研究レビュー
老舗企業研究の新たな展開に向けて
一経 営戦 略論 にお け る解 釈 的 アプ ローチ か ら一
甘keNew P紺SPeC愈息veoG配esea陀払omO恩威窓Sも盈毎且最she戚Compamies;
ForlnterpretiveApproachonStrategicManagement
加藤 敬太 (KeitaKATO) 大阪大学大学院経済学研究科 博士後期課程
1.は じめ に
わが国には,近代化過程 を乗 り越 え不老長寿 の経常 を維持 して きた老舗 企業が数多 く存在 し,近年,経営学や経営史,社会学の分野にお いて老舗企業 を対象 とする研究の一定の蓄積が み られる。一方,欧米において も,同族企業の 長期的存続‑の関心が高 ま りつつあ り,わが国 における老舗企業研究の理論的発展が更に求め られている
1
。本稿 は,近年,関心が高 ま りつつある老舗企 業 を対象 とした既存研究の論点 を整理 して,こ れ らの方法論 を超克 し,新 たな研究アジェンダ を示す ことを目的 とす る。既存の老舗企業研究 の理論的前提 は,機能主義的組織 シンボ リズム 論 に依拠 し,老舗企業の平均的姿 を示す ことに 主眼が置かれている。そ こでは,個 々の老舗企 業の長期存続 メカニズムの経時的プロセスの解 明は行われていない。本稿 は,老舗企業の平均 的姿 を示すのではな く,さまざまなタイプの老 舗企業が存在す ることを率直に認め,個 々の長 期存続 プロセスを論 じる方法論 を提案する。
本稿 の構成 は, まず,老舗企業研究 を初期 と
1 99 0
年代以降に分けて レビュー し,全体 を通 じ た共通点を示す。そ して,既存の老舗企業研究 の理論的前提の検討 を行い,限界 について指摘 する。その うえで,老舗企業研究の新 たな研究 アジェンダとして経営戦略論の立場か ら解釈的 アプローチを提案する。盟。老舗企 業研 究 の展 開
2, 1
初期の老舗企業研究1 970
年 に京都府 開庁100
年 を記念 して,京都 府の手によってまとめ られた 『老舗 と家訓』 と い う,京都府下の老舗企業 に伝 わる史料 をまと めた大著がある (京都府,1 970)
。 この見開 きB4
版,700頁以上 に も及ぶ研 究が,おそ らく わが国の老舗企業 を対象 とした研究の先駆 けに なるであろう。 この研究では,京都府下の創業 か ら1 00
年以上の歴史のある企業 を対象 に家訓 や店別等の整理,分析が行 なわれている。研究者の手 による老舗企業の本格的研究の端 緒 といえるのが足立
( 1 97 4)である。足立 は,
老舗企業が数多 く存在す る京都 において,老舗 の家訓の分析 と家業経営 を経営史的に論 じた。具体的には, まず京都の商人形成の史的展開を 詳細 に論 じ,その うえで家訓,店別の分析, く わえて,相続制度,別家制度,奉公人制度,秩 仲間制度など組織的側面 を詳細 に分析 し, さら に
,3
社 の家業経営の具体的分析 を行 っている。 足立の研究は,研究者の手による本格的な老舗 企業研究の先駆 けとして高 く評価で き,これほ ど多岐に渡 る研究はその後 をみて もない もの と いえる。足立の研究に続 くもの として,松本
( 1 9 77)
, 松本 ・山本( 1 978)
,松本( 1 979)
をあげることがで きる。 この一連の研究は,社会学の家族 研究の立場か ら中野
( 1 96 4)
による商家同族団L研究レビュ1 老舗企業研究の新たな展開に向けて [加藤敬太]
33
の研究 を受け,京都市内,全 国の主要都市部, 地方 (京都市 を除 く,京都府下) に存在する老 舗企業に対 し,その実態 と分別家の問題 を扱 っ ている。なかで も目を引 くのは老舗の相続形態 の特異性である。老舗のなかには,時 として養 子 による相続がみ られることを指摘 し,老舗は
「家」 としての性格 を持 ち合 わせ ているとい う 指摘がなされている (松本
,1 9 7 7 ) 。
経営学者による老舗企業研究の先駆 けは小松
( 1 9 8 7)
である。小松 は,「暖簾」の研究 (小松,1 9 7 5,1 9 8 6 )
の一環 として,老舗企業 における 暖簾の形成メカニズムの実証的研究 と老舗企業 の実態調査 を行 った。そ こでは,全国2 42
社か ら得 られたア ンケー ト調査の結果 をもとに,老 舗企業の概要,構造的側面,意識 ・行動的側面, 経営理念,当面の問題‑の取 り組みに分けて分 析 している。小松 は,対象企業の約9
割が専業 企業 という結果を得て,老舗企業の典型 は専業 企業であると指摘 している。以上,初期の老舗企業研究 を概観 した。 ここ までみた研究 を補足すれば,足立の研究 を除 き, 老舗企業に関する先行研究が無いなかでパ イロ
ッ ト調査 的 な意味合 いが強 い とい う特徴 があ る。
2. 21990
年代以降の老舗企業研究の展開1 9 9 0
年代以降の老舗企業研究は,初期の研究 とは無関係に定量的な実態調査が次々と出され た (蘇,1 99
1;間鴨,1 992,1999;
水 谷 内,1 9 9 5 ;
神 田 。岩崎,1 9 9 6 b;I wa s a kia ndKa nda
,1 9 9 6 ;
横棒編,2 0 0 0 ;
関西国際大学地域研究所,2 0 0 4) 。
森
( 1 9 91 )
は, 日本 における経営理念の史的 展開をまとめたあ と,大阪に存在す る老舗企業 の経営理念に関 して定量調査 と訪問調査 を行 っ ている。間鴨( 1 9 9 2,1 9 9 9 )
は,岡山に存在す る老舗企業の実態調査 を行 っている。 この研究 では,地域文化 と老舗企業の関わ りを意識 した 主張 を展 開 しているものの,具体的な考察には 至 っていない。水谷内( 1 9 9 5 )
は,老舗企業が 多 く存在する金沢 と京都の2
都市 における老舗3 1
企業家研究 (第5
号) 2008.6企業 を対象 とした実態調査 を行 っている。 この 研究では,老舗企業 と社会貢献活動 に関 した調 査が行われてお り,他の研究にはみ られない特 徴 といえる
2
。神 田 ・岩崎( 1 996b),I was a ki a ndKa nda
,( 1 9 9 6)
は,後述す るように経営 戦略論の立場か ら老舗企業 を分析 した ものであ る3
。 この研 究では,全 国にある老舗企業9 0
社 に対す る実態調査 に基づいた分析がなされてい る。横棒編( 2 0 0 0 )
は,全国にある老舗企業7 4
礼‑の実態調査 をもとに,戦略,マーケテイング,社 会 的存 在 , リス クマ ネ ジメ ン トな ど, 様 々な角度か ら論 じている
4
。関西 国際大学地 域研究所( 2 00 4)
は,全国にある老舗企業61 8
