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(1)

慨「 ⁝ .I .5 ー

ドイツ法 における親族扶養

( Ve r wandt e nunt e rhal t ) と社会保障の協働

‑ 第 59 回 ドイツ法曹大会 を中心 と して ‑

藤 原 正 則

1‑ 1

商品交換社会では,人 は自己の財産 と労働力でその生活を維持 しな くてはな らない。商品交換法たる私法の中心をなすのは, この自己責任に基づ く自己実 現の手段たる法制度である 。 しか し自己責任 に依 らず,人間の生存を保障する 法制度 も又存在する

(1)。

その意味で私的扶養 と社会保障は,公法 と私法 とい う枠組を超えて共通の機能を担 っている ( 2 )( 3 )。 しか も両者 は互 いに無関係

1 )こういった角度か らは, 沼教授の「ゆ りか ごか ら墓場」 までの民法,特 に 「 保護法」

とい う視角か らの扶養,無能力者制度の位置づけとい う構想 は最 も重要 な研究であ ろ う。 ここで は,例えば 「 親族法の体系 一民法 における親族法の地位 」 『 親族法の 総論的構造 ( 新版) 』三和書房 ( 昭 5 0 ) 1 頁以下 , 「 家族法 の基本構造 」 『 家族法 の 基本構造』三和書房 ( 昭 5 9 ) 1 頁以下を挙げてお く。

2) この こと自体 は当然の理 といえ る。 しか し,掘勝洋 「 社会保障 と扶養」 ジュ リ N o . 1 0

5 9 ( 特集 ・家族の変貌 と家族法 の課題) 1 7 7 貢以下 、1 7 8 頁 は,扶養法 と生活保護 との関係を論 じた文献 は多 いが,生活保護以外の社会保障 と扶養法の関係を扱 った

、 ものは少 ないと指摘す る。確かに前者 ( 扶養 と生活保護)に関す る文献 は枚挙のい とまがない。 しか し, ここでは旧 くか ら扶養法を特 に公的扶助 との緊張関係の下で 論 じている,沼正也 「 全体 としての扶養法秩序 における私的扶養の地位 」 『 親族法 の総論的構造 ( 新版) 』三和書房 ( 昭 5 0 )1 4 8 頁以下 , 「 公的扶助 と私的扶助の限界」

『家族法大系Ⅴ ( 中川還暦記念 ) 』有斐閣 ( 昭35 ) 1 2 7 頁以下を始め とす る沼論文, 山本笑子 「 英法 における扶養義務について」論叢59 巻 5号 8 1 頁以下,西原道雄 「 親 族扶養の法的保障 ( ‑) 」法協 7 4 巻 2号 9 9 頁以下 , 「 親権 と親の扶養義務」神戸法学 雑誌 6 巻 1・2 号340 頁以下,「 英国国家扶助法における家族の扶養義務」神戸法学 雑誌 8

3 号450 頁以下,「ドイツ公的扶助 における家族共同体概念の成立 ‑ ドイツ

〔 2 0 7 〕

(2)

に並存 しているのではな く,相互に交錯する。即ち,私的扶養 と社会保障は, 関連 し排斥 し協働す る。例えば,私的扶養は生活保護に優先するという形で, 前者 は後者を法的に排斥す る。他方社会保険の給付は扶養義務者の扶養能力を 増大 させ,扶養権利者の要扶養性を縮少する。つまりここでは,社会保障は扶 養義務者につ き扶養法を補完 し,権利者の側での扶養法の役割を事実上排除 し ている。さらに,遺族年金が扶養権利者に支払われる場合は,扶養は社会保障 の連結点 となっている

(4)。

だか ら,扶養法 と社会保障の各々の守備範囲は,

家族法の一断面 ‑ 」 『 概観 ドイツ法』東大出版 ( 1 971 )219 真以下

,

「 扶養の史的形 態 とその背景 」 『 家族問題 と家族法Ⅴ扶養』酒井書店 ( 昭 33 )1 9 頁以下

,

「 扶養 と社 会統制」同前 66 頁以下等の論考,小川政亮 「ドイツ公的扶助 における親族扶助義務 の問題 一特 に世帯同一の場合を中心 に」 日本社会事業短期大学研究紀要 3 号 30 頁以 下をあげてお く。山本論文,西原 「 英国国家扶助法」は,大陸法 と異なって固有の 私的扶養義務を持たないイギ リス法で,公的扶助か らの求償を通 じて親族扶養があ ぶ り出されて くる過程を明 らかに している。 ドイツでの民法上の扶養義務 と公的扶 助か らの求償の相克 ・相互浸透の過程 は,西原 「ドイツ公的扶助」小川論文に詳細 である。又,西原 「 親族扶養 」1 1 3 頁以下の記述 は,近代的扶養法の意義を明瞭に 示 している。

社会保障全体 ( 特 に社会保険等) と扶養法の関連 について も,西原道雄 「 社会保障 における親族の扶養」 ジュ リ N o . 30

1

,52 頁以下,小川政亮 「 社会保障制度 との関連」

『 家族問題 と家族法 Ⅴ扶養』酒井書店 ( 昭 33 )150 頁以下,沼 「 全体 としての」は, 先駆的業績であろう。

3)Bernd Yon Mayde l l , Unt e rhal tund s oz i al eSi cherhe i t .ZurFunkt i on des Unt er hal t s recht s i m Sozi al s t aat , Arc hi v f t i r Wi ssensc haf tund Praxi sders oz l al enArbei t ,1986 ,S. 244 f f . ,S. 244 は,公法 と私法 という法 律学の枠組 に制肘 された思考法 ( Schacht el denke n) 故 に,扶養法 と社会法 との 関係 は個別の問題 に即 してだけとりあげ られているにす ぎないと指摘 している。但 し, Maxi mi l i an Fuchs , Zi v i l rechtund Soz i al re cht , Rec htund Dog一 mat i kmat eri el l e rExi st e nzsi c herungi nde rmode rnenGes el l sc haf t ,1 9 9 2 は,民法典及び社会法の発生か らその展開,不法行為及び扶養 と社会保障の関係 を包括的に検討 している ( YonMayde l l ,Unt erhal tundSozi al rechtZusam‑

menh畠 . ngeundVerwer f ungen

,

Brt i hl erSc hri f t enz um Fami l i enrec ht

,

Bd. 8,1 998 ,S. 23 f f . ,S. 35 Anm. 2 は同書を従来の研究の例外であ り、全体 像を検討 していると評 している) 0

4 ) こういった社会保障法 と扶養法の全体的関連 については,例えば,掘,前掲注 ( 2 ) 論 文。及 び ドイ ツについて は ,Y on Mayde l l ,Soz i al rec ht l i cheAus wi r knnge n der moder ne n Ent wi ckl ungen i m Fami l enrecht , Ent wi c kl ungen i m Rec htde rFami l i eundderauβe r recht l i de nLebensgeme i nscha f t ,Uwe Bl auroc k ( Hrs g. ) 1 989 ,S. 45 f

f

. ,S. 47 f f . を参照,

ここでは ,Pro首 .YonMayde l lが前掲注 ( 3) の冒頭の論文で掲示 した ドイツ法での

(3)

ドイツ法における親族扶養 ( Ve r wandt e nunt e rhal t ) と社会保 障の協働 209

法的にではな くとも事実上互いに影響 しあっている

(5)。

もちろん私的扶養 と 社会保障のあり方を規定する要因は,二つの制度の相互関係だけではない。私 的扶養は,その成立の基礎 となる親族的連帯の存在 と,扶養義務者たる私人の 給付能力 という形で限界づけ られている 。 又,社会保障の内容 も,その時々の 社会保険団体,国家の財政状況,政策的課題 によって方向づけ られている。 し か し,いずれに して も,社会保障 と親族扶養が,相互 に交錯 し, しか も社会保 障上の給付が家族 とい う親族共同体を介 して与え られ る場合が多いことに鑑み れば,特に 「 家族政策」を通 じて両者が相互 に影響 しあっていることは間違い ないといえる。そ して この ことは,社会保障の中で も,人間の生存の最低限を 支える生活保護ではな く,社会保険等の給付が中心的役割を担 うようになった 今 日では一層あてはまると言えるであろう

(6)0

本稿 は,特 に以上 の様 な視 角 か ら,第 59 回 ドイ ツ法 曹 大 会 ( Der59 . Deut scheJuri st ent agi nHannover1 992) での家族法部会 と社会法部会の 議論の紹介を通 じて, ドイツの親族扶養 ( Verwandt enunt erhal t ) の動向を

社会保障体系の図式を示 してお く ( A.a.0 ‥ S ,2 47 ) 0

1の原則 :自分の生活の経済的基礎 は,まず (自営,非 自営業を問わず)定期的 な自己の職業活動か らの収入及び利子によって確保 されなければな らない。国家は 最低収入を保障 しない。

2 の原則 :まず被用者更に自営業者の場合 も増えているが,職業活動が老齢,災 害,疾病,失業で不可能 となったときは,職業活動の定期的収入 に社会法 による所 得補償が代わる. Jその為の資金 は,現行の社会保険体系の下では現役の職業従事者 ( 及び使用者)の保険料 に依 っている。 公法的援助 システムに加入で きない者 には,

