(a)ラマン散乱測定用ガスケット (b)ブリュアン散乱測定用ガスケット
Fig.2.2.1ガスケット厚による結晶成長の相違
Fig,2,2.2にメタンハイドレート単結晶作製過程を示す。単結晶作製手順につ いても第一部、第2章、2‑ト2節とほぼ同様である。サンプリング後(圧力0.2GPa)
CH4液泡が現われるまで減圧(Fig.2.2.2(a))、加減圧によりMH‑SI単結晶を作 製(Figユ2.2(b))、さらに単結晶を成長させた(Fig.2.2.2(C))。この単結晶作成 過程の圧力は0.02〜0.03GPaであった。最終的にFig,22.2(d)までメタンハイド
レート単結晶は成長し、成長過程の顕微鏡観察で最も結晶状態のよい点を測定 点として、ブリエアン散乱測定をおこなった。
(a)サンプ後減圧
(C)MH‑SI単結晶の成長
(b)MH‑SI単結晶の作製 測定点
(d)測定開始直前
Fig.2.2.2 メタンハイドレートMH‑SI単結晶作製過程
2‑3 ブリュアン散乱測定装置
本実験に用いたブリュアン散乱測定光学系(60度等角散乱配置)をFig.2.3.1 に示す。光源にはAr+レーザー(波長514.5nm)をシングルモード化したものを用 い、レーザー光はレンズLlで約10pm¢に集光されDAC内の試料に照射され
る。試料からの散乱光のうち、入射光に対して600 方向に散乱した光のみをレ ンズL2で平行光に戻す。この平行光はレンズL3、L4、ピンホールPlからな
るSpatialFilter(空間フィルター)により試料以外の余分な迷光が除去され、サ ンダーコック製3パス・タンデム・ファブリ・ペロー干渉分光計に入射する。
分光計により分光された光は光電子増倍管に入射し、電気信号に変換された後、
フォトンカウンティング法によりデジタル化され、コンピュータによってカウ ント、記録される。なおブリュアン散乱強度に対してレイリー散乱光の強度は 非常に強いので、光電子増倍管を保護するために分光器の入り口にはシャッタ ーが設置されている。
(光源)
光源として波長514.5nmのAr+レーザーをシングルモード化して使用してい るが、通常Ar+レーザーの発振スペクトルは約5GHzの幅をもつため、周波数 シフトが数GHzのブリュアン散乱スペクトルを観測することはできない。そこ でレーザー・キャビティ内に、厚さ約1cmの温度コントロールされたエタロン 板を取り付けてシングルモード化し、レーザー光のスペクトル幅を数百MHz以 下にする必要がある。
(3パス・タンデム・ファブリ・ペロー干渉分光計)
ブリュアン散乱は周波数シフトが1cm.1(≒30GHz)以下と非常に小さいため、
レイリー散乱光からブリュアン信号を分解するには非常に高い分解能(γ/』γ
>106)をもつ分光器が必要である。ブリュアン散乱実験では高分解能の分光器 として、通常ファブリ・ペロー干渉分光計を用いる。
ファブリ・ペロー干渉分光計には非常に高い表面精度(A/200)のエタロン 板が用いられる。そのエタロン板間に平行光を垂直に入射し、繰り返し反射に
よる多重干渉によって分光する。干渉条件はピエゾ素子により光の波長(ス) のオーダーでエタロン板を掃引することで変える。干渉分光計を透過する光の 波長は、
2〃d=研ノ (〃:屈折率、椚:整数) (2‑3‑1)
の式を満たすものである。ここでエタロン板間は空気であるため〝は1である と仮定すると、(2‑3‑1)式は、
2d=椚ノ
となる。(2‑3‑2)式は、C=γノ(c:光速)を用いて、
γ =椚C/2d
(2‑3‑2)
(2‑3‑3) と表すことができる。この式で干渉次数の1つ異なる透過光ピーク間の周波数
間隔のことをFSR(FreeSpectralRange)と呼び、
FSR=C/2d (2‑3‑4)
の式を用いて求めることができる。
サンダーコック製3パス・タンデム・ファブリ・ペロー干渉分光計(Fig.2.3.2) には、先ほど説明したエタロン板が2組使われている。2組のエタロン板を使