礼‑の実態調査 を行 っている。 この調査の主な 項 目は,「①経営革新性 と保守性② 商慣行③地 域貢献④商圏 ・技術の変化⑤取締役,創業者一 族の割合⑥地域密着性 (本社所在地の特徴)② マネジメン 吊 旨標( 26
項 目)⑧経学 の重視点5
(9長期取引関係の特長⑲経学障害 と解決策⑪ フ ェー ス シー ト」 (関西 国際 大 学 地 域研 究所 ,
2 0 0 4, 3
頁)である。 この研究は,サ ンプ リング数が他 の研 究 よ り断然多 い こ とが指摘 で き る。以上の老舗企業の実態調査 に共通するのは, 老舗企業の定義 を創業か ら
1 00
年以上経過 した 企業 としている点 と中小規模の企業 を対象 とし ている点である。また, この時期,経営戦略論の観点か ら老舗 企業 を対象 とした研 究が現れた (神 田 ・岩崎,
1 9 9 6 b;I wa s a kia ndKa nda,1 9 9 6 ;
本谷,1 9 9 7
,1 998,2003)
。 これ らの研 究 は,本谷( 2003)
を除 き6
, 「コア 。コ ンビタス論」 ( Pr ahal ad
a ndHa me
l,1 9 9 0 ; Ha me la ndPr a ha l a d,1 9 9 4)
や 「ビジ ョナ リー ・カンパニー」 ( Co l l i nsa nd
po r r a s ,1 9 9 4)
,「リビング ・カンパニー」 ( de
Cue s,1 997)
といった世界 的に注 目された著 作の影響 を受け提 出された ものであると考え ら れる。その理由 として,Pr a ha l a da ndHa me
l,Ha me la ndPr a ha l a d,Co l l i nsa ndPo r r a s ,de
Gues
らの研 究 は企業 の持続 的競争優位性 とは 何 か を明 らか にす るこ とに主眼が置かれてお り,これを受け,神田 ・岩崎や本谷の研究で も老舗企業 における長期存続 と持続的競争優位性 を結 び付 け,経営戦略論の文脈か ら論 じた もの であるといえるか らである。
その証拠 に,神 田 ・岩崎
( 1 9 96b)
は,企業 に とって存続す るためには経営戦略が重要であ る と主張 し,Hame landPr ahal ad
とCol l i ns a ndPo r r a s
を紹介 しなが ら,競争他社 に対す る 持続 的競争力 をもつ ことが経営戦略のエ ッセ ン ス と強調す る。 また,本谷( 1 9 9 7)
は,老舗企 業の長い歴 史において蓄積 して きた暖簾,技術 , 販売方法 といった資源 は模倣困難で競争優位 を 確立 している と強調す る。 これは,Ha me la nd Pr a ha l a d
の主張 を もとに展 開 している もの と考え られ る
7
。 さ らに本谷( 1 9 98)
で は,神 田 。 岩崎( 1 996 b)
な らびにdeCue s ( 1 9 97)
を レビュー した うえで独 自に老舗企業の存続要因を 設 定 してい る
8
。 よって, これ らの研 究 で は, 老舗企業 にみ られる独 自の暖簾,家訓,経営理 念,製品,技術 といった資源が持続的競争優位 の源泉である といった分析が なされている とい える。さらに指摘 で きるのは,神 田 ・岩崎や本谷 に よる経営戦略論か らの研究だけではな く,先 に み た 実 態 調 査 の 研 究 群 で も
Prahal ad and 貰ame l ,HamelandPr ahal ad,Col l i nsand Po r r a s ,deGue s
のいずれか を参考文献 とす る か, ない しは関連文献があげ られてお り,大 き く影響 を受 けてい る とい える9
。つ ま り,1 99 0
年代以降の老舗企業研究群 は,老舗企業 にみ ら れる暖簾,家訓,屋号,伝統的商品,創業者一 族 と相続 関係 といった特徴 的な側面 と長期存続 とい う実績が結 び付 け られた研究が主流 となっ た といえる。2. 3
老舗企業研究の共通点初期の老舗企業研究 は,経営史,社会学,経 営学 といったそれぞれの立場か ら老舗企業の実 態調査 を行い,多 くは老舗企業研究の先駆 け と
して,パ イロ ッ ト調査 的 な意味合 いがあ った。
また
,1 9 9 0
年代以降は,Pr a ha l a da ndHa me
l,Ha me la ndPr a ha l a d,Co l l i nsa ndPo r r a s ,de
Gues
の影響 を受 けた研 究が次 々 と生 み出 され た。以上の老舗企業研究の展 開は,けっ して体系 だった ものではな く,各 々の 目的や関心 に基づ いた実態調査的な研究で もあった。 しか し, こ れ らの研究の全体 を通 じて老舗企業 を捉 える共 通点が見 出される。
第
1
に指摘 で きるのは,老舗企業 に対 してわ れわれが一般的に抱 く暖簾,家訓,屋号,伝統 的商品,創業者一族 と相続 関係 な ど,いわゆる シンボ リックな諸側面 に分析 の焦点 を当ててい ることである。つ ま り,老舗企業の内部資源 を 中心 に分析がなされていた。第 2は,老舗企業 にみ られるシンボ リックな 諸側面 に対す る分析 の観点が老舗企業の現状 に おける平均的な姿 を提示す ることに主眼が置か れていた。つ ま り, この ようなシンボ リックな 諸側面 を現在 に到 って存続す る老舗 の特殊性 と
して扱 い,現状分析 に終始 していた。
第
3
は, シンボ リックな諸側面 を老舗の特殊 性 として捉 え,長期存続 とい う実績 に対す る要 因 として分析 されていた こ とであ る。つ ま り, 多 くの老舗企業 に共通 してみ られるのが上記のようなシンボ リックな諸側面であ り,それ らを 因果論的に長期存続 とい う実績 に結 びつ けた議 論が主 な論点であった。
この ように,既存の老舗企業研 究 に共通す る のは,長期存続 に至 る原因を現在 に残 るシンボ リックな諸側面 に求め,平均的な姿 を法則定立 的
( Bur r e la ndMo r ga n,1 9 7 9 )
に明 らかにす ることに主眼が置かれていた といえる。そのた め,老舗 の シンボ リックな諸側面 を変数化 し長 期存続の機能的要因 として捉 えた定量研究が主 流 となっている10
。その際,老舗企業の定義 を 創業か ら1 00
年以上経過す る企業 とし, この定 義 に該 当す る企業のサ ンプ リングを行 うといっ た手法が とられている11
。以上か ら,既存 の老舗企業研究 は,長期存続 とい う実績 をシ ンボ リックな諸側面の機能的要 因に結 びつけた分析 を行 っている点が共通 して いる といえる。次節では,その理論的背景 を検
L堅 牢 レビュー 怪 舗企業研究の新たな展開に向けて [加藤敬太]
35
討す る。
3.
