著者
奥山 正司
学位授与大学
東洋大学
取得学位
博士
学位の分野
社会福祉学
報告番号
32663乙第210号
学位授与年月日
2013-12-23
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006743/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja氏 名( 本 籍 地 ) 奥 山 正 司(山形県) 学 位 の 種 類 博士 ( 社会福祉学) 報 告・ 学 位 記 番 号 乙第210号(乙福第23号) 学 位 記 授 与 の 日 付 平成25年12月23日 学 位 記 授 与 の 要 件 本学学位規則第3条第2項該当 学 位 論 文 題 目 高齢者家族の福祉社会学的研究 論 文 審 査 委 員 主査 教授 小 林 良 二 副査 教授 博士(社会福祉学) 秋 元 美 世 副査 教授 博士(社会福祉学) 金 子 光 一 副査 教授 西 野 理 子 副査 お茶の水女子大学教授 博士(社会学) 藤 崎 宏 子 【論文内容の要旨・審査】 20世紀の後半から21世紀にかけて、日本を含む東アジア諸国では、急速な少子高齢化 の進展、経済・社会構造の変動とともに、家族構造と高齢者扶養も劇的に変化したが、こ の点についてはさまざまな研究が行われ、数多くの研究成果が蓄積されてきている。 奥山正司氏の学位請求論文『高齢者家族の福祉社会学的研究』は、筆者がこれまで40 年にわたって取り組んできた家族と高齢者福祉に関する実証的研究の蓄積を踏まえ、福祉 社会学的観点から構成しなおしたものである。 本論文を通して、筆者は、高齢者の家族生活とその変化を規定する諸要因を、家族形態、 家族機能、家族意識の概念からなる分析枠組を用いて、総合的かつ統一的に検討すること を目的としており、この間の時代的変化とその規定要因を踏まえ、高齢者家族と子ども家 族との関係に焦点を当て、介護の社会化及び介護の外部化ともいわれる保健福祉サービス や介護保険サービスとの関わりを併せて考察するとしている。 研究対象は、主に大都市の高齢者家族であるが、これに併せて、農村の高齢者家族も比 較対象としてとりあげている。また、国際比較の観点から、家族形態、家族意識・家族規 範等をめぐって、欧米諸国やアジア、とりわけ韓国の高齢者家族を比較対象としてとりあ げ、どのようなところに共通性や相違点がみられるかを明らかにしている。 これらの研究の基本的視点は、かつての日本の伝統的・典型的な家族制度であった直系 制家族から戦後の家族モデルとなった夫婦制家族への移行であり、その家族規範意識や態 度の変化が、三世代家族、高齢者夫婦のみ世帯、一人暮らし世帯における高齢者扶養関係
にどのように表れているかを、さまざまな実証研究によって説明している。 本論文の構成は次のとおりである。 はしがき 第1章 三世代同居家族の比較研究 -姑 ・ 嫁 ・ 孫娘を対象として- 第2章 家族の介護負担及び介護規範意識に関する日韓比較研究 -東京とソウル- 第3章 高齢者の家族・親族からのサポート意識 -国際比較研究の意義と課題- 第4章 介護保険制度下における農村の高齢者介護 -主に東北農村の事例を通して- 第5章 家族の保健・福祉的支援機能と社会的要因 -一般高齢者への横断研究と脳血管 患者への縦断研究から- 第6章 大都市転入高齢者の生活と同居子との関係 -東京都下の場合- 第7章 大都市における老夫婦のみの世帯の追跡研究 第8章 高齢者の子どもとのソーシャルネットワーク -一人暮らしおよび夫婦のみ高齢 者の追跡研究- 第9章 単身高齢者の社会経済的生活と家族支援
付 論 Farmers' Successors and the Immigration of Female Asian Spouses in Rural Japan(第4章関連) あとがき -要約と課題- 以下、各章の概要を紹介する。 はしがきでは、本研究の背景、研究目的、家族と社会システムとの関係及び家族生活の 変化に関わる研究枠組み、研究の対象と方法などについて論じている。 第1章では、三世代女性家族(姑・嫁・孫娘)の同居・別居・中間形態別のサンプリン グ調査により、彼女らの扶養に関する態度や意識、世代間の相互援助・交流や役割関係を 中心に分析し、世代間扶養や公的サービスに期待する意識の動向を検討している。このた め、家族の四つの機能(経済的援助、家事援助、身体的ケア及び相談)についての回答の 組合せ(「レスポンスパターン」)と三世代の回答の組合せ(「レスポンスセット」)という 分析枠組みを用いて、三世代間の違いを説明している。 この結果、経済的援助では、各世代とも家族に頼る傾向が強いが、世代が老年から若年 に下がるにつれて公的扶養に頼る傾向が強まること、家事援助ではボランティアやホーム ヘルパーなどの公的サービスに頼る傾向が強まること、身体的ケアでは、頼りにしたい人 や社会的資源に関する世代間の意識のギャップには家事援助と同様の傾向がみられるとす る。しかし、「相談」に関しては、各世代とも前記の三つの援助とは異なり、三世代とも「カ ウンセラー・民生委員・相談員」といった公的な援助にはほとんど期待していないこと、
