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虚血心筋における心筋マグネシウム含量の変化とその意義について

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原 著 〔東女医大誌 第57巻 第12号頁1667∼1675昭和62年12月〕

虚血心筋における心筋マグネシウム含量の変化とその意義について

東京女子医科大学 循環器内科学教室 カ トウ タツ

加 藤 辰

(主任 広沢三七郎教授) ヤ 也 (受付 昭和62年8月21日)

Changes of Myocardial Magnesi㎜Contents Associated w茸th Ische革nia.a凱d its Signif玉cance

7atsuya KATOH

Department of Cardiology(Director:Prof. Koshichiro HIROSAWA), Tokyo Women’s Medical College

The correlations between myocardial magnesium contents and ischemia were investigated

experimentally by using 40 adult dogs of no special sort, Fogarty balloon catheter(2F)was introduced into the left anterior descending coronary artery(LAD). LAD was occluded by this catheter for 15 min.,30 min.,60 min. and 120 min.. Ischemic regions were made ln the anterior myocardium and myocardial magnesium contents of this lesions were Ineasured, Next, in order to investigate the effects of reperfusion on myocardial magnesium contents, LAD was reperfused for 15鋤n. after occlusion. Secondly, in廿avenous administrations of M禽SO4 were done and studied histologically the effects of magnesium on coronary occlusion and reperfusion. The results obtained from these studies were as follows・

1.Myocardial magnesium contents of the non−ischemic region were 109.2±1.2mic.g/100mg,. 60min. after LAD occlusion, these were reduced signi丘cantly to 105.1±1.4 mic.g/100mg., and 120 min, after the occlusion, magnesium contents were much moro reduced. In the cases which reperfusions were done, magnesium contents were already reduced significantly only after 30 min. to 99.8±1.5 mic.g/100mg.

2,Compared with the cases with no reperfusion, in the cases with reperfusion, Inyocardial magnesium contents were reduced rapidly and much more greater.

3.Magnesi㎜contents of myocardium in both endcardial and epicardial side were almost same in both ischemic and non−ischemic regions.

4.In time of coronary occlusion, greater the degree of ST elevation, more salient the

reduction of myocardial magnesium contents.

5.In the cases which reperfusions were not done, there were no histological dif〔erences between the cases which magnesium were administered and the cases which magnesium were not administered. But in the cases which reperfusions were done, so called contraction bands were found in 20f 3 cases. This means that the administrations of magnesium cannot perfectly protect

myocardi㎜from reperfusion injury.

緒 言 近年,我が国においても虚血性心疾患の罹患数 が著明に増加しており,これにともない心疾患に よる死亡率は死因統計上,悪性新生物に次いで2 番目の位置を占めるに至っている.また虚血性心 疾患の発生メカニズムや治療法,予防手段に関し

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254 ても,極めて多くの研究が報告されている. マグネシウム(以下Mg)は生体内で7番目に多 い無機物であるが,同一族に属するカルシウムに 比しその生理作用や各種疾患との関わりについて はあまり注目を集めてこなかった.しかし1970年 代以降,Mgと循環器疾患との関連性が注目され るようになり,(1)虚血性心疾患および突然死と の関連,(2)不整脈の発生とその治療一特にジギ タリス中毒との関連,(3)高血圧平ならびに脳血 管障害の発生との関連等が今日知られている.特 にこのうち虚血性心疾患とMgとの関わりにつ いては,臨床面では,①急性心筋梗塞症患者の血 清Mg濃度が減少していること1)や,②心筋梗塞 症例や突然死した症例の心筋内Mg含量が減少 していること2)74),等が報告されている.二方実験 的にはMgの欠乏した例では心筋繊維の壊死が 起こり,またこれにたいしてMg投与が保護的に 働.くという報告や‘),Mgの欠乏が動脈硬化症の発 症や血液凝固に悪影響を・及ぼし,冠血流量にも影 響を与えることが報告されている6).またMgの 減少のみでなく,Ca/Mgの比率の増減が大きな 意味をもっていることも最近分かってきた.すな わち,その比率の上昇は虚血性心疾患の発生に関 して増悪因子となり,逆にその比率の低下は防御 因子となると報告されている5).このように心筋 虚血とMgとの関連については,これまでにもい くつかの報告はあるが,心筋虚血時のMg含量の 経時的変化や,再潅流が心筋Mg含量に与える影 響等については今日なお不明である.そこで今回 心筋虚血が心筋Mg含量に及ぼす影響について, 雑種成犬を用い,(1)冠閉塞後の時間経過とMg 含:量の変化,(2)再潅流の有無による心筋Mg含

