アメリカにおける気候変動訴訟とその政策形成およ
び事業者行動への影響(一)
著者
大坂 恵里
著者別名
Osaka Eri
雑誌名
東洋法学
巻
56
号
1
ページ
85-108
発行年
2012-07
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006212/
はじめに 第一章 気候変動訴訟の展開(以上、本号) 第二章 気候変動訴訟の政策形成への影響 第三章 気候変動訴訟の事業者行動への影響 おわりに はじめに 近年のアメリカでは、気候変動に起因する様々な訴訟が展開されている。それらには、①行政庁による気候変動 対策の懈怠を主張して、 当該行政庁を被告として、 規制を開始または強化するよう求めて提起するもの (以下、 「行 政 庁 に 対 す る 気 候 変 動 対 策 促 進 訴 訟」 と 呼 ぶ) 、 ② 行 政 庁 の 規 制 に よ っ て 気 候 変 動 対 策 を 要 求 さ れ る 事 業 者 が、 当 該 行 政 庁 を 被 告 と し て、 規 制 の 合 憲 性 や 合 理 性 を 争 う た め に 提 起 す る も の (以 下、 「行 政 庁 に 対 す る 気 候 変 動 対 策 抵 抗 訴 《 論 説 》
アメリカにおける気候変動訴訟とその政策形成および
事業者行動への影響(一)
大
坂
恵
里
訟」 と 呼 ぶ) 、 ③ 州 や 私 人 ら が、 温 室 効 果 ガ ス を 大 量 に 排 出 す る 事 業 者 を 被 告 と し て、 温 室 効 果 ガ ス の 排 出 量 削 減 や、 気 候 変 動 が 原 因 で あ る と 主 張 す る 損 害 ― 土 地 の 浸 食 な ど ― の 賠 償 を 求 め る た め に 提 起 す る も の (以 下、 「気 候 変 動 ニ ュ ー サ ン ス 訴 訟」 と 呼 ぶ) が あ る。 こ れ ら 以 外 に も、 大 気 中 の 温 室 効 果 ガ ス 濃 度 を 増 加 さ せ な い こ と を 目 的 の 一 つとする石油・石炭火力発電所の建設差止訴訟、連邦政府や州政府が関与するプロジェクトにおいて気候変動への 影 響 を 考 慮 し な い こ と の 是 非 が 争 点 と な る よ う な 国 家 環 境 政 策 法 ( National Environmental Policy Act ) お よ び 同 種 の州法に基づく訴訟なども、気候変動訴訟の範疇に入ると言えよう。 日本においても、気候変動対策は喫緊の課題となっており、電力会社一一社に対して原子力発電に依存しない二 酸化炭素排出量削減を求める調停申請が公害等調整委員会に却下されたことについて、その取消しを求める訴訟が 提起されている。二〇〇四年の行政事件訴訟法改正による原告適格に関する九条二項の新設、義務付け訴訟や差止 訴訟の法定化等が環境行政訴訟を活性化していること、そして、従来から環境問題に対しては損害賠償請求訴訟・ 差止請求訴訟が展開されてきたことを考えれば、今後も、気候変動対策として訴訟が活用される可能性がある。し たがって、気候変動対策として訴訟を活用しているアメリカの動向を知っておくことが有益であろう。 アメリカの気候変動訴訟については、既に判例評釈も含めて複数の研究成果が日本語でも公表されている ( 1) が 、本 稿では、訴訟が気候変動対策に関する連邦や州の政策形成と事業者の行動にどのような影響を与えているのかを考 察し、日本への示唆を検討することに主眼を置く。そこで、一連の気候変動訴訟のうち、政策形成および事業者行 動に特に大きな影響を与えていると考えられる①から③のタイプの訴訟に注目する。②のタイプの気候変動訴訟に ついては、第二章で気候変動訴訟の政策形成への影響を論じていく際に紹介するので、次章では、①と③のタイプ の気候変動訴訟について紹介する。
第一章 気候変動訴訟の展開 一 行政庁に対する気候変動対策促進訴訟 1 背景 アメリカは、温室効果ガス最多排出国であるが、ジョージ・W・ブッシュ政権時代 (二〇〇一年~二〇〇九年) は 国内外で気候変動対策に消極的であり続けた。ブッシュ大統領は、二〇〇一年三月二八日に京都議定書からの離脱 を表明 ( 2) し 、二〇〇二年二月一八日に京都議定書への代替案として気候変動政 ( 3) 策 を公表したが、それは、二〇一二年 までの一〇年間で、産業界が自主的にGDP当たりの排出量を一八%削減するという、経済成長を抑制しない程度 の削減目標を提示したに過ぎなかった。 しかし、アメリカ全体がこのような連邦の気候変動対策に賛同していたわけではない。一部の州は、気候変動対 策を積極的に推進してき ( 4) た 。なかでも、ニューヨーク州を含む北東および中部大西洋沿岸地域の九州は、合衆国初 の 市 場 に 基 づ く 規 制 プ ロ グ ラ ム で あ る 地 域 的 温 室 効 果 ガ ス・ イ ニ シ ア テ ィ ブ ( Regional Greenhouse Gas Initiative, RGGI ) を 二 〇 〇 九 年 に 開 始 し、 二 〇 一 八 年 ま で に 電 力 部 門 か ら の 二 酸 化 炭 素 排 出 量 を 一 〇 % 削 減 す る こ と を 目 標 と し て、 排 出 量 取 引 を 実 施 し て い ( 5) る 。 ま た、 カ リ フ ォ ル ニ ア 州 で は、 二 〇 〇 六 年 に 地 球 温 暖 化 対 策 法 ( California Global Warming Solution Act )( AB32 ) を 成 立 さ せ、 同 法 に 基 づ く キ ャ ッ プ・ ア ン ド・ ト レ ー ド・ プ ロ グ ラ ( 6) ム が 二〇一二年一月一日に施行された。これにより、温室効果ガス排出量を二〇二〇年までに一九九〇年レベルに削減 することを目標として、二〇一三年から排出量取引を実施することになってい ( 7) る 。さらに、同州は、カナダの四州 と西部気候イニシアティブ (
Western Climate Initiative, WCI
) を形成してい ( 8) る 。
