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―― 国際条約の廃用を中心にして ――

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国際法における廃用(desuetude)の一考察

―― 国際条約の廃用を中心にして ――

長 谷 川 正 国 *

1. 序論

2. 廃用理論の整理および類似概念との境界画定   Ⅰ 廃用理論の整理

   (1) 主観的アプローチ    (2) 客観的アプローチ   Ⅱ 類似概念との境界画定

   (1) 廃用と「失効状態」(caducité)の区別

   (2) 廃用と「事情不変更条項」(clausula rebus sic stantibus)の区別    (3) 廃用と「陳腐化」(obsolescence)の区別

3. 国際判例および国内判例の分析

  Ⅰ 指導的判例としてのユーイル・ショートリッジ社事件   Ⅱ 主観的アプローチを採用したと解釈される判決   Ⅲ 客観的アプローチを採用したと解釈される判決 4. 廃用概念の確定とその有効性

5. 結論

1. 序論

ビスマルクを引き合いに出すまでもなく、一国が独断的な政策を立案し実 施するときに政策決定者はその政策を擁護する国際法学者と理論を容易に発

  * 福岡大学法学部教授

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見してきた。一部の国際法学者とその理論は確かにこれまでそうした役割を 果してきた。こうした擁護論にはあえて議論するに値しないものが少なくな い。しかし、その擁護論が国際法秩序の根幹をゆるがすものを含んでいる場 合にはその議論は厳密に検討されなければならない。ブッシュ政権の一国主 義の帰結というべきイラク攻撃をめぐる議論はそうしたものを含んでいる。

2003 年 3 月 17 日、ブッシュ大統領は、サダム・フセインとその息子達に 48 時間以内のイラク退去を求め、これを拒否した場合にはその選択する時 刻に武力行使を開始する結果になるであろうという最後通告を行った。同時 に、武力行使の根拠について、ブッシュ大統領は、イラクがアルカイーダを 含むテロリストに生物兵器、化学兵器、あるいは核兵器を引き渡す危険性に ついて指摘した上で、合衆国は自国の安全を確保するための主権的権利を有 し、最高司令官として大統領はこれを行使する義務を負うと述べた。また、

大統領は安保理決議 678(1990)と 687(1991)に基づき合衆国と同盟国は 大量破壊兵器を除去するために武力を使用することを授権されていると述べ た。大統領はこれを権限の問題ではなく、意思の問題であると明言した。さ らに、大統領は安保理決議 1441(2002)はイラクによる重大な義務違反と直 ちに完全に武装解除しない場合の重大な結果を断言したと述べた*1。この声 明全体を読むと大統領による国連決議への言及はむしろ二次的であったこと は明白である。しかし、合衆国国連大使は安全保障理事会議長に対して軍事 行動の根拠について書簡を送った。この書簡は、英米連合軍の行動は安保理 決議 678 と 687 を含む一連の決議によって授権されていること、イラクには これまで安保理決議 687 が規定する非武装義務と停戦条件の重大な違反が

*1  Sally J. Cummins and David P. Stewart ed., Digest of United States Practice in

International Law 2003, pp. 966-968.

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あったこと、そして、安保理決議 1441 はイラクが依然として重大な違反を 行っていることを全会一致で決定し、決議遵守の最後の機会を与えたと指摘 する。イラクがこの最後の機会を逸したことにより、重大な違反を考慮し て、停戦の基礎は失われ、安保理決議 678 に基づき武力行使は許されるとす *2

合衆国と共にイギリスも攻撃に参加したのであるが、イギリス政府は武力 攻撃の根拠を明確に安保理決議に基礎づけた。その主張はロンドン大学教授 の C. グリーンウッド(現 ICJ 判事)が安保理決議 1441 の採択以前の 2002 年 10 月 24 日に庶民院外交委員会に対する覚書として提出した「イラクに対 する武力使用に関する覚書」に負っている。グリーンウッドは、問題の諸決 議に関連して、安保理決議 678 はクウェートの解放のみならずその地域の平 和と安全を回復するために武力行使を授権したと考慮する。安保理決議 687 は同決議が決議 678 を変更した部分を除いて決議 678(1990)を維持する。

決議 678 はイラクが決議 687 に執拗に違反するために依然として関連性を持 つ。安全保障理事会はイラクが安保理決議 687 の停戦条件に依然として違反 しているか、また、その違反が国際の平和および安全に対する脅威を含む か、を決定できる。そのような決定の効果は安保理決議 678 に基づく軍事行 動の授権を復活させるであろう*3。2003 年 3 月 17 日イギリス外相は庶民院 外交委員会に対して「イラク:武力行使に関する法的根拠」と題する文書を 送った。その要点は、安保理決議 678 は武力行使を授権した。この授権は安

*2  Ibid., pp. 969-970.

*3  Memorandum by Prof. C. Greenwood, The Legality of Using Force aginst Iraq,

〈http://www.parliament.the-stationary-office.co.uk/pa/cm/2000203/cmselect/

cmfaff/196/2102406.htm〉2011/09/29 取得 なお、本文で紹介したのは覚書の 4 節の現

行安保理決議に基づく行動の部分である。

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保理決議 687 で停止したが、終了していなかった。その授権は安保理決議 1441 で復活したというものである*4。この解釈に反対して、イギリス外務省 次席法律顧問は辞職した*5

ここで、問題の諸決議を分析してみると、合衆国とイギリスの解釈は到底 容認されないであろう。それ以前の一連の決議を踏まえて武力行使を授権し た安保理決議 678 はクウェートの解放を主目的としている。多国籍軍の武力 行使によって、クウェートが独立を回復した以上、武力行使の授権はその目 的を達成したといえる。安保理決議 687 は同時にさまざまな停戦条件を規定 するが、その違反があった場合にはこれに対する措置は安全保障理事会がこ れを決定するとしている。もちろん必要がある場合には武力行使の授権もあ りうるであろう。だが、安保理決議 1441 は武力行使を授権していない。そ もそも、イラクに対する行動を主導したアメリカに、国連憲章を遵守する意 思があったか極めて疑わしい。ブッシュ大統領の先の声明はおそらく法的根 拠を欠く先制攻撃論であり、予防戦争論である。これは国連体制と相容れな い。2003 年 9 月 23 日、アナン事務総長は国連総会において先制攻撃政策の 採用が違法な一方的武力攻撃の増大を招くことに憂慮の念を表明した*6。事 務総長のこうした声明は異例である。営々として築き上げてきた国連の集団

*4  The British Year Book of International Law 2003, Vol, 74 (2004), pp. 793-796. 日本国政 府はこの解釈を支持することを明言した。内閣総理大臣小泉純一郎「衆議院議員金田 誠一君提出イラク戦争と我が国の外交に関する質問に対する答弁書」内閣衆質 156 第 89 号平成 15 年 8 月 5 日。

*5  J. Burns, “Anti-War Group Beset by Strategy Arguments”, The Financial Times, March, 22, 2003, p. 8.

