• 検索結果がありません。

算数・数学のよさを感得させる指導

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "算数・数学のよさを感得させる指導"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

算数・数学のよさを感得させる指導

平 岡 忠

      1。算数・数学のよさとその感得  (1)算数・数学教育の目標からみて

 算数・数学教育は,主として数量や図形を対象にした学習指導を通して,児童・生徒の人間形成の一翼を 荷っているわけであるが,これをさらに細かくいえば,次のような目標の達成を目指して行っているという ことができる。

  ①実用・有用的な目標(Practicai aims,Utilitarian aims)

  ②訓練・陶治的な目標(Disciplinary aims)

  ③人文・教養的な目標(Cultural a・irns)

 つまり,これらの①,②,③の目標の全体を総合して,児童・生徒の人格・人間形成的な目標を達成しよ うとしているわけである。

 上の①は,児童・生徒に数量や図形についての基礎的・基本的な知識や技能を習得させ,それらを以後の 学習に活用したり身の周りの日常の生活に有効に役立てていくようにしょうということである。

 また,②は,算数・数学の学習を,児童・生徒が学習対象や日常の事象について考えたり判断したり表現 したりして処理したりしていく見方・考え方や能力や方法・態度などの養成や訓練に役立てていくというこ とである。

 そして,③は,児童・生徒に算数や数学が広く人類の文化や社会の進歩・発展に貢献しているという意 義や,算数・数学の重要性・有用性・便利さe素晴らしさe美しさなどのよさを感得させ,①や②の目標と 共に児童・生徒の人間形成に大いに役立てていくようにしょうということである。

 算数・数学のよさは,①や②の目標にも当然かかわっているが,とりわけ,③の目標に関連が深いといえ

よう。

 この算数・数学のよさについては,これまでの算数・数学教育においても古くからいわれてきていること である。例えば,第二次世界大戦後,我が国の立場から本格的に取り組んで作った最初の学習指導要領とし ての昭和26年(1951)の『小学校学習指導要領算数科編(試案)』では,算数科の一般目標にかかわって

「算数は,その処理の性格が科学的であり,技術面であり,能率的である。また,この性格を,こどもたち        (1)

      と述べている。そして,算数のCt社会的目標 の中では,「用 に明らかにすることがたいせつである。」

語や記号を用いて正しく考えたりまちがいなく他人に伝えたりする」②とか「算数は,数量関係をいっそう 正確に,気楽に,能率のあがるように,しかも的確に考察処理するのに有用である」(3)などと算数のよさを 具体的に示していたり,tt数学的目標 としても「数学的な内容についての理解を伸ばし,これを用いて数 量関係を考察または処理する能力を伸ばすとともに,さらに,数量関係をいっそう手ぎわよく処理しようと        (4)

して,くふうする傾向を伸ばす」

      として,算数のよさを生かしていく態度の育成まで強調している。

 このように,算数や数学のよさについては,算数・数学教育では以前からいわれてきていることであるが,

その実態は必ずしもよいとはいえないようである。例えば,算数・数学についての国際教育調査などによる

と,我が国の子供たちは算数や数学の計算などは比較的よくできるが,算数や数学が多くのよさをもってい

(2)

て社会や生活面さらには人生の生き方などにもかかわって重要なものであるという,算数や数学に対する意 識や態度はよいとはいえない結果になっている(5)。子供たちにとって,算数や数学はテストのためにとか上 級学校への入学試験のために勉強するものであるというような認識でいる者が多いとしたら,淋しいことで あり,これからの算数・数学教育を考えていくうえで,じゅうぶん心していかなければならない。

