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絵本の選択がADHD児の読み聞かせに及ぼす効果(2) : 今後の研究の課題と方法

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絵本の選択が ADHD 児の読み聞かせに及ぼす効果 (2)

―― 今後の研究の課題と方法 ――

近 藤 文 里

The Effect of Selection of Books on Picture Book Reading

for the Children with ADHD (Ⅱ)

―― The Subject and Method in the Future Studies ――

Fumisato KONDO

1.絵本の選択をめぐる問題 (1) 絵本の選択をめぐる従来の知見 近藤・辻元 (2008) が絵本の読み聞かせ実践者に対して行ったアンケート調査の結果に見られたよ うに、絵本の選択は極めて大切な問題である。それにもかかわらず、これまでは絵本の情報誌や口伝 えによる絵本の評判だけに依存するというのが一般的であった。しかし、子どもが絵本を理解して楽 しめる背景には、その絵本がもついろいろな特性があるからであり、子どもの側にも発達や障害の要 因が強く関係しているものと思われる。 それでは、注意集中困難な子どもにとって、楽しめる絵本とそうでない絵本は基本的なところでど のような違いがあるのだろうか。ADHD (注意欠陥・多動障害) 児における絵本の選択に関する問 題を検討するときに大切なことは、注意集中が困難な子どもに問題を特殊化するのではなく、定型発 達をしている子どもとの共通性をしっかりと踏まえておくことである。そこで、絵本の読み聞かせの 実践をしつつ絵本研究に携ってきた人達が絵本の選択についてどのように考えているのかをみてみる ことにする。 笹倉 (1999) は、読み聞かせをする本の選び方に関して、一般的にはあらかじめ書評やブックリス トにあるような本を選ぶことを勧めている。また、書店や図書館などで自分が読んでみて、この本で あれば読み聞かせに向いていると感じた本であれば、積極的に読み聞かせに使うという。さらには、 本を選ぶときは、子どもの関心がどのようなところにあるか、読み聞かせを行う頃の季節や行事に 合った本を考慮すると述べている。 また、松岡 (1987) は、よい絵本を選ぶことで大切なこととして 3 点をあげている。1 つ目は、絵 本の絵を見ただけでも物語の筋がたどれるもので、作中人物の気持ちがわかり、作品全体のムードが 感じられるものであること。この点は、子どもにとっての絵本の絵は大人にとっての文と同じ働きを しているのだから、絵本を選ぶときは、字は読まず絵だけで物語を追っていけるものでなければなら ないという考えが背景になっている。つまり、子どもと同じやり方で絵本の絵をみていくだけで物語 の内容がわからなければならないとしている。 絵本のなかには文を読んでからでなければ何の意味ももたない絵本があり、そのような絵本の絵は

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装飾的な働きしかしていないことがある。それでは本当の意味では絵本と言えない。松岡は、絵本を 選ぶのに困ったときは虚心に絵だけをじっくり見ていくという。それによって絵のもつ雰囲気や調子 をつかんだあとで文を読むと、絵と文の関係がしっくりいっているかどうかがはっきりわかるという ことである。 2 つ目に、よい絵本を選ぶうえで絵本を選ぶ者自身の中にある感性、つまり、よいものを見極める 能力を養っておかなければならないという。そうした能力を養うためにはすぐれた絵本に数多く接す る経験が必要であるという。それにはどうするか。それは、より長く生命を保ちつづけてきた絵本、 具体的には満 25 歳以上の絵本を読んでおき、感性を養っておくことが大事と考えている。そして、 個々の新しい絵本を評価する際には、すぐれた絵本と比べてみることが、評価を確かなものにすると いうことである。 3 つ目にあげられたことは、絵本のもっているさまざまな要素のうちでも、「あたたかみ」を大事 に考えるということである。「あたたかみ」とは安心感と言い換えることができるものだあろう。幼 い子どもが最初にふれる本は、人生に対して肯定的で、日なたのあたたかさと明るさを備えていなけ ればいけないという。 西郷 (1968) は、絵本の読み聞かせにおける聞き手である子どもの発達段階を重視している。すな わち、ある絵本が芸術的にみても教育的にみても、どれほどすぐれた絵本であったとしても、ある年 齢以下の子どもには十分に納得いかないものがある。つまり、ある年齢以上の子どもにはよい絵本で あっても、ある年齢以下の子どもには、よい絵本とは必ずしも言えないことがある。このような子ど もの発達と絵本の選択との関係は、重要な問題であるので、筆者の考えを後で詳しく述べることにす る。 確かに、絵本の理解は子どもの認識発達、感情発達、そして社会性の発達に影響されるだろう。し かし、その一方で同じ発達段階にある子どもにおいても個人差があることは忘れることはできない。 この点を重視するのが佐々木 (1993) である。佐々木は絵本の善し悪しは基本的には絵本を読む側で ある読み手とのかかわりのなかで決まっていくと考えている。また、特に子どもの場合は、その子ど も自身の過去の体験とその絵本との出会いの時期が絵本を選択するうえで一番重要な基準になるとし ている。 絵本の選択において個人の興味や関心を重視する考えは広く支持されている。上で述べた松岡 (1987) も個人差を考慮しており、ある本が子どもに強く働きかけて何らかのよいものをもたらした とき、その本はその子どもにとってよい本になると考えている。本に個性があるように、子どもにも 個性がある。一定のふるいにかけられたよい本から、一人ひとりの子どもが、その子にとってよい本 を選ぶことが大切であると述べている。 もちろん、このような個人差を重視した絵本の選択は、子どもの興味だけで読書指導をしていくこ とを意味しているわけではない。確かに、児童文学者のなかには、大人が絵本を選んで与えるのは押 しつけになる、だから子どもが自由に選べるように子どもの周りに豊富に絵本を置いておけばよい、 という考えをもつ人がいる。 しかし、西郷 (1968) は、子どもの興味に任せた読書指導をしていくと、必ず読書傾向に偏りがで てくることから、教師はさまざまなテーマのさまざまな作品についての知識を幅広く持っている必要 があるという。そして、子どもの能力が、偏りがないように子どもの感覚や思想が豊かに多面的に発 達するように考えていく必要があると考えている。 また、高山は、読み聞かせをする絵本を選ぶときは、読み手がその絵本を好きだという気持ちが大 事と考えている (高山・徳永,2004)。その理由は、こうである。絵本の評論家や研究者のすすめで 絵本を手にとっても、どこがよいのかわからないままに読み聞かせをすると子ども達は拒否反応する。 それに対して、絵本を読むときは「きっと子ども達が喜ぶだろう」とか、「自分が好きだから選んだ のだ」と自信をもって言えることを大事と考えている。

