■アブストラクト
本論文では, 危険なくして保険なし にかかる経済分析を,供給者サイ ドである自動車会社および保険会社の視点から実施する。具体的には,自動 車と保険を同時に購入する(自動車の購入時に保険の購入も行う)消費者,
自動車のみを購入する消費者,すでに自動車を保有していて保険のみを購入 する消費者の 種類が登場する経済を想定した上で, 社の自動車会社およ び 社の保険会社における最適自動車価格および最適保険料水準についての 分析を行う。
そして分析の結果,保険市場における差別化の程度の低下が最適自動車価 格を引き下げるかどうかについては一意的ではなく,留保価格とコストとの 差分の大きさに依存すること,さらには両市場の関連性の存在が,差別化が 低下したにも関わらず最適自動車価格を引き上げるという結論を出現させる ための必要条件となっていることなどを明らかにする。
■キーワード
保険の経済分析,危険と保険,自動車保険
.序
保険制度が存立するための必要条件の つとして 危険 の存在があげら
*平成27年 月25日の日本保険学会九州部会報告による。
/ 平成27年 月28日原稿受領。
危険なくして保険なし の経済分析
大 倉 真 人
れる1)。例えば,自動車運転等にかかる危険の登場は,自動車が発明された 後のことであり,それゆえに自動車保険の登場は,自動車発明後の出来事で ある。また他の例として,自動車免許を取得していない者は,自動車運転等 にかかる危険を有しないことから,自動車保険に加入できないことをあげる ことができる。よって保険は,その対象としての危険の存在を前提とした制 度となっている。このことは,保険論・保険学のテキスト等において 危険 なくして保険なし などの表現で説明されていることからも明らかである2)。
しかしながら他方において,保険をテーマとした経済分析の研究のほとん どは,保険の対象となる危険あるいはその危険を有する付保可能資産の存在 を前提としている。例えば,保険の経済分析の分野において,最も有名かつ 数多く引用等されている研究の つである Rothschild and Stiglitz (1976, p.
630)では, Consider an individual who will have an income of size if he is lucky enough to avoid accident. という表現で付保可能資産について 説明している。しかしながらこの一文以外にこの にかかる説明はなされ ておらず,この付保可能資産の購入等にかかる意思決定についても言及され ていない。よって,経済分析を行う前提として という付保可能資産を 有する個人を考える とされている。このように, 保険の経済分析 に属 する研究のほとんどは,すでに付保可能資産を有し,危険にさらされている 個人等の保険にかかる意思決定問題(どのような保険を購入するか,どの程 度の付保率を選択するかなど)を研究の対象としており,付保可能資産の存 在についてはほとんど議論の対象となっていないのが現状である3)。
危険なくして保険なし の経済分析
1) ここで 必要条件 と述べたのは,危険が存在するからといって保険制度が が存立するとは限らないことを意味している。
2) 例えば,近見他(2006,35ページ)では, リスクなければ,保険なし と 述べられている。また水島(2006, ページ)では, 保険を危険に対する保 障をつくり出す制度と表現することも可能である という表現にて,保険が危 険の存在を前提としていることを述べている。
3) つの例外として,付保資産を有しない状態での保険契約である 空 契約 にかかる議論を行った高尾(1998,第 章)があげられる。
しかしながら,現実においては,付保可能資産を購入すると同時に保険を 購入するケースも少なくない。一例として,自動車を購入する際に自動車そ のものと同時に自動車保険を購入するケースがあげられる4)。このケースを 個人の視点から述べれば, 自動車 と 保険 という 種類の財を同時購 入する状況となり,また自動車会社(保険会社)の立場に立脚すれば,ライ バル自動車会社(保険会社)だけでなく,消費者が同時購入することを通じ て関係が生じる保険会社(自動車会社)の意思決定についても勘案しなけれ ばならないことになる。また,別の消費者は自動車のみの購入を考えている かもしれず,さらに別の消費者はすでに自動車を保有している等の理由から,
保険のみの購入を考えているかもしれない。以上より,付保可能資産と保険 を同時に考えることは,異業種市場の存在のみならず,異なるタイプの消費 者の存在についても考慮する必要があると言えるが,このような状況を想定 した保険の経済分析については,ほとんどなされていないのが実状である。