 ところで,21世紀を指向した教育の基準の改善が,教育課程審議会の「答申」を軸に進められることにな った。その答申では,情報化・国際化などの社会の変化やそれに伴う児童・生徒の生活や意識の変容に配慮 しながら,これからの教育のねらいをいわゆる4っの柱として示したが,その第1の柱として「豊かな心を もち,たくましく生きる人間の育成を図ること」を,そして第2の柱として「自ら学ぶ意欲と社会の変化に 主体的に対応できる能力の育成を重視すること」を掲げている。この第1のねらいは㍉巳・の教育 を主張し ているが,その中でド填理を求める心や美しいものや崇高なものに感動する心を育てる ことを強調してい る。また,第2のねらいでは,u思考力・判断力・表現力などの能力の育成を学校教育の基本に据え,特に 新たな発想を生み出すもとになる論理的な思考力と想像力・直観力などを重視するとともに,科学技術の進 歩や情報化の進展に対応するために必要な基礎的な能力の育成にも留意しなければならないとし,また,自 ら学ぶ目標を定め,何をどのように学ぶかという主体的な学習の仕方を身に付けさせ,その際,自ら学ぶ意 欲を育て,活動や学習への適切な動機を与え,学ぶことの楽しさや成就感を体得させるようにする ことな

どを強調している。

 そして,この「答申」のねらいを受けて,算数・数学科では,改善の基本方針の中で基本的な概念及び原 理・法則の理解と基礎的な技能の習熟を図るとともに,その過程を通して,それを十分に活用できるように

し,事象の考察に有用であることが分かるようにする とか t数量的な考察処理の簡潔さ・明瞭さ・的確さ などの良さが分かるようにし,算数・数学を意欲的に学習しようとする態度を育てる ことを重視していく ようにしている。この後者は特に算数・数学のよさの強調に直接しており,簡潔さ・明瞭さ・的確さなどとい ったよさの様相(視点)を示していることとよさが算数・数学の学習の意欲の喚起に密接にかかわっている ことを示しているということに着目したい。

 これらのことから,算数科や数学科においても,目標の中でよさの感得のことを表現するようにな った。つまり,算数科の目標の中では「数理的な処理のよさが分かり,進んで生活に生かそうとする態度を 育てる」とし,また,中学校数学科の目標の中でも陣象を数理的に考察する能力を高めるとともに数学的な 見方や考え方のよさを知り,それらを進んで活用する態度を育てる」とよさを折り込むようになった。

 今回の算数科や数学科の改訂では,指導内容面にかかわる改訂はそれほど多くは無かったが,見通し・見 積りやよさや活用,さらには学ぶ意欲や楽しさなどの強調といった,情意面の育成にかかわることとか指導の ねらいや指導の方法に関連することの重視が多くなっているというところにも特色がみられる。

 この算数・数学教育においてのよさの感得の重視に関することは,最近は,外国においても,そのような 傾向を見ることができる。例えば,1986年に数学教育国際委員会のクウェート・セミナーでも,これから の数学教育に関して,「すべての人からの要求が増大してきているのは,より一般化された数学的概念やア        (6)

      といっており,またアメリカの全国数学教師協議会(NCTM)の イデアのよさを理解することである」

「学校数学カリキュラムと評価スタンダードの作業案」の中でも,数学教育の目標を5つ挙げている中の4 番目に「数学を評価することを学ぶこと」(7)de入れていたり,イギリスの文部省がカリキュラム資料の中で10個 の数学教育の目標を示した中の4番目に「数学の素晴らしさに気づくこと」(8)を挙げている。

 ② 算tw ・数学のよさ

 算数・数学のよさについては,例えば(1)で前述したように,昭和26年の学習指導要領の中ではtt正しく考

(3)

えたり間違いなく伝えたりする とか t正確に,気楽に,能率のあがるように,しかも的確に考察処理する のに有用である などいっており,また今回の「答申」の中でも 数理的な考案処理の簡潔さ・明瞭さ・的 確さなどの良さ といっている。

 では,算数e一数学のよさというものをどのようにとらえたらよいであろうか。

 まず,上述のことから考えると,算数・数学のよさとみられるものは,算数科・数学科の目標はもちろん だが,また算数や数学の特質と密接にかかわっていると考えられる。もちろん,教科としての算数や数学の 特質は,これらの背景となっている学問としての数学の特質からの影響を大きく受けているわけである。し かし,このような数学の特質といっても,それらの特質は周囲の者からいっでも好意的に受け取られている とは限らない。

 例えば,数学の特質からくる抽象性,形式性などにより,数量化して正確を期したり論理的であるなどと いう性格は,曖昧でなく明瞭で的確になるので,コミュニケーションや取り扱いにも都合がよく便利である という見方で好意的に受け取られることが多いが,中には,本質的な筋だけであるから殺風景で冷たく味気 ないなどと否定的に受け取る者もいる。