老舗 企 業研 究 の検 討3暮 1
老舗企業研 究 と機能主義的組織 シンボ リズ ム論前節 までに指摘 した ように,既存の老舗企業 研究が注 目したのは,暖簾,家訓,屋号,伝統 的商品,創業者一族 と相続関係 な ど,老舗 とし ての シ ンボ リックな諸側面 であった。 そ して, これ らシンボ リックな諸側面 を機能的要 因 とし て捉 え,有効作用 した結果,長期存続 とい う実 績 に結びついた といった主張が主 な論点であっ た。 よって,われわれは,既存 の老舗企業研究 は機能主義的組織 シンボ リズム論 を展 開 しなが ら長期存続の要因を分析 した もの と言い換 える ことがで きると考 える。
組織論 における組織 シンボ リズムの研 究 は, 大 きく,機能主義的 シンボ リズム論 に基づ くも の と解釈学的シ ンボ リズム論 に基づ くものに分 け られる
( J o ne s ,1 9 9 6 )
。機能主義の立場か ら 組織 シ ンボ リズムの研 究 を行 ったDandr i dge
( 1 9 83)
によれば, シ ンボルの タイプは3
つ あ るとし,それぞれ,神話,伝説,物語,ス ロー ガ ンなどの言語的な もの,儀礼 的行為 ,通過俄 礼 な どの行為 的な もの,ステー タス ・シンボル, 製品, ロゴな どの物 質的 な もの に分 け られ る。 老舗企業研究で考 え られている老舗 の シンボ リックな諸側 面 を
Dandr i dge
に従 って分類 す れ ば,屋号,家訓,店別 な どが言語 的 シ ンボル, 創業者一族支配や技術 の伝承 な どが行為 的 シン ボル,伝統的製品,伝統的な生産装置 な どが物 質的 シンボルにあたるといえる。機能主義的組織 シンボ リズム論の特徴 は,上 記の ようにシンボルを機能別 にタイプ分 けす る だけではな く, シンボルその もの を客観的実在 物 として捉 え, シンボルが機能 として働 いた と
きシステム としての組織が維持存続す る とい う もので あ る
( Morgan,Fr os tand Pondy
,1 9 8 3 ; J o ne s ,1 9 9 6 ;
坂下,2 0 0 2 )
。 これは,社会 学 における機能主義 に基づ くものである。3( 1
企業家研究 (第5
号) 2008.6社 会学 にお け る機 能主義 の代 表格 とい え る
Pa r s o ns
は, システム全体 の均衡 と維持存続 を 解明す る もの として機能要件分析( AGI L
図式)12
を示 した( Pa r s o nsa ndSme l s e r ,1 9 5 6 )
。 ま た,Me r t on ( 1 9 49)
も機 能主義 の中心 的 な概 念 を 「有機体 の維持 に役立つ とい う観点か らみ た生命 的 また は有 機 的 な過程」 (Mer t on
,邦 釈 :1 9 61 ,1 8
頁) としている。 この ような機能 主義では, システム (体系 の構造) に対す る変 数 を機能 とし,その機能が システムの維持 に貢 献す るか否か とい う観点で捉 え られる。よって, 既存 の老舗企業研究では,老舗 の シンボ リック な諸側面 を機能 として変数化 し,それが有効作 用 した ときシステムの維持 とい う意味で長期存 続 に至 った とい うことが前提 とされている。た とえば,足立
( 1 97 4)
は,史料 に基づ き, 家訓,店則,相続制度,別家制度,奉公人制度, 株仲 間制度 といった項 目ごとの詳細 な分析 を行っていが, これ らの項 目を長期存続 に至 った機 能的要因 として有効作用 した とい う点が議論の 前提 になっていた といえる。 同様 に して,松本
( 1 97 7 )
,松 本 ・山本( 1 9 7 8)
,松本( 1 9 7 9)
の 研究は,老舗企業 を 「家」 として捉 え,創業考 一族の血縁 関係 と家の存続 を分析 した。これは, 老舗の創業者一族支配 とい うシンボ リックな一 側面 を長期存続 に有効 な機能 として捉 えた分析 であった といえる。小松
( 1 9 8 7)
や1 9 9 0
年代以降にみ られる老舗 企業の実態調査 において も同様の ことを指摘 で きる。た とえば, これ ら実態調査 のア ンケー ト 項 目の多 くには,家訓や社訓,社是 な どを問 う 項 目がある (小松,1 9 8 7 ;
間鴨,1 9 9 2 ;2 0 0 0 ;
水 谷内,1 9 9 5 ;
神 田 ・岩崎,1 9 96 b;I wa s a kia nd Ka nda,1 9 96 ;
横棒編,2 0 00)
。 さらに,家訓, 社訓,社是の有無 に加 えて役割 を問いかける項目があげ られている。つ ま り,老舗 における家 訓,社訓,社是 といった明文化 された経営理念 が存在すれば,それが如何 に長期存続の要因 と して有効 に機能 しているか どうかが分析 の観点 になっているのである。
また,多 くの研究では,長期存続 に至 る最大
の要 因 を商 品,技術 ,顧客 ,創 業者 一族 な どあ らか じめ設定 した項 目か ら選 ばせ る質問がみ ら れ る (小桧
,1 9 8 7 ;
水 谷 内,1 9 9 5 ;
神 田 ・岩崎 ,1 996b;I was akiandKanda,1 996;
横 揮 編 ,2000)。調査 対象 に対 して老舗 の シ ンボ リ ック な諸側 面 をあ らか じめ提 示 す る手法 自体 , シ ン ボ リックな諸側面 を長期存 続 に至 った機 能的要 因 として捉 えてい る とい える。
道 に,老舗 企業研 究が機 能主義 に基づ くもの で あ る以 上 ,
Mer t on
が 主 張 す る よ うな逆 機 能 へ の注 目もみ られ る。本谷( 1 9 9 8)
は,老舗 企 業 には単 に存続 して きた企業 とそ うで はない企 業 が あ る と指摘 す る。 なぜ な らば,老舗企業 の なか には老舗 としての強みや優 位性 を生 み 出す はず の要 因が逆 に成功す るため に と りうる戦略 を制 限 して しまい,単 に存続 す るだけの戦 略 し か展 開 で きな い 企 業 が あ る こ とを指 摘 して い る。 つ ま り,本谷 の主張 は,老舗 と してのあ ら ゆ る機 能 的側 面 の逆 機 能 を論 じて い る とい え る。同様 に して,実態調査 の なか に も老舗 の逆機 能 に注 目 した もの が み られ る 。 神 田 ・岩 崎