なお, つの例外として Okura (2012)があげられる。Okura (2012)で は,消費者が付保可能資産と保険を同時購入するケースについての経済分析 が行われている。その意味においては,付保可能資産の存在を前提としない 研究であると言えるが,Okura (2012)は,消費者サイドの意思決定問題 需要者サイドの問題 について考察したものであり,自動車会社および保険 会社の意思決定を明示的に取り扱ったものではない。よって例えば,自動車 市場と保険市場との関連性の存在が,自動車価格や保険料水準等にどのよう な影響を与えるのかについて明らかにするものとなっていない。
そこで本研究では,自動車会社および保険会社サイドの意思決定問題 供 給者サイドの問題 について検討していくことを主たる目的とする。別の言 い方をすれば,本研究は, 危険なくして保険なし にかかる経済分析を供
4) これにかかる つの傍証として,2014年 月末現在,損害保険代理店数の約 半数に相当する52.6%が自動車関連業者(自動車販売店,自動車整備工場)で あることをあげることができる( ファクトブック2014日本の損害保険 (68ペ ージ))。
給者サイドから実施するものであると言える。
なお本論文の構成について述べれば,以下のようになる。第 章では,自 動車会社および保険会社が登場する経済を想定したモデルの構築を行う。第 章では,前章において構築されたモデルを解くことで,最適自動車価格お よび最適保険料水準を導出する。第 章では,比較静学を行うことを通じて,
最適自動車価格および最適保険料水準の性質等について明らかにする。第 章は結論部であり,本論文のまとめおよび今後の課題等についての叙述を行 う。
.モデル
付保可能資産を販売している会社および保険会社がそれぞれ 社存在する 経済を考える。そして以下では,付保可能資産の一例として自動車について 考え,それを販売している会社として自動車会社を想定する。そして保険会 社が,自動車保有者に対して自動車保険(以下 保険 と略称)を販売する 状況を考える。さらに自動車市場および保険市場に存在する 社をそれぞれ A社およびB社と呼ぶことにする。よってモデルでは, 自動車会社A 自 動車会社B 保険会社A 保険会社B の計 つの会社が登場することに なる。
自動車会社および保険会社が設定する単位あたり価格および保険料を
> 0
および
> 0
と表記する。ただし下付きAは自動車会社の,下付き Iは保険会社の変数であることを示し,i ∈ A, B
および ∈ A, B
とす る。また,単位あたりコストについては,両自動車会社および両保険会社に おいて同一であると仮定した上で,c
> 0
およびc
> 0
と表記する。他方,需要者である消費者については,自動車と保険を同時に購入する
(自動車の購入時に保険の購入も行う)消費者,自動車のみを購入する消費 者,すでに自動車を保有していて保険のみを購入する消費者の 種類が存在 しているとする。そして,自動車と保険を同時購入する消費者およびそうで ない消費者間での自動車価格および保険料水準の差別化はできないものと仮
危険なくして保険なし の経済分析
定する。
このとき,自動車会社 が直面している自動車と保険を同時購入する消費 者の需要関数は以下のとおりであるとする。
=α
−
− θ
−
⑴
=α
−
−θ
−
⑵ ただし,⑴式および⑵式における各変数の定義については,以下のとおりで ある。
:自動車と保険を同時購入する消費者における自動車会社 が販売す る自動車に対する需要量α
:自動車と保険を同時購入する消費者の留保価格θ
: 自動車市場における差別化の程度。ただしθ
∈ 0, 1
であり,θ
が 小さいときほど両社の自動車の差別化の程度が高いことを示す。まθ
= 0
のとき両社の自動車は独立となり,逆にθ
1
だと両社の自 動車は(ほぼ)完全代替となる。
: ある任意の保険会社が付した保険料水準
このとき,自動車と保険を同時購入する消費者に対しては,保険料水準が 上昇すればするほど,他の条件を一定にして,高い自動車価格を付しにくく なる。実際,⑴式および⑵式の右辺末尾についている
は,自動車購入時 に保険が同時購入されることを通じて,支払う保険料水準に相当する分だけ 留保価格が低下することを意味している。そして,⑴式および⑵式を
および
について解くことで,以下のよ うな逆需要関数(自動車と保険を同時購入する消費者の逆需要関数)が得ら れる(ただしj ∈ A, B , j ≠ i