こ う し た 州 レ ベ ル で の 積 極 的 な 取 組 み に お い て 障 害 と な る の が、 連 邦 法 に よ る 専 占 ( preemption ) で あ る。 連 邦 国家であるアメリカにおいて連邦法と州法が抵触する場合には、合衆国憲法第六編二項の最高法規条項に基づいて 連 邦 法 が 優 先 す る の で あ ( 9) り 、 大 気 汚 染 防 止 法 ( Clean Air Act, CAA ) 二 〇 九 条 a 項 は、 連 邦 以 外 の 自 動 車 排 出 基 準 は同法によって専占されると明示的に規定している。唯一カリフォルニア州が、CAA二〇九条b項⑴および⑵に 基 づ い て、 連 邦 環 境 保 護 庁 ( Environmental Protection Agency, EPA ) か ら の 承 認 を 受 け る こ と を 条 件 に、 連 邦 基 準 よ り も 厳 し い 基 準 を 適 用 す る こ と が 可 能 に な っ て お ( 10) り 、 二 〇 〇 五 年 一 二 月 に は、 同 州 大 気 資 源 局 ( Air Resources Board ) が、 温 室 効 果 ガ ス を 大 気 汚 染 物 質 と み な す パ ブ リ ー 法 ( Pavley Act )( AB1493 ) に 基 づ い て、 州 内 で 販 売 さ れる二〇〇九年モデルの乗用車・小型トラックからの二酸化炭素排出量を二〇一六年までに三〇%削減することを 義務付ける規則を制定してEPAの承認を求めたが、承認を得られたのは、オバマ政権に代わった二〇〇九年六月 になってからであっ ( 11) た 。 このような状況の中、気候変動対策に積極的な州や環境保護団体は、連邦政府の気候変動対策を促すために訴訟 を 提 起 し て い っ た。 次 に 紹 介 す る Massachusetts v. EPA 事 件 は、 そ れ ら の 訴 訟 の う ち、 合 衆 国 最 高 裁 判 所 が 初 め て判断を下したものであった。 2 Massachusetts v. EPA 事 ( 12) 件 ( 1)事実の概要と下級審の判断 C A A 二 〇 二 条 a 項 ⑴ は、 E P A が、 「公 衆 の 健 康 や 福 祉 を 危 険 に さ ら す と 合 理 的 に 予 期 さ れ る 大 気 汚 染 を 発 生 させるかそれを助長すると判断する、新品の自動車類または新品の自動車エンジン類からの大気汚染物質の排出に
適用される基準を、本条に従い、規則によって定める…ものとする」と規定してい ( 13) る 。 一九九九年一〇月二〇日、環境保護団体らが、EPAに対して、二〇二条a項⑴を根拠として、新車からの温室 効果ガスの排出規制を求める規則制定の請願を提出したが、二〇〇三年九月八日、EPAは、⑴CAAが同庁に地 球規模の気候変動に対処する規則を発する権限を与えていない、⑵たとえ権限を有するとしても現時点で規則を制 定することは賢明ではない、という理由から請願を棄却し ( 14) た 。そこで、マサチューセッツ州 ( 15) ら が、DC巡回区合衆 国控訴裁判所にEPAの決定の審査を求めたところ、二〇〇五年七月一五日、控訴裁は、EPAの規則制定拒否が 二〇二条a項⑴に基づく裁量権の適切な行使であると判断し、マサチューセッツ州らの訴えを棄却し ( 16) た 。二〇〇六 年六月二六日、合衆国最高裁はマサチューセッツ州らの裁量上訴の申立てを受理し ( 17) た 。 ( 2)最高裁の判断 ①争点 最高裁での争点は、⑴原告らのうち少なくとも一人が原告適格を有するか、⑵EPAがCAA二〇二条a項⑴に 基づいて新車からの温室効果ガスの排出を規制する権限を有するか、⑶EPAが権限を有するならば、規則制定拒 否の理由が同条に合致するか、であった。 ②法廷意見 最高裁は、五対 ( 18) 四 で原判決を破棄して原審に差し戻した。 スティーブンス裁判官による法廷意見は、原告適格について、先例である Lujan v. Defenders of Wildlife 合衆国 最 高 裁 判 ( 19) 決 を 引 用 し、 ⑴ 訴 訟 当 事 者 は 現 実 ま た は 急 迫 な 具 体 的 で 個 別 化 さ れ た 事 実 上 の 被 害 ( injury in fact ) を 受 け て い る こ と、 ⑵ 被 害 が 被 告 に 結 び つ け ら れ る こ と ( traceability ) 、 ⑶ 訴 訟 当 事 者 に 有 利 な 判 決 が 被 害 を 救 済 で き
る こ と ( redressability ) を 証 明 し な け れ ば な ら な い が、 連 邦 議 会 に よ っ て 自 己 の 具 体 的 な 権 利 を 保 護 す る 手 続 的 権 利―本件では行政庁の違法な不作為に異議を申し立てる権 ( 20) 利 ―を付与された訴訟当事者は、救済可能性と急迫性に 関する通常の基準を全て満たさなくても権利を主張することができること、そして、州は、準主権者としての能力 で、州内の土地と大気全てに、州民の権原とは独立した、その背後にある利益を有することから、マサチューセッ ツ州は原告適格の分析において特別に配慮される資格がある、という前提に立っ ( 21) た 。そのうえで、⑴事実上の被害 について、地球温暖化に伴う海面上昇はマサチューセッツ州を既に害しており害し続けるであろうこと、⑵因果関 係 に つ い て、 壊 滅 的 被 害 の 危 険 は 遠 い が 現 実 の も の で あ る こ と、 ⑶ 救 済 可 能 性 に つ い て、 そ の 危 険 は マ サ チ ュ ー セッツ州が求める救済が認められるならばある程度緩和されるであろうことを理由に、マサチューセッツ州の原告 適格を認定し ( 22) た 。 本案において、法廷意見はまず、 Chevron U.S.A., Inc. v. Natural Resources Defence Council Inc. 合衆国最高裁 判 ( 23) 決 に基づいて行政庁の広範な裁量権を認めたが、規則制定の拒否について、極めて限定的ではあるが司法審査の 対象となる余地があると判断し ( 24) た 。 そして、EPAが、CAAに基づいて、新車からの温室効果ガスの排出を規制する権限を有するかどうかについ て、温室効果ガスがCAAの「大気汚染物質」の広範な定義に十分に当てはまると判断し、EPAの規制権限を認 定し ( 25) た 。 そ の う え で、 E P A が 規 則 制 定 を 拒 否 し た こ と に つ い て、 そ の 理 由 付 け が 以 下 の と お り 不 十 分 で あ る と 認 定 し た。 「C A A 二 〇 二 条 a 項 ⑴ は、 E P A の 規 則 制 定 の た め に は E P A に よ る『判 断』 の 形 成 を 必 要 条 件 と し て
