平成 23年度問題別研究会
「消費者ニーズに応えるおいしい高付
加価値化国産食肉生産」
平成 23年 11月 25日
独立行政法人
農業・食品産業技術総合研究機構
畜 産 草 地 研 究 所
畜産草地研究所 23 – 4 資 料目 次
議事次第 基調講演 ・食肉のおいしさ 北海道大学 西邑隆徳 氏 ・・・1 個別講演 ・消費者嗜好と品質評価技術のあり方 ・・・ 3 畜産草地研究所 佐々木啓介 氏 ・牛肉の香りに基づくおいしさと諸成分との関係 ・・・ 日本獣医生命科学大学 松石昌典 氏 ・消費者における食肉の「おいしさ」とは ・・・ 日本女子大学 飯田文子 氏 ・海外の食肉生産者から見た日本の消費者 ・・・ MLA 豪州食肉家畜生産者事業団 駐日代表 メラニー・ブロック 氏 ・地域資源を活用した特長ある牛肉生産 ・・・ 東北農農業研究センター 渡邊 彰 氏 ・黒毛和種経産牛の放牧仕上げ「熟ビーフ」の特徴 ・・・ 近畿中国四国農業研究センター 松本和典 氏 ・褐毛和種による周年放牧肥育事例 ・・・ 九州沖縄農業研究センター 中村好徳 氏 ・・・ 1 ・・・ 3 ・・・ 7 ・・・ 24 ・・・ 30 ・・・ 42 ・・・ 46 ・・・ 50
平成23年度問題別研究会 「消費者ニーズに応えるおいしい高付加価値化国産食肉生産」 -議事次第- 1. 開催趣旨 平成20年の輸入飼料価格の高騰と それに続く流通価格の高止まり、世界的な 異常気象、昨年の口蹄疫と高病原性鳥 インフルエンザ、さらには今春の東京電力 福島第一原発事故を受け、畜産農家の経営は厳しさを増している。一方、食料の 自給及び食品の安全と安心に対する消費者の関心はかつ てないほど高まっている。 こうした状況下、国内の食肉生産の維持・向 をはかるためには、多様化する消費 者ニーズにきめ細かく対応した食肉生産が強く求められている。そこで本研究会 では、多様化する消費者ニーズに答え得る「おいしさ 」「高付加価値化」を採り上げ、 大学・独法・民間の関係者が多方面から意見交換を行い、 これらを価値基準とし た食肉生産の新たな方向性を検討する。 なお、震災対応等、国内牛肉生産に密接に関連する自給飼料の諸問題については農林 水産技術会議 筑波事務所で前日(11月24日)に開催される自給飼料利用研究会 での報告が予定されている。 2.主 催:(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 3.開催日時:平成 23 年 11 月 25 日(金) 10:00-15:45 4.開催場所:畜産草地研究所(茨城県つくば市池の台2) 5.内 容 挨 拶 10:00-10:10 (座長: 畜産草地研究所 相川勝弘) 基調講演 10:10-10:40 食肉のおいしさ 北海道大学教授 西邑隆徳 個別講演 1)消費者嗜好と品質評価技術のあり方 10:40-11: 10 畜産草地研究所主任研究員 佐々木啓介 2)牛肉の香りに基づくおいしさと諸成分との関係 11:10-11:40 日本獣医生命科学大学教授 松石昌典 3)消費者における食肉の「おいしさ」とは 11:40-12:10
平成23年度問題別研究会 「消費者ニーズに応えるおいしい高付加価値化国産食肉生産」 -議事次第- 1. 開催趣旨 平成20年の輸入飼料価格の高騰と それに続く流通価格の高止まり、世界的な 異常気象、昨年の口蹄疫と高病原性鳥 インフルエンザ、さらには今春の東京電力 福島第一原発事故を受け、畜産農家の経営は厳しさを増している。一方、食料の 自給及び食品の安全と安心に対する消費者の関心はかつ てないほど高まっている。 こうした状況下、国内の食肉生産の維持・向 をはかるためには、多様化する消費 者ニーズにきめ細かく対応した食肉生産が強く求められている。そこで本研究会 では、多様化する消費者ニーズに答え得る「おいしさ 」「高付加価値化」を採り上げ、 大学・独法・民間の関係者が多方面から意見交換を行い、 これらを価値基準とし た食肉生産の新たな方向性を検討する。 なお、震災対応等、国内牛肉生産に密接に関連する自給飼料の諸問題については農林 水産技術会議 筑波事務所で前日(11月24日)に開催される自給飼料利用研究会 での報告が予定されている。 2.主 催:(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 3.開催日時:平成 23 年 11 月 25 日(金) 10:00-15:45 4.開催場所:畜産草地研究所(茨城県つくば市池の台2) 5.内 容 挨 拶 10:00-10:10 (座長: 畜産草地研究所 相川勝弘) 基調講演 10:10-10:40 食肉のおいしさ 北海道大学教授 西邑隆徳 個別講演 1)消費者嗜好と品質評価技術のあり方 10:40-11: 10 畜産草地研究所主任研究員 佐々木啓介 2)牛肉の香りに基づくおいしさと諸成分との関係 11:10-11:40 日本獣医生命科学大学教授 松石昌典 4)海外の食肉生産者から見た日本の消費者 13:00-13:30 MLA 豪州食肉家畜生産者事業団 駐日代表 メラニー・ブロック 5)地域資源を活用した特長ある牛肉生産 13:30-15:00 東北農農業研究センター上席研究員 渡邊 彰 近畿中国四国農業研究センター主任研究員 松本和典 九州沖縄農業研究センター主任研究員 中村好徳 (休 憩) 総合討論 15:10-15:45 (座長: 畜産草地研究所 寺田文典) 閉会 6.参集範囲:農林水産省、独立行政法人、都道府県、大学、団体、民間の関係者 7.事務局:(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 企画管理部 業務推進室 運営チーム 〒305-0901 茨城県つくば市池の台2 ℡. 029-838-8593 Fax. 029-838-8606
平成23年度問題別研究会・基調講演 「食肉のおいしさ」 北海道大学大学院農学研究院・西邑隆徳 1. 食肉のおいしさ 食肉のおいしさはその商品価値を決定する本質的なものである。しかし、消費者が食 肉に求めるおいしさは多様である。消費者は、家庭でおいしい食肉を食べたい場合、そ の日の料理に適する(おいしいと想定される)食肉をスーパーや精肉店で選び、これを 実際に調理し食べてみて、想像したおいしさと同じかそれ以上で且つ支払った金額がそ のおいしさを得るのに妥当と思われた場合に、満足する。年末や年始、家族の誕生日な ど「ハレ」の日には、霜降り牛肉をすき焼きやしゃぶしゃぶで食べ、そのトロけるよう な口触りと甘いフレーバーに幸せな気持ちになり、百グラム数千円を払ったとしても満 足する。しかし、このような牛肉で肉じゃがを作ったとしてもおいしくないし、たとえ おいしかったとしてもその値段が高すぎて満足できない。吉野家の牛丼はあの牛肉であ の値段だからおいしいと満足する。「ケ」の日にはそれに見合う品質の肉でなければ、 その肉自体がどんなにおいしくても満足はしない。肉のおいしさの定義はその時の状況 が作り出すもので、「普遍的で絶対的なおいしさ」は存在しない。 2.食肉のおいしさと品質 食肉のおいしさは人の五感で判定するもので、実際にその食肉を食べる(食べようと する)ことによって初めて判定できる。食べる前の食肉の色調を目で、香りを鼻で嗅ぎ、 口中に含み、舌で味を、同時に鼻腔でフレーバーを、口中全体の触感でテクスチャーを 感知する。また、調理時に聞く音でもおいしさを想像しており、これも耳で知覚するお いしさと言えるかもしれない。人間の感覚器と脳で知覚するのが「おいしさ」である。 これに対して、食肉の品質には、栄養学的品質(カロリー、アミノ酸組成・含量、機 能性物質含量など)、安全性(微生物学的、化学的)、保存性、加工適性などがある。こ れらのうち、食肉が持つ色素(量と誘導体割合、素地の状態など)、香り成分(揮発性 物質)、呈味物質、組織構造(筋組織、結合組織、脂肪組織の 3 次元構造)などの品質 特性が人の感覚器と脳を通して「食肉のおいしさ」として判定されるのであろう。上記 の品質特性は人が実際に食べなくても評価できるものが多いが、「おいしさ」そのもの は人が食べない限り評価できない。食肉のおいしさはその品質特性によって大きく影響 されるが、「おいしさという品質特性」は「おいしさ」が普遍的に、あるいは限定的に 定義されないかぎり評価できない。食肉のおいしさ評価技術については、食肉の「おい