*6  Secretary-General Kofi Annan, Adoption of Policy of Pre-emption Could Result in Proliferation of Unilateral, Lawless Use of Force, < http://www.un.org/News/ossg/

sg/stories/statment_search_full.asp?statID=27 > 2011/09/20 取得

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的安全保障体制が音を立てて崩れつつある状況を座視することはできなかっ たのであろう。

しかし、ブッシュ大統領の一国主義政策には明確な意図があったことを忘 れてはならない*7。フランクの言葉を借りれば、それは「合衆国の武力行使 に対するあらゆる規制を終了させることを目指す。これは制度変更ではなく て制度廃止である。国連憲章の法に代わって、われわれは臆面もなくミーロ ス原則への復帰を見出す*8」。アメリカの一部の国際法学者はこれを積極的 に支持した。その要点は国連憲章第 2 条 4 項、ひいては国連憲章の枠組は大 量の違反によって効力を失ったというものである*9。グレナンはこれを「廃 用」(desuetude)の法理によって正当化する。「長期にわたる多数の国家に よる条約の大規模な違反は当該条約を廃用するものと見なされうる。違反は 新たな法を創造する事後の慣習と見なされ、古い条約規範に代わって、かつ て違反とされた行為を容認する*10」。これは廃用理論のかなり大胆な解釈で

*7  ブッシュ政権の基本戦略に関しては、The National Security Strategy 2002 を参照 せよ。抄訳は、「アメリカ合衆国の国家安全保障戦略」(抜粋)(上)(下)世界週報、

2002 年 12 月 3 日号、52 ~ 56 頁、2002 年 12 月 10 日号、50 ~ 55 頁。

*8  T. M. Franck, “What Happen Now? The United Nations After Iraq”, AJIL, Vol. 97

(2003), p. 620. ミーロス原則とはアテネ人がミーロス島の住民に無条件降伏を迫った 状況から引き出される原則をいう。それは「強者はなしうることをなし、弱者は耐え 忍ばざるえないことを耐える」というものである。ibid., p. 608 を参照せよ。

*9  Micheal F. Glennon, “Why the Security Council Failed”, Foreign Affairs, Vol 82 (2003), pp.16-35; Anthony C. Arend, “International Law and the Preemptive Use of Military Force”, The Washington Quarterly, Vol 26(2003), pp. 89-103.

*10  Micheal F. Glennon, ibid., p. 22. グレナンは同趣旨のことを次のように述べる。「私の

理論は、慣習に具体化されようと条約に具体化されようと、当該規則の過度の違反は

その規則を無制限な行動の自由を許容する他の規則に代えさせることになるというも

のである。」 “How International Rules Die”, The Georgetown Law Journal, Vol. 93(2005),

p. 940.

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あると考えられる。

こうした解釈によって国連憲章制度を否定する動きに危機感を抱いてであ ると思われるが、フランス国際公法雑誌は 2007 年度の第 3 号で、R. コルブ と G. ル・フロックがそれぞれ執筆した「国際法における廃用」と題する 2 論文を掲載した*11。両論文は多様な学説および慣行に緻密な検討を加えるこ とにより一定の結論を提示する。そこには通常の論文には感じられない一種 の意気込みが感じられる。従来、廃用に関する研究は存在しなかったわけで はない。しかし、廃用問題が現代国際法秩序の根幹に係わる現実の論点とし て提起されたことはなかった。本稿は、従来の諸議論を踏まえながら、一方 において法の根本問題を内包し、他方において最も現実的な解釈問題を提起 する廃用の法理の可能性を厳密にあくまでも実定法理として追求する。

2. 廃用理論の整理および類似概念との境界画定

廃用に関する学説はさまざまであるが、その核心点はバドバンの国際法辞 典の次のような定義に集約されるであろう。「長期にわたる不使用または反 対の慣行の確立による条約規則または慣習規則の終了*12」。この定義は、廃 用に関する学説の現状からすると、2 つの観点から解釈することができるで

*11  R. Kolb, “La desuetude en droit international, Desuetude I”, R.G.D.I.P., Vol (2007), pp. 577-608; G. Le Floch, “La desuetude en droit international, Desuetude II”, ibid., pp. 609-642. 同誌の編集者は二論文の冒頭の覚書で論文掲載の目的が一部の合衆国の国 際法学者の廃用論に反論することであるとは述べていない。このテーマでの論文執筆 を G. ル・フロッシュに依頼した後で、偶然に R. コルブから同じテーマでの論文が寄せ られたとする。しかし、真の意図は明瞭であると思われる。いずれの論文もグレナン の廃用論を批判している。ibid., pp. 596-597, p. 641.

*12  J. Basdvant(dir.), Dctionnaire de la terminologie du droit international, (1960), p. 209.

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あろう。1 つは、関係する当事者がこの状態を法に一致するものと考慮し、

そこで形成される見解を黙示的合意として構成することである。すなわち、

新たな合意による既存の法規の終了である。もう 1 つは、不行使または規則 に反する慣行とそれを通じて形成される法意識とによって一種の慣習法の成 立を認める。すなわち新たな慣習法規による既存法規の終了である。前者の アプローチは、主観的アプローチ、意思主義的アプローチ、法律行為的アプ ローチ、契約主義的アプローチなどと呼ばれる。後者は、客観的アプロー チ、プロセス的アプローチ、非契約主義的アプローチなどと呼ばれる*13

たとえば、判例および国家実行を基礎にあくまでも手堅く理論を構成する マックネアーよる条約の廃用に関する次の記述は上のいずれのアプローチに よっても構成できるであろう。かれによれば、廃用はいかに長期であろうと も単なる時間の経過を意味するのではなくて、条約の使用および条約に訴 えることの停止またはその停止の黙認を意味する。マックネアーは厳格な 制限に従うことを条件として、廃用を以下のように容認する。大多数の政府 は、一方の当事国が条約を援用しないことまたは一方の当事国が一見して

(prima facie)条約違反を構成する行為または行動を黙認することはその不 履行または黙認が以下の通りであることを条件として、他方の当事国がやが て当該条約を失効したと見なすことを正当化すると認めるであろう。すなわ ち、そのような不履行または黙認が、(a) しばしば繰り返されること、(b)

単に個人にではなく政府に帰属すること、(c) 合理的な説明が不可能である こと、(d) 影響を受ける国家の権利を留保する抗議によって否定されなかっ

*13  R. Kolb, supra note 11, pp. 578-581; A. Vamvoukos, Termination of Treaties in