いるが、その判断とは、大気汚染物質が『公衆の健康や福祉を危険にさらすと合理的に予期される大気汚染 を発生させるかそれを助長する』かどうかに関連していなければならない。… EPAは、合衆国内の温室効果ガスの規制が大統領による主要途上国との排出規制に関する交渉力を弱め るとか、個々の自動車の排出規制が断片的で非効率的な方法である、といった主張をしている。しかし、こ れらの政策的考慮は、温室効果ガス排出が気候変動を助長するかどうかに何の関係もない。ましてや、科学 的判断を拒否するための正当事由とはならない。… EPAは、気候変動の不確実な諸要素を指摘することや、それゆえに現時点で規則制定をしないことが良 策であると結論することによって、大気汚染から公衆を保護すべきCAAに基づく義務を避けることはでき ない。もし、温室効果ガスの問題が合理的判断を禁ずるほどに科学的に不確実な問題であるのならば、EP Aはそう言わなければならない。…制定法上の問題は、温室効果ガスの危険性を認定するだけの十分な情報 が存在するかどうかであ ( 26) る 。」 法廷意見は、EPAの行為が、専断的かつ恣意的で、法律に従っていなかったと判断し、差戻し後、EPAは、 法律上の作為または不作為について理由を述べなければならない、と命じ ( 27) た 。 3 大気信託訴訟 オ レ ゴ ン 州 に 本 拠 を 置 く Our Childrenʼs Trust ( OCT ) は、 現 在 お よ び 将 来 の 世 代 の た め に 気 候 系 を 保 護 す る こ とを目的とする非営利団体であ ( 28) る 。OCTは、二〇一一年以降、複数の法域で公共信託理論に基づく気候変動訴訟 ―大気信託訴訟 (
atmospheric trust litigation
) ―を展開してい ( 29) る 。
公共信託理論とは、政府が、自然資源を市民の利益のために信託されたものとして保有し、そのような自然資源 を守る義務を負うとする理論である。 公 共 信 託 理 論 の ル ー ツ は ロ ー マ 帝 国 に あ ( 30) る 。 ロ ー マ 法 は、 自 然 法 上 人 類 に 共 通 の も の (共 通 物) と し て、 空 気、 流水、海、海岸を挙げてお ( 31) り 、特に海岸および海の利用については万民法に属し、誰でもそれらを利用することが できるとされてい ( 32) た 。イギリスでは、ノルマン人の征服後にウィリアム一世が国内全ての土地の権利を取得して以 来、国王が公衆による海岸の利用や狩猟・漁撈を制限してきたが、マグナ・カルタの発布により、国王が可航水域 の公共的利用を妨げることは禁じられ ( 33) た 。 ア メ リ カ に お け る 公 共 信 託 理 論 は、 Illinois Central Railroad v. Illinois 事 件 に お い て 明 示 さ れ た。 合 衆 国 最 高 裁 は、一八九二年、ミシガン湖の湖岸について以下のとおり判示した。 「州 は、 我 々 が 既 に 示 し た コ モ ン・ ロ ー に よ っ て 潮 水 下 に あ る 土 地 の 権 原 を 保 有 す る の と 同 様 の 範 囲 内 で ミシガン湖の可航水域下にある土地の権原を保有する。…それは、州民のために信託されたものとして保有 された権原であ ( 34) る 。」 さらに、合衆国最高裁は、一九八六年、 Greer v. Connecticut 事件において、以下のとおり述べた。 「州 に 授 け ら れ た 権 限 ま た は 統 制 権 は、 こ の 共 有 さ れ た 所 有 権 か ら 生 じ て お り、 政 府 が 有 す る 他 の 全 て の 権限と同様に、人民の利益をもたらすための信託財産として行使されるべきであり、人民とは区別された政 府を利するための特権として、あるいは公益とは区別された私人の利益のために行使されるべきではない。 …その所有権は、人民の一体化された主権において、人民のものなのであ ( 35) る 。」 公 共 信 託 理 論 は、 連 邦 の 判 例 の み な ら ず、 州 の 判 例 に お い て も、 そ し て 一 部 の 州 で は 憲 法 上 で も 認 め ら れ て お
り、その適用範囲も可航水域と海岸に限定されているわけではな ( 36) い 。大気信託訴訟の提唱者は、ローマ法において は大気も共通物であったことを根拠に、信託財産=大気の受託者である政府が気候変動対策を怠っている場合に、 受 益 者 で あ る 市 民 が 原 告 と な っ て、 政 府 に 対 し て そ の 信 任 義 務 ( fiduciary duty ) を 履 行 す る よ う、 す な わ ち、 気 候 変動対策を行うよう求めることができると主張す ( 37) る 。また、気候変動対策に積極的な州であれば、信託財産=大気 の受託者という地位に基づき、その信託財産を守るために、気候変動対策を怠っている他州や連邦政府に対して、 気候変動対策を行うよう求めることができるとも主張してい ( 38) る 。 他の気候変動訴訟と同様に、司法判断適合性の問題など原告が克服しなければならない障害は大きいが、注目に 値する訴訟である。 二 気候変動ニューサンス訴訟 1 背景 気候変動に関する政府間パネル (
Intergovernmental Panel on Climate Change, IPCC
) 第四次評価報告書統合報告書 では、識別可能な人間の影響が平均気温以外の気候のその他の側面にも及んでいることが明らかになったとして、 海面水位上昇への寄与や温帯低気圧の進路への影響などを指摘してい ( 39) る 。さらに、同報告書では、二一世紀半ばか ら後期までの予測に基づいた起こりうる気候変動の影響の例として、強い熱帯低気圧の活動度の増加や極端な高潮 位の発生の増加を挙げてい ( 40) る 。 気候変動ニューサンス訴訟の原告らは、温室効果ガスを大量に排出することがニューサンス等の不法行為に該当 するという前提で、温室効果ガス大量排出事業者の民事責任を追及している。原告らが求める救済の内容は、温室
効果ガス排出量の削減および/あるいは気候変動によって現在生じている損害および将来生じうる損害についての 賠 償 で あ る。 次 に 紹 介 す る AEP v. Connecticut 事 件 は、 温 室 効 果 ガ ス 排 出 量 の 削 減 請 求 訴 訟 (差 止 請 求 訴 訟) の う ち、合衆国最高裁が初めて判断を下したものであった。 2 AEP v. Connecticut 事 ( 41) 件 ( 1)事実の概要と下級審の判断 二〇〇四年七月、コネチカット州を含む複数の州およびニューヨーク市からなる原告団と複数の環境保護団体か ら な る 原 告 団 が、 そ れ ぞ れ、 大 手 電 力 会 社 五 社 に 対 す る 訴 訟 を ニ ュ ー ヨ ー ク 南 部 地 区 合 衆 国 地 方 裁 判 所 に 提 起 し た。両原告団とも、被告らが排出する二酸化炭素が地球温暖化に寄与することで公衆の権利を妨害しており、それ は州際に及ぶニューサンスに関する連邦コモン・ローまたは州不法行為法違反であると主張し、被告らがそれぞれ 二酸化炭素排出量の上限を定めて最低一〇年間は毎年一定割合で排出量を削減していくことを義務付ける内容の判 決を求めた。 二〇〇五年九月一五日、地裁は、それぞれの差止訴訟を、司法判断に適さない政治的問題を提示しているという 理由で却下し ( 42) た 。原告らは第二巡回区合衆国控訴裁判所に控訴した。二〇〇九年九月二一日、控訴裁は、原判決を 破棄し ( 43) た 。まず、本件の司法判断適合性につい ( 44) て 、それぞれの差止訴訟は政治的問題の法理によって禁じられない とし、また、原告適格も認め ( 45) た 。本案については、原告全員がニューサンスに関する連邦コモン・ローに基づく請 求 の 原 因 を 陳 述 し て お り、 原 告 ら の 請 求 権 は 連 邦 制 定 法 で あ る C A A に よ っ て 排 除 ( displace ) さ れ な い と 判 断 し ( 46) た 。 そ れ は、 控 訴 裁 が 本 件 を 判 断 し て い る 時 点 で は、 E P A が C A A に 基 づ く 温 室 効 果 ガ ス 規 則 を 発 布 し て お ら