3.食肉の品質評価 日本で生産される食肉の品質評価としては、 (社)日本食肉格付協会が農林水産省の 承認を得て制定した「牛枝肉取引規格」及び「豚枝肉取引規格」があり、全国の食肉卸 売市場及び基幹的な産地食肉センター等で実施されている。枝肉段階でその肉質と肉量 (正肉歩留まり)を判定し、牛枝については歩留まり等級 A-C と肉質等級 5-1 の計 15 段階で、豚枝肉については極上、上、中、並、等外の 5 段階に等級付けする(豚枝肉規 格については現在改訂作業が進められている)。等級判定は日本格付協会の検査員が実 施している。枝肉格付けは人間が目で見た情報に基づいて等級付けをしているので「主 観的であいまいになる」と誤解している人もいる。しかし、彼らの評価眼は高度に訓練 されており、歩留まり基準値を算出するための枝肉切開面の数値情報はスケールを使っ て測定しているし、脂肪交雑についても参照写真に基づいて判定している。現行の格付 け等級判定は高度にトレーニングされた検査員が統一的な基準で行っている信頼すべ き品質評価技術である。 問題は別のところにある。この評価方法は枝肉という商品を評価するものであり、そ の評価値を直接的に利用するのは消費者でなく、枝肉を購入する肉卸・仲買人などの流 通業者である。(社)日本食肉格付協会の HP にも記載されているが、この格付けの目的 は「食肉の適正な価格の形成と、生産、流通の合理化」にある。したがって、当然のこ とながら、この評価値情報は消費者に届かないし、届ける義務もない。最近、TV のグ ルメ番組などで最高級の「A5」の牛肉などと紹介することもあり、消費者の中にも「A5」 が「高級な牛肉」を示すことを知っている人も増えてきたかもしれないが、「A」が何を 示し、「5」が何を示すか具体的にはほとんど知らないであろうし、スーパーの店頭で販 売されている牛肉に「C3」などという表示をしているところはまずない。先に述べたよ うに、この評価値は消費者のためのものではないから当然である。豚肉についても同様 で、店頭に並んでいる豚薄切り肉に「並」と表示されたパッケージは見かけない。日本 格付協会が実施している牛・豚枝肉格付けは枝肉の外観や切開面の情報から枝肉の品質 を評価する技術としては優れている。しかし、消費者が購入する精肉という商品価値(お いしさや満足度)を表示するものでは本来ないのである。日本には、現在、消費者が購 入する精肉の品質(おいしさや満足度)を評価するシステムはない。 食肉のおいしさ評価技術に関する研究や食肉のおいしさの効果的表示技術等につい ての研究は、日本ではこれまであまり行われてこなかった。食肉のマーケティングに関 する研究や品質表示技術開発が遅れているのは、食肉を含めた農畜産物が流通するルー トが限られてきた背景があるのかもしれない。「食肉という商品をどう売るか」を研究 し、その技術を開発・確立することは、生産者だけでなく消費者にも多くの利益をもた らす。国産食肉の安定的消費維持・拡大(海外マーケット進出)を指向するならば、今 すぐに、この分野の研究開発を重点的に進めるべきである。
3.食肉の品質評価 日本で生産される食肉の品質評価としては、 (社)日本食肉格付協会が農林水産省の 承認を得て制定した「牛枝肉取引規格」及び「豚枝肉取引規格」があり、全国の食肉卸 売市場及び基幹的な産地食肉センター等で実施されている。枝肉段階でその肉質と肉量 (正肉歩留まり)を判定し、牛枝については歩留まり等級 A-C と肉質等級 5-1 の計 15 段階で、豚枝肉については極上、上、中、並、等外の 5 段階に等級付けする(豚枝肉規 格については現在改訂作業が進められている)。等級判定は日本格付協会の検査員が実 施している。枝肉格付けは人間が目で見た情報に基づいて等級付けをしているので「主 観的であいまいになる」と誤解している人もいる。しかし、彼らの評価眼は高度に訓練 されており、歩留まり基準値を算出するための枝肉切開面の数値情報はスケールを使っ て測定しているし、脂肪交雑についても参照写真に基づいて判定している。現行の格付 け等級判定は高度にトレーニングされた検査員が統一的な基準で行っている信頼すべ き品質評価技術である。 問題は別のところにある。この評価方法は枝肉という商品を評価するものであり、そ の評価値を直接的に利用するのは消費者でなく、枝肉を購入する肉卸・仲買人などの流 通業者である。(社)日本食肉格付協会の HP にも記載されているが、この格付けの目的 は「食肉の適正な価格の形成と、生産、流通の合理化」にある。したがって、当然のこ とながら、この評価値情報は消費者に届かないし、届ける義務もない。最近、TV のグ ルメ番組などで最高級の「A5」の牛肉などと紹介することもあり、消費者の中にも「A5」 が「高級な牛肉」を示すことを知っている人も増えてきたかもしれないが、「A」が何を 示し、「5」が何を示すか具体的にはほとんど知らないであろうし、スーパーの店頭で販 売されている牛肉に「C3」などという表示をしているところはまずない。先に述べたよ うに、この評価値は消費者のためのものではないから当然である。豚肉についても同様 で、店頭に並んでいる豚薄切り肉に「並」と表示されたパッケージは見かけない。日本 格付協会が実施している牛・豚枝肉格付けは枝肉の外観や切開面の情報から枝肉の品質 を評価する技術としては優れている。しかし、消費者が購入する精肉という商品価値(お いしさや満足度)を表示するものでは本来ないのである。日本には、現在、消費者が購 入する精肉の品質(おいしさや満足度)を評価するシステムはない。 食肉のおいしさ評価技術に関する研究や食肉のおいしさの効果的表示技術等につい ての研究は、日本ではこれまであまり行われてこなかった。食肉のマーケティングに関 する研究や品質表示技術開発が遅れているのは、食肉を含めた農畜産物が流通するルー トが限られてきた背景があるのかもしれない。「食肉という商品をどう売るか」を研究 し、その技術を開発・確立することは、生産者だけでなく消費者にも多くの利益をもた らす。国産食肉の安定的消費維持・拡大(海外マーケット進出)を指向するならば、今
個 別 講 演
消費者嗜好と品質評価技術のあり方