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松居 (1973) も、絵本の選択に関して読み手自身が絵本から受ける感動を重視している。読み手自 身がひとりの人間、ひとりの読者として感動し楽しめた絵本を、子どものために感動と心をこめてそ の絵本を読んでやると、読み手の感動は聞き手に伝わり、読み手が好きな本は子ども達も好きな本に なるという。 これらの考えをまとめると、子どもの興味や関心とともに読み聞かせを行う大人の側の絵本の選好 性も重視されなければならない。つまり、絵本を媒介にした聞き手と読み手の響きあいが大切という ことになる。しかし、実際の読み聞かせでは、大人が良かれと思って読んだ絵本が子どもの興味を引 かなかったり、大人が予想していた以上に子どもの興味を引いたりすることがしばしばある。このよ うな食い違いが生じる原因について考えるには、絵本そのものの視覚的表現や文章表現上の諸要因が 果たす役割を十分に踏まえておかなければならない。 2.絵本の視覚的表現と文章表現 読み手からも聞き手からも支持を受ける絵本にはどのような視覚的表現や文章表現上の特徴を備え ているのだろうか。この点について理解するために、長年に渡って読者から支持されてきた絵本につ いて、その絵本がもつ視覚的要因と聴覚・言語的要因について検討してみる必要があると思われる。 絵本の評論家や研究者が注目してきたのは、絵本がもつ視覚的表現と文章表現についての評価であ る。よい絵本が基本的に備えている条件とは何かについて明らかにしておきたい。 (1) 絵本の視覚的表現 絵本の視覚的表現については多様な表現にかかわる要素があるが、ここでは主要なものについて述 べることにしたい。 1) 絵の連続性が明確か否か 既に述べたように、松岡 (1987) は絵本の絵を見ただけでも物語の筋がたどれ作中人物の気持ちが わかり、作品全体のムードが感じられるものであることを重視した。このことには、物語の展開に そってどのように絵が割り付けてられているかが問題になるだけではなく、物語の各場面における文 と絵の調和も含まれている。絵の連続性が問題になるのは心理学的にみると、ある場面から次の場面 への移行に関して聞き手にどれくらい推理を要求するものであるかが内容の理解に大きく影響すると 思われるからである。 2 ) 1 場面完結型か物語展開型か 絵本のなかにはストーリー性はないが一場面で完結したものがある。西郷 (1968) のように絵本を 「ものごとの絵本」と「ものがたりの絵本」に分けるとすれば、このような一場面完結型と言える絵 本は「ものごとの絵本」に多い。これには動物絵本とか乗物絵本のように、物事を具体的に典型的に わからせる知識の絵本が該当する。松居 (1973) は、子どもが自分の知っているものを絵本のなかに 再発見する喜びという意味で「認識絵本」と呼んでいる。一方、絵本のなかには認識絵本とか知識絵 本とは言えないものの、単純な構造をもつ絵本も少なくない。よく知られている『いないいない ば あ』(松谷みよ子作・瀬川康男絵) も 1 登場人物につき見開き 2 頁にわたるが、同じパターンの繰り 返しではあるがストーリー性がないことから 1 場面完結型に近いと考えられる。 3) その他の視覚的特徴 絵本の絵に関しては、上で述べた以外にも多くの要素がある。それらの要素は各々が絵本の質を決 める重要な要素になっているが、ここでは主な特性だけをあげておく。 ① 色と形 まず、絵に用いられる「色と形」である。『あおくん と きいろちゃん』(レオ・レオーニ作・絵) は単純な色と形の変化だけで 2 つの色の心の交流が表現されている。また、『あかいふうせん』(イエ