ず、EPAが規則制定過程を完了するまでは、同規則が原告らにより提起された特定の問題を直接的に取り扱って いるのかどうかを推測することができない、という理由によるものであっ ( 47) た 。被告らは合衆国最高裁に裁量上訴の 申立てを行い、二〇一〇年一二月六日、最高裁が受理し ( 48) た 。 ( 2)最高裁の判断 ①争点 最高裁における争点は、原告らが二酸化炭素排出事業者に対して連邦コモン・ロー上のパブリック・ニューサン スに基づく請求権を維持できるかどうかであった。 ②法廷意見 二〇一一年六月二〇日、最高裁は、八対 ( 49) 〇 で、CAAおよび同法が授権するEPAの行為が原告らの請求権を排 除すると判断し、原判決を破棄して原審に差し戻した。 ギ ン ズ バ ー グ 裁 判 官 に よ る 法 廷 意 見 は、 原 告 適 格 に つ い て、 州 が 原 告 に 含 ま れ て い た こ と か ら、 Massachusetts v. EPA 合衆国最高裁判 ( 50) 決 に基づいて、本件の原告らの少なくとも一部について原告適格が認められると判断し ( 51) た 。 続いて、本案については、以下のとおり判断した。 「本 法 廷 は、 C A A お よ び 同 法 が 授 権 す る E P A の 行 為 が、 化 石 燃 料 に よ る 火 力 発 電 所 か ら の 二 酸 化 炭 素 排 出 量 の 削 減 を 求 め る 連 邦 コ モ ン・ ロ ー 上 の 請 求 権 を 排 除 す る と 判 断 し た。 Massachusetts 判 決 は、 二 酸 化 炭 素 の 排 出 を、 C A A に 基 づ く 規 則 の 対 象 と な る 大 気 汚 染 と み な す こ と を 明 ら か に し た。 そ し て、 同 判 決 が、被告らのプラントからの二酸化炭素の排出について同法が『直接的に言及している』ということも同様 に明らかにしている、と本法廷は考える。
同法は、執行のための複数の手段も提供している。 もし、EPAが特定の汚染物質または汚染源に関して排出量の上限を定めないのならば、州や私人はその 事柄に関して規則制定を行うよう申し立てることができるし、EPAの対応は連邦裁判所で審査されうる。 かくして、CAA自体が国内の発電所からの二酸化炭素の排出を制限しようとする手段を与えており、それ は、連邦コモン・ローを行使することによって原告らが求めているのと同じ救済である。両者を平行させる 余地はないのであ ( 52) る 。」 「原 告 ら は、 … 被 告 ら の プ ラ ン ト か ら の 排 出 を 規 制 す る 基 準 を 設 定 す る ま で は 連 邦 コ モ ン・ ロ ー は 排 除 さ れないと主張する。本法廷はそれに同意しない。… 重要な点は、連邦議会が発電所からの二酸化炭素排出を規制するかどうか、どのように規制するかという 判 断 を E P A に 委 任 し て い る と い う こ と で あ り、 そ の 委 任 が 連 邦 コ モ ン・ ロ ー を 排 除 す る と い う こ と で あ る。 EPAの判断が司法審査を免れることはないだろう。本件の原告らがEPAの今後の規則制定の結果に不 満足であるのならば、彼らの頼みの綱は、控訴裁判所の司法審査を求めることであり、最終的には裁量上訴 の申立てをすることである。 実際のところ、CAAが、意思決定の順序について、第一次決定者を専門的な行政機関、第二次決定者を 連邦裁判官と定めていることが、連邦不法行為法に基づく司法判決によって排出基準を設定することに本法 廷が抵抗するもう一つの理由である。特定の温室効果ガス産出部門においてどの程度の規制が適切かについ て、他と無関係に定めることはできない。すなわち、国内政策または国際政策における他の問題とともに、
競合する利益に関する情報に基づく評価が必要とされるのである。 CAAは、まずEPAに、州の規制者と共同でそのような衡量を行うことを委ねている。 専門の行政機関は、疑いなく、その場限りの個別的なインジャンクションを発する個々の地方裁判所裁判 官よりも温室効果ガス排出規制という仕事をする体制が整っている。連邦裁判官は、行政機関がこの命令に 関する問題に対処するために利用できる科学的・経済的・技術的資源を欠いているのである。 これらの障害にもかかわらず、原告らは、個々の連邦裁判官が、最初にどのくらいの二酸化炭素排出量が 『不 合 理 で あ る』 の か を 判 断 し、 そ れ か ら ど の 程 度 の 削 減 が『実 際 的 で、 実 現 可 能 で 経 済 的 に 実 行 可 能』 か 決定するよう提案している。 どの連邦裁判所にも提起されうる訴訟において、原告が連邦裁判官に委ねようとしている判断は、連邦議 会が定めた意思決定制度とは折り合いが付けられない。EPAに温室効果ガス排出量の上限を設定する権限 を与える法律があるにもかかわらず、連邦裁判官が同様の制限を設定することが可能であると判断したこと において、第二巡回区は誤ったのだ、と本法廷は判断す ( 53) る 。」 こ の よ う に、 最 高 裁 は、 連 邦 コ モ ン・ ロ ー 上 の ニ ュ ー サ ン ス に 基 づ く 請 求 権 に つ い て は 排 除 さ れ る と 判 断 し た が、州法に基づく請求については、原審が判断しなかったこと、最高裁においても両当事者ともに専占に関する書 面を提出せず州のニューサンス法に基づく請求権の適用可能性についても主張しなかったことから、差戻審での検 討に委ね ( 54) た 。
3 その他の気候変動ニューサンス訴訟 ( 1)損害賠償請求訴訟 AEP v. Connecticut 事件は差止請求訴訟であったが、以下で紹介する四つの事件のうち、 Korsinsky 事件以外は 損害賠償請求訴訟である。 Korsinsky 事件および California 事件は既に終結している。 ①