 算数・数学教育の立場からは,上述のような否定的な受け止め方をする者をできるだけ少くして,算数・

数学のもっている多くのよさに気付かせ,算数・数学に好意や親しみをもたせるようにしていかなければなら ないであろう。

 では,算数や数学のよさというものをどのようにとらえたらよいであろうか。また,そのような算数・数 学のよさとしてどんなものを挙げることができるだろうか。

 算数や数学のよさというからには,算数科や数学科の目標の教育的価値追求という観点からみて,児童や 生徒の人間形成とか学習活動場面や生活面で何らかの視点からプラスになるものでなければならない。つま り,そのような視点に立って,みたり,考えたり,扱ったりして考案処理していくことによって,思考が節約 できたり,労力の経済が図れたり,精神が安定しすっきりしたりするようになるものであるということであ る。すると,それらの多くは,前の(1)の算数・数学教育の目標で述べたいくつかの様相としての目標とか,

数学の主要な特質やそれから附随してくる価値・特質などに関係するものといえるであろう。

 したがって,算数・数学のよさとしては,児童や生徒が学習場面や生活場面において,事象や対象につい て数理的に考察したり処理したり価値追求したりしていくときに関連してみられる,例えば,次のようなも のを挙げることができるであろう。

  ・簡潔さ(簡潔性),明瞭さ(明瞭性),的確さ(的確性),正確さ(正確性),精密さ(精密性)

  ・合理性,合目的性,

  ・能率さ(能率性),効率性,経済性   ・手際よさ,巧緻性

  ・美しさ(審美性)

  ・実用性,有用さ(有用性),応用性   ・整合性,一貫性

  ・一般性,総合性,発展性

  ・柔軟さ(柔軟性),自由性 など。

 以上は,例として挙げてみたものであるが,こういつた算数・数学のよさはそれらが別個に独立したもの

になっているのではなく,互いに関連し合って一中には極めて密接に関連し合って一いるわけである。そし

て,これらは,事象や対象を数理的面から考察したり処理したりしていくときの目的や場面や方法などによ

(4)

っても違った様相として現われることがある。つまり,その時の算数や数学のよさというものをどんな角度 や視点からみたりとらえようとしているかということによることになる。

 そして,このような算数・数学のよさは,概念・原理・法則とか用語・記号などの意味やはたらきなどに 関連してとらえることもでき,計算・測定や実験・操作や作図などの技能に関連して見いだすこともあり,

概数・概量・概形・概算などのおよその考えとか位取りの考え・単位の考え・単位当たりの考え,関数の考 えとか,統合的な見方・発展的な見方などのアィデァや見方・考え方に関連して見いだされることもあり,

また見通しや筋道立てた考え・説明や確認・証明や発見などの推論や証明・論理的思考などに関したものの 中からも,さらには記号化や図表化・図式化や分類整理や分析・総合などの方法と関連して見られるよさな どといろいろあろう。つまり,算数・数学のよさといっても,知識,技能やアィデァや見方・考え方に関連 して,さらには方法に関連した中にも種々の姿でというように見いだせるので,各領域の内容についての 学習場面や生活場面で,多様な視点から具体的な内容に即してとらえるようにすることが大事になる。

      2.算数・数学のよさを感得させる指導の意義

 算数・数学教育では,そのよさを児童・生徒に感得させることを重視しているので,そのようなよさの指 導の意義を考えてみたい。

 (1)自ら学ぶ意欲を喚起する。

 児童・生徒が算数・数学のよさに気付き関心をもち,さらにそのよさが感得できるようになることは,児 童や生徒が自分から算数や数学を積極的に学習しようとする意欲を喚起したり高揚したりするのに効果があ る。つまり,算数や数学が,感覚的なものを概念化して,曖昧なことをはっきりさせ,目的に照らしてぴっ たりさせ,さらには,本質的なことを簡潔かっ明瞭にとらえたり表したりすることによって,ものごとの考 察や処理がしゃすくなるということや,学習場面ばかりでなく,生活場面においても 一大きくいえば人生 の生き方にもかかわって一種々の面に算数や数学が活用されていることが分かることにより,児童e生徒に 算数・数学は大事な素晴らしい役立つものだという認識ができ,算数・数学を自ら積極的に学習していかな ければならないという意欲を喚起し高揚させる大切な要因になる。