( 1 996b)
に よる, ブ ラ ン ド,技 術 ,体 質 ,古 くさい イメー ジ,地域社 会 とのつ なが り,伝統 的商 品 な どが老舗 としての強み になってい るの か,逆 に弱 み になってい るのか とい った問いか けや,小松( 1 9 8 7 )
や水 谷 内( 1 9 9 5 )
に よる老 舗 であ る こ と自体 が重荷 か どうか との問いか け にみ られ る。 ようす るに,既存 の老舗企業研 究 は,機 能主義 の立場 か ら老舗 の様 々な シ ンボ リックな側面 に注 目 し,機 能 的 に働 いて きたのか, ない しは道機 能 として働 いてい るのか どうか を 分析 して きた もの とい える。
3, 2
老舗企 業研 究の限界ここまで,老舗企業研 究 の学説 的展 開 を追 い, これ らに共 通 す る理論 的前提 を検 討 して きた。
われ われ は,既存 の老舗 企業研 究 の限界 と して
3
点 を指摘 したい。第1に,既存 の老舗 企業研 究 は,老舗 の シ ン ボ リ ックな諸側 面 を機 能主義 的観 点か ら長期存
続 に結 びつ けた法則 定立 的分析 に よって,現状 の平 均 的 な姿 を示 す こ とに は成功 して きたが , 個 々に老舗 企業 をみれ ば多様 な存在 が あ るこ と
を認 めてい ない。加 藤 (2006)に よれば,伝 統 の遵守 を頑 なに守 る老舗 もあれ ば,近代 化 や戦 後 の環境 の劇 的 な変化 に適応す るため に斬新 的 な変 革 を遂 げた老舗 ,財 閥の ように多 角化 を促 進 し続 け る老舗 な ど多様 な存在 が あ る と指摘 し てい る。 よって,老舗企業 の シ ンボ リズム を中 心 と した平均 的姿 を提 示す るだけに留 ま り,多 様 な存在 が説 明 されてい ない。
第
2
に,既存研 究 は,老舗 企業 の現状 の平均 的姿 と長期存続 の実績 を因果論 的 に説 明す るあ ま り,長期存 続 プ ロセスその ものの メカニズム は解 明 しきれ てい ない。つ ま り,老舗企業 の現 状分析 に終始 し,長期存続 プ ロセスの経 時的分 析 は行 ってい ないのであ る。 よって,老舗 の シ ンボ リ ックな諸側面 は,現在 に残 る姿 ,形 であ って, どの ように して作 られて きたのか,守 ら れ て きたのか, また は変容 して きたのか とい う 点が説 明 されてい ない。第
3
に,既存研 究 は,シ ンボ リックな諸側面 , つ ま り老舗 企業 の内部資源 の分析 が主 な論 点で あ るため,個 々の老舗企業 を取 り巻 く環境 ,時 代 変化 ,競争 関係 等 の コ ンテ クス トが考慮 され てい ない。ようす るに,既存研 究 の方法論 で は, 現在 の老舗 企業 の多 くにみ られ る シ ンボ リックな諸側 面 の平均 的姿 を提 示 して,内部資源 の共 通項 が見 出せ て も,組織外 部 の コ ンテ クス トの 異 同は描 き出せ てい ない。
以上 か ら, われわれ は,既存研 究 の 限界 を超 克 し,老舗 企業 の多様 な存在 を認 めた うえ,対 象 とす る企業 に対 し長期存続 プロセスの経時 的 分析 の必要性 を主張す る。つ ま り,老舗企業 の 組織 の内外 の コ ンテ クス トを読 み解 き, さ らに 時 間軸 を合成 して,長期存続 メ カニズ ム を明 ら か にす る ア プ ロー チ を提 示 して い く。 そ こで, 次節 で は,既存研 究 の法則 定立 的 アプ ローチ に 対略 し 「解 釈 的 アプ ローチ」 として,個 々の老 舗 企業 の長期存続 メ カニズム を読 み解 く個性 記 述 的
( Bur r e la ndMo r ga n,1 9 7 9 )
な方法論 を1研究 レビュー 1老舗企業研究の新たな展開に向けて [加藤敬太]
37
提示する。そこでは,経営戦略論の立場か らの 研究アジェンダが提示 される。
4
。老 舗 企 業研 究 の解 釈 的 ア プ ローチ に向 けて4. 1
老舗企業の捉 え方すでに指摘 したように,老舗企業の多様性 を 考慮すれば,老舗企業 とは多様 な捉 え方や定義 がで きる。 しか し,長期存続 とい う実績 を築い て きてい る とい う点 において異論 はないだろ
う 。
このような老舗企業 に対 して宮本
( 1 981 )
は,「
『Lにせ』,老舗 は 『為以せの儀』で,父祖伝 来の業 を守 り,継 ぎゆ くことである。それには 元来む しろ守成の意味があ り,数代つ ぎ来った 家業 とい うことになる」 (宮本,198
1, 4
頁)と述べ, さらに 「多 くの老舗が明治以後,有効 に商売がえをな し,他 に手 をのば し,はなばな しい転換 をやってのけている。みな古いのれん に新 しいいぶ きを吹 き込んでいった もの といえ る」 (宮本
,198
1, 6
頁) とい う。す なわち, 老舗は 「守成」の精神 を守 りなが ら長期的に事 業を継続 し,時には状況に応 じて実践的に資源 の組み換 えを行 って きた といえるのではないだ ろうか。もちろん,既存の老舗企業研究が注 目して き たようなシンボリックな諸側面は,多 くの老舗 企業に残 っているのは確 かである。だが,われ われは,老舗企業のこの ような組織内部にみ ら れる諸側面 を長期存続 に有効 な機能的要因 とし て因果論的に捉 えるのではな く,長期存続 プロ セスその ものに焦点 を当てる。その際,組織内 部だけではな く,歴史,時代背景,時代変化, 文化,競争関係 といったあ らゆるコンテクス ト
を読み解 きなが ら個性記述的に分析 を行 うこと を主張する。それが,老舗企業研究における解 釈的アプローチである。
た とえば,多 くの老舗企業研究で着 目されて いた老舗のシンボルの1つの家訓に関 して,近 世の商家 を研究す る安 岡
( 1 978)
は,「家の管38
企業家研究 (第5
号 ) 2@@8.番理 について心得 てお くべ き教訓の ような もの」
(安 岡,1
978
,3
頁) とい う。 この安 岡がい う「教訓」 とい う言葉 には,個 々の商家において, あ らゆる状況 を考慮 して定め られた極めて実践 的なニュア ンスを含んでお り,単純 に 「家訓が あったか ら長期存続 につながった」 と結論付 け