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ラ・マリ作) は形の変化のなかで時間の経過を感じることができる絵本である。さらに、『はなをく んくん』(R.クラウス作 M. シーモント絵) は、冬眠していた森の動物たちや森の風景を白黒の濃 淡だけで表現しているが、春の訪れとともにそれらの動物が一斉に同じ方向に駆けていく。駆けて いった先は一輪のタンポポだったことが最後にわかる。しかも、白黒の濃淡の世界が続いた後で見る この一輪のタンポポだけは小さいながらも黄色で彩色されており、色彩的に強く印象に残る作品であ る。 また、ブルーナの 0 歳からの絵本のように色とはきりとした輪郭で描かれた絵本もある。その一方 で、『鹿よ おれの兄弟よ』(神沢利子作・G. D. パヴリーシン絵) のように精緻な描画的表現で自然 を表現した絵本もある。これらは、すべて絵本で表現したい雰囲気や対象とする読者を考慮したもの であることは言うまでもないことである。 ② 絵の視点 西郷 (1968) は「絵の視点」があげている。これは文にも視点があるように、絵の表現でも誰から 見た絵であるかという視点があることを重視している。視点が文と絵で一致している絵本もあれば、 ある場面だけずれた絵本もある。また、三人称的な視点で描かれた絵本が多いが一人称的な視点で描 かれたものもある。一般に視点の転換は幼児向けの絵本には向いていないが、このような視点の転換 も含めて、聞き手の理解にどのような影響を及ぼすのか検討してみる必要がある。 ② 絵本の方向性 さらに、「絵本の方向性」も重要である。左開きの絵本では見開いたときに左側が過去 (こちら) で右側が未来 (あちら) である。右開きの絵本はこの関係が逆になる。西郷 (1979) は、登場人物の 動く方向、イメージの線を「行動線」と名づけた。このような動きの方向に合った絵本か否かも絵の 視覚的特性を検討する要素となる。左開きの絵本を例にとると、『はなをくんくん』では、あるもの を目指して動物たちがすべて左方向に駆けていることがわかる。 ③ 絵本の大きさ さらに、忘れることができないのは「絵本の大きさ」である。最近の絵本には、同じ絵本でも読み 聞かせ用に便利な大型版も出版されている。赤ちゃん用の絵本は、むしろ両手で持てるようにと一辺 が 12cm から 15cm くらいの絵本もある。 (2) 絵本の文章表現 絵本の文章表現には絵本がもつ聴覚・言語的特徴が含まれる。絵本の文章表現と一口に言っても、 視覚的表現と同様に、実に多様な要因が含まれる。以下には、その主要な要因についてあげることに したい。 1) 擬音語・擬態語 (オノマトペ) 絵本のなかには擬音語や擬態語が実に多い。このような言葉はフランス語でオノマトペというが、 日本語にはこのような言葉が豊富である。松居 (1973) が言うように、言葉ははじめは音であり、響 きであり、リズムである。それが赤ちゃんの耳に入って定着するにしたがって、意味的要素の方が強 くなるとともに元々の響きやリズムといった感覚的な面は意識しなくなっていく。このようなオノマ トペを用いた絵本は数多い。よく知られている絵本を 1 つあげるなら『もこ もこもこ』(谷川俊太郎 作・元永定正絵) がある。オノマトペは言葉をおぼえはじめた幼児にとって感覚的に理解しやすいだ けでなく、絵本を面白くする効果がある。 2) 繰り返し (反復) 絵本では繰り返しの技法がよく用いられる。『三びきのやぎのがらがらどん』(北欧民話・マー シャ・ブラウン絵) などでも、小さいやぎ、中くらいのやぎに続いて、大きなやぎが登場する。ここ は繰り返し技法が使われている。そして、最後に登場した大きなやぎのがらがらどんが森の妖怪であ るトロルに敢然と立ち向かい、見事にトロルを退治する。

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『おおきなかぶ』(A. トルストイ作・内田莉莎子再話・佐藤忠良絵) でも繰り返しがある。大きな かぶを土から掘り起こすのに一定の順番で人や動物が登場してくる。このような繰り返しは、イメー ジを強調し、期待を高めるとともに、物語の構造を理解しやすくする効果がある。 3) その他の文章表現にかかわる要素 絵本の文章表現に関しても、これ以外の要素は実に多い。なぜならば、物語の〈何が〉、〈どうし た〉という構造を考えただけでも、そこには多くの要素がかかわってくるからである。主なものだけ をあげるとするならば次のようなものがある。 ① 主人公に関する要因 まず、〈何が〉に関係したこととして物語の主人公があげられる。この主人公が人間なのか「擬人 化」したものなのか。動物でも衣服を着た姿を描いたり、乗物でも乗物の正面に顔を描けば人のよう になる。幼児は特に相貌的知覚が働くので人と同じようにとらえやすい。また、人間ならばその「主 人公の年齢」が絵本の聞き手と同じくらいかどうか。これは幼児の場合は自分と主人公を重ね合わせ て楽しむことがあるので、このような要因は大切である。 ② 物語が現実生活かファンタジーの世界か 次に、〈どうした〉に関してあげられるのは「現実性」である。つまり、物語で扱われた世界が現 実の生活体験に即したものなのか、それとも空想的なファンタジーの世界なのか、という違いである。 物語の理解は、物語の世界が現実か非現実かで異なるし、そのような理解の違いは聞き手の発達年齢 によっても左右されるので注意が必要である。 ③ 物語の見せ場 また、物語の展開における「見せ場」がどのように設定されているかという問題もある。見せ場が はっきりしているのかどうか、物語のどのあたりでどれだけ設定されているのか、は子どもの絵本へ の注意の集中に影響する要因であると思われる。絵本のなかには、どんでんがえしの面白さという要 素をもつものがあるように、物語の展開の意外性も「見せ場」に含まれる。 ④ 作家の主張 さらに、物語を通しての「作家の主張」がとらえやすいものか否かもあるだろう。ナンセンス絵本 を楽しむことができる感性は大事であるが、物語絵本のあらすじを理解するなかで作者の意図をまと められるかどうかも物語の記憶に影響すると考えられる。 絵本について主な要素をあげただけでも以上のように多いが、これら視覚的表現と文章表現の親和 性の有無も忘れることができない。すなわち、「絵と文の関係」である。この点は松岡をはじめとす る多くの絵本研究者や読み聞かせ実践家が指摘するところである。松居 (1973) は絵本のよしあしを 選びわける目をもつには、よい絵本を数多く読み、その文と絵がうまくとけあって、その物語の世界 を読者にありありとみせてくれるかどうかを、自分で体験することが最良の方法であり、近道である という。 3.聞き手の発達段階を考慮した絵本の選択 絵本には下限はあっても上限がないということが言われる。これは、絵本には内容によってそれを 読み聞かせる下限はあっても、上限はないという意味である。上限はないということは、子どもの経 験によって絵本の理解のしかたが変わってくるので、どの年齢段階でも楽しめるということである。 絵本には読書年齢というものがあって、出版社によっては本の裏表紙に「よんであげるなら 3 歳から、 自分で読むなら小学校初級向き」などと表示しているところがある。絵本選びに一応の目安のために 表示されたもので、このような表示を絶対視することはできない。 それでは絵本の選択において下限の基準となるのは何だろうか。下限を適切にとらえるためには、