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 畜産物研究領域 畜産物品質研究グループ 主任研究員 佐々木啓介 1.はじめに 自由貿易体制のもと、国産の食肉は輸入食肉との競争にさらされており、さらなるコス トダウンと高付加価値化による、「安くつくり、選んでもらい、高く買ってもらう」技術が 求められている。高付加価値化の方向性としては「良いイメージ」「機能性」「おいしさ」 などが考えられるが、このうち特に「おいしさ」に関する関心が、生産者、消費者ともに 高まっている。このため、食肉の「おいしさ」をより高め、消費者に選ばれ、高く購入さ れるための研究や技術開発が必要である。 これまでの「おいしさ」に関する研究や技術開発は、基本的には分析機器で測定可能な 理化学特性値と官能評価における「総合評価」との相関を調べ、「総合評価」との相関の高 い特性値を「おいしさを示す客観的な数値」として品質評価や制御における指標として活 用していくという戦略が主流であった。 このような戦略について、筆者は2つの点から問題があるものと考えている。一つは、 「相関があることは、必ずしも因果関係の存在を保証しない」という点、もう一つは「総 合評価とはどういうものかが十分理解されていない」という点である。本講演では、上記 2点について若干の例を挙げつつ検証した上で、消費者嗜好と品質評価技術のあり方とい う観点から「何を測定すればよいのか?」を検討する場合の筆者の考え方を述べる。 2.「おいしさ」と理化学特性値の関係 -相関だけでは不十分 食肉に含まれる成分や、それら成分の構造がもたらす物性は、食肉の官能特性、すなわ ち味・香り・食感という形で私たちヒトに感知される。このため、食品に含まれる成分や、 それら成分がもたらす物性を測定し、これらと「総合評価」の相関を求める研究がこれま で多く実施されてきた。これらの研究で「相関を求める」際には、おそらく、「成分 X と 総合評価に相関がある」=「成分X が高く(もしくは低く)なれば総合評価が高まるよう な因果関係がある」ことを期待していたものと思われる。もしこのような期待が正しけれ ば、総合評価と相関のある成分X さえ見つけてしまえば成分 X を用いたおいしさ評価が可 能となり、成分X を増加(もしくは低減)させることでおいしさを制御できることになる。無と冠状動脈性心臓病の発症率の間に見られた相関関係に関する一連の研究が有名である 1)。詳しい説明は本稿では省くが、統計的に相関が存在する事象同士の間には、実際には 多くのステップが存在することがあり、それらのステップを逐次検証することで、相関が ある事象同士に実は因果関係が存在しないことが判明することも多い。 それでは、食肉における成分X と「総合評価」の間にはどのようなステップが存在しう るのか考えてみよう。成分X は、食肉の化学組成の一部を構成し、味や香り、食感として 認知される。認知の際には、「○○な味」「△△な香り」「□□な食感」のように、何らかの 具体的な特徴として喫食したヒトに認知される。認知されたこれらの味や香り、食感は、 ヒトの中で「おいしいか、おいしくないか」を価値判断する材料となり、ここで最終的に 「総合評価」として出力がなされる。このように、食肉における成分X と「総合評価」の 間には、大きく分けて認知と価値判断の2つのステップがある。 これらのことから考えると、食肉における成分X と総合評価の間に仮に相関関係が存在 したとしても、成分X による変化がどのように認知されるのか、すなわち食肉の「味、香 り、食感をどう変化するのか」について合理的な説明がなされることが必要である。それ と同時に、成分X により変化した味、香り、および食感が、食肉に対する評価に影響を及 ぼしていることを示すことが必要である。これらの説明がなされて始めて、成分X と「総 合評価」における相関関係は、両者の因果関係によるものと結論付けられることになる。 成分X が「総合評価」と相関関係があるとしても、上記の説明がなされない限り「成分 X が多ければ総合評価が必ず高くなる」ことの証明にはならない。相関関係の存在だけでは 不十分であることを十分理解しておくことが必要である。 3.「総合評価」とはどういうものか -2つの「総合評価」 ここまで、成分X と「総合評価」の相関関係と因果関係について述べてきたが、もう一 つ、「総合評価」にまつわる問題点について述べる。この場合の総合評価とは、たいていの 場合、官能評価を実施して、パネリストに全体的な評価として回答させるものを指してい る。このような総合評価には、実は2 種類が存在する。 一つは、いわゆる専門家型のパネリストたちが、「こういうものが良いものだ」という訓 練もしくは合意に基づいて判断する「総合評価」である。もう一つは、一般消費者からな る消費者型のパネリストたちが各自の独断と偏見に基づき判断する「総合評価」である。 この二つは「総合評価」という同じ呼び方ではあるが、実際には全く異なるものを測定し ている。専門家型の「総合評価」は、一定の合意の下に良し悪しを判断しているので、結 果が一致しやすい。一方、消費者型の「総合評価」は、各自の嗜好にはバラツキがあるの で、その結果もばらつく。このため、専門家型の「総合評価」の高さが、必ずしも「多く の消費者に好まれる」ことを保証しないことに注意する必要がある。詳細は本稿では述べ ないが、消費者の嗜好性には多様性があることを踏まえて、「総合評価」を考えたほうが現 実に即していると言える。筆者は豚肉の脂肪の溶けやすさ等について、消費者による嗜好 2-4)
無と冠状動脈性心臓病の発症率の間に見られた相関関係に関する一連の研究が有名である 1)。詳しい説明は本稿では省くが、統計的に相関が存在する事象同士の間には、実際には 多くのステップが存在することがあり、それらのステップを逐次検証することで、相関が ある事象同士に実は因果関係が存在しないことが判明することも多い。 それでは、食肉における成分X と「総合評価」の間にはどのようなステップが存在しう るのか考えてみよう。成分X は、食肉の化学組成の一部を構成し、味や香り、食感として 認知される。認知の際には、「○○な味」「△△な香り」「□□な食感」のように、何らかの 具体的な特徴として喫食したヒトに認知される。認知されたこれらの味や香り、食感は、 ヒトの中で「おいしいか、おいしくないか」を価値判断する材料となり、ここで最終的に 「総合評価」として出力がなされる。このように、食肉における成分X と「総合評価」の 間には、大きく分けて認知と価値判断の2つのステップがある。 これらのことから考えると、食肉における成分X と総合評価の間に仮に相関関係が存在 したとしても、成分X による変化がどのように認知されるのか、すなわち食肉の「味、香 り、食感をどう変化するのか」について合理的な説明がなされることが必要である。それ と同時に、成分X により変化した味、香り、および食感が、食肉に対する評価に影響を及 ぼしていることを示すことが必要である。これらの説明がなされて始めて、成分X と「総 合評価」における相関関係は、両者の因果関係によるものと結論付けられることになる。 成分X が「総合評価」と相関関係があるとしても、上記の説明がなされない限り「成分 X が多ければ総合評価が必ず高くなる」ことの証明にはならない。相関関係の存在だけでは 不十分であることを十分理解しておくことが必要である。 3.「総合評価」とはどういうものか -2つの「総合評価」 ここまで、成分X と「総合評価」の相関関係と因果関係について述べてきたが、もう一 つ、「総合評価」にまつわる問題点について述べる。この場合の総合評価とは、たいていの 場合、官能評価を実施して、パネリストに全体的な評価として回答させるものを指してい る。このような総合評価には、実は2 種類が存在する。 一つは、いわゆる専門家型のパネリストたちが、「こういうものが良いものだ」という訓 練もしくは合意に基づいて判断する「総合評価」である。もう一つは、一般消費者からな る消費者型のパネリストたちが各自の独断と偏見に基づき判断する「総合評価」である。 