などが指摘されている。 第2章では、東京都とソウル市の家族意識と規範についての共通点と差異に関する調査 結果について述べている。共通点としては、両国ともに儒教文化圏、あるいは中国文化圏 に属しており、家父長制家族、祖先崇拝及び男尊女卑の伝統の残滓があること、また両国 ともにごく短期間に経済成長を遂げ、欧米先進諸国に類例のない経済発展と出生抑制が同 時に進行したことなどが述べられ、相違点としては、日本では家父長的な家族制度の廃止 に力点を置いてきたが、韓国では子どもの親孝行に対する義務の強化と同居の奨励など、 伝統的な家族制度を保持しようとしていること、また老人福祉をはじめとする様々な社会 政策の整備が日本より一歩遅れているという点が指摘されている。 これらを踏まえた調査結果から、東京では高齢者のADLが低いほど介護者の介護負担 感が増していたがソウルではそのような傾向はみられなかったこと、精神的状態の低下は、 両市ともに介護者の身体的負担感に影響を与えていたこと、社会的負担面でも同様であっ たことが指摘されている。他方で、世帯収入に関しては、東京では身体的負担感との相関 がみられないが、ソウルでは身体的負担感に影響を与えており、世帯収入が高いほど負担 感が軽くなることなどが指摘されている。また、子どもが親の世話をすべきであるという 介護規範意識は両市とも強いが、東京よりソウルの方がより強いことが明らかになった。 ただし、ソウルでは、子どもへの高い依存傾向がみられるのに対し、東京では私的な責任 と社会的な責任が共存する傾向がみられたことなどが明らかにされている。 第3章では、筆者が参加した内閣府の「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」を てがかりとして、①高齢者に関する社会学的な国際比較研究の意義や調査方法上の問題点 について整理し、②日本の高齢者へのサポートの特質や子どもや孫とのつきあいかた、及 びサポートの受け手側としての高齢者にどのような特徴がみられるのかを、米国や韓国な ど他の4か国と比較・考察している。 分析項目としては、高齢者に対する精神的サポートとして「心配事や悩み事の相談」、 手段的サポートとして「病気で悩んだときの介護」と「経済的に困ったりお金が必要なと きの援助」をとりあげ、サポートの提供を期待している相手に注目して検討した結果、5 か国とも共通して、同居・別居にかかわらず配偶者や子どもへの期待がことのほか大き かった。 しかし、日本を含めアジア3か国では、配偶者や子どもへの期待が大きいが、「親しい 友人・知人」に対する期待は、心配事などの相談を除いてはきわめて小さかったのに対し て、アメリカ・ドイツなどの西欧社会では、配偶者や子どもへの期待とともに、「それ以 外の家族・親族」や「親しい友人・知人」への期待もきわめて大きいことが明らかになっ た。したがって、アジアの国々と比較して、欧米社会では、家族と家族外のサポート関係 をむしろ連続的な介護資源として位置づける傾向がみられたとしている。
第4章は、高齢者介護の農業経営に与える影響に関する研究で、山形県最上町を対象地 域とする数種類の量的・質的調査に基づいている。この地域では、要介護高齢者を持つ農 家のほとんどは農外兼業に依存しているが、高齢者の介護は伝統的な家族の介護規範のも とで、老親と同居している子ども家族によって行われていた。このため多世代による家族 介護が在宅での介護を可能にする反面、介護や家事が嫁(主に長男の妻)に集中する傾向 がみられ、「介護は女性が担うべき」とする介護規範がいまだに根強く残っていることを 示している。 しかし、今日の多世代農家でも親の世代と子の世代がそれぞれ独自のライフスタイルを もち、介護をめぐる世代間のコンフリクトが存在しており、この点は、大都市における三 世代女性の分析結果と同様であった。また、介護保険で提供される各種の介護サービスは、 訪問介護ではなく、通所型の施設利用に特化していること、農業所得の伸び悩みがもとで、 介護保険の負担や保険対象外の経費支出の重さが各種サービスの利用を抑えかねない面が あること、農外兼業を行っていない女性の家族員には介護労働の負担が重くのしかかって いること、介護の発生による農業経営への影響が大きいため、その影響を最低限に抑制し ようという農家の対処行動がみられることなどが指摘されている。 第5章では、中高年家族のライフコースにおける家族福祉機能にどのような変化が生じ てきているかを、都市(練馬区)と農村(宮城県)との比較調査から明らかにしている。 