Title
メタンハイドレートの高圧物性に関する研究( 本文(Fulltext)
)
Author(s)
熊崎, 達也
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 甲第236号
Issue Date
2004-06-16
Type
博士論文
Version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/1957
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。メタンハイドレートの
高圧物性に関する研究
StudiesonMethaneHydrates
underHighPressure
平成1`年4月
April,2004
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ハヽヽ照十(工学)甲乙うら
崎達也
TbtsuyaKumazaki
\メタンハイドレートの高圧物性に関する研究
目
次
序-1本研究の背景および目的 序-2 ガスハイドレートについて 序-3 本論文の構成 参考文献 第一部 メタンハイドレートの高圧ラマン散乱 第1章 高圧ラマン散乱 1-1 はじめに 1-2 ラマン散乱の原理 ト3 基準振動 ト4 ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC) 1-5 圧力測定法 第2章 実験方法 2-1 はじめに 2-2 試料の封入方法 2-3 単結晶作製手順 2-3-1メタンハイドレート高圧Ⅰ相単結晶作製 2-3-2 メタンハイドレート高圧Ⅲ相単結晶作製 2-4 ラマン散乱測定装置 第3章 実験結果および考察 3-1 はじめに 3-2 高圧力下メタンハイドレートの顕微鏡観察 3-3 高圧力下メタンハイドレートのその場ラマン散乱測定と 相転移 3-4 まとめ 参考文献 6 6 9 10 11 12 12 14 14 16 17 24第二部 メタンハイドレートの高圧ブリュアン散乱 第1章 高圧ブリュアン散乱 1-1 はじめに ト2 ブリュアン散乱 ト3 DAC中のブリュアン散乱 1-4 立方晶結晶のブリュアン散乱解析法 第2章 実験方法 2-1 はじめに 2-2 ブリュアン散乱用メタンハイドレート単結晶作製手順 2-3 ブリュアン散乱測定装置 第3章 実験結果および考察 3-1 はじめに 3-2 ブリュアン散乱スペクトル 3-3 フィッティング結果 3-4 弾性定数と密度の比の圧力依存性 3-5 ケージ占有率と弾性定数の圧力依存性 3-6 弾性的異方性 3-7 まとめ 参考文献 総 括 謝 辞 著者略歴 本学位論文に関する発表論文リスト 26 26 28 30 39 39 40 41 43 45 47 49
序
序-1本研究の背景および目的 ガスハイドレートとは、水分子が水素結合して形成するカゴ状フレームの中 に気体分子が取り込まれた氷状の固体物質である[1]。メタンを主成分とする天 然ガスハイドレートが、大陸棚や深海底、あるいは極域永久凍土地帯など地球 上の広い範囲に存在することが明らかになっており、わが国近海においても国 の基礎調査坑井の掘削探査により、深度300m程度以深の海底地層中に、それ らが大量に存在することが明らかにされつつある。その膨大な埋蔵量と、石油、 石炭に比較して地球温暖化への影響が小さいという理由から、メタンハイドレ ートが新しいエネルギー資源として注目を集めている。 メタンハイドレートは低温高圧(氷点付近の温度と水深300m程度以深に相 当する圧力)のもとで安定に存在するが、温度・圧力の変化に対して非常に敏感 である。また、メタンガスが二酸化炭素の二十数倍ともいわれる温室効果ガス であることから、環境問題の観点からはメタンハイドレートは両刃の剣であり、 高圧力下の海底などに存在するメタンハイドレートの掘削、採取など開発の可 能性を探る上で、高圧基礎物性に関する研究は重要である。 一例として、海底のハイドレートの存在および埋蔵量の推定には地震波測定 によるBSR(BottomStimulatingReflector:海底擬似反射面[2])の探査が行われる が、これから定量的な議論をおこなうためにはハイドレートの弾性的性質(音速、 弾性定数、体積圧縮率など)を知らなければならない。またハイドレートをエネ ルギー資源として採掘、利用するためにはハイドレートの熱的および機械的性 質の把握が必要である。 しかし、これまでメタンハイドレートの弾性的性質に関しては、Kie氏e ら (1985)[3】がブリュアン散乱測定によりメタンハイドレートを含むいくつかのガ スハイドレートの縦音響(LA)モードの平均音速の決定を行っているのみで、精 密な弾性的性質に関する評価はされていないのが現状である。 本研究では高圧力発生装置ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)を用いて メタンハイドレート単結晶試料を作製し、ラマン散乱およびブリュアン散乱等 の光散乱測定により、その弾性的性質・力学的構造安定性を精密に評価するこ とを目的とする。序-2 ガスハイドレートについて 水に気体分子を溶解させ低温高圧力下の環境に置くことで、通常の水の固体 結晶とは異なる疎水性の水和物結晶が生成する。水と気体分子からなるこの結 晶は、水分子によって作られるカゴ(ケージ)に気体分子が包接される構造を とっている。これをガスハイドレート(gasby血如es)あるいはクラスレートハ イドレート(clathratehydrates)と呼ぶ。ここで水分子をホスト分子、取り込ま れるガス分子をゲスト分子と呼ぶ。そしてゲスト分子の存在が、氷の構造とま ったく異なるガスハイドレートの構造を可能にしている。このゲスト分子にな る気体には様々な物質が存在するが、その多くは水に対して低い親和性を示す。 Fig.序ユ1[4】に示すようにゲスト分子の大きさにより形成されるハイドレート の構造に違いが生ずる。
3
45
6
7ゲスト分子の直径(Å)
Fig.序.2.1ゲスト分子の大きさとガスハイドレートの構造現在分かっている主なハイドレートの構造はFig.序.2.2【5]に示すように、 構造Ⅰ(sI型)、構造Ⅱ(sⅡ型)および構造H(sH型)である。SI型は、正 5角形12個からなる12面体【512】(Sケージ)が体心立方格子の各格子点に位置し、 正5角形12個及び正6角形2個からなる14面体[512,62】(M-ケージ)がその隙間 を埋める体心立方晶構造をとり、SⅡ型では、正5角形12個及び正6角形4個 からなる16面体[512,64】(しケージ)がダイヤモンド格子を形成し、12面体[512】(S- ケージ)がその隙間を埋める構造になる。またsH型は2種類の12面体【512】(S-ケージ)および【43,56,63】(M,-ケージ)と20面体【512,68】(L,-ケージ)の3種類のケ ージから構成される六方晶である。恥ble序.2.1【1,6】に3種類のハイドレートの 各構成ケージの種類と、その大きさを示す。ハイドレートを構成するケージの 大きさ、すなわちケージ内部空間サイズの違いから、その中に取り込まれたゲ スト分子の挙動に相違が生じるため、ラマン散乱測定による情報からケージサ イズを読み取ることができる。
/
Structurel ヰ61〃a鴨rMotecules ヰ35663↓T
StructureH\
StructureIl 136ⅥねterMolecul∼S 341〟aterMolecules Fig.序.2.2 ハイドレートの構造とケージ構成Thble序.2.1ハイドレートを構成するケージとその大きさ Hy血如宕
S廿uchlreI ShlChlrell Sけuctl∬eH
Prop叫 (sI) (sIl) (sH)
Ca血吋りp¢ Mil鵜(Å) C喝eS /ulitcem E20 molecules/cel】 Cryst山中pe 51ヱ 51ヱ♂ 51∠ 51ヱ♂ 51Z 4j586J 51ヱ6葛
(S-Cage)(M-Cage) (S-Cage)(L-C喝e) (S-Cage)(M'-Cage)(L'-Cage)
3.954.33 2(i 46 CubicMn (b∝) 3.914.73 168 136 CubicFd3m (d血I10nd) 3.914.0(i5.71 321 34 Ⅲexagonal La仕ice cons伽ts(Å) 〃=12 α=17.3 α=12.26;C=10.17 Fig.序.2.3【7】に本研究の対象となるメタンハイドレートのsI型構造とその 中に取り込まれたゲスト分子の概念図を示す。灰色丸がケージを構成するH20 の酸素原子の位置を、黄色丸がゲスト分子を示す。 (〉 む 一〇 0 0◎ 一0◎ 0∂ 000
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¢.?」チ㌧-&♂