International Law, The Doctrines of Rebus Sic Stantibus and Desuetude (1985), pp. 261-263

を参照せよ。

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たこと(したがって、何らかの他の行動によって伴われなかったまたは続か れなかった抗議は、結局のところ条約を有効に保つには十分でないであろ う)、である*14

 廃用理論の整理

(1) 主観的アプローチ

主観的なアプローチを採用する学者は廃用の問題を主として条約の廃用の 問題として取り上げる。このアプローチは条約法条約の法典化の過程で、

フィツモーリスによって採用された。フィツモーリスは 1957 年の第二報告 書第 15 条「終了行為としての合意」で「相互的廃用」について規定する。

かれは、廃用に関連して次のように述べる。当事国自身が長期にわたって、

条約に関して多かれ少なかれ、条約を適用または援用しないことにより、あ るいは条約に関する利益または信頼の欠如を示す他の行為により、あたかも 条約が存在しなかったかのように行動してきたときには、行為によって条約 を無視し、それを終了したかのように考慮する当事者の黙示的合意に達する ものが存在するということになるであろう。しかしながら、そのような場合 に、終了の根拠は当事者の黙示的合意の推定または選択的に各当事者による 他方の当事者の不適用に対する同意または受諾の推定であって、長い期間ま たは廃用それ自体ではないであろう。ただし、後者は当事国の真の態度と意 図を評価する際の関連要因ではあるだろう*15

このフィツモーリスのアプローチはその後の国際法委員会のアプローチを 規定することになった。1966 年の国際法委員会の条約法条約の最終草案*16

*14  Lord McNair, The Law of Treaties, (1961), pp. 516-518.

*15  Yearbook of International Law Commision, 1957, Vol. II, (1958), p. 48, para. 86.

*16  Yearbook of International Law Commision, 1966, Vol. II, (1967), pp. 172-275.

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は第 5 部「条約義務の無効、終了および運用の停止」の総則規定である。第 39 条は次のように規定した。

「第 39 条 条約の有効性および効力の存続

1 条約の有効性は本条文草案の適用によってのみ否認することができ る。本条文草案によりその無効が確定した条約は効力を有しない。

2 条約当事国はその条約の文言または本条文草案の適用の結果として のみ、 その条約を終了させ、それを廃棄しまたはそれから脱退するこ とができる。」

この条文のコメンタリーは、本条は条約自体が明示的に規定する場合を除 き、条文草案に規定される終了原因をすべて網羅することを意図するとす る。これとの関連で、委員会は obsolescence または desuetude が条約終了 の別個の根拠として認められるべきか否かについて検討した。その結果、委 員会は obsolescence または desuetude が条約終了の事実上の原因でありう るとしても、そうした原因が発生したときにはそうした終了の法的根拠は条 約を放棄する当事国の同意であって、その同意は条約に関する行為から黙示 されうるに相違ないという結論に達した。したがって、委員会の見解によれ ば、obsolescence または desuetude の場合は第 51 条(b)により扱われる と考えることができる。同項の下で、条約は「いつでも全当事国の同意に よって」終了させうるものであるとされる*17(なお、この部分に関する国際 法委員会の報告書の仏語版は obsolescence に caducité を充てていることを 指摘しておきたい*18)。1969 年の条約法条約の第 42 条と第 54 条(b)項は この趣旨で解釈されるであろう。

*17  Yearbook of International Law Commision, supra note 16, p. 257, para. (5).

*18  Annuaire de la Commission du droit international, 1966, Vol. II, (1967), p. 258.

(10)

ペラン*19やプレンダー*20やコントウ*21や若干ニュアンスが異なるが、ブ ラウンリーも*22廃用に関して黙示的合意論を支持する。

(2) 客観的アプローチ

このアプローチは慣習法規による既存の法規の廃用に関係する。このアプ ローチを採用する学者は何らかの形でケルゼンの廃用論に言及する。そこで 最初にケルゼンの理論を検討する。ケルゼンによれば個々の法規の実効性は 妥当性の条件である。規範の多少の実効性の欠如はその妥当性を失わせる ものではないが、当該規範が完全に実効性を喪失した場合には当該規範は妥 当性を喪失する。すなわち、法規範は常に適用されないまたは遵守されない ことにより、つまり「廃用」によりその妥当性を失う。廃用はいわば「否 定的な慣習」(eine negative Gewohnheit)であって、その本質的な機能は 存在する規範の効力を失わせることである。慣習が総じて法定立事実である とすれば、そのとき制定法か慣習によって廃止される*23。この記述はより 厳密かつ実際的に理解する必要がある。というのは、ケルゼンはこれを廃止

(derogation)の文脈でより具体的に説明するからである。すなわち、法規 範はもし継続的に遵守されず、適用されないならば、慣習によってその実効 性を失い、かくしてその妥当性を失いうる。その際、慣習は一定の行為を規

*19  G. J. Perrin, Droit international public, Source, sujets, caractéristiques, (1999), pp. 282- 285.

*20  R. Plender, “The Role of Consent in the Termination of Treaties”, The British Year Book of International Law 1986, Vol 57, (1987), pp. 138-140.

*21  N. Kontou, The Termination and Revision of Treaties in the Light of New Customary International Law, (1994), pp. 25-31.

*22  Ian Brownlie, Principles of Public International Law, 7th ed., (2008), p. 621. ブラウン

リーは、廃用という言葉はたぶん専門用語ではないが、その主題は、本質上、条約の

利用の中止と同意によるその黙示的終了に関係するとする。

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定するいかなる規範も定立しない。慣習は、また、これまで妥当な規範に より命じられていた行為の不作為を規定する規範またはこれまで妥当な規 範によって不作為が命じられていたその一定の行為を規定する規範を定立 しうる*24。これを要するに、廃用は、先行する法規範を単に廃止する場合 と、先行する法規範を廃止すると同時に先行する法規範に反する慣習法規範 として成立する場合とがあることを意味する。ケルゼンは国内法を想定して この議論を行っているが、その法理論は法の一般理論である。したがって、

かれの国際法教科書*25には廃用に関する記述はないが、この理論を国際法 に当てはめて論じることは許されるであろう。

主要な国際法規範は条約と慣習である。2 種類の国際法規範の等価性を前 提にして否定的な慣習としての廃用をこれに当てはめて再構成すると、ケル ゼンの廃用論を用いるならば次のような議論が可能であろう。(1) 後に成立 する否定的な慣習は先行する慣習法規を単に廃止する。(2) 後に成立する否 定的な慣習は先行する慣習法規を廃止すると同時にそれ自体先行する慣習法 規に反する慣習法規として成立する。(3) 後に成立する否定的な慣習は先行 する条約を単に廃止する。(4) 後に成立する否定的な慣習は先行する条約を 廃止すると同時に先行する条約に反する慣習法規として成立する。

トゥスコズもやはり実効性の欠如の観点から廃用の問題にアプローチす る。その要点を本稿の目的から整理すると次のようになるであろう。トゥス コズによれば、非実効的になった慣習規則と条約規則はその義務的拘束力、

*23  H. Kelsen, Reine Rechtslehre, Zweite Auflage, (1960), p. 220. なお、同著者の General Theory of Law and State, (1961), pp. 119-120 も参照せよ。.