られないのではないだろうか。
また,米村
( 1 999)
は,家訓 と同 じく商家の 家法の1
つである家憲に関 して,明治期以降の 近代化 という社会環境の変化のなかで,家の存 続志向を背景 として生み出された もの と指摘す る。 さらに,老舗企業研究の多 くが注 目したシ ンボルの1
つ であ る創 業者一族支配 に関 して ち,困難な状況が訪れた場合 は,家の存続 を優 先するのがわが国の商家の特徴であると指摘 し ている。つ ま り,既存研究が注 目したシンボ リックな 諸側面が長期的に残 って きた として も,環壇の 変化のなかで歴史や社会 に埋 め込 まれなが ら残 って きた以上,宮本が指摘す るように,守成の 精神 を持 ちなが らも絶 え間ない戦略の変化や資 源の組み換 えがあった といえる。 また,時には 生 き残 りのために断絶的な戦略の変更 を余儀 な くされた老舗企業 も数多 く存在す ることは容易 に推察で きる。
図1:既存の老舗企業研究と解釈的アプローチ
(老舗の平均的姿) (既存の老舗企業研究)へ老舗企業への解釈的アプローチ) 個 々の長期存続 プロセス
⇒経 時的分析 出所 :筆者作成
図1は,既存の老舗企業研究のアプローチ と 本稿 で主張す る解釈的アプローチ を対比 させて 示 した ものである。既存 の老舗企業研究 は,現 状 の断片的な把握 だけで老舗企業の長期存続性 を議論 してい る とい うこ とはすで に指摘 した。
しか し,解釈的アプローチでは,対象 となる老 舗企業の時代時代 の実践的活動の歴史的展 開を 紐解 き,その うえで長期存続のメカニズムを明 らかにす る必要性 を主張す る。つ ま り,解釈的 アプローチは,老舗企業 を多様 な存在 として捉 え,対象 とす る個 々の企業 を巡 る歴史,時代背 景,時代変化,文化,競争関係 といったあ らゆ るコンテクス トを含 めた長期存続 プロセスの意 味の理解 を目指 している
13
。4. 2
解釈的アプ ローチに基 づ く研 究アジ ェンダ‑経営戦略論の視点 から‑
そ こで,本稿 で主張す る老舗企業‑ の解釈 的 アプローチ は どの ような ものなのか経営戦略論 の立場か ら提示 してい く。
経営戦略論の分野 において,戦略の変遷 の歴 史的 な展 開や戦 略 の変革期 を論 じた研 究領域 は
,
「ゲ シュ タル ト戦略( ges t a l ts t r at egy)
」( Mi nt zber g,1 9
72,1 977;Mi l l er,1 98
1)早「コ ン フ ィ ギ ュ レ ー シ ョ ン ・ア プ ロ ー チ
( c o nf i gur a t i o na ppr o a c h) 」( e . g.Me ye r ,Ts ui a nd賀i ni ngs ,1 99 3 ;Mi l l e r ,1 9 86 ;1 9 9 0;1 9 96 ; Mi nt z be r g,1 9 8 9 ;Mi nt z be r g,Ahl s t r a nda nd La mpe l ,1 9 9 8)
,時 間ベース分析( t i me ‑ ba s ed anal ys i s)
に基 づ い た 「戦 略 の プ ロセ ス論 」( e . g.Pe t t i gr e w,1 9 9 0;1 9 9 2)
といわれ る もの である。 これ らの研究領域 は,戦略の変革や変 遷 を論 じた ものであ り,漸進的な変化 だけでは な く,急進的,断絶的な変化 に も注 目した分析 が行 われている( Mi nt z be r ge t .a
l,1 9 9 8 ) 。
ゲ シ ュ タル ト戦 略 を展 開 した
Mi nt zberg ( 1 9 7 2 ;1 9 7 7 )
は,戦略形成 プロセス を記述 的か つ経時的配列 として分析 を行 った。 この戦略形 成 プロセスの経時的配列 における一定期 間にみ られ る戦略形成 プロセスがゲ シュタル ト戦略で ある。ゲ シュ タル ト戦略 は,組織 内の創発 的な戦略 と中核 的戦略 を相互補完的に連結す る戦略 として位置づ け られる
。 1
つのゲシュタル ト戦 略 は,ある一定期 間,組織 の成員の統合 を引 き 出す ものであるが, ひとたび環境が変化 して組 織 内の非統合が生 まれ るとゲシュタル ト変化が 起 こ り,強力 な リー ダーシップの もと新 たなゲ シュ タル ト戦 略 の確 立 が な され る とされ る。Mi nt z be r g
によるこの主張 は,戦略の意思決定 プロセスの変化 を歴史的展 開のなかで論 じた も のであるといえる。さ らに,
Mi nt zbe r g
に よるゲ シュ タル ト戦略 を発展 させ た研 究群 が コ ンフ ィギ ュ レー シ ョ ン ・アプローチである。 この研究群 では,組織 を環境,戦略,構造,文化,信念 な どが タイ ト に結合 した システム として捉 え,組織がある安 定的な状態であるときをコンフィギュ レーシ ョンの状態である とす るものである。そ して,級 織があるコンフィギュ レー シ ョン状態 か ら次の コンフィギュ レー シ ョン状態 に移 る変革 プロセ ス を経 時 的 に論 じてい く
( Mi nt z be r ge t .a
l,1 99 8)
。 と くに このアプローチでは,漸進的 な 変革ではな く,断続的で飛躍的な変革 として組 織 変 動 を捉 え る 特 徴 が あ る( Mi l l erand Fr i e s e n,1 9 8 0)
。そ こに,このアプローチでは, 企業の戦略 を含めたさまざまな要素 を考慮 した 歴 史的展 開,つ ま り組織変動が論 じられている のである。もともと, コンフィギュ レー シ ョン ・アプロ ーチが生 まれて きた背景 として, コンテ ィンジ ェ ンシー理論のア ンチテーゼ としての側面があ る
( Meyere t .a
l,1 993;Mi l esandSnow
,1 9 7 8 ;Mi l l e r ,1 9 81 )
。それは, コンテ ィンジェンシー理論の環境決定的で非変動的な性格 を批 判 し, コンフィギュ レー シ ョン 。アプローチで は戦略形成 プロセスな らびに組織変動が議論の 焦点 となっているのである。 しか し,その後の コンフィギュ レー シ ョン ・アプローチの理論的 発展 は, コンフィギュ レー シ ョンの詳細 な分類 や類 型 に議論 を求 めた
( Mi l l er,1 986)