この二つは「総合評価」という同じ呼び方ではあるが、実際には全く異なるものを測定し ている。専門家型の「総合評価」は、一定の合意の下に良し悪しを判断しているので、結 果が一致しやすい。一方、消費者型の「総合評価」は、各自の嗜好にはバラツキがあるの で、その結果もばらつく。このため、専門家型の「総合評価」の高さが、必ずしも「多く の消費者に好まれる」ことを保証しないことに注意する必要がある。詳細は本稿では述べ ないが、消費者の嗜好性には多様性があることを踏まえて、「総合評価」を考えたほうが現 4.では、何を測ればよいのか? ここまで、「相関関係は因果関係の存在を保証しない」「『総合評価』には 2 種類ある」 ということを述べた。それでは、これらを踏まえた場合、消費者が感じる「おいしさ」を 高めるためには、何を測定すればよいだろうか。これまでにいくつも提案されている品質 測定項目から選び出すための基本的な考え方を述べたい。 まず一つには、その測定項目が変化すると、味や香り、食感を、「具体的に、どのように 変化させるのか」、できれば「ヒトが食べたときにどのように違うのか」が示されているか どうかを検証する必要がある。次に、そのような「食べたときの違い」をもたらすメカニ ズムを合理的に説明できるかどうかを考える必要がある。この2つが満たされてはじめて、 「その測定項目が変化すると、味や香り、食感が変化する」という因果関係が説明できる。 さらに、もう一つ検証しておくべきなのは、「その測定項目の変化によりもたらされた味や 香り、食感について、好ましいとする消費者が一定割合以上で存在するか」である。「食べ たときの違い」や「好ましいとする消費者の割合」については、分析型の官能評価や消費 者調査によって実証したものであることが望ましい。 「おいしさ」評価は、消費者に対しては「食べてわかる違い」をもたらすという目的を、 生産者や流通業者に対しては品質制御や表示に活用することでより大きな収益をもたらす という目的をそれぞれ持っている。このため、「おいしさ」評価には科学的な根拠を伴う納 得性が必要である。上記の点に留意することで、消費者や生産者にとって科学的な根拠を 伴う納得性を有するような品質評価技術や測定項目の選択および開発ができるものと考え られる。 5.おわりに -品質は客観、嗜好は主観 食肉の品質は客観的なものであるが、消費者の嗜好は主観的なものであり、これらを直 接一つの相関関係で結び付けようとする考え方は、これまでに述べたような問題を含んで いる。マーケティングの分野では、品質に相当する部分を「知覚」、嗜好に相当する部分を 「選好」とし、両者を区別して取り扱うが、食肉品質の分野では両者をきちんと区別でき てない例も一部には見受けられる。このような状況が、不確かな「おいしさ成分」情報に 振り回されてしまいがちな食肉の「おいしさ」に関する研究開発の現状をもたらしている 一つの原因であると筆者は考えている。 客観的な品質=「知覚」と、主観的な総合評価=「選好」を分けて考える習慣をつける とともに、成分と味、香り、食感の因果関係について科学的・合理的な説明が可能かどう かについて見極める考え方を持つことが、不確かな「おいしさ成分」情報に振り回される こと無く、本当に「食べて違いがわかり、納得できる」ような品質評価技術を選択するた めに必要なことではないだろうか。
this the death of observational epidemiology? International Journal of Epidemiology 33: 464-467. 2004.
2) Sasaki K ら. Comparison of sensory traits and preferences between food co-product fermented liquid (FCFL)-fed and formula-fed pork loin. Asian-Australasian Journal of Animal Sciences 20: 1272-1277. 2007.
3) 佐々木啓介.消費者が感じる豚肉の「おいしさ」とその多様性.養豚の友 2008 年 2 月号(通巻 467 号). 22-28. 2008.
4) 佐々木啓介.消費者における食肉のおいしさ、好ましさ -多様性の問題を中心に-. 食肉の科学. 50(2): 212-216. 2009.11.
牛肉の香りに基づくおいしさと
諸成分との関係
日本獣医生命科学大学食品科学科
松石昌典
2011,11,25消費者ニーズに応えるおいしい高付加価値化国産食肉生産• 色
• 形状
• 香り
食肉のおいしさの構成要素
• 味
• テクスチャー(食感)
• 香り
• 温度
口に入れる前
口に入れた後
牛肉の食感-特に和牛肉の軟らかさ
脂肪はタンパク質繊維でできた膜 (結合組織)より弱い。しかも、脂肪 が交雑すると膜の構造も弱くなる。 筋周膜 筋周膜 筋内膜 (Nishimuraら)赤身肉の場合-速熟法,硬直しない熟成法?
16℃での貯蔵 14℃での貯蔵 19℃での貯蔵 「食品の熟成」光琳より 適正な熟成により 良好な食感を得る 必要あり。アミノ酸の閾値と牛肉中の遊離アミノ酸・イノシン酸含量
アミノ酸 刺激閾(μ モル/mL) 弁別閾 (%) L-Ala 673 10 L-Asp・Na 645 20 Gly 1465 10 L-Glu 34 20 L-Glu・Na 177 10 L-His・HCl 28 35 L-Ile 686 15 L-Lys・HCl 274 20 L-Met 201 15 L-Phe 908 20 L-Thr 2183 7 L-Tyr 497 L-Val 1280 (小俣靖,美味しさと味覚の科学) 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 グルタミン酸 イノシン酸 含量( μ モル /g) 黒毛和牛肉,乳牛肉,輸入牛肉のグルタミン酸,イノシン酸含量 (肉用家畜育種真牛術開発実用化事業平成9~11年度報告書) 黒毛和牛肉 乳牛肉 輸入牛肉 ( W atan abe ら , 2004) グルタミン酸単体では閾値以 下の濃度。相乗効果でのうま 味発現と考えられるが,品種 差,熟成での差は官能試験 による裏付けが必要 大分類 中分類 小分類 生鮮香気 血液臭、酸臭など 加熱香気 ボイル肉香気 肉様香気、水煮臭、脂肪臭で構成 ロースト肉香気 肉様香気、ロースト臭、脂肪臭で構 成 動物種特異臭 マトン臭など←分岐鎖脂肪酸、カル ボニル化合物など 性臭 ボア臭など←アンドロステノン、スカ トールなど 飼料臭 草臭など←ジテルペノイド化合物な ど食肉の香りの分類
赤身肉に由来し牛肉の
おいしさに寄与する香り
肉様香気を持つ化合物(2000年頃)
GC×GC/TOF-MSによるローストビーフの
香気成分分析(Chaintreauら,2007)
4700ピーク
香りのインパクトの強い含硫化合物
脂肪に由来し牛肉のおいしさ
に寄与する香り
消費者の国産牛肉と輸入牛肉の好み
調査 年月 回答世帯数 好むと回答した割合(%) 国産牛肉 輸入牛肉 どちらとも いえない 無回答 1997年 12月 2000 85.8 2.4 11.6 0.3 1998年 12月 2000 85.8 3.3 10.9 0.1 1999年 12月 2000 84.9 3.0 10.4 1.7 2000年 12月 2000 82.0 2.5 14.0 1.5 ((財)日本食肉消費総合センター季節別食肉消費動向調査第40回と第44回より)消費者の各牛肉の味に対する評価
