リンパ浮腫難民を救え!―秋田県におけるリンパ浮腫ケアの実態調査からー
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(2) Ⅰ. はじめに リンパ浮腫は、がん治療後などに起こる後遺症であり、現在完治する治療法が ない疾患である。浮腫緩和のための治療法としては、複合的理学療法(CDT)が あり、医師・看護師・作業療法士・理学療法士・鍼灸マッサージ師等を対象とし た医療リンパドレナージのセラピスト養成が様々な民間機関により行われてい る。研究者は、医療リンパドレナージセラピストとして、秋田県でケアを提供し ているが、リンパ浮腫ケアを必要としている方々に十分にケアがなされている か疑問に思った。 がん手術を受けた病院に通院中であれば、たとえリンパ浮腫が発症したとし ても主治医によってリンパ浮腫ケアの専門セラピストに紹介され、適切なケア を受けられることが推測されるが、がん治療を終えて数年経過してからリンパ 浮腫を発症した場合には、医療から離れているため、リンパ浮腫治療・ケアを提 供している情報を得ることは容易ではない。 また、秋田県の第 3 期がん対策推進計画では、リンパ浮腫ケアの充実が挙げ られているが、研究者がインターネット検索したところ、秋田県内でリンパ浮腫 ケア外来を開設している医療施設は 10 施設に満たないなど、とにかく情報が少 ない。受け入れ制限などの理由でケアを受けられない人もいるのではないかと 思われる。これにはセラピストの少なさが影響している可能性があるとも考え られるが、これでは、リンパ浮腫を発症した患者は路頭に迷い、いわゆる「リン パ浮腫難民」となってしまうことが考えられる。そのため、リンパ浮腫難民を撲 滅するためにリンパ浮腫ケアマップを作成し、情報提供することは重要である と考える。 また、リンパ浮腫は廃用症候群やがん終末期においても頻度の多い症状であ り、在宅医療を受けている患者においては、ケアのニーズは高いと推測される。 秋田県内の在宅医療において訪問看護師によるリンパ浮腫ケアがどのように行 われているか、どのような困難があるかは不明であり、リンパ浮腫ケアを充実さ せるために調査することは重要である。 【用語の定義】本研究における「リンパ浮腫難民」とは、本人がリンパ浮腫の治 療・ケアを必要としているが何らかの理由で治療・ケアを受けられていない人を 言う。 Ⅱ 目的 目的①.秋田県内の訪問看護ステーションに勤務する看護師を対象にリンパ浮 腫ケア提供状況と困難、学習ニーズを質問紙調査により明らかにする。 目的②.秋田県内における医療施設を対象にリンパ浮腫ケアの実態を明らかに する 1.
(3) Ⅲ 【目的①】秋田県内の訪問看護ステーションに勤務する看護師を対象にリン パ浮腫ケア提供状況と困難、学習ニーズを質問紙調査により明らかに する。 1.研究方法 1)対象 東北厚生局のホームページ内にある秋田県の「コード内容別訪問看護事業所 一覧表(令和元年 8 月 1 日現在)」に掲載され、現存している 69 施設に勤める 訪問看護師。各施設 3 名として依頼した。 2)調査方法 独自に作成した無記名自記式質問紙に回答してもらう。内容は、属性、リン パ浮腫患者のケアの状況、リンパ浮腫患者への看護における困難、リンパ浮腫 ケアに関する学習ニーズ等である。 3)分析方法 データは単純集計した。 2.結果 54 名から回答を得た。回収率(26%)。看護師経験年数は、平均 24.1 年、訪 問看護師経験年数は 7.1 年であった。 リンパ浮腫ケアに役立てている資格として、リンパ浮腫セラピスト 2 名、弾 性ストッキングコンダクター0 名、フットケア指導士 2 名、緩和ケア認定看護師 1 名、訪問看護認定看護師 3 名、皮膚・排泄ケア認定看護師 1 名であった。 リンパ浮腫に関する研修等に参加した経験がある者は、19 名(34.2%)であっ た(表 1)。リンパ浮腫に関する学習資源は、身近な医療者と回答した者が多か った(表 2)。 これまでに、訪問看護でリンパ浮腫患者を担当したことがある者は、27 名 (50%)であり、そのうち 96%(26 名)がリンパ浮腫ケアの実践経験があると 回答した。具体的なケア内容としては、 「皮膚の清潔・保湿を実施・指導」が最 も多かった(表 3)。 これまでに訪問看護で担当したリンパ浮腫患者の浮腫改善のために、ケア・指 導を実践できなかったことがある者は 10 名であり、実践できなかった理由とし ては、 「自分の技術に自信がなかった」 「患者の病態上、優先されるべき症状が他 にあった」「リンパ浮腫に対してケアを行うことで、病態悪化の恐れがあった」 が多かった(表 4)。 訪問看護でリンパ浮腫ケアを行う上での困難は、リンパ浮腫のアセスメント やケアの難しさのほか、他医療者との連携の難しさが上位であった。(表 5) また、課題については、知識・技術・経験を得るための時間の不足、研修機会 2.
