JICA ベトナム新卒看護師のための臨床研修制度強 化プロジェクト 2国立保健医療科学院 3香川大学医学部看護学科 責任著者連絡先〒3510197 埼玉県和光市南 236 国立保健医療科学院生涯健康研究部 堀井聡子
2019 Japanese Society of Public Health
原
著
中堅期以降の自治体保健師の能力の現状とその関連要因
「標準的なキャリアラダー」を用いた調査から
堀
ホリ井
イ聡
サト子
コ
,2 奥
オク田
ダ ヒロ博
子
コ2 川
カワ崎
サキ千
チ恵
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大
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サワ絵
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森
モリ永
ナガ裕
ユ美
ミ子
コ3 成
ナル木
キ弘
ヒロ子
コ2
目的 厚労省が示した自治体保健師の「標準的なキャリアラダー」を用いて中堅期以降の自治体保 健師の能力の現状を明らかにし,関連要因を検討した。 方法 2016年度に国立保健医療科学院が実施した公衆衛生看護研修(中堅期,管理期,統括保健師) 受講者を対象に,「標準的なキャリアラダー」の専門的能力等を質問項目にした自記式質問紙 調査を実施した。能力の現状は単純集計を,関連要因の探索は単変量解析と,専門的能力 (キャリアレベル A4 以上)を目的変数,個人特性と自治体特性を説明変数とした多重ロジス ティック回帰分析(強制投入法)を行った。 結果 回答が得られた168人(回収率94.4)すべてを分析対象とした。「対人支援活動」である 「個人および家族への支援」と「集団への支援」でキャリアレベル A4 以上の割合が70以上 と高く,「健康危機管理の体制整備」と「保健師活動の基盤◯」で50未満と低かった。多変 量解析の結果,保健師経験年数1019年は30年以上と比べ「対人支援活動」,「地域支援活動」, 「事業化・施策化活動」,「健康危機管理活動」,「保健師活動基盤」が有意に低く,オッズ比 (95CI)はそれぞれ0.03 (0.010.26), 0.13 (0.030.70), 0.07 (0.010.43), 0.17 (0.040.92), 0.14 (0.030.70)だった。また係員に対し課長級以上は「地域支援活動」,「事業化・施策化活 動」,「健康危機活動」,「管理的活動」で有意に高く,それぞれ8.75 (1.9040.31), 12.54 (2.20 71.69), 9.86 (2.2742.84), 7.08 (1.4135.68)であり,係長級は「地域支援活動」と「保健師活 動基盤」で有意に高く,4.48 (1.3115.42)と3.26 (1.0510.16)であった。進学歴は「健康危 機管理活動」,「管理的活動」,「保健師活動基盤」と有意に正の関連があり,前職歴は「対人支 援活動」,「事業化・施策化活動」と有意に正の関連があった。 結論 中堅期以降の保健師の専門的能力の到達度は能力により異なり,関連要因では自治体特性に 比べ保健師経験年数,管理職経験,進学歴,前職歴などの個人特性との関連が多く示された。 本結果から,保健師個々の専門的能力の現状や関連要因を踏まえた人材育成の必要性が示唆さ れた。 Key words自治体保健師,専門的能力,キャリアラダー,人材育成 日本公衆衛生雑誌 2019; 66(1): 2337. doi:10.11236/jph.66.1_23
緒
言
今日,自治体保健師には,少子高齢社会の進展や 健康危機管理対応の必要性など,地域の健康課題の 複雑多様化に伴い,住民への直接的な保健サービス の提供のみならず,地域特性を反映した施策の企画 立案・実施・評価,分野間の連携や関係機関との協 働など,これまで以上に高度な専門性を発揮するこ とが求められている。こうしたなか2012年に「地域 における保健師の保健活動」が大幅に見直され1), また,自治体に所属する保健師の系統的な人材育成 に関する検討を行うため,2014年には厚労省による 「保健師にかかる研修のあり方等に関する検討会」 が開催された。同検討会の結果は2016年 3 月に「最表 厚生 労働 省が示 した 自治体 保健 師の「 標準 的なキ ャリ アラダ ー」 をも とに作 成し た専門 的能 力に関 する 質問項 目 活動 領域 専門 的 能力 キャ リアレベル到達度 A1 A 2 A3 A4 A 5 対人 支援 活動 個人 および 家族 へ の支援 ◯ 個人 および 家族 の多様 性や 主体 性を尊 重し た支援 を指 導を 受けな がら 実践で きる 支援 に必要 な資 源を把 握で きる 対 象の 主体性 を踏 まえ, 支 援 に必 要な資 源を 指導を 受 け て導 入およ び調 整でき る 支援 に必 要な 資源を 適切 に 導入 およ び調 整でき る 健康 課題に 予防 的に介 入で きる 個人 および 家族 へ の支援 ◯ 複雑 な事例 を判 断でき ,支 援を 求める こと ができ る 複 雑な 事例の 支援 を必要 に 応 じて ,指導 を受 けて実 施 でき る 複雑 な事 例の アセス メン ト を行 い, 支援 を実践 でき る 複雑 な事例 の潜 在的な 健康 課題 を把握 し, 予防に 係る 支援 を実践 でき る 複 雑か つ緊急 性の 高い健 康 課 題を 迅速に 明確 化し, 必 要 な資 源を調 整し ,効果 的 な 支援 を実践 でき る 集団へ の支 援 集団 の特性 を把 握し, 指導 を受 けなが ら支 援でき る 集 団の グルー プダ イナミ ク ス を活 用して ,特 性に応 じ た 支援 計画を 企画 し,自 立 して 支援 で きる 集団 への 支援 を通じ て, 地 域の 健康 課題 を明確 化す る こと がで きる 集団 への支 援を 通じて ,地 域の 健康課 題に 向けた 事業 計画 を立案 でき る 集 団へ の支援 を通 して立 案 し た事 業によ り, 住民に よ る 地域 の健康 課題 の解決 を 支 援す ること がで きる 地域 支援 活動 地 域診断 ・ 地区 活動 指導 を受け なが ら,担 当地 区の 情報を 収集 ・分析 し, 健康 課題を 明確 化でき る 担 当地 区の情 報を 分析し , 健 康課 題の明 確化 と優先 性 の判 断が で きる 地域 診断 や地 区活動 で明 ら かに なっ た課 題を事 業計 画 立案 に活 用で きる 地域 に潜在 する 健康課 題を 把握 し,リ スク の低減 や予 防策 を計画 し実 践でき る 地 域診 断や地 区活 動で明 ら か にな った課 題を 施策立 案 に活 用で き る 地域組 織活 動 担当 地区の 多様 な社会 資源 の役 割や関 係性 につい て把 握で きる 地 域の社 会資源 のネ ット ワー クと 協 働で きる 地域 の社会 資源や ネッ ト ワー クを 維持 ,発展 でき る よう 支援 でき る 関係 機関と 協働 し,必 要に 応じ て新た な資 源やネ ット ワー クの立 ち上 げを検 討す るこ とがで きる ネ ット ワーク の立 ち上げ や 支 援, 健康課 題や ライフ ス テ ージ に応じ た地 域組織 の 育 成を 行うこ とが できる ケア システ ムの 構築 担当 地区の 各種 サービ スと その 関係性 を理 解し, 指導 を受 けなが ら担 当事例 に必 要な サービ スを 活用で きる 担 当地 区や担 当事 例への 対 応 を通 して必 要な サービ ス の調 整が で きる 地域 の健 康課 題や地 域特 性 に基 づき ,関 係機関 と協 働 し, 地域 ケア システ ムの 改 善・ 強化 につ いて検 討で き る 各種 サービ スの 円滑な 連携 のた めに必 要な 調整が でき る 地域 の健康 課題 や特性 に応 じた ケアシ ステ ムにつ いて 検討 し提案 する ことが でき る 保 健福 祉政策 に基 づき, 地 域 特性 に応じ たケ アシス テ ム の構 築に係 る施 策化が で きる 事業 化・ 施策化 活動 事業 化・施 策化 所属 自治体 の施 策体系 や財 政の しくみ につ いて理 解で きる 担当 事業の 法的 根拠や 関連 政策 につい て理 解し事 業を 実施 できる 担 当地 域の健 康課 題を把 握 し ,施 策と事 業と の関連 性 に つい て理解 した うえで , 事 業計 画立案 に参 画する こ とが でき る 担 当事 業の進 捗管 理がで き る 地域 の健 康課 題を明 らか に し, 評価 に基 づく事 業の 見 直し や新 規事 業計画 を提 案 でき る 係内 の事 業の 成果や 評価 等 をま とめ ,組 織内で 共有 す るこ とが でき る 保健 医療福 祉計 画に基 づい た事 業計画 を立 案でき る 事業 や予算 の必 要性に つい て上 司や予 算担 当者に 説明 でき る 地 域の 健康課 題を 解決す る た めの 自組織 のビ ジョン を 踏 まえ た施策 を各 種保健 医 療 福祉 計画策 定時 に提案 で きる
