症例報告
嗜女医蕪,謝巻磯脚蒲〕
思春期および青年期の自閉症の問題行動に対する
漢方薬「柴為熟竜骨牡蠣湯」使用の試み
1)東京女子医科大学 小児科学教室(主任:福山幸夫教授) 2)発達協会 王子クリニック イシザキ アサヨ スガマ ミチコ タケウチ ノリコ 石崎 朝世1)2)・洲鎌i倫子1)2)・竹内 紀子2) (受付平成5年6月23日) はじめに 自閉症児は,思春期頃になると,情緒の不安定 性が増し,パニック,こだわりの増強あるいは自 傷・他門などの問題行動で,しぼしぼ日常生活に 困難が生ずる.環境の調整,生活指導に加え,薬 物療法を行うことがあるが,我々は,このような 症例の一部に漢方薬治療を試みている.本研究で は,それらの漢方薬のうち特に柴胡弓竜骨牡蠣湯 (以下TJ 12)の効果につき検討した. 対象および方法 1.対象 対象は,前述のごとく情緒の不安定,問題行動 などの訴えで発達協会王子クリニックに来院した ICD10による診断基準を満たす思春期から青年期の自閉症のうちT∫12を処方した12例(年齢
11∼25歳,男9例,女3例,てんかん合併4例(2 例は潜在性)).8例は向精神薬,抗てんかん薬と 併用したが効果の評価中は量の変更をしなかった (表1). 2.方法 対象例について,TJ125.0∼7.5g/日服薬前と 服薬後約1ヵ月の状態の変化を下記の評価法で評 価した.また副作用についても検討した.即ち, ①:主に家族が主訴となった問題行動(標的行 動)および症状を評価し,改善・改善の可能性あ り・不変・悪化に分類した. ②∼⑤:担当医師が小児自閉症評定尺度東京版 (CARS−TV栗田訳)の評定尺度15項目のうち,筆 者が問題行動と特に関連するとした4項目,②情 緒,③環境の変化に対する適応,④不安反応,⑤ 活動性の水準,をスコアリングシートに沿って7 段階に評価(1,1.5,2,2.5,3,3.5,4)(表 2),2段階以上の改善を改善,1段階の改善を改 善の可能性ありとし,その他を①と同様に不変・ 悪化に分類した. ⑥:その他の変化を家族および担当医師が評価 し検討した. 来この①∼⑥の番号は,結果および表3の① ∼⑥の番号に対応している. 総合判定では,①∼⑤の各項目で「改善」があ れぽ有効,「改善の可能性あり」が2項目以上ある いはそれが1項目でもその他の項目で改善があれ ぼやや有効,その他は無効とした. 結 果 結果は表3,4のごとくで,①の家族による主 訴になった問題行動や症状の改善の評価は,半数 にあったが,他の項目(②∼⑤)では改善は少な く,改善の可能性ありとされた例が多かった.⑥ Asayo ISHIZAKI1}2), Mich汰。 SUGAMAI)2), Noriko TAK:EUCHI2)〔1)Department of Pediatrics(Direc− tor:Prof, Yukio FUKUYAMA)Tokyo Women’s Medical College,2)Oji Clinic:Division of Medicine, Association of Remedial Teaching Mentally Developmental Disorders INC〕:Therapeutic trial of the Kanpo medicine「SAIKOKARYUKOTSUBOREITO(TJ12)」for behav量or problems in autistic adoles− cents and young adults表1 対 象 症例 年齢 性別 診 断 標的問題行動および症状 併 用 薬 1 17 男 自閉症MR いらっき,高い音への過敏性 ピモジド0.5mg 2 17 男 自閉症MR EP @ (LATENT) いらっき,りきみ Jルパマゼピン400mgピモジド2mg 3 16 女 自閉症MR EP パニック,いらっぎ カルバマゼピソ600mg 4 17 男 自閉症MR 性的興奮,つよいこだわり ピモジド1mg 5 11 女 自閉症MR肥満 過食,易興奮性,肥満,便秘 一 6 14 男 自閉症MR おちつきのなさ,りきみ 一 7 21 男 自閉症MR パニック,いらっき 一 8 25 男 自閉症MR EP いらっき,つよいこだわり ピモシド1mg Jルバマゼピン200mg 9 19 男 自閉症MR 衝勲性,いらっき,つよいこだわり プロペリサイアジソ15mg エチゾラム1mgプロメダジン塩酸塩25mg ピモジド1mg 10 18 男 自閉症MR いらっき,自傷 ペントキシフィリン300mgレボメプロマジン90mg 11 18 男 自閉症MR EP @ (LATENT) いらっき,つよいこだわり,他傷 レボメプロマジン30mg パルプロ酸600mgクロルプロマジン75mg カルバマゼピン600mg 12 21 女 自閉症MR 独り言,不眠,パニック,腰痛 皿 MR:精神遅滞, EP:てんかん,りきみ:しばしぽ体をつよくりぎませて四肢を動かす. 