 (2)学習内容をよりょく理解させる。

 学習は既習の事項や経験を駆使・活用して,新しい事柄を獲得していく過程である。そのとき,未習の事 柄を獲i得しようと挑戦していくことによって,その児童や生徒の経験に変容がみられるとき,その変容の様 相の中で重要なものは,学習した事柄を理解し身に付けることである。

 しかし,一撃に学習して分かるといっても,その分かり方や段階にはいろいろある。その事柄を聞いて知 ったとか見て知ったような単に知ったという段階から,その事柄の性質とかその事柄と他の事柄との関連な どが分かった,その事柄を他の事柄との関係から位置づけられるように分かる段階(この段階が一般に理解 の段階とよばれている)がある。さらによく分かるというのは,その事柄の本質がとらえられその事柄のよ さや価値が分かりそれを必要な場面で自由に使いこなせるように分かったとき,本当によく分かったとい えるわけである。つまり,聞いたり。知ったり(hear,know)から理解して(Understand),さらには よさや価値が鑑賞できる(appreciate)ようにまで分かるようになるということである。

 このように,あることについて,そのよさが感得できるということは,そのことについて本当によく分か

るようになるということである。

(5)

 (3)算数・数学を自ら創る気持ちを体験させる。

 算数・数学の真の学習は,児童・生徒が教師から教授される事実をただ記憶して覚えていくということで はない。それは,児童や生徒に自ら算数を創っていくという気持ちを味わせて体得させること,言い換えれ ば,彼らに算数・数学についてその創造的な学習活動をさせ,小さな創造者としての体験をもたせるという

ことである。

 小さな数による計算の考え方や方法が,数が大きくなっても同じように使えることを体験したり,かけ算 の九々表を作っていく過程や,与えられた数列の並び方から,面白い綺麗なきまりを発見したり,式で表 すことによって,正確かつ一般的に表現できるということや,その式から多くそのことをよみとれることに 気付いたりすることの体験などは,まさに小さな創造者としての素晴らしい体験といえるであろう。

 こうした事象についての創造的な考察処理には,アイデアをはたらかせたりして手際よく綺麗にまとめて いくことが大事である。創造者のまとめたものは,たとえ無意識的であったとしても,それが結果として手 際よく美しくなっていることが多いものである。ボアンカレ(H.Poincar旬は「数学者は,その方法,な らびにその結果の優美であるということを非常に重要視するのであるが,これは単なる物ずきから来るので はない。解に於て,また証明に於いて,吾々に優美の感を起さしめるのは,はたして何によるのであろうか。

それは異なった部分の間の調和,対称,いみじき均斎,つづめて云えば秩序をもたらし統一を与え,したが ってまた細目をも,全体をも,ともに同時に明瞭に観取し理解することを得しめるもの,かかるものはすべ て優美の感を起さしめるものである。しかもかかるものこそ,また実にその解乃至方法を非常に産出力大な るものたらしめるものにほかならない。」(9)といっている。このことからも分かるように,ものごとの考察 や処理をしていく場合には,目的に合った形で,できるだけ手際よく美しくまとめていくというよさに気付 かせるように指導していくことが大事である。

 (4)豊かな人間性の育成sとりわけ豊かな心を育成する。

 算数・数学は,数量や図形についての学習を通して,児童や生徒の認知面や技能面ばかりでなく,情意面 の育成や伸長も目指していることは,前に述べた通りである。つまり,算数・数学の学習を通して,知・情

・意の調和のとれた人間形成を期しているわけである。

 児童・生徒の豊かな人間性を育てるには,彼らの真偽,善悪,美醜,喜怒,哀楽などに対する感受性や,

自ら考えて行動や判断ができる主体性,他人を思い他の人の立場になって考えられる共感性,さらには友達 や周囲の者と仲よく協調していける協同性などを育成し伸長していくことが大事になる。