表 厚生 労働省 が示 した自 治体 保健師 の「 標準的 なキ ャリ アラダ ー」 をもと に作 成した 専門 的能力 に関 する質 問項 目(つ づき ) 活動 領域 専門 的 能力 キャ リアレベル到達度 A1 A 2 A3 A4 A 5 健康 危機 管理 活動 健康 危機管 理の 体制 整備 関係 法規や 健康 危機管 理計 画お よび対 応マ ニュア ルを 理解 できる 健康 危機管 理に 備えた 住民 教育 を指導 を受 けなが ら行 うこ とがで きる 健 康危 機管理 対応 マニュ ア ル に基 づき, 予防 活動を 行 うこ とが で きる 地域 特性 を踏 まえ健 康危 機 の低 減の ため の事業 を提 案 でき る 地域 特性に 応じ た健康 危機 の予 防活動 を評 価し, 見直 しや 新規事 業を 立案で きる 健 康危 機発生 時に 起こり う る 複雑な 状況の 対応 に備 え ,平 時より 関係 者との 連 携 体制 を構築 でき る 健 康危機管理計画や体制の見直 しを計画的に 行うことが できる 健康 危機管 理の 対応 健康 危機発 生後 ,必要 な対 応を 指導者 の指 示のも と実 施で きる 現状 を把握 し, 情報を 整理 し, 上司に 報告 するこ とが でき る 発 生要 因を分 析し ,二次 的 健 康被 害を予 測し 予防す る た めの 活動を 主体 的に実 施 でき る 変化 する 状況 を分析 し, 二 次的 健康 被害 を予測 し予 防 活動 を計 画, 実施で きる 必要 な情 報を 整理し 組織 内 外の 関係 者へ 共有で きる 健康 被害を 予測 し,回 避す るため の対応 方法 につい て, 変化す る状 況を踏 まえ て, 見直し がで きる 組織 内の関 連部 署と連 携, 調整 できる 健 康危 機発生 時に 起こる 複 雑 な状 況に, 組織 の代表 者 を 補佐 し,関 係者 と連携 し 対応 でき る 管理的 活動 PDCA に基 づく 事 業・施 策評 価◯ PDCA サ イクル に基づ く 事業 評価方 法を 理解で きる 所 属係 内のメ ンバ ーとと も に 担当 事業の 評価 を主体 的 に実 施で き る 所属 係内 で事 業評価 が適 切 に実 施で きる よう後 輩保 健 師を 指導 でき る 所属 部署内 外の 関係者 とと もに 事業評 価を 行うこ とが でき る 評 価に 基づき 保健 活動の 効 果を 検証 で きる PDCA に基 づく 事 業・施 策評 価◯ 担当 する事 例に 係る評 価結 果に 基づき 支援 方法の 見直 しが できる 所 属係 内のメ ンバ ーとと も に 担当 事業の 見直 しを主 体 的に 実施 で きる 事業 計画 の立 案時に 評価 指 導を 適切 に設 定でき る 事業 の見直 しや 新規事 業の 計画 を提案 でき る 評 価に 基づき 施策 の見直 し を提 案で き る 施 策立 案時に 評価 指標を 適 切に 設定 で きる 情報 管理 組織にお ける情報管理に係る 基本指針 を理解し,業務に係 る文 書等を適 切に管理で きる 保健活動上知り得た個人 情報を 適切 に取り扱うこ とができる 業務 の記録 を適 切に行 い関 係者 への情 報伝 達がで きる 保 健活 動に係 る情 報の取 得 が 適切 に行わ れて いるか , 自主 的に 確 認で きる 所属 係内 の保 健師が 規則 を 遵守 して 保健 活動に 係る 情 報を 管理 する よう指 導で き る 保健 活動に 係る 情報管 理上 の不 足の事 態が 発生し た際 に, 所属部 署内 でリー ダー シッ プをと るこ とがで きる 保 健活 動の情 報管 理に係 る 規 則の 遵守状 況を 評価し , マ ニュ アル等 の見 直しを 提 案で きる 人材 育成 組織の人材育成方針およ び保健 師の 人材育成計画 を理解でき る 自己の成 長を振り返り,次の 成長 につなげ ることがで きる 自 己の キャリ ア形 成ビジ ョ ン を持 ち,積 極的 に自己 研 鑽で きる OJT や OŠ-JT に おいて , 後輩 保 健師 の指導を 行うとと もに, 指 導を 通じて人 材育成上 の課題 を 抽出 し,見 直し案 を提示 できる 保健師 の研修 事業 を企画 し, 実施・ 評価 できる 組 織の 人材育 成方 針に沿 っ た 保健 師の人 材育 成計画 を 作成 でき る 保健 師 活動 基盤 保健師 活動 の 基盤◯ 根拠に基づく保健活動を 実施す るため,実施した保健活 動の記 録を 適切に行うこ とができる 指 導を 受けな がら 研究的 手 法 を用 いて事 業の 評価が で きる 研究 的手 法を 用いた 事業 評 価が でき る 地域診断 などにおい て研究的 手法を用 いて分析し ,根拠に 基づ き保 健事 業を計 画で きる 根 拠に 基づき ,質 の高い 保 健 事業 を提案 し, その効 果 を検 証で き る 保健師 活動 の 基盤◯ 保健 師活動 にお ける社 会的 公正 性につ いて 理解し ,指 導を 受けな がら 地域保 健活 動を 実施で きる 地 域活 動にお ける 社会的 公 正 性に 基づく 倫理 的な判 断 につ いて 理 解で きる 地域 活動 にお ける社 会的 公 正性 に基 づく 倫理的 な判 断 を実 践に 活か すこと がで き る
終とりまとめ」として公表され,その中で「自治体 保健師の標準的なキャリアラダー(以下,キャリア ラダー)」が示された2)。 キャリアラダーとは,キャリア形成のプロセスを 示すものであり,将来の目標を見定めて階段(ラ ダー)を上るように,着実に実践能力を獲得するう えでの指標のような役割をはたすものである3)。従 来の自治体保健師の人材育成では,こうした実践能 力の現状に関係なく,主として経験年数に応じて 「新任期」,「中堅期」,「管理期」に区分し,研修等 が実施されてきた2)。しかしながら,4 年生大学の 急増などを背景に,保健師免許取得までの教育背景 が多様化したことや,自治体に保健師として就職す るまでに職務経験がある保健師が増加していること などにより4),保健師の実践能力と経験年数とが必 ずしも連動しない状況が生じている。こうした状況 に対し,保健師の人材育成では,各保健師の能力の 獲得状況を的確に把握し,能力を段階別に整理し, 能力に応じた人材育成を進めることが必要と考えら れる。 今般,厚労省が示したキャリアラダーは,保健師 が獲得すべき実践能力を段階別に整理したものであ る。専門的能力と管理的能力で構成されており,こ のうち専門的能力は,保健師の実践活動である「対 人支援活動」,「地域支援活動」,「事業化・施策化の ための活動」,「健康危機管理に関する活動」,「管理 的活動」,「保健師の活動基盤」の 6 つの領域に分類 されている。また,これら 6 領域はそれぞれ 1~3 個の能力で説明されており,さらに,能力ごとに 5 段階のキャリアレベルが示されている(表 1)。 先の「最終とりまとめ」では,全国で保健師現任 教育を実施している機関同士の役割分担が十分では なく,系統的な研修体制を整備しているとは言い難 い状況にあることから,研修事業実施者に対し,今 回示されたキャリアラダーと,研修の対象者や到達 目標との関係を明示するよう提言している2)。ま た,キャリアラダーに示された能力を獲得するため には,獲得を目指す能力に応じた研修内容や方法, それに合わせたツールを開発する必要があり,その ためにも,対象者の能力の現状を把握するととも に,能力に関連する要因を明らかにすることが必要 である。 保健師の専門的能力の現状については,これま で,保健活動評価等を目的に,家族支援,事業化, 施策化など,実践能力別の評価尺度が開発され,そ れを用いた保健師の専門的能力の把握がなされてき た5~10)。しかし,今般厚労省により示されたキャリ アラダーに従って,自治体保健師の能力を段階的に とらえ,その実態を把握した研究成果の蓄積は十分 ではない。 そこで本研究では,自治体保健師の系統的な人材 育成に向けた基礎資料とするため,中堅期以降の自 治体保健師の専門的能力の現状をキャリアラダーに 照らし合わせて明らかにするとともに,能力に関連 する要因を検討することを目的とした。 なお,本稿において「中堅期」とは,経験年数に 関係なく,後述のとおり,国立保健医療科学院(以 下,科学院)の公衆衛生看護中堅期研修の対象であ るキャリアラダー A4 以上を目指すものと定義する。
研 究 方 法