0享8 ムO b■・や ♂ 0 ■㍉0〝 0 00 Fig.序.2.3 ハイドレート構造sI型 ◎ 酸素原子○ゲスト分子
sI型の単位格子は2個のS包接かご(5角形12面体で構成される)と、6 個のM包接かご(5角形12面と6角形2面で構成される)で構成される。こ れらのかごにゲスト分子CH4がそれぞれ1個づつ全て充たされたものがメタン ハイドレート(CH4・5.75H20)である。序-3 本論文の構成 本論文の構成は二部からなり、第一部では高圧ラマン散乱測定の原理及びメ タンハイドレート単結晶の作製方法および、作製した単結晶を用いた高圧ラマ ン実験手順について説明し、実験結果と考察において、ラマン散乱スペクトル の測定結果よりメタンハイドレート単結晶のMH-SI→MH-II→MH-Ⅲ相への 圧力誘起による相転移を観測・確認し、その特徴を詳述する。 第二部ではブリュアン散乱測定の原理及び実験手順について説明し、実験結 果と考察において、ブリュアン散乱測定により、メタンハイドレート単結晶の MH_SI立方相の、圧力0.58GPaまでの各方向の音速、3つの弾性定数、体積 弾性率、弾性的異方性等の圧力依存性について詳述する。 最後に本論文の結論について要約する。 参考文献 [1]E.D.Sloan‥ClathrateLb/dⅥteQf肋tuTdGases,2ndEd.(MarcelDekkeちNew York,1998). [2]松本良,奥田義久,青木豊‥メタンハイドレート・21世紀の巨大天然ガ ス資源,日経サイエンス,(1994)253. [3]H.KieRe,M.J.ClouteちRE.Gagnon:J,Phys・Chem・,$9(1985)3103・ [4】荒田洋治:水の書,共立出版(1998)・ [5]A.A.Khokhar,J.S,Gudmundsson,E.D.Sloan‥FluidPhaseEquilibria,150-151 (1998)383-392. [6]S.Subramanian,R.A.Kini,S.F.Dec,E・D・Sloan‥ChemicalEngineeringScience, 55(2000)1981-1999・ [7]E.Suessetal.:日経サイエンス,74(2000)3・
第一部
第1章
高圧ラマン散乱
ト1 はじめに ラマン分光法は、分子からのメッセージである分子振動を読み取る手段とし て古くから赤外分光法とともに利用されてきた。ラマン散乱測定により分子の 振動スペクトルを観測することで得られたラマン散乱ピークは、分子に照射し たレーザー光の周波数から分子の振動周波数分だけシフトした位置に現れるた めに、そのシフト量を測定することで分子の振動構造を知ることができる。そ れによって分子の構造安定性、相転移などが評価でき、物質の基本的性質の情 報を得ることが可能である。 1-2 ラマン散乱の原理 分子に可視∼紫外領域の光を照射すると光は分子によって散乱される。この 散乱光には振動数〝0の入射光のはかに、振動数〝0±〝の非常に弱い光が観測さ れる。この現象をラマン(Raman)散乱という。ここで、2原子分子をモデルにラ マン散乱の原理について考える。入射光の電場gを E=E。COS2花ソoJ (11-1) のように表すと、このEによって誘起される分子の分極Pは、 P= αE=αちCOS2花ソ。f (11々) となる。ここでαは分子の分極率である。2原子分子が、振動数〝で微小振動し ているとすると、2原子間平衡距離からの変位ヴは、 q=伽COS2花ソr (11づ) と表せる。一般に、分極率αは分子の振動によって揺らいでいるので、αは♂ によって展開できる。αのマクローリン展開は、α=α0鴎レ去(軌2・去(諾ぃ3・A
(114) のように表される、qが小さい場合には2次以上の項は無視してもよいので、α=α0璃)。鞘・(莞)。紳Vr
(11j) となる。よって、誘起される分極Pは、式(11j)を式(1つ1)に代入して、P=αoEocos2冗Vo汁
=α。E。COS加v。什三
qoEocos27TVotCOS27TVtq。E。kos2冗(v。+V)t+COS2n(v。-V)t]
(1々■) と表せる。右辺の第1項は、入射光と同じ振動数yoの散乱光(Rayleigh散乱光) を表し、第2項は、分子の振動数だけ入射光の振動数からシフトした散乱光を 表している。振動数L/0+L/の光をanti-5tokes散乱光、振動数ソ。-L/の光をStokes 散乱光と呼ぶ。(Fig.1.2.1) 以上のことから、ラマン散乱を観測することによって物質を構成している分 子の振動数を知ることができる。また、式(1蔓j)よりラマン散乱が起こる条(莞)。≠0
(11プ) である。つまり分子が振動変位したときに分子の分極率が変化する必要がある。 分子の振動モードがこの条件を満たすときラマン活性であるといいラマン散乱 が観測される。これに対してこの条件を満たさないときはラマン不活性である という。 anti一名tokes散乱光はStokes散乱光に比べて強度が非常に弱く、シフトが大きく なるにつれて観測が困難になるので、我々は、通常Stokes散乱光を観測する。 強度が弱くなる理由は量子力学的に説明できる。ラマン散乱は入射光(フォト ン)と分子振動(フォノン)の間のエネルギー交換による現象と考えることが できる。このエネルギー準位をFig.1.2.2に示す。本研究で用いる可視額域の入 射光では、電子の励起エネルギーには足りないので、電子は瞬時に仮のエネル ギー準位に励起され、直ちに基底準位に戻る。このとき分子がもとの準位より 高い準位に遷移するならば、2準位間のエネルギー差だけ振動数の低い光が散乱 される(Stokes散乱光)。また、もとの準位より低い準位に遷移するときには、 逆にエネルギーの差だけ振動数の高い光が散乱される(anti,Stokes散乱光)。各 エネルギー準位に分布する分子数の比は、Maxwell-Boltzmann分布に従い、告=e出汁排eヰ富]
(11欄) と表される。エネルギー準位筏、Elの状態にある分子の数をそれぞれ賄、Ⅳ1 とし、El-Eo=hy、kはBoltzmann定数、Tは絶対温度、hはブランク定数、C は光速である。antiTStokes散乱光とStokes散乱光の強度はそれぞれNl、Nbに比 例するため、式(11欄)は両者の強度比となる。この式より振動数〝(波数〝) が大きくなるにつれてanti一名tokes散乱光の強度がStokes散乱光に比べて非常に 弱くなることがわかる。 倉su¢lu一 Fig.1.2.1ラマンスペクトルの例 仮の励起状態
J
> ソ0 ●■ ■ ■ ■● ● ソ0 ソ Rayleigb光 ソ0 ソ0 ソ ソ0 ■ ■ ■■ ■ ■ ■ ソ ソ Stokes光 Fig.1.2.2 量子力学的な模式図 anti・Stokes光ト3 基準振動 本研究ではメタンハイドレートを形成するH20およびCH4分子の基準振動を 予め把握する必要がある。分子の対称性に関する群論より、CH4とH20分子の 期待されるラマンスペクトルと実際に観測される振動数は次のとおりである。 CH4分子は正四面体の構造(点群Td)であり9つ(3×5-6=9)の基準振動 モードを持つが、分子の対称性から1つの全対称振動(Al)、1つの2重に縮退 した振動(E)および2つの3重に縮退した振動(F2)の4つの振動モードにな る。全てラマン活性であり、それぞれvl,V2,V,,V。と名付けTablel.3.1[1]に実 際に観測される4つの振動モードの基準振動数を示す。 H20分子は二等辺三角形の構造(点群C2v)であり、2つの対称振動(Al)と 1つの非対称振動(Bl)の3つ(3×3-6=3)の基準振動モードを持つが、後者 はラマン不活性である。これらをそれぞれvl,γ2,γ3とし、同様にTablel.3.2[1] に基準振動数を示す。参考にTablel.3.3[2]にH20の各相におけるラマン周波数 の一覧を示す。 「hblel.3.1CH4の基準振動数 振動モード 振動数(cm 1) γ1(Al) 2914 γ2(E) 1533 γ。(F2) 3018 γ4(F2) 1306 恥blel.3.2 H20の基準振動数 振動モード 振動数(cm-1) vl(Al) 3210 γ2(Al) 1650 γ3(Bl) 3430 恥blel.3.3 H20各相におけるラマン周波数 単位:波数(cm●1) 振動モード 水蒸気 氷Ih 氷Ⅲ 氷Ⅲ 氷Ⅴ 氷Ⅵ 氷Ⅶ 水 0-H伸縮 変角 3655
い595
3085 3194 3159 3181 3204 3348 3210 3210l1650
3314 1690 3281 1690 3312 1680 3440 3470 3430l1650
格子振動 225 ∼151 169 160∼ 200 260卜4 ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC) 本研究ではブt」ッジマン対向型アンピルと呼ばれるダイヤモンド・アンピ ル・セル(以下DAC)を使用した。その構造をFig.1.4.1に示す。原理は単純で、 二つの向かい合ったダイヤモンド・アンピルで金属ガスケットを挟み込むこと によって高圧力を発生させている。 圧力Pは、