、 私的援助,特に私保険加入の方法がある。

3 の原則 :家族の一員が所得又は所得補償を得 られないときは,親族関係 に基づ いて扶養を受けることになる。扶養が離婚又は死亡が原因で与え られな くなれば, 社会保険法の補償請求 ( 負担調整 と遺族年金)が扶養請求に代わ る可能性がある。

4 の原則 :充分な収入がない者 には,国家 は場合 によって補償給付 ( Ausgl e i ‑ c hs l e i s t unge n) を与えることがある。補償給付 と扶養義務 との関係 は特別 に規定 が置かれている。 こういった給付がなされ る例 は,例えば住宅金 ( Wohnge l d)

と教育振興 ( Aus bi l dungs f 6rde rung) である。

5 の原則 :所得,所得補償が不充分でかつ扶養請求 も存在 しないときは,国家は 社会扶助の範囲内で最低限の生活保障を与える。

5)Y onMayde l l ,前掲注 ( 4) 論文,特に S. 50 f f . はその具体例を挙げて個別的検討を 加えている。

6 )掘,前掲注 ( 2 ) 論文 1 7 8 真。

(4)

社 会 法 の方 向性 を も顧慮 して探 る ことに あ る。今 日 わが国のみな らず工業化 さ れ た国 々が 直面 して い るの は,少子化 と 高 齢化 の も た らす諸 問題 ,伝統 的な家 族 関係 の変 化 であろ う。 わが国で も,家 族法 改正 作 業 で は,非嫡 出子 と嫡 出子 の 区別 の廃 止等が とりあげ られてい る。 又, 高齢 化 社会 の到来 を間近 に して, 老 親 扶 養 の 質 ・量一 一 一 一 「金銭扶養か 引取扶 養か 。生 活 保持義務 ,生活扶助義務 の 二 分 類 へ の 疑 問等 ( 7 ) ‑ が議論されているし,又, 昨年 の ドイ ツでの立法化 を も契機 と して公 的介護保険の導入も話題に上っている ( 8 ).以上 の よ うな背 景 の下 で,変化 しつ つある家族関係を軸として,社会法 と扶養法 の協働 とい う 視点か ら,親族扶養 を 一面で締少し他面で拡大する提 案 を示す ドイ ツ法曹大会 での議論 は, わが法 に も 大きな示唆を与えると考え る。

1‑2

さて本論 の前 に,法曹大会 の全体像 につ き説 明 し,かつ課題 を限定 してお く 必要 が あ る。士 い うの は,本稿 で とりあげ るの は,法曹大会 のテ ーマの一部 に す ぎないか らで あ る。 まず家族法部会 で は,「 親子法 を改正す ることが望 ま し いか ( Empf ehl tessi ch,dasKi ndschaf t srechtneuzuregel n ?) 」 とい う題 目で シュヴェ ンツ ァー ( Prof .Dr.I ngeborgSchwent zer ,バ ーゼル大 学)が鑑定意見 を書 いて い る

(9)。

その中心 は嫡 出子 と非嫡 出子 の区別 の撤廃

7 )例えば,吉田邦彦 「 在宅ケアに関す る民法上の諸問題 一特 に事故責任 ( 看護過誤) 及 び老人介護 ( 老親扶養)問題 ‑」 ジュ リ増刊 『 高齢化社会 と在宅ケア 』( 1 99 3

4

月)

1 20 頁以下,1 25 頁以下。

8) 「 社会保障将来像委員会第二次報告書」等参照。

9) Verhandl ungen des neunundf t i nf zi gs t en de ut s chen Juri s t e nt ages , Hannove r1 99 2,Bd.Ⅰ ( Gut ac ht en) ,1992 .Gut ac bt enTei lA.Bd. Ⅰは, 各部会の鑑定意見,Bd.Ⅱ ( Si t z ungsberi cht e ) ,19 9 2 は鑑定意見以外の報告, 討論,決定を収録 してお り ,Bd.Ⅰ, Bd. Ⅱの通 しで各鑑定意見,各部会の報告, 討論にアルファベ ットでナンバ リングしてある。なお,法曹大会全般の簡潔な紹介 として,JZ19 9 3,S,82 f f 。 大会前のコメン トとして, 家族法部会については , Ni na Det hl o f f ,Re f orm desKi ndsc haf t srecht s,NJW 1 99 2 ,S.220 0f f . ,社会法 部会 については ,Berndv on Mayde l l ,Empf ehl tess i ch,di eZuwe i sung vonRi si ke nundL礼s t eni m Soz i al rechtneuz uordne n?,NJW 1 99 2 ,S.

21 95f f . があり,ドイツ法の各々の分野の全体的文脈の中での法曹大会の意義の理

解に有用である。

(5)

ドイツ法における親族扶養( Ver wandt e nunt er hal t ) と社会保障の協働 21 1 で あ るが,実 は全体 のパ ースペ クテ ィブは も う少 し広 い。離婚後 の別居子 の監 護 , 継 子,里子 の監 護,養子 法 に至 るまで,変 化 しっ っ あ る親 子 関係 に即 して, その生活 実体 に合致 した法 的規律 を与 え よ う とい うのが 1 0) ,鑑 定意 見 を貫 く 基本線 とな って い る。だか ら鑑 定意見 の中心 は未成年子 と親 の関係 に置 かれて お り, その観点 か らは親族扶養 の 内成年子 の老親 に対 す る扶 養 は副次 的 な問題 で あ るが,現実 に即 した親 子関係 の規律 とい う意 味 で全体 と関連 して い る と言 え る ( 故 に,夫婦 間の扶 養 ( Ehegat t enunt erhal t ) に は言 及 されず,親族 扶 秦 ( Verwandt enunt erha l t ) だ けが と りあ げ られ て い る)。 しか も,子 の監 護 をめ ぐる議 論 とは異 な りユ 1 ),親 族扶 養 の局 面 で は鑑 定 者 と他 の三 人 の報告 者 , ゼ ン

( Prof .Dr.Gi esel a Zenz ,、 フ ラ ン ク フル ト大 学 ), ヴ ィル ツ

1 0 )シュヴェンツァーは,序言で従来か らも議論 され続け法改正 も行われてきた親子法 を今回とりあげるには三つの契機があると言 っている。第一は,子の出自,家庭の 状況 ( 離婚,片親等)にかかわ らず子に共通の福利を与えようという全 ヨーロッ

の動 きとこれを受けた各国の法・ 改正,第二 は両独統一 ( 1 9 6 5 年か らDDR では嫡 出 ・非嫡出の区別を廃止,法抵触の問題等の解決) ,第三に最 も重要なのは内国, 外国での人 口的展開である。 即ち, 非嫡出, 離婚率,養子の増大 ( 里子の数 は一定) と出生率の低下である。 しか も増大する非嫡出子 ( 今 日 6 0 年代 と比 して倍増 し,旧 西独で約1 0 パーセ ン ト,旧東独で 34 パーセ ン ト位)の内訳は,婚姻関係にある男の 子ではな く非婚姻的共同体 ( NEG) か ら出生する者が増大 している。又,離婚率 の増大によって片親家庭が増え,嫡出子の状況 も変化 している。片親の養子 も増え ている。更 に母親のみな らず父親 と子供の関係が密接になってきている。つまり, 伝統的な法律婚の想定 している婚姻関係が解体 し,例えば非嫡出子 と嫡出子の置か れている状況 も相対化されてきているのである。法律婚が子の福祉に合致 し,非嫡 出子は父親不在で子に不利益,離婚は悲劇であるといった認識 は事実に反す る偏見 であると考え られる。その結果,非嫡出,嫡出という身分の区別を廃止 し,各々の 子の状況に合致 した多様な規範を形成 してい くことが必要だ, とされている 。 〔 A

9‑20 〕 。

但 し,以上のような試みは,未成年子の福利に合わせて伝統的な法律婚の枠組を解 体 させ ることにつなが る。だか ら,例 えば シュヴ ァ‑ ブ ( Pr of .Dr.Di e t e r Sc hwab. レーゲ ンスブルグ大学)は,婚姻は生殖,育児 と職業労働 という分業を 保護す る為の法制度であり,子の福祉を中心 とすれば将来は,監護扶養,居住権の 保障等の最低保障を伴 った 「 婚姻」と完全な育児の為の保障を持っ届出のなされた

「 デラックスな婚姻」の二つが共存 し,各々の妥当性が問題 とされるに至 るだろう

〔 M.1 22‑1 24 〕 ,と指摘 している。

l l )本法曹大会の中心テーマである,嫡出,非嫡出という身分の区別,父母の共同監護 権に関 しては, 岩志和一郎「 親子関係 と婚姻 一第59 会 ドイツ法曹大会の議論か ら‑」

早稲田法学6 9

4 号 41 頁以下に詳 しい紹介 と検討がある。

(6)

キー ( Si egf ri edWi l l uzki ,ブ リュ‑ル区裁判所長),デ ィーデ リクセ ン ( Prof . Dr. U weDi ederi chsen ,ゲ ッチ ンゲ ン大学) との問で ほとん ど意見の対立 がない。だか らそ こで打 ち出された方向性 は,一 一 一「夫婦間,非嫡出子の扶養は 別 として,民法典成立以来変化が見 られない 1 2) ‑ 扶養法の改正に直ちに結び