Korsinsky v. Environmental Protection Agency
事件 二〇〇五年一月、 ニューヨーク州民である Korsinsky は、 EPA、 ニューヨーク州環境保全局、 ニューヨーク市 環境保護局が、二酸化炭素を排出し、自らが考案した二酸化炭素の排出を削減する措置を実施しないために地球温 暖 化 に 寄 与 し て い る と 主 張 し て、 連 邦 コ モ ン・ ロ ー 上 の パ ブ リ ッ ク・ ニ ュ ー サ ン ス ま た は 州 法 上 の パ ブ リ ッ ク・ ニューサンスに基づき連帯して責任を負うとして、被告らが地球温暖化に寄与しないこと、そのために自らが考案 した措置を実施することを求めて、ニューヨーク南部地区合衆国地裁に本人訴訟を提起した。 地 裁 は、 Korsinsky が 原 告 適 格 を 欠 く と し て、 本 件 を 却 下 し ( 55) た 。 Korsinsky は 第 二 巡 回 区 合 衆 国 控 訴 裁 に 控 訴 し たが、原判決が維持され ( 56) た 。 ②
California v. General Motors Corporation
事件 二〇〇六年九月、カリフォルニア州は、自動車メーカー六社が製造する自動車から排出される二酸化炭素が地球 温暖化に寄与していることに連帯責任を負うと主張して、連邦コモン・ロー上のパブリック・ニューサンスまたは 州民法典上のパブリック・ニューサンスに基づき、カリフォルニア北部地区合衆国地方裁判所に損害賠償請求訴訟 を提起した。前述のとおり、州独自の自動車排ガス規制についてEPAの承認が得られない状況下での苦肉の策で あった。
二〇〇七年九月一七日、地裁は、気候変動対策が公共政策ひいては外交政策に関わる点で政治的問題を提示して いるため、原告の請求には司法判断適合性がないとして、本件を却下し ( 57) た 。カリフォルニア州は、第九巡回区合衆 国控訴裁判所に控訴したが、オバマ政権に代わってから気候変動対策が進展していることを理由に、二〇〇九年六 月一九日に控訴を取り下げ ( 58) た 。 ③
Comer v. Murphy Oil USA
事件 ミ シ シ ッ ピ 州 に 居 住 す る Comer ら は、 州 内 の 石 油 会 社、 石 炭 会 社、 電 力 会 社、 化 学 会 社 が 地 球 温 暖 化 に 寄 与 し た結果、海面が上昇し、ハリケーン・カトリーナの勢力が拡大したために、原告ら個人および公共の不動産を破壊 したと主張して、州コモン・ロー上のパブリック・ニューサンス、プライベート・ニューサンス、トレスパス、ネ グリジェンス等に基づき、填補的損害賠償および懲罰的損害賠償を求めるクラス・アクションをミシシッピ南部地 区合衆国地方裁判所に提起した ( Comer I ) 。 地裁は、原告適格の欠如と政治的問題を理由に、本件を却下し ( 59) た 。二〇〇九年一〇月一六日、第五巡回区合衆国 控訴裁判所は、原告適格を認め、原告らの請求が政治的問題を提示しないとして、地裁に差し戻す判決を出し ( 60) た 。 そ の 後、 被 告 側 に よ る 大 法 廷 で の 再 弁 論 の 申 立 て を 一 旦 は 認 め た ( 61) が 、 二 〇 一 〇 年 五 月 二 八 日、 裁 判 官 の 回 避 等 に よって再弁論のための定足数に達しないという事態が生じたため、同申立てを却下したうえで、原審での本件却下 の判断を維持し ( 62) た 。同年八月二六日、原告らは、控訴裁の判断を破棄することを求めて、合衆国最高裁に職務執行 令状の申立てを行ったが、二〇一一年一月一〇日、最高裁が申立てを却下したため、地裁での本件却下という判断 が確定し ( 63) た 。 そ の 後、 二 〇 一 一 年 五 月 二 七 日、 再 び Comer が 代 表 原 告 と な り、 Comer I の 被 告 数 を 上 回 る 九 〇 社 を 超 え る 企
業に対して、州法上のパブリック・ニューサンスおよびプライベート・ニューサンス、トレスパス、ネグリジェン スに基づく填補損害賠償、懲罰的損害賠償その他適切なエクイティ上の救済と、連邦法が州不法行為法上の請求を 専占しないという宣言的判決を求めるクラス・アクションを、 Comer I と同じミシシッピ南部地区合衆国地裁に提 起した ( Comer II ) 。二〇一二年三月二〇日、地裁は、本請求が本質的には Comer I の請求と同一であると判断し、 既判力および争点効を理由に本件を却下した。さらに、地裁は、本件が原告適格を欠くこと、政治的問題を提示し ていること、CAAが州不法行為法を専占すること、原告らの請求権が時効消滅していること、そして、被告らの 排出が原告らの被害の近因となっていることを原告らが証明できていないことを付言し ( 64) た 。四月一六日、原告らは 控訴し ( 65) た 。 ④
Native Village of Kivalina v. ExxonMobil Corporation
事件 二 〇 〇 八 年 二 月、 ア ラ ス カ 州 キ ヴ ァ リ ナ 村 落 (人 口 約 四 〇 〇 人 の イ ヌ ピ ア ッ ト・ エ ス キ モ ー の 村) は、 石 油 会 社、 電力会社、石炭会社が連帯して地球温暖化に寄与しているために、村落の土地が大規模な浸食を受けており、将来 に は 移 住 を 余 儀 な く さ れ る と し て (そ の 費 用 を 九 五 〇 〇 万 ~ 四 億 ド ル と 予 想) 、 連 邦 コ モ ン・ ロ ー 上 の パ ブ リ ッ ク・ ニューサンス、州コモン・ロー上のプライベート・ニューサンス、パブリック・ニューサンス等に基づいて、カリ フ ォ ル ニ ア 北 部 地 区 合 衆 国 地 裁 に 損 害 賠 償 請 求 訴 訟 を 提 起 し た。 本 件 は、 原 告 ら が ア ラ ス カ 先 住 民 で あ る こ と か ら、 気 候 変 動 問 題 に お い て 環 境 正 義 ( environmental justice ) を ど の よ う に 実 現 し て い く べ き か と い う 観 点 か ら も 注 目されている。 二〇〇九年九月三〇日、地裁は、連邦コモン・ローに基づく請求については政治的問題を提示しており原告適格 もないと判断し、州コモン・ローに基づく請求については付加管轄権を否定し ( 66) て 、本件を却下し ( 67) た 。二〇一二年五
月時点で、第九巡回区合衆国控訴裁に係属中である。
(
2)気候変動ニューサンス訴訟からの派生訴訟―
AES Corp. v. Steadfast Ins. Co.