. 調査対象とデータ収集方法 本調査の対象は,2016年度に科学院において実施 された公衆衛生看護研修(中堅期,管理期,統括保 健師)の受講者計178人とした。調査は,対象とな る研修の開催期間中(それぞれ 6 月,11月,2 月) に,本研究用に開発した質問紙による無記名自記式 質問紙調査を実施した。質問紙への回答は,研修初 日または研修 2 日目の研修開始時間までに各自で行 い,研修会場内に設置した回収箱により質問紙の回 収を行った。 科学院とは,保健,医療,福祉事業に関係する職 員を対象とした長期・短期研修を実施している機関 であり,研修の多くに自治体保健師が参加してい る。ただし,本調査の対象とした公衆衛生看護研修 は,保健師のみを対象にした階層別研修であり,主 に,都道府県や政令市に勤務する保健師を対象とし ている。また,2016年度から,研修参加者を募集す る際に,中堅期はキャリアラダーの A4 相当を,管 理期および統括保健師は A5 相当の能力獲得を目指 した研修であることを明示している11)。 . 調査項目 質問紙では,先行研究6,7,12,13)で保健師の能力獲得 との関連が示されている個人特性と自治体の特性に ついて尋ねた。また,自治体保健師の能力について は,キャリアラダーの専門的能力の内容に従って把 握した。(図 1) 1) 個人特性 年齢,性別,受講研修名,保健師経験年数,職 位,保健師基礎教育,進学歴,前職歴を尋ねた。 2) 所属する自治体等の特性 都道府県・政令市等の自治体区分,人口規模,保 健師数に加え,保健師の人材育成・管理体制に関わ る項目として,人材育成担当部署,保健師人材育成 ガイドラインおよび統括保健師配置の有無について 尋ねた。図 概念枠組み 3) 自治体保健師の能力 専門的能力のキャリアラダーに示された 6 つの活 動領域とそれらを構成する13の能力について尋ねた。 13の能力とは,「個人および家族への支援」,「集団 への支援」,「地域診断・地区活動」,「地域組織活 動」,「ケアシステム構築」,「事業化・施策化」,「健 康 危 機 管 理 体 制 整 備 」,「 健 康 危 機 管 理 対 応 」, 「PDCA に基づく事業・施策評価」,「情報管理」, 「人材育成」,「保健師活動の基盤◯」,「保健師活動 の基盤◯」である。このうち「個人および家族への 支援」と「PDCA に基づく事業・施策評価」に関 しては,厚労省が示したキャリアラダーにおいて, 2 つ以上の異なる能力が含まれる表現になっていた ため,2 項目に分けて質問した。このため,能力に 関する質問項目は15項目になった(表 1)。 回答は,キャリアラダーの「各レベルにおいて求 められる能力」のキャリアレベル A1~A5 に相当す る 5 肢から選択する方法をとった。選択肢の表現に は,キャリアラダーに示された表現を可能な限り反 映した。 . 統計解析 研修受講者の能力の現状では,13の専門的能力を 説明する15項目について,項目ごとにキャリアレベ ルの A1 から A5 の単純集計を行った。 保健師の専門的能力と関連要因の検討では,キャ リアレベル A4 以上と A3 以下に分けて分析した。 これは,科学院の公衆衛生看護研修の募集要項に, 中堅期が A4 相当,それ以外が A5 相当の能力獲得 を目指した研修であることを明示しているため,こ れら研修の受講者である本研究の対象は,A3 から A5 相当の能力を有している集団と想定されたため である。 要因の検討では,最初に,専門的能力を 6 つの活 動領域にカテゴリ化したうえで,各活動領域の保健 師の能力と,個人特性,自治体特性の単変量解析を 行った。次に,各活動領域別に保健師の専門的能力 を目的変数,個人特性などの関連要因を説明変数に したロジスティック回帰分析を行った。目的変数と なる保健師の専門的能力については,選択肢に A4 または A5 レベルを設けなかった「個人および家族 への支援◯」と「保健師活動の基盤◯」を除く能力 13項目を 6 つの活動領域によって分類し,各領域 1 ~4 個の専門的能力で説明されるカテゴリを生成し た。続く解析では,各活動領域を構成する項目すべ てが A4 以上のキャリアレベルに到達していると回 答した者を 1,1 つでも A4 に到達していない能力 がある者を 0 として多重ロジスティック回帰分析を 行った。分析では,強制投入法を用いた。説明変数 の選定では,変数同士の相関分析を行い,0.7以上 の強い相関があった年齢と保健師経験年数,職位と
表 自治体保健師の専門的能力の現状 活動領域 専門的能力 A1 A2 A3 A4 A5 ≦A3 A4≦ n n n n n n n 対人支援活動 個人および家族への支援◯ 1 0.6 5 3.0 38 22.6 124 73.8 ― ― ― ― ― ― 個人および家族への支援◯ 1 0.6 4 2.4 27 16.1 67 39.9 69 41.1 32 19.0 136 81.0 集団への支援 3 1.8 8 4.8 31 18.5 80 47.6 45 26.8 42 25.0 125 74.4 地域支援活動 地域診断・地区活動 4 2.4 5 3.0 50 29.8 53 31.5 56 33.3 59 35.1 109 64.9 地域組織活動 2 1.2 10 6.0 34 20.2 80 47.6 42 25.0 46 27.4 122 72.6 ケアシステムの構築 4 2.4 19 11.3 53 31.5 73 43.5 19 11.3 76 45.2 92 54.8 事業化・施策化活動 事業化・施策化 2 1.2 22 13.1 43 25.6 77 45.8 24 14.3 67 39.9 101 60.1 健康危機管理活動 健康危機管理の体制整備 8 4.8 36 21.4 50 29.8 46 27.4 28 16.7 94 56.0 74 44.0 健康危機管理の対応 13 7.7 15 8.9 50 29.8 53 31.5 37 22.0 78 46.4 90 53.6 管理的活動 PDCA に基づく事業・施策評価◯ 1 0.6 19 11.3 44 26.2 78 46.4 26 15.5 64 38.1 104 61.9 PDCA に基づく事業・施策評価◯ 1 0.6 28 16.7 33 19.6 74 44.0 32 19.0 62 36.9 106 63.1 情報管理 3 1.8 17 10.1 58 34.5 57 33.9 32 19.0 78 46.4 89 53.0 人材育成 11 6.5 13 7.7 56 33.3 64 38.1 23 13.7 80 47.6 87 51.8 保健師活動基盤 保健師活動の基盤◯ 7 4.2 42 25.0 43 25.6 58 34.5 15 8.9 92 54.8 73 45.2 保健師活動の基盤◯ 7 4.2 55 32.7 104 61.9 ― ― ― ― ― ― ― ― 管理職経験年数のうち,年齢と管理職経験年数を除 いた。最終的に,保健師経験年数,職位,保健師教 育,就業後の進学,前職歴,所属自治体,人口規 模,所属自治体の保健師数,ガイドラインの有無, 人材育成担当部署の有無,統括保健師配置の有無を 説明変数として投入した。分析には,統計ソフト SPSSver.22.0forWindowsを使用し,有意水準は< 0.05とした。 . 倫理的配慮 研究計画書の段階で,国立保健医療科学院研究倫 理審査委員会の承認を得て実施した(NIPHIBRA #12118,2016年 6 月20日承認)。対象者には,本研 究の目的,方法等に加え,研究協力に同意をしなく ても不利益を被ることがないことなど,倫理的な配 慮に係る事項を文書と口頭により説明した。
研 究 結 果
. 対象者の概要 回答が得られたのは178人中168人であり(回収率 94.4),回答のあったすべてを分析対象とした。 対 象 者 の 平 均 年 齢 は 49.2 ± 6.2 歳 , 男 性 4 人 (2.4),女性163人(97),受講研修は,中堅期 76人(45.2),管理期53人(31.5),統括保健師 39人(23.2)であった。保健師経験年数の平均は 25.7±6.7年,職位は係員45人(26.8),係長級86 人(51.2),課長級以上33人(19.6)であった。 自治体種別は,都道府県92人(54.8),政令市45 人 ( 26.8 ), 特 別 区 9 人( 5.4 ),市 町 村 21 人 (12.5)であった。また,前職歴がある者は,対 象の約30となる50人で,このうち42人は看護師の 経験者であった。 なお受講研修により,年齢,保健師経験年数,職 位,管理職経験年数に有意差があった(すべてP< 0.01)。年齢,保健師経験の平均値はそれぞれ,中 堅期(44.8±6.0歳,21.3±6.4年),管理期(51.7± 3.6歳,28.0±4.7年),統括保健師(54.3±2.6歳, 31.0±3.6年)であった。職位に関しては,係員の 構成は中堅期88.9,管理期11.1,統括保健師 0.0であり,課長級以上の構成は中堅期0.0,管 理期33.3,統括保健師66.7であった。 . 自治体保健師の専門的能力の現状(表,) キャリアラダーの専門的能力のうち,キャリアレ ベルが A4 以上に到達していると回答した者の割合 は,「個人および家族への支援◯」(73.8),「個人 および家族への支援◯」(81.0),「集団への支援」 (74.4)の順に高く,いずれも「対人支援活動」 を構成する能力であった。A4 以上に到達している と回答した者の割合が対象者の半数に満たなかった 能力は,「健康危機管理の体制整備」と「保健師活 動の基盤◯」のみで,それぞれ44.0と45.2で あった。 活動領域別では,「対人支援活動」と「事業化・ 施策化活動」において A4 以上に到達していると回 答した者が多く,それぞれ62.5,60.1とであっ た。A4 以上に到達していると回答した者の割合が 最も少なかったのは「管理的活動」で35.1,次い で「健康危機管理活動」の41.1であった。表 専 門的 能力と 個人 特性お よび 自治 体特性 N 対人支援活 動 地域支援活 動 事業化 ・施策化活 動 健康危機 管理活動 管理的活 動 保健師活 動基盤 ≦ A3 A 4≦ P 値 ≦ A3 A4 ≦ P 値 ≦ A3 A4 ≦ P 値 ≦ A3 A 4≦ P 値 ≦ A3 A 4≦ P 値 ≦ A3 A4 ≦ P 値 37. 5 62 .5 54.2 45 .8 39 .9 60. 1 58 .9 41 .1 64 .9 35 .1 54 .8 45 .2 〈個人特 性〉 年齢 29 .0 2 100 .0 0. 0 < 0. 001 100 .0 0. 0 < 0. 001 100 .0 0. 0 < 0 .001 100 .0 0 .0 < 0. 