P=言(F九摘積)
(14-1) で定義される。DACでは加圧面積ぶを小さくすることにより高圧力を得る。微 小な面積に過大な圧力を発生させるため、この部分に最も硬い物質であるダイ ヤモンドを用いている。そのため、小さな力で数GPa(1GPa=約1万気圧)と いう非常に高い圧力を簡単に発生させることが可能になっている。 上台座 下台座 試料室 \\ぐ/ \ 引きねじ センタリング用 ねじ ニードル・ベアリング Fig.1.4.1ダイヤモンド・アンビル・セル (DAC) DACは、小型軽量ながら超高圧 を簡単に発生でき、Ⅹ線、可視光 線、赤外線に対して透明なダイヤ モンド・アンピルを用いているの でラマン散乱、ブリュアン散乱な どの光散乱実験にも適している。 さらに顕微鏡下での結晶の成長過 程や相転移の観測も容易におこな えるという利点があげられる。一 方、加圧面積が小さいために体積 の大きな試料を得ることができな いという欠点もある。1-5 圧力測定法 DAC試料室内の圧力測定[2]はルピー蛍光法によりおこなう。ルビー蛍光法は 1975年にアメリカのNBSグループによって開発され、試料室内に直径10J上m 程度のルビー小片を入れることで圧力測定ができるため、DACを用いた実験で 広く用いられるようになった。 常温常圧下におけるルビー蛍光線の波長は、 Rl:694.2nm(=14405cm 1) R2=692.8nm(=14434cm-1) である。ルビーを加圧すると蛍光線の波長は長波長側にシフトし、室温下にお ける圧力PとRl線のシフト』入の関係は19.5GPa以下の領域において、 P(GPa)=2.74・A入(nm) (1j-1) の関係式が成り立つ。 その後、1978年にMaoらにより、約100GPaまでの圧力PとRl線のシフト 量の関係が次式のように示され、圧力測定領域の拡張がおこなわれた。 P(GPa)=3錮.8 Å0+』Å
〕5-1‡
(1づ1) 入0:常温常圧下におけるRl線の波長(nm) 』入:高圧力下の凡線のシフト量(nm) Fig.1.5.1に式(1-ぅー1)、式(1一与1)のグラフを示す。約20GPaの測定範囲では二 つの関係式はよく一致する。本研究は約3GPa以下の圧力範囲でおこわれてい るので、式(1j-1)を使用した。この式を圧力と波数の関係に書き直すと、 P(GPa)=0.1325・Ay(cm-1) (1-53) になる。 20 40 60 80 100 Pressure(GPa) Fig.1.5.1月l線の圧力依存性 破線…NBSグループ式(1づ-1) 実線…MaoerαJ.式(1jつ)第2章
実験方法
2-1 はじめに メタンハイドレートの相転移などの高圧物性を研究する手始めとして、DAC を用いてメタンハイドレート単結晶の作製をおこなった。DACへの試料(CH4お よびH20)封入には気体試料封入容器(Fig.2.2.2)および、気体試料封入装置 (Fig.2.2.3)を用い、顕微鏡によりDAC試料室内のH20、CH小メタンハイドレー トの状態を観察しながら微妙な圧力のコントロールにより、メタンハイドレー トの高圧Ⅰ相と、高圧Ⅱ相の単結晶作製に成功した。 2-2 試料の封入方法 本研究では試料のDACへの封入をおこなうために、まず常温常圧力下におい て圧力測定用ルビー小片を入れたDACの試料室(ガスケット:SUS301銅板、試 料室空間:直径300〃m¢、深さ300〃m)に、注射器を用いてH20を満たし封 入する(Fig.2.2.1)。次に、DACを封入容器ギアボックス(Fig.2.2.2)に入れ密閉 し気体試料封入装置(Fig.2.2.3)に装填する。ギアボックスのハンドルを回転さ せ試料室を解放後、気体試料封入装置コンプレッサーにより CIもガスを充満し 800atm.まで加圧する。その後、試料室を再び閉じることによりCH4とH20を同 時に封入した。その様子をFig.2.2.4に示す。試料のCIもガスは研究用純度99.9% のものを用いた。 Fig2ユ1注射器によるH20のサンプリングl
t l
迎
r・.こ■..国
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ヽ
′ ヽ ' ヽ ギアボックス DAC Fig.2.2.2 封入容器内 圧力計 コンプレッサー Fig.2.2.3 気体試料封入装置 Fig.2.2.4 顕微鏡による直接観察2-3 単結晶作成手順 2-3-1メタンハイドレート高圧Ⅰ相単結晶作製 メタンハイドレートの圧力A温度相図(Fig.23.1.1)【3]に基づいて、DAC内の 圧力を制御することにより、メタンハイドレート高圧Ⅰ相(MH-SI)の単結晶 を常温において作製した。Fig.2.3.1.1において、よく知られたH20とメタンハ イドレートの相図を、それぞれ青実線、赤破線で表す。メタンハイドレートの 相境界線A、Bはそれぞれ高圧I相(MH-SI)と、高圧Ⅱ相(MHLⅡ)の分解 曲線に対応し、曲線の低温側がメタンハイドレートのそれぞれの安定領域であ る。 l 圧力(GPa) Fig.2.3.1.1H20とメタンハイドレートの圧力ー温度相図 サンプリングの直後のDAC内圧力はア=0.60GPa(296K)であった。この圧 力下ではH20(水)一昭-SIの2相共存状態であるが、このMH-SIは多結晶であ りラマン測定には適さない(Fig.2.3.1.2(a))。この後、液体H20に溶解するCH4が 液泡となって現れるまで減圧し(P=0.02GPa,Fig.2,3,l_1赤実線矢印)、これらの 液胞が集約するのを待った(Fig.2.3.1.2(b)および(C))。この状態で、わずかに加 圧するとメタン液泡は縮/卜するとともに、MH-SI単結晶が複数出現し成長を始
めた。さらに常温、P=0.02GPa付近において顕微鏡によりDAC試料室内の 状態を直接観察(Figユ2.4)しながら、微妙な加減圧を繰り返すことにより、結晶 やCH4液泡の数を減らし、大きな結晶を成長させることが可能である。このよ うにして最終的に1個のMH-SI単結晶を成長させた(Fig.2.3.1.2(d))。ここにお いてMH-SI単結晶とCIもが溶解した液体H20(水)が共存している。
「.・「
(C)メタン液抱の集約(0.02GPa) (d)MH-SI単結晶の成長(0.12GPa) Fig.2.3.1.2 MH-SI相の単結晶成長過程2-3-2 メタンハイドレート高圧Ⅱ相単結晶作製 次章の実験結果および考察において述べるように、メタンハイドレート高圧 Ⅰ相(MH-SI)単結晶は加圧に伴い、高圧Ⅱ相(MH-Ⅱ)に相転移する。しか し、この相転移は固体一固体相転移であるため、相転移したMH-Ⅱは多結晶状 態になる。よってMH一Ⅱ単結晶を得るためにFig.2.3.1.1のメタンハイドレート
の圧力ー温度相図に示した矢印㈹の領域において、岨-Ⅱ単結晶を作製した。
すなわち、「2-2試料の封入方法」と同様に、常温において試料のDACへの封 入をおこない、温度約50℃、圧力約Ⅰ.OGPaに昇温、加圧し、H20と液体CH4、 MH-Ⅱの3相共存状態(Fig.2.3ユ1(a))をつくり、微妙な温度変化を繰り返すこと により、メタン液泡の数を減らし最終的に1個のMH-Ⅱ単結晶を成長させた(Fig. 2.3.2.1(b))。 (a)3相共存状態(50℃,1.OGPa) (b)MH-Ⅱ単結晶の成長(23℃,0.94GPa) Fig.2.3.2.1 MH-Ⅱ相の単結晶成長過程2-4
ラマン散乱測定装置
Figユ4.1に本研究で使用したラマン散乱測定装置を示す。光源には波長514.5 nmのArイオンレーザーを使用し、100mWの出力で用いた。分光器にはNR-1800 トリプルモノクロメーターを、スペクトルの検出にはP一山ceton製の液体窒素冷 却CCDDetector型式=STJ135Controllerを用いた。またデータの収集および解析 はパーソナルコンピューターを使用した。測定はすべて顕微分光でおこなった。 Figユ4.1ラマン散乱測定装置第3章
実験結果および考察