量の変化,(3)病理組織所見やECG所見とMg

含量との対比,(4)Mg投与が病理組織所見等に 及ぼす影響を検討したので報告する. 対象および方法 実験材料として体重9∼16kgの雌雄の雑種成犬 40頭を用いた.Ketalar 2mlの筋注後, Pentobar− bital sodium 10 ml/kgで麻酔をおこない,その 後麻酔の深さにより適宜追加静注した.次いで気 管内挿管し人工呼吸器を装着後,頚動脈より冠動 脈造影用のカテーテルを挿入した.また一部の例 でこれに加えて左右の頚静脈から採血用および MgSO4注入用のカテーテルを挿入した.心電図は 体表面より標準12誘導心電図を記録した. 実験は以下の3群で行なった. 1群 冠動脈閉塞実験:16頭 II群 再潅流実験:14頭 III群 MgSO、投与実験:10頭 1,II群ではレントゲン透視下に左前下行枝を 選択的に造影し,Fogarty catheter(2F)を前下 行枝,第!対角枝分枝部に挿入した.次いでバルー ンを膨らまし,左前下行枝を完全に閉塞し,経時 的に心電図を記録した.1群,II群では各・々3∼5 頭の小グループに分け,冠動脈を,①15分,②30 分,③60分,④120分間閉塞し,II群では更にその 後15分間再潅流を行ない心臓を摘出した.なお1 群,II群の30頭の内,心電図上有意なST上昇を認 めなかった例および実験途中に心室細動のため死 亡した例の3例については本研究より除外した. III群では,10%MgSO420mlを4分間で静注後 5分後に,1群,II群と同様に左前下行枝を閉塞, その後引き続き同心を20ml/hrの割合で持続注入 した.1時間後,2頭では直ちに心臓を摘出し, 3頭ではその後鼻に15分間再潅流を行ない心臓を 摘出した.なおIII群の内冠動脈閉塞中に心停止と なり死亡した2頭および有意なST変化を認めな かった3頭については本研究より除外した. 摘出した心臓は閉塞部位より末梢で両心室を水 平横断し,心筋Mg含量測定用ならびに光顕用の 試料を得た.心筋Mg含量の測定は,水平横断し た試料を図1に示すように,円周方向にほぼ均等 に12分割し,さらにその各々を心内頭側と心外膜 側とにほぼ均等に分け,総計24個のブロックにし た.心室中隔中央部心内膜側のブロックをNo.1, 心外膜側をNo.2とし反時計回りに逐次No.24ま で番号をつけ,No.3∼No.6までを虚血部心筋と してそのMg含量を測定した.また後壁側に相当 するNo.15∼No.18までの心筋についてもその

Mg含量を測定し非虚血部心筋のMg含量とし

た.心筋Mg含量は試料を110℃,5時間で乾燥後 に乾燥重量を測定し,その後500℃,24時間で乾式

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後壁 RV

22_三L

//;119

2・^23 2 \ 1 \

ドー5

す…一 18 17 、\16 15\ 13\14 、L ; LV lもμ2 9ノ/

エ_/lo

曽一一 X 前壁 図1 心筋Mg含量を測定する際の試料の分割法 (**) 110 100 雪 ミgo .ぎ 唄 ぎ・・ 70 110 (*) 6D 100 窒 ミgo ,雪 唄8。 ぎ (**) (**) (**)

70 60 (**)P<O.0/

NS (*) P<0.05 (**)P〈O.01 C〔,nt. 15 30 60 120 1ni11. 図3 11群における冠閉塞後の時間経過と虚血部心筋 Mg含量の関係 Cont. 15 30 60 120 min. 図2 1群における冠閉塞後の時閲経過と虚血部心筋 Mg含量の関係 灰化後,原子吸光計・日立860A型で測定した.光 顕標本はホルマリン固定後,型のごとくに脱水, 脱脂処理し,NIH染色, Masson変法染色によっ て作成した. 結 果 1.冠動脈閉塞,再潅流による心筋醒g含量の 変化について

非虚血部から得られた対照試料のMg含量は

109.2±1.2mic.g/100mg dry weightであった.