う利点についは、2つのエタロン板をそれぞれFPl,FP2とすると、個々のエタ ロン板は先ほど述べたように(2‑3‑4)式で表されるFSRを持っている。この2組 のエタロン板の距離が全く等しいならFSRが同じになり、これでは透過光ピー クの間隔はエタロン板が1組である時と違いがない。そこでFig.2.3.3のように FPlとFP2を配置する。初期条件としてFPl,FP2共に板間距離を0にしておけ
ば、エタロン板間の距離はFPlのcos♂倍になる。このような構造にすると、
ピエゾ素子によってエタロン板を掃引したとき、透過光の周波数の同期をとる ことができる。この2組のエタロン板の透過光ピークが掃引によって再び現れ るのは、FSRの最小公倍数の周波数の分だけ変化したときである。
また本実験に用いた干渉分光計は3回ずつエタロン板を通るため、コントラ ストも非常に高いものになっている。
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Fig.2.3.2 サンダーコック製タンデム・ファブリ・ペロー干渉分光計
Fig.2.3.3 エタロン板の配置
第3幸 美験結果および考察
3‑1はじめに
ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)を用いて作製した、メタンハイドレー トsI相(MH‑5Ⅰ)に対して高圧ブリュアン散乱測定を行い、MH‑5Ⅰの弾性的性 質(音速の圧力依存性、ケージ占有率と弾性定数の圧力依存性、弾性的異方性 等)を決定する。この結果と氷Ⅶl相(Icelh)とを比較することによってMH・づ
Ⅰの特徴を明らかにする。
3‑2 プリュアン散乱スペクトル
600 散乱配置によるメタンハイドレートのブリュアン散乱スペクトルの一例 をFig.3.2.1(圧力0.02GPa,回転角500および200)に示す。中心に見える
強いピークは入射光に等しい周波数をもつレイリー散乱光である。固体結晶で は通常、レイリー散乱光を中心として左右対称に3組のピークが観測され、外 側から縦波のLAモード、横波のTA2、TAlモードを表す(Fig.3.2.1(a))。しか
しメタンハイドレートのブリュアン散乱測定では、強いLAモードは観測され るが、mモードについては散乱強度が非常に微弱であること、弾性的其方性が 小さいこと(後述)からFig.3.2.1(b)のように1本しか観測できない場合が多
い。
(⇒且倉su望u一
‑10 ・ち 0 5 10
Bri]10uinshin(GHz)
(a)回転角 ¢=500
仲)回転角 ¢=200
Fig.3.2.1メタンハイドレートのブリュアン散乱スペクトル (圧力P=0.02GPa)
3‑3 フィッティング結果
DACを100 刻みに00 から1800 まで回転させ、ブリュアン周波数シフトの 方位依存性の測定を行った。それぞれの角度におけるブリュアン周波数シフト
』〝6。。の値をFig.3.3.1に○印でプロットした。ここで、ブリュアン周波数シフ トは直ちに音速に変換できるため右軸には音速のスケールを記載する。測定に よって得られた方位依存性に、Everyらによって導かれた立方晶結晶に対する
弾性方程式を最小二乗法によって最適化することにより、3つの弾性定数と密 度の比(C11/P、Cldp、C44/P)とオイラー角(C、β、.Y)を決定した。Fig.3.3.1
の実線はフィッティング結果による理論曲線を示す。
メタンハイドレートMH‑5Ⅰ相はFig.3.3.1のようにLA,TAモードともに方位 依存性がたいへん小さいが、LAモードは小さいながら明瞭な方位依存性を示
している。TAモードがほとんどの場合1本しか観測されなかったのでmlモー ドとm2モードの区別がつかず、フィッティングの際、mlモードとTA2モー ドを入れ替えて最適化をおこなったところ、ほとんど同じ結果が得られること がわかった。
BriLIouin$hiftina60scatteringgeometry
(N〓盟⊆エSuち○≡」皿 8
6
4
2
60 120
AngIe¢(degree)
β β β
′〃
′〆
′少
∂ CI Cl
q
(s、∈豊倉0〇一¢>