3-1 はじめに 前章で述べたようにP=0.02GPa付近において微妙な加減圧を繰り返すこと により、DAC試料室内にメタンハイドレートMH-SI相の単結晶を作製しラマ ン測定および、顕微鏡目視観察を開始した。最終的にP=5.02GPa(r=296K) まで、その場ラマン測定をおこないメタンハイドレートの相転移を確認した。 ただし加圧によって約0.90GPaで新しいMH-ⅠⅠ相へ転移した結晶は、固体一固体 相転移であるため多結晶となるので、MH-ⅠⅠ単結晶のミクロな状態や相転移の正 確な研究を行なうために、温度約500C,圧力1.OGPaにおける、H20(水)-CH4(流 体)-MH-IIの3相共存状態からMH-II単結晶を直接作製し、単結晶の顕微鏡 観察やラマン散乱測定を行なった。 3-2 高圧力下メタンハイドレートの顕微鏡観察 メタンハイドレート単結晶MH-SI相の作製過程および、加圧による変化を Fig.3.2.1に示す。H20(水)-CH4(流体)-MH-SIの3相共存状態(Fig.3.2.1(a))から 最終的に1個のメタンハイドレート単結晶を成長させた(Fig.3.2.1(b))。0.12GPa まで加圧してメタンハイドレート単結晶の成長が終わるのを待って(Fig.3.2.1(C))、 ラマン測定および、顕微鏡目視観察を開始した。加圧により約0.7GPaから単結 晶は分解し始め、相転移する直前(P=0.84GPa,Fig.3.2.1(d))において、MH-S Iは取り囲むH20の中に溶解し、同時に新たな結晶が加圧にともない成長する のが観察され、P=0,92GPaにおいてMH-SIはMH-II相へ転移した(Fig.3.2.1(e))。 しかし、これは一次の国体一国体相転移であるので多結晶状態になる。P=1.3GPa に上昇したときにMH-IIを取り囲む液体H20はice一Ⅵに相転移し(Fig.3.2.1(り), これに伴う体積減少のためDAC内の圧力はP=0.81GPaまで減少したが、MH-IIはP=1.90GPaまで安定していた。P=1.98GPaにおいてMH-Ⅲが消え新し い相、MH-IIIに転移した(Fig.3.2.1(g))。このときMH-ⅢはIce-Ⅵに取り囲まれて いたが、さらに加圧によりice-VI相はP=2,OGPaでice-Ⅶに相転移し、このま ま測定を終了するまで(P=5.02GPa)MH-ⅢおよびIce-Ⅶの形状に変化はなか った(Fig.3.2.1(h))。十・∴`∴
(a)タ=0.02GPa (d)P=0.84GPa (g)P=1.98GPa (b)P=0.02GPa (e)P=0.92GPa (h)ア=5.02GPa (c)P三0.12GPa (りP=1.39GPa コ.】.蓼_Ice-ⅤⅢ Fig.3.2.1MH-SI相の単結晶作製過程および、 MH各相の高圧力下顕微鏡観察 次にメタンハイドレート単結晶MH-Ⅱ相の作製過程および、加圧による変化 をFig.3_2_2に示す。温度約500C,圧力1.OGPaにおいてHヱ0(水卜C札(流体)一 MH一Ⅱの3相共存状態(Fig.3.2.2(a))から、微妙な温度コントロールによって最終 的に1個のメタンハイドレート単結晶MH-ⅠⅠ相を成長させた(Fig.3.2.2(b))。この 写真に見られるように、単結晶の形状が六角柱を示しており、MH-Ⅲ相は六方晶 構造であることを示唆している。f,=1.30GPaで結晶の表面に茶色のスポットが見え始め(Fig.3.2.2(C))、P=1.63GPaでこれらが顕著になった(Fig.3.2.2(d))。圧力 が1.4GPaを越えると周囲の水は氷ⅤⅠ相に転移し(Fig.3.2.2(d))、さらに加圧する とMH-ⅠⅠは約1.83GPaでMH-Ⅲ相に転移する(Fig.3.2.2(e))。これらのMH-ⅠⅠか らMH一Ⅲ相への相転移および、MH-Ⅱを取り囲む液体H20の変化の様子は、 Fig.3.2.1の場合とほぼ同様の結果が得られた。 (a)P=1.OGPa,r=50℃ (c)タ=1.30GPa,r=23℃ (e)P=l.63Gpa,r=230c Water MH一口 Ⅵねter 1ce-Ⅵ ト什ト11 MHlⅢ Ⅵ匂ter 王一声r声 (b)♪=0.94GPa,r=23℃ Ⅵ匂ter ・一い∴-(d)P=1.36GPa,r=23℃ (りP=1.83Gpa,r=23℃ Fig.3.2.2 MH-Ⅱ相の単結晶作製過程および、高圧力下顕微鏡観察 Ice-Ⅵ
3-3
高圧力下メタンハイドレートのその場ラマン散乱測定と相転移
P=0.02GPa付近において作製したMH・づⅠ相の単結晶は、この圧力のもとで はラマン測定のレーザー照射をおこなうと結晶が熱的に不安定になるので、0.08 GPaまで加圧した後、その場ラマン測定を開始した。ラマンスペクトルはケー ジの中にあるCH4のCヰ‡伸縮振動スペクトルモード(ソ1)、H20の0ヰⅠ伸縮振 動モード、およびH20の0-0格子振動モード(恥blel.3.1∼3参照)を観測し、メ タンハイドレートのケージの占有性や構造安定性(相転移)を考察する。CH4 のCヰⅠ伸縮振動ソ1モードのラマンスペクトルの圧力依存性をFig.3.3.1に、ま たラマン周波数シフトの圧力依存性をFig.3.3.2に示す。(S-篭=層)
咄悪 2860 2900 2940 2980 ラマンシフト(cm 1) Fig.3.3.1ゲスト分子CH4のCヰⅠ伸縮振動ソ1モードの 各圧力下ラマンスペクトル(t.∈。)エトム∴け恥
2960 0 4 0ノ 2 0 92 2 0 90 2 01 2 3 4 5圧力(GPa)
Fig.3.3.2 CヰⅠ伸縮振動ソ1モードのラマン周波数シフトの圧力依存性 圧力P=0.90GPa付近までのCH4-ソ1モードはMHっI構造のユニットセルを 構成する2個のS-ケージと6個のM一ケージの構成割合(序論、職ble序2-1)に 対応して、それぞれ高波数側(2914cm 1)と低波数側(2904cm-1)に2本のラ マンシフトピークが強度比約1対3で観測される[4プ】。またFig.3.3.2から2本 のラマン周波数シフトのうちS-ケージの周波数は圧力とともに大きく増大する がM-ケージのそれはほぼ一定である。これは、より小さなS-ケージに入った C払は加圧により圧縮されてCヰⅠ結合長が縮むが、これより大きなM一ケージで は、この圧力嶺域ではまだCH4のCヰⅠ結合長への影響が少ないことを示してい る。 MH一ⅡのCヰⅠ伸縮振動ラマンスペクトルは、最初ブロードな1本のバンドで あったものが、加圧にともないP=1.36GPaで見られるように2本のピークにス プリットする。約1.4GPaで周囲の水が氷Ⅵに転移したために、DAC内の圧力 が1.11GPaに落ち(Fig.3.3.1)、そこから再び圧力を増大した。この圧力増大時の ラマン周波数シフトをFig.3.3.2中の黒丸で示す。(MH-Ⅱの白丸は圧力が落ちる前のデータ点)高波数側のラマンシフトは低波数側のそれよりも圧力変化に対 して、より敏感に上昇する(17.Ocm 1/GPa:低波数側6.3cm.1/GPa)。2本のバン ドのうち高波数側のバンドはsH相のユニットセルを構成する1つの特大の20 面体L-ケージ中のCH4のCヰⅠ伸縮振動モードに、また低波数側のバンドは、小 さい3つのS-ケージと2つのM,-ケージ、計5つの小さいケージに取り込まれ ているCH。のCヰⅠ伸縮振動モードに対応する。ただし、Thble序2-1ではケー ジタイプをS、M,、Lと分類しているが、S-ケージとM,-ケージの半径には大き な違いはないので、観測されるCH4のCヰⅠ伸縮振動モードは、ほぼ同じである と推察される。また高波数側および低波数側のバンドの強度比が約1対2であ ることと、5つの小さいケージには1個のCH4しか取り込まれないことから、L ケージの中には2-3個のCH4分子が取り込まれていることが推察される。 ラマン散乱測定からH20分子の水素結合で構成されるメタンハイドレートの カゴ構造の安定性を考察するために、0ヰⅠ伸縮振動およびCH4-〝3モードの圧力 依存性を観測し、これにH20のみをサンプリングしたラマンスペクトルを併記 した(Fig.3.3.3)。MH・づⅠ,MH-Ⅱでは液体H20において3300cm,1付近にブロー ドに観測される0ヰⅠ伸縮振動モードとは別に、H20分子が構成するホストケ ージ特有の0-41伸縮モード振動が3130cm-1付近に観測される(Fig.3.3.3(b))。ま た、このホストケージの0ヰⅠ伸縮モードは、加圧に伴いラマン周波数シフトが 減少するという水素結合の特徴が観測される。 MH-ⅢではMH-・SIおよびMH-Ⅱにおいて観測されたホストケージの特徴で ある3100cm 1付近の0ヰⅠ伸縮モードが、もはや観測されなかった。これはP= 1.90GPa以上ではハイドレートのケージ構造が存在しないことを示している。 またCヰⅠ伸縮振動ラマンバンドが単一のピーク(2933cm 1)を持つようになり、 半値幅もMH-Ⅱに比較して狭くなっている。この単一ピークのラマン周波数シ フトはメタン固体Ⅰ相【8]のP=2.OGPa付近の値と比較して2∼7cm-1ほど低 い値を示す。MH-ⅢのCヰⅠ伸縮振動ラマン周波数は測定を終了するP=5.02GPa まで約10cm.1/GPaで単調に増加し、この係数はこれまでに得られているCH4 固体ラマンスペクトルの値[8】に類似している。