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子どもの認知と情動の発達に照らして当該の絵本の内容が理解できるものであるかどうかを明らかに しておく必要があるだろう。これまでの絵本の紹介を目的とした著書は、「年齢別の作品紹介」をす るか、「テーマ別の作品紹介」をするか、いずれか一方であった。しかし、絵本の選択にかかわって 各発達段階の心理学的特徴をこれまで以上に明らかにしようとすれば、このようないずれか一方の分 類では十分ではないと思われる。なぜならば、年齢的な要因とテーマにかかわる要因がクロスすると ころに絵本の選択に関する問題を解く鍵が存在すると思われるからである。これら 2 つの要因は重複 した問題であって、これまでの分類は必ずしも相応しくないと思われる。 そこで、以下においては絵本の選択において手がかりを得るために、子どもの認知と情動の発達と かかわらせながら読者に広く支持されてきた絵本のテーマを含む内容面と物語の構造面の特徴につい て述べることにしたい。ここで述べるのは 4 か月頃から小学校入学頃までとするが、ここに示す年齢 はあくまでも固定的なものでなく多少の変動はあることを付け加えておく。 (1) 4 か月頃から 9 か月頃まで 絵本の読み聞かせをいつ頃から始めるかという点に関しては、考え方に不一致がある。市町村に よっては 4 か月になるとブックスタートと考えて絵本をプレゼントするところもある。しかし、これ で絵本の読み聞かせを始めなければ、と考えるなら早計としか言えないだろう。その理由は以下の通 りである。 確かに、生後 4 か月になると視覚機能はそれまでよりも顕著に発達する。つまり、生後 3 か月まで は刺激のなかでも特徴的なものにだけ反応していたのが、4 か月頃になると「過去の記憶にもとづい て、いま見ている刺激にかかわる」という特徴がでてくる。また、注意機能に関しても「過去の記憶 にもとづいて予期を形成する」ようになる。さらに、眼球運動に関しても 4 か月ころになると左右ど ちらの方向でも自由に追視できるようになる。 また、このような視覚機能の発達によって「乳児−物」という二項関係が 5 か月頃から現われ、目 と手の協応もできるようになって「みる−とる」ができるようになる。そのため、5 か月頃は絵本が 見せられると、触ったり、たたいたり、引張ったりするようになる。 6 か月から 9 か月になると手指操作と移動能力を発達する。また、6 か月から 8 か月にかけては物 の永続性についての認識が発達するので、眼前にないものでも存在するものととらえて探すようにな る。このような視覚と手の操作と移動能力の発達によって 9 か月ころまでは探索的活動が中心的な活 動になる。 したがって、絵本を赤ちゃんに見せるにしても探索的活動を阻害することがあってはならない。こ のことを念頭においたうえで、この時期に適した絵本を考えてみたい。この時期は未だ視力が弱いこ とも考慮して輪郭が太めで色もはっきりした大き目の絵本が好ましい。しかも、背景には様々なもの は描かれていないもので、物や動物を単純化した絵がよい。そうすると、赤ちゃんは「まえに見たこ とがある」という再認の機能を働かせて喜ぶことができる。また、この時期は「みる」だけで注意を 持続させられない。また、「とる」という手の操作を抑えることができない。したがって、赤ちゃん が絵本を掴んだり触りにきたとしても親は神経質に対応しない方がよい。むしろ、赤ちゃんが自分の 手にもって遊べることを考えておき、絵本は 12 センチ角くらいの大きさがよい。また、角は怪我し ないように丸めてあるもので、舐めても安全なような紙の処理を施したものがよい。ブルーナの絵本 などがその一例としてあげられる。 親が絵本を読み聞かせようとしても赤ちゃんが絵本から目を逸らしてしまう姿に親は焦りや不安感 をもつことがないようにしなければならない。むしろ、絵本を読み聞かせるというよりは、絵本を介 して親子が遊ぶくらいの余裕が必要だろう。しかも親が話しかけながら交流することで、赤ちゃんの ことばを聞く力を育てつつ、やり取りそのものを楽しむことができればよいだろう。