*24  H. Kelsen, “Derogation”, in Die Wiener rechtstheoretische Schule, Vol. II, (1968), p.

1432.

*25  H. Kelsen, Principles of International Law, (1952).

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すなわち妥当性を失う。廃用は国際法秩序における法規終了のプロセスであ る。慣習規則の廃用は実際には慣習の確立をもたらすプロセスとは反対のプ ロセスの完成によって実現する。慣習の 2 つの要素、すなわち事実的要素と 心理的要素はこの場合に否定的な形式で見出される。慣習が廃用によって廃 止されるときには慣習はそれ自体で実効的な他の慣習またはいずれにせよそ の地位を占める実定法規によって取って代わられる。この場合、廃用はそ の慣習に取って代わった法規の実効性によって確立され証明される。条約も また実効性を失うことによって終了する。条約が廃用によって終了するため には十分に長期にわたる不行使が存在しなければならない。条約の適用を伴 わない単なる抗議は条約の廃用を中断させるには十分ではない。他方、不使 用、すなわち、純粋に事実的な要素は条約を廃止するには十分でないように 思われる。条約が規定する法規に関して一定の心理的な離反、すなわち、そ の法規がもはや義務的でないという意識が存在しなければならない*26

トゥスコズは表現方法こそ異なるものの、ケルゼンと同じく実効性は妥当 性の条件であるという観点から、廃用、すなわち、否定的な慣習が先行する 慣習と条約を廃止することを認める。ただし、否定的な慣習が先行する慣習 または条約を廃止するにとどまるのか、それとも先行する慣習または条約に 取って代わるのかは必ずしも明らかでない。

これに対して、カールは廃用を条約の場合にのみ適用し、しかもその機能 を制限的に理解する。かれによれば、条約の廃用とは繰り返されたまたは連 続する不適用の結果としての条約の消滅、つまり、徐々に進む実効性の喪失 による条約規範の緩慢な慣習的消滅の原因である。廃用の効果は条約規範の 廃止に尽きる。場合により、それに平行して新たな実体規範の発展が現れ

*26  J. Touscoz, Le Principe d' effectivité dans l'ordre international, (1964), pp. 181-187.

(13)

る。しかし、逆に、慣習法的な起源の新たな規範は対立する実体規範の廃用 を含意しうる。廃用が新たな実体規範の成立により随伴されないならば、廃 用は一般国際法が流れ込む法的真空状態を引き起こす*27。廃用による条約の 終了を理由づけるためには、解除の特別な法律要件、つまり慣習的な終了規 範を必要とする。これはまず否定的な慣行(しかし、やはり慣行)、次に、

否定的な法的確信(しかし、 やはり法的確信)を示す限りで廃用によって与 えられる。この規範が内容的に他の規範の終了に尽きるということはその規 範的性質を傷つけない。こうして、廃用を本来の慣習的な出来事と理解する ことにいかなる疑問もない*28

このように、カールは廃用の効果を否定的な慣習による先行する条約規範 の終了に限定する。フェアドロス=ズィンマは廃用に関して同様の立場をと る。それによれば、国際条約あるいは条約の若干の規定は慣習法的な方法で 異なる実体規範に取って代わられるのではなくて、むしろ代替なしに廃止さ れる。desuetudo(obsolescence)という言葉はこの場合に用いられるとす *29

カポトルティによれば、条約の全体的または部分的な終了は廃止的または 変更的な効果を有する後の慣習によって引き起こされる。この現象は第 1 に 条約によって規律される事項に関して条約全部またはその規定の一部と両立 しない内容を有する―または若干の慣習規則が現れるときに生じる。原則と して慣習と条約は同等の効力を有する 2 つの法源である。これが 2 つの法規

*27  W. Karl, Vertrag und spätere Praxis im Völkerrecht: Zum Einfluß der Praxis auf Inhalt und Bestand völkerrechtlicher Verträge, (1983), p. 257.

*28  Ibid., p. 261.

*29  A. Verdross・B. Simma, Universelles Völkerrecht・Theorie und Praxis, Dritte Auflage,

(1984), p. 523.

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の効力の主観的な範囲が同一であることを条件として慣習法規が先行する条 約規則を完全に終了させる理由である。第 2 に、出現した慣習が先行する条 約規則の廃止だけを目的とすることは可能である。その時に廃用について語 られる。時として同じ現象を記述するために obsolescence または caducité という言葉が用いられることがある。要するに、それは当事国が条約(また はその一部の条項)をもはや適用しないこと、慣習が形成されたと考慮され うるほど十分な期間にいかなる要求または抗議なしにその行為が続くこと、

この期間に関係国がかれらの行為が正当であるという確信を徐々に獲得する こと、である*30

この意味での廃用を条約の終了原因と考慮する立場からカポトルティは上 述の 1966 年最終草案第 39 条に関する国際法委員会のコメンタリーを批判す る。すなわち、委員会の見解は慣習規範と条約規範の関係という問題は条約 法全体の枠を越えるというものであった。しかし同条約が発効するとしても 廃止的な慣習は依然として条約の終了原因であり続けるであろう。条約の前 文が「この条約によって規律されない問題については、引き続き国際慣習法 の諸規則により規律される」だけにますますそうである*31

以上の検討で明らかなように、廃用を否定的な慣習として構成する見解に は、廃用を慣習と条約の両者に広く適用する立場と、これを条約に限ってし かも限定的に適用する立場とが存在する。ここではいくつかの学説を整理す るにとどめる。

*30  F. Capotorti, “L'extinction et la suspension des traités”, Recueil des Cours, 1971-III, Vol. 134, (1972), pp. 516-517.

*31  Ibid., pp. 519-520.