。 コ ンフィギュ レー シ ョン ・アプローチの代表的な論 者 であ る
Mi l l e r
自身, この点 を批判 し,歴 史的L研究 レビュ「 老舗企業研究の新たな展開に向けて [加藤敬太]
39
なデー タを用いた質的な研究の必要性 を訴えて いる
( Mi l l e r ,1 9 9 6 )
。リッチな質的デー タを用いて,戦略の変遷 プ ロセスに注 目し,組織の トランスフォーメーシ ョンを正面か ら論 じたのが,時間ベース分析 に 基づいた戦略の プロセス論
( e. g.Pet t i gr ew
,1 9 9 0 ;1 9 9 2 )
である。Pe t t i gr e w
によれば,企業 の戦略 を観察するには,短い出来事のプロセス だけではな く,長期的な視点か ら戦略の変遷 を 前後関係や組織の内外 を含めたコンテクス トの 変化 を詳細 に考察 しなければな らない とい う。さらに,過去か ら現在 に至 る戦略の変化 を連続 的に述べ なければな らない とい う
。pe t t i gr e w
もコンフィギ ュ レー シ ョン ・アプローチ と同 樵,戦略の変遷 は,漸進的ではな く断絶的に変 化すると主張す る。 この点において,コンフィ ギュレーシ ョン ・アプローチ と時間ベース分析 に基づいた戦略のプロセス論 はコインの裏表の 関係 にあ り
( Mi nt z be r ge t .a
l,1 9 9 8)
, また質 的な歴史的データを用いた研究の必要性 を訴 え るMi l l e r( 1 9 9 6 )
の主張にも沿 うものである。以上で述べた ように,本稿で提示 したい解釈 的アプローチ とは,上述の方法論に基づいた戦 略の変遷の歴史的展開を考察する研究手法であ る
。Shr i va s t a va ( 1 986)
は,組織 をインプ ッ トか らアウ トプ ッ トに変換す る合理的システム ではな く,物質的,社会的,文化的生活の継続 的な再生産 プロセス として捉 えなければならな い と主張する。本稿で主張す る解釈的アプロー チで もShr i va s t a va
が指摘す るように,老舗企 業の長期存続 プロセスは継続的な再生産プロセ スによって達成 して きた もの と捉 える。さらに,われわれは,老舗企業の多 くが シン ボ リックな諸側面 を内包 していて も, 自社 の存 続 を実現 してい くには,環境 に対 して絶 え間な い働 きかけによって有意な秩序 を形成 しなけれ ばな らない と考えている。 この ような環境 に対 す る働 きかけとは,
We i c k ( 1 9 7 9)
の言葉 を借 りれば,イナク トメン ト( e na c t me nt )
と表現 で きる。イナク トメ ン トに失敗 した企業は,存 続の断念 を余儀 な くされ淘汰 されて しまうであ40
企業家研 究 (第5
号 ) 2@08。虚ろう。 よって,われわれが提示 した解釈的アプ ローチでは,老舗企業の内部資源だけに着 日す るのではな く,内外のあ らゆるコンテクス トを 読み解 きなが ら長期存続のメカニズムを解明す ることを目指 している。その うえで,多様 な老 舗企業 に対 し,ある一定の時代 にターゲ ッ トを 絞 らず,長期存続 プロセスの歴史的展開を考察 す る必要があると考 える。以上か ら,老舗企業 研究に求め られる新 たな展 開 とは,本節で示 し
た解釈的アプローチに基づ く事例分析 を行 うこ とである。
5.結語
われわれは,既存の老舗企業研究が現状の実 態調査 に基づ き,機能主義的組織 シンボ リズム 論 とい う理論的前提 に立 って,法則定立的に老 舗企業の平均的姿 を考察するものに留 まってい ることを指摘 した。そこでは,老舗企業が長期 存続 に到 る原因を老舗のシンボ リックな諸側面 に求め,因果論的に結論付 けた分析がなされて いた。そこで,本稿では,解釈的アプローチに 基づ く新 たな方向性 を示 し,個 々の老舗企業の 長期存続 とい う実績 に対 して,経時的かつ個性 記述的分析の方法論 を示 して きた。
以上で述べた解釈的アプローチに基づいた老 舗企業研究の新たな方向性の第1は,長期存続 プロセスのダイナ ミズムを示す ことである。既 存研究の ように,老舗のシンボ リックな諸側面 と長期存続 を因果論的に結びつけ,老舗企業一 律 に不変の法則があるが ごとく現在の姿 を示 し ただけでは,一見,老舗企業 は特殊 な内部資源 を抱 え安定的にその実績 を築いて きたように解 釈で きる。 しか し,宮本
( 1 9 8
1)が指摘す るように,守成 の精神 と資源の組み換 えといった, 存続過程 におけるダイナ ミズムは,決 して安定 的であった と安直にはいえない。 よって,長期 存続 プロセスのダイナ ミズムを示すには,解釈 的アプローチによって,あ らゆるコンテクス ト の解釈 と時間軸 を合成 した分析 を行 う必要があ る。
第
2
は , 老 舗 企 業 と存 続 を断 念 した 企 業 との 間 に対 話 の 余 地 が 生 ま れ る とい う こ とで あ る。 既 存 研 究 に み られ た , 老 舗 特 殊 論 とい え る 内 部 資 源 に の み 着 目す る一 辺 倒 な議 論 だ け で は, 長 期 存 続 を実 現 した企 業 に対 して存 続 を断 念 した 企 業 へ の優 位 性 が 不 明確 に な っ て し ま う。 本 稿 で示 した解 釈 的 ア プ ロ ー チ は , 裏 を返 せ ば , 近 代 化 過 程 や 環 境 の 激 変 に適 応 で きず ,存 続 を断 念 した企 業 に もア プ ロー チ が 可 能 で あ る。 そ の こ とに よっ て , 老 舗 企 業 が 長 期 存 続 とい う実 績 を築 い て きた優 位 性 が よ り明確 に な る。第
3