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(2) 10 か月頃から 1 歳頃まで 赤ちゃんも 9 か月ころから 10 か月ころになると、人見知りは残るものの、他の人と目を合わせら れるようになってくる。そして、誘われれば、大人との間で物を手渡したり、受け取ったりする活動 を喜んで繰り返す。このような物の受け渡しの過程では情動の交流が活発に行われる。コミュニケー ションという視点からこのような活動をみた場合は、具体物を介した子どもと大人のコミュニケー ションの始まりと言える。 このように、子どもと大人のコミュニケーションは、「子ども−物−大人」という三項関係のなか で始まる。三項関係の成立は、絵本の読み聞かせにおいては必須の基本的な条件である。なぜならば、 絵本を介して養育者と子どもの関係ができることであり、安定した読み聞かせの姿勢が確立するから である。 さて、三項関係があらわれるきっかけは何だろうか。それは「共同注意」の発達によると思われる。 「共同注意」とは、自分と他者の注意が同じ対象に向けられており、相手が注意を向けている対象が 自分が注視している対象と同じものであることを知っている状態をさしている。 また、認知・運動機能に関しても 10 か月頃に「静観的認識」(やまだ,1987) も現われる。この 「静観的認識」も絵本の読み聞かせをはじめるための基礎になるもので、「行かないで〔ここ〕に留 まって〔見る〕」という行為があらわれる。つまり、絵本を取りにいかないで、じっと見ることがで きるために必要である。 この段階では、情動・伝達機能の発達が著しい。オモチャなどの具体物の受け渡しや、指さしの発 達ばかりではない。生後 12 か月ころになると他者の表情を参照する「社会的参照」が現われる。こ の社会的参照は、赤ちゃんが新奇な物の出現に対してそれに接近してもよいのか、よくないのかを母 親の表情を見て決めるというような場面で見られるものである。さて、この段階で好まれる絵本はど のようなものだろうか。そのような絵本には子どもの発達を反映したいくつかの要素があることに気 づく。 まず、第 1 は、物に対する認知が既に始まっていることから、前の段階から引き続いて子どもがよ く知っている動物や物や生活場面を描いた絵本に興味を示す。子どもは自分が知っている動物や物が 描かれていると喜ぶ。その意味で、「自分が知っているのと同じだ」ととらえる「再認」の働きをも つ絵本が好まれる。 また、この段階の子どもに好まれる絵本の要素の第 2 は、オノマトペの楽しさが入っている絵本で あること。この段階では子どもは言葉を未だ話せないし言葉の意味も理解できない。しかし、絵を見 ながら擬音語や擬態語や、リズム感のある繰り返しの言葉を楽しむことができる。このようにして子 どもは大人が発する音声に敏感になっていく。このことは、次の段階で初語を発する準備期の働きを していると言える。なぜならば、言葉は意味からよりも感覚的なものから入ってくからである。 さらに、この時期の絵本の第 3 の要素は、絵本の場面構成が単純なことである。殆どの絵本は 1 場 面完結のものか、2 場面内で完結している。この時期の子どもに人気がある『いないいない ばあ』 (松谷みよ子作・瀬川康男絵) は、「いない いない」という文と、顔を手で隠した動物の絵が左右の 頁にあって、次の頁を開くと「ばあ」の文とその動物が手をどけて顔を出す絵が続いている。この繰 り返しである。これは前の発達段階であらわれた心理機能である「物の永続性」を利用した遊びであ る。「いないいないばあ」と言う条件でもいろいろある。筆者らの調査では、絵本の『いないいない ばあ』を読み聞かせてもらって喜ぶのは赤ちゃんが 11 か月頃であることが明らかになった (近藤, 1989)。 絵本には他にも、動物の身体の一部分を見て、次の頁を開いて動物の全体が現れるということを繰 り返すものがある。このような絵本が長く支持される背景には、既に獲得している心理機能を利用し ながら、予期や驚きなどの認知、情動を動員して大人と一緒に楽しむという要素がある。 この時期の赤ちゃんにはお母さんの膝の上ばかりでなく、座って自分でも絵本を持ちたいという要