001 1 00 .0 0 .0 < 0.0 01 5 0.0 50. 0 0 .00 4 30 39 14 9 2.9 7.1 10 0.0 0.0 8 5.7 1 4.3 100 .0 0 .0 1 00 .0 0 .0 9 2.9 7. 1 40 49 58 3 6.2 6 3.8 7 0.7 2 9.3 5 5.2 4 4.8 67 .2 32 .8 77 .6 22 .4 6 2.1 37. 9 50 94 2 8.7 7 1.3 3 6.2 6 3.8 2 2.3 7 7.7 46 .8 53 .2 51 .1 48 .9 4 4.7 55. 3 保 健師経験(年 ) 9 4 10 0.0 0.0 < 0. 001 100 .0 0. 0 < 0. 001 100 .0 0. 0 <0 .001 100 .0 0 .0 0. 005 1 00 .0 0 .0 0.0 01 7 5.0 25. 0 0 .04 1 10 19 24 6 6.7 3 3.3 7 9.2 2 0.8 5 8.3 4 1.7 83 .3 16 .7 79 .2 20 .8 7 5.0 25. 0 20 29 77 3 5.1 6 4.9 5 8.4 4 1.6 4 5.5 5 4.5 58 .4 41 .6 72 .7 27 .3 5 5.8 44. 2 30 61 2 4.6 7 5.4 3 6.1 6 3.9 1 9.7 8 0.3 45 .9 54 .1 45 .9 54 .1 4 2.6 57. 4 職位 係員 45 4 6.7 5 3.3 0 .01 1 8 2.2 1 7.8 < 0 .00 1 6 8.9 3 1.1 < 0 .001 80 .0 20 .0 < 0. 001 91 .1 8 .9 < 0.0 01 7 7.8 22. 2 0 .00 2 係長級 86 4 0.7 5 9.3 5 1.2 4 8.8 3 8.4 6 1.6 64 .0 36 .0 64 .0 36 .0 4 7.7 52. 3 課長級以上 33 15 .2 84 .8 30 .3 69 .7 9. 1 90 .9 21. 2 78. 8 33. 3 66. 7 45 .5 54 .5 管 理職経験(年 ) 経験なし 45 4 6.7 5 3.3 0 .14 0 8 2.2 1 7.8 < 0 .00 1 6 8.9 3 1.1 < 0 .001 80 .0 20 .0 < 0. 001 91 .1 8 .9 < 0.0 01 7 7.8 22. 2 0 .00 2 1 4 72 3 6.1 6 3.9 5 1.4 4 8.6 3 3.3 6 6.7 56 .9 43 .1 59 .7 40 .3 4 8.6 51. 4 5 9 33 2 1.2 7 8.8 3 3.3 6 6.7 2 1.2 7 8.8 33 .3 66 .7 42 .4 57 .6 3 6.4 63. 6 10 12 4 1.7 5 8.3 2 5.0 7 5.0 1 6.7 8 3.3 41 .7 58 .3 50 .0 50 .0 5 8.3 41. 7 保 健師基礎教育 専門学校 116 3 1.9 6 8.1 0 .06 9 5 1.7 4 8.3 0 .36 5 3 5.3 6 4.7 0 .073 54 .3 45 .7 0. 169 62 .1 37 .9 0.3 05 5 0.9 49. 1 0 .25 6 短期大学 23 3 9.1 6 0.9 5 2.2 4 7.8 3 9.1 6 0.9 69 .6 30 .4 65 .2 34 .8 6 9.6 30. 4 大学以上 27 5 5.6 4 4.4 6 6.7 3 3.3 5 9.3 4 0.7 70 .4 29 .6 77 .8 22 .2 5 5.6 44. 4 進学 あり 28 3 2.1 6 7.9 0 .57 9 3 5.7 6 4.3 0 .03 7 2 1.4 7 8.6 0 .030 39 .3 60 .7 0. 024 42 .9 57 .1 0.0 09 3 9.3 60. 7 0 .08 2 なし 138 3 7.7 6 2.3 5 7.2 4 2.8 4 3.5 5 6.5 62 .3 37 .7 68 .8 31 .2 5 7.2 42. 8 前職 歴 あり 50 3 0.0 7 0.0 0 .19 9 5 0.0 5 0.0 0 .47 4 3 4.0 6 6.0 0 .320 58 .0 42 .0 0. 859 56 .0 44 .0 0.1 35 5 2.0 48. 0 0 .63 2 なし 116 4 0.5 5 9.5 5 6.0 4 4.0 4 2.2 5 7.8 59 .5 40 .5 68 .1 31 .9 5 6.0 44. 0
表 専 門的能 力と 個人 特性お よび 自治体 特性 (つづ き) N 対人支援活 動 地域支援活 動 事業化 ・施策化活 動 健康危機 管理活動 管理的活 動 保健師活 動基盤 ≦ A3 A 4≦ P 値 ≦ A3 A4 ≦ P 値 ≦ A3 A4 ≦ P 値 ≦ A3 A 4≦ P 値 ≦ A3 A 4≦ P 値 ≦ A3 A4 ≦ P 値 37. 5 62 .5 54.2 45 .8 39 .9 60. 1 58 .9 41 .1 64 .9 35 .1 54 .8 45 .2 〈自治体 特性〉 所 属自治体 都道府県 92 4 1.3 5 8.7 0 .51 1 5 6.5 4 3.5 0 .90 1 4 5.7 5 4.3 0 .352 60 .9 39 .1 0. 797 69 .6 30 .4 0.0 71 5 8.7 41. 3 0 .44 3 政令市 45 2 8.9 7 1.1 5 3.3 4 6.7 3 3.3 6 6.7 57 .8 42 .2 57 .8 42 .2 5 5.6 44. 4 特別区 9 3 3.3 6 6.7 4 4.4 5 5.6 2 2.2 7 7.8 44 .4 55 .6 33 .3 66 .7 3 3.3 66. 7 市町村 21 4 2.9 5 7.1 5 2.4 4 7.6 3 8.1 6 1.9 61 .9 38 .1 76 .2 23 .8 4 7.6 52. 4 人 口規模(万人 ) 49 48 3 9.6 6 0.4 0 .68 2 5 2.1 4 7.9 0 .57 1 3 5.4 6 4.6 0 .862 56 .3 43 .8 0. 223 68 .8 31 .3 0.3 32 4 3.8 56. 3 0 .22 4 50 99 46 3 4.8 6 5.2 6 3.0 3 7.0 4 1.3 5 8.7 58 .7 41 .3 60 .9 39 .1 5 4.3 45. 7 10 0 14 9 29 4 4.8 5 5.2 4 8.3 5 1.7 4 4.8 5 5.2 75 .9 24 .1 75 .9 24 .1 6 2.1 37. 9 15 0 44 3 1.8 6 8.2 5 2.3 4 7.7 4 0.9 5 9.1 52 .3 47 .7 56 .8 43 .2 6 3.6 36. 4 保 健師数(人) 49 22 5 0.0 5 0.0 0 .24 5 6 8.2 3 1.8 0 .34 8 4 0.9 5 9.1 0 .390 68 .2 31 .8 0. 794 81 .8 18 .2 0.1 38 5 0.0 50. 0 0 .61 6 50 99 71 3 9.4 6 0.6 5 2.1 4 7.9 4 0.8 5 9.2 56 .3 43 .7 60 .6 39 .4 5 0.7 49. 3 10 0 14 9 43 3 7.2 6 2.8 5 5.8 4 4.2 4 6.5 5 3.5 58 .1 41 .9 69 .8 30 .2 6 2.8 37. 2 15 0 30 2 3.3 7 6.7 4 3.3 5 6.7 2 6.7 7 3.3 56 .7 43 .3 53 .3 46 .7 5 3.3 46. 7 人 材育成ガイド ライン あり 151 3 8.4 6 1.6 0 .46 7 5 5.0 4 5.0 0 .53 5 4 0.4 5 9.6 0 .684 60 .3 39 .7 0. 294 66 .9 33 .1 0.1 04 5 7.0 43. 0 0 .08 9 なし 17 2 9.4 7 0.6 4 7.1 5 2.9 3 5.3 6 4.7 47 .1 52 .9 47 .1 52 .9 3 5.3 64. 7 人 材育成担当部 署 あり 147 3 8.1 6 1.9 0 .67 3 5 7.1 4 2.9 0 .04 1 4 2.2 5 7.8 0 .108 59 .2 40 .8 0. 859 64 .6 35 .4 0.8 55 5 6.5 43. 5 0 .24 1 なし 21 3 3.3 6 6.7 3 3.3 6 6.7 2 3.8 7 6.2 57 .1 42 .9 66 .7 33 .3 4 2.9 57. 1 統 括保健師配置 あり 143 3 5.7 6 4.3 0 .24 0 5 5.2 4 4.8 0 .50 2 3 9.2 6 0.8 0 .648 57 .3 42 .7 0. 318 63 .6 36 .4 0.4 19 5 5.9 44. 1 0 .46 2 なし 25 4 8.0 5 2.0 4 8.0 5 2.0 4 4.0 5 6.0 68 .0 32 .0 72 .0 28 .0 4 8.0 52. 0 x 2検定
