私的所有制度 と労働関係 の史的沿革及びその法理(四)
私的所有制度と労働関係の
史的沿革及びその法理
目次
序説
‑労働関係の史的沿革をめぐる方法論について
第︼部私的所有制度と労働関係の吏的沿革
第一章前資本主義社会の私的所有と労働関係
第一節私的所有の成立と共同所有及び共同労働関係の解体
第二節私的所有化と奴隷労働関係
第三節私的所有の封建的支配と身分的労働関係
第二章資本主義社会の私的所有と労働関係
第一節資本主義の前期的段階における私的所有と労働関係
第二節資本制私的所有の確立と自由労働関係
第三節資本制私的所有の独占化と階級的労働関係
結語にかえて(以上第二巻第一号)
第二部私的所有制度と労働関係の法理 高
(四)
橋保
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第一章所有権制度及び労働関係における二大法思潮
第一節古代ローマ法における個人主義的所有権制度と賃貸借( [069け一〇〇〇芭P血¢Oけ一〇)
第二節中世ゲルマン法における団体主義的所有権制度と主従契約(↓﹃oロ島o口暮くo昏鎚αq)(以上第二巻第二号)
第二章﹁自由の原理﹂基盤における私的所有権制度と雇傭契約
第一節﹁自由の原理﹂の生成基盤と市民法の原理的構造
第二節﹁自由の原理﹂基盤における私的所有権制度
一︑市民法における私的所有権制度
二︑私的所有権制度の資本的展開(以上第二巻第三・四合併号)
第三節﹁自由の原理﹂基盤における雇傭契約
一︑雇傭契約の概念構成と商品交換
二︑雇傭契約の独自的理念構造とその法的性格
第四節私的所有権制度の規範構成及び制限法理と雇傭契約
一︑私的所有権制度の規範構成と雇傭契約における従属労働
二︑私的所有権制度の制限法理と雇傭契約の国家介入と解放(以上本稿)
第三章﹁生存の原理﹂基盤における私的所有権制度と労働契約及び労働協約(以下次稿)
第三節﹁自由の原理﹂基盤における雇傭契約
一︑雇傭契約の概念構成と商品交換
一︑資本主義的経済秩序の本質をなすものは︑かってのポーレ(℃O巨O)の言葉を借りれば︑﹁個人主義的経済秩序﹂で
( 1 )
ある︒これは︑近代及び現代の資本主義的経済秩序に共通する本質である︒近代資本主義社会は︑いち早く︑この経私的所有制度 と労働関係の史的沿革及びその法理(四)
済的秩序の法的反映として︑﹁自由の原理﹂を定立せしめ︑その原理的構造としての︑﹁私的所有権﹂︑﹁契約﹂を基軸
として︑かの資本主義社会の物質的関係を飛躍的に発展せしめたということができる︒とくに︑前者の私的所有権
は︑その原動力であったと解する︒蓋し︑資本主義社会における私的所有権の確立は︑生産手段に対する私的所有権
の確立を意味し︑これは︑資本主義社会の根本である物質的法基礎を確立するものであるからである︒しかし︑私的
所有権の原動力性は︑なにも資本主義社会特有の現象ではない︒私的所有権なるものは︑所有権についての法概念の
確立をまつまでもなく︑いつの時代社会においても存在し︑常に︑社会の根本的基礎的原動力であったことは︑既に
述べてきたとおりであ奮)しかし・典型的な商・叩社会を築い養奎軽会においては︑私的所有権は︑﹁資本所有
権(あるいは﹁商品所有権﹂)として存在し︑且つ︑資本的機能が中心的に発揮されていることにおいて︑前資本主義社
会の土地所有権等とは異なっている︒この意味の所有権の資本的機能とは︑所有権本来の物質的機能と異なり︑例え
ば︑生産手段の有する資本的交換価値(商品的価値⊥父換価値)を利用して︑そこに労働力を結合させ且つ資本の増殖を
図る機能をい短)資奎義社会の原動力をなしているものは︑資本所有権であ戦その資本的機能である︒それはま
た︑私的所有権制度によって︑固く保護されてきたことは︑こ}で指摘するまでもないであろう︒
ところで︑近代資本主義社会の労働関係の形成の根源は︑上述の私的所有権︑なかんずく︑生産手段に対する資本
所有権の資本的機能に求めることができる︒周知のように︑近代資本主義社会は︑資本(生産手段)と労働の完全分離
の上に成立したものである︒したがって︑生産手段に対する資本所有権が︑その固有の機能としての資本的機能を実
現するためには︑必然的に労働と結合しなければならない︒このことは︑労働のみが唯一の生活資料である労働の側
からもいえる︒生産手段に対する資本所有権と労働関係は︑全く︑必然的宿命的結合関係に立っているのである︒し
かし︑労働関係の形成は︑常に資本所有権の機能的発揮いかんによる︒つまり︑資本所有権が︑欲せざる限り︑労働
関係の形成はありえないのである︒この点を考えると︑資本主義社会の労働関係の形成の根源は︑資本所有権の資本