1 2 ) 夫婦間の扶養義務 ( E hegat l enunt e r hal t ) の §§1 360f f .BGB の規定 と並んで,

§§1 601f f .BGB,§1 601 は直系血族 は扶養義務を負 う, と定めている。同条 は確 かに民法典成立以来変更 されていない。 しか し特 に社会扶助 (による求償) との関 係で過去その当否が何度か問題 とされた。

まず民法典成立時には,傍系血族 ( 兄弟姉妹)にも親族扶養が認め られ るべ きかが 議論 された。第 1次草案で は普通法 とは反対 に兄弟姉妹 に も扶養義務が拡大 され た。その際, 兄弟間は扶養 に充分 な理解が得 られ る程親密 とは言えない場合が多 い, 経験上訴訟の増大を招 く,困窮時の扶養 に限定 して も苛酷 な結果 となるケース も有

り得 る点 は認識 されていた し,更 に兄弟 間には遺留分 はない ことも付言 されてい た。 しか し,決定的な拡大の理 由となったのは,公的な救貧 ( Arme npf l ege ) の 負担の増大であ った ( Mugdan4,S.360f .Mot i v e4 ,S . 679 ) 。 しか し,第二

次委員会では,プロイセ ン以外のラン トの反対で,救貧の負担 は決定的理由とはな らないと して,親族扶養を直系血族 に制限す る現行法へ と結 びっいた ( Mugdan 4,S.947 ,Pr ot okol l e4 ,S . 58 21 ) 0

1 953 年 には第二次世界大戦後 の財政難の為親族扶養を姻族一親等 にも拡大せん と す る法案が提案 されたが, 連邦参議院で否決 された (2.B T ,Drucksache,Nr 224 ,S. 84 ) 。この間の事情及 び救貧措置 との関係 については, 小 川 , 前掲注 ( 2 ) 「ドイ

ツ公的扶助」 に詳細であ り,又,西原,前掲注 ( 2) 「ドイツ公的扶助」 は民法典成立 前後の救貧への公的扶助 と親族扶養の関係を明 らかに している。

社会扶助法 による救貧 との関係で は ,1 97 4 年 に,生活扶助 の求償 を,民法上扶養 義務を負 う者 に対 して認めていた 91 条を,二親等或いはそれ以上の親等の親族に対 しては求償が発生 しない とい う現行法 ( 実質上 は孫 と祖父母間の求償削除) (§ 91

IBSHG) に改めた。その理 由は,か っての居住 を共 に していた大家族 とは異 な り今 日では孫 . ・祖父母間に求償への理解が得 られ る程の親密な関係がない。老人 は 求償を恐れて社会扶助を断念す るか ら, とされている ( 更 に,行政手続,費用の簡 潔化,低下 に も言及 されている) , 7.Druc ksache,Nr.30 8 ,S.8,S.1 9 。 し か も, この改正が契機 とな り,民法上の扶養義務 も二親等以上の親族間では発生 し ないとす る解釈論及び立法論があ らわれ始めた。 例えば , A. Kunz,Bes t e htnoch ei neUnt e rhal t spf l i chtz wi sc he nVerwandt e nz wei t e node re nt f e rnt eren Grad' es ?, Das Uberl ei t ungsv erbotdes S91I S. 1BSf IG i n s e i ner Auswi rkungaufdasf ami l i . reUnt erhal t s recht ,FamRZ1 97 7 ,S.291f f .

は,解釈論 として民法上 の扶養義務 の制限を主張す る。多数の学説 は,解釈論 と しては民法上の扶養請求,社会扶助法上の請求の併存, しか し相互 に求償 は生 じな い と解 して い る。例 えば ,Schel l horn/Ji ras ek/Sei pp , Komme nt arB um Bundessozi al hi l f egeset z,13 .Auf 1 . ,§91,Rn35 f f . ; G6r i pi nge ru.a. ,Un‑

t erhal t s recht , 5. Auf l . ,Rz. 21 0;K6hl er,HandbuchdesUnt e rhal t srec ht s ,

(7)

ドイツ法における親族扶養 ( Ve rwandt enunt e rhal t ) と社会保 障の協働 2 1 3 付 くかどうかは別 として,ほぼ共通の認識 となっていると言えよう 1 3)0

次に社会法部会のテーマは , 「 社会法での危険 と負担の分配を見直すのは望 ま しいか ( Empf ehl tess i c k, di eZuwei sung Yon Ri si ken und Last en i m Sozi al rechtneu zu ordnen?) 」 で あ り, シ ュー リン ( Prof . Dr Bert ram Schul i n , コンスタンツ大学) とリッ トマ ン ( Prof .Dr.Xonrad Li t t mann , シ ュパ イ ヒャー行 政大 学) の鑑 定意 見及 び ク ンマ ‑ ( Pet er Kummer ,連邦社会裁判所判事),イゼ ンゼ‑ ( Pro f .Dr.Jos efl s ensee , ボン大学)の報告が付されている。 ここで取 り上げ られた問題 も幅広 く, しか

もその内容 は法的側面だけでな く政策的局面 にまで及んでいるが,出発点 と なっているのは,立法者による従来の危険 と負担の分配はその時々の政治的契 機,財政事情に左右されてお り,体系整合性が見失われていた。だか ら今回は 社会保障の外枠ではな く,内的妥当性につながる構造改革を 目指そうという認 識である。そこか ら導 き出された方針の一つは,社会保障給付の中での社会保 険の要素の強化,つまり社会保険にふ さわ しい分野にだけ社会保険料か らの拠 出をあてること,他人の負担 は社会保険料ではな く租税で賄わるべ きだ, とい う考え方であった。そのように しては じめて,社会保障の中での体系整合性乃 至妥当性が保持 される, というのである。だか らこういった視角か ら,いわゆ

7.Auf l . ,Rz.2 2 ,20 8 。更 に ,1 9 8 4 年には他の一連の社会保障垂削減の措置 と ともに,同条の求償の範囲を再 び,民法上に扶養義務者 に広 げようという連邦政府 案が退け られている 。1 0 .Dr uc ks ac he,Nr . 33 5 ,S. 36, S. 9 2 ,S. 1 0 0 0

以上の経緯か らもわかるのは,親族扶養がその基礎 となる親族間連帯よりも主に公 的扶助の財政事情 との関係で論議 されていることである。

1 3 ) 例えば ,J.Mt i nde r,Unt e rs c hi edez wi s c he nz i vi l r ec ht l i c he nUne r hal t ‑

s ans pruc h und ,s oz i al hi f e re c ht l i c he n Rege l unge n

,

NJW 1 9 90

,

S.2 031

f f . ,S.2 03 7 は,親族扶養を介 しての社会扶助法 による求償が制限さるべ きこと

を確認 し,親族扶養の社会扶助への優先 も検討 し直すべ きであると言 う。かつその

基礎 となるのは,社会扶助が社会国家の下で最低の生存保障か ら,社会政策上の目

標を実現す ることを 目的として気前が良 く ( gr oβz t i gi g) なっているか らだ と言

う。 もちろんそれ自体 は歓迎 さるべき現象だと評 され るが,その結果を求償 という

形で私人に負担 させ るのは望ま しくない。 こういった制限を企てる判例の解釈論 は

問題がない訳ではないが,親族扶養の際限のなさへの不快感の表現であ り ,1 9 世紀

の扶養法体系が 2 0 世紀終 りの今 日の変化 した状況に受け入れ られないことの表現だ

と評 している。

(8)

る 「 家族負担調整 ( Fami l i 6hl as t e naus gl e i c h) 」一 丁 一 一扶養家族付 と独身の同 一の収入の二人の労働者が同額の健康保険料を支払い,一方 は一人の他方は複 数人の危険が健康保険組合か らの給付でカバーされる例を考えよ。 ここでは, 保険料率 と危険が合致 してお らず,保険原理か らの逸脱が存在する。だか ら扶 養家族への保険給付は,家族負担調整 という団体的正義か ら説明される‑ の 妥当性 も議論の対象 となった。 しか し,他方で見解の一致を見たのが,社会保 障の保護が欠映 している分野をどう救い上げてい くか,具体的には育児,教育 及び老人介護の家族の負担を軽減 しようという点であった。その結果,期せず して (?)家族法部会 と社会法部会で,老親 に対する扶養義務乃至は要介護者 ( 老親)に与え られた社会扶助法上の求償規定の廃止,及び子に対す る扶養義 務の縮少で見解の一致が見 られた。 こういった家族 ( 扶養義務)の負担を可能 な ら社会保険で代置,左 もな くば,児童手当等の給付,税控除措置により側面 支援 しようというのである。本稿では,社会法部会か ら扶養に関連する局面を 拾い上げて紹介す ることとしたい 1 4)。 又,家族法部会での問題設定,及び以 上の問題関心か ら,夫婦間の扶養についてはとりあげない。夫婦間の扶養‑

それは,特 に主婦埠を前提 とした男女の役割分担の下で問題 となる‑ は,主 婦の育児,家事労働の評価 という側面か ら社会法,親子間の扶養義務 と関係す

る限 りで言及 されることとなる 。

2‑1

シュヴェンツア ウ‑は,本法曹大会の前後 にも親族扶養に関す るはぼ同旨の 論文を書 いている。前者 「 親族扶養 と人 口統計の社会的変遷 ( Ver wandt e n‑

unt er ha l tunds oz i odemographi s cheEht wi c kl ung) 」1 5) ではその題名か らもわかるように家族をめ ぐる統計的変化に重点が置かれ,後者 「 親族扶養の

1 4 ) 他の社会法部会でのテーマ として 目立 ったのは,やはり財政事情を反映 して,健康 保 険 ( Kr anke nv e r s i c he r ung) で の費用削減,∵ 年金 の支給額 の削減,使用者の 社会保険料率の軽減の試み,失業保険の整理等であった。

1 5 )FamRZ, 1 9 8 9 ,S. 6 8 f f .