(15)

 類似概念との境界画定

われわれは「廃用」(desuetude)という言葉を一定の効果を伴う専門用 語として用いてきたのであるが、学説上および慣行上、廃用と同義でか、 あ るいは極めて近接する概念として用いられているいくつかの言葉がある。こ こで、廃用とそれらの相違を明らかにしたい。

(1) 廃用と「失効状態」(caducité) の区別

すでに、指摘したように、国際法委員会の報告書の仏語版は obsolescence に caducité を用いている。サルモンの国際法辞典は désuétude と caducité が同義語として用いられるとする*32。フェルホーヴェンも同様である*33 ヴァムボウコスによれば、廃用と異なり、obsolescence(caducité)は単 なる時間の経過以外の出来事が条約から生じる義務に及ぼす効果を意味す *34。トゥスコズは、これを端的に、廃用は caducité と区別されなければ ならない。caducité は直ちにかつ不意に義務的効力を失う現象である。それ は、たとえば、条約の一方当事者の消滅から生じるとする*35。こうしてみる と、caducité に一般的に受け入れられた意味はないと言えるであろう。した がって、コルブの次の結論は妥当である。

「失効した」(caduc)という言葉の通常の意味はある規範はもはや不可能 であることを意味する言葉である。それゆえ、「失効状態」(caducité)は結 果、つまり規範の消滅に集中する。反対に、廃用は決定的な行為による黙示 的合意または否定的な慣習を介した規範消滅の特別なプロセスである。廃用 の作用は所与の場合に廃止された規則の少なくとも部分的な失効状態に帰着

*32  J. Salmon(dir.), Dictionnaire de droit international public, (2001), p.143, 330.

*33  J. Verhoeven, Droit international public, (2000), p. 428.

*34  A. Vamvoukos, supra note 13, p. 220.

*35  J. Touscoz, supra note 26, p. 185.

(16)

する。しかし、廃用以外の他の諸原因も同じく失効状態を引き起こす。上述 したところに従えば、失効状態は「消滅」(extinction)と同義である*36。し たがって、caducité を廃用と同義に用いることも、また類似の概念として用 いることも適切ではないであろう。

(2) 廃用と「事情不変更条項」(clausula rebus sic stantibus)の区別 2 つの法概念は密接な繋がりを有する。それらは共通点を有するが、いく つかの特徴によって区別される。事情不変更条項はウィーン条約第 62 条に よって法典化された。事情の根本的な変化は一定の条件で条約の終了をもた らすことがある。この点では廃用と同じである。しかし、その効果は似てい るが、その原因は異なる。第 1 に、廃用は事情不変更条項と異なり事情の変 化を必ずしも意味しない。第 2 に、規範の廃用は事情の変化に起因すること もありうるという仮定の下で、事情の変化は、条約とは異なり特別な慣習規 則を創造する動機となりうるのがせいぜいであって、消滅の原因にはなりえ ない。消滅の原因は事情の変化それ自体にあるのではなくて、異なる内容を 有するこの種の慣習規則の具体的な創造にある。別の表現をすれば、次第に 結晶化される「否定的な法的確信」(opinio non juris)により伴われる不実 践がそれ自体で消滅的な効果を持つ。第 3 に、事情不変更条項はそれを援用 する当事国に条約の不適用を要求する権利を与えることであるのに対し、廃 用の枠内で条約は何らかの効果を生み出すことを終了する。また、事情不変 更条項の効果は援用の時から将来に向かって(ex nunc)に作用する。廃用

*36  R. Kolb, supra note 11, pp. 591-592. ル・フロックは同趣旨のことを次のように述べる。

「規範の caducité はその終了により適用できないことを意味する。それが廃用に接近す

るのはここである。しかし、廃用に反して、caducité はプロセスではなくて、もっぱ

ら状態、すなわち、規範が有効でない状態である。この状態は事情の変化または条約

の終了と同じく廃用からも生じる。」G. Le Floch, supra note 11, p. 624.

(17)

の効果は慣習的な形成の固有の特徴に従って、時間的に広がる*37。    ここで、言葉の問題として確認しておきたいのは、ブラリアリー、マッ クネアー、ジェニングス*38が、事情不変更条項の法理と obsolescence を同 義に用いていることである。コモン・ロー的な思考方法において事情変更 の原則の基礎をなす契約目的達成の不能の法理に国際法上当てはまるのが obsolescence であるということから、両者が同義に用いられているようであ るが、しかし、この用語法は国際法上一般的ではないと思われる。この点は 次に検討する。

(3) 廃用と「陳腐化」(obsolescence)の区別

上に引用した国際法委員会の条約法条約最終草案第 34 条の obsolescence または desuetude が条約終了の事実上の原因となりうるかについて言及し た際に obsolescence と desuetude をまたは(or)でつないでいるけれど も、実際には両者を同一視したように思われる*39。同じく、上で指摘したよ うに、フェアドロス=ズィンマは desuetude と obsolescence を同義に用い ている。しかし、両者が別個の終了原因でありうることが、オーストリア国 家条約の一部規定の陳腐化宣言によって明らかになった。この宣言をめぐる 議論は廃用と陳腐化と事情の根本的な変化の諸要素を含む形で展開されるの で、この議論をやや詳しく検討したい。

*37  これらの見解に関してはコルブとル・フロックの議論を参照せよ。R. Kolb, ibid., pp.

590-591; G. Le Floch, ibid., pp. 621-622.

*38  Lord McNair, supra note 14, pp. 746-749; J. L. Brierly, The Basis of Obligations in International Law, (1958), pp. 108-116; R. Y. Jennings, “Chapter 6, Treaties”in M.

Bedjaoui (ed.), International Law: Achievement and Prospects, (1991), pp. 160-161. な お、同書の仏語版では、obsolescence に désuétude を充てている。“Chapitre Ⅵ , Les Traités”in Droit international, Bilan et persepectives, tome 1, (1991), p. 178.

*39  O. Corten and P. Klein (ed.), The Vienna Convention of the Law of Treaties, A

Commentary, Vol. II, (2011), p. 1024.

(18)

1990 年 11 月 6 日、オーストリア外相はオーストリア国家再建条約*40の署 名国である合衆国、イギリス、フランスおよびソ連邦に対して同条約の一部 規定の陳腐化を通告した。該当規定は、国家条約の第 11 条~第 16 条および 第 22 条 13 項であって、ナチス団体に関係した者の軍隊への勤務の禁止、特 別な兵器の禁止、ドイツ製戦争物資の供出、ドイツ再武装の禁止、ドイツ製 民間航空機の禁止、ドイツ資産の処分、に関係する*41。この通告に付された 解説において、オーストリアは、国家条約の一部規定がもはや有効でないと いう見解は CSCE により創造された永続的なヨーロッパ平和秩序の基礎に おいて明白になった事情の根本的な変化を反映することおよびドイツに関す る最終的解決条約、いわゆる 2 + 4 条約の締結により「ドイツの再軍備の防 止」に関する国家条約の規定は効力を失った、したがって、署名国は上記条 項によってオーストリアに課される義務の履行をもはや要求することはでき ない、 と説明した*42。この通告に対し、ソ連、合衆国、フランスは覚書でイ