 児童や生徒たちが,毎Nの算数や数学の学習を通して,そのよさを感得し,そういったよさを種々の場面 にできるだけ生かし発現させていけるようにすることは,彼らの上述した豊かな人間性の育成,とりわけ情 意面の豊かな心の育成に役立っことが極めて大きいわけである。

 以上,算数・数学のよさを感得させる指導の意義について述べてきたが,これらのととから察知されるよ うに,算数・数学のよさを感得する,味得するということは,算数・数学やそこでの考察処理のもっている 種々の長所,メリット,重要性,有用性,素晴らしさ,面白さなどを意識し,さらにそれらのことが全心的 に感じられることなので,そのことによって,児童・生徒も算数・数学に関i・や親しみをもち,自分から意 欲的にしかも楽しく学習するようになったり,算数・数学の学習内容がよりょく理解できて好きになったり,

さらに,それらのよさを積極的に学習や生活に活用していくようになり,算数・数学のおかげや重要性を自 覚して,これまで以上に算数・数学を大事なものと思って学習していくことが期待できるようになる。何よ

りも大事なのは,算数や数学の学習の楽しさを感じるようにしたいということである。

(6)

       3.算数・数学のよさを感得させる指導  (1)算数・数学のよさを感得させる指導

 算数・数学のよさを感得するとは,単に四則計算の意味が分かったというような分かり方と同じではな い。算数・数学のよさを感得するとは,そのよさを味得する・味わうとか鑑賞するという言い方がなされる ように,単に頭で知識として理解するというのではなく,全心的に受け止め感じ取るというような分かり方 であるといえるであろう。それは,例えば,素晴らしい音楽を聴いたり,見事な絵画や彫刻を観たり,美し い詩を読んだりして分かるというような分かり方と似ているといえよう。したがって,それは,その人の知 識や技能にもかかわるが,さらにその人のものの見方・考え方や特に感受性・感性や態度などにかかわる面 が多い。

 このようなよさを感得させる指導に関しては,よさというのは客観的に存在しているというよりは(存在 しているとしても)それを感得するか(感得し得るか)否かというその学習者側の素養や精神的な態度が大 きく影響する。いくらよさのあるものでも,それに無関心で価値を感じたり認めたりしょうとしなければ,

「猫に小判」の讐のように何も感じないことになってしまう。

 そのため,算数・数学のよさを感得させる指導としては,平生の授業の中で,よさの浮び出る場面では,

できるだけ機会をとらえて,そのよさを意識させるように強調していくことである。また,他方では,算数

・数学のよさがよく現われる場面で大いにそのよさを印象づけることも効果的である。つまり,よさは小 さなさざ波のように絶えず打ち寄せてくるので,そのよさを感じとる感受性や感性を鋭く洗練しておく。ま た,時折り打ち寄せる第一級ともいえる大波のような素晴らしいよさに触れさせる体験をもたせることも 極めて大事である。

 また,よさを感得させるには,そのよさについてただ説明しているだけではなかなか感じさせることがで きない。このとき,それをよくないもの,不便なもの,面倒なもの,などと対比させることによって,その よさを浮き彫りにして印象づけるというやり方も有効である。

 なお,よさの感得は見方・考え方や態度などにもかかわるものなので,強調したからすぐ分かるとは限ら ないので,よさがその時すぐ分からなくてもしばらく経ってからや振り返ってなるほどと感得されることもあ

る。

 (2>算数・数学のよさを感得させる指導の具体化

 算数・数学のよさを児童・生徒に感得させるような指導は,どんな場面や素材で,どんな点を強調して行 ったらよいかということについて,いくつかの例を考えてみよう。

 ①数量や図形を概念化したり数量化したりして,例えば,長さ・広さ・かさや図形などの大きさ,大雑 把な感覚的な把握から,任意単位へ,さらに普通単位を導入して把握していくようにすると,対象が明瞭・

的確になり,その後の考察処理がし易く,コミュ=ケーションもスムーズに運べるようになる。

 また,例えば,人口の混みぐあいとか速さなども,数量化し,特に単位当たりの大きさに着目してみるこ とにより,明瞭・的確・合理的にとらえることができることになる。

 ②上の①の数量化や測定などの場合に,その対象とか目的によって,それにふさわしい方法や計器や単 位などを選んで進めることによって,一層的確かつ合目的的になる。

 このことは,2つの数量の間の関係を見易くしたりとらえ易くしたりするのに,それらの関係を表とか図 とかグラフや式の中のどれでどのように表すのがその時のねらいからみて適切であるかを考えて,よりよい ものを選んで使用することにより,的確でかっ手際よく進められることになる。