(9)

ドイツ法における親族扶養( V e r wandt e nunt e r hal t ) と社会保 障の協働 2 15 改正‑ 法政策上不可欠の措置か, 早急にす ぎる親族間連帯の放棄か( Re f orm desVerwandt enunt erhal t s

ei nerecht s pol i t i s che Not wendi gkei t odert i berei l t eAuf gabederFami l i ensol i dari t 畠 . t?) 」1 6) では社会法 との 関連,扶養義務制限の実際上の影響が意識 されている ( なお後者では,老親に 対する扶養だけが検討の対象 となっている) 。本稿ではまず この三つの論考を 併せ要約する形で紹介 し( 鑑定意見は本文中に割注で, 他 は脚注で頁数を示す) ,

しか る後に他の報告及び討論を これ とつ きあわせ るとい う形で叙述 を進めた

ところで,一連の論考でシュヴェンツァーの導 きの糸 となっているのは,上 記の人口統計に基づ く考察,及び外国法,特に私的扶養を原則 として夫婦間, 未成年子に対す る親のそれに限る英米,スカ ンジナ ビアの法状況である。 しか もその際,前者 は親族扶養の制限に対す る危慎,大家族の解体一家族の機能の 崩壊‑家族的連帯の喪失 といった図式に対す る反論 という意味で重要であ り, シュヴェンツァーの考察の骨格を成 していると言える。そこで,以下ではまず この点を詳 しく紹介 したい。

シュヴェンツァーは,次のように説 く

家庭の崩壊が語 られるとき,かつて 子の監護,老人介護 は三世代の大家族の下で与え られたとい うロマ ンティック なイメージが しば しば核家族 と対比され る。 しか し,近年の社会学の成果 はこ のイメージが事実に反す ることを示 している。産業化以前の社会では ( 当時の 平均寿命を考えて も)核家族の平均構成員数 は 3.3 人,全家族中の三世代家族 割合 はせいぜい 1 9 パーセ ン トにす ぎず,現在 と大差 はない。ようや く 1 9 世紀に 死亡率低下の結果,家族構成員数,三世代家族割合 は増加 した。 しか し世紀末

には早 くも三世代家族の数 は急速に低下す る。 3 世代家族は過渡的現象にす ぎ ず,過去において も原則的家族形態ではなか った。だか ら,大家族を基礎 とし て様々な社会イメージを決定す る訳にはいかない。要するに,過去 と現在の家 族人 口状況に大 きな変化 はない。ところが, 他方で扶養義務の質 ・量 はともに,

1 6 ) Br t i hl e rSc hr i f t e n2 : um Fami l i e nr e c ht ,Bd.8 ,1 9 9 4 ,S. 55 f f .

(10)

民法典の立法者が想像 もしなかった程に激変 したのである 1 7 )。

子の扶養では,確かに児童数 は減少 したが扶養負担の内容は増大 している。

19 世紀 までは児童労働 は普通であ り,子 は早 くか ら職業生活 に組み入れ られ た。学業終了年齢は1 4 歳,大学教育終了は 23 歳が普通であり大学生数は 2 万人 程度であった。しか も高等教育 は資力のある家庭の男子だけが享受 した。 他方, 今 日では子の経済的 自立 は遅い 。 1990 年笹は大学生数 は 170 万人で, しか も平 均終業年齢 は大体28 歳である 〔 A41 〕 。だか ら子の扶養の問題点 は,経済的自 立の遅 さによる教育費を中心 とした負担の増大である 1 8 )。

親乃至は祖父母の扶養での変化を もた らしたのは,平均寿命の高齢化 と離婚 率の増大である 。19 世紀の男子37 歳,女子43 歳か ら,今 日男子7 3 歳,女子 8 0 歳 と平均寿命 は約 2 倍 となった。さらにそこでの特徴 は,要介護状態に陥 り易い 後期高齢者数の増大, しか も高齢者中に固有の年金額の少ない女子割合の多い

ことである。かっては,早期に自立する子よりも,親の扶養が私的扶養の中心 、 \ であった。他方今 日では,年金の整備によりこの関係 は反対になっている。 し か し,潜在化 した親の扶養義務 は,介護危険 ( Pf l egeri s i ko) と離婚 した老 母の扶養によって顕在化す る。 老親が要介護状態 となれば, 介護費用の高額化, 平均寿命の高齢化故の介護期間の長期化,扶養義務を分担す る兄弟数の少なさ 故に,扶養は過大な負担 となる。今一つ,離婚率の増大 と再婚率の低下 も扶養 義務に影響を与えている。 というのは,離婚に際 しての夫か ら妻への年金受給 権の分与‑ 年金調整 ( Versorgungsausgl ei ch) , BGB § 1 587a ‑ 0 ‑の不 充分 1 9 )さと,職業能力の不足の結果,離婚後再婚 しない婦人 は子に対する扶 養 に頼 る可能性が高いか らである (A42) 。最後に,子の扶養,潜在的な親の 扶養及 び賦課方式の年金拠 出を同時に負担す るサ ン ドウィッチ ・ジェナ レイ

1 7 )Sc hwe nt ze r ,前掲注 ( 1 5 )S\ . 68 6

0

1 8 )Sc hwe nt ze r,A.a. 0.,S. 6 86 f .

なお, W.K6hl e r,Unt e r hal i t s r ec htam Sc he i de we g?,FamRZ1 9 90 ,S.

9 2 2 f f . ,S. 9 2 2 も同旨を強調す る。

1 9 ) この点 に関 しては,本沢 巳代子 「西 ドイツにおける女性の年金 ‑1 9 86 年 の年金法

の改革を中心 に‑」季刊労働法 1 4 0 号 1 4 3 頁以下参照。

(11)

t . .̲ I ドイツ法における親族扶養 ( Verwandt e nunt erhal t ) と社会保 障の協働 217

シ ョンの現実 も,親族扶養を見直す社会の変化 として指示 されている2 0 )。要 するにシュヴェンツァーは,家族構成は変 らないのに,扶養の内容だけが過重

となっていると言 うのである。

今一つの親族扶養制限の契機を与えるのが,外国法である

.

外国法は親族扶 養に対 して二極分解 した態度をとっている。一方で広い範囲の親族扶養を認め るのが, ドイツ法 も含めたローマ法を継受 した国々,その中で も特にロマ ン法 系である。他方で,子の教育費 は例外 として,親族扶養を原則的に未成年子に 対す る扶養 に制限す るのが,英米 とスカ ンジナ ビア法圏である 2

1

) ( A42 ) 。 も ちろん シュヴェンツァーが参照 しよ うとす るのは,後者である 2 2) 。以下,そ の提案を具体的に見てい くこととしよう

2‑2

( 1 ) 二親等以上隔った血族間での扶養義務

直系血族間 ( だけ)の相互の扶養義務を規定す る BGB § 1 6 0 1 によると,祖 父母 と孫 とは互いに扶養の義務を負 う

スイス,オース トリア,フランスも直 系血族間の扶養を認めているが,オランダは 1 9 8 7 年 に祖父母 ・孫間の扶養義 務を廃止 した。イギ リスが近時祖父母の孫に対す る扶養義務を新設 した以外で は,二親等以上の血族間の扶養は英米,スカンジナ ビア法には無縁である。 ド イツで も既 に社会扶助法では社会扶助主体 ( Sozi al hi l f et r畠ger) は社会扶助

( 生活保護)の二親等以上の血族に対する求償を禁ず る法改正がなされている

2 0 )Schwent ze r ,A .a. 0. ,S. 6 87f ,前掲注 ( 1 6 )S.6 0f.

2

1

)Sc hwe nt z er ,前掲注 ( 1 5 ) S. 6 8 5f.