*40  国家条約の条文は、United Nations Treaty Series, Vol. 217, 1955, No. 2949 を参照せよ。

日本語訳は、鹿島平和研究所編『現代国際政治の基本文書』、(1987), 388 ~ 395 頁。

*41  オーストリアの通告の 2 項と 3 項は以下の通りである。

「2. 1955 年 5 月 12 日の国家条約は、その 2 部に『軍事及び航空規定』 (第 12 条~ 16 条)、

すなわち、1947 年のイタリア、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー及びフィンラン ドとの諸平和条約に倣って作成された規定を含む。そうした規定はすべてのそれらの 国家によって陳腐化したと見なされている(als obsolet betrachtet)。

3. 国家条約の締結以来、ヨーロッパにおいて根本的な変化が生じた。これは上で言及 された規定のそれぞれに関する適用慣行及び上で引用された 1990 年の条約(ドイツに 関する最終的解決条約)の締結によって明白になった署名国の変化した法的確信に現れ ている。それゆえ、オーストリアは国家条約の第 12 条~ 16 条は陳腐化している(obsolet sind)という見解である。これは、上で言及された規定と類似した目標設定により支え られたこの条約の第 22 条 13 項にも当てはまる。」 Neuhold・Hummer・Schreuer(Hrsg.), Österrechisches Handbuch des Völkerrechts, 3. Auflage, 2 Materialienteil, (1997), p. 531.

*42  Id.

(19)

ギリスは口頭でオーストリアの通告を受け入れたが、ソ連と合衆国の回答覚 書は該当規定が陳腐化したと明言した*43

オーストリアの陳腐化宣言に関しては多くの文献で引用されているハフ ナーの権威的な解説が存在する。その解説は、廃用と陳腐化と事情不変更条 項の相違を明らかにする。要点は以下の通りである。オーストリアの通告は 反対の慣習法の出現を理由とする失効状態、すなわち廃用を理由とする失効 状態を確認していない。ちなみに、この原因はウィーン条約に明記されてお らず、したがって、同条約第 31 条 3 項(b)または第 54 条(b)の枠内に 属さない。この原因は一般に判例よりも学説において認められている。注目 されるのは、廃用が一定の慣行、つまり、一定期間における条約およびその 規定の不適用と法的確信という二重の要求によって事情不変更条項から区別 されることである*44。ここで、ハフナーが言わんとする主旨は、オーストリ アの通告は廃用を意図したものではなかったということである。なぜなら、

同国は関係規定を遵守し、該当規定と両立しない行動を決して取らなかった からである*45。それでは、なぜ陳腐化宣言か。それは、事情不変更条項と部 分的に関連する。 

ハフナーによれば、条約またはその一定規定は、条約締結時に存在した事 情がもはや当事国がそれらの遵守を要求すると推定されえないほどまでに変 化してしまったときに自動的に消滅する。廃用のために要求される慣行はこ

*43  4 国政府の回答はエルマコラ論文の付録に掲載されている。F. Ermacora, “Die Obsoleterklärung von Bestimmungen des österreichischen Staatsvertrages 1955”, Austrian Journal of Public and International Law, Vol. 42, (1991), pp. 334-336.

*44  G. Hafner, “《L'obsolescence》de certaines dispositions du traité d'État Austrichien de 1955”, Annuaire français de droit international, XXXVII, (1991), pp. 252-253.

*45  Ibid., pp. 253-254.

(20)

こでは条約に由来する義務の履行要求がもはや合理的に予想されえない根本 的な変化に取って代わられる。こうして、条約終了の異なる手続と原因の要 素が結合される。すなわち、事情不変更条項の制度から引き出される事情の 根本的な変化は条約当事国の一定の行為から引き出される法的確信の推定と 結合される*46。要するに、陳腐化は事情の根本的な変化と条約の履行がもは や合理的に期待できないという法的確信が結合したことによる条約終了の原 因である。

それでは、4 カ国による陳腐化通告はどのような意味を持つのか。ハフ ナーによれば、それは該当条約規定の消滅に関して宣言的な効果を有するに すぎない。それにもかかわらず、通告は関連規定の失効状態を議論の余地の ないものにするという点で一定の創設的な効果を有する。その結果、当事国 は少なくとも今後はそれらの規定の効力を援用する権利を奪われる*47

こうして、国際法平面におけるこの陳腐化の効果は次のように要約され る。通告は、該当規定がもはや有効でないこと、および、それらの規定が オーストリアと通告が行われた署名国との関係においてばかりでなく、正式 に通告されなかった条約の他の当事国*48がこの手続に異議を申し立てる可 能性を持たなかったという事実にもかかわらず、条約の全当事国との関係に おいて消滅したことを確認する。これまでこれらの当事国のうちで異議の兆 しをいささかなりとも示した国家は存在しない。明示的な通告の欠如にもか かわらず、この相次ぐ沈黙から、これらの当事国は今やその抗議する権利を

*46  Ibid., p. 254-255.

*47  Ibid., p. 255.

*48  オーストリア国家条約は第 37 条で加盟を容認していた。同条に基づき加盟した国は、

チェコスロヴァキア、ユーゴスラビア、ポーランド、ブラジル、メキシコ、カナダ、ニュー

ジーランド、オーストラリアの 8 カ国である。supra note 41, p. 530.

(21)

放棄したと見なされると結論しなければならない。なぜなら、通告はいかな る当事国もこの事実を無視しえない方法(各種新聞や公報等)で公表された からである*49

オッペンハイムの国際法第 9 版は、上記のオーストリアによる陳腐化通 告、そして、1947 年のフィンランド平和条約の一定規定のフィンランド政 府による陳腐化通告*50が当該条約の当事国によっていかなる異議も提起さ れなかった事実を考慮して、「(desuetude と obsolescence は)ウィーン条約 もそれに先行する国際法委員会草案も明示的述べていない条約終了の根拠で ある。2 つの概念はある程度相互に重複する。また、それは事情変更のよう な他の根拠とも重複する」と述べる。これは、3 つの終了原因を別個の概念 と考慮していると言えるであろう*51

*49  G. Hafner, supra note 44, p. 255. ハフナーの論文ほど広く引用されていないが、オー ストリアが陳腐化通告を行ったときにオーストリア国内で巻き起こった他の見解 にも触れておかないのは片手落ちであろう。エルマコラはこの通告をウィーン条 約第 62 条(事情の根本的変化)の適用事例であると主張する。F. Ermacora, supra note 43, pp. 319-334. ケックもウィーン条約第 62 条の適用事例であるとする。H.

Köck, “Ist der österreichische Staatvertrag obsolet ? Grundsätzliche Überlegungen zu Vertragserrichtung und Vertragsendigung nach Völkerrecht ”, Zeitschrift für öffentliches Recht, Vol. 50, (1996), pp. 75-115. ムザックとヘフトは、オーストリアの 通告は瑕疵のある国際的な一方的行為であったが、その瑕疵は 4 カ国の同意によっ て 治 癒 さ れ た と す る。G. Muzak/M. Hecht, “Zur Geltung der für obsolet erklärten Bestimmungen des Staatsvertrags von Wien 1955”, Juristische Blätter, Vol. 116, (1994), pp. 720-732.