1群における冠動脈の閉塞時間と虚血部心筋の

Mg含量との関係を図2に示す.15分閉塞では

107.8±1.1mic.g/100mg.30分閉塞では107.3± 1.6mic.g/100mg,60分閉塞では105.1±1.4mic.g/ 100mg,120分閉塞では95.6±3.1mic.g/100mgで あった.II群においては,15分閉塞では107.2±2.1 mic.g/100mg,30分閉塞では99.8±1.5mic. g/100 mg,60分閉塞では98.0士2。3mic.g/100mg,120分 閉塞では81.3±3.8mic.g/100mgであった(図 3).同一時間冠動脈閉塞例について,1群とII群 の虚血部心筋のMg含量をみると(図4),15分閉 塞では2群間に有意差はなかったが,30分,60分, 120分でいずれもII群は1群に比し有意に低値を 不した.

2.心電図のST上昇の程度と心筋Mg含量と

の関係

図5に1群における心電図のST上昇と心筋

Mg含量との関係を示す. ECGのST上昇が5mm

未満のものと,それ以上のものとに分けて比較し てみると,15分ではST上昇が5mm未満,105.7± 2,!mic.g/100mg,5mm以上109.4±0.8mic.g/100 mgで有意差はなかった.30分,60分については症 例数が少なく有意差検定はできなかったが,120分 では前者が101.7±2.7mic.g/100mgに対し後者 では92.5±4.2mic.g/100mgであり有意差を認め なかった.

図6にII群における心電図のST上昇と心筋

Mg含量との関係を示す. ST上昇が5mm未満の

例と,ST上昇が5mm以上の例のMg含量は,15

分では前者の11L1±0.7mic.g/100mgに対して 後者は103,2±3.omic.g/100g,30分では前者の

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120 110 鉾1。o § 』。 三 砦 〕 80 70 60 NS [ , Q. 5 ∼+・ 哩虜!・ 3 0 0 Q 100 当 室 悔 ・碁 矯50 邑 O I群 II群 1群 工1群 15分 30分 図4 11群の間の有意差の有無 NS P〈0.01 P〈0.05 P<Q.05 u一「 「一一一舳 「一一一一一一一「 「一一一一一一一「 1群 II群 60分 1群 II群 ユ20分 再潅流の有無による虚血部心筋Mg含量の差.同一時間冠動脈閉塞例の1群, .; ↓ o ● O ST↑く5mm ●ST↑≧5mm :「1 }; 18 ● 図5 1群における心電図のST上昇と虚血部心筋の Mg含量の関係 120 110 bO 100 ξ ミ 叩90 ・養 励 Σ 80 ㌦一 70 60 * ** [ [ ;》..

弓1≡+

・} 慧 む 勤 o 叶 o OST↑<5mm ●ST↑≧5mm * P<0.05 ** P〈0.01 ● ■ ● 図6 11群における心電図のST上昇と虚血部心筋の Mg含量の関係 106.2±1.3mic.g/100mgセこ対して後者は96。7± 1.Omic.g/100mg,60分では前者の102.1±1.3mic. g/100mgに対し後者は88.5±2.3mic.g/100mgで あった.このように再潅流群では,15分,30分,

60分でいずれもST上昇が5mm以上の例が有意

に低値を示した.120分については全例ST上昇が 5mm以上のため,両者の比較はできなかった. 3.虚血部,非虚血部の心内膜側,心外膜側心筋

のMg含量にっいて

表1に心内膜側心筋と心外膜側心筋とのMg

含量の比較を示す.非虚血部についてみると,心 内膜側が109.8±1.1mic.g/100mgに対し心外膜 側では109.0±0.6mic.g/100mgであり有意差は 無かった.虚血部の心内膜側,心外膜側心筋のMg 含量は,1群,II群のいずれも各閉塞時間で有意 差を示さなかった.