(4) の不足が比較的高かった。(表 6) 表 1.参加したリンパ浮腫に関する研修内容(n=19) 研修内容. n. %. 1.リンパ浮腫の病態やケアに関する講義. 18. 33.3. 2.用手的リンパドレナージの実技. 10. 18.5. 3.弾性着衣に関する実技. 0. 0. 4.多層包帯法の実技. 1. 1.9. 5.リンパ浮腫の予防指導に関する講義. 4. 7.4. 表 2.リンパ浮腫に関する学習資源(複数回答) 学習資源. n. %. 8. 14.8. 2.外部で開催された研修会等. 19. 35.2. 3.本. 16. 29.6. 1. 1.9. 5.身近な医療者(医師、同僚など). 25. 46.3. 6.インターネット. 17. 31.5. 6. 11.1. 1.自施設で開催された研修会・勉強会等. 4.論文. 7.患者さん. 表 3.リンパ浮腫ケア実践内容(n=26) 内容. n. %. 1.皮膚の清潔・保湿を実施・指導. 24. 92%. 2. 用手的リンパドレナージの実施・指導. 18. 69%. 3. 日常生活指導(体重管理など). 14. 54%. 4.関節運動を実施・指導. 13. 50%. 5. 浮腫部位の拳上を実施・指導. 15. 58%. 6.多層包帯の実施・指導. 5. 19%. 7. ドラッグストア等で販売の着圧ストッキングの装着. 3. 12%. 8.深部静脈血栓症予防の弾性ストッキングの装着. 9. 35%. 9.リンパ浮腫用の弾性着衣の装着. 3. 12%. 10. チューブ包帯による簡易圧迫の実施・指導. 1. 4%. 11. 器械的マッサージ(波動型末梢循環促進法)実施. 1. 4%. 12. その他. 1. 4%. 3.
(5) 表 4.リンパ浮腫ケアを実践できなかった理由(n=10) 内容. n. %. 1.医師の指示がなかった. 6. 60%. 2.すでに他施設で加療していた. 1. 10%. 3.患者の浮腫に対する苦痛がなかった. 3. 30%. 4.ケアの時間がなかった. 5. 50%. 5.自分の技術に自信がなかった. 7. 70%. 6.患者・家族から要望がなかった. 4. 40%. 7.患者の病態上、優先されるべき症状が他にあった. 7. 70%. 8.リンパ浮腫に対してケアを行うことで、病態悪化の恐れがあった. 7. 70%. 9.患者・家族から経済的な理由で断られた. 1. 10%. 表 5.訪問看護でリンパ浮腫患者のケアを行う上で、困難に感じたこと(n=27) かなり思う 1.患者の病態が複雑であるた め、アセスメントが難しい 2.患者の病態が複雑であるた め、ケアが難しい 3.リンパ浮腫セラピストと連携 を図るのが難しい 4.リンパ浮腫ケアを行う上で医 師と連携を図るのが難しい 5.医師がリンパ浮腫治療および ケアに非協力的である 6.訪問看護料との兼ね合いでケ アの時間が足りない 7.患者・家族が経済的な理由で ケアを希望しない. まあまあ思. あまり思わ. 全く思わ. う. ない. ない. 13. 48%. 12. 44%. 2. 7%. 0. 0%. 10. 37%. 14. 52%. 3. 11%. 0. 0%. 13. 48%. 11. 41%. 3. 11%. 0. 0%. 12. 44%. 13. 48%. 2. 7%. 0. 0%. 5. 19%. 12. 44%. 9. 33%. 0. 0%. 8. 30%. 11. 41%. 8. 30%. 0. 0%. 3. 11%. 9. 33%. 13. 48%. 2. 7%. 4.