100 200 300 400 500 600 700 800 3000 Wavenumber(Cm-1) 3200 3400 3600 Wavenumber(Cm.1) (a)格子振動モード 仲)0ヰⅠ伸縮振動および CH4〝3モード Fig.3.3.3格子振動モード、0ヰⅠ伸縮振動および、CH4〝3モード 3-4 まとめ 高圧力下メタンハイドレートの顕微鏡観察とラマン散乱スペクトルの測定結 果より、メタンハイドレート単結晶のMH・づⅠ→MH-Ⅱ→MH-Ⅲ相への圧力誘起 による相転移を確認することができた。MH・SI相は0.9GPaまで安定しており、 MH-II相は1.9GPaにおいてMH-Ⅲに相転移し、約5.OGPaまでは安定している ことを検証した。 メタンハイドレートMH-Ⅱ相をH20(水)-CH4(流体)-MH-Ⅱの3相共存状態 から直接作製し、この単結晶の形が六角柱を示すことが観察され、このことは MHJI相が六方晶構造であることを示唆している。これはMH-1I相がsHである というLovedayらの最近の報告【9]を支持する。またMH-Ⅱ相のCヰⅠ伸縮振動ラ マンスペクトルの解析からsH相のユニットセルを構成する1つの大きなU-ケ
ージ中には2}3個のCH4分子が取り込まれていることが推察される。またL-ケージ内のCH4の占有率の変化がP=1.36GPa付近で起こっているものと推察 される。 MH-Ⅲ相ではホストケージの0ヰⅠ伸縮振動が消えることから、ハイドレート のカゴ構造はP=1.9GPaで崩れたと思われる。これらの圧力誘起相転移は、 Lovedayら【9]や平井ら【10]の中性子とX線による「CH4を取り囲むチャンネル 構造」の実験結果や、それらをサポートする理論計算【11-12】の結果とも良い一 致を示している。
参考文献
[1]北川禎三,AnthonyT.Tu:ラマン分光学入門,化学同人(1988)170および180 【2]八木健彦:圧力技術,20(1982)26. 【3]YA.Dyadin,E.YAladko,E.GLarionov:MendeleevCommun・,7(1997)34・ 【4]Ⅰ.M.Chou,etal.Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A・,97(2000)13484・ 【5]A.K.Sum,R.C.BuruSS,E.D.Sloan:J.Phys.Chem・BlOl(1997)7371・ 【6]S.Nakano,M.Moritoki,K.Ohgaki:J.Chem・Eng・Data,44(1999)254・ 【7]S.Subramanian,R.A.Kimi,S.F.Dec,E.D.Sloan:Chem・Eng・Sci・,55(2000)1981・ 【8]YH.Wh,S.Sasaki,H.Shimizu:J.RamanSpectroscopy,26(1995)963 【9]J.S.Leveday,R.J.Nelmes,D.D.Klug,J・S・Tse,S・Desgremiers,Can・J・Phys・, 81(2003)539. [10]H.Hirai,YUchida,H.Fltjihisa,M.Sakashita,E・Katoh,K・Aoki,K・Nagashima,Y lねmamoto,T.Yagi:J.Chem.Phys.115(2001)7066・ 【11]T.Ikeda,K.Tbrakura:J.Chem.Phys.119(2003)6784・ 【12]T.Iitaka,T.Ebisuzaki:Phys.Rev・68(2003)172105・第二部
第1章
高圧ブリュアン散乱
ト1 はじめに ブリュアン(Brillouin)散乱測定は、非接触で試料の音速を決定できるため ダイアモンド・アンビル・セル(DAC)に封入した分子性結晶に対して最も理想 的な測定手段の一つである。本研究では、DACを用いて作製したメタンハイド レート sI型(MH-SI)単結晶に対して高圧ブリュアン散乱[1-2]測定法をおこ ない、解析して得られたMH-SI相の室温における弾性的性質と、その特徴を 明らかにする。 ト2 ブリュアン散乱 透明な物質に単一周波数γfの光を入射すると、その散乱光には入射光と同じ 周波数γfのレイリー散乱光と、周波数変調を受けた周波数γf±』γの散乱光 が含まれる。この周波数変調を受けた散乱のうち、光であるフォトンと光学フ ォノンの相互作用による散乱をラマン散乱、フォトンと音響フォノンの相互作 用による散乱をブリュアン散乱という。 ブリュアン散乱は、入射光と音響フォノンの非弾性散乱であり、エネルギー 保存則と運動量保存則が成り立つ。(Fig.1.2.1およびFig.1.2.3参照) 力γf=力γ∫ 土方』γ (1-2-1) カムf=カムぷ 士カq (1-2-2) ここで、ゐはプランク定数、γ∫、γ∫は入射光と散乱光の周波数、』γは音響フ ォノンの周波数、木、もは入射光と散乱光の波数ベクトル、qは音響フォノンの 波数ベクトルを表している。また式中の±の記号は、+がストークス散乱、-がアンチストークス散乱に対応している。ブリュアン散乱で観測しているフォ ノンは分散関係のr点近傍とみなせるので(Fig.1.2.2参照)、q→0の長波長 近似がおこなえ、物質中の音速を打とすると、』γ=rl曾l
の関係式が成り立っ。また物質の屈折率〃に異方性がない場合γ=包坐=堆l
スノ〃
(1-2-3) (1-2-4) の式が成り立っ。ここで、C。は真空中での光速、C=C。/〝は物質中の光速、l鳥`l=〃/んは物質中での入射光の波数である。(1-2-1)式に(l-2-3)、(1-2-4)式を
l岨屯」±ヱId
(1-2-5) を得る。また、音速は光速に比べて十分′j、さい(V<<c)ため、(1-2-5)式は】鳥′l彩l廠∫l
と近似できる。また、(1-2-2)式は 鳥j=鳥5±q となる。この式を表したFig.1ユ3のベクトル図からl曾l=l鳥∫一員`l=2t頼inβ=2ヱsinβ
A一 (1-2-6) (1-2-7) (ト2-8) の関係式が得られ、この式と(1-2-3)式より、ブリュアン周波数シフトは 」l・= と表される。 2J7㌢sin♂l・→
Samp[e
l′tJl・
l′十dv
Fig.1.2.1ブリュアン散乱 Fig.1.2.2 分散関係 (l-2-9) Fig.1.2.3 ベクトル図ト3 DAC中のブリュアン散乱 前節では一般的なブリュアン散乱について述べた。この節ではDACを用い たブリュアン散乱について考える。 Fig.1.3.1は見かけ上の散乱角が2♂0度である等角散乱配置の様子を示したも のである。2♂。度散乱では、レーザー光がダイヤモンドのベース面に対して♂0 で入射、屈折し、最終的に試料室に♂で入射する。この屈折をスネルの式で数 式化すると、 Sin ♂。_〝d Sin ♂d 〃。 Sin ♂d _ 〝 Sin ♂ 〃d (ト3-1) (1-3-2) となる。ここで、〝仇〃d、〝は、それぞれ、大気、ダイヤモンド、試料の屈折率 である。大気の屈折率が真空の屈折率と等しく1であると仮定し、(1-3-1)、 (ト3-2)式をまとめると sin ♂ の式が得られる。この式を(ト2-9)式に代入すると、 』γ = 2Fsin 免 (1-3-3) (1-3-4) で表されるDAC中でのブリュアン散乱周波数シフトと音速の関係式が得られ る。この関係式には試料の屈折率〝が含まれておらず、ブリュアン周波数シフ トは直ちに音速に変換できる。これは2♂。度等角散乱配置の利点である。また、 この時観測しているフォノンの伝播方向はダイヤモンドのキュレット面に平行 である。 典型的な等角散乱配置として、♂0=450 の900散乱と∂0=300 の600散乱 の関係式を示すと、900 散乱では 』γ900
J汀,。0
となり、600 散乱では、 』γ600 (1-3-5) (1-3-6)である。 次にFig.1.3.2に示すような1800散乱配置について考える。(l-2-9)式に28 =1800 っまり∂=900 を代入して 』y1800= 2〝r1800 (1-3-7) の関係式を得る。この関係式から分かるように1800 散乱ではブリュアン周波 数シフトが屈折率と音速の積の関数となる。また、この時観測しているフォノ ンの方向はダイヤモンドのキュレット面に垂直である。 Fig.1.3.1等角散乱配置 Fig.1.3.21800 散乱配置
ト4 立方晶結晶のブリュアン散乱解析法 立方晶結晶に対する弾性方程式はEveryによって導かれており、次 式のようにまとめられる。
βVf=碩,いC,2,C仰昏∫,∂y,∂z)