表2 小児自閉症評定尺度東京版スコアリングシート 1 人との関係 P1,522,533.54 IX 近接受容器での反応性 @11.522.533.54 II 模倣一一言語と運動の P1,522,533.54 X 不安反応 @1L522.533.54 III 情緒 P1,522,533.54 XI 言語的コミュニケーション @11,522.533。54 IV 身体の使用 P1,522,533.54 XII 非言語的コミュニケーション @11,522.533.54 V 人間でない対象に対する関係 P1,522,533.54 XIII活動性の水準 @11.522.533.54 VI 変化への適応 P1,522,533.54 XIV知的機能 @11,522.533.54 VII 視覚的反応性 P1,522,533.54 XV 全般的な印象 @11.522,533.54 VIII 聴覚的反応性 総得点 11,522,533.54 3以上の得点をした項目数 のその他では,不眠改善が4例,てんかん波消失 が1例あった.副作用は一時的な軽度の眠気1例, 軟便2例であった.総合判定では,有効6例(症
例2,3,5,7,8,12),やや有効2例(症例
1,6),無効4例(症例4,9,10,11),現在評価後3∼10ヵ月が経過したが,2例を除き
TJ 12を継続している.また有効の1例で,家族の 希望でTJ 12を減量したところ,てんかん発作が 増加した. 以下,①∼⑤の「改善」が2項目以上で単剤で 継続できた2例(症例5,12)と,①∼⑤の「改善」が3項目以上の2例(症例3,7)の計4例
の経過を具体的に述べる. 〈症例3>16歳,女 診断:自閉症,精神遅滞,てんかん 主訴:パニック,いらっき 家族歴・既往歴:特記すべきことなし. 現病歴:3歳で自閉症と診断された.i2歳でて んかん発症.15歳ころよりいらいらしておちつか ない状態がめだち,パニックになりやすくなった. 特に母への暴力がめだってきた. 初診的所見:いらいらしておちつかない様子. 視線は合いにくい. 経過:服薬中のカルバマゼピン400mgに加え, 鎮静の目的でピモジド1mgの投与をしたところ, ほぼコントロールされていたてんかん発作がおこ り中止.次にTJ125.Ogを開始したところ,パ表3 柴胡加竜骨牡蠣湯服薬開始後1ヵ月の変化およびその後の服薬状況 状 態 の 変 化
症例 ①
W的行動・症状
②III情緒 ③IV変化への適応 ④.X不安反応 ⑤XIII活動水準
その他 副作用 薬剤の継続 @ 他 総合サ定 1 △ 3→2.5.
「
2,5→2,5 一 3→2.5「
2→2一 一 継 続 ややL効 2 ○ 3→2.5「
2→2一 2→2一 3→2.5「
てんかんg消失 一 継 続 有効 3. ○ 3.5→2.5@0
2,5→2.5 一 3→2,5「
3→2O
一 継続→減量: 有効 4 一 2.5一→2.5 2→2一 2→2} 3→2,5「
中 止 無効、 5 ○ 3→2.5「
3,5→3@△
2→1O
3→2。5「
不眠改善 _ . 継続(単手) 有効 6 一 2.5→2.5 』 2→2「
3→2.5一 2→2一 不眠改善 軟 便 継 続カル・ミマゼピン200mg追加 やや L効 7 ○ 3→2O
2.5→2@△
3→2O
2.5→2@△
一 継 続・・ロペリドール0.75mg追加 有効 8 ○ 3,5→3@△
3,5→3@△
2.5→2.5 3→2.5「
やや眠気 継 続 有効 9 一 4→4一 4→4一 3.5→3.5 一 4→4w
中 止 無効 10. 一 2.5−42.5 一 2.5→2.5 一 3.5→3.5 一 2.5→2.5 一 不眠改善 一 継 続 無効 11 『 3.5→3,0@△
4→4二 3.5→3.5 一 3一→3} やや軟便 継 続レボメプロマジン減量 @パルプロ酸減量 無効 12 ○ 3→2.5「
3.5→3@△
2→1. 3→2.5「
不眠改善 一 継続(単剤) 有効 ○改善 △改善の可能性あり 一不変 ×悪化 表中数字は自閉症評定尺度(CARS−TV)の各項目のスコア(表2)の変化を示す. 表4 結果のまとめ 1)状態の変化 改善 改善の ツ能性あり 不変 悪化 ①主訴の問題行動および症状 6 1 5 0 ②情緒 2 6 4 0 ③変化への適応 0 4 8 0 ④不安反応 3 3 6 0 ⑤活動性の水準 1 5 6 0 ⑥その他の変化 不眠改善4例,てんかん波消失1例 2)副作用 軽度の眠気1例,軟便2例 3)総合判定 有効6例やや有効2例無効4例 ニッタ・いらっきが軽減した.服用後1ヵ月半こ ろ環境の変化があり,またパニックがめだったが, 家族はむしろTJ 12の減量を希望したため,2,5g としたところ,てんかん発作がおこり,TJ12を5.0 gに戻した.