• 検索結果がありません。

多民族社会イギ リスの社会サービス

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "多民族社会イギ リスの社会サービス"

Copied!
35
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

多民族社会イギ リスの社会サービス

論 説

多民族社会 イギ リスの社会 サー ビス

三 富 紀 敬

は じめに

筆者 は、 ここ数年 イギ リス とアメ リカの在宅介護者 について作業 を重ねて きた。 ご く最近の成 果 は「イギ リスの在宅介護者 と所得・ サー ビス」および「在宅介護者のための ヨーロッパ勧告」

(坂 本重雄他編『高齢者介護 の政策課題』、勁草書房、 96年 3月 )で ある。拙稿 は、ベ ヴ リジ ・ン ポー ト (1942年 )に お ける在宅介護者の位置づ けについて検討 したのち、在宅介護者の構成 と負 担 について論 じ、最後 に所得 とサニ ビスの両面 にわた る支援策 について吟味 した ものである。

筆者 の作業 は、在宅介護者の社会階層や性 にこだわってなされて きた ものの、民族 とのかかわ りとなるとこれ まで手つかずの ままである。在宅介護者や介護サー ビスについて論ず るには、社 会階層や性 とな らんで民族 とのかかわ りを正当に位置づ けなければな らないように考 えられ る。

民族 とのかかわ りを無視す ることは、社会階層や性 とのかかわ りな しに在宅介護者 について論ず るに等 しい。

在宅介護者 と民族 とのかかわ りを無視 ない し軽視 して きた ことへの反省 は、ひ とり筆者だ けの もので はない。イギ リスの専門研究者たちが最近指摘す ることで もある。階級や性 の重要性 につ いては良 く知 られなが ら、人種や民族性の問題 となると今 日まで無視 されて きた。専門研究者の そ うい う反省が、 96年 春 にイギ リス とアメ リカで発行 された研究書のなかで述べ られている

(1ゝ

率直で実 に的確 な指摘 として、おおいに歓迎 したい と思 う。

本稿 は、 この ような反省 か ら多民族社会 イギ リス (multi― racial Britain)の 現状 について事例

をまじえて検討 した うえで、今 日で もなお「 ジェンダー・ ブライ ン ド」な らぬ「カラー・ ブライ

ン ド」 (colour― blind)な 社会サー ビスの現状 について分析す ることを課題 にす る。

(2)

経済研究 1巻 1号

本稿 の課題 をこの ように設定す る以上、わが国における先行 の研究 とのかかわ りについて述べ ておかなければな らない。筆者の知 るか ぎ り日野秀逸氏 と武川正吾氏が、民族や人種 に配慮 した 食事 の調理や配達 についてごく簡単 に紹介 されてお られ る②。先駆的で実 に正 当な日配 りとい う べ きであろう。 しか し、調理や配達の開始時期や背景、実施主体 と問題 などは残念なが ら紹介 さ れていない。 さらに、他の介護サー ビスにおける民族への配慮 について も紹介 されていない。多 面 にわた る介護サー ビスの うちの一つを紹介 されているに とどまる。介護サー ビスを民族や人種

とい う視角か ら一貫 して検討す ることは、課題 として残 されているといえよう。

本論に先立 って、民族 ない し人種 (race)に 関す る用語 について、あ らか じめ簡単 に説明 して お きたい●ヽ この種 の用語 は、さまざまな専門研究者 によって多様 な文脈のなかで使われて きた。

用語 の意味するところをめ ぐって論争 さえみ られ るほ どである。

黒人 (Black)も しくは黒人少数民族 (Black minOrities)  この用語 は、イギ リスの少数民族 の成員すべてを包括するわけではない。イン ド人 をはじめパ キスタン人、アフリカ人、アフ リカ 系カ リブ人、バ ングラデシュ人、アラブ人、ベ トナム人 それに中国人 な どのアジア系やアフ リカ 系の人々 をさす。 このよ うに包括す るか らといって、黒人少数民族が均質な集団であるとい うわ けではない。 しか し、その民族的な出自や言語、文化 あるいは宗教のゆえに差別的な扱いを受 け る という経験 を共有する。

アジア人 (Asian)イ ン ドをはじめパキスタンあるいはバ ングラデシュで生 まれた人々、 もし くは東アジアの地域 に生 まれた人々の子孫 をさす。イギ リスで生 まれた子孫 も含 まれ る。アジア の文化 といって も、 けっして一つではない 6多 様である。 しか し、 ヨー ロッパの文化 とい うくく

り方が許 され るように、似通 った基盤 を共有す ることも確かである。

アフ リカ系カ リブ人 (Afro/Caribbean)西 イン ド諸島に生 まれたアフ リカ系の人々 をさす。

イギ リスで生 まれた子孫 も含 まれ る。

人種 と民族性 (Race:Ethnicity)人 種 とい う用語 は、 もともと社会進化論 とつなが りをもち、

しばしば嘲笑的な意味が込め られていた。 しか し、最近では人種差別反対 の意味 に用い られ る。

黒人の社会的・ 経済的かつ政治的な地位 をその うちに含みなが ら用い られ る。民族性 という用語 は、黒人の社会的・ 経済的および政治的な環境 とはかかわ りな く多様 な文化的諸集団に言及す る ものである。言語や宗教 な どの文化的な特性 にそって区分 され る。民族性 とい う用語 をもっぱら 黒人少数民族 についてだけ用いるとすれば、それは正 しくない。 自人 も民族集団に属 し、民族性

を もつのである。

人種差別主義 (Racism)こ の用語 は、かつてアメ リカで広 く使われ、最近 になってイギ リス

― ‑30‑―

(3)

多民族社会イギリスの社会サービス

や フランスな どの西欧諸国で も用い られ るようになった ものである。人種 による差別的な扱いや 不公平 な待遇 を善 じとす る。社会サー ビスを例 にすると、サー ビスが 自人 を基準 に編成 されてい ること、サー ビスの担 い手が人種 についての偏見や類型化 された想定 をもとにしてサー ビスを提 供す ることな どである。 白人 を優先的に扱 うことによって、黒人 をサー ビスか ら事実上排除す る

ことも、同 じ例である。

尚、本稿 に用いる資料 とりわ け地方 自治体の レベルにかかわ る資料の多 くは、関係機関か ら直 接 に提供 された ものである。筆者の求めに快 く応 じて下 さった関係機関にあ らか じめ謝意 を表 し

てお きたい。

1.多 民族社会 と してのイギ リス

(1)多 民族社会 イギ リス

イギ リスには、長 い移民の歴史がある。 もとよ り同 じアングロサクソン系のアメ リカにお よぶ 規模 をもつわ けではない。アメ リカの規模 はずば抜 けている。アメ リカでは、はや くも 19世 紀 中 葉か ら末葉の時期 に人 口の 12%か ら 16%に あた る規模 の黒人 を抱 えている ヽ移民の多いシカゴ (Chicago)だ けを例 に とると、人 口の 41%は 外国生 まれである(1890年 )。 最近で は、 人 口の 16%、

労働力人 口の 14%が 黒人や ヒスパニ ツクである 」

(ア メ リカ全体、 1990年

)。

アメ リカが多民族社 会 と称 され る由縁である。イギ リスは、 これに比肩す るほどの移民 を受 け入れてはいない。特定 の都市 は ともか く、全国ベースではアメ リカに比肩す る程ではない。イギ リスの中で少数民族の もっ とも多いロン ドンを例 に とると、外国で生 まれた者 は、総人 口の 18%ほ どである。イギ リス 全体では 6%ほ どである(81年 )。 少数民族 は、 もっ とも新 しい計数 をもって して も、人 口 と労働 力人 口のいずれ も 6%程 度である151(94年

)。

イギ リスに住む少数民族 のお よそ半数 (46%)は 、イギ リスの地で生 まれている (94年

)。

出生 地 をイギ リス国内 と国外 にわけて年齢階層別 にみると、国外で生 まれた者の比率 は若年者で低 く、

高齢者で高い。学齢期 に属す る 15歳 以下層の国外での出生比率 は 14%で あるのに対 して、生産年 齢人 口にあた る年齢階層 (男 性 は 16‐ 64歳 、女性 16=59歳 )は 73%、 老齢退職期 にあた る年齢 階層 (男 性 65歳 以上、女性 60歳 以上)は 100%で ある。移民の比率 は若年者で低 く、中高齢者で 高い といえようも少数民族 に属す る人々のお よそ 4分 の 3は 、イギ リス国籍 を もつも国籍 を持つ 者 は、イン ド人 (Indians)を はじめパ キスタン人 (Pakistanis)そ れ にバ ングラデシ