事件 Kivalina 事 件 の 被 告 と な っ て い る 電 力 会 社 A E S は、 保 険 会 社 Steadfast の 企 業 総 合 賠 償 責 任 保 険 に 加 入 し て い た。 A E S が Steadfast に 対 し て Kivalina 裁 判 に 必 要 な 弁 護 と 損 害 に 関 す る 補 填 を 要 求 し た と こ ろ、 Steadfast は 一 旦 は 弁 護 を 提 供 し た も の の、 A E S は「事 故」 ( occurrence ) に よ る 財 産 被 害 を 受 け た わ け で は な い の で 保 険 の 対 象外であり、かつ、AESを弁護する義務も負わない、という内容の宣言的判決を求める訴訟をヴァジニア州巡回 裁 判 所 (同 州 に お い て 一 般 管 轄 権 を 持 つ 第 一 審 裁 判 所) に 提 起 し た。 裁 判 所 は、 本 件 訴 訟 が 提 起 さ れ た 原 因 で あ る Kivalina 事 件 の 原 告 ら が そ の 訴 状 の 中 で 保 険 が 適 用 さ れ る「事 故」 を 主 張 し て い な い こ と を 理 由 に、 Steadfast は A E S を 弁 護 す る 義 務 を 負 わ な い と 判 断 し ( 68) た 。 二 〇 一 一 年 九 月 一 六 日、 ヴ ァ ジ ニ ア 州 最 高 裁 判 所 も、 Steadfast が 弁護する義務も損害を補填する義務も負わないと判断し ( 69) た 。二〇一二年一月一七日、最高裁は、AESの再弁論の 申立てを認めた ( 70) が 、四月二〇日、再度、巡回裁判所の判決を維持し ( 71) た 。 三 小括 本章では、アメリカにおける気候変動訴訟のうち、行政庁に対する気候変動対策促進訴訟と気候変動ニューサン ス訴訟の展開を紹介した。 Massachusetts v. EPA 合 衆 国 最 高 裁 判 決 が 州 の 原 告 適 格 を「特 別 な 配 慮」 を 前 提 に 認 め た こ と は、 他 の 気 候 変 動 訴 訟 に 大 き な 影 響 を 与 え た。 実 際、 AEP v. Connecticut 事 件 に お い て、 合 衆 国 最 高 裁 は、 原 告 適 格 に つ い て は ほ ぼ 論 じ る こ と な く 本 案 の 検 討 に 進 ん だ。 今 後、 少 な く と も 現 在 の 合 衆 国 最 高 裁 裁 判 官 の 構 成 が 維 持 さ れ る 限 り
注 ( 1) 例 え ば、 平 尾 禎 秀「米 国 の 連 邦 レ ベ ル の 展 開 ― 司 法 判 断 の 影 響 と 連 邦 行 政 府 の 国 内 政 策 の 手 法 ―」 環 境 研 究 一 四 六 号 八 三 ― 八 六 頁(二 〇 〇 七 年) 、 同「ア メ リ カ の 司 法 に お け る 温 暖 化 関 連 訴 訟 の 動 向」 ジ ュ リ ス ト 一 三 五 七 号 八 〇 ― 八 六 頁(二 〇 〇 八 年) がある。 ( 2) President George W. Bush, Press Conference by the President ( Mar. 29, 2001 ), available at http://georgewbush-whitehouse. は、州を原告に含む気候変動訴訟が原告適格の欠如を理由として却下されることはないと思われ、原告適格要件が 大 き な 障 害 と な っ て い た 環 境 保 護 派 に と っ て 好 ま し い 展 開 と な っ た。 一 方 で、 Massachusetts 判 決 が、 温 室 効 果 ガ ス が C A A の「大 気 汚 染 物 質」 に あ て は ま る と し、 E P A の 温 室 効 果 ガ ス 規 制 権 限 を 認 め た た め に、 ま た、 ブ ッ シュ政権からオバマ政権に代わったことで連邦レベルにおける気候変動対策が進んだために、連邦法の専占または 連邦法による排除によって気候変動ニューサンス訴訟を提起および維持しにくくなったことも確かである。もっと も、気候変動ニューサンス訴訟のうち、AEP事件のような差止救済を求める訴訟の目的は、行政庁に対する気候 変 動 対 策 促 進 訴 訟 の 目 的 と 同 じ、 気 候 変 動 の「緩 和」 ( mitigation ) で あ る た め、 環 境 保 護 派 は、 A E P 事 件 で は 敗 けたが―まだ州法に基づく請求がCAAによって専占されるかどうかについての判断は残されているが―、その目 的が果たされる方向に進んでいることに不満はないであろう。気候変動ニューサンス訴訟で今後注目されるのは損 害 賠 償 請 求 訴 訟 で あ る。 と り わ け、 Kivalina 事 件 は 気 候 変 動 へ の「適 応」 ( adaptation ) ― 移 住 と い う 方 法 も 適 応 策 の一つである―を目的として訴訟を利用している点で興味深く、二〇一二年中に出されると言われている控訴審判 決が待たれるところである。
archives.gov/news/releases/2001/03/20010329.html
(
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). ( 3) President George W. Bush, President Announces Clear Skies and Global Climate Change Initiative ( Feb 14. 2002 ), available at http://georgewbush-whitehouse.archives.gov/news/releases/200 2/02/20020214-5.html (