和牛肉と輸入牛肉の味・香味の好ましさの比較
評価項目 より好ましいとした 判定数 検定 和牛肉1) 輸入牛肉1) 味2) 11 9 有意差なし 香味3) 19 1 有意差あり(P<0.001) 1)牛肉試料(約4x3x0.2-0.4cm)を1%食塩水中で2分間加熱した。 2)10人の鼻孔を閉じたパネリストが判定した。 3)10人の鼻孔を開けたパネリストが判定した。 このとき和牛肉に感じられた甘い、脂っぽい香り→和牛香和牛香の生成条件
•和牛肉を薄切りにし、空気下で5日間程度
貯蔵した後加熱すると生成する。
•40~100℃の加熱では80℃で最もよく生
成する。
•高度の脂肪交雑を必要とする。
•和牛香の生成には細菌は関与しない。
和牛香の香気成分の分析
甘い果物様香気と脂肪様香気を持つ主な成分の量と香りの質
和牛香の 甘さ 和牛香の 脂っぽさラクトン類は貯蔵中の酸化で増加する
和牛肉のオレイン酸と
おいしさとの関係
和牛肉のおいしさにオレイン酸が関わるという仮説の根拠
牛肉のフレーバーの好ましさは脂肪酸組成と関係があるという報告がある ・Dryden and Marchello (1970)
胸最長筋の加熱フレーバーの好ましさは筋内脂肪のオレイン酸割合(%) と有意な 正の相関(相関係数0.66)
・Westerling and Hedrick (1979)
胸最長筋の加熱フレーバーの好ましさは筋内脂肪および皮下脂肪のオレ イン酸割合(%)と有意な正の相関(相関係数0.67および0.69) 和牛のオレイン酸合成に関わる酵素(SCD)の遺伝子研究、近赤外分光分析(NIR)装置を用 いての脂肪酸組成の簡易測定などが行われてきた。 しかし、肝心の和牛肉のオレイン酸割合とフレーバーの関係に関する報告が少なかった。 和牛香成分,特にラクトン類などの前駆体になる可能性を考えた。
長野県産和牛肉の場合
・試料: 黒毛和種牛去勢雄42頭、雌15頭(計57頭)のの胸最長筋(ロース芯)と筋間脂肪。 ・脂肪のオレイン酸割合測定: メチルエステル化法によるGC分析および近赤外分光分析 (NIR)装置により測定。 ・官能評価 スライスした試料を83℃の1%食塩水中で2分間加熱したのち、4~5人の訓練 したパネリストにより、5段階評点法(‐2, ‐1, 0, +1, +2)で評価した。評価項目は軟 らかさ、多汁性、弾力性、脂肪の滑らかさ、うま味、和牛香、総合評価の7項目。 ・官能評価までの試料の履歴: と畜後3~6日間、0-4℃下、枝肉で貯蔵。 リブロース塊(約500g)を採取し、真空包装して4℃で7~14 日間貯蔵。 官能評価の2日前まで-30℃で凍結貯蔵(貯蔵日数は3~12日間)。 4℃に1日置いて解凍後、ロース芯のみを約3mm厚にスライスして4℃、空気 下で1日貯蔵したのち官能評価に供した。筋間脂肪は解凍後そのまま供した。 ≪材料と方法≫ 長野県産和牛肉の場合- BMS・オレイン酸割合と訓練したパネリストによる官能評価値の順位相関係数 ロース芯の評価(57検体、83℃で煮て評価) 黄色の塗りつぶしは有意差あり(P<0.05) BMS オレイン酸 割合(%) 軟らかさ 多汁性 滑らかさ うま味 和牛香 総合 評価 BMS 1 -0.0243 0.6712 0.4944 0.6871 -0.1233 0.5465 0.7186 オレイン酸 割合(%) -0.0243 1 0.0573 0.1148 -0.0275 -0.0783 -0.0407 -0.0806 筋間脂肪の評価(11検体、83℃で煮て評価) BMS オレイン酸割合(%) 脂肪の滑らかさ 脂っぽい香り 総合 評価 BMS 1 0.4183 -0.6138 0.2958 0.0307 オレイン酸割合(%) 0.4183 1 0.1697 0.6086 0.5593 ロース芯ではBMSが和牛香等と相関したが、オレイン酸割合はそれらと相関しなかた。信州プレミアム牛肉認定基準
全頭数100 45.0 47.0 49.0 51.0 53.0 55.0 57.0 59.0 61.0 63.0 65.0 0 2 4 6 8 10 12 ① ② ③ 認定基準 オレイン酸 BMS ① 55%1)以上 かつ 7以上 ② 58%2)以上 かつ 5以上 ③ 52%3)以上 かつ 8以上 BMS オレイン酸含量 (%) 1)100頭の平均値 2)100頭の平均値+標準偏差 3)100頭の平均値-標準偏差 材料 ・黒毛和牛去勢雄の胸最長筋を用いた。 ・評点法官能試験用 脂肪交雑等級とオレイン酸割合で区分した9つのエリアから選んだ19検体 ・2点比較法官能試験用 4つのエリア(④vs⑥,⑦vs⑨)から選んだ12検体 鳥取和牛2200頭分の平均値 平均値+1σ オ レイン 酸割合 54% ① ④ ⑦ 51% ② ⑤ ⑧ ③ ⑥ ⑨ 3等級 4等級 5等級 脂肪交雑等級 BMS No. 3-4 5-7 8-12 鳥取県産和牛肉の場合-オレイン酸割合、BMS No.と官能評価値との相関各種脂肪酸割合,BMS ナンバー,粗脂肪含量と官能評価値(評点法)の 相関係数 パルミチン酸 割合(%) オレイン酸 割合(%) ステアリン酸 割合(%) リノール酸 割合(%) MUFA 割合(%) BMSナンバー 粗脂肪含量(%) 軟らかさ -0.2267 0.2750 -0.2550 -0.1170 0.3219 0.7655 0.5571 脂肪の 滑らかさ -0.1030 0.1296 -0.1962 0.0748 0.1646 0.7442 0.6612 和牛香 -0.2027 0.2655 -0.3415 0.0032 0.3145 0.5541 0.2789 うま味 -0.1786 0.1208 0.0200 0.2182 0.1145 -0.0458 0.0387 MUFA: 一価不飽和脂肪酸
オレイン酸割合とオレイン酸含量と香り
抽出した脂質総量 オレイン酸割合(%) 生成する香り?? 脂肪交雑した肉(100g) オレイン酸含量(g/100g肉) 生成する香り脂肪交雑等級が同じでオレイン酸割合の異なる和牛肉の2点比較 54% 51% 3等級 4等級 5等級 脂肪交雑等級 ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ① 人 数 10 5 総 合 評 価 滑 ら か さ 脂 肪 の 和 牛 香 う ま み オレイン酸割合 (%) 滑 ら か さ 脂 肪 の 和 牛 香 う ま み 総 合 評 価 2点比較では和牛香、総合評価など有 意な差ではないが、オレイン酸割合高い 方がよい傾向にある。
平成19年10月の全国肉用牛基金協会報告書のデータ
(「牛肉の美味しさ評価手法に関する指針作りー黒毛和種の脂肪の質を中心に」) 「香りの強さ」→質は特定されていない ・22検体のデータ 調理法は焼肉法平成23年3月の全国肉用牛基金協会報告書のデータ
(「牛肉の美味しさ簡便評価手法の確立に向けて」調査報告書) 調理法は焼肉法MUFAの上下区分での比較結果
H区:58.4%(平均値+1σ)以上 L区:53.2%(平均値-1σ)以下抽出脂肪のヘッドスペースのラクトン類含量と粗脂肪含量,脂肪酸組成との相関
米国の報告の精査1-Dryden and Marchello, J. Anim. Sci. 31, 36-41(1970)
bNine-point hedonic scale, 9 being most desirable, 1 least desirable. 「望ましい、好ましい」
脂質中の脂肪酸割合
判定者の好み、食嗜好 が入る余地あり
和牛肉のおいしさと脂肪酸組成との関係-1