(1-4-1) ノ=0」,2 この式では弾性方程式が弾性定数Cll、C12、C44と音響フォノンの方 向余弦の6つの変数で表されている。ここで、ノは音響フォノンの3 つのモード(LA、TAl、TA2)を示す[1]。我々はこの式を基にDAC内 で成長した単結晶の結晶軸方位と弾性定数を同時に決定する。 測定系に固定された座標(ズ,アZ)とDACの座標(ズ',ア',Z')を設定 する。ここでZ軸とZ'軸は一致している(Fig.1.4.1)。観測する音響フォ ノンの波数ベクトル曾はズ軸方向に常に固定されている。従ってDAC をZ軸に対して回転させれば、∬■y■平面上のすべての方位のフォノン を観測することができる。 次に測定軸と単結晶の結晶軸方位(∫,γ,Z)との関係について考える。 この関係を表現する為にFig.l.4.2のオイラー角(♂,¢,ズ)を用いる と、ズア平面上のフォノンベクトルを角度♂の関数として表すことがで きる。また、試料室内で成長した単結晶はDACに固定されているので、 この座標(ガ',ア',Z')に対しオイラー角(♂,β,ズ)で関係付けること ができる。このβとDACの∫'軸と測定系のズ軸の狭角αを用いると、 ♂=α+β (1-4-2) の関係があるので、♂をαの関数として測定を行う(Fig.1.4.1参照)。 Fig.1.4.1DACの座標系と測定系の座標実際には、このαを変化させて(DACを回転して)フォノンの音速の 方位依存性測定を行うので、(ト4」)式をオイラー角で表される形に変 換する必要がある。その変換された式は、 り=勘(Cll/β,C12/β,C44/β,β,♂,ズ) である。さらに、(1-4-2)式の関係より、 り=&(C11/β,C12/β,C44/β,♂,α+β,ズ) (1-4-3) (1-4-4) と表される。従って、音速は3つの弾性定数と密度の比と3つのオイ ラー角の関数で表すことができる。角度αを変化させることによって 得られるブリエアン周波数シフトは直ちに(ト3-4)式を用いて音速に 変換される。そこで、この音速の方位依存性のデータ(り(♂f))と(ト4-4) 式の計算値(み(♂f))の間の二乗誤差をJとし、Jが最小になるように 6つのパラメータを決定する。
J=∑bノ(頑卜唖貯
(l-4-5) さらに、決定した弾性定数と密度の比と結晶方位の情報を用いて1800 散乱配置より観測されるフォノンの音速を計算することができる。こ れと1帥0 散乱測定結果を(ト3-7)式に代入して、屈折率〃を得ることも できる。 ズYZ ズ'Y■Z ズγヱ・■ 標 座 系 定 測 標標 座座面 のの定 "軸測 β晶.・ ㌧結面 、\\\\ J / Fig.1.4.2 結晶軸の座標と測定系の座標第2章
実験方法
2-1 はじめに 高圧力下でブリュアン散乱測定により試料の弾性的性質を決定するためには、 DAC試料室中に1つの単結晶を充填しなければならない。単体試料であればこ の作業は比較的容易であるが、メタンハイドレートのような化合物の場合は、 もし理想的な混合比でCH4とH20を封入すると、1つの単結晶で試料室を埋め ることが難しい。またCH4を少なめに封入すると単結晶作製は容易になるが、 残ったH20とメタンハイドレートの境界面において、ブリュアン散乱配置に影 響する。そこで単結晶作製が容易になるように試料室中にH20と少量のCH4を 封入し、かつ従来の厚さより薄いガスケットを用いることで、上下のダイヤモ ンド・アンビルに接触したMH-SI単結晶作製に成功した。この単結晶を用いて 高圧ブリュアン散乱測定法により実験をおこなった。 2-2 ブリュアン散乱用メタンハイドレートの単結晶作製手順 ブリュアン散乱用メタンハイドレートの単結晶作製のための試料封入方法に ついては、第一部、第2章、2-2節で述べた。ただしFig.2.2.1(a)に示すように、 ラマン散乱測定用に使用した従来のガスケット(厚さ200〃m、直径300J上m)で は、結晶の成長の仕方によってはダイヤモンドキュレット面に平行なフォノン が得られない。またDAC試料室内の入射光および散乱光の経路に水が存在する ことで、ハイドレートの微弱な信号が水の強い信号のために判別ができなくな る。これらを防止するために結晶を上下のダイヤモンドキュレット面に接して 成長させる必要があるので、Fig.2.2.1(b)に示したような、従来より厚さの薄い(厚 さ40〃m、直径400〃m)ガスケットを使用することによって上記問題を解決し た。(a)ラマン散乱測定用ガスケット (b)ブリュアン散乱測定用ガスケット Fig.2.2.1ガスケット厚による結晶成長の相違 Fig,2,2.2にメタンハイドレート単結晶作製過程を示す。単結晶作製手順につ いても第一部、第2章、2-ト2節とほぼ同様である。サンプリング後(圧力0.2GPa) CH4液泡が現われるまで減圧(Fig.2.2.2(a))、加減圧によりMH-SI単結晶を作 製(Figユ2.2(b))、さらに単結晶を成長させた(Fig.2.2.2(C))。この単結晶作成 過程の圧力は0.02∼0.03GPaであった。最終的にFig,22.2(d)までメタンハイド レート単結晶は成長し、成長過程の顕微鏡観察で最も結晶状態のよい点を測定 点として、ブリエアン散乱測定をおこなった。
(a)サンプ後減圧 (C)MH-SI単結晶の成長 (b)MH-SI単結晶の作製 測定点 (d)測定開始直前 Fig.2.2.2 メタンハイドレートMH-SI単結晶作製過程
2-3 ブリュアン散乱測定装置 本実験に用いたブリュアン散乱測定光学系(60度等角散乱配置)をFig.2.3.1 に示す。光源にはAr+レーザー(波長514.5nm)をシングルモード化したものを用 い、レーザー光はレンズLlで約10pm¢に集光されDAC内の試料に照射され る。試料からの散乱光のうち、入射光に対して600 方向に散乱した光のみをレ ンズL2で平行光に戻す。この平行光はレンズL3、L4、ピンホールPlからな るSpatialFilter(空間フィルター)により試料以外の余分な迷光が除去され、サ ンダーコック製3パス・タンデム・ファブリ・ペロー干渉分光計に入射する。 分光計により分光された光は光電子増倍管に入射し、電気信号に変換された後、 フォトンカウンティング法によりデジタル化され、コンピュータによってカウ ント、記録される。なおブリュアン散乱強度に対してレイリー散乱光の強度は 非常に強いので、光電子増倍管を保護するために分光器の入り口にはシャッタ ーが設置されている。 (光源) 光源として波長514.5nmのAr+レーザーをシングルモード化して使用してい るが、通常Ar+レーザーの発振スペクトルは約5GHzの幅をもつため、周波数 シフトが数GHzのブリュアン散乱スペクトルを観測することはできない。そこ でレーザー・キャビティ内に、厚さ約1cmの温度コントロールされたエタロン 板を取り付けてシングルモード化し、レーザー光のスペクトル幅を数百MHz以 下にする必要がある。 (3パス・タンデム・ファブリ・ペロー干渉分光計) ブリュアン散乱は周波数シフトが1cm.1(≒30GHz)以下と非常に小さいため、 レイリー散乱光からブリュアン信号を分解するには非常に高い分解能(γ/』γ >106)をもつ分光器が必要である。ブリュアン散乱実験では高分解能の分光器 として、通常ファブリ・ペロー干渉分光計を用いる。 ファブリ・ペロー干渉分光計には非常に高い表面精度(A/200)のエタロン 板が用いられる。そのエタロン板間に平行光を垂直に入射し、繰り返し反射に よる多重干渉によって分光する。干渉条件はピエゾ素子により光の波長(ス) のオーダーでエタロン板を掃引することで変える。干渉分光計を透過する光の 波長は、 2〃d=研ノ (〃:屈折率、椚:整数) (2-3-1)
の式を満たすものである。ここでエタロン板間は空気であるため〝は1である と仮定すると、(2-3-1)式は、 2d=椚ノ となる。(2-3-2)式は、C=γノ(c:光速)を用いて、 γ =椚C/2d (2-3-2) (2-3-3) と表すことができる。この式で干渉次数の1つ異なる透過光ピーク間の周波数 間隔のことをFSR(FreeSpectralRange)と呼び、 FSR=C/2d (2-3-4) の式を用いて求めることができる。 サンダーコック製3パス・タンデム・ファブリ・ペロー干渉分光計(Fig.2.3.2) には、先ほど説明したエタロン板が2組使われている。2組のエタロン板を使 う利点についは、2つのエタロン板をそれぞれFPl,FP2とすると、個々のエタ ロン板は先ほど述べたように(2-3-4)式で表されるFSRを持っている。この2組 のエタロン板の距離が全く等しいならFSRが同じになり、これでは透過光ピー クの間隔はエタロン板が1組である時と違いがない。そこでFig.2.3.3のように FPlとFP2を配置する。初期条件としてFPl,FP2共に板間距離を0にしておけ ば、エタロン板間の距離はFPlのcos♂倍になる。このような構造にすると、 ピエゾ素子によってエタロン板を掃引したとき、透過光の周波数の同期をとる ことができる。この2組のエタロン板の透過光ピークが掃引によって再び現れ るのは、FSRの最小公倍数の周波数の分だけ変化したときである。 また本実験に用いた干渉分光計は3回ずつエタロン板を通るため、コントラ ストも非常に高いものになっている。
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聖和執 u」Fig.2.3.2 サンダーコック製タンデム・ファブリ・ペロー干渉分光計
第3幸
美験結果および考察