)5)。5) 逆需要関数の導出については,例えば酒井(1990,pp. 234‑235)などを参照。
= 1 1 + θ
α
− 1 1 − θ
+ θ
1 − θ
− 1 1 + θ
⑶
それに対して,自動車会社 が直面している自動車のみを購入する消費者 の需要関数は以下のとおりであるとする。
= α
−
− θ
⑷
= α
−
− θ
⑸ただし,⑷式および⑸式における各変数の定義については,以下のとおり である。
: 自動車のみを購入する消費者における自動車会社 が販売する自動 車に対する需要量α
: 自動車のみを購入する消費者の留保価格そして⑷式および⑸式を
および
について解くことで,以下のような 逆需要関数(自動車のみを購入する消費者の逆需要関数)が得られる。
= 1 1 + θ
α
− 1 1 − θ
+ θ
1 − θ
⑹さらに保険会社 が直面している逆需要関数について見ていく。自動車会 社のときと同様の計算手続きを行うことにより,自動車と保険を同時購入す る 消 費 者 の 逆 需 要 関 数 を 以 下 の よ う に 示 す こ と が で き る( た だ し
l ∈ A, B , l ≠
)。
= 1 1 + θ
α
− 1 1 − θ
+ θ
1−θ
− 1 1 + θ
⑺
また,保険のみを購入する消費者の逆需要関数についても,同様に,以下 のように書くことができる。
危険なくして保険なし の経済分析
= 1 1 + θ
α
− 1 1 − θ
+ θ
1 − θ
⑻ただし,⑺式および⑻式における各変数の定義については,以下のとおりで ある。
:自動車と保険を同時購入する消費者における保険会社
が販売する 保険に対する需要量
: 保険のみを購入する消費者における保険会社
が販売する保険に対 する需要量α
: 保険のみを購入する消費者の留保価格θ
: 保険市場における差別化の程度。ただしθ
∈ 0 , 1
であり,θ
が小 さいときほど両社の保険の差別化の程度が高いことを示す。またθ
= 0
のとき両社の保険は独立となり,逆にθ
1
だと両社の保険 は(ほぼ)完全代替となる。
: ある任意の自動車会社が付した自動車価格なお各タイプ消費者にかかる留保価格の大きさについて,
α
> α
, α
を 仮定する。この仮定は,自動車または保険を単独で購入する消費者よりも両 方を同時購入する消費者の方が高い留保価格を有していることを示している。さらに,
α
> c
およびα
> c
を仮定し,これらの仮定よりα
> c
, c
と いう大小関係を得る。そして上記の設定を用いることで,自動車会社および保険会社の利潤関数
(
Π
およびΠ
)を以下のように示すことができる。Π
=
− c
+
=
− c
α 1 +
+ θ α
− 2
1 − θ
+ 2θ
1 − θ
− 1 1 + θ
⑼Π
=
− c
+
=
− c
α 1 +
+ θ α
− 2
1 − θ
+ 2θ
1 − θ
− 1 1 + θ
⑽.最適自動車価格および最適保険料水準の導出
両自動車会社および両保険会社は自身の利潤を最大にすべく,自動車価格 または保険料水準を決定することになる。最適自動車価格および最適保険料 水準を導出すべく, 階条件を求めれば,
∂Π
∂
= α
+α
1+θ
− 4
1−θ
+ 2c
1−θ
+ 2θ
1−θ
− 1 1+θ
=0
⑾∂Π
∂
= α
+α
1+θ
− 4
1−θ
+ 2c
1−θ
+ 2θ
1−θ
− 1 1+θ
=0
⑿となる6)。ただしアスタリスク(*)はそれが均衡値であることを示している。
本モデルにおいて,両自動車会社および両保険会社は同一であることから,
対 称 性 よ り,
≡
=
=
お よ び
≡
=
=
と な る。この対称性を用いた上で,⑾式および⑿式を書き換えると以下のようになる。
∂Π
∂
= α
+ α
1 + θ
− 2 2 − θ
1 − θ
+ 2c
1 − θ
− 1
1 + θ
= 0
⒀∂Π
∂
= α
+ α
1 + θ
− 2 2 − θ
1 − θ
+ 2c
1 − θ
− 1
1 + θ
= 0
⒁そして,⒀式および⒁式を解くことで,以下の最適自動車価格および最適保 険料水準が得られる。
危険なくして保険なし の経済分析
6)
p
およびp
にかかる 階条件は常に満たされている。
= 1−θ
3−θ
α
+22−θ
α
−1−θ
α
−2c
+42−θ
c
15−7θ
+θ
+3θ
θ
⒂
= 1−θ
3−θ
α
+22−θ
α
−1−θ
α
−2c
+42−θ
c
15−7θ
+θ
+3θ
θ
⒃ このとき,θ
, θ
< 1
であることから,⒂式および⒃式の分母は常に正と なる。また分子についても各種α
