は じ め に 腰椎椎間板内に生じるガス像は vacuum phenome-non として知られておりその成分は主に窒素だと報告 されている.vacuum phenomenon は高齢者の腰椎 X-p においてよく見られる所見であり通常は臨床症状 と無関係であることが多い.今回我々は右 L3 の神経 根症状を呈し,その責任高位の椎間板および隣接する 脊柱管内に巨大なガス像を認める症例を経験したので 文献的考察を加えて報告する. 症 例 呈 示 症例:82 歳女性 主訴:右大腿部痛,しびれ 既往歴:特記事項なし 現病歴:特に誘因なく右大腿部痛,しびれが生じ歩 行困難となった.知覚低下(-),下肢筋力低下(-), SLR(-/-),FNST(+/-),PTR(+/+),ATR (+/+),Babinski(-/-),clonus(-/-) ADL:一人暮らしで自立 初診時 X-p:L2/3 椎間板の狭小化,vacuum phe-nomenon(+),L4 前方すべり症(図 1) MRI:L2/3 腰椎椎間板ヘルニアを疑う所見(図 2). この症例に対して右 L3 神経根ブロックを施行した ところ右大腿部疼痛は消失した.しかし後日右大腿部 痛が再発したため手術の希望あり精査加療目的で入 院. 脊髄造影検査:L2/3 右側に造影欠損像(図 3) ミエロ CT:L2/3 腰椎椎間板ヘルニアと脊柱管内を 占拠するガス像.硬膜が強く圧排されている(図 4). 術中所見:棘突起縦割式で展開.椎弓を掘削し両側 の黄色靱帯を除去して硬膜を露出させた.癒着や皮膜 を有した嚢胞は認められなかった.ガスが存在してい たと思われる硬膜の部位は一部陥凹しており強い圧迫 管を占拠したものと考えられた.
Key words: gas herniation(ガスヘルニア), vacuum phenomenon(バキューム現象), radiculopathy (神経根症状)
* 種子島医療センター整形外科
** 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科運動機能修復学整形外科学
図 1 腰椎 X-p:L2/3 にわずかに vacuum phenom-enon(+),L4 腰椎すべり症
図 2 腰椎 MRI:L2/3 腰椎椎間板ヘルニアを疑う所見
図 3 脊髄造影検査:L2/3 右側に造影剤欠損像
があったものと推察された(図 5).硬膜表面に付着 した組織を一部採取して病理検査に提出した. 病理所見:粘液状変性した椎間板組織と靱帯組織の 所見.炎症細胞の浸潤は認めなかった(図 6). 術後経過:術後より右大腿部疼痛は消失.術後 3 日 でドレーン抜去し歩行訓練開始.歩行時疼痛もなく経 過良好.術後 4 週で自宅退院となった. 術後 X-p,CT:脊柱管内のガスが消失しているの を確認した(図 7). 考 察 椎間板内にガスが生じる現象は vacuum phenome-non と知られているがその成分は主に窒素であるとさ れる3).この椎間板腔内のガスが脊柱管内に侵入して ガスヘルニアが発症すると考えられている2).すなわ ち椎間板の変性に伴って椎間板内にガス(vacuum phenomenon)が発生しかつ同部位に transligamen-tous や sequestration タイプの椎間板ヘルニアが生 じ,ガスが後縦靱帯を穿破した線維輪と共に脊柱管内 図 7 術後 X-p CT:ガス像の消失を確認 図 5 術中所見:硬膜の右側が一部陥凹している所見 ガス像周囲の組織を採取して病理提出 炎症細胞の浸潤などは見られず
に逸脱してガスヘルニアを形成するものと推察されて いる(図 8).本症例でも手術で椎間板内操作を加え ていないにもかかわらず硬膜付近から椎間板組織が検 出されており,椎間板腔内のガスが椎間板組織と一緒 に脊柱管内に脱出したものと思われる.ガスヘルニア の症例報告では好発年齢が 50 代以上,特に L4/5 と L5/S1 でおよそ 80% を占めるが L2/3 レベルはおよ そ 6 % であり非常に稀である5).本症例で L2/3 レベ ルにガスヘルニア生じた原因については明らかではな い.L2/3 の前後で骨増殖整の変性等所見があるわけ ではないため L2/3 の局所に応力が集中することは考 えにくい.また動態の X-p でも L2/3 に不安定性を示 唆する所見はなかった.むしろ不安定性については L4/5 の方がすべり症も認められているためそちらの 方がより不安定であると言える.不安定性とガスヘル ニアの関連については諸家の報告において一定の見解 は得られていない.しかしガスヘルニアの発生につい ては椎関関節の変性による腰椎不安定性よりも椎間板 そのものの強い変性が関与している可能性が本症例か らは示唆される.一般的にガスヘルニアの診断にはレ ントゲンや MRI よりも CT が有効といわれている4). MRI でもガスヘルニアでは通常のヘルニアよりも T1,T2 強調画像でより low に描出されることが多く 本症例でもヘルニアよりも low の所見を呈していた. しかし CT ではヘルニア塊と目された部分に一致して air density を確認することが出来るためより容易に 確定診断が可能となる.ガスが増大する機序としては 椎間板腔内からチェックバルブ機構が形成され脊柱管 内に一方的にガスが流入していると考えられており自 然退縮,自然治癒は期待しにくいことが予想される6). 諸家の報告によるとガスヘルニアの治療については CT ガイド下での穿刺のみでよいとする報告も散見さ れるものの再発例1)も多いとされ外科的な治療が推奨 されている. 結 語 脊柱管内を占拠するガスによって神経根症状を呈し た症例を経験し手術を行い良好な結果を得た.脊柱管 内ガス像の病態には椎間板内の vacuum phenome-non と後縦靱帯を穿破した椎間板ヘルニアが関与し ていると考えられた. 参 考 文 献
1) Bosser, V., et al.: L5 radicular pain related to lumber extradural gas-containing pseudocyst; role of CT-guided aspiration. Neuroradiology, 31:552-553.
2) Chiba, K., et al.: Intraspinal cyst communicating with the intervertebral disc in the lumbar spine: 図 8 本疾患の病態:椎間板内で vacuum phenomenon(ガス)が形成されガスが後縦