ヘヘヘへ的機能の実現過程に求めることができるのである︒さらにこのことは︑資本主義社会の労働関係が︑所詮資本所有権
の派生的形態であることを示唆しているのである︒次に資本所有権によって形成される労働関係が︑いかなる形態の
ものであるかは︑資本所有権を存在せしめている時の経済的秩序によって決定されるのである︒しかるに︑近代資本
主義社会にあっては︑個人主義的経済秩序を基調としている︒したがって︑資本所有権は︑個人原理に発する︑自由
なる資本所有権として存在し︑且つ機能するものであり︑その派生的形態としての労働関係は︑個人的自由競争が支
配する自由労働関係が形成されることになる︒
かくて形成される自由労働関係は︑いかなる構成として把握されているか︒一般に︑自由労働関係をして︑労働者
ヘヘへの身体から切離され且つ商品化された労働力と賃金の商品交換関係であると観念されている︒もとより︑これは︑資
本主義経済組織の中心的機構が︑商品交換であることに端を発して︑自由労働関係をそれに融合せしめようとする経
済的構成にすぎない︒因に︑この経済的構成を︑そのまΣ法構成したものが・例の労働力売買説で臥罷︒しかし・こ
の経済的構成は︑実は最初から多くの問題性を内蔵していることを看取しておかなければならない︒つまり︑元来︑
資本主義経済の商品交換は︑等価交換を意味しているが︑労働力の商品交換は︑決してそのようになっていない︒資
本と労働力の完全分離下では︑その実現は︑不可能に近いというべきであろう︒また︑労働力は︑身体と一体不可分
の関係にあり︑充分に通常の商品のように︑需要供給の法則に適わないのである︒これらの問題性は︑自由労働関係
を商品交換の形態として構成する限り︑決して︑解決することはできない性質のものである︒
二︑以上の労働関係に対する経済的構成に対して︑近代市民法は︑いかなる法構成をしているか︒この間は︑まず
実定法を基点として分析をしなければならない︒
わが国の民法は︑近代資本主義社会の自由労働関係を以て︑﹁労務供給契約﹂(︾旨︒一邑一︒h興§σqω<︒H器σq)︑なかんずく・
その一法形態としての﹁雇傭契約﹂(一)δ口ω薯︒葺鋤σq)(以下︑単に雇傭と略す)として法類型化している︒そしてその意味
での雇傭とは︑﹁当事者ノ一方力相手方二対シテ労務二服スルコトヲ約シ相手方力之二其報酬ヲ与フルコトヲ約スル﹂
契約であるとしている(民法第六二三条)︒ところで︑本条は︑雇傭の定義規定であることにおいては︑別段異論はな
いが︑しかし︑本条を基点として︑雇傭の概念構成をすることにおいては︑とくに︑﹁労働契約﹂(︾旨︒δ︿︒旨餌αq旧8ロ
け冨9︒h︒8覧畠日︒昌辞)との峻別論において︑議論が沸騰しているのである︒しかるに︑rこの雇傭の概念構成を明らかに
するためには︑第一に︑雇傭が︑歴史的な法概念であるという認識に立却して︑その歴史的な概念構成を明らかにし
なければならない︒第二に︑労務供給契約としての雇傭の独自的な概念構成を明らかにしなければならない︒第三
は︑上述の労働契約との概念構成上の峻別論である︒そこで︑第一の雇傭における歴史的な概念ということである
が︑既に(註2参照)︑古代ローマ法における﹁奴隷労働関係﹂と﹁賃貸借﹂(§餌什δ8巳琴ぎ)︑中世ゲルマン法におけ
る︑﹁身分的労働関係﹂と﹁主従契約﹂(目器鼠冨霧才︒葺譜)等について︑主として︑私的所有(権)制度との関連におい
て論じてきた︒元来︑市民法それ自体が︑歴史発展段階の所産であるから︑いわんや雇傭もそのように把握しなけれ
ばならないのである︒つまり︑自由労働関係の法類型としての雇傭は︑﹁奴隷労働関係﹂︑﹁身分的労働関係﹂の形態
的沿革の所産であり︑﹁賃貸借﹂︑﹁主従契約﹂の法理的沿革の所産である︒こンでは︑形態的沿革的差異については︑
既に述べてきたので︑法理的沿革的差異︑つまり︑雇傭と他の﹁賃貸借﹂及び﹁主従契約﹂との差異についてみて
みたい︒まず﹁賃貸借﹂︑つまり︑一般に一9豊︒8巳琴9と称されているのであるが︑これには︑﹁請負﹂(§巴︒
︒8含a︒︒b9ω)﹁委任﹂(日彗量葺日)︑コ雇傭﹂(一8慧︒8ロ含︒け一︒︒や9霞ロ日)の三つの有償的双務的労働契約が存在した
(このうち︑委任のみは好意的労働として原則として無報酬であったが︒×什箪︒aぎ碧鑓の形式にする特別訴訟手続によって謝金
け8︒N輿言日が支払われた)︒もとより︑これは物(吋Oω)たる奴隷が除外された︑自由人相互のみの労働契約であったの
である︒この一〇8辞一〇8巳ロaoが︑雇傭と異なる点は︑雇傭においては︑労務の提供者自身が契約の当事者であるの
に対して︑ぢ︒9δ8盈口aoにおいては︑奴隷を所有し︑賃貸するところの自由入であることである︒したがって︑