3 2 1
=13.2km2/s2
=7.07km2/s2
=3.76km2/s2
=55.3
0
X =88.9
0
Fig.3.3.1メタンハイドレートMH・づⅠ相のブリュアン周波数シフトの 方位依存性とフィッティング曲線
3‑4 弾性定数と密度の比の圧力依存性
音速の方位依存性の測定データを、立方晶結晶に対する弾性方程式の音速の 解を最小2乗法でフィッティングし、室温において0.58GPaまでのMH・づⅠ相
の、3つの弾性定数と密度の比(Cll/β,Cl〆β,qノβ)の圧力依存性を決定
した。ここで、弾性定数と密度の比は音速の2乗に対応する。この結果Cll/β
=13.2km2/s2,C12/P=7.07km2/s2,C4Jp=3.76km2/s2を得た。
圧力を変えて上述の測定および解析を行うことにより最終的に弾性定数と密 度の比の圧力依存性をFig.3.4.1のように決定した。これによると、圧力増加に 対しCll/βおよびC12/βは増加するがC44/βは、ほぼ一定あるいは僅かに減少
している。これはMH・づⅠ相が加圧とともに、ずりの歪に弱くなることを示し
ている。
5
0 (NS\N∈ご
q\、0
5
0 0.2 0.4 0.6 0.8
Pressure(GPa)
Fig.3.4.1MH‑SI相の弾性定数と密度の比(Cdp)の圧力依存性
MH,SI相と氷m相(Ice‑Ih:1atm,0℃で凍る我々が日常目にする氷)の弾
性定数と密度の比(C〆β)の圧力依存性[3]を比較するために、Fig・3・4・2に併記 した。これらを比較するとMH・づI相のCdpの圧力依存性はIce‑Ih相と類似
しているがCll/βの値はIce‑Ib相より小さく軟らかい構造であることがわか
る。
0 0.2 0.4 0.6 0.8
Pressure(GPa)
Fig.3.4.2 MH‑SI相およびIce‑I血相の、弾性定数と密度の比(C〆β)の
圧力依存性
MH‑SI相の弾性定数と密度の比(Cゲ/β)の圧力依存性(fig.3.4.1)より、任 意の方向へ伝播する音速の圧力依存性を求めることができるので、Fig.3.4.3に (a)[100】方向、(b)【110]へ伝播するMH‑SI相の音速の圧力依存性を示す。(a)
ではmモードが縮退して1本であるが、仲)では実験では観測できなかった2 本のmモードが現れている。ここで[100】方向のLA、mを弾性定数で表す
と、
LA:βげLA,【1。。】=C11
耶し ‥βげTA」100】=G4 また、[110】方向のLA、m2、nlを弾性定数で表すと、
LA ‥β〆LA→【11。】=(C.1+C12+2C44)/2 n2:βげ叫【11。】=C。4
ml‥β〆恥[110】=(Cll‑C.2)/2 となる。
(3‑4‑1)
(3‑4‑2)
(s、∈岩倉0〇一撃じ葛⊃8< 5
4
3
2
1
0.2 0.4 0.6
Pressure(GPa) (a)[100]方向
0.8
(s、∈岩倉001聖じ葛⊃OU< 5
4
3
2
1
0.2 0.4 0.6 0.8
Pressure(GPa) (b)[110]方向
Fig.3.4.3 MH‑SI相の音速の圧力依存性
3‑5 ケージ占有率と弾性定数の圧力依存性
平井ら[4]のⅩ線回折測定により求められた室温におけるMH‑SI相の格子定 数の圧力依存性を用いて、メタンハイドレートの密度β(釘cm3)を計算するこ
とで、三つの弾性定数Cll,C12,C44の圧力依存性を決定することができる。し かし本実験で作製した結晶のケージ占有率は不明である。そこでMH‑SI各ケ ージに占めるメタン分子の占有率を100%および75%の二つの場合を仮定し て密度を求め、これにより求めたMH‑SI相の弾性定数の圧力依存性をFig.3.5.1
に示す。また弾性定数Cll、C12より断熱体積弾性率
β∫=(Cll+2C12)/3 (3‑5‑1) が求められるのでこれを併記した。メタンハイドレートのゲスト分子のケージ
占有率は、約75%〜100%弱といわれているので、実際の弾性定数はFigづ.5.1 の範囲内にあると考えられる。