児 童 期 に お け る 「 心 の 理 論jの 発 達 が 俳 句 の 鑑 賞 に 及 ぼ す 影 響
学 校 教 育 専 攻
人 間 形 成 コ ー ス
小 竹 三 起 子
【序論】
本論文では,韻文の中でも特に, 日本独自の
有季定型詩である俳句において,皆川1(1995)が
指摘する俳句のもつ「意味の二重性jという心理
学的特性に着目した。そして児童期の他者理解
に関わる認知能力である「心の理論Jの発達が,
俳句の鑑賞に深くかかわっているとしづ仮説を
たて,誤った信念課題で測定される狭義の「心の
理論Jの発達が俳句の鑑賞に及ぼす影響を検討
することを目的とし,研究を進めた。
【研究1]
目的
先行研究における二次的信念課題(第三者の
心を介して他者の心を読みとる課題)は,その理
解時期が児童期にあるとし、う以外あいまいであ
ること,同様の課題で、あっても研究によって正
答率が異なり,安定した一定水準以上の正答率
を得ていないことから,正確な理解時期を測っ
ているとは言い難い。そこで,より効果的に二
次的信念の理解を測る質問紙課題を作成するこ
とを目的とする。
予備調査
林(2002)で使用された誕生日課題では「母が
っとむの誕生日にゲームを買ったが,っとむに
は時計を買ったとしづ。っとむは偶然ゲームを
見つけ,本当のことを知るが 母は知らなしリ
という内容であり,母はっとむが何を買っても
らったと思いますかと聞く。先行研究の問題を
指 導 教 員 皆 川 ! 直 凡
受け,課題の改善を行った。予備調査1では,
各学年それぞれ表記の問題を考え,作成する必
要があることと,課題文と設問を分ける必要が
あること等が明らかとなり,予備調査2では予
備調査1を経て作成した改善が適切で、あったこ
とが示されると同時に先行研究での課題の調査
用紙の構成や手続きが甘く,二次的信念の理解
を過大に評価していたことを示唆された。さら
に二次的信念の理解は2年生でチャンスレベル
」 をこえ, 2年と 3年生の聞に有意な発達差があ
るという結果となった。
本調査
予備調査と同様に,改善した誕生日課題が安
定した一定水準以上の正答率を得ることができ
るか,また誕生日課題における改善が,他の二
次的信念課題に適用できる可能性を検討する。
[方法]
予備調査を経て改善した誕生日課題と,他の
二次的信念課題を,公立小学校の 1年から 6年
生までの児童
4
0
1
人に実施した。
{結果および考察]
ストーリ一理解の難しさなどの理由から,他
の二次的信念課題については,誕生日課題と同
様の改善を適用する可能性は否定された。しか
し誕生日課題においては正答率が一定水準をこ
た安定していた。二次的信念の理解は3年生
(
8
歳)以上に理解でき始め,
5
年生
(
1
0
,
1
1
歳頃)
まで緩やかに発達することが明らかとなった。
-8-{研究
n
l
目的
研究 Iで完成した誕生日課題に一次的信念
質問を加え,児童の「心の理論j発達が,俳句の
鑑賞に及ぼす影響を検討することを目的とする。
予備調査
俳句鑑賞検査(大黒 2004を参考に作成)で使
用する「子ども俳句Jを選定することを呂的に,
児童に好む俳句を十二句から二句,選ばせた。
俳句の人数やその俳句選択理由の学年変化など
を検討した結果,③「ポケットの中にまだある夏
休み」と②「ふうせんがくもまでとんでかくれん
具体事例の比較から個人の俳句鑑賞が,学年上
昇とともに深まることが示された。二次的信念
質問の正答,誤答群においては,二次的信念の
理解ができている者は,二次的信念の理解がで
きない者よりも,鑑賞文における俳句の場面や
心情を具体的に記述できており,さらに二次的
信念の理解ができるからこそできる鑑賞文の記
述がなされていた。しかし一次的信念の理解と
の関連を見ることができていれば,さらに深い
考察ができたであろう。
【総合論議}
二次的信念の理解は8歳(2,3年生)頃理解で
ぼjと①「ねんがじょうことしはふえて十まい きるようになったが,同時に俳句の鑑賞も深ま
にJの三句とした。 るのだろうか。低学年(8歳切では,俳句別ある
本調査 いは個人別の鑑賞ではいずれも,その鑑賞得点
俳句鑑賞の深まりが「心の理論jの発達から
影響を受けるとし1う仮説をたて検証を行う。
{方法]
新たに,っとむは何を買ってもらったと思っ
ているかを問う一次的信念質問を加えた誕生日
課題と,上記3句のうち2句を選び〉各句が描
く様子や作者の気持ちなどを自由記述させる俳
句鑑賞検査を公立小学校4校の 1年生から 6年
生までの児童293人に実施した。
{結果と考察}
ストーリーの流れなどから一次的信念質問
については誤答が多く,適切でないことが示さ
れた。また俳句鑑賞検査については,①,②,
③の俳句を選んだ人数の合計の1)慎位が,予備調
査の結果と同じであり,高学年と低学年におい
ても同じ傾向で、あった。俳句別に鑑賞の深さを
検討した結果,俳句ごとに多少の違いはあるが,
概ね学年が上がると俳句鑑賞が深まることが証
明された。個人の俳句鑑賞の学年変化では,低,
中,高学年の全ての学年間で有意な差があり,
が低く,読みが浅いことを示していた。中学年
や高学年に進むと,俳句鑑賞は読みが深くなり,
中学年から高学年にかけては,さらに鑑賞が深
まることが示された。また二次的信念質問の正
答群の俳句鑑賞は誤答群より深く鑑賞できてい
た。これらのことから俳句鑑賞は二次的信念の
理解ができた後に発達すると考えられる。
俳句鑑賞は,情景的理解(浅い理解)から心情
的理解(深い理解)に進む。浅い理解とは,二次
的信念の理解ができないことに相当し,俳句鑑
賞でいうと,作者が「直接表現していることjを
読みとることである。また深い理解とは9 二次
的信念の理解に相当し,俳句鑑賞でいうと,作
者が「表現していることの中にある「深層にある
ものJJを読みとることである。
今後の課題としては,一次的信念の理解との
関連から俳句の鑑賞を考えること,俳句を選ぶ
際に生じる感情について検討すること,他の認
知能力と俳句の鑑賞との関連を広く検討してい
くことなどが挙げられる。