 また,立体の特徴をとらえたり性質を調べ易くするのに,見取図,展開図,投影図,断面図などのどれで

(7)

表現するのか適切か。これらの図はそれぞれ特徴をもっているので,その時のねらいや方法からみてその長 所や特色を生かせる図を選択し活用していくことによって,的確かつ能率的になる。

 ③ 算数には,乗法九九表の中に隠れている綺麗なきまりや不思議とも思える興味ある性質が沢山ある。

例えば,9の段の九九は,9,18,27,36,45,54,63,72,81であるが,ここでは一の位の数が順に 工ずつ小さくなっていくに従って,十の位の数は順に1ずつ大きくなっていく。そして,どの数も一の位の 数と十の位の数との和は9になっており,しかも,中央部の45と54の間を中心にして左右に対称の形の数 字の配列になって並んでいる。この九九では,この他にもいろいろな性質を見付けることができる。このよ

うに,この表からでも,数の増減や配置・表現の中から神秘な綺麗な美しさを感じ取ることができる。

 美しさといえば・右のような加法のきまりと □+○一〇+[コ       ロ×○一〇×□

乗法のきまりの間にも双対性からくる美しさも ([}O)+△・□÷(〇+△) (□×○)×△一□x(Ox△)

      [コ+O =:0+ロー□       □×1=1x□=〔⊃ 感じ取ることができよう。

 ④鉛筆の本数やりんごの個数などの離散量(分離量)は整数値でとらえて表現することができたが,単 位に満たない三下の大きさの量は整数ではとらえられない。そこで,小数とか分数を導入することによって その不可能を解決して可能にすることができる。

 このことは,整数の範囲では2÷3という除法は不可能であるが,数範囲を拡張して分数(有理数)を導 入することによって滴鴫というよ分数で表わすことにすれば・これまで不可能だったことが解決される

ことになり自由になる。この場合には,できない(不可能である)という制約を無くしてより自由に事を処 理できるようにしたわけで,数量の発展の姿の一例といえる。算数や数学の中にも見られるこのような発展 の姿を児童や生徒に是非印象づけたいものである。集合論の創始表カントル(G・ Cantor)は「数学の本質は まさにその自由性にある」といっている。

 ⑤ 算数・数学は,原理や法則を基にして論理的に整合性をもって体系的に組み立てられている。例えて みれば,それは恰かも壮麗な建築物のようでもある。

 このとき,それらの原理や法則などを活用して着実に論を進めることによって,明瞭かつ正確・的確な考 察処理ができるわけであるが,それだけでなく,そのような活用場面では,なるべく活用できるものを上手 に使ってできるだけ手際よい考察処理が進められるようにすることが大事になる。例えば,四則混合の計算 を,乗除先行というきまりによって行っていくだけでなく,その時の数字の組み合せによっては,.交換法則 や分配法則などを駆使することによって,計算が一層素早くしか簡単・能率的に進められるようになる。

 ⑥ 四則計算や測定・計量や簡単な比例関係などは,平生の学習場面ではもちろんのこと,買物などの日 常生活にも実用が多いので,こうした面での実用性や応用性も大いに活用していきたい。

 しかし,算数・数学は,基礎・基本的性格や用具的性格も強いのでこうした実用ばかりでなく,自分自身 の算数・数学の以後の学習にも役立つだけでなく,他教科等の学習にも大いに活用される。

 また,算数・数学の有用性というと,数の記録の十進位取り記数法のアィデァや車越鳥はいくら強調して もし過ぎることはないほどの索晴らしいよさである。これも,同じ記号を何回も繰り返して用いたり,適当な 記号だけによって表したり,グループ分けしたりして表した考え方や方法をさらに発展させて作られた人類 の智慧なので,いまのような不便な記数法と対比するとそのうまさが鮮明になる。この位取り記数法が文化 の発展に大きく貢献しているというよさも児童・生徒に是非印象づけたいものである。