,ュ

人 (Banglade‐

shis)で 高 い。

(4)

経済研究 1巻 1号

少数民族 に属す る人々は多い集団の順 にイン ド人、パ キスタン人、西イ ン ド人、中国人、アフ リカ人、バ ングラデシュ人、アラブ人 な どである。居住する地域 は集中す る傾向にある。これは、

イギ リス全体 をとって も、 また特定の都市 に限定 した場合 に もいい うることである。全国的 にみ ると、イギ リスの南東部 には、自人の労働力人 口の 31%が 集 中す るのに対 して、少数民族の労働 力人 回の 61%が 集中す る (94年

)。

地域別 により詳 しく見 るとロン ドン (London)に は労働力人 口のおよそ 5分 の 1(19%)、 次いでウェス トミッ ドラン ド州 (West Midlands)7%、 イース ト

ミッ ドラン ド州 (East Midlands)3.6%な どである。

移民の歴史 は、 19世 紀以降 についてみると大 くぐりにいって 3つ の時期 に区分す ることがで き る。第一の時期 は、 1930年 代 までである。第二 の時期 は、第二次大戦か ら戦後の 60年 代初頭 まで である。第二の時期 は、 60年 代 中葉以降である。

19世 紀か ら 20世 紀 にか けての移民の主力 は、アイルラン ド人である。 60万 を超すアイル ラン ド生 まれの人々が、 19世 紀半 ばのイ ングラ ン ドとウェールズ に住 んでいた といわれ る。 )(1861 年

)。

19世 紀 の後半 には多 くのユダヤ人がイギ リスに移住 している。その多 くは、東 ヨーロッパや ロシアにおける迫害や貧困か ら逃れ るためである。その規模 は、 1881年 か ら 1914年 にか けて 6万 人か ら 25万 人 に膨れあが っている。アイルラン ド人 とユダヤ人 とが、この当時イギ リスの少数民 族 の主力である。

第二次大戦終了直後の時期 にお ける移民の主力 は、ポーラン ドか らの避難民や亡命者である。

1940年 代 の後半 には、お よそ 15万 人 のポーラン ド人がイギ リスに暮 らしている。 ウクライナ人 (Ukrainians)や ハ ンガ リー人 (Hongarians)そ れ にバル ト諸国の人々 (Baltic peoples)の イ ギ リスヘの移民 も規模 こそ比較的少ない ものの、 この時期である。西 ヨーロッパか らの移民 もこ の時期である。イタ リア人 はその最大の集団である。

1950年 前後か らの労働力不足 は、移民 を加速 することになる。ヨーロ ッパか らの難民がイギ リ スに定着 した理由のひ とつである。同 じことは、難民 より少 し遅れて流入 したイン ド、パ キスタ ン、ス リランカ (Sri Lanka)、 ジャマイカ (Jamaica)、 バルバ ドス (Barbados)、 トリ■ダー ド トバ ゴ (Trinidad and To― ba― go)、 ガイアナ (Guyana)か らの移民 について も指摘 され る。 こ れ らの国々か らの移民 は、多 くの場合 にイギ リスのなかで も労働力不足の著 しい地域の業種 に吸 収 されている。 ランカシャー州 (Lancashire)や ヨークシャー州 (Yorkshire)の 綿工業や毛織物 業、病院や運輸業、イ ングラン ド中部地方 (Midlands)の 機械金属業 な どはその代表例 である。

移民 は、医療や保健サー ビスの整備 につれて増 えて きた といって もよい。

60年 代半 ば以降なかで も 70年 代 に入 る と、黒人の流入 と定住 に対す る抑制 の方向が はっき り

一 ‑32‑―

(5)

多民族社会イギリスの社会サービス

と打 ち出 され る。折 しも失業問題が年 を追 って深刻化する時期である。失業率 は自人 について上 昇 したばか りではない。少数民族 に属す る人々の失業率 は、 自人のそれの 2倍 前後で推移 した と いう事情 もある。抑制のね らいは、移民政策会議 (主 催   経済協力開発機構 (OECD))に 提 出の 政府文書 (86年 2月 )の なかで、次の ように示 されている。 「 イギ リスにおける政策 の基礎 は、 こ こ何十年かの ところ主要な移民、すなわち労働市場 に参入す る確率の もっとも高い一家の長 を管 理 しなければな らない ことである。 イギ リスは、 ヨー ロッパのなかで もっ とも移民の多い国のひ とつである。イギ リスヘの流入 と定着 を希望す るすべての人々に、働 き '日 はい うにおよばず住宅、

教育、社会サ ,ビ スをあてが うわ けにいかない。移民 に対す る強固な管理 は、 コ ミュニテ ィーに おけるよい秩序 を保 ち発展 させ るうえに欠かす ことので きない要件である 171」 6

抑制 の方向は、パスポー トと労働許可証の発給管理 を通 してその実 をあげている。以前の時期 とりわけ戦後の 60年 代初頭 までの時期 に比べ る と、わずかな移民 しか認 め られていない。

イギ リスの社会保障や社会サ ,ビ スは、移民の歴史 と歩調 をそろえて整備 されて きたわ けでは ない。あ まりに も有名 なベ ヴ リジ・レポー ト (Beveridge report 1942)は 、移民 にイギ リス国民 としての権利 を法の うえでは与 えて いるも人間 としての平等性 と普遍性 という理解の もとにすべ ての国民 をその階級や人種 あるいは信条のいかんにかかわ りな く、あまね く平等 に位置づけるか らである。 しか し、移民の もつ特有 なニーズヘの対応 は、法的に平等に位置づけるかぎり期待で きない。 しか も、自人 とキ リス ト教徒 それに男性 の稼 ぎ手 を一般的な基準 として想定することに よつて、少数民族 に属す る人々 とその家族 による社会サー ビスの利用 を実際の ところ退 ける。

多民族社会 という現実か ら出発 して制度が整 えられ、サー ビスが給付 され はじめ るまでには長 い時間 を要す る。社会サー ビス局長連合会 (ADSS)が 、少数民族 の もつ特有なニーズに正当な関 心 を払わなければな らない と公式 に表明す るのは、ようや く 19781年 の文書 においてである。ヽ そ の後、グ リフィス報告 (88年 )は 「 イギ リス社会 の多民族的な性格 に応 える」 9政 策 の立案 と推進 を求 め、 さらに翌 89年 に議会 に提出 された政府文書 も 「少数民族 の住 む地域 の環境 を考慮 して こ そす ぐれた コ ミュニティーケアである (10」 として、計画の策定過程への少数民族 の参画 について 述べ る。ベ ヴ リジ・ レポー トか ら数 えて 36‑46(47)年 目の ことである。多民族社会への理解が 政府 の レベルで ようや くにして表明 され、政策的 に取 り組 まれ るのである。

多民族社会 とは どのような ものであろうか。社会サー ビスの受給 にいかなる意義 をもつであろ

うか 6わ が国ではややな じみの薄い問題 である。以下では、言語 とコミュニケーション、宗教 と

食物お よび家族 について事例 をまじえて検討 しなが ら、多民族社会の社会サー ビスに もつ意義 に

ついて考 えてみたい。

(6)

経済研究 1巻 1号

(2)言 語 とコ ミュニケーシ ョン

英語 を話す人々 との会話 は、英語 を母 国語 とせず に成長 した少数民族の人々 に とってはなはだ 厄介である。イギ リスに住む 20万 人以上 の成人 は、ある統計 によると英語 をまった く若 しくは殆 ど話す ことがで きない。 その多 くは、アジア出身の少数民族である。 キプロス、南 ヨーロッパや 北 アフ リカか らの移民 も英語 を全 く若 しくは殆 ど話す ことがで きない。性別 には、出身国のいか んを問わず女性 に多い。年齢階層別 には、 45歳 以上 の中高齢者層 に多い。若 くしてイギ リスに流 入 した人々である。 ある高齢 の中国出身女性 は、次のように述べている。 「私の夫 は 1975年 に他 界 しました。アパー トか ら立 ち退 くことにな りました。夫 を失 った以降 も、私 は英語 を話せ ませ ん。 自分 の生活がいかに も哀れであると思いました。夫が生 きている間は仕事が どんなにきつ く て も、 けっして哀れであると感 じた ことはあ りません。告別式の準備 をしなければな りません。