その後は,発作もなく,ややおちつい た状態となり,3ヵ月が経過している. <症例5>11歳,女 診断:自閉症,精神遅滞 主訴:肥満,過食,便秘,易興奮性 家族歴・既往歴:特記すべきことなし. 現病歴:2歳半で自閉症と診断され,徐々に出 現していた過食,肥満傾向が2,3カ月前からめ だってきた.またそれと共に易興奮性もあり来院 した. 初診時所見:視線は合いにくい.独り言多く, こだわりがめだつ.簡単な指示に応ずる.肥満(肥 満度13%),便秘がち.食行動の異常(過食,ケ チャップを2/1本のむ,マヨネーズを容器から摂取 など)。. 経過:まず大柴即興を投与し,一時的に過食の軽減をみたが,ふたたび出現し,TJ125.Ogを投 与.まもなく寝つきがよくなり,こだわり,易興 奮性が軽減した.食欲はあるも我慢ができるよう になり,食行動の異常もなくなった. 〈症例7>22歳,男 診断:自閉症,精神遅滞 主訴:パニック,いらっき 家族歴・既往歴:特記すべきことなし. 現病歴:3歳で自閉症と診断された.20歳ころ よりパニック,いらっき,特に家人への乱暴など がめだってきた. 初診時所見:表情固く,視線は合いにくい.い らいらしておちつかない様子. 経過:TJ125.Ogを開始したところ,めだった パニックはなくなったが,いらいらした状態はつ づき,表情は固いままだった.1ヵ月後ハロペリ ドール(0.75mg)1錠を追加,表情は穏やかにな り,いらっきも軽減した.しかし午前中眠気があ り,ハロペリドールを半錠として良好に経過した. <症例12>21歳,女 診断:自閉症,精神遅滞 主訴:独り言が多い,不眠,ときにパニック, 心理的な影響がつよい腹痛,下痢 家族歴・既往歴:特記すべきことなし.
現病歴:1歳半から発語があったが3歳で消
失,自閉症の診断をうけた.17歳ごろから独り言, 不眠腹痛などの主訴にある症状がめだってきた. 初診時所見:視線合いにくい.質問にはオーム 返しで答えた.独り言が多い. 経過:腹部症状は,小力引湯7.5gで軽減した が,その他はほとんど変化なく,TJ127.5gに変 更したところ,積極的に動かなくなり,TJ12を5,0 gに減量したところ,独り言,不眠なく,活動性も 回復した. 考 案 新版漢方医学1)によれぽ,柴胡加竜骨牡蠣湯は, 比較的体力のある患者で,不安焦燥感のつよい場 合に用いられ,本剤が適応になるものは,身体的 に動悸,肩凝りなどを伴うことが多い.強迫神経 症にも用いられる.他にてんかんにも試みられる とある.実際神経症にはしぼしぼ用いららている が2)3),自閉症に試み効果を検討した報告はない. 自閉症の思春期,青年期における行動異常,情緒 障害では,背景につよいこだわりと強迫症状の増 強,周囲の対応や環境の変化などへ不安感の増強 があり,またほとんどのものが,比較的つよい体 力を有しており,本剤の適応となる場合が多いと 考えられた. 効果としては著しくはなかったが,効果を有し た場合があった.即ち,家族により主訴の問題行 動および症状の軽減があったと評定されたものは 多く,特につよいいらっきやパニックが軽減した と評定された.自閉症評定尺度の項目としては, 清緒,不安反応の改善例が比較的多かった.その 他不眠改善例があり,この不眠改善も情緒の安定 に関与した可能性があった.また,てんかん波の 消失が1例にあった.ただしこれは本剤服用前と 服用後5ヵ月後の脳波記録の比較によった.他の 1例では,本剤を減量した際,てんかん発作が増 加した.これらの例より,本剤がてんかん性脳波 異常やてんかん発作の改善に関与したことも考え られたが,少数例でもありその因果関係は断定は できない. 実際の臨床においては,問題行動や情緒の不安 定性などの精神的症状に対して少数例(2例)で は,本剤単剤でも十分な効果であったと考えられ たが,多くの例では,著しい症状は向精神薬であ る程度の改善を計り,その後,本剤の投与で更な る改善をはかった.効果を得れば,向精神薬を減 量あるいは中止するか,増量を控えることができ, 本剤の併用により症状の更なる改善とともに向精 神薬の副作用を軽減あるいはその発現を予防でき る場合もあると考えられた.また,てんかん合併 例では,症例3のごとく向精神薬の服用で痙攣閾 値が低下し発作が増加することもあり,特に本剤 の使用を試みる価値があると考えられた. 結 論 柴胡加竜骨牡蠣湯が,思春期および青年期の自 閉症の問題行動を軽減させたと考えられた例が あった.今後,更に客観的評価法を工夫し,その 有用性につき検討を続けたいと考えている.文 献 1)杵渕彰:精神科.新版漢方医学.pp!55−614,財 団法人日本漢方医学研究所,東京(1990) 2)深沢裕紀,大原浩一,大原健士郎:神経症治療と 漢方.臨精神医 21:359−364,1992 3)杵渕 彰:神経症・不眠・頭痛・自律神経失調症. こころの臨床アラカルト 8:45−50,1989