3-1はじめに ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)を用いて作製した、メタンハイドレー トsI相(MH-5Ⅰ)に対して高圧ブリュアン散乱測定を行い、MH-5Ⅰの弾性的性 質(音速の圧力依存性、ケージ占有率と弾性定数の圧力依存性、弾性的異方性 等)を決定する。この結果と氷Ⅶl相(Icelh)とを比較することによってMH・づ Ⅰの特徴を明らかにする。 3-2 プリュアン散乱スペクトル 600 散乱配置によるメタンハイドレートのブリュアン散乱スペクトルの一例 をFig.3.2.1(圧力0.02GPa,回転角500および200)に示す。中心に見える 強いピークは入射光に等しい周波数をもつレイリー散乱光である。固体結晶で は通常、レイリー散乱光を中心として左右対称に3組のピークが観測され、外 側から縦波のLAモード、横波のTA2、TAlモードを表す(Fig.3.2.1(a))。しか しメタンハイドレートのブリュアン散乱測定では、強いLAモードは観測され るが、mモードについては散乱強度が非常に微弱であること、弾性的其方性が 小さいこと(後述)からFig.3.2.1(b)のように1本しか観測できない場合が多 い。(⇒且倉su望u一
-10 ・ち 0 5 10Bri]10uinshin(GHz)
(a)回転角 ¢=500 仲)回転角 ¢=200 Fig.3.2.1メタンハイドレートのブリュアン散乱スペクトル (圧力P=0.02GPa) 3-3 フィッティング結果 DACを100 刻みに00 から1800 まで回転させ、ブリュアン周波数シフトの 方位依存性の測定を行った。それぞれの角度におけるブリュアン周波数シフト 』〝6。。の値をFig.3.3.1に○印でプロットした。ここで、ブリュアン周波数シフ トは直ちに音速に変換できるため右軸には音速のスケールを記載する。測定に よって得られた方位依存性に、Everyらによって導かれた立方晶結晶に対する弾性方程式を最小二乗法によって最適化することにより、3つの弾性定数と密 度の比(C11/P、Cldp、C44/P)とオイラー角(C、β、.Y)を決定した。Fig.3.3.1 の実線はフィッティング結果による理論曲線を示す。 メタンハイドレートMH-5Ⅰ相はFig.3.3.1のようにLA,TAモードともに方位 依存性がたいへん小さいが、LAモードは小さいながら明瞭な方位依存性を示 している。TAモードがほとんどの場合1本しか観測されなかったのでmlモー ドとm2モードの区別がつかず、フィッティングの際、mlモードとTA2モー ドを入れ替えて最適化をおこなったところ、ほとんど同じ結果が得られること がわかった。 BriLIouin$hiftina60scatteringgeometry
(N〓盟⊆エSuち○≡」皿
8 6 4 2 60 120AngIe¢(degree)
β β β ′〃 ′〆 ′少 ∂ CI Cl q(s、∈豊倉0〇一¢>
3 2 1 =13.2km2/s2 =7.07km2/s2 =3.76km2/s2 =55.3 0 X =88.9 0 Fig.3.3.1メタンハイドレートMH・づⅠ相のブリュアン周波数シフトの 方位依存性とフィッティング曲線 3-4弾性定数と密度の比の圧力依存性
音速の方位依存性の測定データを、立方晶結晶に対する弾性方程式の音速の 解を最小2乗法でフィッティングし、室温において0.58GPaまでのMH・づⅠ相 の、3つの弾性定数と密度の比(Cll/β,Cl〆β,qノβ)の圧力依存性を決定した。ここで、弾性定数と密度の比は音速の2乗に対応する。この結果Cll/β =13.2km2/s2,C12/P=7.07km2/s2,C4Jp=3.76km2/s2を得た。 圧力を変えて上述の測定および解析を行うことにより最終的に弾性定数と密 度の比の圧力依存性をFig.3.4.1のように決定した。これによると、圧力増加に 対しCll/βおよびC12/βは増加するがC44/βは、ほぼ一定あるいは僅かに減少 している。これはMH・づⅠ相が加圧とともに、ずりの歪に弱くなることを示し ている。 5 0 (NS\N∈ご
q\、0
5 0 0.2 0.4 0.6 0.8Pressure(GPa)
Fig.3.4.1MH-SI相の弾性定数と密度の比(Cdp)の圧力依存性
MH,SI相と氷m相(Ice-Ih:1atm,0℃で凍る我々が日常目にする氷)の弾性定数と密度の比(C〆β)の圧力依存性[3]を比較するために、Fig・3・4・2に併記
した。これらを比較するとMH・づI相のCdpの圧力依存性はIce-Ih相と類似
しているがCll/βの値はIce-Ib相より小さく軟らかい構造であることがわか る。0 0.2 0.4 0.6 0.8 Pressure(GPa) Fig.3.4.2
MH-SI相およびIce-I血相の、弾性定数と密度の比(C〆β)の
圧力依存性 MH-SI相の弾性定数と密度の比(Cゲ/β)の圧力依存性(fig.3.4.1)より、任 意の方向へ伝播する音速の圧力依存性を求めることができるので、Fig.3.4.3に (a)[100】方向、(b)【110]へ伝播するMH-SI相の音速の圧力依存性を示す。(a) ではmモードが縮退して1本であるが、仲)では実験では観測できなかった2 本のmモードが現れている。ここで[100】方向のLA、mを弾性定数で表す と、 LA:βげLA,【1。。】=C11 耶し ‥βげTA」100】=G4 また、[110】方向のLA、m2、nlを弾性定数で表すと、 LA ‥β〆LA→【11。】=(C.1+C12+2C44)/2 n2:βげ叫【11。】=C。4 ml‥β〆恥[110】=(Cll-C.2)/2 となる。 (3-4-1) (3-4-2)(s、∈岩倉0〇一撃じ葛⊃8< 5 4 3 2 1 0.2 0.4 0.6 Pressure(GPa) (a)[100]方向 0.8 (s、∈岩倉001聖じ葛⊃OU< 5 4 3 2 1 0.2 0.4 0.6 0.8 Pressure(GPa) (b)[110]方向 Fig.3.4.3 MH-SI相の音速の圧力依存性 3-5 ケージ占有率と弾性定数の圧力依存性 平井ら[4]のⅩ線回折測定により求められた室温におけるMH-SI相の格子定 数の圧力依存性を用いて、メタンハイドレートの密度β(釘cm3)を計算するこ とで、三つの弾性定数Cll,C12,C44の圧力依存性を決定することができる。し かし本実験で作製した結晶のケージ占有率は不明である。そこでMH-SI各ケ ージに占めるメタン分子の占有率を100%および75%の二つの場合を仮定し て密度を求め、これにより求めたMH-SI相の弾性定数の圧力依存性をFig.3.5.1 に示す。また弾性定数Cll、C12より断熱体積弾性率 β∫=(Cll+2C12)/3 (3-5-1) が求められるのでこれを併記した。メタンハイドレートのゲスト分子のケージ 占有率は、約75%∼100%弱といわれているので、実際の弾性定数はFigづ.5.1 の範囲内にあると考えられる。
(巾d盟弓PO∈U葛巾一山
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 Pressure(GPa) Fig.3.5.1MH・づI相の弾性定数Cll,C12,C44および 断熱体積弾性率β∫の圧力依存性 (実線:占有率100%,破線:占有率75%)3-6 弾性的異方性 音速が結晶中を伝播する方位によって異なることをあらわす指標として、弾 性的異方性があり、これは(3一小2)式を用いて次式で定義される。 月=プC44/(Cll-C12)=(rm,【明ルnりIl。】)2 (3-6-1) 今回決定したMH-SI相の弾性定数と密度の比から、弾性的異方性の圧力依 存性を算定しその結果をFig.3.6.1に示した。ノiは[110】方向へ伝播する二つの mモードの音速(Fm2,【110】および打払l,【110】)の2乗比で表され、d=1のとき弾性 的等方体になる。今回決定したMH-SI相の弾性定数と密度の比から、弾性的 異方性は月=1.23(P=0.02GPa,296K)になった。これまでに我々の研究室で決 定した分子性£c.c.プラスチック相および、その他の分子性物質の弾性的異方性 と比較したものをFig.3.6.1に示す。通常、分子性固休は2∼6の値を示すこと 【5]を考慮すると、MH-SI相の弾性的異方性は非常に小さく、弾性的等方体に 近いことがわかる。また、弾性的異方性は加圧とともに若干増加し0.6GPaでd =l.34となる。 (NLO土0)、耳ON=く左0し10空u可0葛和一山 ○■呈 ■㌧ 庄一◆● 机垢声q恥20 CNHHCN C5日12 声elh HM Plastic H-Bondedplastic H-Bondedplastic H-Bon由dplastic P18Slic neHyd「ate (⊃ メタンハイドレートMR.sI 0 2 4 6 8 Pres乱Ire(GPa) Fig.3.6.1 MH-SI相および各物質の弾性的異方性の圧力依存性