*50  フィンランド政府の通告は、Annex, 3. Decision of the Government of Finland of the Paris Peace Treaty Concerning Germany and Limiting the Sovereignty of Finland, Zeitschrift für ausländisches Recht und öffentliches Recht und Völkerrecht, Band 51, (1991), p.

524.

*51   Sir R. Jennings and Sir A. Watts(ed.), Oppenheim's International Law, 9th ed., Vol. I,

Peace, Parts 2 to 4 , (1992), p. 1297.

(22)

3. 国際判例および国内判例の分析

条約の終了原因として廃用を認める国際法学者は廃用によって終了した条 約名を具体的に挙げている。たとえば、グッゲンハイムは、スイスも加盟し た神聖同盟は廃用によって終了したと解説する*52。また、ヴァムボウコスは 廃用の例としてベトナム戦争中の 1907 年のハーグ第 7 および第 8 条約(戦 時海軍力を以ってする砲撃に関する条約および自動触発海底水雷の施設に 関する条約)、1936 年の商船に対する潜水艦の使用制限に関するロンドン条 約、1928 年のブリアン・ケロッグ条約等*53を列挙する。しかし、それらの 解説はいずれも十分な理由付けを伴っていない。そこで、廃用が問題になっ た国際判決または国内判決を検討し、果して廃用が認められた例はあるの か。もしあるとして、裁判所はいかなるアプローチを採用したかを明らかに したい。

 指導的判例としてのユーイル・ショートリッジ社事件*54

本件はイギリスとポルトガル間の国際仲裁裁判事件である。この判決は廃 用について言及した古典的先例として廃用に関するあらゆる文献および記述 で引用されている。1654 年 7 月 10 日のイギリス・ポルトガル間の平和同盟 条約第 6 条 2 項はイギリス国民に対して一定の条件に基づきポルトガルの裁 判手続において裁判官を指名する特権を付与していた。1810 年 2 月 19 日の 両国間の通商航海条約第 10 条はイギリス国民に認められたこの特権を確認

*52  P. Guggenheim, Traité de Droit international public, Tome I, (1967), .p. 225.

*53  A. Vamvoukos, supra note 13, pp. 267-276 を参照せよ。.

*54  Affaire Yuille, Shortridge et Cie, 21 octobre 1861, A. de Lapradelle et N. Politis,

Recuil des Arbitrages Internationaux, Tome 2, (1923), pp. 78-118.

(23)

していた。本件においてポルトガルはこの規定は長期にわたって依拠されて こなかった結果として終了したと主張した。仲裁人のハンブルグ参事会は以 下のように判断した。

「この問題はもしイギリス政府が条約は廃用によって終了した(le traité était tombé en désuétude)と考慮して何度も介入を拒否したならば、あ るいは、同じ理由から開始された介入を続行することを断念したならば、

性質を変えるであろう。なぜなら、条約を明示的に廃止すること又はそ の利用を停止すること―それはその国民によって条約の適用を除外する 廃用と見なされるはずである―が政府に属することは疑いないからであ る。しかし、この不行使は政府に由来し、国民のその趣旨の請求にもか かわらず介入の拒否又は条約の無効を根拠とするポルトガルの要求に続 くすでに開始された介入の放棄によって表明されなければならない。し かしながら、同時に、条約に関して行使の停止的な効果は最大の留保を 付してはじめて容認されなければならない。というのは、イギリス国民 に対してほとんどまたは全く条約の違反から損害が生じない場合には、

政府の介入は無意味であろう。すなわち、介入は友好国に対する名分 の立たない不作法を構成する。それゆえ、差し控えるのは礼譲の行為で あって、放棄の行為ではないであろう*55。」

この判決は多分はじめて廃用に言及したことから、廃用の指導的先例とし てさまざまに解釈されている。判決の文言に即した解釈は、ルソーのよう に、不行使が確証されるとして、その不行使が考慮されるためには、それは それのみが条約を廃止しまたは適用を停止できる政府に由来しなければなら ないとする*56。フェアドロス = ズィンマは同様に条約は条約当事国の側の

*55  Ibid., p. 105.

(24)

恒常的な不使用によってのみ失効しうるのであり、たとえば、私人がその規 範にもはや依拠しないことによっては失効しないとする*57。この判決の意味 は、廃用は問題の行為が国家機関に由来するのであって、単なる私人に由来 するのではないということに尽きるというのであろう。

しかし、この判決を廃用の根本に係わるものとして読む見解も存在する。

プレンダーによれば、こうして廃用は政府決定の結果として意図された。そ れは明示的な廃棄のミラー・イメージである。すなわち、政府による条約を 廃棄する黙示の同意が存在しなければならない*58。これに対して、オコーネ ルは対照的な読み方をする。かれによれば、この判決は、当事国が実際に おいて条約を慣習に置き換えたことを確証するためには条約が援用される 側の国の何らかの明示的な先行行為が証明されなければならないことを意 味する*59。上述の分析に依拠すれば、プレンダーは廃用に関して主観的な アプローチを採用し、オコーネルは客観的アプローチを採用したことになろ う。

 主観的アプローチを採用したと解釈される判決

国際司法裁判所において何度か廃用の申立てが行われている。核実験事 *60ではフランスが、そしてエーゲ海大陸棚事件*61ではトルコがそれぞれ 1928 年の一般議定書の廃用を申し立てた。また、1998 年 8 月 10 日の航空機

*56  C. Rousseau, Droit International public, Tome I, (1970), pp. 217-218.

*57  A. Verdross・B. Simma, supra note 29, pp. 523-524.

*58  R. Plender, supra note 20, p.140.

*59  D.P. O'Connell, International Law, 2nd ed. Vol. I, (1970), p. 266.