その結果、①高齢期の家族機能、とりわけ高齢者扶養に変化がみられ、家族介護では対 応できない「夫婦のみ高齢者」や「一人暮らし高齢者」が著しく増加していること、②高 齢者に関わる家族の保健福祉的機能は、依然として家族が担っているものの、全体として は縮小の傾向が認められ、その役割の一部を外部へ委譲していること、また、配偶者がい ない場合には同居子が担うという形で、補完的・階層的な関係がつくられていることなど を明らかにしている。さらに、保健福祉的支援の享受の可能性については、性差の他、地 域差がみられ、農村部の方が大都市よりも別居子からの支援可能性が低く、逆に大都市で は農村部よりも同居の子ども家族からの支援可能性が低いという傾向がみられること、な どが述べられている。 第6章では、東京都下の二つの都市に転入した高齢者とその子どもを対象にした調査に より、高齢者の移動(転居)がどのような状況のもとに行われ、また、転居によって高齢 者の安定した生活(well-being)が得られたのかどうかを検討している。転入高齢者の生 活状態に関する7つの項目をみると、主観的にみて「良くなった」のは「住まい」と「日 常生活への不安」が解消されたことのみであり、他のすべての項目は変わらないとされる。 逆に、友人・知人などの関係は悪くなったとする割合が多くみられ、高齢者の生きがいに 関わる大きな問題が生じていた。他方で、受皿となった長男家族及び長女家族は、家庭生 活において多くの精神的・身体的・経済的な重荷を抱えることになり、その結果、安定し
た生活(well-being)が、双方とも実現されていないことが明らかにされている。 第7章では、東京都足立区在住の、子どものいる老夫婦のみの世帯を対象とした4年間 の追跡調査の結果を述べている。これによると、4年後も子どもと別に暮らしている対象 者は「夫婦二人」と「一人暮らし」を合わせて8割を超えていること、老夫婦が子どもと の同居移行を行った割合についてみると、夫婦のどちらかが欠けた場合にはより子どもと の同居移行が高まるが、妻だけが残される場合よりも夫だけが残される場合に顕著に同居 移行が高まっていた。また、4年間の加齢によって、老夫婦は生活費や子どもとの交流頻 度、近所づきあい、親しい友人の有無など、さまざまな生活条件が低下していた。さらに、 借家住まいの高齢者が転居した場合には、転居していない持家の高齢者と比べて生活の諸 側面における格差が大きく、不利な条件のもとでの生活を強いられていた。このことから、 住宅状況や転居の有無などの条件によって高齢者夫婦の社会生活が大きく規定され、老年 期の社会階層間格差が拡大したこと、などが指摘されている。 第8章では、大都市の自立している一人暮らし及び夫婦のみの後期高齢者を対象にした 大量調査と事例調査に基づいた分析を行っている。 これによると、居住形態においては、配偶者を亡くした場合、男性は子ども世帯と同居 する傾向がみられる反面、女性は依然として一人暮らしで独立した世帯を維持する傾向が みられること、子どもとの交流頻度や生活状況については、①大量調査では、加齢ととも に子どもとの交流頻度が低下しており、仮説とは逆に高齢者の身体的機能が低下している 者ほど子ども側からの来訪が少なくなり、それをメールや電話でのやり取りによって補 完・代替していることが明らかになった。このことにより、家族の福祉的機能のひとつで ある精神的(情緒的)サポートの重要性が増してきているとされる。②追跡調査では、本 人及び子どもの経済的な生活力が乏しく、日常生活での支障や不安をかかえる場合には、 子どもからの精神的サポートが期待できないこと、逆に経済的に恵まれたケースの場合、 親子間(義理の嫁姑関係を含む)での日常的なコンフリクトが介在し、緊張関係の高い生 活を強いられる可能性があること、などが述べられている。 第9章では、単身高齢者の出現率がどのように変化しているのかを時系列及び年齢別に 明らかにしたうえで、大都市の単身高齢者の経済生活に焦点をあて、その基礎となる所得 構造や生活保護受給との関連を検討し、子どもの家族支援としてどのようなサービスが考 えられるのかを、近年急速に普及している I T技術による家族支援ネットワークに焦点を あてて検討している。単身高齢者の社会経済生活では、相対的にも絶対的にも低所得者層 が多くを占め、被保護世帯は単身高齢者で圧倒的に多くなっている。他方、単身高齢者と 別居している子ども家族との接触頻度は、従来疎遠な関係にあるといわれていたが、今日 ではかなり多くなっていることが認められた。また、単身高齢者への家族の支援サービス としては、ITの普及等により、安否確認がひとつの有効な手段として機能していること