は , 解 釈 的 ア プ ロー チ か ら老 舗 企 業 の 長 期 存 続 とい う現 象 を通 じて得 られ る見 地 は , 一 般 的 に企 業 に とっ て最 重 要 課 題 で あ る 「ゴー イ ング ・コ ンサ ー ン (継 続 的事 業 体 ) で あ り続 け る こ と」 に対 して 汎 用 的 な理 論 的 フ レー ム ワー ク を構 築 で きる こ とで あ る。 なぜ な ら,既 存 研 究 が 老 舗 企 業 の 内 部 資 源 の み の分 析 で あ る の に 対 して ,解 釈 的 ア プ ロー チ で は, 長 期 存 続 プ ロ セ ス そ の もの に 分 析 の 焦 点 を 当 て る か らで あ る。 よ っ て ,解 釈 的 ア プ ロ ー チ か ら老 舗 企 業 を 分 析 し, ゴー イ ング ・コ ンサ ー ンで あ り続 け る とい う企 業 に とっ て の 最 重 要 課 題 に応 え て い く こ とで , 実 践 的含 意 も見 出せ る もの と考 え る。※本 論 文 の 完 成 に際 し, 匿 名 レフ リー の 先 生 方 よ り大 変 貴 重 な コ メ ン トを頂 き ま した 。 こ こ に記 して 感 謝 申 し上 げ ます 。
【注】
1近年,欧米において,経営戦略論や企業家研究の領 域か ら,同族企業の研究
( e . g.Kenyon‑ Ro uv ine za nd Wa r d,2 0 0 5 ;Mi l l e ra ndBr e t o n‑ Mi l l e r ,2 0 0 5 ;St e i e r
,Chr i s manandChua,2 00 4)
や同族企業の事業継承( succes s i on)
を扱 った研究( e. g.Br et on‑ Mi l l er
,Mi l l e ra ndSt e i e r ,2 0 0 4 ;Mi ne r ,St e i e ra ndBr e t on‑
Mi l l e r,2 00 3 ;Sha r ma,Chr i s ma na ndChua,2 0 03)
が盛んにな りつつある。 また,欧米の同族企業のな かには,わが国の老舗企業 と同 じく,長期存続 を可 能にしているものが多数存在する( 0' Har a,200 4)
0しか し,わが国における老舗企業研究 と欧米の同族 企業研究の間には,理論的連関が認め られるもので
はない。 また,両者の統合 に向けた議論 は,本稿の 目的ではないO よって,欧米における議論 はここに とどめてお くことにする。
2
水谷内は,老舗企業 と社会素献活動に関する意識 と して,‑‑一般的に 「普通」であると結論付 けている。また,老舗企業 と
CSR
に関する最近の研究 としては, 服部編( 2 0 0 7)
がある。3I wa s a l t ia ndKa nda( 1 9 9 6)
は,神田 ・岩崎( 1 9 9 6b)
の英語版 として位置づけられる。4 また,本研究では全国の商工会議所の資料 を基 に, 創業年 (西暦),年号 (和暦),企業名,分野,所在 地が記 された 「老舗企業年表」 と称す リス トを作成
している。
5
経学 とは 『広辞苑』によれば 「四書 ・五経などの経 書 を研究す る学問」 とあるが,ここでは, 「 a
.仕 入先 や顧客か らの信頼,b.従業員間の信頼,
C.
商品 ・サー ビス‑の信頼,d.
組織のまとまり,e .
技術力
(商品力), f.経営経験の豊富 さ,g.のれん (ブランドカ),h.
地域 への貢献」 (関西国際大学地域研究所,2 004,33
頁)といった項 目があげられている。
6
本谷( 20 03)
は,加藤 ・青島( 2 0 03)
が整理 した経 営戦略論の4
つのアプローチ (ポジシ ョニ ング ・ア プローチ,ゲーム ・アプローチ,資源 アプローチ, 学習 アプローチ) をもとに,実際の老舗企業では, どのアプローチが採用 されているかの考察 を行 って いる。7
この点は,本谷( 1 9 98)
で 「老舗企業のコア ・コン ピタンスは 『暖簾』 にあるといえるだろう」 (本谷,1 9 98,1 79
頁) といった記述がみ られることか ら明 ら かである。8
ただ し,神田 ・岩崎,本谷の研究は,老舗企業の内 部資源への注 目を強調 している点において,Hamel a ndPr aha l ad ( 1 994)
に最 も影響 されていると指摘 で きる。 よって,これ らの研究は,経営戦略論のな かのRBV ( r e s our c e ‑ ba s edvi e w)
の領域に立った研 究であるといえる。9
たとえば,横滞編( 2 00 0)
では,第2
章で,Ha me l a ndPr aha l ad ( 1 9 95),Col l i nsa ndPo r r a s( 1 99 4)
,deCue s( 1 9 9 7)
の研究を引用 しなが ら,老舗企業の 伝統の継承 と革新 を論 じている。 この時期の老舗企 業 の実 態調 査 の なか で,Prahal ad and 斑ame
l,Ha me la ndPr a ha l ad,Co l l i nsa ndPo r r a s ,deCue s
のいずれ も引用 されてないのは,蘇( 1 99
1),間鴨( 1 992)
,水谷内( 1 995)
のみである。ただ し,間鴨 は,のちの岡嶋( 1 9 9 9)
でdeGoe s( 1 9 9 7)
が参考文 献 にあげ られているだけでな く,関西国際大学地域 研究所( 2004)
に論文 を寄せている。 また,水谷内( 1 9 95)
は,剛 痔( 1 99 2)
,神田 ・岩崎( 1 9 96 a)
が参 考文献 としてあげ られている。 よって,両者の研究 は,この時期の老舗企業研究 として同様の研究群 に事研究 レビュー 怪 舗企業研究の新たな展開に向けて [加藤敬太] 41
位置づ け られ る といえ よう。 また,蘇
( 1 99
1) の研 究 は,1 989
年の大阪市制百周年記念事業 の一環の研 究であ り,その成果 は後 に大阪「 NOREN
」百年会編( 1 99 6)
として まとめ られているが,その編著者 には 森のほか間鴨隆三 もあげ られている。 この ことか ら, 同様 に, この時期 の研 究群 と して位 置づ け られ る と いって もよいであろう。10
また,わずかにみ られるイ ンタビューデー タを用 い た研究 (本谷,1 997,1 998)
で も,老舗企業 を創業 か ら1 00
年以上存続す る企業 とし,独 自に長期存続 に 至 った要 因 をあげて,それ に基づ いた イ ンタビュー 調査 を行 った ものであ り,定量研 究 と同様 の前提 が あるといえる。11
老舗企業研究の大半は,老舗企業の定義 を創業か ら1 00
年以上経過す る企業 としている。例外 は,明確 な 定義 を していない もの として小松( 1 987)
,創業か ら1 0 0
年以上 と定義す ることに疑問 を投 げかけているの として松本( 1 977)
をあげる ことがで きる。創業か ら1 00