イギ リス人 の男性が、火葬 にす るか どうかについて尋ねて来 ました。私 は、 ことばを理解で きま せ んで した。私 はただ、 うなづいてい ました。彼が、次 に棺 を選ぶ ように言い ましたので、私 は 500ポ ン ドの棺 を指 しました。す る と彼 は 500ポ ン ドの棺 はあまりに高価であるといって、かわ り に 300ポ ン ドの棺 を選 んで くれ ました (1幼 」 。

英語 を話せ ない背景 は 3つ ほ どある。

まず、農村部か らイギ リスに来た移民の一部 は、学校教育 をまった く経験 していないか、経験 していた として もご く限 られた期間だけである。 このために教育施設 に対す る信頼感 をしばしば 持 ち合わせていない。 ことばの勉強 を容易 にす る技術 を身 に付 けていない ことも少 な くない。 さ らに、英語習得のための計画 は、各地で具体化 されてはいるものの、いかにも小 さい規模である。

参カロの意思 を伝 えてのち 1‑2年 待た され ることも多い。授業への出席が ようや くかなって も、

教材や教育方法があわないために教育効果 に乏 しい といった問題 もある。殆 どの教材が ヨーロッ パ域 内で教育 を受 けた人々向けに書かれているか らである。 しか も、少数民族 に属す る人々 は、

英語 を自由に話す人々 との 日常的 な接触 に乏 しい とい う事情 もある。少数民族 に属す る人々 は、

前 に述べた ように特定 の地域や職種 に集中す る傾向 をもつ。英語 を習得す る必要 は、い きおい弱 くなる。言語の能力 と居住地お よび職業上の地位 とは、明らかに相関す るとい う調査結果 もある。

た とえば英語の能力 に乏 しいアジア人 は、アジア人の集中する地域 に住 み肉体的な力 を要す る仕 事 に就 くことが多 い

(13ゝ

ギ リシャ女性 による次の証言 は、出身国 を異 にす るとはいえ、同種 の事 情 を伝 えていて興味深い。

「私が はじめてイングラン ドに来た時、 ことばのむつか しさを感 じました。 しか し、ギ リシャ

一 ‑34‑―

(7)

多民族社会イギリスの社会サービス

人 と一緒 に長 い時間働 いていたので、英語 を習得 しなければな らない とは思いませんで した。私 が英語 を少 し勉強 しようと思 ったのは、最近 10年 ほ どの ことです。私 は、イギ リス人 とイ ン ド人 の女性たち と一緒 に工場で働 いてい ますか ら、意思 を伝 えるためにことばを拾 い出 して意味の と れ るようにしなければな りません (10」

英語 を話せ るといって も、標準的な英語 と異 なることか ら、意思 をうま く伝 えられない とい う 問題 もある。西 イン ドで使われ る英語 と標準的なイギ リス英語 とは同 じではない。 ある人々 は、

ク リオール語 を話 した り西 イン ド諸島のなまりで しゃべった りする。 カ リブ人の話す ことばのな まりは、西 イン ド諸島で一つではない。島 ごとに異なる。 イギ リスに住 む多 くの若 い黒人 は、黒 人英語 (Black English)と して知 られ るスタイルの ことばを発展 させている。 ク リオール語の影 響 を受 けてい る。他の人々 は、主 にイギ リスの方言 を使 って話す。 これ らの人々がその意思 を正 確 に伝 えることは、むつか しい。社会サー ビスの担い手 は、 ソー シャル ワーカーや地域看護婦が そ うであるように標準的な英語 を話せ るように訓練 されて きた。西 イン ド諸島のなまりやイギ リ ス各地の方言 に直面 して とまどうことも少な くない。

会話の障害 は、イギ リス生 まれの少数民族 の人々 には無縁であると考 えられ るか もしれない。

英語 をす らす らと話すか らである。 しか し、必ず しもそうではない。少数民族 の人々は、未熟練 や半熟練 の仕事 に とりわ け集中 している。 このため労働者階級 に属 する自人が、中間階層の専門 職者 と話す時 に直面す るの と同 じ問題 に出合 いがちであるも さらに、文化的な土壌や経験のちが

いか ら来 る誤解 もある。若いイン ド人女性の証言 を紹介 してお きたい。

「私 は、西洋風 の衣服 を着てバー ミンガムな まりの英語 を話 します。 そのせいか私がイギ リス 人女性 のように考 え感 じなければいけないかの ように、誰 もが決 めてかか ります。そういうのは 嫌 いです。私のあらゆる態度 と信念 はイン ド人の ものです。私 は多 くの こと、 とりわ け道徳上の 問題 について両親 と同 じ考 えです。私のや り方 は、イギ リス人女性 よ りもイン ド人女性のそれに はるかに似ています。 しか し、私の考 えや行為 はまさしくイギ リス人女性の ものであるといわれ ます。私 も実際には理解で きていないのです。私 は話 していて も時々むな しくな ります (10」

会話 は成 り立 っているようであって も、実の ところ意思が伝 えられていないのである。少数民 族の よつて立つ文化的な土壌 に由来す る問題である。

(3)宗 教 と食物

多 くの人々 は、今 日のイギ リスにおいて 6つ の主要な宗教 と 3つ の非宗教的な教派のいずれか

に従 う。 イン ドにその源 を発す る三大宗教 は、 ヒンズー教、仏教、 シーク教である。他の三大宗

(8)

経済研究 1巻 1号

教 は、ユダヤ教、キ リス ト教、イスラム教であ り、いずれ も中東か ら起 こった ものである。 イギ リスに広が りをもつ非宗教的な教派 は世俗主義、不可知論、無神論の 3つ である。

少数民族 に属す る人々は、一般 にその宗 旨を自分か ら語 ろうとしない。宗教 はす ぐれてプライ バ シーに属することが らであると考 えているか らである。

宗教 は、少数民族 の 日常生活 に大 きな影響 をお よぼす。た とえば性別 による分離 (sex segr∝ a‐

tion)は 、キ リス ト教 を除 く多 くの宗教で行われている。学校 はもとよ り医療・福祉施設や職場 で もそ うである。ヒンズー教徒、シーク教徒それに仏教徒の女性 は、スカーフやサ リーで頭 を覆 う。

ユダヤ教 を信ず る女性 はかつ らを着 ける。イスラム教徒の女性 は顔 を隠すためにベールを着用す る。性別 による分離 は、家族生活の絆 を強 くすると信 じられている。 キ リス ト教徒である高齢者 は、デ ィセ ンターな どで異性 とご く自然 に接触するのを好 む。他方、少数民族 に属す る高齢者の 多 くは、同 じ施設の中で同性 と語 らうための独立の部屋 に足 を運ぶ。性別 による分離 は、 この よ

うに少数民族の 日常生活の隅々 に見 られ る。

食物 は、入手 で きる食材だ けでな く文化や階級、 ライフスタイルな どの社会的要因 にも影響 さ れ る。後者のなかでは、宗教 の重要性 を無視す るわけにいかない。食物 の宗教的な側面 とで もい いう ることであ る。食物 は少数民族 に とって神聖 な意味 を持つ。西欧社会ではすでに失われつつ あることである。 ある種 の食物 は禁止 され る。 これ らの禁止 は、少数民族の疑 うことのない日常 生活の ご くあ りふれた風景である。食物 の宗教上の制限 を守 ることは、一時的な熱中や気 まぐれ ではない。個人の文化 と宗教上の選択 を尊重することは、個人 を重んずることの一部である。

すべての生 ける物 は、 ヒンズー教 によると神聖である。他の生 ける物 を我が物 にすることは悪 である。多 くの敬虔 なヒンズニ教徒 は、 このため菜食主義者である。肉をはじめ魚、卵お よびそ れ らで作 られた製品 を食べ ることはない。牛 はヒンズー教徒 にとっては特 に神聖である。牛肉を 食べ ることは厳 し く禁止 され る。 アル コール も、 自己抑制 の力 を減ず ることか ら禁止 され る。か な りの教徒 は週の うち 1日 か ら 2日 間の断食 をす る。 これ らの制限 をもっ とも厳格 に守 るのは、