・ロース芯(赤身+交雑脂肪)の理化学分析と官能評価の結果では、和牛香の強さや口触り の滑らかさはオレイン酸割合とは相関しない、あるいは、弱く相関する(R<0.3) 。それらは、 むしろBMS No.や粗脂肪含量とよく相関する(R>0.5) (オレイン酸含量(g/100g肉)でも同様)。 ・オレイン酸割合の差が大きい肉の2点比較では、和牛香の強さ、総合評価、甘い香りの強 さあるいは、「おいしさ」に差がある傾向がみられる。 ・牛肉のフレーバー(味+香り)がオレイン酸割合、MUFA割合に相関するとされた米国の報 告を精査すると、それらにはフレーバーの「desirability」を調べたケースがあり、日本人が和 牛肉に求めている好ましさと異なる可能性もある。 ・香り(和牛香など)を中心としたおいしさはオレイン酸だけではなく、複数の因子によって 影響される可能性が高い。 ・香気成分の生成機構(例えば脂質酸化等)を考えてもオレイン酸のみというより、粗脂肪 含量、BMS No., 複数の脂肪酸の含量等を組み合わせる方がより妥当と考えられる ・オレイン酸をターゲットにするのであれば、大規模な一般消費者の嗜好試験を行い、高オ レイン酸割合(あるいは含量)の和牛肉を好むかどうかを調べるのも一方法。 ・和牛香の生成機構とその和牛肉のおいしさへの寄与についてはさらなる検討の余地があ り、時間をかけて研究する必要がある。平成23 年度問題別研究会 「消費者ニーズに応えるおいしい高付加価値化国産食肉生産」 3)消費者における食肉の「おいしさ」とは 日本女子大学家政学部食物学科 飯田文子 1、はじめにー若年層の調査からみた肉類の消費傾向 1980 年代の飽食の時代を経て、90 年代に若者の食のみだれが、指摘されはじめた。そ れまでの1 汁 3 菜の食形式にとらわれず、夕食に 1 品もののみ、さらには、麺のみ、イン スタントフードのみ、等の食生活の変容が報告(変わる家族・変わる食卓 岩村暢子 2003 年出版他)されはじめたのである。著者も1994 から 2004 年の約 10 年間、大学生および 日本女子大学通信教育の学生、食肉に関する全国規模の調査などを行ってきたので、その 一例からみえる現代の中年層を中心とした消費者層の意識調査、また、実態調査にあたる 官能評価から消費者の求めるものを特に肉類に焦点をあてて考察してみたい。 はじめにどのような料理が好まれるか、都内24 大学 508 名の調査(1997 年)を行った 結果を示した。現在14 年が経過しているので、当時 18 歳から 22 歳であった大学生は、 今は32 歳から 36 歳である。そこで、当時の大学生の意識を振り返ってみたい。表1に、 大学生に予備調査を行い抽出された良く食べる料理・好きな料理名を示す。調査では、こ の中から、良く食べる料理と好きな料理を選んでもらった。
平成23 年度問題別研究会 「消費者ニーズに応えるおいしい高付加価値化国産食肉生産」 3)消費者における食肉の「おいしさ」とは 日本女子大学家政学部食物学科 飯田文子 1、はじめにー若年層の調査からみた肉類の消費傾向 1980 年代の飽食の時代を経て、90 年代に若者の食のみだれが、指摘されはじめた。そ れまでの1 汁 3 菜の食形式にとらわれず、夕食に 1 品もののみ、さらには、麺のみ、イン スタントフードのみ、等の食生活の変容が報告(変わる家族・変わる食卓 岩村暢子 2003 年出版他)されはじめたのである。著者も1994 から 2004 年の約 10 年間、大学生および 日本女子大学通信教育の学生、食肉に関する全国規模の調査などを行ってきたので、その 一例からみえる現代の中年層を中心とした消費者層の意識調査、また、実態調査にあたる 官能評価から消費者の求めるものを特に肉類に焦点をあてて考察してみたい。 はじめにどのような料理が好まれるか、都内24 大学 508 名の調査(1997 年)を行った 結果を示した。現在14 年が経過しているので、当時 18 歳から 22 歳であった大学生は、 今は32 歳から 36 歳である。そこで、当時の大学生の意識を振り返ってみたい。表1に、 大学生に予備調査を行い抽出された良く食べる料理・好きな料理名を示す。調査では、こ の中から、良く食べる料理と好きな料理を選んでもらった。 男女とも、万人に好まれ、良く食べる料理は「カレーライス」、男子学生の好きな料 理は「ステーキ・ハンバーグ」、良く食べる料理は「ラーメン・チャーハン・ピラフ」で あった。女子学生の好きな料理は「グラタン・ドリア」、良く食べる料理は「サンドイ ッチ・スパゲチィ・サラダ」であった。男子学生は「豚肉・牛肉」などの肉類を好む が、女子は「鶏肉・豚肉」が少し入った程度のもので、男女とも良く食べるものは、 炭水化物中心の料理と考えられた。以上より、肉類の消費は、肉そのものは、御馳走 感のある、特別な日の料理で、通常は少量の肉を料理に混ぜて消費するのが主流であ ろうと考えられた。 さらにその中で主菜となる、牛肉・豚肉・鶏肉・魚肉の割合を10 となるように答え てもらうと以下のようになった。 1 年生はやや鶏肉好き、次いで魚、豚肉、牛肉の順であった。学生時代は、給食やお 弁当に用いられやすい、鶏肉に親しみがあるものと推察された。上級生になると鶏肉と 牛肉が並び好まれ、次いで、豚肉、魚となり食経験が豊かになり、牛肉嗜好が増加した
べられる頻度を代表していると考えられた。
2、牛肉のイメージと脂肪交雑に関する価値意識
次に男女302 名による調査を行った。属性は以下のとおりである。
べられる頻度を代表していると考えられた。 2、牛肉のイメージと脂肪交雑に関する価値意識 次に男女302 名による調査を行った。属性は以下のとおりである。 牛肉についてのイメージを調査すると、高級という言葉が最も高い割合で出現する。 牛肉が大好きな人は24%、好きな人が 51%、普通以下が 25%で、牛肉は大多数の人に 好まれる食材であることがわかる。大好きな人が高い項目は、牛肉は「ご馳走」「栄養源で ある」「牛肉は安心して食べられる食材」「奥深い味わいがある」など、牛肉好きが伺える が、普通以下の人が高い項目は、「高くても安全な牛肉買いたい」「安くても調理法でおい しい」「高い牛肉なら他の肉を買う 」であり、牛肉好きとは異なった考え方をしていた。 アンケートによる牛肉の霜降りに対するイメージは、牛肉好きの人は霜降り好きで、「霜 降りはおいしい」「霜降りは高級」「食感がすき」「味が好き」「香りがすき」「うま味が好き」 「くどくない」「安い霜降りがあればもっと食べたい」。 それに対し、普通以下の人は「沢山たべられない」「肥満が心配」「霜降りの少ない牛肉 が食べたい」「おいしい赤身が食べたい」であった。 そこで、次に全国規模の2000 名の調査を行った。霜降り好きは男女では男性、そして 年齢の高い層で好まれることがわかった。赤身好きはまったく逆の結果であった。 (7が大いにそう思う、1がまったく思わない。)
黒毛和種去勢牛 38 頭による官能評価の「総合評価」でも、好まれる脂肪含量には最適 な量があることがわかった。 3、豚肉の脂肪交雑と官能評価結果 豚肉の脂肪交雑と食味の関係では、脂肪交雑No.2 以下、N0.3、N0.4 以上で、「きめ の粗さ」以外で、官能評価値が高値であった。豚肉においては、食感が大切であり、脂肪 が入っている肉ほどやわらかく、高く評価されたと考えられた。 4、鶏肉の官能評価