およびc
にかかる大小関係の仮定より常 に正となることが確認できる。よって,
> 0
および
> 0
の実現が保証 されることになる。なお以下では,表記の単純化のため,⒂式および⒃式の 分 母 部 分 をΩ
と 表 記 す る こ と に す る( よ っ てΩ ≡ 15 − 7 θ
+ θ
+
3θ
θ
> 0
とする)。.比較静学
本章では,前章において導出した最適自動車価格および最適保険料水準の 性質を明らかにすべく,比較静学を実施する。具体的には,本モデルには全 部で つの外生変数(
α
,α
,α
,c
,c
,θ
,θ
)が存在しているが,こ れら各外生変数の大きさが変化した場合における最適自動車価格および最適 保険料水準の変化について見ていくことにする。ただしα
とα
,c
とc
,θ
とθ
については,同一のロジックにて説明可能であることから,一括し て検討していくことにする。⑴
α
:∂
∂α
= 1 − θ
3 − θ
Ω > 0
⒄∂
∂α
= 3 − θ
1 − θ
Ω > 0
⒅α
の上昇は,最適自動車価格および最適保険料水準をともに上昇させる 効果がある。ただしその上昇効果の大きさは同一ではなく,どちらの方がよ り大きく変化するかについては,各市場における差別化の程度の大小関係よ り決定する。具体的には,θ
=
θ
⇒ ∂
∂α
=
∂
∂α
となる。このこ とは,より差別化された市場の方が,α
の変化に伴う最適自動車価格また は最適保険料水準の変化の程度が大きいことを示している。⑵
α
およびα
:∂
∂α
= 2 1 − θ
2 − θ
Ω >0
⒆∂
∂α
= − 1 − θ
1 − θ
Ω < 0
⒇∂
∂α
= − 1 − θ
1 − θ
Ω < 0
∂
∂α
= 2 2 − θ
1 − θ
Ω > 0
α
の上昇は,最適自動車価格を引き上げる反面,最適保険料水準を引き 下げる効果を持つ。このことは,保険と無関係である自動車のみを購入する 消費者の留保価格の変化が,最適保険料水準に影響を与えることを意味して いる。これは,自動車と保険を同時購入する消費者と自動車のみを購入する 消費者との間での価格差別ができないことから,自動車のみを購入する消費 者の留保価格の変化が,自動車と保険とを同時購入する消費者が直面する最 適自動車価格の変化に直結し,そしてこの変化が最適保険料水準の変化につ ながることにより生じたものである。なお本説明はα
の変化についてのも危険なくして保険なし の経済分析
のだが,
α
のケースについても,同様に説明することができる。⑶
c
およびc
:∂
∂c
= 4 2 − θ
Ω > 0
∂
∂c
= − 21−θ
Ω < 0
∂
∂c
= − 2 1 − θ
Ω < 0
∂
∂c
= 4 2 − θ
Ω > 0
c
の上昇は,最適自動車価格を引き上げる反面,最適保険料水準を下落 させる効果を持つ。これは,自動車コストの上昇による最適自動車価格の上 昇が,最適保険料水準の下落を引き起こすと解釈できる。そしてこのような 効果は,自動車価格と保険料水準との間において戦略的代替関係が存在する ために生じている7)。なお本説明はc
の変化についてのものだが,c
のケー スについても,同様に説明することができる。(4)
θ
およびθ
:∂
∂θ
=− 42−θ
3−θ
α
+22−θ
α
−1−θ
α
−7−3θ
c
−2c
Ω
7) このような戦略的代替関係の存在については,式⒀および式⒁を
p
およびp
について解いたときにおけるp
およびp
の係数が負値となることから 確認可能である。∂
∂θ
= 21−θ
3−θ
α
+22−θ
α
−1−θ
α
−7−3θ
c
−2c
Ω
∂
∂θ
= 21−θ
3−θ
α
+22−θ
α
−1−θ
α
−7−3θ
c
−2c
Ω
∂
∂θ
=− 42−θ
3−θ
α
+22−θ
α
−1−θ
α
−7−3θ
c
−2c
Ω
θ
の上昇が,最適自動車価格および最適保険料水準に与える影響について は一意的ではなく,留保価格である各種α
と単位当たりコストである各種c
との差分の大小に依存して決まる。より具体的には,両者の差分が大きいと き(α
とc
との差が大きいとき)には,∂
∂θ
< 0
および∂
∂θ
> 0
と なり,逆に両者の差分が小さいとき(α
とc
との差が小さいとき)には,∂
∂θ
> 0
および∂
∂θ
< 0
となる。また, 式および 式の右辺分子 の中カッコ内は同一であることから,∂
∂θ
と∂
∂θ
の符号は必ず逆 となる。換言すれば,自動車市場における差別化の程度の変化は,一方を引 き上げ,もう一方を引き下げる効果があると言える。さらに比較の意味で,自動車市場と保険市場との関連性を考えない(通常 のベルトラン)モデルについて考えてみる。⒀式を