表 専 門的 能力( キャ リアレ ベル A4 以上 )と個 人特 性およ び自 治体特 性と の関 連(多 重ロ ジステ ィッ ク分析 強 制投入 法) 対人支 援活動 地域支 援活動 事 業化・施策 化活動 健康 危機管理活 動 管理 的活動 保健師 活動基盤 オッズ比 95 信頼区間 (下限 上限) オッズ比 95 信頼区間 (下限 上限) オッズ比 95 信頼区 間 (下限 上限) オッズ 比 95 信頼 区間 (下限 上 限) オ ッズ 比 95 信 頼区間 (下 限 上 限) オ ッズ 比 95 信 頼区間 (下 限 上限 ) 〈個 人特性〉 保健師経 験(年) 9 0. 00 in cal cu lable 0.0 0 in calc u lable 0.0 0 in calc u la ble 0.00 in calc u la b le 0 .00 inc alcu la bl e 0 .27 ( 0. 02 5.3 7) 10 19 0. 03 (0.0 1 0.26 ) 0.1 3( 0.0 3 0. 70 ) 0.0 7( 0. 01 0. 43 ) 0.17 (0. 04 0. 92 ) 0. 21 (0. 04 1.2 4) 0. 14 (0. 03 0.7 0) 20 29 0. 36 (0.1 4 1.01 ) 0.4 8( 0.1 9 1. 23 ) 0.3 5( 0. 13 1. 02 ) 0.80 (0. 31 2. 09 ) 0. 32 (0. 12 0.8 9) 0. 47 (0. 20 1.1 8) 30 1. 00 1.0 0 1.0 0 1.00 1 .00 1 .00 職位 係 員 1. 00 1.0 0 1.0 0 1.00 1 .00 1 .00 係長 級 0. 51 ( 0.1 8 1.50 ) 4.4 8( 1.3 1 15 .42 ) 2.4 0( 0. 79 7. 28 ) 1.57 ( 0. 49 5. 07 ) 2. 79 ( 0. 68 11 .47 ) 3. 26 ( 1. 05 10 .16 ) 課 長級以上 1. 12 ( 0.2 6 4.85 ) 8.7 5( 1.9 0 40 .31 ) 12 .54 ( 2. 20 71 .69 ) 9.86 ( 2. 27 42 .84 ) 7. 08 ( 1. 41 35 .68 ) 1. 91 ( 0. 48 7.7 3) 保健師基 礎教育 専 門学校 1. 00 1.0 0 1.0 0 1.00 1 .00 1 .00 短 期大学 1. 01 ( 0.2 9 3.35 ) 1.3 2( 0.4 2 4. 27 ) 1.4 3( 0. 39 5. 29 ) 0.58 ( 0. 18 1. 98 ) 1. 40 ( 0. 38 5.2 4) 0. 38 ( 0. 12 1.2 6) 大 学以上 1. 14 ( 0.3 4 3.80 ) 1.3 2( 0.3 8 4. 67 ) 0.7 5( 0. 21 2. 69 ) 1.46 ( 0. 42 5. 19 ) 0. 81 ( 0. 22 3.0 2) 1. 52 ( 0. 48 4.8 9) 進学 あ り 1. 35 ( 0.4 4 4.16 ) 2.7 9( 0.8 9 8. 81 ) 3.1 6( 0. 89 11 .32 ) 3.70 ( 1. 17 11 .78 ) 4. 12 ( 1. 28 13 .38 ) 3. 69 ( 1. 27 10 .78 ) 前職歴 あ り 3. 88 ( 1.2 4 12.1 8) 2.0 8( 0.7 9 5. 56 ) 4.2 1( 1. 34 13 .26 ) 1.32 ( 0. 51 3. 45 ) 2. 43 ( 0. 89 6.6 8) 1. 53 ( 0. 62 3.8 1) 〈自 治体特性〉 所属自治 体 都 道府県 1. 00 1.0 0 1.0 0 1.00 1 .00 1 .00 政令 市 2. 06 (0.5 1 8.36 ) 0.4 9( 0.1 4 1. 76 ) 1.4 5( 0. 34 6. 22 ) 1.02 (0. 31 3. 45 ) 1. 12 (0. 32 4.0 1) 0. 74 (0. 23 2.4 3) 特別 区 1. 54 (0.1 3 18.5 3) 1.1 0( 0.1 5 8. 48 ) 0.8 2( 0. 08 8. 42 ) 5.59 (0. 60 52 .72 ) 12 .78 (0. 87 18 9.0 6) 1. 61 (0. 20 13 .68 ) 市町 村 0. 83 ( 0.1 3 5.46 ) 0.6 7( 0.1 2 4. 01 ) 1.6 0( 0. 23 11 .55 ) 0.99 ( 0. 17 5. 79 ) 0. 72 ( 0. 10 5.6 3) 0. 73 ( 0. 15 3.8 2) 自治体規 模(人口, 万人) 49 1. 00 1.0 0 1.0 0 1.00 1 .00 1 .00 50 99 0. 66 ( 0.1 5 3.12 ) 0.2 2( 0.0 5 1. 01 ) 0.2 8( 0. 06 1. 40 ) 0.34 ( 0. 08 1. 60 ) 1. 05 ( 0. 18 6.1 6) 0. 29 ( 0. 08 1.1 7) 100 14 9 0.5 1( 0.1 0 2.80 ) 0.5 3( 0.1 0 2. 92 ) 0.3 2( 0. 06 1. 92 ) 0.14 ( 0. 03 0. 89 ) 0. 43 ( 0. 06 3.1 9) 0. 20 ( 0. 05 1.0 4) 150 0. 58 ( 0.1 1 3.32 ) 0.2 4( 0.0 4 1. 51 ) 0.2 2( 0. 04 1. 41 ) 0.37 ( 0. 07 2. 23 ) 1. 03 ( 0. 13 8.2 0) 0. 17 ( 0. 04 0.9 6) 保健師数 (人) 49 1. 00 1.0 0 1.0 0 1.00 1 .00 1 .00 50 99 0. 81 ( 0.1 8 3.65 ) 2.3 0( 0.4 4 12 .18 ) 0.7 4( 0. 15 3. 70 ) 1.68 ( 0. 34 8. 48 ) 2. 96 ( 0. 41 21 .41 ) 1. 25 ( 0. 31 5.2 5) 100 14 9 1.1 2( 0.2 1 6.17 ) 6.7 9( 0.9 8 47 .41 ) 1.3 2( 0. 22 8. 26 ) 3.57 ( 0. 56 23 .15 ) 1. 76 ( 0. 19 16 .50 ) 1. 80 ( 0. 34 9.7 9) 150 2. 25 ( 0.2 8 18.7 3) 13 .69 ( 1.3 8 13 6. 09 ) 5.2 4( 0. 57 48 .9 ) 5.25 ( 0. 59 47 .55 ) 6. 27 ( 0. 51 77 .71 ) 4. 41 ( 0. 57 34 .18 ) ガイドラ イン あ り 0. 91 (0.2 2 3.80 ) 1.2 5( 0.3 4 4. 66 ) 2.1 0( 0. 51 8. 74 ) 0.96 (0. 26 3. 62 ) 0. 46 (0. 12 1.9 2) 0. 53 (0. 15 1.9 2) 人材育成 担当部署 あ り 0. 31 (0.0 6 1.77 ) 0.2 8( 0.0 7 1. 21 ) 0.6 3( 0. 12 3. 45 ) 1.33 (0. 34 5. 36 ) 1. 42 (0. 33 6.1 5) 1. 04 (0. 27 4.0 2) 統括配置 あ り 1. 70 (0.4 6 6.30 ) 0.5 4( 0.1 6 1. 86 ) 1.6 2( 0. 46 5. 86 ) 1.14 (0. 33 3. 97 ) 0. 66 (0. 18 2.4 6) 0. 61 (0. 20 1.9 2) 多重ロ ジスティック 回帰分析 強制投入法 <0. 05, <0.0 1
. 保健師の専門的能力と個人特性および自治体 特性(単変量解析)(表) 個人特性のうち,年齢,保健師経験年数,職位 は,すべての活動領域の専門的能力で有意差がみら れた。また,管理職経験年数は,「対人支援活動」 を除くすべての能力で,進学は,「地域支援活動」, 「事業化・施策化活動」,「健康危機管理活動」,「管 理的活動」で有意差がみられた。 自治体特性のうち有意差が見られたのは,「地域 支援活動」における人材育成担当部署の有無のみで あった(P=0.041)。 . 保健師の専門的能力の関連要因(多重ロジス ティック回帰分析)(表) 活動領域ごとの専門的能力(キャリアレベル A4 以上)を目的変数としたロジスティック回帰分析の 結果は表 4 の通りである。 個人特性では,保健師経験年数1019年は「管理 的活動」を除くすべての活動領域の専門的能力で, 30年以上と比べてオッズ比が有意に低かった。「対 人支援活動」,「地域支援活動」,「事業化・施策化活 動」,「健康危機管理活動」,「保健師活動基盤」のオッ ズ 比 ( 95 信 頼 区 間 ) は そ れ ぞ れ , 0.03 ( 0.01 0.26), 0.13 (0.030.70), 0.07 (0.010.43), 0.17 (0.040.92), 0.14 (0.030.70)であった。「管理的 活動」については,2029年が30年以上と比べ有意 に低く,0.32 (0.120.89)だった。職位は,課長級 以上が係員に対し,「地域支援活動」,「事業化・施 策化活動」,「健康危機活動」,「管理的活動」で有意 に高く,それぞれ8.75 (1.9040.31), 12.54 (2.20 71.69), 9.86 (2.2742.84), 7.08 (1.4135.68)であっ た。また,係長級は係員と比較し,「地域支援活動」 で 4.48 ( 1.31 15.42 ),「 保 健 師 活 動 基 盤 」 で 3.26 (1.0510.16)と有意に高かった。進学歴は「健康 危機管理活動」,「管理的活動」,「保健師活動基盤」 と有意に正の関連にあった(それぞれ3.70 (1.17 11.78), 4.12 (1.2813.38), 3.69 (1.2710.78))。前 職歴は,「対人支援活動」,「事業化・施策化活動」 と有意に正の関連があった(それぞれ3.88 (1.24 12.18), 4.21 (1.3413.26))。 自治体特性では,自治体の人口規模49万人以下と 比べ,100149万人の自治体は「健康危機管理活動」 で0.14 (0.03 0.89 )と,150 万人以 上の自 治体は 「保健師活動基盤」で0.17 (0.040.96)と有意に低 かった。また,保健師数150人以上は49人以下と比 べ,「地域支援活動」で13.69 (1.38136.09)と有意 に高かった。