概 して女性 である。彼女たちは家族の道徳的かう宗教的な価値 の後見者であるとしば しばみなさ れ る。

シー ク教 は、 17世 紀 にヒンズー教か ら分かれた ものである。ヒンズー教 の食物制限の多 くを受 け継 いでいる。かな りのシーク教徒、 とりわ け女 ̀性 はヒンズー教 に似た定 めを守 っている。牛肉 を食べ る者 はわずかなが らいる。アル コールの飲用 は、伝統的な教徒 によって強 く反対 されてい る。イスラム教徒の食事制限は、 コーランに定 め られ、神の直接の命令 とみなされる。規律 ある 生活 を創 るための習慣のひ とつである。イスラム教徒 は豚肉あるいは豚 肉製品 を口にしない。ア

一 ‑36‑一

(9)

多民族社会イギリスの社会サービス

ル コールの飲用は、堅 く禁 じられ る。健康 な成人教徒 は、イスラム暦の 9月 の 30日 間断食 に入 る

(ラ マダー ン

)。

夜明 けか ら日没 まで食べた り飲 んだ りしない。高齢者や病弱者、妊娠中の女性や 乳児 を抱 えて授乳す る女性 な どは除かれ る。断食 は、教徒のなかで高い評価 を与 えられ る。

ユダヤ教徒 も、豚肉や豚肉か ら作 られた製品 を口にしない。貝およびヒレや うろこのない魚類 も禁止 され る。食物 を反勿する分趾蹄の動物、た とえば鹿 な どの肉は食べ ることがで きるし、現 に食べている。草食性 の鳥 もそうである。牛乳 と肉 とを一緒 に調理す るわけにいかない。乳製品 と肉は調理の際に離 してお き、別々の台所道具 を使 って調理 しなければならない。信心深い教徒 は、 しょく罪の 日に食べ ることも飲 む こともしない。酵母 を含 むすべての食物 は、ユダヤ暦の 1

月 14日 に禁止 され る。これにはパ ン種 の入 ったパ ンをはじめケーキ、ビスケ ッ ト、ビールそれに 酢が含 まれ る。

西 イ ン ド諸島出身の多 くのキ リス ト教徒 は、キ リス ト再臨論者である。豚 肉や豚 肉製品 を口に しない。

宗教が少数民族の生活 にもつ影響 は、このように食物 ひ とつを とって も著 し く大 きい。 「 あなた はなにを飲 み ますか」とい う尋ね方 は、 まぎらわ しい返答 につなが る恐れ をもつ。 自人 は、

.「

飲 み 物」 と尋ね られ るとアル コール を連想す ‐

る。少数民族 はそうではない。 まった く同 じ質問であっ て も、お茶や水 な どの ような非アル コール飲料 を連想す る。 アル コールの飲用が禁 じられ、 これ を堅 く守 った 日常 を送 っているか らである。

141 家族

西欧の文化 は、一般 に個人主義 と個人の自己実現 とを強調する。個人のニーズ と幸福 とは、彼 もし くは彼女の属する家族のニーズや幸福 に優先する。家族の成員 にある種 の緊張が生 まれた時、

個人 は自分の要望 を第一義的に扱 う。人々 は、他の家族構成員の要望 に我が身 を委 ねて自分 を犠 牲 にすることはない。 イギ リスの社会慣習 をは じめ教育組織 お よび制度 は、すべて この基本的な 価値 を投映す る。家族の形態やそのあ り方 は多様である。多 くの見方のあることも確かである 3

しか し、多 くの人々 は、個人があつて家族があると理念的に信 じている。行動 と評価のパターン は、 これ を映 し出さずにおかない。

少数民族 に属す る人々の一部 は、イギ リス流の考 え方や行動 を前 にして衝撃 を受 け、 自らの価 値観 と確信が脅やか され るのではないか とも感ず る。個人 と家族 に対す る考 えは、イギ リスを含 む西欧の文明 と少数民族 とであまりに異なるか らである。 もとより、イギ リスに生 まれ育 った多

くの若 い黒人 は、統合化の過程 にある。

(10)

経済研究 1巻 1号

個人 と家族 とをどの ようにみるか は、イギ リスに住 む少数民族 の人々 と多数の自人 とで驚 くほ ど異なる。少数民族 の特徴 を中心 に述べ ると次のようである。

家族の構成員 と家族の単位 とは、人々の生活 に とって きわめて重要である。人々の価値 は、属 す る家族の価値 と切 り離すわ けにいかない。決定 は、個人 よ りもむ しろ家族全体でなされ る。一 人 の構成員の福祉 は、家族の成員すべての福祉 に左右 され る。家族の中の責任 と権限 は、はっき

りとした階層 をもつ。すべての決定 は、 ことの大小 を問わず高齢者の責任であ り義務である。高 齢者がた とえ別 の場所 に住 んでいて も、家族 は、重要な決め ごとであるか ぎ り高齢者 に問いあわ せてその判断 を仰 ぐ。イスラム教徒の男性が、次の ように述べ るようにである。 「私の両親 は、パ キスタンに戻 つています。私たちは、なにか大 きな決断 をす る時、あるいは子供の ことについて いつ も両親 に尋ね、意見 を仰 ぎます。住宅 を買 う時 と同 じように、娘の学校 の ことも相談 します。

大 きな決断 を迫 られ る時 には、必ず意見 を求め ます。 こうしたや り方には問題 もあ ります 6時 間 を要す ることです。手紙だけの議論 はむつか しいのです 10」

人々 は、生活のすべての場面で自らを大 きな親族 (family network)の 一員であると考 えてい る。結婚 は、新 しい独立 の単位の形成 を必ず しも意味 しない。夫婦 は物理的 にも情緒的 にも一族 の中の一部である。夫婦の福祉 にかかわ る決定の最終的な権限 は、一族の高齢者 にあると依然 と して考 えられ る。個人の自由や私欲 は、達成 され るべ き目標ではない。個人主義 は人間的な感性 の欠如や冷淡 さの現れ として、わが ままあるいは不快 な事柄であるとみなされ る。多 くの家族で 一人 として独立 した者 はいないのであつて、だれ もが他の成員 に対 して責任 を負 うと考 えられ る。

家族 の単位 は、概 して大 きい。三世代 や四世代か ら成 る家族 は少な くない。当然の ことなが ら い く組 もの夫婦がいる。高齢者 は、家族成員の生物学上の両親 とい うより、最終的な裁量 を持つ 者 と考 えられる。高齢者の助言 と裁量の尊重 は非常 に大切 である。責任 と援助 の堅い絆 は、家族 がた とえ核家族 に分かれた として も核家族同士で保たれ る。

家族 の名誉 と評判 はもっとも大事 にされ る。いわば一大関心事である。家族 の一員がた とえば 卑劣 さや意地悪、不品行、性的な乱行 あるいは犯罪行為で悪評 にさらされ ると、家族 の全成員の 生活 とその将来 にまで影響する。個人 の私欲 を抑制することは、長 い目で見 る とわずかな代償 を 払 うにす ぎないようである。家族 の扶養 と維持 とは、すべての成員の もっ とも大切 な努 めである。

人々の生活 の中軸であ り、交わ りと幸福の源泉である。アフ リカ系カ リブ人女性 は、次のような 印象 を述べ る。 「家族の構造 は、私の国ではちがいます。あなたには父母があ り、その父母 には同 じように両親があるで しょう。祖父母 は孫 に関心 を持 ちますが、あなたが祖父母 に気 に入 られ よ うとは考 えもしないで しょう。 イギ リスでは家族 はばらばらです。西 イン ド諸島における家族の

― ‑38‑―

(11)

多民族社会イギ リスの社会サー ビス

関わ りは、イギ リスの家族のそれ とははっきりとちがいます (10」

2。 少数民族 と社会サー ビス

(1)「 カラー・ プライン ド」な社会サー ビス

少数民族 に属す る人々の特性 とニーズは、社会サー ビスの計画 と実施 にどの ように考慮 されて いるであろうか。あるいは考慮 されていないであろうか。食習慣が宗教 に根 ざすだけに多様 な食 事が提供 され ることな しには、サー ビスの利用 もおぼつかないであろう。英語 を自由に操 ること ので きない人々は、サー ビスの存在 さえ知 らない とい う事態あるいは多少 は知 っていて も利用 を 自制す る とい う状況 も考 えられ る。

少数民族 とりわけ黒人 は、つ とに指摘 され る

̀よ

うに (18)社 会サー ビスの存在 さえ知 らない。存在 自体 を知 らない比率 は、年齢や障害の程度 を問わずお しなべて高い。 アフリカ系カ リブ人 よリア ジア人 について高い。 しか し、 それ も相対的である。アフリカ系カ リブ人が少 しましであるとは いって も、知 らない比率の高さに変わ りはない。サー ビスの利用率 はおのず と低 い。認識 と利用 の状況 について、社会サー ビスの種類 にそって述べてみたい。

