3冊)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "開発を見直す三冊の本 (特集 アジ研流読書案内 -- 研究者が薦める3冊)"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

開発を見直す三冊の本 (特集 アジ研流読書案内

--研究者が薦める3冊)

著者

野上 裕生

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

199

ページ

33-34

発行年

2012-04

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004007

(2)

  開発問題をやっている人たちの 中には貧困に関心を持っている人 が多い。しかし﹁貧困﹂とは何か を突き詰めて考える必要があるの ではないか。そう考える人には次 の三冊の本をお薦めしたい。

河上肇

︵一九一七︶

﹃貧乏

物語﹄

︵大内兵衛編集

﹃河

上肇﹄筑摩書房

、現代日本

思想体系一九

一九六四年

岩波文庫版一九四七

︵昭和

二二︶年

・一九六五

︵昭和

四〇︶年改版︶

  ﹃貧乏物語﹄は河上肇が大正五 年に大阪朝日新聞に断続的に連載 したものを翌年に出版し、大きな 反響を呼んだものである。河上肇 は﹁驚くべきは現時の文明国にお ける多数人の貧乏である﹂ ﹁英米 独仏その他の諸邦、国は著しく富 めるも 、民ははなはだしく貧し﹂ と言い、国の富と国民の生活が必 ずしも同じでないことに切り込 み、 なぜ貧乏がなくならないのか、 人間にふさわしい生活とはなに か、をわかりやすい言葉で説いて いく 。﹁一の二﹂から ﹁一の三﹂ までは最低生計費と ﹁貧乏線﹂ ︵今 の用語では貧困ライン︶の決定方 法を解説し、その次は相対的貧困 と絶対的貧困の概念を解説、その 後では不平等研究では不可欠な ローレンツ曲線を解説し、これだ け読んでも貧困・不平等研究の最 小限の知識が得られる。後半はマ ルサスやアダムスミスといった主 流派経済学への挑戦が展開されて いる。   河上肇のこの本は、当時の日本 の貧困の現実から一度目を離し て 、﹁社会が解決しなくてはなら ない貧困とはなにか﹂ ﹁社会全体 を変えなければ解決できない貧困 とはなにか﹂を、河上肇自身が突 き詰めて考えた思索の流れを物 語ったものである。たとえば﹁貧 困とは健康で文化的な最低限度の 生活ができない状態である﹂と いったとして、 ﹁健康﹂ ﹁文化的﹂ ﹁最 低限度﹂の意味を明らかにするの はなかなか難しい。河上肇はいろ いろな資料から ﹁人間らしい生活﹂ の内容を明らかにしようとし、そ の原因の中で、個人の選択と社会 の条件がどのように関わっている かを論じている。その結果、貧乏 はただ単に富の分配の不平等だけ でなく、庶民が必要とする生活必 需品の生産が進まないことからも 来ていると考える。 この視点には、 消費需要一般ではなく、人間の基 本的な必要を充たすことを訴えた ﹁ベイシックニーズ﹂の思想も感 じられる。   河上肇の政策提言は、 結局は ﹁富 者の奢侈の廃止﹂というもので 、 この部分が後世の経済学者から河 上の限界として指摘されることが 多い。この意味では、本書は﹁貧 乏﹂を克服する処方箋を提示して いるものではない。たとえば貧困 が政治経済システムに起因するも のであるとしても、人が行動しな くては政治経済システムも変わら ない。しかし、その人の考え方や 行動そのものも政治経済システム の産物なのであり、結局、貧困問 題は循環論法に陥ってしまう。河 上肇は、この﹁循環﹂は現実の社 会の変革の困難を反映したもの だ、と述べるに止まっている。し かし、全体で一〇〇ページほどの 本で貧困問題の核心をわかりやす い言葉で解説した河上の力量には 関心させられる 。この本の ﹁序﹂ で河上は﹁人はパンのみにて生く ものにあらず、されどまたパンな くして人は生くものにあらずとい うが、この物語の全体を貫く著者 の精神の一である﹂ 、﹁一部の経済 学者は、いわゆる物質的文明の進 歩︱富の増殖︱のみをもって文明 の尺度となす傾きあれども、余は でき得るだけ多数の人が道を開く にいたることをもってのみ、真実 の意味における文明の進歩と信ず

アジ研流

読書案内

―研究者が薦める3冊

開発

を見直

特  集

33

アジ研ワールド・トレンド No.199 (2012. 4)

(3)

る﹂というが、この河上肇の言葉 は、いまの開発協力の基本姿勢に も通じるものがある。

エルンスト

・フリードリッ

シューマッハー

﹃スモー

ル 

イズ

ビューティフル

人間中心の経済学﹄講談社

学術文庫

、小島慶三

・酒井

懋訳、

一九八六年。

著、

E.

F.

S

ch

u

m

a

ch

e

r

[1

9

7

3

]

,

Muller

,

Bled

&

White

LTD.