考
察
. 対象者の特徴 厚労省による2016年度の保健師活動調査14)では, 自治体保健師の勤務先は都道府県(14.7),保健 所設置市(22.3),特別区(3.6),市町村(59.3) である。職位では,係長級以上が37.9にとどま り,残りは係員が占めている。一方で,本研究の対 象は,半数以上が都道府県の保健師であり,また, 全体の68.8が係長級以上と,全国平均より職位が 高い保健師を対象とした調査であった。これは,本 研究の対象が,科学院の行う保健師の階層別研修の 受講者であり,所属先から推薦を受け研修に参加し ている,主に都道府県や政令市等の保健師であるこ と,また,本調査が対象とした研修の受講者の条件 には,中堅期研修では実務リーダー以上,または, キャリアラダーの A4 以上を目指している者,管理 期研修・統括保健師では,A5 以上を目指している 者であることを明示したことが影響していると考え る。保健師を対象としたキャリアラダーの実態調査 は本調査が初めてであり,全国の保健師の実態と比 較をすることはできないが,上記の対象者の特徴を 考慮すると,本調査の対象者は,全国の自治体保健 師の平均よりもキャリアレベルの到達度が高い集団 であった可能性が考えられる。 このような本研究の対象者の特徴を考慮したうえ で,以降に自治体保健師の能力の現状と関連要因, そしてそれら結果をもとに保健師の系統的な人材育 成の在り方について考察する。 . キャリアラダーに基づく保健師の能力の現状 とその関連要因 1) 専門的能力の現状 キャリアレベルが A4 以上に到達していると回答 した者の割合を,専門能力ごとに比較すると,「個 人及び家族への支援」や「集団への支援」など, 「対人支援活動」に関する能力で割合が相対的に高 く,「健康危機管理の体制整備」と「保健師活動の 基盤◯」は,ほかの能力と比べ低かった。 キャリアレベル A4 以上に到達していると回答し た者が多かった「対人支援活動」については,新任 期に,対人サービスや地区活動を経験できるよう, 計画的に人事配置を行っている自治体があることが 報告されている15)。本調査対象となった中堅期以降 の保健師も,新任期から,個人や家族,集団に対す る直接的な対人保健サービスを行っていると考えら れ,その結果が,到達度の高さとして表れたと考え られる。 他方,キャリアレベル A4 以上に到達していると回答した者が少なかった「健康危機管理の体制整備」 と「保健活動の基盤◯」に関しては,通常の職務の 範囲内で経験していないことが到達度の低さとして 示された可能性がある。 「健康危機管理活動」は,災害,食中毒,感染症 等に起因する地域の健康安全に関連した能力である が,このうち,感染症対策等は主に都道府県の保健 所等に配属された保健師の業務であり,災害対応 は,被災地に勤務したり被災地に派遣されたりした 保健師に限られる経験である。したがって,本調査 の対象者の中にはこれらの経験が乏しい保健師が含 まれていたと考えられる。 また,研究的手法を用いた事業評価,検証等,根 拠に基づいた保健活動に関する能力を示す「保健活 動の基盤◯」に関しても,先行研究において16,17), 研究計画の倫理審査申請等を含めた研究実施体制の 整備状況や,組織文化の影響などにより,自治体保 健師にとって,研究活動の展開は困難な状況にある ことが指摘されている。本調査の対象者について も,通常の職務の中で,研究的手法を用いて事業評 価等を行うことが困難な状況にある者が含まれてい たと考えられ,根拠に基づく保健活動に関する専門 的能力の到達レベルの低さとして表れたと考えられ る。 以上の専門的能力のうち,健康危機管理能力につ いては,経験を通じて開発されることを示した先行 研究18)がある一方で,災害対応経験がある保健師ほ ど到達レベルを高く評価する傾向があることも指摘 されている19)。本研究のデザインでは,経験が専門 的能力の獲得に先行する要因であるかどうかを示す ことはできないが,本調査結果から,専門的能力に 直接関連する活動を通常の職務内で経験しているか どうかが,保健師の専門的能力のキャリアレベルの 到達度と関連があると考えられた。 2) 専門的能力の関連要因 専門的能力の関連要因の探索では,活動領域ごと にカテゴリ化した専門的能力(キャリアレベル A4 以上)と個人特性および自治体特性との関連につい てロジスティック回帰分析を行った。 個人特性との関連 個人特性のうち,保健師経験年数1019年の保健 師は,「管理的活動」を除くすべての活動領域の専 門的能力で,オッズ比が30年以上と比べて低いこと が示された。先行研究で,対人支援や施策化に関す る専門職遂行能力の発達には,新任期から前期中堅 期(110年)にプラトー期と呼ばれる停滞期がある ことが示されている12)。本研究結果で,オッズ比が 有意に低かった保健師経験1019年の者には,所属 組織から,次期管理者として係員とは異なる役割が 期待されるようになった保健師や,産休・育休を取 得し一時的にキャリアが途切れた復職後の保健師が 含まれていると考えられる。本調査結果は,こうし た時期が,保健師の専門的能力の発達のプラトー期 と重なる可能性を示唆するものである。また,別の 研究で,この時期の保健師の特徴として,保健活動 に対し自信のなさを感じる傾向にあることが示され ており20),自己評価である本調査では,実際の到達 レベルに関係なく,この時期特有の自信のなさが, キャリアレベルの到達度の低さとして表れたとも考 えられる。 職位に関しては,係員に比べ,係長級が「地域支 援活動」および「保健師活動基盤」と,課長級以上 が「地域支援活動」,「事業化・施策化活動」,「健康 危機管理活動」,「管理的活動」と有意に正の関連が 示された。先行研究21)では,保健師は,困難事例の 対応,地域支援,研修会参加に加え,管理職の経験 を通じて能力を獲得することが示されている。本調 査結果は,先行研究の知見に加え,管理職経験が関 連する専門的能力の特性を明らかにした。つまり, 「対人支援活動」のように,住民に直接サービスを 提供する活動では,管理職にあるかどうかにかかわ らず,中堅期以降の保健師には一定の経験があるた め,職位と有意な関連が示されなかったと考えられ る。一方で,「事業化・施策化活動」,「健康危機管 理活動」,「管理的活動」等,高度で広域的なマネジ メントが必要な活動に関する能力は,課長級以上の 職位とのみ有意な関連があったことから,これら能 力の獲得には職位付随的な経験が関連すると考えら れた。 その他の個人特性のうち,保健師基礎教育はいず れの能力とも有意な関連が示されなかったが,就業 後の進学は,「健康危機管理活動」,「管理的活動」, 「保健師活動基盤」と有意な関連が示された。保健 師基礎教育と進学の違いは,学習の基盤に保健師経 験があるかどうかである。つまり,進学と有意な正 の関連のあったこれらの能力に関しては,保健師と しての実践経験や管理職経験を,大学院等での教育 を通じて,理論的な基盤に照らし合わせて振り返る 経験学習22)の機会があることが,キャリアレベルの 到達度の高さに関連する可能性があると考えられる。 自治体特性との関連 自治体特性に関しては,保健師人数が50人未満の 自治体と比べ150人以上の自治体で「地域支援活動」 が有意に高かった。一方で,「健康危機管理活動」 は100149万人の自治体で,「保健師活動基盤」は 150万人以上の自治体で有意に低かった。「地域支援