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表1 心内膜側・心外膜側心筋のMg含量の比較 虚 血 部 非虚血部 1 群 II 群 15分 30分 60分 120分 15分 30分 60分 120分 心内膜側 109.8±1.1 107.2±1.6 107.5±4.9 103.6±2.6 99.5±L3 107.6±4.0 99,7±3.7 98.5±2.1 77.6士7.0 心外膜側 109.0±0.6 107.6±1.6 105.2±2.8 104.4±0.9 101.6±2.8 106.8±L9 101.7±4.2 101.2±2.3 882±5.4 (単位:mic, g/100mg) 111.6 109.7 RV 110,2 後壁 109.2 108.4 108.7 106.5 105.2 1ユ4.7 107.O lO9,0 112.8 ユ10.2 111.7 108.3 LV lユ4.ユ 107,0 102,7 ヒ ユ ほ 99・6104,1110・8 1ユ0.0 96・8107.9108,3 前壁 幽立:mi…/100m・乾重量) 図7 1時間冠動脈閉塞をした例の心筋Mg含量の測定結果 虚血部 非虚、血部 全 体 102.3±1.6 109.4土0.6P〈0.01 心内膜側 102.1±1.3 109.8±1.1P〈0.0ユ 心外膜側 102.5±3.2 109.0±0.6 Pく0.01

NS

NS

図7は1時間冠動脈閉塞例で,心電図のST上

昇が5mm以上であった例の心筋Mg含量であ

る.No.1∼No.6が虚血部位であるが,そのMg 含量は102.3±!.6mic.g/100mgであり, No. 7∼No.24の非虚血部のMg含量109.4±0.6mic. g/100mgに比し有意に低値を示した.また虚血部

の心内膜側,心外膜側心筋Mg含量は,前者の

102.1±1.3mic.g/100mgセこ対し,後者で102.5± 3.2mic.g/100mgであり有意差を認めなかった. 非虚血部の心内膜側,心外膜側心筋Mg含量は前 者の109.8±1.1mic.g/100mgに対して,後者は 109.0±0.6mic,g/100mgであり,有意差を認めな かった. 4.MgSO4の影響について

図8にMgSO4を静注した際の血清中Mg濃度

の変化を示す.対照値1.9±0.3mg/dlに対し,

MgSO42gを4分間で静注した直後には14.1±

1.6mg/dlで,持続注入開始15分,30分,60分後の 値はそれぞれ12.4±1.3mg/dl,13.3±1.6mg/dl, 14。7±2.3mg/dlであった. MgSO4静注前の5頭 15 黒 ぎ ぎ Cont. 10 20 30 40 50 60 65 min. 図8 MgSO4投与時の血清Mg値の変化 の心拍数は160±13/minであり,静注後のそれは 102±9/minと平均値で36%の減少を示した.静注 後の調律は全例洞調律で,PQ間隔は静注前の 0.18±0.01秒に対して静注後は0.28±0.01秒と二二 明に延長し,全例1度房室ブロックを呈した. 5.病理組織所見 冠閉塞15分では光顕的に虚血部領域と非虚血部 領域の心筋との区別はできない,30分冠閉塞では,

(6)

258

麟凝灘購欝㌘

写真1 120分冠動脈閉塞例の光顕像 間質の浮腫と核の縮小・濃染化ならびに好酸性変化を 示す.HE染色×400

臨叢鍵

’磁

轍諏灘

写真2 120分冠動脈閉塞後腰潅流例の光顕像 過収縮・過伸展を特徴とするcontraction bandの形成 を認める.HE染色×400 間質の軽度の浮腫を認めるが,壊死巣は明瞭では ない.60分冠閉塞では,心筋の中層から内層にか けて,血流分布の不均一性が見られ,間質の浮腫 もより顕著となり,120分腸閉塞で核は縮小,濃縮 し,細胞質も好酸性変化を示すようになる(写真 1).一方60分閉塞後歯潅流例では,支配領域の心 筋の一部に,contraction bandの形成を認めた. 120分閉塞後,再潅流した例では広汎なcontrac− tion bandの形成を認めた(写真2).冠動脈閉塞 例におけるMgSO4静注例の組織像は,上記の静 注しなかった例と経時的に見ても変わらなかっ た.また,60分冠動脈閉塞後再潅流をした例につ いてみても,再潅流に伴うcontraction bandの形 成を完全には抑制できなかった. 考 察 Mgは心筋の機能的および構造的統合性を保持 するのに重要な役割を果たしており,心筋細胞内 の陽イオンとしてはカリウムについで2番目に多 いことが知られている7).Pageらはラットの心室 の場合そのMg含量は17.3±0.2mmo1/kg cell waterであったとし,その細胞内分布に関しては, 約12%がミトコンドリア内にあり,2ん3%が心 筋細胞内にあったと報告した8).また細胞内Mg の大半はATP(adenosine triphosphate), AMP