2 2 ) ドイツ法で親族扶養を限界づけようとい う試みで しば しば参照 されるのが,比較法 である。その際,固有の私法上の扶養義務を持 っていたローマ法を継受 した大陸法ノ

とは異な り,生活保護費の求償 という公法か ら扶養義務が しみ出 して来た, しか も

扶養義務者の人的範囲が狭い英米, スカ ンジナ ビア法がひきあいに出される。例え

ば古 くは, 班 ‑ G Landf e rmann , De r Krei s de rUnt e rhal t spf l i cht i gen

Pe rs oneni m europai schenFami l i en‑undSoz i al hi l f erecht , Rabe l sZ1

97 1 ,S. 5 0 5f f . そ こではさらに,社会扶助か らの親族への求償を恐れて給付 申請

を断念す る傾向,扶養権利者,義務者の双方の貧困化等 も説かれている。

(12)

(§ 91 I S.1BSHG ‑ Bundessoz i al hi l f egeset z ,連邦社会扶助法)。 し か し民法 はこの改正 に歩調を合わせてお らず,その結果扶養権利者 は社会扶助 法上の給付,民法上の扶養請求権を選択的に行使で きる (しか も相互 に求償 は お こ らない) とい う奇妙 な状態 に陥 ってい る 2 3). 社会扶助法改正時の,今 日 で は祖父母 と孫 との関係 は求償‑の理解を得 られ る程 に親密な ものではない,

とい う立法者の評価が民法で も実現 さるべ きである。大体,か っての平均寿命 を考えれば,二親等以上の直系血族問の扶養 は現実性 はなか ったのだか ら。 と 説 き,シュヴェンツァーはここでの扶養義務 の廃止を提案す る 2 4) 〔 A4 2‑4 3 〕 。 ( 2) 父母の扶養

近年,社会扶助主体か らの子の親 に対す る扶養義務を介 しての求償の成否が 争 われ る裁判例が増大 している

問題 となるのは,年金額を大幅に超え る介護 費用 と,年金の少 ない老齢の離婚 した婦人の生活費である。判例 ・学説 ともに 様 々な方法で扶養義務乃至求償を限界づ けよ うと試みて きた。 ( 判例理論で は) 要扶養者 の生活費の算定 に‑ 扶養料算定の基準 として実務が一般的に依拠 し

ている‑ デ ュッセル ドル フ表 ( Dl i ssel dorf erTabel l e)等の算定基準を用 いず扶養請求額を制限 した例 2 5 a),介護費用 は扶養権利者が充分生活で きる額

23 ) 前掲( 1 2 ) 参照。

24 )Sc hwe nt z e r ,前掲注個 S. 6 8 8 .

25 ) 以下では ,Sc hwe nt z e r が鑑定意見で引用する裁判例の骨子を簡単に紹介 してお く。そこで示されているのは,成年子の親に対する扶養義務は夫婦間,未成年子に 対するそれとは異なり,必ずその扶養を与えなけれもばならないものではなく,そ れ故自己のライフスタイルを変えてまで援助する必要はないという,生活保持義務 と生活扶助義務の存在意義に関する視点であろう 。Schwe nt z e r ,前掲注( 1 6 ) S.6 2 参照。

25a)I J G Mt i ns t e r199 1 .1 2 .1 8 ,FamRZ1 9 9 2 ,7 1 4; 原告は被告の母に与えた生

活保護費の求償を請求。区裁判所は請求棄却,控訴棄却。扶養義務者が自分にふさ

わ しい生活の為に残 しておける自己保有分 ( Sel bs t be hal t )の ,OLG Hamm

の基準その他の表による額は,子の親に対する扶養義務ではなく,夫婦間,親の子

に対する扶養に基づいている。学説も,個々のケースの事情をも考え,柔軟に基準

を適用すべき旨を説いている。当裁判所も同意見で,本件では上記の基準よる月1 4

00DM から 30 パーセント増額さるべきであると考える。というのも,夫婦間,千

への扶養義務は当然発生するが,子は親の扶養を考慮 してまで自分の経済的生活を

組み立てる必要はないからである。

(13)

ドイツ法における親族扶養 ( Ve rwandt enunt e rhal t ) と社会保障の協働 219 の上阪 ( Sat t i gungsgrenze) を超 えてお り扶養 請求 で はカバ ー され な い と し た ケ ー ス 2 5 b), 或 い は扶 養 義 務 者 は両 親 の扶 養 の 為 に 自分 の財 産 ( St amm

OLG Ol de nburg1 99 1 . 3.1 2 ,FamRZ1 9 91 ,1 3 47; 原告は被告 2 の建物に居 住する両親 一被告 2 に予め相続 させ居住権 ( Wohnrecht ) と年金を確保す る先取

● りした相続 ( v orweggenommeneErbf ol ge ) による一に与えた生活保護費を被 告 1 , 2 , 3 に請求。区裁判所は請求棄却,控訴棄却。被告は,自分にふさわ しい 生活をおびやかされることな く両親の扶養をすることができない。当裁判所の管轄 のデュッセル ドルフ表は,個々のケースでの扶養額算定の目安 となるにす ぎない。

同表は,緊密な家族関係にある夫婦が離婚 した際の基準であり,子の親に対する扶 養の為のものではない。 このような関係では,子及びその家族の一般的生活,財産 形成,自己の老後の保障,休暇の生活を顧慮 して,扶養義務者の処分可能な収入を 決定すべきである。

BGH 1 9 92 .2. 26 ,Fan RZ19 9 2, 79 5 ;上記 OLG Ol denburg の上告審

, (前掲

注 ( 1 6 ) で引用されているが,上記の裁判所の上告審なので,併せて ここで紹介する。 ) 上告棄却。控訴審 と同様にデュッセル ドルフ表等の基準は,̲ 夫婦間,子の親に対す

る扶養の基準であり,子の親に対する扶養 ‑そこでは 「 一般に当然 と考え られる生 活 ( Obj e kt i vve rnt i nf t i geLebens f t i hrung) 」を送れ る限度での収入が保障 さ

るべき‑とは局面が異なる点を強調する。更に同表の子に対す る扶養 も成年子の老 親に対する教育扶養では親に苛酷な結果 となる可能性があること及び社会保障の状 況,社会保険料は収入の 20 パーセ ン トにも昇 るが,そこか ら世代間扶養の下で両親 の年金が支払われている,生活保護費の求償の際の扶養義務者 に残 される収入 ・財 産の限度 ( Sc hut z‑undSchongre nze ) の引き上げ,税控除額 ( Fre i be t rage ) の導入 も参照 している。

25b)Amt sG Hagen1 9 87 .12 .1 4 ,FamRZ1 98 8,7 5 5; 原告 は老人ホームでの被 告の母に与えた介護費の求償を請求 した。被告は母親に自発的に月 350DM を与え ている。請求棄却。裁判所は,母親は要介護 ( pf l egebe dt i rf t i g )でなければ,年 金 と仕送 り ( 計 1 ,3 00DM) で充分暮 らせ る。老人ホームでの費用は扶養義務者の 負担すべき特別な必要 ( Sonderbedar f )を超えている。親より優先する子に対す る扶養です ら充分な限界 ( Sat t i gungsgrenze ) がありその額 は月 900DM と算定 した判例 もあるか らである。更に,要介護状態 となって も,放置されるか,施設に 空きがあって収容 されその結果求償 されるかは偶然の事情にかかっている点,介護 保険の必要性は現在 自明で,つまりは介護危険は個人 ・家族ではな く社会が負担す べきことは明 らか,とする。

但 し,以下の二裁判例は反対。

LG Hagen1 989 . 5.1 6 ,FamRZ1989 ,1 330; 原告は ( 従来年金で暮 らせた)

被告の両親が要介護状態となり老人ホーム滞在の為支払 った費用の求償を請求。請

求一部認容O上記の Amt sG Hagen とは反対 に,介護費は通常の扶養義務の範

囲に含 まれ特別の必要です らないとす る。 しか し被告の給付能力を算定す るに際

し,自動車購入,家屋改修の為の銀行 ローンは控除 ( 但 し,被告の妻 と被告の収入

で比例配分 したローン支払額を被告の収入か ら減ず る) 。他方,求償通知後のボー

ト購入, 休暇の出費は控除されな

「 賛沢な支出 ( Luxusausgabe ) 」だとす る ( 被

(14)

Sei nesVerm6gens ) を 売 却 す る必 要 は な い と し求 償 を 制 限 した 例 もあ る

2 5

C) 。

更 に, BGB§1611 ‑ 不 道 徳 な行 為 に よ り自 己 の責 任 で要 扶 養 状 態 に 陥 った場 合 の扶 養 請 求 の制 限一 に依 った もの 2 5 d)もあ る。 しか し,判 例 に よ

告の 自己保有分 ( Se l bs t behal t ) も月 1 , 3 00DM と低めに算定 している) 。その結 果,月額 3 6 4 1 , 5 5王 ) M の求償を認めた。

Amt sG Hamburg1 9 9 0 . 9.1 9 , FamRZ1 9 91 ,1 98 6; 原告 は郡老人 ホーム での被告 1, 2の重度要介護の母 に与えた生活保護費の求償を求めた。請求認容。

上記の Amt s G Hage n の説 く老人 ホームでの介護費用 は, §§1 6 01f f . BGB の扶 養義務 には含 まれていないとい う見解 に与す ことはできない。それをはっきりと定 めた規定がない限 り,扶養義務者の負担を公共が肩代わ りす る必要 はない。

2 5C) Amt s G We t t er1 9 90 . 1 0 . 2 9 ,FamRZ1 9 91 , 8 5 2 ;原告 は被告の母 の老人 ホーム 費用 の求償 を請求。その際 に原告 は,被告 は 1 91 85, 61DM の財産 ( 家屋)の内 4, 00 0DM だけを 自分 の為 に保持で きる ( Sel bs t be hal t ) だけだ と主張 した。請 求棄却。( 双方の経済的関係か ら, 或いは不経済 な財産 ( St amm de sVe rm6ge ns ) の処分 は必要 で はない とす る,離婚夫婦 間の扶養義務 にあて られた) §1 5 77Ⅲ BGB の規定 は,他の親族扶養 に も弱め られた形で適用 され る。又 ,BGH ( Fan RZ1 9 8 4 ,3 6 4 ,36 7 ) も,一定の貯え ( Rt i c kl age ) は扶養義務者 にも許 され ると している。被告の夫婦共有の住宅 ( Ei nf ami l i e nhaus ) の修繕, 自動車購入費に は 4, 0 00] ⊃M は充分で はない。被告 は家屋を売却 し, ロー ンを頼 って生活す る必要 はない。当裁判所 は,扶養義務者の貯えを 20 , 0 0 0DM までは許 されると考える。