黒毛和種去勢牛 38 頭による官能評価の「総合評価」でも、好まれる脂肪含量には最適 な量があることがわかった。 3、豚肉の脂肪交雑と官能評価結果 豚肉の脂肪交雑と食味の関係では、脂肪交雑No.2 以下、N0.3、N0.4 以上で、「きめ の粗さ」以外で、官能評価値が高値であった。豚肉においては、食感が大切であり、脂肪 が入っている肉ほどやわらかく、高く評価されたと考えられた。 4、鶏肉の官能評価 5、今後の展望 現在の日本において、肉は従来日本人の伝統文化である魚と同等に好まれ、良く食され ている。中でも牛肉・豚肉・鶏肉はそれぞれ同等に好まれていた。 牛肉は高級なイメージ で、日常というより、特別な日に食される傾向にあり、そのイメージは霜降り和牛からき ているが、多すぎる脂肪交雑は必ずしもそれが消費者ニーズに合致しているとは言い難い。 消費者は、赤身嗜好も4 分の 1 ほどおり、適度な脂肪含量のうま味の強い牛肉が求めら れている。 若年層ほどこの傾向が強いことから、今後ますますこの傾向は強くなっていく と考えられる。 豚肉は、日常良く食べるものとして最もポピュラーであり、市場に出ている肉はほとん どが食味は良かったが、脂肪交雑の入ったやわらかい肉は今後求められていくと推察され
豪州の牛肉産業
オーストラリアの食肉生産者から
見た日本の消費者
豪州食肉家畜生産者事業団 駐日代表 メラニー・ブロック世界の牛肉生産量 –
2010年
アメリカ25% ブラジル20% EU-27 17% 中国 12% インド 6% アルゼンチン 6%オーストラリア
4%
メキシコ4% パキスタン 3% ロシア3%生産量も世界全体の
4%程度
世界の畜牛総飼養頭数 –
2010年
Source: USDA インド31% ブラジル19% 中国11% アメリカ 9% EU-27 9% アルゼンチン 5% コロンビア 3%オーストラリア
3%
メキシコ2% その他8%世界の飼養頭数 に占める割合はわずか
オーストラリア総飼養頭数
QLD= 1,233万頭 NSW= 586万頭 VIC= 385万頭 Tas=65万頭 げん SA=121万頭 NT= 168万頭 WA= 232万頭現在およそ
2750万頭
↑北部に多い ブラーマン種 ←南部に多い英国系種→ Source: USDA世界の牛肉輸出量 -
2010年
ブラジル 23%オーストラリア
18%
アメリカ 14% インド 10% カナダ 7% ニュージーランド 7% ウルグアイ 5% アルゼンチン4% パラグアイ 4% その他 7%牛肉輸出量では
世界第二位
9000トン 12万トン 18万トン
2010年牛肉輸出数量
6万トン36万トン
9万トン牛肉生産はおよそ210万トン
91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11f 13f 15f 0 1 2 3 million tonnes cwt日本向け輸出量
Source: DAFF volume, ABS value, MLA forecasts
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11f 0 100 200 300 400 500 '000 tonnes swt 0 0.5 1 1.5 2 2.5 A$ billion exports value f =予測値
2010年仕向け先内訳
オーストラリア国内
35%
日本
25%
US 13%
韓国
9%
その他
16%
消費者調査
Source: MOF/ALIC 日本で消費される約半分がオージー・ビーフ!
オーストラリア 41% アメリカ 10% 42% その他 7% 日本2010
852,095 tonnesMSA/ EQA
牛肉食味品質プログラム
Source: Synovate consumer online research:
24-29 June 2011; Greater Tokyo; n = 1,192, primary grocery shoppers; females aged 25-64)
MSA
/ EQA牛肉食味品質プログラム
生産から消費までの要素全般を考慮
部位別の調理法
3レベルで格付け
管理栄養士 Dr. Tanaka-paediatrician Dr. Kodama-Uni professor PR&広告 専門家 消費者 リテール 外食 トレード
Yumi Date Mariko Jyo Prof. Tajima Prof.Uenishi Yoko Hamada
Energy& Beauty Brain Long Life
鉄美人 鉄美人
オージー・ビーフ鉄で元気!
3人に1人が鉄不足
女性の
76%以上が「疲れ」を感じている(厚生労働省調べ)
店頭の消費者調査
*
65%=鉄不足が「疲れ」の症状の原因だと知っている
70%=「牛肉に鉄が含まれている」ことを知らない
81.5%=「鉄分豊富と知っていれば、
もっとオージー・ビーフを食べたい」
*回答者数=346名オージー・ビーフ鉄で元気!
鉄で元気
– 販促ツール
鉄で元気
- 鉄美人オーストラリア視察
•2011年10月18日~23日 • オーストラリア産牛肉の主要 ユーザー11社から11名の参加者Inclusion in menu (examples: Fujiya & Sawayaka)
鉄で元気
– 外食
鉄で元気
ありがとう
ございました
鉄で元気
– メディア・食育
栄養と料理(cir:250,000) 体の本(cir:100,000)
県名 頭数 北海道 1891 青森 1217 岩手 5495 宮城 275 秋田 343 福島 72 茨城 85 新潟 82 静岡 21 沖縄 4 品種名 頭数 ホルスタイン種 1,861,496 ジャージー種 13,638 乳用種 5,832 交雑種(肉専用×乳用) 487,947 黒毛和種 1,789,317 褐毛和種 23,394 日本短角種 9,769 無角和種 198 黒毛和種×褐毛和種 1,231 和種間交雑種 1,071 肉専用種 28,612 その他 159 総計 4,222,664 0 100 200 300 400 500 600 カロリー(kcal) 0 20 40 60 80 水分(%) 脂肪(%) 蛋白(%) 水分(%) 脂肪(%) 蛋白質(%) カロリー(kcal) 炭水化物g×4.11は無視 黒毛和種(n=63) 日本短角種(n=33) 表1.飼養頭数(家畜改良センターHP より)
地域資源を活用した特長ある牛肉生産
東北農業研究センター 畜産飼料作領域 渡邊 彰 地域資源としての日本短角種 家畜改良センターのホームページ1)には牛の個体情報識別制度を利用した飼養頭数の情 報が掲載されています(表1)。これまでその他とされていた地方特定品種のデータも平 成 20 年度から掲載されています。これによると平成 23 年度 8 月末において黒毛和種が 1,789,317 頭で日本短角種が 9,769 頭 となっています。乳用種も含めた牛の総数が 4,222,664 頭なので、日本短角種の割合は僅か 0.23%となります。そして、その 68%が北 東北地域で飼養されているという貴重な地域資源です。北東北地域の中山間地域は急傾斜 地に加えて極寒の気象条件であり、ここで昔から飼養され現在に残る本品種は、地域に適 合した特長を有する品種と考えられます。 いっぽう、日本における牛肉消費の歴史は浅く、その販売形態のほとんどがスライス肉 であり、料理も焼肉が主流となっています。脂肪交雑度の高い牛肉は調理によって硬くな ることはなく、この日本の消費形態に合致したものと思われます。日本においては「柔ら かさ=美味しさ」と評価されるため、脂肪交雑程度の高い牛肉ほど高値で取引されていま す。