 また,活用の素晴らしさといえば,円周という曲線の長さを簡単な直径の長さでとらえるというアイデア

も素晴らしく,測りにくい薄い紙片の重さを低片を三枚も重ねて測るとか,針金の長さをその重さを測って求

めるなどという比例のアイデアを使って進める手際よさも大事なものである。

(8)

 ⑦ 式は数量や数量の間の関係を簡単・明瞭・的確に表現できるので,この式の扱いを通して,正確かつ 能率的に処理が進められることになる。また,式には,そこに具体的な意味をつけて解釈することにより,

その式からいろいろのことをよみとることができるというよさもある。このこととも関連して,式の扱いで は,式の形に着目して扱うことが大事になる。例えば,A×B == Cという形をした式は,(単価)×(個数)

・・

i代金)とか(たて)×(横)=(長方形の面積),(時速)×(時間)=(道のり) などというよう に,この式の形に当てはまる数量の関係を一般的統合的に扱えるというよさがある。

 また,1っの式について,その式の形で表されるような数量についての問題をつくる作問指導なども行う ことができる。なお,式といえば,そこで用いる文字や記号のよさについても是非強調しておきたいもので

ある。

 ⑧ 首尾一貫して進められているものの例の中には,整数についての加法や減法は位取りを揃えて計算す るという単位の考えがあるが,この単位の考えは,その後の小数の加法・減法にも,分数の加法・減法にも というように,ずっと通し貫いて用いられている考えである。

 計算のきまりも,整数で成り立ったものは,その後,小数や分数についてもずっと一貫して成り立ってい るという,筋の通った体系的なよさがあり,算数・数学をすっきりしたものにしている。

 ここでは,算数・数学のよさにかかわると思えるいくつかの具体例を挙げてみた。

 以上,算数・数学のよさを感得させる指導ということで述べてきたわけであるが,21世紀を生きていく児 童・生徒の算数・数学教育を効果的に進めていくためにも,児童・生徒に算数・数学の有用さ・素晴らしさ・

美しさ・面白さ・不思議さなどからくるいろいろなよさに気付かせ,なるほど算数・数学はよいものだと実 感をもって感得し,意欲をもって楽しく学習していくようにしていきたいと願っている。それにしても,大 事なのは,まず,指導する教師自身がこのような算数・数学のよさを十分感得するということである。

       参 考 文 献

(!)文部省:o「小学校学習指導要領算数二三(試案)s,大日本図書株式会社(1951),P 63

② 前掲書(1),P・61.

(3)前掲書(1),P.6ユ

(4)前掲書(1),P・61

(5)国立教育研究所:魍際数学教育調査IEA日本国内委員会報告・書Ut,国立教育研究所,qg6T,P. io4

(6)日本数学教育学会編訳9e 1990年代の数学教育』,聖文社1,(198⑳m6,(ICMI Study Series,Kwait   1986,t  Schoo! Mathematics in the 1990s,

(7) NC IM: geOverview of the Curriculum and EvaluatioRs StaRdard for School Mathematis.  .   NCrllM, (1987) P.3

(8) Departrnent of Education and Science;ttMathematis from 5 to 16  . IHMS Offlce,(198D P.3

(9>ボアンカレ吉田洋一訳:ff科学と方法』。岩波書店, (1959),P。33

参照

関連したドキュメント

る。生徒が困難に直面し努力する必要があるような場合「学習」が成立するのである。

度」の具体例はあげられておらず、明確でな いこと。 課題 1: 「習得の程度」とは何か 課題 2:

いと考えている指導のねらいと照らし合わせて検討し

よさや可能性を伸ばすための方法に求められ るところは,単に褒めることではなく,生徒の

また,②を選んだ者は,合同な三角形は 2辺と爽角 や 2角と爽辺 で決まるので,これか らの類推で,合同な四角形も

さらに,子どもの生活を中心に学習を広げていく。戦後「青空教室」で学ぶ子どもの写真(『青

活動ができること,②既有知識とずれが生じ

 次に、基礎的・基本的内容に関してであるが、これは基礎学力として論じられている問題に相