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求がある。そのため、17 センチ四方の絵本が多い。これには単に子どもが持ちやすいという操作性 ばかりでなく、子どもが手に持ったときの視野の問題も関係しているのかもしれない。 この時期の子どもは絵本をじっと見て楽しめるようになる一方で、絵本に触ってひっくり返したり、 破ってしまうことがある。これは子どもがオモチャとは異なる面白さをもつ絵本自体の性質を確かめ ようとしているものと思われる。大人はこのようなことにあまり神経質にならないようにしながら、 登場する動物などの動作を摸倣するなどして絵本の楽しさを共感できればよいだろう。 (3) 1 歳頃から 2 歳半頃まで 簡単な構造をした物語絵本をはじめて楽しめるようになるのは、この時期である。心理学的にみる と、このような変化の背景にはそのことを可能にする目覚しい発達がある。それは認知・運動機能の みならず情動・伝達機能の発達が関係している。 まず、認知・運動機能に関する発達では、表象の発生がある。表象が成立することで目の前にない 物や事象も想起できる。積木をつなげて電車に見立てて遊ぶことができるのも表象の発生による。ま た、1 歳 3 か月くらいにバランスが悪いながらも直立二足歩行ができるようになるが、1 歳半を越え ると歩行が安定するとともに、表象が成立することで何かを期待しながら歩いていけるようになる。 これも表象があるからこそ目当ての物を頭に思い浮かべられるのである。人気絵本に『ぶらぶらさん ぽ』(徳永満理作・宮沢晴子絵) があるのは、この時期の子どもの生活を反映している。 また、言葉の発達も著しい。言葉は人間の思考において働く表象のなかでもっとも重要なものであ る。1 歳前後に初語があらわれ、1 歳半頃には 30 語から 40 語に急増して、「わんわん、きた」という ような 2 語文があらわれる。言葉の出現とともに自分が知っているものを絵本のなかに見つけると指 をさして喜ぶ。これは、しっかりと像を心のなかに思い浮かべるようになったことを示している。ま た、このような言葉をもつことによって視覚刺激の痕跡だけでは難しい記憶や思考の働きが可能にな る。 ただし、さらに詳しくみると 1 歳前半児と 1 歳後半児にも違いがあることがわかる。1 歳前半児で は目標に向かって直線的に進むが、1 歳後半児では直線的に進むばかりではなく妨害物などがあれば 方向転換できるような柔軟性をもつようになる。言い方を換えれば、前者は「……ダ……ダ」式に行 動するが、後者は「……デハナク……ダ」式の行動をとる。 このような違いは絵本の理解にも反映される。『がたんごとん がたんごとん』(安西水丸作・絵) が 1 歳前後の子どもでも楽しめるのは、物語が直線的であるところにある。汽車が駅に到着するたび に異なる乗客 (コップなど) が乗ってくるというものである。また、『どんどこももんちゃん』(とよ た かずひこ作・絵) は、赤ちゃんがどんどん急ぎながら歩いていき、橋を越え、山の斜面を登り、 山の上で通せんぼしているくまさんを投げ飛ばしていく。どこに向かっているのかと思っていたら最 後にはお母さんの胸の中に、という簡単な構造の話である。 1 歳半を過ぎると、もう少し複雑な物語の展開も理解できる。『きんぎょが にげた』 (五味太郎 作・絵) は金魚鉢の金魚が逃げて、カーテンのよく似た模様に隠れたり、植木鉢に咲いている花に見 せかけて花の先に留まったりする絵本である。場面ごとに赤い金魚がどこに隠れているか見つけて楽 しむもので単純なように見えるが、読者は場面ごとに「これはカーテンの模様デハナク金魚ダ」「こ れは花デハナク金魚ダ」を心のなかで繰り返す。絵の視点は金魚が逃げる先を追っていくが、最後に 仲間のいる水槽に入ったところで、その金魚は「もう にげないよ」と言って終わる。 また、『ぎゅっ』(ジェズ・オールバラ作・絵) という絵本は「ぎゅっ」というオノマトペだけで展 開していく絵本で 2 歳児に人気がある。サルの子のジョジョが森を散歩していくと次々に動物の親子 に出会う物語である。各場面で動物のおかあさんが子どもを抱きしめるのを見ていて、ジョジョも 「ぎゅっ」と言って嬉しそうだが、やがて悲しそうになり、ついに泣き出してしまう。ジョジョもマ マが恋しくなったのである。そこへジョジョのママが登場して、ジョジョも「ぎゅっ」をしてもらう。

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それを見ていた森の仲間も嬉しくなって互いに「ぎゅっ」と抱き合うところで物語は終わる。読み聞 かせてもらっている子ども達は、泣き出したジョジョを見て「泣いている」と言ったり、最後の場面 では「うれしそう」と口々に言ったりする。 さて、子どもの中に表象が成立することで「つもりの世界」ができ、自分と他者のつもりが衝突す ることも経験しながら自分に気づき、他者にも気づくようになる。2 歳児の絵本に『じぶんで じぶ んで』(徳永満理・宮沢晴子作) のように自我の誕生と拡大をテーマにしたものはこの時期の子ども の発達をよく反映したものである。 また、情動の発達という点では、生後 2 年目までには大人のもっているほぼ全ての感情をもつよう になることが知られている。また、Ainsworth (1978) が 1 歳から 1 歳半の子どもでアタッチメント の実験を行ったように、この時期の子どもは個人差はありながらも母子分離状況に不安を示す。また、 子どもが不安を感じたときに毛布やぬいぐるみをしっかりつかんで葛藤に耐えることがあり、このよ うな心の支えになるものを心理学では「移行対象」と呼んでいる。このような子どもの心性を絵本に したのが『もうふ』(ジョン・バー人ガム作・絵) であるが、情動の調整をテーマにした絵本と言え る。 (4) 2 歳半頃から 5 歳半頃まで 2 歳半から 5 歳半ころは、遊びが盛んになり、集団のなかで自他の交流が活発に見られるようにな る。このような自他の交流のなかで、自我の充実と自制心の形成が可能となる。 特に、2 歳半から 3 歳にかけては、自我の充実が進み、親しい大人に対して心理的な距離をおくよ うになる。2 歳代の子どもに大人が何を言っても、子どもは「イヤ!」を連発する。これは「第一反 抗期」の特徴をよく示している。 さて、自己に関することばかりでなく他者のことを考えるようになることで、心理活動全般にどの ような変化が生じるのだろうか。3 歳前後から、他者とは区別される自我が充実することは既に述べ た。この自己と他者を区別することを通して、2 つのイメージや概念を操作することができるように なる。例えば、多少、大小、長短、上下についていずれかを選択したり、描き分けたりできるように なる。また、日常生活では、貸し、借り、順番、交代が見られるようになる。 しかし、4 歳ころは 3 歳ころよりも一歩進んだ発達の姿が見られる。すなわち、3 歳前後で可能と なった 2 つのイメージや概念の操作を独立してとらえるのではなく、それらを交互に可逆させつつ、 1 つの動作にまとめることである。つまり、2 つの動作を「しながら」という活動スタイルをつくり だして 1 つの動作にまとめるのである。田中 (1977) は、このような操作の高次化を「2 次元可逆操 作」と呼んだ。 さて、絵本の世界ではどのような本が人気なのだろうか。3 歳頃の子どもに人気がある絵本のなか に『こすずめのぼうけん』(ルース・エインズワース作・堀内誠一絵) や『でんしゃにのって』(とよ た かずひこ作・絵) がある。この 2 冊はどちらも主人公がいろいろな動物との出会いを繰り返すと いう簡単なストーリーでできていること以外は一見して共通点はないように見える。しかし、主人公 が新しい出会いのたびに感じる不安や驚きに感情移入できるから面白いという要素をもっている。つ まり、絵本の読み聞かせを聞いている自分とともに自分以外の主人公にも自我があることを了解した うえで主人公に感情移入すると言えるだろう。 それでは、4 歳児が好んで選択する絵本にはどのような特徴があるのだろうか。このことに関して、 まずあげなければならないことは、言葉の顕著な発達があることである。4 歳になると、語彙が増え て日常生活での意思疎通ではほとんど困らないほどになる。しかも接続詞や接続助詞が使えるように なるので事象の関係を理解し表現できるようになる。また、副詞や形容詞などの修飾語も豊富になっ て物の性質を正確に理解し、表現できるようになる。 したがって、2 つのイメージや概念の可逆的操作とともに言葉の発達により、現実生活には必ずし