残念ながら日本短角種は配合飼料を多給しても脂肪交雑(筋肉内脂肪含量)が高くな ることは期待できません。高くても 10%前後です(図1)。しかし、「残念ながら」とい う言葉は適当ではないと思います。それは、これまで牛肉の評価をひとつの定規でしか判 定してこなかったことが問題であり、それはあたかも「豚肉」と「鶏肉」を同じ土俵の上 で評価しているようなものではなかったかと感じています。「脂肪交雑の牛肉」と「赤肉 主体の牛肉」(写真1)は取扱い方や調理の仕方、飼養方法なども含めて異なる食肉とし て意識する必要があることを強く感じています。レストラン(イタリア料理)のシェフに 図1.日本短角種の3成分組成 写真1. A5 ランクの黒毛和種牛肉と A2 の短角牛肉 写真2.赤肉で作ったイタリア料理 → ブランド化 国が地域ブランド化を支援してきたこともあり、全国的にも様々なブランドで牛肉が販 売されています。短角牛肉も「いわて短角和牛」「山形村短角牛」などが商標登録されて います。また、いわて純情プレミアム短角牛、盛岡短角牛、いわいずみ(プレミアム)短 角牛などそれぞれの産地で名称をつけて販売が行われています。これらは国産飼料 100% 給与、国産トウモロコシサイレージ主体、スローフードなどを掲げ、それぞれの基準で生 産に取り組んでいます。このような生産者の努力もあって、近年、食関連の雑誌(サライ 2006 年 6 月号2)やダンチュウ 2010 年 11 月号3))などに取り上げられ赤肉の美味しさに 興味を持つ消費者が増えたように感じます。また、2009 年の日本政策金融公庫農林水産事 業によりとりまとめられた情報戦略レポート(No.26)4)によれば、「消費者が魅力を感 じているブランド」或いは「売り上げ拡大のための潜在力を持つブランド」として短角牛 肉が上位にランクされています。食肉研究を担当している我々の所には、地域ブランドと しての食肉の化学的特徴を明らかにしたいという相談が持ち込まれ少々困惑してしまうと ころがあります。牛肉ではと畜後 10 日間以上の熟成期間を経るためにその間の変動が大き く、飼養条件の多少の変更では牛肉の理化学的特性に結びつくような明瞭な関係を導き出 すのが困難な場合が多いからです。 このような状況ですが、昨年度の自給飼料利用研究会で青森県七戸畜産農業協同組合の 澤目幸男氏が有機 JAS 牛肉生産について報告されています5)。認定された牛肉は写真3の ようにして流通出来るところまで至りました6)。東北農業研究センターではこの牛肉につ いて特徴を明らかにする仕事を行いました7)。当初は需要に応じて出荷された部分肉を買 い取り調査することから開始しましたが、表2に示すように月齢が進んでいる割には枝肉 重量が小さいことが伺えます。また、需要と供給のバランスがとれないためにと畜月齢が 進んでしまうことが問題でした。そのため、有機牛肉を流通させるひとつのポイントとし て子牛肉を扱ってくれるレストラン等を開拓することが重要と考えられます。子牛肉が私 たちの健康にも極めて望ましいことは表3から明かです。 表2.有機(候補)牛肉の格付け 月齢 等級 枝重 (kg) ロース面積 (cm2) BMS BCS BFS 歩留 有機 33 A2 342 43 2 5 3 73.1 有機 37 B2 335 35 2 5 4 71.4写真1. A5 ランクの黒毛和種牛肉と A2 の短角牛肉 写真2.赤肉で作ったイタリア料理 → ブランド化 国が地域ブランド化を支援してきたこともあり、全国的にも様々なブランドで牛肉が販 売されています。短角牛肉も「いわて短角和牛」「山形村短角牛」などが商標登録されて います。また、いわて純情プレミアム短角牛、盛岡短角牛、いわいずみ(プレミアム)短 角牛などそれぞれの産地で名称をつけて販売が行われています。これらは国産飼料 100% 給与、国産トウモロコシサイレージ主体、スローフードなどを掲げ、それぞれの基準で生 産に取り組んでいます。このような生産者の努力もあって、近年、食関連の雑誌(サライ 2006 年 6 月号2)やダンチュウ 2010 年 11 月号3))などに取り上げられ赤肉の美味しさに 興味を持つ消費者が増えたように感じます。また、2009 年の日本政策金融公庫農林水産事 業によりとりまとめられた情報戦略レポート(No.26)4)によれば、「消費者が魅力を感 じているブランド」或いは「売り上げ拡大のための潜在力を持つブランド」として短角牛 肉が上位にランクされています。食肉研究を担当している我々の所には、地域ブランドと しての食肉の化学的特徴を明らかにしたいという相談が持ち込まれ少々困惑してしまうと ころがあります。牛肉ではと畜後 10 日間以上の熟成期間を経るためにその間の変動が大き く、飼養条件の多少の変更では牛肉の理化学的特性に結びつくような明瞭な関係を導き出 すのが困難な場合が多いからです。 このような状況ですが、昨年度の自給飼料利用研究会で青森県七戸畜産農業協同組合の 澤目幸男氏が有機 JAS 牛肉生産について報告されています5)。認定された牛肉は写真3の ようにして流通出来るところまで至りました6)。東北農業研究センターではこの牛肉につ いて特徴を明らかにする仕事を行いました7)。当初は需要に応じて出荷された部分肉を買 い取り調査することから開始しましたが、表2に示すように月齢が進んでいる割には枝肉 重量が小さいことが伺えます。また、需要と供給のバランスがとれないためにと畜月齢が 進んでしまうことが問題でした。そのため、有機牛肉を流通させるひとつのポイントとし て子牛肉を扱ってくれるレストラン等を開拓することが重要と考えられます。子牛肉が私 たちの健康にも極めて望ましいことは表3から明かです。 表2.有機(候補)牛肉の格付け 月齢 等級 枝重 (kg) ロース面積 (cm2) BMS BCS BFS 歩留
表3.有機牛肉の化学的特徴 粗飼料多給肥育 有機短角牛 有機子牛肉 水 分(%) 72.8 74.3 78.3 脂 肪(%) 4.6 2.8 0.6 蛋白質(%) 21.1 22.1 19.5 カルニチン(mg/100g) 72.5 85.5 147.6 n6/n3 6.9 2.8 1.9 図3.識別試験と好み 0 2 4 6 放牧 舎飼 (人数) 写真3 流通した有機短角牛肉 国産飼料プロの紹介 日本短角種を用いたプロジェクトではありませんが、現在、国産飼料プロ(H22~H26) において、牛肉の香りについての試験研究を推進しています。対象としているのは熊本県 を中心に飼養されている褐毛和種で、九州・沖縄農業研究センターなどの協力のもとで実 施しています。東北では周年放牧は不可能で、冬期の飼養条件がテーマとなりますが、本 プロジェクトでは周年放牧牛肉の香りの特徴を明らかにしようとするものです。詳細はこ れからの研究によりますが、これまで、図2のクロマトグラムに認められる典型的な違い が認められました。これは以前報告した黒毛和種牛肉と輸入牛肉(オージービーフ)の違 いに類似するものです8)。これらはクロロフィル由来の成分で牛肉の香りに影響すること は知られています。試験場内での官能評価試験においても有意に識別できることが認めら れましたが、好みについては差異は認められませんでした(図3)。この種の香り(パス トラルフレーバー)は日本人には馴染みのない香りで異常と感じられることのないよう注 意する必要があると思われます。牛肉の異常臭として liver-like-flavor が問題となるこ とがありますが、異常臭か特徴かを明確に区別して行く必要があります。 0 2 4 6 8 10 正答 誤答 (人数) 図2.周年放牧と慣行肥育の違い