(adenosine monophosphate), ADP(adenosine

diphosphate)といった高エネルギー燐酸物質と 結合しており,さらに残りも酵素一補酵素の複合 体と結合して重要な役割を果たしているとしてい る8》. Mgと循環器疾患との関わりについては, Singh ら9),Ebe!ら7), Alturaらlo)ll)が詳細な報告をして いるが,近年特に虚血性心疾患との関わりについ て注目を集めている. 食生活の変化によりMgの摂取量は減少傾向 にあり,この事と虚血性心疾患の増加傾向との関 わりも検討されている.またMgの摂取量を増加 させることで虚血性心疾患を初めとする循環器疾 患の予防,ならびに治療ができる可能性が示唆さ れている. 従来より,虚血状態の心筋ではそのMg含量が 減少することが知られている.心筋梗塞症患者の 梗塞部心筋のMg含量が非梗塞部のそれに比較 して有意に低回を示すことがこれまでにもいくつ か報告されている12)13),また実験的に作成した虚 血心筋のMg含量が正常心筋に比較して減少し ていることも報告されている14}15).しかしながら, 虚血に伴う経時的な心筋Mg含量の変動につい ては検索した範囲では報告が見当たらない. 今回の検討により,冠閉塞30分までは心筋Mg 含量は有意な変化を示さず,60分以降で減少する ことが分かった.一方再潅流群では冠閉塞群に比 して,冠閉塞後15分後の再潅流では有意な変化は ないものの,30分閉塞後再潅流で有意に減少を示 し,120分では更に著明にMg含量の減少を認め ている.このことより,虚血による心筋Mg含量

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の減少のcritical pointは60分であり,更に再潅流 をすることによってそのcritical pointは30分に 短縮されている事が分かる.Hochreinら16)は guinea pigを用いた実験で30秒のasphyxiaでも

対照に比較してそのMg含量は15%減少したと

報告している.彼らの報告ではその後10.5分の時 点でMg含量は逆に上昇傾向を示している.今回 の実験結果との相違は動物種や実験方法の違いに よるものか否かは今後の問題である. 15分の冠閉塞では光顕レベルで見た場合再潅流 の有無による組織変化の差は殆ど無かった.一方 60分,120分と冠閉塞時間が長くなるにつれて,再 潅流例の組織学的変化は非再潅流例に比し明らか に異なる.同じ時間経過で見ると,心筋のMg含 量も再潅流例では非再潅流に比し減少の程度が大 きいことを考慮すると,組織変化とMg含量の変 化との間には相関があると考えられる.虚血に伴 う心筋Mg含量減少の理由について,Burtonら17)

は細胞壊死にともなって細胞内からMgが融出

するためとしている. 冠動脈閉塞に伴う心筋の虚血は,心内膜側に始 まり心外膜側に進むといわれている(wave front theory)18). Bankaらは冠閉塞後の心筋内Na, K 量を経時的に測定し,心内膜側と心外膜側とでは その変動に差があることを確認し,病理組織所見 と対比して報告している19).それによれぽ冠閉塞 4時間後では心内膜側と心外膜側とでは組織学的 に明らかな差があり,前者では虚血性変化が明瞭 であるのに対して,後者では未だ初期の変化しか なかった.この所見に一致して心内漸々の心筋で はK含量が著明に減少し,K/Na比は逆転してい たが,心外船側ではK含:量の減少は軽度で,K/

Na比は軽度に減少するのみであったとしてい

る.今回の検討では心筋Mg含量に関するかぎり 心内膜側心筋と心外膜側心筋の間に有意な差は認 めていない.両者の間に,Bankaらの報告にある Naや, Kのような差が見られないことは, ST上 昇を示す場合には,心筋は全層にわたり一様な変 化をきたすものと考えられる.

ST上昇の程度が5mm未満の例と5mm以上の

例とに分けてその心筋Mg含量を比較してみる

と,1群では,有意差はないが各時間とも,前者 に比し後者でMg含量は低い傾向にあった.一方 II群では有意差をもって後者のMg含量は低値 を示した.このことはECG上, ST上昇がより著 明であるほど,再潅流をすると心筋のMg含量が 低くなることを示している.