ソー シャル ワーク・ サー ビスを知 る者 は、アジア人 の申で極端 に少ない。 ソーシャルワーカー と接触 した ことのある黒人 は皆無 に近 い。アフ リカ系カ リブ人のサ‐ビス利用 も皆無 に近い。作 業療法 について も、他の殆 どの地域サー ビス と同 じように黒人 によって殆 ど知 られていない。 こ の種 のサー ビスにニーズがないわ けではない。ホームヘルプ・サー ビスは、ァフリカ系カ リブ人の 殆 どが知 っているものの、アジア人の中で これ を知 る者 はわずかである。両者 における認識のち がいは、多方面で指摘 され る。 ホームヘルプ・ サー ビスの利用 になると、自人で もっとも多い。

利用率 は、アジア人 は もとよリアフ リカ系カ リブ人で低い。低 い利用率 は黒人 におけるニーズの 低 さによるわ けではない。食事 の宅配 も少数民族で知 る者 は少 ない。 よく知 っているのは、他の サー ビス と同 じように自人である。認識 の格差 は、アジア人 とアフリカ系カ リブ人 との間に見 ら れ る。認識の比率 は、 自人 とアフ リカ系カ リブ .人 の順 に高 く、アジア人でははっきりと低 い。宅 配の利用率 は、アジア人 はもとよリアフ リカ系カ リブ人で も低 い。 しか し、黒人 は食事の宅配 に 高い関心 を示す。

昼食 クラブの認識 と利用 も食事の宅配 と同 じ傾向にある。アフ リカ系カ リブ人 による認識の比 率 はアジア人 より高い。しか し、黒人の利用率 は低い。デイケアの認識 は、黒人の中で限 られる。

デイセ ンターに通 う黒人 となると、数 はさらに少ない。 しか し、 この種のサー ビスについて知 る

(12)

経済研究 1巻 1号  ̀

アフリカ系カ リブ人 とアジア人 に絞 つて見 ると、かな りのニーズが示 され る。在宅介護者向けの 一時休息サー ビス も、これを知 る黒人 は少ない。他のサー ビスに比べて もかな り少ない。しか し、

一時休息サー ビスのニーズは、 自人の在宅介護者や家族 よりもアジア人で高い。在宅介護者の支 援 グループは、在宅介護者 を直接の対象 にす る数少ない支援のひ とつである。 グループの構成や 活動 は色々である。 これを活用す る在宅介護者の属性 も多様 である

̀こ れ らのグループを活用す る黒人 は tご くわずかである。

一般開業医への登録 は、すべての民族 グループで同様である。殆 どの自人、 `

アジア人 それにア フ リカ系カ リブ人 は、一般開業医に登録 している。多 くのアジア人 は言語の問題 を考 えてアジア 生 まれの一般開業医 に登録する。一般開業医の利用だけは自人 より黒人で頻繁である。就業や住 宅条件 な どに由来す る疾病率の高 さが、その要因である。地域看護婦 についての認識 は、自人 と アフ リカ系カ リブ人 とではほぼ同 じ程度 に進んでいるものの、アジア人 においてわずかである。

しか し、高齢のアジア人が地域看護婦 とそのサー ビスについてひ とたび知 ると、利用 は同 じ年齢 階層の自人 と同様 に進む。

他のサニ ビス、た とえば失禁時の洗濯サー ビスや物理療法サー ビスの認識や利用 もすでに述べ たサー ビス と同 じように低い。

少数民族 とりわけアジア出身の人々による認識 と利用の低 さは、いったい どこに由来す るであ ろうか :こ の問題 については、今 日のイギ リスで も少な くない影響力 を持つ考 え方がある。すな わち少数民族 に属す る人々は、社会サー ビスを購入す るほ どのニーズをもたない、 とい う考 え方 である。 9。 なん といって も多世代家族である。高齢者や障害者の介護 と乳幼児の保育 は、 この中 で完結す ると指摘す る。 しか し、 これ は、 ソー シャルワーカーやボランテ ィア団体 によって比較 的はや くか ら批判 され、最近で は専門研究者 による調査結果 を通 して も根拠の薄いあまりに定型 化 された考 えである、 と否定的 に受 け止 め られは じめている 。の。少数民族 とりわけアジア人は、

住宅問題や他 の経済的な問題 にしばしば直面す る。家族が伝統的に担 って きた役割 をこれ まで通 りに背負い続 けるのはむつか しい。社会サー ビスに対す るニーズは、多世代家族の中で解決 され ないために形成 され る。 これは、少数民族 に関す る各種調査の示す ところである。

社会サー ビスについて知 る者が少 な く、利用 も自人 に比べてわずかであるのは、 どの ような要 因によ・ るのであろうか。 あ らか じめ要約 していえば、第一 に、社会サー ビスの存在 を知 らせ る情 報 に乏 しい こと、第二 に、サー ビスが自人 をモデル に編成 され少数民族 を事実上排除す ること、

最後 に、サー ビスの担 い手の構成 と専門的な訓練 に問題 を抱 えて少数民族 に即 したサー ビスの提 供 に至 っていない こと、 これ らである。

― ‑40‑―

(13)

多民族社会イギリスの社会サービス

まず、社会サー ビスや国民健康保険制度 (NHS)に ついて知 ることは、新 しくイギ リスに到着 した人々や英語 を話せない人々に とってむつか しい話である。サー ビスの給付場所 について も、

イギ リスに長 らく住んだ人々に対 してさえはっきりとした情報が与 えられて こなかった。 この種 の情報 は、いきおい家族や友人、職場 の仲間な どのインフォーマルなネ ッ トワークを通 して聞 き 覚 えることになる。正確 さを欠 く場合 も避 けられない。各種 の便覧や リーフレッ トが数力国語、

多い場合 には 12カ 国語 をもって作成 され、歓迎 されている。 よ く知 られ好評 を博 した ものでは、

英国放送協会 (BBC)と 保健教育 カウンユル (HEC)の 共同によるテレビ番組や便覧がある。地方 自治体で も作成 し配布 に乗 り出 している。いずれ も 80年 代 に入 っての ことで ある。しか し、こう した試みに対す る批判 も寄せ られている。 あま りに多 くの ことが記載 されていて読 み取 ることが むつか しい、英語 を話せない者 に とってはどこに行 けば便覧 を入手で きるのかはつき りしない、

利用者の権利 について もっ と強調 されて しか るべ きである、な どの批判である。地方 自治体 によ る通訳 の採用 も、便覧や リーフレッ トの発行 とな らんで広が りをみせた動 きである。 これ も歓迎 されている。しか し、コ ミュニケーシ ョンは読 み書 き能力や会話 の技能 に とどまるわ けではない。

さらに、社会サー ビスが自人 を基準 に提供 され、少数民族 に属する人々の利用 を事実上排除す る とい う問題 もある。 イギ リスの制度や施設 は もとよ リサー ビス も、宗教の うえではキ リス ト教 を基準 に作 られて きた。 これには長い伝統がある。少数民族 に属す る人々が、た とえば食事 の宅 配サー ビスを知 り得て も、 自人やキ リス ト者 むけに調理 され るか ざ りけっして口にす ることはな い。宗教の歴史 はあまりに長いだけに、自人やキ リス ト者だけに限定 してメニュニを考 え調理 し たわけで もない。 しか しサー ビスの受 け手 に とっては、 はっき りと意識 しない行為 も時に差別的 な扱 いである。少数民族 に属す る人々 は、宅配サー ビスのニーズを持 ちその存在 を知 っていてさ え利用 しようとはしない。

サー ビスを担 う人々の問題 も指摘 され る。社会サー ビス部門の人的な構成 は、多民族社会 とし てのイギ リスの現実 にそうものではない。黒人 をはじめ とす る少数民族の採用は、わずかである。

数が少ないばか りではない。雇用 されて も職階の うえで低 い等級 に集中す る傾向にある。高い等 級の中では、数 えるほ どの人数である。管理的な役割 を担 う例 は、稀である。黒人職員 は白人の 同僚か ら「少数民族の専門家」 として好意的 に迎 えられ る。彼や彼女たちが採用 されて、ホ ッと している というのが、正直 な ところであろう。 しか し、「少数民族むけの仕事」に固定 され るきら いがある。黒人職員の もつ専門的な能力 を十分 に発揮 し難 いことも確かである。 いきおい、 .昇 進 の機会 も狭 くなる。