について解くと,
= 1 − θ
α
+ α
−
+ 2c
2 2 − θ
が得られ, 式より,
∂
∂θ
= − α
+ α
−
− 2c
+ 2 − θ
1 − θ
∂
∂θ
2 2 − θ
危険なくして保険なし の経済分析
が導出できる。そして,両市場が独立していることから,自動車市場での差 別化の程度は最適保険料水準に影響を与えない。よって,
∂
∂θ
= 0
とな る。そしてこの∂
∂θ
= 0
を 式に代入すると,∂
∂θ
= − α
+ α
−
− 2c
2 2 − θ
となるが, 式は必ず負値となる。換言すれば,自動車市場と保険市場との 関連性を考えない(通常のベルトラン)モデルでは,留保価格とコストの差 分とは無関係に
∂
∂θ
< 0
のみが出現するといえ,これより,両市場の関 連性の存在が,もう つの結論である∂
∂θ
> 0
の出現のための必要条件 となっていることが分かる。なおこれらの説明はθ
の変化に関連してのも のだが,θ
のケースについても,同様に説明することができる。.結
本論文では, 危険なくして保険なし にかかる経済分析を,供給者サイ ドである自動車会社および保険会社の視点から実施した。具体的には,自動 車と保険を同時に購入する(自動車の購入時に保険の購入も行う)消費者,
自動車のみを購入する消費者,すでに自動車を保有していて保険のみを購入 する消費者の 種類が登場する経済を想定した上で, 社の自動車会社およ び 社の保険会社における最適自動車価格および最適保険料水準についての 分析を行った。
また,比較静学を行うことで,自動車市場と保険市場との関連性の存在が,
最適自動車価格および最適保険料水準にどのような影響を与えるのかについ ての考察を行った。考察の結果,保険市場における差別化の程度の低下が最 適自動車価格を引き下げるかどうかについては一意的ではなく,留保価格と コストとの差分の大きさに依存すること,さらには両市場の関連性の存在が,
差別化が低下したにも関わらず最適自動車価格を引き上げるという結論を出 現させるための必要条件となっていることなどを明らかにした。
このように本研究は,現実において少なからず見られる付保可能資産と保 険を同時購入する場合についての検討を行ったという意味において,少なく ない意義・貢献があると評価できる。しかしながら同時に,本研究で構築し たモデルは,いくつかの点において単純化されており,それゆえに,これら の点をどのように拡張・一般化していくかが今後における重要な課題となる。
例えば,本論文モデルでは,自動車会社および保険会社を同一であると仮定 したが,コストなどの面において非対称な自動車会社および保険会社が存在 するモデルへの拡張が考えられる。あるいは,本論文では,自動車会社およ び保険会社が 社ずつ存在するモデルを用いたが,自動車会社および保険会 社がより多数存在する状況を想定することも考えられる。さらには,自動車 会社および保険会社の新規参入(あるいは新規参入の可能性)をモデルに組 み込むことも検討に値するものと思われる。
上で述べた拡張・一般化の可能性は,今後の課題である。そしてこのよう なモデルの拡張・一般化にかかる作業は,付保可能資産と保険を同時購入す るという現実に散見される状況の解明に少なくない貢献を与えるものと期待 される。
(筆者は同志社女子大学准教授)
参考文献
酒井泰弘(1990) 寡占と情報の理論 東洋経済新報社。
高尾厚(1998) 保険とオプション デリバティブの一原型 千倉書房。
近見正彦・吉澤卓哉・高尾厚・甘利公人・久保英也(2006) 新・保険学 有斐閣。
日本損害保険協会 ファクトブック2014日本の損害保険 。 水島一也(2006) 現代保険経済[第 版] 千倉書房。
Okura, Mahito (2012) “An Economic Model of Simultaneous Purchasing of Both an Insurable Asset and Insurance Coverage, ”
, 3(2), pp. 17‑20.
Rothschild, Michael and Stiglitz, Joseph E. ( 1976 ) “ Equilibrium in Competitive Insurance Markets : An Essay on the Economics of Imperfect Information, ”
, 90(4), pp. 629‑650.
危険なくして保険なし の経済分析