3-7 まとめ 大気圧-3℃および-35.5℃におけるIce-Ih相のLAモードの平均音速は それぞれ3.828k血s,3.914k血sであるのに対して、Fig.3.4.3に示す本実験での、 室温0.02GPaにおけるMHっI相の【100]方向へ伝播する音速3.63km/sは5∼ 8%ほど遅い。また、Kiefteら[6]がブリュアン散乱測定で求めた-10℃,50bar でのMHっI相の弾性定数と密度の比(Fig.3.4.2青丸)より決定した平均音速、 3.37km/sは、本結果と比較して7% ほど低い値を示す。これは、Kiefte らが 測定に用いたメタンハイドレートが多結晶状態であったことにより、この差が 生じたものと考えられる。 Ice-Ih相は隙間の多い構造であり圧縮に対して安定性が低く、圧力ー温度相 図(第一部Fig.2.3.1.1参照)からもわかるように、存在圧力領域は0.2GPaと狭い。 また六方晶結晶に対するBornの安定条件【7「8]はCi4>0,C66=(Cll-C12)/2>0 であり、Ice-Ih相はq4,C66の圧力係数がわずかながらではあるが負の値(dq4 /dP=-0.46,dC66/dP=-0.51)を示すため、加圧とともに不安定になっていく。 これに対してMHっⅠ相のCi4は、ほぼIce-Ih相と同じ値を持つが、圧力係数 は正の値(dq4/dP=0.69)を示し、高圧下で存在するIce却Ⅰ相のq4の圧力係数 (dq4/dP=0.93)に近い圧力依存性を持っている。またCll,C12の大きな圧力依 存性(dCll/dP=7.64,dC12/dP=7.59)に対してq4は、ほぼ一定であり高圧力下 で相対的にずりの歪に対して弱くなっていることがわかる。しかしIce-Ih相 ほど顕著な不安定性を示してはいない。これらのことはMHっⅠ相がIce-Ih相 より高圧力下において安定な構造であり、Ice-Ih相とIce-Ⅵ相の間に存在額域 があることと矛盾していない。 MH-SI相のCllはIce-Ih相のCll(C33)と比較して、大気圧において20% (30%)ほど小さい。この差に伴って断熱体積弾性率β∫も13%ほど小さくなり、 やわらかい構造になっている。Kie触ら【6】はMH・づⅠ相だけでなくsI型、SⅡ 型のいくつかのガスハイドレートについて、LAモードの平均音速の測定を行 っており、その結果、ゲスト分子-ホスト分子間の力定数が分子量あるいはサ イズとともに増加することを示唆している。ガスハイドレート構造が形成され るための要因としてH20分子が作る隙間の多い4配位水素結合ネットワークが あり、そのホストネットワークの隙間をゲスト分子が支えているので、ゲスト 分子のサイズにより、ホストケージに与える弾性的な影響が異なることは想像 に難くない。すなわちMH・づⅠ相ではsI型ケージのゲスト分子としては比較的 小さいCH4分子が包接されているために【9】(Fig.序.2.1参照)、ホストケージと
CH4分子の間にまだ空間的な余裕があり、そのためホストケージに対する弾性 的性質に寄与することが小さいために、Cll,β∫の値が小さくなっていると考え られる。
参考文献
【1]H.ShimizuandS.Sasaki:Sience,257(1992)514. 【2]H・W・AshcroftandN・D・Mermin:SolidStatePhysics,SaundersCollege. 【3]R・E・Gagnon,H.Kiefte,M.J.Clouter,E.Wha11ey:J.Chem.Phys.,89(1988)4522. 【4]H・Hirai,T.Kondo,M.Hasegawa,T.Yagi,YYamamoto,T.Komai,K.Nagashima, M・Sakashita,H.F両ihisa,KAoki:J.Chem.Phys.,104(2000)1429-1433. [5]H・Shimizu,K・Kamabuchi,T.Kume,S.Sasaki:Phys.Rev.,B59(1999)11727. 【6]H・Kie氏e,M・J・Clouter,R.E.Gagnon:J.Chem.Phys.,89(1985)3103.【7]M・Born,K.Huang:DynamicalTheory ofCrystalLattices,Clarendon Press, 0Ⅹbrd.(1954)
【8]J・Ⅵねng,S・Yip,S・R.Phillpot,D.Wolf:Phys.Rev.Lett.,71(1993)4182.
【9]E.D.Sloan:ClathrateHydratesQfNaturalGases,2ndEd.,MarcelDekker,New
総
括
ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)内にメタンハイドレートsI型(MH-sI)およびsH型(MH-Ⅱ)単結晶を作製することに成功し、加圧による相転移の 目視観測に世界で初めて成功した。また、ラマン散乱およびブリュアン散乱の 手法を用いて、高圧光散乱測定によりメタンハイドレートの圧力誘起相転移、 ケージ占有率、弾性的性質そして、力学的構造安定性の一端を解明することが できた。それらを総括すると下記のようになる。 1. ラマン散乱測定により、MH・づⅠ相はP=0.9GPaまで安定しており、 MH-Ⅱ相は1.9GPaにおいてMH-Ⅲに相転移し、約5.OGPaまでは安定し ている。MH-Ⅱ相の単結晶が六角柱の形状をしていることが目視観察され、 六方晶構造であることが示唆される。加圧に伴いP=1.3GPa付近から結 晶表面の変化が目視され、またラマンスペクトルからも特大のL,-ケージ 内のCH4の占有率が変化し、このケージ内には2"3個のCH4分子が取 り込まれていることが推察される。またMH-Ⅲ相はホストケージの0ヰⅠ 伸縮振動が消えることから、メタンハイドレートのカゴ構造はP=1.9GPa で崩れたと思われ、この圧力より高い嶺域においてメタンハイドレートは、 カゴ構造を持たないIce-Ihに類似したCH4分子を取り囲むチャンネル 構造であるとの結果(中性子およびⅩ線)と一致する。 2. ブリュアン散乱測定により、MH・づⅠ相の、圧力0.58GPaまでの各方 向の音速、3つの弾性定数、体積弾性率、弾性的異方性等の圧力依存性を 初めて決定した。大気圧-3℃および-35.5℃におけるIce-Ih相の LAモードの平均音速はそれぞれ3.828km/s,3.914km/sであるのに対し て、本研究での、室温0.02GPaにおけるMH・づI相の【100]方向へ伝播す る音速3.63b〟sは、これらに比較して5∼8%ほど遅い。また、Kie氏e らがブリュアン散乱測定で求めた-10℃,50barでのMH・づI相の弾性定 数と密度の比より決定した平均音速3.37k血sは、本結果と比較して7% ほど小さい値を示す。これは、Kie氏e らが測定に用いたメタンハイドレー トが多結晶状態であったことにより、この差が生じたものと考えられる。 MHっⅠ相とIce-Ih相との比較において、Ice-Ih相は隙間の多い構造 であり圧縮に対して安定性が低く、存在圧力領域は0.2GPaと狭く、また六方晶結晶に対するBornの安定条件は、Ice-Ih相はC44,C66の圧力係 数がわずかながらではあるが負の値を示すため、加圧とともに不安定に なっていく。これに対してMH▼づI相のC44は、ほぼIce-Ih相と同じ値 を持つが、圧力係数は正の値を示し、高圧下で存在するIce却Ⅰ相のC44 の圧力係数に近い圧力依存性を持っている。またCll,C12の大きな圧力 依存性に対してq4は、ほぼ一定であり高圧力下で相対的にずりの歪に 対して弱くなっていることがわかる。しかしIce-Ib相ほど顕著な不安定 性向を示してはいない。これらのことはMH・づI相がIce-Ih相より高圧 力下において安定な構造であり、Ice-Ih相とIce⊥Ⅵ相の間に存在領域が あることと矛盾していない。MH・づI相のCllはIce-Ih相のCll(C33)と比 較して、大気圧において20%(30%)ほど小さく、この差に伴って断熱 体積弾性率蝕も13%ほど小さくなり、柔らかい構造になっていること が解明できた。 本論文ではメタンハイドレート単結晶をDAC内に成長させることに世界で 初めて成功し、高圧ラマン散乱スペクトルの測定結果から、メタンハイドレー トの圧力誘起による相転移を明らかにし、さらに高圧ブリュアン散乱測定によ り、メタンハイドレートの音速と弾性定数の決定に初めて成功した。これらの ことは、エネルギーの安定供給が世界的課題となっている中で、石油資源の枯 渇に対する代替エネルギー源として、また地球環境にやさしいクリーンエネル ギー源として注目されている天然ガスハイドレートの開発と、安全な貯蔵、運 搬手段としてのガスハイドレート化等の応用のために有効なデータを提供する ものであり、今後、環境エネルギー問題解決の一助となることが期待される。