(6) 表6.リンパ浮腫ケアに関して課題に思う事(n=54) かなり思う 1.知識・技術・経験を得るため の時間がない 2.医療従事者向け研修の機会の 不足 3.リンパ浮腫ケアを行う医師、 コメディカルの人数不足 4.リンパ浮腫に関する医師、コ メディカルの知識・技術の不足 5.リンパ浮腫の患者が多い 6.リンパ浮腫患者向け情報が不 足している 7.リンパ浮腫の治療費等の患者 の負担が大きい. まあまあ思. あまり思わ. 全く思わ. う. ない. ない. 19. 35%. 31. 57%. 4. 7%. 0. 0%. 17,. 31%. 27. 50%. 10. 19%. 0. 0%. 17. 31%. 25. 46%. 12. 22%. 0. 0%. 14. 26%. 21. 39%. 19. 35%. 0. 0%. 2. 4%. 19. 35%. 31. 57%. 1. 1.9. 10. 19%. 32. 59%. 11. 20%. 0. 0%. 10. 19%. 26. 48%. 17. 31%. 0. 0%. Ⅳ 【目的②】秋田県内における医療施設を対象にリンパ浮腫ケアの実態を明ら かにする 1.研究方法 1)対象 「あきた医療情報ガイド」に掲載されている、婦人科、乳腺外科、泌尿器科、循 環器外科、循環器内科、皮膚科・形成外科、整形外科、リハビリテーション科の いずれかを有する医療施設。(医院 249 施設、病院 50 施設) リンパ浮腫ケアに関連する部署また、施設長に依頼した。 2)調査方法 独自に作成した無記名自記式質問紙に回答してもらう。内容は、属性、リンパ 浮腫患者のケアの状況、課題などである。 3)分析方法:データは単純集計した 2.結果 63 施設(医院 46、病院 17 施設)から回答を得て、回収率は 21.1%(医院 18.5%、病院 34%)であった。 1)医院について リンパ浮腫ケアを実践している施設は 2 施設(4%)であり、いずれもリンパ 浮腫セラピストが所属しており、CDT を実践していたが、波動型末梢循環促進法 などによる器械的マッサージは実践していなかった。)一方で、リンパ浮腫ケア を実践していないと回答した医院において、これまでにリンパ浮腫患者を診察 5.
(7) したことがある医院は、16 施設(32%)であり、患者に行った対応として「い つもする」「ときどきする」と回答した項目は、浮腫部位の拳上が 93%で多く、 次いで蜂窩織炎に対する対応 87%であり、CDT を実施している他施設に紹介は 60%であった(表 7)。また、リンパ浮腫ケアを実践していない医院において、 CDT を実践している施設へ紹介しなかった理由としては、患者がすでに加療中を 除くと、紹介先が分からない、患者の希望がないことが多かった。(表 8) リンパ浮腫ケアを実践していない医院において、リンパ浮腫患者を CDT 実践 施設に紹介する基準は、患者が CDT を希望していることが最も多く、身体的な 変化に関する評価はばらつきがあった。(表 9) 課題としては、医師、コメディカルの人数不足、患者向け情報の不足が多かっ た。(表 10) 表7 これまでにリンパ浮腫患者が来院した際に行った対応 (リンパ浮腫ケアを実践していない医院)n=15 いつも. ときどき. あまり. する. する. しない. 1.皮膚の清潔・保湿を指導. 5. 33%. 4. 27%. 4. 27%. 3. 20%. 2. セルフリンパドレナージの指導. 2. 13%. 4. 27%. 2. 13%. 6. 40%. 3. 体重管理を指導. 3. 20%. 5. 33%. 3. 20%. 4. 27%. 5. 浮腫部位の拳上を指導. 8. 53%. 6. 40%. 1. 7%. 1. 7%. 6. 蜂窩織炎に対し、抗生剤を処方する. 7. 47%. 6. 40%. 0. 0%. 3. 20%. 3. 20%. 4. 27%. 4. 27%. 5. 33%. 1. 7%. 3. 20%. 5. 33%. 6. 40%. 0. 0%. 2. 13%. 2. 13%. 11. 73%. 0. 0%. 1. 7%. 3. 20%. 11. 73%. 0. 0%. 3. 20%. 2. 13%. 11. 73%. 0. 0%. 3. 20%. 2. 13%. 11. 73%. 1. 7%. 4. 27%. 1. 7%. 9. 60%. 2. 13%. 1. 7%. 1. 7%. 11. 73%. 3. 20%. 6. 40%. 3. 20%. 3. 20%. 7. ドラッグストア等で着圧ストッキ ングの購入を勧める 8. 深部静脈血栓症予防のストッキン グを勧める 9. リンパ浮腫用の弾性着衣を勧める 10. チューブ包帯による簡易圧迫の実 施・指導 11. ショートストレッチ包帯による多 層包帯の実施・指導 12. ロングストレッチ包帯による多層 包帯の実施・指導 13. 器械的マッサージ(波動型末梢循 環促進法)の実施 14.弾性着衣等による圧迫下での適度 な運動を指導 15.CDT を実施している他施設に紹介. 6. 全くしない.