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も拘束されない別の世界をイメージして楽しむことができるようになる。つまり、「そんな世界が あったらいいな」というような世界が絵本のなかで実現する。 4 歳を過ぎて楽しめるような絵本として『かいじゅうたちのいるところ』(モーリス・センダック) や『おふろだいすき』(松岡享子作・林 明子絵) がある。前者は、このことがそのまま当てはまる 絵本であり、後者も風呂という日常的な空間ではあるものの、子どもはいつでも空想の世界に入って いけることを表わした絵本である。これらの絵本が 4 歳頃の子ども達に支持されていることは、子ど も達の心をよく反映しているからであろう。 (5) 5 歳半頃から小学校入学まで 5 歳半頃を境に認知発達に大きな変化がみられる。それは、それ以前は操作できるイメージや概念 が 2 つでしかなく、「〜シナガラ〜スル」というような活動スタイルであるように 2 つの要素を交互 的に可逆させるものであった。それが 5 歳半頃になるとどうなるか。5 歳半頃を越えると、3 つのイ メージや概念を操作できることで認知面だけでなく情動面でも変化があらわれるようになるようにな る。 まず、認知面では系列化ができるようになり、昨日−今日−明日などの時間認識がしっかりしてく る。このような系列化ができることは物語の理解において、面白さが増大する。そのことを『おおき なかぶ』の絵本でみてみよう。おじいさんがかぶを抜こうとしたが抜けないので、おばあさんが協力 し、それでも抜けないので孫の女の子が加わる。それでもだめなので、犬が、ネコが、そして最後に はネズミまでもが順次登場してきて力を合わせて引っ張ることになり、やっとかぶを抜くことができ たという話である。参加する人や動物は、だんだんと小さくなり、出せる力も小さくなると思われる のだが、それでも力を合わせると大きな力になる。毎回、聞き手も読み手にあわせて「うんとこしょ どっこいしょ」と掛け声をかけるが抜けない。そんなとき、「犬がネコを呼んできました。」というよ うに、新しい仲間を呼んでくるのだが、5 歳半を過ぎると次はどんな動物が登場するのか楽しみに なってくる。 また、時間認識ができるようになることは、時間軸上で展開する物語の筋を追うことができる。つ まり、文脈の理解を可能にする。このことは絵本の理解においては、どんでんがえしの面白さを味わ うことができることにつながる。『三びきのやぎのがらがらどん』では聞き手は〈不安〉や〈恐れ〉 でハラハラしながらも、大きなやぎがトロルを打ち倒したときには〈安心感〉でほっとする。聞き手 からは口々に「よかったー」の声があがる。 ここで述べた文脈の理解は、登場人物の感情をより深く理解することを可能にする。絵本の理解で は登場人物の心情について言葉を通して理解するレベルの共感が生まれる。これは絵本の内容につい て深く理解するうえで欠かせないことである。 田中・田中 (1987) は、5 歳半ころから始まる 6 歳前後の特徴について、3 次元の形成が確実にな り、生後第 3 の新しい発達の力を獲得する時期ととらえた。特に、集団への興味、同世代との同一視 を行うようになる。また、友達とは役割遊びやルールにもとづいて役割交代をするとか、友達を訪ね て第 3 の世界に繰り出すようになるという。この頃の子どもが好んで読む絵本に『わんぱくだんのは しれ!いちばんぼし』(ゆきのゆみこ・上野与志作・末崎茂樹絵) をはじめとするわんぱくだんシ リーズがある。このシリーズの絵本が人気なのは、集団のもつ楽しさを知っている子ども達が、わん ぱくだん 3 人組がファンタジーの世界で遭遇する不思議な体験に自分も一緒に加わるような痛快さを 感じることができるからだろう。 また、これは時間認識が関係すると思われるが 5 歳代になると死について意識するようになる。そ して、父母の年齢についても聞くようになる。『ずーっとずっとだいすきだよ』(ハンス・ウィルヘル ム作・絵) という絵本があるが、主人公の少年と一緒に育った犬のエルフィーが歳をとって、朝、目 覚めたら亡くなっていたという話である。少年は悲しみを感じつつも、一つだけ慰めがとなることが