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). ( 4) 西村治彦・河村玲央 「アメリカの連邦・州における国内排出枠取引制度の胎動」 ジュリスト一三五七号七〇―七九頁 (二〇〇八 年) 、岡崎雄太「米国の州・地方自治体の気候変動政策の最新動向について」環境研究一四六号七四―八二頁を参照。 ( 5) RGGIのウェブサイト( http://www.rggi.org/ )を参照。 ( 6)
California Cap on Greenhouse Gas Emissions and Market-Based Com
pliance Mechanisms, 17 CCR §§ 95801-96202. ( 7) Id., at §95840. ( 8) WCIのウェブサイト( http://www.westernclimateinitiative.org/ )を参照。 ( 9) 専 占 に は 明 示 的 専 占( express preemption ) と 黙 示 的 専 占( implied preemption ) が あ り、 さ ら に 黙 示 的 専 占 に は、 領 域 専 占 ( field preemption ) と 抵 触 専 占( conflict preemption ) の ほ か に 衝 突 専 占 な い し 障 害 専 占( interference/obstacle preemption ) が ある。 ( 10) カ リ フ ォ ル ニ ア 州 だ け が、 一 九 六 六 年 三 月 三 〇 日 よ り 前 に 州 独 自 の 新 車 等 か ら の 排 出 基 準 を 有 し て い た た め で あ る。 な お、 二〇九条b項⑶に基づき、カリフォルニア州基準がEPAによって承認されれば、他州も同州基準に従うことができる。 ( 11) California State Motor Vehicle Pollution Control Standards; Notice of Decision Granting a Waiver of Clean Air Act Preemp -tion for Californiaʼs 2009 and Subsequent Model Year Greenhouse Gas Emission Standards for New Motor Vehicles, 74 Fed. Reg. 32744-32784 ( July 8, 2009 ). ( 12) 日 本 語 に よ る 紹 介 や 評 釈 と し て、 畠 山 武 道『ア メ リ カ の 環 境 訴 訟』 二 五 九 ― 二 六 一 頁(北 海 道 大 学 出 版 会、 二 〇 〇 八 年) 、 大 林 啓 吾「執 行 府 の 環 境 政 策 に 対 す る 司 法 審 査 ─ Massachusetts v. EPA 連 邦 最 高 裁 判 決 を 素 材 と し て ─」 十 文 字 学 園 女 子 大 学 社 会 情 報 論 叢 一 一 号 二 一 ― 五 〇 頁(二 〇 〇 七 年) 、 本 田 圭「温 室 効 果 ガ ス 排 出 規 制 に 関 す る 米 国 最 高 裁 判 決 Massachusetts v. EPA に つ い て」 N B L 八 七 三 号 九 ― 一 九 頁(二 〇 〇 八 年) 、 前 田 定 孝「温 室 効 果 ガ ス 対 策 に つ き、 原 告 で あ る 州 が、 環 境 保 護 庁 長 官 が 大
気清浄法に基づく規則制定をしなかったことを違法であると主張して提起した訴えが、認容された事例」三重大学法経論叢二六巻 一 号 七 九 ― 九 六 頁(二 〇 〇 八 年) 、 拙 稿「連 邦 環 境 保 護 庁 の 温 室 効 果 ガ ス 排 出 規 制 権 限」 比 較 法 学 四 二 巻 二 号 三 〇 八 ― 三 一 五 頁 (二〇〇九年) 、飯泉明子「アメリカのパレンス・パトリエ訴訟に関する一考察―環境法の視点から―」季刊・企業と法創造二四号 二 九 一 ― 三 二 九 頁(二 〇 一 〇 年) 、 下 村 英 嗣「ア メ リ カ の 気 候 変 動 訴 訟 と 原 告 適 格 ― 事 実 上 の 損 害 要 件 と 蓋 然 性 を 中 心 に ―」 『公 害・環境紛争処理の変容』二二四―二三七頁(二〇一二年)がある。 ( 13) Section 202 ⒜ ⑴ of the Clean Air Act, as added by Pub. L. 89-272, §101 ⑻ , 79 Stat. 992, and as amended by, inter alia, 84 Stat.
1690 and 91 Stat. 791, 42 U.S.C.
§7521 ⒜ ⑴ . ( 14) 68 Fed. Reg. 52922 ( Sept. 8, 2003 ). ( 15) 一二州、三地方自治体、一自治領に加えて、一三の環境保護団体および再生可能エネルギー支援団体が原告となった。一方、 EPA側にも一〇州および六事業者団体が訴訟参加した。 ( 16) Massachusetts v. EPA, 415 F.3d 50 ( D.C. Cir. 2005 ). ( 17)
Massachusetts v. EPA, 548 U.S. 903
( 2006 ). ( 18) スティーブンス裁判官が法廷意見を執筆し、ケネディ、スーター、ギンズバーグ、ブライヤー各裁判官が同調した。ロバーツ 首席裁判官の原告適格に関する反対意見にスカリア、トーマス、アリート各裁判官が同調した。スカリア裁判官の本案に関する反 対意見にロバーツ首席裁判官、トーマス、アリート各裁判官が同調した。 ( 19)
Lujan v. Defenders of Wildlife, 504 U.S. 555
( 1992 ). ( 20) 42 U.S.C. §7607 ⒝ ⑴ . ( 21)
Massachusetts v. EPA, 549 U.S. 497, 517-520
( 2007 ). ( 22) Id. at 521-526. ( 23)