*60  ICJ Reports, 1973, p. 91

*61  ICJ Reports, 1978, p. 1

(25)

事故事件*62ではインドが 1928 年議定書の廃用を申し立てた。また、武力行 使の合法性事件*63ではベルギーがユーゴスラビアとベルギー間の 1930 年の 調停、司法的解決および仲裁に関する条約が「陳腐化または廃用または当事 国間の黙示的合意*64」により終了したと主張した(3 つの終了原因が区別さ れていることが注目される)。しかし、これらのいずれの事件においても、

裁判所は廃用の申立てについて判断する必要を認めなかった。

しかしながら、核実験事件の共同反対意見においてオネヤマ、ディラー ド、アレチャガ、ウォルドックは、1928 年の一般議定書がもはや効力を持 たないというフランスの主張を退ける。4 人の裁判官は、上に引用した国際 法委員会の 1966 年草案第 39 条のコメンタリーを掲げた上で、「1928 年議定 書に関する当事国、より特定的には本件での請求訴状の提出に先立つフラン スの行為から、議定書を放棄するかれらの同意を示唆することは不可能であ *65」と判断するからである。これはフランスの廃用主張という文脈からは 国際司法裁判所の有力な裁判官が主観的アプローチを支持したことを意味す るであろう。   

英仏大陸棚画定事件において 1958 年の大陸棚条約に基づくイギリスの主 張に対し、フランスは第三次国連海洋法会議によって刺激された最近の慣習 法の発達によって全ジュネーヴ条約が陳腐化したと主張した。仲裁裁判所は

「一定条件の下で慣習法の発展は従前より存在する条約上の権利を変更しま たは終了させる関係国の同意の証拠となりうる。しかし、1958 年大陸棚条 約は 10 年ほど以前に当事国間で発効した。さらに、裁判所に提出された情

*62  ICJ Reports, 2000, p. 12.

*63  ICJ Reports, 2004, p. 279.

*64  O. Corten and P. Klein (ed.), supra note 39, p. 1025.

*65  Supra note 60, pp. 337-338.

(26)

報は、英仏およびその他の諸国による現行法としての条約へのごく最近の言 及を含む。したがって、1958 条約の当事国による同条約は終了したと考慮 する意思の最も確定的な証拠だけが本件において英仏間で条約が陳腐化し適 用不可能であると裁判所が扱うことを保証しうる*66」と考慮して、フランス の主張を退けた。この裁判所の判断はフランスの主張を一種の廃用主張と解 釈するならば、条約を終了させる当事国の黙示的同意が決定的意味を有する と判断したと言えるであろう。

国内裁判所の判決であるが、ドイツ国最高裁判所はブレスト・リトブスク 条約に関して以下のような判決を下した。

「ドイツ政府は 1918 年 11 月 5 日にロシアとの外交関係を断絶し、こうし てブレスト・リトブスク条約の履行を中断した。ロシア政府は数週間後 に『すべての人』に対するラジオ声明で、ロシア政府はその条約を廃止 されたものと見なすと宣言した。ドイツ政府はこの一方的な宣言に抗議 することおよびその条約上の権利を主張することを差し控えることによ り、ならびに、条約に従ってドイツが占領していたロシア領から撤退す ることにより、この宣言を黙示的に受諾した。条約を廃止する当事国の 共通の意思はその後 1922 年 4 月 16 日のラパロ条約でその条約への言及 がなかったという事実に表明を見出す。ブレスト・リトブスク条約は黙 示的に廃止されたと見なされなければならない。*67

最高裁判所は条約を廃止する当事国の黙示的意思を確認するために、2 つ

*66  International Legal Materials, Vol. 18, (1979), p. 417, para. 47.

*67  German-Russian Commercial Treaty Case, German Reichsgericht, 23 May 1925, Annual Digest of Public International Cases, Years 1925 and 1926, (1929), pp. 354-355;

Journal de droit international, Tome 53, (1926), p. 468.

(27)

の要素、すなわち、(1) 当該条約を廃止するソ連の声明がドイツ側のいかな る抗議にも会わなかったという事実、(2) 以前の一定の有効な条約を掲げた ラパロ条約がブレスト・リトブスク条約について沈黙したという事実を重視 した。この判決を廃用の文脈で引用する適切性は問われるが*68、条約が適用 されなかった期間が比較的に短期間であったことを無視して、この事例を廃 用の事例と考慮するならば、条約を終了させたのは当事国の黙示的合意であ る。

 客観的アプローチを採用したと解釈される判決

ここでは明らかに客観的アプローチを採用したと解釈される 2 つの判決を 検討する。クルド系トルコ人のオジャランは、アンカラ破毀院がトルコ刑法 第 125 条に基づき死刑判決を言い渡したことから欧州人権裁判所に欧州人権 条約違反を申し立てた。申立理由は次のようなものである。すなわち、死刑 を用いることは人権条約第 2 条および 3 条に違反する。締約国は、過去 52 年以上にわたる慣行により、人権条約第 2 条 1 項の後段に規定される例外を 廃止したと解釈されるべきである。1950 年に条約が署名されたときには欧 州において死刑は品位を傷つける非人道的な犯罪であると認識されておら ず、多くの国の制定法で規定されていた。その時から、欧州諸国は、死刑は 条約第 3 条の意味で品位を傷つける非人道的な犯罪であるというコンセンサ スに到達した。欧州を通じて事実上の廃止が存在してきた。そのような発展 は締約国による第 2 条 1 項の改正の合意と見なされるべきである。トルコは これに対して同国が死刑を廃止するいかなる条約の当事国でもないこと、ま た、条約の本文は死刑が人権基準と両立しえないという国家間の合意によっ

*68  G. Le Floch, supra note 11, p. 636.

(28)

て変更されることも修正されることもありえなかったと主張した。併せて、

裁判所が他の社会で生じた価値や基準の発展を条約文に代えることは許され ないと主張した*69

小法廷は以下のように判示した。

「裁判所は死刑に関する法的事情はソーリング事件判決以来、大きな発展 を経験したと考慮する。その事件で締約国中の 22 カ国に関して指摘さ れた事実上の廃止は 44 カ国中 43 カ国(最近における被告国を含む)に おける法的廃止と未だ廃止していない残りの国、つまりロシアの一時停 止に発展した。欧州の平時における死刑のこのほとんど完全な放棄は全 締約国が第 6 議定書に署名し、41 カ国、つまり、トルコ、アルメニアお よびロシアを除くすべての国がこれを批准したという事実に反映される。

それはさらに機構加盟の条件として新加盟国が死刑の廃止を約束するこ とを要求する欧州審議会の政策に反映される。・・・

 そのような顕著な発展は、全締約国が第 6 議定書の署名し、41 カ国に より批准されたという事実を特に考慮するときに、第 2 条 1 項 2 文を廃 止しまたは少なくとも変更するための締約国の合意を示すものと理解さ れるであろう。第 2 条 1 項の死刑例外がはっきりと修正されたと結論す る前に残りの三カ国による第 6 議定書の批准を待つ必要があるかどうか が疑われるであろう。そのような一貫した背景から、平時における死刑 は、たとえ非人道的でなくとも、もはや第 2 条の下で受け入れることが できないものと見なされるに至ったと言えるであろう。*70

*69  Case of Öcalan v. Turkey, European Court of Human Right, First Section, International Legal Materials, Vol. 42, (2003), pp. 290-291.

*70  Ibid., p. 293, paras 195-196.

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