MgSO4投与後に見られたECG変化は,心拍数

の明らかな減少,1度の房室ブロック,および1 部の例において心室内の伝導障害であった.また 全例が洞性徐脈で,PQ時間の延長を見たことか らMgは洞結節,房室結節の両者に対して抑制効

果を持つことが示された.FurukawaらはMgが

洞結節に対し抑制効果をもっていること,および 心房収縮に対しても抑制効果を持っていることを 示している20)。MgSO4を静注した例の光顕像を調 べてみると,再潅流をしていない例については, その組織像にはMaSO、非投与例と差を認めてい ない.一方再潅流をした例についてみると,3例 中2例にcontraction bandの形成を認めた.この ことはMg静注によっても再潅流障害を完全に 予防する事が出来ないことを示している. 心筋の虚血に対してMg投与が防御的,予防的 効果をもつことがいくつか報告されている.Ber− sohnら21)はラットおよび家兎を実験材料とし虚 血を作成後に再潅流を行ない,これに対するMg 投与の効果を見ている.その結果,正常Mg濃度 の10倍にした場合,虚血をおこす前にMg投与で 負の変力作用を認めたときにのみ虚血に対して防 御的効果が有ったとしている.またラットと家兎 ではその対応が異なり,これは種の違いにより Mgの効果が異なるためとしている.Ferrariら22) は家兎を材料として同様な実験を行ない,心機能 や心筋組織およびミトコンドリアのCa, ATP,ク レアチニン燐酸などの含量を測定している.その 結果Ca拮抗剤であるニフェジピンを虚血にさら す以前に投与した場合や,高Mg・低Caの液で潅 流した場合には再潅流に伴う障害からの予防効果 が高かったと報告している.またFleckenstein ら5)もMgに心筋繊維の壊死をおさえる防止効果 があるとしている.金子ら23)は心筋梗塞発生の本 態と考えるkinetic cell deathの実験モデルで,カ

(8)

260 ルシウム拮抗剤であるジルチァゼムにはkinetic cell deathの発生を抑制する効果があるとし,こ の際心筋Mg含量は減少しなかったとしている. 一方臨床的にも急性心筋梗塞症患者にたいして Mgを投与した場合,心不全を伴わない例に関し てはMB−CKで見た心筋梗塞のサイズは有意に 小さかったという報告24》や,Mgの投与でvariant anginaの発作に対し予防効果があったとする報 告25)などが見られる.

これらの点を考慮するとMgには心筋虚血に

たいして予防効果のあるヒとが期待される. 総 括 雑種成犬40頭を用いて,虚血および再潅流時の 心筋Mg含量:の変化と,MgSO4を投与したときの 影響について組織学的に検討した. 1.対照の非虚血部心筋Mg含量は1G9.2±1.2 mic.g/100mgであり,心内上側心筋と心外膜側心 筋との間では差がなかった. 2.冠動脈閉塞30分まではMg含:量の変化はな く,60分以降で減少した.再潅流をした例では30 分で減少が認められ,再潅流例のほうがMgの減 少は著明であった. 3,虚血心筋の心内膜側,心外膜側の心筋Mg 含量はいずれも経時的に低下し,また両者とも有 意差を示さなかった.

4.ST上昇の程度と心筋Mg含量とを対比し

てみると,特に再潅流例ではST上昇が著明であ るほど心筋Mg含量は低値を示した. 5.MgSO、を静注した例の光顕像を調べてみる と,再潅流をしていない例については,その組織 像にはMgSO4非投与例と差を認めていない.一 方再潅流をした例では,3例中2例にcontrac− tion bandの形成を認めた.このことはMg静注 によって再潅流障害を完全には予防することがで きないことを示している. 稿を終・えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました 広沢弘七郎教授および直接御指導頂きました金子昇 博士に深甚なる謝意を捧げるとともに,実験に際し, 御許可を賜りました高尾篤良心研所長,並びに御協力 頂きました本学第1病理学教室武石 詞教授,豊田智 里助教授,また動物実験に際し,御協力くださった心 臓血圧研究所動物実験室の皆様,小堺優子技師に感謝 いたします. 文 献

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参照

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