を確認することができた。このように家族の包括的な支援を期待できない孤独な一人暮ら しの高齢者にとっては、地域のネットワークや身近な自治体の積極的な対応が最後のセー フティネットとなっていることから、その態勢の確立がことの外重要な課題であることが 判明した。
最後に、第4章の付論として、Farmers' Successors and the Immigration of Female Asian Spouses in Rural Japan が付け加えられている。農村部の地域によっては、女性 の多くが大都市地域へ流出するために、未婚の男子後継者が年々高齢化し、日本人の女性 と結婚することが次第に困難になってきており、その代替としてアジア系外国人妻が増加 してきている。その結果、彼女らを担い手とする農村後継者の老親扶養や家族介護が重要 になっている。付論では、その分析の理論的枠組みを提示するとともに、その実態把握の ために、農村における国際結婚が多くみられる山形県最上郡を対象地域として、大量調査 とケーススタディによりその問題の一端を明らかにしている。 以上奥山氏の論文について、その内容を要約したところであるが、本論文の評価される 点は次のとおりである。 第1に、本論文では、20世紀から21世紀にかけての家族による高齢者扶養・高齢者福祉 の変化を、直系制家族から夫婦制家族への理念の変化としてとらえ、家族形態、家族機能、 家族意識などの概念に即して、また、都市と農村の差異を検討しながら、明瞭に描き出す ことに成功している。 すなわち、この間の時代の変化を、家族形態としての三世代世帯高齢者、高齢者夫婦の み世帯、一人暮らし高齢者に関する諸論文で構成し、家族の高齢者扶養や高齢者福祉の機 能がどのように充足され、一部は、充足しきれずに外部化・社会化されてきたか、また、 どのような問題を発生させてきたかについて、詳細な実証調査を踏まえて説得的に論じて いる。 第2に、日本で進行した高齢化に伴う扶養モデルが、海外ではどのように受け取られて いるかについての比較研究を行い、欧米や韓国との違いを明らかにしたことである。その 結果、どの国においても、基本的には配偶者や子ども家族による支援が期待されているも のの、日本における早い高齢化の進行や家族扶養に関する文化的な要因によって差異がみ られることが明らかにされたことも評価できる。 第3に、本論文で論じられている内容のうち、高齢者夫婦のみ世帯、一人暮らし高齢者 世帯に関する諸論考では、最近頻繁に論じられるようになった高齢者の社会的孤立や介護 孤立などの問題をいち早く明らかにしており、その研究枠組みは今後の研究にとって貴重 な意義を持つと言える。 第4に、筆者が繰り返し述べているように、本論文は手堅い実証研究の成果の集積であ
る。本書に収録されている9つの章と付論のすべては綿密な実証研究の成果であるが、こ こでは、量的調査と質的調査が併用されているだけではなく、特に、縦断的調査が多用さ れていることは特筆に価する。同じ調査対象者に対する縦断的調査の特徴は、変化をもた らす要因を同一のサンプルによって明らかにできるという点で大変重要であるが、このた めには、一貫した方針に基づき長期間にわたる調査活動を行うことが要請される。本書に 収録された諸論文の成果は、著者の長年にわたる誠実な取り組みによってもたらされたも のであることが明瞭に理解できる。また、これと関連して、本書で論じられている研究方 法論、特に、横断的・縦断的な研究方法論の詳細な整理も極めて有益であり、これからの 研究の前提として踏まえられるべきものであろう。 なお、本論文の審査会や公聴会においては次のような意見が出された。 第1に、本論文はこれまで筆者が長年蓄積してき研究を踏まえて、新たな観点から編集 しなおした点は評価できるものの、必ずしも概念が統一的に用いられていない面もあるの ではないか。 第2に、本論文では、高齢者に対する家族の福祉的機能が論じられているが、時代の変 化を考えると、介護保険を含む社会サービスや社会福祉など外部システムの福祉機能に関 する考察がもっと必要なのではないか。 しかしこれらの意見は、本論文が描きだしたここ40年間の家族における高齢者福祉、高 齢者扶養の実態について解明の意義を減じるものではないこと、むしろ、社会福祉研究の 前提となる家族構造・家族福祉研究の成果として十分評価されるべきであるということが 確認された。 【審査結果】 以上、学位審査会における議論を要約したところであるが、本審査委員会は厳正かつ公 平な審査の結果、奥山正司氏による学位請求論文(乙)『高齢者家族の福祉社会学的研究』 は、福祉社会デザイン研究科社会福祉学専攻の博士学位審査基準に照らしても妥当な研究 内容であるとの結論に達した。したがって、本審査委員会は全員一致をもって奥山正司氏 の博士学位請求論文は、本学博士学位(社会福祉学)を授与するに相応しいものと判断す る。