年 と定義す る理由 として考 え られ るのは,老舗 企業研 究の先駆 けであ る京都 府( 1 970)
が京都府 開庁1 00
周年 の記念事業 と して上記 の よ うな定義 を行 い,その後,足 立( 1 970)
に この定義が引 き継がれ て い った こ とが一 因 とい え よ う。 大 阪商工 会議所( 1 98
1)で も同商工会議所創立1 00
周年の記念事業 と して同様 の定義がみ らゴ1る し,蘇( 1 99
1) に よれば 大阪市で も同様の動 きがあった。12
社 会 体 系 が 維 持 存 続 す る た め に は , (1) 適 応( ada pt at i on),(2)
目標達成( goa lgr at i f i c at i on)
,(3
)統合( i nt egr a t i o n),(4)
潜在 的パ ター ンの維 持お よび緊張の処理( l at e ntpat t e r nma i nt enanc e )
の機 能要件が充 た されなけれ ばな らない とす る もの である。13
これは,Ge e r t z ( 1 9 7 3)
によって主張 された 「厚 い 記述( t hi c kdes c r i pt i on)
」 に よって分析 を行 うこと とい えるoGeer t z
は,解釈 人類学 の立場 か ら,文化 に関 して,法則性 を求め る実験科学 で はな く意味 を 求める解釈科学 を展 開 した。 それ は,研 究対象 に対 し,事実 の発見 に主眼 を置 くので はな く,あたか も テ クス トを読み取 るようにダイナ ミックに意味 を再 構築す ることで文化 を解釈す ることを主張 している。本稿 で は,老舗企業 にみ られ る シ ンボ リックな諸側 面 を文化 と置 き換 えれば,それ らに法則性 を求 めた のが従来の老舗企業研究 であ って
,Geer t z
が主張す る 「厚 い記述」 に よって解釈 す る こ とを主張 してい る。【参照文献】
足立政男 『老舗 の家 訓 と家業経営』広池学 園 出版 部,
1 9 7 4
年。42
企 業 家研 究 (第5
号) 題◎⑳乳歯青 島失一 ・加藤俊 彦 『競争戦 略論』 東洋経 済新 報社 ,
2 0 0 3
年。Br e t on‑ Mi l l e r
,㌔D.Mi l l e ra ndL P.St e i e r" Towa r d a nl nt e gr a t i veMode lo fEf f e c t i veFOBSuc c e s s i on
,Ent r e pr eneur shi p The or yandPr act i c e,2004
,Summe r ,pp. 3 0 5 ‑ 3 2 8,2 0 0 4 .
Bur
re
l,G.andG.Mor ganSoc i ol o gi c alPar adi gms andOr gani zat i on
alAf L al ys
乙S,He i ne mann,1 979.
(鎌 田伸一 ・金井‑‑頼 ・野中郁次郎訳 『組織理論 のパ ラダイム :機能主義の分析枠組』千倉書房
,1 9 8 6
年)Co l l i ns
,J.C.a ndJ
.Ⅰ .Po r r a sBui l tt oLas t ISuc c e s s f ul
Habi t so FVi s i onar yCompani e s,Cur t i sBr own
,1 99 4.
(山岡洋一訳 『ビジ ョナ リー ・カ ンパ ニー ',時 代 を超 える生存 の原則』 日経BP
出版 セ ンター,1 995
年)Da ndr i dge
,T.C." Symbo l s 'Func t i o na ndUs e
,"i n
LP,Pondy, J.Frost , G.Morgan, and T.C . Da ndr i dge ( Eds . )Or gani z at i on
alSymbol i s m,J AI Pr e s s ,pp. 6 9 ‑ 7 9,1 9 8 3 .
deCue s
,A.TheLi v i ngCo mpan y,Lo ngvi e w,1 9 9 7 .
(掘 出‑一郎 訳 『企業生 命力』日経BP
出版 セ ンター,2 0 0 2
年)Gee r t z,C.Z nt e r pr et at i of iO fCul t ur e s,New Yor k:
Bas i cBooks,1 973.
(吉 田禎吾 ・柳 川啓 一 ・中敏弘 允 ・板橋作美訳 『文化 の解釈学』〔Ⅰ・Ⅱ〕岩波現代 選書,1 9 8 7
年)Hame
l,G.andC.K.Pr ahal adCompet i ngF ort he Fut ur e,Ha r va r dBus i ne s sSc ho o lPr e s s ,1 9 9 4.
(一 棟和生訳 『コア ・コ ンピタ ンス経営 :大競争時代 を 勝 ち抜 く戦略』 日本経済新 聞社,1 9 9 5
年)服部利率編 『京都 の老舗 に伝 わる教 え と経営者倫理 : 日本発
CSR
の源流探索 信頼の確保 のために』立命館 大学地域情報研 究セ ンター京都 中小企業CSR
研究会,2 0 0 7
年。I wasakiN.
&M.Kanda"Sus t ai nabi l i t y oft he JapaneseOl d Est abl i shed Cor npani es
,"Sei jo U7 % i u e r s i t yEc onomi cPa pe r s,No. 1 3 2,pp. 1 3 0 ‑ 1 6 0
,1 9 9 6 .
J one s,M.0.St udyi ngOr gani zat i onalSymbol i s m:
Wh
at ,How,Wh y? ,Sa gePubl i c a t i o n,1 9 9 6 .
神 田良 ・岩崎 尚人 『老舗 の教 え』 日本能率 協会マ ネジメン トセ ンター
,1 9 9 6
年a。
神 田良 ・岩崎 尚入 「経営戦略 と持続 的 な競争力 :老舗 企業の調査結 果か ら
」
『経済研 究』 (明治学 院大学経済学会)第
1 05
号,pp.5 9 ‑ 8 5,1 9 9 6年b
。関西 国際大学地域研 究所 『老舗企業 の研 究 :未来 をつ くる企業へ のアプ ローチ』 関西 国際大学地域研 究所 叢書
,2 0 0 4
年。加藤敬 太 「老舗企業研 究の批判 的検討 :戦略論 の視点 か ら