(8) 表 8.CDT 実践施設へ紹介しなかった理由 (リンパ浮腫ケアを実践していない医院)n=11 理由. n. %. 1.患者が希望しなかったから. 4. 36%. 2. 紹介先が分からなかったから. 4. 36%. 3. 患者自身でコントロールできたから. 2. 18%. 4. 浮腫が軽度であったから. 3. 27%. 5. CDT の効果に疑問があるから. 1. 9%. 6. すでに他の病院で加療していたから. 5. 45%. 表 9.CDT 実践施設へ紹介する基準(リンパ浮腫ケアを実践していない医院) n=14 n 1.患者が CDT を希望している. % 10. 71%. 2.圧痕が残る柔らかい浮腫である. 2. 14%. 3. 圧痕が残らない硬い浮腫である. 4. 29%. 4.起床時に浮腫が改善していない. 4. 29%. 5.浮腫による形状の変化が著しい. 8. 57%. 6.上肢又は下肢の左右差が 1 ㎝程度である. 2. 14%. 7.上肢又は下肢の左右差が 2 ㎝以上である. 5. 36%. 8. 明かな浮腫は確認できないが患者が苦痛を感じている. 2. 14%. 表 10.リンパ浮腫ケアの課題(医院. n=33)(かなり思う4~全くない1) 平均値. 標準偏差. 医師、コメディカルの人数不足. 3.30. .529. 医師、コメディカルの知識・技術の不足. 3.00. .612. 患者が多い. 2.13. .571. 治療費等の患者の負担が大きい. 2.57. .817. 施設又は設備が不十分. 3.00. .587. 医療従事者向け研修の機会の不足. 3.10. .597. 患者向けの情報の不足. 3.22. .659. 2)病院について リンパ浮腫の治療・CDT を担当する部門・診療科がある病院は 8 施設(47%) であり、その内リンパ浮腫セラピストによるケアが受けられる施設は 6 施設 7.
(9) であった。実践しているケア内容としては、CDT のうち、多層包帯法やセルフ ケア指導を実施しない施設もあるなど、ばらつきがあったが、全ての施設で波 動型末梢循環促進法などによる器械的マッサージは実践していなかった。 リンパ浮腫患者の受け入れ状況については、施設により基準が異なってい た。また、入院中の患者へのケア実施の有無については施設で異なっており、 料金としてはがん患者リハビリテーション料や無料で行っていた。外来患者 の場合では、外来リハビリテーション料、再診料、無料など施設により異なっ ていた。リンパ浮腫ケアの課題については、医院の結果と同じように、医師、 コメディカルの人数不足が多かった。 Ⅴ.考察 結果より、地域で在宅医療を支える訪問看護、医院、病院のリンパ浮腫ケアの 実践状況が分かった。 訪問看護における課題としては、学習機会の不足による知識・技術への不安な どのほか、他医療者との連携困難、訪問時間の制約がみられていた。このことか ら、訪問看護師が知識・技術に不安なく他医療者と相談しながらリンパ浮腫ケア が行える地域システムづくりが必要であると考える。そのためにも、訪問看護師 が主な相談をするであろう主治医のリンパ浮腫の認識が重要であると考えるが、 医院(医師)においては、対応やリンパ浮腫患者の紹介基準などに個人差がみら れていた。また、54%はリンパ浮腫患者を診察したことがないことが分かり、医 師においてもリンパ浮腫のアセスメントや認識が十分でない可能性がある。そ のため、地域全体にリンパ浮腫ケアに関する知識・技術を普及していく必要があ ると考える。また、患者が、リンパ浮腫が気になった時に、どこに相談したらよ いか、どのような手立てがあるのか気軽に情報が得られる手段も必要である。イ ンターネットが普及している現代においても、インターネットを使うことが困 難な方々もいるため、地域住民が目にとめやすい場所にリーフレットを設置す るなど広報をしていく必要もある。 Ⅵ.今後の取り組みについて 今回調査協力いただいた各医療施設の協力を得て秋田県内のリンパ浮腫ケア マップ作成中であり、2019 年度内にリンパ浮腫サポートグループの Facebook や医療機関への情報提供の資料とする予定である。今回の調査では、回収率が 40%未満と低く、多くの医療機関の結果を示せていないのが残念であるが、情 報発信をし、リンパ浮腫ケアについて、医療者だけでなく地域の方々に知ってい ただき、あきらめたり、一人で悩むことが少なくなるようにしたい。 本研究の事前計画においては、リンパ浮腫のリスクがある、いわゆるリンパ浮 腫難民へのインタビューを予定していたが、協力者を得ることが難しく実現で 8.
(10) きなかったことから、今後も協力者を募集していき、リンパ浮腫難民の声を伝え ていきたいと考える。 最後に、本研究は、公益社団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成による ものです。厚く御礼申し上げます。また、本研究にご協力くださいました皆様 に心より感謝いたします。. 9.
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