Chevron U.S.A., Inc. v. Natural Resources Defence Council Inc.,
467 U.S. 837 ( 1984 ). ( 24) Massachusetts v. EPA, at 527-528.
( 25) Id. at 528-532. ( 26) Id. at 532-534. ( 27) Id. at 534-535. ( 28) OCTのウェブサイトの紹介ページ( http://ourchildrenstrust.org/about )を参照。 ( 29) 二〇一二年三月末時点で、連邦、アラスカ州、アリゾナ州、カリフォルニア州、コロラド州、アイオワ州、ミネソタ州、モン タナ州、 ニュージャージー州、 ニューメキシコ州、 オレゴン州、 テキサス州、 ワシントン州において訴訟を提起している ( http:// ourchildrenstrust.org/legal-action/lawsuits )。 ま た、 複 数 の 州 の 行 政 庁 に 対 し て、 二 酸 化 炭 素 の 排 出 量 の 削 減 を 義 務 付 け る 規 則 の 制定等を求める請願も行っている( http://ourchildrenstrust.org/legal-action/petitions )。 ( 30) 公共信託理論の展開について、 Joseph Sax, The Public Trust Doctrine, In Natural Resource Law: Effective Judicial Interven -tion, 68 M ich . L. R ev . 471 ( 1970 ). 畠山武道「人々から信託された財産」 『アメリカの環境保護法』七一―一四四頁(北海道大学図 書刊行会、一九九二年)を参照。 ( 31) 法学提要 2 . 1 . 1 。 ( 32) 法学提要 2 . 1 . 1 および 2 . 1 . 5 。 ( 33) マグナ・カルタ三三条は、テムズ川、メドウェイ川ならびに全イングランドから、海岸に有るものを除くすべての魚梁を除去 することを義務付けた。 ( 34)
Illinois Central Railroad v. Illinois, 146 U.S. 387, 452
( 1892 ). ( 35)
Greer v. Connecticut, 161 U.S. 519, 529
( 1896 ). ( 36) 畠山・前掲注九七―一二二頁参照。 ( 37) Mary Christina Wood, Atmospheric Trust Litigation in C limate C hange R eader ( W.H. Rodgers, Jr. and M. Robinson-Dorn, eds., 2011 ). ( 38) Id.
( 39) I P C C(文 部 科 学 省・ 気 象 庁・ 環 境 省・ 経 済 産 業 省 翻 訳) 「I P C C 報 告 書『気 候 変 動 二 〇 〇 七 統 合 報 告 書』 政 策 決 定 者 向け要約」六頁(二〇〇七年) 。 ( 40) IPCC・前掲注一三頁。 ( 41) 本 件 そ の 他 の 気 候 変 動 ニ ュ ー サ ン ス 訴 訟 の 紹 介・ 評 釈 と し て、 拙 稿「環 境 不 法 行 為 訴 訟 の 特 徴 と 新 た な 展 開」 ア メ リ カ 法 二 〇 一 一 年 一 号 一 二 五 ― 一 四 〇 頁(二 〇 一 一 年) 、 同「連 邦 コ モ ン・ ロ ー 上 の パ ブ リ ッ ク・ ニ ュ ー サ ン ス に 基 づ く 二 酸 化 炭 素 排 出 量削減請求権の排除― American Electric Power Co., Inc. v. Connecticut, 131 S. Ct. 2527 ( 2011 )―」比較法学四五巻三号一八三― 一九三頁(二〇一二年)がある。 ( 42)
Connecticut v. American Electric Power Co., 406 F. Supp. 2d 265
( S.D.N.Y. 2005 ). ( 43)
Connecticut v. American Electric Power Co., 582 F. 3d 309
( 2d Cir. 2009 ). ( 44) Id. at 321-332. ( 45) Id. at 332-349. ( 46) Id. at 387-388. ( 47) Id. at 371-388. ( 48)
American Electric Power Co. v. Connecticut, 131 S. Ct. 813
( 2010 ). ( 49) ギ ン ズ バ ー グ 裁 判 官 が 法 廷 意 見 を 執 筆 し、 ロ バ ー ツ 首 席 裁 判 官、 ス カ リ ア、 ブ ラ イ ヤ ー、 ケ ー ガ ン 各 裁 判 官 が 同 調 し た。 ア リート裁判官が法廷意見に一部同意および結論同意意見を執筆し、トーマス裁判官が同調した。九人の裁判官のうちソトマイヨー ル裁判官は、最高裁裁判官就任前の第二巡回区合衆国控訴裁裁判官であった時に原審の合議体の一員であったため、本件を回避し た。 ( 50)
Massachusetts v. EPA, supra note 21.
(
51)
American Electric Power Co. v. Connecticut, 131 S. Ct. 2527, 25
35 ( 2011 ). ( 52) Id. at 2537-2538.
( 53) Id. at 2538-2540. ( 54) Id. at 2540. ( 55)
Korsinsky v. EPA, 2005 U.S. Dist. LEXIS 21778
( S.D.N.Y. 2005 ). ( 56)
Korsinsky v. EPA, 192 Fed. Appx. 71
( 2d Cir. 2006 ). ( 57)
California v. General Motors Corporation, 2007 U.S. Dist. LEXIS
68547 ( N.D. Cal. Sept. 17, 2007 ). ( 58) See, Joanne Lichtman, California v. General Motors: State Moves to Voluntarily Dismiss Climate Change Lawsuit against Major Automakers, http://www.globalclimatelaw.com/2009/06/articles/climate-change -litigation/california-v-general-motors-state-moves-to-voluntarily-dismiss-climate-change-lawsuit-again st-major-automakers/ (
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).
(
59)
Comer v. Murphy Oil USA, No. 1:05cv436, ECF No.
368 ( S. D. Miss. Aug. 30, 2007 ). ( 60)
Comer v. Murphy Oil USA, 584 F. 3d 855
( 5th Cir. 2009 ). ( 61)
Comer v. Murphy Oil USA, 598 F. 3d 208
( 5th Cir. 2010 ). ( 62)
Comer v. Murphy Oil USA, 607 F. 3d 1049
( 5th Cir. 2010 ). ( 63) In re Ned Comer, 131 S. Ct. 902 ( 2011 ). ( 64)
Comer v. Murphy Oil USA, No. 1:11CV220-LG-RHW, Slip op.
( S.D. Miss. Mar. 20, 2012 ). ( 65)
Comer v. Murphy Oil USA, No.1:11-CV-220-LG-RHW, Notice of Appea
l ( S.D. Miss. Apr. 16, 2012 ). ( 66) See, 28 U.S.C. 1367. ( 67)
Native Village of Kivalina v. ExxonMobil Corporation, 663 F. Su
pp. 2d 863 ( N.D. Cal., 2008 ). ( 68)
Steadfast Insurance Co. v. AES Corp., 2010 Va. Cir. LEXIS 35
( Feb. 5, 2010 ). ( 69)
AES Corp. v. Steadfast Insurance Co., 282 Va. 252
( 2011 ). ( 70) See, J. Wylie Donald et al., Lessons From the First Climate Change Liability Insurance Case, 2012 Emerging Issues 6265 ( Mar. 27, 2012 ).
( 71) AES Corp. v. Steadfast Insurance Co., No.100764 ( Va. Apr. 20, 2012 ), available at http://www.courts.state.va.us/opinions/ opnscvwp/1100764r.pdf. 〔謝辞〕 本稿は、二〇一一年度住友財団環境研究助成による研究成果の一部である。 ―おおさか えり・法学部准教授―