活動」と保健師人数の関連に関しては,都道府県, 特別区・保健所設置市など,比較的保健師数が多い 職場で,人材育成を意識した計画的な人事異動の実 施割合が高いとの調査結果4)がある。中でも「地域 支援活動」に関しては,先述のとおり,各自治体で 新任期のうちに能力獲得できるよう取り組みを進め ていることが報告されていることから,保健師数の 多さと「地域支援活動」の到達度の高さとに関連が 示されたと考えられる。 その他の自治体特性である,ガイドライン,人材 育成担当部署,統括配置の有無に関しては,いずれ の専門的能力とも有意な関連は示されなかった。 2017年に日本看護協会が実施した調査では23),約 7 割の都道府県が保健師の人材育成計画を作成するな ど,各自治体で組織的に人材育成を進める動きがあ ることが報告されている。本調査では,こうした各 自治体で推進されている人材育成体制整備の現状を 裏付ける結果は示されなかった。人材育成の効果が 表れるには一定の時間が必要であり,また,本研究 は横断研究であるため,本研究結果だけで,人材育 成の体制整備の状況と能力獲得との関連を説明する ことはできない。今後は,各自治体における人材育 成体制整備の状況と,その効果を評価することで, 人材育成体制にかかる情報を収集,蓄積していくこ とが必要になると考えられた。 . 専門的能力の現状と関連要因を踏まえた人材 育成の在り方 キャリアレベルの到達度が低かった能力は,「健 康危機管理の体制整備」や「保健師活動の基盤◯」 など,通常の職務において実践機会を得にくい能力 であることが示された。このうち,健康危機管理能 力,中でも自然災害にかかる対応能力に関しては, シミュレーション型の研修プログラムの開発とその 実践報告などもなされている24)。このように,通常 の職務を通じて経験しにくい能力の獲得に向けて は,業務以外の場で,実践経験を代替する学習機会 を整備すること,またこのような保健師の専門的能 力の特性に応じた人材育成方法の開発が必要になる と考えられる。 また,「対人支援活動」と「保健師活動基盤」以 外の専門的能力は,課長級以上の職位との関連がみ られ,これらの能力の獲得には,保健師経験の長さ だけでなく,管理職経験など,職位に付随した経験 の内容が影響する可能性が示唆された。つまり職位 付随的な活動を通じてのみ得られる経験が,保健師 の専門的能力のうち,より高度で広域的なマネジメ ントに関連する専門的能力の獲得に関連する可能性 である。これらの専門的能力を獲得するために,保 健師個々が管理職に就くための努力をすることは必 要になると考えられる。ただし,職場環境等によ り,必ずしも管理職に就くことができない保健師も 存在すると推察される。このため,組織の人材育成 として,保健師が一つ一つの経験の意味を振り返 り,経験から学ぶことができるような機会,つまり 経験の質を高めることができるような学習機会を整 備することが重要になると考えられる。経験の質を 高める学習が保健師教育において重要であること は,これまでにも指摘されており,そのための教育 プログラムも開発されている25)。しかし,それは看 護基礎教育や新任期の教育を想定して開発されてい るものであり,保健師の管理的能力を強化するため の教育プログラムの報告は少ない。したがって,今 後は,管理的能力に関する経験の質を高めるための 研修機会を,都道府県あるいは全国レベルで整備す ることも必要になると考えられる。 さらに,本研究結果からは,保健師経験1019年 の保健師の自己評価が低く,その一方で,管理職に 就いた保健師は自己評価が高くなることが示され た。保健師個々の能力の獲得状況を把握することが できれば,専門的能力の発達が停滞を迎えている保 健師に,管理者になるためのギャッチアップ要件26) を満たすためのサポートを行うことも可能になると 考えられる。現在,多くの自治体では,保健師経験 年数に応じて,所属する保健師を新任期,中堅期, 管理期等に分類して研修等を整備している。しか し,本研究結果において,専門的能力の到達度には 保健師経験年数だけでなく,進学や前職歴の有無, 管理職経験等が関連することが示された。ゆえに, 今後は,個々の保健師の専門的能力の現状を能力ご とに把握するとともに,経験年数のみならず,その 他の関連要因も考慮に入れ,専門的能力の段階に応 じた発達を支援するための仕組みを構築することが 必要と考えられた。 . 研究の限界 本研究の対象は,科学院の研修受講生を対象とし ていたため,全国平均に比べ都道府県の保健師や, 職位が高い保健師が多かった。このため,本研究結 果は全国の自治体保健師の能力の平均的な現状を示 したものではない。加えて,科学院の公衆衛生看護 研修の受講者数の定員の違いから,本研究の対象と なった保健師数は中堅期,管理期,統括保健師研修 の順に多く,またそれぞれの研修の受講者の保健師 経験年数や職位などの属性には有意な差が見られた ことから,単変量解析における絶対数の割合は,母 集団の推定値を示すものではないと考えられる。 加えて,本研究で用いたキャリアラダーの各項目
は,自治体保健師の能力を測定するための尺度開発 を意図して作成されたものではないため,本研究結 果が,能力の現状を適切に測定しているとは言えな い。米国では,保健師の実践,教育に関わる組織横 断的な研究者らが,保健師に求められるコンピテン シーを特定し,継続的に見直しを行っている27)。ま た,それに合わせて測定用具の開発も段階的に進め られている28,29)。わが国でも,系統的な保健師人材 育成に向けて本キャリアラダーを活用するために は,今後,内容の改善や測定用具の開発が必要にな ると考えられる。 以上の本研究の限界を踏まえ,今後,保健師の能 力の現状把握や,その結果に基づく人材育成の体系 化に向けて,今般示されたキャリアラダーの構成概 念妥当性の検討や,尺度開発とその妥当性と信頼性 の検討など,さらなる研究を発展させていくことが 必要になると考える。
結
語
本研究では,厚労省の自治体保健師の「標準的な キャリアラダー」に即して,自治体保健師の能力の 現状を明らかにするとともに,能力の関連要因を検 討した。 その結果,「対人支援活動」を構成する「個人及 び家族への支援」や「集団への支援」は,ほかの専 門的能力と比較し A4 以上に到達していると回答し た者が多く,「健康危機管理の体制整備」と「保健 師活動の基盤◯」は A4 レベルに到達していると回 答した者が少なかった。また,A4 以上のキャリア レベルの到達度の関連要因として,経験年数30年以 上の保健師と比べ,1019年の者は「対人支援活 動」,「地域支援活動」,「事業化・施策化活動」,「健 康危機管理活動」,「保健師活動基盤」の到達度が有 意に低く,2029年の者は「管理的活動」で有意に 低かった。また職位では,係員に対し課長級以上は 「地域支援活動」,「事業化・施策化活動」,「健康危 機活動」,「管理的活動」で有意に到達度が高く,係 長級は「地域支援活動」と「保健師活動基盤」で有 意に高かった。進学歴は「健康危機管理活動」,「管 理的活動」,「保健師活動基盤」と,前職歴は「対人 支援活動」,「事業化・施策化活動」と有意に正の関 連があった。 本研究は,対象の代表性と,質問紙の妥当性・信 頼性に限界があるものの,「標準的なキャリアラ ダー」に照らし合わせて自治体保健師の能力を明ら かにした初めての研究であり,保健師の系統的な人 材育成に資する基礎的な情報として,能力の現状と その関連要因を示すことができた。 本調査の実施にあたり,調査にご協力いただいた2016 年度国立保健医療科学院公衆衛生看護研修(統括保健師, 管理期,中堅期)受講者の皆様に深く感謝する。また, 横山徹爾先生(保健医療科学院),藤井仁先生(目白大学) 松本珠実氏(大阪市)には本稿執筆にあたり貴重なコメ ントをいただいた。ここに感謝申し上げる。 本研究は,第76回日本公衆衛生学会総会の発表内容に 加筆修正したものである。なお,本研究において開示す べき COI 状態の企業等はない。(
受付 2017.11.10 採用 2018. 9.25)
文 献 1) 厚生労働省.地域における保健師の保健活動指針. 健発0419第 1 号.平成25年 4 月25日付け.2013. 2) 厚生労働省.保健師に係る研修のあり方等に関する 検討会最終とりまとめ~自治体保健師の人材育成体制 構築の推進に向けて~.2016. 3) 奥田博子.保健師の人材育成計画策定ガイドライ ン.厚生労働科学研究費補助金地域健康危機管理研究 事業「地域保健に従事する人材の計画的育成に関する 研究」資料.2016. 4) 日本看護協会.保健師の活動基盤に関する基礎調査 報告書.平成26年度厚生労働省先駆的保健活動交流推 進事業.2015. 5) 塩見美抄,岡本玲子,岩本里織.事業・社会資源の 創出に関する保健師のコンピテンシー評価尺度の開発 信頼性・妥当性の検討.日本公衛誌 2009; 56: 391 401. 6) 岡本玲子,岩本里織,塩見美抄,他.保健師の専門 性発展力尺度の開発と信頼性・妥当性の検証.日本公 衛誌 2010; 57: 355365. 7) 岩本里織,岡本玲子,塩見美抄.「公衆衛生基本活 動遂行尺度」の開発と信頼性・妥当性の検証 保健師 の全国調査結果から.日本公衛誌 2008; 55: 629639. 8) 松坂由香里,荒木田美香子.行政保健師の家族支援 実践力尺度の開発―信頼性・妥当性の検討―.家族看 護学研究 2017; 22: 7486. 9) 鳩野洋子,岡本玲子,長野扶佐美,他.保健活動の 成果をみせる行動実践尺度の開発.日本看護研究学会 雑誌 2014; 37: 5561. 10) 鈴木由里子,田高悦子.行政保健師の施策化能力評 価尺度の開発.日本公衛誌 2014; 61: 275285. 11) 成木弘子,松本珠実,奥田博子,他.国立保健医療 科学院における保健師人材育成体制の現状と今後の取 り組み.保健医療科学 2016; 65: 501509. 12) 佐伯和子,和泉比佐子,宇座美代子,他.行政機関 に働く保健師の職務遂行能力の発達―経験年数群別の 比較―.日本地域看護学会誌.2004; 7: 1622. 13) 野中茂子,松田正巳.市町村保健師の専門的能力の 認 知 と そ の 関 連 要 因 . 保 健 師 ジ ャ ー ナ ル 2009; 65: 484492. 14) 厚生労働省.平成28年度の保健師活動調査.2016. 15) 藤本あゆみ.地区担当制を基本とした「地域に責任をもつ保健活動」大津市の取り組み.保健師ジャーナ ル 2015; 71: 924930. 16) 麻原きよみ.保健師活動と根拠(エビデンス).地 域保健 2016; 3: 1017. 17) 鳩野洋子,嶋津多恵子,丹野久美,他.公衆衛生看 護の日常活動・実践研究における倫理に関する実態調 査 の 結 果 報 告 . 公 衆 衛 生 看 護 学 会 誌 2016; 5: 266 272. 18) 岩村龍子.災害対応における看護職が果たす役割・ 機能と役割・機能を発揮するために必要な能力.岐阜 県立看護大学紀要 2014; 14: 6171. 19) 若杉早苗,鈴木知代,仲村秀子,他.自治体保健師 の健康危機管理実践能力と災害の対応・学習経験との 関連ミニマム・リクワイアメンツ質問紙調査を活用 した検討.東海公衆衛生雑 2017; 5: 128136. 20) 平野美千代,平野憲子,和泉比佐子,他.地域保健 活動における中堅保健師の自信のなさ精神障害者支 援を展開した保健所中堅保健師のインタビューを通し て.日本地域看護学会誌 2007; 10: 6671. 21) 松尾 睦,岡本玲子.保健師の経験学習プロセス. 国民経済雑誌 2013; 208: 113.