  近年﹁幸福﹂が盛んに研究され るようになり 、﹁国民総幸福﹂を 提唱するブータンも注目されてい る。ところでブータンは仏教が浸 透した社会であると言われている ︵参考文献①︶ 。そこで仏教という 視点から開発戦略を見直す試みと してシューマッハーの本を取り上 げてみたい。シューマッハーは開 発問題に関わっている人は唯物主 義にとらわれて、カネで買える物 的なもの、眼に見えるものばかり に注目してきたと批判する。なぜ ならば 、﹁開発はモノから始まる のではない。人間とその教育、組 織、規律から始まる﹂からである ︵二二一︱二二二ページ、 ﹁第三部、 第三世界、第一章   開発﹂ ︶。そし て、 開発は大きな知的挑戦であり、 ﹁最良の援助は知識の援助であり、 役に立つ知識を贈ることである﹂ ことを強調している︵二五七ペー ジ︶ 。また第四章は﹁仏教経済学﹂ と題して、労働や天然資源、消費 の問題を見直そうとしている。こ の章を読む中で、シューマッハー の着想が、ガンジーや仏教、イギ リス石炭公社での勤務経験に基づ くエネルギー供給の将来への不 安、産業開発への疑問、貧困克服 への努力、といった問題意識が融 合して形成されたものであること が伺われる。またシューマッハー の思想には、昔の開発経済学に大 きな影響を与えた﹁中間技術﹂と いった考え方がたくさん含まれて いる。これは開発途上国に必要な ものは﹁後背地である田舎で使わ れている素朴な手法より水準は高 く、生産性も伝来の道具よりは高 いけれども、西欧からとり入れた 近代技術に比べるとはるかに簡単 で資本も少ししか食わない﹂とい うことである︵文献②三二八︱三 二七ページ︶ 。   シューマッハーによれば、開発 の基礎にある教育、組織、規律は ゆっくりと進む深化の遅々たる過 程であり、開発には﹁飛躍﹂はな い。したがって、ミレニアム開発 目標のように期限付きの目標達成 や、 GDP や人間開発指数、ある いは最近流行の﹁幸福感﹂や学力 調査のランキングを競う最近の開 発業界の潮流は、シューマッハー の指摘した視点を見落としている ように思われる。シューマッハー の本を薦めたいのは、個々の提言 以上に、競争社会の産物である現 在の開発経済学とは違う思想を 知って欲しかったからである。

国連開発計画

﹃人間開発報

﹄︵

UNDP

,

,

New

Y

o

rk: UNDP Oxford

Univer-sity

Press,

Palgrave

Mac-millan

から出版

、日本語版

は国際協力出版会

、阪急コ

ミュニケーションズ︶

  一冊の本というよりは、ほぼ毎 年公刊されてきた国連の報告書で あるが、どれか一冊でも読んで欲 しいという意味で紹介したい。 ﹃人 間開発報告書﹄をお薦めするのは 二つの理由からである。ひとつ目 は、この報告書が過去二〇年近く もの間、 ﹁人間開発﹂ ︵人間の生活 や権利を尊重した開発︶という理 念を維持してきたことである。二 つ目は、この報告書は有名な割に はあまり読まれていないと思うか らである 。﹃ 人間開発報告書﹄が 公刊されると、多くの場合、この 報告書に掲載されている人間開発 指数という統計指標︵経済だけで なく社会の様々な側面を考慮した 生活水準の良さの指標︶で日本が 世界の中で上位何位に入っている か、という点だけが強調されて報 道されている 。しかし 、﹃人間開 発報告書﹄はその時の開発の重要 課題に関する現状分析といくつか の処方箋が提示されている。国連 の報告書であるので、建前を述べ ているだけだ、という批判もある かもしれないが、その建前を現実 にする道を探るのが開発協力の専 門家の仕事ではないだろうか。 ︵のがみ   ひろき/アジア経済研究 所  開発研究 セ ン タ ー[開発経済学] ︶ ︽参考文献︾ ① 今枝由郞 [二〇〇八] ﹃ブータ ンに魅せられて﹄   岩波新書一 一二〇。 ② バーバラ ・ ウッド [一九八九] ︵酒 井懋訳︶ ﹃わが父シューマッハー [その思想と生涯] ﹄   御茶の水 書房。

34

アジ研ワールド・トレンド No.199 (2012. 4)

参照

関連したドキュメント

本研究の目的は,外部から供給されるNaCIがアルカリシリカ反応によるモルタルの

 介護問題研究は、介護者の負担軽減を目的とし、負担 に影響する要因やストレスを追究するが、普遍的結論を

シークエンシング技術の飛躍的な進歩により、全ゲノムシークエンスを決定す る研究が盛んに行われるようになったが、その研究から

しかし私の理解と違うのは、寿岳章子が京都の「よろこび」を残さず読者に見せてくれる

さらに体育・スポーツ政策の研究と実践に寄与 することを目的として、研究者を中心に運営され る日本体育・ スポーツ政策学会は、2007 年 12 月

とされている︒ところで︑医師法二 0

かつ、第三国に所在する者 によりインボイスが発行 される場合には、産品が締 約国に輸入される際に発

世界規模でのがん研究支援を行っている。当会は UICC 国内委員会を通じて、その研究支