L G Dui s burg1 9 9 1 . 2.1 5 ,Fan RZ1 99 1 ,1 0 86; 原告 は老人 ホームでの被告 の母への生活保護費を求償。原審で敗訴,控訴。求償額の決定の為差戻後,求償額 を争 って被告控訴。控訴一部認容。被告は妻 とともに家を一軒共有 し,月収 3, 6 50 DM ,賃料収入 35 0DM 。月 1 84, 26] ⊃M は求償 に応 じている。判決が言 うには, 老人ホーム費用が扶養義務の範囲に含 まれないとい う前記注6 2 5 ) bAmt s G Hage n

の見解 は妥 当ではない。 しか し, 自分 にふ さわ しい生活がおびやか され るか,或 いは経済的に耐え難 い不利益 を伴 う場合 は,夫婦共有の家屋 を処分す る必要 はな い。被告 は従来の賃料収入を失 い,却 って 自分で賃料を支払 うことになる。又,妻 の所有権の 自由 も侵害 され る等。更 に,被告が 自分 に残 しておける財産 ( Se l bs t ‑ be hal t ) は,デ ュッセル ドル フ表で はな く,それ よ り高 い社会扶助法での計算方 法 ( §§76f f BSHG による被告の収入,財産 の計算) によるべ きである。( 具体的

には月 20 0 0DM) 0

25d)Ant sG Ge rmer she i m 1 9 9 0 . 4. 5,FamRZ1 99 0 ,1 3 87; 原告 は被告 の 父親 に与えた老人 ホ」ム費を求償請求 した。 被告 は, 父親が被告の幼少時か ら失業, 乱暴,飲酒によ り扶養 ・監護の義務を果たさず,又医師の注意を受け入れず飲酒癖 を改めなか った為要介護状態 となったとして,扶養義務 はない, と主張。裁判所 は 被告の主張を容れて, §1 6 11BG] 〕を適用 して請求を棄却 した。

L G Hannove r1 9 91 . 1.1 7 ,FamRZ1 9 91 ,1 0 94; 原告 は身体障害で老人ホー

ムにいる被告の父親 に与えた生活保護費の求償を請求。被告 は,被告が 1 2 才の時に

父親 は家を去 り全 く面倒を見ず,その為 に被告 は幼少時か ら働 くことを余儀な くさ

(15)

ドイツ法における親族扶養 ( Ve rwandt e nunt e rhal t) と社会保障の協働 221 る極端なケースの救済では不充分であ り,父母に対す る扶養義務 自体が廃止 さ るべきである。両親を扶養すべ き時期 は, 自己の年金拠出,子の扶養 といった 負担が同時にかか って くる時期だか らである。介護保険が実施 されれば確かに 介護費用の限 りでは扶養負担 は軽減 され るが,その ことで却 って他の場合 ( 離 婚 した老母)の親の扶養が不当と感 じられるようになる。老婦人が要扶養 に至 る原因は,家事 ・育児労働が年金 にはつなが らない こと,及び女子の職業参加 の機会の少なさによるのであ り,いずれ も社会 に責任があ り,個 々人が負担す べ きものではな い か らである 26) 〔 A4 3‑4 4 〕 。

さらに父母の扶養義務削除の主張を, シュヴェンツァーは法曹大会後の論文 で大幅に補強 している。即ち,老親の扶養が私人間で争われた裁判例 は全 くな く,すべて社会扶助主体か らす る求償が問題 とな ってお り, しか もその求償権 の行使 は偶然性 にかか っている。例えば公務員では介護費用につ きすでに手当 がなされている。介護保険はこのような不均衡を是正す るが,全面的にではな い。 とい う卯 ま介護保険法による給付 は上限が定め られてお り介護費用全額が 給付 され る訳ではな く,依然 として社会扶助 ひいては求償が問題 となる。離婚 した年金の少ない老婦人のケースでは,扶養義務者が通常の家庭 とは異な り物 質的 ・精神的に恵まれない離婚家庭で育 った子供であることを も顧慮す る必要 がある。最近で は親の扶養 は子 の扶養 とで は全 く問題 とされ る生活関係が異 なっているか ら,扶養義務者の資力の計算か らの 自己保有分 ( Sel bst behal t ) を成年子 に対す る扶養の場合 よりも広範囲に認めてい こうという点では判例 も 一致 している 2 7 a)。 しか し判例の示す控除分 は充分ではな く,個 々のケースで

れた。又,成年後もコンタクトを取る機会を父親自ら退けた等の事情があり,扶養 義務はないと主張した。原審は請求棄却。地裁判決も,父親は被告に対 して親族ら

しい思いやり, 関心を欠いていたとして ,§ 1 61 1BGB を適用して控訴を棄却 した。

26 )Sc hwet z er ,前掲注 ( 1 5 )S. 688f. ,前掲注( 1 6 )S. 61f f .

27 ) 近年の判例では,自己保有分は 1, 60 0 ‑2,1 00 DM/ 月, 夫婦で 3, 0 00 ‑3, 200 DM / 月位が相場だとされている ,Sc hwet ze r ,前掲注( 鳩 S. 62 。ここでも Schwe t ze r の挙げる裁判例を紹介 しておく。

27a) まず,自己保有分を広げる方向を示 した判例とされているのが,前示注e 5 ) a の

BGH と OLG Ol denburg の判決である。

(16)

は求償 が非常 に高額 とな る場合 もあ る 2 7 b) 。 さ らに,妻 の老親 へ の社会扶 助 か らの求 償 の例 で は,妻 が専業主婦 ( Nur‑H早uSf rau) の場合 は「工夫 は妻 の 扶養義務 の扶養 義務 ( 間接 の扶養義務 ) は負 わ ないか ら一一 一求 償 ゼ ロだが,例 え ばパ ー トタイ マ ーな ら収入 全 額 が求償 の対象 とな る事 態 も考 え られ る 2 8)。

そ うな る と妻 の就 業 はひ きあわず,職業生 活 か らの撤退 , ひいて は老後 の要扶

1 , 6 00 ‑2, 0 00DM の控除分を認めた判例 は, 前示注前示注e 5 )C の LG Dui sbur g , 注 脚 a LG Mt i ns t e r 及び以下の二つの裁判例である.

Amt sG Rhe i nbac h1 9 91 .1 0 .29 ,FamRZ1 9 9 2 ,1 33 6; 原告 は老人ホームで 要介護状態の被告の母に与えた生活保護費か ら 1 , 0 46DM/ 月を求償。被告 は 4 48 DM/ 月を自発的に母親に与えているが, 原告の請求 は満額認容 された。 裁判所は, 被告の税引後収入 5, 2 38] ⊃M/ 月か ら, 健康保険料, 職業上の支出, 所有家屋のロー

ン,妻に対する扶養等を差引いて,残額 2, 6 4 4DM をまず算出する。被告は予定 し ている家屋補修費 23, 0 00 ‑25 , 0 00DM の為の積立月 40 0DM の控除等を主張す る が,前示柱脚 Amt sG We t t e r の示す扶養義務者に認め られた 2 0, 00 0DM の貯 蓄は,所有家屋の処分の可否のケースであり、本件のように資産ではな く収入の算 定では問題 とな らないとされた。その結果 ,2, 6 44DM か ら求償額 1, 0 4 6DM を引 いて も 1 , 59 8DM 残 り, 被告に認め られるべき自己保有分 1 , 40 0DM を超えている, と言 う。

Amt sG Al t ona1 9 9 2 .1 0 .2 8 ,FamRZ1 9 9 3 ,8 3 5; 原告福祉事務所は被告の母 親に与えた生活保護費の求償を求めた。請求棄却。被告は結婚 しているが独 自の収 入があり,被告の夫には被告の扶養義務はない。又夫は妻が妻の母への扶養義務を 果 させるだけの為に扶養する義務 もない。被告の扶養能力の計算では,副業収入は 除 くべ きである。 被告 は本職か らの( 秩, 社会保険料等控除後の)手取 1, 80 0DM/

月あると考えて,生活保護が母親に与え られる以前に,ローンを組んで自動車 も購 入 していた。ローンその他を 1 , 8 0 0DM か ら引 くと,既にその額は成年子に対する 扶養義務を負 う親の一方に幾つかの裁判例で も認め られた自己保有分 ( Se l bs t be‑

hal

t

) 1 , 40 0DM を下回ると判決は言 う。その上で判決は ,BGH ( 前掲注C Z 5 ) )は, 必ずその人生のスター トまでの扶養を覚悟すべき子の扶養の為のもので,扶養義務 を負 うか否か もわか らない親の扶養 とは局面が異なっている。親の扶養の基準表は 存在せず,上記の基準 は目安 にす ぎず具体的事業が重要‑‑と説 く,等 BGH の 判 旨を繰 り返す。その結果 1 , 8 00DM が妥当な自己保有分であるとする。そうでな ければ,被告の人生計画 ( 結婚 しており,将来子を持ち自分の家庭の為に貯金する 等)は狂 って しまうだろう,と判示 している。