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29) Reckinger D, Cross S, Block DE, et al. Public health nursing competency instrument: scale reduction and reliability of factors. Public Health Nursing 2013; 30: 566574.
Competencies and the related factors of senior administrative public health nurses:
a study based on the ``standardized career ladder''
Satoko HORII,2, Hiroko OKUDA2, Chie KAWASAKI2, Eri OSAWA2,
Yumiko MORINAGA3and Hiroko NARUKI2
Key wordsadministrative public health nurse, professional competency, career ladder, capacity development
Objectives This study aimed to explore the competencies and related factors of administrative public health nurses(PHNs) based on the ``standardized career ladder.''
Methods A self-administered questionnaire survey was conducted with PHNs at mid-career, manager, and supervisor levels. They were recruited from among participants of training courses in public health nursing carried out by the National Institute of Public Health in 2016. The items of the question-naire were developed based on the ``standardized career ladder.'' Univariate and multiple logistic regression analysis were performed to explore the related factors at the A4 or higher level of profes-sional competence according to the ``standardized career ladder''.
Results Valid responses received from 94.4 of 178 samples were subjected to analysis. More than 70 reported A4 or higher level of competence on ``interpersonal activities,'' such as ``support to individ-uals and families'' and ``support for the group.'' Less than 50 reported A4 or higher level of com-petence on ``health crisis management'' and ``nursing foundation1.'' PHNs with 1019 years of ex-perience had signiˆcantly lower odds ratio of the competencies for ``interpersonal activities,'' [OR= 0.03, 95CI (0.010.26)], ``community support activities,'' [0.13 (0.030.70)], ``formulation of activities and policies'' [0.07, (0.010.43)], ``health crisis management activities'' [0.17 (0.04 0.92)], and ``foundation of public health nursing activities'' [0.14 (0.030.70)] than PHNs with 30 years of experience. PHNs who were directors or at higher career levels had signiˆcantly higher odds ratio of the competencies for ``community support activities'' [8.75 (1.9040.31)], ``formulation of activities and policies'' [12.54 (2.2071.69)], ``health crisis management activities'' [9.86 (2.27 42.84)], and ``management activities'' [7.08 (1.4135.68)] than staŠ level PHNs. PHNs who were at the chief level had signiˆcantly higher odds ratio of the competencies for ``community support ac-tivities'' [4.48 (1.3115.42)] and ``foundation of public health nursing activities'' [3.26 (1.05 10.16)]. Continuing education was positively associated with the competencies for ``health crisis management activities,'' ``management activities,'' and ``foundation of public health nursing activi-ties.'' Previous job experience was positively associated with the competencies for ``interpersonal ac-tivities'' and ``formulation of activities and policies.''
Conclusion The competency level of senior PHNs and related factors diŠered according to type of profes-sional competency. Individual characteristics including duration of PHN's career experience, managerial post, previous job experience, and continuing education were associated with A4 or higher level competencies. The ˆndings suggest that the attainment level and factors in‰uencing competencies of PHNs should be considered to establish a capacity development program.
Project for Strengthening Clinical Training System for New Graduate Nurses, JICA Vietnam
2National Institute of Public Health 3School of Nursing, Kagawa University