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あった。それはいつもエルフィーに「ずーっとずっとだいすきだよ」と伝えていたことだった。少年 はしばらくの間は犬を飼いたいとは思わなかったが、また別の動物を飼うようになったときは、エル フィーに言ったのと同じことを言ってやろうと思った。この絵本は 4 歳代からが相応しいという評価 もあるが、死をテーマにしたこのような絵本の内容を深く理解するには 5 歳半を越えていないと難し いように思われる。 さらに、絵本にはこれまで述べた絵本とは違ったジャンルのナンセンス絵本がある。このような絵 本の一例に『キャベツくん』(長 新太作・絵) があるが、5 歳半頃から楽しめるようになる。ナン センス絵本は、意味のわからない、理屈では言い表せない絵本の総称である。このような絵本を 5 歳 以降に楽しめるのは、どのような理由によるのだろうか。 見かけ上はナンセンス絵本を楽しめることと関係がなさそうであるが、プランニング能力とともに 創造性・柔軟性が関係しているように思われる。なぜならば、ナンセンス絵本が受ける背景には、既 成概念にとらわれず奔放な思考や表現をすることが可能になったことがあると思われるからである。 心理学的な研究ではプランニング能力があらわれるのが 5 歳頃からと言われている。また、創造性や 柔軟性も 5 歳頃からと思われる。なぜならば、近藤・米田 (2003) が親や教師を対象にした幼児の行 動評定した結果の因子分析的研究では 5、6 歳以降の幼児において「創造性・柔軟性」と命名できる 因子が明確になることが認められたからである。つまり、子どもは 5 歳半頃を境にして自分のアイデ アをどんどん出して創作するようになるが、そのことと絵本作家のアイデアのおかしさに大笑いでき ることとはつながったものであると思われる。 また、先に述べたように、5 歳半頃以降はナンセンス絵本を楽しめる一方で科学絵本にも興味を示 すようになる。これは内言を用いて結果から原因を考える因果的推論ができるようになったことと関 係する。 4.今後の研究に関して 子どもが絵本の読み聞かせに集中できるかどうかを決める要因には、絵本の特性によるところが大 きい。例えば、1 場面完結型の絵本か、物語展開型の絵本かの違いは子どもの理解に影響すると思わ れる。なぜならば、後者においては注意の持続が必要とされるし、文脈の理解も必要とされるからで ある。また、後者の場合に限っても、場面から場面への移行が分かりやすいかどうかという違いもあ り、場面から場面へ移行にともなう推理に影響する。さらに、絵と文の意味的関係の強さや、言葉の 音韻的な面白さも関係するだろう。 絵本の読み聞かせを行う対象が ADHD 児をはじめとする発達障害児である場合は、それ以外の要 因も考えられるだろう。例えば、ワーキング・メモリに弱さがあるため、場面の繰り返しの有無や、 物語のエピソード数なども影響すると思われる。しかし、従来、本の選択に関しては日常生活のなか で経験的に行われてきたことから研究の課題とされることはほとんどなかった。 そこで、絵本の選択に関する研究の蓄積を目指しつつ、当面の研究課題を絵本の特性が ADHD 児 の読み聞かせ理解に与える影響に焦点を絞り、その効果を検討することとした。具体的には、次の 2 点を明らかにすることを目的としている。 第 1 の目的は、集団を対象とした継続的な読み聞かせ場面において、絵本の特性が読み聞かせに及 ぼす影響についてビデオの定量的分析から明らかにすることである。ここで、絵本の特性についての 検討は、対象とする子ども達の発達年齢を考慮しながら、場面構成をはじめとする絵本の視覚的表現、 オノマトペや繰り返し (反復) の効果をはじめとする文章表現の要素、さらには絵と文の関係が及ぼ す効果について検討する。具体的には、これらの点に関して対照的な絵本を子どもに読み聞かせ、そ れらに対する子どもの反応を比較検討する。 以上の視点にもとづいた検討は ADHD 児に関して行うだけでなく、定型発達児を対象とした発達

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的な検討を並行して行う必要がある。そこで、研究の第 2 の目的は、3 歳から 5 歳までの健常幼児に ついても同様の検討を行い、ADHD 児と定型発達児の共通点と差異を明らかにする。 このような検討を行うためには、これまでの研究と同様に、「視点」と「発話」と「動作」につい て行うこととする。 まず、「視点」に関しては、読み聞かせの過程で一人ひとりの子どもがどこを見ているのかを分析 する。つまり、〈絵本や読み手を見ている〉、〈他の子どもを見ている〉、〈それ以外を見ている〉に該 当する反応生起率をとらえる。 また、「発話」に関しては、〈絵本の内容に関連した独り言〉、〈絵本に関係のない独り言〉、〈感情表 出を伴う発声〉、〈友達と絵本に関係することで話し合う〉、〈友達と絵本に関係のないことで話し合 う〉に該当する反応生起率をとらえる。 さらに「動作」に関しては、〈感情の身体的表現〉、〈多動傾向を示す動作〉、〈対象的操作を伴う動 作〉、〈絵本への関心を示す動作〉、〈絵本への拒否や無関心を示す動作〉を区別して生起率をとらえる。 さらに、これまで行ってきた分析と同様に、絵本の場面ごとに聞き手の発話内容について検討する。 これによって、子どもが絵本の内容をどの程度理解しているのかを明らかにすることができる。同様 に、絵本の場面ごとの感情表出頻度とその推移をとらえる。この分析によって、子どもが絵本のどの 場面に感情の高まりがみられるのかを明らかにできる。 ADHD 児は不注意と多動性と衝動性を主症状とする発達障害であるが、絵本の選択を含む適切な 条件を工夫すれば絵本に注意を集中できるものと考えている。これは筆者が幼児期の ADHD 児で観 察した結果からも示唆されるところである (近藤,2009)。絵本の読み聞かせには絵本がもつ複合的 要因が影響すると予想されるが、多様な絵本についての実験資料を集めるなかで、どのような要因が どの程度寄与しているかを明らかにできるものと思われる。 引 用 文 献

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参照

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