27b) 前記注 qT ) a Amt s G Rhe i nbach を Sc hwe nt z e r はその例 として挙げている。

28 ) 裁判例の計算方式 は二種類あると ,Schwent z e r は説明 している。第 1は,妻の 自己保有分は夫の扶養義務でカバーされるという方式.第 2 は,双方の収入を合算 し,そこか ら双方の自己保有分合計を減 じ,その額に夫婦の収入の比例配分で割 り 出 した額を求償の対象 とする 。Sc hwent z e r,A.a.0. ,S. 6 3

0

挙げ られているのは ,LG Bi e l e f e l d1 9 9 1 . 2. 5,FamRZ1 99 2 ,5 8 5; ここで

(17)

甲 . ÷ q r..A .・ ̲.⁝ I ..T̲ I̲

ドイツ法における親族扶養 ( Ve rwandt enunt e rhal t ) と社会保障の協働 2 23

養老の再生産へ とつなが りかねない 2 9 )0

又,社会扶助主体か らの親族‑の求償,その結果 もた らされ る親族 との友好 関係の悪化を恐れて,例えば 1 991/9 2 年 のカ リタスの貧困調査で は潜在 的な 社会扶助請求権利者 の 4 3 . 8 パ ーセ ン トが その権利 を放棄 して い る。つ ま り 却 って,親族間に扶養義務が存在す ることで老人が困窮す る結果 となる。加え て,求償 は決 して公共の負担を減 らす訳ではない

求償の実行 はますます困難 かっ費用がか さむよ うにな ってお り,悪質 な義務者が却 って得 をす るよ うに なっている。求償によって社会扶助支出額の 2パーセ ン トが回収 され るにす ぎ ず,かつその中で も老親の扶養義務者か らの求償の割合 は少ない 3 0 ) 0

このように, シュヴェンツァーは法的義務 としての私的扶養が現実に果た し ている役割を示 した上で,親族間の紐帯 は扶養義務 によって強化 されず,却 っ て これを損 うことになると主張す る。又 シュヴェンツァーは,扶養義務の廃止

に反対す る議論の前提 には二つの神話が存在す ると言 う

第一 は,過去 には三 世代家族内で子の監護,老人の介護が行われていたとい う,三世代家族の神話 である。 しか し, ( 先 に も紹介 したよ うに)産業化社会以前 の家族構成員数, 三世代家族割合 も現在 と左程隔 りはなか った。だか ら現在以上 にそ こで三世代 間の相互扶助が行われていたとは考え られない, とい うのが シュヴェンツァー の主張である。第二 は,家庭の崩壊である。 しか し,現在在宅の要介護者の 90 パーセ ン トが家族 によって介護 されているとい う事実か らは,家族間の連帯 は 今 日で も保持 されていると言える。親密な家族関係の下では,扶養義務が削 ら れて も自発的に相互扶助 は行われ る。他方,近年の研究の示す在宅で家族 に介

は第 1 の計算方式がとられている。具体的額は Fam RZ の Anm. によると夫の 収入 5, 00 0DM/ 月,妻 1 , 2 50DM/ 月で求償額 2 9 6DM/ 月であり,第 2 の計算 方式でも求償は認められた例だと言 う。今一つは ,L G Essen1 99 2 . 9. I ll , FamRZ 1 9 9 3 二7 31; 計算方式 2 で,夫の収入 40 5 3 . 4 3DM/ 月,妻 4 40 .49DM/

月, 計 4 49 4. 37DM 。自己保有分 ( Sel bs t behal t ) が夫 1 , 7 0 ODM ,妻 1, 50 0DM ,計 3, 2 00DM 。差額 1 2 94, 3 7DM 中の妻の収入割合 9. 8 パーセントの 1 26 . 85DM が求 償の対象となるとされた。

29 )Schwent ze r, A, a, 0 , , S .61 f f.

30 )Sc hwent z ; e r , A, a, 0. , S. 6 4 f .

(18)

護 され る老 人 の虐待 の増加 を顧慮 す れば,却 って扶養義務 の廃止 は老人 を暴力 か ら守 る こと とな る 31 ', とされ るo結 局 シュヴ ェ ンツ ァ′ 」 は,親族扶 養 を介 す る求償 は社 会保 障 システムの失敗 の結 果 で あ り,かつ求償 によ り却 って良好 な家族 関係 が損 われ る 3 2 ), と結論 づ けて い る

( 3 ) 子 の扶養

未 成年 子 に対 して親 が扶養義務 を負 う点 で は,比較 法 的 に も一致が あ る。 問 題 は成年 子 に対 す る扶 養 義務 の存 否 とその程度 ,及 び継子 ( St i ef ki nder) に 対 して も扶養義務 を拡 大す るのが妥 当か,で あ る 3 3) 〔 A4 4 〕。

① 成年 子 の教 育

成年 子 の扶 養 の 中心 はその教 育 費 で あ るが, BGB § 1 61 0 Ⅱは子 の職業準 備 の為 の教 育費用 を も扶 養義務 に含 めてお り, しか もそ こで扶養権利者 の年 齢 に制 限 は加 え られて いない。 しか し比較法 的 には,多 くの国で一定 の年齢

3

1

) Sc hwe nt zer は Sc hre i ber/ Sc hrei be r, Al t e Mensc hen al s Zi e lXri m‑

i ne l l e rHandl unge ni nderFami l i e,ZRP1 993 ,S, 1 46f f . を示 している

そこで説かれているのは,児童虐待 と並んで ( あまり報道されることはないが)老 人虐待が施設,在宅で広 く発生 していること, しかもその犯罪の発生は特定の社会 層ではな くすべての階層の家庭にわたり,加害 も朕のいきすぎの結果 といった児童 虐待 とは異なり故意の場合が多い。加害者の中では中年以後の婦人が多 くの割合を 占めている等の事情である。要するに,在宅の介護は家族に大 きな負担を与え,そ の下で人格の衝突が起 るということであろう。拙稿 「ドイツにおける公的な老人介 護 システムと私法上の制度 」 『 老人介護 と相続法理に関す る研究報告書 Ⅱ 』老人介 護 と相続法理研究会 ( 乎 6)28 頁以下 ( 第 2 章) ,32 頁以下では同論文 も含めて老 人虐待につき触れておいた。

32 )Sc hwent zer,A.a.0. ,S. 65f f .

なお,社会法の視角か ら子 の親 に対す る扶養義務の廃止を説 く者 として ,Y on Mayde l l前掲注( 4 ) 。そこでは,年金保険等の世代間凍養の負担の重 さといった社 会政策的妥当性の強調 とともに,扶養は扶養義務者の扶養能力の限界 といった意味 か らも元来社会法による補完が予定されてお り介護危険のような過重な負担は親族 扶養に適さない。又,親族扶養は継続的,緊密な親族間の紐帯を前提 とするが,そ の存在 しないところに扶養義務を課す訳にはいかない, として社会保障と扶養の役 割分担が説かれる。その結果,例えば老親の介護危険では,経済的に過重な出指で

はな く精神的監護が子 ( 乃至その家族)にふ さわ しいものであるとされる。

33 )ディータ一 ・へ ンリッヒ 「 扶養法に関する ドイツ裁判所の判例 一不明確な法概念の 充足の試み ‑」田村五郎 ・野沢紀雄訳 , 『ドイツ現代家族法 (日本比較法研究所翻 訳叢書33 ) 』中央大学出版部 ( 1993 )1 37 頁以下,特 に1 49 頁以下は,子の扶養請求

について非常に有益である。

(19)

ドイツ法における親族扶養 ( Ve rwandt enunt e rhal t ) と社会保障の協働 2 25 の限界が設けられている。スイスでは,子が成年時に教育を受 けていたとき にだけ成年子‑の扶養が義務づけ られ る ( Art .277ⅡZGB) 。北欧 とオラン ダでは,教育費につき原則 として 21 歳か ら 24 歳まで両親は責任を負 う

旧秦 独で も教育の為の扶養は相当に限界づけられていた。英米法では成人 ととも

に扶養義務は終了 し,離婚子に限 り教育費だけが もちろん期間制限を伴 って 与え られる。 ドイツで も連邦通常裁判所 は,二番 目の職業教育でかっ非常な 親の負担 となる場合 これに制限を加えてきた。 こういった事情を背景 とすれ ば,教育期間は現実 として ドイツでは長期にわたる点,実際上 この制限が離 婚子に与える教育費を親が値切 る作用を持っ点を考慮 して も,年齢制限は必 要である。例えば 27 歳が妥当ではないか,、 とシュヴェンツァーは提案 してい

る 3 4) 〔 A4 4‑4 6 〕 .