少数民族 に属す る人々の採用 には、た しかに積極的である。 しか し、それが多民族社会 として

(14)

経済研究 1巻 1号

のイギ リスに敏感 なサー ビスの提供 に直結 していない ことも否定 しようのない現実である。黒人 職員の専門的な能力が正当に評価 されず、サー ビスのあ り方について決定す る地位 に も就 けない。

アジア出身のある保健訪問員 は、次の ように言 う。 「私 はアジアの 4つ の言語 を話 します。この能 力 は地域 に とって有益であるように思います。私 は保健訪問員 に 4回 応募 しました。で も、採用 され ませんで した。私の英語 を磨 きなさい、といつ も言われ ました 121」 。別 のアジア出身の保健訪 間員 も言い ます。 「私 は、アジア人家族の多い地区で働 いてい ます。た くさんの言語 を使 って、私 の依頼者 に良いサー ビスを提供 しようとします。私の上司にあた る看護職の高官 はそんな ことに 時間 を費やすな と私 に言いますυ a」 。さらに、少数民族 を職員 として雇 う財源 は、自治体 の主要な 予算か らではな く、 しばしば主なボランテ ィア団体や教会の浄財 に自治体の予算 を加 えて捻出さ れ る。少数民族 に属す る人々の低 い地位 は、財源の確保 にも見 ることがで きる。

少数民族 に属す る人々のニーズや これへの政策的な対応 の遅 れ は、今か ら 20‑30年 ほ ど前の 1960年 代後半か ら 70年 代半 ばにかけてはや くも指摘 されている。しか し、多 くは依然 として解決 の待たれ る問題である。そうした中で も対応の多 くは、当初個人やボランタ リー団体 あるいは教 会 に主導 されて きた。財源 には、おのず と限 りがある。財源の規模 は もとより財源確保の継続性 に も不安 を抱 える。対応の規模 も小 さい。提供 され るサー ビスの種類 も少ない。発足 しては中止 に追 い込 まれ るといった、途切れ途切れのサー ビス もある。利用す る人員 も狭 くな らぎるを得 な い。対応 は、個人や団体 に担われ るだけに善意 にあふれ先駆的ではあるけれ ども、広が りや継続 性 とい う点で残念 なが ら問題 を抱 えぎるを得ない。 80年 代 に入 ると、い くつ もの自治体がサー ビ

スの提供 に乗 り出 している。 3、 自治体が直接 にサー ビスを提供 す る場合 と、ボランテ ィア団体 を 財政的に支援す る という形で乗 り出す場合 とがある。 い くつかの自治体では、機会均等の考 えを 雇用 に とどまらず社会サー ビスの分野 に も貫いて、対応 の実 をあげている。 しか し、他の多 くの 自治体 ではなん らかの対応 を行 った ものの これ といった実際上の改善 をあげていない。少数民族 の もつニーズヘの対応 は、専門研究者 も率直 に認 める。のように多少なが らの発展 を記録す る。 こ れ は実施主体 の別 を問わず、ボランティア団体 と行政の双方にいい うる。同時 にニーズにどの よ うに対応す るか困惑 を抱 えなが らこれ といった収穫 をあげていない自治体 も多い。「カラー・ブラ イ ン ド」な社会サー ビスか ら「 カラー・ セ ンシテ ィブ」 なそれへの転換 は、 90年 代後半か らも引 き続 く課題 である。

次節 に続 く各節では、各地 における調査の結果 を紹介 しなが ら他民族社会 イギ リスにお ける社 会サー ビスヘのニーズや利用の状況 について探 ってい くことにしたい。本節で述べた「 カラー・

ブライン ド」な社会サー ビスについて、各地の実情 に即 しなが ら理解 していただけるのではない

― ‑42‑―

(15)

多民族社会イギ リスの社会サービス

か、   と思 う。

(2)地 域の事例 (1)一 一グ リニッジ Oり

グ リニ ッジ区 (ロ ン ドン )の アジア系高齢者お よびアフ リカ系カ リブ高齢者 につぃての情報 は ごく限 られ る。主な情報源 は『国勢調査』 81年 版 である。イギ リス以外の国で生 まれれた年金受 給有資格者 (男 性 65歳 、女性 60歳 )は 、 これ による と 556人 である。 これが、調査の時点で区 内に住 む黒人 の年金受給有資格者 についての もっ とも正確 な数である。

イギ リスヘの黒人移民 は、出身地、移民の時期、文化的な特性の うえで多様である。 この事実 は、すべての調査研究で指摘 され る。 グ リニ ッジ区の調査で もそうである。

アジア人 は、東アフリカ とイン ドか らイギ リスに渡 って来た。ある人々は、ケニヤやウガンダ それにタンザニアか ら 60年 代か ら 70年 代初頭 にか けて入国 している。 その多 くは、亡命者であ る。イン ドか らの移民 は、これ よ り少 し早 く 50‑70年 代 にイギ リスに渡 った人々である。グ リニ ッ ジ区に住 む人 の多 くは、北 イン ドのパ ンジャブ、パキスタン、バ ングラデシュ、ス リランカか ら やつて来た。 ききとりに応 じた 27人 22人 はイン ド生 まれである。同 じく 1人 は、パ キスタン 生 まれである。 (表 1)。

グ リニ ッジ区は、シーク教徒 をはじめイスラノ、教 それにヒンズー教の各集団の多い地域である。

高齢 の黒人 に とって も宗教の重要 さは、多 くの研究者の指摘するところである。今回の調査で も 確かめ られ る。 93%に あた る 25人 が、地 区の宗教組織 に籍 を置 く。

イ ン ドの言語 は、主要な言語 に限 って も 14種 類 にのぼる。グ リニ ッジ区には少 な くとも 8種 類 のアジア系言語が話 されている(83年

)。

パ ンジャブ語が主要な言語である。以下、グラジャ ト語、

ウル ドゥー語、 ヒンディー語の順 に使 う人が多い。アジア人の読み書 き能力 は、前出の表 1に るように幅広い分布 を示す。 60年 代 にイン ドのパ ンジャブか ら入国 して、読 み取 る能力のない者 (女 性 K)が 居 る一方で、 70年 代 に東 アフ リカのグラジャ トか ら入 ってグラジャ ト語 はもとより 英語、 ヒンディー語 な どを読み取 ることので きる者 (男 性 W)も 居 る。すべてのアフ リカ系カ リ ブ人が英語 を話 し読 む とはいって も、言語 は高齢者 にとって厄介である。国なまりや方言を伴 う か らである。

17人 の回答者 はグ リニ ッジ区に 10年 以上 にわたって住 んでいる。同 じく 2人 は、 20年 以上 に およぶ。前出の表 1に 見 る通 りである。 この 2人 は、イギ リスに長 くとどまりたい とは考 えてい ない。

高齢者の家族や地域 における役割 は、確固 とした ものでない。家族の生活パターンの変化、若

(16)