( 診疾病 と障害

21 歳以後 障害者 ( Behi ndert e) が統合手 当 ( Ei ngl i ederungshi l f e)

‑ 障害,要介護者への医療給付,職業給付,社会扶助給付等の総合的サー ビス‑ が与え られるか,施設収容 されたときは,社会扶助法 9 1 条 3 項は両 親に対す る求償を禁 じている。 しか し同条 は以上の限 られた場合にだけ適用 されるにすぎず,障害,疾病を持っ子を両親 は一生涯扶養す る義務があるか ら,そこでは当然社会扶助法上の求償 も行われる。 しか し,生涯にわたる子 の扶養は親の過重な負担であり不当と考え られてお り, こういった評価に基 づいて前述の社会扶助法の求償 も制限されている。 又,同条の存在によって, 却 って他の場合の求償 は異常な感 じを与える。それ故求償制限の評価 は一般 化されるべきであるとして, ここで もシュヴェンツァーは障害,疾病に由来 す る成年後の子の扶養義務を総て削除すべきであると提案す る 3 5) 〔 A4 6 〕。

③失業

今一つ問題なのが,失業或いは ( 例えば離婚 した後に)育児の為に就業で きない子の扶養である。判例 はここで も従前の態度 とは異な り扶養請求の制

34 ) Sc hwent z e r

,前掲注

( 1 5 ) S. 6 90 .

3 5 )Sc hwe nt ze r ,A .a. 0. ,S. 68 9 ,

(20)

限の傾向を示 している。即ち,親に扶養を求めるよりも自分の受けた教育に 合致 しない水準の仕事で も探すよう指示 し,必要な ら居所 も移転すべきだ, マ と・ している。 この要請 は,失業手当,社会扶助受給の際に要求 される就業義 杏 ( Erwerbsobl i egenhei t ) よ りもず っと厳格である。又,育児 に関 して も,判例 は同様の傾向を示 してお り,乳幼児の期間で も保育所に預けること ができれば,母親 は両親 との関係では就業すべ きであるとした例 もある。連 邦通常裁判所の判示によると 「 第三者の負担による母性を介 しての制限のな い自己実現」は認め られない, ということになる。離婚 と労働市場の危険は 両親ではな く社会が負担すべ きであるか ら, ここで も扶養義務は廃止 さるべ

きだ 36 )3 7 ), とシ ュヴェンツァーは言 っている 〔 A4 6‑4 7 〕 。

④継子

ドイツ法は継子 に対す る扶養義務を認めていない。 しか し諸外国は次第に 継子 の扶養を認めつつある。オ ランダは 1 9 5 8 年 に継子 に対す る一般的扶養 義務を導入 した。スウェーデ ン及び英米法では,未成年かつ同居 している継 子の扶養義務がある。スイス法では,継子の実親たる配偶者への扶養義務 ( Art .278ⅡZGB) を介 して,間接的に継子への扶養義務が引き出され る。

ドイツ法で も判例,学説 は従来か ら継子の扶養義務を認めようとしてきた。

36 ) Schwent ze r ,A .a.0.,S. 689 f.

37 )子が失業 した際の社会扶助請求 と親 に対す る扶養義務 との要件の違 いは,扶養 と社 会法 との関係 とい う視角か らよ くとりあげ られてい る。例えば ,Pe t erDer l ed‑

e r,Unt erha l tve rsusSozi al rec

ht

,Recht sgrundsat z e2 1 urUbe rwi ndung der Di verge nzen Y on Unt erbal t s rechtund Sozi al hi l f erec htdurch di e Fami l i engeri c ht s barkei t ,FuR 19 91 ,S. if f . De rl eder は両者 に敵歯がある

こと自体 は問題ではな く,両者の 目的は異 なってお り, しか も社会法 は扶養法の果 たせない ことを積極的に引き受 けてい く傾向にあるか ら,但 し,最近の社会扶助支 出の増大 を契機 に両者 の調 整 が問題 とされて い る, と言 う 。De l eder , A.a O.,S. 1 .

ところで, ここで も失業時の生活保護 申請の際の仕事を見つける義務がゆるやかな

点,又先 に見 た この親 に対す る少 な くとも第一 の職業教育 の為 の扶養請求の強調

は,学校教育で も早期か ら職業教育が指向され ドイツでの仕事が専門職性が強いと

い う事情を顧慮 しては じめて理解がで きるよ うに思われ る。又,子の失業 は国が子

の受 けた教育 に合致 した職場を創設で きない故であるとい う,本稿の紹介で も繰 り

返 し登場す る批判 も同様であろう。

(21)

ドイツ法における親族扶養 ( Verwandt enunt erhal t ) と社会保 障の協働 227 但 し,( 夫婦間の扶養義務を定めた) BGB § § 1 35 3 ,1 3 60a に依 る以外 は, 契約構成が探 られてい る。 しか し,継父母が死亡 した場合 に問題 とな る BGB § 8 4 4 Ⅱ ( 扶養権利者の損害賠償)以外 は、多 くは擬制的な黙示の意思 表示を基礎 とする急場 しのぎの方法で,法的安定 はもた らされない。以上を 顧慮 して, ドイツ法で も継子に対す る扶養義務を法定 して もよかろう

但 し 外国法の例か らも,同一世帯で暮 らす未成年子 に限 り,当然成年子の教育費

は除いて扶養義務を認めるのが良い。かっ こういった制限は,離婚 した婦人 の再婚を妨げることの歯止めにもなる。さらに,実親の負担を減 らさない為 に継親の扶養義務は実親のそれに対 して補完的 と条件づけられるべ きだ, と される 〔 A47‑48 〕 。

以上の鑑定意見 とは反対に,従前の論文ではシュヴェンツァーは親族扶養 の一般的制限だけを主張 し,継子に対す る扶養義務の導入にも反対 していた ( なお,そこでは法曹大会のように親子法の一環 として扶養をとりあげるの ではな く,専 ら親族扶養が問題 とされてお り,かっ非嫡出子の扶養 も論 じら れていなか った) 。その理 由は,離婚女子の再婚機会の減少,仮 に扶養を認 めて も実親 と継親の婚姻期間中に限 られること,婚姻関係が良好な ら自発的 に扶養が与え られる,実親 との紐帯がゆるむ結果 となる3 8 ),であった。 し か し法曹大会乃至は鑑定意見の方針 は,法的親子関係ではな く変化 しつつあ る現実の生活実態に合わせて親の子に対する監護を構成 しようというもので ある だか ら継子に対する共同監護権の承認ばか りか,離婚後の別居実親の 監護権の継続までが論議 されている ( なお,非嫡出子に関 しては,その法的 区別 自体の廃棄が検討 されている)

そ ういった視座か らシュヴェンツァー はここでの扶養義務の拡張は,核 「 家族」内への扶養義務の縮減 ・強化 とい う観点の下では,他の局面での親族扶養義務の削減 という方向とは矛盾 しな い, と言 っている。 シュヴェンツァーの改説 は,現実の親密な家族関係 に合 致 した親子法,ひいては扶養法の規律 という法曹大会の基調 と軌を一に した

3 8 )Schwe nt ze r,A.a.0.,S. 6 9 0 f 。

(22)

ものと言えよう。その意味では,従前のシュヴェンツァーの危慎,継親の扶 養義務の導入による実親 との紐帯の弛緩は,却 って望ま しいということにな

ろう

⑤成年子に対す る扶養方法の決定権

BGB § 1 61 2 Ⅱは,未婚の子に対す る親の扶養方法の決定権を定めてお り, 同条は未成年子のみな らず成年子にも適用される。 しか し,同条は ドイツ法 特有の規定であり,外国法では場合によっては現金に代 る現物扶養を裁判官 の裁量に委ねているという例があるにす ぎない。立法者意思は同条により子 の生活の仕方に対する親の影響力を確保 させることであり,かっ今 日で も未 成熟の子への親の監督の必要性を説 く学説 もある。 しか し,多数説 は従来か ら同条 は成年子 については憲法違反の疑いがあるとか,いずれにして も経済 的理由による制限に限 られるべ きであるとしてきた。判例 も成年子では,双 方の関係が冷却 していればその原因を問わず子の自律性を尊重 して,同条 2 項 2文に依 り親の決定の変更を命ず る傾向にある。 ところで,実は判例で問 題 となっているのは, うま くいっている家庭ではな く,別居又は離婚 してい る家庭での紛争である。つまり両親の不和が子の側 にしわよせされているの だが, 判例 はこの問題性を充分捉え切 っていない。 更に, 非嫡 出子の父親が, 現金 に代 る現物扶養を示 して扶養義務 自体を免れようと企て るケース もあ る

それ故,同条の扶養方法の決定権 は例外的場合を扱 うものと考えるべ き であ り,又成年子に対 して も親の経済的事情か ら同居を求める他ないときは 別 として,原則 として親 は現金扶養の義務を負 うと解す必要があろ う

立法 論 としては,成年子につ き同条は廃止すべきである 〔 A4 8‑5 0 〕。

⑥嫡出子 と非嫡 出子の区別

BGB § 1 6 1 5 a は非嫡出子にも嫡出子扶養の一般規定を指示するが, § 1 65

6 以下で は,例えば通常の扶養 ( Rege l unt e rhal t ) ‑ 非嫡 出子 に対 して

は父親 は子が質素な生活を送 るに充分な扶養を与えることで足 る‑ ,一時

金 の支払 による扶養 ( Abf i ndungs v er t rag , § 1 61 5eBGB) 等の特別 な

規定を置いている。 しか し,外国法では今 日こういった区別 は行われていな

参照

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