経済研究 1巻 1号

表 1  アフ リカ系カ リプ及び南アジア出身高齢者の諸属性 性 別 出 身 国 入国年代

ツジ 押 リニ 酢

居 グ 読 み取 れ る言語 (a 家族 の構成

男 性 A

男 性 B

女 性 C

女 性 D

男 性 E

F 女 性 G

女 性 H

女 性

I

女 性 J 女 性 K

女 性 L

女 性 M

男 性 N

女 性 0

女 性 P

女 性 Q

女 性 R

男 性 S 男 性 T

男 性 U

女 性 V

男 性 W

男 性 X

女 性 Y

男 性 Z

男 性 AA

性 男

ウ ガ ン ダ イ     ド ウ ガ ン ダ ケ     ヤ

北 ア フ リカ イ   ン   ド ケ     ヤ イ     ド ジ ャマイカ イ     ド 東 ア フ リカ イ     ド

〃 ケ     ヤ

ウ ガ ン ダ タ ンザニ ア ケ     ヤ バルバ ドス

〃 ケ     ヤ

〃 東 ア フ リカ

ア ンチ グ ア ウ ガ ン ダ

〃 ア メ リ カ イ ン

70年 代 80年 代

〃 70年 代 60年 代 70年 代 60年 代 70年代

60年 代

70年代

〃 60年 代

70年代

60年 代

50年 代 70年 代 60年 代 70年 代

60年代 70年代

11年 3年 5年 6‑10年

20年 10年 17年 14年 11年 16年 22年 12年 6年 3年 7年

12年

6‑10年

1‑5年

8年 16年 11年 10年 14年

12年 13年

〃 6カ 月

グラジャ ト語 パ ンジャブ語

ウル ドゥー語 グ ジ ャラ ト語、英 語、パ ンジ ャブ語 パ ンジャブ語

英語

パ ンジャブ語 グラジャ ト語 ヒンディー語 グラジャ ト語

〃 パ ン ジ ャブ語 英 語

グ ラ ジ ャ ト語 ヒ ンデ ィー語

グラジャ ト語、英 語、 ヒンディー語

一  瓢 旧

一 ィ 冒 語 デ カ       瓢 田

ト ン リ     ト

ヽ ヒ ジャ ″     ジャ 〃  

ラ 瓢 田   ヽ  五 出   ラ グ 英 語 英 グ

妻、2人 の娘、2人 の息子、 1人 の養女 妻

1人 の娘、 1人 の息子

2人 の息子、 2人 の養女、 2人 の孫 妻

1人 の息子、 1人 の養女、 2人 の孫 1人 の息子、 1人 の養女、 3人 の孫 夫、 1人 の娘

夫 本人 のみ 夫 、 2人 の娘 夫 、 1人 の息子

夫 、 1人 の息子、 1人 の娘 ホーム レス

夫、 2人 の息子 2人 の娘、 1人 の息子

夫、 1人 の息子、 1人 の養女、 1人 の孫

1人

妻 夫

2人 の息子、 2人 の養女、 3人 の孫

3人 の娘 夫、 1人 の息子

1人 の息子、 1人 の養女、 2人 の孫 妻、 1人 の息子、 1人 の養女、 1人 の孫 [資 米 斗]Greenwich Directorate of Social Services,Greenwich's Afro― Caribbean and South Asian

elderly people,Planning and Research,p。 13 and p.21よ リイ 乍成。

[注 ](1)85年 2‑3月 の時点 までの年数である。

(2)空 欄 は、読み取 る能力のない場合である。

― ‑44‑―

(17)

多民族社会イギリスの社会サービス

い世代 の異 なる希望や野心、高度 に工業化 されたイギ リスの生活思潮 は、黒人高齢者の伝統的で 力 あふれ る役割 を侵食する。家族 は、 もとよ り扶養 と支援の重要な源泉である。半分 を少 し上回 る 16人 は、これ も前出の表 1に 見 るように二世代 もしくは三世代家族である。しか し、家族 の構 成 は実 に多様 である。 4人 が 1人 で住 み (女 性 J、 女性 R、 男性 S、 男性 T)、 他 の 1人 はホーム ンスである (男 性 N)。 カロえて、他の 5人 は妻 もしくは夫 とだけ住み (男 性 B、 男性 E、 女性 I、

男性 U、 女性 V)さ らに、別の 3人 は離婚 を経験 している (女 性 C、 女性 P、 男性 X)。

葛藤 と孤独 は多世代家族 を避 けて通 るわ けでない。 4分 の 3を 超 す人々 は、子供 ともっ と頻繁 に接触 したい と思 っている。 しか し、両者の関係 は、時に困難 におち入 る。回答者の半分少 しの 人々 は、家族の うちの誰かが必要 に応 じて通訳 し仲介者の役割 を果た して くれ ると述べる。言語 の問題 は、他の人々に とって孤独 と不安感 を激 しくさせ る。

黒人 と高齢者 は、今 日のイギ リスで良 く知 られ るように最 も貧 しくもっとも悪い住宅条件の も とにある。アフ リカ系カ リブ人及 び南 アジア人 の年金受給有資格者のお よそ半数 は、補足手 当 (SB)を 受給す る。補足手当の受給率 はすべての年金受給有資格者では 5分 の 1で ある。 白人の 年金受給有資格者の 15%は 、別 のグ リニ ッジ区調査 によると日々の暮 らしに十分 なお金 を持たな いため困っていると答 えている。同 じ質問を黒人の高齢者 に向けると、その比率 は回答者の 52%

にのぼる 3黒 人高齢者の貧困は、各種 の福祉手当を受給で きない場合に増加する。 これは、少数 民族 に属す る高齢者 と一緒 に働 く人々の しばしば証言することである。

41%に あた る 11人 は、区営住宅 に住 む。 48%に あたる 13人 は持 ち家である。アジア人の住 む 家の狭 さは、 よ く知 られ る。区営住宅 に対す る要望 は、電気配線の取 り替 え、 しっ くいの塗 り直 し、古い窓の修理 とドアの取 り替 えである。エレベーターが うまく動かないので、 7階 まで歩 く のは とて もつ らい とい う声 もある。近 くに親 しい隣人がいない ことを理 由に、転居の希望者 は 44%に あたる 12人 を数 える。

孤独感や社会的な孤立 は、少数民族 に属す る高齢者の経験することとして しばしば指摘 されて きた。友人の有無 は、グ リニ ッジ区の黒人高齢者 にとってきわめて重要である。 70%に あた る 19 人 は、いつ も顔 をあわす友人 を地域 に持つ。この うちの 15人 は、調査 に先立 つ 2日 間 に少 な くと

も一度友人 と会 っている。仲間 との交流の希望 は、 ききとり調査の中で何度 も繰 り返 し触れ られ ている。地域 に友人 をもたない 7人 (26%)が 、特 に繰 り返 し述べた ことで もある。

高齢 のアジア人 による社会活動 は、性 によって異 なる。性のちがいは、活動 のちがい として し

ばしば現れ る。 これ は、他の規模 の大 きい調査 によって も確認 される。ある調査 によると、アジ

ア人男性 は毎 日外出す るのに、女性では週 1回 限 りである。 これはグ リニ ッジ区の調査で も同 じ

(18)

経済研究 1巻 1号

である。毎 日外出す る者 は、男性で半分、女性では皆無である。 ききとり調査 に先立つ週 に 1回 も外出 しなかった者 は、男性では 1人 としていない。女性では 2人 を数 える。女性 の行動する範 囲 は男性 よ りもはっきりと狭 い。意気消沈 と俗怠 は女性の しば しば訴 える問題である。パ ンジャ ブ語以外の言語 を話せない 2人 の高齢女性 は、時間の殆 どを家事 にあてるか、若 しくはテレビの 前 に座 っていることで過 ごす。意気消沈や倦怠 を訴 える女性 の多い ことも、 うなづけるとい うも のである。        

黒人高齢者の多 くは、社会サー ビスの存在 を知 らない。 これは、少 な くない調査の示す ところ である。同時 に認識 の状況 は、地域や人種、性 によってかな り異なることも各種の調査の語 ると ころである。例 えばノッティンガム (Nottingham)調 査 による と、アフ リカ系カ リブ人の 89%は 、 ホームヘルプについて聞いている。 ダ ッドレイ (Dudley)調 査 によると、わずかに 37.5%で ある

(対 象 はいずれ も年金受給有資格者 のみ

)。

グ リニ ッジ区の調査結果 は、表 2の 通 りである。ホー ムヘルプについて知 る者の比率 は、 74%で ある。知 る者の比率 は、 この他 に も食事の宅配、デイ セ ンターな どで高い。サー ビスの利用希望者 は、表 3に 示 され るようにホームヘルプをはじめ食 事 の宅配、デイセ ンター、昼食 クラブで多い。 これ は「同一人種 の労働者 に担われ るサー ビス」

という条件 を付 けての ことである。ジャマイカ出身の女性 は、次のように述べ る。 「私達黒人高齢 者のために、私達 と同 じ人々によって運営 され るホームや クラブ、セ ンターを欲 しいのです。同

じ人種 の人々は、私達のや り方 を良 く理解 しているか らです」。

高齢者 ホームや収容住宅への入居の希望 は、前出の表 3の ようにお しなべて低 い。 「私 は、入居 したくない」 「自分の家を持っている」 「私の子供 と一緒に住みたい」といつた声が寄せられてい

表 2  サー ビスについての認識の状況 表 3  同一人種の労働者によって担われる場合の サー ビス利用の意思

知 っていない

利 用 しない 高 齢 者 ホ ー ム

ホ ー ム ヘ ル プ 食 事 の 宅 配 デ ィ セ ン タ ー 昼 食 ク ラ ブ

収 容 住 宅

6 7 3 11 16 19

高 齢 者 ホ ー ム ホ ー ム ヘ ル プ 食 事 の 宅 配 デ ィ セ ン タ ー 昼 食 ク ラ ブ

収 容 住 宅

21 9 10 12 12 21 知 っ て い る

21 20 24 16 11 8

[資 料 ]表 1に 同 じ。26ペ ー ジよ り借用。

(単 位 :人 )

[資 料 ]表 1に 同 じ。26ペ ージより借用。

6 18 17 15 15 6

― ‑46‑―

(19)

多民族社会イギリスの社会サービス

る。 この結果 は他の調査 とも一致す る。

言語 とコ ミュニケーションは、社会サー ビスを利用するうえでの障害である。次のような声が ある。 「私 は、この地域 に設 けられた施設 を利用 しません。ことばの問題か ら尻込みするのです」。

「私 は、英語 を話せ ません し、私の夫 はかな りの高齢です。夫 は心臓の疾患 を抱 えています。で すか ら私達 は人の手 を借 りずに暮 らしてい ます」。「私のように糖尿病 にかかった者 にとっては、

必要な時 に病院 に行 く交通手段 を欠 くわ けにいきません。私達の ことばを使 う通訳 と案内人 も病 院 に居てほしい ものです」。

では、ニーズの充足 はどのような状況 にあろうか。社会サー ビス部 (SSD)の 人的な体制 を含 めて紹介 してみたい。

社会サー ビス部 は、年金受給有資格者向けのサー ビス案内冊子 を 84年 7月 に発行 している。英 語版 だけである。 この冊子 は自民族 中心主義の最たる例である。人種関係班 (RRU)が 部 内に設 置 され るのは 85年 5月 である。少数民族 の問題 は、この設置以前 には通常 ごく断片的にしか扱わ れていない。拠 り所 になる原理 もな く、限定 された知識 しか持ちあわせなかった。 まして、少数 民族か らききとって実情 をつかむ ことも行われて こなかった。部の職員が次のように正確 さを欠 く発言 をす るの も無理か らぬ ことである。「私達 は少数民族向 けのホームヘルプを設 けてい ませ ん」。「私達 は、黒人高齢者 にホームヘルプ・ サー ビスを届 ける用意 をしていません」。いずれ も、

この種 のサー ビスの担当者ではない部内の職員 による答 えである。部長 は、 「部 の用意する基本的 なサー ビスの多 くは、少数民族 に属する人々によって殆 ど利用 されない。……。 工夫 を要す る非常 に大事 な問題 のひ とつである」と、 84年 春 に述べている。社会サー ビス部 は、 この認識 をもとに その後様々な改善 に着手す る。

まず、職員の構成 と訓練である。前述 の人種関係班 は、 8人 か らなる .そ の うちの 4人 はソー シャル ワーカーである。ソーシャルワーカーの 1人 は少数民族 に属す る(85年 5‑6月

)。

訓練 は 黒人の高齢者 に対応す るための技術形成 とい う目標 に照 らす時、全 く不十分である。 これは人種 関係班 の職員 について もとより、ケースワークの職業資格 (CQSW)を めざす学生 について も残 念 なが らそうである。

ホームヘルプ・サー ビスは、月曜か ら金曜の 8‑17時 の間 に行われ る。費用の上限は、時間当

た り 2.23ポ ン ドである (85年 2月

)。

所得の状況 によって無料 もしくは割 り引かれ る。補足手当

な どの受給者 は無料である。部屋の清掃や繕い もの、買物、年金や給付金の受 け取 りの代行、読

書や筆記 あるいは電話の介助 な どが、サー ビスの内容である。少数民族 に属するホームヘルパー

とサー ビスの利用者 は、表 4に 示 され る(85年 3月

)。

この うち利用者 は、表中の地区 l‑5に 示

(20)

表 4  区内の少数民族ホームヘルパー と利用者の状況

[資 料 ]表 1に 同 じ。34ペ ージより借用。

少数民族 の ホームヘルパ ー 2人 (う ち 1人 はア フ リカ系 カ リブ人 ) 2人 (う ち 1人 はア フ リカ系 カ リブ人 )

2人 (う ち 1人 はア ジア人 )

いない

2人 (う ち 1人 はア フ リカ系 カ リブ人 )

経済研究 1巻 1号

地 区 1 地 区 2 地 区 3 地 区 4 地 区 5

少数民族 の利 用者

3人 (う ち 1人 ずつ ア フ リカ系 カ リブ人 とア ジ ア人 )

平均 して 15‑20人 の ア フ リカ系 カ リブ人 もし く はア ジア人

11人 (う ち 8人 はア ジア人 、他 の 1人 はア フ リ カ系 カ リブ人 )

5人 (う ち 1人 はア フ リカ系 カ リブ人 )

12人 (キ プ ロス人、ア フ リカ系 カ リブ人 、 アジ ア人 を含 む )

され る数 を合計す ると 46〜 51人 である。サー ビスを要す る年金受給有資格者 はどれ位 の数 にのぼ るであろうか。 白人のそれは、 12%に 相当す る人数である。 この比率 をもとに少数民族 について 算出す ると、 566人 中のおよそ 67人 である。両者 を比較すれば、ニーズをもつ 67人 中の 46‑51 人が、ホームヘルプ ・サー ビスを利用す る計算である。残 りの 16‑21人 はニーズを持つ ものの利 用で きていない。しか し、ホームヘルプの宣伝 は、少数民族 向けの新聞 に掲載 されはじめている。

利用の申込みは、増 える傾向にある。 ホームヘルプの利用キャンペー ンも始 め られている。利用 を促す方向で手が打たれつつあるといえよう。

高齢者 ホームは、551カ 所である。黒人が居住す るのは、その うちのわずか に 4カ 所である。グ リニ ッジ区は、今の ところこれ といった政策 をもたない。 しか し、高齢者介護 の主任職員 は、 こ の分野の政策の発展 に熱心である。高齢者 ホームの非肉体労働者およそ 50人 中 14人 は、少数民 族である。 ホームヘの入居 は、前述 した ようにアフ リカ系カ リブ人 とアジア人 に とって嫌悪感 を 伴 う。 そ うはいつて もゆ くゆ く必要であることは否定で きない。少数民族 にあう設備 の整備 に向

けて計画 を練 りたい ものである。

イ ン ド文化社会 デイセ ンター (ICSDC)は 、 82年 10月 に開設 されている。 ウィークデーの 10 時か ら 16時 まで開所する。テレビや ビデオを備 えた部屋がある。お茶の用意ので きる台所 もある。

宿泊 は 15人 まで可能である。アジア人男性が区内のあちこちか らやって来て利用する。 利用者 は、

話 した り、カー ドに興 じた り、読書 をした りす る。管理人 は社会保障の問題 な どの相談 にのった りもす る。「アジア人向けの新聞や他の定期刊行物が設 けられる と喜 ばれ るにちがいない」と管理 人 は述べている。

― ‑48‑―

表 4  区内の少数民族ホームヘルパー と利用者の状況 [資 料 ]表 1に 同 じ。34ペ ージより借用。 少数民族 の ホームヘルパ ー2人(うち1人 はア フ リカ系 カ リブ人 )2人(うち1人はア フ リカ系 カ リブ人)2人(うち1人はア ジア人)いない2人(うち1人はア フ リカ系 カ リブ人)経済研究 1巻 1号地 区1地 区2地 区3地 区4地 区5 少数民族 の利 用者3人(うち1人 ずつ ア フ リカ系 カ リブ人 とア ジア人)平均 して15‑20人 の ア フ リカ系 カ リブ人

参照

関連したドキュメント

国民の「知る自由」を保障し、

が漢民族です。たぶん皆さんの周りにいる中国人は漢民族です。残りの6%の中には

ひかりTV会員 提携 ISP が自社のインターネット接続サービス の会員に対して提供する本サービスを含めたひ

3 当社は、当社に登録された会員 ID 及びパスワードとの同一性を確認した場合、会員に

① 新株予約権行使時にお いて、当社または当社 子会社の取締役または 従業員その他これに準 ずる地位にあることを

このような状況のもと、昨年改正された社会福祉法においては、全て

さらに, 会計監査人が独立の立場を保持し, かつ, 適正な監査を実施してい るかを監視及び検証するとともに,

危険な状況にいる子どもや家族に対して支援を提供する最も総合的なケンタッキー州最大の施設ユースピリタスのト